オルニチンアミノトランスフェラーゼ酵素活性阻害剤の使用
【課題】糖尿病など代謝性疾患における、OATの新たな生理的役割を明らかにすることによって、OATの機能を調節することによる疾病の治療剤および/または治療方法を提供することである。また、OATの発現量および/または酵素活性を指標とした疾病の検出(診断)方法を提供することにある。
【解決手段】
OAT酵素活性阻害剤を有効成分とする薬剤は、単回投与・連続投与により血糖を低下させる効果を示すことで、単独で、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防、改善、治療用薬剤として、また、インスリン治療を補完する治療剤としても有効である。
【解決手段】
OAT酵素活性阻害剤を有効成分とする薬剤は、単回投与・連続投与により血糖を低下させる効果を示すことで、単独で、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防、改善、治療用薬剤として、また、インスリン治療を補完する治療剤としても有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣病の治療に有用な医薬と当該医薬の候補となる物質のスクリーニング方法、さらには、被験者が生活習慣病に罹患しているか否かを検出(診断)する方法に関する。より詳しくは、OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする生活習慣病治療薬、当該物質のスクリーニング方法、さらには、OATの発現量等を指標として、被験者が生活習慣病に罹患しているか否かを検出する方法(診断方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」、すなわち、不適切な食生活、運動不足、喫煙などが原因となって起こる疾患(メタボリックシンドローム)であり、例えば、糖尿病、脳卒中、心臓病、高脂血症、高血圧などが挙げられる。
近年患者数が増加している生活習慣病の治療はあくまでも対症療法であり、現在使用されている薬剤では、未だ充分な治療効果が得られておらず、原因療法に有効な治療薬の開発が医療現場において渇望されている。
また、最近の医療現場では、生活習慣病に限らず、個々の患者の症状に合わせて治療法を的確に選択することが望まれるようになってきている。QOL(Quality of life)向上の必要性が認識されてきた近年では、特に、万人に共通した治療ではなく、個々の患者の症状に合わせて適切な治療が施されることが強く求められている。このような所謂テイラーメイド治療を行うためには、個々の疾患について患者の症状やその原因(遺伝的背景)を的確に診断する疾患マーカーや、原因となる遺伝子をターゲットとした治療薬の開発を目指した研究が精力的に行われている段階にある。
【0003】
一方、オルニチンアミノトランスフェラーゼOrnithine amino transferase(ornithine ketoacid aminotransferase; EC 2.6.1.13 以後OATと表す)は以下反応式に示すように、L-グルタミン酸-5-セミアルデヒド(L-glutamate 5-semialdehyde)とオルニチン(Ornithine)との間の可逆的反応を触媒する酵素である。OATは真核生物全般に保存されており、その存在はヒトからショウジョウバエ、酵母、植物にいたるまで知られている。
【0004】
OAT遺伝子は、ヒトでは染色体上10q26に存在し、例えばヒト遺伝子の塩基配列はGenBank Accession No.NM_000274、マウス遺伝子の塩基配列はGenBank Accession No.NM_016978に記載の配列として公知である。OATの生体内の分布については肝臓、小腸、尿細管、脳など生体内に広く発現するが、特に網膜上皮に多く発現していることが知られており、網膜色素上皮での発現量は肝臓における活性の数倍と報告されている。
OATの発現制御についてはグルカゴンや高蛋白食で発現上昇することや、グルコースにより発現が阻害されることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。また、インスリンシグナルで発現制御されている遺伝子のひとつとしても報告されている(特許文献1)
【0005】
OATタンパク質についての研究は古くからなされており、例えばラット肝臓、ヒト肝臓から抽出した報告がある。また、ヒトOATタンパク質は大腸菌の組換え体を用いてOATタンパク質を取得する報告もある。OATタンパク質の精製についても数多くの報告があり、精製取得したタンパク質のX線結晶構造解析も行なわれている。OATタンパク質のX線結晶構造解析については、酵素活性阻害剤である5‐フルオロメチル‐L‐オルニチン(5-Fluoromethylornithine :5FMOrn)とヒトOATタンパク質との結合様式解析などが報告されている。OATタンパク質の抗体の取得も例えばラット肝臓由来精製タンパク質に対する抗体の例などがある(非特許文献3)。このようにOATタンパク質は生化学的にも構造科学的にも当業者に周知のタンパク質である。
【0006】
酵素としてのOATはKOマウスの知見から新生児においてはP-5-Cからオルニチンが産生される方向の反応を触媒するが、成体においては逆にオルニチンからP-5-Cが産生される方向の反応を触媒することが示唆されている(非特許文献4)。また、ヒトにおいてもOAT遺伝子の変異患者で血清中のオルニチンレベルが高くなっていることからマウスと同様に成人においては主にオルニチンからP-5-Cが産生される方向に反応しているものと考えられている(非特許文献5)また新生児期には変異患者ではオルニチンではなくアンモニア値が高くなることから、新生児マウスと同様の反応によりオルニチン産生が低下し、尿素回路の機能が低下することが示唆されている(非特許文献6)。
OATと病態についての関係については、ヒトにおけるgyrate atrophy(脳回転状網膜脈絡膜萎縮)(以後GAと表示)の原因遺伝子であることが明らかとなっている(「ヒトメンデル遺伝」オンライン、OMIM 258870)。OATの欠損マウスもGAのモデルマウスとしてヒトの病態と同様の表現型を示すことが知られている(非特許文献7)。OATの欠損がGAとなる原因については、in vitroでの検討の結果から、プロリン供給の低下が主たる原因と考えられている。すなわち、オルニチンからOATを介したP-5-Cを経たプロリン合成の低下と、P-5-C合成に関与するOATの欠損に伴う、グルタミン酸からのプロリン供給の低下がメカニズムとして考えられている。
その他、OAT遺伝子が病態と関係する遺伝子としての報告は例えば2型糖尿病との関連の可能性のある9つの遺伝子の一つとしての報告(非特許文献8)や、狭心症、不整脈などの心血管系疾患に関係する15個のモジュレーターの一つとしての報告(特許文献2)などがある。詳しくは、非特許文献8には、Methods GeneSeeker、eVOC system、DGP、PROSPECTR、SUSPECTS、G2D、POCUSの7種の遺伝子解析データベースやデータソフトの中から5種類もしくは6種類を組み合わせたコンピューター解析にて、2型糖尿病で有意に発現する遺伝子としてOATを含む9つの遺伝子が同定されている。しかしながら、具体的に、健常者と比較して、糖尿病患者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液等)におけるOAT遺伝子やOATタンパク質の発現上昇、OAT酵素活性の上昇が報告されている訳ではなく、ましてや、OATの発現阻害や酵素活性阻害が病態の改善につながることなど一切記載されていない。また、特許文献2には、Gene ID:10183としてオルニチンアミノトランスフェラーゼが記載されているが、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、脂質異常等の患者でOAT遺伝子の発現が亢進していることを基に、OATが心血管系疾患に関係する遺伝子であるとの報告が記載されているに留まっている。
【0007】
OATの酵素活性に対する特異的な阻害剤としては既に代表的なものとして5-Fluoromethylornithine(5FMOrn)が知られている。5FMOrnを使用した実験報告も既に多数あり、例えばマウス、あるいはニワトリに投与して組織中のオルニチン含量が上昇するが、目や他の組織に特に毒性による異常は見出せないことが報告されている。この時、高濃度の5FMOrnの投与でもOATの活性が10〜20%程度残存することも報告されている。
また、その他にもOAT酵素活性阻害剤として報告されているものとして5位置換オルニチン誘導体が既に技術的に公開されている。
【0008】
その他にも特異的ではないがピリドキサールリン酸要求性酵素阻害剤としてのgabaculineもOATの酵素活性を阻害することが知られている。あるいは4-aminohex-5-ynoic acidや5-amino-1,3-cyclohexadienyl-carboxylic acid(gabaculine)や(S)-2-amino-4-amino-oxybutyric acid(L-Canaline)といった4-aminobutyrateのアナログがOAT活性を阻害することも報告されている。
これらの化合物の用途については酵素活性阻害剤周辺化合物のアルツハイマー型認知症に対する利用について(アルツハイマー病型痴呆症の処置におけるオルニチンアミノトランスフェラーゼの酵素活性阻害剤の用途:(特許文献3))が知られており、その作用機作はOATの酵素活性阻害によるオルニチン濃度の上昇による肝臓の尿素サイクル機能の強化に基づくものでオルニチンの一時的不足の処置に有用であると考えられている。
【0009】
以上のように、OATの酵素活性阻害が糖代謝の改善やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の治療に有効であることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許公開公報第2005085436号
【特許文献2】国際公開第WO2003/039341号
【特許文献3】国際公開第WO94/17795号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.259 p250-261(1987)
【非特許文献2】Archives of Biochemistry & Biophysics. Vol.237:373-85(1985)
【非特許文献3】Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.174 p262-272(1976)
【非特許文献4】Nature Genetics Vol.11 P185(1995)
【非特許文献5】Tohoku J. Exp. Med Vol.205 P335-342(2005)
【非特許文献6】J.Inherit.Metab.Dis. Vol.28 p673-679(2005)
【非特許文献7】Nature Genetics Vol.11 P185 (1995)
【非特許文献8】Nucleic Acids Research (2006), Vol.34 p3067-3081
【非特許文献9】Biochemical Frontiers of Fluorine Chemistry, ACS Stnoisuyn Series 639, American Chemical Society, Washington DC.(1996) p196-212
【非特許文献10】Current Drug Targets Vol.1 p119-153(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、糖尿病など代謝性疾患における、新たな原因遺伝子を同定することによって、当該遺伝子による疾病の治療剤や、遺伝子・タンパク質の発現量および/またはタンパク質の酵素活性を指標とした疾病の検出(診断)方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究し、糖尿病患者と健常人の肝臓組織におけるOAT遺伝子発現解析の結果から、糖尿病患者の病態悪化に伴い、肝組織及びその周辺組織組織におけるOAT遺伝子の発現が正常組織に比べ顕著に高度に発現していることを見出した。また、OAT酵素活性を阻害することで糖代謝が改善されることを見出し、OAT酵素活性阻害剤が糖尿病等の生活習慣病の治療に有効であることを解明した。
具体的にはOAT酵素活性の阻害剤を糖尿病モデルマウスに投与することで血糖が低下することを明らかにした。このことはOATが糖尿病状態における血糖上昇の抑制に有効であることを示している。
また、OAT酵素活性阻害剤を投与することで糖尿病に伴う飲水量が減少し、尿量を反映する床敷き重量も顕著に減少した。このことはOAT酵素活性阻害剤が血糖を低下させるだけでなく、腎臓の尿濾過量を低下させていることを示している。
本発明は、かかる知見に基づき完成に至ったものである。
【0014】
すなわち本発明は、下記の[1]から[13]に関するものである:
[1]OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする、生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[2]OATの酵素活性を阻害する物質がオルニチン誘導体である、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[3]オルニチン誘導体が5‐フルオロメチル‐L‐オルニチンである[2]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[4]OATの酵素活性を阻害する物質がOAT遺伝子の発現を阻害するアンチセンスヌクレオチド、またはsiRNAである、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[5]OATの酵素活性を阻害する物質がOATに対する抗体である、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[6]生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[1]から[5]記載の生活習慣病の予防、改善、または、治療剤。
[7]下記工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の予防、改善または治療剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質をOATタンパク質および基質に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定し、被検物質を接触させない場合のOATの酵素活性と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
[8]OATタンパク質がヒトOAT、マウスOATまたはラットOATである[7]のスクリーニング方法。
[9]生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[7]または[8]記載のスクリーニング方法。
[10]下記の工程(a)、(b)、(c)および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料からmRNAを採取する工程、
(b)上記(a)で得られたmRNAからcDNAを合成する工程、
(c)OAT遺伝子をコードするプライマーを用いてOAT遺伝子の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
[11]下記の工程(a)、(b)、(c)および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と抗OAT 1次抗体を接触させる工程、
(b)標識-抗OAT 2次抗体を(a)で抗体に認識された試料に添加する工程、
(c)発色標識試薬を(b)で抗体に認識された試料に添加し、OATタンパク質の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATのタンパク質発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程、
[12]下記の工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と基質とを接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定する工程、および
(c)上記(b)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATの酵素活性が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
[13]前記、生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[10]、[11]、または[12]の検出方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、OAT活性阻害剤が糖尿病状態における血糖上昇を抑制することで糖代謝を改善し、生活習慣病を予防、改善、治療できることが明らかになったことから、OAT酵素活性阻害剤を有効成分とする生活習慣病の予防、改善、改善と提供することが可能となった。
また、本発明により、OAT遺伝子及びその発現産物(タンパク質、(ポリ)(オ
リゴ)ペプチド)の発現量やOATの酵素活性が、生活習慣病の病態と関連することが明らかになったことから、OATの発現量および/または酵素活性を指標とすることで、糖尿病をふくむ生活習慣病の検出(診断)マーカー、検出(診断)方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の一実施形態を示す。
【図1】図1は実施例4の薬理試験において、ラット初代肝細胞における糖産生を測定した結果を示すグラフである。Scramble RNA導入細胞(Control)とOATに対する2種類のsiRNA(siRNA1, siRNA4)導入細胞での糖産生の比較結果を示す。ScrambleはScramble RNA導入細胞(Control)を、OAT(1)はsiRNA1導入細胞を、OAT(4)はsiRNA4導入細胞を表す。FBP(5)は、糖新生酵素フルクトースビスフォスファターゼ遺伝子に対するsiRNA導入細胞を表す。
【図2】図2は実施例5の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるKKAyマウス由来の肝臓でのOAT遺伝子の発現(a)とOATの酵素活性(b)を測定した結果を示すグラフである。OAT遺伝子の発現(a)において、KK(10w)は正常マウス(KK/Ta Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を、KKAy(10w)は糖尿病モデルマウス(KKAy/Ta Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を表す。OAT活性(b)はOATの酵素活性を意味し、KK/Taは正常マウス(KK/Ta Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を、KKAy/Taは糖尿病モデルマウス(KKAy/Ta Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を表す。
【図3】図3は実施例6の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス由来の肝臓でのOAT遺伝子の発現(a)とOATの酵素活性(b)を測定した結果を示すグラフである。OAT遺伝子の発現(a)において、db/mは正常マウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を、db/dbは糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を表す。OAT活性(b)はOATの酵素活性を意味し、db/mは正常マウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を、db / dbは糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を表す。
【図4】図4は実施例7の疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)により、単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したグラフである。(a)は、糖尿病に罹患していない患者と糖尿病の患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。Liver, Normal; Non-diabetesは糖尿病に罹患していない患者の結果を、Liver, Normal; Diabetesは糖尿病患者の結果を示している。(b)は肥満非糖尿病患者と糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。Liver, Normal;Obesity;は肥満非糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルを、Liver, Normal; Diabetesは糖尿病患者の結果を示している。
【図5】図5(a)実施例8の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)に5-FM-orunitineを腹腔内投与し、24時間後に肝臓を採取し、OAT酵素活性を測定した結果を示すグラフである。図5(b)は実施例8の薬理試験において糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)に5-FM-orunitineを経口投与し、24時間後に肝臓を採取し、OAT酵素活性を測定した結果を示すグラフである。Controlは生理食塩水、MetforminはMetformin 300 mg/kg、は5-FM-orunitine は5 mg/kg(ラセミ体20 mg/kg)を投与したものである。
【図6】図6は実施例9の薬理試験において、(a)糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を単回、腹腔内投与した際の血糖(グルコース量)を測定した結果を示すグラフである。Control(生理食塩水)、Metformin(300mg/kg)、5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))を単回、腹腔内投与した際の経時的な血糖量(グルコース量)を示し、◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものの結果である。
【図7】図7は実施例9の薬理試験において、被験物質を単回、腹腔内投与した際の投与開始6時間のタイミングでの血糖量(グルコース量)を示す。◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものを意味する。
【図8】図8は実施例9の薬理試験において、被験物質を単回、腹腔内投与した際の経時的な乳酸値(ラクトース量)を示す。◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものの結果である。
【図9】図9は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際の血糖(グルコース量)を測定した結果を示すグラフである。生食は生理食塩水、MetはMetformin(300mg/kg)、FM-ornは5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、Met + FMはMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものを意味する。
【図10】図10は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際の体重(a)と体重増加量(b)を測定した結果を示す。◆は生食(生理食塩水)、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-orn(5-FM-ornithine 5 mg(20 mg/kg(ラセミ体)))、×はMet + Fmor(Metforminと5-FM-ornithineの混合)を投与したものを意味する。
【図11】図11は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際のケージ7匹当たりの摂食量、飲水量、床敷き重さ増加量を測定し、一日当たりに補正した値を示す。◆は生食(生理食塩水)、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-orn(5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMet + Fmor(Metforminと5-FM-ornithineの混合)を投与したものを意味する。
【図12】図12は実施例11の疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)により、単位RNA量当たりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものである。心血管疾患に罹患していない患者と心血管疾患患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの心臓での比較結果を示している。各棒グラフの右の黒バーは心血管疾患に罹患していない患者の結果を、左の白バーは心血管疾患患者の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の本発明を詳細に説明する。
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0018】
本明細書において「OAT遺伝子」または「OATのDNA」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトOAT遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_000274)や配列番号:3に記載のマウスOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_016978)および、配列番号:5に記載のラットOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_022521)などが挙げられる。
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(オルソログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(3-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5の特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。
【0019】
本明細書において「OATタンパク質」または単に「OAT」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトOATだけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(オルソログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。ここでオルソログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列(配列番号1)から同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、アミノ酸のリン酸化体等が挙げられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NP_000265)に記載のアミノ酸配列を有するヒトOATや、配列番号:4(GenBank Accession No.NP_058674)に記載のアミノ酸配列を有するマウスOATおよび、配列番号:6(GenBank Accession No.NP_071966)に記載のアミノ酸配列を有するラットOATなどが挙げられる。
【0020】
本明細書において、OAT酵素活性阻害剤は、天然に存在する化合物、合成された化合物、RNAi 効果を示す核酸等、低分子化合物、低分子ペプチド、低分子ポリヌクレオチドを含む。これらは適当な塩や溶媒和物の形態を有していてもよい。また、OATをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸を遺伝子治療に用いることができ、そのような態様も本発明に含まれる。本発明におけるOATの酵素活性阻害剤にはオルニチン誘導体、OATアンチセンスオリゴヌクレオチド、OATのsiRNA、抗OAT抗体などが挙げられる。
本発明に用いるオルニチン誘導体には、オルニチンから誘導される化合物や製薬学的に許容される塩、これらのDもしくはL配座の光学異性体、及びこれらの混合物も含む。5FMOrnが特に好ましいオルニチン誘導体として挙げられる。
【0021】
本発明に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、D N Aのコーディング配列又は5’ノンコーディング配列の中の断片D N Aと相補的な配列をもつD N A若しくはそのD N Aに対応するR N Aを言い、D N AもしくはR N Aに結合し、OATの発現を調節するものを意味する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えばOATタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を基にしてDNAとして製造するか、又はこのDNAをアンチセンスの向きに発現プラスミドに組み込むことでRNAとして製造することができる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、塩基配列からなるDNAのコーディング配列、5’ ノンコーディング配列のいずれの部分のDNA断片と相補的な配列であってもよいが、好ましくは転写開始部位、翻訳開始部位、5’ 非翻訳領域、エクソンとイントロンとの境界領域もしくは 5’ C A P領域に相補的配列であることが望ましい。このアンチセンスオリゴヌクレオチドの好ましい長さとしては、例えば5〜200 塩基のものが挙げられ、さらに好ましくは10〜50塩基のものが挙げられ、特に好ましくは15〜50塩基のものが挙げられる。 アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現プラスミドに組み込む場合は、このアンチセンスオリゴヌクレオチドの好ましい長さとしては、1000塩基以下、好ましくは500塩基以下、より好ましくは150塩基以下である。アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現プラスミドに組み込んだ後、目的の細胞に常法に従って導入する。導入はリポソームや組換えウイルスなどを利用する方法で行うことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの発現プラスミドは通常の発現ベクターを用いてプロモーターの下流、逆向きに、すなわちOAT遺伝子が3’ から5’ の向きに転写されるように、連結することにより作製できる。
【0022】
発明に用いるsiRNA(short-interferingRNA)」は、mRNAに相同的な15〜40塩基程度で両方の3’末端が突き出た短い二本鎖R N Aである。siRNAは、OATのcDNAを鋳型として合成することができる。本発明に用いられるs i R N Aは、OATの塩基配列に対して、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様の関係を有するものであってよい。 siRNAは、細胞内に導入されると、標的m R N Aを配列特異的に認識して切断することにより標的遺伝子の発現を阻害する。
本発明に用いる「抗OAT抗体」は、OATを特異的に認識することの出来る抗体、もしくは、OATに対する抗体・基質に対する抗体、いずれに対する抗体であってもOAT酵素活性阻害能を示す限り有用である。「特異的に認識する」とは、OATに結合することを意味する。抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部のいずれでもよい。また、抗原となるOATタンパク質、又はそれらのエピトープを含むペプチド断片等を用い、当業者に公知の常法により抗体を得ることができる。抗体が市販されている場合は、それらを用いてもよい。抗OAT抗体は、生活習慣病の治療薬、糖尿病の症状である糖産生を抑制する薬剤を検出するためのスクリーニング方法、免疫学的診断として有用である。
【0023】
OAT酵素活性阻害剤を有効成分として含有する薬剤の剤形は、水などに溶解した形態、粉末化した形態、あるいは、そのまま利用することが可能であり、製剤としてもよく、また飲食品、医薬などに適宜配合することができる。一般的には適当な液体担体に溶解するかもしくは分散させ、または、適当な粉末担体と混合するか、もしくはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤などを添加し、乳剤、油剤、水和剤、散剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、液剤などの製剤として使用する。製剤として使用する場合における、化合物の使用量は製剤の形態によっても異なるが、0.01重量%以上50重量%以下が好ましい。本発明における有効成分を糖尿病の予防ないし治療剤として用いる場合には、前記のように、製剤学的に許容することのできる担体を含有することができる。siRNAは、直接細胞内に導入するか、siRNA発現ベクターに組み込んで導入することができる(「RNAi実験プロトコール」羊土社)。投与に際して、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドの化学的修飾体又はsiRNAをそのまま投与する場合、安定化剤、緩衝液、溶媒などと混合して製剤した後、抗生物質、抗炎症剤、麻酔薬などと同時に投与してもよい。
投与形態としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤などの経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。これらのうち経口剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤などを用いて、常法に従って製造することができる。非経口剤も同様に常法で製造することができ、その投与方法としては、筋肉注射、静脈注射、経皮投与、直腸投与などが挙げられる。
【0024】
本発明におけるOAT酵素活性阻害剤を生活習慣病の治療に用いる時の投与量は、症状、年令、体重、性別等において異なるが、成人一人一日当り、1μg/kg〜100mg/kgを、好ましくは10μg/kg〜20mg/kgを、さらに好ましくは50μg/kg〜5mg/kgを、経口あるいは非経口で、連日又は数日から数週間おきに投与投与するとよい。また、この様な頻回の投与を避けるために徐放性のミニペレット製剤を作成し患部近くに埋め込むことも可能である。あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。このようにして投与すると、OAT酵素活性阻害作用を示し、糖尿病はじめ、生活習慣病の症状を低減することができる。
【0025】
OAT酵素活性阻害剤のスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、OAT遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。OAT遺伝子の発現は、公知のノーザンブロット法やRT-PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。また、OATの酵素活性についても、o-AminobenzaldehydeがOAT酵素反応の産生物である1-Pyrroline-5-carboxylate(P-5-C)と反応して発色する、当業者に公知の測定方法(Journal of Biological Chemistry Vol.225 p825-834(1957))で容易に確認することが出来、他にもより高感度に放射性基質を用いて検出する方法 (Journal of Neurochemistry Vol.36 p501-505(1981))で確認することも出来る。この方法を用いた測定報告は、例えばラットでの組織ごとの活性の違いの検討(Biochimica et Biophysica Acta Vol.73 p222-231(1963)、Journal of Biological Chemistry Vol.243 p3327-3332(1968))や、ラット腎臓と肝臓での活性の検討(Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.180 p472-479(1977))、ラット初代幹細胞を用いて活性制御について検討した報告(Annals of the New York Academy of Sciences Vol.349 p99-110(1980)、Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.237 p373-385(1985))など多数存在するが、例えば、下記工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、OAT酵素活性阻害剤候補物質のスクリーニング方法が挙げられる。
(a)被検物質を、生体試料および基質オルニチンと反応液(例えば、100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)に接触させる工程、
(b)37℃に保温した条件下、吸光光度計にて440nmの吸収を測定することで、上記(a)の工程で起因して生じるOATの酵素活性を検出、定量する工程、
(c)被検物質を生体試料に接触させない場合のOATの酵素活性と上記(b)の活性を比較する工程、および
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
【0026】
当該スクリーニングに用いられる細胞としては、具体的には、例えば、(A)糖尿病の動物モデルより単離、調製した肝臓組織や肝臓由来の細胞、(B)本発明遺伝子を導入した細胞を挙げることができる。ここで前者(A)糖尿病の動物モデルとしては、糖尿病の動物モデルとして周知であれば如何なる動物モデルでもよく、具体的には、KKAy/TaJcl、BKS Cg-+Lepradb/+Leprdb/Jcr等を挙げることができる。後者(B)の本発明遺伝子導入細胞としては、前者(A)の細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちL-929(結合組織由来、ATCC株番号CCL-1)、C127I(乳癌組織由来、ATCC株番号CRL-1616)、Sp2/0-Ag14(骨髄腫由来、ATCC株番号CRL-1581)、NIH3T3(胎児組織由来、ATCC株番号CRL-1658)等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK-21(シリアンハムスター仔腎組織由来、ATCC株番号CCL-10)、CHO-K1(チャイニーズハムスター卵巣由来、ATCC株番号CCL-61)等のハムスター由来細胞、COS1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CRL-1650)、CV1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CCL-70)、Vero(アフリカミドリザル腎組織由来、大日本住友製薬株式会社)等のサル由来細胞、HeLa(子宮けい部癌由来、大日本住友製薬株式会社)、293(胎児腎由来、ATCC株番号CRL-1573)等のヒト由来細胞、およびSf9(Invitrogen Corporation)、Sf21(Invitrogen Corporation)等の昆虫由来細胞などを挙げることができる。さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
【0027】
本発明スクリーニング法には細胞のみならずOAT活性を含む酵素溶液、あるいは精製タンパク質を用いることもできる。
【0028】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(OAT遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物、それらの適切な塩や溶媒和物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織あるいは酵素溶液、精製タンパク質と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞あるいは酵素タンパク質とを接触させる条件は、特に制限されないが、細胞と接触させる場合は、該細胞が死滅せず且つOAT遺伝子を発現できる培養条件(温度:30℃〜40℃、pH:6.5〜8.5、培地:William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulinなど(ラット初代培養肝細胞の場合))を選択するのが好ましく、酵素タンパク質と接触させる場合は酵素活性を失活しない条件、例えば100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehydeといった条件が好ましい。
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、OAT酵素活性阻害剤として位置づけることができる。これらの物質は、OATの酵素活性を阻害することによって、糖尿病の発症、進行を抑制し、よって、糖尿病を予防、改善または治療する薬物の有力な候補物質となる。
【0029】
本明細書において「疾患マーカー」とは、生活習慣病の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を検出・診断するために直接または間接的に利用されるものをいう。例えばi)OAT遺伝子を特異的に認識し、また結合することのできるポリ・オリゴヌクレオチド、ii) OATタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる抗体、また、iii)OAT酵素活性が挙げられる。以下にi)、ii)、iii)の診断方法を示す。
【0030】
i)OAT遺伝子発現による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。(a)RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて、該生体試料からtotal RNAを抽出、調製する工程、(b)得られたtotal RNAを鋳型に、TaqMan Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems 社製)を用いてrandom primerでcDNAを調整する工程、(c)当業者に周知のRT-PCR法により、cDNAを鋳型に、OATをコードする一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を用いて、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いてプロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出、定量する工程、(d)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOAT遺伝子の発現量と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(e)上記(d)に記載の相関値を指標に、上記被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法。
【0031】
ii) OATタンパク質発現による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。OAT抗体、あるいはあるいは二次抗体に、酵素標識、発色標識、放射標識又は発光標識などの標識を結合し、この標識を検出又は測定することにより行うことができる。本発明で行うことができるイムノアッセイとしては、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ、アビジン−ビオチン又はストレプトアビジン−ビオチン系を用いるイムノアッセイなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例として、ELISAによる診断方法としては、ELISA定量キット(Quantikine:R&Dシステムズ社製)に添付されたマニュアルに従って測定するが、(a)ELISA用96穴プレートに抗OAT 1次抗体をコーティングする工程、(b)調製した生体試料を(a)のプレートに添加する工程、(c)アビジン-抗OAT 2次抗体を(c)のプレートに添加する工程、(d)ビオチンを(c)の中プレートに添加し、OATタンパク質の産生量を検出、定量する工程、する工程、(e)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOATタンパク質の産生量と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(f)上記(e)に記載の相関値を指標に、上記被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATタンパク質の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法が挙げられる。
【0032】
iii) OAT酵素活性による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。(a)生体試料および基質オルニチンと反応液(100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)と混合する工程、
(b)37℃に保温した条件下、吸光光度計にて440nmの吸収を測定することで、上記(a)の工程で起因して生じるOATの酵素活性を検出、定量する工程、
(c)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOAT酵素活性と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(d)上記(c)に記載の相関値を指標に、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT酵素活性の値が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法が挙げられる。
【実施例】
【0033】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1 (RT-PCR)
RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて、マウス肝組織からtotal RNAを抽出した。また、ラット初代培養系肝細胞からはQuickGene800(Fujifilm)でRNA cultured cell kit S(Fujifilm)を用いてtotal RNAを調製した。得られたtotal RNAはTaqMan Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems 社製)を用いてrandom primerでcDNA合成を行なった。
RT-PCR法は、肝臓組織あるいは肝臓細胞から得られたRNAを鋳型として調製したcDNAを鋳型としてOATをコードする塩基配列領域が特異的に増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を設計し、通常の方法で合成する。マウスOATを定量する際には配列番号7と8の配列を有するプライマーを用いた。ラットOATを定量する際には配列番号9と10の配列を有するプライマーを用いた。合成したプライマーを用いてSYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いてプロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出、定量した。
【0035】
実施例2 (OAT活性の測定)
肝臓中のOAT活性測定は採材した肝臓に対し、4倍量の抽出バッファー(100mM KP(pH8.0), 100uM PLP, 150mM KCl, 10mM 2-ME)を添加し、氷冷しながらホモジェナイザー(Ultra Turrax)で破砕した。破砕後、エッペンチューブにとり、2000rpmで2min遠心し上清を活性測定に使用した。20mM α-ketoglutalate を含む反応液と含まない反応液(100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)を1mlずつエッペンチューブにとりあらかじめ37℃に保温した。50μlのサンプルを添加し、直ちに攪拌後、37℃で保温した。適宜反応時間後100%TCAを50ul添加し、攪拌して反応を停止した。室温で30min放置した後、15,000rpm, 5min遠心し、得られた上清の440nmの吸収を測定した。α-ketoglutalateを含むチューブと含まないチューブの吸光度の差から得られた吸光度を反応産物の吸光係数2.45(mmol,cm,A440nm)を用いて濃度を算出した。
【0036】
実施例3 (ラット初代培養肝細胞の調製)
コラゲナーゼ潅流法(J Cell Biol, 43:506-520, 1969)に準じてラット肝細胞を単離した。
ウイスターラット(オス8週齡;264g)をソムノペンチルの腹中内注射にて麻酔した。EtOH消毒して開腹し、門脈血管を露出させ、サーフローフラッシュ(22G)を刺した後、あらかじめ37℃に保温したLiver Perfusion Medium(Gibco #17701-038)をペリスタポンプで灌流を開始し、下大静脈を切断した。放血後、下記のように調製、保温したコラゲナーゼ液で灌流を開始した。
コラゲナーゼ液の調製は以下のように実施した。Liberase Blenzyme 2 液(Roche 5mg/ml) 400μlに10%BSA(Sigma A-6003)液400μlと10% Trypsin Inhibitor(Sigma T-6522) 200μlを加え、混和した。あらかじめ10% BSAを2ml加え攪拌した溶解液(HANKS'BALANCED SALT powder (Sigma H-6136)、HEPES 2.38g/L, 炭酸水素ナトリウム 0.35g/L) 200mlに混合したLiberase液を加え、穏やかに攪拌して使用した。
コラゲナーゼ液で充分に灌流して消化した後、一旦Liver Perfusion Mediumでの灌流に切り替え、消化を停止した。消化した肝臓を切り取り、wash buffer(HANKS' BARANCED SALT(Sigma H-6136)、5%FBS(JRH Cat. No. 12176-500M)、HEPES 2,38g/L、炭酸水素Na 0.35g/L、EGTA 0.19g/L)中に細胞を分散させ回収した。メッシュを通しながらwash bufferで5回洗浄後、培地(William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulin)に懸濁した。
【0037】
実施例4 (siRNAの導入)
siRNAはRNAiFect Transfection Reagent(QIAGEN社)を用いて導入した。siRNAはコントロールとしてscramble siRNA(target sequence 配列番号11)、ラットOATに対するsiRNAは2種(rOAT1 target sequence 配列番号12、rOAT4 target sequence 配列番号13)を使用した。ラット初代培養肝細胞を5×105cells/ml(12-well plate)で準備した(William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulin)。400pmolのsiRNAを400μlの EC-R buffer に懸濁、ヴォルテックス で10秒攪拌した。次にRNAiFect reagent 24μlを添加し、ヴォルテックス で10秒攪拌した。混合溶液をTypeII CollagenでコートされたCollagen coated 12Well Plate 2wellに200μlずつまき、室温で15min(以上)静置した。先に準備したラット初代肝細胞を600μl/well(3×105cells/well)ずつ添加した。3時間後、10倍濃度Pen./Str. (InvitrogenGibco Penicillin-Streptomycin Cat.No.15140-122)を60μl添加した。24時間培養した後、WME+10%FBS+1×Pen./Str.+1nMインスリン+100nMDexamethasoneで培地交換した。24時間培養した後、培地(WME+10%FBS+1×Pen./Str.+1nMインスリン+1nM Dexamethasone+100pM glucagon)を交換した。さらに24時間後、同様に培地交換した。3日後に糖産生の測定を行なった。細胞はD-PBS(-)で数回洗浄後、0.1% fructose,100uM cAMP,0.75mM oleate,10mM ornithineを含むD-MEM(Sigma Cat.No. D-5030に Sodium Bicarbonate(Sigma Cat.No.S-5761) 3.7g /L添加)を1ml/wellずつ添加し、37℃ CO2インキュベーターで6時間培養した。培養後、培養上清を回収し、グルコースCIIテストワコーアッセイ試薬(和光純薬 #4399090)で定量した。また、上清を回収した後の細胞からはQuickGene-800(Fujifilm)で RNA cultured cell kit Sを用いて RNA抽出を行った。Scramble siRNA導入細胞と比較してOATに対するsiRNA である、rOAT1・rOAT4の2種類を導入した細胞で糖産生の低下が認められた(図1)。
【0038】
実施例5 (KKAyマウス肝臓での発現と活性)
試験紙による尿糖測定で500mg/dl以上の尿糖であることを確認したKKAy/Ta Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)8匹(平均体重42.2g)とKK/Ta Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)5匹(平均体重32.1g)から肝臓を採取し、RNAを抽出して実施例1記載の方法でRT-PCRを実施した。また、同じ肝臓から実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。RNAの発現で糖尿病モデルマウスであるKKAy/Ta Jclでの発現の上昇が認められ(図2(a))、OATの活性においても同様に活性の上昇が認められた(図2(b))。
【0039】
実施例6 (db/dbマウス肝臓での発現と活性)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)3匹(平均体重41.4g)とBKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)3匹 (平均体重26.0g)から肝臓を採取し、RNAを抽出して実施例1記載の方法でRT-PCRを実施した。また、同じ肝臓から実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。RNAの発現で糖尿病モデルマウスであるBKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jclでの発現の上昇が認められ(図3(a))、OATの活性においても同様に活性の上昇が認められた(図3(b))。
【0040】
実施例7 (ヒト肝臓での発現)
疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)は単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものであり、本発明者らは、これを利用してOATについて、病態・非病態組織での遺伝子発現パターンを解析した。その結果、糖尿病患者の肝臓でのOAT遺伝子の発現量は非糖尿病患者の肝臓でのOAT遺伝子の発現量に比べて1.4倍程度高かった。また、この比較を非糖尿病で肥満の患者に絞った場合、その差はさらに広がった(図4(a)・(b))。図4(a)・(b)共にOATの遺伝子発現を示すが、(a)は、糖尿病が確認できない患者と糖尿病の患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を、(b)は肥満非糖尿病患者と糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。糖尿病患者で、より多くのOAT遺伝子が発現していることが分かった。
【0041】
実施例8 (5-FM-ornithine ex vivo試験)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡) (平均体重約46g)に生理食塩水(n=3)投与と5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=4)を腹腔内投与し、24時間後に肝臓を採取した。採取した肝臓を用いて実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。Controlで1320 nmol/mg.hrに対し、5-FM-ornithine投与群では128 nmol/mg.hrとなり、明確な活性阻害が認められた(図5(a))。
同様にBKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 40週齡) 生理食塩水(n=1)と5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=2)を経口投与し、24時間後に肝臓を採取した。採取した肝臓を用いて実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。5-FM-ornithine投与群で明確な活性阻害が認められた(図5(b))。
【0042】
実施例9 (5-FM-ornithine db/db単回投与)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 9週齡) (平均体重約40g)に生理食塩水(n=7)、metformin(300mg/kg, n=7)、5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=7)を腹腔内投与した。投与直後から餌を除き、2,4,6時間後に尾静脈より採血し、過塩素酸処理をおこなった。6時間後から餌を戻し通常の飼育を継続し、22時間後にも採血した。血糖をグルコースCIIテストワコーアッセイ試薬(和光純薬 #4399090)で定量した(図6)。6時間後の血糖においてControlで260mg/dLに対し、5-FM-ornithine投与群で190mg/dLの有意な(P<0.01)血糖の低下が認められた。一方対照群の、metformin投与群では146mg/dLであった(図7)。
得られた血清サンプルについてデタミナーLA (協和メデックス)を用いて乳酸値を測定した。対照群のmetforminでは2時間後で乳酸値の上昇が認められたが、5-FM-ornithine投与群ではどの時間においても乳酸値の上昇は認められなかった(図8)。
【0043】
実施例10 (5-FM-ornithine db/db連投)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 9週齡) (平均体重約40g)に生理食塩水(n=7)投与、metformin(300mg/kg, n=7)5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=7)腹腔内投与した。投与直後から6時間後まで餌を除き、その後から餌を戻し通常の飼育を継続し翌日から毎日同量を投与した。1週間後に尾静脈よりヘマ管採血し、血糖の測定を行った。Controlで601mg/dLに対し、5-FM-ornithine投与群で463mg/dLの有意な(P<0.01)血糖の低下が認められた。一方対照群の、metformin投与群では490mg/dLであった(図)9)。飼育期間中の体重変化にはいずれの群でも差は認められず(図10(a)、(b))、摂餌量にも明確な差は認められなかった(図11(a))。一方飲水量には5-FM-ornithine投与群とmetformin投与群で3割程度の明確な低下が認められ(図11(b))、同時に床敷き重量変化量も3割程度の低下が認められた(図11(c)))。
【0044】
実施例11(ヒト病態サンプルでの発現)
疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)は単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものであり、本発明者らは、これを利用してOATについて、病態・非病態組織での遺伝子発現パターンを解析した。その結果、心血管疾患患者の心臓でのOAT遺伝子の発現量は非疾患患者の心臓でのOAT遺伝子の発現量に比べていずれも高かった(図12)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって、OATの遺伝子発現、タンパク質発現、さらには、酵素活性が生活習慣病の病態に関与すること、さらには、OAT酵素活性阻害剤を投与することで、生活習慣病を予防、改善、治療できることが明らかになった。
従って、OAT酵素活性を阻害する核酸、抗体、低分子化合物を有効成分とする、OAT酵素活性阻害剤は、生活習慣病を予防、改善、治療剤として利用することが出来、また、OAT酵素活性を指標に生活習慣病を予防、改善、治療できる薬剤のスクリーニングができること、さらには、OAT酵素活性を指標として生活習慣病が検出(診断)出来る。
また、OAT酵素活性阻害剤は生活習慣病の予防、改善、治療剤としてヒトのみならず、他の動物の治療薬としても期待できる。実際、イヌ、ネコにおいては糖尿病治療にはインスリン治療が主に行なわれているが有効な低分子治療剤が使われていない状況であり、OAT酵素活性を阻害し血糖降下作用を有する薬剤はインスリン治療を補完する治療薬、あるいは単独での治療剤としても期待できる。
【配列表フリーテキスト】
【0046】
配列番号7〜10:PCRプライマー
配列番号11〜13:siRNA
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣病の治療に有用な医薬と当該医薬の候補となる物質のスクリーニング方法、さらには、被験者が生活習慣病に罹患しているか否かを検出(診断)する方法に関する。より詳しくは、OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする生活習慣病治療薬、当該物質のスクリーニング方法、さらには、OATの発現量等を指標として、被験者が生活習慣病に罹患しているか否かを検出する方法(診断方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」、すなわち、不適切な食生活、運動不足、喫煙などが原因となって起こる疾患(メタボリックシンドローム)であり、例えば、糖尿病、脳卒中、心臓病、高脂血症、高血圧などが挙げられる。
近年患者数が増加している生活習慣病の治療はあくまでも対症療法であり、現在使用されている薬剤では、未だ充分な治療効果が得られておらず、原因療法に有効な治療薬の開発が医療現場において渇望されている。
また、最近の医療現場では、生活習慣病に限らず、個々の患者の症状に合わせて治療法を的確に選択することが望まれるようになってきている。QOL(Quality of life)向上の必要性が認識されてきた近年では、特に、万人に共通した治療ではなく、個々の患者の症状に合わせて適切な治療が施されることが強く求められている。このような所謂テイラーメイド治療を行うためには、個々の疾患について患者の症状やその原因(遺伝的背景)を的確に診断する疾患マーカーや、原因となる遺伝子をターゲットとした治療薬の開発を目指した研究が精力的に行われている段階にある。
【0003】
一方、オルニチンアミノトランスフェラーゼOrnithine amino transferase(ornithine ketoacid aminotransferase; EC 2.6.1.13 以後OATと表す)は以下反応式に示すように、L-グルタミン酸-5-セミアルデヒド(L-glutamate 5-semialdehyde)とオルニチン(Ornithine)との間の可逆的反応を触媒する酵素である。OATは真核生物全般に保存されており、その存在はヒトからショウジョウバエ、酵母、植物にいたるまで知られている。
【0004】
OAT遺伝子は、ヒトでは染色体上10q26に存在し、例えばヒト遺伝子の塩基配列はGenBank Accession No.NM_000274、マウス遺伝子の塩基配列はGenBank Accession No.NM_016978に記載の配列として公知である。OATの生体内の分布については肝臓、小腸、尿細管、脳など生体内に広く発現するが、特に網膜上皮に多く発現していることが知られており、網膜色素上皮での発現量は肝臓における活性の数倍と報告されている。
OATの発現制御についてはグルカゴンや高蛋白食で発現上昇することや、グルコースにより発現が阻害されることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。また、インスリンシグナルで発現制御されている遺伝子のひとつとしても報告されている(特許文献1)
【0005】
OATタンパク質についての研究は古くからなされており、例えばラット肝臓、ヒト肝臓から抽出した報告がある。また、ヒトOATタンパク質は大腸菌の組換え体を用いてOATタンパク質を取得する報告もある。OATタンパク質の精製についても数多くの報告があり、精製取得したタンパク質のX線結晶構造解析も行なわれている。OATタンパク質のX線結晶構造解析については、酵素活性阻害剤である5‐フルオロメチル‐L‐オルニチン(5-Fluoromethylornithine :5FMOrn)とヒトOATタンパク質との結合様式解析などが報告されている。OATタンパク質の抗体の取得も例えばラット肝臓由来精製タンパク質に対する抗体の例などがある(非特許文献3)。このようにOATタンパク質は生化学的にも構造科学的にも当業者に周知のタンパク質である。
【0006】
酵素としてのOATはKOマウスの知見から新生児においてはP-5-Cからオルニチンが産生される方向の反応を触媒するが、成体においては逆にオルニチンからP-5-Cが産生される方向の反応を触媒することが示唆されている(非特許文献4)。また、ヒトにおいてもOAT遺伝子の変異患者で血清中のオルニチンレベルが高くなっていることからマウスと同様に成人においては主にオルニチンからP-5-Cが産生される方向に反応しているものと考えられている(非特許文献5)また新生児期には変異患者ではオルニチンではなくアンモニア値が高くなることから、新生児マウスと同様の反応によりオルニチン産生が低下し、尿素回路の機能が低下することが示唆されている(非特許文献6)。
OATと病態についての関係については、ヒトにおけるgyrate atrophy(脳回転状網膜脈絡膜萎縮)(以後GAと表示)の原因遺伝子であることが明らかとなっている(「ヒトメンデル遺伝」オンライン、OMIM 258870)。OATの欠損マウスもGAのモデルマウスとしてヒトの病態と同様の表現型を示すことが知られている(非特許文献7)。OATの欠損がGAとなる原因については、in vitroでの検討の結果から、プロリン供給の低下が主たる原因と考えられている。すなわち、オルニチンからOATを介したP-5-Cを経たプロリン合成の低下と、P-5-C合成に関与するOATの欠損に伴う、グルタミン酸からのプロリン供給の低下がメカニズムとして考えられている。
その他、OAT遺伝子が病態と関係する遺伝子としての報告は例えば2型糖尿病との関連の可能性のある9つの遺伝子の一つとしての報告(非特許文献8)や、狭心症、不整脈などの心血管系疾患に関係する15個のモジュレーターの一つとしての報告(特許文献2)などがある。詳しくは、非特許文献8には、Methods GeneSeeker、eVOC system、DGP、PROSPECTR、SUSPECTS、G2D、POCUSの7種の遺伝子解析データベースやデータソフトの中から5種類もしくは6種類を組み合わせたコンピューター解析にて、2型糖尿病で有意に発現する遺伝子としてOATを含む9つの遺伝子が同定されている。しかしながら、具体的に、健常者と比較して、糖尿病患者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液等)におけるOAT遺伝子やOATタンパク質の発現上昇、OAT酵素活性の上昇が報告されている訳ではなく、ましてや、OATの発現阻害や酵素活性阻害が病態の改善につながることなど一切記載されていない。また、特許文献2には、Gene ID:10183としてオルニチンアミノトランスフェラーゼが記載されているが、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、脂質異常等の患者でOAT遺伝子の発現が亢進していることを基に、OATが心血管系疾患に関係する遺伝子であるとの報告が記載されているに留まっている。
【0007】
OATの酵素活性に対する特異的な阻害剤としては既に代表的なものとして5-Fluoromethylornithine(5FMOrn)が知られている。5FMOrnを使用した実験報告も既に多数あり、例えばマウス、あるいはニワトリに投与して組織中のオルニチン含量が上昇するが、目や他の組織に特に毒性による異常は見出せないことが報告されている。この時、高濃度の5FMOrnの投与でもOATの活性が10〜20%程度残存することも報告されている。
また、その他にもOAT酵素活性阻害剤として報告されているものとして5位置換オルニチン誘導体が既に技術的に公開されている。
【0008】
その他にも特異的ではないがピリドキサールリン酸要求性酵素阻害剤としてのgabaculineもOATの酵素活性を阻害することが知られている。あるいは4-aminohex-5-ynoic acidや5-amino-1,3-cyclohexadienyl-carboxylic acid(gabaculine)や(S)-2-amino-4-amino-oxybutyric acid(L-Canaline)といった4-aminobutyrateのアナログがOAT活性を阻害することも報告されている。
これらの化合物の用途については酵素活性阻害剤周辺化合物のアルツハイマー型認知症に対する利用について(アルツハイマー病型痴呆症の処置におけるオルニチンアミノトランスフェラーゼの酵素活性阻害剤の用途:(特許文献3))が知られており、その作用機作はOATの酵素活性阻害によるオルニチン濃度の上昇による肝臓の尿素サイクル機能の強化に基づくものでオルニチンの一時的不足の処置に有用であると考えられている。
【0009】
以上のように、OATの酵素活性阻害が糖代謝の改善やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の治療に有効であることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許公開公報第2005085436号
【特許文献2】国際公開第WO2003/039341号
【特許文献3】国際公開第WO94/17795号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.259 p250-261(1987)
【非特許文献2】Archives of Biochemistry & Biophysics. Vol.237:373-85(1985)
【非特許文献3】Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.174 p262-272(1976)
【非特許文献4】Nature Genetics Vol.11 P185(1995)
【非特許文献5】Tohoku J. Exp. Med Vol.205 P335-342(2005)
【非特許文献6】J.Inherit.Metab.Dis. Vol.28 p673-679(2005)
【非特許文献7】Nature Genetics Vol.11 P185 (1995)
【非特許文献8】Nucleic Acids Research (2006), Vol.34 p3067-3081
【非特許文献9】Biochemical Frontiers of Fluorine Chemistry, ACS Stnoisuyn Series 639, American Chemical Society, Washington DC.(1996) p196-212
【非特許文献10】Current Drug Targets Vol.1 p119-153(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、糖尿病など代謝性疾患における、新たな原因遺伝子を同定することによって、当該遺伝子による疾病の治療剤や、遺伝子・タンパク質の発現量および/またはタンパク質の酵素活性を指標とした疾病の検出(診断)方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究し、糖尿病患者と健常人の肝臓組織におけるOAT遺伝子発現解析の結果から、糖尿病患者の病態悪化に伴い、肝組織及びその周辺組織組織におけるOAT遺伝子の発現が正常組織に比べ顕著に高度に発現していることを見出した。また、OAT酵素活性を阻害することで糖代謝が改善されることを見出し、OAT酵素活性阻害剤が糖尿病等の生活習慣病の治療に有効であることを解明した。
具体的にはOAT酵素活性の阻害剤を糖尿病モデルマウスに投与することで血糖が低下することを明らかにした。このことはOATが糖尿病状態における血糖上昇の抑制に有効であることを示している。
また、OAT酵素活性阻害剤を投与することで糖尿病に伴う飲水量が減少し、尿量を反映する床敷き重量も顕著に減少した。このことはOAT酵素活性阻害剤が血糖を低下させるだけでなく、腎臓の尿濾過量を低下させていることを示している。
本発明は、かかる知見に基づき完成に至ったものである。
【0014】
すなわち本発明は、下記の[1]から[13]に関するものである:
[1]OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする、生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[2]OATの酵素活性を阻害する物質がオルニチン誘導体である、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[3]オルニチン誘導体が5‐フルオロメチル‐L‐オルニチンである[2]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[4]OATの酵素活性を阻害する物質がOAT遺伝子の発現を阻害するアンチセンスヌクレオチド、またはsiRNAである、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[5]OATの酵素活性を阻害する物質がOATに対する抗体である、[1]記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
[6]生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[1]から[5]記載の生活習慣病の予防、改善、または、治療剤。
[7]下記工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の予防、改善または治療剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質をOATタンパク質および基質に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定し、被検物質を接触させない場合のOATの酵素活性と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
[8]OATタンパク質がヒトOAT、マウスOATまたはラットOATである[7]のスクリーニング方法。
[9]生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[7]または[8]記載のスクリーニング方法。
[10]下記の工程(a)、(b)、(c)および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料からmRNAを採取する工程、
(b)上記(a)で得られたmRNAからcDNAを合成する工程、
(c)OAT遺伝子をコードするプライマーを用いてOAT遺伝子の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
[11]下記の工程(a)、(b)、(c)および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と抗OAT 1次抗体を接触させる工程、
(b)標識-抗OAT 2次抗体を(a)で抗体に認識された試料に添加する工程、
(c)発色標識試薬を(b)で抗体に認識された試料に添加し、OATタンパク質の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATのタンパク質発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程、
[12]下記の工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と基質とを接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定する工程、および
(c)上記(b)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATの酵素活性が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
[13]前記、生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される[10]、[11]、または[12]の検出方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、OAT活性阻害剤が糖尿病状態における血糖上昇を抑制することで糖代謝を改善し、生活習慣病を予防、改善、治療できることが明らかになったことから、OAT酵素活性阻害剤を有効成分とする生活習慣病の予防、改善、改善と提供することが可能となった。
また、本発明により、OAT遺伝子及びその発現産物(タンパク質、(ポリ)(オ
リゴ)ペプチド)の発現量やOATの酵素活性が、生活習慣病の病態と関連することが明らかになったことから、OATの発現量および/または酵素活性を指標とすることで、糖尿病をふくむ生活習慣病の検出(診断)マーカー、検出(診断)方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の一実施形態を示す。
【図1】図1は実施例4の薬理試験において、ラット初代肝細胞における糖産生を測定した結果を示すグラフである。Scramble RNA導入細胞(Control)とOATに対する2種類のsiRNA(siRNA1, siRNA4)導入細胞での糖産生の比較結果を示す。ScrambleはScramble RNA導入細胞(Control)を、OAT(1)はsiRNA1導入細胞を、OAT(4)はsiRNA4導入細胞を表す。FBP(5)は、糖新生酵素フルクトースビスフォスファターゼ遺伝子に対するsiRNA導入細胞を表す。
【図2】図2は実施例5の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるKKAyマウス由来の肝臓でのOAT遺伝子の発現(a)とOATの酵素活性(b)を測定した結果を示すグラフである。OAT遺伝子の発現(a)において、KK(10w)は正常マウス(KK/Ta Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を、KKAy(10w)は糖尿病モデルマウス(KKAy/Ta Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を表す。OAT活性(b)はOATの酵素活性を意味し、KK/Taは正常マウス(KK/Ta Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を、KKAy/Taは糖尿病モデルマウス(KKAy/Ta Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を表す。
【図3】図3は実施例6の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス由来の肝臓でのOAT遺伝子の発現(a)とOATの酵素活性(b)を測定した結果を示すグラフである。OAT遺伝子の発現(a)において、db/mは正常マウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を、db/dbは糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOAT遺伝子の発現量を表す。OAT活性(b)はOATの酵素活性を意味し、db/mは正常マウス(BKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を、db / dbは糖尿病モデルマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)の肝細胞におけるOATの酵素活性を表す。
【図4】図4は実施例7の疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)により、単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したグラフである。(a)は、糖尿病に罹患していない患者と糖尿病の患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。Liver, Normal; Non-diabetesは糖尿病に罹患していない患者の結果を、Liver, Normal; Diabetesは糖尿病患者の結果を示している。(b)は肥満非糖尿病患者と糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。Liver, Normal;Obesity;は肥満非糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルを、Liver, Normal; Diabetesは糖尿病患者の結果を示している。
【図5】図5(a)実施例8の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)に5-FM-orunitineを腹腔内投与し、24時間後に肝臓を採取し、OAT酵素活性を測定した結果を示すグラフである。図5(b)は実施例8の薬理試験において糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)に5-FM-orunitineを経口投与し、24時間後に肝臓を採取し、OAT酵素活性を測定した結果を示すグラフである。Controlは生理食塩水、MetforminはMetformin 300 mg/kg、は5-FM-orunitine は5 mg/kg(ラセミ体20 mg/kg)を投与したものである。
【図6】図6は実施例9の薬理試験において、(a)糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を単回、腹腔内投与した際の血糖(グルコース量)を測定した結果を示すグラフである。Control(生理食塩水)、Metformin(300mg/kg)、5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))を単回、腹腔内投与した際の経時的な血糖量(グルコース量)を示し、◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものの結果である。
【図7】図7は実施例9の薬理試験において、被験物質を単回、腹腔内投与した際の投与開始6時間のタイミングでの血糖量(グルコース量)を示す。◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものを意味する。
【図8】図8は実施例9の薬理試験において、被験物質を単回、腹腔内投与した際の経時的な乳酸値(ラクトース量)を示す。◆は生理食塩水、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものの結果である。
【図9】図9は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際の血糖(グルコース量)を測定した結果を示すグラフである。生食は生理食塩水、MetはMetformin(300mg/kg)、FM-ornは5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、Met + FMはMetforminと5-FM-ornithineの混合を投与したものを意味する。
【図10】図10は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT酵素活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際の体重(a)と体重増加量(b)を測定した結果を示す。◆は生食(生理食塩水)、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-orn(5-FM-ornithine 5 mg(20 mg/kg(ラセミ体)))、×はMet + Fmor(Metforminと5-FM-ornithineの混合)を投与したものを意味する。
【図11】図11は実施例10の薬理試験において、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl)にOAT活性阻害剤を連続で腹腔内投与した際のケージ7匹当たりの摂食量、飲水量、床敷き重さ増加量を測定し、一日当たりに補正した値を示す。◆は生食(生理食塩水)、■はMetformin(300mg/kg)、▲は5-FM-orn(5-FM-ornithine(20 mg/kg(ラセミ体))、×はMet + Fmor(Metforminと5-FM-ornithineの混合)を投与したものを意味する。
【図12】図12は実施例11の疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)により、単位RNA量当たりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものである。心血管疾患に罹患していない患者と心血管疾患患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの心臓での比較結果を示している。各棒グラフの右の黒バーは心血管疾患に罹患していない患者の結果を、左の白バーは心血管疾患患者の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の本発明を詳細に説明する。
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0018】
本明細書において「OAT遺伝子」または「OATのDNA」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトOAT遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_000274)や配列番号:3に記載のマウスOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_016978)および、配列番号:5に記載のラットOAT遺伝子(GenBank Accession No.NM_022521)などが挙げられる。
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(オルソログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(3-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5の特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。
【0019】
本明細書において「OATタンパク質」または単に「OAT」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトOATだけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(オルソログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。ここでオルソログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列(配列番号1)から同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加または挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、アミノ酸のリン酸化体等が挙げられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NP_000265)に記載のアミノ酸配列を有するヒトOATや、配列番号:4(GenBank Accession No.NP_058674)に記載のアミノ酸配列を有するマウスOATおよび、配列番号:6(GenBank Accession No.NP_071966)に記載のアミノ酸配列を有するラットOATなどが挙げられる。
【0020】
本明細書において、OAT酵素活性阻害剤は、天然に存在する化合物、合成された化合物、RNAi 効果を示す核酸等、低分子化合物、低分子ペプチド、低分子ポリヌクレオチドを含む。これらは適当な塩や溶媒和物の形態を有していてもよい。また、OATをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸を遺伝子治療に用いることができ、そのような態様も本発明に含まれる。本発明におけるOATの酵素活性阻害剤にはオルニチン誘導体、OATアンチセンスオリゴヌクレオチド、OATのsiRNA、抗OAT抗体などが挙げられる。
本発明に用いるオルニチン誘導体には、オルニチンから誘導される化合物や製薬学的に許容される塩、これらのDもしくはL配座の光学異性体、及びこれらの混合物も含む。5FMOrnが特に好ましいオルニチン誘導体として挙げられる。
【0021】
本発明に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、D N Aのコーディング配列又は5’ノンコーディング配列の中の断片D N Aと相補的な配列をもつD N A若しくはそのD N Aに対応するR N Aを言い、D N AもしくはR N Aに結合し、OATの発現を調節するものを意味する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えばOATタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を基にしてDNAとして製造するか、又はこのDNAをアンチセンスの向きに発現プラスミドに組み込むことでRNAとして製造することができる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、塩基配列からなるDNAのコーディング配列、5’ ノンコーディング配列のいずれの部分のDNA断片と相補的な配列であってもよいが、好ましくは転写開始部位、翻訳開始部位、5’ 非翻訳領域、エクソンとイントロンとの境界領域もしくは 5’ C A P領域に相補的配列であることが望ましい。このアンチセンスオリゴヌクレオチドの好ましい長さとしては、例えば5〜200 塩基のものが挙げられ、さらに好ましくは10〜50塩基のものが挙げられ、特に好ましくは15〜50塩基のものが挙げられる。 アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現プラスミドに組み込む場合は、このアンチセンスオリゴヌクレオチドの好ましい長さとしては、1000塩基以下、好ましくは500塩基以下、より好ましくは150塩基以下である。アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現プラスミドに組み込んだ後、目的の細胞に常法に従って導入する。導入はリポソームや組換えウイルスなどを利用する方法で行うことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの発現プラスミドは通常の発現ベクターを用いてプロモーターの下流、逆向きに、すなわちOAT遺伝子が3’ から5’ の向きに転写されるように、連結することにより作製できる。
【0022】
発明に用いるsiRNA(short-interferingRNA)」は、mRNAに相同的な15〜40塩基程度で両方の3’末端が突き出た短い二本鎖R N Aである。siRNAは、OATのcDNAを鋳型として合成することができる。本発明に用いられるs i R N Aは、OATの塩基配列に対して、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様の関係を有するものであってよい。 siRNAは、細胞内に導入されると、標的m R N Aを配列特異的に認識して切断することにより標的遺伝子の発現を阻害する。
本発明に用いる「抗OAT抗体」は、OATを特異的に認識することの出来る抗体、もしくは、OATに対する抗体・基質に対する抗体、いずれに対する抗体であってもOAT酵素活性阻害能を示す限り有用である。「特異的に認識する」とは、OATに結合することを意味する。抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部のいずれでもよい。また、抗原となるOATタンパク質、又はそれらのエピトープを含むペプチド断片等を用い、当業者に公知の常法により抗体を得ることができる。抗体が市販されている場合は、それらを用いてもよい。抗OAT抗体は、生活習慣病の治療薬、糖尿病の症状である糖産生を抑制する薬剤を検出するためのスクリーニング方法、免疫学的診断として有用である。
【0023】
OAT酵素活性阻害剤を有効成分として含有する薬剤の剤形は、水などに溶解した形態、粉末化した形態、あるいは、そのまま利用することが可能であり、製剤としてもよく、また飲食品、医薬などに適宜配合することができる。一般的には適当な液体担体に溶解するかもしくは分散させ、または、適当な粉末担体と混合するか、もしくはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤などを添加し、乳剤、油剤、水和剤、散剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、液剤などの製剤として使用する。製剤として使用する場合における、化合物の使用量は製剤の形態によっても異なるが、0.01重量%以上50重量%以下が好ましい。本発明における有効成分を糖尿病の予防ないし治療剤として用いる場合には、前記のように、製剤学的に許容することのできる担体を含有することができる。siRNAは、直接細胞内に導入するか、siRNA発現ベクターに組み込んで導入することができる(「RNAi実験プロトコール」羊土社)。投与に際して、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドの化学的修飾体又はsiRNAをそのまま投与する場合、安定化剤、緩衝液、溶媒などと混合して製剤した後、抗生物質、抗炎症剤、麻酔薬などと同時に投与してもよい。
投与形態としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤などの経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。これらのうち経口剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤などを用いて、常法に従って製造することができる。非経口剤も同様に常法で製造することができ、その投与方法としては、筋肉注射、静脈注射、経皮投与、直腸投与などが挙げられる。
【0024】
本発明におけるOAT酵素活性阻害剤を生活習慣病の治療に用いる時の投与量は、症状、年令、体重、性別等において異なるが、成人一人一日当り、1μg/kg〜100mg/kgを、好ましくは10μg/kg〜20mg/kgを、さらに好ましくは50μg/kg〜5mg/kgを、経口あるいは非経口で、連日又は数日から数週間おきに投与投与するとよい。また、この様な頻回の投与を避けるために徐放性のミニペレット製剤を作成し患部近くに埋め込むことも可能である。あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。このようにして投与すると、OAT酵素活性阻害作用を示し、糖尿病はじめ、生活習慣病の症状を低減することができる。
【0025】
OAT酵素活性阻害剤のスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、OAT遺伝子を発現する培養細胞全般を挙げることができる。OAT遺伝子の発現は、公知のノーザンブロット法やRT-PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。また、OATの酵素活性についても、o-AminobenzaldehydeがOAT酵素反応の産生物である1-Pyrroline-5-carboxylate(P-5-C)と反応して発色する、当業者に公知の測定方法(Journal of Biological Chemistry Vol.225 p825-834(1957))で容易に確認することが出来、他にもより高感度に放射性基質を用いて検出する方法 (Journal of Neurochemistry Vol.36 p501-505(1981))で確認することも出来る。この方法を用いた測定報告は、例えばラットでの組織ごとの活性の違いの検討(Biochimica et Biophysica Acta Vol.73 p222-231(1963)、Journal of Biological Chemistry Vol.243 p3327-3332(1968))や、ラット腎臓と肝臓での活性の検討(Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.180 p472-479(1977))、ラット初代幹細胞を用いて活性制御について検討した報告(Annals of the New York Academy of Sciences Vol.349 p99-110(1980)、Archives of Biochemistry and Biophysics Vol.237 p373-385(1985))など多数存在するが、例えば、下記工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、OAT酵素活性阻害剤候補物質のスクリーニング方法が挙げられる。
(a)被検物質を、生体試料および基質オルニチンと反応液(例えば、100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)に接触させる工程、
(b)37℃に保温した条件下、吸光光度計にて440nmの吸収を測定することで、上記(a)の工程で起因して生じるOATの酵素活性を検出、定量する工程、
(c)被検物質を生体試料に接触させない場合のOATの酵素活性と上記(b)の活性を比較する工程、および
(d)上記(c)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
【0026】
当該スクリーニングに用いられる細胞としては、具体的には、例えば、(A)糖尿病の動物モデルより単離、調製した肝臓組織や肝臓由来の細胞、(B)本発明遺伝子を導入した細胞を挙げることができる。ここで前者(A)糖尿病の動物モデルとしては、糖尿病の動物モデルとして周知であれば如何なる動物モデルでもよく、具体的には、KKAy/TaJcl、BKS Cg-+Lepradb/+Leprdb/Jcr等を挙げることができる。後者(B)の本発明遺伝子導入細胞としては、前者(A)の細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちL-929(結合組織由来、ATCC株番号CCL-1)、C127I(乳癌組織由来、ATCC株番号CRL-1616)、Sp2/0-Ag14(骨髄腫由来、ATCC株番号CRL-1581)、NIH3T3(胎児組織由来、ATCC株番号CRL-1658)等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK-21(シリアンハムスター仔腎組織由来、ATCC株番号CCL-10)、CHO-K1(チャイニーズハムスター卵巣由来、ATCC株番号CCL-61)等のハムスター由来細胞、COS1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CRL-1650)、CV1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CCL-70)、Vero(アフリカミドリザル腎組織由来、大日本住友製薬株式会社)等のサル由来細胞、HeLa(子宮けい部癌由来、大日本住友製薬株式会社)、293(胎児腎由来、ATCC株番号CRL-1573)等のヒト由来細胞、およびSf9(Invitrogen Corporation)、Sf21(Invitrogen Corporation)等の昆虫由来細胞などを挙げることができる。さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
【0027】
本発明スクリーニング法には細胞のみならずOAT活性を含む酵素溶液、あるいは精製タンパク質を用いることもできる。
【0028】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(OAT遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物、それらの適切な塩や溶媒和物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織あるいは酵素溶液、精製タンパク質と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞あるいは酵素タンパク質とを接触させる条件は、特に制限されないが、細胞と接触させる場合は、該細胞が死滅せず且つOAT遺伝子を発現できる培養条件(温度:30℃〜40℃、pH:6.5〜8.5、培地:William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulinなど(ラット初代培養肝細胞の場合))を選択するのが好ましく、酵素タンパク質と接触させる場合は酵素活性を失活しない条件、例えば100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehydeといった条件が好ましい。
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、OAT酵素活性阻害剤として位置づけることができる。これらの物質は、OATの酵素活性を阻害することによって、糖尿病の発症、進行を抑制し、よって、糖尿病を予防、改善または治療する薬物の有力な候補物質となる。
【0029】
本明細書において「疾患マーカー」とは、生活習慣病の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を検出・診断するために直接または間接的に利用されるものをいう。例えばi)OAT遺伝子を特異的に認識し、また結合することのできるポリ・オリゴヌクレオチド、ii) OATタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる抗体、また、iii)OAT酵素活性が挙げられる。以下にi)、ii)、iii)の診断方法を示す。
【0030】
i)OAT遺伝子発現による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。(a)RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて、該生体試料からtotal RNAを抽出、調製する工程、(b)得られたtotal RNAを鋳型に、TaqMan Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems 社製)を用いてrandom primerでcDNAを調整する工程、(c)当業者に周知のRT-PCR法により、cDNAを鋳型に、OATをコードする一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を用いて、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いてプロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出、定量する工程、(d)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOAT遺伝子の発現量と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(e)上記(d)に記載の相関値を指標に、上記被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法。
【0031】
ii) OATタンパク質発現による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。OAT抗体、あるいはあるいは二次抗体に、酵素標識、発色標識、放射標識又は発光標識などの標識を結合し、この標識を検出又は測定することにより行うことができる。本発明で行うことができるイムノアッセイとしては、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ、アビジン−ビオチン又はストレプトアビジン−ビオチン系を用いるイムノアッセイなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例として、ELISAによる診断方法としては、ELISA定量キット(Quantikine:R&Dシステムズ社製)に添付されたマニュアルに従って測定するが、(a)ELISA用96穴プレートに抗OAT 1次抗体をコーティングする工程、(b)調製した生体試料を(a)のプレートに添加する工程、(c)アビジン-抗OAT 2次抗体を(c)のプレートに添加する工程、(d)ビオチンを(c)の中プレートに添加し、OATタンパク質の産生量を検出、定量する工程、する工程、(e)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOATタンパク質の産生量と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(f)上記(e)に記載の相関値を指標に、上記被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATタンパク質の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法が挙げられる。
【0032】
iii) OAT酵素活性による診断方法
診断に用いられる試料には、被験者の生体試料(血液、細胞懸濁液、細胞抽出液)を挙げることが出来る。(a)生体試料および基質オルニチンと反応液(100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)と混合する工程、
(b)37℃に保温した条件下、吸光光度計にて440nmの吸収を測定することで、上記(a)の工程で起因して生じるOATの酵素活性を検出、定量する工程、
(c)健常人と生活習慣病患者の生体試料を用いてOAT酵素活性と生活習慣病の相関値を事前に作成する工程、(d)上記(c)に記載の相関値を指標に、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT酵素活性の値が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程を含んで診断する方法が挙げられる。
【実施例】
【0033】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1 (RT-PCR)
RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて、マウス肝組織からtotal RNAを抽出した。また、ラット初代培養系肝細胞からはQuickGene800(Fujifilm)でRNA cultured cell kit S(Fujifilm)を用いてtotal RNAを調製した。得られたtotal RNAはTaqMan Reverse Transcription Reagents(Applied Biosystems 社製)を用いてrandom primerでcDNA合成を行なった。
RT-PCR法は、肝臓組織あるいは肝臓細胞から得られたRNAを鋳型として調製したcDNAを鋳型としてOATをコードする塩基配列領域が特異的に増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を設計し、通常の方法で合成する。マウスOATを定量する際には配列番号7と8の配列を有するプライマーを用いた。ラットOATを定量する際には配列番号9と10の配列を有するプライマーを用いた。合成したプライマーを用いてSYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いてプロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出、定量した。
【0035】
実施例2 (OAT活性の測定)
肝臓中のOAT活性測定は採材した肝臓に対し、4倍量の抽出バッファー(100mM KP(pH8.0), 100uM PLP, 150mM KCl, 10mM 2-ME)を添加し、氷冷しながらホモジェナイザー(Ultra Turrax)で破砕した。破砕後、エッペンチューブにとり、2000rpmで2min遠心し上清を活性測定に使用した。20mM α-ketoglutalate を含む反応液と含まない反応液(100mM potassium phosphate buffer(pH8.0)、0.1mM PLP、35mM ornithine、5mM o-aminobezaldehyde)を1mlずつエッペンチューブにとりあらかじめ37℃に保温した。50μlのサンプルを添加し、直ちに攪拌後、37℃で保温した。適宜反応時間後100%TCAを50ul添加し、攪拌して反応を停止した。室温で30min放置した後、15,000rpm, 5min遠心し、得られた上清の440nmの吸収を測定した。α-ketoglutalateを含むチューブと含まないチューブの吸光度の差から得られた吸光度を反応産物の吸光係数2.45(mmol,cm,A440nm)を用いて濃度を算出した。
【0036】
実施例3 (ラット初代培養肝細胞の調製)
コラゲナーゼ潅流法(J Cell Biol, 43:506-520, 1969)に準じてラット肝細胞を単離した。
ウイスターラット(オス8週齡;264g)をソムノペンチルの腹中内注射にて麻酔した。EtOH消毒して開腹し、門脈血管を露出させ、サーフローフラッシュ(22G)を刺した後、あらかじめ37℃に保温したLiver Perfusion Medium(Gibco #17701-038)をペリスタポンプで灌流を開始し、下大静脈を切断した。放血後、下記のように調製、保温したコラゲナーゼ液で灌流を開始した。
コラゲナーゼ液の調製は以下のように実施した。Liberase Blenzyme 2 液(Roche 5mg/ml) 400μlに10%BSA(Sigma A-6003)液400μlと10% Trypsin Inhibitor(Sigma T-6522) 200μlを加え、混和した。あらかじめ10% BSAを2ml加え攪拌した溶解液(HANKS'BALANCED SALT powder (Sigma H-6136)、HEPES 2.38g/L, 炭酸水素ナトリウム 0.35g/L) 200mlに混合したLiberase液を加え、穏やかに攪拌して使用した。
コラゲナーゼ液で充分に灌流して消化した後、一旦Liver Perfusion Mediumでの灌流に切り替え、消化を停止した。消化した肝臓を切り取り、wash buffer(HANKS' BARANCED SALT(Sigma H-6136)、5%FBS(JRH Cat. No. 12176-500M)、HEPES 2,38g/L、炭酸水素Na 0.35g/L、EGTA 0.19g/L)中に細胞を分散させ回収した。メッシュを通しながらwash bufferで5回洗浄後、培地(William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulin)に懸濁した。
【0037】
実施例4 (siRNAの導入)
siRNAはRNAiFect Transfection Reagent(QIAGEN社)を用いて導入した。siRNAはコントロールとしてscramble siRNA(target sequence 配列番号11)、ラットOATに対するsiRNAは2種(rOAT1 target sequence 配列番号12、rOAT4 target sequence 配列番号13)を使用した。ラット初代培養肝細胞を5×105cells/ml(12-well plate)で準備した(William's Medium E、10%FBS、100nM 3,3,5-triiodo-L-thyronine、100nM Dexamethasone 、1nM Insulin)。400pmolのsiRNAを400μlの EC-R buffer に懸濁、ヴォルテックス で10秒攪拌した。次にRNAiFect reagent 24μlを添加し、ヴォルテックス で10秒攪拌した。混合溶液をTypeII CollagenでコートされたCollagen coated 12Well Plate 2wellに200μlずつまき、室温で15min(以上)静置した。先に準備したラット初代肝細胞を600μl/well(3×105cells/well)ずつ添加した。3時間後、10倍濃度Pen./Str. (InvitrogenGibco Penicillin-Streptomycin Cat.No.15140-122)を60μl添加した。24時間培養した後、WME+10%FBS+1×Pen./Str.+1nMインスリン+100nMDexamethasoneで培地交換した。24時間培養した後、培地(WME+10%FBS+1×Pen./Str.+1nMインスリン+1nM Dexamethasone+100pM glucagon)を交換した。さらに24時間後、同様に培地交換した。3日後に糖産生の測定を行なった。細胞はD-PBS(-)で数回洗浄後、0.1% fructose,100uM cAMP,0.75mM oleate,10mM ornithineを含むD-MEM(Sigma Cat.No. D-5030に Sodium Bicarbonate(Sigma Cat.No.S-5761) 3.7g /L添加)を1ml/wellずつ添加し、37℃ CO2インキュベーターで6時間培養した。培養後、培養上清を回収し、グルコースCIIテストワコーアッセイ試薬(和光純薬 #4399090)で定量した。また、上清を回収した後の細胞からはQuickGene-800(Fujifilm)で RNA cultured cell kit Sを用いて RNA抽出を行った。Scramble siRNA導入細胞と比較してOATに対するsiRNA である、rOAT1・rOAT4の2種類を導入した細胞で糖産生の低下が認められた(図1)。
【0038】
実施例5 (KKAyマウス肝臓での発現と活性)
試験紙による尿糖測定で500mg/dl以上の尿糖であることを確認したKKAy/Ta Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)8匹(平均体重42.2g)とKK/Ta Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)5匹(平均体重32.1g)から肝臓を採取し、RNAを抽出して実施例1記載の方法でRT-PCRを実施した。また、同じ肝臓から実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。RNAの発現で糖尿病モデルマウスであるKKAy/Ta Jclでの発現の上昇が認められ(図2(a))、OATの活性においても同様に活性の上昇が認められた(図2(b))。
【0039】
実施例6 (db/dbマウス肝臓での発現と活性)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)3匹(平均体重41.4g)とBKS.Cg-m+/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡)3匹 (平均体重26.0g)から肝臓を採取し、RNAを抽出して実施例1記載の方法でRT-PCRを実施した。また、同じ肝臓から実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。RNAの発現で糖尿病モデルマウスであるBKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jclでの発現の上昇が認められ(図3(a))、OATの活性においても同様に活性の上昇が認められた(図3(b))。
【0040】
実施例7 (ヒト肝臓での発現)
疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)は単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものであり、本発明者らは、これを利用してOATについて、病態・非病態組織での遺伝子発現パターンを解析した。その結果、糖尿病患者の肝臓でのOAT遺伝子の発現量は非糖尿病患者の肝臓でのOAT遺伝子の発現量に比べて1.4倍程度高かった。また、この比較を非糖尿病で肥満の患者に絞った場合、その差はさらに広がった(図4(a)・(b))。図4(a)・(b)共にOATの遺伝子発現を示すが、(a)は、糖尿病が確認できない患者と糖尿病の患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を、(b)は肥満非糖尿病患者と糖尿病患者におけるOAT遺伝子の発現レベルの比較結果を示している。糖尿病患者で、より多くのOAT遺伝子が発現していることが分かった。
【0041】
実施例8 (5-FM-ornithine ex vivo試験)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 10週齡) (平均体重約46g)に生理食塩水(n=3)投与と5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=4)を腹腔内投与し、24時間後に肝臓を採取した。採取した肝臓を用いて実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。Controlで1320 nmol/mg.hrに対し、5-FM-ornithine投与群では128 nmol/mg.hrとなり、明確な活性阻害が認められた(図5(a))。
同様にBKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 40週齡) 生理食塩水(n=1)と5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=2)を経口投与し、24時間後に肝臓を採取した。採取した肝臓を用いて実施例2記載の方法でOAT活性の測定を行った。5-FM-ornithine投与群で明確な活性阻害が認められた(図5(b))。
【0042】
実施例9 (5-FM-ornithine db/db単回投与)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 9週齡) (平均体重約40g)に生理食塩水(n=7)、metformin(300mg/kg, n=7)、5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=7)を腹腔内投与した。投与直後から餌を除き、2,4,6時間後に尾静脈より採血し、過塩素酸処理をおこなった。6時間後から餌を戻し通常の飼育を継続し、22時間後にも採血した。血糖をグルコースCIIテストワコーアッセイ試薬(和光純薬 #4399090)で定量した(図6)。6時間後の血糖においてControlで260mg/dLに対し、5-FM-ornithine投与群で190mg/dLの有意な(P<0.01)血糖の低下が認められた。一方対照群の、metformin投与群では146mg/dLであった(図7)。
得られた血清サンプルについてデタミナーLA (協和メデックス)を用いて乳酸値を測定した。対照群のmetforminでは2時間後で乳酸値の上昇が認められたが、5-FM-ornithine投与群ではどの時間においても乳酸値の上昇は認められなかった(図8)。
【0043】
実施例10 (5-FM-ornithine db/db連投)
BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl(日本クレア ♂ 9週齡) (平均体重約40g)に生理食塩水(n=7)投与、metformin(300mg/kg, n=7)5-FM-ornithine(ラセミ体20mg/kg,n=7)腹腔内投与した。投与直後から6時間後まで餌を除き、その後から餌を戻し通常の飼育を継続し翌日から毎日同量を投与した。1週間後に尾静脈よりヘマ管採血し、血糖の測定を行った。Controlで601mg/dLに対し、5-FM-ornithine投与群で463mg/dLの有意な(P<0.01)血糖の低下が認められた。一方対照群の、metformin投与群では490mg/dLであった(図)9)。飼育期間中の体重変化にはいずれの群でも差は認められず(図10(a)、(b))、摂餌量にも明確な差は認められなかった(図11(a))。一方飲水量には5-FM-ornithine投与群とmetformin投与群で3割程度の明確な低下が認められ(図11(b))、同時に床敷き重量変化量も3割程度の低下が認められた(図11(c)))。
【0044】
実施例11(ヒト病態サンプルでの発現)
疾患関連データベースであるAscenta(Gene Logics社)は単位RNA量あたりの各種遺伝子の発現量をアフィメトリクス社のGene Chipシステムを用いて解析したものであり、本発明者らは、これを利用してOATについて、病態・非病態組織での遺伝子発現パターンを解析した。その結果、心血管疾患患者の心臓でのOAT遺伝子の発現量は非疾患患者の心臓でのOAT遺伝子の発現量に比べていずれも高かった(図12)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって、OATの遺伝子発現、タンパク質発現、さらには、酵素活性が生活習慣病の病態に関与すること、さらには、OAT酵素活性阻害剤を投与することで、生活習慣病を予防、改善、治療できることが明らかになった。
従って、OAT酵素活性を阻害する核酸、抗体、低分子化合物を有効成分とする、OAT酵素活性阻害剤は、生活習慣病を予防、改善、治療剤として利用することが出来、また、OAT酵素活性を指標に生活習慣病を予防、改善、治療できる薬剤のスクリーニングができること、さらには、OAT酵素活性を指標として生活習慣病が検出(診断)出来る。
また、OAT酵素活性阻害剤は生活習慣病の予防、改善、治療剤としてヒトのみならず、他の動物の治療薬としても期待できる。実際、イヌ、ネコにおいては糖尿病治療にはインスリン治療が主に行なわれているが有効な低分子治療剤が使われていない状況であり、OAT酵素活性を阻害し血糖降下作用を有する薬剤はインスリン治療を補完する治療薬、あるいは単独での治療剤としても期待できる。
【配列表フリーテキスト】
【0046】
配列番号7〜10:PCRプライマー
配列番号11〜13:siRNA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする、生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項2】
OATの酵素活性を阻害する物質がオルニチン誘導体である、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項3】
オルニチン誘導体が5‐フルオロメチル‐L‐オルニチンである請求項2記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項4】
OATの酵素活性を阻害する物質がOAT遺伝子の発現を阻害するアンチセンスヌクレオチド、またはsiRNAである、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項5】
OATの酵素活性を阻害する物質がOATに対する抗体である、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項6】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項1から請求項5記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項7】
下記工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の予防、改善、または治療剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質をOATタンパク質および基質に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定し、被検物質を接触させない場合のOATの酵素活性と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
【請求項8】
OATタンパク質がヒトOAT、マウスOAT、またはラットOATである請求項7のスクリーニング方法。
【請求項9】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項7または請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
下記の工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料からmRNAを採取する工程、
(b)上記(a)で得られたmRNAからcDNAを合成する工程、
(c)OAT遺伝子をコードするプライマーを用いてOAT遺伝子の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項11】
下記の工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と抗OAT 1次抗体を接触させる工程、
(b)標識-抗OAT 2次抗体を(a)で抗体に認識された試料に添加する工程、
(c)発色標識試薬を(b)で抗体に認識された試料に添加し、OATタンパク質の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATのタンパク質発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項12】
下記の工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と基質とを接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定する工程、および
(c)上記(b)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATの酵素活性が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項13】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項10、11、または12の検出方法。
【請求項1】
OATの酵素活性を阻害する物質を有効成分とする、生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項2】
OATの酵素活性を阻害する物質がオルニチン誘導体である、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項3】
オルニチン誘導体が5‐フルオロメチル‐L‐オルニチンである請求項2記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項4】
OATの酵素活性を阻害する物質がOAT遺伝子の発現を阻害するアンチセンスヌクレオチド、またはsiRNAである、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項5】
OATの酵素活性を阻害する物質がOATに対する抗体である、請求項1記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項6】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項1から請求項5記載の生活習慣病の予防、改善、または治療剤。
【請求項7】
下記工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の予防、改善、または治療剤の有効成分の候補物質のスクリーニング方法:
(a)被検物質をOATタンパク質および基質に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定し、被検物質を接触させない場合のOATの酵素活性と比較する工程、および
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、OATの酵素活性を阻害する被検物質を選択する工程。
【請求項8】
OATタンパク質がヒトOAT、マウスOAT、またはラットOATである請求項7のスクリーニング方法。
【請求項9】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項7または請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
下記の工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料からmRNAを採取する工程、
(b)上記(a)で得られたmRNAからcDNAを合成する工程、
(c)OAT遺伝子をコードするプライマーを用いてOAT遺伝子の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OAT遺伝子の発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項11】
下記の工程(a)、(b)、(c)、および(d)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と抗OAT 1次抗体を接触させる工程、
(b)標識-抗OAT 2次抗体を(a)で抗体に認識された試料に添加する工程、
(c)発色標識試薬を(b)で抗体に認識された試料に添加し、OATタンパク質の発現量を測定する工程、および
(d)上記(c)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATのタンパク質発現量が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項12】
下記の工程(a)、(b)、および(c)を含む、生活習慣病の検出方法:
(a)被験者の生体試料と基質とを接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるOATの酵素活性を測定する工程、および
(c)上記(b)の測定結果に基づき、被験者について得られる測定結果を健常人について得られる測定結果と対比して、OATの酵素活性が増大している場合に生活習慣病に罹患していると判断する工程。
【請求項13】
生活習慣病が糖尿病、肥満、心筋梗塞、肥大型心筋症、うっ血性拡張型心筋症、および心筋線維症冠動脈疾患からなる群より選択される請求項10、11、または12の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−219375(P2011−219375A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86781(P2010−86781)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
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