説明

エンジン排出ガス浄化触媒、触媒反応器および浄化方法

【課題】 エンジン排出ガスから窒素酸化物、粒子状物質、一酸化炭素および炭化水素等の除去対象物質を除去するためのエンジン排出ガス浄化触媒、触媒反応器および浄化方法を提供する。
【解決手段】 エンジン排出ガス浄化触媒は、網目状のフォーム構造体に窒素酸化物還元触媒を被覆してなるものである。触媒反応器は、上記窒素酸化物還元触媒と、この還元触媒よりもエンジン排出ガスフローの下流側に配置された酸化触媒とから構成されている。浄化方法は、所定量の炭化水素還元剤の共存下で、上記エンジン排出ガスを窒素酸化物還元触媒に接触させるステップを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物(以下、NOxともいう)、粒子状物質(以下、PMともいう)、一酸化炭素(以下、COともいう)および炭化水素(以下、HCともいう)等の除去対象物質を除去するためのエンジン排出ガス浄化触媒、触媒反応器および浄化方法に関するものである。さらに詳細には、この発明は、酸素過剰なエンジン排出ガスに含まれる窒素酸化物、粒子状物質、一酸化炭素、炭化水素と還元剤として軽油等のエンジン燃料を共存させることにより、上記排出ガス成分を分解して除去する浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(1)エンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物、粒子状物質および一酸化炭素は、従来、白金、パラジウム、ロジウム等の物質を担持してなる三元触媒およびエンジン燃焼システムにより除去されている。しかしながら、ディーゼルエンジンなどリーン燃焼機関から排出されるガスのような酸素過剰排出ガスでは、上記三元触媒による除去効率が低く、有効な触媒ではないという欠点があった。
【0003】
(2)エンジン排出ガス用浄化触媒としては、γ−アルミナに白金、パラジウム等を担持した触媒成分を、セラミックハニカム体、メタルハニカム体等のモノリス基材に被覆したものが実用化されている。しかしながら、上記浄化触媒では、エンジン排出ガス中の硫黄化合物(以下、SO2ともいう)が酸化されて硫酸塩や亜硫酸塩を生成するため、上記浄化触媒の使用は、触媒被毒の要因になるという欠点があった。
【0004】
(3)酸素過剰の排出ガス中の窒素酸化物浄化方法としては、アンモニア選択還元法がよく知られている。しかしながら、車等の移動発生源では、毒性の高いアンモニアガスの取り扱いが難しく、その代替として尿素選択還元法が提案されているものの、この尿素選択還元法を用いる場合には、尿素水供給インフラ整備に多額の投資が必要となるという欠点があった。
【0005】
(4)さらに、窒素酸化物吸蔵還元法が小型車を中心に実用化されている。しかしながら、リーン燃焼とリッチ燃焼の交互の運転が必要であり、燃費および運転制御の観点から大型エンジンでは実用化されていないのが現状である。
【0006】
なお、上記背景技術は当業者一般に知られた技術であって、文献公知発明に係るものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の第1の目的は、エンジン排出ガスとの接触機会を高めるフォーム状窒素酸化物還元触媒を含むエンジン排出ガス浄化触媒を提供することにある。
【0008】
この発明の第2の目的は、硫黄酸化物(SO2)による触媒被毒を防止するために添加されるチタンと、窒素酸化物還元のために添加される銀を担持した窒素酸化物還元触媒をフォーム状構造体に被覆(ウォシュコート)してなるフォーム状窒素酸化物還元触媒を含むエンジン排出ガス浄化触媒を提供することにある。
【0009】
この発明の第3の目的は、上記フォーム状窒素酸化物還元触媒と、白金またはパラジウムを担持したフォーム状酸化触媒とを組み合わせた触媒反応器を提供することにある。
【0010】
この発明の第4の目的は、エンジン排出ガスから窒素酸化物、粒子状物質、一酸化炭素および炭化水素等の除去対象物質を効率よく除去するエンジン排出ガス浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1記載の発明は、エンジン排出ガス浄化触媒であって、網目状のフォーム構造体に窒素酸化物還元触媒を被覆してなることを特徴とするものである。
【0012】
この発明の請求項2記載の発明は、上記窒素酸化物還元触媒を、担体としてのγ−アルミナにチタンを担持し、このチタン上にさらに銀を担持してなる複合触媒としたことを特徴とするものである。
【0013】
この発明の請求項3記載の発明は、触媒反応器であって、上記窒素酸化物還元触媒と、この窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置されると共に、網目状のフォーム構造体上にγ−アルミナ担体を形成し、その上に白金またはパラジウムのうちいずれか一方を担持してなる酸化触媒とを含むことを特徴とするものである。
【0014】
この発明の請求項4記載の発明は、エンジン排出ガス浄化方法であって、理論空燃比より過剰の酸素を含むエンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物と、この窒素酸化物の重量に対して0.5〜3重量比の炭化水素還元剤との共存下で、上記エンジン排出ガスを、請求項1または請求項2に記載の窒素酸化物還元触媒に接触させるステップを含むことを特徴とするものである。
【0015】
この発明の請求項5記載の発明は、エンジン排出ガス浄化方法であって、理論空燃比より過剰の酸素を含むエンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物と、この窒素酸化物の重量に対して0.5〜3重量比の炭化水素還元剤との共存下で、上記エンジン排出ガスを、上記窒素酸化物還元触媒を接触させるステップと、上記エンジン排出ガスと上記窒素酸化物還元触媒との接触後に、上記エンジン排出ガスを上記窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置された酸化触媒に接触させるステップを含むことを特徴とするものである。
【0016】
この発明の請求項6記載の発明は、エンジン排出ガス浄化方法であって、エンジン排出ガス中の粒子状物質のうち、可溶性有機成分(SOF)を窒素酸化物の除去時に、上記炭化水素還元剤の一部として用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、フォーム状窒素酸化物還元触媒を含むように構成したので、この還元触媒とエンジン排出ガスとの接触機会を高めることができ、エンジン排出ガスから窒素酸化物、粒子状物質、炭化水素、一酸化炭素等の除去対象物質を効率よく除去することができるという効果がある。
【0018】
この発明によれば、上記窒素酸化物還元触媒を、担体としてのγ−アルミナにチタンを担持し、このチタン上にさらに銀を担持してなる複合触媒とするように構成したので、銀およびチタンの作用により硫黄酸化物から難分解性の硫酸アルミニウムの生成を抑制し、これにより触媒被毒をも回避することができるという効果がある。
【0019】
この発明によれば、触媒反応器を、上記窒素酸化物還元触媒と、この窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置されると共に、網目状のフォーム構造体上にγ−アルミナ担体を形成し、その上に白金またはパラジウムのうちいずれか一方を担持してなる酸化触媒とを含むように構成したので、まず窒素酸化物還元触媒によりエンジン排出ガス中の硫黄酸化物による触媒被毒を回避することができ、次に酸化触媒によりエンジン排出ガス中に添加した軽油等の炭化水素還元剤の未反応物とエンジン排出ガス中の粒子状物質(煤)との燃焼および一酸化炭素の酸化を行うことで、共に炭酸ガスと水に分解してエンジン排出ガスの浄化を図ることができるという効果がある。
【0020】
この発明によれば、エンジン排出ガス浄化方法を、理論空燃比より過剰の酸素を含むエンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物と、この窒素酸化物の重量に対して0.5〜3重量比の炭化水素還元剤との共存下で、上記エンジン排出ガスを、上記窒素酸化物還元触媒を接触させるステップと、上記エンジン排出ガスと上記窒素酸化物還元触媒との接触後に、上記エンジン排出ガスを上記窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置された酸化触媒に接触させるステップを含むように構成したので、まず窒素酸化物還元触媒によりエンジン排出ガス中の硫黄酸化物による触媒被毒を回避することができ、次に酸化触媒によりエンジン排出ガス中に添加した軽油等の炭化水素還元剤の未反応物とエンジン排出ガス中の粒子状物質(煤)との燃焼および一酸化炭素の酸化を行うことで、共に炭酸ガスと水に分解してエンジン排出ガスの浄化を図ることができるという効果がある。
【0021】
この発明によれば、エンジン排出ガス浄化方法において、エンジン排出ガス中の粒子状物質のうち、可溶性有機成分(SOF)を窒素酸化物の除去時に、上記炭化水素還元剤の一部として用いるように構成したので、この炭化水素還元剤とエンジン排出ガス中の粒子状物質(煤)との燃焼および一酸化炭素の酸化を効率よく行うことができると共に、触媒温度範囲が広く、燃料である軽油を炭化水素還元剤とする窒素酸化物還元方法という点で、移動発生源である、例えば自動車に対して有利に適用することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1によるエンジン排出ガス浄化触媒は、網目状のフォーム構造体に窒素酸化物還元触媒を被覆してなり、上記窒素酸化物還元触媒は、担体としてのγ−アルミナにチタンを担持し、このチタン上にさらに銀を担持してなる複合触媒としたものである。
【0023】
(フォーム状構造体)
この実施の形態1で用いられるフォーム状構造体としては特に限定するものではなく、例えば、金属発泡体、ウレタンフォーム基材にセラミック成分をコートしたのち、焼成処理により形成されたセラミックフォーム体、ウレタンフォーム基材に対して、鉄、ニッケル、クロムなどの一種類または二種類をメッキ処理した金属フォーム体などを使用することができる。このようなフォーム状構造体は、90%以上の高気孔率および連結空孔により比表面積が相対的に高い多孔質材料であり、実質的に網目状となることから、一種のフィルタとして利用することができるものである。また、このフォーム状構造体は、この構造体に対してガス流体を供給することで、ガス流体に乱流状態を形成させ、排出ガス成分と触媒金属との接触効果を大きくすることができる点で、従来の浄化触媒より格段に有利である。
【0024】
(触媒担体)
触媒の担体としては、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ゼオライト、チタニア等の多孔質体を使用することができる。そのうち、この発明に好適に用いられる担体としては、耐熱性や触媒金属の分散性が高く、またフォーム状構造体との加工が容易なγ−アルミナを挙げることができる。このγ−アルミナは、アルミナが70%以上、好ましくは95%以上の含有するものであり、特に好ましくは、Na2O、K2Oなどの不純物を含まない方がよい。また、触媒の担体としてのγ−アルミナは、一次粒子または二次粒子の状態で使用してもよい。ここで、アルミナ粒子は、アルミナ原料または製造条件(pH、乾燥・焼成温度等)などにより粒径等の性質が異なる。例えば、Al・アルコキシドでは、10〜50Å(1Å=10-10m)、Al塩では1μ(1μ=10-6m)以上の極微粒子(一次粒子)が調製される。また、この一次粒子を造粒加工して得られる二次粒子は10〜1000μの粒径を有しており、これも一次粒子と組み合わせて、あるいは単独で使用することができる。また、上記γ−アルミナは、適当なモノリス基材に被覆して用いることもできる。例えば、金属およびコージェライト製ハニカム材にアルミナゾルなどの接着剤でγ−アルミナを被覆し、乾燥・焼成処理によりハニカム担体を成形することができる。
【0025】
(触媒金属および担持方法)
この実施の形態1における窒素酸化物還元触媒を得る際には、γ−アルミナ担体にチタンおよび銀を担持させるために、金属塩溶液に0.5〜50μmのγ−アルミナ担体を加え、撹拌しながら担持し、固液分離後、120℃の温度で10〜15時間ほど乾燥し、500〜600℃で空気下の焼成を1〜3時間ほど行う方法を使用することができる。ここで、使用する金属化合物としては、チタン化合物として、三塩化チタン、四塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド(チタンアルコキシド類)などを挙げることができ、また銀化合物としては硝酸銀、酢酸銀などを挙げることができる。用いられる金属塩溶液の濃度は0.05〜1mol/L程度とされるが、これに限定されるものはでない。
【0026】
上記担持方法により、γ−アルミナ担体には、まずチタン層が形成され、そのチタン層の上に銀層が形成される。チタン層としては、三塩化チタン、四塩化チタン、チタンアルコキシドのいずれかを用い、γ−アルミナ担体との固液比が2(v/v)になるように加えて撹拌しながら担持する。担持操作後、アンモニア水の中和処理により水酸化チタンを生成させ、固液分離後、120℃の温度で10時間の乾燥、550℃の温度で空気雰囲気にて2〜3時間の焼成を行う。ここで、チタンの化学形態はアナターゼ型が主成分である。なお、窒素酸化物還元触媒に対するチタン担持量は、0.2〜1重量%とされる。
【0027】
銀層は、硝酸銀または酢酸銀溶液に上記チタン担持したものを加えて撹拌しながら担持する。担持後の操作は、チタン層形成と同様に乾燥、焼成を行う。なお、窒素酸化物還元触媒に対する銀担持量は、0.1〜2重量%とされる。
【0028】
フォーム状窒素酸化物還元触媒を得るに際して、上記窒素酸化物還元触媒を接着剤としてのアルミナゾル液に撹拌しながら加え、ボールミルで8〜10時間の撹拌を行い、触媒スラリーを調製する。次に、モノリス構造体としてのセラミックフォームまたは金属フォームに対して5〜30重量%の触媒スラリーをウォシュコートし、余分のスラリーは空気で吹き飛ばした後、120℃の温度で10時間の乾燥を行い、550℃の温度で空気雰囲気にて2〜3時間の焼成を行うものをフォーム状窒素酸化物還元触媒とする。
【0029】
このようにして得られた窒素酸化物還元触媒をエンジン排出ガス浄化触媒として用いることで、窒素酸化物と軽油燃料などの有機化合物との共存下で、酸素過剰雰囲気のエンジン排出ガス中の窒素酸化物が除去されると共に、粒子状物質(PM)中の可溶性有機成分(SOF)も窒素酸化物還元剤として作用するために、窒素酸化物と粒子状物質(PM)がエンジン排出ガスから同時に除去される。また、触媒の被毒物質であるエンジン排出ガス中の硫黄酸化物(SO2)が、上記銀の酸化作用により亜硫酸または硫酸に変換され、チタンと反応して硫酸チタンを生成するが、窒素酸化物の還元反応温度が450〜550℃付近に達すると、硫酸チタンが分解されて硫黄酸化物(SO2)として排出されるため、難分解である硫酸アルミニウムの生成が抑制され、触媒被毒も回避できる。特に、触媒温度が400℃以下でも触媒活性の低下がなく、上記触媒による窒素酸化物の除去活性が維持される。
【0030】
以上のように、この実施の形態1によれば、フォーム状窒素酸化物還元触媒を含むように構成したので、この還元触媒とエンジン排出ガスとの接触機会を高めることができ、エンジン排出ガスから窒素酸化物、粒子状物質、炭化水素、一酸化炭素等の除去対象物質を効率よく除去することができるという効果がある。
【0031】
この実施の形態1によれば、上記窒素酸化物還元触媒を、担体としてのγ−アルミナにチタンを担持し、このチタン上にさらに銀を担持してなる複合触媒とするように構成したので、銀およびチタンの作用により硫黄酸化物から難分解性の硫酸アルミニウムの生成を抑制し、これにより触媒被毒をも回避することができるという効果がある。
【0032】
なお、この実施の形態1では、モノリス構造体として網目状の金属製のフォーム構造体を用いているが、この発明はこれに限定されるものではなく、他に、セラミックス製のフォーム構造体を用いることもできる。
【0033】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2による触媒反応器は、窒素酸化物還元触媒と、この窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置されると共に、網目状のフォーム構造体上にγ−アルミナ担体を形成し、その上に白金またはパラジウムのうちいずれか一方を担持してなる酸化触媒とを含むものである。この触媒反応器では、エンジン側から窒素酸化物還元触媒、酸化触媒の順に配置した構造を採用する。エンジン排出ガス中の窒素酸化物および粒子状物質(可溶性有機成分)はフォーム状窒素酸化物還元触媒で除去され、炭化水素、一酸化炭素および粒子状物質(煤)は酸化触媒で除去される。
【0034】
酸化触媒の担体は、アルミナゾル(固形分60%以上)と10%相当の硝酸セリウムの混合ゾルを調製し、次にフォーム状基材に対して5〜30重量%の混合ゾルをウォシュコートしたのち、120℃の温度で12時間の乾燥と500℃の温度で空気雰囲気にて2〜3時間程度の焼成を行ってフォーム状アルミナ担体とする。ここで、使用される金属化合物は、テトラアンミン白金水酸塩またはテトラアンミンパラジウム水酸塩を用いてフォーム状アルミナ担体に担持し、120℃の温度で10時間の乾燥、500℃の温度で2時間の焼成したものをフォーム状白金またはパラジウム酸化触媒とする。なお、酸化触媒に対する白金またはパラジウムの担持量は、0.1〜1重量%とされる。
【0035】
以上のように、この実施の形態2によれば、窒素酸化物還元触媒と、この窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置された酸化触媒を含むように構成したので、まず窒素酸化物還元触媒によりエンジン排出ガス中の硫黄酸化物による触媒被毒を回避することができ、次に酸化触媒によりエンジン排出ガス中に添加した軽油等の炭化水素還元剤の未反応物とエンジン排出ガス中の粒子状物質(煤)との燃焼および一酸化炭素の酸化を行うことで、共に炭酸ガスと水に分解してエンジン排出ガスの浄化を図ることができるという効果がある。
【0036】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3によるエンジン排出ガス浄化方法は、上記フォーム状還元触媒と上記フォーム状酸化触媒を組み合わせた触媒反応器を、エンジンに接続された排気管の途中に設置し、エンジン排出ガスと接触させることにより実施される。このエンジン排出ガスはディーゼルエンジンなどの理論燃焼量より過剰な酸素を含む排出ガスである。
【0037】
この実施の形態2による触媒反応器とエンジン排出ガスとの接触に際して、還元剤として燃料や有機化合物を排出ガス中に添加する。還元剤添加量は、排出ガス中の窒素酸化物の重量に対して0.5〜3(重量比)が好ましい。ここで、0.5重量比未満では、上記還元剤の添加効果が低下する一方、3重量比を超えると、上記還元剤の添加効果が頭打ちとなるという理由から、上記添加範囲が設定されている。
【0038】
触媒反応器の具体的な運転方法では、排出ガス温度が350℃に達すると、還元剤の添加が開始されて排出ガス中の窒素酸化物がフォーム状窒素酸化物還元触媒により窒素と酸素に分解され、この時に粒子状物質(可溶性有機成分)も還元剤として作用されるために炭酸ガスと水に分解される。次に、フォーム状窒素酸化物還元触媒を通過した排出ガス中に残存する未反応還元剤や一酸化炭素、粒子状物質(煤)がフォーム状酸化触媒と接触することにより炭酸ガスと水に分解される。
【0039】
このように、この実施の形態3によるエンジン排出ガス浄化方法では、酸素過剰雰囲気の排出ガス中の窒素酸化物、粒子状物質、炭化水素および一酸化炭素を、従来の浄化触媒よりも効率よく除去し、上記排出ガスを確実に浄化することができる。特に、窒素酸化物と粒子状物質を効率よく、同時に除去することができる。
【0040】
以下の実施例により、この発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例によりこの発明が限定されるものではない。
実施例1
(NOx還元触媒)
γ−アルミナ(水沢化学工業製)を0.5〜30μmの粒度に破砕したものを担体とした。この担体を、三塩化チタン溶液(0.06mol/L)に固液比2(v/v)の割合になるように加え、50℃の温度で1時間撹拌しながら担持した。固液分離後、固体(担体)の2倍量のイオン交換水で3回の水洗を行い、次に、50℃の2倍量の水中に移し、撹拌しながらアンモニア水を加えて中和(pH=7)したのち、120℃で12時間の乾燥および550℃で3時間の空気下での焼成を行い、γ−アルミナ上にチタン担持層を形成した。次に、このチタン担持物を硝酸銀溶液(0.12mol/L)に加え、撹拌しながら30℃で40分間の担持操作を行い、固液分離後、2倍量のイオン交換水で1回、水洗した後、120℃で12時間の乾燥および550℃で1時間の空気下での焼成を行った。このようにして得られた粉末状NOx還元触媒の金属担持量は、チタン量が0.17重量%、銀量が0.6重量%であった。
【0041】
NOx還元触媒のフォーム状成形は、粉末状NOx還元触媒50容、アルミナゾル13容、メチルセルロース0.5容、水170容の割合で500ccのボールミルに入れ、回転数80rpm、6時間の条件で混合して触媒スラリーを調製した。この触媒スラリーを、セル数30ヶ/インチ(孔径0.8mm)、体積40ccの金属(ニッケル)フォームに対して120g/Lの割合になるように被覆(ウォシュコート)し、120℃で6時間の乾燥および500℃で90分の空気下での焼成を行った。
【0042】
NOx除去性能試験は、酸素10%、NOx濃度600ppm、水分濃度7%、SO2濃度10ppm、バランスガスを窒素ガスとする模擬排出ガスを用い、固定床流通式で空間速度(SV)が20,000/hを行った。このときの還元剤としては軽油を用い、NOx量に対して1倍量(軽油/NOx=1(w/w))を添加した。なお、連続試験の触媒温度を350℃、400℃、450℃および500℃とした上で、それぞれの温度ごとに触媒反応器前後のNOx濃度比から常圧化学発光法により算出したNOx除去率を表1に示した。
【表1】

【0043】
比較例1
実施例1の粉末状NOx還元触媒を300セル/インチ2のメタルハニカム基材(直径36mm、高さ50m)に、実施例1と同様の触媒スラリーを重量比で20%のウォシュコートし、ハニカム状NOx還元触媒を調製した。NOx除去性能試験は、酸素10%、NOx濃度600ppm、水分濃度7%、SO2濃度10ppm、バランスガスは窒素ガスとする模擬排出ガスを用い、固定床流通式で空間速度(SV)が20,000/hを行った。このときの還元剤は軽油を用い、NOx量に対して1倍量(軽油/NOx=1(w/w))を添加した。なお、連続試験の触媒温度は実施例1と同様である。また、常圧化学発光法にて触媒反応器前後のNOx濃度比からNOx除去率を算出し、その結果を表2に示した。
【表2】

【0044】
実施例1による表1のフォーム状NOx還元触媒のNOx除去率は、比較例1による表2のハニカム状NOx還元触媒と比較すると、400℃以上のNOx除去活性が約10%強高く、また350℃では約20%も高かった。また50時間経過後のNOx除去率を見ると、いずれの触媒温度においても除去率の低下が認められなかった。
【0045】
このように、網目構造を持つフォーム状NOx還元触媒では、触媒層内の排ガスは乱流を形成するために、反応効率が高く、ハニカム状触媒よりも有利であることがわかる。
【0046】
実施例2
(酸化触媒)
セル数50ヶ/インチ (孔径0.5mm)、体積20ccの金属(ニッケル)フォームにアルミナゾルと硝酸セリウム7容の混合物の10重量%相当をウォシュコートし、120℃の温度の6時間乾燥、500℃で2時間の空気下での焼成を行い、γ−アルミナ担体を調製した。この担体をテトラアンミン白金水酸塩(0.1mol/L)に浸積し、120℃で4時間の乾燥、500℃で2時間の焼成を行って、フォーム状白金触媒を調製した。この時の白金担持量は0.5重量%であった。
【0047】
実施例3
(触媒反応器)
ステンレス製触媒反応器(直径36mm、長さ30cm)内に、まずエンジン側に実施例1および実施例2で調製したフォーム状NOx還元触媒40ccを充填し、この還元触媒よりも排出ガスフローの下流側に白金触媒20ccを充填し、エンジン排出ガス中の窒素酸化物(NOx)、黒煙、炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)の各濃度の触媒温度に対する除去率を調べ、触媒反応器の性能を確認した。
【0048】
用いたエンジンは、直接噴射式燃料ポンプ、排気量2400ccのディーゼルエンジンに交流式発電機を付けたものであり、触媒反応器は排気管の途中から分岐したところに設置した。エンジン排出ガスの組成は、NOx:600〜700ppm、酸素:8〜10%、CO:90〜110ppm、HC:160〜400ppm、水分:4〜7%であった。
【0049】
性能試験条件は、NOx還元触媒がSV20,000/h、白金触媒がSV40,000/h、触媒温度が350〜500℃の範囲で50℃ごとに変えた。還元剤は軽油燃料をNOx量に対して1倍量(w/w)を触媒反応器の直前に添加した。成分分析では、NOxは化学発光法、酸素は磁気風式、COは非分散赤外分光法(NDIR)、HCは水素炎イオン化(FID)、水分が重量法、黒煙濃度はJISZ8808(排ガス中のダスト濃度の測定方法)で行い、各成分の除去率は触媒反応器前後の濃度比から算出し、その結果を表3に示した。
【表3】

【0050】
表3より、NOx還元触媒と白金触媒を組み合わせた触媒反応器の除去性能を見ると、窒素酸化物(NOx)は50%強を示し、実施例1と同等性能であった。黒煙はほぼ全量が燃焼していることがわかる。また、炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)も同様にほぼ全量が酸化している。このことから、この実施例3による触媒反応器では、窒素酸化物(NOx)還元反応と同時に余剰軽油還元剤や黒煙、炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)の燃焼が起こり、エンジン排出ガス中の多成分を同時に浄化することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目状のフォーム構造体に窒素酸化物還元触媒を被覆してなることを特徴とするエンジン排出ガス浄化触媒。
【請求項2】
上記窒素酸化物還元触媒は、担体としてのγ−アルミナにチタンを担持し、このチタン上にさらに銀を担持してなる複合触媒であることを特徴とする請求項1記載のエンジン排出ガス浄化触媒。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の窒素酸化物還元触媒と、この窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置されると共に、網目状のフォーム構造体上にγ−アルミナ担体を形成し、その上に白金またはパラジウムのうちいずれか一方を担持してなる酸化触媒とを含むことを特徴とする触媒反応器。
【請求項4】
理論空燃比より過剰の酸素を含むエンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物と、この窒素酸化物の重量に対して0.5〜3重量比の炭化水素還元剤との共存下で、上記エンジン排出ガスを、請求項1または請求項2に記載の窒素酸化物還元触媒に接触させるステップを含むことを特徴とするエンジン排出ガス浄化方法。
【請求項5】
理論空燃比より過剰の酸素を含むエンジン排出ガス中に含まれる窒素酸化物と、この窒素酸化物の重量に対して0.5〜3重量比の炭化水素還元剤との共存下で、上記エンジン排出ガスを、請求項1または請求項2に記載の窒素酸化物還元触媒を接触させるステップと、上記エンジン排出ガスと上記窒素酸化物還元触媒との接触後に、上記エンジン排出ガスを上記窒素酸化物還元触媒の排出ガスフロー下流側に配置された酸化触媒に接触させるステップを含むことを特徴とする請求項4記載のエンジン排出ガス浄化方法。
【請求項6】
エンジン排出ガス中の粒子状物質のうち、可溶性有機成分を窒素酸化物の除去時に、上記炭化水素還元剤の一部として用いることを特徴とする請求項5記載のエンジン排出ガス浄化方法。

【公開番号】特開2007−7606(P2007−7606A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194058(P2005−194058)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000173647)財団法人産業創造研究所 (17)
【Fターム(参考)】