説明

カーボンナノチューブ及びその配置方法と、これを用いた電界効果トランジスタとその製造方法及び半導体装置

【課題】カーボンナノチューブをトランジスタ等の半導体装置の所定位置により精度良く配置することが可能なカーボンナノチューブ及びその配置方法と、これを用いた電界効果トランジスタとその製造方法及び半導体装置を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ1の少なくとも一端に、官能基3を有する構成とする。特定の導電性材料と選択的に作用する官能基を結合することによって、選択的にカーボンナノチューブを配置することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に半導体特性を有するカーボンナノチューブ及びその配置方法と、これを用いた電界効果トランジスタとその製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体トランジスタが1947年に発明されて以来、シリコン素材のマイクロエレクトロニクスは略指数関数的に成長してきた。しかしながら、近い将来この成長が続かなくなると予測されている。これは、集積度がナノメータースケールに近づくと、確実に設計通りの機能を有する構造としては、物理的な限界に達するためである。また同時に、指数関数的に上がり続ける製造コストが集積度を阻害しているという現状がある。
これに対し、比較的安くかつ自己整合的に構成することが可能な単分子デバイスによる分子エレクトロニクスの分野が、このような原理上のシリコン技術の限界を乗り越える技術として注目されている。
【0003】
この分子エレクトロニクスの分野において、近年益々注目される分子構造として、フラーレンやカーボンナノチューブが挙げられる。例えば、一枚のグラフェンシートをチューブ型に巻いて円筒形に形成され、直径がナノメータースケールとされる単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single Walled carbon Nano Tube)は、1990年代の早い時期に発見されて以来、エレクトロニクス分野に好適な各種特性が積極的に研究されてきた。
このSWNTは、チューブの輪郭を形作る炭素分子のスパイラル状格子の角度及びキラリティ(対掌性)に依存して、金属又は半導体の性質を呈する。そして、SWNTの電子的性能は、最良の金属又は半導体を凌ぐと予測されている。
1998年に、室温で、単一のSWNTを用いたFET(電界効果トランジスタ)が実現された(非特許文献1参照。)
また、論理ゲートとして最も単純な構成のインバーターも、1つ又は2つのカーボンナノチューブによるユニポーラ型又は相補型構成のFETを用いて実現された。更に、他の論理ゲートとして、NOR、AND、SRAM(Static RAM)が相補型又は多重相補型モードを利用して構成された。発振周波数220Hzに至るリング発振器もアレイ状のp型又はn型のカーボンナノチューブFETを用いて作製された(非特許文献2及び3参照。)。
【0004】
上述のSWNTによるトランジスタやこれを用いた基本的な論理回路は、主に2通りの方法により作製されている。1つの方法は、溶媒にSWNTを分散して、AFM(原子間力顕微鏡)を走査して予めパターニングされた電極に各カーボンナノチューブを配置する方法である(上記非特許文献1及び2参照。)。
この場合、典型的には、レーザアブレーションにより形成されたSWNTを、ダイクロロエタン懸濁液からウエファ上に分散する。そして、AFMによって直径が略1nm程度のSWNTをゲート電極の上に配置する。その後、このナノチューブ上に、リソグラフィ技術を適用した選択的なAuの蒸着によって、コンタクト電極及び配線を形成する。このような方法を用いて、バックゲート構造による20cm2 /(V・s)のホール移動度を達成している例もある(例えば非特許文献4参照。)。
また、トップゲート型のFETとして、ゲート電極にCNTを用いることによって2321S/mという高い相互コンダクタンスを達成した例も報告されている(例えば非特許文献5参照。)。
【0005】
一方、第2の方法として、CVD(化学的気相成長法)により、予めパターニングされた電極パターンの上に、直接的にSWNTを成長させる例も報告されている(例えば非特許文献6及び7参照。)。
この方法による場合は、例えば相互コンダクタンスやキャリアの移動度というトランジスタの重要な特性において、それぞれ相互コンダクタンスが6000S/m、キャリアの移動度が3000cm2 /(V・s)という値を達成し、シリコン半導体のそれと比べて一桁上の特性を得ている。
特に、キャリアの移動度については、同様の方法によって作製したトランジスタにおいて、長さ300μmの半導体CNTをチャネルに用いることにより、キャリアの移動度が79000cm2 /(V・s)に達した例も報告されている(例えば非特許文献8参照。)。
【0006】
【非特許文献1】Tans, S.J. et al., Nature, 1998, Vol.393, p.49
【非特許文献2】Bachtold, A. et al., Science, 2001, Vol.294, p.1317
【非特許文献3】Derycke, V. et al., Nano Letters, 2002, Vol.2, p.929
【非特許文献4】Martel, R. et al, Applied Physics Letters, 1998, Vol.73, p.2447
【非特許文献5】Wind, S.J.etal., Applied Physics Letters, 2002, Vol.80, p.3817
【非特許文献6】Javey, A. et al., Nature, 2003, Vol.424, p.654
【非特許文献7】Tseng, Y. et al., Nano Letters, 2004, Vol.1, p.123
【非特許文献8】Durkop, T. et al., Nano Letters, 2004, Vol.4, p.35
【非特許文献9】Tseng, Y. et al., Nano Letters, 2004, Vol.4, p.123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のAFMを用いる第1の方法によって作製する場合は、多数のCNTを手動でデバイス上に配置するという非実用的な手法であり、CPU(Central processing unit)チップのメモリのような半導体装置への適用は困難である。
更に、CVDによる場合は、高温でのプロセスであることから、大量の電極上に良好な精度をもって配置することは困難であり、集積回路への応用には問題がある。実際、CVDにより作製する方法を利用して、シリコンMOS(Metal Oxide Semiconductor)デバイスの一部にSWNTを組み込んだ集積回路を形成した例では、アライメント精度の悪さにより、約2000本のCNTのうち1%のCNTのみしかバックゲートとして機能していなかったという例も報告されている(例えば非特許文献9参照。)。
【0008】
上述の問題に鑑みて、本発明は、近年優れた半導体特性が注目されているカーボンナノチューブを電界効果トランジスタ等に用いて集積回路を作製する場合に、所定の位置上により精度良く配置することが可能なカーボンナノチューブ及びその配置方法と、これを用いた電界効果トランジスタとその製造方法及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるカーボンナノチューブは、少なくとも一端に、官能基を有することを特徴とする。
また、本発明は、上述のカーボンナノチューブにおいて、両端に、官能基を有することを特徴とする。
更に、本発明は、上述のカーボンナノチューブにおいて、その両端の官能基が、異なる官能基とされたことを特徴とする。
また、本発明は、上述の各カーボンナノチューブにおいて、その一端又は両端の官能基が、所定の導電性材料に対し、選択的に作用する官能基とされたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明によるカーボンナノチューブの配置方法は、半導体特性を有するカーボンナノチューブが、基材上にその長手方向を横切る方向に密に配列されたカーボンナノチューブ薄膜を形成し、上記カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの一端に、官能基を結合し、上記カーボンナノチューブ薄膜を他の基材に付着して、上記官能基を結合した端部とは反対側の端部に、上記官能基とは異なる官能基を結合し、上記カーボンナノチューブ薄膜を溶媒に分散して、上記各カーボンナノチューブを上記カーボンナノチューブ薄膜から分離し、上記溶媒を、予めパターン形成され、かつ上記各官能基と選択的に作用する導電性材料より成る電極上に塗布して、上記電極に跨って上記各カーボンナノチューブを配置することを特徴とする。
【0011】
更に、本発明による電界効果トランジスタは、ソース及びドレイン電極と、該ソース及びドレイン電極の間の電流通路であるチャネルの導電率を変化させて電流制御を行うゲートを有する電界効果トランジスタであって、半導体特性を有するカーボンナノチューブが、少なくとも上記チャネルの構成材料とされたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明による電界効果トランジスタの製造方法は、ソース及びドレイン電極と、該ソース及びドレイン電極の間の電流通路であるチャネルの導電率を変化させて電流制御を行うゲートを有する電界効果トランジスタの製造方法であって、半導体特性を有するカーボンナノチューブが、基材上にその長手方向を横切る方向に密に配列されたカーボンナノチューブ薄膜を形成し、上記カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの一端に、官能基を結合し、上記カーボンナノチューブ薄膜を他の基材に付着して、上記官能基を結合した端部とは反対側の端部に、上記官能基とは異なる官能基を結合し、上記カーボンナノチューブ薄膜を溶媒に分散して、上記各カーボンナノチューブを上記カーボンナノチューブ薄膜から分離し、上記溶媒を、予めパターン形成され、かつ上記各官能基と選択的に作用する導電性材料より成る上記ソース電極及びドレイン電極上に塗布して、上記ソース電極及びドレイン電極に跨って上記各カーボンナノチューブを配置することを特徴とする。
更に、本発明による半導体装置は、半導体特性を有するカーボンナノチューブを有して成り、上記カーボンナノチューブの一端が固定される領域の材料と、多端が固定される領域の材料が、異なる材料に選定されて成ることを特徴とする。
【0013】
上述の本発明においては、カーボンナノチューブの一端もしくは両端に官能基を有する構成とすることによって、この官能基に対して、選択的に引き付ける作用を有する材料を選択的に電極等に配置しておくことによって、カーボンナノチューブを目的とする位置に自己整合的に配置することができる。
また、このように、異なる官能基に対して選択的に引き付ける作用を有する異なる材料を、ソース電極、ドレイン電極の各材料に用いることによって、AFMなどの高価な装置を用いる煩雑な作業によることなく、また、CVDの高温プロセスを経ることなく、カーボンナノチューブを容易に電界効果トランジスタに用いて製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によるカーボンナノチューブは、一端に官能基を有する構成とすることによって、少なくとも一端を、特定の材料に対して選択的に結合乃至は付着する構成とすることができる。
また、本発明によるカーボンナノチューブにおいて、両端に官能基を有する構成とすることによって、カーボンナノチューブの両端を、特定の材料に対して選択的に結合乃至は付着する構成とすることができる。
更に、本発明によるカーボンナノチューブにおいて、両端の官能基を異なる官能基とすることによって、所定の複数の材料に対して選択的に結合乃至は付着する構成とすることができる。
また、本発明によるカーボンナノチューブにおいて、一端又は両端の官能基を、所定の導電性材料に対し、選択的に作用する官能基とすることによって、導電性材料の配置に対応して、自己整合的に配置することができる。
更に、本発明によるカーボンナノチューブの配置方法によれば、高価な装置や煩雑な作業によることなく、また、高温のプロセスを経ることなく、容易に所定位置にカーボンナノチューブを配置することができる。
【0015】
また、本発明による電界効果トランジスタによれば、カーボンナノチューブをチャネルに配置することによって、特性の良好な電界効果トランジスタを提供することができる。
更に、本発明による電界効果トランジスタの製造方法によれば、カーボンナノチューブをソース電極及びドレイン電極上に、容易かつ精度良く配置することができて、カーボンナノチューブをチャネルに用いることによって良好な特性が得られる電界効果トランジスタの生産性の向上を図ることができる。
また、本発明による半導体装置によれば、半導体として良好な特性を有するカーボンナノチューブを容易に配置することが可能な半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明によるカーボンナノチューブは、図1にその一例の模式的な概略構成図を示すように、少なくとも一端に、官能基を有する構成とする。すなわち、本発明によるCNT1は、例えばその一端に、−COOH、−C=O、−NH2 等の官能基3が化学的作用により結合された構成とする。
また、図2に本発明によるカーボンナノチューブの他の例の模式的な概略構成を示すように、カーボンナノチューブ1の一端に、官能基3を有するとともに、他端に、官能基3とは異なる官能基6を有する構成としてもよい。
【0017】
本発明に用いるカーボンナノチューブ1としては、単層カーボンナノチューブ(SWNT)でもよく、多層カーボンナノチューブ(MWNT:Multi Walled carbon Nano Tube)でもよい。また、カーボンナノチューブ1の直径は、0.4nm以上100nm以下程度とすることができ、その長さは、2nm以上1mm以下程度とすることができる。
また、官能基3及び6としては、周期律表の1〜2族、13〜16族の元素を含む各種官能基を用いることができる。
【0018】
このようなカーボンナノチューブを製造して所定位置に配置するカーボンナノチューブの配置方法と、このカーボンナノチューブを用いて電界効果トランジスタを製造する製造方法の一例を、図3〜図13の各工程図を参照して説明する。この場合、6段階の主な工程を有する。すなわち、
(1)基材上に、カーボンナノチューブが密にかつその長手方向を横切る方向に配列されたカーボンナノチューブ薄膜を形成する。
(2)カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの一方の端部に所定の官能基を結合させる。
(3)別の基材上にカーボンナノチューブ薄膜を付着して、元の基材を除去する。
(4)カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの他端に、官能基を結合する。
(5)カーボンナノチューブ薄膜を基材から離間させて、各カーボンナノチューブを溶媒中に分散させる。
(6)予め基板上に形成された2つの電極の間に、カーボンナノチューブを自己整合的に配置する。
【0019】
ここで、上記(1)の工程において、基板上にカーボンナノチューブを配列する方法は、RF(高周波)プラズマ等が挙げられる(例えばFan S. et al., Science, 1999, Vol.283, p.512、Murakami Y. et al., Chemical Physics Letters, 2004, Vol.385, p.298参照。)。
【0020】
本発明においてカーボンナノチューブを配列して形成する基材としては、ガラス、石英、シリコン等を用いることができる。また、他の材料でも、カーボンナノチューブ成長時の高温に耐久性を有する材料であればよく、また単層カーボンナノチューブ(SWNT)を形成する場合は、その成長に用いる触媒と高温で反応しない材料であることが望ましい。
【0021】
この実施の形態の例においては、RFプラズマを用いることにより、図3に示すように、ガラス等より成る基材2上に、単層構造のカーボンナノチューブを略垂直に、かつ密に、すなわちカーボンナノチューブの長手方向を横切る方向の間隔が略カーボンナノチューブの直径以下程度とされて配列されたカーボンナノチューブ薄膜(CNT薄膜)1を形成することができる。このとき、RFプラズマを利用することによって、配列形成したCNTはSWNTであり、このSWNTのうち半導体特性を呈するSWNTの比率を高めることができる。
なお、カーボンナノチューブ1は、図3に示すように略垂直な配列とする他、一定の角度を持って、かつ各カーボンナノチューブ1の間隔を略同様の間隔に維持して配列してもよく、例えば斜め方向に配列された構成であっても、後述する方法によって、端部に良好に官能基を結合することが可能である。
【0022】
そして次に、上記(2)の工程として、図4に示すように、カーボンナノチューブ薄膜1の各カーボンナノチューブ1の一方の端部、すなわち基材2上に付着している側とは反対側の端部に、−COOH、−C=O、−NH2 等の官能基3を結合させる。
この結合方法としては、溶媒又はプラズマによる化学的処理、電気化学処理が挙げられる。
例えば−COOH等の官能基の場合は、カーボンナノチューブ薄膜1を酸性溶液に浸して、その後正電圧を印加して酸化させる方法が挙げられる。
このように溶媒を用いる際には、溶媒に酸、アルカリ、酸化物等の化学物質を含む材料を用いる。酸性物質としては例えば硝酸、硫酸等、またアルカリ性物質としては、NaOH、KOH等、更に酸化物としては、H2 2 、Br酸化物等のうちそれぞれ少なくとも1つ以上を含む材料を用いることができる。
また、−C=O等の官能基の場合は、酸素雰囲気中でプラズマ処理する方法が利用可能である。
更に、−NH2 等の官能基の場合は、NH3 雰囲気中RFプラズマ処理が挙げられる。
【0023】
次に、上記(3)の工程として、別の基材上にカーボンナノチューブ薄膜を上下逆に付着させる。このようにカーボンナノチューブ薄膜1を効率よく上下逆に他の基材に付着するために、図5に示すように、ガラス、石英又はシリコン等より成る平坦な基材4の表面に、予めカーボンナノチューブを付着することが可能な付着層5を被着する。この付着層5としては、例えば粘着性を有し、かつ後の工程で容易に除去することが可能な粘着性ポリマーフィルム等の材料を用いることが望ましい。
また、その他静電的作用によって、物理的に付着することが可能な材料を用いることも可能である。
【0024】
特にこの場合、一旦カーボンナノチューブの一端に結合させた官能基3を変化させることのない付着態様とすることが望ましく、化学的作用は回避することが望ましい。これは、官能基3の特性を利用して、上記(6)の工程において、電極材料に対してこの官能基3が選択的に反応して結合することが、カーボンナノチューブを自己整合的に配置するために必要とされるからである。ただし、このような官能基3の特定の材料に反応する機能を変化させる作用でなければ、例えば酸−アルカリ反応等の化学反応を利用することも可能である。
そしてこの後、図6に示すように、カーボンナノチューブ薄膜1を元の基材2から剥離させる。
【0025】
その後、上記(4)の工程として、図7に示すように、カーボンナノチューブ薄膜1の各カーボンナノチューブの多端に、官能基6を結合する。各種官能基の結合方法としては、前述の図4において説明した例と同様の方法を適用することができる。
また、この官能基6は、前述の図4において説明した官能基3とは異なる官能基であることが望ましい。これは、上述したように上記(6)の工程において、カーボンナノチューブを自己整合的に配置するために、官能基3が選択的に反応する電極材料とは異なる電極材料に、この官能基6が選択的に反応することが必要だからである。
【0026】
そして次に、上記(5)の工程として、図8に示すように、カーボンナノチューブ薄膜1を基材4から離間させて、各カーボンナノチューブ8を溶媒7中に分散させる。この溶媒7としては、ジクロロエタン(DCE)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒を用いることができる。
【0027】
また、この溶媒7には、混入物を最小限に抑えることが望ましい。混入物を防ぐ方法としては、超音波処理を用いる方法が挙げられる。超音波処理時のパワー及び時間を適切に選定することによって、例えば基材4上の下地層5の混入を十分に抑制することが可能である。
【0028】
一方、図9に示すように、予め電界効果トランジスタを含む半導体装置を形成するシリコン等より成る基板9上に、例えばトランジスタのソース及びドレイン電極を構成する2つの電極10及び12を通常の半導体製造工程に用いるリソグラフィ技術等によって形成する。図9において、11は基板上に形成するソース/ドレイン領域等のゲート構造を模式的に示す。また、図示しないが、所定の配線構造等も形成される。
そして、上記(6)の工程として、これらの電極10及び12の上に、カーボンナノチューブ8が分散された溶媒7を浸漬又はスピンコート法等によって塗布する。
このとき、電極10の材料を、カーボンナノチューブ8の両端に結合させた官能基3及び6に対して、選択的な作用を生じる材料に選定する。電極材料と、官能基との組み合わせとしては、下記の表1に示す組み合わせが挙げられる。なお、これらの組み合わせによる電極材料と官能基との間の作用は、例えば分子間力による物理的結合、電子転位結合、化学結合等によるものである。
【0029】
【表1】

【0030】
このようにして、図10に示すように、カーボンナノチューブ8の両端の官能基3及び6が、選択的に各電極10、12にそれぞれ結合されることによって、カーボンナノチューブ8を自己整合的に配置することができる。この場合、AFM等を用いる場合のような煩雑な作業によることなく、また、CVDによらないことによって、高温のプロセスを経ることなく、高い精度をもって、カーボンナノチューブを所定電極上に配置することができるという利点を有する。
【0031】
なお、電極の材料としては、周期律表の3〜13族の元素を用いることが可能である。また、この電極の導電性材料の上に、H、C、N、OP又はS等を含む化学物質を被覆ないしは結合することによって、カーボンナノチューブの端部の官能基と、電極との結合作用を高めることが可能である。
また、これらの材料を、カーボンナノチューブ8を分散する溶媒7に含有させることにより、同様の効果を得ることができる。
例えば、アミノエタンチオール(NHCHCHSH)の−SHを電極材料の例えばAuに結合させ、NHをカーボンナノチューブ8の端部に結合した−COOHと反応させることによって、より確実に電極とカーボンナノチューブとを結合することができる。
このように、特定の材料に反応する様々な化学物質を電極材料に結合することによって、カーボンナノチューブと電極との相互作用を生じさせる材料の選択範囲を広げることができ、また、相互作用の速度と選択性を高めることができるという利点を有する。
【0032】
このようにして、カーボンナノチューブ8を電極10、12上に自己整合的に配置した後、200℃以上2000℃以下の温度によるアニールを行うことによって、カーボン以外の材料を略除去することができ、図11に示すように、両端に官能基が結合されていないカーボンナノチューブ13を電極10、12上に配置して、このカーボンナノチューブ13と電極10、12とのコンタクト抵抗を低減化することができる。
このアニール工程において、官能基は200℃程度からカーボンナノチューブ8より離れはじめ、400〜500℃程度で殆どの官能基が完全に離間する。アニールの最高温度としては、カーボンナノチューブ及び基板の損傷を防ぐため、高温処理を避け、最大2000℃以下とし、更に望ましくは800℃以下とする。100℃以上500℃以下のアニールを行う場合、カーボンナノチューブをCVD法により成長する場合と比較して確実に低温でのプロセスとなる。
また、このアニール工程は、Heガス又はArガスを導入し、また所定の真空度を保持して行うことが望ましい。
【0033】
その後、図12に示すように、誘電体材料より成るカバー層15をカーボンナノチューブ13、電極10及び12上を覆って被着する。このカバー層15は、誘電率2.0以上の材料より構成することによって、確実にリーク電流の発生を回避でき、またゲート効果への影響を回避できる。また、その厚さは、1nm以上1000nm以下程度とすることが望ましい。
【0034】
そして、図13に示すように、ゲート電極16を形成して、カーボンナノチューブ13をチャネル構造に有することによって、特性の良好な電界効果トランジスタを得ることができる。
このようにして作製された電界効果トランジスタは、半導体特性を有するカーボンナノチューブ13をチャネルに用いることによって、相互コンダクタンス、キャリア移動度において、従来のシリコン材料によるトランジスタに比して、優れた特性を得ることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明によるカーボンナノチューブ及びその配置方法によれば、半導体特性に優れたカーボンナノチューブを、煩雑な作業によることなく自己整合的に、また高温のプロセスを経ることなく容易にかつ良好な精度をもって、所定位置に配置することが可能となり、これを用いて電界効果トランジスタを製造することによって、特性に優れた電界効果トランジスタの生産性の向上を図ることができる。
【0036】
更に、上述のカーボンナノチューブの配置方法を適用して各種半導体装置を製造することによって、半導体特性を有するカーボンナノチューブを有して成り、このカーボンナノチューブの一端が固定される領域の材料と、多端が固定される領域の材料が、異なる材料に選定されて成る半導体装置を、高価な装置を用いることなく、容易にかつ高温のプロセスを経ることなく製造することが可能となる。
本発明カーボンナノチューブの配置方法を適用し得る半導体装置としては、例えば各種ディスプレイのスイッチング素子、次世代論理デバイス、光電子メモリデバイス等が挙げられる。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施の形態の例において説明した材料、構成に限定されるものではなく、その他CNTとしてMWNTを用いるとか、或いは本発明によるカーボンナノチューブの配置方法を、他の各種半導体装置に適用する等、本発明構成を逸脱しない範囲において、種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるカーボンナノチューブの一例の概略構成図である。
【図2】本発明によるカーボンナノチューブの一例の概略構成図である。
【図3】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図4】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図5】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図6】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図7】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図8】本発明によるカーボンナノチューブの配置方法及び電界効果トランジスタの製造方法の一例の一工程図である。
【図9】本発明による電界効果トランジスタの製造方法の一例の一製造工程図である。
【図10】本発明による電界効果トランジスタの製造方法の一例の一製造工程図である。
【図11】本発明による電界効果トランジスタの製造方法の一例の一製造工程図である。
【図12】本発明による電界効果トランジスタの製造方法の一例の一製造工程図である。
【図13】本発明による電界効果トランジスタの製造方法の一例の一製造工程図である。
【符号の説明】
【0039】
1.カーボンナノチューブ、2.基材、3.官能基、4.基材、5.付着層、6.官能基、7.溶媒、8.カーボンナノチューブ、9.基板、10.電極、11.ゲート構造、12.電極、13.カーボンナノチューブ、15.カバー層、16.ゲート電極、20.カーボンナノチューブ薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端に、官能基を有する
ことを特徴とするカーボンナノチューブ。
【請求項2】
両端に、官能基を有する
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項3】
上記カーボンナノチューブの両端の官能基が、異なる官能基とされた
ことを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
上記カーボンナノチューブの一端又は両端の官能基が、所定の導電性材料に対し、選択的に作用する官能基とされた
ことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
上記カーボンナノチューブの一端又は両端の官能基が、所定の導電性材料に対し、選択的に作用する官能基とされた
ことを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブ。
【請求項6】
上記カーボンナノチューブの一端又は両端の官能基が、所定の導電性材料に対し、選択的に作用する官能基とされた
ことを特徴とする請求項3記載のカーボンナノチューブ。
【請求項7】
半導体特性を有するカーボンナノチューブが、基材上にその長手方向を横切る方向に密に配列されたカーボンナノチューブ薄膜を形成し、
上記カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの一端に、官能基を結合し、
上記カーボンナノチューブ薄膜を他の基材に付着して、上記官能基を結合した端部とは反対側の端部に、上記官能基とは異なる官能基を結合し、
上記カーボンナノチューブ薄膜を溶媒に分散して、上記各カーボンナノチューブを上記カーボンナノチューブ薄膜から分離し、
上記溶媒を、予めパターン形成され、かつ上記各官能基と選択的に作用する導電性材料より成る電極上に塗布して、上記電極に跨って上記各カーボンナノチューブを配置する
ことを特徴とするカーボンナノチューブの配置方法。
【請求項8】
ソース及びドレイン電極と、該ソース及びドレイン電極の間の電流通路であるチャネルの導電率を変化させて電流制御を行うゲートを有する電界効果トランジスタであって、
半導体特性を有するカーボンナノチューブが、少なくとも上記チャネルの構成材料とされた
ことを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項9】
ソース及びドレイン電極と、該ソース及びドレイン電極の間の電流通路であるチャネルの導電率を変化させて電流制御を行うゲートを有する電界効果トランジスタの製造方法であって、
半導体特性を有するカーボンナノチューブが、基材上にその長手方向を横切る方向に密に配列されたカーボンナノチューブ薄膜を形成し、
上記カーボンナノチューブ薄膜の各カーボンナノチューブの一端に、官能基を結合し、
上記カーボンナノチューブ薄膜を他の基材に付着して、上記官能基を結合した端部とは反対側の端部に、上記官能基とは異なる官能基を結合し、
上記カーボンナノチューブ薄膜を溶媒に分散して、上記各カーボンナノチューブを上記カーボンナノチューブ薄膜から分離し、
上記溶媒を、予めパターン形成され、かつ上記各官能基と選択的に作用する導電性材料より成る上記ソース電極及びドレイン電極上に塗布して、上記ソース電極及びドレイン電極に跨って上記各カーボンナノチューブを配置する
ことを特徴とする電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項10】
半導体特性を有するカーボンナノチューブを有して成り、
上記カーボンナノチューブの一端が固定される領域の材料と、多端が固定される領域の材料が、異なる材料に選定されて成る
ことを特徴とする半導体装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−49435(P2006−49435A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225834(P2004−225834)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】