説明

エンジン回転速度制御方法及びそれを実施する制御装置

【課題】コストの高騰を招くことなくあらゆる状況でエンジン回転速度が所定の制限速度を超えないように制御できるようにする。
【解決手段】エンジン回転速度制御装置が、検知しているエンジン回転速度1に基づいて目標スロットル開度3を決定しエンジン6の吸気通路に配置した電子制御スロットル5に目標スロットル開度3にする駆動信号を出力することにより、スロットル開度4を調整しながらエンジン回転速度1が予め定めた制限速度である目標エンジン回転速度2を超えないようにリミット制御を実行するエンジン回転速度制御方法において、そのエンジン回転速度1が目標エンジン回転速度2を超えた場合にそのときのスロットル開度4を記憶し、この記憶したスロットル開度4をベースとして所定の数式を用いてエンジン回転速度1が目標エンジン回転速度2内に収まるように目標スロットル開度3を決定する、ことを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転速度制御方法及びそれを実施する制御装置に関し、殊に、エンジンが所定の回転速度を超えないようにリミット制御を行うエンジン回転速度制御方法及びそれを実施する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの回転速度制御においては、エンジンの耐久性等を考慮してエンジン回転速度が所定の速度(リミット)を超えないようにリミット制御を行うのが一般的である。即ち、エンジン回転速度が予め決められた速度を超えたとき、目標スロットル開度(θd)はエンジン回転速度(N)の値に基づいて予め実験的に求められたテーブルデータから読み出す形で決定されている。
【0003】
しかし、その際にエンジン回転速度(N)のみの情報から目標スロットル開度(θd)を求めており、エンジンの負荷変動により制限速度を一定に保てなくなるという問題がある。これは、同じスロットル開度であっても負荷の大きさによりエンジン回転速度が異なることによるものである。
【0004】
この問題に対し、特開2000−104617号公報には、エンジン負荷状態判別手段による判別結果に基づいて、パラメータ設定手段がパラメータを変化させながら、エンジン回転数が所定の制限速度を超えないように制御を行うエンジン回転速度制御装置が提案されており、エンジン回転速度に加えて、ニュートラル状態を検出する手段、クラッチの断続状態を検出する手段、ギア位置を検出する手段等で検出したエンジン負荷データを用いることにより、エンジンの負荷変動にも対応可能としている。
【0005】
しかしながら、エンジン回転速度検出手段に加えて、斯かるエンジン負荷状態判別手段を構成するセンサ類を新たに配設することは、システム製造コストの高騰を招くことになる。そのため、従来のシステムに新たな部品を追加することなく、エンジン回転速度のリミット制御を高速高精度に行えるようにする技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−104617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、コストの高騰を招かずにあらゆる状況においてエンジン回転速度が所定の制限速度を超えないように制御できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、エンジン回転速度制御装置が、検知しているエンジン回転速度に基づいて目標スロットル開度を決定しエンジンの吸気通路に配置したスロットルバルブの開閉用アクチュエータに駆動信号を出力することにより、スロットル開度を調整しながらエンジン回転速度が予め定めた制限速度を超えないようにリミット制御を実行するエンジン回転速度制御方法において、エンジン回転速度が制限速度を超えた場合にそのときのスロットル開度を記憶し、この記憶したスロットル開度をベースとして所定の数式を用いてエンジン回転速度が制限速度内に収まるように目標スロットル開度を決定する、ことを特徴とする。
【0009】
このように、単にエンジン回転速度の情報のみを基に目標スロットル開度を決定するのではなく、検知しているエンジン回転速度が制限速度を超えた時点のスロットル開度をベースに使用して、制限速度以内に収まる吸入空気量を実現するように目標スロットル開度を求める計算を行うものとしたことで、エンジン負荷状態を検知するための新たな部品の追加を要することなく、エンジン負荷が変動するような場合でもリミット制御を充分に実行することができる。
【0010】
また、このエンジン回転速度制御方法で用いる数式が、
【数1】

(但し、θdは目標スロットル開度、Ndは目標エンジン回転速度、Nはエンジン回転速度、eはエンジン回転速度の目標エンジン回転速度に対する誤差、APSholはリミット制御起動条件成立時のアクセルペダル信号から求められた目標スロットル開度、K1〜K3は定数)である、ことを特徴としたものとすれば、高速高精度なリミット制御が可能なものとなる。
【0011】
さらに、上述したエンジン回転速度制御方法において、数式により決定した目標スロットル開度と入力されたアクセルペダル信号によるスロットル開度とを比較して、小さい方を最終的な目標スロットル開度として出力することを特徴としたものとすれば、運転者の操作性を損ないにくクスることができる。
【0012】
さらに、エンジン回転速度検出手段及びスロットルバルブの開閉用アクチュエータに接続され、エンジン回転速度に基づいて目標スロットル開度を決定して開閉用アクチュエータに駆動信号を出力することにより、スロットル開度を調整しながらエンジン回転速度が予め定めた制限速度を超さないようにリミット制御を実行する制御装置であって、上述したエンジン回転速度制御方法を実施するための制御プログラムを備えている、ことを特徴とした制御装置であるものとすれば、これをシステムに配設するだけで上述したエンジン回転速度制御方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
エンジン回転速度が制限速度を超えた時点のスロットル開度をベースとして制限速度以内に収まるように目標スロットル開度を求めるものとした本発明によると、コストの高騰を招くことなくあらゆる状況でエンジン回転速度が所定の制限速度を超えないように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の制御方法によるエンジン回転速度のリミット制御システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態のエンジン回転速度制御方法による、エンジン回転速度のリミット制御システムの機能ブロック図を示しており、この制御方法は、実際には後述するエンジン回転速度制御方法を実施するための制御プログラムを備えた制御装置(エンジン回転速度制御装置)が制御主体となって自動的に実施される。
【0017】
上述したように、従来のエンジン回転速度制御方法では、制御装置がエンジン回転速度のみの情報から目標スロットル開度を求める方式であったため、エンジンの負荷変動に対し制限速度を一定に保てないという欠点があった。これに対し本発明は、そのような欠点を克服してより高速高精度なエンジン回転速度制御を実現しようとするものであり、以下に詳述するように、目標エンジン回転速度からの速度偏差に基づいて電子制御スロットルによる空気流量を制御することにより、エンジン回転速度のリミット制御を行うものである。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態はエンジン回転速度(信号)1、目標エンジン回転速度(信号)2、目標スロットル開度(信号)3、スロットル開度(信号)4、電子制御スロットル(ETC)5、エンジン6、ホールドブロック7、アクセルペダル信号(APS)8で構成される。そして、目標スロットル開度3の決定は、以下のように行われる。
【0019】
エンジン回転速度リミット制御の起動条件であるN>Ndが成立したとき、目標スロットル開度3は目標エンジン回転速度2とエンジン回転速度1との誤差信号より、次の数式1によって求める。
【数1】

尚、誤差信号は次の数式2による。
【数2】

ここで、θdは目標スロットル開度、Ndは目標エンジン回転速度、Nはエンジン回転速度、eはエンジン回転速度の目標エンジン回転速度に対する誤差、APSholはリミット制御起動条件成立時のアクセルペダル信号から求められた目標スロットル開度、K1〜K3は定数であり、条件不成立時は正常の制御に戻る。
【0020】
本発明は、エンジン回転速度のリミット制御システムに対し電子制御スロットル5によりエンジン6に吸い込まれた吸入空気量に応じて、エンジン回転速度1が目標(リミット)エンジン回転速度2になるための吸入空気量、即ち、目標スロットル開度3を決定するモデルベース制御を適用した新たなエンジン回転速度制御方法である。
【0021】
このリミット制御の目的は、総ての運転条件において実際のエンジン回転速度1が決められた目標エンジン回転速度2を超えないように制御することであり、エンジン6が始動したとき、エンジン回転速度1、目標エンジン回転速度2の値を比較し、もし、実際のエンジン回転速度1が目標エンジン回転速度2よりも大きい場合、そのときの入力であるアクセルペダル信号(APS)8の値をホールドブロック7により保持(記憶)する。
【0022】
その値をベースに、エンジン回転速度1が目標エンジン回転速度2になるように、上記数式1を用いて目標スロットル開度3を求め、さらに、求められた目標スロットル開度3と入力されたアクセルペダル信号(APS)8の値を比較し、小さい方を実際の目標スロットル開度3とする。
【0023】
そして、スロットル開度4が目標スロットル開度3となるように電子制御スロットル5を制御するものとし、電子制御スロットル5によりエンジン6に吸い込まれた吸入空気量に応じて、エンジン回転速度1が目標(リミット)エンジン回転速度2になるようにエンジン6の制御を行う。
【0024】
したがって、エンジン6の負荷が変動してエンジン回転速度1が急激に上昇した場合であっても、実際のエンジン回転速度1を指定された目標(リミット)エンジン回転速度2に収める方向で、高速高精度に制御することが可能なものとなっている。
【0025】
以上、述べたように、本発明により、コストの高騰を招くことなくエンジン負荷が変動するような状況でもエンジン回転速度が所定の制限速度を超えないように制御できるようになった。
【符号の説明】
【0026】
1 エンジン回転速度、2 目標エンジン回転速度、3 目標スロットル開度、4 スロットル開度、5 電子制御スロットル、6 エンジン、7 ホールドブロック、8 アクセルペダル信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転速度制御装置が、検知しているエンジン回転速度に基づいて目標スロットル開度を決定しエンジンの吸気通路に配置したスロットルバルブの開閉用アクチュエータに駆動信号を出力することにより、スロットル開度を調整しながら前記エンジン回転速度が予め定めた制限速度を超えないようにリミット制御を実行するエンジン回転速度制御方法において、前記エンジン回転速度が制限速度を超えた場合にそのときの前記スロットル開度を記憶し、該記憶したスロットル開度をベースとして所定の数式を用いて前記エンジン回転速度が制限速度内に収まるように前記目標スロットル開度を決定する、ことを特徴とするエンジン回転速度制御方法。
【請求項2】
前記数式が、
【数1】

(但し、θdは目標スロットル開度、Ndは目標エンジン回転速度、Nはエンジン回転速度、eはエンジン回転速度の目標エンジン回転速度に対する誤差、APSholはリミット制御起動条件成立時のアクセルペダル信号から求められた目標スロットル開度、K1〜K3は定数)である、ことを特徴とする請求項1に記載したエンジン回転速度制御方法。
【請求項3】
前記数式により決定した目標スロットル開度と入力された前記アクセルペダル信号によるスロットル開度とを比較して、小さい方を最終的な前記目標スロットル開度として出力する、ことを特徴とする請求項1または2に記載したエンジン回転速度制御方法。
【請求項4】
エンジン回転速度検出手段及び前記スロットルバルブの開閉用アクチュエータに接続され、前記エンジン回転速度に基づいて前記目標スロットル開度を決定して前記開閉用アクチュエータに駆動信号を出力することにより、前記スロットル開度を調整しながら前記エンジン回転速度が予め定めた制限速度を超さないように前記リミット制御を実行する制御装置であって、請求項1,2または3に記載したエンジン回転速度制御方法を実施するための制御プログラムを備えている、ことを特徴とする制御装置。



【図1】
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【公開番号】特開2011−64130(P2011−64130A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215264(P2009−215264)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】