説明

オゾン水の保管方法および使用方法

【課題】高濃度のオゾン水を常温常圧下においてもその濃度をほとんど低下させることなく保管することのできるオゾン水の保管方法を提供する。
【解決手段】貯留容器10内に所定濃度のオゾン水1を収容し、該オゾン水1の液面に有機膜2を形成することを特徴とするオゾン水の保管方法である。この有機膜2は、n−ドデカンをはじめとする脂肪族炭化水素等から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン水の保管方法および使用方法に係り、特に、高濃度のオゾン水を常温常圧条件下においてもその濃度を殆ど低下させることなく保管することのできるオゾン水の保管方法と該保管方法で保管されたオゾン水を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造や液晶の製造分野では、オゾンの強い酸化力の特長を活かして、CVD法などの酸化膜形成プロセスや洗浄プロセスにおけるオゾンの適用が活発である。また、自動車産業においては、車室内の閉空間の殺菌・消臭や燃料電池の電解質膜の形成過程における酸素活性を促進するためにオゾンが適用されている。さらには、自動車部品等の樹脂めっき処理にもその前処理工程としてオゾン(溶液)が適用されている。オゾンはその強い酸化力によって酸素に比べて低温にて反応が促進されるため、省エネルギー効果が大きいという特徴もある。さらには、分解後に酸素に戻ることから環境影響にも優しい物質である。
【0003】
かかるオゾンの製造方法は多岐に亘っており、例えば、炭酸ガスを溶解した超純水を電気分解してオゾンを生成し、電気分解によって生成したオゾンと炭酸ガスを含む超純水からオゾンと炭酸ガスを分離し、超純水から分離されたオゾンと炭酸ガスを実質的に炭酸ガスを含まない超純水中に溶解させることでオゾン水を製造する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、製造方法と同様にオゾン水の製造装置に関しても様々な技術が開示されており、これは一般にオゾナイザと称されているが、その基本原理は、水(原水)を電気分解することによってオゾン水を生成するというものである(特許文献2,3参照)。また、高濃度のオゾン水を生成する場合には、このオゾナイザを使用してオゾンガスを生成し、オゾンガスを加圧下で水と接触させることで高濃度のオゾン水が生成可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−117570号公報
【特許文献2】特開2001−198574号公報
【特許文献3】特開2002−69679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1におけるオゾン水の製造方法や、特許文献2,3におけるオゾン水の製造装置等、オゾン水を製造する方法や装置に関する開示技術は多様に存在するものの、製造されたオゾン水を保管する方法に関してはその開示が見られない。オゾン水を保管する方法で特に重要な要素は、オゾン水の初期のオゾン濃度を維持することにあり、例えば、従来のオゾン水の保管方法としては、適宜の方法にて生成されたオゾン水に炭酸ガス等のオゾン分解抑制剤を添加することによってオゾン濃度の維持管理がなされていた。しかし、かかるオゾン分解抑制剤ではその分解抑制効果を十分に得ることはできず、オゾン濃度の経時変化を抑制できないことが分かっている。さらに、オゾンの溶解度が低いことから、例えば20ppm程度以上のオゾン水では、常温常圧下で不溶なオゾンがガスとなって大気中に放出されてしまい、オゾン濃度の著しい低下が招来される。そのため、高濃度のオゾン水を常温常圧下にて濃度低下させることなく保管することは極めて困難な状況であった。
【0007】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、例えば高濃度のオゾン水を常温常圧条件においてもその濃度をほとんど低下させることなく保管することのできるオゾン水の保管方法と、該保管方法で保管されたオゾン水を使用するオゾン水の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明によるオゾン水の保管方法は、貯留容器内に所定濃度のオゾン水を収容し、該オゾン水の液面に有機膜を形成することを特徴とするものである。
【0009】
オゾン水が収容された貯留容器内に有機膜形成物質を投入することにより、オゾン水の液面に有機膜が形成され、オゾンの分解やオゾンガスの発生および放散を抑制することができる。例えば、オゾン水が高濃度の場合には、この高濃度のオゾン水と大気の接触を有機膜によって防止することで、気液界面でのオゾン分解が効果的に抑制される。また、溶解度の影響から発生したオゾンガスの一部が高濃度のオゾン水と有機膜の間に蓄積されるため、オゾンガスの発生とオゾンの再溶解が循環的に励起され、その結果としてオゾンガスの発生および放散が効果的に抑制される。かかるオゾンガスの発生等の抑制効果は、常温常圧下にて得られるものであり、オゾン水の保管に際して外的環境を調整する必要は一切ない。
【0010】
保管対象のオゾン水は、例えば、樹脂素材表面にめっき処理を施す前工程としてオゾン処理を実施する場合等、既述するオゾン水を利用した各種処理作業に提供されるためにその初期の濃度を維持しながら保管されるものである。
【0011】
ここで、上記するオゾン水 、特に高濃度のオゾン水の製造方法は、公知の方法を適用できる。例えば、オゾナイザにて得られたオゾンガスを加圧下にて水と接触させる製造方法のほか、ガス吸収部の上部に水の導入口と排ガスの出口、該ガス吸収部の下部にオゾン含有ガスの導入口とオゾン水の取出し口を備え、ガス相を連続相としたガス吸収部のガス流れをガス流路の分割あるいは屈曲によってガス流路の集合体を形成し、水とオゾン含有ガスとを向流接触させる吸収塔方式の製造方法などが挙げられる。
【0012】
本発明のオゾン水の保管方法で使用される有機膜は、上記するように気液界面でのオゾン分解やオゾンガスの発生および放散を抑制できれば、特にその材料は限定されるものではない。しかし、その一例を挙げれば、n‐ヘキサン、n‐ノナン、n‐デカン、n‐ウンデカン、n‐ドデカン、n‐トリデカン、n‐テトラデカン、n‐ペンタデカン、n‐ヘキサデカン、2,4‐ジメチルペンタンをはじめとする脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、m‐エチルトルエン、エチルベンゼン、mp‐キシレン、1,3,5‐トリメチルベンゼン、oキシレン、スチレンをはじめとする芳香族炭化水素を挙げることができる。また、そのほかにも、テルペン類など、任意の材料から有機膜を生成できる。
【0013】
上記する有機化合物の中でも大気への自己拡散性の低さやオゾンとの反応性の低さなどの理由から脂肪族炭化水素が好ましい。さらに、該脂肪族炭化水素の中でも、自己拡散性およびオゾンとの反応性の低さが顕著であるn‐ドデカンが有機膜としてはより望ましい。
【0014】
本発明のオゾン水の保管方法によれば、貯留容器内に収容されたオゾン水の液面を適宜の有機膜にて被覆することにより、例えば高濃度のオゾン水を濃度変化させることなく保管しておくことが可能となり、高濃度のオゾン水を用いた各種処理作業への適用に好適である。
【0015】
また、オゾンガスは有害物質であるため、高濃度のオゾン水からオゾンが発生/放散する場合にはオゾンガスの排気設備が必要不可欠であった。すなわち、高濃度のオゾン水を保管するためには、オゾンが発生/放散することで濃度低下したオゾン水の濃度を所定濃度に調整する手段を要することに加えて、オゾンガスの排気設備をも必要としていた。しかし、本発明のオゾン水の保管方法によれば、オゾン水の濃度が変動することが殆どないためにその濃度調整をおこなう必要もなく、オゾンガスの発生が大幅に抑制されることによって特殊な排気設備を具備する必要もないため、設備コストの大幅な削減を図ることができる。
【0016】
また、本発明によるオゾン水の保管方法の他の実施の形態において、前記貯留容器には、オゾン水を該貯留容器に導入する流入部とオゾン水を該貯留容器から排出する排出部が設けられており、所定量のオゾン水が貯留容器内に収容され、その液面に有機膜が形成された姿勢でオゾン水が保管され、かつ、該オゾン水と同濃度または略同濃度の別途のオゾン水が前記流入部を介して貯留容器内に供給されるようになっており、オゾン水を用いた各種処理作業に使用される所定量のオゾン水が排出部を介して排出されると同時に、前記別途のオゾン水が流入部を介して貯留容器内に供給されることを特徴とするものである。
【0017】
オゾン水が貯留容器内に収容され、その液面に適宜材料からなる有機膜が形成された姿勢でオゾン水が保管される。この保管状態のオゾン水を取り出してオゾン水を用いた各種処理作業に適用するに際し、例えば貯蔵容器の側面の底部近傍にオゾン水の流入部および排出部を設けておいて排出したオゾン水と同程度の量のオゾン水を随時補給しておくことにより、貯留容器内のオゾン水の保管姿勢、すなわち、その液面に有機膜が形成された姿勢とオゾン水の保管量を常に維持しながら、必要に応じて所望量のオゾン水を取り出すことができる。
【0018】
さらに、本発明によるオゾン水の使用方法は、前記するオゾン水の保管方法によって保管されたオゾン水を、ワークを樹脂めっき処理する前のオゾン処理工程にて使用することを特徴とするものである。
【0019】
例えば自動車部品等をはじめとする適宜のワークを樹脂めっき処理する前処理工程として本発明の保管方法にて保管されたオゾン水を使用する。例えば、不飽和結合を有する樹脂をめっき素材とし、めっき素材をオゾン水に接触させた後、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤やアルカリ成分を含む溶液をめっき素材と接触させる処理方法などによってオゾン処理をおこなう。
【0020】
本発明の保管方法によって保管されたオゾン水は、その初期の濃度またはそれに近い濃度を長期に亘って備えており、したがって、上記する前処理工程においても、処理用オゾン水の濃度の変動を危惧することなく、作業員は初期濃度のオゾン水をいつでも取り出して使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明のオゾン水の保管方法によれば、貯留容器内に収容されたオゾン水の液面を適宜の有機膜にて被覆することにより、例えば高濃度のオゾン水を常温常圧下にて濃度変化させることなく保管することが可能となり、排気設備等の附帯設備を不要として設備コストの大幅な削減を図ることができる。また、本発明のオゾン水の使用方法によれば、上記する保管方法にて保管されたオゾン水を使用することにより、オゾン水の濃度測定をおこなうことなく、初期濃度またはそれに近い濃度のオゾン水をワークを樹脂めっき処理する前のオゾン処理工程に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1,2は、本発明のオゾン水の保管方法を説明した模式図である。
【0023】
まず、不図示のオゾナイザにてオゾンガスを生成し、生成されたオゾンガスを加圧雰囲気にて水と接触させることにより、所望濃度のオゾン水1が生成される。
【0024】
まず、貯蔵容器10の容器本体11内に、図1に示すように、有機膜2形成用の有機膜物質を所定量投入する。ここで、有機膜2は、n‐ヘキサン、n‐ノナン、n‐デカン、n‐ウンデカン、n‐ドデカン、n‐トリデカン、n‐テトラデカン、n‐ペンタデカン、n‐ヘキサデカン、2,4‐ジメチルペンタンをはじめとする脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、m‐エチルトルエン、エチルベンゼン、mp‐キシレン、1,3,5‐トリメチルベンゼン、oキシレン、スチレンをはじめとする芳香族炭化水素などから生成することができる。中でも、大気への自己拡散性の低さやオゾンとの反応性の低さなどの理由から脂肪族炭化水素が好ましく、該脂肪族炭化水素の中でも、自己拡散性およびオゾンとの反応性の低さが顕著であるn‐ドデカンが有機膜としてはより望ましい。
【0025】
有機膜物質が投入された容器本体11内に、生成されたオゾン水1を図2に示すように流入部12を介して供給し、所定量のオゾン水1を容器本体11内に貯留する。なお、この容器本体11には流入部12とは別途の排出部13が設けられており、オゾン水1の貯留段階では排出部13を閉塞しておき、オゾン水1を使用するために排出する際には排出部13を開放できるようになっている。
【0026】
容器本体11内にオゾン水1が貯留されると、オゾン水1の液面上に有機膜2が形成され、最終的には、図2に示すように所定量のオゾン水1とその液面上の有機膜2が貯留容器10内に貯留される。図2に示すように任意の厚みの有機膜2がオゾン水1の液面全面に形成されることで、オゾン水の保管状態が出来上がる。オゾン水1の液面が有機膜2にて被覆されることにより、収容されたオゾン水1は有害なオゾンガスを外部に放散させることなくその初期の濃度を維持することができる。
【0027】
保管状態から貯留容器10内のオゾン水1を使用する場合には、一定量のオゾン水1を排出部13から排出すると同時に、同量で同濃度のオゾン水1を流入部12を介して貯留容器10内に流入させることにより、所定濃度のオゾン水1をいつでも使用可能な状態に保管しながら、必要に応じてオゾン水1を使用することが可能となる。
【0028】
[オゾン濃度の変動の有無に関する実験とその結果]
発明者等は、図1に示す貯留容器の実施例として平面視矩形(縦100cm、横100cm)で高さが100(cm)のテフロンタンクを用意し、その内部に10L(厚みが1cmとなる)のn‐ドデカンを加え、その後に80ppmで800L(容器内80cmの高さ)のオゾン水を供給した。この状態で、同様に80ppmの濃度のオゾン水を5L/minで流入部より提供するとともに、5L/minで排出部より排出することで、オゾン水の一部を循環させた。かかる条件のもとで、貯留容器内のオゾン水の濃度の変動の有無を検証した。
【0029】
実験の結果、オゾンと水の反応によって発生した酸素とオゾンガスの混合気体が有機膜内に溜まり、その一部が有機膜から外部へ放出されたが、オゾン水のオゾン濃度は75ppmに保たれ、濃度低下は殆ど起きないことが実証された。
【0030】
本発明のオゾン水の保管方法によれば、貯留容器内に収容されたオゾン水の液面がn‐ドデカンをはじめとする適宜の有機膜によって被覆されることで、高濃度のオゾン水であってもその濃度変化を殆ど生じさせることなく保管することが可能となる。また、有害なオゾンガスが殆ど発生しないことから排ガス設備を設ける必要もなく、設備コストの大幅な低減を図ることができる。
【0031】
上記するオゾン水の保管方法によって保管されたオゾン水は、例えば自動車部品を樹脂めっき処理する前処理工程として使用することができる。具体的には、不飽和結合を有する樹脂をめっき素材とし、めっき素材をオゾン水に接触させた後、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤やアルカリ成分を含む溶液をめっき素材と接触させる処理方法である。本発明の保管方法によれば、オゾン水の濃度変動が殆どなくなることで作業員によるオゾン水の濃度測定(濃度の確認)が省略でき、想定される濃度(初期濃度)のオゾン水を必要に応じて臨機に使用することが可能となる。したがって、樹脂めっき処理する前処理工程にオゾン水を使用する場合には、そのトータルの工程時間を大幅に短縮することに繋がる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のオゾン水の保管方法を説明する模式図である。
【図2】図1に続いて、本発明のオゾン水の保管方法を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1…オゾン水、2…有機膜、10…貯留容器、11…容器本体、12…流入部、13…排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留容器内に所定濃度のオゾン水を収容し、該オゾン水の液面に有機膜を形成することを特徴とするオゾン水の保管方法。
【請求項2】
前記貯留容器には、オゾン水を該貯留容器に導入する流入部とオゾン水を該貯留容器から排出する排出部が設けられており、所定量のオゾン水が貯留容器内に収容され、その液面に有機膜が形成された姿勢でオゾン水が保管され、かつ、該オゾン水と同濃度または略同濃度の別途のオゾン水が前記流入部を介して貯留容器内に供給されるようになっており、オゾン水を用いた各種処理作業に使用される所定量のオゾン水が排出部を介して排出されると同時に、前記別途のオゾン水が流入部を介して貯留容器内に供給されることを特徴とする請求項1に記載のオゾン水の保管方法。
【請求項3】
前記有機膜が脂肪族炭化水素からなることを特徴とする請求項1または2に記載のオゾン水の保管方法。
【請求項4】
前記脂肪族炭化水素がn−ドデカンであることを特徴とする請求項3に記載のオゾン水の保管方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン水の保管方法によって保管されたオゾン水を、ワークを樹脂めっき処理する前のオゾン処理工程にて使用することを特徴とするオゾン水の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−56341(P2008−56341A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239039(P2006−239039)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】