説明

エンジンの給油装置

【課題】オイルポンプの駆動負荷を低減すると共に潤滑油のサイドフローを抑制することによりエンジンの燃費を改善できるエンジンの給油装置を提供する。
【解決手段】クランク軸10の5つの軸受部21,22とクランクピン部にオイルポンプ6から主油路7を介して潤滑油を給油可能なエンジンEの給油装置1において、一端が軸受部に連通し、他端が各クランクピン部に連通するクランク軸内油路14と、主油路7から分岐し且つクランクピン部用流量制御弁51を介して軸受部21に連通するピン部給油路30と、主油路7から分岐し且つ軸受部用流量制御弁52を介して複数の軸受部22に夫々連通する軸受部給油路40を備える。各クランクピン部に給油するピン部給油路30と4つの軸受部22に給油する軸受部給油路40を独立して形成したため、エンジン状態に応じて各クランクピン部と4つの軸受部22の潤滑要求に適した給油制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸の軸受部やクランクピン部等の摺動部に潤滑油を給油するエンジンの給油装置に関し、特に軸受部給油路とピン部給油路を独立して設けたエンジンの給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの給油装置は、エンジン駆動による機械式オイルポンプを備え、このオイルポンプからの潤滑油をクランク軸の軸受部からクランクピン部等の各摺動部に供給している。一方、クランクピン部の給油に関して、クランク軸内部にクランク軸端部と気筒配列方向に延びる軸内主油路と、この軸内主油路から各クランクピン部へ分岐する複数の軸内分岐油路を設け、クランク軸端部位置において軸内主油路とエンジンのメインギャラリとをスイーベル給油機構により接続した端部給油方式が知られている。
【0003】
エンジン始動時のようなエンジン低温時には、潤滑油温度が低く潤滑油が高粘性になり、各摺動部の摩擦抵抗が高くなるため、エンジンの燃費が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献1に記載されたエンジンの給油制御装置は、オイルポンプからクランク軸の各軸受部に至る第1給油径路と、シリンダヘッドの所定の給油箇所に至る第2給油径路と、第1給油径路上に配置された油圧制御弁と、油圧制御弁を制御してクランク軸の各軸受部に供給される潤滑油量を制御する油圧制御手段を備え、この油圧制御手段が、エンジン負荷が低いときはエンジン負荷が高いときに比べて油圧を低くする、又は潤滑油温度が低いときは潤滑油温度が高いときに比べて油圧を低くするように油圧制御弁を制御している。これにより、潤滑油の流量を軸受特性数を境界摩擦領域に入らない範囲になるよう制御している。
【0005】
特許文献1のエンジンの給油制御装置では、オイルポンプとクランク軸の各軸受部を複数の第1給油径路により並列状に接続し、各軸受部への給油を独立して行う独立給油方式を採用しているため、各軸受部へ供給する潤滑油量を精度よく制御でき、その結果、各軸受部の潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さ近傍に維持している。これにより、各軸受部から溢れて流れ去る潤滑油(サイドフロー)を抑制し、潤滑油に作用する剪断応力により発生した熱量を軸受部に滞留する潤滑油に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−264241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のエンジンの給油制御装置は、各軸受部の潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さ近傍に維持するため、昇温した潤滑油のサイドフローを抑制し、軸受部に滞留している潤滑油の受熱量を増し、クランク軸の摩擦抵抗を低減することができる。しかし、特許文献1のようにクランク軸の軸受部のみを給油対象とした独立給油方式であれば、潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さに制御することが可能であるものの、軸受部には軸受部の潤滑に必要な潤滑油量よりも過剰な潤滑油量を供給しなければならない。
【0008】
即ち、クランク軸の摺動部には、複数の軸受部の他にコネクティングロッドを軸受けする複数のクランクピン部が存在し、通常、軸受部へ供給された潤滑油をクランクピン部と軸受部とを連通した油路(軸内分岐油路)を用いてクランクピン部へ供給する給油形態が採用されている。つまり、前記のような給油形態では、潤滑油の進行方向に対してクランクピン部が軸受部の下流側に位置するため、クランクピン部へ供給する潤滑油量は潤滑油の通路抵抗を考慮して設定する必要が有り、クランクピン部の潤滑性能を確保するためには各軸受部へ供給する潤滑油量を過剰にせざるを得ない。
【0009】
本発明の目的は、オイルポンプの駆動負荷を低減すると共に潤滑油のサイドフローを抑制することによりエンジンの燃費を改善できるエンジンの給油装置、エンジンの全長を長くすることなくエンジンの小型化を図ることができるエンジンの給油装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のエンジンの給油装置は、列状に配置された複数の軸部とコネクティングロッドを軸受けする複数のクランクピン部を備えたクランク軸と、前記複数の軸部を回転自在にエンジン本体に枢支する複数の軸受部を有し、これら複数の軸受部とクランクピン部にオイルポンプから主油路を介して潤滑油を給油可能なにおいて、一端が前記複数の軸受部のうち特定の特定軸受部に連通すると共に他端が複数のクランクピン部に連通するクランク軸内油路と、前記主油路から分岐し且つクランクピン部用流量制御弁を介して前記特定軸受部に連通するピン部給油路と、前記主油路から分岐し且つ軸受部用流量制御弁を介して前記特定軸受部以外の複数の軸受部に夫々連通する軸受部給油路を備えたことを特徴としている。
【0011】
このエンジンの給油装置では、各クランクピン部に給油するピン部給油路と特定軸受部以外の複数の軸受部に給油する軸受部給油路を独立して形成したため、クランクピン部の潤滑油と特定軸受部以外の各軸受部の潤滑油を個別に制御することができ、エンジン状態に応じて各クランクピン部と特定軸受部以外の各軸受部の潤滑要求に適した給油制御を行うことができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記軸受部給油路は、前記軸受部用流量制御弁が設置された共通油路と、軸受部用流量制御弁より下流側の前記共通油路と前記特定軸受部以外の複数の軸受部に夫々連通する複数の分岐給油路を備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記分岐給油路は、油圧が所定圧力以上のとき潤滑油を供給するように開弁する第1逆止弁と、この第1逆止弁の上流側部分と軸受部を連通し且つ第1逆止弁が開弁したときの潤滑油の流量よりも流量を制限可能な絞り通路を備えたことを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において、前記主油路から分岐し且つ開閉弁を介して前記共通油路に連通する分岐油路と、前記クランクピン部用流量制御弁より下流側のピン部給油路と前記軸受部用流量制御弁より下流側の共通油路を連通する連通路を設け、前記連通路に前記開閉弁が開弁したとき開弁し且つ開閉弁が閉弁したとき閉弁する第2逆止弁を形成したことを特徴としている。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れか1項の発明において、前記クランク軸内油路は、一端がクランク軸の中央側に位置する特定軸受部に連通し且つ他端が複数のクランクピン部に夫々連通する複数の専用油路を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、各クランクピン部の潤滑油と特定軸受部以外の各軸受部の潤滑油を個別に供給でき、エンジン状態に応じて各クランクピン部と特定軸受部以外の各軸受部の潤滑要求に適した給油制御ができるため、軸受部等の潤滑油のサイドフローを抑制でき、オイルポンプの駆動負荷を低減し、エンジンの燃費を改善することができる。また、潤滑油が複数の軸受部のうち特定軸受部からクランク軸内油路を経由してクランクピン部へ給油されるため、ピン部給油路が特定軸受部の給油路を兼用でき、エンジンのクランク軸方向長さを短縮化でき、潤滑油路全体を簡単化できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、共通油路から分岐した分岐給油路により特定軸受部以外の複数の軸受部に潤滑油を精度よく分配することができる。
請求項3の発明によれば、特定軸受部以外の複数の軸受部の要求流量が小さい時、小流量の潤滑油を特定軸受部以外の複数の軸受部に給油でき、潤滑油膜温度を早期に上昇することにより特定軸受部以外の複数の軸受部の摩擦抵抗を低減することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、各軸受部の要求流量が大きい時、大流量の潤滑油を特定軸受部と特定軸受部以外の複数の軸受部の両方に早期に給油でき、各軸受部の信頼性を維持することができる。
請求項5の発明によれば、エンジンの気筒数に拘わらず専用通路長さの差異を小さくでき、潤滑油の通路抵抗を小さくすることができ、オイルポンプの駆動負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係るエンジンの給油装置の全体構成図である。
【図2】クランク軸の専用油路と各給油路を示す図である。
【図3】特定軸受部における縦断面図である。
【図4】特定軸受部以外の軸受部における縦断面図である。
【図5】各作動モードにおける開閉弁とクランクピン部用流量制御弁と軸受部用流量制御弁の作動状態を示す表である。
【図6】特定軸受部における潤滑油の油圧と流量の関係を示すグラフである。
【図7】特定軸受部以外の軸受部における潤滑油の油圧と流量の関係を示すグラフである。
【図8】従来の給油装置と本実施例に係る給油装置の潤滑油量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例について図1〜図8に基づいて説明する。
図1に示すように、エンジンの給油装置1は、自動車の多気筒エンジン、例えば直列4気筒エンジンEを潤滑するものである。エンジンEは、シリンダヘッド(図示略)と、シリンダブロック2と、エンジンEの潤滑油を回収及び貯留可能なオイルパン4が上下に連結されている。シリンダヘッドには、複数の吸気弁と、複数の排気弁と、複数の吸気弁を駆動する吸気側カム軸と、複数の排気弁を駆動する排気側カム軸等が設置されている。シリンダブロック2には、列状に配置された4つのシリンダボア2aが形成され、各シリンダボア2a内を夫々上下方向に摺動可能な4つのピストン(図示略)が配置されている。
【0022】
シリンダブロック2の前後および気筒間の縦壁部3aは、ロアブロック3b(または軸受キャップ)とによりクランク軸10を回転自在に枢支している。4つのピストンとクランク軸10が4本のコネクティングロッド5を介して連結されている。縦壁部3aおよびロアブロック3bには、中央軸受部21(特定軸受部)と、4つの側部軸受部22(特定軸受部以外の軸受部)が形成されている。中央軸受部21は、第2気筒と第3気筒の間にクランク軸10と直交するように形成され、側部軸受部22は、第1気筒と第2気筒の間と、第3気筒と第4気筒の間と、第1気筒の外壁部と、第4気筒の外壁部に夫々クランク軸10と直交するように夫々形成されている。
【0023】
図2に示すように、クランク軸10は、1つの中央軸部11と、4つの側部軸部12と、4つのクランクピン部13と、クランク軸内油路14等を備えている。中央軸部11は、クランク軸10の回転軸心と同軸状に配置され、クランク軸10の軸方向中央位置に形成されている。中央軸部11は、縦壁部3aおよびロアブロック3bに形成された中央軸受部21に軸受メタル21aを介して回転自在に枢支されている。中央軸部11の外周には、潤滑油を中央軸部11の内部へ導入可能な1対の開口部11aが形成されている。4つの側部軸部12は、クランク軸10の回転軸心と同軸状に配置され、クランク軸10の中央軸受部21の前後側方位置に夫々2つづつ形成されている。各側部軸部12は縦壁部3aおよびロアブロック3bに形成された側部軸受部22に軸受メタル22aを介して回転自在に枢支されている。軸受メタル21a,22aには、メタルの内外を連通可能な連通開口が形成されている。
【0024】
4つのクランクピン部13は、クランク軸10の回転軸心と同軸状に配置され、中央軸部11及び各側部軸部12から偏心した位置に形成されている。クランクピン部13は、軸受メタル5aを介して各コネクティングロッド5を回転自在に枢支している。各クランクピン部13の外周には、潤滑油を第1気筒〜第4気筒に対応したクランクピン部13へ供給可能な開口部13a〜13dが形成されている。
【0025】
クランク軸10の内部には、開口部11aと各開口部13a〜13dとを連通するクランク軸内油路14が設けられている。クランク軸内油路14は、中央油路14eと、第1〜第4専用油路14a〜14dにより構成されている。中央油路14eは、一方の開口部11aから他方の開口部11aに亙って軸心直交方向へ略直線状に形成され、中央軸受部21に供給された潤滑油をクランク軸10内部へ導入可能に構成されている。
第1専用油路14aは、中央油路14eに供給された潤滑油を側部軸部12を経由して第1気筒に対応したクランクピン部13の開口部13aへ流動可能に形成されている。第2専用油路14bは、中央油路14eに供給された潤滑油を第2気筒に対応したクランクピン部13の開口部13bへ流動可能に形成されている。
第3専用油路14cは、中央油路14eに供給された潤滑油を第3気筒に対応したクランクピン部13の開口部13cへ流動可能に形成されている。第4専用油路14dは、中央油路14eに供給された潤滑油を側部軸部12を経由して第4気筒に対応したクランクピン部13の開口部13dへ流動可能に形成されている。これにより、開口部11aからクランク軸10内部へ導入された潤滑油は、各開口部13a〜13dから夫々に対応した軸受メタル5aに給油される。尚、軸受メタル5aには、メタルの内外を連通可能な連通開口が形成されている。
【0026】
図1に示すように、エンジンの給油装置1は、電動式オイルポンプ6と、主油路7と、ピン部給油路30と、軸受部給油路40と、クランクピン部用流量制御弁51と、軸受部用流量制御弁52と、コントロールユニット50等を備えている。オイルポンプ6は、吐出圧の下限が150kPaに設定された電動式の可変容量オイルポンプにより構成されている。尚、電動式オイルポンプ6に代えて機械式固定容量ポンプを適用することも可能である。
【0027】
主油路7は、オイルポンプ6の吐出部に接続され昇圧された潤滑油をエンジンEの各摺動部へ給油するための潤滑油路であり、シリンダブロック2に穿設された通路により構成されている。主油路7には、分岐主油路7aと、ピン部給油路30と、軸受部給油路40と、分岐油路45が夫々接続されている。
分岐主油路7aは、シリンダブロック2やシリンダヘッド等に穿設された通路により構成されている。分岐主油路7aには、ピストン潤滑用油路8と、ピストン冷却用油路9が接続されている。
【0028】
ピストン潤滑用油路8は、分岐主油路7aから分岐し、各気筒のシリンダボア2aの下方位置に設置された1対の潤滑用ノズル(図示略)に潤滑油を供給可能に形成されている。ピストン潤滑用油路8には、潤滑用ノズルの上流側位置に運転状態に応じて開閉可能な電磁切換弁54が設けられている。潤滑油は、各ピストンの背面に噴射され、ピストンに装着されたコンプレッションリングとオイルリングとの間のランド部へ供給される。これにより、ピストンが上昇移動するとき、潤滑油がオイルリングの先行域へ給油され、オイルリングのシリンダボア2aに対する摺動抵抗が低減される。
【0029】
ピストン冷却用油路9は、分岐主油路7aから分岐し、各気筒のシリンダボア2aの下方位置に設置された冷却用ノズル(図示略)に潤滑油を供給可能に形成されている。潤滑油は、油圧に応じて開閉可能な圧力切換弁を介して各ピストンの冠面裏部に噴射され、ピストン冠面を冷却可能に構成されている。これにより、潤滑油がピストン冠面を冷却し、燃焼を安定化することができる。
【0030】
図1,図3に示すように、ピン部給油路30は、主油路7から分岐し、中央軸受部21へ潤滑油を給油するための潤滑油路である。ピン部給油路30は、主油路7と中央軸部11を支承する軸受メタル21aとを連通し、連通路31とクランクピン部用流量制御弁51等を備えている。連通路31は、下流端が流量制御弁51と軸受メタル21aとの間の位置に接続され、上流端が後述する共通通路41に接続されている。
【0031】
連通路31の途中部には、第2逆止弁33が介装されている。第2逆止弁33は、共通通路41の油圧が所定圧力以上のとき、潤滑油を共通通路41から軸受メタル21a側のピン部給油路30へ供給する。この第2逆止弁33は、後述する電磁開閉弁53が開弁したときそれによる油圧の増大に伴い連通し、電磁開閉弁53が閉弁したとき遮断するよう形成されている。また、第2逆止弁33は、逆止作用により、流量制御弁51により調圧され中央軸受部21に供給される潤滑油の油圧が、流量制御弁52により調圧され各側部軸受部22に供給される潤滑油の油圧より大きくても連通路31を介して各側部軸受部22の給油形態に影響を与えることはない。流量制御弁51は、例えば、デューティソレノイドにより駆動するスプール弁であり、コントロールユニット50から送信される制御信号によりデューティ制御される。
【0032】
図1,図2,図4に示すように、軸受部給油路40は、主油路7から分岐し、各側部軸受部22へ潤滑油を給油するための潤滑油路である。軸受部給油路40は、主油路7と各軸受メタル22aとを連通し、共通油路41と、4つの分岐給油路42等を備えている。共通油路41は、上流端が主油路7に接続され、その途中部に軸受部用流量制御弁52を備えている。流量制御弁52は、例えば、デューティソレノイドにより駆動するスプール弁であり、コントロールユニット50から送信される制御信号によりデューティ制御される。
【0033】
4つの分岐給油路42は、夫々、上流端が流量制御弁52よりも下流側の共通油路41に並列状に接続され、下流端が側部軸部12を支承する軸受メタル22aへ連通されている。各分岐給油路42は、並列接続された第1逆止弁43とオリフィス44(絞り通路)を備えている。第1逆止弁43は、分岐給油路42の油圧が所定圧力以上のとき、潤滑油を軸受メタル22aへ供給する。オリフィス44は、上流端が第1逆止弁43の上流側の分岐給油路42に接続され、下流端が軸受メタル22aへ連通されている。オリフィス44は、軸受メタル22aへ供給される潤滑油量を第1逆止弁43が連通したときの潤滑油の流量よりも少量に制限するように形成されている。それ故、本実施例では、軸受メタル22aへ供給される潤滑油量をオリフィス44により制限するため、各軸受部22に形成される潤滑油膜の厚さを軸受特性数が境界摩擦領域に入らない範囲になるよう制御している。
【0034】
図1に示すように、分岐油路45は、主油路7から分岐し、共通油路41へ潤滑油を給油するための潤滑油路である。分岐油路45は、一端(下流端)が流量制御弁52よりも下流側の共通油路41に接続され、他端(上流端)が主油路7に接続されている。分岐油路45の途中部には、電磁開閉弁53が設けられている。電磁開閉弁53は、ノーマルオープンタイプの電磁方向切換弁であり、コントロールユニット50から送信される制御信号によりオン−オフ制御される。これにより、電磁開閉弁53がオフ状態のとき、主油路7の油圧(潤滑油量)が分岐油路45から共通通路41へ供給され、電磁開閉弁53がオン状態のとき、分岐油路45から共通通路41への油圧の供給が遮断される。
【0035】
主油路7には、流量センサ15が設置されている。流量センサ15は、主油路7を流れる潤滑油量を検出し、その検出値をコントロールユニット50へ送信する。また、第1気筒に対応するオリフィス44の上流側位置には、油温センサ16が設置されている。油温センサ16は、分岐給油路42を流れる潤滑油温度を検出し、その検出値をコントロールユニット50へ送信する。コントロールユニット50には、エンジンEの回転数センサ(図示略)や負荷センサ(図示略)等からエンジンEの運転状態を示すエンジン回転数や負荷等の検出値が送信されている。
【0036】
図5に基づき、コントロールユニット50による作動モード毎の電磁開閉弁53と流量制御弁51,52の制御について説明する。
コントロールユニット50は、始動モード、温間モード、高温モード、高回転/高負荷モード、フェールセーフモードの5つのモードにより、電磁開閉弁53と流量制御弁51,52を制御している。コントロールユニット50は、流量制御弁51を制御するための油圧マップと流量制御弁52を制御するための油圧マップを夫々メモリ内に格納している。
【0037】
流量制御弁51の油圧マップは、予め実験的又は理論的に求められたマップであり、各クランクピン部13を十分に潤滑可能な油圧と、エンジン回転数と、エンジン負荷との対応関係が設定されている。流量制御弁52の油圧マップは、予め実験的又は理論的に求められたマップであり、各軸受部22の潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さ近傍に維持可能な油圧と、エンジン回転数と、エンジン負荷との対応関係が設定されている。流量制御弁51,52は、流量制御弁51,52がオン(作動)状態のとき、夫々の油圧マップに基づき制御される。
【0038】
始動モード、例えば、エンジンEの始動時等潤滑油温度が30℃より低いときは、電磁開閉弁53がオフ状態、流量制御弁51がオン状態、流量制御弁52がオフ状態に制御されている。中央軸受部21用の潤滑油は、主油路7から流量制御弁51を経由する第1のルートと主油路7、分岐油路45、共通油路41、連通路31、第2逆止弁33を経由する第2のルートの2ルートからピン部給油路30へ給油される。各側部軸受部22用の潤滑油は、主油路7、分岐油路45、共通油路41を経由して各分岐給油路42へ給油される。これにより、各給油路へ潤滑油を早期に充填することができる。
【0039】
温間モード、例えば、潤滑油温度が30℃以上130℃未満のときは、電磁開閉弁53がオン状態、流量制御弁51がオン状態、流量制御弁52がオン状態に制御されている。
中央軸受部21用の潤滑油は、油圧マップに基づき主油路7からピン部給油路30により軸受メタル21aへ給油される。各側部軸受部22用の潤滑油は、油圧マップに基づき主油路7、共通油路41、各分岐給油路42、各オリフィス44を経由して各軸受メタル22aへ給油される。これにより、各側部軸受部22へ供給する潤滑油量を最小限に抑えることができ、潤滑油のサイドフローを減少し、各側部軸受部22に滞在する潤滑油温度を高めることによりオイルポンプ6の駆動負荷を低減できる。
【0040】
高温モード、所謂潤滑油温度が130℃以上のときは、電磁開閉弁53がオフ状態、流量制御弁51がオン状態、流量制御弁52がオフ状態に制御されている。
中央軸受部21用の潤滑油は、始動モードと同様に、第1,第2のルートから軸受メタル21aへ給油される。各側部軸受部22用の潤滑油は、主油路7、分岐油路45、共通油路41、各分岐給油路42、第1逆止弁43を経由して各軸受メタル22aへ給油される。これにより、中央軸受部21へ供給される潤滑油量を増加し、中央軸受部21と各クランクピン部13の潤滑油膜の厚さを確保できる。また、各側部軸受部22へ供給される潤滑油量を増加し、各側部軸受部22の潤滑油膜の厚さを確保でき、潤滑油粘度の過剰低下を抑制することができる。
【0041】
高回転/高負荷モードのときは、高温モードと同様に、電磁開閉弁53がオフ状態、流量制御弁51がオン状態、流量制御弁52がオフ状態に制御されている。
フェールセーフモードのときは、電磁開閉弁53がオフ状態に制御される。これにより、流量制御弁51,52が故障したときでも、中央軸受部21と各側部軸受部22と各クランクピン部13の潤滑油膜の厚さを確保できる。
【0042】
図6,図7に基づき、軸受部21と軸受部22に供給される潤滑油の流量特性について説明する。尚、図6,図7は、エンジン回転数が2000rpmのときの潤滑油の流量特性を示している。
【0043】
図6に示すように、中央軸受部21には、4つのクランクピン部13の潤滑に必要な流量L3を中央軸受部21の潤滑に必要な流量に付加した流量L1が供給されている。
流量L1は、油圧がP0kPa未満の範囲と、油圧がP0kPaからP1kPaまでの微小流量制御範囲Aと、油圧がP1kPa以上の範囲に分けて制御されている。
【0044】
油圧がP0kPa未満のとき、電磁開閉弁53がオフ状態(開弁)のため、流量制御弁51を介して供給される潤滑油と電磁開閉弁53を介して供給される潤滑油が合流されて軸受メタル21aへ給油される。微小流量制御範囲Aのとき、電磁開閉弁53がオン状態(閉弁)のため、流量制御弁51を介して供給される潤滑油が軸受メタル21aへ給油される。油圧がP1kPa以上のとき、前述した油圧がP0kPa未満の場合と同様である。
以上により、微小流量制御範囲Aでは、中央軸受部21へ供給する潤滑油流量L1を、油圧マップに基づきデューティ制御し、各クランクピン部13を十分に潤滑しつつ、中央軸受部21の潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さ近傍に維持するよう制御している。
【0045】
図7に示すように、側部軸受部22には、側部軸受部22の潤滑に必要な流量L2が供給されている。流量L2は、油圧がP2kPa未満の微小流量制御範囲Bと、油圧がP2kPa以上の範囲に分けて制御されている。
微小流量制御範囲Bのとき、電磁開閉弁53がオン状態(閉弁)のため、流量制御弁52を介して供給される潤滑油が軸受メタル22aへ給油される。
油圧がP2kPa以上のとき、電磁開閉弁53がオフ状態(開弁)のため、流量制御弁52を介して供給される潤滑油と電磁開閉弁53を介して供給される潤滑油が合流されて軸受メタル22aへ給油される。
【0046】
以上により、微小流量制御範囲Bでは、各側部軸受部22へ供給する潤滑油流量L2を、油圧マップに基づきデューティ制御し、側部軸受部22の潤滑油膜の厚さを所定の限界厚さ近傍に維持するよう制御している。油圧がP2kPa以上の範囲では、潤滑油流量L2の増加傾向を、微小流量制御範囲B内の増加傾向よりも大きくして、潤滑油膜の厚さを増加している。
【0047】
次に、エンジンの給油装置1の作用、効果について説明する。
このエンジンの給油装置1では、各クランクピン部13に給油するピン部給油路30と4つの側部軸受部22に給油する軸受部給油路40を独立して形成したため、クランクピン部13の潤滑油と各側部軸受部22の潤滑油を個別に制御することができ、エンジン状態に応じて各クランクピン部13と各側部軸受部22の潤滑要求に適した給油制御を行うことができる。図8に示すように、従来の独立給油方式の給油装置では、全軸受部にクランクピン部の潤滑に必要な潤滑油を付加した潤滑油量を均等に供給する必要があった。本実施例の給油装置1では、中央軸受部21のみにクランクピン部13の潤滑に必要な潤滑油を付加し、各側部軸受部22の潤滑油量は潤滑油膜の厚さが所定の限界厚さ近傍まで低減できるため、潤滑油の総消費量を低減することができる。
【0048】
しかも、各クランクピン部13の潤滑油と各側部軸受部22の潤滑油を個別に供給でき、エンジン状態に応じて各クランクピン部13と各側部軸受部22の潤滑要求に適した給油制御ができるため、各側部軸受部22等の潤滑油のサイドフローを抑制でき、剪断応力により発生した熱量を各側部軸受部22に滞在する潤滑油に維持し、潤滑油の早期昇温を図り、摩擦抵抗の低減ができる。それ故、オイルポンプ6の駆動負荷を低減するため、エンジンEの燃費を改善することができる。また、潤滑油が中央軸受部21からクランク軸内油路14を経由して各クランクピン部13へ給油されるため、ピン部給油路30が軸受部21の給油路を兼用でき、エンジンEのクランク軸方向長さを短縮化でき、潤滑油路全体を簡単化できる。
【0049】
軸受部給油路40は、軸受部用流量制御弁52が設置された共通油路41と、流量制御弁52より下流側の共通油路41と各側部軸受部22に夫々連通する4つの分岐給油路42を備えているため、共通油路41から分岐した分岐給油路42により各側部軸受部22に潤滑油を精度よく分配することができる。
【0050】
分岐給油路42は、油圧が所定圧力以上のとき潤滑油を供給するように開弁する第1逆止弁43と、この第1逆止弁43の上流側部分と側部軸受部22を連通し且つ第1逆止弁43が開弁したときの潤滑油の流量よりも流量を制限可能な絞り通路43を備えているため、各側部軸受部22の要求流量が小さい時、小流量の潤滑油を各側部軸受部22に給油でき、潤滑油膜温度を早期に上昇することにより各側部軸受部22の摩擦抵抗を低減することができる。
【0051】
主油路7から分岐し且つ電磁開閉弁53を介して共通油路41に連通する分岐油路45と、クランクピン部用流量制御弁51より下流側のピン部給油路30と軸受部用流量制御弁52より下流側の共通油路41を連通する連通路31を設け、連通路31に電磁開閉弁53が開弁したとき開弁し且つ電磁開閉弁53が閉弁したとき閉弁する第2逆止弁33を形成したため、各軸受部21,22の要求流量が大きい時、大流量の潤滑油を中央軸受部21と各側部軸受部22とに早期に給油でき、各軸受部21,22の摩擦抵抗を低減することができる。
【0052】
クランク軸内油路14は、一端がクランク軸10の中央側に位置する中央軸受部21に連通し且つ他端が各クランクピン部13に夫々連通する第1〜第4専用油路14a〜14dと中央油路14eを有するため、エンジンEの気筒数に拘わらず潤滑油が流れる専用通路長さの差異を小さくでき、潤滑油の通路抵抗を小さくすることができ、オイルポンプ6の駆動負荷を低減することができる。
【0053】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、4気筒エンジンの例を説明したが、少なくとも多気筒エンジンであればよく、2気筒以上の直列エンジンやV型エンジン等種々のエンジンに適用することができる。
【0054】
2〕前記実施例においては、クランク軸方向中央位置の中央軸受部にピン部給油路を連通した例を説明したが、第1気筒と第2気筒の間の側部軸受部、又は第3気筒と第4気筒の間の側部軸受部にピン部給油路を連通することも可能である。また、ピン部給油路を単一の軸受部に連通した例を説明したが、2つの軸受部に連通することも可能であり、複数の軸受部に連通しても本発明の効果を得ることができる。
【0055】
3〕前記実施例においては、クランクピン部用流量制御弁と軸受部用流量制御弁にデューティソレノイドを用いた例を説明したが、潤滑油の流量制御が可能であれば良く、機械式の流量制御弁を適用することも可能である。
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、エンジンの給油装置において、軸受部給油路とピン部給油路を独立して設け、特定の軸受部にピン部給油路を連通したことにより、燃費を改善でき、エンジンの小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 給油装置
5 コネクティングロッド
6 オイルポンプ
7 主油路
10 クランク軸
11 中央軸部
12 側部軸部
13 クランクピン部
14 クランク軸内油路
14a〜14d 第1〜第4専用油路
14e 中央油路
21 中央軸受部
22 側部軸受部
30 ピン部給油路
31 連通路
33 第2逆止弁
40 軸受部給油路
41 共通油路
42 分岐給油路
43 第1逆止弁
44 オリフィス
45 分岐油路
50 コントロールユニット
51 クランクピン部用流量制御弁
52 軸受部用流量制御弁
53 電磁開閉弁
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列状に配置された複数の軸部とコネクティングロッドを軸受けする複数のクランクピン部を備えたクランク軸と、前記複数の軸部を回転自在にエンジン本体に枢支する複数の軸受部を有し、これら複数の軸受部とクランクピン部にオイルポンプから主油路を介して潤滑油を給油可能なエンジンの給油装置において、
一端が前記複数の軸受部のうち特定の特定軸受部に連通すると共に他端が複数のクランクピン部に連通するクランク軸内油路と、
前記主油路から分岐し且つクランクピン部用流量制御弁を介して前記特定軸受部に連通するピン部給油路と、
前記主油路から分岐し且つ軸受部用流量制御弁を介して前記特定軸受部以外の複数の軸受部に夫々連通する軸受部給油路を備えたことを特徴とするエンジンの給油装置。
【請求項2】
前記軸受部給油路は、前記軸受部用流量制御弁が設置された共通油路と、軸受部用流量制御弁より下流側の前記共通油路と前記特定軸受部以外の複数の軸受部に夫々連通する複数の分岐給油路を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの給油装置。
【請求項3】
前記分岐給油路は、油圧が所定圧力以上のとき潤滑油を供給するように開弁する第1逆止弁と、この第1逆止弁の上流側部分と軸受部を連通し且つ第1逆止弁が開弁したときの潤滑油の流量よりも流量を制限可能な絞り通路を備えたことを特徴とする請求項2に記載のエンジンの給油装置。
【請求項4】
前記主油路から分岐し且つ開閉弁を介して前記共通油路に連通する分岐油路と、
前記クランクピン部用流量制御弁より下流側のピン部給油路と前記軸受部用流量制御弁より下流側の共通油路を連通する連通路を設け、
前記連通路に前記開閉弁が開弁したとき開弁し且つ開閉弁が閉弁したとき閉弁する第2逆止弁を形成したことを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンの給油装置。
【請求項5】
前記クランク軸内油路は、一端がクランク軸の中央側に位置する特定軸受部に連通し且つ他端が複数のクランクピン部に夫々連通する複数の専用油路を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの給油装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−117456(P2012−117456A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268066(P2010−268066)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】