説明

エンジンの吸気制御装置

【課題】 エンジンの吸気通路を開閉するボールバルブよりなるインパルスバルブを駆動するアクチュエータの選択の自由度および耐久性を高める。
【解決手段】 インパルスバルブ32のバルブボディ42は2個の第1シール面46aを備えており、アクチュエータ55でバルブボディ42を一方向に間欠回転させて2個の第1シール面46aをシートリング51の第2シール面51aに交互に着座させるので、往復回転型のアクチュエータでバルブボディを往復回転させる場合に比べて、アクチュエータの選択の自由度および耐久性を高めることができる。またバルブボディ42が2個の第1シール面46aを備えていても、シートリング51の第2シール面51aの数は1個であるため、2個の第1シール面46aのどちらが第2シール面51aに着座した場合でも、第1シール面46aが着座した第2シール面51aから下流側の吸気通路の容積が変化しないようにして過給効果のばらつきを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球面の一部で構成された環状の第1シール面を有して回転軸により回転自在に支持されたバルブボディと、前記バルブボディの第1シール面が摺動および着座可能な環状の第2シール面および該第2シール面の中央を貫通する開口を有するシートリングと、前記バルブボディを前記回転軸まわりに回転駆動するアクチュエータとよりなるインパルスバルブを備え、前記第1シール面が前記第2シール面に着座したときにエンジンの吸気通路が閉塞されるエンジンの吸気制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの吸気通路に配置したボールバルブよりなるインパルスバルブを、ロータリソレノイドや電動モータよりなるアクチュエータで吸気バルブの開閉に同期して所定のタイミングで開閉することにより、エンジンの低回転域においても吸気通路に吸気脈動を発生させて過給効果を得るものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2005−344803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記特許文献1に記載されたものは、バルブボディをアクチュエータで90°に亘って往復回転させることで、バルブボディの環状の第1シール面がシートリングの環状の第2シール面に着座して吸気通路を閉塞する全閉状態と、バルブボディの環状の開口がシートリングの環状の開口に重なって吸気通路を開放する全開状態とを切り換えるようになっている。従って、アクチュエータとして所定の回転角を有する往復回転型のものが必要になって選択の自由度が小さくなるだけでなく、アクチュエータが短い時間間隔で正転および逆転を繰り返すため、その耐久性に悪影響が出る可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エンジンの吸気通路を開閉するボールバルブよりなるインパルスバルブを駆動するアクチュエータの選択の自由度および耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、球面の一部で構成された環状の第1シール面を有して回転軸により回転自在に支持されたバルブボディと、前記バルブボディの第1シール面が摺動および着座可能な環状の第2シール面および該第2シール面の中央を貫通する開口を有するシートリングと、前記バルブボディを前記回転軸まわりに回転駆動するアクチュエータとよりなるインパルスバルブを備え、前記第1シール面が前記第2シール面に着座したときにエンジンの吸気通路が閉塞されるエンジンの吸気制御装置において、前記バルブボディの第1シール面が前記回転軸を挟んで2個設けられており、前記アクチュエータで前記バルブボディを一方向に間欠回転させることで前記2個の第1シール面を前記第2シール面に交互に着座させることを特徴とするエンジンの吸気制御装置が提案される。
【0006】
尚、実施の形態の第2吸気通路41aは本発明の吸気通路に対応する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成によれば、インパルスバルブのバルブボディがその回転軸を挟むように形成された2個の第1シール面を備えており、アクチュエータでバルブボディを一方向に間欠回転させて2個の第1シール面をシートリングの第2シール面に交互に着座させることでエンジンの吸気通路を開閉するので、往復回転型のアクチュエータでバルブボディを往復回転させてエンジンの吸気通路を開閉する場合に比べて、アクチュエータの選択の自由度および耐久性を高めることができる。またバルブボディが2個の第1シール面を備えていても、それらの第1シール面が着座するシートリングの第2シール面の数は1個であるため、2個の第1シール面のどちらが第2シール面に着座した場合でも、第1シール面が着座した第2シール面から下流側の吸気通路の容積が変化しないようにして過給効果のばらつきを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図7は本発明の実施の形態を示すもので、図1はエンジンのシリンダヘッド部およびインパルスバルブの断面図、図2は図1の要部拡大図、図3はバルブボディの斜視図、図4は図2の4方向矢視図に対応する作用説明図、図5はインパルスバルブの開閉制御のフローチャート、図6はエンジン回転数および吸気負圧とインパルスバルブの開閉時期との関係を示すグラフ、図7はクランクアングルとインパルスバルブの開閉時期との関係を示すグラフである。
【0010】
図1に示すように、エンジンEのシリンダブロック11に設けたシリンダスリーブ12にピストン13が摺動自在に嵌合しており、シリンダブロック11のデッキ面に結合されたシリンダヘッド14とピストン13の頂面との間に燃焼室15が区画される。シリンダヘッド14には燃焼室15に連なる吸気ポート16および排気ポート17が形成されており、吸気ポート16が燃焼室15に開口する吸気バルブ孔が吸気バルブ18により開閉され、排気ポート17が燃焼室15に開口する排気バルブ孔が排気バルブ19により開閉される。吸気バルブ18および排気バルブ19はそれぞれバルブスプリング20,21で閉弁方向に付勢される。
【0011】
シリンダヘッド14の上面に結合されたヘッドカバー22の内部に吸気カムシャフト23および吸気ロッカーアームシャフト24が設けられており、吸気カムシャフト23に設けた吸気カム25により、吸気ロッカーアームシャフト24に枢支した吸気ロッカーアーム26を介して吸気バルブ18が開閉駆動される。またヘッドカバー22の内部に排気カムシャフト27および排気ロッカーアームシャフト28が設けられており、排気カムシャフト27に設けた排気カム29により、排気ロッカーアームシャフト28に枢支した排気ロッカーアーム30を介して排気バルブ19が開閉駆動される。
【0012】
シリンダヘッド14には吸気ポート16に連なる吸気通路部材31と、ボールバルブよりなるインパルスバルブ32と、吸気管33とが接続されており、吸気管33の上流に図示せぬサージタンクおよびスロットルバルブが配置される。吸気通路部材31には吸気ポート16に燃料を噴射する燃料噴射バルブ34が設けられる。
【0013】
次に、図2および図3に基づいてインパルスバルブ32の構造を説明する。
【0014】
インパルスバルブ32は吸気通路部材31および吸気管33に挟まれたバルブハウジング41を備えており、吸気管33に形成された第1吸気通路33aと、バルブハウジング41に形成された第2吸気通路41aと、吸気通路部材31に形成された第3吸気通路31aとが直列に接続される。
【0015】
バルブハウジング41の内部に収納されるバルブボディ42は、短い円筒状の円筒部43と、円筒部43から相互に離反する方向に延びる一対の回転軸44,45と、円筒部43に一体に設けられた薄い円板状の第1、第2円板部46A,46Bとを備える。円筒部43には円形断面の開口43aが貫通しており、また第1、第2円板部46A,46Bの外周には共通の球面の一部を構成する2個の環状の第1シール面46a,46aが形成される。
【0016】
一対の回転軸44,45は第2吸気通路41aの軸線L1に直交する軸線L2上に配置されており、一方の回転軸44はバルブハウジング41にボールベアリング47を介して回転自在に支持され、また他方の回転軸45はバルブハウジング41にボールベアリング48およびシール部材49を介して回転自在に支持される。
【0017】
吸気通路部材31に結合されるバルブハウジング41の下流端に形成した段部41bに、環状のシートリング51が装着される。シートリング51は、バルブボディ42の第1シール面46aが摺動および着座可能な部分球面状かつ環状の第2シール面51aと、その第2シール面51aの内周を貫通する円形断面の開口51bとを備える。またバルブハウジング41にはシートリング51の上流側の端面に当接可能な環状の規制部材41cが一体に形成される。
【0018】
吸気通路部材31の上流端に第3吸気通路31aを囲むように形成された環状溝にOリング52が装着されており、このOリング52の付勢力でシートリング51がバルブボディ42に向けて付勢される。またシートリング51の外周に形成した環状溝にOリング53が装着されており、シートリング51はOリング53を介してバルブハウジング41の段部41bに摺動自在に当接する。
【0019】
シール部材49を貫通してバルブハウジング41の外部に突出する回転軸45の先端に従動ギヤ54が固定されており、バルブハウジング41に固定したステップモータよりなるアクチュエータ55の出力軸55aに設けた駆動ギヤ56が前記従動ギヤ54に噛合する。
【0020】
次に、上記構成を備えた実施の形態の作用について説明する。
【0021】
図5のフローチャートにおいて、ステップS1でエンジン回転数Neおよびスロットル開度Thを読み込み、ステップS2でエンジン回転数Neが下限値以上であり、ステップS3でエンジン回転数Neが上限値以下であり、ステップS4スロットル開度Thが設定値以上であれば、ステップS5でインパルスバルブ32の開弁時期および閉弁時期をエンジン回転数Neおよびスロットル開度Thから決定し、ステップS6でインパルスバルブ32の駆動信号を出力する。
【0022】
図6に示すように、インパルスバルブ32は吸気の充填効率が最大となるように、吸気行程の中期に開弁し、圧縮行程の初期に閉弁するように制御される。エンジン回転数の増加に応じて、開弁時期が次第に進角し、閉弁時期が次第に遅角する。また吸気負圧の増加に応じて、開弁時期が次第に進角し、閉弁時期が次第に遅角する。その際に、開弁時期の進角側の限界は吸気負圧に応じて決定され、閉弁時期の遅角側の限界は吸気バルブ18の開弁時期に応じて決定される。
【0023】
図7に示すように、吸気行程の前半において、吸気バルブ18が開弁した状態でピストン13が下降することで、閉弁したインパルスバルブ32の下流の第2吸気通路41aおよび第3吸気通路31aに大きな負圧が発生する。吸気行程の中期にインパルスバルブ32が開弁すると、それに続く吸気行程の後半で、前記負圧によりインパルスバルブ32よりも上流の第1吸気通路33aおよび第2吸気通路41aから燃焼室15に向かって高速で吸気が流入する。
【0024】
その際に発生する負圧波が吸気通路の上流側に伝達されてサージタンクに反射され、その反射波が燃焼室15に伝達されて発生する正圧のピークにおいてインパルスバルブ32を閉弁することで、吸気の充填効率を大幅に高めることができる。そして吸気バルブ18が閉弁すると、その吸気バルブ18と閉弁したインパルスバルブ32との間に区画される空間に正圧が閉じ込められる。従って、次の排気バルブ19の開弁期間の末期と吸気バルブ18の開弁期間の初期とが重なるバルブオーバーラップ期間に、前記空間に閉じ込められた正圧で燃焼室15を掃気することができる。
【0025】
図4(A)に示す状態では、第2吸気通路41aの軸線L1に対してインパルスバルブ32のバルブボディ42の第1、第2円板部46A,46Bの軸線L3が一致し、円筒部43の軸線L4が直交することで、第1円板部46Aの第1シール面46aがシートリング51の第2シール面51aに着座し、第2吸気通路41aが第1円板部46Aにより閉塞されてインパルスバルブ32が閉弁する。
【0026】
この状態から、図4(B)に示すように、アクチュエータ55で駆動ギヤ56および従動ギヤ54を介してバルブボディ42を矢印A方向に90°回転させると、第2吸気通路41aの軸線L1に対して第1、第2円板部46A,46Bの軸線L3が直交し、円筒部43の軸線L4が一致することで、第1、第2円板部46A,46Bの第1シール面46a,46Aが共にシートリング51の第2シール面51aから離反し、第2吸気通路41aが開放されてインパルスバルブ32が開弁する。インパルスバルブ32の開弁状態では、バルブボディ42の2個の円板部46A,46Bが共に第2吸気通路41aの側方に退避するため、そこを通過する吸気の流通抵抗が円板部46A,46Bによって増加することが回避される。
【0027】
この状態から、図4(C)に示すように、アクチュエータ55で駆動ギヤ56および従動ギヤ54を介してバルブボディ42を矢印A方向に90°回転させると、第2吸気通路41aの軸線L1に対してインパルスバルブ32のバルブボディ42の第1、第2円板部46A,46Bの軸線L3が一致し、円筒部43の軸線L4が直交することで、第2円板部46Bの第1シール面46aがシートリング51の第2シール面51aに着座し、第2吸気通路41aが第2円板部46Bにより閉塞されてインパルスバルブ32が再び閉弁する。
【0028】
図4(A)の状態と図4(C)の状態との間でバルブボディ42は180°回転しており、第1円板部46Aおよび第2円板部46Bの位置関係が入れ代わっているが、インパルスバルブ32の閉弁状態としては何の差異もない。従って、アクチュエータ55でバルブボディ42を90°ずつ一方向に間欠回転させることで、インパルスバルブ32の開弁状態および閉弁状態を交互に切り換えることができる。もちろん、インパルスバルブ32の開弁状態にも、第1円板部46Aおよび第2円板部46Bの位置関係が180°入れ代わった二つの状態が存在するが、それらの間に機能上の差異はない。
【0029】
以上のように、アクチュエータ55でインパルスバルブ32のバルブボディ42を一方向に間欠回転させて2個の第1シール面46a,46aをシートリング51の1個の第2シール面51aに交互に着座させるので、往復回転型のアクチュエータでバルブボディを往復回転させる場合に比べて、アクチュエータの選択の自由度および耐久性を高めることができる。
【0030】
また前記特許文献1に記載された1個の第1シール面を有するバルブボディを採用した場合でも、そのバルブボディの上流側および下流側にそれぞれ第2シール面を設ければ、バルブボディをアクチュエータで一方向に間欠回転させてインパルスバルブを開閉することができる。しかしながら、このようにすると、バルブボディの第1シール面が上流側の第2シール面に着座した場合と、バルブボディの第1シール面が下流側の第2シール面に着座した場合とで、第1シール面が着座している第2シール面の下流側の吸気通路の容積が変化して過給効果にばらつきが発生する可能性がある。
【0031】
それに対し、本実施の形態によれば、バルブボディ42が2個の第1シール面46a,46aを備えていても、それら2個の第1シール面46a,46aが着座するシートリング51の第2シール面51aが1個であるため、2個の第1シール面46a,46aのどちらが第2シール面51aに着座した場合でも、第1シール面46a,46aが着座している第2シール面51aの下流側の吸気通路の容積が変化しないようにして過給効果のばらつきを回避することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0033】
例えば、実施の形態ではインパルスバルブ32のバルブボディ42を90°ずつ間欠回転させているが、図4(A)の閉弁位置および図4(C)の閉弁位置の間でバルブボディ42を180°ずつ間欠回転させても良い。この場合、バルブボディ42が180°回転している期間がインパルスバルブ32の開弁期間となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】エンジンのシリンダヘッド部およびインパルスバルブの断面図
【図2】図1の要部拡大図
【図3】バルブボディの斜視図
【図4】図2の4方向矢視図に対応する作用説明図
【図5】インパルスバルブの開閉制御のフローチャート
【図6】エンジン回転数および吸気負圧とインパルスバルブの開閉時期との関係を示すグラフ
【図7】クランクアングルとインパルスバルブの開閉時期との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0035】
E エンジン
32 インパルスバルブ
41a 第2吸気通路(吸気通路)
42 バルブボディ
44 回転軸
45 回転軸
46a 第1シール面
51 シートリング
51a 第2シール面
51b 開口
55 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の一部で構成された環状の第1シール面(46a)を有して回転軸(44,45)により回転自在に支持されたバルブボディ(42)と、
前記バルブボディ(42)の第1シール面(46a)が摺動および着座可能な環状の第2シール面(51a)および該第2シール面(51a)の中央を貫通する開口(51b)を有するシートリング(51)と、
前記バルブボディ(42)を前記回転軸(44,45)まわりに回転駆動するアクチュエータ(55)とよりなるインパルスバルブ(32)を備え、
前記第1シール面(46a)が前記第2シール面(51a)に着座したときにエンジン(E)の吸気通路(41a)が閉塞されるエンジンの吸気制御装置において
前記バルブボディ(42)の第1シール面(46a)が前記回転軸(44,45)を挟んで2個設けられており、前記アクチュエータ(55)で前記バルブボディ(42)を一方向に間欠回転させることで前記2個の第1シール面(46a)を前記第2シール面(51a)に交互に着座させることを特徴とするエンジンの吸気制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192174(P2007−192174A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12852(P2006−12852)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】