説明

カーボンナノチューブ生成用基板の保持具

【課題】カーボンナノチューブ生成時に、基板に熱ひずみが生じないようにし得るカーボンナノチューブ生成用基板の保持具を提供する。
【解決手段】基板1表面にカーボンナノチューブを垂直配向でもって生成させる平面視が矩形状にされた基板の保持具2であって、基板を支持し得る中央の平坦部3a及び当該平坦部よりも高さが低くされた端縁部3bを両側に有する支持部材3と、この支持部材の平坦部を案内し得る案内用空間部4aを有し且つ当該平坦部に載置された基板1の両端縁部1aを支持部材の両端縁部3bに押圧することにより当該基板を保持し得る矩形状の枠部材4とから構成され、さらに基板並びに支持部材および枠部材を金属製材料にて構成するとともに、これら支持部材及び枠部材の材料として、線膨張係数が上記基板のそれよりも大きいものを用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ生成用基板の保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの生成方法については、種々の方法があるが、代表的な方法としては、熱化学気相成長法(以下、熱CVD法という)がある。
この熱CVD法では、反応室内に基板を配置するとともに所定の高温度下(例えば、600〜800℃の範囲)で、炭素原子を含む反応ガスを供給されて、基板の表面に付着された触媒微粒子上に、カーボンナノチューブが垂直配向でもって生成されることになる。
【0003】
ところで、カーボンナノチューブの生成に用いる基板としては、通常、耐熱性のあるシリコンまたは石英、アルミナなどの板材が用いられている。一方、カーボンナノチューブを大量生産するためには安価に且つ高い生産性を有していることが求められ、またカーボンナノチューブを基板上に生成した後、そのまま、電子放出源や電極等に適用する場合には、基板自体が導電性材料であることが望ましい。すなわち、基板に金属製材料を用いるのが望ましい。
【0004】
そして、既に、基板に金属製材料を用いるとともに熱CVD法によりカーボンナノチューブを生成する方法が提案されており(例えば、特許文献1参照)、またこの生成方法では、金属製の基板を用いた際に、基板に発生する熱ひずみによる悪影響(具体的には、基板が変形することにより、均一に、鉄触媒層およびカーボンナノチューブを形成することが困難になる)を受けるのを回避するために、焼戻し、焼なましなどの熱処理、ホットプレスなどの前処理により、予め、基板に熱ひずみが生じないようにされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−70137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の形成方法によると、基板に、予め、焼戻し、焼なましなどの熱処理、ホットプレスなどの前処理を施す必要があるため、カーボンナノチューブの生成工程が増加するとともに、製造コストも増加するという問題があった。また、基板の厚さが薄い場合、例えば金属箔などを用いる場合には、ひずみを解消するような前処理を施すことができない。
【0007】
そこで、本発明は、カーボンナノチューブ生成時に、基板に熱ひずみ(所謂、熱変形である)が生じないようにし得るカーボンナノチューブ生成用基板の保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のカーボンナノチューブ生成用基板の保持具は、基板表面にカーボンナノチューブを垂直配向でもって生成させる平面視が矩形状にされた基板の保持具であって、
基板を支持し得る中央の平坦部および当該平坦部よりも高さが低くされた側縁部を少なくとも両側に有する支持部材と、
この支持部材の平坦部を案内し得る案内用空間部を有し且つ当該平坦部に載置された基板の少なくとも両側縁部を支持部材の両側縁部に押圧することにより当該基板を保持し得る矩形状の枠部材とから構成され、
さらに上記基板並びに上記支持部材および枠部材を金属製材料にて構成するとともに、これら支持部材および枠部材の材料として、線膨張係数が上記基板のそれよりも大きいものを用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
上記保持具の構成によると、基板を支持する支持部材とこの支持部材の平坦部に載置された基板の少なくとも両側縁部を押圧し得る枠部材とから構成するとともに、基板並びに支持部材および枠部材を金属製材料で構成し、且つ支持部材および枠部材の材料として、線膨張係数が上記基板のそれよりも大きいものを用いたので、例えば熱CVD法によりカーボンナノチューブを生成させる際に基板が加熱されて、当該基板に熱ひずみ(熱変形)が発生するような状況であっても、保持具により基板が引っ張られて基板表面の平坦度が維持されるため、ひずみが生じないようにすることができる。すなわち、基板に、焼戻し、焼なましなどの熱処理、ホットプレスなどの前処理を施すことなく、つまり、容易に且つ安価に、カーボンナノチューブを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例におけるカーボンナノチューブ生成用基板の保持具の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】同保持具の使用方法を説明する概略断面図である。
【図3】同保持具を用いてカーボンナノチューブが生成された基板の後処理を説明する概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係るカーボンナノチューブ生成用基板の保持具を具体的に示した実施例に基づき説明する。
ところで、背景技術の箇所で説明したように、カーボンナノチューブは、熱CVD法(化学気相成長法)により、基板の表面に垂直配向でもって形成されるとともに、この基板は、石英、シリコンウエハなどに比べると、基板の再生利用およびその処理コストの点で金属を用いる方が優れているため、本実施例では、ステンレス鋼が、具体的には、フェライト系ステンレス(SUS444)が用いられる。このフェライト系ステンレスは、他の金属に比べて、高温(例えば、800℃)から急激に冷却(焼入れ)されても硬化しないので、熱CVD法などの熱処理を施しても基板の柔軟性を維持できるため、基板上のカーボンナノチューブを他の部材に転写する場合などに、その取り扱いが容易となる。
【0012】
また、通常、基板は、平面視が矩形状にされており、この基板の表面にカーボンナノチューブが生成される。なお、カーボンナノチューブを生成する際には、基板表面にガラス質材料などからなる薄膜を形成した後、その表面に、例えば触媒微粒子として鉄の微粒子(金属微粒子)が形成(配置)される。
【0013】
そして、この基板の表面にカーボンナノチューブを生成する際には、当然ながら、反応室に配置されて、所定の減圧下で且つ所定の温度下(500〜1000℃の範囲、例えば700℃程度)で、アセチレンガスなどの炭素原子を含む原料ガスが供給されることにより、触媒微粒子としての鉄の微粒子上にカーボンナノチューブが生成される。この反応室内では、基板の表面が平坦になるように、本発明に係る保持具により保持される。
【0014】
以下、この保持具を図1に基づき説明する。
この保持具2は、金属製の基板1の表面つまりカーボンナノチューブの生成面を平坦に支持するための平坦部3aおよび当該平坦部3aよりも高さが低くされた両端縁部(側縁部の一例で、長手方向における前後端部に相当する)3bを有する平面視が矩形状の支持部材(定盤ともいう)3と、この支持部材3の平坦部3aを案内し得る案内用空間部4aを有し且つ支持部材3に載置された基板1の両端縁部1aを支持部材3の端縁部3bに押圧して当該基板1を保持し得る矩形状の枠部材4とから構成されている。なお、支持部材3の平坦部3aは、枠部材4の案内用空間部4a内に嵌入し得るような大きさおよび形状にされている。したがって、枠部材4の高さh1は支持部材3における端縁部3b上面と平坦部3a上面との差(段差)の高さh2と略同一にされている。
【0015】
そして、金属製の基板1としてはフェライト系ステンレス(例えば、SUS444:JIS規格)が用いられるとともに、支持部材3および枠部材4としてはオーステナイト系ステンレス(例えば、SUS304:JIS規格)が用いられ、すなわち支持部材3および枠部材4の材料として、線膨張係数(または熱膨張係数)が基板1のそれよりも大きいものが用いられている。
【0016】
具体的には、フェライト系ステンレスの線膨張係数は10.6×10−6/Kであり、またオーステナイト系ステンレスの線膨張係数は17.3×10−6/Kであり、したがって反応室内で両者が一緒に加熱された場合、基板1よりも保持具2側、つまり、支持部材3および枠部材4の方が延びることになる。したがって、基板1を保持した状態では、基板1を周囲から、正確には、端縁部で保持しているため、両端側に引っ張ることになり、基板1の表面を平坦に維持することができる。
【0017】
以下、保持具2の具体的な構成について説明する。
すなわち、支持部材3における基板1を載置(支持)する平坦部3aは所定厚さでもって形成されるとともに、その左右の端縁部3bの厚さ(高さ)が低くされており、耳部ともいえる。
【0018】
また、枠部材4は、支持部材3上に載置された基板1の両端縁部1aを当該支持部材3の端縁部3b上に押圧することにより、基板1をしっかりと、言い換えれば、基板1の表面を平坦に維持した状態で保持するものである。
【0019】
したがって、枠部材4の中央に切り欠かれた案内用空間部4aの幅B1は、支持部材3の幅、すなわち平坦部3aの幅B2に略等しく、正確には平坦部3aの幅B2よりも少し広くされている。なお、枠部材4の案内用空間部4aの四隅には、基板1の端部が接触するのを防止するためのぬすみ部(切欠部)4bが設けられている。
【0020】
次に、上記保持具2を用いて基板1の表面にカーボンナノチューブを形成する方法を、図2に基づき説明する。
まず、図2(a)に示すように、支持部材3の表面に、すなわち平坦部3a上に基板1を載置した後、その上方から枠部材4を且つ当該枠部材4の案内用空間部4aが平坦部3aに外嵌し得るように配置する。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、枠部材4を下降させて、基板1の両端縁部1aを支持部材3の両端縁部3bと枠部材4とで保持する。この状態では、基板1の中央部分(カーボンナノチューブの生成面でもある)は支持部材3の平坦部3a全面で支持されるとともに、両端縁部3b側に引っ張られていることになる。
【0022】
そして、このように基板1を保持した状態で、反応室内に移動させた後、所定の減圧下で且つ所定の温度に、例えば700℃程度に加熱しておき、次にアセチレンガスなどの原料ガスを導入してカーボンナノチューブを生成する。勿論、基板1の表面には、鉄の微粒子が多数配置されており、これらの微粒子にカーボンナノチューブ(図示せず)がそれぞれ生成することになる。
【0023】
カーボンナノチューブの生成が終了すると、支持部材3と枠部材4により保持された基板1を反応室から取り出した後、図2(c)に示すように、枠部材4を取り外し、図2(d)に示すように、基板1を支持部材3から離脱させる。
【0024】
そして、図3(a)に示すように、両端縁部1aが折り曲げられた状態の基板1を、図3(b)に示すように、その端縁部1aを切断すれば、表面にカーボンナノチューブが多数生成された基板1が得られる。この後、カーボンナノチューブが生成された基板そのもの、または所定の工程により、カーボンナノチューブを他の部材に転写することで、電極などの各種デバイスに適用される。
【0025】
ところで、上記カーボンナノチューブの生成工程において、反応室内が所定の高温度に加熱されると、当然ながら、基板1および保持具2が熱膨張することになるが、保持具2側の線膨張係数が基板1のそれよりも大きいため、支持部材3の端縁部3bと枠部材4とで保持されている基板1が両端縁部1a側に引っ張られる。
【0026】
したがって、基板1が加熱されて膨張した場合でも、上下から保持している支持部材3および枠部材4の方が延びるため、基板1が両端側に引っ張られて平坦が維持される。例えば、金属製の基板1が圧延材である場合、CVD温度例えば700℃程度の高温に加熱されると、焼きなまし処理が行われたことに相当し、したがって残留応力が解放されてひずみ(変形)が発生することになるが、当該基板1が引っ張られているため、ひずみ(変形)が矯正された状態となる。すなわち、基板1におけるカーボンナノチューブの生成表面の平坦度が維持される。なお、基板が圧延材である場合には、当然ながら、圧延方向で変形を許容し得るように、つまり、圧延方向での前後の端縁部が保持されることになる。
【0027】
上記保持具の構成によると、基板を支持する支持部材とこの支持部材の平坦部に載置された基板の両端縁部を押圧し得る枠部材とから構成するとともに、基板並びに支持部材および枠部材を金属製材料で構成し、且つ支持部材および枠部材の材料として、線膨張係数が上記基板のそれよりも大きいものを用いたので、例えば熱CVD法によりカーボンナノチューブを生成させる際に基板が加熱されて、当該基板にひずみ(変形)が発生するような状況であっても、保持具により基板が引っ張られて基板表面の平坦度が維持されるため、ひずみ(変形)の発生を抑制することができる。すなわち、基板に、焼戻し、焼なましなどの熱処理、ホットプレスなどの前処理を施すことなく、つまり、容易に且つ安価に、カーボンナノチューブを生成することができる。勿論、基板が金属箔(ここでは、柔軟性が保持される程度の厚さを有するもので、例えば10〜500μm程度のものをいう)、すなわちステンレス箔などのように薄いものであっても適用することができる。特に、基板として圧延材が用いられている場合には、熱CVD時に例えば700℃程度まで加熱されるため、焼きなまし状態となり、内部応力が解放されてひずみ(変形)が発生することになるが、この場合でも、基板の平坦度が維持されるため、カーボンナノチューブの生成に支障をきたすことはない。なお、基板として、ステンレス鋼を用いることにより、基板の再利用が容易となり、また基板表面にカーボンナノチューブが付着している場合でも、焼却による除去が可能となる。
【0028】
ところで、上記実施の形態においては、矩形状の基板の長手方向における前後端部に相当する側縁部である両端縁部を保持するように説明したが、長手方向に沿う左右の縁部に相当する側縁部を保持してもよく、場合によっては、4方の側縁部を保持するようにしてもよい。
【0029】
さらに、上記支持部材の厚みを変化させることにより、当該支持部材に保持された基板の昇温速度および熱分布を容易に制御することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 基板
1a 端縁部
2 保持具
3 支持部材
3a 平坦部
3b 端縁部
4 枠部材
4a 案内用空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にカーボンナノチューブを垂直配向でもって生成させる平面視が矩形状にされた基板の保持具であって、
基板を支持し得る中央の平坦部および当該平坦部よりも高さが低くされた側縁部を少なくとも両側に有する支持部材と、
この支持部材の平坦部を案内し得る案内用空間部を有し且つ当該平坦部に載置された基板の少なくとも両側縁部を支持部材の両側縁部に押圧することにより当該基板を保持し得る矩形状の枠部材とから構成され、
さらに上記基板並びに上記支持部材および枠部材を金属製材料にて構成するとともに、これら支持部材および枠部材の材料として、線膨張係数が上記基板のそれよりも大きいものを用いたことを特徴とするカーボンナノチューブ生成用基板の保持具。
【請求項2】
基板の材料としてフェライト系ステンレスを用いるとともに、支持部材および枠部材の材料としてオーステナイト系ステンレスを用いたことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ生成用基板の保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68508(P2011−68508A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219833(P2009−219833)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】