説明

オイルストレーナ

【課題】容易かつ安価に製造でき、信頼性が高く、オイルの油面が大きく傾いた際にもエアの混入を確実に防止できるオイルストレーナを提供すること。
【解決手段】オイルストレーナ40は、車両用駆動装置10に潤滑油及び作動油として用いられるオイルOを貯留するオイルパン21内に設置されている。そして、オイルパン21内のオイルOを吸入するオイル吸入口45を、オイルストレーナ40自体のオイルパン21に対向する下面42より下方へ突出させている。この下面42には、エア混入防止リブ50a〜50dが、オイル吸入口45を中心として放射状に設けられている。各リブ50a〜50dは、オイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに、オイルパン21内のオイルOをオイル吸入口45に導くための経路51〜54を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機に備わるオイルストレーナに関する。より詳細には、歯車等の潤滑や、クラッチ、トルクコンバータ等の作動に用いられるオイルの濾過を行うオイルストレーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に広く用いられているトルクコンバータ利用の自動変速機では、歯車等の潤滑や、クラッチ、トルクコンバータ等の作動に用いられるオイルが、ケース(トランスアクスルケース)下部のオイルパン内に貯められている。そして、オイルパン内に貯められているオイルをオイルポンプにより吸引して、各種の制御バルブや各潤滑部等へ供給するようになっている。ここで、一般的には、このオイルパン内にオイルストレーナが設けられており、オイルストレーナを介してオイルを濾過した後、オイルポンプに吸引させるようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このようなオイルストレーナにおいて、車両の加減速や旋回などの際にオイルパン内でオイルに偏りが生じることにより、オイルストレーナのオイル吸入口の一部が、オイルパン内に貯められたオイルから出てしまうおそれがあった。このようにオイル吸入口の一部が油中から出た場合には、オイルパンからオイルストレーナ内部に吸入されるオイルにエアが混入してしまう。そして、エアが混入したオイルを自動変速機の各部に供給すると、制御バルブの動作不良やクラッチの係合不良などが発生するおそれがある。そのため、車両の加減速や旋回などによりオイルに偏りが生じても、オイルストレーナのオイル吸入口が油中から出ないようにする必要があった。
【0004】
このような事情から、車両の加減速や旋回時におけるオイルストレーナ内部へのエア混入の対策が施されたものとして、例えばオイル吸入口がオイルの流動に追従する構造を有するオイルストレーナが開示されている(特許文献2参照)。このオイルストレーナでは、オイルパンに対向する下面に、球面状に形成された可動部材が、揺動自在に支持されている。そして、可動部材の底部には、オイルを吸入するための吸入口が設けられている。これにより、車両が加減速、旋回してオイルが一方へ偏ると、オイルの流動により可動部材が揺動して、オイル吸入口がオイルの流動に追従するようになっている。こうして、オイル吸入口全域がオイルに浸かった状態を維持できるようになっている。
【特許文献1】特開平9−173723号公報
【特許文献2】特開2002−180814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このオイルストレーナでは、車両が急加減速、急旋回してオイルパン内のオイルが勢いよく傾いた場合に、可動部がその勢いに追従できないおそれがあった。これにより、オイル吸入口の一部が、油中から出てしまうおそれがあった。その結果、オイルストレーナ内部にエアが混入するおそれがあった。また、このオイルストレーナの可動部は、車両の走行状況に応じて頻繁に動作するものである。このため、このオイルストレーナの実現には、構造の複雑化や高コスト化、故障や動作不良等による信頼性の低下といった課題が残されていた。
【0006】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、容易かつ安価に製造でき、信頼性が高く、オイルの油面が大きく傾いた際にもエアの混入を確実に防止できるオイルストレーナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するためになされた本発明に係るオイルストレーナは、車両用駆動装置に潤滑油及び作動油として用いられるオイルを貯留するオイルパン内に設置され、前記オイルパン内のオイルを吸入するオイル吸入口を前記オイルパンに対向する下面より下方へ突出させたオイルストレーナにおいて、前記オイルパン内のオイルを前記オイル吸入口に導く経路が形成されるように、前記下面に前記オイル吸入口を中心として放射状に設けられたリブを備えていることを特徴とする。
【0008】
このオイルストレーナでは、オイル吸入口が、オイルパンに対向する下面より下方へ突出させるように設けられている。また、オイルストレーナの下面には、リブが、オイル吸入口を中心として放射状に設けられている。そして、例えば車両の加減速や旋回の際にオイルパン内のオイルが揺動した場合に、リブがオイルの流動を堰き止めるように働くので、オイルの揺動を抑えることができる。こうしてオイルの揺動を抑制することにより、オイルストレーナのオイル吸入口を、オイルが揺動した場合にも油中から出ないようにすることができる。その結果、オイルストレーナ内に吸入されるオイルにエアが混入するのを防止することができる。
【0009】
また、このリブは、オイルの揺動の際に、オイルパン内のオイルをオイル吸入口に導く経路として働く。その結果、オイルが揺動した時に、オイルがこの経路に従ってオイル吸入口の周辺に集められる。こうして集められたオイルにより、オイルストレーナのオイル吸入口を油中から出ないようにすることができる。したがって、オイルストレーナ内に吸入されるオイルにエアが混入するのをより確実に防止することができる。
【0010】
さらに、このオイルストレーナでは、車両の加減速や旋回時におけるエア混入の防止を、特許文献1に開示されたような可動部を設けることなく、下面にリブを設けるという単純な構造により解決している。したがって、このオイルストレーナの実現には、構造の複雑化や高コスト化、故障や動作不良等による信頼性の低下といった問題も生じない。
【0011】
本発明に係るオイルストレーナにおいて、前記リブは、少なくとも前記オイル吸入口から車両進行方向の右前方、左前方、右後方及び左後方に延びるように設けられていることが望ましい。
【0012】
このようにリブを設けることにより、例えば車両の加減速によりオイルが前後に揺動した場合に、各リブがオイルを堰き止めてオイルの前後への流動を抑制するように機能する。ここで、後方へ流動するオイルのうち車両進行方向の右前方及び左前方に延びるように設けられたリブにより堰き止められたオイルは、これらのリブにより吸入口付近へと導かれる。一方、前方へ流動するオイルのうち車両進行方向の右後方及び左後方に延びるように設けられたリブにより堰き止められたオイルは、これらのリブにより吸入口付近へと導かれる。
【0013】
また、例えば車両の左右旋回によりオイルが左右に揺動した場合に、各リブがオイルを堰き止めてオイルの左右への流動を抑制するように機能する。ここで、左方へ流動するオイルのうち車両進行方向の右前方及び右後方に延びるように設けられたリブにより堰き止められたオイルは、これらのリブにより吸入口付近へと導かれる。一方、右方へ流動するオイルのうち車両進行方向の左前方及び左後方に延びるように設けられたリブにより堰き止められたオイルは、これらのリブにより吸入口付近へと導かれる。
【0014】
こうして、走行時に主としてオイルが偏る状況に対応することができるため、走行状況にかかわらずオイル吸入口を油中から出ないようにすることができる。その結果、オイルストレーナ内に吸入されるオイルにエアが混入するのをより確実に防止することができる。
【0015】
本発明に係るオイルストレーナにおいて、前記リブは、前記下面及び前記オイル吸入口と一体に成形されていることが望ましい。
【0016】
このようにリブを形成することにより、既存のオイルストレーナの型を変更するだけで本発明に係るオイルストレーナの製造が可能となる。これにより、エアの混入を防止できるオイルストレーナをより容易かつ安価に製造することができる。
【0017】
本発明に係るオイルストレーナにおいて、前記下面は、前記オイルパンの内側底面に対し略平行になるよう平らに形成されていることが望ましい。
【0018】
このようにオイルストレーナの下面が平らに形成されている場合には、揺動時のオイルをオイル吸入口へ導く経路が、オイルストレーナの下面、オイルパン内側底面及びリブにより確実に形成されるようになる。したがって、揺動時のオイルをより確実にオイル吸入口へと導くことができる。これにより、オイルストレーナのオイル吸入口を常に油中から出ないようにすることができる。その結果、オイルストレーナ内に吸入されるオイルにエアが混入するのをより確実に防止することができる。
【0019】
本発明に係るオイルストレーナにおいて、前記リブは、前記オイル吸入口の前記下面からの高さ位置を超えないように設けられていることが望ましい。
【0020】
このようにリブを設けることにより、リブとオイルパンの内側底部との間隔が狭くなりオイルを吸入する際の抵抗が大きくなるのを回避することができる。また、リブの高さを確保するために既存のオイルストレーナの設計を変更しなければならないような事態も生じない。さらに、車両用駆動装置に対する最低地上高さの要求に反することもない。
【0021】
このオイルストレーナにおいて、より望ましくは、前記リブが、前記オイル吸入口と同じ高さに形成されている態様である。
この態様によれば、リブがオイル吸入口の下面からの高さ位置を超えない範囲において、オイルの揺動を最も効果的に抑制するとともに、最大限のオイルをオイル吸入口に導くことができる。そして、オイル吸入口を最も確実に油中から出ないようにすることができる。その結果、オイル吸入口をオイルストレーナ内に吸入されるオイルにエアが混入するのを最も確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るオイルストレーナによれば、リブを追加した簡単な構造でオイルの揺動を抑えるとともにオイル吸入口付近へオイルを導くことができる。したがって、容易かつ安価に製造でき、信頼性を向上させ、オイルが急激に偏った際にもエアの混入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るオイルストレーナを具体化した最も好適な実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係るオイルストレーナを適用した車両用駆動装置である。そこで、この車両用駆動装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す部分断面図である。なお、図1では、オイルOが網掛け部分で示されている。
【0024】
図1に示されるように、車両用駆動装置10は、駆動装置10の各部を収納するトランスアクスルケース15と、駆動装置10の各部で潤滑油や作動油として用いられるオイルOを循環させるオイル循環機構20と、を備えている。
【0025】
オイル循環機構20は、オイルOの受け皿であるオイルパン21と、オイルパン21内に貯められたオイルOを吸引するオイルポンプと、オイルパン21からオイルOを吸引する際にオイルOを濾過するオイルストレーナ40と、を備えている。
【0026】
オイルパン21は、トランスアクスルケース15の下部に取り付けられている。このオイルパン21には、車両用駆動装置10の各部で潤滑油や作動油として用いられたオイルOが、自然落下して貯まるようになっている。また、このオイルパン21は、浅底の油皿に形成されている。そして、オイルパン21の内側底面21aは、平坦形状をなしている。これにより、車両用駆動装置に要求される最低地上高さを確保するとともに、オイルの量を必要最低限にとどめ、軽量化が図られている。
【0027】
オイルポンプは、本実施形態では、例えば機械式のものが用いられている。このオイルポンプを作動させることにより、オイルパン21に貯まったオイルOが、オイルストレーナ40を通過してオイルポンプ内へと吸引されるようになっている。そして、オイルポンプ内に吸引されたオイルOは、車両用駆動装置10の随所に形成された油路を介してクラッチや各種制御バルブなどに供給されるようになっている。
【0028】
オイルストレーナ40について、図2〜図4を参照しながら詳細に説明する。図2は、本実施形態の車両用駆動装置に備わるオイルストレーナを示す正面図である。図3は、図2のオイルストレーナを下方から見上げた下面図である。図4は、図3のオイルストレーナのIV−IV断面図である。なお、図3では、オイルOの流れが太線矢印S,T,U,Vで示されている。
【0029】
オイルストレーナ40は、オイルパン21内に設置され、オイルパン21内のオイルOをオイルポンプ内へ吸引する際に濾過するものである。こうしてオイルOを濾過することにより、オイルOに混じったゴミを分離して、各部の故障や作動機能の低下を防止することができる。このオイルストレーナ40は、図2に示されるように、中空形状をなすボディ41と、オイルパン21からボディ41内へオイルOを吸入するためのオイル吸入口45と、オイル吸入口45から吸い上げたオイルOを濾過するフィルタ44(図4参照)と、フィルタ44を通過したオイルOをオイルポンプへと導入するためのポンプ導入口43と、オイルパン21に対向する下面42に設けられた四本のエア混入防止リブ50a〜50d(図3参照)と、を備えている。
【0030】
ボディ41は、図4に示されるように、内部にオイルOを吸い込めるように扁平な箱型形状をなしており、上蓋を形成する上部41aと下皿を形成する下部41bとから構成されている。このボディ41の下部41bの下面42は、オイルパン21の内側底面21aに対し略平行になるよう平らに形成されている。これにより、後述するオイルの経路51,52,53,54を確実に形成できるようになっている。
【0031】
オイル吸入口45は、下方へ向けて開口する断面楕円形の筒型形状をなしており、下面42から所定の高さHに突出させるように設けられている(図2参照)。また、オイル吸入口45とオイルパン21の内側底面21aとの間には所定の間隔Gが設けられている。この高さHや距離Gは、オイルO吸入時の抵抗等を考慮して設定されている。
【0032】
フィルタ44は、不織布製の濾過部材からなるものである。このフィルタ44は、図4に示されるように、オイルストレーナ40内部で水平面全体に渡る大きさに形成されており、ボディ41内部に上部41aと下部41bとを隔てるように設けられている。これにより、オイルストレーナ40の内部を通過するオイルOは、確実にフィルタ44を通過するようになっている。また、ポンプ導入口43は、オイルストレーナ40内部でフィルタ44を通過したオイルOをオイルポンプへと導くものである。このポンプ導入口43は、ボディ41の上部41aに上方へ開口するように形成されている。
【0033】
エア混入防止リブ50a〜50dは、図3に示されるように、ボディ41の下部41bの下面42に、オイル吸入口45を中心として放射状に設けられている。本実施形態では、エア混入防止リブ50a〜50dは、オイル吸入口45から車両進行方向に対して右前方へ延びる右前方リブ50aと、オイル吸入口45から車両進行方向に対して左前方へ延びる左前方リブ50bと、オイル吸入口45から車両進行方向に対して右後方へ延びる右後方リブ50cと、オイル吸入口45から車両進行方向に対して左後方へ延びる左後方リブ50dと、から構成されている。そして、各リブ50a〜50dが、オイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに、オイルパン21内のオイルOをオイル吸入口45に導くための経路51,52,53,54を形成するようになっている。
【0034】
また、これらのリブ50a〜50dは、いずれもオイル吸入口45と同じ高さHに形成されている。このように、リブ50a〜50dをオイル吸入口45の高さ位置を超えないように設けることにより、リブ50a〜50dとオイルパン21の内側底部21aとの間隔を十分に確保して、オイル吸入口45からオイルOを吸入する際の抵抗を大きくしないようにしている。また、リブ50a〜50dを追加したとしても、既存のオイルストレーナ40の設計を変更する必要が生じないようになっている。さらに、車両用駆動装置10に対する最低地上高さの要求を満たせるようになっている。
【0035】
また、これらのエア混入防止リブ50a〜50dは、下面42及びオイル吸入口45と一体に射出成形されている。これにより、既存のオイルストレーナの型を変更するだけで、本実施形態に係るオイルストレーナ40を容易かつ安価に製造できるようになっている。
【0036】
次に、本実施形態に係るオイルストレーナ40の動作について、図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
オイルパン21内に自然落下して貯められたオイルOは、図2に示されるように、オイルポンプの作動によりオイルストレーナ40のオイル吸入口45からオイルストレーナ40内部へと吸引される。続いて、吸引されたオイルOは、図4に示されるように、内部のフィルタ44を通過してポンプ導入口43へと流れる。そして、ポンプ導入口43を通過したオイルOは、オイルポンプ内へと導入され、車両用駆動装置10の随所に形成された油路を介してクラッチや各種制御バルブなどに供給される。
【0037】
ここで、オイルパン21内に貯められたオイルOは、車両の走行状況に応じて流動する。そして、車両の加減速や旋回などによりオイルが大きく揺動した場合には、オイルOが、オイルパン21内で大きく偏ったり、オイルパン21から飛び出したりする。例えば、図1では、オイルOが前方向に偏った場合の油面S1やオイルOが後方向に偏った場合の油面S2が示されている。これにより、オイルストレーナ40のオイル吸入口45の一部が、オイルパン21内に貯められたオイルOから空気中へ出てしまうおそれがあった。このようにオイル吸入口45の一部が油中から出た場合には、オイルパン21からオイルストレーナ40内部に吸入されるオイルOにエアが混入してしまう。そして、エアが混入したオイルOを車両用駆動装置10の各部に供給すると、制御バルブの動作不良やクラッチの係合不良などが発生するおそれがある。このため、オイルが大きく揺動した場合にも、オイルストレーナ40のオイル吸入口45が油中から出ないようにする必要がある。
【0038】
そこで、本実施形態に係るオイルストレーナ40では、エア混入防止リブ50a〜50dが、(1)車両の加速時、(2)車両の減速時、(3)車両の右旋回時、(4)車両の左旋回時、のそれぞれにおいて以下のように機能する。
【0039】
(1)車両の加速時
車両が加速を開始すると、オイルOは、図3において太線矢印Sで示されるように、車両の後方向(R方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの後方向(R方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して前方向(F方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50a,50bにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50a,50bとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路51により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0040】
一方、車両が加速を終了すると、オイルOは、図3において太線矢印Tで示されるように、先程とは逆方向である車両の前方向(F方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの前方向(F方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して後方向(R方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50c,50dにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50c,50dとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路52により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0041】
こうして、車両の加速の開始及び終了のいずれにおいても、オイルOが前後に揺動するのを各リブ50a〜50dにより効果的に抑制することができる。そのうえ、車両の加速の際に、たとえオイルOが前後に大きく偏ったとしても、経路51,52によりオイル吸入口45の周辺にオイルOを優先的に集めることができる。これにより、車両の加速の際にオイル吸入口45が油中から出るのを防止することができる。
【0042】
(2)車両の減速時
車両が減速を開始すると、オイルOは、図3において太線矢印Tで示されるように、車両の前方向(F方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの前方向(F方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して後方向(R方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50c,50dにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50c,50dとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路52により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0043】
一方、車両が減速を終了すると、オイルOは、図3において太線矢印Sで示されるように、先程とは逆方向である車両の後方向(R方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの後方向(R方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して前方向(F方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50a,50bにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50a,50bとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路51により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0044】
こうして、車両の減速の開始及び終了のいずれにおいても、オイルOが前後に揺動するのを各リブ50a〜50dにより効果的に抑制することができる。そのうえ、車両の減速の際に、たとえオイルOが前後に大きく偏ったとしても、経路51,52によりオイル吸入口45の周辺にオイルOを優先的に集めることができる。これにより、車両の減速の際にオイル吸入口45が油中から出るのを防止することができる。
【0045】
(3)車両の右旋回時(図3はオイルストレーナ40を下方から見上げた下面図であるから、図3中左側が前方向F、右側が後方向R、上側が左方向Le、下側が右方向Riとなっている)
車両が右旋回を開始すると、オイルOは、図3において太線矢印Uで示されるように、車両の左方向(Le方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの左方向(Le方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して右方向(Ri方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50a,50cにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50a,50cとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路53により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0046】
一方、車両が右旋回を終了すると、オイルOは、図3において太線矢印Vで示されるように、先程とは逆方向である車両の右方向(Ri方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの右方向(Ri方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して左方向(Le方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50b,50dにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50b,50dとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路54により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0047】
こうして、車両の右旋回の開始及び終了のいずれにおいても、オイルOが左右に揺動するのを各リブ50a〜50dにより効果的に抑制することができる。そのうえ、車両の右旋回の際に、たとえオイルOが左右に大きく偏ったとしても、経路53,54によりオイル吸入口45の周辺にオイルOを優先的に集めることができる。これにより、車両の右旋回の際にオイル吸入口45が油中から出るのを防止することができる。
【0048】
(4)車両の左旋回時(図3はオイルストレーナ40を下方から見上げた下面図であるから、図3中左側が前方向F、右側が後方向R、上側が左方向Le、下側が右方向Riとなっている)
車両が左旋回を開始すると、オイルOは、図3において太線矢印Vで示されるように、車両の右方向(Ri方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの右方向(Ri方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して左方向(Le方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50b,50dにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50b,50dとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路51により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0049】
一方、車両が左旋回を終了すると、オイルOは、図3において太線矢印Uで示されるように、先程とは逆方向である車両の左方向(Le方向)側へと流動する。このとき、すべてのエア混入防止リブ50a〜50dは、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの左方向(Le方向)側への流動が抑制される。さらに、車両進行方向に対して右方向(Ri方向)側へ延びるように設けられた二つのリブ50a,50cにより堰き止められたオイルOは、エア混入防止リブ50a,50cとオイルストレーナ40の下面42とオイルパン21の内側底面21aとから形成される経路53により、オイル吸入口45へと導かれる。
【0050】
こうして、車両の左旋回の開始及び終了のいずれにおいても、オイルOが左右に揺動するのを各リブ50a〜50dにより効果的に抑制することができる。そのうえ、車両の左旋回の際に、たとえオイルOが左右に大きく偏ったとしても、経路53,54によりオイル吸入口45の周辺にオイルOを優先的に集めることができる。これにより、車両の左旋回の際にオイル吸入口45が油中から出るのを防止することができる。
【0051】
上記した(1)〜(4)によれば、四本のエア混入防止リブ50a〜50dは、走行の際に主としてオイルOが偏る状況のいずれにおいても、オイルOの前後左右のいずれの流動に対しても、確実に対応することができる。したがって、車両の走行状況にかかわらず、オイル吸入口45を油中から確実に出ないようにすることができる。その結果、オイルストレーナ40内に吸入されるオイルOにエアが混入するのを確実に防止することができる。
【0052】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る車両用駆動装置10によれば、リブ50a〜50dを追加した簡単な構造でオイルの急激な揺動を抑えるとともにオイル吸入口45付近へオイルOを導くことができる。したがって、容易かつ安価に製造でき、信頼性を向上させ、オイルOが偏った場合にもエアの混入を確実に防止することができる。
【0053】
[第二実施形態]
次に、車両用駆動装置10が備えるオイルストレーナの第二実施形態について、図5を参照しながら説明する。図5は、第二実施形態に係るオイルストレーナを下方から見上げた下面図である。なお、図5では、オイルOの流れが太線矢印s,t,u,v,w,xで示されている。第二実施形態に係るオイルストレーナ60では、図5に示されるように、ボディ41の下部41bの下面42に、六本のエア混入防止リブ50a,50b,60c〜60fが設けられている点で、上記実施形態と相違する。なお、このオイルストレーナ60において、上記実施形態のオイルストレーナ40と同一の構成品については、図面に同符号を付してその説明を適宜省略し、以下では相違点を中心に説明する。
【0054】
エア混入防止リブ50a,50b,60c〜60fは、オイルストレーナ60の下部41bの下面42に、第一実施形態と同様にオイル吸入口45を中心として放射状に設けられている。より詳細には、このオイルストレーナ60では、オイル吸入口45から車両進行方向に対して右後方へ延びるように二本のリブ(右後方第一リブ60c,右後方第二リブ60e)が設けられ、オイル吸入口45から車両進行方向に対して左後方へ延びるように二本のリブ(左後方第一リブ60d,左後方第二リブ60f)が設けられている。そして、各リブ50a,50b,60c〜60fが、オイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに、オイルパン21内のオイルOをオイル吸入口45に導くための経路51,62,63,64,65,66を形成するようになっている。なお、本実施形態でも、すべてのリブ50a,50b,60c〜60fが、オイル吸入口45と同じ高さHに形成されている。
【0055】
この第二実施形態に係るオイルストレーナ60によれば、オイルOの流動時に、六本のリブ50a,50b,60c〜60fが、オイルOを堰き止める抵抗として機能する。これにより、オイルOの各方向F,R,Le,Riへの流動をより効果的に抑制することができる。また、リブの追加により、オイルストレーナ60の強度をより高めることができる。
【0056】
また、このオイルストレーナ60によれば、例えばオイルOが前方向(F方向)側に流動する場合(図6の太線矢印t,w,x参照)に、右後方第二リブ60e及び左後方第二リブ60fがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路62からだけでなく、右後方第一リブ60c及び右後方第二リブ60eがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路65及び左後方第一リブ60d及び左後方第二リブ60fがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路66からも、オイル吸入口45にオイルOを導けるようになっている。これにより、より急激なオイルOの流動に対しても、確実にオイルOをオイル吸入口45の周辺に集めることができる。
【0057】
そして、例えばオイルOが左方向(Le方向)側に流動する場合(図6の太線矢印u,w参照)に、右前方リブ50a及び右後方第一リブ60cがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路63からだけでなく、右後方第一リブ60c及び右後方第二リブ60eがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路65からも、オイル吸入口45にオイルOを導けるようになっている。これにより、左方向(Le方向)側への急激なオイルOの流動に対しても、確実にオイルOをオイル吸入口45の周辺に集めることができる。
【0058】
さらに、例えばオイルOが右方向(Ri方向)側に流動する場合(図6の太線矢印v,x参照)に、左前方リブ50b及び左後方第一リブ60dがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路64からだけでなく、左後方第一リブ60d及び左後方第二リブ60fがオイルストレーナ40の下面42及びオイルパン21の内側底面21aとともに形成する経路66からも、オイル吸入口45にオイルOを導けるようになっている。これにより、右方向(Ri方向)側への急激なオイルOの流動に対しても、確実にオイルOをオイル吸入口45の周辺に集めることができる。
【0059】
また、このオイルストレーナ60によれば、第一実施形態に係るオイルストレーナ40に比べ、揺動時のオイルOをオイル吸入口45へ導くための経路51,62,63,64,65,66の面積を小さくすることができる。これにより、オイルOが大きく偏った場合であっても、少ないオイルをより効果的にオイル吸入口45に導くことができる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。以下(a)〜(c)にその例を示す。
【0061】
(a)上記した実施形態では、エア混入防止リブ50a〜50d,60c〜60fがオイル吸入口45と同じ高さHに形成されているが、エア混入防止リブ50a〜50dをオイル吸入口45の下面からの高さ位置を超えない限度で自由に変更することもできる。その一例として、エア混入防止リブ50を、オイル吸入口45付近では高くし、オイル吸入口45から離れるにつれて次第に低くなるように形成した態様、が挙げられる。この一例によれば、リブ自体の強度を高めたり、コストを低下させたりすることができる。
【0062】
(b)上記した実施形態では、エア混入防止リブ50a〜50d,60c〜60fがボディ41の下部41bの下面42に、下面42からはみ出ない範囲内に設けられているが、リブ50a〜50dの長さを適宜自由に延長したり短縮したりすることができる。これによれば、例えばリブ50a〜50dを延長してオイルOの揺動防止効果や集油効果を高めることができる。また、リブ50a〜50dを短縮して強度を高めたり、製造コストを低下させたりすることができる。
【0063】
(c)上記した第二実施形態では、エア混入防止リブ60c〜60fが、ボディ41の下部41bの下面42に、車両進行方向に対して右後方及び左後方へ延びるように各二本ずつ設けられているが、下面42の形状に合わせて適宜リブの位置や本数を変更することができる。これによれば、リブを設けることにより得られる上記作用効果を、適宜調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】同車両用駆動装置に備わるオイルストレーナを示す正面図である。
【図3】図2のオイルストレーナを下方から見上げた下面図である。
【図4】図3のオイルストレーナのIV−IV断面図である。
【図5】第二実施形態に係るオイルストレーナを下方から見上げた下面図である。
【符号の説明】
【0065】
10 車両用駆動装置
20 オイル循環機構
21 オイルパン
21a 内側底面
40 オイルストレーナ
42 下面
45 オイル吸入口
50a エア混入防止リブ(右前方リブ)
50b エア混入防止リブ(左前方リブ)
50c エア混入防止リブ(右後方リブ)
50d エア混入防止リブ(左後方リブ)
51,52,53,54 経路
60c エア混入防止リブ(右後方第一リブ)
60d エア混入防止リブ(左後方第一リブ)
60c エア混入防止リブ(右後方第二リブ)
60d エア混入防止リブ(左後方第二リブ)
62,63,64,65,66 経路
O オイル
F 前方向
R 後方向
Le 左方向
Ri 右方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用駆動装置に潤滑油及び作動油として用いられるオイルを貯留するオイルパン内に設置され、前記オイルパン内のオイルを吸入するオイル吸入口を前記オイルパンに対向する下面より下方へ突出させたオイルストレーナにおいて、
前記オイルパン内のオイルを前記オイル吸入口に導く経路が形成されるように、前記下面に前記オイル吸入口を中心として放射状に設けられたリブを備えている
ことを特徴とするオイルストレーナ。
【請求項2】
請求項1に記載するオイルストレーナにおいて、
前記リブは、少なくとも前記オイル吸入口から車両進行方向の右前方、左前方、右後方及び左後方に延びるように設けられている
ことを特徴とするオイルストレーナ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するオイルストレーナにおいて、
前記リブは、前記下面及び前記オイル吸入口と一体に成形されている
ことを特徴とするオイルストレーナ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載するオイルストレーナにおいて、
前記下面は、前記オイルパンの内側底面に対し略平行になるよう平らに形成されている
ことを特徴とするオイルストレーナ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4に記載するオイルストレーナにおいて、
前記リブは、前記オイル吸入口の前記下面からの高さ位置を超えないように設けられている
ことを特徴とするオイルストレーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180301(P2009−180301A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20199(P2008−20199)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】