説明

カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物、およびカラーフィルター

【課題】 優れた硬化性と貯蔵安定性を有し、硬化工程においては脱ガス量が少なく、かつ、硬化後に得られた硬化膜の耐熱性、可視光線透過率、および耐溶剤性などの諸物性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の、(A)および(B)成分
(A)ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位50〜100重量%と、式(4)で表されるその他の構成単位50〜0重量%から成り、重量平均分子量が2,000〜200,000である重合体
(B)エポキシ基またはオキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、かつ、エポキシ当量が140〜1,000g/molであるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物
から成り、前記の(ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)のモル濃度の比率が0.3〜1.2である、カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD等)、エレクトロルミネッセンス装置(ELD)等に用いられるカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物、および該熱硬化性樹脂組成物を用いたカラーフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD等)、エレクトロルミネッセンス装置(ELD)等に用いられるカラーフィルター(以降、CFという場合がある。)には、RGBレジストの凹凸を平坦化する目的で、あるいは、RGBレジストよりブリードアウトするイオン性物質より液晶等を保護する目的で、RGBレジストと、液晶配向膜またはITO層等との間に保護膜と呼ばれる層が設けられている。この保護膜には透明性、耐薬品性、耐熱性、密着性、ITO形成プロセス耐性、平坦性等の性能が要求される。この保護膜は熱硬化性樹脂組成物あるいは光硬化性樹脂組成物といった硬化性樹脂組成物をCFに塗布後硬化させることによって形成されることが多い。最近のCFはCF毎に異なる高度な性能が要求されており、保護膜にも多様な性能が求められており、CF毎に異なる保護膜用塗布液を使う必要が生じている。このような状況から、熱硬化性樹脂組成物および光硬化性樹脂組成物を使う必要が生じてきているが、それぞれに対応した塗布機を増設することは多大なコストを必要とするため好ましくない。多様化したCFに対する要求性能の実現とコストダウンの両立のためには、熱硬化性樹脂組成物を光硬化性樹脂組成物用のCF製造装置で塗布することができることが望まれている。
【0003】
特許文献1においては、多価カルボン酸化合物のカルボキシル基がビニルエーテル化合物により潜在化された多価カルボンヘミアセタールエステルを含有するCF保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を使用することによって、塗布液は保存安定性および作業安定性が優れ、塗布液硬化後には基本性能が優れた保護膜を得ることができた。
しかしながら、多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを含有するCF保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を、光硬化性であるRGBレジストまたは保護膜に用いる樹脂組成物を塗布するCF製造装置で塗布すると、硬化後には保護膜に滴下痕が生じるという不具合が指摘されてきている。このようなCF保護膜用の樹脂組成物の不具合は、CF製造プロセスにおいて歩留まりの低下や、製造効率の低下を招くこととなる。このため、製造プロセスのみならず、CF保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の改良も強く求められている。
【0004】
光硬化性樹脂組成物用のCF製造装置の中でも現像装置においては現像液や水が霧状に浮遊する状態になっており、水が滴り落ちる箇所が無数に発生する。多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを含有するCF保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を塗布した基板がこのような状態の現像装置を通過する際、水が落下して塗布面に当たると滴下痕が発生する。現像装置に浮遊する現像液や水がなくなるまで待ってから塗布を行う場合には、待っている間は光硬化性樹脂組成物の塗布が中断されるため、例えばRGBレジストの塗布が出来なくなり、CF製造効率が低下してしまう。現像装置を通過しないバイパスを設置するなどの措置によりプロセスを改良するには、甚大なコストが必要となり望ましい解決手法とはならない。そこで、光硬化性樹脂組成物の塗布装置を用いて塗布しても滴下痕が発生しない熱硬化性樹脂組成物が必要とされていた。
【0005】
多価カルボン酸化合物のカルボキシル基がビニルエーテル化合物により潜在化された多価カルボンヘミアセタールエステルは、カルボキシル基の潜在化により粘度が低下するため、得られる熱硬化性樹脂組成物もまた粘度が低くなる。多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを含む熱硬化性樹脂組成物の塗布面に水滴が付着すると、粘度が低いために滴下痕が発生しやすくなる。
カルボン酸ヘミアセタールエステルを有する化合物を高分子量化して粘度を高くすることにより、滴下痕が発生しない熱硬化性樹脂組成物を得ることが可能である。しかしながら、単にカルボン酸ヘミアセタールエステルを有する化合物を高分子量化するだけでは、近年要求される、高度な密着性やITO形成プロセス耐性を満たすことが困難となっていた。
【0006】
高度な耐熱性を有する硬化剤として、イタコン酸やフマル酸から誘導される重合体が知られている。しかしながら、イタコン酸やフマル酸から誘導される重合体はカルボキシル基が多くなるため、重合反応の進行に伴って溶剤に難溶性となるため、重合体を得ることが困難であった。特許文献2により、無水マレイン酸を重合して硬化剤とする熱硬化性樹脂組成物が報告されている。無水マレイン酸を用いることにより硬化剤の高分子量化ができるうえ、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなることにより、滴下痕が残らない熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。しかしながら、硬化剤を高分子量化すると、熱硬化性樹脂組成物の流動性および相溶性が著しく低下して、熱硬化性樹脂組成物の反応性が低下してしまう。そのため、塗布プロセス後に硬化膜中に残存する未反応の反応性基濃度が増えて耐熱性が低下したり、反応が均質に進まないことから塗膜に凹凸が発生して外観が低下するなどの問題が発生する。以上のことにより、単に硬化剤を高分子量化するだけでは、近年要求される、高度な密着性やITO形成プロセス耐性を満たすことが困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開2001−350010号公報
【特許文献2】特開2005−187703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みて成し遂げられたものであり、その第一の目的は、優れた硬化性と保存安定性を有し、かつ、樹脂硬化物の層が透明性や耐薬品性といった基本性能を備えた上で、光硬化性樹脂組成物の塗布装置で製造しても現像液や水滴の滴下痕の発生がなく、良好な耐熱性を有するカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第二の目的は、透明性や耐薬品性といった基本性能を備えた上で、光硬化性樹脂組成物の塗布装置で製造しても現像液や水滴の滴下痕がなく良好な耐熱性を有する樹脂硬化物の層を有するカラーフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ビニルエーテル化合物により潜在化された、エチレン性不飽和結合を有するジカルボン酸を構成単位として有する特定構造の重合体と、エポキシ基またはオキセタニル基含有化合物を、特定比率で配合した熱硬化性樹脂組成物が、光硬化性樹脂組成物の塗布装置で製造しても現像液や水滴の滴下痕が発生せず、かつ、良好な耐熱性を有するとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の[1]および[2]である。
[1]下記の、(A)および(B)成分
(A)下記式(1)または(2)のいずれかで表されるヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位50〜100重量%と、式(4)で表されるその他の構成単位50〜0重量%から成り、重量平均分子量が2,000〜200,000である重合体
【化1】

(式(1)中、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【化2】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【化3】

(式(3)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。)
【化4】

(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基、または炭素数2〜9のアシルオキシ基を示す。)
(B)エポキシ基またはオキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、かつ、エポキシ当量が140〜1,000g/molであるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物
から成り、前記の(ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)のモル濃度の比率が0.3〜1.2である、カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物。
[2]前記の[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層を有するカラーフィルター。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物は、優れた硬化性と保存安定性を有し、かつ、樹脂硬化物の層の透明性や耐薬品性が良好な上に、光硬化性樹脂組成物の塗布装置で製造しても現像液や水滴の滴下痕の発生がない熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
また、本発明によれば、透明性や耐薬品性が良好な上で、光硬化性樹脂組成物の塗布装置で製造しても現像液や水滴の滴下痕のないカラーフィルターを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において本発明を詳しく説明する。
本発明において、CF(カラーフィルター)保護膜とは、CFを有する表示装置および固体撮像素子に用いられるものを広く意味し、より詳しくは、液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD等)、エレクトロルミネッセンス装置(ELD)等に用いられるCFの、RGB画素と、液晶配向膜、ITO層、発光体、受光体等との間に形成される有機層を意味する。本発明において、CF保護膜は、RGB画素に直接接せずとも、他の材料を介して間接的に保護する保護膜であってもよく、例えば、固体撮像素子のマイクロレンズとカラーフィルターの間に用いる中間膜、あるいはカラーフィルターと電極の間に用いる中間膜であってもよい。
1.カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物
本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物は下記の(A)および(B)成分からなる。
(A)ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位50〜100重量%と、式(4)で表されるその他の構成単位50〜0重量%から成り、重量平均分子量が2,000〜200,000である重合体
(B)エポキシ基またはオキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、かつ、エポキシ当量が140〜1,000g/molであるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物
<重合体(A)>
【0014】
本発明に用いる重合体(A)は、式(1)または(2)で表されるヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位と、式(4)で表されるその他の構成単位からなる。
【0015】
【化5】

【0016】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【0017】
【化6】

【0018】
(式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【0019】
【化7】

【0020】
(式(3)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。)
【化8】

(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基、または炭素数2〜9のアシルオキシ基である。)
<ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位>
【0021】
より具体的には、式(1)で表される構成単位は、式(5)で表されるヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸から誘導され、式(2)で表される構成単位は、式(6)または(7)で表されるヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸から誘導される。
【0022】
【化9】

【0023】
(式(5)中、Xは前記式(1)におけるものと同じである。)
【化10】

【0024】
(式(6)中、R、R、およびXは前記式(2)におけるものと同じである。)
【0025】
【化11】

【0026】
(式(7)中、R、R、およびXは前記式(2)におけるものと同じである。)
前記の式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基は、カルボキシル基を式(8)で表されるビニルエーテル化合物を用いて変性することによって得られる。その変性反応は式(9)で表される。
【0027】
【化12】

【化13】

【0028】
(式(8)、(9)において、Rは式(3)におけるものと同じである。)
式(8)で表されるビニルエーテル化合物(a2)としては、炭素数1〜10(好ましくは3〜8)の直鎖状または分岐状のアルキル基または炭素数5〜8(好ましくは6〜8)のシクロアルキル基を有するアルキルビニルエーテル化合物が挙げられる。炭素数がアルキル基として10を上回ったり、シクロアルキル基として8を上回ったりすると、脱離するビニルエーテル化合物(a2)の沸点が上昇し解離温度との間に差異が生じて、硬化に悪影響を及ぼし、本発明の効果を得ることができない。
ビニルエーテル化合物(a2)としては、具体的には例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが挙げられる。それらの中でも、入手性および硬化温度が保護膜のプロセスに適合する点から、n−プロピルビニルエーテルおよびi−ブチルビニルエーテルが好ましく挙げられる。
ビニルエーテル化合物(a2)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明に用いる重合体(A)のヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を有する構成単位は、不飽和ジカルボン酸(a1)と、前記のビニルエーテル化合物(a2)とを室温ないし150℃の範囲の温度で反応させることにより得ることができる。ブロック化反応は平衡反応であるため、多価カルボン酸(a1)に対しビニルエーテル化合物(a2)を若干多く使用すると反応が促進され、収率を向上させることができる。具体的には、多価カルボン酸(a1)のカルボキシル基に対するビニルエーテル化合物(a2)のビニル基のモル当量比[(ビニル基/カルボキシル基)のモル当量比]は、1/1〜2/1であることが望ましい。このモル当量比が2/1を越える場合、反応温度を上げることができず、反応速度が著しく低い場合がある。モル当量比が1/1を下回る場合、ブロック化されないカルボキシル基が残存することとなり、重合体(A)を得る反応が進行しないことがある。
ブロック化反応を行う際、反応を促進させる目的で酸性リン酸エステル化合物を初めとする酸触媒を使用することも出来る。
【0030】
また、ブロック化反応を行う際、反応系を均一にし、反応を容易にする目的で有機溶剤を使用してもよい。この際に使用する有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素、エーテル類、エステルおよびエーテルエステル類、ケトン類、リン酸エステル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。好ましくは、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
前記の有機溶媒は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。前記の有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、反応原料100重量部に対して、通常、5〜95重量部、好ましくは、20〜80重量部である。
【0031】
重合体(A)中、ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位の比率は50〜100重量%である。50重量%未満であるとヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位が少なくなり、その他の構成単位のセグメントが連続する部分が出来るため、耐熱分解性の向上が得られない。
また、さらに高度なITO形成プロセス耐性が求められる場合、エポキシ基とオキセタニル基との反応性が上がり保護膜の耐熱性が向上する点から、重合体(A)中のヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位の比率として、好ましくは60〜90重量%、より好ましくは75〜85重量%である。
【0032】
<その他の構成単位>
本発明に用いる重合体(A)は、ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位の他に、式(4)で表されるその他の構成単位を有していてもよい。
【0033】
【化14】

【0034】
(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基、または炭素数2〜9のアシルオキシ基を示す。)
式(4)で表される構成単位は、より具体的には式(8)で表される単量体から誘導される。
【0035】
【化15】

【0036】
(式(10)中、RおよびRは式(4)におけるものと同じである。)
式(4)で表されるその他の構成単位は、本発明に用いる重合体(A)がヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位の優れた特性を阻害しないために、適度の剛直性を有し、かつ、構成単位の導入に用いる単量体がヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸と良好な共重合性を有していなければならない。式(4)および(5)において、Rは水素原子またはメチル基(好ましくは水素原子)であり、Rは炭素数6〜10のアリール基(好ましくは炭素数6〜8のアリール基)、炭素数1〜8のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基(好ましくは炭素数2〜5のアルキルカルボニル基)、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基)、または炭素数2〜9のアシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜5のアシルオキシ基)である。
より具体的に、式(5)で表される単量体としては、Rが炭素数6〜10のアリール基である場合として、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;
が炭素数1〜8のアルコキシ基として、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル類;
が炭素数2〜9のアルキルカルボニル基として、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類;
が炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアクリル酸又はメタアクリル酸エステル類;
が炭素数2〜9のアシルオキシ基として、酢酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル類が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性の点から芳香族ビニル化合物が好ましく挙げられる。
<重合体(A)の製造>
【0037】
本発明に用いる重合体(A)は、ラジカル重合、イオン重合等常法の重合法により重合することができる。より具体的には重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の重合法を採ることができる。
重合体(A)の分子形態としては、直鎖状であっても、分岐構造を持っていても良く、ランダム重合体、ブロック重合体、グラフト重合体等いずれの形態であってもよい。
【0038】
本発明に用いる重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、2,000〜200,000であり、好ましくは3,000〜50,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)が2,000未満であると保護膜の硬度の低下が観測され、200,000を上回ると塗布後の外観が低下する可能性がある。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0039】
本発明に用いる重合体(A)は、ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位を全構成単位中50重量%以上含有する。
カルボキシル基がビニルエーテル化合物により潜在化された構成単位を含有する重合体(A)の酸当量は、116〜600g/mol、好ましくは140〜500g/mol、より好ましくは150〜400g/molである。酸当量の下限116g/molは分子量からの理論値であり、酸当量が600g/molを上回ると樹脂硬化物の層の硬度の低下、およびITO形成プロセス耐性が不足する可能性がある。この際の酸当量とは重合体についてのカルボキシル基の当量を指し、JIS K 0070 :1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の加水分解酸価測定によって測定した。
【0040】
<エポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)>
本発明に用いるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)は、エポキシ基またはオキセタニル基を1分子中に2個以上含有する。
本発明に用いるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)のうち、エポキシ基含有化合物(B1)として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型またはビキシレノール型のエポキシ樹脂またはそれらの混合物、ナフタレン基含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂およびその誘導体、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、DPP(ジ−n−ペンチルフタレート)型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂等の芳香族ポリグリシジルエーテル;アジピン酸ジグリシジルエステル等の炭素数2〜50の脂肪族ポリジグリシジルエステル;フタル酸ジグリシジルエステル等の炭素数2〜50の芳香族ジグリシジルエステル;N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン等の芳香族アミン系エポキシ樹脂、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルへキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等の炭素数1〜50の脂肪族モノグリシジルエーテル;フェニルグリシジルエーテル等の芳香族モノグリシジルエーテル;ラウリン酸グリシジルエステル等の炭素数2〜50の脂肪族モノグリシジルエステル、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテル等の芳香族グリジジルエーテル類;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、各種芳香族グリシジルエーテル類の水添または半水添エポキシ樹脂、その他脂肪族ポリオールのグリシジルエーテル等の脂肪族グリジジルエーテル類(より具体的には、エチレングリコールールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル等);フタル酸ジグリシジル等の芳香族グリジジルエステル類;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2,3−エポキシプロピル)エステル等の脂肪族グリジジルエステル類;1,2:8,9ジエポキシリモネン等の脂環式エポキシ化合物;N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン等のグリジジルアミン類;トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート等の複素環式エポキシ化合物;その他に、ブタジエンの単独重合体または重合体のエポキシ基含有化合物等が挙げられる。
【0041】
これらのエポキシ基含有化合物(B1)のうち、耐熱性に優れる点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック系エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく挙げられる。
【0042】
本発明に用いるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)のうち、オキセタニル基含有化合物(B2)として、ヒドロキシル化合物と3−アルキル−3−ヒドロキシメチルオキセタン類とのエーテル化物として、例えば、3−アルキル−3−ヒドロキシメチルオキセタン類自体、炭素数2〜8のアルキレン基からなる脂肪族グリコール、炭素数2〜18の芳香族アルコール、フェノールノボラック樹脂、重合単位が第4級構造で重合度2〜8のポリシロキサン等のヒドロキシル化合物と、3−エチル−3−メトキシメチルオキセタン等のオキセタン類とをエーテル縮合した化合物等が挙げられる。より具体的には例えば、ビス((3−エチル−3−オキセタニル)メチル)エーテル、1,4−ビス(((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)メチル)ベンゼン、1,4−ビス(((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)メチル)ベンゼン、4,4’−ビス(((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)メチル)ビフェニル、3,3’,5,5’−メチル−4,4’−ビス(((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)メチル)ビフェニル、1,4−ビス((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)ビフェニル、3,3’,5,5’−メチル−4,4’−ビス((3−エチル−3−オキセタニル)メチル)ビフェニル等が挙げられる。
これらのオキセタニル基含有化合物(B)の中でも、耐熱性の点から1,4−ビス(((3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ)メチル)ベンゼン、およびビス(1−エチル(3−オキセタニル))メチルエーテルが好ましく挙げられる。
【0043】
本発明に用いるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)は、エポキシ当量が140〜1,000g/mol、好ましくは150〜700g/mol、より好ましくは160〜400g/molである。エポキシ当量が140g/mol未満であると、硬化膜中の架橋密度が高すぎるために塗布後の保護膜が強靭性を失う傾向があり、1,000g/molを上回ると、硬化膜の架橋密度が低下して樹脂硬化物の層の硬度の低下、およびITO形成プロセス耐性が不足する可能性がある。
【0044】
本発明に用いるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)の分子量は、通常180〜100,000、好ましくは350〜50,000、より好ましくは350〜30,000である。エポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)の分子量が180未満であると、保護膜の硬度が低下する可能性があり、100,000を上回ると塗布後の外観が低下する可能性がある。
【0045】
本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物において、重合体(A)と化合物(B)の配合比率は、重合体(A)のヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基のモル濃度と化合物(B)のエポキシ基またはオキセタニル基のモル濃度について、その比率(カルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)が0.3〜1.2、好ましくは0.5〜1.0になるように、両成分を配合する。(ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)のモル濃度の比率が0.3未満だと硬化後にエポキシ基が多量に残留するため、架橋密度が低くなり、本発明の効果が得られなくなる可能性がある。(ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)のモル濃度の比率が1.2を上回ると、ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基が過剰となり樹脂物性が低下する。
【0046】
<その他の成分>
<有機溶剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、粘度等を調整する目的で有機溶剤を添加して使用しても良い。この際に使用する有機溶剤としては、芳香族炭化水素、エーテル類、エステルおよびエーテルエステル類、ケトン類、リン酸エステル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。
これらの有機溶剤は1種単独または2種以上を適宜組み合わせて使用できる。
また、これら有機溶剤の添加量については特に制限はされず、所定膜厚、表明の平滑性、および成膜方法等に応じ、任意の量添加し、塗布適性を付与することができる。通常は、本発明の熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、5〜2000重量部を添加して使用される。
【0047】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤、表面調整剤、密着性向上助剤、着色剤、粘度調整剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、炭酸ガス発生防止剤、可撓性付与剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、表面処理剤、難燃剤、帯電防止剤、イオントラップ剤、摺動性改良剤、各種ゴム、無機充填材、有機ポリマービーズ、揺変性付与剤、表面張力低下剤、消泡剤、光拡散剤、抗酸化剤、蛍光剤、その他の成分を添加して使用することができる。
【0048】
<熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、上記(A)、および(B)の成分をはじめとする各成分を一括配合しても良いし、各成分を溶剤に溶解した後に逐次配合しても良い。また、配合する際の投入順序や作業条件は特に制約を受けない。例えば、全成分を同時に溶剤に溶解して熱硬化性樹脂組成物を調製してもよいし、必要に応じては各成分を適宜2つ以上の溶液としておいて、使用時(塗布時)にこれらの溶液を混合して熱硬化性樹脂組成物として調製してもよい。
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、上記(A)、および(B)の成分をはじめとする各成分混合後の攪拌に関しては、羽根形撹拌機、デソルバー、ニーダー、ボールミル混和機、ロール分散機等を用いて撹拌をおこなってもよいし、各成分をガロン瓶等の容器に配合してから容器ごとミックスローターで回転させて攪拌してもよい。混合および攪拌の温度は、配合成分にもよるが、通常、結露や溶剤の揮散を避けるために、10〜60℃が好ましい。
【0049】
2.カラーフィルター
本発明のカラーフィルターは、上記本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層を有する。
カラーフィルターは、通常、透明基板に所定のパターンで形成されたブラックマトリックスと、当該ブラックマトリックス間に所定のパターンで形成した画素部と、本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の層で当該画素部を覆うように形成された保護膜を備える。この上に通常、液晶駆動用の透明電極が形成される。また、ブラックマトリックス層が形成された領域に合わせて、透明電極板上、画素部上、または保護膜上に柱状スペーサーが形成されていてもよい。
【0050】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物の層は、上記本発明のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を適宜粘度調整して塗布液とし、まず、それを例えばカラーフィルターの着色層を形成した側の表面に塗布する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物を塗布する方法に関しては、特に限定されるものではなく、通常用いられる塗布手法として、例えば、スピンコーター塗布法、浸漬塗布法、スプレーコーター塗布法、ロールコーター塗布法、スクリーン印刷塗布法、オフセット印刷塗布法、スリットコーター塗布法、ダイコーター塗布法等の単独または組み合わせにより、基材に塗布することができる。
【0051】
次に、得られた塗膜を乾燥し、さらに必要に応じて予備加熱(以下、プリベーク)を行った後、本硬化加熱(以下、ポストベーク)を経て樹脂硬化物の層を形成する。この際には、プリベーク条件として40〜140℃、0〜1時間、ポストベーク条件として150〜280℃、0.2〜2時間が好ましい条件として挙げられる。また、この際の加熱手法としては、特に限定されるものではなく、例えば、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の硬化装置を採用することができる。加熱源は特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱等の方法で行うことができる。
【0052】
なお、本発明において、本発明の熱硬化性樹脂組成物の樹脂硬化物の層は、塗布後の膜厚は0.2〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜4μmである。塗布後の膜厚が0.2μm未満の場合には、バリア性、平坦性等の保護膜に要求される性能を得ることが難しく、5μmを上回ると透明性、ITO形成プロセス耐性等の性能が低下するおそれがあり好ましくない。ただし、高い平坦性が望まれる用途に関しては、塗布後の膜厚が5〜20μmであってもよい。
【0053】
このようにして得られる本発明の熱硬化性樹脂組成物の樹脂硬化物の層は、カルボン酸化合物とエポキシ基を含有する化合物による架橋樹脂であるため、耐薬品性、耐熱性(加熱による膜減りや変色の程度など)に優れている。さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物の樹脂硬化物の層は、高温加熱時の重量減少量の少ない重合体(A)とエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物(B)を組み合わせて用いているため、基材に対する密着性が著しく高く、ITO形成プロセス耐性に優れ、多様化する基材種やCF形成プロセスに幅広く対応できる利点を有している。
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物の樹脂硬化物の層は、具体的には例えば、下記のような優れた密着性、ITO形成プロセス耐性(ITO回路形成後の酸−アルカリ耐性(エッチング耐性)、ITO回路形成後の230〜250℃での耐熱性)を兼ね備えた層とすることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。なお、以下特に断りのない限り、「部」とは重量部を示す。材料の調製に用いた測定方法、試験方法を次に示す。
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、カラムとして昭和電工(株)製SHODEX K−801を用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
<固形分>
固形分は、溶液1gを精秤し、熱風オーブンで170℃、1時間乾燥後に乾燥前後の重量変化から算出した残存率より算出した。
<粘度>
粘度は、循環式恒温水浴を装備したB型粘度計(東機産業(株)製;商品名;Viscometer Model B)を用いて温度25℃で測定した。
<エポキシ当量>
エポキシ当量は、JIS K 7236:2001「エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方」によって規定される方法によって測定した。
<全酸当量>
全酸当量は、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の加水分解酸価測定によって測定した。
【0055】
<ITO後エッチング耐性>
ガラス基板(日本電気硝子(株)製;商品名;OA-10、無アルカリガラス)上にカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を硬化後の膜厚が2.0μmおよび5.0μmとなるようにスピンコート法により塗布した。この塗布基板を90℃のクリーンオーブンにて5分間の乾燥処理を行った後、230℃のクリーンオーブンにて30分間処理した。得られた保護膜上に10〜15Ω/cm2の抵抗値が得られるように、270℃のスパッタ処理によりITO膜を形成させ、評価基板試料とした。
上記の評価基板試料を60℃の5wt%NaOH水溶液に浸漬処理し、10分後の様態を目視により観察した。
◎:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで異常が観測されなかった
○:保護膜の膜厚が2.0μmでは異常が観測されなかったが5.0μmでわずかな異常が観測された
×:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで異常が観測された
本評価では、○以上であるとき、実用に供することができると判定した。
<ITO後耐熱性>
また、同じく前記の評価基板試料に250℃の高温加熱処理を行い、処理後の様態を目視により観測した。。
◎:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで異常が観測されなかった
○:保護膜の膜厚が2.0μmでは異常が観測されなかったが5.0μmでわずかな異常が観測された
×:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで白化やシワなどの異常が観測された
本評価では、○以上であるとき、実用に供することができると判定した。
<水滴痕>
カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物を膜厚が2.0μmおよび5.0μmになる条件でスピンコート法によりガラス基板(日本電気硝子(株)製;商品名;OA−10、無アルカリガラス)に塗布し、ガラス基板を90℃のクリーンオーブンにて5分間乾燥処理した。乾燥処理後の塗布基板をエッチングマシンES−610(サンハヤト(株))に通した。その後、塗布基板を230℃のクリーンオーブンにて30分間処理した。得られた塗布基板の水滴痕を表面の凹凸(段差)を微細形状測定機((株)小坂研究所製;商標;サーフコーダーET4000)を用いて評価した。
◎:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで段差の異常が観測されなかった
○:保護膜の膜厚が2.0μmでは異常が観測されなかったが5.0μmでわずかな段差の異常が観測された
×:保護膜の膜厚が2.0μmおよび5.0μmで段差の異常が観測された
本評価では、○以上であるとき、水滴痕による段差の異常について、実用に供することができると判定した。
【0056】
<ヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸の合成>
合成例1
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PMA)33重量部、磐田化学工業(株)製イタコン酸26重量部、n−プロピルビニルエーテル(以下、nPr−VE)41重量部を仕込み、攪拌しながら加熱し80℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら攪拌し続け、混合物の酸価が2.0mgKOH/g以下になったところで反応を終了し、溶液の酸価0.64mgKOH/gのヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸(イタコン酸ビス(1−プロポキシ−エチル)エステル)(a1−1)の溶液を得た。
合成例2、3、および比較合成例1、2
合成例1と同様の操作を行いヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸(a−2〜a−3)およびヘミアセタールエステル化不飽和モノカルボン酸(a’−1、a−2)を得た。各原料の仕込量と合成結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
<重合体の重合>
重合例1
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた容量500mLの4つ口フラスコに、PMAを43重量部仕込み、攪拌しながら加熱して80℃に昇温した。次いで、合成例1で合成した(a1−1)133重量部、スチレン(以下、St)20重量部、日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(以下、PHO)(商品名、純度93%)」4重量部を予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、80℃の温度を7時間維持した後、反応を終了した。重量平均分子量(Mw)10,000、固形分52%、粘度12mPa・s(20℃)および溶液の酸当量680g/molの重合体溶液(重合体の酸当量340g/mol)を得た。
【0059】
重合例2〜4、および比較重合例1〜3
重合例1と同様の操作を行い、重合体(A−2〜4,A’−1〜3)を得た。各原料の仕込量と重合結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜4、比較例1〜4
所定の配合割合で溶解混合したカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の性能を評価した。結果を配合割合とともに表3に示す。
比較例1〜4
所定の配合割合で溶解混合したカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の溶液から、実施例と同様の手法によって樹脂硬化物の層(硬化膜)を得て、試験を行った。結果を配合割合とともに表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表中に用いた略号の意味は次の通りである。
jER828: ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量190(g/mol)、分子量約380
jER1001: ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量500g/mol、分子量約900
jER1004: ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量930g/mol、分子量約1,650
157S65: ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量210(g/mol)、分子量約2,100
【0064】
実施例1〜4においては、本発明に用いる重合体(A)および化合物(B)を使用することにより良好なITO形成プロセス耐性を得ることができることが判る。
一方、比較例1および2においては本発明の重合体(A)に換え、ヘミアセタールエステル化不飽和モノカルボン酸に由来する構成単位を有する重合体を使用しているために、重合体自身が充分な耐熱分解性を有していないためにITO後の耐性が不足する結果となった。比較例3においては本発明の重合体(A)および化合物(B)を使用しているが、本発明の配合比から外れるため水滴痕が発生し、さらにITO後耐性が不足した。比較例4においては、本発明の重合体(A)に換え、ヘミアセタールエステル化されていない不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位を有する重合体を使用しているために、反応性の低下から樹脂硬化物の耐熱性が不足した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の、(A)および(B)成分
(A)下記式(1)または(2)のいずれかで表されるヘミアセタールエステル化不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位50〜100重量%と、式(4)で表されるその他の構成単位50〜0重量%から成り、重量平均分子量が2,000〜200,000である重合体
【化1】

(式(1)中、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【化2】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Xはそれぞれ独立に下記式(3)で表されるヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基を示す。)
【化3】

(式(3)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。)
【化4】

(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、炭素数2〜9のアルコキシカルボニル基、または炭素数2〜9のアシルオキシ基を示す。)
(B)エポキシ基またはオキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、かつ、エポキシ当量が140〜1,000g/molであるエポキシ基またはオキセタニル基含有化合物
から成り、前記の(ヘミアセタールエステル化されたカルボキシル基/エポキシ基またはオキセタニル基)のモル濃度の比率が0.3〜1.2である、カラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層を有するカラーフィルター。

【公開番号】特開2009−96884(P2009−96884A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269992(P2007−269992)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】