説明

カーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法

【課題】半溶融状態での撹拌を維持しながら、カーボンナノ材料に好適なカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法することを提供することを課題とする。
【解決手段】マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を得る第2撹拌工程と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧鋳造や溶湯鍛造や射出成形に供されるカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を製造する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は軽量であるため、軽量化が求められる車両などの部品材料として実用に供されてきた。ただし、マグネシウムは強度の点で難があるため、強度向上の一環としてセラミックとの複合化が提案されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6−238422号公報(図3)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図12は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(1)に示すように、マグネシウム合金(AZ80)を半溶融領域まで加熱する。次に、温度を一定にして、(2)に示すように撹拌を施す。そして撹拌を続けながら(3)で強化材(セラミック粉末、短繊維)を添加する。
【0004】
添加が終了したら、(4)のように加熱し、溶融温度に保ち撹拌する。次に、(5)のように冷却し、半溶融温度で撹拌を施す。その後、(6)のように常温まで冷却する。
(4)加熱後から(5)まで間の溶融状態では、液相内を強化材が自由に移動するため、強化材の分散を促すことができる。
(5)冷却後の半溶融状態では、液相に固相が混合しており、固相が強化材の流動化を抑制するため、強化材の均一な分散性が維持できる。
結果、得られた複合金属材は、引張り強さなどの機械的性質が向上している。
【0005】
ところで、近年、強化材としてカーボンナノ材料が注目されてきた。
カーボンナノ材料の代表例であるカーボンナノファイバは、六角網目状に配列した炭素原子のシートを筒状に巻いた形態のものであり、直径が1.0nm(ナノメートル)〜150nmであり、ナノレベルであるため、カーボンナノファイバ(又は、カーボンナノチューブ)と呼ばれる。なお、長さは数μm〜100μmである。
【0006】
本発明者らは、新しい複合材料を研究する過程で、半溶融温度領域のマグネシウム合金にカーボンナノ材料を混合することを試した。
結果、引張り強さなどの機械的性質の向上が、殆ど認められなかった。その理由は、上記(4)加熱後の溶融状態で、カーボンナノ材料の凝集が起こったためと推定される。
【0007】
ミクロン・サイズのカーボン材料やアルミナ粉末では凝集は問題にならないが、ナノ・サイズのカーボンナノ材料は簡単に凝集する。この凝集が問題となる。
凝集が起こると強化材は不均一に分散されたことになり、強度の向上が望めなくなる。
【0008】
カーボンナノ材料を強化材とするときには、特許文献1の技術は適用できない。しかし、半溶融状態での撹拌処理は、捨てがたい。
そこで、半溶融状態での撹拌を維持しながら、カーボンナノ材料に好適なカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、半溶融状態での撹拌を維持しながら、カーボンナノ材料に好適なカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法することを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、射出成形などに供されるカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を製造する方法であって、
マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を得る第2撹拌工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、第2撹拌工程では、温度を時間に比例して上昇させることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、カーボンナノ材料は、3〜30質量%の割合で添加することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、カーボンナノ材料は、5〜30質量%の割合で添加することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、半溶融領域は固相と液相とが共存していること、及び半溶融領域の低温側では固相リッチ、半溶融領域の高温側では液相リッチであることを巧みに利用した。
すなわち、マグネシウム合金にカーボンナノ材料を投入するときには、半溶融領域の低温側に温度を設定する。固相リッチであるため、この固相でカーボンナノ材料が盛んに解繊される。ただし、このままでは液相が少ないため、カーボンナノ材料の流動が制限され、均一分散には至らない。
【0016】
そこで、投入が終了したら、半溶融領域の高温側に温度を設定し直す。今度は液相リッチであるため、カーボンナノ材料が隅々まで流動し分散される。なお、流動が過剰であるとカーボンナノ材料が流動先で合体し、凝固し始める虞がある。しかし、固相が存在するために、カーボンナノ材料の流動が適度に妨げられる。加えて、流動先で合体が起こっても、固相が合体を分離解消する役割を果たす。
したがって、本発明によれば、均一にカーボンナノ材料が分散している複合マグネシウム合金素材が提供される。
【0017】
請求項2に係る発明は、第2撹拌工程で、温度を時間に比例して上昇させる。このことにより、固相と液相との比率が時間と共に変化し、カーボンナノ材料の分散が円滑に行われる。
【0018】
請求項3に係る発明では、カーボンナノ材料は、3〜30質量%の割合で添加される。 カーボンナノ材料の割合が30質量%を超えると、引張り強さが低下し、高価なカーボンナノ材料を大量に添加する意味が無くなる。
また、カーボンナノ材料の割合が3質量%を下回ると、引張り強さが急激に低下する。
そこで、カーボンナノ材料は、3〜30質量%の割合で添加することが望まれる。
【0019】
請求項4に係る発明では、カーボンナノ材料は、5〜30質量%の割合で添加される。 カーボンナノ材料の割合が30質量%を超えると、引張り強さが低下し、高価なカーボンナノ材料を大量に添加する意味が無くなる。
また、カーボンナノ材料の割合が5〜30質量%であれば、カーボンナノ材料の添加率と引張り強さの向上とが、一次比例する。一次比例すると、要求強度に応じたカーボンナノ材料の添加率を正しく知ることができ、生産管理が容易になる。
そこで、カーボンナノ材料は、5〜30質量%の割合で添加することがより好ましい。
【0020】
請求項5に係る発明では、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されている。Siはカーボンナノ材料の炭素(C)と結合して炭化珪素(SiC)を生成する。また、Siはマグネシウム合金に対する濡れ性が良い。すなわち、Si微粒子がアンカー作用を発揮してカーボンナノ材料とマグネシウム合金とを結合するため、複合材料の機械的性質がより高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造フロー図である。
(a)において、坩堝11に、Mg合金インゴット12を投入し、半溶融状態になるまで加熱することで、半溶融物Mm1を得る(半溶融工程)。
【0022】
(b)において、半溶融物に、カーボンナノ材料14を投入し、撹拌機15で撹拌する。すると、カーボンナノ材料14はMg合金13の液相部分に分散する。これで半溶融物Mm2を得ることができる(第1撹拌工程)。
【0023】
カーボンナノ材料14の投入が完了したら、(c)において、半溶融物Mm2を撹拌機15で撹拌しながら、半溶融温度範囲内で加熱し、昇温することで、半溶融物Mm3を得る(第2撹拌工程)。
なお、坩堝11は、(a)〜(c)で共用であって差し支えない。ただし、大規模生産を図るのであれば、坩堝11を(a)〜(c)で個別に準備することもできる。
【0024】
図2は本発明で採用する温度曲線図であり、マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を得る第2撹拌工程と、からなることを特徴とする。
【0025】
第2撹拌工程では、半溶融領域の高温側に温度を設定し直すため、液相リッチに変化する。液相リッチであるから、図1(c)において、カーボンナノ材料14が隅々まで流動し分散される。なお、流動が過剰であるとカーボンナノ材料14が流動先で合体し、凝固し始める虞がある。しかし、固相が存在するために、カーボンナノ材料14の流動が適度に妨げられる。加えて、流動先で合体が起こっても、固相が合体を分離解消する役割を果たす。
【0026】
(c)での撹拌が終わったら、ポンプ16で汲み出すことで、半溶融物の形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金素材18を得ることができる。又は、インゴットなどの固体形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金素材19を得ることができる。
得られたカーボンナノ複合マグネシウム合金素材18又は19はダイカスト鋳造に好適である。ダイカスト鋳造の原理を次図で説明する
【0027】
図3はダイカスト鋳造の原理を説明する図であり、カーボンナノ複合マグネシウム合金素材18又は19は、(a)に示すように、保温鍋21で溶融温度に加熱し保温する。得られた溶湯22は、柄杓(ひしゃく)などの汲上げ手段を用いて金属成形機23へ供給する。
溶湯22を、(b)に示す金属成形機23で金型24のキャビティ25へ供給する。(c)に示す26、26は金型24から取り出したカーボンナノ複合金属成形品(カーボンナノ複合金属鋳造品)である。
さらには、カーボンナノ複合金属成形品26に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を、施すことで、金属組織の微細化を行い、機械的特性や熱的特性を向上させることができる。
【0028】
カーボンナノ複合金属成形品26は、カーボンナノ材料が均一にマグネシウム合金に分散しているため、機械的性質の向上が期待される。
機械的性質のさらなる向上が要求される場合には、均一分散に加えて、濡れ性の改善が有効となる。すなわち、強化材としてのカーボンナノ材料と母材であるマグネシウム合金との間に、微細な隙間が発生すると、機械的性質が低下することが知られている。逆に、強化材が母材に密着していれば、所望の性能が発揮される。濡れ性が高いほど、密着性が高まり、高い水準の機械的性質が得られる。そこで、濡れ性の向上対策を次に説明する。
【0029】
図4は本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
(a):混合用容器30に、有機溶媒(例えば1リットルのエタノール)31を入れる。この有機溶媒31へ、炭化物形成微粒子(例えば10gのSi)32とカーボンナノ材料(例えば10g)14とを入れる。そして、撹拌機34にて、十分に撹拌する(例えば、毎分750回転で2時間)。撹拌が終了したら、吸引濾過し、高温(例えば100℃)の空気中で十分に乾燥させる(例えば3時間)ことで、(b)に示される混合体35を得る。(a)〜(b)が混合体形成工程である。
【0030】
(c):得られた混合体35を、ジルコニウム製容器36に入れ、ジルコニウム製蓋37を被せる。この蓋37は非密閉蓋を採用することで、容器36の内部と外部との通気を可能にする。
【0031】
(d):密閉炉体38と、炉体38内部を加熱する加熱手段39と、容器36を載せる台41、41と、炉体38内部を真空にする真空ポンプ42とを備える真空炉40を準備し、この真空炉40に容器36を入れる。
【0032】
真空炉40では、真空中で例えば1200℃で20時間の加熱を実施する。真空下で加熱することで、混合体35中のSi粉末が蒸発する。蒸発したSiがカーボンナノ材料の表面に接触し、化合物を形成し、Siの微粒子となって付着する。(c)〜(d)が真空蒸着工程である。
得られた微粒子付着カーボンナノ材料の構造は次図で説明する。
【0033】
図5は微粒子付着カーボンナノ材料の模式図、図6は図5の6−6線断面図であり、微粒子付着カーボンナノ材料50は、カーボンナノ材料14の表面全体が、炭化物形成微粒子(表面全体に炭素と反応して化合物を生成する元素を含む微粒子)の層51で被覆されている。
【0034】
カーボンナノ材料14表面に炭化物形成微粒子を付着させると、界面に例えばSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料14に炭化物形成微粒子の層51を強固に付着させることができる。したがって、炭化物形成微粒子の層51がカーボンナノ材料14から脱落する心配はない。さらには、炭化物形成微粒子の層51は、カーボンナノ材料14に比較してマトリックス金属との濡れ性が格段に良い。
【0035】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
○材料:
・マグネシウム合金:ASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)。
・カーボンナノ材料:カーボンナノチューブ(CNT)、又はSi微粒子被覆カーボンナノチューブ(Si+CNT)
・混合割合:次表に示す。
○撹拌・温度条件:後に示す温度曲線に基づく。
【0036】
○高圧鋳造:
・加圧圧力:200MPa
・溶融温度:650℃
・プレス速度:400mm/秒
【0037】
○テストピース:直径4.0mm×長さ50mm。標点間隔20mm
○引張試験方法:JIS Z 2241
【0038】
図7は定温撹拌型温度曲線を示す図であり、マグネシウム合金AZ91Dの半溶融温度領域は450〜595℃であるが、この半溶融温度領域内の温度である、580℃で撹拌を実施する。すなわち、半溶融工程でMg合金を580℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、60分間撹拌する。一番重要な第2撹拌工程で、一定温度で撹拌を実施するため、定温撹拌と呼ぶ。
【0039】
図8は昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を575℃から592℃まで60分間かけて温度を高め、この間撹拌を継続する。一番重要な第2撹拌工程で、徐々に温度を上げながら撹拌を実施するため、昇温撹拌と呼ぶ。
【0040】
図9はステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら温度を590℃まで上げる。第2撹拌工程で、Mg合金を590℃に保ち、60分間撹拌する。第1撹拌工程の温度より第2撹拌工程の温度を上げたため、ステップ昇温撹拌と呼ぶ。
【0041】
先ず、定温撹拌と昇温撹拌との差異、及びカーボンナノ材料の好適な混合割合を調べた。その内容及び結果を次表に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
○試料01〜08:撹拌・温度条件は図7に示される、定温撹拌を行い、マグネシウム合金(Mg合金)へ1〜35質量%のCNT(カーボンナノチューブ)を混合した。得られたカーボンナノ複合マグネシウム合金材料(図1(c)、符号18又は19)から、図3に示す要領で、カーボンナノ複合金属成形品(図3、符号26)を作製し、このカーボンナノ複合金属成形品からテストピースを削りだし、このテストピースに対して引張り試験を施し、引張り強さ(MPa)を得た。引張り強さ(MPa)は表1に示すように、CNTの混合割合が高まるほど、小さくなる傾向が認められた。
【0044】
図10はCNTと引張り強さの関係を示すグラフであり、試料01〜08は、CNTの混合割合が高まるほど、小さくなる傾向が認められた。
高価なCNTをマグネシウム合金に添加しても、引張り強さの増加が認められなければ、添加する意味が無くなる。
引張り強度が低下する理由は、CNTの分散化不良(凝集)に起因すると考えられる。
【0045】
○試料09〜16:撹拌・温度条件は図8に示される、昇温撹拌を行い、マグネシウム合金(Mg合金)へ1〜35質量%のCNT(カーボンナノチューブ)を混合した。得られたカーボンナノ複合マグネシウム合金材料(図1(c)、符号18又は19)から、図3に示す要領で、カーボンナノ複合金属成形品(図3、符号26)を作製し、このカーボンナノ複合金属成形品からテストピースを削りだし、このテストピースに対して引張り試験を施し、引張り強さ(MPa)を得た。引張り強さ(MPa)は表1に示すように、CNTの混合割合が高まるほど、増加する傾向が認められた。
【0046】
試料09〜16での引張り強さが、図10に併記されている。試料09〜16の曲線によれば、CNT添加率が3質量%未満では、引張り強さが急減する。CNTの添加量が少な過ぎると思われる。また、CNT添加率が30質量%を超えると、引張り強さが減少する。過剰添加により、CNTの凝集が発生したと考えられる。
【0047】
一方、CNT添加率が3〜30質量%の範囲であれば、CNT添加率にほぼ比例して引張り強さの増加が認められた。さらには、CNT添加率が5〜30質量%の範囲であれば、CNT添加率に一次比例して引張り強さの増加が認められた。以上の範囲であれば、CNTの均一分散が達成でき、その結果、引張り強さが増加したと考えられる。
【0048】
なお、実操業においては、CNT添加率と引張り強さの増加の相関が明確な方が、便利である。そこで、CNT添加率3〜30質量%の範囲が、適正範囲で、CNT添加率5〜30質量%の範囲が、好適範囲と定めることができる。
【0049】
ところで、Si微粒子を付着させたSi微粒子付着カーボンナノ材料(図5、符号50)は、濡れ性の点で、普通のカーボンナノ材料より優れている。そこで、Si微粒子付着カーボンナノ材料を用いて、実験を行った。その内容を次表に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
○試料17〜21:試料09〜16に対して、CNTを、Si+CNT(Si微粒子付着カーボンナノチューブ)に変更した。他の条件はそのままとした。得られた引張り強さは、Si+CNTの添加率に比例して増加することが認められた。
【0052】
図11はCNT+Siと引張り強さの関係を示すグラフであり、試料17〜21は、CNTの混合割合が高まるほど、大きくなる傾向が認められた。参照のために掲載した試料09〜16より、試料17〜21の方が引張り強さは大きかった。すなわち、Si付着の効果が確認できた。
【0053】
以上に述べた試料09〜16及び試料17〜21は、図8に示す昇温撹拌に基づいて処理を行った。次に、図9に示すステップ型昇温撹拌に基づく処理を検証する。その実験内容を次表に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
○試料22〜23:試料17〜21に対して、撹拌・温度条件を、ステップ昇温撹拌に変更した。この例でも、引張り強さは、Si+CNTの添加率に比例して増加することが認められた。
【0056】
試料22〜23の結果を、図11に併記した。試料22〜23の曲線は、試料09〜16の曲線より上であるが、試料17〜21の曲線よりは下であった。
昇温撹拌(図8)とステップ昇温撹拌(図9)の何れにおいても良好な結果が得られ、ステップ昇温撹拌(図9)より昇温撹拌(図8)の方がさらに良い結果が得られたといえる。
【0057】
なお、マグネシウムは酸素と強く反応するため、高温になるほど取扱いが難しくなる。この点、Caを添加すると反応を緩和することができ、マグネシウム合金を、容易に高温にすることができ、複合化工程を円滑に進めることができ、生産性の向上と生産コストの低減とを図ることができる。
したがって、本発明のマグネシウム合金には、カーボンナノ材料の他に、Ca(カルシウム)を添加することは望ましいことである。
【0058】
尚、本発明で製造されるカーボンナノ複合マグネシウム合金素材は、射出成形に供する材料に好適であるが、その他の鋳造法に供することもできるため、用途は格別に制限しない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明で製造されるカーボンナノ複合マグネシウム合金素材は、高圧鋳造や溶湯鍛造や射出成形に供する材料に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造フロー図である。
【図2】本発明で採用する温度曲線図である。
【図3】ダイカスト鋳造の原理を説明する図である。
【図4】本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
【図5】微粒子付着カーボンナノ材料の模式図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】定温撹拌型温度曲線図である。
【図8】昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図9】ステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図10】CNTと引張り強さの関係を示すグラフである。
【図11】CNT+Siと引張り強さの関係を示すグラフである。
【図12】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
12…Mg合金インゴット、14…カーボンナノ材料、15…撹拌機、18、19…カーボンナノ複合マグネシウム合金材料、32…Si微粒子、50…微粒子付着カーボンナノ材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形などに供されるカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を製造する方法であって、
マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金素材を得る第2撹拌工程と、からなることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項2】
前記第2撹拌工程では、温度を時間に比例して上昇させることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ材料は、3〜30質量%の割合で添加することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンナノ材料は、5〜30質量%の割合で添加することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−121178(P2010−121178A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295962(P2008−295962)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】