説明

カルビドパ/ベンセラジドを含むL−トリプトファンの新規製剤

本発明は、疼痛、鬱病、睡眠障害、およびCNSの他のセロトニン依存性疾患を予防または治療するための医用薬剤を製造するためのL−トリプトファンおよびL−トリプトファンの末梢分解阻害剤の使用に関する。ここでL−トリプトファンは遅延型製剤として存在し、末梢分解阻害剤は非遅延型製剤として存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛、鬱病、睡眠障害、およびCNSの他のセロトニン依存性疾病または疾患を予防または治療するための医用薬剤を製造するためのL-トリプトファンおよびL-トリプトファンの末梢分解阻害剤の使用に関し、ここで、L-トリプトファンは遅延型製剤として存在し、分解剤および末梢分解阻害剤は非遅延型製剤として存在する。
【背景技術】
【0002】
情報の処理および伝達は、神経化学的伝達に基づいて中枢神経系(CNS)において起こる。したがって、必要な化学的メッセンジャー分子(神経伝達物質)は、栄養成分、通常アミノ酸から合成され、その後それぞれの神経構造体に利用される。中枢神経系の多くの疾患は、CNSにおける一つもしくは数個の神経伝達物質の欠損に基づくか、または神経伝達物質の生物学的利用能の欠如もしくは欠損の結果である。そのようなメッセンジャー分子の例はセロトニンおよびドーパミンである。
【0003】
セロトニンは、自然によく見られ、哺乳動物では、中枢神経系(視床下部、中脳水道周囲灰白質、中心灰白質、辺縁系)、脾臓、肺、および腸管のアルジェンタフィン(argentafine)細胞において比較的高濃度で見られる。全血中濃度は0.1〜0.3μg/mlである。
【0004】
セロトニンは呼吸器および胃腸管の血管の平滑筋において末梢効果を有する。セロトニンは中枢神経系においてある特定の重要な効果を発揮する。本明細書ではとりわけ疼痛の制御、精神の制御、および睡眠の調節に関連する。
【0005】
ドーパミンはカテコールアミンであり、これはとりわけ脳、副腎、および交感神経終末において生じ、これは下垂体刺激視床下部領域の神経伝達物質である。ドーパミンの濃度はパーキンソニズムの錐体外路運動系の核において減少している。
【0006】
セロトニンおよびドーパミンなどの神経伝達物質は、血液脳関門を経る通過の欠如により、または重大な副作用により、CNSに直接送達され得ないため、生化学的前駆体が一般に用いられる。
【0007】
CNS、特にいわゆる基底核におけるドーパミンの全身欠乏を補うために、L-ドーパ前駆体がパーキンソニズムの治療において一般に投与される。しかし、L-ドーパは、末梢において広範囲まで、すなわち胃腸管だけでなく血液脳関門(BBB)の血液において、主に望ましい神経伝達物質へとすでに分解されており、したがってCNSに到達しないかまたは不十分な量しか到達しない。ドーパミンはそのままでは血液脳関門を通過することができないため、周辺に氾濫するが実際には脳には入らない。これは結果として、悪心、嘔吐、心疾患、血圧の変化などの公知の末梢性副作用を有する。L-トリプトファンに似たL-ドーパはアミノ酸デカルボキシラーゼによって末梢に分解されるので、これらの副作用を回避するため、およびCNSに利用可能なL-ドーパの量を増加させるために、L-ドーパを末梢分解阻害剤と組み合わせる。結果として、L-ドーパは血漿に濃縮され、血液脳関門を十分な量で乗り越えることができる。そこでL-ドーパは必要に応じてドーパミンへと分解される。それを上回って、L-ドーパはO-メチルトランスフェラーゼによって末梢に代謝される。しかし、L-ドーパの末梢分解経路は、L-トリプトファンの末梢分解経路と部分的にしか対応していない。
【0008】
神経伝達物質セロトニンの前駆体はL-トリプトファンであり、これはたいていのタンパク質に1〜2%存在する。L-トリプトファンはヒトの天然の栄養素として存在し、必須アミノ酸である。L-トリプトファンの異なる分解経路が公知である。トリプトファン-2-3-ジオキシゲナーゼおよびキヌレニナーゼを介した肝臓におけるL-トリプトファンの分解が、量的に最も重要なものとして90%を上回る。さらに、デカルボキシル化後、L-トリプトファンの5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を介した5-ヒドロキシトリプトアミン(5-HT = セロトニン)への末梢分解が行われる。
【0009】
L-トリプトファンはうまく変化して疼痛の治療法に用いられる。さらにL-トリプトファン単体が、完成した医用製剤を含むトリプトファンとして、睡眠障害および鬱病の治療に適用される。それに関して、この方法によりCNSの「抗疼痛物質」であるセロトニンの形成を増加させるため、栄養素L-トリプトファンが過剰に添加される。しかし、有効な薬剤としてトリプトファンをそのまま使用する試みは、部分的には極めて高用量のL-トリプトファンにも関わらずまたは血液脳関門における中性アミノ酸との競合を排除する栄養学的努力(競争的置換)にも関わらず、あまり適当でない。
【0010】
CNSの外部におけるL-トリプトファンの末梢分解により、セロトニンは悪い部位で濃縮され、その結果、発作性高血圧、慢性の下痢、気管支痙攣、心疾患、胃腸疾患などの望ましくない副作用をもたらす。少量のL-トリプトファンのみが末梢分解を免れ、邪魔されずに中枢神経系に入ることができ、そこで分解されて望まし神経伝達物質へと分解され得る。L-トリプトファンの有効な濃縮を達成するために可能な限り多量にこのアミノ酸を投与する試みは、副作用の発生ならびにセロトニンおよびトリプトファンの脳内分解および脳外における分解により失敗に終わった。このため、このアミノ酸は現在のところ、例えば疼痛などの治療において実践的な有意性を持たない。
【0011】
パーキンソン患者は、末梢アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤であるベンセラジドおよびカルビドパならびにO-メチルトランスフェラーゼ阻害剤としてエンタカポン(entacapon)(COMT阻害剤)とそれぞれ組み合わせてL-ドーパで治療できることが知られている。L-ドーパおよび特異的なデカルボキシラーゼ阻害剤であるベンセラジドを、ハイドロコロイド、および薬剤の放出を遅延させる前処理としていくつかの慣習的なアジュバントと共に組み合わせることが、DE 32 32 873に記載されている。しかし、血中における薬剤の比較的迅速な分解は負の効果を有する。しかし血液脳関門におけるL-トリプトファンの持続的な利用可能性を提供するために、高濃度または比較的短時間のいずれかでの薬剤の投与が示されている。しかし、高濃度の末梢分解阻害剤は重大な副作用を呈する一方で、短時間での投与または持続的な投与は定常的な(stationary)投与を必要とする。
【0012】
疼痛の治療のため遅延放出剤としてベンセラジドおよびカルビドパなどの末梢分解阻害剤とのL-トリプトファンの組み合わせがEP 0 344 158 B1に記載されている。ベンセラジドおよびカルビドパは血漿において比較的迅速に分解される(血漿短半減期)ことが知られているため、L-トリプトファンならびに末梢分解阻害剤の双方の遅延型放出が特定の薬学的形態として記載されている。それによって血液脳関門へのL-トリプトファンの持続的な供給(遅延型形態での)が、末梢分解阻害剤の持続的な供給(同様に遅延型形態でのベンセラジドおよびカルビドパ)により支持される。
【0013】
しかし、遅延型形態での薬剤の投与は比較的複雑な形成を必要とし、これは毒性の添加剤と結合させる場合が少なからずある。さらに、経口投与を可能にするために錠剤、カプセル、または溶液を処方する必要がある。さらに、遅延型末梢分解阻害剤と共に深刻な副作用が生じる。したがって患者は、とりわけ、日中の倦怠感、吐き気、皮膚炎を患う。
【0014】
したがって、本発明の根底にある課題は、疼痛、鬱病、睡眠障害、またはCNSの他のセロトニン依存性疾患を治療するための、投与しやすく副作用の大部分を免れる薬学的製剤を提供することである。
【発明の開示】
【0015】
本発明は、疼痛、鬱病、睡眠障害、またはCNSの他のセロトニン依存性疾患を予防または治療するための医用薬剤を製造するための、L-トリプトファンおよびL-トリプトファンの末梢分解阻害剤の使用に関し、ここでL-トリプトファンは、遅延型製剤として存在し、末梢分解阻害剤は非遅延型製剤として存在する。末梢分解阻害剤は末梢アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤、キヌレニナーゼ阻害剤、および/またはトリプトファン-2-3-ジオキシゲナーゼ阻害剤であってもよい。好ましくは、末梢分解阻害剤は末梢アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤であり、特に、(-)-L-?-ヒドラジノ-3,4-ジヒドロキシ-?-メチルヒドロ桂皮酸(カルビドパ)またはDL-セリン-2-(2,3,4-トリヒドロキシベンジル)ヒドラジド塩酸塩(ベンセラジド)である。
【0016】
L-トリプトファンの投与はセロトニン中央代謝および中枢神経系におけるセロトニンレベルをそれぞれ増加させる。増加したセロトニンレベルは、特に疼痛、鬱病、睡眠障害、およびCNSの他のセロトニン依存性疾患に、治療的または予防的に使用され得る。L-トリプトファン(インドリル-3-アラニン)は生理学的化合物(必須アミノ酸)であり、これは例えば睡眠障害、鬱病、疼痛、およびパーキンソニズムのL-ドーパ治療法の精神病的副作用の治療に用いられる。
【0017】
遅延放出製剤(遅延型製剤)としてのL-トリプトファンと、トリプトファンの末梢分解阻害剤との組み合わせは、血液脳関門の取り込み代謝により前記疾患の治療に非常に重要である。
【0018】
好ましくは、L-トリプトファンアミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤、キヌレニナーゼ阻害剤、および/またはトリプトファン-2-3-ジオキシゲナーゼ阻害剤が、L-トリプトファンの末梢分解阻害剤として本発明において用いられる。特に、(-)-L-?-ヒドラジノ-3,4-ジヒドロキシ-?-メチルヒドロ桂皮酸(カルビドパ)またはDL-セリン-2-(2,3,4-トリヒドロキシベンジル)ヒドラジド塩酸塩(ベンセラジド)が好ましい。
【0019】
アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤は、芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ酵素を阻害することによって作用する。さらに、使用される末梢デカルボキシラーゼ阻害剤であるベンセラジドおよびカルビドパもまた、キヌレニナーゼおよびトリプトファン-2-3-ジオキシゲナーゼの阻害剤であり、全3つの代謝経路を介して(L-ドーパと対照的に)増加したL-トリプトファンスコアを血漿において生じる。
【0020】
L-トリプトファンの全3つの代謝経路(デカルボキシラーゼ、キヌレニナーゼ、および2-3-ジオキシゲナーゼ)の阻害と共に、遅延型薬剤の形態でのカルビドパまたはベンセラジドの持続的に高濃度の放出は、全て当初の推定に反して、末梢L-トリプトファン分解の阻害の最適な利用に関する本発明者らの驚くべき所見結果により必要でない。
【0021】
末梢分解阻害剤は、L-トリプトファンと同時、その前、またはその後に投与することができる。
【0022】
非遅延型末梢分解阻害剤と組み合わせた遅延型L-トリプトファンの本発明に係る使用は、以下の利点を有する:1つの遅延型成分のみを有する本発明に係る医用薬剤は、2つの遅延型成分を有する完成製剤の持つ難題を回避する。結果として、開発努力がより少なくなる;薬学的形態は比較的複雑でなく、より簡素である。担体および遅延添加剤の添加に起因する、考えられる毒素学的問題が回避される。錠剤またはカプセルが有意に小さい形態で製造され、それにより経口投与がよりたやすくなる。薬剤は、カプセル、錠剤、溶液、吸入剤の形態で、または他の一般的に使用される薬学的形態で患者に投与され得る。より単純な製剤方法(galenism)により、薬学的形態がより費用効果の高いものとなる。生じる副作用が少なく、薬学的形態がより許容され得る。
【0023】
実施例1:遅延型L-トリプトファンおよび遅延型ベンセラジドの投与
2つのテストセンターにて合計58人の疼痛患者で、遅延型L-トリプトファンおよび遅延型ベンセラジドを用いて2つの研究を実施した。研究は二重盲検でランダムに行った。1つの研究はドイツVlothoのWeserlandklinikにて線維筋痛を示す22人の患者(12人実薬群(verum)、10人プラセボ)で実施した。第2の研究はドイツRheineのJakobi病院のペイン・クリニックにて36人の患者(18人実薬群、18人プラセボ)で実施した。第2の研究において、慢性疼痛を有する患者は、慢性疼痛の根底を成す疾患とは無関係に治療した。薬剤であるL-トリプトファンおよびベンセラジドは、血漿中の両方の活性物質の定常状態を(夜間も)達成するために、少ない用量で頻回投与した。投与の種類は、遅延型形態での薬剤の投与を反映する。したがって、結果は遅延型形態での薬剤の投与と同一視され得る。患者は、200mg L-トリプトファン/20mgベンセラジドにて2ピースのカプセルを一日に渡って均等に分布された7時、10時、13時、16時、および19時の5回投与され、200mg L-トリプトファン/25mgベンセラジドにて遅延型錠剤を2錠、22時に投与された。トリプトファンの血漿レベルを4週間の間、連続的にモニターした。血漿中のL-トリプトファンレベルは両方の研究で連続的に増加しており、2〜3週間後には最大値2.6〜3.4mg/dlに達し、その後は依然として変わらないままであった。
【0024】
実施例2:遅延型L-トリプトファンおよび非遅延型ベンセラジドの投与
さらなる研究において、L-トリプトファン血漿レベルにおける分解阻害剤の効果を調査した。それにより、第一の研究の濃度と同一であるL-トリプトファン濃度(実施例1参照)を被験者5人に投与した。したがって、試験される人は、200mg L-トリプトファンにて2ピースのカプセルを一日に渡って均等に分布された7時、10時、13時、16時、および19時の5回投与され、200mg L-トリプトファンにて遅延型錠剤を2錠、22時に投与された。対照的に、末梢分解阻害剤は、非遅延型投与を反映する3回の時点でのみ投与した。これにより、ベンセラジドは、単回投与につき80mgの用量で7時、15時、および22時に投与され、合計で240mgのベンセラジドが1日に投与された(2つの最初の研究の総量に相当する)。ここで、血漿トリプトファンレベルは同様に連続して増加し、3週間後には平均2.5mg/dlの最大値に達し、4週間後には変わらないままであった。実施例1とは対照的に、ほとんど副作用は生じなかった。
【0025】
結果:
L-トリプトファンに起因する主要な疼痛効果は別として、L-トリプトファンの連続的送達(遅延型形態での投与に対応する)が、最適な効果および定常的に高い血漿レベルに必要であることを研究は示している。さらに、定常的に高いトリプトファン血漿レベルのために、従ってL-トリプトファンの最適な効果のために、末梢分解阻害剤が血漿中に存在することが必ずしも必要ではないことを研究は示している。同様に遅延型製剤としてベンセラジドを投与する必要はなかった。確立されたトリプトファン血漿レベルは約3週間後に定常的に高くなり、主要な鎮痛作用と相関していた。生じる副作用が少なく、許容性が有意に良好となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下の図面により本発明を説明する。
【0027】
【図1】遅延を反映する各ケースにおいて、患者36人での研究からの、L-トリプトファンおよびベンセラジドの投与の結果をグラフ表示で示す。ここで医用薬剤を受けプラセボを受けなかった患者のみが図中に含まれている。トリプトファン血漿レベルはmg/dlで示されている。
【図2】L-トリプトファンおよびベンセラジドの投与の結果をグラフ表示で示す。ここで、トリプトファンの投与のみが遅延を反映しており、患者5人の研究から、ベンセラジドは非遅延型形態にて投与された。トリプトファン血漿レベルはmg/dlで示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛、鬱病、睡眠障害、およびCNSの他のセロトニン依存性疾患を予防または治療するための医用薬剤を製造するためのL-トリプトファンおよびL-トリプトファンの末梢分解阻害剤の使用であって、L-トリプトファンが遅延型製剤として存在し、末梢分解阻害剤が非遅延型製剤として存在する、使用。
【請求項2】
末梢分解阻害剤が末梢アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤、キヌレニナーゼ阻害剤、および/またはトリプトファン-2-3-ジオキシゲナーゼ阻害剤である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
末梢アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害剤が(-)-L-?-ヒドラジノ-3,4-ジヒドロキシ-?-メチルヒドロ桂皮酸(カルビドパ)またはDL-セリン-2-(2,3,4-トリヒドロキシベンジル)ヒドラジド塩酸塩(ベンセラジド)であることを特徴とする、請求項2記載の使用。
【請求項4】
末梢分解阻害剤がL-トリプトファンの前、後、または同時に投与される、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
医用薬剤がカプセル、錠剤、溶液の形で、または吸入剤として存在する、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−509170(P2008−509170A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525165(P2007−525165)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001428
【国際公開番号】WO2006/015590
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(507046668)
【Fターム(参考)】