説明

カッター付きバケットチェーンを備えた掘削機

【課題】 明渠や暗渠等の掘削溝を形成するために用いられる掘削機において、無端状チェーンに取付けられたバケットを摩耗から保護し、掘削能力を長期に亘って維持させること。
【解決手段】 無端状チェーン36は、外リンク44と内リンク46とが交互に連結されて無端状に編成される。チェーン36は、所定間隔毎の外リンク44に掘削と揚搬のためのバケット52が外設されるとともに、バケット52を外設した外リンク44に後続する内リンク46に、掘削を補助してバケット52の摩耗を低減するためのカッター56が外設される。カッター56の移動軌跡をバケット52の移動軌跡と同じ又はそれ以上とすることにより、バケット52の摩耗が低減して掘削機の寿命が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、明渠や暗渠等の掘削溝を形成するために用いられる掘削機に関する。より詳細には、本発明は、明渠や暗渠等の掘削溝を形成するために用いられる、カッター付きバケットチェーンを備えた掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質土や泥炭土などの排水性が悪い土壌では、生物の生育の場となる耕土層の物理的・化学性及び生物的状態を改善することが求められる。明渠や暗渠は、耕土層に排水路を形成することにより、耕土表面の過剰水を土中に浸透させて排水を行う構造である。明渠や暗渠等により耕土層の排水性を改善することで、作物の増収が達成され、さらに、作物の品質が向上する。
【0003】
明渠や暗渠等を形成する装置として、掘削機を備えたトレンチャーが広く使用されている(特許文献1、特許文献2)。トレンチャーは、自走式トレーラの後方に掘削機を装備しており、その掘削機は、離間するスプロケット間に捲回された無端状チェーンにバケットを外設している。無端状チェーンを循環駆動させながら、トレーラを走行させると、バケットによって縦方向の掘削溝が形成される。
【0004】
掘削溝をそのままの状態にして使用する場合には掘削溝は明渠となる。掘削溝に籾殻等の疏水材を充填したり、掘削溝にパイプや土管等を埋設して覆土を投入したりすると掘削溝は有材暗渠となる。掘削溝の表面又は中間を溝両側の土で閉鎖すると掘削溝は無材暗渠となる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−37168
【特許文献2】特開平2000−154521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
掘削溝を形成する際、バケットは耕土を削り取るために摩耗する。特に、硬質土の耕地や、硬質岩盤層を含む耕土において明渠や暗渠等を形成すると、バケットは早期に摩耗する。バケットが摩耗すると掘削能力が低下するため、従来の掘削機ではバケットを定期的に交換することが必要となっていた。
【0007】
本発明の目的は、無端状チェーンに取付けられたバケットを摩耗から保護し、掘削能力を長期に亘って維持させることにある。
本発明の他の目的は、無端状チェーンに取付けられたバケットを摩耗から保護するために無端状チェーンにカッターを設けるとともに、無端状チェーンの保守を簡易に行なうことができるようにカッターの固着手段や無端状チェーンの編成に工夫を加えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、離間するスプロケット間に捲回された無端状チェーンと、前記チェーンに外設されたバケットを備え、前記バケット付きチェーンを循環駆動することにより掘削溝を形成する掘削機において、前記チェーンに掘削溝を形成するためのカッターを前記バケット間で前記チェーンに外設したことを特徴する、カッター付きバケットチェーンを備えた掘削機により前記課題を解決した。
無端状チェーンを駆動することにより、チェーンに外設されたバケットとともにチェーンに外設されたカッターが循環する。カッターは、チェーン軌道に沿ってバケットと同じ部位を掘削する。このカッターにより、バケットによる掘削の負担が減少し、バケットの摩耗を低減することができ、掘削能力を長期に渡って維持することができる。
【0009】
また、本発明では、カッターの移動軌跡がバケットの移動軌跡より大きい。主としてカッターに掘削機能を負担させることにより、バケットの摩耗を低減することができる。
【0010】
また、本発明の掘削機のカッターは、内部空間が漸減又は収斂する中空構造であり、前記カッターにより掘削された土が漸減又は収斂する内部空間により後続するバケットの内部空間に向って案内される。カッターを中空構造とすることにより、掘削機能の集中化によりバケットの摩耗を低減することができる。
さらに、内部空間を漸減又は収斂させることにより、カッターにより掘削された土を集中的にバケット内に案内することができ、例えば、チェーンの後方に崩れる土やこぼれる土を少なくすることができ、土の揚搬能力が向上する。
【0011】
さらに、本発明では、バケットが無端状チェーンの外リンクに外設されるとともにカッターが外リンクに隣り合う内リンクに外設され、無端状チェーンが外リンクと前後一対の内リンクにより構成される3リンクをモジュールとして含み、モジュールを連結することにより無端状チェーンが編成されている。
編成単位や交換単位を3つのリンクより構成されるモジュールとすることにより、第1に、チェーン編成時には、チェーン上にバケット及びカッターを密に設けることができ、掘削能力の向上を図ることができる。そして、第2に、チェーン保守時には、3リンクより構成されるモジュール単位の交換ができるために、機能上正常で支障のないリンクを交換する必要が少なくなり、交換部品数も少なく経済的である。さらに、編成や交換の単位が軽量となるので、編成作業や交換作業も容易であり且つ安全である。
【0012】
また、モジュールの外リンクがそれぞれの外側面から翼状に延びるアタッチメントを備えてバケットがアタッチメントに固着されており、モジュールの内リンクがそれぞれの外縁部から翼状に延びるアタッチメントを備えてカッターがアタッチメントに固着されており、それぞれのアタッチメント同士の干渉が回避されるようにすることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明によるカッター付きバケットチェーンを備えた掘削機の実施例を説明する。図1は、有材暗渠の工法概略を示す斜視図である。本発明の掘削機は、用途が有材暗渠に限られることはなく、例えば、明渠や無材暗渠のための掘削溝を形成する用途にも利用可能である。
掘削機を備えたトレンチャー10を走行させると、圃場には水路につながる掘削溝12が形成される。掘削溝12は、水路と直交する方向に形成される。掘削溝12内にはパイプ14が敷設され、必要に応じて籾殻等の疏水材16が投入される。パイプ14を敷設し、疏水材16を投入した後、掘削溝は掘削土18により覆土される。掘削溝12は平行に複数形成され、必要に応じて、直交する方向にも形成される。圃場表面の過剰水は、表面から覆土、疏水材を通じてパイプ内に浸入し、水路から排出される。
パイプを敷設することなく疏水材のみを投入する暗渠や、パイプの代わりに土管を埋設する暗渠もあり、本発明の掘削機は、いずれの有材暗の分野にも利用可能である。
【0014】
図2は、トレンチャー10の側面図である。トレンチャー10は、自走式トレーラ20の進行方向後方に掘削機22を備えてなる。トレーラ20は、エンジン駆動される左右の履帯24によって圃場を走行する。
掘削機22は、トレーラ20の後方の履帯24間で、リンク26を介してトレーラ20に支持されている。掘削機22は、リンク26によって上下動可能であり、さらに、上端を中心に揺動可能である。掘削機22の上方にはガイド板28が取付けられており、掘削揚搬された土が側方に放下する。掘削機22を運転させながらトレーラ20を走行させると、トレーラ20の後方に掘削溝が形成される。
【0015】
図3は、掘削機22の拡大側面図である。掘削機22は、リンク26に支持された幅狭のフレーム30と、このフレーム30の上下で回転軸のまわりに取付けられた駆動スプロケット32及び被動スプロケット34と、スプロケット間に捲回された無端状チェーン36を備えている。
掘削機22には、チェーン36を案内して所定軌道で循環させるために、アイドラローラ38及びアイドラスプロケット40がフレーム30のアーム42に所定数支持されている。アイドラローラ38及びアイドラスプロケット40の代わりに、フレームを板状に構成して、板状フレームの端面をチェーン36が摺動するようにしてチェーン36を所定軌道で循環させてもよい。
トレーラ20のエンジン動力を伝動チェーン等で駆動スプロケット32に伝動することにより、掘削機22のチェーン36が所定軌道で循環する。
【0016】
図4乃至図7は、チェーン36の詳細を示す図であり、図4はチェーン36の部分正面図、図5は図4の上面図、図6は図4を左から見た断面図、図7は図4を右から見た断面図である。
チェーン36は、左右一対の外リンク44と左右一対の内リンク46とが連結ピン48によって交互に連結されて無端状に編成される。内リンク46には前後一対のブッシュ50が固着され、連結ピン48がブッシュ50内を回転自在に貫通して外リンク44の外側面で抜け止めされる。
【0017】
チェーン36は、図3に示されるように、所定間隔毎の外リンク44に掘削と揚搬のためのバケット52が外設されている。外設とは、チェーン軌道の外周側に取り付けることである。
また、チェーン36には、バケット52を外設した外リンク44に先行する内リンク46に、跳ね出し板54が外設されている。跳ね出し板54は、駆動スプロケット32での旋回時に揚搬したバケット52内の土砂を跳ね飛ばす。掘削揚搬された土は跳ね出し板54によりガイド板28に案内され、掘削溝の側方に放下される。
さらに、チェーン36には、バケット52を外設した外リンク44に後続する内リンク46に、カッター56が外設されている。カッター56は、バケット52による掘削を補助してバケット52の摩耗を低減する。
【0018】
バケット52は、アタッチメント58を介して外リンク44に外設されている。アタッチメント58は、内リンク46との干渉及びカッター56との干渉を避けるために、左右外リンク44のそれぞれの外側面に、チェーン36の軌道外側の縁部に沿って翼状に溶接により強固に固着される。また、バケット52は、ボルト併用によりアタッチメント58に固着されてもよい。アタッチメント58を外リンク44に翼状に固着し、そのアタッチメント58にバケット52を外設することにより、チェーン幅より幅広の掘削溝を容易に形成することができる。
【0019】
バケット52は、アーチ状断面又はコ字状断面が底部に向って幅方向及び深さ方向で漸減又は収斂する構造である。チェーン36の運転時には、バケット52の先端縁部が土を掘削し、バケット52の内部空間で土を保持して揚搬する。
【0020】
跳ね出し板54は、バケット52を備えた外リンク44に先行して隣合う内リンク46に外設されている。跳ね出し板54は、左右の内リンク46に跨がってそれぞれの内リンク46の外縁部に溶接等により固着されている。跳ね出し板54は、後続するバケット52の内部空間で隆起・起立する舌片60を備えており、チェーン36が駆動スプロケットで旋回する時にバケット52の内部空間に保持した土を跳ねだす。また、跳ね出し板54は、スプロケットとの干渉を避けるために、左右の内リンク間でスプロケットの歯が進入可能な孔62を備えている。
【0021】
カッター56は、バケット52を備えた外リンク44に後続して隣合う内リンク46にアタッチメント64を介して外設されている。アタッチメント64は、バケット52及びアタッチメント58との干渉を避けるために、左右内リンク46のそれぞれの外縁部に沿って翼状に溶接により強固に固着される。本実施例では、アタッチメント64は、左右に分離しているが、左右に連続する一枚の板状であってもよい。この場合、スプロケットとの干渉を避けるために、跳ね出し板54のような孔を設ておく。
【0022】
カッター56は、コ字状断面が開口底部に向って幅方向及び深さ方向で漸減又は収斂する構造である。このカッター56は、アタッチメント64の外表面に溶接により強固に固着される。また、カッター56は、ボルト併用によりアタッチメント64に固着されてもよい。チェーン36の運転時には、カッター56の先端縁部が土を掘削し、バケット52による掘削を補助する。カッター56の掘削補助により、バケット52の摩耗が低減し、掘削機全体の耐用年数を改善することができる。
【0023】
カッター56の底部は開口しており、掘削した土を揚搬することはできないが、幅方向及び深さ方向で内部中空空間が漸減又は収斂する構造であり、掘削された土を後続するバケットの内部空間に向って案内する。
【0024】
本実施例では、カッター56の最大幅及び最大高さは、バケット52の最大幅及び最大高さと同じであるか、それ以上である。すなわち、カッター56の移動軌跡をバケット52の移動軌跡と同じ又はそれ以上とすることにより、バケット52による掘削の負担が減少し、バケット52の摩耗を低減させて掘削機の寿命を向上させることができる。カッター56は掘削土を揚搬する機能が求められないので、バケット52に比べて構造が簡単であり、バケットの交換よりも費用を抑えることができる。
【0025】
図8は、チェーン編成の模式図である。チェーン36は、モジュール66を組み立てることにより編成される。
モジュール66は、バケット52を備えた外リンク44と、外リンク44に先行して跳ね出し板54を備えた内リンク46と、外リンク44に後続してカッター56を備えた内リンク46により構成される。また、モジュール66には、バケット52を備えた外リンク44と、外リンク44に先行して跳ね出し板54を備えた内リンク46と、外リンク44に後続してカッター56を備えない内リンク46により構成されるものや、バケット52を備えた外リンク44と、外リンク44に先行して跳ね出し板54を備えない内リンク46と、外リンク44に後続してカッター56を備えた内リンク46により構成されるものがある。
複数のモジュール66を1つの外リンク44によって、或いは、N個の内リンクとN+1個の外リンクより構成される第2のモジュールによって連結することにより、無端状チェーン36が編成される。
【0026】
バケット52が設けられた外リンク44に、跳ね出し板54が設けられた内リンク46を先行させるとともに、カッター56が設けられた内リンク46を後続させることにより、組立や分解の単位となるモジュールが3つのリンクより構成される。バケット52が設けられた外リンクに対して内リンクを挟んだ後続の外リンクにカッターが設けられた場合、組立や分解の単位となるモジュールが5つのリンクより構成されるので、チェーン軌道上に設けることができるバケット及びカッターの数の差は歴然である。本発明の掘削機では、チェーン36の編成時に、バケット及びカッターを密に設けることができ、掘削能力の向上を図ることができる。
【0027】
また、使用によりバケット52は摩耗するので、定期的な保守が必要となるが、強固に固着するためにバケットやカッターがリンクに溶接されているので、チェーン36を分解して摩耗したモジュールを交換するには、バケット及びカッターが設けられていないリンクにおいて連結ピンを外さなければならない。本発明の掘削機では、モジュールが3つのリンクより構成されているので、定期的な保守のときに、モジュール両端にある内リンクと、その内リンクに隣合う外リンクから連結ピンを外すことにより、チェーン36を容易に分解することができる。交換単位が3リンク構成モジュールであるため、機能上正常で支障のないリンクまで交換する必要がなく、交換部品数も少なく経済的である。
【0028】
さらに、明渠や暗渠等を形成するための掘削機においては、バケットやカッターを備えたモジュールの重量は大きく、1リンク当たり数キロにも及ぶ。保守時の交換単位が5リンク構成モジュールである場合には、交換するモジュールの重量によって作業に困難性や危険を伴う。本発明では、保守時の交換単位が3リンク構成モジュールとなるので、チェーンの編成や分解においても、比較的軽量のモジュールを取り扱うだけでよいので、保守時の作業能率も向上する。
【0029】
以上の実施例では、モジュール66が、バケット52を備えた外リンク44と、外リンク44に先行して跳ね出し板54を備えた内リンク46と、外リンク44に後続してカッター56を備えた内リンク46により構成されているが、跳ね出し板54を備えないモジュールや、外リンク44に先行する内リンク46にカッター56を備えたモジュールを採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】有材暗渠の工法概略を示す斜視図。
【図2】トレンチャーの側面図。
【図3】掘削機の側面図。
【図4】チェーンの一部を拡大した正面図
【図5】図4の上面図。
【図6】図4を左から見た断面図。
【図7】図4を右から見た断面図。
【図8】チェーン編成分解を示す模式図。
【符号の説明】
【0031】
10 トレンチャー 12 掘削溝 14 パイプ
16 疏水材 18 掘削土 20 トレーラ
22 掘削機 24 履帯 26 リンク
28 ガイド板 30 フレーム 32 駆動スプロケット
34 被動スプロケット 36 チェーン 38 アイドラローラ
40 アイドラ 42 アーム 44 外リンク
46 内リンク 48 連結ピン 50 ブッシュ
52 バケット 54 跳ね出し板 56 カッター
58 アタッチメント 60 舌片 62 スプロケット進入孔
64 アタッチメント 66 モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間するスプロケット間に捲回された無端状チェーンと、前記チェーンに外設されたバケットを備え、前記バケット付きチェーンを循環駆動することにより掘削溝を形成する掘削機において、前記チェーンに掘削溝を形成するためのカッターを前記バケット間で前記チェーンに外設したことを特徴する、カッター付きバケットチェーンを備えた掘削機。
【請求項2】
前記カッターの移動軌跡が前記バケットの移動軌跡より大きい、請求項1記載の掘削機。
【請求項3】
前記カッターは、内部空間が漸減又は収斂する中空構造であり、前記カッターにより掘削された土が漸減又は収斂する内部空間により後続するバケットの内部空間に向って案内される、請求項1又は2記載の掘削機。
【請求項4】
前記バケットが無端状チェーンの外リンクに外設されるとともに前記カッターが前記外リンクに隣り合う内リンクに外設され、前記無端状チェーンが前記外リンクと前後一対の内リンクにより構成される3リンクをモジュールとして含み、前記モジュールを連結することにより無端状チェーンが編成されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の掘削機。
【請求項5】
前記モジュールの外リンクがそれぞれの外側面から翼状に延びるアタッチメントを備え、前記バケットが前記アタッチメントに固着されており、前記モジュールの内リンクがそれぞれの外縁部から翼状に延びるアタッチメントを備え、前記カッターが前記アタッチメントに固着されており、それぞれのアタッチメント同士の干渉が回避されている、請求項4記載の掘削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−57307(P2006−57307A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239643(P2004−239643)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(595134157)有限会社ナラ工業 (5)
【Fターム(参考)】