説明

カッター

【課題】パラボラアンテナ状を呈する基板上に消音用のスリットが設けられており、切断の際に発生する騒音を極力小さく抑えることができるカッターを提供することにある。
【解決手段】パラボラアンテナ状を呈する基板2と、この基板2の外周縁に配置される切断用チップ3とを備えるカッター1であって、前記基板2には、その厚み方向に貫通するスリット7が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面のマンホール取替え工事等に用いるためのカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マンホール取替え工事等で行われる路面の切断工事では、所謂、アスファルトカッターやコンクリートカッター等の円形平板状のカッターが用いられている。これらのカッターは、本体部分となる円形平板状の基板と、この基板の外周縁に配置される切断用チップとを備え、これらが互いに接合されて形成されている。
【0003】
そして、この円形平板状のカッターを回転駆動させながら路面に当接させ、マンホールの周囲をその切断壁面が路面に対し垂直となる向きに、平面視四角形または円形に切断する。そして、この切断部を除去した後、補修部分に補修材を充填し、補修後、その施工部分に転圧機で転圧作業を行って工事終了とするのが通例である。
【0004】
このような円形平板状のカッターを使用する際には、マンホールの周囲を四角形に切断した場合、その四隅と底部の全縁とに角張った隅部が生じ、また円形に切断した場合も、その底部の全縁に亘って角張った隅部が生じる。これらの隅部は、切断後、その補修部分に補修材を充填する際に、これらの補修材が行き渡りにくく空隙が生じて、雨水等が浸透しやすくなる。また切断壁面が路面に対し垂直に形成されているため施工部分を支持する力が弱く、浸透した雨水の影響や路面から受ける応力によりこの施工部分の地盤が沈下しやすいという欠点があった。
【0005】
そこで近年では、この欠点を解決するべく、特許文献1に示すように、基板がパラボラアンテナ状に湾曲されて形成されるカッターの提案がなされている。このカッターによれば、路面を球面状に切断するため、この切断の際に角張った隅部が生じず、また施工部分を球面状に形成された壁面で支持するため支持力が強く、施工部分の沈下や陥没を防止することができる。
【特許文献1】特開2001−295216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような切断工事では、その切断の際に大きな騒音が発生するため、作業環境の悪化や周囲の住民に対する影響等を鑑み、これをいかに低減させるかが課題とされている。しかしながら、パラボラアンテナ状を呈するカッターを用いて切断を行う場合には、円形平板状のカッターと比較し、その形状に起因して音や振動が増幅されやすく、騒音が大きくなる傾向がある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、パラボラアンテナ状を呈する基板を有するカッターにおいて、切断の際に発生する騒音を極力小さく抑えることができるカッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。すなわち本発明は、パラボラアンテナ状を呈する基板と、この基板の外周縁に配置される切断用チップとを備えるカッターであって、前記基板には、その厚み方向に貫通するスリットが設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明に係るカッターによれば、路面の切断において基板に発生する振動を、この基板上に設けられたスリットによって打ち消すことができるので、騒音を極力小さく抑えることが可能である。また、作業者にとって特に不快とされる高音域の金属音的な騒音を、有効に低減させることができる。
【0010】
ところで、円形平板状のカッターでは、この基板をその厚み方向に貫通し、合成樹脂等の充填剤を充填し形成される複数のスリットを設けて、この基板に消音効果を持たせ、騒音を低減させようとする提案が多数なされている。しかしながら、パラボラアンテナ状のカッターにおいて、円形平板状カッターと同じ様に単にスリットを入れるのみでは、この基板をパラボラアンテナ状に加工した際に蓄積された応力の開放によって、これらのスリット周囲が歪んだり変形したりするため逆に振動が増し、結果として、より騒音が増長されてしまうという新たな問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明のカッターは、前記スリットは、曲線部分を有しており、前記曲線部分は、その曲線上の一の点における法線と、他の点における法線とで形成される中心角が、0°を超え90°以下とされており、その両端を結ぶ直線と交差しないことを特徴とする。
【0012】
この発明に係るカッターによれば、前記スリットは、その曲線部分が過度に湾曲されることなく緩やかに曲げられるようにして形成されているため、その曲線部分の周囲に、この基板がパラボラアンテナ状に加工された際に蓄積された応力の開放によって、歪みや変形が発生する虞がない。よって、このカッターの騒音を有効に低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るカッターによれば、パラボラアンテナ状を呈する基板上に消音用のスリットが設けられており、切断の際に発生する騒音を極力小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るカッターを示す正面図、図2はカッターを示す側断面図、図3はスリット部の拡大図、図4は本発明の実施例2のスリット部の拡大図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、カッター1は、このカッター1の本体部分でありその中央部が平板状にされるとともにその外周が単一の球面に沿った曲面状に形成され、全体として丸皿形或いは浅い碗形をなすパラボラアンテナ状の基板2と、この基板2の外周縁に配置され円弧形に湾曲した短冊状の形状を有する複数の切断用チップ3とを備えている。基板2は、鉄鋼板金材料の中でも硬度が低く、パラボラアンテナ状に加工するためのへら絞り加工に適した材料で形成されており、例えば、一般構造用圧延鋼材(SS材)により製造される。また切断用チップ3は、金属粉体とダイヤモンド砥粒との焼結体から製造される。そして、これらの基板2と切断用チップ3とが互いにろう付けによって接合されている。
【0016】
また前記外周縁には、この切断用チップ3を分断するようにして均等に配置され径方向の長さが異なる複数の外周溝4a,4bが交互に設けられている。外周溝4aは、その径方向の長さが外周溝4bより長く形成されている。これら外周溝4a,4bは、このカッター1を用いて路面を切断する際、基板2と空気との接触面積を増大させて放熱効果をもたせるとともに、切削粉の排出をスムーズに行うために設けられている。また基板2の中央部には、このカッター1を路面切断装置の回転軸(不図示)に取り付けるための取付孔5が設けられている。取付孔5の近傍にはピン孔5aが設けられており、カッター1を回転軸に取り付ける際、回転軸側に設けられるピン(不図示)がこのピン孔5aに挿通されて、カッター1が空転するのを防止するようになっている。
【0017】
また、丸皿形に形成される基板2の、外周溝4a,4bと取付孔5との間に形成される湾曲面上には、S字形に形成されるスリット部6が基板2の周方向に均等に複数配置されている。本実施形態では、これらスリット部6が40°毎に均等に9つ設けられて配置されている。
【0018】
各スリット部6は、図3に示すように、この基板2をその厚み方向に貫通して曲率半径の異なる複数の円弧を滑らかに繋いで曲線状に延びる複数のスリット7と、これらスリット7同士の間に配置される非連続部8とを備え、全体の形状としてS字形をなしている。これらスリット7は、例えばレーザー加工等により形成され、その幅は0.2mm程度とされている。このレーザー加工後は、スリット7内部に合成樹脂等の充填剤が充填される。
【0019】
また図3に示すように、非連続部8は、S字形のスリット部6の中心である中心部Oと、この中心部Oを通り径方向に延びる中心線CがこのS字形に夫々交差する上下部分と、S字形の右上・左下に配置される両端部E1,E2から夫々周方向に延びる水平線がこのS字形に交差する左上・右下部分とに、計5つが形成されている。そして、すべての非連続部8が同一長さで形成されている。
【0020】
また、これらスリット7は、このスリット部6の右上部分に配置されその曲線状の内側部分を中心部Oに向け形成されるスリット7aと、このスリット7aに中心線Cを挟んで略線対称に形成されるスリット7bと、端部E1から延びる水平線を対称線にしてこのスリット7bに略線対称に形成されるスリット7cと、これらスリット7a,7b,7cに夫々中心部Oを中心に略回転対称に形成されるスリット7f,7e,7dとからなる。
【0021】
これらスリット7は、その曲線上の一の点における法線と他の点における法線とが成す角度θの最大値が、0°を超え90°以下となるように形成されている。また各スリット7の両端同士を結ぶ直線Lは、このスリット7を形成する曲線部分と交差しないようになされている。すなわちこれらスリット7は、夫々その曲がる向きを一定方向のみとされて形成されている。
【0022】
以上説明したように、本実施形態に係るカッター1によれば、パラボラアンテナ状を呈する基板2上には、その厚み方向に貫通する複数のスリット7が設けられているので、路面の切断において切断用チップ3からこの基板2に伝播される振動を、これらスリット7が有効に打ち消し、よって騒音を極力小さく抑えることができる。また、作業者にとって特に不快とされる高音域の金属音的な騒音を、有効に低減させることができる。
【0023】
また、これらスリット7は曲線部分を有しており、その同一曲線上の一の点における法線と、他の点における法線とで形成される中心角θの最大値が、0°を超え90°以下とされている。よって、これらスリット7が過度に湾曲されることなく緩やかに曲げられるようにして形成されており、その曲線部分の周囲に、この基板2がパラボラアンテナ状に加工された際に蓄積された応力の開放によって歪みや変形が発生する虞がない。
【0024】
また、これらスリット7は、その両端を結ぶ直線Lと交差しないように、その向きを一定方向のみとされて形成されているので、スリット7の曲線の方向が転換することによって、その周囲に蓄積された応力の開放により歪みや変形が発生する虞がない。よって、良好にこのカッター1の騒音を低減させることができる。
【0025】
また、これらスリット7には合成樹脂等の充填剤が充填されているため、切断用チップ3から基板2を通して伝播する振動をこの充填剤が効果的に受け止め、減衰させる。よって、このカッター1の騒音を極力小さく抑えることができる。
【0026】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本実施形態においては、スリット部6の形状をS字形としたが、スリット部6を形成するスリット7が過度に湾曲されず緩やかに形成されて設けられていればこの形状に限られることはなく、C字形、J字形、Z字形、U字形、V字形、N字形等であってもよい。また本実施形態ではスリット部6の数量を9つとしたが、基板2の大きさに合わせ数量を増減させてもよく、特にその数を限定するものではない。
【0027】
また、基板2の材質はSS材としたがこれに限らず、その用途に合わせて、冷間圧延軟鋼材(SPC材)、熱間圧延軟鋼材(SPH材)、ステンレス鋼材(SUS材)等としても構わない。また、基板2と切断用チップ3とはろう付けにより接合されるとしたが、強固に接合可能であれば溶接等による接合でもよく、これらに限られるものではない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
実施例1として、基板2の外径460mm、板厚3.2mm、湾曲面の曲率半径527.56mm、図2に示す丸皿状の深さ寸法Hが52.947mmで前述のパラボラアンテナ状に形成されるカッター1を用意した。このカッター1は、その基板2がSS材からなり、その湾曲面上に本発明に係るS字形のスリット部6が周方向に均等に、30°毎12箇所設けられている。なお、これらスリット部6は、各スリット部6のS字の中心部Oからこの基板2の中心位置までの半径方向の距離が、夫々162.5mmとなるように配置した。またスリット部6の非連続部8の長さはすべて3mmとした。これらスリット部6は、レーザー加工機を用いて幅0.2mmに形成されており、そのS字に外接する長方形の縦横寸法を縦50mm×横40mmとした。またレーザー加工後は、これらスリット部6の内部にエポキシ樹脂を充填した。また切断用チップ3としては、金属粉体とダイヤモンド砥粒との焼結体を用い、これら切断用チップ3を基板2の外周縁に周方向均等となるよう配置してろう付け接合した。
【0030】
次に、このようにして製造されたカッター1を路面切断装置の回転軸(不図示)に取り付け、アスファルト舗装を加工材として、回転速度2400rpm、送り速度12mm/秒の条件下で切断し、騒音計によりその切り込み時騒音及び送り時騒音を夫々測定した。また、切断の際に作業者が感じる高音域の金属音的な騒音に対する不快感について、その評価を行った。これらの結果を、表1として示す。また、暗騒音(対象物以外の騒音)、切断前騒音(路面切断装置のカッター回転時の騒音)を参考として表1に示す。
【0031】
[実施例2]
また実施例2として、図4に示すように、スリット7の形状が異なるものを用意した。スリット7gは、その曲線上の一の点における法線と他の点における法線とが成す角度θaの最大値が、約170°に形成されている。またS字形の中央に配置されるスリット7hは、その両端を結ぶ直線Laと交差していて、その曲がる向きを一方向から他方向へと転換されて形成されている。それ以外は、実施例1と同様の条件として測定を行った。
【0032】
[比較例]
また、従来例として、スリット7が形成されていないカッター1を用いることとした以外は、実施例1と同様の条件として測定を行った。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示す通り、実施例1においては、切り込み時騒音が92〜95dB、送り時騒音が93〜96dBとなりその値が極力小さく抑えられており、また高音域の金属音的な騒音の不快感も低減され、良好な結果となった。また、実施例2についても、実施例1ほどではないものの、切り込み時騒音が93〜96dB、送り時騒音が93〜96dBに抑えられ、高音域の金属音的な騒音も耐えうる程度にまで低減された。一方、比較例においては、切り込み時騒音が101〜102dB、送り時騒音が102〜104dBと一番大きな値になり、高音域の金属音的な騒音の不快感も耐えられないほど強く感じられて、実施例1,2と比較すると劣る結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係るカッターを示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るカッターを示す側断面図である。
【図3】スリット部を示す拡大図である。
【図4】本発明の実施例2のスリット部を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0036】
1 カッター
2 基板
3 切断用チップ
6 スリット部
7 スリット
θ スリット上の2つの法線に形成される中心角
L スリット両端を結ぶ直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラボラアンテナ状を呈する基板と、この基板の外周縁に配置される切断用チップとを備えるカッターであって、
前記基板には、その厚み方向に貫通するスリットが設けられていることを特徴とするカッター。
【請求項2】
請求項1記載のカッターであって、
前記スリットは、曲線部分を有しており、
前記曲線部分は、その曲線上の一の点における法線と、他の点における法線とで形成される中心角が、0°を超え90°以下とされており、
その両端を結ぶ直線と交差しないことを特徴とするカッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−7891(P2009−7891A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172219(P2007−172219)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(390004868)日本ダイヤモンド株式会社 (8)
【出願人】(599136728)株式会社よろづ▲しぼり▼製作所 (1)
【Fターム(参考)】