説明

オイルポンプ装置

【課題】電動ポンプを容易に設置することができるオイルポンプ装置を提供する。
【解決手段】吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とを有するポンプハウジング10のポンプ組込空間13に対し、エンジンにより駆動されるインナギア21及びこのインナギア21に噛み合うアウタギア23を有するメカニカルポンプ20と、モータ部により駆動されるアウタギア37及びこのアウタギア37に噛み合うインナギア35を有する電動ポンプ30とが軸方向に隣接して組み込まれる。メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30との間には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽する遮蔽板40が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイルポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンの作動時において、各種機構の潤滑、作動、制御等を行うオイルを供給するために、自動変速機にメカニカルポンプが組み込まれることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
また、車両の一時停止の際、エンジンを一時停止させるアイドリングストップシステムが搭載された車両が知られている。
このようなアイドリングストップシステムが搭載された車両において、エンジンの一時停止(アイドルストップ)に伴ってメカニカルポンプが停止するため、自動変速機内のクラッチ機構等に油圧を供給することができなくなる。
このため、アイドリングストップシステムが搭載された車両において、自動変速機内のクラッチ機構等に油圧を供給する電動ポンプを自動変速機の外部に設置することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−73387号公報
【特許文献2】特開平9−25809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種形式が異なる車両において、電動ポンプを設置するスペースを確保することが困難となる場合があり、この場合には、アイドリングストップシステムを採用することができなくなる。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、電動ポンプを容易に設置することができるオイルポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るオイルポンプ装置は、吸入ポートと吐出ポートとを有するポンプハウジングのポンプ組込空間に対し、エンジンにより駆動されるインナギア及びこのインナギアに噛み合うアウタギアを有するメカニカルポンプと、モータ部により駆動されるアウタギア及びこのアウタギアに噛み合うインナギアを有する電動ポンプとが軸方向に隣接して組み込まれ、
前記メカニカルポンプと、前記電動ポンプとの間には、前記吸入ポートと前記吐出ポートとの連通を遮蔽する遮蔽板が配設されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、吸入ポートと吐出ポートとを有するポンプハウジングのポンプ組込空間に対し、メカニカルポンプと、電動ポンプとを軸方向に隣接させて容易に組み込むことができる。
このため、自動変速機の外部に電動ポンプを設置するスペースを確保することが困難な車両においてもアイドリングストップシステムを採用することが可能となる。
また、メカニカルポンプと、電動ポンプとの間に遮蔽板を配設して吸入ポートと吐出ポートとの連通を遮蔽することができる。
このため、電動ポンプの作動時に、吸入ポートと吐出ポートとの連通が原因となるオイルの供給不足を防止することができる。
【0008】
請求項2に係るオイルポンプ装置は、請求項1に記載のオイルポンプ装置であって、
メカニカルポンプと電動ポンプとの間には、前記メカニカルポンプ側から前記電動ポンプ側への動力は伝達し、前記電動ポンプ側から前記メカニカルポンプ側への動力の伝達は遮断する一方向連動機構が配設されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、エンジンの作動時に駆動されるメカニカルポンプの動力が一方向連動機構によって電動ポンプに伝達され、これによって非通電状態の電動ポンプが駆動される。
このため、エンジンの作動に伴うメカニカルポンプの駆動時に電動ポンプが停止する場合と比較して、電動ポンプによるオイルの供給量に相当する分だけメカニカルポンプを小型化することができる。ひいては、ポンプハウジングのポンプ組込空間を小さくすることができる。
また、エンジンの一時停止に伴うメカニカルポンプの停止時には電動ポンプが作動され、所要とする油圧が供給される。
この際、電動ポンプ側からメカニカルポンプ側への動力の伝達は一方向連動機構により遮断されるため、オイルを効率良く供給することができる。
【0010】
請求項3に係るオイルポンプ装置は、請求項2に記載のオイルポンプ装置であって、
一方向連動機構は、付勢手段により突出方向へ付勢された連動ピンと、この連動ピンに係脱可能に係合する連動溝によって構成されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、付勢手段で付勢された連動ピンと、連動溝による簡単な構造によって一方向連動機構を構成することができ、一方向連動機構の配置スペースの確保が容易となると共に、コスト低減に効果が大きい。
【0012】
請求項4に係るオイルポンプ装置は、請求項2に記載のオイルポンプ装置であって、
前記メカニカルポンプのインナギアと、前記電動ポンプのインナギアは、エンジンの出力軸に対して、軸方向に隣接するようにそれぞれが外嵌されており、前記メカニカルポンプのインナギアは前記出力軸と一体となって回転するように外嵌され、前記電動ポンプのインナギアは前記出力軸に対して空回りするように外嵌されており、前記電動ポンプは、周方向に複数の磁極が配置されたロータと複数のコイルとにて構成された前記モータ部と、当該モータ部を制御するモータ制御手段を有しており、前記出力軸には、回転数を検出可能な回転検出手段が設けられている。
前記モータ制御手段は、前記コイルに通電するための通電手段と、前記コイルに通電していないときに前記コイルに発生する誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出手段と、を各コイルに対応させて有している。
そして、前記モータ制御手段は、通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段にて前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号を検出した場合、当該検出信号に基づいて前記コイルの通電を制御する。
また、前記モータ制御手段は、前記電動ポンプを電気的に回転駆動する際、通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段から前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号が検出されない場合、且つ前記回転検出手段を用いて検出した前記出力軸の回転数が所定回転数より高い場合、前記誘起電圧検出手段からの検出信号が検出されることを待ち、前記誘起電圧検出手段からの検出信号が検出されると、当該検出信号に基づいて前記コイルの通電を制御し、通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段から前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号が検出されない場合、且つ前記回転検出手段を用いて検出した前記出力軸の回転数が所定回転数以下である場合、前記誘起電圧検出手段からの検出信号を待つことなく、強制的に前記コイルの通電を制御することを特徴とする。
【0013】
前記構成によると、モータ制御手段は、誘起電圧検出手段からの検出信号から検出したモータ部の回転子の回転角度に基づいてコイルの通電を制御する。なお電動ポンプは、一方向連動機構によってエンジンの出力軸から機械的に回転駆動されているが、出力軸の回転数が所定回転数より高い場合は、誘起電圧検出手段からの検出信号を精度よく検出できるので、検出信号から回転子の回転角度を検出して効率良くモータ部を回転駆動することができる。また、出力軸の回転数が所定回転数以下の場合は、誘起電圧検出手段からの検出信号を精度よく検出することが困難であるので、回転子の回転角度を検出することなく強制的にモータ部を回転駆動する。
これにより、アイドリングストップ状態から高回転まで、エンジンの各回転数に応じてモータ部を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例1に係るオイルポンプ装置を示す縦断面図である。
【図2】同じくポンプハウジングにメカニカルポンプと電動ポンプとが組み付けられた状態を拡大して示す縦断面図である。
【図3】同じく電動ポンプのモータ部の固定子を示す正面図である。
【図4】同じくメカニカルポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図5】同じく電動ポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図6】同じく遮蔽板を示す正面図である。
【図7】この発明の実施例2に係るオイルポンプ装置のポンプハウジングにメカニカルポンプと電動ポンプとが組み付けられた状態を拡大して示す縦断面図である。
【図8】同じくメカニカルポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図9】同じくメカニカルポンプのインナギアとアウタギアとの噛み合い状態を示す正面図である。
【図10】同じく遮蔽板を示す正面図である。
【図11】同じくメカニカルポンプの駆動力が一方向連動機構の連動ピンと連動溝によって電動ポンプに伝達される状態を示す図8のXI−XI線に沿う断面図である。
【図12】同じくメカニカルポンプの停止時に電動ポンプの駆動力が一方向連動機構によって遮断される状態を示す図9のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】電動ポンプ30を構成する回転子33、固定子31、モータ制御手段60の構成及び接続等を説明する図である。
【図14】モータ制御手段60の処理手順の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0016】
この発明の実施例1に係るオイルポンプ装置を図1〜図6にしたがって説明する。
図1に示すように、自動変速機のトルクコンバータ1に組み付けられるオイルポンプ装置において、自動変速機のケーシング(図示しない)にボルトによって固定されるポンプハウジング10は、図1において左右に分割された第1、第2の両ハウジング体11、12がボルト9によって結合されることで構成される。そして、第1、第2の両ハウジング体11、12の間には、ポンプ組込空間13が形成される。より具体的には、ポンプ組込空間13は、第1ハウジング体11の第2ハウジング体12に対向する内壁面の中心部に軸方向へ凹んで形成された組込凹部と、第2ハウジング体12の第1ハウジング体11に対向する内壁面とにより形成される。
また、第1、第2の両ハウジング体11、12の対向内壁面には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とがそれぞれ形成されている。
また、第2ハウジング体12の中心部には、トルクコンバータ1のスリーブ2内に向けてステータシャフト5が形成されている。
【0017】
図2と図4に示すように、ポンプハウジング10のポンプ組込空間13には、エンジンの作動時に駆動されるメカニカルポンプ20と、エンジンの一時停止時に駆動される電動ポンプ30とが軸方向に隣接して組み込まれている。
メカニカルポンプ20は、インナギア21と、アウタギア23とを備え、ポンプ組込空間13の第1ハウジング体11側に組み込まれている。
メカニカルポンプ20のインナギア21は、トルクコンバータ1のスリーブ2に動力伝達可能に結合される中心孔を有し、外周面の周方向には複数の外歯が形成されている。
また、アウタギア23は、インナギア21の中心と偏心(図4中、偏心量Aだけ偏心)し、かつ内周面の周方向には、インナギア21の複数の外歯と噛み合う複数の内歯が形成されている。
そして、インナギア21の外歯と、アウタギア23の内歯との間にはオイル閉込め部25が形成されており、トルクコンバータ1のスリーブ2からの動力伝達を受けてインナギア21が回転し、これに伴ってアウタギア23が追従回転することでポンプ作用をなすようになっている。
また、この実施例1において、図2に示すように、メカニカルポンプ20のアウタギア23の一側面(第1ハウジング体11の組込凹部の底面に対向する面)には、凸部23aが形成され、この凸部23aが嵌込まれて係合する凹部11aが第1ハウジング体11の組込凹部の底面に形成されている。そして、メカニカルポンプ20がポンプ組込空間13内に組み込まれ、凸部23aと凹部11aとが嵌込まれて係合することによって第1ハウジング体11にメカニカルポンプ20が安定よく支持されるようになっている。
【0018】
図2と図5に示すように、電動ポンプ30は、ポンプ組込空間13の第2ハウジング体12側に組み込まれ、固定子31と回転子33とを有するモータ部と、インナギア35と、アウタギア37とを備える。
図2と図3に示すように、電動ポンプ30の固定子31は、鉄心部32aと、その鉄心部32aの内周面の周方向に形成された複数のコイル装着部に装着された複数のコイル32bとを備える。さらに、固定子31は、第1、第2の両ハウジング体11、12を締結するボルト9による締め代をもって第1、第2の両ハウジング体11、12の間に固定される。
また、固定子31の鉄心部32aの外周面の複数箇所(複数のコイル32bの対応する箇所)には、円弧状の切り欠き凹部31aが形成されている。そして、第1、第2の両ハウジング体11、12を複数のボルト9によって締結する際、これら複数のボルト9のねじ部が切り欠き凹部31aを貫通して複数のボルト9のねじ部と、複数の切り欠き凹部31aとが係合する。そして、複数のボルト9のねじ部と、複数の切り欠き凹部31aとの係合力によって固定子31を強固に回り止めしている。
すなわち、第1、第2の両ハウジング体11、12を複数のボルト9によって締結すると同時に、固定子31の固定を行うことができる。また、複数のボルト9のねじ部が切り欠き凹部31aを貫通することで、第1、第2の両ハウジング体11、12を含む全体の直径寸法が過大となることを抑制することができ、電動ポンプ30の配置スペースの確保が容易となる。
また、回転子33の外周面には、複数のコイル32bに対応するS極と、N極の磁石(図示しない)が周方向に交互に配列される。
【0019】
電動ポンプ30のインナギア35は、ステータシャフト5の外周面に回転可能に嵌挿される中心孔を有し、外周面の周方向には複数の外歯が形成されている。
また、アウタギア37は、その外周部がモータ部の回転子33の内周部に動力伝達可能に設けられ、インナギア35の中心と偏心(図5中、偏心量Bだけ偏心)し、かつ内周面の周方向には、インナギア35の複数の外歯と噛み合う複数の内歯が形成されている。
そして、インナギア35の外歯と、アウタギア37の内歯との間にはオイル閉込め部39が形成される。
そして、モータ部からの動力伝達を受けてアウタギア37が回転し、これに伴ってインナギア35が追従回転することでポンプ作用をなすようになっている。
また、この実施例1において、図2に示すように、電動ポンプ30のアウタギア37の一側面(第2ハウジング体12の内壁面に対向する面)には、凸部37aが形成され、この凸部37aが回転可能に嵌込まれて係合する凹部12aが第2ハウジング体12の内壁面に形成されている。そして、電動ポンプ30がポンプ組込空間13内に組み込まれ、凸部37aと凹部12aとが回転可能に嵌込まれて係合することによって、第2ハウジング体12に電動ポンプ30のアウタギア37が安定よく支持されるようになっている。
【0020】
また、電動ポンプ30のインナギア35及びアウタギア37は、メカニカルポンプ20のインナギア21及びアウタギア23と同径に形成されると共に、偏心量A、Bにおいても同じに設定される。
さらに、エンジンの作動時は、各種機構の潤滑、作動、制御等を行うオイルを供給するために必要なオイル量よりも、エンジンの一時停止時に自動変速機内のクラッチ機構等にオイルを供給するために必要なオイル量が数分の一程度少なくて済むため、電動ポンプ30のインナギア35及びアウタギア37は、メカニカルポンプ20のインナギア21及びアウタギア23よりも数分の一程度薄形に形成されている。
なお、電動ポンプ30は、図13に示すようにモータ制御手段60に接続され、設定されたプログラムに基づいて電気的に回転駆動される。
【0021】
図2と図6に示すように、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30との間には、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽する円板状の遮蔽板40が配設されている。
この実施例1において、遮蔽板40の中心孔の内周面には、ステータシャフト5の外周面に形成されたキー溝に係合して回り止めをなすキー40aが形成されている。
また、遮蔽板40の一側面には、第1ハウジング体11の吸入ポート15及び吐出ポート16とオイル圧を均等に保つために、吸入ポート15及び吐出ポート16と同じ大きさ形状のポート溝44、45が必要に応じて形成される。さらに、遮蔽板40の他側面には、第2ハウジング体12の吸入ポート17及び吐出ポート18とオイル圧を均等に保つために、吸入ポート17及び吐出ポート18と同じ大きさ形状のポート溝46、47が必要に応じて形成される。
【0022】
この実施例1に係るオイルポンプ装置は上述したように構成される。
したがって、エンジンの作動時には、トルクコンバータ1のスリーブ2からの動力伝達を受けてメカニカルポンプ20のインナギア21が回転し、これに伴ってアウタギア23が追従回転することで、第1ハウジング体11の吸入ポート15から吸入されたオイルがインナギア21と、アウタギア23との間のオイル閉込め部25を経て吐出ポート16から吐出され、各種機構に供給される。これによって各種機構の潤滑、作動、制御等がなされる。
【0023】
エンジンの一時停止(アイドルストップ)時には、電動ポンプ30のモータ部が作動し、その回転子33の動力伝達を受けてアウタギア37が回転する。アウタギア37の回転に伴ってインナギア35が追従回転することで、第2ハウジング体12の吸入ポート17から吸入されたオイルがインナギア35とアウタギア37との間のオイル閉込め部39を経て吐出ポート18から吐出され、自動変速機内のクラッチ機構等に供給される。
【0024】
また、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18とを有するポンプハウジング10のポンプ組込空間13に対し、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30とを軸方向に隣接させて容易に組み込むことができる。
このため、ポンプハウジング10の外部に電動ポンプ30を設置するスペースを確保する必要性を解消することができ、アイドリングストップシステムを容易に採用することができる。
【0025】
また、メカニカルポンプ20と、電動ポンプ30との間に遮蔽板40を配設してポンプハウジング10の吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽することができる。このため、電動ポンプ30の作動時に、吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通が原因となるオイルの供給不足を防止することができる。
【0026】
また、前記実施例1においては、エンジンの作動時には、電動ポンプ30が停止するように回転制御される場合を例示したが、エンジンの作動時にも、電動ポンプ30のモータ部に電流を供給して電動ポンプ30を駆動制御するように構成にすることも可能である。
この場合、エンジンの作動時に電動ポンプ30が停止している場合と比較して、電動ポンプ30によるオイルの供給量に相当する分だけメカニカルポンプ20を小型化することができる。
また、エンジンの作動時のメカニカルポンプ20の回転速度よりも電動ポンプ30の回転速度を、高速(例えば、1.5〜2倍程度高速)に回転制御することも可能である。
この場合、電動ポンプ30を高速回転する分だけ、電動ポンプ30やメカニカルポンプ20の小型化を図ることが可能となる。
【実施例2】
【0027】
次に、この発明の実施例2に係るオイルポンプ装置を図7〜図12にしたがって説明する。
この実施例2においては、エンジンの作動時に駆動されるメカニカルポンプ20に連動して電動ポンプ30を駆動するように構成したものである。
すなわち、図7に示すように、メカニカルポンプ20と電動ポンプ30との間には、メカニカルポンプ20側から電動ポンプ30側への動力は伝達し、電動ポンプ30側からメカニカルポンプ20側への動力の伝達は遮断する一方向連動機構(ワンウエークラッチ)50が配設されている。
【0028】
また、この実施例2において、一方向連動機構50は、図11と図12に示すように、メカニカルポンプ20のアウタギア23と、電動ポンプ30のアウタギア37とのうち、一方の部材の対向面の周縁部の複数箇所に配設され、付勢手段としてのばね53により突出方向へ付勢された連動ピン52と、他方の部材の対向面の周縁部の複数箇所に配設され、連動ピン52に係脱可能に係合する連動溝51とにより構成されている。
【0029】
図7と図10に示すように、ステータシャフト5の外周面に回り止めされてメカニカルポンプ20と電動ポンプ30との間に配設された遮蔽板140には、ポンプハウジング10の吸入ポート15、17と吐出ポート16、18との連通を遮蔽する遮蔽部141が形成されている。
さらに、遮蔽板140には、第1ハウジング体11の吸入ポート15及び吐出ポート16と第2ハウジング体12の吸入ポート17及び吐出ポート18のオイル圧を均等に保つために、各吸入ポート15、17及び吐出ポート16、18と同じ大きさ形状の切り欠き部又は貫通孔よりなる吸入ポート連通部144と吐出ポート連通部145とがそれぞれ形成される。
また、遮蔽板140の中心孔の内周面には、実施例1と同様にしてステータシャフト5の外周面に形成されたキー溝に係合して回り止めをなすキー140aが形成されている(図10参照)。
この実施例2のその他の構成は、実施例1と同様に構成されるため、同一構成部分に対し同一符号を付記してその説明は省略する。
【0030】
この実施例2に係るオイルポンプ装置は上述したように構成される。
したがって、エンジンの作動時に駆動されるメカニカルポンプ20の動力、すなわち、メカニカルポンプ20のアウタギア23の回転力が、図11に示すように、一方向連動機構50の連動溝51と連動ピン52との係合力によって電動ポンプ30のアウタギア37に伝達され、これによってメカニカルポンプ20と共に非通電状態の電動ポンプ30が駆動される。
そして、メカニカルポンプ20の駆動時に電動ポンプ30が停止される実施例1の場合と比較して、電動ポンプ30によるオイルの供給量に相当する分だけメカニカルポンプ20を小型化することができる。ひいては、ポンプハウジング10のポンプ組込空間13を小さくすることができる。
【0031】
また、エンジンの一時停止に伴うメカニカルポンプ20の停止時には、電動ポンプ30が作動され、所要とする油圧が供給される。
この際、図12に示すように、一方向連動機構50の連動溝51と連動ピン52とは、その係合が外れる方向となる。これによって、電動ポンプ30からメカニカルポンプ20側への動力の伝達は一方向連動機構50により遮断されるため、オイルを効率良く供給することができる。
また、この実施例2においては、付勢手段としてのばね53で付勢された連動ピン52と、連動溝51による簡単な構造によって一方向連動機構50を構成することができ、一方向連動機構50の配置スペースの確保が容易となると共に、コスト低減に効果が大きい。
【実施例3】
【0032】
次に、図13及び図14を用いて、複数の磁極が配置された回転子33、複数のコイルが配置された固定子31、各コイルの通電を制御するモータ制御手段60を有する電動ポンプ30、の概略構成と接続、及びモータ制御手段60の処理手順について説明する。
なお、図13及び図14を用いて説明する電動ポンプ30は、図7に記載されている一方向連動機構(ワンウエークラッチ)50が設けられている電動ポンプである。
図13に示すように、回転子33は、複数の磁極(N極、S極)が交互に配置されて構成され、電動ポンプ30のアウタギア37の外周面に固定され、アウタギア37と一体となって回転可能である。
固定子31は、鉄心部32aと複数のコイル32bA〜32bLにて構成されてハウジング体11、12に固定されている。
モータ制御手段60は、コイル32bA〜32bLのそれぞれに通電する通電手段64A、64B等と、コイル32bA〜32bLのそれぞれに発生した誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出手段65A、65B等と、出力軸(この場合、ステータシャフト5)の回転を検出する回転検出手段70からの検出信号が入力される検出回路62と、CPU61等を有している。CPU61は、各コイルに対応して設けられた通電手段を介して各コイルに通電することが可能であり、各コイルに対応して設けられた誘起電圧検出手段から各コイルの非通電時に発生している誘起電圧を検出することが可能である。なお、通電手段と誘起電圧検出手段は、各コイルに対応させて設けられている。
また、回転検出手段70は、エンジンの出力軸に近接して設けられており、出力軸の回転に応じた検出信号を出力し、CPU61は検出回路62を介して回転検出手段70の検出信号を取り込み、出力軸の回転数を検出することが可能である。
【0033】
次に図14に示すフローチャートを用いて、モータ制御手段60のCPU61の処理手順について説明する。
電動ポンプ30は、エンジンの出力軸の機械的な回転動力が、メカニカルポンプから一方向連動機構50を介して機械的に伝達されて回転するが、メカニカルポンプの回転速度よりも高い回転速度にて電気的に回転駆動することが可能である。電動ポンプ30を電気的に回転駆動する条件が満足されると、図14に示す処理が実行される。
【0034】
ステップS10にて、CPU61は、回転検出手段70からの検出信号を取り込み、出力軸の回転数を算出し、ステップS20に進む。
ステップS20にて、CPU61は、通電していないコイルに対応する誘起電圧検出手段からの検出信号に基づいて、ゼロクロス点を検出したか否かを判定する。なお、誘起電圧は正弦波状の信号であり、本実施の形態の説明では、正弦波の上下のピーク電圧の中間に相当する電圧を、正弦波が横切る位置をゼロクロス点と呼ぶ。ゼロクロス点を検出した場合(Yes)はステップS30に進み、ゼロクロス点を検出しない場合(No)はステップS40に進む。
ステップS30に進んだ場合、CPU61は、検出したゼロクロス点から検出した回転子33の回転角度(磁極位置)に基づいて各コイルへの通電タイミングと通電時間等を制御し、効率良く電動ポンプ30を電気的に回転駆動し、ステップS10に戻る。
なお、効率良く回転子33を電気的に回転駆動するには、電動ポンプ30の負荷等による回転子33の回転の遅れ(あるいは回転の進み)を適切に検出し、回転子33の現在の回転角度(磁極の位置)に応じて各コイルの通電タイミング及び通電時間を制御する必要がある。
【0035】
ステップS40に進んだ場合、CPU61は、ステップS10にて検出した出力軸の回転数が所定回転数より高いか否かを判定する。誘起電圧は正弦波状であるが、その振幅は回転子33の回転数(回転速度)に応じて変化する。回転子33の回転速度が低くなると誘起電圧の振幅が小さくなり、モータのトルク定数や逆起電圧定数によって異なるが、例えば300rpm以下になると正しいゼロクロス点の検出が困難となるくらいまで振幅が小さくなる。例えば回転子33が300rpmより高い回転数であれば正しいゼロクロス点を検出できるのであれば、所定回転数を回転子33の300rpmに相当する出力軸の回転数に設定する。出力軸の回転数が所定回転数より高い場合(Yes)はゼロクロス点の検出を待てば良いのでステップS10に戻り、所定回転数以下の場合(No)はゼロクロス点を検出できない可能性があるのでステップS50に進む。
【0036】
ステップS50に進んだ場合、CPU61は、ゼロクロス点の検出をあきらめ、予め設定された回転数で回転子33が回転するように(回転子33の回転角度にかかわらず)各コイルの通電タイミングと通電時間を順番に制御し、電動ポンプ30を電気的に回転駆動し、ステップS10に戻る。なお、ステップS50による回転駆動は、回転子33の実際の回転角度を検出せずに見込みで制御しているので、ステップS30による回転駆動(回転子33の実際の回転角度に基づいて制御)に対して効率が良くない。しかし、ステップS50にて強制的に回転駆動を開始し、回転子33の回転数が正しいゼロクロス点を検出できる程度まで上昇すれば、ステップS20及びステップS30にて、回転子33の回転角度に基づいて効率良く電動ポンプ30を電気的に回転駆動できるようになる。
【0037】
上記の実施例3では、エンジンの出力軸が回転時はメカニカルポンプ20が出力軸から機械的に回転駆動され、一方向連動機構50を用いることで、電動ポンプ30がメカニカルポンプ20から機械的に回転駆動される。
これにより、メカニカルポンプ20内の油の圧力と電動ポンプ30内の油の圧力が同等となり、遮蔽板140の厚さを1[mm]程度まで薄くすることができる。
一方向連動機構50が無い状態では、メカニカルポンプ20が機械的に回転駆動されているが電動ポンプ30は回転していない場合が発生し、メカニカルポンプ20内の油の圧力>>電動ポンプ30内の油の圧力、という状態になり、メカニカルポンプ20内の油が電動ポンプ30内に流入する可能性がある。この現象が発生すると、油の吐出量が減少するので好ましくない、この流入を防止するには、遮蔽板140の厚さを5〜7[mm]程度にして、遮蔽板140におけるメカニカルポンプ20の側と電動ポンプ30の側のそれぞれに2〜3[mm]程度の窪みを形成する必要がある。すなわち、遮蔽板140の厚さが厚くなり、自動変速機内等の所望する位置への搭載が困難となる可能性や、メカニカルポンプ20及び電動ポンプ30の厚さが薄くなり、所望するポンプ能力(オイル吐出量)を確保できなくなる可能性がある。
実施例3では、一方向連動機構50を用いて遮蔽板140を1[mm]程度まで薄くすることができるので、搭載性もポンプ能力も問題無い。
しかも上記のとおり、電気的に回転駆動していないときであっても機械的に回転駆動しているので、電気的な回転駆動の開始時(モータ起動時)からゼロクロス点を検出可能であり、効率良く電動ポンプを電気的に回転駆動することができる。
【0038】
なお、この発明は前記実施例1〜3に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、実施例2及び3においては、一方向連動機構50を付勢手段としてのばね53で付勢された連動ピン52と、連動溝51によって構成される場合を例示したが、一方向の回転力の伝達は可能で、反対方向への回転力は伝達しない構造であればどのように構成してもよい。
また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
10 ポンプハウジング
11 第1ハウジング体
12 第2ハウジング体
13 ポンプ組込空間
15、17 吸入ポート
16、18 吐出ポート
20 メカニカルポンプ
21 インナギア
23 アウタギア
30 電動ポンプ
31 固定子
32bA〜32bL コイル
33 回転子
35 インナギア
37 アウタギア
40、140 遮蔽板
50 一方向連動機構
51 連動溝
52 連動ピン
53 ばね(付勢手段)
60 モータ制御手段
61 CPU
64A、64B 通電手段
65A、65B 誘起電圧検出手段
70 回転検出手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入ポートと吐出ポートとを有するポンプハウジングのポンプ組込空間に対し、エンジンにより駆動されるインナギア及びこのインナギアに噛み合うアウタギアを有するメカニカルポンプと、モータ部により駆動されるアウタギア及びこのアウタギアに噛み合うインナギアを有する電動ポンプとが軸方向に隣接して組み込まれ、
前記メカニカルポンプと、前記電動ポンプとの間には、前記吸入ポートと前記吐出ポートとの連通を遮蔽する遮蔽板が配設されていることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルポンプ装置であって、
メカニカルポンプと電動ポンプとの間には、前記メカニカルポンプ側から前記電動ポンプ側への動力は伝達し、前記電動ポンプ側から前記メカニカルポンプ側への動力の伝達は遮断する一方向連動機構が配設されていることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のオイルポンプ装置であって、
一方向連動機構は、付勢手段により突出方向へ付勢された連動ピンと、この連動ピンに係脱可能に係合する連動溝によって構成されていることを特徴とするオイルポンプ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のオイルポンプ装置であって、
前記メカニカルポンプのインナギアと、前記電動ポンプのインナギアは、エンジンの出力軸に対して、軸方向に隣接するようにそれぞれが外嵌されており、
前記メカニカルポンプのインナギアは前記出力軸と一体となって回転するように外嵌され、前記電動ポンプのインナギアは前記出力軸に対して空回りするように外嵌されており、
前記電動ポンプは、周方向に複数の磁極が配置されたロータと複数のコイルとにて構成された前記モータ部と、当該モータ部を制御するモータ制御手段を有しており、
前記出力軸には、回転数を検出可能な回転検出手段が設けられており、
前記モータ制御手段は、
前記コイルに通電するための通電手段と、前記コイルに通電していないときに前記コイルに発生する誘起電圧を検出可能な誘起電圧検出手段と、を各コイルに対応させて有しており、
前記電動ポンプを電気的に回転駆動する際、
通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段にて前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号を検出した場合、当該検出信号に基づいて前記コイルの通電を制御し、
通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段から前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号が検出されない場合、且つ前記回転検出手段を用いて検出した前記出力軸の回転数が所定回転数より高い場合、前記誘起電圧検出手段からの検出信号が検出されることを待ち、前記誘起電圧検出手段からの検出信号が検出されると、当該検出信号に基づいて前記コイルの通電を制御し、
通電していないコイルに対応する前記誘起電圧検出手段から前記ロータの回転角度が所定回転角度であることを示す検出信号が検出されない場合、且つ前記回転検出手段を用いて検出した前記出力軸の回転数が所定回転数以下である場合、前記誘起電圧検出手段からの検出信号を待つことなく、強制的に前記コイルの通電を制御することを特徴とするオイルポンプ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−122473(P2012−122473A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212246(P2011−212246)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】