説明

オレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法

【課題】高分子量で粒子性状に優れた重合体を製造することができる、経済的に有利なオレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いてオレフィン重合体を安定かつ経済的に安価に製造可能なオレフィン重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記(A)成分と(B)成分を接触する工程を含むことを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法。(A)成分:周期表第3〜11族の遷移金属イオン又は該遷移金属の錯イオンが、インターカレートされたイオン交換性層状化合物(B)成分:次の一般式(B−1)で表わされる、分子量1,000以下の有機化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、触媒活性が高く、高分子量で粒子性状に優れた重合体を製造することができる、経済的に有利なオレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いてオレフィン重合体を安定かつ経済的に安価に製造可能なオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用資材として重要な樹脂材料における基幹ポリマーとしてのポリオレフィンは、工業的に主として、遷移金属化合物を使用するチーグラー系触媒及びメタロセン系触媒により製造されている。
かかる触媒における遷移金属化合物としては、シクロペンタジエニル基或いはその類縁体を配位子とする4族元素のメタロセン系化合物が最も広く知られているが、3族元素メタロセン系化合物(特許文献1)、4族元素非メタロセン系化合物(特許文献2)、5族元素の遷移金属化合物(特許文献3)、6族元素の遷移金属化合物(特許文献4)、7族元素の遷移金属化合物(特許文献5)によるオレフィン重合も報告されている。
さらに、中心金属として、8族元素である鉄、9族元素であるコバルト、10族元素であるニッケルやパラジウム、11族元素である銅といった後周期遷移金属元素を有するオレフィン重合触媒成分が見出されている(例えば、非特許文献1、特許文献6、特許文献7、特許文献8)。
【0003】
これらのいわゆる非メタロセン系触媒は、例えば、炭素原子と二重結合した2座の窒素原子を有する配位子にニッケルやパラジウムが配位したブルックハート触媒(特許文献6)等としてよく知られているが、重合活性が充分には高くない。
窒素原子配位子として、2座以上の窒素原子などの配位サイトを有する化合物を用い、有機アルミニウム化合物の1つであるメチルアルミノキサンと組み合わせた触媒系においては、エチレンを高活性で重合するが、メチルアルミノキサンによる重合体鎖の成長反応の阻害が著しくて、分子量の高い重合体を得ることが難しく、さらに生成する重合体の粒子性状が悪いという問題が未だ解決されていない。
【0004】
一方、4族元素メタロセン錯体触媒によりオレフィンを重合するに際しても、生成するオレフィン重合体を粒子化された状態で得るための努力がなされており、実用に至っている。例えば、トリアルキルアルミニウムで処理されたシリカ等の微粒子状担体にジルコノセン化合物とメチルアルミノキサンを接触させてエチレン予備重合を行って得られた触媒(非特許文献2)や、粘土鉱物をメタロセンの助触媒兼担体として使用した触媒(特許文献9)が知られている。
【0005】
この粒子化の努力は、上述の非メタロセン錯体触媒系においても検討されており、例えば、8族〜10族元素の多座窒素配位子錯体や3族〜11族元素のフェノキシイミン配位子錯体をシリカ等の微粒子や特定の樹脂に助触媒とともに担持したり、上述の粘土鉱物と組み合わせて使用する試みがなされている(特許文献10,11,12)。
【0006】
この粘土鉱物と非メタロセン錯体を組み合わせた触媒系は、活性が高く、更には粒子性状や分子量をある程度改良することが出来るが、複雑な合成工程と精製分離工程を経て得られる高価な非メタロセン錯体を触媒原料として使用するため、触媒の価格が高くなり、経済的に不利であったり、錯体の担持が不充分なため、粒子性状が必ずしも良好ではない。
そこで、高価な非メタロセン錯体を使用する必要のない触媒系を得るための試みもなされているが(特許文献13その他多数)、重合活性や粉体性状の面で必ずしも充分な成果が得られておらず、その早期改善が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−95514号公報
【特許文献2】特開平11−315109号公報
【特許文献3】特表2002−503733号公報
【特許文献4】特表2002−541152号公報
【特許文献5】特表2003−527403号公報
【特許文献6】WO96/23010号公報
【特許文献7】WO98/27124号公報
【特許文献8】特開平11−171915号公報
【特許文献9】特開平5−301917号公報
【特許文献10】特開平9−278821号公報
【特許文献11】特開2000−313712号公報
【特許文献12】特開2000−198812号公報
【特許文献13】特開2000−344821号公報
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society 117巻 6414頁
【非特許文献2】触媒 44巻 3号 194頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、窒素原子、酸素原子の配位サイトを有する2座の配位子が遷移金属原子に配位した、非メタロセン系のオレフィン重合触媒の技術改良を行うことによって、高分子量で粒子性状に優れた重合体を製造することができる、経済的に有利なオレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いてオレフィン重合体を安定かつ経済的に安価に製造可能なオレフィン重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定の窒素原子、酸素原子の配位サイトを有する2座の配位子の化合物を用い、それと配位サイトや配位する遷移金属原子及び助触媒や担持体などの種類と組み合わせて、錯化型の触媒を調製したところ、高分子量で粒子性状に優れた重合体を製造することができる、経済的に有利なオレフィン重合用触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の(A)成分と(B)成分を接触する工程を含むことを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
(A)成分:周期表第3〜11族の遷移金属イオン又は該遷移金属の錯イオンが、インターカレートされたイオン交換性層状化合物
(B)成分:次の一般式(B−1)で表わされる、分子量1,000以下の有機化合物
【化1】

(式中、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。また2つの(B−1)成分がRを介して結合していてもよい。)
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(A)成分は、周期表第4、5、6、8、9または10族の遷移金属イオンまたは該遷移金属の錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物であることを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、(A)成分は、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Fe、Co、NiまたはPdの遷移金属イオンまたは該遷移金属の錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物であることを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、(A)成分と(B)成分は、水、アルコール、ケトン、エステル、ニトリル、無機酸および有機酸の中から選択される少なくとも一つの溶媒の存在下に接触させることを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、(A)成分と(B)成分を接触する工程に加えて、更に、下記(C)成分を接触させる工程を含むことを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法が提供される。
(C)成分:有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物および有機亜鉛化合物の中から選択される少なくとも一つの有機金属化合物
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明の製造方法で製造されることを特徴とするオレフィン重合用触媒が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、(A)成分と(B)成分を接触して得られるイオン交換性層状化合物は、X線回折測定による層間距離が10〜30オングストロームであることを特徴とするオレフィン重合用触媒が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第6または7のオレフィン重合用触媒を用いることを特徴とするオレフィン重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭素原子と二重結合した窒素原子と、フェニル基に結合した酸素原子を有する2座の配位子が遷移金属原子に配位した、非メタロセン系のオレフィン重合触媒の技術改良を行った結果、従来の問題点が解消されて、粒子性状に優れたポリマーを生成でき、経済的に安価なオレフィン重合用触媒が実現され、それに伴って、この重合触媒を用いて安定かつ経済的に有利なオレフィン重合体の製造方法を行うことができる。このため、本発明の重合触媒の工業的な意義は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、オレフィン重合用触媒の製造方法、およびその方法により得られるオレフィン重合用触媒、並びにその触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法に関するものであるが、本発明のオレフィン重合用触媒の製造方法は、前述したとおり、周期表第3〜11族の遷移金属イオン又は該遷移金属の錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物である(A)成分と、炭素原子と二重結合した窒素原子とフェニル基に結合した酸素原子を有する2座の配位子である(B)成分と接触する工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明のオレフィン重合用触媒に用いられる(A)成分や(B)成分または任意成分(C)、およびそれらの成分を用いたオレフィン重合用触媒の製造方法、ならびにオレフィン重合用触媒やそれを用いた重合方法等について、項目毎に詳細に説明する。
【0020】
1.オレフィン重合用触媒成分
(1)(A)成分について
本発明のオレフィン重合用触媒成分には、(A)成分として、周期律表第3〜11族の遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンを用い、好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンを用い、更に好ましくは、Ti、Zr、Hf、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンを用いて、それらがインターカレートされたイオン交換性層状化合物を使用する。
【0021】
一般に、イオン交換性層状化合物とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる化合物であり、その例として、大部分の粘土が挙げられる。また、粘土は、通常粘土鉱物を主成分として構成される。これら粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物は天然産のものに限らず、人工合成物であってよい。粘土、粘土鉱物に関しては、白水晴雄著「粘土鉱物学―粘土科学の基礎―」(朝倉書店1988年発行)や日本粘土学会編「粘土ハンドブック 第二版」(技報堂出版1987年発行)に詳細な記載がある。
【0022】
粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、緑泥石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
【0023】
イオン交換性層状化合物の具体例のうち、好ましくはディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物が挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイトがあげられる。また、人工の合成物として、合成ヘクトライト、合成雲母(マイカ)、合成サポナイト等が好ましく挙げられる。
【0024】
更に他の、イオン交換性層状化合物として、六方最密パッキング型、アンチモン型、CdCl型、CdI型等の層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物等を例示することができる。
これらの具体例としては、α−Zr(HAsO・HO、α−Zr(HPO、α−Zr(KPO・3HO、α−Ti(HPO、α−Ti(HAsO・HO、α−Sn(HPO・HO、γ−Zr(HPO、γ−Ti(HPO、γ−Ti(NHPO・HO、ニオブ酸塩等の多価金属の結晶性酸性塩があげられる(「山中昭司 触媒 32巻1号(1990年)9ページ」を参照)。
【0025】
これらのイオン交換性層状化合物は、特に処理を行なうことなくそのまま用いてもよいし、ボールミルやジェットミル等の粉砕、篩い分けやサイクロン等による分級、分別、酸処理、アルカリ処理、塩類処理等といった化学処理、造粒処理、乾燥等を行なった後に用いてもよい。また単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0026】
本発明のイオン交換性層状化合物には、上述の一般的なイオン交換性層状化合物に、第3〜11族の遷移金属、好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオン、更に好ましくは、Ti、Zr、Hf、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンをインターカレートしたものが用いられる。
よく知られているインターカレートの方法に塩類処理があり、イオン交換性を利用し、層間の交換性の陽イオンを遷移金属イオンや該遷移金属錯イオンと置換することにより、実施される。
本発明においては、塩類で処理される前の、イオン交換性層状化合物の含有する交換可能なイオンの1%以上、好ましくは10%以上、更に好ましくは30%以上、最も好ましくは50%以上を、遷移金属イオンもしくは該遷移金属錯イオンとイオン交換することが必要である。
【0027】
この様なイオン交換を目的とした本発明の遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンを含有する、塩類処理で用いられる塩類は、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの、更に好ましくは、Ti、Zr、Hf、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの、特に好ましくは、Ti、Zr、Niの、元素を含むイオンを含有する化合物である。
好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの元素を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸及び有機酸からなる群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物であり、更に好ましくは、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの元素を含む陽イオンと、Cl、Br、I、F、S、O、PO、SO、NO、CO、C、ClO、OOCCH、CHCOCHCOCH、OCl、O(NO、O(ClO、O(SO)、OH、OCl、OCl、OOCH、OOCCHCH、OOCH(C)C、C及びCからなる群から選ばれる少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物である。
【0028】
具体的には、Ti(OOCCH、Ti(CO、Ti(NO、Ti(SO、TiF、TiCl、TiBr、TiI、TiCl・AlCl、Zr(OOCCH、Zr(CHCOCHCOCH、Zr(CO、Zr(NO、Zr(SO、ZrF、ZrCl、ZrBr、ZrI、ZrOCl、ZrO(NO、ZrO(ClO、ZrO(SO)、Hf(OOCCH、Hf(CO、Hf(NO、Hf(SO、HfOCl、HfF、HfCl、HfBr、HfI、V(CHCOCHCOCH、VOSO、VOCl、VCl、VCl、VBr、Cr(CHCOCHCOCH、Cr(OOCH)OH、Cr(NO、Cr(ClO、CrPO、Cr(SO、CrOCl、CrF、CrCl、CrBr、CrI、Mn(CHCOCHCOCH、Mn(CHCOCHCOCH、Mn(OOCCH、MnBr、MnBr、MnCO、MnCl、Mn(OOCH(C)C、MnF、MnF、MnI、Mn(NO、Mn(ClO、MnS、MnO、MnO、Fe(OOCCH、Fe(CHCOCHCOCH、FeCO、Fe(NO、Fe(ClO、FePO、FeSO、Fe(SO、FeF、FeCl、FeBr、FeI、FeC、RuCl、RuBr、RuI、Co(OOCCH、Co(CHCOCHCOCH、CoCO、Co(NO、CoC、Co(ClO、Co(PO、CoSO、CoF、CoCl、CoBr、CoI、NiCO、Ni(NO、NiC、Ni(ClO、NiSO、NiCl、NiBr、Pd(C、PdCl、PdBr、PdI、Pd(CN)、Pd(NO、PdSO、Pd(OCCF等が挙げられる。
【0029】
イオン交換を目的とした本発明の遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオン塩類処理で用いられる塩類として、更に、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの元素を含み、NH、NO、CN、CO、HO、OH、ハロゲン原子、エーテル化合物等を含むいわゆる錯塩化合物がある。具体的には、TiCl(NH、ZrCl・2CO、ZrO(OH)0.8(SO0.6・XHO、Hf(OC・COH、VCl(CO)2−3、Cr(OH)(OOCCH、[Ru(NHCl]Cl、[RuCl(CO)、RuCl[P(C、Ru(NHCl、Ru(NO)Cl、Ru(NO)(NO、[Co(NH]Cl、CoCr、CoMoO、CoWO、Co(CO)(NO)、[Co(NH]Cl、[(CP]NiBr、[(CP]NiCl、[Ni(NH]Cl、[Ni(NH]I、NiCO・2Ni(OH)、Pd(NH(NO、Pd(NH(NO、PdCl(CHCN)、PdCl(CCN)、Pd(NHCl等が挙げられる。なお、塩類処理で用いられる遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンを含有する塩類としては、遷移金属塩、遷移金属錯塩のうち、遷移金属塩が好ましい。
【0030】
上述の遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンを含有する塩類処理等でイオン交換性層状化合物にTi、Zr、Hf、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pdの少なくともいずれか1つの遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンがインターカレートされていることの確認は、通常、塩類処理前後の元素組成とX線回折ピークの変化を観測することによって行うことが出来る。
元素分析は、特に、原料中の層間イオン元素の含有量減少、及び塩類処理後の遷移金属の含量増加を観測する。また、X線回折ピークのうち、特に、当該層状化合物の底面間隔を示すX線回折のピークが、塩類処理の前後で変化しているかどうかを観測することによって行う。
【0031】
本発明においては、層状化合物の底面間距離は、以下の方法で測定される。
すなわち、(A)成分であるイオン交換性層状化合物の粉末X線回折パターンを測定することで、当該層状化合物の(001)面による回折ピークのd値より、層間へのインターカレーションの進行を確認する。
ここで(001)面における回折ピークは底面反射ピークと呼ばれ、その回折角度からブラッグの式を用いて算出されるd値は、層自身の厚みと層間距離の和、即ち底面間隔距離に相当する。従ってインターカレート処理した成分のd値が処理前に比べて増大すれば層間が広がったことを示しており、その成分が層間にインターカレートしたと判断できる(図1を参照)。
図1は、イオン交換性層状化合物の層間カチオンがインターカレートされた状態を例示する模式図、およびインターカレート処理工程を例示する処理フロー図である。
【0032】
遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンを含有する塩処理と共に、酸処理を逐次的に、あるいは共存で行うことも出来る。このような酸処理は表面の不純物を取り除くほか、結晶構造のAl、Fe、Mg等の陽イオンの一部又は全部を溶出させ、遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンのインターカレーションを促進することが出来る。酸処理で用いられる酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸から選択される。
処理に用いる遷移金属イオン若しくは該遷移金属錯イオンを含有する塩類及び酸は、2種以上であってもよい。塩類処理と酸処理を組合せる場合においては、酸処理を行った後、塩類処理を行う方法、塩類処理を行った後、弱い酸処理を行う方法、及び塩類処理と酸処理を同時に行う方法がある。
【0033】
塩類及び酸による処理条件は、特には制限されないが、通常、塩類及び酸濃度は、0.1〜30重量%、処理温度は室温〜沸点、処理時間は、5分〜24時間の条件を選択して、イオン交換性層状化合物を構成している物質(陽イオン等)の少くとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。また、塩類及び酸は、トルエン、n−ヘプタン、エタノール等の有機溶媒に混合して用い、又は塩類が処理温度において液体状であれば、無溶媒で用いることもできるが、好ましくは水溶液として用いられる。塩の種類によっては酸処理と類似の効果を示すものもある。
【0034】
本発明では、上記塩類処理及び必要に応じて酸処理を行なうが、処理前、処理間、処理後に粉砕や造粒等で形状制御を行ってもよい。また、アルカリ処理や有機物処理等の他の化学処理を併用してもよい。
このようにして得られる(A)成分としては、水銀圧入法で測定した半径20Å以上の細孔容積が0.1cc/g以上、特には、0.3〜5cc/gのものが好ましい。(A)成分の平均粒径は、5μm以上、100μm以下が好ましい。5μm未満の微粒子が多く存在すると、ポリマー同士の凝集、反応器への付着等が起こり易く、また重合プロセスによってはショートパス或いは長期滞留の要因となり好ましくない。100μmを超える粗粒子については閉塞(例えば、触媒フィード時)が起こり易いなどの問題が生じるために好ましくない。これらを満たす粒子であれば、天然物或いは市販品をそのまま使用してもよいし、分級、分別等により粒径を制御して使用してもよい。
【0035】
造粒法は上記粒径、形状を満たす方法であれば特に限定されないが、噴霧造粒法が好ましい。粒子強度は造粒工程においてその制御が可能である。好ましい範囲の圧壊強度を得るためには、本発明のイオン交換性層状化合物粒子を微細化した後に再粒子化することが好ましい。該イオン交換性層状化合物は、如何なる方法において微細化してもよい。
微細化する方法としては、乾式粉砕、湿式粉砕いずれの方法でも可能であるが、湿式粉砕が好ましい。湿式粉砕とは、水を分散媒として使用しイオン交換性層状化合物の膨潤性を利用した粉砕方法をいう。例えばポリトロン等を使用した強制撹拌による方法やダイノーミル、パールミル等による方法が例示できる。造粒する前の粒径及び1μm未満粒子の体積分率は、平均粒径が0.01〜5μm、かつ1μm未満の粒子分率が10%以上、好ましくは、平均粒子径が0.1〜3μm、かつ1μm未満の粒子分率が40%以上である。噴霧造粒の分散剤は通常、水を使用する。
【0036】
造粒粒子の形状は球状であることが好ましい。球状粒子が得られる噴霧造粒の原料スラリー液おけるイオン交換性層状化合物の濃度は、スラリー粘度にもよるが、0.1〜50%、好ましくは1〜30%、特に好ましくは2〜20%である。球状粒子が得られる噴霧造粒の熱風の入り口における温度は、分散媒により異なるが、水を例にとると80〜260℃、好ましくは100〜220℃で行う。本発明の特定の細孔分布を有するイオン交換性層状化合物を製造するためには、化学処理前に造粒を行うことが好ましい。
【0037】
(2)(B)成分について
本発明のオレフィン重合用触媒成分には、(B)成分として下記の一般式(B−1)で表わされる、分子量1,000以下の有機化合物を用いる。
【化2】

【0038】
式中、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。また2つの(B−1)成分は、R1を介して結合していてもよい。
【0039】
上記(B−1)に分類される化合物として、好ましい化合物は、以下のものである。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【0040】
上記例示化合物のうち、上記(B−1)に分類される化合物として、特に好ましい化合物は、以下のものである。
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0041】
(3)(A)成分と(B)成分の接触方法
本発明のオレフィン重合用触媒成分は、(A)成分と(B)成分を接触させて得られる。好適な具体例として、ホスト化合物((A)成分など)の層間において陽イオンとイオン交換されたチタン等の金属イオンに対して、ゲスト化合物((B)成分)がインターカレートされ、層間において錯化されて新規な重合触媒を形成する。この状態と処理工程(処理フロー)は、前述したように、図1に掲示されている。
【0042】
具体的には、ナトリウムなどの陽イオンを有するホスト化合物を、遷移金属塩の水溶液中でイオン交換し、濾過、洗浄、焼成、真空排気による乾燥を行って、イオン交換したホスト化合物を得る。次いで、ゲスト化合物のn−ブタノール溶液で接触処理し、洗浄し真空排気乾燥によるn−ブタノールの除去を経て、重合触媒成分が入手できる。
【0043】
接触は任意の方法で実施することが出来るが、一般的な形態を以下に説明する。即ち、通常、接触する際の(A)成分の濃度は、0.1〜60重量%、好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%であり、(B)成分の濃度は、10−3〜1mol/L、好ましくは10−2〜0.3mol/L、更に好ましくは0.05〜0.1mol/Lであり、(A)成分と(B)成分の比は、0.001〜10mmol/g、好ましくは0.01〜2mmol/g、更に好ましくは0.1〜1mmol/gである。
【0044】
接触は、液体中で実施することが好ましく、トルエン、n−ヘプタン、エタノール、ジエチルエーテル、アセトン等の炭化水素溶媒、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、アルデヒド類を始めとする各種有機溶媒中、或いは水溶液中において実施されるが、(B)成分が処理温度において液体状であれば、無溶媒で用いることもでき、好ましくはアルコール中、或いはエーテル中等で、成分(B)を可溶化させつつ、成分(A)の層状化合物を膨潤させることができる溶媒中で実施される。
処理温度は、系内に液体が存在する温度であれば特に限定されないが、好ましくは0℃〜100℃、更に好ましくは室温〜80℃である。処理時間は、一般的には5分〜720時間の条件を選択するが、(A)成分である当イオン交換性層状化合物の層間に(B)成分の少なくとも一部がインターカレートされる条件で行うことが好ましい。
【0045】
(A)成分の層間に(B)成分がインターカレートされたことの確認は、(A)成分の層間への遷移金属イオン又は該遷移金属錯イオンのインターカレーションの確認と同様、元素分析とX線回折測定により測定される底面間距離の大きさから行う。
【0046】
一般に、層状化合物の粉末法X線回折測定では、低角度側に層状構造特有の回折ピークが現れる。この回折ピークは底面反射ピークと呼ばれ、層が積み重なった方向の繰り返しに由来する回折線である。この回折ピークの回折角度と用いたX線の波長からブラッグの式を使ってd値を計算すれば、底面間距離が求められる。なおこの底面間距離には層自身の厚みも含まれている。本発明では、(B)成分が層間にインターカレートされた後の(A)成分の底面間隔距離は、スメクタイトの場合、好ましくは10.0〜30.0Åであり、更に好ましくは12.0〜20.0Åであり、特に好ましくは13.0〜18.0Åである。また、当インターカレート処理前後のイオン交換性層状化合物の底面間隔距離の増加量は、通常、0Åより大きく20.0Å以下であり、好ましくは1.0〜15.0Åであり、更に好ましくは3.0〜10.0Åであり、特に好ましくは4.0〜7.0Åである。層状化合物の底面間距離は、X線回折測定で2θが5度〜10度付近のシフトから、計算することが可能である。
【0047】
このような接触反応の後、通常、水若しくは前記溶媒による洗浄により、過剰の(B)成分を除去した後、一般のオレフィン重合用触媒を被毒しないような溶媒、例えば、脱水されたトルエン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性炭化水素溶媒による洗浄を行い、必要に応じて、有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルカリ化合物等による処理を行ったものが、オレフィン重合用触媒成分として、オレフィン重合用触媒の製造に供され、裸触媒として、あるいは予備重合触媒として、オレフィン重合体の製造に使用される。
【0048】
(4)任意成分について
本発明においては、触媒成分は、オレフィン重合用の触媒成分として使用されるが、重合触媒としての使用に際し、任意成分である(C)成分として有機アルミニウム化合物が必要に応じて使用される。下記一般式で表される化合物が好んで使用される。
AlR3−p
式中、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Xは、ハロゲン、水素、アルコキシ基、アミノ基を示す。pは1以上3以下までの範囲である。
【0049】
その際、Rとしてはアルキル基が好ましく、またXは、それがハロゲンの場合には塩素が、アルコキシ基の場合には炭素数1〜8のアルコキシ基が、アミノ基の場合には炭素数1〜8のアミノ基が、好ましい。本発明ではこの式で表される化合物を単独で、複数種混合して或いは併用して使用することができることはいうまでもない。また、この使用は触媒調製時だけでなく、予備重合或いは重合時にも可能である。
【0050】
従って、(C)成分として好ましい化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。
これらのうち、好ましくは、p=3のトリアルキルアルミニウム、又はp=2でXが水素であるジアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、Rが炭素数1〜8であるトリアルキルアルミニウムであり、特に好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムである。
【0051】
2.オレフィン重合触媒の調製
(1)接触
本発明による触媒は、上記の各成分を重合槽外で或いは重合槽内で、同時に若しくは連続的に、或いは一度に若しくは複数回にわたって、接触させることによって形成させることができる。
【0052】
各成分の接触は、脂肪族炭化水素或いは芳香族炭化水素溶媒中で行うのが普通である。接触温度は特に限定されないが、−20〜150℃の間で行うのが好ましい。接触順序としては任意の組み合わせが可能であるが、特に好ましいものを各成分について示せば次の通りである。
通常、まず成分(B)と成分(A)を接触させる。成分(C)の成分(B)への添加は、成分(A)よりも前に、同時に、或いは後に添加することが可能であるが、好ましくは、後に添加する方法である。
各成分を接触させた後は、脂肪族炭化水素或いは芳香族炭化水素溶媒にて洗浄することが可能である。
【0053】
(2)各成分の使用量
本発明で使用する成分(A)、(B)及び(C)の使用量は任意である。例えば、成分(A)に対する成分(B)の使用量は、成分(A)1gに対し、好ましくは0.1〜1,000μmol、特に好ましくは0.5〜500μmolの範囲である。成分(A)に対する成分(C)の使用量は、成分(A)1gに対し、好ましくは0.001〜100mmol、特に好ましくは0.05〜10mmolの範囲である。
【0054】
3.オレフィンの重合
触媒をオレフィン重合用(本重合)の触媒として使用する前に、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等のオレフィンを予備的に少量重合する(予備重合)することができる。予備重合した触媒は、本重合の際に安定であるので、粒子破砕による微粉ポリマーの生成を防ぎ、流動性に優れた重合体粒子を製造できる。重合反応が安定運転できるので好ましい。また、予備重合工程には、活性点の形成を促進するという利点が存在する。すなわち、予備重合を実施することによって、予備重合ポリマーが重合活性点を包含し、当該活性点と被毒物との接触が制限されて、失活が防止できること、などの工業的な取り扱い上の利点が挙げられる。
【0055】
このエチレン等による予備的な重合は、その効果が失われない限りにおいて、触媒製造における全工程の、前、間、後、いずれにおいても実施可能であり、不活性溶媒中または無溶媒中(あるいは液状α−オレフィンを予備重合に使用する場合は該α−オレフィン中でもよい)、上記各成分の接触下、必要に応じて新たに前記成分[C]のような有機アルミニウムを追加して、エチレン、プロピレン等を供し、触媒成分1g当たり0.01〜1000g、好ましくは0.1〜100gの重合体が生成するように行うことが望ましい。予備重合温度は−100〜100℃、好ましくは−60〜100℃、であり、予備重合時間は0.1〜100時間、好ましくは0.1〜20時間である。
【0056】
本発明のオレフィン重合用触媒により重合できるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ビニルシクロアルカン、ブタジエン等の共役ジエン、1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン、スチレンあるいはこれらの誘導体等が挙げられる。また、重合は単独重合の他通常公知のランダム共重合やブロック共重合にも好適に適用できる。
【0057】
重合反応は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、シクロヘキサン等の不活性炭化水素や液化α−オレフィン等、更には塩化メチレンやクロロベンゼンといったハロゲン化炭化水素溶媒の存在下、あるいは実質的に溶媒や単量体の液相が存在しない状態で気相重合により行うのが好ましい。気相重合は、例えば流動床、撹拌床、撹拌・混合機を備えた撹拌流動床等の反応装置を用いて行うことができる。重合温度、重合圧力等の条件は特に限定されないが、重合温度は、一般に−50〜250℃、好ましくは0〜100℃であり、また、重合圧力は通常、常圧〜約2000kgf/cm、好ましくは常圧〜200kgf/cm、更に好ましくは常圧〜50kgf/cmの範囲である。重合系内に分子量調節剤として水素を存在させてもよい。また重合方式としては、連続重合と回分式重合に適用される。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性測定、分析等は、下記の方法に従ったものである。
【0059】
(1)イオン交換性層状化合物の底面間距離の測定
本発明において(B)成分であるイオン交換性層状化合物の粉末X線回折パターンの測定には、リガク(株)製のRAD−Bシステム(X線:CuKα(波長:0.15406nm)カウンターモノクロメーター付き)を用いた。測定条件は、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャン軸:2θ/θ、測定範囲=2°〜15°、スキャン速度=1°/min、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.30mmとした。
【0060】
ここで(001)面における回折ピークは底面反射ピークと呼ばれ、その回折角度からブラッグの式を用いて算出されるd値は、層自身の厚みと層間距離の和、即ち底面間隔距離に相当する。従って(B)成分でインターカレート処理した(A)成分のd値が処理前に比べて増大すれば層間が広がったことを示しており、(B)成分が層間にインターカレートしたと判断できる(図1を参照)。なお、(B)成分により処理した(A)成分は、いずれの場合も測定前に110℃で1時間真空排気することで(B)成分と競争的に層間にインターカレートした溶媒を選択的に除去してから、測定に用いた
【0061】
(2)GPCによるポリマー分子量の測定
本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。
保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
【0062】
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4 α=0.70
PE:K=3.92×10−4 α=0.733
PP:K=1.03×10−4 α=0.78
【0063】
なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C) 検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm) カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本) 移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン 測定温度:140℃ 流速:1.0ml/分 注入量:0.2ml 試料の調製:試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図2に例示されるように行う。
【0064】
(3)DSCによるポリマーの融点(Tm)の測定
JIS K7121に準拠して測定した。試料5mgを170℃で5分間融解後、10℃/分の速度で20℃に降温し、1分間保持後、170℃まで10℃/分の昇温速度で融解曲線を測定し、ピークトップ温度(℃)を融点(Tm−DSC)とした。
【0065】
[フェノキシイミン配位子合成例1]
(1)充分に窒素置換した500mlの反応器に、エチルマグネシウムブロミド35.0ml(エーテル溶液、3M、105mmol)および無水テトラヒドロフラン40mlを装入した。氷冷下、2,4−ジ−t−ブチルフェノール20.63g(100mmol)を無水テトラヒドロフラン40mlに溶解した溶液を10分かけて滴下した。滴下終了後室温にて攪拌し、トルエン250mlを加えて加熱攪拌し、テトラヒドロフランおよびジエチルエーテルを留去した。室温まで冷却し、パラホルムアルデヒド7.73g(94%、242mmol)およびトリエチルアミン19.9ml(143mmol)を加えて75℃にて40分加熱攪拌した。室温まで冷却しさらに氷冷しながら10%塩酸170mlを加えて分液し、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、続けて塩化ナトリウム水溶液100mlで洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧乾燥して得られた結晶を減圧乾燥し、下記式(a)で示される黄色の化合物を18.6g(収率77%)得た。
【化18】

(2)充分に窒素置換した100mlの反応器にトルエン40ml、ペンタフルオロアニリン2.01g(11.0mmol)、上記で得られた化合物(a)2.42g(純度=96.9%、10.0mmol)および触媒として少量のp−トルエンスルホン酸を装入し、還流させながら6時間撹拌を続けた。この反応液を減圧濃縮して下記式(a’)で示される黄色固体の化合物を2.99g(収率74.2%)得た。
【化19】

【0066】
[フェノキシイミン配位子合成例2]
200ml反応器に2−ヒドロキシ−3−フェニル−ベンズアルデヒド9.3g(47mmol)およびメタノール60mlを入れた。ギ酸1.90mlと2,6−ジイソプロピルアニリン11.0g(62.9mmol)を加え、室温で13時間撹拌した。析出した黄色固体をろ過し、メタノール50mlで洗浄し、乾燥することで下記式(b)で示される黄色固体の化合物を15.0g(収率89%)得た。
【化20】

【0067】
[実施例1]
(1)Mg2+イオン交換モンモリロナイトの合成
市販の膨潤性モンモリロナイト(ベンクレイSL・水澤化学社製)20Kgを硫酸マグネシウムの硫酸水溶液(硫酸マグネシウム濃度6.9重量%、硫酸濃度11.2重量%)187kg中に分散させ、90℃で7時間撹拌した。これを脱塩水にて濾過・洗浄した後、得られた固体ケーキを110℃で10時間乾燥した。得られた乾燥モンモリロナイト中の塊状物を目開き75μmの篩によって取り除き、篩を通過したMg2+イオン交換モンモリロナイト粒子を10kg得た。
【0068】
(2)Ti4+イオン交換モンモリロナイトの合成
上記の(1)で得られたMg2+イオン交換モンモリロナイト粒子150gを、市販の硫酸チタニル(堺化学工業(株)製、TiOとして7.5%含有、SOとして25.6%含有)溶液958gと硫酸51.2gの混合溶液中に分散させて90℃で3時間攪拌した。これを脱塩水にてpH3.5まで濾過・洗浄した後、得られた含水固体ケーキを110℃で10時間予備的に乾燥し、更に200℃で2時間減圧乾燥してTi4+イオン交換モンモリロナイトを得た。
【0069】
(3)触媒成分調製(モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体調製)
次に(2)で得られたTi4+イオン交換モンモリロナイト0.50gを窒素雰囲気下で30mLフラスコに量り取り、そこに0.75mmolのフェノキシイミン配位子(a‘)を脱水n−ブタノール25.0mLに溶かした溶液を8.3mL加え、5分間撹拌後、70℃に保ったオイルバス中で、24時間反応させた。反応時間終了後、室温まで冷却してから、上澄み液を可能な限り抜き出し、更に脱水n−ブタノール10mLを加えて1分間撹拌して洗浄した。静置後、触媒成分が沈降したら上澄み液を可能な限り抜き出した。このn−ブタノールによる洗浄操作を3回行った。次に脱水n−ヘプタン10mLを加えて洗浄し、触媒成分沈降後、上澄み液を可能な限り抜き出した。この洗浄操作を3回行った。最後に室温にて溶媒を減圧排気し、目視にて溶媒が確認されなくなってから更に30分間減圧乾燥を行って触媒成分とした。
【0070】
(4)エチレン・1−ヘキセン共重合
上記の(3)で得られたモンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体を用いてエチレン・1−ヘキセンのスラリー共重合を行った。即ち、1Lオートクレーブにn−ヘプタン1.50L、1−ヘキセン60ml、トリエチルアルミニウム2.5mmolを加え、80℃に昇温し、更にエチレンを分圧2.0MPaとなるまで導入した。次いで、(B)成分として上記複合体100mg(ヘプタンスラリー10ml分)をアルゴンで圧入して重合を開始し、エチレン分圧を2.0MPaに保って、70℃で60分間重合を継続した後、エタノールを加えて重合を停止させた。反応器壁への付着が無く、粒子状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が0.5g得られた。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
(1)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体の代わりに、実施例1(2)のTi4+イオン交換モンモリロナイトを用いた以外は実施例1(4)と同様にして重合を行なった。60分間重合を行なって、微粉状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が0.2g得られた。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例2]
(1)Zr4+イオン交換モンモリロナイトの合成
実施例1の(1)で得られたMg2+イオン交換モンモリロナイト粒子200gを、純水900g、市販の硫酸ジルコニウム(IV)四水和物(三津和化学(株)製)427g、硫酸125gの混合溶液中に分散させて90℃で3時間攪拌した。これを脱塩水にてpH3.5まで濾過・洗浄した後、得られた含水固体ケーキを110℃で10時間予備的に乾燥し、更に200℃で2時間減圧乾燥してZr4+イオン交換モンモリロナイトを得た。
【0073】
(2)触媒成分調製(モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体調製)
Ti4+イオン交換モンモリロナイトの代わりに(1)で得られたZr4+イオン交換モンモリロナイトを使用した以外は実施例1(3)と同様にして触媒成分を得た。
【0074】
(3)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体として、上記(2)で得られたZr4+イオン交換モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体を用いた以外は実施例1(4)と同様にして重合を行なった。60分間重合を行なって、反応器壁への付着が無く、粒子状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が0.4g得られた。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
(1)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体の代わりに、実施例2(1)のZr4+イオン交換モンモリロナイトを用いた以外は実施例2(3)と同様にして重合を行なった。60分間重合を行なって、微粉状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が0.2g得られた。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
(1)Cr3+イオン交換モンモリロナイトの合成
実施例1の(1)で得られたMg2+イオン交換モンモリロナイト粒子200gを、純水1,000gと市販の硝酸クロム(III)九水和物240gの混合溶液中に分散させて90℃で3時間攪拌した。これを脱塩水にてpH3.5まで濾過・洗浄した後、得られた含水固体ケーキを110℃で10時間予備的に乾燥し、更に200℃で2時間減圧乾燥してCr3+イオン交換モンモリロナイトを得た。
【0077】
(2)触媒成分調製(モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体調製)
Ti4+イオン交換モンモリロナイトの代わりに(1)で得られたCr3+イオン交換モンモリロナイトを使用した以外は実施例1(3)と同様にして触媒成分を得た。
【0078】
(3)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体として、上記(2)で得られたCr3+イオン交換モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体を用いた以外は実施例1と同様にして重合を行った。60分間重合を行なって、反応器壁への付着が無く、粒子状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が11.0g得られた。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例3]
(1)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体の代わりに、実施例3(1)のCr3+イオン交換モンモリロナイトを用いた以外は実施例3(3)と同様にして重合を行なった。60分間重合を行なって、微粉状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が3.8g得られた。結果を表1に示す。
【0080】
「実施例4」
(1)触媒成分調製(モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体調製)
フェノキシイミン配位子(a’)の代わりにフェノキシイミン配位子(b)を使用した以外は実施例1(3)と同様にして触媒成分を得た。
【0081】
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合
モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体として、上記(1)で得られたTi4+イオン交換モンモリロナイト−フェノキシイミン配位子複合体を用いた以外は実施例1(4)と同様にして重合を行った。60分間重合を行なって、反応器壁への付着が無く、粒子状のエチレン・1−ヘキセン共重合体が0.5g得られた。結果を表1に示す。
【表1】

【0082】
上記の表1の結果より、以下のことがわかる。
表1の実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3の結果からして、本発明の重合触媒が、高分子量で粒子性状に優れた重合体を製造することができ、経済的に有利なオレフィン重合用触媒であることを明示している。また、実施例4では、実施例1〜3とは異なるタイプのフェノキシイミン配位子複合体を用いても同様の良好な結果が得られた。従って、本発明の構成要件を有する触媒の有用性と有意性が実証され、更に本発明の従来技術に対する卓越性も明らかにされている。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、従来の非メタロセン系オレフィン重合触媒の技術改良を行った結果、粒子性状に優れたポリマーを生成でき、経済的に安価なオレフィン重合用触媒が実現され、その結果、この重合触媒を用いて安定かつ経済的に有利なオレフィン重合体の製造が可能である。このため、本発明の重合触媒の工業的な意義は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】イオン交換性層状化合物の層間カチオンがインターカレートされた状態を例示する模式図、およびインターカレート処理工程を例示する処理フロー図である。
【図2】GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間とを説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分と(B)成分を接触する工程を含むことを特徴とするオレフィン重合用触媒の製造方法。
(A)成分:周期表第3〜11族の遷移金属イオン又は該遷移金属の錯イオンが、インターカレートされたイオン交換性層状化合物
(B)成分:次の一般式(B−1)で表わされる、分子量1,000以下の有機化合物
【化1】

(式中、R〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。また2つの(B−1)成分がRを介して結合していてもよい。)
【請求項2】
(A)成分は、周期表第4、5、6、8、9または10族の遷移金属イオンまたは該遷移金属の錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項3】
(A)成分は、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Fe、Co、NiまたはPdの遷移金属イオンまたは該遷移金属の錯イオンがインターカレートされたイオン交換性層状化合物であることを特徴とする請求項2に記載のオレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分は、水、アルコール、ケトン、エステル、ニトリル、無機酸および有機酸の中から選択される少なくとも一つの溶媒の存在下に接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の製造方法。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分を接触する工程に加えて、更に、下記(C)成分を接触させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の製造方法。
(C)成分:有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物および有機亜鉛化合物の中から選択される少なくとも一つの有機金属化合物
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造されることを特徴とするオレフィン重合用触媒。
【請求項7】
(A)成分と(B)成分を接触して得られるイオン交換性層状化合物は、X線回折測定による層間距離が10〜30オングストロームであることを特徴とする請求項6に記載のオレフィン重合用触媒
【請求項8】
請求項6または7に記載のオレフィン重合用触媒を用いることを特徴とするオレフィン重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40831(P2009−40831A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205338(P2007−205338)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】