説明

カソードルミネッセンス装置及びそれを用いた分析方法

【課題】 優れた深さ空間分解能および空間分解能を有するカソードルミネッセンス装置の提供
【解決手段】試料台に載置される試料の表面の近傍に、試料側に突出し、その頂部に照射電子線および試料からの発光を透過させるための小孔を有する採光部をもつカソードルミネッセンス測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に電子線を照射することで発生したカソードルミネッセンスを測定する装置およびそれを使用した測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線を照射して、その電子線照射により試料から発生した光を分析するカソードルミネッセンス装置は、既に市販されている。また、試料に光を照射して、その光により試料から発生した光を分析するフォトルミネッセンス分光装置やラマン分光装置も、これまでにいくつか市販されている。
【0003】
電子機器用の各種素子は、高集積化、微小化の一途をたどっており、微小領域の分析に対するニーズは、年々、高まってきている。しかしながら、公知のカソードルミネッセンス装置、フォトルミネッセンス分光装置、あるいはラマン分光装置では、空間分解能や位置確認の精度がまだ満足のいくものではなかった。試料に光を照射してその光によりさらに試料から発生した光を分析するフォトルミネッセンス分光装置、あるいはラマン分光装置では、光の回折限界により、その空間分解能は、せいぜい1μm程度に限られるからである。
【0004】
空間分解能を向上させる方法としては、空間中を伝播しない近接場光を用いると、光の回折限界以下の空間分解能が達成可能であることが、非特許文献1に開示されている。この原理を応用した近接場顕微鏡が、すでに知られている。しかし、通常、測定位置の確認は光学顕微鏡で行われており、高い空間分解能での位置確認はできないという問題があった。そのため、細密化された各種電子機器用素子の分析には、必ずしも十分ではなかった。
【0005】
一方、細く絞った電子線を励起源として用いるカソードルミネッセンス装置では、測定位置の確認が2次電子像(SEM像)や透過電子像(TEM像)で容易に行うことができる。カソードルミネッセンスは、一般的に、(1)電子線によるキャリヤの生成、(2)生成キャリヤの拡散、(3)キャリヤの輻射再結合、のプロセスを経て発生する。
【0006】
従来のカソードルミネッセンス装置としては、例えば、非特許文献2に記載されているように、集光部に楕円ミラーあるいは放物面ミラーを用いていたものがある。また特許文献1には、光ファイバーを探針として使用したものが開示されている。
集光部に楕円ミラーあるいは放物面ミラーを用いたカソードルミネッセンス装置の空間分解能は、主に電子線の侵入長と電子線により発生したキャリアの拡散長により決定される。
【0007】
ここで、電子線の侵入長は加速電圧でほぼ決定され、低加速電圧ほど侵入長が短くなる。このため、キャリアの拡散長の短い試料を低加速電圧で測定した場合においては、理論的には最高100nm程度の空間分解能が達成可能である。
【0008】
しかしながら、従来の装置では楕円ミラー若しくは放物面ミラー、または光ファイバーを用いて集光しているために、空間分解能は数μm〜数十μm程度までに留まっていった。
【非特許文献1】シンゲ(Synge)、Philos.Mag.6,356(1928)
【非特許文献2】山本直紀「応用物理」第69巻 第10号(2000年)
【特許文献1】特開2004−47284、特に実施例
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、極めて高い深さ分解能及び空間分解能で試料の分析ができるカソードルミネッセンス装置および該装置を用いた分析手法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
1.電子銃と、電子銃から放出される電子線が照射される試料を載置するための試料台と、試料からの発光を集光し、さらに光の波長に応じて分光する手段と、分光された光の強度を測定する手段とを有するカソードルミネッセンス測定装置であって、試料台に載置される試料の表面の近傍に、試料側に突出し、その頂部に照射電子線および試料からの発光を透過させるための小孔を有する採光部を有することを特徴とするカソードルミネッセンス測定装置、
2.さらに、試料からの二次電子を検出する検出器または試料からの透過電子を検出する検出器を有する上記カソードルミネッセンス測定装置、
3.さらに、レーザー発光装置を有し、発光されたレーザーが採光部の小孔を通過するようレーザー光の光路が配置されていることを特徴とする上記いずれかのカソードルミネッセンス装置、
4.採光部が中空であり、かつ底面は存在しない錐形であることを特徴とする上記いずれかのカソードルミネッセンス測定装置、
5.採光部の形状が角錐または円錐であることを特徴とする前記カソードルミネッセンス装置、
6.採光部の小孔の直径が300nm以下である上記いずれかのカソードルミネッセンス装置、
7.採光部の主たる構成材料が金属、半導体およびセラミックスから選ばれるものであることを特徴とする上記いずれかのカソードルミネッセンス装置、
8.採光部の主たる構成材料が半導体又はセラミックスであって、採光部の構成材料の試料側の面および/又は反対側の面に、0.1nm〜100nmの厚みの金属薄膜が被覆されていることを特徴とする上記カソードルミネッセンス装置、
9.試料からの発光を集光するための手段がミラー式集光器であることを特徴とする上記いずれかのカソードルミネッセンス複合装置、
10.試料からの発光を分光する手段が、回折格子型分光器、プリズム型分光器、光学フィルター型分光器およびダイクロイックミラー型分光器からなる群から選ばれる少なくとも一つの分光器である上記いずれかのカソードルミネッセンス複合装置、
11.上記いずれかのカソードルミネッセンス装置を用い、試料台に試料を載置し、電子線を採光部の小孔を通じて試料に照射し、試料から発せられるカソードルミネッセンスを採光部の小孔に通過させ、カソードルミネッセンスを集光し、さらに分光し、分光した光の強度を測定することを特徴とするカソードルミネッセンス分析方法、
12.レーザー光発光装置を有し、発光されたレーザーが採光部の小孔を通過するようレーザー光発光装置が配置されている上記いずれかのカソードルミネッセンス装置を用い、試料台に試料を載置し、レーザー光を採光部の小孔に向けて照射し、試料からの発光を、採光部の小孔を通じさせ、通過した発光を集光し、さらに分光し、分光した光の強度を測定することを特徴とする光学的分析方法、
13.発光がラマン光またはフォトルミネッセンスであることを特徴とする上記光学的分析方法、
14.試料が半導体、酸化物、強誘電体および窒化物であることを特徴とする上記いずれかの測定方法、
15.試料が各種電子機器用の素子であることを特徴とする上記いずれかの記載の測定方法。
【発明の効果】
【0011】

本発明の装置によれば、優れた深さ分解能及び空間分解能で試料の分析ができるカソードルミネッセンス装置が提供され、本発明の装置を使用することにより、高い深さ分解能及び空間分解能で試料の分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の装置を図1を用いて説明する。本発明で使用される電子銃1は、電子線13を発生する。本発明で使用される電子銃は、電子線のビーム径を数十nm以下に絞れるものであることが好ましい。このような電子銃に併せて、試料からの二次電子像、反射電子像のうちのいずれか、もしくは、両方を観察するための検出器(図示していない)を装備していることが好ましい。このような電子銃および検出器を具備する装置としては、従来から知られている走査型電子顕微鏡が例示される。かような検出器を有することにより、電子線照射部位の電子顕微鏡写真観察を行うことができる。
【0013】
電子銃の方式にも特に制約はなく、例えば、熱電子放出型、電界放出型、ショットキーエミッション型(別名、サーマル電界放出型)等の方式が例示され、中でも高電流密度を提供することから、ショットキーエミッション型の電子銃が好ましく使用される。
【0014】
図1の一部を拡大した図が図2である。本発明の装置では、測定される試料3が載置されるための試料台2が存在する。試料台2の材質としては、電子線による試料のチャージアップを防ぐために、銅やアルミなどの金属であることが望ましい。また、試料台2は、x−y−z軸方向に試料位置の微調整ができるように、パルスモーター駆動ステージやピエゾ素子を使用したステージ(図示していない)上に固定されている方が好ましい。
【0015】
本発明の装置では、試料台2に載置される試料の表面の近傍に、試料側に突出し、その頂部に照射電子線および試料からの発光を透過させるための小孔8を有する採光部4が設けられる。その形態としては、図3に示すがごとく、頂点を試料側に向け、中空かつ底面は存在しない形態である。角錐、円錐などの錐形であり、さらに好ましくは、四角錐または円錐である。
【0016】
小孔8の大きさとしては、高分解能を得るために、なるべく小さいことが好ましく、直径が300nm以下であることが望ましい。なお孔の形状が真円でない場合には、孔の面積と同じ面積を持つ円の直径として算出することができる。
【0017】
採光部4の形状が角錐や円錐の場合は、錐の高さが100μm以下であることが好ましい。
【0018】
試料と小孔との距離は、小孔8の直径と同程度かそれ以下であることが望ましい。その方が試料と採光部4との間で生じる相互作用が強くなり、信号強度が著しく向上するからである。また図3に示すように採光部4はその固定のためにカンチレバー7によって支持される。
【0019】
このような採光部を使用することにより、電子線は小さく絞られ、試料表面の極めて狭い領域に照射される。さらに試料への電子線照射により発生したカソードルミネッセンスは小孔の効果により極めて狭い領域からのものからしか透過されない。その結果、従来よりも大幅に空間分解能が優れ(例えば1桁以上)、しかも、測定深さも大幅に浅くなり、優れるようになる(例えば10分の1以上)。
【0020】
採光部の構成材料としては金属、半導体およびセラミックスが例示される。また半導体またはセラミックスを使用した場合には、試料側の面および/又は反対側の面に、金属膜膜が被覆していることが好ましく、好ましい厚みは0.1nm〜100nmである。金属材料が採光部の構成材料であることにより、電子線を照射し、2次電子検出器を用いて像を観察する際に、電子により採光部がチャージアップすることを防止することができる。金属薄膜の材質は、Ag、CuおよびAuよりなる群から選ばれる一つの材料を主な構成材料、好ましくは60質量%以上とすることが好ましい。さらに後述のラマン光の分析に用いた場合、Ag、Cu、Auは金属材料のなかでも表面増強ラマン効果が大きく、信号強度の増大が著しいという特徴もある。
【0021】
本発明の装置では、採光部を通過した試料からの発光を集光するため集光手段を有する。例えばミラー式集光器が例示される。また集光器には、図2に示す集光器5のように電子線13を通過させるための孔が設けられていても構わない。
【0022】
本発明のカソードルミネッセンス装置には、図1に示すように採光器4と集光器5で集光した光を分光するため、分光装置を設けている。図1の装置ではカソードルミネッセンス用の分光器9が設けられている。また後述のレーザー照射による発光を分析するためラマン光用の分光器9’が設けられている。またフォトルミネッセンス用分光器を設けてもよい。このような分光器としては、回折格子型分光器、プリズム型分光器、光学フィルター型分光器などのダイクロイックミラー型分光器が使用できる。さらに分光器によって処理された光を検知する検出器10、10’が設けられる。検出器としては、光電子増倍管やcharge coupled device(CCD)、2次元マルチチャネル検出器などが一般的に使用される。これらの分光システムを設けることで、強度像だけではなく、スペクトルを測定することができるようになり、試料のより詳細な情報を得ることが可能となる。さらに、測定点各所につきスペクトルを測定し解析することで、強度像だけでなく、信号強度のピーク位置の場所依存性や信号線の半値幅の場所依存性を可視化することも可能となる。本発明において、電子線照射により試料から発生した光のどの波長領域を検出するかは特に限定されないが、好ましくは100nm〜60000nmの極端紫外から、可視、近赤外領域までの電磁波を検出する。
【0023】
以上説明したカソードルミネッセンス装置に、さらに図1に示すようにレーザー発生装置11を搭載することができる。図2に示すように発光されたレーザー12が採光部の小孔を通過するようレーザー光発光装置を配置することにより、一の装置により、カソードルミネッセンス分析の他に、ラマン光分析および/またはフォトルミネッセンス分析を行うことができる。特に採光部が小孔を有することにより、微細な領域のみにレーザー光を照射することができる。小孔の直径が300nm以下とすれば、近接場効果により極めて高い分解能を得ることができる。
【0024】
例えば、レーザー12を集光ミラーである集光器5を通して、採光部4に照射し、採光部4が接触した試料、又は採光部4に近接する試料との相互作用で発生した近接場ラマン散乱光6(あるいは近接場フォトルミネッセンス)を、同じ採光部4を通して、集光器5で集光し、ラマン光用の分光器9’で分光することにより、光の回折限界を超える空間分解能で、近接場ラマン散乱光や近接場フォトルミネッセンスを測定することができる。採光部4と集光部5を共有することで、カソードルミネッセンスとラマン散乱光の同一場所の同時測定やカソードルミネッセンスとフォトルミネッセンスの同一場所の同時測定、または同時でなくても試料交換、移動を行うことなく測定を行うことができる。
【0025】
本発明のカソードルミネッセンス装置を用いて測定する測定項目は、試料から発生した光から得られる情報であれば特に限定されないが、基本はカソードルミネッセンススペクトルおよび/またはカソードルミネッセンス強度分布像であり、レーザーなどの光照射装置を具備することによりラマンスペクトル、ラマン強度分布像、フォトルミネッセンススペクトル、フォトルミネッセンス強度分布像をとることができる。
【0026】
本発明のカソードルミネッセンス装置で分析可能な試料に特に制限はないが、半導体、酸化物、窒化物、強誘電体などの分析に特に有効である。中でも、半導体、酸化物、窒化物および強誘電体から選ばれる少なくとも1種を使用した各種電子機器用素子は、年々高集積化、微小化の一途をたどっているため、微小部の分析が可能な本発明のカソードルミネッセンス複合装置を用いた分析に好適な試料である。
【0027】
本発明のカソードルミネッセンス装置は、各種電子機器用素子のなかでも特に、半導体レーザー、発光ダイオード、フォトダイオード、トランジスタ、半導体集積回路、CCD素子、光ファイバ、セラミックスコンデンサ、液晶表示(LCD)素子、プラズマディスプレイ(PDP)パネル、有機EL素子、ダイヤモンド膜等の分析に有効に用いられる本 発明のカソードルミネッセンス装置を、例えば、各種電子機器用素子製造のインラインまたはオフラインに設置することにより、歩留まり向上と飛躍的な品質向上が期待できる。
【0028】
また本発明の装置では、優れた深さ分解能および空間分解能を提供するので、電子ビーム径と電子ビームのエネルギー分布が大きく、試料中で著しく電子線が拡散し、使用が難しかった従来の安価な熱電子放出型SEMであっても、短時間で、優れた測定結果を提供する。また高加速電圧で測定することができるため、高深さ分解能及び高空間分解能でのカソードルミネッセンス測定が可能になる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0030】
(実施例1)
日立製作所製S−4300SE走査型電子顕微鏡を準備した。試料台の上に、GaAsを基材とし、さらに厚みが約200nmのAlGaAs膜を設けた試料を載置した。試料の表面近傍に、頂点が試料側に配置され、頂点に直径100nmφの開口部を有する四角錐の形状(底面は存在しない)を有する採光部を配置し、電子銃からの電子線を採光部を通じて加速電圧10kVで照射した。
電子線照射により試料から発生したカソードルミネッセンスを採光部に透過させ、さらにミラー式の集光器で集光し、分光器で分光し、さらに検出器で検出を行った。AlGaAsの発光線と、GaAsの発光線を別々に観測することができた。
【0031】
一方、採光部を通じずにカソードルミネッセンススペクトルを測定した。
【0032】
表層のAlGaAsによるカソードルミネッセンスの測定強度に対する基材のGaAsからのカソードルミネッセンスの測定強度の割合は、採光部を通さなかった場合に対し、採光部を通じたときには約10分の1まで減少していた。すなわち観測したい深さである測定深さを10分の1まで低減させることができたことになる。
【0033】
一方、GaAs基材に加速電圧が10kVまたは20kVの電子4000個を入射した場合の電子の軌跡をモンテカルロシミュレーションを用いて計算した。その結果が図4である。図4基材中で電子の拡散が同じ確率になる等高線をとったところ20kVではA、10kVではBのごとき液滴のような形状の等高線ををとることがわかる。また試料中で拡散する距離は加速電圧が高いほど、大きくなることが分かる。カソードルミネッセンスは、拡散した電子線によるキャリヤ(電子-正孔対)の生成、(2)生成キャリヤの拡散、(3)キャリヤの輻射再結合、の過程を経て発生するため電子線が拡散した領域よりも広い領域から放出される。
【0034】
しかし、試料中で吸収されるカソードルミネッセンスも存在するため、表面から放出されるカソードルミネッセンスは、極めて小さい領域から発光され、図4のBで示されたおよそ200nmの領域から放出されることになり、発光領域の深さ分解能は200nm程度になることが分かった。発光領域の深さ分解能が200nm程度であれば、発光領域の空間分解能は、さらに高くなり、200nm以下になると考えられる。
【0035】
上述のとおり、電子線およびカソードルミネッセンスを採光部に通すと、測定結果として深さ分解能の数字を10分の1まで低減させることができるのであるから、測定結果として空間分解能の数字も10分の1以下になり、例えば20nm以下の空間分解能まで測定できることが分かった。
【0036】
(実施例2)
SiとSiO膜から構成されるVLSIスタンダードを試料として準備した。実施例1の装置に、アルゴンレーザー発光装置を取り付けた。開口径100nmφ四角錐型採光部に向けて、波長364nmのアルゴンレーザーを50mWで照射した。採光部の頂点付近と試料との相互作用で発生する近接場ラマン散乱光を同じ採光部から集光することにより、約100nmの空間分解能で試料に生じている応力分布を測定することができた。
【0037】
応力分布の観測方法を以下説明すると、測定試料と標準試料のラマン散乱光のピーク波数を比較し、無応力状態の試料のラマン散乱光の波数シフト量から試料の応力又は歪みを算出するころができる。実際に、VLSIスタンダードのラマンスペクトルマッピング測定を行い、酸化膜のないSi基板上と酸化膜が形成されている部分で、それぞれ、約+0.4cm-1、-0.6cm-1程度のピーク波数シフトが観測された。下記(1) 式を用いて計算すると、酸化膜のないSi基板上と酸化膜が形成されている部分で、それぞれ、92MPaと138 MPaの圧縮応力と引張応力が周期的に分布していることがわかった。
【0038】
σ(MPa) =2.3×102Δν(cm-1) (1)
なお式中の係数の2.3×102はSiの弾性コンプライアンス定数や変形ポテンシャル
係数を用いて計算された定数である(参考文献ヨシカワ、ナガイら “ハンドブックオブバイブレーショナルスペクトロスコピー(日本語表記)(M.Yoshikawa and N.Nagai, in “Handbook of Vibrational Spectroscopy”, edited by J.M.Chalmers and P.R.Griffiths(Wiley, Chichester, 2002), p.2593.)。
【0039】
(実施例3)
サファイア基板上に形成された、膜厚が約2μmのGaN単結晶膜のフォトルミネッセンス測定を行った。開口径100nmφの四角錐型採光部を通して、波長364nmのアルゴンレーザーを10mWのレーザーパワーで照射した。探針と試料との相互作用で発生する近接場フォトルミネッセンスを同じ採光部を通して集光することにより、約100nm周期の近接場フォトルミネッセンス強度の明暗の縞模様を観測することができた。透過型電子顕微鏡で観測された貫通転位の周期と近接場フォトルミネッセンス強度の明暗の縞模様の周期とがよく一致することから、100nm以下の空間分解能でGaN単結晶の貫通転位による発光分布を測定することができた。
【0040】
(実施例4)
実施例1と同じ装置、試料を用い、加速電圧を20kVとした以外は同様に測定を行った。その結果、表層のAlGaAsによるカソードルミネッセンスの測定強度に対する基材のGaAsからのカソードルミネッセンスの測定強度の割合は、採光部を通なかった場合に対し、採光部を通じたときには約3分の1まで減少していた。実施例1と同様の考察により深さ分解能および空間分解能の数字はそれぞれ約3分の1となり優れた分解能を呈することがわかった。
【0041】
(実施例1および4からの考察)
カソードルミネッセンスの測定深さは試料に入る電子線の加速電圧が高くなれば大きくなる。採光部が試料からのカソードルミネッセンスを選択して通過するという機能のみであれば、電子線の加速電圧にかかわらず、カソードルミネッセンスの強度比(表層のAlGaAsによるカソードルミネッセンスの測定強度に対する基材のGaAsからのカソードルミネッセンスの測定強度の割合)の割合は一定であり、深さ分解能は加速電圧によって変化しないはずである。しかし、実施例1では、加速電圧10kVの場合、表層のAlGaAsによるカソードルミネッセンスの測定強度に対する基材のGaAsからのカソードルミネッセンスの測定強度の割合は、採光部を通さなかった場合に対し、採光部を通じたときには約10分の1であった。加速電圧が20kVであった実施例4では約3分の1であった。
【0042】
すると本発明の測定で採光部を介在させることにより、カソードルミネッセンスの採光のみならず電子線照射という技術要素にもよい作用を奏していることになる。具体的には、試料中での電子線の拡散が抑制されるという効果と推測される。試料中での電子線の拡散が抑制されることは、試料中の発光領域も小さくなり、その結果、深さ分解能および空間分解能の数字が小さくなり、優れた効果を奏することになる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のカソードルミネッセンス装置および測定方法は、分析機器の産業のみならず、エレクトロニクス部品産業の分野等で、製品の状態を微細な部分について解析することができ、品質向上や歩留まりの向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のカソードルミネッセンス装置の概略図
【図2】本発明の装置の電子線照射、試料台、集光器および採光部を示す概略図
【図3】採光部の概略図
【図4】GaAs基材試料中での電子の広がり(拡散)をモンテカルロシミュレーションにより計算した結果
【符号の説明】
【0045】
1:電子銃
2:試料台
3:試料
4:採光部
5:集光器
6:カソードルミネッセンス、近接場ラマン散乱光または近接場フォトルミネッセンス
7:カンチレバー
8:小孔
9:分光器
9’:分光器
10、10’:検出器
11:レーザー発生装置
12:レーザー
13:電子線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃と、電子銃から放出される電子線が照射される試料を載置するための試料台と、試料からの発光を集光し、さらに光の波長に応じて分光する手段と、分光された光の強度を測定する手段とを有するカソードルミネッセンス測定装置であって、試料台に載置される試料の表面の近傍に、試料側に突出し、その頂部に照射電子線および試料からの発光を透過させるための小孔を有する採光部を有することを特徴とするカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項2】
さらに、試料からの二次電子を検出する検出器または試料からの透過電子を検出する検出器を有する請求項1記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項3】
さらに、レーザー発光装置を有し、発光されたレーザーが採光部の小孔を通過するようレーザー光の光路が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載のカソードルミネッセンス装置。
【請求項4】
採光部が中空であり、かつ底面は存在しない錐形であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のカソードルミネッセンス測定装置。
【請求項5】
採光部の形状が角錐または円錐であることを特徴とする請求項4記載のカソードルミネッセンス装置。
【請求項6】
採光部の小孔の直径が300nm以下である請求項1〜5いずれかに記載のカソードルミネッセンス装置。
【請求項7】
採光部の主たる構成材料が金属、半導体およびセラミックスから選ばれるものであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載のカソードルミネッセンス装置。
【請求項8】
採光部の主たる構成材料が半導体又はセラミックスであって、採光部の構成材料の試料側の面および/又は反対側の面に、0.1nm〜100nmの厚みの金属薄膜が被覆されていることを特徴とする請求項7記載のカソードルミネッセンス装置。
【請求項9】
試料からの発光を集光するための手段がミラー式集光器であることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載のカソードルミネッセンス複合装置。
【請求項10】
試料からの発光を分光する手段が、回折格子型分光器、プリズム型分光器、光学フィルター型分光器およびダイクロイックミラー型分光器からなる群から選ばれる少なくとも一つの分光器である請求項1〜9いずれか記載のカソードルミネッセンス複合装置。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか記載のカソードルミネッセンス装置を用い、試料台に試料を載置し、電子線を採光部の小孔を通じて試料に照射し、試料から発せられるカソードルミネッセンスを採光部の小孔に通過させ、カソードルミネッセンスを集光し、さらに分光し、分光した光の強度を測定することを特徴とするカソードルミネッセンス分析方法。
【請求項12】
レーザー光発光装置を有し、発光されたレーザーが採光部の小孔を通過するようレーザー光発光装置が配置されている請求項2〜10いずれか記載のカソードルミネッセンス装置を用い、試料台に試料を載置し、レーザー光を採光部の小孔に向けて照射し、試料からの発光を、採光部の小孔を通じさせ、通過した発光を集光し、さらに分光し、分光した光の強度を測定することを特徴とする光学的分析方法。
【請求項13】
発光がラマン光またはフォトルミネッセンスであることを特徴とする請求項12記載の光学的分析方法。
【請求項14】
試料が半導体、酸化物、強誘電体および窒化物であることを特徴とする請求項11〜13いずれかの記載の測定方法。
【請求項15】
試料が各種電子機器用の素子であることを特徴とする請求項11〜13いずれかの記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−249478(P2008−249478A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91026(P2007−91026)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000151243)株式会社東レリサーチセンター (10)
【Fターム(参考)】