説明

オーディオ信号の再生機および再生方法

【課題】 常に歩行テンポに見合ったテンポの楽曲を再生できるようにする。
【解決手段】 楽曲のデジタルオーディオデータを保存するストレージ121と、デジタルオーディオデータの再生を行う再生回路122と、ユーザの歩行のテンポを検出する検出手段130とを設ける。検出手段130の検出した歩行のテンポを、その出現頻度にしたがって複数のグループに分類する。制御回路110は、検出手段130の検出した歩行のテンポが、複数のグループのどれに含まれるかを判別し、この判別結果にしたがって、該当するグループに対応するプレイリストを選択し、この選択したプレイリストに登録されている楽曲のデジタルオーディオデータをストレージ121から取り出して再生回路122に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオーディオ信号の再生機および再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから健康維持、健康増進、ダイエットなどの目的でウォーキングやジョギングあるいはランニングなどの歩行・走行に取り組む人が増えている。この歩行・走行により一定の効果を得るには、ある程度まとまった時間、継続して歩行・走行を実行する必要がある(以下においては、簡単のため、ウォーキングやジョギングあるいはランニングなどの運動を総称して「歩行」と呼ぶ)。
【0003】
そこで、歩行者(ユーザ)が歩行するときに携帯できるようなオーディオ再生機であって、歩行者の歩行テンポに見合ったテンポの楽曲を再生して歩行者に聴かせるようにしたものが提案されている。なお、歩行テンポは、単位時間あたり、例えば1分間あたりの歩数であり、楽曲のテンポは1分間あたりの拍数である。
【0004】
そのような再生機によれば、歩行者は楽曲のテンポに合わせてリズムに乗って歩行することができ、楽しく歩行を続けることができる。
【0005】
なお、先行技術文献として例えば以下のものがある。
【特許文献1】特開2005−156641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歩行者の歩行テンポは状況に応じて変化する。したがって、上述のようなオーディオ再生機においては、歩行者の歩行テンポに対応して再生される楽曲のテンポを変更する必要がある。そして、そのためには歩行テンポを検出し、その検出した歩行テンポに対応して再生される楽曲を変更することになる。
【0007】
ところが、この場合、歩行テンポがどの程度変化したら再生される楽曲を変更するかが重要になる。例えば、歩行テンポが規定の割り合いを越えたとき、楽曲を変更するという設定が考えられる。しかし、この設定の場合には、歩行テンポがゆっくりしているときには、歩行テンポが少し変わっただけで楽曲が変更されてしまい、逆に歩行テンポが速いときには、歩行テンポが大きく変わっても楽曲が変更されないことになってしまう。
【0008】
その点、歩行テンポが規定の大きさを越えたとき、楽曲を変更するという設定にすれば、歩行テンポがゆっくりしているときでも、速いときでも、適切に楽曲を変更することができる。しかし、歩行者の体調や個人差などによって歩行テンポが異なるので、また、歩行そのものに揺らぎがあるので、この場合には、細かい設定や調整が必要になってくる。
【0009】
このように歩行テンポが変化したら再生される楽曲を変更するといっても、その変更するときの条件を十分に考慮する必要がある。歩行しながら音楽も楽しんでいるのであるから、中途半端に楽曲やそのテンポが変更されると、不快感を憶えたり、場合によっては危険でもある。
【0010】
この発明は、以上のような点にかんがみ、歩行テンポが変化したとき、再生されている楽曲を適切に変更し、常に歩行テンポに見合ったテンポの楽曲を再生できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明においては、
楽曲のデジタルオーディオデータを保存するストレージと、
上記デジタルオーディオデータの再生を行う再生回路と、
ユーザの運動のテンポを検出する検出手段と、
上記デジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する制御回路と
を有し、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポを、その運動のテンポの出現頻度にしたがって複数のグループに分類したとき、
上記制御回路は、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポが、上記複数のグループのどれに含まれるかを判別し、
この判別結果のグループの運動のテンポに見合ったテンポの楽曲のデジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する
ようにしたオーディオ信号の再生機
とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、現在の運動のテンポが、運動のテンポを出現頻度にしたがってグループ分けしたときのどのグループに含まれるかを判別し、その判別結果により選曲を行っているので、運動のテンポがゆっくりしているときでも、速いときでも、再生される適切な楽曲を再生することができ、ユーザは、再生機が自分にあわせて選曲をしてくれているという心地よさを感じることができる。また、ユーザが細かい設定や調整を行う必要がなく、しかも、ユーザの体調や個人差あるいは歩行そのものの揺らぎなどの影響を受けにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔1〕 歩行パターンの分析
14名の被験者(成人男子8名および成人女子6名)について、日常生活における歩行の分析を行ったところ、その歩行は、図1に示すように4つのグループ「低速歩行」、「通常歩行」、「ジョギング」および「走行」に大別できることがわかった。つまり、日常生活における歩行は、これら「低速歩行」〜「走行」に分類される。
【0014】
また、この4つのグループについて被験者の歩行テンポを測定したところ、図2に示す結果を得ることができた。ここで、図2の横軸は歩行テンポ(数秒間の平均の歩行テンポ)を示し、縦軸は頻度(人数)を示す。なお、図2および以降の図において、グラフの横軸を歩行テンポとする場合には、歩行テンポを10bpmを単位として丸め、すなわち、10bpmずつに区切り、横軸も同様として示す。
【0015】
この測定結果によれば、日常生活における歩行テンポは、一様に分布するものではなく、いずれかのグループに含まれることがわかる。また、歩行テンポが、80bpm以下、140〜160bpm、230bpm以上の各範囲は、日常生活ではほとんど出現しないこともわかる。なお、以下、歩行テンポが出現しない中間の範囲140〜160bpmを「空白範囲」と呼ぶ。
【0016】
この空白範囲は、人間は輸送エネルギー消費の効率のよい状態を自動的に選択し、歩行を行っているためと考えられる。そして、空白範囲における歩行テンポは、歩行とジョギングとの中間に位置するテンポであり、一般に言うところの「競歩」の状態である。しかし、日常生活では、競歩のような状態で歩くことはほとんどない。したがって、上記の測定結果のように、通常では、空白範囲はほとんど出現しないと考えられる。
【0017】
図3は、ある被験者について、歩行テンポとその出現頻度との関係を測定した結果を示す。この測定結果によると、この被験者の歩行テンポは、上記の4つのグループに大別できる。また、それぞれのグループにおいて、歩行テンポにばらつきがある。さらに、空白範囲もある。しかし、グループごとに平均値、標準偏差および変動係数を求めることができ、その範囲を推定することもできる。
【0018】
〔2〕 この発明の概要
この発明においては、歩行しながら楽曲を再生するとき、〔1〕に基づいて以下のようにして楽曲の再生を行う。すなわち、図1〜図3の場合で述べると、
(1) 歩行者の歩行テンポをあらかじめ取得する。
(2) 図4に示すように、取得した歩行テンポを、その出現頻度にしたがってグループMD(1)〜MD(7)に分類する。
(3) 使用時(再生時)には、そのときの歩行テンポが(2)項のどのグループに含まれるかをリアルタイムで判別する。
(4) この判別結果が示すグループの歩行テンポに見合ったテンポの楽曲を再生する。
【0019】
また、後述の実施例においては、楽曲の選曲・変更を円滑に行うため、(3)および(4)項を次のような処理とする。すなわち、
(5) 図5に示すように、プレイリストPL(1)〜PL(7)を用意する。このプレイリストPL(1)〜PL(7)は、楽曲をそのテンポ別に登録しておくためのものであるが、プレイリストPL(1)〜PL(7)の受け持つテンポは、(2)項のグループMD(1)〜MD(7)の歩行テンポに対応するものとする。
(6) 楽曲を、そのテンポに対応したプレイリストPL(1)〜PL(7)に登録しておく。
(7) 使用時(再生時)には、そのときの歩行テンポが、プレイリストPL(1)〜PL(7)のうちのどれに含まれるかをリアルタイムで判別する。
(8) この判別結果が示すプレイリストを選択し、その選択したプレイリストに登録されている楽曲を選曲して再生する。
【0020】
〔3−1〕 歩行テンポの学習
図6において、符号100はこの発明による再生機を示し、学習時、ユーザ(歩行者)は再生機100を携帯して歩行する。この歩行時、再生機100は、数m秒〜数秒ごとに歩行テンポ(瞬時的な歩行テンポ)MT(t)を計測し、その計測した歩行テンポMT(t)から、数秒分ずつの平均的な歩行テンポm_MT(t)を算出する。図6においては、再生機100が、1秒ごとに歩行テンポMT(t)を計測し、その計測結果から、5秒ごとの平均の歩行テンポm_MT(t)を算出した場合である。
【0021】
この算出した平均歩行テンポm_MT(t)は、時刻情報とともに再生機100のストレージに蓄積する。こうして、再生機100はユーザの歩行テンポを学習する。
【0022】
そして、歩行テンポを学習したら、図7に示すように、再生機100をパーソナルコンピュータ200に接続し、再生機100に蓄積した平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報を、パーソナルコンピュータ200に転送する。
【0023】
この場合、パーソナルコンピュータ200に過去の平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報が保存されているときには、新しく転送した平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報を、その保存されている平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報にマージしてもよい。
【0024】
〔3−2〕 歩行テンポのグループ分け
パーソナルコンピュータ200においては、転送された平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報から平均歩行テンポm_MT(t)の出現回数についてのヒストグラムを作成し、そのヒストグラムから極大値を検出して歩行テンポのグループ分けを行う。
【0025】
図8は、平均歩行テンポm_MT(t)から作成したヒストグラムの一例を示し、横軸は平均歩行テンポm_MT(t)、縦軸は出現回数を示す。そして、このヒストグラムにおいて、極大値を検出するとともに、その極大値を横軸方向に順に極大値MD(1)max、MD(2)max、・・・、MD(k)maxとする。図8においては、k=5である。
【0026】
そして、これら極大値MD(1)max〜MD(k)maxをそれぞれ頂点とする平均歩行テンポの分布を、グループMD(1)〜MD(k)に分類する。続いて、グループMD(1)〜MD(k)のそれぞれにおいて、平均歩行テンポm_MT(t)の下限値MD(n)lowerおよび上限値MD(n)upper(n=1〜k)を求める。図8においては、下限値MD(1)lower〜MD(5)lowerおよび上限値MD(1)upper〜MD(5)upperを求める。
【0027】
この場合、グループMD(n)が他のグループと重複していないときには、グループMD(n)の両端に注目し、出現回数が0となる横軸の値を下限値MD(n)lowerおよび上限値MD(n)upperとする。また、2つのグループMD(n-1)、MD(n)が重複しているときには、その重複しているグループMD(n-1)の極大値MD(n-1)maxと、グループMD(n)の極大値MD(n)maxとの中央値を、グループMD(n-1)の上限値MD(n-1)upperおよびグループMD(n)の下限値MD(n)lowerとする。
【0028】
さらに、図8の極大値MD(5)maxおよびそのグループMD(5)のように、極大値がヒストグラムの上端あるいは下端に位置する場合には、その極大値およびグループは無視する。
【0029】
以上にしたがってグループMD(n)を再編成すると、図8の場合には、図9Aにも示すように、4組の下限値MD(1)lowerおよび上限値MD(n)upper〜下限値MD(4)lowerおよび上限値MD(4)upperを得ることができる。以後は、この4組の下限値MD(n)lowerおよび上限値MD(n)upperを、歩行テンポのグループMD(n)の新たな下限値および上限値とするものである。
【0030】
また、図9Bにおいては、平均歩行テンポm_MT(t)が80bpm以下の場合(遅すぎる場合)、140〜160bpmの場合(空白範囲)および210bpm以上の場合(速すぎる場合)を、グループMD(5)、MD(6)およびMD(7)としている。なお、図9A、Bの最右列にも示すように、下限値MD(n)lowerおよび上限値MD(n)upperの組を、以後、「歩行ステータスMS(n)」と呼ぶ。
【0031】
上述の図4は、図9に示した歩行ステータスMS(1)〜MS(7)を図解したものであり、グループMD(1)〜MD(4)が、該当する歩行者の「低速歩行」〜「走行」に対応する。
【0032】
そして、以上の解析を終了したら、その解析結果、すなわち、例えば図9に示す歩行ステータスMS(1)〜MS(7)を再生機100に転送する。
【0033】
〔3−3〕 プレイリストへの楽曲の登録
プレイリストは、図5により説明したように、楽曲を歩行ステータスMS(n)により分類して登録したものである。図5に示すプレイリストにおいては、楽曲として再生されるデジタルオーディオデータのファイル名を、歩行ステータスMS(n)により分類した場合である。
【0034】
すなわち、図5においては、7つのプレイリストPL(1)〜PL(7)が用意され、プレイリストPL(1)〜PL(4)が、歩行ステータスMS(1)〜MS(4)の歩行テンポを受け持つものとされ、プレイリストPL(5)〜PL(7)が、歩行ステータスMS(1)〜MS(4)の歩行テンポを受け持つものとされる。
【0035】
そして、任意の楽曲のテンポが、プレイリストPL(j)(j=1〜7のどれか)の受け持つテンポに含まれるとき、その楽曲のデジタルオーディオデータのファイル名が、そのプレイリストPL(j)に登録されている。図5に示す例においては、プレイリストPL(5)に、テンポが80bpm未満の楽曲がそれらのファイル名E1〜Eeにより登録され、プレイリストPL(1)に、テンポが80〜120bpmの楽曲がそれらファイル名A1〜Aaにより登録され、・・・、プレイリストPL(7)に、テンポが210bpm以上の楽曲がそれらファイル名G1〜Ggにより登録されている場合である。
【0036】
〔3−4〕 楽曲の再生
歩行時に再生機100が使用されて楽曲の再生が指示されると、このときの平均歩行テンポm_MT(t)を検出する。そして、この検出した現在の平均歩行テンポm_MT(t)により歩行ステータスMS(1)〜MS(7)を参照し、現在の平均歩行テンポm_MT(t)が、歩行ステータスMS(1)〜MS(7)のうちのどれに含まれるかを判別し、その判別結果を値C(t)とする。
【0037】
例えば、平均歩行テンポm_MT(t)が図10の第2列に示すように変化するときには、その平均歩行テンポm_MT(t)は、第3列に示す歩行ステータスMS(t)に含まれるので、判別値C(t)は第4列に示すとおりとなる。
【0038】
そして、図10の第5列に示すように、判別値C(t)によりプレイリストPL(1)〜PL(7)のうち、プレイリストPL(C(t))を選択し、このプレイリストPL(C(t))に含まれる楽曲を選択し、この楽曲を再生する。
【0039】
また、定常時、すなわち、楽曲の再生中には、現在の歩行ステータスMS(C(t))と、1つ前の平均歩行ステータスMS(C(t-1))とを比較し、
(A) 両者に違いを生じたとき、かつ、その時点で再生されている楽曲があらかじめ決められた時間以上すでに再生されているとき
(B) 上記(A)項以外のとき
のどちらであるかを判別する。
【0040】
そして、(B)項のときには(例えば図10の第1行目〜第3行目)、その時点で再生されている楽曲を継続して再生する。なお、再生中の楽曲が終了したときには、再び現在のプレイリストPL(C(t))に含まれる楽曲を選択し、その楽曲を再生する。
【0041】
しかし、(A)項になったときには(例えば図10の第4行目)、この(A)項になった時点の判別値C(t)によりプレイリストPL(C(t))を選択し、このプレイリストPL(C(t))に含まれる楽曲を選択し、この楽曲を再生する。したがって、この時点から再生される楽曲およびそのテンポが、平均歩行テンポm_MT(t)に対応して変更されたことになり、以後、その再生が継続される。
【0042】
こうして、再生機100は、平均歩行テンポm_MT(t)に見合ったテンポの楽曲を再生する。そして、このとき、平均歩行テンポを学習することにより、例えば図4に示すような歩行テンポのグループを得、再生される楽曲のテンポが、歩行テンポのグループの範囲に含まれるように選曲をしているので、歩行テンポがゆっくりしているときでも、速いときでも、再生される楽曲を適切に変更することができる。
【0043】
また、歩行テンポのグループは学習により得ているので、ユーザ(歩行者)が細かい設定や調整を行う必要がなく、しかも、ユーザの体調や個人差あるいは歩行そのものの揺らぎなどの影響を受けにくい。
【0044】
〔4〕 再生機100の構成例
図11は、この発明によるオーディオ信号の再生機100の回路構成の一例を示す。この再生機100は、歩行の支援機器として使用できるとともに、一般的な携帯プレーヤとしても使用できるものであり、図示はしないが、歩行時にポケットなどに入れて携帯ができる大きさおよび形状に構成されている。
【0045】
そして、この再生機100は、マイクロコンピュータにより構成されたシステム制御回路110を有する。この制御回路110は、プログラムを実行するCPU111と、各種のプログラムの書き込まれているROM112と、ワークエリア用のRAM113と、不揮発性メモリ114とを有し、これらメモリ112〜114はシステムバス119を通じてCPU111に接続されている。
【0046】
この場合、ROM112には、CPU111が上述した各種の処理を実行するためのプログラムが用意されている。また、不揮発性メモリ114は、この再生機100やユーザについての各種の情報を保存しておくためのものであり、例えばフラッシュメモリにより構成されている。
【0047】
さらに、この再生機100はストレージ121を有する。このストレージ121は、楽曲として再生される各種の楽曲データ(楽曲のデジタルオーディオデータ)を蓄積ないし保存するものである。このため、ストレージ121は、大容量のフラッシュメモリあるいは小型のハードディスク装置により構成されている。なお、ストレージ121に保存される楽曲データは、例えばMP3方式によりデータ圧縮されたデジタルオーディオデータとされている。
【0048】
そして、ストレージ121はシステムバス119に接続されるとともに、再生回路122が設けられ、これもシステムバス119に接続される。この再生回路122は、データ圧縮されている楽曲データを、もとのデジタルオーディオデータにデータ伸張するデコーダ回路と、そのデジタルオーディオデータをアナログオーディオ信号にD/A変換するD/Aコンバータ回路と、出力アンプとから構成されている。
【0049】
そして、再生回路122は、ストレージ121から楽曲データが取り出されて供給されると、これをデータ伸張およびD/A変換し、そのアナログオーディオ信号をヘッドホンジャック123に出力する。このジャック123には、ヘッドホン10が接続される。
【0050】
また、システムバス119には、インターフェイス回路124が接続され、外部のパーソナルコンピュータ20からの楽曲データが、入力コネクタ125およびインターフェイス回路124を通じて制御回路110に取り込まれ、ストレージ121に保存される。
【0051】
さらに、ユーザが再生機100を携帯して歩行したとき、その歩行テンポを検出する検出手段130が設けられる。この検出手段130は、この例においては、3次元の加速度センサ131と、そのセンサ出力を解析する解析回路132とから構成される。そして、加速度センサ131によりユーザの身体の動きが検出され、この検出出力に対して解析回路132がスペクトル解析や自己相関の演算を行うことにより、加速度のピーク間隔から歩行テンポが検出される。この歩行テンポの検出出力は、システムバス119を通じて制御回路110に取り込まれる。
【0052】
また、各種の操作キー141がシステムバス119に接続されるとともに、このシステムバス119には、表示制御回路142を通じてディスプレイデバイス、例えばLCD143が接続される。この場合、操作キー141は、この再生機100を携帯プレーヤとして動作させるか歩行の支援装置として動作させるかの選択、それぞれの動作における動作モードの選択、選曲、各種の設定などを行うためのものであり、LCD143は、操作キー141の操作結果や再生中の楽曲の情報などを表示するためのものである。
【0053】
〔5〕 動作
〔5−1〕 楽曲の保存
再生機100に保存したい楽曲の楽曲データを、あらかじめデータ圧縮してパーソナルコンピュータ20に用意しておく。そして、パーソナルコンピュータ20を再生機100に接続し、パーソナルコンピュータ20において所定の転送プログラムを実行して楽曲データの転送を指示する。すると、パーソナルコンピュータ20に用意されている楽曲データが、コネクタ125を通じて再生機100に供給されるとともに、再生機100においては、その供給された楽曲データが、CPU21によりインターフェイス回路124を通じて取り込まれ、ストレージ121に保存される。
【0054】
〔5−2〕 歩行テンポの学習
歩行テンポを学習するには、再生機100を学習モードにセットし、ユーザ(歩行者)が再生機100を携帯して歩行する。すると、この歩行時、〔3−1〕に述べた処理が実行され、例えば図6に示すような平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報が、メモリ114に蓄積されていく。こうして、ユーザの歩行テンポが学習される。
【0055】
そして、歩行テンポが学習されたら、再生機100にパーソナルコンピュータ20を接続し、メモリ114に蓄積された平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報をパーソナルコンピュータ20に転送する。
【0056】
〔5−3〕 歩行ステータスMS(1)〜MS(7)の生成
パーソナルコンピュータ20においては、〔3−2〕において述べたように、転送された平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報を解析し、例えば図9に示す歩行ステータスMS(1)〜MS(7)を生成し、この歩行ステータスMS(1)〜MS(7)を再生機100に転送する。この歩行ステータスMS(1)〜MS(7)は、再生機100において、メモリ114に保存される。
【0057】
〔5−4〕 プレイリストPL(1)〜PL(7)の作成
再生機100にプレイリストの作成を指示すると、〔5−3〕により保存された歩行ステータスMS(1)〜MS(7)にしたがってプレイリストPL(1)〜PL(7)の受け持つ歩行テンポの範囲がそれぞれ設定される。
【0058】
続いて、〔5−1〕によりストレージ121に保存された楽曲のテンポが解析され、その楽曲のファイル名が、解析されたテンポにしたがってプレイリストPL(1)〜PL(7)のうちの対応するプレイリストに登録される。
【0059】
なお、楽曲のテンポは、楽曲データのスペクトル解析を行い、自己相関関数を求めることにより得ることができる。また、楽曲データをパーソナルコンピュータ20に用意するときに、楽曲のテンポを示す情報を、楽曲データにメタ情報として付加しておくこともできる。
【0060】
〔5−5〕 一般の携帯プレーヤとしての音楽の再生
この場合には、楽曲の再生を指示すると、ストレージ121に保存されている楽曲データが読み出され、この読み出された楽曲データが再生回路122に供給されてデータ伸張およびD/A変換が行われる。
【0061】
したがって、再生回路122からは、その読み出された楽曲データのアナログオーディオ信号が出力され、この信号がヘッドホン10に供給され、この結果、ユーザはその楽曲をヘッドホン10により聴くことができる。また、このとき、再生中の楽曲の曲名がLCD143に表示される。
【0062】
このとき、あらかじめ設定されている再生モードにしたがってストレージ121から楽曲データが読み出され、1曲だけの再生、全曲の連続再生、ランダムな順序での再生、リピート再生などが実行される。こうして、再生機100を一般の携帯プレーヤとして使用することができる。
【0063】
なお、プレイリストPL(1)〜PL(7)を指定したときには、その指定したプレイリストに登録されている楽曲だけが選曲されて再生される。例えば、就寝時であれば、プレイリストPL(5)を指定することにより、テンポのゆっくりした楽曲が再生される。
【0064】
〔5−6〕 歩行の支援機器としての音楽の再生
この場合には、〔3−4〕において説明したように、歩行テンポに見合ったテンポの楽曲が再生される。すなわち、再生機100においては、再生が指示されると、検出手段130により平均歩行テンポm_MT(t)が検出され、この検出された平均歩行テンポm_MT(t)により、〔5−3〕でメモリ114に保存された歩行ステータスMS(1)〜MS(7)が参照される。こうして、現在の平均歩行テンポm_MT(t)が値C(t)に変換される。
【0065】
そして、プレイリストPL1(1)〜PL(7)のうち、値C(t)が示すプレイリストPL(C(t))が選択されるとともに、この選択されたプレイリストPL(C(t))から楽曲データのファイル名が選択され、この選択されたファイル名の楽曲データがストレージ121から読み出され、この読み出された楽曲データが再生回路122に供給されてデータ伸張およびD/A変換が行われる。したがって、〔5−5〕の場合と同様、再生機100に蓄積してある楽曲をヘッドホン10により聴くことができる。
【0066】
また、定常時、すなわち、歩行中には、現在の歩行ステータスMS(C(t))と、1つ前の平均歩行ステータスMS(C(t-1))とが比較され、上記(A)項あるいは(B)項に対応して楽曲の再生が行われる。
【0067】
そして、この場合も、次の楽曲を選曲するときには、プレイリストPL1(1)〜PL(7)のうち、値C(t)が示すプレイリストPL(C(t))が選択されるとともに、この選択されたプレイリストPL(C(t))から楽曲データのファイル名が選択され、この選択されたファイル名の楽曲データがストレージ121から読み出され、この読み出された楽曲データが再生回路122に供給される。こうして、歩行中には、その平均歩行テンポm_MT(t)に見合ったテンポの楽曲が再生される。
【0068】
〔5−7〕 まとめ
上述の再生機100によれば、あらかじめ平均歩行テンポm_MT(t)を学習することにより、例えば図10に示すような歩行テンポ別のプレイリストPL(1)〜PL(7)を形成するとともに、現在の平均歩行テンポm_MT(t)がプレイリストPL(1)〜PL(7)のどれに対応するかを判別し、その判別結果の値CT(t)によりプレイリストPL(1)〜PL(7)を選択して楽曲の再生を行っている。
【0069】
したがって、歩行テンポがゆっくりしているときでも、速いときでも、再生される楽曲が適切なものに自動的に変更される。したがって、ユーザ(歩行者)は、再生機100が自分にあわせて選曲をしてくれているという心地よさを感じることができる。
【0070】
また、歩行ステータスMS(n)は学習により得ているので、ユーザ(歩行者)が細かい設定や調整を行う必要がなく、しかも、ユーザの体調や個人差あるいは歩行そのものの揺らぎなどの影響を受けにくい。
【0071】
〔6〕 その他
上述においては、平均歩行テンポm_MT(t)および時刻情報から歩行ステータスMS(n)を生成するとき、その生成をパーソナルコンピュータ200において実行するとしたが、制御回路110により生成することもできる。また、パーソナルコンピュータ200において、プレイリストPL(1)〜PL(7)を作成し、楽曲のデジタルオーディオデータとともに、再生機100に転送することもできる。
【0072】
さらに、再生機100に標準の歩行ステータスをあらかじめ用意しておき、ユーザが歩行を実行するごとに、その歩行テンポにより用意してある標準の歩行ステータスをユーザに見合ったものに補正ないし調整していくこともできる。そのようにすれば、再生機100を使用すればするほど、ユーザの歩行のパターンにあった選曲を行うことができるようになる。
【0073】
また、上述においては、日常生活における歩行が図1に示すように分類されている場合であるが、この日常生活用のモード以外に、競歩モード、ジョギングモードなどを用意し、これらのモードを選択可能とするすることもできる。例えばジョギングモードであれば、図12に示すように、低速歩行、通常歩行、軽いジョギング、ジョギングの4つの歩行ステータスで構成することができる。あるいは通常歩行とジョギングとの間に早歩きの歩行テンポを設けることもできる。そして、それぞれの歩行テンポについて上述のように歩行ステータスおよびプレイリストを用意し、選曲を行うことができる。
【0074】
さらに、ジョギングが理想的なテンポで行われているときには、そのテンポに見合った楽曲を選曲し、理想的なテンポよりも若干早いときには、あるいは遅いときには、その理想的なテンポよりも遅い、あるいは速いテンポの楽曲を選曲し、ジョギングを理想的なテンポにもっていくようにすることもできる。
【0075】
また、ジョギングの経過時間に対する理想的なテンポを設定することにより、自動的に選曲が行われるようにすることもできる。また、ジョギング後に走行テンポの履歴を確認できるようにすることもできる。さらに、再生される楽曲が変更されたとき、その変更を操作キー141の操作により評価できるようにし、より適切な選曲ができるようにすることもできる。また、再生機100のユーザが自分にあった切り換え条件を作成したり、ユーザがヒストグラム(図8)を見て下限値MD(n)lowerおよび上限値MD(n)upperを自分で設定・変更できるようにしてもよい。
【0076】
さらに、加速度センサ131は再生機100とは別体とし、例えばヘッドホン10に取り付けてもよく、この場合には、その検出信号を有線あるいは無線で解析回路132に供給すればよい。また、加速度センサ131の代わりに、速度センサ、歩数計、ジャイロあるいはGPSなどとすることができる。さらに、検出手段130は、ユーザの歩行テンポを検出できるものであれば、ユーザの体に装着されるもの以外に、例えばユーザが着ている衣服のポケットや携帯するカバンの中に入れて携行されてものでもよい。
【0077】
また、楽曲データが映像のデジタルデータに一体化されていてもよい。さらに、上述においては、日常生活の歩行について、その歩行を支援する場合であるが、競歩、ジョギング、サイクリング、エアロビクスなどの運動について、歩行ステータスと同様の運動ステータスを作成して、その運動を支援する再生機とすることができる。
【0078】
〔略語の一覧〕
bpm :beats per minute
CPU :Central Processing Unit
D/A :Digital to Analog
LCD :Liquid Crystal Display
MP3 :MPEG-1/Audio Layer 3
MPEG:Motion Picture Experts Group
RAM :Random Access Memory
ROM :Read Only Memory
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明を説明するためのグラフである。
【図2】この発明を説明するためのグラフである。
【図3】この発明を説明するためのグラフである。
【図4】この発明を説明するための線図である。
【図5】この発明を説明するための表図である。
【図6】この発明を説明するための線図である。
【図7】この発明を説明するための線図である。
【図8】この発明を説明するためのグラフである。
【図9】この発明を説明するための表図である。
【図10】この発明を説明するための表図である。
【図11】この発明の一形態を示す系統図である。
【図12】この発明を説明するための表図である。
【符号の説明】
【0080】
10…ヘッドホン、20…パーソナルコンピュータ、100…オーディオ再生機、110…制御回路、121…ストレージ、122…再生回路、130…検出手段、13…加速度センサ、132…解析回路、143…LCD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲のデジタルオーディオデータを保存するストレージと、
上記デジタルオーディオデータの再生を行う再生回路と、
ユーザの運動のテンポを検出する検出手段と、
上記デジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する制御回路と
を有し、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポを、その運動のテンポの出現頻度にしたがって複数のグループに分類したとき、
上記制御回路は、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポが、上記複数のグループのどれに含まれるかを判別し、
この判別結果のグループの運動のテンポに見合ったテンポの楽曲のデジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する
ようにしたオーディオ信号の再生機。
【請求項2】
楽曲のデジタルオーディオデータを保存するストレージと、
上記デジタルオーディオデータの再生を行う再生回路と、
ユーザの運動のテンポを検出する検出手段と、
上記デジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する制御回路と、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポを、その運動のテンポの出現頻度にしたがって複数のグループに分類したとき、そのグループに含まれる運動のテンポに対応したテンポの楽曲が登録される複数のプレイリストと
を有し、
上記制御回路は、
上記検出手段の検出した上記運動のテンポが、上記複数のグループのどれに含まれるかを判別し、
上記複数のプレイリストのうち、上記判別の結果のグループに対応するプレイリストを選択するとともに、
この選択したプレイリストに登録されている楽曲のデジタルオーディオデータを上記ストレージから取り出して上記再生回路に供給する
ようにしたオーディオ信号の再生機。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載のオーディオ信号の再生機において、
上記運動が歩行(走行を含む。以下同様)である
ようにしたオーディオ信号の再生機。
【請求項4】
請求項1、請求項2あるいは請求項3に記載のオーディオ信号の再生機において、
上記検出手段は、上記ストレージ、上記再生回路および上記制御回路と一体あるいは別体とされ、
上記ユーザの体、衣服あるいは携帯物に装着されるものである
ようにしたオーディオ信号の再生機。
【請求項5】
ユーザの運動のテンポを検出して学習し、
この学習により上記運動のテンポを、その運動のテンポの出現頻度にしたがって複数のグループに分類し、
上記ユーザが運動をしながら楽曲を再生するとき、このときの運動のテンポを検出し、
この検出した上記運動のテンポが上記複数のグループのどれに含まれるかを判別し、
この判別結果のグループの運動のテンポに見合ったテンポの楽曲のデジタルオーディオデータをストレージから取り出して再生回路に供給する
ようにしたオーディオ信号の再生方法。
【請求項6】
ユーザの運動のテンポを検出し、
この検出した運動のテンポを、その運動のテンポの出現頻度にしたがって複数のグループに分類し、
上記複数のグループに含まれる運動のテンポに対応したテンポの楽曲が登録される複数のプレイリストを作成し、
上記ユーザが運動をしながら楽曲を再生するとき、その運動のテンポを検出し、
この検出した上記運動のテンポが上記複数のグループのどれに含まれるかを判別し、
上記複数のプレイリストのうち、上記判別の結果のグループに対応するプレイリストを選択するとともに、
この選択したプレイリストに登録されている楽曲のデジタルオーディオデータをストレージから取り出して再生回路に供給する
ようにしたオーディオ信号の再生方法。
【請求項7】
請求項5あるいは請求項6に記載のオーディオ信号の再生方法において、
上記運動が歩行である
ようにしたオーディオ信号の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−164939(P2007−164939A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363098(P2005−363098)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】