説明

オレフィン系床材用の溶接棒

【課題】燃焼時に有毒ガスや煙を発生しにくいポリオレフィン系樹脂製の床材のジョイント部を溶接するに際し、温度を上げることなく接合強度が確保され、作業性の改善された溶接棒を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂製の床材のジョイント部を溶接するに際し、ポリプロピレン等の同類の結晶性樹脂成分が床材と溶接棒に含まれることによって接合強度が確保され、180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである低粘度、低軟化点非晶性ポリα−オレフィン系樹脂を含むことにより、適切な温度で溶接棒が軟化変形して十分な接合強度を確保することができるることを見出し本発明に到達した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃焼時に有毒ガスや煙を発生しにくいオレフィン系床材を施工する時に、オレフィン系床材同士のジョイント部を接合する溶接棒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物の床材あるいは車輌用床材としては、難燃性、耐摩耗性、耐熱性等に優れることから、可塑材を多量に添加した塩化ビニル樹脂(PVC)や加硫ゴムからなる床材が多く採用されていた。これらは、一定の性能を発揮するうえに、加工が容易で経済的にも優れた床材とされている。
【0003】
しかしながら、PVC製床材は燃焼時において、多量の発煙と共に塩化水素等の有毒ガスを発生することから、火災時において避難者がこれら有毒ガス等を吸入し、人命が危機にさらされてしまう等の防災上の問題や、また焼却廃棄処理時には、その強い酸化作用によって、焼却施設の損傷を早めてしまうだけでなく、適切でない焼却処理によっては、有害なダイオキシンを発生させ環境汚染をもたらすという問題があった。
【0004】
そこで、近年ではPVC材料に代えて、燃焼時に有毒ガスの発生が少ない、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエステル樹脂等のポリオレフィン系樹脂製の床材が多く施工されるようになっている。
【0005】
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂製の床材のジョイント部を接合する溶接棒については、特許文献1、特許文献2等で開示されているが、接合強度に問題があり、満足の行くものではなかった。
【特許文献1】特開2001−179838
【特許文献2】特開2001−81954
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、ポリオレフィン系樹脂製の床材のジョイント部を溶接するに際し、接合強度が確保され、作業性の改善された溶接棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリオレフィン系樹脂製の床材のジョイント部を溶接するに際し、同類の結晶性樹脂成分が床材と溶接棒に含まれることによって、接合強度が確保されることを見出し本発明に到達した。上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]オレフィン系床材を溶接するための、オレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒において、分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分を20〜60重量%含有することと、分子構造中に塩素原子を含まなく180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである非晶性ポリα−オレフィン樹脂を、5〜25重量%含むことを特徴とするオレフィン系床材用溶接棒。
【0009】
[2]樹脂成分にポリプロピレンを有する前記オレフィン系床材を溶接するための、オレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒において、分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分がポリプロピレンであることを特徴とする前項1に記載のオレフィン系床材用溶接棒。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶接棒は、分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分を20〜60重量%含有するオレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒であるから、オレフィン系床材同士を接合する際に、溶接棒のカットが容易になると共に、接合強度が良好となる。
【0011】
また、前記のオレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒において、分子構造中に塩素原子を含まなく、180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである低粘度、低軟化点非晶性ポリα−オレフィン系樹脂を5〜25重量%含むことにより、床材と溶接棒を溶接する適切な温度で溶接棒が軟化変形して、十分な接合強度を確保することができると共に、棒状で用いられる溶接棒には欠かせない柔軟性も付与され接合作業が容易になる。
【0012】
また、樹脂成分にポリプロピレンを有する前記オレフィン系床材を溶接する際には、前記溶接棒に含まれる結晶性樹脂成分がポリプロピレンであれば、さらに十分な接合強度が確保され、耐汚染性、耐薬品性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳しく説明する。本発明の溶接棒は分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分を20〜60重量%含有し、オレフィン系樹脂組成物のみからなることを特徴とする。 結晶性樹脂成分が20重量%未満であるとオレフィン系樹脂の弾力性のためカット性が十分ではなく、汚染性も低下する。一方60重量%を越えると結晶性樹脂が持つ融点を境に物性の変化が大きく、溶接作業性が低下するため前記範囲が含有量として好ましい。
【0014】
溶接棒を構成する分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられ、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどがあり、特に限定されない。 また、溶接棒において結晶性樹脂以外のオレフィン系樹脂組成物としては、例えば、エチレン−プロピレンゴムなどのエチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合樹脂、プロピレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合樹脂などのエチレンとスチレンの共重合樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー等であり、非晶性の樹脂であれば特に限定されない。
【0015】
さらに、上記オレフィン系樹脂に、分子構造中に塩素原子を含まない180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである非晶性ポリα−オレフィン系樹脂を5〜25重量%含むことが良い。 このような低粘度、低軟化点を有する非晶性ポリα−オレフィン系樹脂を含有させることで、床材と溶接棒を溶接する適切な温度で溶接棒が軟化変形して、十分な接合強度を確保することができると共に、棒状で用いられる溶接棒には欠かせない柔軟性も付与される。
【0016】
分子構造中に塩素原子を含まない180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである非晶性ポリα−オレフィン系樹脂が5重量%未満であると、床材と溶接棒を溶接する最適温度が高くなり、接合する床材の表面に艶ムラや変形が起こってしまうし、25重量%を超えると、溶接強度が低下する。
【0017】
前記分子構造中に塩素原子を含まない180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである非晶性ポリα-オレフィン系樹脂としては、例えば、非晶性エチレン−プロピレン共重合樹脂、非晶性エチレン−ブテン−1共重合樹脂、アタクチックポリプロピレン樹脂などがある。
【0018】
また、樹脂成分にポリプロピレンを有するオレフィン系床材を溶接する際には、前記分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分としてポリプロピレンを含む溶接棒を使えば、良好なカット性を持ちつつ、接合強度が特に良好となる。また、耐薬品性などの耐汚染性も向上し病院などで使用される床材の接合には更に好適である。
【0019】
本発明の溶接棒は、断面直径が1.0〜5.0mmの棒状のものが一般的である。棒状の断面形態は、円形、星形、三角形、四角形、台形等特に制限はないが、円形のものが一般的である。また、断面模様としては、多色の樹脂が混合されたマーブル模様、チップを添加した模様等があるが特に制限はない。
【0020】
本発明の溶接棒を用いた接合は、オレフィン系床材を溶接するためのもので、オレフィン系床材を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンー1、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合樹脂、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合樹脂、エチレンとスチレンの共重合樹脂、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合樹脂、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができ、特に限定されないが、溶接棒と接合する部分でポリプロピレン樹脂が使用されていることが好ましい。
【0021】
本発明の接合で使用するオレフィン系床材の厚みは1.0〜3.0mmのものが多く、例えば熱風溶接機を使用して床材と溶接棒を同時に加熱して押圧しながら溶接する方法や、溶接棒のみを加熱して接合する方法、ホットメルト銃等を使用して接合することも可能である。
【実施例】
【0022】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
<床材の作成>
オレフィン系樹脂100重量部に対して充填剤185重量部を使用したシートの上面に、裏面印刷を施した厚さ300μmのポリプロピレン樹脂フィルム層をホットラミネート加工により積層して、実施例及び比較例における厚さ2.0mmの床材を作製した。
【0023】
<溶接棒の作成>
表1に示した割合で樹脂を混合し、押出機により3.5mmの丸棒状に加工した実施例1〜6及び比較例1〜2の溶接棒を作製した。
【0024】
上記の床材を突き合わせ、その突き合わせた部分を60°にV字カットして、その部分を実施例及び比較例の各溶接棒を用いて熱風溶接機により溶接し、床材を接合しその評価を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
評価
<接合作業性>接合作業において溶接棒の切れやすさや仕上り具合を評価した。
○:熱風溶接による接合作業性が良い △:作業性に問題がない ×:作業性に劣る
<カット性>溶接棒のカットがやりやすいか評価した。
○:溶接棒のカットが容易 △:カットに問題がない ×:カットがしにくい
<接合強度>接合強度は接合した床材を、接合部を中心に長さ20cm巾2.5cmに裁断し、引っ張り試験機にて測定した。150N/2.5cm未満を「×」、150〜200N/2.5cmを「△」200N/2.5cm以上を「○」とした。
<耐汚染性>JIS A 1454 6.10汚染性試験によって評価した。
○:汚れにくい △:汚れが目立たない ×:汚れやすい
上記表2から明らかなように、この発明の実施例1〜6においては、作業性、カット性も良く、接合強度も十分確保でき、優れた耐汚染性を示している。比較例1では結晶性樹脂が少ないのでカット性、接合強度が落ちていた。比較例2では結晶性樹脂が多くなりすぎ、溶接作業中に切れやすかった。比較例3においては、粘度が高すぎて溶接温度が高くなり、溶接部周辺の光沢が異常に増してしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系床材を溶接するための、オレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒において、分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分を20〜60重量%含有することと、分子構造中に塩素原子を含まなく180℃での溶融粘度が500〜100,000cpである非晶性ポリα−オレフィン樹脂を、5〜25重量%含むことを特徴とするオレフィン系床材用溶接棒。
【請求項2】
樹脂成分にポリプロピレンを有する前記オレフィン系床材を溶接するための、オレフィン系樹脂組成物のみからなる溶接棒において、分子構造中に塩素原子を含まない結晶性樹脂成分がポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン系床材用溶接棒。

【公開番号】特開2006−95902(P2006−95902A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285580(P2004−285580)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】