説明

カチオン硬化型反応性希釈剤、色材分散液、インクジェットインク、およびそのインクジェットインクを用いた印字物

【課題】 希釈性能および硬化性能を維持しつつ、高い安全性を有するカチオン硬化型反応性希釈剤およびインクジェットインクを提供する。
【解決手段】 酸の存在下で重合する酸重合性化合物として、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを含有するカチオン硬化型反応性希釈剤。さらに該カチオン硬化型反応性希釈剤に色成分を配合した色材分散液。該色材分散液と光酸発生剤、エポキシ化合物、光増感剤、増粘剤等をを含有するインクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン硬化型反応性希釈剤、色材分散液、インクジェットインク、およびそのインクジェットインクを用いた印字物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、塗料、印刷インキ、半導体関係の封止材、接着剤など、広範囲な分野にわたって利用されている。エポキシ樹脂の中で、代表的なものにビスフェノールA型エポキシ樹脂があり、ビスフェノールAを原料としたさまざまな樹脂が作られ、それぞれの用途に応じて使用されてきた。このビスフェノールA型エポキシ樹脂は、比較的低分子量のタイプのものでも常温で数10000mPa・s程度と高粘度であり、通常、希釈剤を用いて適当な粘度に調整して取り扱われる。
【0003】
希釈剤は、反応性希釈剤と非反応性の希釈剤(有機溶剤)とに大別される。希釈剤には、低粘度で希釈効果があること、乾燥(硬化)性がよいこと、安全性が高いこと、臭気が低いこと、引火性が低いことなどが要求される。反応性希釈剤は環境負荷が低いために各種用途への応用が試みられ、種々の反応性希釈剤が提案されている。
【0004】
代表的な反応性希釈剤としては、各種モノエポキシ化合物や多価アルコールのグリシジルエーテル類などが挙げられ、ブチルグリシジルエーテル(BGE)が主に用いられてきた。BGEは、少量の添加で粘度調整が可能な希釈性能が高く、ある程度の硬化性能も得られる。例えばメチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどの低分子の希釈剤と比較すれば、BGEの毒性は低い。しかしながら、一般にグリシジルエーテル類は変異原性を中心とした毒性に対して大きな問題があり、サルモネラ菌を用いた試験では、ほとんどの化合物が陽性を示す。BGEにおいても毒性はあり、これを低減した化合物が提案された(例えば、特許文献1参照)ものの、かかる化合物は、毒性と反応性とがトレードオフの関係にあり両立するのが困難であった。
【0005】
塩素含有量が低く、希釈効果に優れ、Tgなどの物性低下が少ない反応性希釈剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、低粘度で耐食性、耐薬品性、硬化性、密着性に優れた塗膜を与える反応性希釈剤が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、こうした化合物においても依然として変異原性に問題があった。
【0006】
比較的安全な反応性希釈剤としては、脂環エポキシ化合物が知られている。なかでも、テルペンのような天然物骨格を出発物質として得られるエポキシ化合物は、上述したグリシジルエーテル化合物と比較して、遥かに変異原性の低い傾向にある。具体的には、リモネンジオキサイドなどであるが、かかる化合物においても、実際には変異原性試験では陽性を呈し、流通上や加工上の問題が残っている。
【0007】
従来から、地域広告や企業内配布資料、大型ポスターのようにある程度の部数を必要とする印刷物の製造には、版を利用した印刷機が用いられてきた。近年、こうした従来の印刷機に代わって、多様化するニーズに迅速に対応できるとともに、在庫を圧縮することが可能なオンデマンド印刷機が利用されつつある。そのようなオンデマンド印刷機としては、トナーや液体トナーを用いた電子写真印刷機や高速および高画質印刷が可能なインクジェットプリンタが期待されている。
【0008】
オンデマンド印刷機では、版を利用した印刷機と同様に、顔料および有機溶剤を含有する溶剤系インクや溶剤系液体トナーが使用される。この技術では、ある程度の部数を印刷した際には、無視できない量の有機溶剤が揮発することになる。そのため、揮発した有機溶剤による雰囲気汚染の問題があり、排気設備や溶剤回収機構を設けなければならない。
【0009】
一方、インクジェットプリンタでは、溶剤系インクは、被印刷面に吐出するまで閉鎖系で取り扱うことができるので、適切な排気対策を施せば、雰囲気汚染の問題を多少は軽減することが可能である。しかしながら、版を利用した印刷機で使用するインクとは異なり、インクジェットプリンタで使用されるインクは吐出に必要な流動性を有していなければならない。そのため、用いられるインクは溶媒濃度が十分に高くなければならず、この技術でも、有機溶剤に起因した雰囲気汚染の問題を解決することは本質的に困難である。
【0010】
また、溶剤系インクを使用した場合には、被印刷面が画質に与える影響が大きい。例えば、浸透性の被印刷面では滲みを生じ易く、非浸透性の印刷面では画像の定着が難しい。さらに、被印刷面に形成したインク層が乾燥するには、ある程度の時間を要するため、広い被印刷面に濃い画像を形成する場合、その流動性に起因してつぶれを生じ易い。しかも、溶剤系インクを用いると、インク層の乾燥に伴なって被印刷面の劣化が生じるおそれがある。すなわち、この技術で高品質の印刷物を得ることは、必ずしも容易ではない。
【0011】
溶剤の問題に対して有効な技術として、感光性インクおよびそれを用いたプリンタシステムが注目され始めている。使用される感光性インクとしては、ラジカル重合性モノマーと光重合開始剤と顔料とを含有したものが代表的であり(例えば、特許文献4および特許文献5参照)、被印刷面に吐出された感光性インクは速やかに光硬化される。
【0012】
この技術によれば、光照射によりインク層を非流動化することができるので、比較的高い品質の印刷物を得ることができる。しかしながら、感光性インクはラジカル発生剤などの発癌性成分を多く含むうえ、ラジカル重合性モノマーとして使用される揮発性のアクリル酸誘導体は、皮膚刺激や臭気が大きい。すなわち、こうした感光性インクは、取り扱いに注意を要する。さらに、ラジカル重合は空気中の酸素の存在によって著しく阻害されるのに加え、インク中に含まれる顔料により露光光が吸収されてしまう。その結果、インク層の深部では露光量が不足しがちとなるため、従来のラジカル重合性のインクは光に対する感度が低い。したがって、この技術で高品質な印刷物を得るためには、非常に大掛かりな露光システムが必要である。
【0013】
酸素の影響が比較的小さいインクとして、光カチオン重合性の感光性インクが提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、従来のこのタイプのインクには溶剤が含有されていることから、環境に溶剤放出の問題が避けられない。しかも、硬化物が硬化しやすく、非溶解性ゆえにヘッドのつまりを生じやすい。また、インクジェット吐出可能なCD−ROMのコーティング用カチオン硬化型感光性組成物が提案されている(例えば、特許文献7参照)。実際にインクジェット吐出可能な組成はビニルエーテルと、発癌性などで問題のあるビスフェノールA型エポキシとを主体とするものであり、やはり環境への放出などの問題が大きかった。
【0014】
さらに、特定の組成比のカチオン硬化性モノマーを含有するインクジェットインクが提案されている(例えば、特許文献8参照)。こうしたインクも非常に揮発性の高い特定のビニルエーテル化合物を必須成分として含むため、同様な問題を有していた。また、上記文献に記載されたような通常のビニルエーテル化合物は、顔料と組み合わせて具備した場合には、重合性に乏しいという問題もあった。
【0015】
加えて、多価のビニルエーテル化合物と、脂環エポキシ化合物を含有する感光性インクジェットインクが開示されている(例えば、特許文献9参照)。この文献に開示されたビニルエーテルは、上に述べる重合性に乏しいという問題やビスフェノールA骨格特有の発癌性の問題を有するほか、溶解性と暗反応性の高い脂環エポキシとの組み合わせのため、その保存性や、印刷物の溶剤に対する耐性に問題があった。
【0016】
また特に、印刷面が吸収媒体である場合には、従来のアクリル系光硬化性インクジェットインクは吸収紙面の内部では硬化しにくいという問題もあった。
【0017】
なお、従来の光カチオン硬化型のインクジェットインクには、その粘度変化が激しいという問題点があった。これは、一度経時変化などにより酸が発生するとなかなか失活しにくく、インクの暗反応が多いことに起因している。インクジェットインクの場合、粘度が変化すると、インクの飛翔形状の乱れ、印字再現性の減少、最悪の場合には吐出不良、インクづまりなどの致命的状態に陥りやすいため、この問題は極めて深刻であった。
【特許文献1】特開平2−135213号公報
【特許文献2】特開2003−26766号公報
【特許文献3】特開平9−110847号広報
【特許文献5】特開平8−62841号公報
【特許文献5】特開2001−272529号公報
【特許文献6】特公平2−47510号公報(EUP−0071345−A2)
【特許文献7】特開平9−183928号公報
【特許文献8】特開2001−220526号公報
【特許文献9】米国特許第5889084号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、希釈性能および硬化性能を維持しつつ、高い安全性を有するカチオン硬化型反応性希釈剤を提供することを目的とする。
【0019】
また本発明は、安全性が高く、有機溶剤が不要であり、大掛かりな露光システムなしに高品質な印刷物を形成可能なインクジェットインク、かかるインクを得るための色材分散液、および密着性に優れた印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様にかかるカチオン硬化型反応性希釈剤は、酸の存在下で重合する酸重合性化合物として、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを含有することを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様にかかる色材分散剤は、前述のカチオン硬化型反応性希釈剤と、色成分とを含有することを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様にかかるインクジェットインクは、前述の色材分散液を含むインクジェットインクであって、前記色材分散液におけるカチオン硬化型反応性希釈剤は、前記酸重合性化合物の一部として下記一般式(1)で表わされるビニルエーテル化合物を含有し、前記酸重合性化合物全体の1重量%以上10重量%以下の光酸発生剤を含むことを特徴とする。
【化3】

【0023】
(前記一般式(1)中、R1は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基からなる群から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する。R2は、置換または非置換の環式骨格または脂肪族骨格を有するp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。)
本発明の一態様にかかる印刷物は、前述のインクジェットインクを硬化させた硬化物を含むこと特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の態様によれば、希釈性能および硬化性能を維持しつつ、高い安全性を有するカチオン硬化型反応性希釈剤が提供される。また、本発明の態様によれば、安全性が高く、有機溶剤が不要であり、大掛かりな露光システムなしに高品質な印刷物を形成可能なインクジェットインク、かかるインクを得るための色材分散液、および密着性に優れた印刷物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0026】
本発明の実施形態にかかるカチオン硬化型反応性希釈剤は、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを含む酸重合性化合物を含有する。リモネンジオキサイドは、エポキシ系モノマーとして硬化性が良好であり、各種媒体との密着性に優れている。しかも、常温における粘度が7mPa・s程度と低く、各種樹脂成分との相溶性も良好である。このようにリモネンジオキサイドは、希釈剤としての要件を備えている。また、低粘度なモノマーとしては、リモネンジオキサイドは皮膚刺激性や変異原性に対する毒性が低く、微陽性なレベルである。リモネンジオキサイドの具体例としては、例えばC3000(ダイセル化学工業)が挙げられる。
【0027】
一方、ビニルエーテル化合物としては、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物が好適に用いられる。
【化4】

【0028】
前記一般式(1)中、R1は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基からなる群から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する。R2は、置換または非置換の環式骨格または脂肪族骨格を有するp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。
【0029】
pが0であって、R2としてシクロヘキサン環骨格が導入される場合には、揮発性の観点から、R2には酸素が含まれることがより好ましい。具体的には、環骨格に含まれる少なくとも一つの炭素原子はケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などであることが望まれる。
【0030】
1に導入されるビニルエーテル基の数は、硬化性の観点からは多い方が望ましく、特に制限されない。ただし、希釈剤としての溶解性を考慮すると、多くとも2乃至3程度であることが好ましい。
【0031】
(p+1)価の有機基R2としては、脂肪族骨格から誘導体される(p+1)価の有機基や、芳香環を含む(p+1)価の基が挙げられる。脂肪族骨格としては、例えば、エタン骨格およびブタン骨格に加えて、ジエチレングリコール骨格およびトリエチレングリコール骨格などのアルキレングリコール骨格も含まれる。また、芳香環としては、例えば、ベンゼン環やナフタレン環、およびビフェニル環などが挙げられる。上述したような脂肪族骨格や芳香環の少なくとも1つの水素原子は、例えば,メトキシ基、メトキシエトキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基やアルキルエステル基などのエーテルあるいはエステル等の置換基で置換されていてもよい。
【0032】
あるいは、脂環式骨格から誘導される(p+1)価の基を、R2として導入することもできる。脂環式骨格としては、例えばシクロアルカン骨格、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、およびコレステロール骨格などが挙げられる。脂環式骨格が橋かけ構造を有する場合には、硬化物の硬度が上昇するためより望ましい。さらに、揮発性の観点からは、脂環式骨格は酸素を含有することがより望ましい。具体的には、環式骨格の一部の炭素がケトン構造を有する構造、酸素原子に置換されている構造、あるいは酸素含有置換基を有する構造などである。
【0033】
上記一般式(1)で表わされる化合物の粘度は、通常、1mPa・secないし30mPa・sec程度である。したがって、これらのビニルエーテル化合物を使用することによって、カチオン硬化型反応性希釈剤に求められる低粘度と溶解性とを確保することができる。さらに、これらのビニルエーテル化合物は、安全性が極めて高く、皮膚刺激性や変異原性に関わる毒性が陰性であるものが多い。
【0034】
したがって、一般式(1)で表わされるビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを組み合わせることによって、希釈性を損なうことなく安全性の高いカチオン硬化型反応性希釈剤が得られる。ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとの配合比は、重量で20:80〜50:50の範囲とすることが好ましい。この範囲内であれば、安全性および希釈性をよりいっそう高めることができる。
【0035】
上記一般式(1)で表わされる化合物として、脂肪族骨格を有する(p+1)価の基がR2に導入されたものの具体例を以下に示す。例えば、トリエチレングリコールジビニルエーテル(Rapi−CureDVE3:ISP社)、ジエチレングリコールジビニルエーテル(Rapi−CureDVE2:ISP社)、ドデシルビニルエーテル(Rapi−CureDDVE:ISP社)、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(Rapi−CureHBVE:ISP社)、ブタンジオール-1,4-ジビニルエーテル(Rapi−CureDVB1D:ISP社)、トリプロピレングリコールジビニルエーテル(Rapi−CureDPE3:ISP社)、ジプロピレングリコールジビニルエーテル(Rapi−CureDPE2:ISP社)、ヘキサンジオールジビニルエーテル(Rapi−CureHDDVE:ISP社)、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE:丸善石油化学製)、およびジエチレングリコールモノビニルエーテル(DEGV:丸善石油化学製)などである。
【0036】
2が置換または非置換の環式骨格を有する(p+1)価の基であるものの具体例を、以下に示す。かかるビニルエーテル化合物としては、具体的には、次のようなアルコール化合物における水酸基を、ビニルエーテルやプロペニルエーテルに置換した化合物等が挙げられる。アルコール化合物としては、例えば、クメンアルコール、ビニロキシベンゼン、ハイドロキノン、1−カルボメトキシ−4−ビニロキシベンゼン、2−ヒドロキシナフタレン、1−tertブチル−4−ビニロキシベンゼン、ビスフェノールA、1−オクチル−4−ビニロキシベンゼン、1−ヒドロキシ−3,5ジメチルベンゼン、4−ヒドロキシクミルフェノール、および3−イソプロピルフェノールなどが挙げられる。
【0037】
具体的なビニルエーテル化合物の例を、下記化学式Aro1〜Aro11に示す。
【化5】

【0038】

【化6】

【0039】
環状化合物が脂環式骨格の場合には、臭気および安全性の観点で、芳香族ビニルエーテルよりも好ましいものとなる。かかる脂環式骨格を有するビニルエーテル化合物としては、環式骨格が4〜6員環によって構成される単環、あるいはそれらが結合し橋かけ構造を有する脂環式骨格が望ましい。例えば、次のような脂環式アルコール化合物における水酸基を、ビニルエーテルやプロペニルエーテルに置換した化合物等が挙げられる。脂環式アルコールとしては、例えば、シクロペンタンモノ(ジ)オール、シクロペンタンモノ(ジ)メタノール、シクロヘキサン(ジ)オール、シクロヘキサンモノ(ジ)メタノール、ノルボルナンモノ(ジ)オール、ノルボルナンモノオールモノメタノール、ノルボルナンモノ(ジ)メタノール、トリシクロデカンモノ(ジ)オール、トリシクロデカンモノ(ジ)メタノール、およびアダマンタンモノ(ジ)オールなどを用いることができる。
【0040】
こうした脂環式骨格は、より具体的には下記一般式(VE1−a)または(VE1−b)で表わされる。
【化7】

【0041】
(上記一般式中、X1,Z1は原子数1以上5以下のアルキレン基、Y1は原子数1以上2以下のアルキレン基であり、kは0または1である。)
上述したような脂環式骨格を有するビニルエーテル化合物の具体的としては、次のようなアルコール化合物における水酸基を、ビニルエーテルやプロペニルエーテルに置換した化合物等が挙げられる。アルコール化合物としては、例えば、4−シクロヘキサンジオール、ジシクロペンタジエンメタノール、イソボルネオール、1−tertブチル−4−ビニロキシシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール、ジヒドロキシオクタヒドロフェニル、ヒドロキシトリシクロデカンモノエン、メントール、1,3ジヒドロキシシクロヘキサン、デカヒドロ−2−ナフタレノール、ビニロキシシクロドデカノール、およびノルボルナンジオールなどが挙げられる。
【0042】
より具体的なビニルエーテル化合物の例を、下記化学式Ali1〜Ali14に示す。
【化8】

【0043】

【化9】

【0044】
こうした化合物のなかでも、脂環式骨格が橋かけ構造を有する場合には、得られる硬化物の硬度が上昇するためより望ましい。また、アイエスピージャパン社製のRAPI−CURE CHVE:シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、およびRAPI−CURE CHMVE:シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルなども挙げられる。
【0045】
脂環式骨格を有する化合物が含酸素構造の場合には、揮発性や顔料分散性の点で望ましいものとなる。そうした構造としては、例えば、環の一部の炭素が酸素原子に置換された構造、あるいは酸素含有置換基を有するなどが挙げられる。
【0046】
酸素含有置換基を有する環構造をもつビニルエーテル化合物としては、次のような化合物が挙げられる。例えば、環式骨格が4〜6員環によって構成される単環あるいはそれらが結合し橋かけ構造を有する脂環式骨格を有するアルコール化合物において、特定の置換基で水酸基を置換した化合物である。例えば、少なくとも1つ以上の水酸基を、メトキシ基やメトキシエトキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基やアルキルエステル基などのエーテルあるいはエステルで置換し、残りの水酸基は、ビニルエーテルやプロペニルエーテルに置換した化合物等が挙げられる。具体的には、そのアルコール化合物としてはシクロペンタンジオール、シクロヘキサンジ(トリ)オール、シクロヘキサンジ(トリ)メタノール、ノルボルナンジ(トリ)オール、ノルボルナンモノ(ジ)オールモノ(ジ)メタノール、ノルボルナンジ(トリ)メタノール、トリシクロデカンジ(トリ)オール、トリシクロデカンジ(トリ)メタノール、およびアダマンタンジ(トリ)オールなどが例示される。
【0047】
より具体的には、下記化学式で表わされる酸素含有置換基を有するビニルエーテル化合物が最も望ましい。
【化10】

【0048】
他方、酸素原子が脂環式骨格内に含まれる場合、粘度安定性がさらに向上するためより望ましいものとなる。かかる化合物としては、下記一般式(VE2−a)または(VE2−b)で表わされる化合物が例示される。
【化11】

【0049】
(上記一般式中、X2,Y2、Z2のいずれかに少なくとも1個の酸素原子を含み、X2,Z2は原子数1以上5以下のアルキレン基または酸素原子をエーテル結合として含む2価の有機基、Y2は、酸素原子、原子数1以上2以下のアルキレン基または酸素原子をエーテル結合として含む2価の有機基を示し、kは0または1である。)
かかる化合物は、脂環式骨格の安全性と優れた硬化性能、および、環構成原子として酸素原子を有する環状炭化水素骨格は高表面張力を示す。このため、高い溶解性や分散性を有している。
【0050】
こうした構造の脂環式骨格を有するビニルエーテル化合物としては、環式骨格が4〜6員環の環状エーテル骨格を有する化合物が望ましい。例えば、次のようなアルコール化合物における水酸基を、ビニルエーテルまたはプロペニルエーテルに置換した化合物等が挙げられる。具体的には、置換または非置換のオキセタンモノオール、置換または非置換のオキセタンモノメタノール、オキサペンタンモノ(ジ)オールや、オキサシクロヘキサンモノ(ジ)オール、イソソルビトールやマンニトール、オキサノルボルナンモノ(ジ)オール、オキサノルボルナンモノオールモノメタノール、オキサノルボルナンモノ(ジ)メタノール、オキサトリシクロデカンモノ(ジ)オール、オキサアダマンタンモノ(ジ)オール、およびジオキソランメンタノールなどが挙げられる。
【0051】
かかる化合物のなかでも、前記一般式(VE2−a)または(VE2−b)で表わされる環状骨格部分の構造において、酸素原子数と炭素原子数の比(酸素原子数/炭素原子数)は、0.08を越えることが好ましい。こうしたビニルエーテル化合物が用いられると、溶解性や印刷媒体との濡れ性などの極性に関係する物性で特徴を発揮するインクが得られる。(酸素原子数/炭素原子数)は、0.15以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0052】
具体的なビニルエーテル化合物としては、CasNo.22214−12−6,およびCasNo.20191−85−9などが挙げられる。こうした化合物のように、オキセタン環やヒドロフラン環のような、歪んだ環状エーテル構造をもつ化合物が、反応性も向上するため望ましい。なかでもヒドロフラン環は、揮発性の観点で望ましい。かかる環式構造は橋かけ構造を有する場合には、硬化物の硬度がさらに高まるため、さらに望ましいものとなる。より具体的には、以下に示すビニルエーテルが最も望ましい。
【化12】

【0053】
上述した一連のビニルエーテル化合物は、例えば、J.Chem.Soc.,1965(2)1560−1561やJ.Am.Chem.Soc.Vol.124,No.8,1590−1591(2002)などに記載されている方法によって、好適に合成することができる。かかる方法を用いた場合、相当する芳香族アルコールや脂環アルコール化合物を出発原料とし、ハロゲン化イリジウムなどの触媒下、ビニルエーテルやプロペニルエーテルの酢酸エステルを作用させる。これによって、目的とするビニルエーテルやプロペニルエーテル化合物を容易に得ることができる。例えば、メントールと酢酸ビニルとを、イリジウム化合物を触媒として炭酸ナトリウムのトルエン混合液中で、アルゴン雰囲気の下、加熱攪拌することによって、メントールビニルエーテル(MTVE)を得ることができる。
【0054】
こうした合成方法は、本明細書に例示されるいかなる化合物の合成においても、好適に用いることができる。
【0055】
上述したように、本発明の実施形態にかかるカチオン硬化型反応性希釈剤に含有される酸重合性化合物には、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとが必須成分として含まれる。これらに加えて、希釈剤としての性能を損なわない範囲で、第3の酸重合性化合物がさらに含有されてもよい。第3の酸重合性化合物を配合することによって、硬化性をさらに高めることができる。また、硬化物の密着性や可とう性といった特性も、よりいっそう高められる。第3の酸重合性化合物の添加量は、酸重合性化合物の総量の20重量%以下とすることが望ましい。20重量%を越えて過剰に添加されると、本来の反応性希釈剤としての性能が損なわれるおそれがある。また、皮膚刺激性や変異原性に対して陽性な化合物を使用した場合には、安全性の低下を招くことがある。
【0056】
第3の酸重合性化合物としては、一般に、酸重合性化合物として知られるもので、比較的安全性の高いものが挙げられる。例えば、エポキシ基、オキセタン基、およびオキソラン基などのような環状エーテル基を有する化合物、上述した置換基を側鎖に有するアクリルまたはビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラミン化合物、ビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマー類のうち、変異原性試験による結果が微陽性または陰性のもの、皮膚刺激性PII=2以下のものなどが好適である。
【0057】
ビニル基を有するエポキシ化合物としては、例えばC2000(ダイセル化学工業社製)が挙げられ、α−オレフィンエポキシドとしては、例えばAOEX24(ダイセル化学工業社製)が挙げられる。また、エポキシ化植物油としては、例えばELSO(ダイセル化学工業社製)が挙げられる。これらの化合物は、硬化性および安全性を考慮すると、第3の酸重合性化合物として特に好適である。
【0058】
本発明の実施形態にかかるカチオン硬化型反応性希釈剤には、重合禁止剤(塩基性化合物)が含有されてもよい。カチオン硬化型反応性希釈剤は、一般に、経時的粘度増加が高い傾向にあり、保存安定性が十分に高いとはいえない。塩基性化合物および塩基性を発現する化合物の少なくとも一方を、重合禁止剤としてさらに配合することによって、粘度の上昇を抑制することができる。その結果、性能を長期にわたって維持することが可能となる。
【0059】
塩基性化合物としては、上述したような酸で重合する化合物中に溶解可能な任意の無機塩基および有機塩基を使用することができるが、溶解性の点から有機塩基が望ましい。有機塩基としては、例えば、アンモニアやアンモニウム化合物、置換または非置換のアルキルアミン、置換または非置換の芳香族アミン、ピリジン、ピリミジン、イミダゾールなどのヘテロ環骨格を有する有機アミンが挙げられる。より具体的には、n−ヘキシルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロウンデカン、3−フェニルピリジン、4−フェニルピリジン、ルチジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、4−メチルベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、および1,3−ベンゼンジスルホニルヒドラジドのようなスルホニルヒドラジドなどが挙げられる。
【0060】
塩基性化合物としては、アンモニウム化合物も用いることができる。好ましいアンモニウム化合物は、下記一般式(3)で示される第四級アンモニウム塩である。
【化13】

【0061】
(上記一般式(3)中、Ra、Rb、Rc、およびRdは、同一でも異なっていてもよく、各々アルキル、シクロアルキル、アルキルアリールまたはアリール基である。これらの中で、1個またはそれ以上の脂肪族CH2基が酸素原子により置き換えられていてもよい。また、X3は塩基性陰イオンである。)
上記一般式(3)で表わされる化合物としては、RaないしRdが、おのおの、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ドデシル、フェニル、ベンジルであり、X3- が水酸イオン、−ORはC1 〜C4 アルキル基本、-OCOR’(R’はアルキル、アリール、アルキルアリール)、OCOO- 、OSOO- で表わされるアニオンが好ましく用いられる。特に好ましくは、水酸化テトラメチルアンモニウム、および水酸化テトラブチルアンモニウムが挙げられる。これらの塩基性化合物は、1種あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0062】
用いられる化合物の種類にもよるが、一般的には、酸重合性化合物に対して数100〜数1000ppm程度の割合で配合されれば、重合禁止剤の効果を得ることができる。
【0063】
上述したようなカチオン硬化型反応性希釈剤中に色成分を含有させて、本発明の実施形態にかかる色材分散液が得られる。本発明の実施形態にかかる色材分散液は、エポキシ系樹脂への希釈剤兼着色剤はもちろんのこと、各種塗料、印刷インキなどにも応用することができる。色材分散液に光酸発生剤を配合することによって、本発明の実施形態にかかるインクジェットインクが得られる。
【0064】
色材分散液に含有される色成分としては、顔料および/または染料が挙げられる。ただし、本発明の実施形態にかかるインクジェットインクにおいては、上述したように光酸発生剤を配合して重合メカニズムに酸が用いられる。このため、インクジェットインクを調製する場合には、酸により退色しやすい染料よりも顔料を使用して色材分散液を作製することが望まれる。
【0065】
色成分として利用可能な顔料は、顔料に要求される光学的な発色・着色機能を有していれば特に限定されず、任意のものを用いることができる。ここで使用される顔料は、発色・着色性に加えて、磁性、蛍光性、導電性、あるいは誘電性等のような他の性質をさらに示すものであってもよい。この場合には、画像に様々な機能を付与することができる。また、耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体を加えてもよい。
【0066】
使用可能な顔料としては、例えば、光吸収性の顔料を挙げることができる。そのような顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンリファインド、およびカーボンナノチューブ等の炭素系顔料、鉄黒、コバルトブルー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、および酸化鉄等の金属酸化物顔料、硫化亜鉛等の硫化物顔料、フタロシアニン系顔料、金属の硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、およびリン酸塩等の塩からなる顔料、並びにアルミ粉末、ブロンズ粉末、および亜鉛粉末等の金属粉末からなる顔料が挙げられる。
【0067】
また、例えば、染料キレート、ニトロ顔料、アニリンブラック、ナフトールグリーンBのようなニトロソ顔料、ボルドー10B、レーキレッド4Rおよびクロモフタールレッドのようなアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む。)、ピーコックブルーレーキおよびローダミンレーキのようなレーキ顔料、フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料、多環式顔料(ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラノン顔料など)、チオインジゴレッドおよびインダトロンブルーのようなスレン顔料、キナクリドン顔料、キナクリジン顔料、並びにイソインドリノン顔料のような有機系顔料を使用することもできる。
【0068】
黒インクで使用可能な顔料としては、例えば、コロンビア社製のRaven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、およびSpecial Black 4などのようなカーボンブラックを挙げることができる。
【0069】
イエローインクで使用可能な顔料としては、例えば、Yellow 128、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 150、C.I.Pigment Yellow 154、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 12、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 14C、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 73、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 75、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 93、C.I.Pigment Yellow95、C.I.Pigment Yellow97、C.I.Pigment Yellow 98、C.I.Pigment Yellow 114、およびPigment Yellow 180等が挙げられる。特に、これらの黄色顔料の中でも、酸に対する色劣化が少ないPigment Yellow 180が好ましく用いられる。
【0070】
また、マゼンタインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 123、C.I.Pigment Red 168、C.I.Pigment Red 184、C.I.Pigment Red 202、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 57:1、C.I.Pigment Violet 19およびC.I.Pigment Red 112等が挙げられる。
【0071】
さらに、シアンインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 15:34、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Vat Blue 4、およびC.I.Vat Blue 60等が挙げられる。
【0072】
天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような白色顔料も、色成分として有用である。白色顔料を含有したインクジェットインクは、白色印刷に使用可能なだけでなく、重ね書きによる印刷訂正や下地補正に使用することができる。
【0073】
蛍光性を示す顔料としては、無機蛍光体および有機蛍光体の何れを使用してもよい。無機蛍光体の材料としては、例えば、MgWO4、CaWO4、(Ca,Zn)(PO42:Ti+、Ba227:Ti、BaSi25:Pb2+、Sr227:Sn2+、SrFB23.5:Eu2+、MgAl1627:Eu2+、タングステン酸塩、イオウ酸塩のような無機酸塩類を挙げることができる。
【0074】
また、有機蛍光体の材料としては、以下のものが挙げられる。例えば、アクリジンオレンジ、アミノアクリジン、キナクリン、アニリノナフタレンスルホン酸誘導体、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、クロロテトラサイクリン、メロシアニン、1,1’−ジヘキシル−2,2’−オキサカルボシアニンのようなシアニン系色素、ダンシルスルホアミド、ダンシルコリン、ダンシルガラクシド、ダンシルトリジン、ダンシルクロリドのようなダンシルクロライド誘導体、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロミド、フルオレセイン、フォーマイシン、4−ベンゾイルアミド−4’−アミノスチルベン−2,2’−スルホン酸、β−ナフチル3リン酸、オキソノール色素、パリナリン酸誘導体、ペリレン、N−フェニルナフチルアミン、ピレン、サフラニンO、フルオレスカミン、フルオレセインイソシアネート、7−クロロニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾル、ダンシルアジリジン、5−(ヨードアセトアミドエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、N−(1−アニリノナフチル4)マレイミド、N−(7−ジメチル−4−メチルクマニル)マレイミド、N−(3−ピレン)マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミド、フルオレセインマーキュリーアセテート、2−(4’−(2’’−ヨードアセトアミド))アミノナフタレン−6−スルホン酸、エオシン、ローダミン誘導体、有機EL色素、有機ELポリマーや結晶、デンドリマー等である。
【0075】
インク層の耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体としては、例えば、アルミニウムやシリコンの酸化物もしくは窒化物、フィラー、シリコンカーバイドなどを挙げることができる。また、インク層に導電性を付与するために、導電性炭素顔料、カーボン繊維、銅、銀、アンチモン、貴金属類などの粉体を添加してもよい。酸化鉄や強磁性粉は磁性を付与するのに適しており、高誘電率なタンタル、チタン等の金属酸化粉なども配合することができる。
【0076】
本実施形態にかかるインクジェットインクにおいては、顔料の補助成分として染料を添加することが可能である。例えば、アゾイック染料、硫化(建材)染料、分散染料、蛍光増白剤、油溶染料のような、酸性、塩基性が低く、溶媒に対して溶解性の高い染料が通常用いられるが、なかでもアゾ系、トリアリールメタン系、アントラキノン系、アジン系などの油溶染料が好適に用いられる。例えば、C.I.Slovent Yellow−2、6、14、15、16、19、21、33,56,61,80など、Diaresin Yellow−A、F、GRN、GGなど、C.I.Solvent Violet−8,13,14,21,27など,C.I.Disperse Violet−1、Sumiplast Violet RR、C.I.Solvent Blue−2、11、12、25、35など、Diresin Blue−J、A、K、Nなど、Orient Oil Blue−IIN、#603など、Sumiplast Blue BGなどを挙げることができる。
【0077】
上述した顔料や染料は、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。また、吸光性、彩度、色感などを高めるために、顔料と染料とを併用することもできる。さらに、顔料の分散性を高めるために、高分子バインダとの結合やマイクロカプセル化処理などを施してもよい。
【0078】
色成分の含有量は、1重量%以上25重量%以下の量で配合されることが望ましい。1重量%未満の場合には、充分な色濃度を確保することが困難となる。一方、25重量%を超えると、インク吐出性が低下する。色成分の含有量は、2重量%から8重量%の範囲がより好ましい。
【0079】
また、粉体成分の含有量は1重量%乃至50重量%であることが望ましい。粉体成分の含量が1重量%未満である場合には感度上昇等の効果が不十分となり、50重量%を超えると解像性や感度が低下するおそれがある。
【0080】
インクジェットインクにおいては、色成分や粉体の平均粒径は可能な限り小さいことが望まれる。一般に、色成分や粉体の粒径は、通常、インクジェットインクを吐出するノズルの開口径の1/3以下であり、より好ましくは1/10以下程度である。このサイズは典型的には10μm以下であり、1μm以下であることが好ましい。分散不良による沈降を考慮すると、印刷用インクジェットインクとして好適な粒子径は0.35μm以下となり、通常は0.1〜0.3μmの間の平均粒子径を有する。
【0081】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクには、光照射により酸を発生する光酸発生剤が含有される。光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などを使用することができる。
【0082】
これらの化合物の具体例としては、例えば、トリフェニルスルフォニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムトリフレート、2,3,4,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン−4−ナフトキノンジアジドスルフォネート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムp−エチルフェニルスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウム2−ナフチルスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムフェニルスルフェート、2,5−ジエトキシ−4−N−4'−メトキシフェニルカルボニルフェニルジアゾニウム−3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェニルスルフェート、2−メトキシ−4−N−フェニルフェニルジアゾニウム−3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェニルスルフェート、ジフェニルスルフォニルメタン、ジフェニルスルフォニルジアゾメタン、ジフェニルジスルホン、α−メチルベンゾイントシレート、ピロガロールトリメシレート、ベンゾイントシレート、みどり化学社製MPI−103(CAS.NO.(87709−41−9))、みどり化学社製BDS−105(CAS.NO.(145612−66−4))、みどり化学社製NDS−103(CAS.NO.(110098−97−0))、みどり化学社製MDS−203(CAS.NO.(127855−15−5))、みどり化学社製Pyrogallol tritosylate(CAS.NO.(20032−64−8))、みどり化学社製DTS−102(CAS.NO.(75482−18−7))、みどり化学社製DTS−103(CAS.NO.(71449−78−0))、みどり化学社製MDS−103(CAS.NO.(127279−74−7))、みどり化学社製MDS−105(CAS.NO.(116808−67−4))、みどり化学社製MDS−205(CAS.NO.(81416−37−7))、みどり化学社製BMS−105(CAS.NO.(149934−68−9))、みどり化学社製TMS−105(CAS.NO.(127820−38−6))、みどり化学社製NB−101(CAS.NO.(20444−09−1))、みどり化学社製NB−201(CAS.NO.(4450−68−4))、みどり化学社製DNB−101(CAS.NO.(114719−51−6))、みどり化学社製DNB−102(CAS.NO.(131509−55−2))、みどり化学社製DNB−103(CAS.NO.(132898−35−2))、みどり化学社製DNB−104(CAS.NO.(132898−36−3))、みどり化学社製DNB−105(CAS.NO.(132898−37−4))、みどり化学社製DAM−101(CAS.NO.(1886−74−4))、みどり化学社製DAM−102(CAS.NO.(28343−24−0))、みどり化学社製DAM−103(CAS.NO.(14159−45−6))、みどり化学社製DAM−104(CAS.NO.(130290−80−1)、CAS.NO.(130290−82−3))、みどり化学社製DAM−201(CAS.NO.(28322−50−1))、みどり化学社製CMS−105、みどり化学社製DAM−301(CAS.No.(138529−81−4))、みどり化学社製SI−105(CAS.No.(34694−40−7))、みどり化学社製NDI−105(CAS.No.(133710−62−0))、みどり化学社製EPI−105(CAS.No.(135133−12−9))、およびダイセルUCB社製UVACURE1591などを挙げることができる。
【0083】
こうした光酸発生剤の含有量は、通常、酸重合性化合物の総量の1〜10重量%である。1重量%未満の場合には、効果を十分に得ることができず、一方、10重量%を越えて過剰に含有されると、保存性が低下するといった不都合が生じるおそれがある。ただし、後述するような光増感剤を併用する場合には、光増感剤を含有しないときの光酸発生剤の含有量に対して、約60%以下に低減することができる。
【0084】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクには、光増感剤を配合することができる。光増感剤としては、例えば、下記一般式(2)で表わされるアントラセンジエーテル化合物が挙げられる。
【化14】

【0085】
(上記一般式(2)中、R10は炭素数1〜5の1価の有機基、R11およびR12は同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルキルスルホニル基またはアルコキシ基である。)
一般式(2)においてR10として導入され得る1価の有機基としては、例えばアルキル基、アリール基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、およびビニル基などが挙げられる。
【0086】
アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、およびi−ペンチル基などが挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、およびp−トリル基などが挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、例えば、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−メチル−2−ヒドロキシエチル基、および2−エチル−2−ヒドロキシエチル基などが挙げられる。また、アルコキシアルキル基としては、例えば2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、2−エトキシエチル基、3−エトキシプロピル基などがある。さらに、アリル基、2−メチルアリル基、ベンジル基、あるいはビニル基などを導入してもよい。このような化合物は、例えば(J.Am.Chem.Soc.,Vol.124,No.8(2002)1590)に示されるような方法で合成することができる。
【0087】
前記一般式(2)におけるR10O基は、酸により重合する基であることが好ましい。こうしたR10O基としては、例えば、ビニルエーテル基、プロペニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、およびオキソラン基などが挙げられる。こうした酸重合性の基は、酸による重合反応時に、この光増感剤自体も重合に関与して、重合反応生成物に組み込まれることになる。また、R10O基が、酸または熱により解離してOH基を生じる基の場合も、同様に重合反応生成物に組み込まれることになる。こうしたR10O基としては、例えばtert-ブチル基、tert-ブトキシカルボニル基、アセタール基およびシリコーン含有基などが挙げられる。
【0088】
すなわち、一般式(2)におけるR10基自体が重合した場合、この光増感剤は重合生成物の一部となる。あるいは、光増感剤中に酸または熱により生成されたOH基が酸重合性化合物と結合した場合も同様に、光増感剤は重合生成物の一部となる。これによって、重合反応の重合度をより進めることが可能であり、最終的な硬化性能(硬度)を向上させることが可能となるので、本発明の実施形態にかかるインクジェットインクを用いることによって、得られる印刷物の耐久性も向上させることができる。
【0089】
前記一般式(2)においてR11およびR12は水素原子、C1〜C3のアルキル基、アルキルスルホニル基またはアルコキシ基を表わす。これらの基であれば、どのような基であってもよいが、合成の簡便さを考えるとR11およびR12は、いずれもが水素原子であっても問題ない。
【0090】
一般式(2)で表わされる化合物としては、例えば、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン(、2,3−ジエチル−9,10−ジエトキシアントラセン)のようなジアルコキシアントラセンや、9,10−ジフェノキシアントラセン、9,10−ジアリルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−メチルアリルオキシ)アントラセン、9,10−ジビニルオキシアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−メトキシエトキシ)アントラセンなどが挙げられる。これらの化合物は、いずれを用いても十分な効果を発揮するが、化合物もしくはその合成原料の入手コストや、化合物の安全性を考慮すると、9,10−ジブトキシアントラセン、および9,10−ジビニルオキシアントラセンが特に好ましい。
【0091】
用いられる化合物の種類にもよるが、一般的には、光増感剤は、光酸発生剤の重量に対して10〜50%程度の割合で配合されていれば、その効果を発揮することができる。
【0092】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクには、インクジェットインクとして最適な粘度値に調整するための増粘剤を添加することもできる。
増粘剤としては、本発明のかかるインクジェットインク溶媒に溶解し、吐出性能、保存安定性などの性能に影響がないものであれば、適宜使用可能である。例えば、樹脂成分(含むオリゴマー)や金属石鹸などが挙げられる。
【0093】
より具体的には、ロジン、ギルソナイト、ゼインなどの天然樹脂およびその誘導体、合成樹脂としては、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース誘導体などが挙げられる。
【0094】
また、水素添加ひまし油などの油脂成分や、ステアリン酸アルミニウムやオクタン酸アルミニウムなどの金属石鹸類、アルミニウムキレート、有機ベントナイト、酸化ポリエチレン、長鎖ポリアミノアミド、ポリカルボン酸アルキルアミンなども、増粘剤として利用することができる。
【0095】
これらの樹脂成分の重量平均分子量は、100000以下であることが好ましい。重量平均分子量が100000を超えると、インクジェットインクの吐出性能が低下するおそれがある。重量平均分子量の下限は特に限定されないが、通常、1000程度である。なお、樹脂成分の重量平均分子量は、例えばGPC(Gel Permeation Chromatograph)といった手法により測定することができる。
【0096】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクは、例えば印刷に用いられるインクジェット記録装置に適用される。このような記録装置においては、通常、高速化のために、印字ヘッドが線状に配列され、印字面に対して1パスで印刷が行なわれる。したがって、吐出上のエラーは、印刷面の線状の印刷不良(抜け)となってしまう。こうしたエラーを極力ゼロにすることが不可欠であり、用いられるインクには、非常に高い印字精度や吐出安定性が要求されている。
【0097】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクは、カチオン重合型であり、反応性が高い。このため、本質的にその粘度等の物性変化が大きく不安定である。これは、何らかの要因(例えば熱など)で活性種がいったん発生すると容易には失活せず、インクの暗反応が多いことに起因している。
【0098】
さらに近年の研究では、これらのインクの安定性を高めるためには、マクロだけでなく、ミクロにもインクの状態を安定にする必要があることがわかってきている。例えば一般にインクは、粒子径が小さいほど、また分散安定性が高いほど、印字エラーは少なくなる。カチオン重合型のようなインクをはじめ、イオン性物質(重合開始剤や界面活性剤など)が含まれるインクは、コロイド分散系における塩析と類似した作用により、一般に経時的に凝集を引き起こしやすい。このため、保存安定性に劣るという問題があった。成分が反応して粘性、表面張力、弾性力等が変化すると、インクの飛翔形状の乱れ、印字再現性の減少、最悪の場合には吐出不良、インクつまりといった致命的状態に陥りやすいため、この問題は極めて深刻であった。
【0099】
すなわち、重量平均分子量が大きい成分が含有されると、酸重合性化合物のゲル化を促進させる原因になり兼ねない。また、樹脂成分自身や色材などの凝集から発生する粗大粒子として、吐出性能を妨げる要因となる場合もある。したがって、樹脂成分としては、インクの粘度調整が可能な範囲で、極力低分子量のものを使用することが望ましい。吐出性能の低下を極力避けるためには、重量平均分子量は100000以下であることがより望ましい。
【0100】
増粘剤の添加量は、用いられる樹脂成分の重量平均分子量に応じて適宜決定することができる。例えば、分子量約20000の増粘剤の場合には、酸重合性化合物に対して1〜3重量%程度の割合で配合すれば、その効果を得ることができる。
【0101】
本発明の実施形態にかかるインクジェットインクは、顔料などの分散性を高めるために、少量のノニオン系またはイオン系界面活性剤や帯電剤のような分散剤をさらに含有することができる。同様な性質を有するアクリルやビニルアルコールのような高分子系分散剤もまた、好適に使用される。ただし、分散剤としてカチオン系分散剤を使用する場合には、酸性度がカルボン酸より低い化合物を選択することが望ましい。カチオン系分散剤のなかには、インクの硬化暗反応を促進するものもあるからである。また、強い塩基性を有する分散剤や色素なども、インクの感度を低下させるのみならず、同様に硬化暗反応を促進することがある。したがって、こうした分散剤としては、中性に近いものやノニオン系の化合物を用いることが望まれる。
【0102】
具体的には、高分子分散剤としては、例えば、Solsperse24000、Solsperse32000(いずれもアビシア社製)等を用いることができる。こうした高分子分散剤は、顔料の重量の5〜30%程度の割合で配合されれば、その効果を発揮することができる。
【0103】
次に、図面を参照して、本発明のインクジェットインクが用いられる印字方法を説明する。
【0104】
図1は、上述したようなインクジェットインクを用いて記録を行なうための典型的な記
録装置の概略的に示す図である。図示するインクジェット記録装置1は、記録媒体2を搬
送する搬送機構3を備えている。搬送機構3の移動方向に沿って上流側から下流側には、
インクジェット式の記録ヘッド4、光源5、および加熱機構6としてのヒーターが順次配
置されている。
【0105】
記録媒体(あるいは、被印刷物)2は、印刷可能な媒体であれば特に限定されるものではない。記録媒体2としては、例えば、紙、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、および金属基板などを使用することができる。
【0106】
搬送機構3は、例えば、記録媒体2が記録ヘッド4、光源5、およびヒーター6の正面を順次通過するように媒体2を搬送する。ここでは、搬送機構3は、記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。搬送機構3は、例えば、記録媒体2を移動させるベルトおよび/またはローラと、それを駆動する駆動機構とによって構成することができる。また、搬送機構3には、記録媒体2の移動を補助するガイド部材などをさらに設けてもよい。
【0107】
記録ヘッド4は、画像信号に対応して記録媒体2上にインクジェットインクを吐出して、インク層を形成する。記録ヘッド4としては、例えば、キャリッジに搭載されたシリアル走査型ヘッドや、記録媒体2の幅以上の幅を有するライン走査型ヘッドを使用することができる。高速印刷の観点では、通常、後者のほうが前者に比べて有利である。記録ヘッド4からインクジェットインクを吐出する方法には、特に制限はない。例えば、発熱体の熱により発生する蒸気の圧力を利用してインク滴を飛翔させることができる。あるいは、圧電素子によって発生する機械的な圧力パルスを利用して、インク滴を飛翔させてもよい。
【0108】
光源5は、記録媒体2上のインク層に光を照射して、インク層中に酸を発生させる。光源5としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。これらのなかでも、システムを簡便化できることから、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプや半導体レーザなどを使用することが望ましい。光源5には、必要に応じて集光用ミラーや走引光学系を設けてもよい。
【0109】
加熱機構6としてのヒーターは、記録媒体2上のインク層を加熱して、酸を触媒とした架橋反応を促進する。具体的には、ヒーターとしては、例えば、赤外ランプ、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。
【0110】
こうした装置1を用いて、例えば以下のような方法により記録媒体に印刷を行なうことができる。
まず、搬送機構3により記録媒体2を、図中、右側から左側へ向けて搬送する。記録媒体2の搬送速度は、例えば、0.1m/min乃至数100m/minの範囲内とすることができる。
【0111】
記録媒体2が記録ヘッド4の正面まで搬送されると、記録ヘッド4は画像信号に対応して、上述のインクジェットインクを吐出する。これにより、記録媒体2上に所定のインク層(図示せず)が形成される。
【0112】
インク層を有する記録媒体2は、光源5の正面へ搬送される。記録媒体2が光源5の正面を通過する際、光源5は記録媒体2上に形成されたインク層に向けて光を照射して、インク層中に酸を発生させる。なお、インク層表面の位置における照射光強度は、使用する光源の波長などに応じて異なるが、通常、数mW/cm2乃至1KW/cm2の範囲内とすることができる。インク層への露光量は、インクジェットインクの感度や被印刷面の移動速度(記録媒体2の搬送速度)などに応じて、適宜設定することができる。
【0113】
続いて、記録媒体2は、ヒーター6内あるいはその近傍へ搬送される。記録媒体2がヒーター6内あるいはその近傍を通過する際、ヒーター6は記録媒体2上に形成されたインク層を加熱して、インク層中での架橋反応を促進する。なお、図1に示す装置1においては、通常、ヒーター6による加熱時間は数秒乃至数10秒程度と比較的短い。したがって、ヒーター6によりインク層の硬化をほぼ完全に進行させる場合は、最高到達温度が例えば200℃程度以下、望ましくは60℃乃至200℃あるいは80℃乃至180℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なう。
【0114】
その後、記録媒体2は、図示しないストッカー(あるいは容器)内へと搬送される。こうして、印刷が完了する。
インク層を加熱するための加熱機構は、図1に示したように光源の下流に配置されたヒーター6に限定されるものではない。例えば、インク層への露光の際、被印刷面を損なわない程度に光源5を記録媒体2に近づけることによって、光源5を熱源としても利用することができる。コールドミラーのような除熱機構を光源に設けないことによって、同様に光源を熱源として利用してもよい。数百ワットの高出力バルブの場合には、冷却機構を同時に有しているので、その排熱機構の一部を変更して、意図的にその熱を紙面に還元する機構を設ければよい。これによって、光源から発生する熱によって、インク層を加熱することができる。
【0115】
例えば、光源を冷却した気流を紙面や搬送/保持機構内に再導入して、加熱に用いる機構を有する百w以上の出力の光源が該当する。光源の熱の還元による記録媒体の到達温度は、上述したヒーターによる加熱と同程度の効果が得られる温度とすればよい。好ましい温度は、加熱時間に依存するが、通常少なくとも60℃以上、より好ましくは80℃から100℃である。また、露光速度が数m/秒と高速な場合には、瞬間的に加熱されるために180℃程度の高温としてもよい。
【0116】
光源5として、例えば可視光に加えて赤外光を発生し得るものを使用した場合には、光照射と同時に加熱を行なうことができる。この場合には、硬化を促進させることができるので好ましい。
【0117】
インク層に光を照射すると、光源5から発生する熱によってインク層が加熱されるため、加熱機構は、ヒーター6のように必ずしも独立した部材として設ける必要はない。しかしながら、光源5からの熱のみで常温で放置してインク層を完全に硬化させるには長時間を要する。したがって、常温放置は、完全硬化までに充分に長い時間を確保できる用途に適用することが望まれる。例えば、翌日に配布される新聞公告のような印刷物は、硬化までに要する時間を一昼夜程度と長く確保することができるので、常温放置でも完全硬化させることができる。
【0118】
このような記録方法とインクにより形成された画像(印刷物)は、印字品質のみならず、硬化性能も高く、硬度、密着性、耐光性、および安全性の全てにおいて優れたものとなり得る。硬化後の印字は、有害物の輻射がほとんどないことに加えて、露光中の重量減においても、10%以内に抑えられる。このため、印刷雰囲気の飛散物も極力低減されて、望ましいものとなる。本発明の実施形態にかかるインクジェットインクを硬化させることによって、優れた特性を備えた印刷物が得られる。
【実施例】
【0119】
以下、具体例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0120】
(実施例1)
ビニルエーテル化合物(VE)としてCHVEおよびDVE3を用意し、リモネンジオキサイド(LOX)としてはC3000を用意した。種々の配合比(重量比)でビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを混合して、本実施例のカチオン重合型反応性希釈剤を調製した。具体的には、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとの配合割合は、10:90〜60:40の重量比の間で変更した。すなわち、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとの合計量に対するビニルエーテル化合物の含有量は、10〜60重量%の間で変化させた。
【0121】
得られたカチオン重合型反応性希釈剤の変異原性に係わる安全性を、細菌を用いる復帰突然変異試験(Ames試験)により評価した。比較のために、リモネンジオキサイドおよびビニルエーテルを、それぞれ単独で用いた場合についても調べた。陽性を(×)、微陽性を(△)、陰性を(○)として、下記表1に結果をまとめる。微陽性であれば、安全性に問題はない。
【表1】

【0122】
また、各カチオン重合型反応性希釈剤で樹脂を希釈し、得られた希釈液の粘度を測定して希釈効果を調べた。具体的には、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(アデカレジンEP−4100、旭電化工業)を用い、各希釈剤と50重量%の配合比で混合した。すなわち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と希釈剤との重量比は、1:1である。
【0123】
希釈剤としてBGE(ブチルグリシジルエーテル)を用いて、同様のエポキシ樹脂に50重量%の配合比で混合して希釈液を調製した。このBGE希釈液の粘度を参照として、各希釈液について(対象希釈液/BGE希釈液)比を求め、以下の基準で評価した。
【0124】
1未満:◎(良好)
1以上2未満:○(やや良好)
2以上:△(やや不良)
得られた結果を、下記表2にまとめる。比較のために、リモネンジオキサイドおよびビニルエーテルを、それぞれ単独で用いた場合についても調べた。
【表2】

【0125】
上記表1の結果から、ビニルエーテル化合物の含有量が20重量%以上の場合には、安全性がより向上することがわかる。また、表2の結果から、ビニルエーテル化合物の含有量を50重量%以下にすることによって、希釈効果がより向上することがわかる。以上の結果から、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとの重量比(VE:LOX)は、20:80〜50:50の範囲内が好ましい。
【0126】
また、ビニルエーテル化合物としてのCHVEとC3000とが、30:70の重量比で配合された希釈剤を調製し、各種の樹脂に対する希釈性を前述と同様にして評価した。樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール(BL−1、エスレック)、末端ヒドロキシポリエステル(PLACCEL)、ポリイソプレンゴム(KL−613)、およびキシレン樹脂(HP−70、ニカノール)を用いた。いずれの樹脂に対しても、本実施例の希釈剤は良好な希釈性能を示すことが確認された。
【0127】
さらに、ビニルエーテル化合物をDVE3に変更した以外は前述と同様にして希釈剤を調製し、各種の樹脂に対する希釈性を調べた。その結果、いずれの樹脂についても同様の結果が得られた。
【0128】
(実施例2)
ビニルエーテル化合物としてのCHVEとC3000とを、30:70の重量比で配合して、カチオン重合型反応性希釈剤を調製した。さらに、第3の酸重合性化合物としてのC2000を混合して、本実施例の希釈剤を得た。第3の酸重合性化合物の配合量は、酸重合性化合物全体の10〜40重量%とした。これらの希釈剤について実施例1と同様に粘度を測定し、BGE希釈液と比較して希釈性能を調べた。その結果を、下記表3にまとめる。また、ビニルエーテル化合物をDVE3に変更した以外は同様の処方で希釈剤を調製し、同様に評価した。
【表3】

【0129】
上記表3に示されるように、第3の酸重合性化合物の含有量が、酸重合性化合物全体の20重量%以下であれば、良好な希釈効果が保たれる。したがって、第3の酸重合性化合物の配合量は、酸重合性化合物全体の20重量%以下が好ましい。
【0130】
さらに、第3の酸重合性化合物をAOEX24またはELSOに変更した以外は、前述と同様にして希釈液を調製した。前述と同様に希釈特性を評価したところ、これらについてもC2000の場合と同様の結果が得られた。
【0131】
(実施例3)
実施例1で調製された希釈剤を用いて、光照射型のカチオン硬化型反応性希釈液を調製した。具体的には、光酸発生剤(PAG)としてのトリフェニルスルフォニウムトリフレートを、酸重合性化合物の総量に対して4重量%の割合で加えて攪拌混合して、光照射型のカチオン硬化型反応性希釈液を調製した。得られた反応性希釈液を、PETフィルムにバーコータで約5μmの厚さに塗布して塗膜を形成し、UV照射装置からUV光を照射した。さらに、ホットプレート上に設置し80℃、3分間の加熱処理を施して塗膜中の反応性希釈液を硬化させ、硬化膜を形成した。
【0132】
得られた硬化膜は、クロスカットテープ剥離試験を行なって、硬化膜の剥がれた面積の割合で密着性を評価した。剥がれた面積が全体の5%未満のものは極めて良好(◎)とし、10%未満のものは良好(○)とした。その結果を、下記表4にまとめる。
【表4】

【0133】
上記表4の結果から、ビニルエーテル化合物としてDVE3を含有する希釈剤は、CHVEを含有する希釈剤よりも、密着性が優れていることがわかる。他のビニルエーテル化合物と比較しても、DVE3を用いた希釈剤は密着性において、おおむね良い傾向にあることが確認された。硬化性能を重視する場合には、ビニルエーテル化合物としてはDVE3が好適であるといえる。
【0134】
(実施例4)
実施例1で調製された希釈剤のうち、ビニルエーテル化合物の含有量が30重量%のものを用いて、重合禁止剤含有希釈剤を調製した。具体的には、重合禁止剤としてのピリジンを、光酸発生剤に対して2重量%の割合で加え、攪拌混合して重合禁止剤含有希釈剤を調製した。この希釈剤を50℃のもとで2週間保存し、保存前の粘度と保存後の粘度とを測定して粘度増加率を求めた。増加率が3%未満を良好(◎)、3%以上をやや良好(○)として保存性能を評価し、その結果を下記表5にまとめる。
【表5】

【0135】
上記表5に示される結果から、重合禁止剤を配合することによって、希釈剤の保存性が向上することがわかった。したがって、重合禁止剤を加えることにより、希釈剤の取り扱い、保管や搬送などの取り扱いがより容易になる。
【0136】
なお、重合禁止剤として、ジメチルアニリン、メトキノンを同量添加した場合も、同様の結果が得られた。
【0137】
(実施例5)
色成分として顔料を配合して色材分散液を調製し、その保存性能を調べた。顔料としては黒顔料のカーボンブラックを用い、分散剤とともに以下の処理を行なった。
【0138】
顔料 10重量%
分散剤(アビシア・ソルスパース32000) 3重量%
分散剤(アビシア・ソルスパース22000) 0.3重量%
実施例1で調製したC3000/DVE3希釈剤 86.7重量%
なお、用いた希釈剤におけるビニルエーテル含有量は、30重量%である。
【0139】
これらを含む混合液を、循環式のサンドミルに0.3mm径のビーズを充填して、約1時間の分散処理を施した。比較例のために、C3000単独およびDVE3単独を希釈剤として用いた以外は、それぞれ前述と同様な処方で分散処理を施して色材分散液を調製した。
【0140】
得られた色材分散液について、実施例4と同様な条件で保存試験を行ない、粘度および顔料の粒子径の増加率から保存性能を評価した。粘度に関しては、前述の実施例4と同様に、2週間保存後の増加率が3%未満のものを良好(◎)、3%以上をやや良好(○)とし、10%以上をやや不良(△)とした。粒子径に関しては、増加率10%以下を良好(◎)とし、10%を越えるとやや不良(○)とした。得られた結果を表6にまとめる。
【表6】

【0141】
上記表6に示されるように、C3000とDVE3とを含有する実施例の希釈剤を用いた分散液においては、顔料の粒子径の増加が抑制される。しかも、粘度の増加率も極めて小さい。これに対して、DVE3を単独で使用した分散液においては、粘度の増加が認められた。C3000を単独で用いた色材分散液は、保存性は比較的良好であるが、安全性を考慮するとビニルエーテル化合物との併用が望まれる。保存性と安全性とを備えていることから、実施例の希釈剤中に色材を分散させてなる分散液が最も優れていることが確認された。
【0142】
なお、顔料を変更した以外は同様の処方で調製した色材分散液についても、同様の結果が得られた。具体的には、イエロー顔料としてPY−180、マゼンタ顔料としてPR−122、シアン顔料としてPB−15:3をそれぞれ用いた場合も、実施例の希釈液を用いて調製された分散液は、粘度および粒子径の増加が抑制された。
【0143】
(実施例6)
まず、下記表7に示す処方により酸重合性化合物を配合して、実施例および比較例の希釈液を調製した。
【表7】

【0144】
なお、比較例で用いたBGEおよびSR−2EGは、それぞれブチルグリシジルエーテルおよびエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
【0145】
得られた希釈剤と、色材分散液および光酸発生剤とを混合してインクジェットインクを調製し、その特性を調べた。色材分散液としては、前述の実施例6で調製した分散液を用い、光酸発生剤としてはUVACURE1591を用いて、下記に示す処方でインクジェットインクを調製した。
【0146】
希釈剤 50重量%
色材分散液 50重量%
光酸発生剤 8重量%
これらの成分を約6時間、ホモジナイザーなどを用いて混合攪拌した。次に、得られた混合液を5μmのメンブレンフィルタによりろ過することによって、インクジェットインクを得た。
【0147】
各インクを、PETフィルムにバーコータで約5μmの厚さに塗布して塗膜を形成し、UV照射装置からUV光を照射した。さらに、ホットプレート上に載置し、80℃で3分間の熱処理を施して硬化膜を形成した。こうして得られた硬化膜について、鉛筆硬度を測定し、クロスカットによる密着性を調べた。また、実施例5と同様の手法により保存性を評価し、実施例1と同様の手法により安全性を評価した。得られた結果を、下記表8にまとめる。
【表8】

【0148】
上記表8に示されるように、実施例のインクは、硬化硬度や安全性で比較インクよりも優れている。また、実施例のインクは、いずれもインクジェットヘッドからの吐出性能が良好で、問題なく吐出することができた。
【0149】
さらに、実施例のインクを用いて金属媒体上に硬化膜を形成し、密着性を評価した。金属媒体としては、ステンレス、アルミニウム、および銅を用いたところ、いずれの金属に対しても、良好な密着性能を備えていることが確認された。
【0150】
また、インク(Ink−A2)の光酸発生剤の添加量を変更してインクを調製し、硬化性および保存性の評価を行なった。その結果を、下記表9にまとめる。
【表9】

【0151】
上記表9に示されるように、光酸発生剤量が1重量%未満の場合には、インクは硬化しない。一方、10重量%を越えて過剰に添加した場合には、保存性が低下する傾向にある。また、光酸発生剤の過剰に添加した場合には、インクジェットヘッド内の腐食を促進させる要因ともなり兼ねない。さらに、余剰の酸の影響によって酸重合性化合物の重合物の分子量を十分に上げることができない。したがって、硬化膜の硬度およびインクの保存性を両立するためには、光酸発生剤の含有量は、酸重合性化合物の1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。
【0152】
(実施例7)
インクInk−A2に、光増感剤を配合してインク(Ink−A2−1)を調製した。光増感剤としては9,10−ジブトキシアントラセンを用い、その添加量は、光酸発生剤量に対して35重量%とした。光増感剤は、希釈剤に予め溶解してから、色材分散液と混合した。インクの硬化性を評価し、その結果を表10にまとめる。
【表10】

【0153】
光増感剤を配合することによって、光酸発生剤の含有量が0.5重量%の場合でも2Bの硬度が得られることが、表10に示されている。このように、硬化性能が向上することが確認された。
【0154】
(実施例8)
インクInk−A1〜Ink−A10に増粘剤を添加して、インクInk−A1−2〜Ink−A10−2を調製した。増粘剤としては、ポリビニルアセタール樹脂(BL−1)を用い、その添加量は、酸重合性化合物に対して2重量%以下とした。ここで用いた樹脂(BL−1)の重量平均分子量は、約20000である。
【0155】
増粘剤は、予め所定量を希釈剤に加えて樹脂成分を確実に溶解させた後、色材分散液および光酸発生剤と混合した。希釈剤に増粘剤を溶解した混合液を、膜厚1μmのPTFEフィルタでろ過したものを使用することがより好ましい。
【0156】
これらのインクを用いて画像を形成し、印字画像を目視により確認して吐出性能を評価した。その結果、いずれのインクを用いた場合も抜けは存在せず、吐出性能は極めて良好であった。(BL−1)を添加することによって、吐出性能を低下させることなく粘度調整が可能なことがわかった。
【0157】
また、増粘剤をポリビニルアセタール樹脂(BX−3)に変更して、インクInk−A1−3〜Ink−A10−3を調製し、同様に吐出性能を評価した。樹脂(BX−3)の重量平均分子量は、100000を越える。
【0158】
得られたインクを用いて画像を形成し、同様に印字画像を評価したところ、数ヶ所程度の抜けが確認された。この結果から、増粘剤としては、重量平均分子量100000以下の樹脂成分が好ましいことがわかる。また、他の増粘剤においても適量添加することにより、インクジェットヘッドの吐出条件に合わせたインクの粘度制御を、より容易に行なうことができるようになった。
【0159】
(実施例9)
インクInk−A1〜Ink−A10に高分子分散剤を配合して、インクInk−A1−4〜Ink−A10−4を調製した。高分子分散剤としては、アジスパーPB711(味の素ファインテクノ製)を用い、顔料の重量の30%の割合で添加した。これを、約1日混合攪拌して、所望のインクを得た。インクの調製に当たっては、希釈剤中に高分子分散剤と光酸発生剤を混合した後、色材分散液を混合することがより好ましい。
【0160】
これらのインクを用いて、実施例6と同様に保存性の評価を行なった。その結果、いずれのインクにおいても、4週間保存後の粘度増加率は10%以下であり、粒子径の増加率は10%以下であった。このように、高分子分散剤を添加することによって、粒子径の安定性を維持したまま粘度の増加率を抑制し、保存性をより向上させることが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクジェットインクを使用し得る記録装置の概略図。
【符号の説明】
【0162】
1…インクジェット記録装置; 2…記録媒体; 3…搬送機構,
4…インクジェット式記録ヘッド; 5…光源; 6…ヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下で重合する酸重合性化合物として、ビニルエーテル化合物とリモネンジオキサイドとを含有することを特徴とするカチオン硬化型反応性希釈剤。
【請求項2】
前記ビニルエーテル化合物と前記リモネンジオキサイドとは、20:80〜50:50の重量比で含有されることを特徴とする請求項1に記載のカチオン硬化型反応性希釈剤。
【請求項3】
前記ビニルエーテル化合物と前記リモネンジオキサイドとの合計量は、前記酸重合性化合物全体の80重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン硬化型反応性希釈剤。
【請求項4】
前記ビニルエーテル化合物は、トリエチレングリコールジビニルエーテルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカチオン硬化型反応性希釈剤。
【請求項5】
重合禁止剤をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカチオン硬化型反応性希釈剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のカチオン硬化型反応性希釈剤と、色成分とを含有することを特徴とする色材分散液。
【請求項7】
請求項6に記載の色材分散液を含むインクジェットインクであって、
前記色材分散液におけるカチオン硬化型反応性希釈剤は、前記酸重合性化合物の一部として下記一般式(1)で表わされるビニルエーテル化合物を含有し、前記酸重合性化合物全体の1重量%以上10重量%以下の光酸発生剤を含むことを特徴とするインクジェットインク。
【化1】

(前記一般式(1)中、R1は、ビニルエーテル基、ビニルエーテル骨格を有する基、アルコキシ基、水酸基置換体および水酸基からなる群から選択され、少なくとも1つはビニルエーテル基またはビニルエーテル骨格を有する。R2は、置換または非置換の環式骨格または脂肪族骨格を有するp+1価の基であり、pは0を含む正の整数である。)
【請求項8】
ビニルシクロヘキセンモノオキサイド1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、α−オレフィンエポキシド、およびエポキシ化植物油からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含有することを特徴とする請求項7に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
下記一般式(2)で表わされる光増感剤をさらに含有することを特徴とする請求項7または8に記載のインクジェットインク。
【化2】

(上記一般式(2)中、R10は炭素数1〜5の1価の有機基、R11およびR12は同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルキルスルホニル基またはアルコキシ基である。)
【請求項10】
増粘剤をさらに含有することを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項11】
前記増粘剤は、重量平均分子量100000以下の樹脂成分であることを特徴とする請求項10記載のインクジェットインク。
【請求項12】
高分子分散剤をさらに含有することを特徴とする請求項7ないし11のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれか1項に記載のインクジェットインクを硬化させた硬化物を含むことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−137923(P2007−137923A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329607(P2005−329607)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】