説明

カチオン重合性組成物

【課題】硬化性を維持しつつ、保存安定性が高められたカチオン重合硬化性組成物であって、活性の高いカチオン重合開始剤に対する保存安定性の点が更に改良されたカチオン重合硬化性組成物を提供する。
【解決手段】脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基からなる群から選ばれる官能基を分子内に少なくとも1個有する、少なくとも1種のカチオン重合性化合物と、少なくとも1種の潜在性カチオン重合開始剤と、少なくとも1種の塩基性物質を含む、カチオン重合性組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性組成物に関するものである。さらに、本発明は、保存安定性を大幅に向上させたカチオン重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラム、バックライト型表示板、液晶表示用素子、固体撮像素子及びカラーフィルターの表示装置等において用いられる、平坦化膜、保護膜、反射防止膜、絶縁材等、さらには塗料、接着剤、インキ、フォトレジスト等における好適な硬化性樹脂組成物が、ますます広範囲に使用されるようになって来ている。
【0003】
最近、その硬化性樹脂組成物の中でも、カチオン重合硬化性組成物がますます重要になって来ている。しかしながら、かかるカチオン重合硬化性組成物は、それを室温の環境下で、もしくは受光環境中に保存する場合に、熱、もしくは光によって、その組成物に含まれる潜在性カチオン硬化開始剤が分解して酸が発生しやすいために、その組成物中でカチオン重合反応が発生して、保存中に組成物の粘度が上昇してしまうという欠点を有していた。1液タイプのカチオン重合硬化性組成物の場合には、常温の環境下で1日保存したときに、その組成物の増粘が2倍以下の粘度変化に押えることが要求される。
【0004】
このような潜在性カチオン硬化開始剤を含むカチオン重合硬化性組成物に関する保存安定性を高めるための検討がいくつかなされている。
【0005】
即ち、特許文献1において、カチオン重合性化合物の硬化性や硬化物特性を低下させることがなく、室温から50℃程度の温度範囲でカチオン硬化性組成物の保存安定性、特に熱安定性を高めて、組成物の粘度上昇を抑さえるための安定化剤及びそれらを含有する硬化性組成物を提供することを目的として、化合物(1):分子内にウレタン結合、アミド結合、尿素結合、カルボジイミド基を有する化合物及びジアルキルアミノピリジン化合物、又は、化合物(2):プロトン酸化合物、から選ばれる1種以上の化合物からなるカチオン硬化用触媒の安定化剤、並びに、かかるカチオン硬化用触媒の安定化剤を用いることを特徴とするカチオン硬化性組成物の安定化方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2において、優れた保存安定性を有する硬化性樹脂組成物、並びに優れた耐熱性を有する保護膜を提供することを目的として、成分(A):環状エーテル基及びオレフィン二重結合を有する単量体を付加重合して得られる分子量2000以上の重合体、成分(B):分子量2000未満のオキセタン化合物、及び成分(C):カチオン硬化触媒を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物が提案されている。
【0007】
また、特許文献3において、色材となる顔料の分散性、重合性組成物の暗反応を抑えられ、長期保存性に優れ、薄膜状態でも高速で硬化することが可能な高感度のカチオン重合性組成物及びこれを用いた硬化方法を提供することを目的として、カチオン重合性化合物、カチオン重合開始剤、色材、分散剤及び重合禁止剤としての塩基性化合物を含有するカチオン重合性組成物において、色材が極性、酸、塩基のいずれかで表面処理された顔料であることを特徴とするカチオン重合性組成物が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの先行技術によっては、硬化性を維持しつつ、保存安定性が高められたカチオン重合硬化性組成物が提供されるものの、求核性が低い為、より活性の高いカチオン重合開始剤に対しては、安定化効果が低く、保存安定性が低いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−310633号公報
【特許文献2】特開2008−192649号公報
【特許文献3】特開2008−147345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、特に、硬化性を維持しつつ、保存安定性が高められたカチオン重合硬化性組成物であって、活性の高いカチオン重合開始剤に対しても高い安定効果がある、カチオン重合硬化性組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、従来の問題点に鑑みて上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことには、カチオン重合硬化性組成物に特定の塩基性物質を添加することにより、発生した酸を塩基でトラップすることが可能となり、硬化性を大きく低下せずに、保存安定性を大幅に向上させることが可能となった。更に、活性の高いカチオン重合開始剤に対しても、高い安定化効果を示すことが可能であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0012】
即ち、本発明の第1の態様であるカチオン重合性組成物は、請求項1に記載のように、脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基からなる群から選ばれる官能基を分子内に少なくとも1個有する、少なくとも1種のカチオン重合性化合物と、少なくとも1種の潜在性カチオン重合開始剤と、少なくとも1種の塩基性物質を含むことを特徴とするものである。
【0013】
かかる第1の態様では、カチオン重合硬化性組成物に特定の塩基性物質を添加することに加えて、活性の高いカチオン重合開剤を使用する系においても、硬化性を大きく低下させず、保存安定性を大きく向上させることが可能である。
【0014】
第1の態様の一つの好ましい形態として、前記潜在性カチオン重合開始剤が、該潜在性カチオン重合開始剤を構成する酸の1〜20mol%の総塩基量を含む、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項2参照)。かかる形態によれば、良好な保存安定性と速硬化性を両立することが可能である。
【0015】
第1の態様のもう一つの好ましい形態として、前記潜在性カチオン重合開始剤が、該潜在性カチオン重合開始剤を構成する酸の4〜10mol%の総塩基量を含むものである、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項3参照)。かかる形態によれば、良好な保存安定化を保持しつつ特に速硬化性の維持が可能である。
【0016】
第1の態様のもう一つの好ましい形態として、前記少なくとも1種の塩基性物質が、1級アミン、2級アミンまたは3級アミンである、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項4参照)。かかる形態によれば、高い保存安定化効果が得られる。
【0017】
第1の態様のもう一つの好ましい形態として、前記の1級アミン、2級アミンまたは3級アミンが、窒素原子に直鎖炭化水素基が結合したものである、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項5参照)。かかる形態によれば、求核性高く高い保存安定化効果が得られる。
【0018】
第1の態様のもう一つの好ましい形態として、前記の1級アミン、2級アミンまたは3級アミンが、下記式(I)
【化1】

(ここで、R1は炭素数3〜10の直鎖炭化水素基を表し、3級アミンの場合にR2およびR3は同一または互いに異なりR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表し、2級アミンの場合にR2はR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表しR3は水素原子を表し、1級アミンの場合にR2およびR3は水素原子を表す。)
で表されるものである、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項6参照)。かかる形態によれば、立体障害効果も加わり、効果的な安定化効果と硬化性低下抑制が可能である。
【0019】
第1の態様のもう一つの好ましい形態として、前記カチオン重合性組成物に光エネルギーまたは熱エネルギーの1次エネルギーが付与されることよって発熱重合反応を生じ、該反応熱が2次エネルギーとなり該カチオン重合性組成物全体で重合硬化を生じることを特徴とする、カチオン重合性組成物が挙げられる(請求項7参照)。かかる形態によれば、一次エネルギーの継続的付与することなく自己発熱により自発的に樹脂全体が硬化することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の、少なくとも1種のカチオン重合性化合物における「脂環式エポキシ基」とは、脂環式化合物の脂肪族環を形成する環状に結合した炭素原子のうちの2個の炭素原子(通常は互に隣接する炭素原子)に酸素原子1個が結合した状態のエポキシ基をいう。
【0021】
脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、具体的には、ジシクロペンタジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−1,2−ジ(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸)エステルなどを挙げることができる。これらの化合物は単独で又は2種以上を組合わせて使用することができる。
【0022】
以上に述べた分子中に脂環式エポキシ基を有するカチオン重合性化合物のうちで、安価で容易に入手可能な点を考慮すると、特に好適なものとして、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートであるセキロイド2021P(ダイセル化学工業株式会社製)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアルコール、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0023】
本発明における「ビニルエーテル基」を有するカチオン重合性化合物としては、例えばエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物;エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0024】
これらのビニルエーテル基を有するカチオン重合性化合物のうち、カチオン重合反応性、重合後の硬化物の物性を考慮すると、ジ又はトリビニルエーテル化合物が好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。本発明では、上記のビニルエーテル基を有する化合物の1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明における「オキセタン基」を有するカチオン重合性化合物としては、ビスフェノールA型オキセタン化合物、ビスフェノールオキセタン化合物、ビスフェノールS型オキセタン化合物、キシリレン型オキセタン化合物、フェノールノボラック型オキセタン化合物、クレゾールノボラック型オキセタン化合物、アルキルフェノールノボラック型オキセタン化合物、ビフェノール型オキセタン化合物、ビキシレノール型オキセタン化合物、ナフタレン型オキセタン化合物、ジシクロペンタジエン型オキセタン化合物、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のオキセタン化物などが挙げられる。
【0026】
これらのオキセタン基を有する化合物のうち、カチオン重合反応性、重合後の硬化物物性を考慮すると、多官応性オキセタンが好ましく、特に2官能性が好ましい。本発明では、上記のオキセタン基を有する化合物の1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0027】
オキセタン類の具体例としては、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンであるアロンオキセタンOXT−221(東亜合成株式会社製)、キシリレンビスオキセタンであるアロンオキセタンOXT−121(東亜合成株式会社製)等が挙げられ、中でもアロンオキセタンOXT−221等が好適である。
【0028】
本発明における「潜在性カチオン重合開始剤」としては、光カチオン重合開始剤、光・熱カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤等が挙げられる。
【0029】
光カチオン重合開始剤は、光(例えば、紫外線、紫外線レーザー光、可視光線または赤外線)によりルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。具体的には、例えば、ジアゾニウム塩タイプ、ヨードニウム塩タイプ、ホスホニウム塩タイプ、スルホニウム塩タイプ等のオニウム塩タイプ;ピリニジウム塩タイプ;鉄−アレーン化合物タイプ;スルホン酸エステルタイプ、ホウ素化合物等の化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。光・熱カチオン重合開始剤は、光または熱により分解し、ルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。光・熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩やホスホニウム塩等任意のオニウム塩を用いることができる。特に、ピレニルホスホニウム塩は、ピレニルメチルカチオン生成効率がよい。熱カチオン重合開始剤は、熱により分解し、ルイス酸またはプロトン酸を発生しうる化合物である。
【0030】
本発明における潜在性カチオン重合開始剤の好ましい具体例としては、スルホ二ウム塩系重合開始剤、ヨードニウム塩タイプ、ホスホニウム塩タイプ等が挙げられ、中でもスルホ二ウム塩系重合開始剤がより好ましい。かかるスルホ二ウム塩系重合開始剤の具体例としては、アデカオプトマーCP−77(株式会社ADEKA製)、アデカオプトンSP−150(株式会社ADEKA製)、サンエイドSI−80L(三新化学工業製)等が挙げられる。
【0031】
本発明における「塩基性物質」としては、アルカリ金属水酸化物等の塩基性無機化合物及びアミン等の塩基性有機化合物を用いることができる。
【0032】
塩基性無機化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カリウム等が挙げられ、これらの中でも、カチオン重合性化合物に対する溶解性の面から、水酸化リチウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0033】
また、塩基性有機化合物としては、アミン化合物、4級アンモニウム塩等、広範囲の塩基が使用できるが、分散安定性、重合性組成物との相溶性の観点で、イオン性の塩ではないものが好ましく、アミン化合物が好ましい。
【0034】
アミン化合物としては、1級アミン、2級アミンまたは3級アミンが挙げられ、中でも窒素原子に直鎖炭化水素基が結合したものが好ましい。かかる1級アミン、2級アミンまたは3級アミンとしては、下記式(I)
【化2】

(ここで、R1は炭素数3〜10の直鎖炭化水素基を表し、3級アミンの場合にR2およびR3は同一または互いに異なりR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表し、2級アミンの場合にR2はR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表しR3は水素原子を表し、1級アミンの場合にR2およびR3は水素原子を表す。)
で表されるものが好ましい。
【0035】
アミン化合物の具体例としては、例えば、ジブチルアミン、トリブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、オクチルアミン、ナフチルアミン、キシレンジアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジオクチルアミン、ジメチルアニリン、キヌクリジン、トリオクチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノ−2−プロパノ−ル及びジメチルアミノメチルプロパノ−ル等の1価第3級アルカノールアミン類ならびにジメチルイソプロピルアミン及びジメチルオクチルアミン等の第3級アルキルアミン類、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)等が挙げられる。このうち、ジブチルアミン、トリブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)等は、入手の容易性がよいの点で好ましい。
【0036】
本発明における、カチオン重合性組成物には、上記の成分に加えて、さらに必要に応じて、接着付与のための3−グリシドキシプロピルトリメトキシスランなどのカップリング剤等の有機成分、UVや赤外線の吸収効率を高める為のカーボンブラック等の光増感剤、低粘度化の為のフタル酸エステル等の反応性希釈剤等の添加剤が含まれても良い。
【0037】
本発明のカチオン重合性組成物における、脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基からなる群から選ばれる官能基を分子内に少なくとも1個有する、少なくとも1種のカチオン重合性化合物は、2種以上のカチオン重合性化合物の場合にはそれらの合計で、通常10〜100重量%であり、より好ましくは30〜90重量%であり、特に好ましくは40〜90重量%である。かかるカチオン重合性化合物が30重量%を下回る場合には、カチオン硬化性の低下、硬化時間の増加、硬化後物性の点で好ましくない。
【0038】
更に、本発明のカチオン重合性組成物における少なくとも1種の潜在性カチオン重合開始剤は、2種以上の潜在性カチオン重合開始剤の場合にはそれらの合計で、通常0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.2〜8重量%であり、特に好ましくは0.5〜6重量%である。かかる潜在性カチオン重合開始剤が10重量%を超えた場合には、効果後物性が低下し、さらに過度な硬化反応による反応の暴走の点で好ましくなく、また、潜在性カチオン重合開始剤が0.1重量%未満場合には、硬化反応の遅延、及び硬化不足の点で好ましくない。
【0039】
また、本発明のカチオン重合性組成物における少なくとも1種の塩基性物質は、2種以上の塩基性物質の場合にはそれらの合計であって、潜在性カチオン重合開始剤に対するモル%で表して、通常0.5〜20モル%であり、より好ましくは1〜15モル%であり、特に好ましくは3〜10モル%である。かかる塩基性物質が20モル%を超えた場合には、反応性の著しい低下の点で好ましくなく、また、塩基性物質が0.5モル%未満場合には、良好な保存安定性が発現しない場合がある点で好ましくない。
【0040】
本発明のカチオン重合性組成物の製造の条件としては、その用途に応じて種々選択されるものであって特に限定されるものではないが、各成分の混合が、好ましくは、遮光、低温の条件下でおこなわれ、特に好ましくは、遮光、且つ10℃以下の条件下で行われることが望ましい。
【0041】
本発明のカチオン重合性組成物は、それに光エネルギーまたは熱エネルギーの1次エネルギーが付与されることよって発熱重合反応を生じ、かかる反応熱が2次エネルギーとなって、カチオン重合性組成物全体に重合反応が進行して行くことによって、カチオン重合性組成物全体の重合硬化を生じることを特徴とするものである。
【0042】
その光エネルギーまたは熱エネルギーの1次エネルギーとしては、UV(紫外線)、EB(電子線)、赤外線、X線、可視光線、アルゴンやCO2 やエキシマ等のレーザー、太陽光線、放射や輻射等の熱線等のエネルギー線や伝導による熱エネルギー等が挙げられ、中でも、生産設備の簡素化が可能な点で、UV、レーザー、赤外線等のエネルギー線や伝導による熱エネルギー等が好ましい。
【0043】
本発明のカチオン重合性組成物の保存条件としては、その用途に応じて種々選択されるものであって特に限定されるものではないが、好ましくは、光カチオン重合では遮光瓶で暗所に、熱カチオン重合では5℃以下の低温で保存され、特に好ましくは、何れも遮光瓶で5℃以下の冷蔵庫で保存されることが望ましい。
【0044】
本発明のカチオン重合性組成物の重合反応条件としては、その用途に応じて種々選択されるものであって特に限定されるものではないが、光カチオン重合ではUV照射、熱カチオン重合では恒温槽、IRで重合反応が行われることが望ましい。
【0045】
本発明のカチオン重合性組成物の用途としても、特に限定されるものではないが、具体的には例えば、好ましくは、接着、コーティング、注型、フィルム形成等が挙げられ、中でも接着、コーティング、注型が特に好ましい。
【0046】
後述する実施例等に記載されるカチオン重合性組成物の保存時における「粘度変化(倍)」とは、各実施例等で調整されたカチオン重合性組成物をそれぞれ室内の通常の光の中で25℃において一日間保存したのちの粘度の、保存開始時のカチオン重合性組成物の粘度との比を表している。その粘度は、粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製)のパラレルプレートなる測定方法によって測定されたものである。
【0047】
また、後述する実施例等に記載されるカチオン重合性組成物の「硬化性」とは、保存後のカチオン重合性組成物の硬化性を意味し、強制循環式熱風恒温槽STH−120(エスペック社製)を使用し、100℃で5分の条件下で硬化させたサンプルを示差走査熱量測定(DSC)で測定し、反応熱から算出した。95%を硬化性の境界値とし、95%以上で硬化性を「○」とした。
【実施例】
【0048】
以下に本願発明についての実施例を挙げて更に具体的に本願発明を説明するが、それらの実施例によって本願発明が何ら限定されるものではない。
【0049】
実施例1‐1〜1‐7、比較例1‐1,1‐2
下記の表1に示される量(重量部)で、カチオン重合性化合物としてのセロキサイド2021P(ダイセル化学工業株式会社製)と、光カチオン重合開始剤としてのアデカオプトマーCP‐77(株式会社ADEKA製)と、ジブチルアミン、トリブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、DBU(サンアプロ社製)、DMP−30(大都産業社製)をそれぞれ使用して泡取り練太郎(シンキー社製)を使用して、室温で3分間攪拌することによって、カチオン重合性組成物を調整した。
【0050】
そのようにして得られた各々のカチオン重合性組成物を、高密度ポリエチレン(HDPE)製遮光瓶に入れて、室内の通常の光の中で25℃において一日間保存した。保存前と保存後のそれぞれの粘度を測定して、粘度変化を算出した。また、保存後におけるカチオン重合性組成物を、強制循環式熱風恒温槽STH−120(エスペック社製)を使用して、100℃で硬化して、5分以内で硬化するか否かを判定した。得られた結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例2‐1〜2‐6、比較例2‐1,2‐2
下記の表2に示される量(重量部)で、カチオン重合性化合物としてのアロンオキセタンOXT−221(東亜合成株式会社製)と、熱カチオン重合開始剤としてのアデカオプトマーCP‐77(株式会社ADEKA製)と、ジブチルアミン、トリブチルアミン、DBU(サンアプロ社製)、DMP−30(大都産業社製)をそれぞれ使用して、泡とり錬太郎(シンキー社製)を使用して、室温で3分間攪拌することによって、カチオン重合性組成物を調整した。
【0053】
そのようにして得られた各々のカチオン重合性組成物を、高密度ポリエチレン(HDPE)製遮光瓶に入れて、室内の通常の光の中で25℃において一日間保存した。保存前と保存後のそれぞれの粘度を測定して、粘度変化を算出した。また、保存後におけるカチオン重合性組成物を、DSCを使用して、100℃で硬化して、5分以内で硬化するか否かを判定した。得られた結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表1,2に示されるように、実施例1‐1〜1‐7、及び実施例2‐1〜2‐6では、比較例1‐1,1‐2、及び比較例2‐1,2‐2に比較して、保存後においても粘度変化が少なく、また硬化性が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタン基からなる群から選ばれる官能基を分子内に少なくとも1個有する、少なくとも1種のカチオン重合性化合物と、少なくとも1種の潜在性カチオン重合開始剤と、少なくとも1種の塩基性物質を含む、カチオン重合性組成物。
【請求項2】
前記潜在性カチオン重合開始剤が、該潜在性カチオン重合開始剤を構成する酸の1〜20mol%の総塩基量を含むものである、請求項1に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項3】
前記潜在性カチオン重合開始剤が、該潜在性カチオン重合開始剤を構成する酸の4〜10mol%の総塩基量を含むものである、請求項1に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の塩基性物質が、1級アミン、2級アミンまたは3級アミンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項5】
前記の1級アミン、2級アミンまたは3級アミンが、窒素原子に直鎖炭化水素基が結合したものである、請求項4に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項6】
前記の1級アミン、2級アミンまたは3級アミンが、下記式(I)
【化1】

(ここで、R1は炭素数3〜10の直鎖炭化水素基を表し、3級アミンの場合にR2およびR3は同一または互いに異なりR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表し、2級アミンの場合にR2はR1より炭素数の少ない直鎖炭化水素基を表しR3は水素原子を表し、1級アミンの場合にR2およびR3は水素原子を表す。)
で表されるものである、請求項5に記載のカチオン重合性組成物。
【請求項7】
前記カチオン重合性組成物に光エネルギーまたは熱エネルギーの1次エネルギーが付与されることよって発熱重合反応を生じ、該反応熱が2次エネルギーとなり該カチオン重合性組成物全体で重合硬化を生じることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカチオン重合性組成物。

【公開番号】特開2011−80017(P2011−80017A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235603(P2009−235603)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】