説明

オートテンショナ

【課題】外部からの操作によりダンパー力を容易に変化させることが可能なオートテンショナを提供する。
【解決手段】シリンダ7内にスリーブ8を嵌め合わせ、スリーブ8内にプランジャ10を摺動可能に挿入してシリンダ7内を圧力室11とリザーバ室12に区画し、プランジャ10と一体に移動するロッド16を設け、そのロッド16をシリンダ7から突出する方向に付勢するリターンスプリング19を設け、圧力室11とリザーバ室12を連通する油通路13にチェックバルブ14を設けたオートテンショナ5において、スリーブ8の底9に貫通孔23を形成し、その貫通孔23とリザーバ室12とを連通するバイパス通路24をスリーブ8とシリンダ7の嵌合面間に形成し、貫通孔23に、電磁コイル32への通電により作動する電磁開閉弁を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのカム軸を駆動するベルトの張力保持に用いられるオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのカム軸は、クランクシャフトにベルトで連結されており、そのベルトを介して回転駆動される。このベルトの張力を適正範囲に保つために、一般に、支点軸を中心として揺動可能に設けたプーリアームと、そのプーリアームに回転可能に取り付けたテンションプーリと、そのテンションプーリをベルトに押さえ付ける方向にプーリアームを付勢するオートテンショナからなる張力調整装置が使用される。
【0003】
この張力調整装置に組み込まれるオートテンショナとして、有底のシリンダ内に作動油を溜め、そのシリンダ内に有底のスリーブを嵌め合わせ、そのスリーブ内にプランジャを軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ内を圧力室とリザーバ室に区画し、プランジャと軸方向に一体に移動するロッドを設け、そのロッドを、シリンダから突出する方向にリターンスプリングで付勢したものが知られている(特許文献1)。
【0004】
このオートテンショナは、リターンスプリングの付勢力がベルトの張力とつり合う位置までロッドが移動することにより、ベルトの張力変動を吸収し、ベルトの張力を適正範囲に保つ。
【0005】
また、圧力室とリザーバ室は、スリーブとプランジャの摺動面間に形成されるリーク隙間を介して連通しており、ロッドがシリンダに押し込まれる方向に移動すると、圧力室内の作動油がリーク隙間を通って流出する。このとき、リーク隙間を流れる作動油の流量が制限されて、ダンパー力がロッドに作用するので、ロッドがゆっくりと移動し、ベルトを安定した状態に保つ。
【0006】
また、このオートテンショナは、プランジャに、圧力室とリザーバ室を連通する油通路が形成され、その油通路の圧力室側の端部に、リザーバ室側から圧力室側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブが設けられており、ロッドがシリンダから突出する方向に移動すると、前記チェックバルブが開いてリザーバ室側から圧力室側に作動油が流れる。そのため、シリンダから突出する方向には、ロッドが速やかに移動する。
【特許文献1】特開平8−35546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の張力調整装置のベルトを交換する場合、ベルトを弛めるためにプーリアームを揺動させる必要があるが、このとき、オートテンショナは、シリンダに押し込まれる方向にロッドが移動し、そのロッドにダンパー力が作用する。そのため、プーリアームの揺動抵抗が大きくなり、ベルトの交換作業が煩雑であった。
【0008】
そこで、この発明の発明者は、外部からの手動操作によりダンパー力を小さくすることが可能なオートテンショナを検討し、そのようなオートテンショナとして、前記スリーブの底に貫通孔を形成し、その貫通孔と前記リザーバ室とを連通するバイパス通路を前記スリーブと前記シリンダの嵌合面間に形成し、前記貫通孔に、シリンダの外側から操作する手動開閉弁を設けたものを考案した。
【0009】
このオートテンショナは、前記手動開閉弁が、前記圧力室内に設けられた弁体と、その弁体を前記スリーブの底に向けて付勢する弾性部材と、前記弁体に接続され、前記スリーブの底と前記シリンダの底とを貫通する弁棒とからなり、その弁棒を軸方向に押し動かす操作により、弁体をスリーブの底から離反させてスリーブの底の貫通孔を開放し、ダンパー力を小さくすることができる。
【0010】
しかし、圧力室の圧力が弁体に作用した状態では、弁棒を軸方向に押し動かすのに大きな力が必要である。
【0011】
また、このオートテンショナは、ロッドに作用するダンパー力が一定なので、エンジン回転数が共振点領域(例えば、2000〜2500rpmの回転域)にあるときに、ロッドがベルトの張力変動に追従できず、ベルトが過張力となることがあった。
【0012】
また、寒冷地や冬期の低温環境下では、エンジン温度も低温となる。このとき、オートテンショナの作動油も低温となり、作動油の粘度が高くなるので、ロッドに作用するダンパー力が過大となり、ベルトが過張力となることがあった。
【0013】
また、スリーブとプランジャの摺動面間のリーク隙間の大きさは、ベルトの張力が最大のときに必要なダンパー力を基準に設定される。そのため、エンジンのスロットル開度が小さく、ベルトの張力が小さいときに、ロッドに作用するダンパー力が過大となりやすかった。
【0014】
この発明が解決しようとする課題は、外部からの電気操作によりダンパー力を小さくすることが可能なオートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、有底のシリンダ内に有底のスリーブを嵌め合わせ、そのシリンダ内に作動油を溜め、前記スリーブ内にプランジャを軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ内を圧力室とリザーバ室に区画し、前記プランジャとスリーブの摺動面間に形成されるリーク隙間を介して前記圧力室とリザーバ室を連通し、前記プランジャと軸方向に一体に移動するロッドを設け、そのロッドをシリンダから突出する方向に付勢するリターンスプリングを設け、前記プランジャに圧力室とリザーバ室を連通する油通路を形成し、その油通路にリザーバ室側から圧力室側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブを設けたオートテンショナにおいて、前記スリーブの底に貫通孔を形成し、その貫通孔と前記リザーバ室とを連通するバイパス通路を前記スリーブと前記シリンダの嵌合面間に形成し、前記貫通孔に電磁開閉弁または電動開閉弁を設けた。
【0016】
前記電磁開閉弁は、例えば、前記スリーブの底と前記シリンダの底との間に設けた平板アーマチュアと、その平板アーマチュアに一体に形成された弁体と、前記平板アーマチュアを前記スリーブの底に向けて付勢する弾性部材と、通電により前記平板アーマチュアを前記スリーブの底から離反する方向に吸引する電磁コイルとからなる構成を採用することができる。
【0017】
このように電磁開閉弁を構成する場合、前記電磁コイルは、前記シリンダの底を間に挟んで、前記平板アーマチュアと対向配置することができる。また、前記電磁コイルは、前記シリンダの底に埋め込むこともできる。電磁コイルをシリンダの底に埋め込む場合、その埋め込みは、前記シリンダの成形金型内に電磁コイルを配置した状態でシリンダを成形することにより行なうことができる。
【0018】
また、上記のように電磁開閉弁を構成する場合、弾性部材として、円環状の金属板に波形を付したウェーブワッシャを用いることができ、このとき、前記シリンダの底または前記平板アーマチュアに、前記ウェーブワッシャを収容する円環溝を形成することができる。
【0019】
また、前記電磁開閉弁は、前記圧力室内に設けられた弁体と、その弁体を前記スリーブの底に向けて付勢する弾性部材と、前記弁体に接続され、前記スリーブの底と前記シリンダの底とを貫通する弁棒と、その弁棒の前記シリンダの底からの突出部分に固定されたアーマチュアと、通電により前記アーマチュアを吸引して前記弁体をスリーブの底から離反させる電磁コイルとからなる構成を採用することができる。
【0020】
また、前記電動開閉弁は、前記圧力室内に設けられた弁体と、その弁体に接続され、前記スリーブの底と前記シリンダの底とを貫通する弁棒と、その弁棒の前記シリンダの底からの突出部分に設けられたラックに噛み合うピニオンと、そのピニオンを回転駆動する電気モータとからなる構成を採用することができる。
【0021】
また、上記オートテンショナは、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を、エンジンの電気信号に応じて開閉する制御部を更に設けることができ、そのような制御部として、次の構成のものを採用することができる。
1)前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてエンジン回転数が共振点領域にあるか否かを判定する共振判定手段を有し、その共振判定手段でエンジン回転数が共振点領域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く。
2)前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてエンジン温度が低温域にあるか否かを判定する低温判定手段を有し、その低温判定手段でエンジン温度が低温域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く。
3)前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてスロットル開度が低開度域にあるか否かを判定するスロットル開度判定手段を有し、そのスロットル開度判定手段でスロットル開度が低開度域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く。
【発明の効果】
【0022】
この発明のオートテンショナは、電磁開閉弁または電動開閉弁を作動させて貫通孔を開放することにより、その貫通孔とバイパス通路を介して圧力室とリザーバ室を連通し、ダンパー力を小さくすることができる。
【0023】
また、このオートテンショナは、電磁開閉弁または電動開閉弁の操作によって貫通孔を開閉するので、ダンパー力を変化させるのに力が要らない。また、電磁開閉弁で貫通孔を開閉するようにすると、電動開閉弁で貫通孔を開閉するようにした場合と比較して、外部操作に対するダンパー力の変化の応答性に優れる。
【0024】
また、このオートテンショナは、エンジン作動中、エンジンからの電気信号によって電磁開閉弁または電動開閉弁を操作することにより、最適なダンパー力をロッドに付与することができる。
【0025】
また、共振判定手段を有する制御部を更に設けたこの発明のオートテンショナは、エンジン回転数が共振点領域にあるときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁が開き、ロッドに作用するダンパー力が小さくなる。そのため、エンジン回転数が共振点領域にあるときにも、ロッドがベルトの張力変動に確実に追従し、ベルトが過張力となりにくい。
【0026】
また、低温判定手段を有する制御部を更に設けたこの発明のオートテンショナは、エンジン温度が低温域にあるときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁が開き、ロッドに作用するダンパー力が小さくなる。そのため、寒冷地や冬期の低温環境下でも、ロッドに作用するダンパー力が過大となりにくく、ベルトが過張力となるにくい。
【0027】
また、スロットル開度判定手段を有する制御部を更に設けたこの発明のオートテンショナは、スロットル開度が小さく、ベルトの張力が小さいときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁が開き、ロッドに作用するダンパー力が小さくなる。そのため、スロットル開度が小さいときに、ロッドに作用するダンパー力が過大となりにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1に、エンジンのカム軸を駆動するベルトの張力調整装置を示す。この張力調整装置は、ベルト1に接触するテンションプーリ2と、テンションプーリ2を回転可能に支持するプーリアーム3とを有する。プーリアーム3は、エンジンブロック(図示せず)に固定された支点軸4で揺動可能に支持され、この発明の第1実施形態に係るオートテンショナ5で、テンションプーリ2をベルト1に押さえ付ける方向に付勢されている。
【0029】
オートテンショナ5は、下部に底6を有するシリンダ7を有し、シリンダ7内には、有底のスリーブ8が底9を下側にして嵌め合わされ、作動油が溜められている。スリーブ8内には、プランジャ10が軸方向に摺動可能に挿入されており、そのスリーブ8とプランジャ10によって、シリンダ7内が圧力室11とリザーバ室12に区画されている。
【0030】
圧力室11とリザーバ室12は、プランジャ10に形成された油通路13を介して連通しており、その油通路13の圧力室11側の端部には、リザーバ室12側から圧力室11側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ14が設けられている。また、スリーブ8とプランジャ10の摺動面間には、圧力室11とリザーバ室12を連通させるリーク隙間15が形成されている。
【0031】
プランジャ10には、プランジャ10から上方に延びてシリンダ7から突出するロッド16が接続されている。プランジャ10は、圧力室11内に組み込まれたプランジャスプリング17で付勢されてロッド16に押さえ付けられており、その押さえ付けによって、ロッド16は、プランジャ10と一体に軸方向に移動するようになっている。
【0032】
ロッド16は、大径軸部16Aと、大径軸部16Aの下端に連なる小径軸部16Bとからなる。小径軸部16Bの外周には、シリンダ7の内周を軸方向に摺動可能なウエアリング18が嵌め込まれ、そのウエアリング18で大径軸部16Aの下端が支持されている。
【0033】
ウエアリング18の下面とスリーブ8の上面の間にはリターンスプリング19が組み込まれている。リターンスプリング19は、ウエアリング18を介して、ロッド16をシリンダ7から突出する方向に付勢している。リターンスプリング19の下端とスリーブ8の上面の間には、リザーバ室12を上下に分けるセパレータ20が設けられており、このセパレータ20でリザーバ室12の上部から下部に空気が移動するのを抑制して、圧力室11内への空気の侵入を防止している。
【0034】
シリンダ7の上部内周には、ロッド16の大径軸部16Aをスライド自在に貫通させるとともにシリンダ7内に作動油を密封するオイルシール21と、オイルシール21をシリンダ7から抜け止めする止め輪22が取り付けられている。
【0035】
スリーブ8の底9には貫通孔23が形成されており、スリーブ8とシリンダ7の嵌合面間には、貫通孔23とリザーバ室12とを連通するバイパス通路24が形成されている。バイパス通路24は、図2に示すように、スリーブ8の外周とシリンダ7の内周との間に形成された軸方向に延びる通路25と、スリーブ8の底9とシリンダ7の底6との間に形成した空間26と、通路25と空間26とを接続する接続路27とからなる。
【0036】
スリーブ8の底9とシリンダ7の底6との間の空間26には、鉄製の平板アーマチュア28が収容されており、平板アーマチュア28には、半球状の弁体29が一体に形成されている。弁体29は、スリーブ8の底9に形成されたテーパ状のバルブシート30に密着して、貫通孔23を閉じている。平板アーマチュア28とシリンダ7の底6との間にはウェーブワッシャ31が組み込まれている。ウェーブワッシャ31は、円環状の金属板に波形を付して形成した弾性部材であり、平板アーマチュア28をスリーブ8の底9に向けて付勢している。
【0037】
シリンダ7の外底面には、電磁コイル32が固定されている。電磁コイル32は、シリンダ7の底6を間に挟んで平板アーマチュア28と対向配置されており、電磁コイル32に通電すると、図3に示すように、平板アーマチュア28をスリーブ8の底9から離反する方向に吸引する。その吸引によって、弁体29はバルブシート30から離反し、貫通孔23が開放される。ここで、平板アーマチュア28、弁体29、ウェーブワッシャ31、電磁コイル32は、貫通孔23の電磁開閉弁を構成している。
【0038】
次に、このオートテンショナ5の動作例を説明する。
【0039】
ベルト1の張力が大きくなると、その張力が、テンションプーリ2、プーリアーム3を介してロッド16に伝達し、圧力室11の圧力が高まる。圧力室11の圧力がリザーバ室12の圧力よりも高くなると、作動油がリーク隙間15を圧力室11側からリザーバ室12側に流れる。このとき、チェックバルブ14が閉じるので、作動油は油通路13を流れない。このようにして、作動油がリーク隙間15を流れることによりロッド16が下方に移動し、ベルト1の張力とリターンスプリング19の付勢力とがつり合う位置までテンションプーリ2が移動して、ベルト1の緊張を吸収する。また、リーク隙間15を流れる作動油の流量が制限されて、ダンパー力がロッド16に作用するので、テンションプーリ2はゆっくりと移動し、ベルト1を安定した状態に保つ。
【0040】
一方、ベルト1の張力が小さくなると、リターンスプリング19の付勢力によってロッド16が上方に移動し、圧力室11の容積が拡大することで、圧力室11の圧力が低くなる。圧力室11の圧力がリザーバ室12の圧力よりも低くなるとチェックバルブ14が開き、作動油が油通路13をリザーバ室12側から圧力室11側に流れる。このとき、テンションプーリ2は、ベルト1の張力とリターンスプリング19の付勢力とがつり合う位置まで速やかに移動し、ベルト1の弛みを迅速に吸収する。
【0041】
また、図3に示すように、電磁コイル32に通電して貫通孔23を開放すると、圧力室11が、貫通孔23、バイパス通路24を順に介してリザーバ室12と連通し、圧力室11の作動油が、バイパス通路24を通ってリザーバ室12に流れるので、ロッド16に作用するダンパー力が小さくなる。
【0042】
このように、オートテンショナ5は、電磁コイル32に通電して貫通孔23を開放することにより、ダンパー力を小さくすることができる。エンジン作動中、電磁コイル32への通電を、エンジンの電気信号によって制御することにより、最適なダンパー力をロッド16に付与することができる。
【0043】
このオートテンショナ5は、電磁コイル32への通電によって貫通孔23を開閉するので、ダンパー力を変化させるのに力が要らず、また、外部操作に対するダンパー力の変化の応答性に優れる。
【0044】
また、このオートテンショナ5は、弁体29が、平板アーマチュア28と一体なので、電磁コイル32に通電したときの弁体29の応答性に優れる。
【0045】
また、このオートテンショナ5は、電磁コイル32で吸引する部材として、電磁コイル32との対向面積が弁体29よりも広い平板アーマチュア28を採用しているので、電磁コイル32で弁体29を直接吸引するようにした場合と比較して、弁体29に作用する力が大きい。そのため、ウェーブワッシャ31のばね定数を大きく設定することが可能となり、電磁コイル32への非通電時に貫通孔23が開放する事態を確実に防止することができる。
【0046】
また、このオートテンショナ5は、電磁コイル32を、シリンダ7の底6を間に挟んで平板アーマチュア28と対向配置しているので、図5に示すようにシリンダ7の底6に電磁コイル32を埋め込んだ場合と比較して、シリンダ7の底6の密封性を確保しやすい。
【0047】
また、このオートテンショナ5は、平板アーマチュア28を付勢する弾性部材としてウェーブワッシャ31を用いているので、平板アーマチュア28を付勢する弾性部材としてコイルばねを用いた場合よりも、弾性部材の収容空間を小さくすることができ、オートテンショナ5の軸方向長さを抑えることができる。
【0048】
シリンダ7の底6は、図4に示すように、ウェーブワッシャ31を収容する円環溝33を形成すると好ましい。このようにすると、ウェーブワッシャ31の位置が安定するので、弁体29の動作の信頼性を向上させることができる。また、図5に示すように、ウェーブワッシャ31を収容する円環溝34を、平板アーマチュア28に形成してもよい。このようにしても、平板アーマチュア28に対するウェーブワッシャ31の位置が安定するので、弁体29の動作の信頼性を向上させることができる。
【0049】
オートテンショナ5は、エンジンの電気信号に応じて電磁コイル32に通電する制御部(図示せず)を更に設けてもよい。このような制御部としては、例えば、エンジンの回転数に対応する電気信号に基づいてエンジン回転数が共振点領域(例えば、2000〜2500rpmの回転域)にあるか否かを判定する共振判定手段を有し、その共振判定手段でエンジン回転数が共振点領域にあると判定したときに電磁コイル32に通電する制御部を採用することができる。このような制御部を設けると、エンジン回転数が共振点領域にあるときに、ロッド16に作用するダンパー力が小さくなるので、ロッド16がベルト1の張力変動に確実に追従し、ベルト1が過張力となりにくい。
【0050】
また、上記の制御部としては、例えば、エンジン温度に対応する電気信号に基づいてエンジン温度が低温域(例えば、0℃以下の温度域)にあるか否かを判定する低温判定手段を有し、その低温判定手段でエンジン温度が低温域にあると判定したときに電磁コイル32に通電する制御部を採用することができる。このような制御部を設けると、エンジン温度が低温域にあるときに、ロッド16に作用するダンパー力が小さくなるので、寒冷地や冬期の低温環境下でもロッド16に作用するダンパー力が過大となりにくく、ベルト1が過張力となるにくい。
【0051】
また、上記の制御部としては、例えば、エンジンのスロットル開度に対応する電気信号に基づいてスロットル開度が低開度域(例えば、0〜20%以下の開度域)にあるか否かを判定するスロットル開度判定手段を有し、そのスロットル開度判定手段でスロットル開度が低開度域にあると判定したときに電磁コイル32に通電する制御部を採用することができる。このような制御部を設けると、スロットル開度が小さく、ベルトの張力が小さいときに、ロッドに作用するダンパー力も小さくなるので、ロッドに作用するダンパー力が過大となりにくい。
【0052】
上記実施形態では、電磁コイル32と平板アーマチュア28とを、シリンダ7の底6を間に挟んで対向配置したが、電磁コイル32は、図5に示すように、シリンダ7の底6に埋め込んでもよい。このようにすると、上記実施形態と比べて、電磁コイル32と平板アーマチュア28の間隔が狭まるので、平板アーマチュア28に作用する電磁コイル32の吸引力が大きくなり、外部操作に対するダンパー力の変化の応答性が向上する。
【0053】
図5に示すように、シリンダ7の底6に電磁コイル32を埋め込む場合、その埋め込みは、シリンダ7の成形金型内に電磁コイル32を配置した状態でシリンダ7を成形(インサート成形)することにより行なうことができ、この場合、シリンダ7の材質として樹脂を採用することができる。
【0054】
図6に、この発明の第2実施形態のオートテンショナ41を示す。このオートテンショナ41は、第1実施形態のオートテンショナ5の貫通孔23に設けた電磁開閉弁を、他の電磁開閉弁に置き換えたものである。そのため、第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
スリーブ8の底9に形成された貫通孔23とリザーバ室12とを連通するバイパス通路24は、スリーブ8の外周とシリンダ7の内周との間に形成された軸方向に延びる通路42と、スリーブ8の底9とシリンダ7の底6との間に形成された空間43とからなる。
【0056】
圧力室11内には、貫通孔23を閉じる弁体44が設けられている。弁体44には、スリーブ8の底9とシリンダ7の底6とを貫通する弁棒45が接続され、弁棒45のシリンダ7の底6からの突出部分には、鉄製のアーマチュア46が固定されている。
【0057】
シリンダ7の底6とアーマチュア46の間には、電磁コイル47が配置されている。電磁コイル47は、図7に示すように、通電によりアーマチュア46を吸引して弁体44をスリーブ8の底9から離反させる。また、弁体44は、スリーブ8の底9に向けてプランジャスプリング17で付勢されており、図6に示すように、電磁コイル47の通電を解除したときに、プランジャスプリング17の付勢力によって貫通孔23を閉じるようになっている。ここで、弁体44、弁棒45、アーマチュア46、電磁コイル47、プランジャスプリング17は、貫通孔23の電磁開閉弁を構成している。
【0058】
このオートテンショナ41は、第1実施形態と同様、電磁コイル47に通電して貫通孔23を開放することにより、ロッド16に作用するダンパー力を小さくすることができる。そのため、エンジンの電気信号に応じて電磁コイル47に通電することにより、最適なダンパー力をロッド16に付与することが可能である。
【0059】
また、このオートテンショナ41は、エンジンの電気信号に応じて電磁コイル47に通電する制御部(図示せず)を更に設けることができる。このような制御部としては、第1実施形態と同様に、共振判定手段でエンジン回転数が共振点領域にあると判定したときに電磁コイル47に通電する制御部や、低温判定手段でエンジン温度が低温域にあると判定したときに電磁コイル47に通電する制御部や、スロットル開度判定手段でスロットル開度が低開度域にあると判定したときに電磁コイル47に通電する制御部を採用することができる。
【0060】
図8に、この発明の第3実施形態のオートテンショナ51を示す。このオートテンショナ51は、第1実施形態のオートテンショナ5の貫通孔23に設けた電磁開閉弁を電動開閉弁に置き換えたものである。そのため、第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
圧力室11内には、貫通孔23を閉じる弁体52が設けられている。弁体52には、スリーブ8の底9とシリンダ7の底6とを貫通する弁棒53が接続され、弁棒53のシリンダ7の底6からの突出部分にはラック54が設けられている。ラック54には、電気モータ55に接続されたピニオン56が噛み合っており、そのピニオン56を電気モータ55で回転駆動することにより、弁体52を開閉可能となっている。ここで、弁体52、弁棒53、ピニオン56、電気モータ55は、貫通孔23の電動開閉弁を構成している。
【0062】
このオートテンショナ51は、電気モータ55を駆動して貫通孔23を開放することにより、ロッド16に作用するダンパー力を小さくすることができる。そのため、エンジンの電気信号に応じて電気モータ55を駆動することにより、最適なダンパー力をロッド16に付与することが可能である。
【0063】
また、このオートテンショナ51は、エンジンの電気信号に応じて電気モータ55を駆動する制御部(図示せず)を更に設けることができる。このような制御部としては、共振判定手段でエンジン回転数が共振点領域にあると判定したときに電気モータ55を駆動して貫通孔23を開放する制御部や、低温判定手段でエンジン温度が低温域にあると判定したときに電気モータ55を駆動して貫通孔23を開放する制御部や、スロットル開度判定手段でスロットル開度が低開度域にあると判定したときに電気モータ55を駆動して貫通孔23を開放する制御部を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の第1実施形態のオートテンショナを組み込んだ張力調整装置を示す断面図
【図2】図1のオートテンショナ下部の拡大断面図
【図3】図2に示す電磁コイルに通電した状態を示す断面図
【図4】図2に示すオートテンショナの変形例を示す断面図
【図5】図2に示すオートテンショナの他の変形例を示す断面図
【図6】この発明の第2実施形態のオートテンショナを示すオートテンショナ下部の拡大断面図
【図7】図6に示す電磁コイルに通電した状態を示す断面図
【図8】この発明の第3実施形態のオートテンショナを示すオートテンショナ下部の拡大断面図
【符号の説明】
【0065】
5 オートテンショナ
6 シリンダの底
7 シリンダ
8 スリーブ
9 スリーブの底
10 プランジャ
11 圧力室
12 リザーバ室
13 油通路
14 チェックバルブ
15 リーク隙間
16 ロッド
17 プランジャスプリング
19 リターンスプリング
23 貫通孔
24 バイパス通路
28 平板アーマチュア
29 弁体
31 ウェーブワッシャ
32 電磁コイル
33,34 円環溝
41 オートテンショナ
44 弁体
45 弁棒
46 アーマチュア
47 電磁コイル
51 オートテンショナ
52 弁体
53 弁棒
54 ラック
55 電気モータ
56 ピニオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底のシリンダ(7)内に有底のスリーブ(8)を嵌め合わせ、そのシリンダ(7)内に作動油を溜め、前記スリーブ(8)内にプランジャ(10)を軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ(7)内を圧力室(11)とリザーバ室(12)に区画し、前記プランジャ(10)とスリーブ(8)の摺動面間に形成されるリーク隙間(15)を介して前記圧力室(11)とリザーバ室(12)を連通し、前記プランジャ(10)と軸方向に一体に移動するロッド(16)を設け、そのロッド(16)をシリンダ(7)から突出する方向に付勢するリターンスプリング(19)を設け、前記プランジャ(10)に圧力室(11)とリザーバ室(12)を連通する油通路(13)を形成し、その油通路(13)にリザーバ室(12)側から圧力室(11)側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ(14)を設けたオートテンショナ(5)において、前記スリーブ(8)の底(9)に貫通孔(23)を形成し、その貫通孔(23)と前記リザーバ室(12)とを連通するバイパス通路(24)を前記スリーブ(8)と前記シリンダ(7)の嵌合面間に形成し、前記貫通孔(23)に電磁開閉弁または電動開閉弁を設けたことを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記電磁開閉弁が、前記スリーブ(8)の底(9)と前記シリンダ(7)の底(6)との間に設けた平板アーマチュア(28)と、その平板アーマチュア(28)に一体に形成された弁体(29)と、前記平板アーマチュア(28)を前記スリーブ(8)の底(9)に向けて付勢する弾性部材(31)と、通電により前記平板アーマチュア(28)を前記スリーブ(8)の底(9)から離反する方向に吸引する電磁コイル(32)とからなる請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記平板アーマチュア(28)と前記電磁コイル(32)とを、前記シリンダ(7)の底(6)を間に挟んで対向配置した請求項2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記弾性部材として、円環状の金属板に波形を付したウェーブワッシャ(31)を用いた請求項2または3に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記シリンダ(7)の底(6)または前記平板アーマチュア(28)に、前記ウェーブワッシャ(31)を収容する円環溝(33,34)を形成した請求項4に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記電磁コイル(32)を前記シリンダ(7)の底(6)に埋め込んだ請求項2に記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記電磁コイル(32)の埋め込みを、前記シリンダ(7)の成形金型内に電磁コイル(32)を配置した状態でシリンダ(7)を成形することにより行なった請求項6に記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記電磁開閉弁が、前記圧力室(11)内に設けられた弁体(44)と、その弁体(44)を前記スリーブ(8)の底(9)に向けて付勢する弾性部材(17)と、前記弁体(44)に接続され、前記スリーブ(8)の底(9)と前記シリンダ(7)の底(6)とを貫通する弁棒(45)と、その弁棒(45)の前記シリンダ(7)の底(6)からの突出部分に固定されたアーマチュア(46)と、通電により前記アーマチュア(46)を吸引して前記弁体(44)をスリーブ(8)の底(9)から離反させる電磁コイル(47)とからなる請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項9】
前記電動開閉弁が、前記圧力室(11)内に設けられた弁体(52)と、その弁体(52)に接続され、前記スリーブ(8)の底(9)と前記シリンダ(7)の底(6)とを貫通する弁棒(53)と、その弁棒(53)の前記シリンダ(7)の底(6)からの突出部分に設けられたラック(54)に噛み合うピニオン(56)と、そのピニオン(56)を回転駆動する電気モータ(55)とからなる請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項10】
エンジンの電気信号に応じて前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開閉する制御部を更に設けた請求項1から9のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項11】
前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてエンジン回転数が共振点領域にあるか否かを判定する共振判定手段を有し、その共振判定手段でエンジン回転数が共振点領域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く請求項10に記載のオートテンショナ。
【請求項12】
前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてエンジン温度が低温域にあるか否かを判定する低温判定手段を有し、その低温判定手段でエンジン温度が低温域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く請求項10に記載のオートテンショナ。
【請求項13】
前記制御部は、エンジンの電気信号に基づいてスロットル開度が低開度域にあるか否かを判定するスロットル開度判定手段を有し、そのスロットル開度判定手段でスロットル開度が低開度域にあると判定したときに、前記電磁開閉弁または前記電動開閉弁を開く請求項10に記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−97708(P2009−97708A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61143(P2008−61143)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】