説明

カニューレの成形用金型および成形方法

【課題】 製造工程を減少できるとともに、表面を滑らかな面に成形できるようにすることにより品質の向上を図れるカニューレの成形用金型および成形方法を提供すること。
【解決手段】 先端側の側部に開口部14が形成され、内部に開口部14に連通する液体流路10aが形成された筒状のカニューレ10を成形するための成形用金型20を、成形用凹部24が形成された金型本体21と、成形用凹部24の表面との間に成形用空間部を形成した状態で成形用凹部24内に設置されるコア部22と、成形用凹部24内における開口部14に対応する部分に延びた状態で金型本体21に設けられた角ピン23とで構成した。そして、形成用空間部内に成形用材料を射出するための射出口25bを、金型本体21における角ピン23が設置された部分とコア部22の軸心を挟んで反対側の部分に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンプル等の容器に収容された薬液等を吸引したり、吸引した薬液等を輸液ラインを介して患者に供給したりする際に用いられるカニューレを成形するためのカニューレの成形用金型およびカニューレの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バイアルやアンプル等の容器に収容された生理食塩水や薬液等を、先端にカニューレが取り付けられた注射器で吸引し、この薬液等を、患者の体に接続された輸液ラインの所定部分に注入することにより患者の体内に供給することが行われている。このカニューレの先端部は細い筒状の針で構成され、その筒状の針の先端側部分に、薬液等を注入・注出するための開口部が形成されている。このようなカニューレの中には、形状の選択の幅を拡大したり、安全性を確保したりするために、樹脂材料で構成したものがある。また、開口部が針の先端部でなく針の先端側部分の側部に設けられたものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなカニューレを成形用金型を備えた射出成形機で成形する場合には、成形用凹部が形成された金型本体の内部に、成形用凹部の表面との間に成形用空間部を形成するコア部を設置するとともに、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する両側部分からコア部に向って開口形成用ピンを延ばしてその先端部をコア部に当接させ、その状態で、金型本体の射出口から形成用空間部内に成形用材料を射出している。また、開口部を針の先端側部分の両側部でなく一方の側部だけに形成する場合には、コア部における開口形成用ピンが接触する面の反対側の面に、コア部の先端側部分が成形用材料の射出圧力によって傾斜することを防止するためのピンを当接させた状態で射出成形が行われる。そして、成形後に、傾斜防止用のピンによって形成された穴部を塞ぐための加工処理が行われる。
【特許文献1】特開2002―17856号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、前述した従来の樹脂製のカニューレのうちの、先端側部分の一方の側部に開口部が設けられたカニューレを製造する際には、傾斜防止用のピンによって形成された穴部を塞ぐための加工処理が必要になるため製造工程が多くなるという問題や、穴部を塞いだのちのカニューレの表面に凹凸が生じることが多く、これによってカニューレの品質が低下するというおそれが生じていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、製造工程を減少できるとともに、表面を滑らかな面に形成できるようにすることにより品質の向上を図れるカニューレの成形用金型および成形方法を提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係るカニューレの成形用金型の構成上の特徴は、先端側の側部に開口部が形成され内部に開口部に連通する連通液体流路が形成された筒状のカニューレを成形するためのカニューレの成形用金型であって、成形用凹部が形成された金型本体と、成形用凹部の表面との間にカニューレを成形するための成形用空間部を形成した状態で成形用凹部内に設置されるコア部と、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する部分からコア部に向って延びる開口形成用ピンとを備え、形成用空間部内に成形用材料を射出するための射出口を金型本体における開口形成用ピンが設置される部分とコア部の軸心を挟んで反対側に位置する部分に設けたことにある。
【0007】
前述のように構成した本発明に係るカニューレの成形用金型は、薬液等を注出したり注入したりする開口部が、先端側部分の側部の一方だけに形成されたカニューレを成形するためのもので、金型本体の成形用凹部におけるカニューレの先端側の開口部を形成するために設置される開口形成用ピンの反対側の部分には、傾斜防止用のピンは設置されてなくその部分は空間部になっている。そして、成形用空間部に成形用材料を射出するための射出口を、金型本体における開口形成用ピンが設置される部分とコア部を挟んで反対側に位置する部分に設けている。
【0008】
このため、成形用空間部内に射出された成形用材料は、射出口からコア部を開口形成用ピン側に押し付けるようにして成形用空間部の全体に充填されていく。この結果、傾斜防止用のピンを用いなくても、コア部が成形用材料の射出圧力によって傾斜することを防止することができ、寸法精度のよいカニューレを得ることができる。また、傾斜防止用のピンを用いた場合に形成される穴部を塞ぐための加工処理が不要になるとともに、カニューレのその加工処理を行った部分の表面に凹凸が発生することもなくなる。
【0009】
なお、この場合の開口形成用ピンは、金型本体の所定部分に固定されたものでもよいし、金型本体に設けられたピン挿通孔内でコア部に対して進退可能に設けられたものでもよい。開口用ピンを金型本体に固定する場合には、金型本体における少なくとも開口用ピンが固定された部分を金型本体の他の部分から移動可能にして、金型本体における開口用ピンが固定された部分を移動させて金型本体の他の部分から離したときに、開口用ピンが成形されたカニューレの開口部から抜け出るようにしておく。これによって、成形されたカニューレの金型本体の他の部分からの取出しが可能になる。
【0010】
また、本発明に係るカニューレの成形用金型の他の構成上の特徴は、カニューレを、カニューレ本体と、カニューレ本体の先端に形成され開口部を備えた穿刺部とで構成するとともに、成形用空間部を、カニューレ本体に対応する本体形成部と、穿刺部に対応する穿刺部形成部とで構成し、射出口を金型本体における本体形成部に対応する部分に設けたことにある。これによると、カニューレの穿刺部に、射出口の跡が付かなくなるため、穿刺部の表面を滑らかにするための後処理をする必要がなくなる。また、穿刺部における開口部以外の表面を滑らかな面に形成することができ、穿刺部の穿刺性が向上する。
【0011】
また、本発明に係るカニューレの成形方法の構成上の特徴は、先端側の側部に開口部が形成され内部に前記開口部に連通する連通液体流路が形成された筒状のカニューレを成形するためのカニューレの成形方法であって、成形用凹部が形成されるとともに、カニューレの開口部に対応する部分に開口形成用ピンが設置された金型本体の内部に、成形用凹部の表面との間にカニューレを成形するための成形用空間部を形成するコア部を設置するコア部設置工程と、金型本体における開口形成用ピンが設置される部分とコア部の軸心を挟んで反対側に位置する部分に設けられた射出口から、成形用空間部内に成形用材料を射出する成形用材料射出工程とを備えたことにある。
【0012】
このように構成したカニューレの成形方法は、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する部分に開口形成用ピンが設置された金型本体の内部にコア部を設置するコア部設置工程と、射出口から成形用空間部内に成形用材料を射出する成形用材料射出工程とを備えている。そして、コア部設置工程においては、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する部分から延びてくる開口形成用ピンに対してコア部の所定部分を接触させるかまたは至近距離に接近させ、成形用材料射出工程においては、成形用材料を金型本体における開口形成用ピンが設置される部分と反対側の部分に設けられた射出口から射出するようにしている。
【0013】
このため、成形用空間部に射出された成形用材料は、コア部を開口形成用ピン側に押し付けるようにして成形用空間部の全体に充填されていき、コア部を傾斜させることなく、1個の開口部を備えたカニューレを精度のよく成形することができる。また、傾斜防止用のピンを用いないため傾斜防止用のピンを用いた場合に形成される穴部を塞ぐための工程が不要になり製造工程を減少させることができる。さらに、カニューレの表面に塞いだ穴部の跡が残って凹凸が発生することもなくなる。
【0014】
なお、この場合の開口形成用ピンは、金型本体の所定部分に固定されたものでもよいし、金型本体に設けられたピン挿通孔内でコア部に対して進退可能に設けられたものでもよい。開口用ピンを金型本体に固定する場合には、金型本体における少なくとも開口用ピンが固定された部分を金型本体の他の部分から移動可能にして、金型本体における開口用ピンが固定された部分を移動させて金型本体の他の部分から離したときに、開口用ピンが成形されたカニューレの開口部から抜け出るようにしておく。これによって、成形されたカニューレの金型本体の他の部分からの取出しが可能になる。
【0015】
また、開口形成用ピンを、コア部に対して進退可能にする場合には、コア部設置工程を、金型本体の内部にコア部を設置する工程と、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する部分に開口形成用ピンを設置する工程との二つの工程に分ける。そして、開口形成用ピンを設置する工程においては、金型本体におけるカニューレの開口部に対応する部分からコア部に向って開口形成用ピンを延ばしてその先端をコア部の表面に接触させるかまたは至近距離に接近させる。
【0016】
また、本発明に係るカニューレの成形方法の他の構成上の特徴は、カニューレを、カニューレ本体と、カニューレ本体の先端に形成され開口部を備えた穿刺部とで構成するとともに、成形用空間部を、カニューレ本体に対応する本体形成部と、穿刺部に対応する穿刺部形成部とで構成し、成形用材料射出工程における成形用材料の射出が金型本体における本体形成部に対応する部分に設けられた射出口から行われることにある。これによると、カニューレの穿刺部に、射出口の跡が付かなくなるため、穿刺部の表面を滑らかにするための後処理をする必要がなくなる。また、穿刺部における開口部以外の表面を滑らかな面に形成することができ、穿刺部の穿刺性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るカニューレの成形用金型および成形方法を図面を用いて説明する。図1および図2は、同実施形態によって形成されたカニューレ10を示している。このカニューレ10は、段違いの円筒体で構成されたカニューレ本体11と、カニューレ本体11の先端に形成された細径円筒状の穿刺部12とで構成されている。そして、カニューレ10の内部には薬液等の液体を通す段違いの液体流路10aがカニューレ10の中心軸に沿って形成されている。
【0018】
カニューレ本体11は、注射器等(図示せず)に接続される基端側の大径の接続部11aと、接続部11aと穿刺部12との間に形成された接続部11aよりも小径の連結部11bとで構成されている。そして、接続部11aの後端部にフランジ状の段部13が形成され、その外周面の両側に突状のねじ部13a,13bが形成されている。また、液体流路10aにおける接続部11aに位置する部分は、基端部側から先端側に向って徐々に直径が小さくなったテーパ状に形成され、連結部11bに位置する部分は、後端側(基端側)から先端側にかけて同径に形成されている。
【0019】
そして、液体流路10aにおける接続部11aに位置する部分の先端部と連結部11bに位置する部分の後端部との間に、後部側から先端側に向って徐々に直径が小さくなったテーパ状の部分が形成されている。穿刺部12は、外径が後部側よりも先端側が僅かに大きくなるように緩やかなテーパ状に形成され内径が後部側から先端側にかけて略同径に形成された筒状細径部12aの先端部に、先端側が徐々に細くなった2段状のテーパ部からなる先鋭部12bを形成して構成されている。
【0020】
この先鋭部12bの先端は閉塞されて先鋭に形成されている。そして、穿刺部12の外周面における筒状細径部12aの先端側部分から先鋭部12bの後端側部分にかけて、穿刺部12の軸方向に沿った部分が長くなった長方形の開口部14が形成されている。この開口部14は、液体流路10aに連通しており、例えば、カニューレ10を注射器の先端に取り付け、その注射器を操作することによって、注射器から液体流路10a内に注入される液体を外部に出したり、外部の液体を吸い込んで液体流路10aから注射器内に送ったりする。
【0021】
このように構成されたカニューレ10は、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂材料を成形した成形品で構成されており、図3ないし図5に示した成形用金型20を用いて成形される。この成形用金型20は、金型本体21と、コア部22と、金型本体21の所定部分に固定された本発明の開口形成用ピンとしての角ピン23とを備えている。金型本体21は、図3ないし図5における中央側に設置された固定型21aと、固定型21aの上側に設置され金型移動装置(図示せず)の作動により固定型21aに沿って互いに進退可能になった一対の移動型21b,21cと、固定型21aの下側に設置されコア部22が取り付けられた移動型21dとの四つの金型で構成されている。
【0022】
そして、固定型21aと移動型21b,21cとの合わせ面および固定型21aと移動型21dとの合わせ面から移動型21dを除くそれぞれの金型の内部にかけて、カニューレ10の外形と略等しい形状の成形用凹部24が形成されている。なお、図3ないし図5は成形用金型20を上方から見た状態を示しているが、以後、説明の便宜上、固定型21dを下側、移動型21b,21cを上側として説明する。また、成形用凹部24の表面(内面)は、カニューレ本体11の外面に対応する本体外面成形部24aと、穿刺部12の外面に対応する穿刺部外面形成部24bとで構成されている。
【0023】
そして、金型本体21の移動型21cにおける穿刺部外面形成部24bの上端側部分には、移動型21cの外側面から成形用凹部24の軸方向に略直交して延びてくるピン挿通穴23aが連通しており、そのピン挿通穴23a内に角ピン23が穿刺部外面形成部24bの内部側に先端部を突出させた状態で設置されている。この角ピン23は、断面形状が開口部14と同一に形成された棒体で構成されている。また、角ピン23の先端面は、図7に示したように上下方向(図3ないし図5では前後方向)の中央側が窪むように湾曲した曲面に形成されており、これによって、後述するコア部22の穿刺部内面形成部29の周面に略全面が接触できる。
【0024】
なお、角ピン23とピン挿通穴23aとの間には、射出成形時に成形用凹部24内の空気を成形用金型20の外部に放出するための隙間が設けられており、角ピン23は、移動型21cの外部側部分に固定されている。また、本体外面成形部24aは、カニューレ本体11の接続部11aの外面に対応する接続部外面成形部25と連結部11bの外面に対応する連結部外面成形部26とで構成されている。
【0025】
そして、接続部外面成形部25における成形用凹部24を挟んで角ピン23が設置されたピン挿通穴23aと反対側の部分には固定型21aの外側面から延びてくる材料通路25aの先端部が開口しており、この開口で射出口25bが構成される。また、接続部外面成形部25における金型本体21の開口側部分には、カニューレ10の段部13およびねじ部13a,13bの外面に対応する大径部25cが形成されている。なお、材料通路25aが延びる方向と、角ピン23が延びる方向とは、成形用凹部24の軸回り方向に180度±2度の角度の範囲に入るように設定されている。
【0026】
コア部22は、移動型21dに固定されて移動型21dの移動により固定型21aおよび移動型21b,21cの成形用凹部24内に進退可能になっている。このコア部22は、カニューレ10の内面を形成する部材であり、成形用凹部24内に挿入されたときに、成形用凹部24の表面との間に、カニューレ10の厚みと略等しい厚みの空間部を形成できる形状に形成されている。すなわち、コア部22は、2段状の円柱部からなるコア本体27と、カニューレ本体11の内面に対応する4段状の略円柱部からなる本体内面成形部28と、穿刺部12の内面に対応する穿刺部内面形成部29とで構成されている。
【0027】
コア部22のコア本体27は、大径で軸方向の長さが短い基部27aと、基部27aから上方に延び基部27aより小径で軸方向の長さが長い延長部27bとで構成されており、移動型21dに固定されている。また、移動型21dはコア部22を固定型21aおよび移動型21b,21cの成形用凹部24に対して進退させるコア移動装置(図示せず)に連結されている。また、本体内面成形部28は、カニューレ本体11の接続部11aの内面に対応する接続部内面成形部28aと、連結部11bの内面に対応する連結部内面成形部28bと、接続部内面成形部28aと連結部内面成形部28bとの間に形成されたテーパ部28cと、連結部内面成形部28bの先端側に形成されたテーパ部28dとで構成されている。
【0028】
接続部内面成形部28aは、基部側(下端側)よりも先端側が僅かに細くなったテーパ状の円柱体で構成され、連結部内面成形部28bは、基部側から先端側が略同径になり接続部内面成形部28aよりも細径になった円柱体で構成されている。そして、テーパ部28cは、基端部が接続部内面成形部28aの先端部と同径で、先端部が連結部内面成形部28bと同径になった円錐台状に形成されている。また、穿刺部内面形成部29は、テーパ部28dを介して連結部内面成形部28bに連結されており、連結部内面成形部28bよりも細径の円柱状に形成されている。
【0029】
そして、テーパ部28dは、基端部が連結部内面成形部28bの先端部と同径で、先端部が穿刺部内面形成部29と同径になった円錐台状に形成されている。なお、図示していないが、成形用金型20には、金型本体21の所定部分を冷却する冷却水路が備わっており、この成形用金型20が取り付けられる射出成形機には、成形用凹部24内に成形用材料を押し込むプランジャ、成形用金型20の周辺に設けられた各装置を制御する制御装置等、成形用金型20を用いて成形を行うために必要な各装置や機構が備わっている。
【0030】
このように構成された成形用金型20を用いて、カニューレ10を成形する場合には、まず、成形用金型20を図3に示した型開きした状態から、コア移動装置を作動させて、移動型21dを移動させることによりコア部22を固定型21aの本体外面成形部24a内に挿入する。これによって、図4の状態になる。ついで、その状態から金型移動装置を作動させて、移動型21b,21cの合わせ面を互いに接面させる。これによって、角ピン23の先端の曲面が穿刺部内面形成部29の周面に接触する。また、成形用金型20は、図5に示したように、金型本体21の成形用凹部24の表面と、コア部22の本体内面成形部28および穿刺部内面形成部29の外周面との間に、カニューレ10と略同一形状(成形材料の収縮を考慮しなければ同一形状)の空間部を形成した状態になる。
【0031】
この場合、コア部22の本体内面成形部28および穿刺部内面形成部29の外周面は、角ピン23の先端面に接触しているだけであるため、コア部22の先端側部分は角ピン23が位置する方向以外の方向には揺動可能な状態になっている。その状態で、材料通路25aから射出口25bを介して金型本体21の成形用凹部24内に成形用材料を射出して、成形用凹部24の表面とコア部22の外周面との間の空間部に充填する。このとき、図6および図7に示したように、成形用材料の流入により、コア部22には矢印aで示した方向に圧力がかかる。
【0032】
このため、コア部22の先端側部分には右方向に傾くような力が加わるが、穿刺部内面形成部29の周面に角ピン23の先端面が接触しているため、コア部22が傾くことが防止される。これによって、コア部22の本体内面成形部28および穿刺部内面形成部29の外周面と金型本体21の成形用凹部24の表面との間の部分はカニューレ10と略同一の適正な形状に維持される。そして、冷却により成形用材料が固化したのちに、金型移動装置を作動させて移動型21b,21cを固定型21aの上部に沿わせた状態で互いに離れるように移動させて型開きする。
【0033】
ついで、コア移動装置を作動させてコア部22を移動型21dとともに後退させる。このとき、成形用凹部24内で成形された成形品はコア部22とともに、固定型21aから引き抜かれる。つぎに、コア部22とともに固定型21aから引き抜かれた成形品をコア部22から取り外す。この場合の取り外しはロボット(図示せず)によって行われる。そして、コア部22から取り外された成形品のランナ等の不要部分を除去して、図1および図2に示したカニューレ10が得られる。
【0034】
このカニューレ10は、例えば、注射器の先端部に取り付けられて、アンプル内の薬液を吸引する場合や、その注射器に吸引した薬液を、患者の体に接続された輸液ラインが備える三方活栓のゴムからなる弁体が設けられた分岐管に供給する場合等に用いられる。注射器に吸引した薬液を、三方活栓の分岐管に供給する場合には、カニューレ10の穿刺部12を弁体に差し込んだ状態で、注射器を操作することにより、薬液を三方活栓の分岐管内に注入する。この場合、穿刺部12の筒状細径部12aが先端側が大径になったテーパ状に形成されているため、穿刺部12が弁体の復元力によって後退して弁体から外れることが防止される。
【0035】
また、穿刺部12の先鋭部12bが2段状の段部に形成されているとともに、開口部14が穿刺部12の側部に形成されているため、穿刺部12を弁体に刺し込む際に、弁体が、穿刺部12の先鋭部12bや開口部14の縁部によって削り取られて破損するといったことが生じない。したがって、削り取られた弁体の破片が、薬液とともに患者の体内に送られるといったことも生じず、薬液は適正な状態を維持したまま患者の体内に供給される。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るカニューレの成形用金型では、金型本体21の成形用凹部24に成形用材料を射出するための射出口25bを固定型21aに設け、角ピン23を、成形用凹部24を挟んで射出口25bと反対側に位置する移動型21cに形成されたピン挿通穴23a内に設けている。そして、角ピン23の先端面をコア部22の穿刺部内面形成部29に接触させた状態で、成形用凹部24内に成形用材料を射出するようにしている。
【0037】
このため、成形用凹部24内に射出された成形用材料は、射出口25bからコア部22の穿刺部内面形成部29を角ピン23側に押し付けるようにして成形用凹部24の表面とコア部22の外周面との間の空間部全体に充填されるようになり、コア部22が傾斜することはない。この結果、1個の開口部14を備えたカニューレ10を精度よく製造することができる。また、射出口25bを固定型21aにおける下部側部分に設けたため、成形されたカニューレ10の穿刺部12には、射出口25bの跡が付かなくなる。このため、特に後加工等をすることなく、穿刺部12の開口部14以外の表面を滑らかな面に形成することができる。
【0038】
また、本発明に係るカニューレの成形方法によれば、成形材料を成形用凹部24内に射出する際に、コア部22が傾くことを防止するためのピンを用いないため傾斜防止用のピンによって形成される穴部を塞ぐための工程が不要になり製造工程を減少させることができる。さらに、カニューレの表面に塞いだ穴部の跡が残って凹凸が発生することもなくなる。
【0039】
また、本発明に係るカニューレの成形用金型および成形方法は、前述した実施形態に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で適宜変更が可能である。例えば、前述した実施形態では、カニューレ10における穿刺部12の筒状細径部12aを、先端側が大径になったテーパ状に形成して、金型本体21における穿刺部12の外形を形成する部分を、二つの移動型21b,21cで構成しているが、筒状細径部12aを先端側が小径になったテーパ状かまたは均一の直径の筒状に形成して、移動型21b,21cに代えて一つの移動型を用いることもできる。
【0040】
この場合、角ピン23は、移動装置の作動により成形用凹部24に対して進退可能にする。さらに、これによると、移動型21b,21cだけでなく、固定型21aと移動型21b,21cも一つの金型で構成することができる。また、前述した実施形態では、開口部14を長方形に形成したが、この形状は長方形に限らず、円形や三角形等他の形状にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態により成形されたカニューレを示しており、(a)は側面図、(b)は裏面図、(c)はカニューレの穿刺部を示した正面図である。
【図2】カニューレの断面図である。
【図3】成形用金型を構成する各型を開いた状態を示した断面図である。
【図4】図3の状態からコア部が取り付けられた移動型を固定型に合わせた状態を示した断面図である。
【図5】成形用金型を構成する各型を閉じた状態を示した断面図である。
【図6】成形用凹部内に成形用材料を射出したときにコア部に係る圧力を示した説明図である。
【図7】図5のコア部を上方から見た状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10…カニューレ、10a…液体流路、11…カニューレ本体、12…穿刺部、14…開口部、20…成形用金型、21…金型本体、22…コア部、23…角ピン、24…成形用凹部、25b…射出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側の側部に開口部が形成され内部に前記開口部に連通する連通液体流路が形成された筒状のカニューレを成形するためのカニューレの成形用金型であって、
成形用凹部が形成された金型本体と、
前記成形用凹部の表面との間に前記カニューレを成形するための成形用空間部を形成した状態で前記成形用凹部内に設置されるコア部と、
前記金型本体における前記カニューレの開口部に対応する部分から前記コア部に向って延びる開口形成用ピンとを備え、
前記形成用空間部内に成形用材料を射出するための射出口を前記金型本体における前記開口形成用ピンが設置される部分と前記コア部の軸心を挟んで反対側に位置する部分に設けたことを特徴とするカニューレの成形用金型。
【請求項2】
前記カニューレを、カニューレ本体と、前記カニューレ本体の先端に形成され前記開口部を備えた穿刺部とで構成するとともに、前記成形用空間部を、前記カニューレ本体に対応する本体形成部と、前記穿刺部に対応する穿刺部形成部とで構成し、前記射出口を前記金型本体における本体形成部に対応する部分に設けた請求項1に記載のカニューレの成形用金型。
【請求項3】
先端側の側部に開口部が形成され内部に前記開口部に連通する連通液体流路が形成された筒状のカニューレを成形するためのカニューレの成形方法であって、
成形用凹部が形成されるとともに、前記カニューレの開口部に対応する部分に開口形成用ピンが設置された金型本体の内部に、前記成形用凹部の表面との間に前記カニューレを成形するための成形用空間部を形成するコア部を設置するコア部設置工程と、
前記金型本体における前記開口形成用ピンが設置される部分と前記コア部の軸心を挟んで反対側に位置する部分に設けられた射出口から、前記成形用空間部内に成形用材料を射出する成形用材料射出工程と
を備えたことを特徴とするカニューレの成形方法。
【請求項4】
前記カニューレを、カニューレ本体と、前記カニューレ本体の先端に形成され前記開口部を備えた穿刺部とで構成するとともに、前記成形用空間部を、前記カニューレ本体に対応する本体形成部と、前記穿刺部に対応する穿刺部形成部とで構成し、前記成形用材料射出工程における成形用材料の射出が前記金型本体における本体形成部に対応する部分に設けられた射出口から行われる請求項1に記載のカニューレの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−149500(P2008−149500A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337743(P2006−337743)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】