説明

カルボン酸およびその誘導体の水素化触媒の再生方法

【課題】 ルテニウム、ロジウム、鉄、オスミウムまたはパラジウム、および有機ホスフィンを含む、カルボン酸および/またはその誘導体の水素化触媒の再生法の提供。
【解決手段】 水素および水の存在下で再生を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸および/またはその誘導体を水素化するための均一系プロセスに用いる触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸、酸無水物、エステル、またはアミドの水素化に適する触媒システムが多数知られている。伝統的に、かかる反応は、不均一系触媒および、しばしば高温、高圧を用いて行われている。これら不均一系触媒システムの欠点は、酸原料に耐えられないものが多いことであり、したがって、用途が限られている。
【0003】
この問題を克服するために、カルボン酸およびその誘導体の水素化に対して、ルテニウム/ホスフィン系に基づいた触媒が提案されてきた。これら触媒系の例としては、米国特許第5047561号、米国特許第5079372号、米国特許第5580991号、米国特許第5077442号、米国特許第5021589号、米国特許第4931573号、米国特許第4892955号、「新規高活性カチオン性ルテニウムコンプレックスにより触媒されるカルボン酸無水物の水素化反応」、ワイ−ハラ等 ケミカルレター(1991)553、米国特許第3957827号、米国特許第4485245号、および米国特許第4480115号が挙げられ、これらは、参考文献として本明細書に引用したものとする。
【0004】
しかし、これらの文献に記載されているシステムは、一般に水素化反応を実施することが十分可能となるプロセスを提供するが、これらプロセスには、幾つかの欠点および難点がある。具体的には、水の存在が、触媒を抑制するか、反応速度を著しく減少させると思われているので、これら触媒は、水素化反応を水がない状態で実施することを必要とする。例えば、米国特許第5047561号では、有機溶媒が使用されており、存在する水の量を制御するべきであって、1重量%より高くあるべきではないと述べられている。「カチオン性ルテニウムコンプレックスにより触媒されるカルボニル化合物の水素化反応」エイチ−イナガキ等サイエンスアンドテクノロジーオブキャタリスツ(1994)327には、水の存在が、促進剤存在下の、ルテニウムトリアルキルホスファイト錯体存在下での、コハク酸無水物の水素化反応を遅延させること、並びにガス流中での水素化によって生成した水を除去する必要があることが説明され、また米国特許第3957827号、米国特許第4485245号では、収率および生産性を向上させる目的で、反応中に生成した水を除去するのに捕そく剤が使用されている。
【0005】
また、これら公知の触媒系の多くは、ルテニウム触媒の選択性および活性を増加するために、促進剤の存在が必要である。この例としては、米国特許第5079372号、米国特許第4931573号が挙げられ、ここでは、有機溶媒の存在下で反応を実施し、さらに、IVA族、VA族およびIII族から選択された金属が促進剤として必要とされる。
【0006】
促進剤を使用する他の例として米国特許第5077442号がある。この場合、選択性および転化率を向上させるために、亜リン酸化合物を使用している。水の存在が選択性および転化率を減少させるとされているので、この文献では、反応で生成された水を反応ゾーンから除去することを教示している。
【0007】
公知の他の適切な促進剤は、酸の共役塩基であり、米国特許第5021589号および米国特許第4892955号をこの関係の参考文献とすることができる。この後者の場合、触媒系成分が反応状態下で加水分解しやすいこと、および反応の間に生成した水を除去するために水素パージを必要としたことが注目されるべきである。
【0008】
これらのプロセスは、ある程度適切な触媒系を提供するが、カルボン酸および/またはその誘導体を、所望の製品に対して良好な転化率および良好な選択性で、効率的に水素化する他のプロセスが依然として必要である。驚くべきことには、我々は、いまや水の存在には不利益がないのみならず、積極的利点をもっているということを立証した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
カルボン酸および/またはその誘導体が水溶性である場合には、水は、反応のための溶媒として存在することができる。別法として、溶媒も使用することができる。溶媒を使用する場合には、水を溶媒中に添加剤として存在させてもよいし、あるいは、その場で発生させてもよい。他の別の手順では、酸またはその誘導体、または反応の生成物が、溶媒であることがある。
【0013】
炭素含有量の高いカルボン酸およびエステルの例など、カルボン酸および/またはその誘導体が非水溶性の場合、反応物または生成物が反応の溶媒になることがあり、また有機溶媒を使用し、水を添加剤として存在させることができる。この場合、水は、約1%から溶媒への水の溶解限度までの量で存在することができる。追加の水は、分離した別の水相として存在することができる。
【0014】
別の一手順では、水は、水素化の副生物としてその場で生成させることができる。水をその場で発生させる場合は、最大の効果を発揮させるには、反応のサイクルが最初の少ない内に、発生させるべきである。水をその場で発生させる場合は、水が十分発生するまで、かなりの量の水を最初に加えて、システムの必要条件をカバーすることができる。
【0015】
したがって、本発明のプロセスは、反応の開始に先立って、いかなる反応種からも、また溶媒であっても、水を除去する必要がないという点で、従来技術の手順に優る実質的利点をもっていることが理解されるであろう。さらに、反応で生成される水を反応器から除去する必要がない。このことによって既知のプロセスが簡略化され、このことは、コストに係わることである。
【0016】
さらに、我々は、水が存在すると触媒安定性の点からも有益であることを見出した。なお、従来技術のシステムでは、例えば、製品アルコールまたは中間体アルデヒドの脱カルボニル化が生じ、形成された一酸化炭素が、触媒を強く抑制していた。これを克服するには、従来技術の手順では、一酸化炭素を除去することおよびメタン化ユニットを設備に備えて反応器へのベントガスの再循環処理をすることが通例である。しかし、本発明のプロセスでは、これは必要ではない。
【0017】
いかなる理論によっても、とらわれることを望まないが、水の存在が、水素化反応器中で副反応を生じさせると信じられており、この反応器中で生成した一酸化炭素は、水と反応して、水性ガスシフト反応を介して二酸化炭素および水素を形成する。この二酸化炭素および水素は、さらに反応して、メタンを形成することがある。これらのガスは、反応システムから容易に除去することができ、それによって、水素化プロセスのコストを低減させる。したがって、このシステムは、経済性に優れたプロセスを提供するだけでなく、また、ベントガスのために再循環システム中に別にメタン化ユニットをもつ必要をなくす。
【0018】
本発明のさらなる利点は、上記に詳述したように、一酸化炭素の除去が触媒を効果的に再生させることである。したがって、このプロセスは、触媒寿命を延長し、これは結果として、反応の経済性を改善する。
【0019】
水性ガスシフト反応は、その開始のために必ず熱を必要とする。カルボン酸および/またはその誘導体、または水素化の生成物が、開始温度で熱的に安定でない場合には、本発明のプロセスを、発生した一酸化炭素の存在によって、触媒を抑制するようにすることによって操作することができ、熱的に不安定な部分を除去して、次に、水素の存在下で熱をかけ、そうして水性ガスシフト反応が作動して、さらなる反応のために触媒を再活性化できるようにする。この手段によって、このプロセスは、触媒寿命を長く保ちながら広範囲の酸に適用することができる。
【0020】
本発明のさらに一層の利点は、従来技術で使用されている種類の緩衝塩を加えて、触媒を安定化する必要がないこと、およびさらに、一般には促進剤が必要とされず、またある状況では、有害ですらありうる。反応は、好ましくはハロゲン化物の不存在下で実施する。
【0021】
上記に記載されたように、カルボン酸および/またはその誘導体が水に可溶性の場合には、水は、溶媒として作用することができる。しかし、本発明の方法は、溶媒なしに実施することができ、すなわち出発材料または反応生成物が、反応の溶媒になりうる。しかし、溶媒が使用される場合は、適切などのような溶媒も選択することができ、適切な溶媒の例としては、限定されるものではないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、2−プロパノ−ル、2−ブタノ−ル、第二級アルコール、第三級アルコールが挙げられ、また、テトラヒドロフラン等のエーテルを伴うトルエンが特に好ましい。
【0022】
本発明の好ましい触媒は、ルテニウム/ホスフィン触媒である。一般にルテニウムは、ハロゲン化物は好ましくないが、ルテニウム塩として供給する。適切な塩は、反応状態で、活性種に変換させることができる塩であって、硝酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、ベ−タジケトン、およびカルボニルが含まれる。酸化ルテニウム、カルボニルルテニウム塩、およびヒドリドホスフィンルテニウム錯体を含むルテニウムの錯体化合物もまた、使用することができる。具体例としては、特に限定されるものではないが、硝酸ルテニウム、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、ルテニウムジヒドロキシド、ルテニウムアセチルアセトネート、酢酸ルテニウム、マレイン酸ルテニウム、コハク酸ルテニウム、トリス−(アセチルアセトン)ルテニウム、ペンタカルボニルルテニウム、ジカリウムテトラカルボニルルテニウム、シクロ−ペンタジエニルジカルボニルトリルテニウム、テトラヒドリドデカカルボニルテトラルテニウム、テトラフェニルホスホニウム、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、ルテニウムジヒドロキシド、ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)トリカルボニルルテニウム、ドデカカルボニル−トリルテニウム、テトラヒドリドデカカルボニルテトラルテニウム、テトラフェニルホスホニウム、ウンデカカルボニルヒドリドトリルテニウム塩が挙げられる。
【0023】
ルテニウム化合物は、どのような適切な量で存在してもよい。しかし、反応溶液1l当たりルテニウムとして、0.0001〜100モルの量で存在するのが好ましく、0.005〜5モルが好ましい。
【0024】
適切などのようなホスフィンも使用することができる。トリデンテート(三座)、バイデンテート、およびモノデンテート配位子をもたらす化合物を使用することができる。金属がルテニウムの場合は、三座ホスフィンが特に好ましい。適切なホスフィン化合物の例には、トリアルキルホスフィン、ジアルキルホスフィン、モノアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、ジアリールホスフィン、モノアリールホスフィン、ジアリールモノアルキルホスフィンおよびジアルキルモノアリールホスフィンが含まれる。具体例としては、特に限定されるものではないが、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノメチル)メタン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノメチル)−エタン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノメチル)プロパン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノ−メチル)ブタン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノ−メチル)2−エタン−ブタン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノメチル)2,2ジメチルプロパン、トリス−1,3,5−(ジフェニルホスフィノ−メチル)シクロヘキサン、トリス−1,1,1−(ジシクロヘキシルホスフィノメチル)エタン、トリス−1,1,1−(ジメチルホスフィノメチル)エタン、トリス−1,1,1−(ジエチルホスフィノメチル)エタン、1,5,9−トリエチル−1,5−9−トリホスファシクロドデカン、1,5,9−トリフェニル−1,5−9−トリホスファシクロドデカン、ビス(2−ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、ビス−1,2−(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス−1,3−(ジフェニルホスフィノ)プロパン、ビス−1,4−(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ビス−1,2−(ジメチルホスフィノ)エタン、ビス−1,3−(ジエチルホスフィノ)プロパン、ビス−1,4−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリピリジルホスフィン、トリス−1,1,1−(ジフェニルホスフィノメチル)−エタンを伴うトリフェニルホスフィンが特に好ましい。
【0025】
ホスフィン化合物は、どのような適切な量で存在してもよい。しかし、反応溶液1l当たりルテニウムとして、0.0001〜100モルの量で存在するのが好ましく、0.005〜5モルが好ましい。
【0026】
どのような適切な反応温度も使用することができる。しかし、本発明のプロセスでは、水素化を約150℃〜約350℃の範囲の温度で実施する場合に、特に利点がある。
【0027】
どのような適切な圧力も使用することができ、反応圧力としては通常約250psig(17.58kg/cm2)〜約2000psig(140.6kg/cm2)、好ましくは800psig(56.25kg/cm2)〜1200psig(84.37kg/cm2)、さらに最も好ましくは1000psig(70.31kg/cm2)である。
【0028】
このプロセスは、バッチシステムまたは連続システムで実施することができる。しかし、本発明のプロセスは、連続システムでの利用に特に適することが理解されるであろう。というのは、触媒が一酸化炭素によって被毒されないし、またこのような被毒が生じた場合にも触媒を水との反応によって再生することができるからである。
【0029】
例えば、触媒が製品取り出し流と共に反応器から取り出された場合、触媒を適切な手段によって、反応器に対して再利用することができる。
【0030】
触媒の再生に関する本発明のプロセスは、従来技術に記載されており、および前述で具体的に詳述された文献に記載されているプロセスなどの通常のプロセス下で、プロセスを実施する間に抑制された触媒に適用することができることが理解されるであろう。したがって、本発明の第二の態様によれば、
(a)ルテニウム、ロジウム、鉄、オスミウムまたはパラジウム、および
(b)有機ホスフィン
を含む触媒を再生する方法であって、水素および水の存在下で、好ましくは水性ガスシフト反応を介して、再生を実施することを含む方法を提供するものである。
【0031】
この再生は、どのような適切な温度でも実施することができ、約150℃〜約350℃の温度が好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を、以下の実施例を参照して説明するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0033】
実施例1
これは、マレイン酸を水の存在下で、うまく水素化できることを示すものである。
【0034】
ルテニウム(III)アセチルアセトネート(0.46ミリモル、0.181g)、1,1,1−トリス(ジフェニル−ホスフィノメチル)エタン(トリホス)(6.1ミリモル、0.38g)、水(71g)およびマレイン酸(フルカ製、20.2g)を300mlのハステロイパル製オートクレーブ中に移した。オートクレーブをシールし、水素でパージした後に、水素で700psigに加圧し、241℃に加熱した。241℃に達してから、反応器を水素で1000psigに上限充填し、反応全体にわたってこの圧力を質量流量計を介して維持し、この質量流量計で追加した水素の量を記録した。反応の終了時点で、水素供給を切り離し、反応器を冷却させた。パイユニカム製の製油所ガス分析計を用いて、ヘッドスペースガスを室温で分析し、その後、ベントを行った。生成物を反応器から取り出し秤量した(91.42g)。液体生成物の0.1モル水酸化ナトリウム(>99.9%)による滴定によって、マレイン転化率を求めた。水および有機物の分析は、マイクロTCDを備えたHPガスクロマトグラフを用いて求め(WT%)、水(86.52)、プロパノール(0.84)、テトラヒドロフラン(7.02)、プロピオン酸(0.14)、γ−ブチロラクトン(2.47)、ブタンジオール(2.83)であり、テトラヒドロフランについて51.1%、γ−ブチロラクトンについて15.1%、およびブタンジオールについて16.5%、その他17.3%の、全体モル選択性を得た。
【0035】
比較例1
これは、反応の活性維持に対する水の存在が不十分である場合の影響を示す。
【0036】
水およびマレイン酸の代わりにプロピオン酸メチル(64g)を用い、反応を164℃で実施する以外は、実施例1の操作を繰り返した。15時間後、反応の終わりに、少量の黄色固体と共に生成物59.4gを黄色溶液として回収した。溶液を分析し(WT%)、メタノール(7.15)、水(2.10)、プロパノール(8.46)、メチルプロピオネート(75.62)、プロピオン酸(0.25)、プロピルプロピオネート(4.99)であることが分かり、プロパノールについて75.2モル%、およびプロピルプロピオネートについて23.0モル%の選択性を得た。モル転化率は、16.9%であった。したがって、水を加えないと、反応を継続して完結させるには、エステルの初期水素化で発生する水では不十分であることが分かる。この反応からの固体成分を分析すると、[Ru(トリホス)(CO)(H)2]であることが分かり、すなわち触媒は一酸化炭素により被毒されていたことが結論された。
【0037】
比較例2
これは、水が存在しないと、単離された固体は、還元に対して活性でないこと、特に水を加えないと、不活性化された触媒[Ru(トリホス)(CO)H2]が全く不活性であることを示す。
【0038】
比較例1と同様にして、幾つかの反応を実施して、固体生成物[Ru(トリホス)(CO)(H)2]を収集し、洗浄し、乾燥し(0.2263g)、次に、メチルプロピオネート(17.7g)およびイソプロパノール(38.6g)の新規仕込みと共に反応器に戻した。次に、これを164℃で15.5時間加熱し、この時間の終わりに反応器を冷却し、生成物52.2gを回収した。この液体生成物を分析して、メタノール(1.04)、イソプロパノール(73.02)、水(0.62)、プロパノール(1.23)、メチルプロピオネート(23.53)、プロピルプロピオネート(0.08)であることが分かり、プロパノールについて92.5%、プロピルプロピオネートについて3.1%のモル選択性、ならびに7.3%のモル転化率を得た。
【0039】
実施例2および3
これらは、水の存在下での、エステルの水素化を示す。これらの実施例は、水の存在下では、エステル水素化は、100%転化率で効率的に進行することを示す。
【0040】
実施例2では、水48.64gおよびマレイン酸ジメチル23.26gを仕込みに用いて、実施例1を繰り返した。反応を191℃で実施した。53時間後、液体およびガス状生成物を冷却させ、液体生成物をガスクロマトグラフィによって分析して、オフガス(モル%)は、水素(98.9)、一酸化炭素(0.08)、メタン(0.01)、および二酸化炭素(0.113)で、液体(WT%)は、メタノール(15.37)、水(67.11)、テトラヒドロフラン(27.43)、γ−ブチロラクトン(0.333)、およびブタンジオール(12.29)であることが分かり、99.5モル%のモル転化率、および所望の生成物についての選択活性度(モル%)は、テトラヒドロフラン(27.43)、γ−ブチロラクトン(1.88)、ブタンジオール(66.24)であった。
【0041】
実施例3では、水48.4gおよびプロピオン酸メチル20.1gを仕込みに用いて、実施例1を再び繰り返した。反応を192℃で実施した。15時間後、反応器を冷却させ、液体生成物をガスクロマトグラフィによって分析して、メタノール(10.25)、水(70.75)、プロパノール(18.27)、メチルプロピオネート(<0.1)、プロピオン酸(<0.1)、プロピルプロピオネート(<0.1)であることが分かり、>99.5%のモル選択性ならびにモル転化率を得た。
【0042】
実施例4
これは、水を用いることによる、不活性化された触媒の再活性化を示す。特に不活性化された触媒についての水の効果は、化学種の性質に変化を生じさせることおよび二酸化炭素を放出させることにあることを示している。
【0043】
不活性化された触媒の試料、[Ru(トリホス)(CO)H2](0.3536g)、脱イオン水(49.05g)およびテトラヒドロフラン(17.47g)を先に使用したオートクレーブに装填した。次に、オートクレーブをシールして、水素でパージし、水素で714psigに加圧して、次に、15.5時間193℃に加熱した。この時間の終わりに反応器を冷却させ、ヘッドスペースガスを、CO2ドレーガーチューブを介してパージし、このチューブは、CO2の存在を示して、徐々に淡青色に変わった。この反応からの溶液を、プロトンデカップルされたリンNMRによって分析され、テトラヒドロフランに溶解した[Ru(トリホス)(CO)H2]から得られたスペクトルと比較すると、異なっていることが分かった。
【0044】
テトラヒドロフラン中の[Ru(トリホス)(CO)H2]は、それぞれ特有の、25ppmにおけるダブレットおよび34ppmにおけるトリプレットを示す。水中、水素下で、加熱されたサンプルの場合には、これらのシグナルは完全に消失して、他のシグナルの複合配列によって置き換えられており、不活性化された触媒は、既になくなっていることを示している。
【0045】
実施例5
これは、反応を維持するのに十分な水をその場で生成する、単純な(プロピオン)酸の直接水素化を示す。これはさらに、触媒をその場で再活性化させながら、反応で生成された水で、酸を直接水素化することができることを示している。
【0046】
水およびマレイン酸をプロピオン酸(69.7g、98%純度、アルドリッチ製)で置き換える以外は実施例1の方法を繰り返した。温度をかけて5時間後、反応器を室温に冷却させ、オフガス分析して、二酸化炭素(0.29)、メタン(0.95)、一酸化炭素(0.73)、エタン(2.21)、およびプロパン(0.31)を含む(モル%)ことが分かった。オートクレーブから液体生成物を回収して、二相であり、上部(有機層)64.8g、下部(水層)5.6gであった。これらの層を分析して、(WT%)上部は、水(17.0)、プロパノール(38.59)、プロピオン酸(11.9)、プロピルプロピオネート(31.9)であり、下部は、水(83.66)、プロパノール(11.73)、プロピオン酸(3.47)、およびプロピルプロピオネート(0.6)であった。
【0047】
これらから、プロパノールについて64.5%、プロピルプロピオネートについて27.0%の全モル選択率を得たが、このことは、本質的には、1−プロパノールならびに79.3%の転化率をもたらす筈である。
【0048】
実施例6
これは、フマル酸の水素化に関し、他の二酸も水素化できることを示す。
【0049】
マレイン酸をフマル酸(20.3g、98%)で置き換える以外は実施例1の方法を繰り返した。温度をかけて12時間後、反応器を室温に冷却させた。オートクレーブ(90.1g)から液体生成物を取り出し分析(WT%)して、水(82.74)、プロパノール(0.13)、プロピオン酸(0.04)、テトラヒドロフラン(6.00)、γ−ブチロラクトン(2.19)、ブタンジオール(8.35)であり、テトラヒドロフランについて40.0%、γ−ブチロラクトンについて12.2%、およびブタンジオールについて44.53%の全モル選択率を得た。0.01M水酸化ナトリウムによる滴定でフマル酸の転化率、>98%を得た。
【0050】
実施例7
これは、酪酸の直接水素化を示す。また、有機酸を水素化できることも示している。
【0051】
水およびマレイン酸の代わりに酪酸85+%の水溶液(93.34g、アルドリッチ製)を用いたこと以外は実施例1の方法を繰り返した。190℃で6時間後、反応器を室温に冷却させた。オートクレーブから回収された液体生成物は、単一相であり、94.47gであった。分析(WT%)して、水(26.25)、プロピレングリコール(72.74)であることが分かり、このことは、>99.5%の転化率であることを表していた。
【0052】
実施例8
これは、溶媒の存在下で、酸の直接水素化を示す。
【0053】
マレイン酸をコハク酸(20.03g)に代えた以外は実施例1の方法を繰り返したが、1−メチル−2−ピロリジニン(20.61g)が溶媒として含まれており、かつ含まれている水の量(49.86g)を減少させた。反応の終わりに生成物を分析して、(WT%)で、水(61.43)、プロパノール(0.14)、テトラヒドロフラン(3.69)、プロピオン酸(0.15)、γ−ブチロラクトン(3.87)、ブタンジオール(5.22)であり、テトラヒドロフランについて30.49%、γ−ブチロラクトンについて26.81%、およびブタンジオールについて34.57%の全選択性ならびに、>99%の転化率を得た。
【0054】
実施例9
これは、本発明にしたがった無水物の直接水素化を示す。
【0055】
プロピオン酸無水物(39.23g)、およびプロピオン酸(33.9g)を供給原料として使用した以外は実施例5を繰り返した。温度をかけて5時間後、反応器を室温に冷却させ、オフガスを分析し、二酸化炭素(0.29)、メタン(0.95)、CO(0.73)、エタン(2.21)、プロパン(0.31)を含む(モル%)ことが分かった。オートクレーブから液体生成物を回収して、二相であり、上部(有機層)73.2g、下部(水層)1.8gであることが分かった。これらの層を分析して、(WT%)上部は、水(15.91)、プロパノール(40)、プロピオン酸(9.54)、プロピルプロピオネート(33.88)であり、下部は、水(63.25)、プロパノール(21.89)、プロピオン酸(4.59)、プロピルプロピオネート(10.15)であることが分かった。これらより、プロパノールについて65.8%、プロピルプロピオネートについて28.7%の全モル選択率ならびに80.87%の転化率を得た。
【0056】
実施例10
これは、本発明にしたがったアミドの直接水素化を示す。また、触媒は、アンモニアおよびアミンなどの窒素含有化合物の存在下で、安定であることを示す。
【0057】
プロピオン酸をプロピオンアミド(20.14g)、水、20.26gおよびテトラヒドロフラン(溶媒、44.22g)によって置き換える以外は実施例5の方法を164℃で繰り返した。14時間後、反応器を冷却させ、ベントし、含有物を分析(面積%)した。水+アンモニア(9.81)、プロパノール(10.57)、テトラヒドロフラン(53.76)、ジプロピルアミン(0.57)、プロピルプロピオネート(1.32)、プロパンアミド(15.92)、N−プロピルプロパンアミド(7.33)。
【0058】
実施例11〜20
これらは、トリス−1,1,1−ジフェニルホスフィノメチル)エタンがこれらの条件下で好ましいホスフィン化合物であるが、他のホスフィンも適していることを示している。
【0059】
トリス−1,1,1−ジフェニルホスフィノメチル)エタンを、様々な他のホスフィンにより、種々のルテニウム:ホスフィン比で置き換えた以外は実施例5の方法を繰り返した。結果を表1にまとめた。
【0060】
【表1】

【0061】
比較例3
これは、本発明の好ましい条件下で、ホスフィンと強酸促進剤とを含む触媒系は、不適当であることを示している。これは、これらの状態下で、強酸が反応に有害であることを示し、強酸それ自体は、還元される。
【0062】
2モル当量のp−トルエンスルホン酸一水和物を加えた以外は実施例14を繰り返した。反応の終わりに、生成物を分析するとき、H2Sと思われる硫黄臭が検出され、転化率は、10.2モル%に低下しており、プロパノ−ルおよびプロピルプロピオネ−トに対する選択性は、68.2%に低下していた。
【0063】
比較例4
これは、好ましい反応状態下で、強酸のナトリウム塩の添加が有害であり、転化率と選択性は共に低減することを示している。2モル当量のp−トルエンスルホン酸ナトリウムを加えた以外は、実施例1を繰り返した。反応の終わりに、白色固体(コハク酸、13.9g)を回収し、液体生成物(82.5g)をガスクロマトグラフィで分析して、水(95.90)、プロパノ−ル(0.10)、テトラヒドロフラン(0.09)、プロピオン酸(1.478)、γ−ブチロラクトン(1.67)、ブタンジオ−ル(0.38)であることが分かり(WT%)、テトラヒドロフランについて2.43%、γ−ブチロラクトンについて38.25%、およびブタンジオ−ルについて8.26%の全選択率を得た。転化率は、33.49モル%に低下した。
【0064】
実施例21
これは、触媒の再利用に関し、ルテニウム−ホスフィン触媒の再利用性を示す。
【0065】
反応を241℃で4時間実施する以外は、実施例5の方法を繰り返した。反応の終わりに、生成物液体をロータリーエバポレーターに入れて、70−80℃および60トルで最低の体積(約5ml)に減少させた。次に、オーバーヘッドを転化率をもとめて分析した。触媒を含む残留する溶液をオートクレーブに戻し、プロピオン酸で総重量70gにして反応を繰り返した。以下に、表2に結果をまとめた。再利用番号7に関しては、触媒をオートクレーブに戻さず、代わりにプロピオン酸70gだけを使用して、活性が反応器壁上のルテニウムの沈殿によるものではないことを実証した。
【0066】
【表2】

【0067】
したがって、転化率は、再利用中に維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ルテニウム、ロジウム、鉄、オスミウムまたはパラジウム、および、
(b)有機ホスフィン、
を含む触媒を再生する方法であって、水素および水の存在下で、再生を実施することを含む方法。
【請求項2】
再生を150℃から350℃の温度で実施する請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2009−269031(P2009−269031A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185541(P2009−185541)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願2004−501349(P2004−501349)の分割
【原出願日】平成15年4月29日(2003.4.29)
【出願人】(502130696)ディビー プロセス テクノロジー リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】DAVY PROCESS TECHNOLOGY LIMITED
【Fターム(参考)】