説明

ガスセンサ、空燃比制御装置、輸送機器およびガスセンサの製造方法

【課題】ガラスシール部を備えたガスセンサにおいて、ガラスシール部を形成するための熱処理を低温化および短時間化する。
【解決手段】本発明によるガスセンサは、所定のガスを検出するための検出部11を有するセンサ素子10と、その一端側に検出部11が露出するようにセンサ素子10が挿通配置されるハウジング20と、ガラス材料から形成され、センサ素子10をハウジング20に対して固定するガラスシール部50と、ガラスシール部50に対してセンサ素子10の検出部11とは反対側に配置され、一端部がガラスシール部50に埋没している第1のセラミックス部材51とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスシール部を備えたガスセンサおよびその製造方法に関する。また、本発明は、そのようなガスセンサを備えた空燃比制御装置や輸送機器にも関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題やエネルギー問題の観点から、内燃機関の燃費を向上させたり、内燃機関の排気ガス中に含まれる規制物質(NOxなど)の排出量を低減したりすることが求められている。このためには、常に最適な条件で燃料の燃焼が行えるよう、燃焼状態に応じて燃料と空気との比率を適切に制御する必要がある。空気と燃料との比率は空燃比(A/F)と呼ばれ、三元触媒を用いる場合、最適な空燃比は理論空燃比である。理論空燃比とは、空気と燃料とが過不足なく燃焼する空燃比である。
【0003】
理論空燃比で燃料が燃焼している場合、排気ガス中には一定の酸素が含まれる。空燃比が理論空燃比よりも小さい(つまり燃料の濃度が相対的に高い)場合には、排気ガス中の酸素濃度が、理論空燃比の場合の酸素濃度に比べて減少する。一方、空燃比が理論空燃比よりも大きい(つまり燃料の濃度が相対的に低い)場合には、排気ガス中の酸素濃度は増加する。このため、排気ガス中の酸素濃度を計測することによって、空燃比が理論空燃比からどの程度ずれているかを推定し、空燃比を調節して最適な条件で燃料が燃焼するように制御することが可能となる。
【0004】
排気ガス中の酸素濃度を計測するための酸素センサとしては、特許文献1に開示されているような起電力型の酸素センサや、特許文献2に開示されているような抵抗型の酸素センサが知られている。起電力型の酸素センサは、固体電解質層の表面に設けられた基準電極および測定電極(それぞれ空気および排気ガスに曝される)間での酸素分圧の違いを起電力として検出することによって酸素濃度を測定する。これに対し、抵抗型の酸素センサは、排気ガスに曝される酸化物半導体層の抵抗率の変化を検出することによって酸素濃度を測定する。
【0005】
起電力型の酸素センサでは、基準電極側と測定電極側とを気密的に分離する構造が必要である。このような構造の1つとして、特許文献3には、ガラス材料を溶融固化させることによって形成されたガラスシール部を含む気密構造が提案されている。
【0006】
図15に、特許文献3に開示されている起電力型酸素センサ800を示す。この酸素センサ800は、センサ素子810と、センサ素子810が挿通される筒状の絶縁碍子813と、絶縁碍子813を収容する筒状のハウジング820とを備えている。ハウジング820の基端側には、内部に大気が導入される大気側カバー840が設けられている。また、ハウジング820の先端側には、内部に測定対象であるガス(つまり排気ガス)が導入される測定ガス側カバー830が設けられている。
【0007】
測定ガス側カバー830は、内側カバー831と外側カバー832とを含む二重構造を有している。内側カバー831および外側カバー832のそれぞれには、測定ガスを内部に導入するための開口部833が形成されている。
【0008】
また、大気側カバー840の基端側の外周面には、撥水フィルタ843を介してさらにカバー845が設けられている。このカバー845と大気側カバー840には、大気を内部に導入するための開口部847が形成されている。
【0009】
絶縁碍子813の基端側には、さらなる絶縁碍子(大気側絶縁碍子)815が配置されており、大気側絶縁碍子815と大気側カバー840との間には皿バネ817が設けられている。大気側絶縁碍子815の内部で、センサ素子810と端子部844とが接続されている。
【0010】
また、端子部844は、大気側絶縁碍子815の外部において、リード線846に接続されている。リード線846は、大気側カバー840の基端部に設けられた封口部材842に挿通されており、外部と接続されている。
【0011】
図15に示す酸素センサ800では、ハウジング820と絶縁碍子813との間の気密性は、環状の金属パッキン819によって確保されている。また、絶縁碍子813とセンサ素子810との間の気密性は、ガラスシール部850によって確保されている。ガラスシール部850の形成は、センサ素子10と絶縁碍子813との間の空間に充填されたガラス材料を熱処理によって溶融させた後に固化させることによって行われる。
【0012】
上述したように、酸素センサ800は、ガラスシール部850を含む気密構造を有している。ここで説明した酸素センサ800は起電力型であるが、抵抗型の酸素センサも何らかの気密構造を有している。排気ガスは高温であり、有害な成分を含んでいるので、排気ガスが導入される空間(つまりセンサ素子の検出部が露出している空間)と、端子部やリード線が設けられている空間とを気密的に分離する必要があるからである。抵抗型の酸素センサの気密構造にも、ガラス材料から形成されたガラスシール部を用いることができる。
【特許文献1】特開平8−114571号公報
【特許文献2】特開平5−18921号公報
【特許文献3】特許第3800978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ガラスシール部を形成する際には、ガラス材料を十分に溶融させるために、熱処理を高温で長時間行う必要がある。そのため、ガラスシール部を含む気密構造を酸素センサに採用すると、センサ素子が熱によって劣化したり、酸素センサの製造に要する時間が長くなって製造コストが上昇したりしてしまう。また、このような問題は、酸素センサに特有のものではない。酸素センサ以外のガスセンサについても、ガラスシール部を含む気密構造を採用すると同様の問題が発生してしまう。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラスシール部を備えたガスセンサにおいて、ガラスシール部を形成するための熱処理を低温化および短時間化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるガスセンサは、所定のガスを検出するための検出部を有するセンサ素子と、その一端側に前記検出部が露出するように前記センサ素子が挿通配置されるハウジングと、ガラス材料から形成され、前記センサ素子を前記ハウジングに対して固定するガラスシール部と、前記ガラスシール部に対して前記センサ素子の前記検出部とは反対側に配置され、一端部が前記ガラスシール部に埋没している第1のセラミックス部材とを備える。
【0016】
ある好適な実施形態において、前記ハウジングの内側側面と前記第1のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられている。
【0017】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサは、前記ガラスシール部に対して前記第1のセラミックス部材とは反対側に配置され、一端部が前記ガラスシール部に埋没している第2のセラミックス部材をさらに備える。
【0018】
ある好適な実施形態において、前記ハウジングの内側側面と前記第2のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられている。
【0019】
ある好適な実施形態において、前記ハウジングの内側側面と前記第1のセラミックス部材の外側側面との間の間隙は、前記ハウジングの内側側面と前記第2のセラミックス部材の外側側面との間の間隙よりも大きい。
【0020】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサは、前記センサ素子に接続された端子部をさらに備え、前記第1のセラミックス部材は、前記端子部が挿入される端子挿入孔を有する。
【0021】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサは酸素センサである。
【0022】
本発明による空燃比制御装置は、上記構成を有するガスセンサを備える。
【0023】
本発明による輸送機器は、上記構成を有する空燃比制御装置を備える。
【0024】
本発明によるガスセンサの製造方法は、所定のガスを検出するための検出部を有するセンサ素子を用意する工程と、前記センサ素子をハウジングに挿通する工程と、前記センサ素子と前記ハウジングとの間の空間にガラス材料を充填する工程と、前記ガラス材料を熱処理により溶融させた後に固化させることによって、前記センサ素子を前記ハウジングに対して固定するガラスシール部を形成する工程と、を包含するガスセンサの製造方法であって、前記ガラスシール部を形成する工程の前に、前記ガラス材料に荷重を印加するための荷重部材を前記ガラス材料の上に配置する工程をさらに包含し、前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、前記荷重部材によって前記ガラス材料に荷重を印加した状態で行われる。
【0025】
ある好適な実施形態において、前記荷重部材を配置する工程は、前記ハウジングの内側側面と前記荷重部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われる。
【0026】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサの製造方法は、前記センサ素子を用意する工程の後に、前記センサ素子を仮止め部材に挿通して仮止めする工程を包含し、前記センサ素子を前記ハウジングに挿通する工程において、前記センサ素子は前記仮止め部材ごと前記ハウジングに挿通される。
【0027】
ある好適な実施形態において、前記センサ素子を前記仮止め部材ごと前記ハウジングに挿通する工程は、前記ハウジングの内側側面と前記仮止め部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われる。
【0028】
ある好適な実施形態において、前記ハウジングの内側側面と前記荷重部材の外側側面との間の間隙が、前記ハウジングの内側側面と前記仮止め部材の外側側面との間の間隙よりも大きい。
【0029】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサの製造方法は、前記ガラスシール部を形成する工程の後に、前記センサ素子に端子部を接続する工程をさらに包含し、前記端子部を接続する工程は、前記荷重部材に形成されている孔に前記端子部を挿入することによって行われる。
【0030】
ある好適な実施形態において、前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、900℃以下の温度で行われる。
【0031】
ある好適な実施形態において、前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、前記ガラス材料が軟化点以上の温度にある期間が1時間以下であるように行われる。
【0032】
本発明によるガスセンサは、ガラスシール部に対してセンサ素子の検出部とは反対側に配置され、一端部がガラスシール部に埋没している第1のセラミックス部材を備えている。このような第1のセラミックス部材は、ガスセンサの製造工程において、ガラス材料に荷重を印加するための「荷重部材」として機能し得る。本発明によるガスセンサは、荷重部材として機能し得る第1のセラミックス部材を有しているので、ガラスシール部を形成する工程における熱処理を、ガラス材料に荷重を印加した状態で行うことができる。そのため、従来のようにガラス材料に荷重が印加されていない(つまり自重のみが印加されている)状態で熱処理を行う場合に比べ、溶融したガラス材料の流動を促進することができるので、ガラスシール部を形成するための熱処理を低温化および短時間化することができる。
【0033】
ハウジングの内側側面と前記第1のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられていると、熱処理時にこの間隙に(つまり第1のセラミックス部材の外周に)ガラス材料が流れ込むので、第1のセラミックス部材とガラスシール部との接触する面積が大きくなり、第1のセラミックス部材とガラスシール部との接合強度が向上する。また、このような所定の間隙が設けられていると、ガラス材料に荷重を印加する際に第1のセラミックス部材がハウジングに引っ掛かってガラス材料への荷重が不足することを防止できる。
【0034】
本発明によるガスセンサは、ガラスシール部に対して第1のセラミックス部材とは反対側に配置され、一端部がガラスシール部に埋没している第2のセラミックス部材をさらに備えていてもよい。このような第2のセラミックス部材は、ガスセンサの製造工程において、センサ素子が仮止めされる「仮止め部材」として機能し得る。本発明によるガスセンサが、「仮止め部材」として機能し得る第2のセラミックス部材を有していると、センサ素子をハウジングに挿通配置するときの軸方向の位置決めが容易となる。また、溶融したガラス材料がセンサ素子の検出部側へ漏れ出すことを防止しやすい。
【0035】
ハウジングの内側側面と第2のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられていると、熱処理時にこの間隙に(つまり第2のセラミックス部材の外周に)ガラス材料が流れ込むので、第2のセラミックス部材とガラスシール部との接触する面積が大きくなり、第2のセラミックス部材とガラスシール部との接合強度が向上する。
【0036】
ハウジングの内側側面と第1のセラミックス部材の外側側面との間の間隙は、ハウジングの内側側面と第2のセラミックス部材の外側側面との間の間隙よりも大きいことが好ましい。2つの間隙がこのような大小関係を満足していることによって、溶融したガラス材料が、ハウジングと第2のセラミックス部材との間の間隙よりも、ハウジングと第1のセラミックス部材との間の間隙へ流れ込みやすくなるので、ガラス材料の漏れ出し(センサ素子の検出部側への漏れ出し)を防止することができる。
【0037】
第1のセラミックス部材が、端子部が挿入される端子挿入孔を有していると、ハウジングにガラスシール部を介して一体化された第1のセラミックス部材によって端子部が保持されるので、ガスセンサに衝撃や振動が与えられたときのセンサ素子の折れを防止できる。
【0038】
本発明は、ガスセンサ全般に広く用いることができ、例えば、酸素を検出する酸素センサに好適に用いることができる。本発明による酸素センサは、内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御装置に好適に用いられ、本発明による酸素センサを備えた空燃比制御装置は、各種の輸送機器に好適に用いられる。
【0039】
本発明によるガスセンサの製造方法は、ガラスシール部を形成する工程の前に、ガラス材料に荷重を印加するための荷重部材をガラス材料の上に配置する工程を包含し、ガラスシール部を形成する工程における熱処理は、荷重部材によってガラス材料に荷重を印加した状態で行われる。従って、熱処理の際に溶融したガラス材料の流動を促進することができ、そのため、熱処理を低温化および短時間化することができる。
【0040】
荷重部材を配置する工程は、ハウジングの内側側面と荷重部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われることが好ましい。このような所定の間隙が設けられることにより、熱処理時にこの間隙に(つまり荷重部材の外周に)ガラス材料が流れ込むので、荷重部材とガラスシール部との接触する面積が大きくなり、荷重部材とガラスシール部との接合強度が向上する。また、このような所定の間隙が設けられていると、ガラス材料に荷重を印加する際に荷重部材がハウジングに引っ掛かってガラス材料への荷重が不足することを防止できる。
【0041】
本発明によるガスセンサの製造方法は、センサ素子を用意する工程の後に、センサ素子を仮止め部材に挿通して仮止めする工程を包含してもよい。この場合、センサ素子をハウジングに挿通する工程において、センサ素子は仮止め部材ごとハウジングに挿通される。センサ素子を仮止め部材ごとハウジングに挿通することにより、センサ素子の軸方向の位置決めが容易となる。また、熱処理の際に溶融したガラス材料がセンサ素子の検出部側へ漏れ出すことを防止しやすい。
【0042】
センサ素子を仮止め部材ごとハウジングに挿通する工程は、ハウジングの内側側面と仮止め部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われることが好ましい。このような所定の間隙が設けられることにより、熱処理時にこの間隙に(つまり仮止め部材の外周に)ガラス材料が流れ込むので、仮止め部材とガラスシール部との接触する面積が大きくなり、仮止め部材とガラスシール部との接合強度が向上する。
【0043】
ハウジングの内側側面と荷重部材の外側側面との間の間隙は、ハウジングの内側側面と前記仮止め部材の外側側面との間の間隙よりも大きいことが好ましい。2つの間隙がこのような大小関係を満足していることによって、溶融したガラス材料が、ハウジングと仮止め部材との間の間隙よりも、ハウジングと荷重部材との間の間隙へ流れ込みやすくなるので、ガラス材料の漏れ出し(センサ素子の検出部側への漏れ出し)を防止することができる。
【0044】
本発明によるガスセンサの製造方法が、ガラスシール部を形成する工程の後に、センサ素子に端子部を接続する工程をさらに包含している場合、端子部を接続する工程は、荷重部材に形成されている孔に端子部を挿入することによって行われることが好ましい。このようにして接続が行われると、ハウジングにガラスシール部を介して一体化された荷重部材によって端子部が保持されるので、ガスセンサに衝撃や振動が与えられたときのセンサ素子の折れを防止できる。
【0045】
熱によるセンサ素子の劣化を十分に抑制する観点からは、ガラスシール部を形成する工程における熱処理は、900℃以下の温度で行われることが好ましい。
【0046】
また、センサ素子の劣化を十分に抑制するとともにガスセンサの製造に要する時間を十分に短縮する観点からは、ガラスシール部を形成する工程における熱処理は、ガラス材料が軟化点以上の温度にある期間が1時間以下であるように行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0047】
本発明によると、ガラスシール部を備えたガスセンサにおいて、ガラスシール部を形成するための熱処理を低温化および短時間化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下では酸素を検出するための酸素センサを例示するが、本発明は酸素センサに限定されず、ガラスシール部を備えたガスセンサ全般に好適に用いられる。
【0049】
図1に、本実施形態における酸素センサ100を示す。酸素センサ100は、図1に示すように、センサ素子10と、センサ素子10が挿通配置されるハウジング20とを備えている。
【0050】
センサ素子10は、所定のガス(ここでは酸素)を検出するための検出部11と、検出部11を支持する基板12とを有する。センサ素子10は、ハウジング20の一端側(先端側)に検出部11を露出するように(つまり検出部11がハウジング20から突出するように)配置されている。
【0051】
センサ素子10としては、酸素を検出し得る種々の素子を用いることができる。例えば、特許文献1に開示されているような起電力型のセンサ素子や、特許文献2に開示されているような抵抗型のセンサ素子を用いることができる。起電力型のセンサ素子は、空気に曝される基準極と排気ガスに曝される測定極との間での酸素分圧の違いを起電力として検出することによって酸素濃度を測定する。これに対し、抵抗型のセンサ素子は、排気ガスに接するように設けられた酸化物半導体層の抵抗率の変化を検出する。排気ガス中の酸素分圧が変化すると、酸化物半導体層中の酸素空孔濃度が変動するので、酸化物半導体層の抵抗率が変化する。従って、この抵抗率の変化を検出することにより、酸素濃度を測定することができる。
【0052】
抵抗型のセンサ素子は、起電力型のセンサ素子のように基準極を必要としないので、センサ素子自体の構造を簡単にすることができる。そのため、酸素センサ100の小型化の点からは、抵抗型のセンサ素子を用いることが好ましい。酸化物半導体層の材料としては、例えばチタニア(二酸化チタン)やセリア(ニ酸化セリウム)を用いることができる。
【0053】
センサ素子10の検出部11は、センサ素子10が起電力型である場合には、固体電解質層および電極を含み、センサ素子10が抵抗型である場合には、酸化物半導体層および電極を含む。センサ素子10の基板12は、絶縁性を有する材料(例えばアルミナや窒化珪素などのセラミックス材料)から形成されており、検出部11は、基板12の先端部に設けられている。
【0054】
ハウジング20は、筒状である。ただし、ハウジング20の内径は、軸方向において一定ではない。具体的には、ハウジング20の内径は、ハウジング20の先端側で小さく、基端側で大きい。つまり、ハウジング20の内側をセンサ素子10の挿通孔と考えたとき、このセンサ素子挿通孔は、ハウジング20の先端側に小径部を有し、基端側に大径部を有している。
【0055】
また、典型的には、ハウジング20の外径も軸方向において一定ではない。ハウジング20は、その外側側面に、ねじ山が形成されたねじ部20a(ねじ山は図示していない)や、径方向に環状に突出した鍔部20bを有している。ねじ部20aを排気管に形成されたねじ孔に螺合させることにより、酸素センサ100を排気管に固定することができる。ハウジング20は、典型的には、金属材料(例えばステンレス鋼)から形成されている。
【0056】
ハウジング20の先端側には、センサ素子10の検出部11を覆うようにカバー部材30が設けられている。カバー部材30は、内側カバー31および外側カバー32から構成された二重構造を有している。内側カバー31および外側カバー32のそれぞれには、排気ガスを内部に導入するための開口部(通気孔)33が形成されている。排気管内を流れる排気ガスが検出部11に直接当たらないように、内側カバー31の開口部33と外側カバー32の開口部33とは、径方向から見たときに互いに重ならないように配置されていることが好ましい。内側カバー31および外側カバー32は、ステンレス鋼などの金属材料から形成されており、ハウジング20に例えば溶接によって接合されている。
【0057】
また、ハウジング20の基端側には、筒状部材40と、筒状部材40を封口する封口部材42と、センサ素子10に接続された端子部44と、端子部44を介してセンサ素子10に電気的に接続されるリード線46とが設けられている。
【0058】
筒状部材40は、ステンレス鋼などの金属材料から形成されており、例えば円筒状である。この筒状部材40のハウジング20から遠い方の端部に、封口部材42が配置されている。
【0059】
封口部材42は、リード線46および端子部44が挿入される円柱状の貫通孔42aを有している。封口部材42は、耐熱性樹脂から形成されている。耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂のような熱可塑性樹脂を用いてもよいし、フェノール樹脂のような熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0060】
リード線46は、金属材料(例えば銅)から形成されており、絶縁材料(PTFEなどの樹脂)によって被覆されている。リード線46は、蛇腹状の防水キャップ48によってさらに覆われており、防水キャップ48ごと貫通孔42aに挿通されている。防水キャップ48は、フッ素ゴムやシリコンゴムなどから形成されている。
【0061】
端子部44は、ステンレスやニッケル合金などの金属材料から形成されており、センサ素子10とリード線46とを電気的に接続する。本実施形態における端子部44は、封口部材42の貫通孔42aに圧入固定されている。端子部44のより具体的な構造の例を図2および図3に示す。
【0062】
端子部44は、図2(a)〜(c)にそれぞれ示すような3つの端子44a、44bおよび44cが図3に示すように組み合わされて構成されている。より具体的には、端子部44は、センサ素子10に接続される第1端子44aと、封口部材42の貫通孔42aに圧入される第2端子44bと、リード線46に接続される第3端子44cとを有し、これらを図3に示すように溶接することにより形成されている。
【0063】
端子部44が有する3つの端子44a、44bおよび44cのうち、第2端子44bは、略円柱状であり、封口部材42の貫通孔42aよりも若干大きな外径を有している。このような第2端子44bを含む端子部44を貫通孔42aに圧入することにより、貫通孔42aがほぼ完全に閉塞される。また、この圧入により、封口部材42の外径も本来の外径より若干大きくなる。つまり、筒状部材40に対して封口部材42が圧入固定された状態となる。そのため、筒状部材40と封口部材42との間もほぼ完全に閉塞される。
【0064】
なお、本実施形態では、3つの端子44a、44bおよび44cから構成された端子部44を例示したが、端子部44の構造はこれに限定されるものではない。端子部44は、封口部材42の貫通孔42aよりも若干大きな外径を有する部分を含んでいればよく、一体に成形されていてもよいし、2つ、あるいは4つ以上の部材から構成されていてもよい。
【0065】
本実施形態における酸素センサ100は、図1に示すように、さらに、センサ素子10をハウジング20に対して固定するガラスシール部50と、ガラスシール部50に一端部が埋没している第1のセラミックス部材51および第2のセラミックス部材52とを備えている。ガラスシール部50、第1のセラミックス部材51および第2のセラミックス部材52は、ハウジング20の内径が大きい部分、つまり、ハウジング20のセンサ素子挿通孔の大径部内に配置されている。
【0066】
ガラスシール部50は、ガラス材料から形成されており、センサ素子10とハウジング20との間を気密封止する。ガラスシール部50は、より具体的には、ガラス材料を熱処理によって溶融させ、その後固化させることによって形成されている。ガラス材料としては、封止材として公知の種々の材料を用いることができる。ガラスシール部50が設けられていることにより、ハウジング20の基端側、すなわち、封口部材42や端子部44、リード線46の設けられている空間への排気ガスの侵入が防止される。
【0067】
第1のセラミックス部材51は、ガラスシール部50に対してセンサ素子10の検出部11とは反対側に配置されている。また、第2のセラミックス部材52は、ガラスシール部50に対して第1のセラミックス部材51とは反対側に配置されている。つまり、第1のセラミックス部材51と第2のセラミックス部材52とがガラスシール部50を挟持するように配置されている。さらに言い換えると、ハウジング20のセンサ素子挿通孔の大径部内に、第2のセラミックス部材52、ガラスシール部50および第1のセラミックス部材51がこの順で配置されている。第1のセラミックス部材51および第2のセラミックス部材52は、例えば図4(a)および(b)に示すようにそれぞれ円柱状であり、センサ素子10が挿通される孔51aおよび52aを有している。
【0068】
既に述べたように、第1のセラミックス部材51および第2のセラミックス部材52は、その一端部がガラスシール部50に埋没している。具体的には、第1のセラミックス部材51の下端部がガラスシール部50の上端部に埋もれた状態で接合されており、第2のセラミックス部材52の上端部がガラスシール部50の下端部に埋もれた状態で接合されている。
【0069】
第1のセラミックス部材51および第2のセラミックス部材52は、耐熱性および絶縁性に優れたセラミックス材料(例えばアルミナ)から形成されている。後述するように、酸素センサ100の製造工程において、第1のセラミックス部材51は、ガラス材料に荷重を印加するための「荷重部材」として機能する。逆に言うと、第1のセラミックス部材51は、荷重部材として機能した結果、その一端部がガラスシール部50に埋没している。また、酸素センサ100の製造工程において、第2のセラミックス部材52は、センサ素子10が仮止めされる「仮止め部材」として機能する。以下では、第1のセラミックス部材51を「荷重部材」とも呼び、第2のセラミックス部材52を「仮止め部材」とも呼ぶ。
【0070】
図1中に拡大して示しているように、ハウジング20の内側側面20sと荷重部材51の外側側面51sとの間には所定の間隙C1が設けられている。また、ハウジング20の内側側面20sと仮止め部材52の外側側面52sとの間にも所定の間隙C2が設けられている。ガラスシール部50の一部は、これらの間隙C1およびC2内に突出している。
【0071】
本実施形態における酸素センサ100は、上述したように、荷重部材として機能する第1のセラミックス部材51を有しているので、ガラスシール部50を形成する工程における熱処理を、ガラス材料に荷重を印加した状態で行うことができる。そのため、従来のようにガラス材料に荷重が印加されていない(つまり自重のみが印加されている)状態で熱処理を行う場合に比べ、溶融したガラス材料の流動を促進することができるので、ガラスシール部50を形成するための熱処理を低温化したり短時間化したりすることができる。
【0072】
以下、本実施形態における酸素センサ100の製造方法を図5、図6および図7を参照しながら具体的に説明する。図5、図6および図7は、酸素センサ100の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【0073】
まず、図5(a)に示すように、第1端子44aおよび第3端子44cを第2端子44bに溶接(例えば抵抗溶接)することによって、端子部44を形成する。
【0074】
次に、図5(b)に示すように第3端子44cをかしめることによってリード線46と端子部44とを接続した後、図5(c)に示すようにリード線46に防水キャップ48を取り付ける。
【0075】
続いて、図5(d)に示すように、封口部材42の貫通孔42aに端子部44を圧入固定する。このときの圧入代(組み合わせ寸法差)は、端子部44による貫通孔42aの閉塞が好適に行われるよう、適宜設定されている。つまり、端子部44の第2端子44bの外径は、圧入代が好ましい値となるように設定されている。圧入代は、例えば、0.1mm程度である。
【0076】
その後、図5(e)に示すように、筒状部材40に封口部材42を圧入固定する。このときの圧入代は、封口部材42による筒状部材40の閉塞が好適に行われるよう、適宜設定されている。つまり、封口部材42の外径は、圧入代が好ましい値となるように設定されている。圧入代は、例えば、0.1mm程度である。
【0077】
上述したようにしてリード線46を含むアセンブリ(以下では単に「リード線アセンブリ」と呼ぶ。)を作製したのとは別途に、以下のようにしてセンサ素子10を含むアセンブリ(以下では単に「センサ素子アセンブリ」と呼ぶ。)を作製する。
【0078】
まず、検出部11および基板12を含むセンサ素子10を用意する。センサ素子10としては、既に述べたように公知の種々の素子を用いることができる。
【0079】
次に、図6(a)に示すようにセンサ素子10を仮止め部材52に挿通した後、図6(b)に示すようにセンサ素子10を仮止め部材52に仮止めする。仮止めは、例えば、無機接着剤やガラスペーストによって行われる。
【0080】
続いて、図6(c)に示すように、センサ素子10をハウジング20に挿通する。このとき、センサ素子10は、検出部11がハウジング20の一端側に露出するように配置される。本実施形態では、センサ素子10は予め仮止め部材52に仮止めされているので、この工程において、センサ素子10は仮止め部材52ごとハウジング20に挿通される。仮止め部材52がハウジング20のセンサ素子挿通孔の大径部と小径部との境界(大径部の底に相当する部分)で係止されることにより、センサ素子10の軸方向における位置決めがなされる。また、この工程は、図1中に拡大して示したように、ハウジング20の内側側面20sと仮止め部材52の外側側面52sとの間に所定の間隙C2が設けられるように行われる。つまり、仮止め部材52の外径は、ハウジング20と仮止め部材52との間に所定の間隙C2(例えば0.05mm)が形成されるように設定されている。
【0081】
その後、図6(d)に示すように、仮止め部材52の上、すなわち、センサ素子10とハウジング20との間の空間にガラス材料50’を充填する。ガラス材料50’としては、例えば、ZnO−SiO2−MgO系ガラス材料やZnO−B23−Bi23系ガラス材料、SiO2−B23−MgO系ガラス材料などを用いることができる。また、ガラス材料50’は、粉体であってもよいし、ペレット状やペースト状であってもよい。
【0082】
次に、図6(e)に示すように、ガラス材料50’に荷重を印加するための荷重部材51をガラス材料50’の上に配置する。この工程は、図1中に拡大して示したように、ハウジング20の内側側面20sと荷重部材51の外側側面51sとの間に所定の間隙C1が設けられるように行われる。つまり、荷重部材51の外径は、ハウジング20と荷重部材51との間に所定の間隙C1(例えば0.1mm)が形成されるように設定されている。
【0083】
続いて、図7(a)に示すように、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加する。例えば図示しているように、荷重部材51の上にセラミックス製の錘2を載せることによって、荷重部材51を介してガラス材料50’に荷重を印加することができる。勿論、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加できる限り、どのような手法であってもよく、例示したように錘2を載せる手法に限定されるものではない。後述する熱処理の際に溶融したガラス材料50’の流動を十分に促進するためには、ガラス材料50’に印加される単位面積当たりの荷重(つまり圧力)は、10000Pa以上であることが好ましく、15000Pa以上であることがより好ましい。
【0084】
次に、ガラス材料50’を熱処理により溶融させた後に固化させることによって、図7(b)に示すようにガラスシール部50を形成する。この工程における熱処理は、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加したままの状態で行われる。熱処理は、例えば800℃〜900℃の温度に保持された加熱炉内で15分〜1時間行われる。この工程において、溶融したガラス材料50’に荷重部材51が沈み込むので、ガラスシール部50が完成したハウジング20内で荷重部材51の一端部(下端部)はガラスシール部50に埋没している。また、この工程において、溶融したガラス材料50’がハウジング20と仮止め部材52との間に流れ込むので、ガラスシール部50が完成したハウジング20内で仮止め部材52の一端部(上端部)はガラスシール部50に埋没している。
【0085】
続いて、図7(c)に示すように、内側カバー31および外側カバー32を含むカバー部材30をハウジング20に取り付ける。この取り付けは、例えば、溶接により行われる。このようにして、センサ素子アセンブリが完成する。
【0086】
その後、図7(d)に示すように、センサ素子アセンブリにリード線アセンブリを取り付ける。このとき、2つの端子部44の第1端子44a間にセンサ素子10の端部(検出部11が設けられているのとは反対側の端部)が挿入されることによって、第1端子44aとセンサ素子10とが接続される。また、センサ素子アセンブリのハウジング20とリード線アセンブリの筒状部材40とは、水密性を確保するために溶接(例えばレーザー溶接)される。このようにして、酸素センサ100が完成する。
【0087】
上述したように、本実施形態における酸素センサ100の製造方法では、ガラスシール部50を形成する工程における熱処理が、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加した状態で行われるので、熱処理の際に溶融したガラス材料50’の流動を促進することができる。そのため、熱処理を低温化および短時間化することができる。従来の手法、すなわち、ガラス材料には荷重が印加されず、自重のみが印加されている状態で熱処理が行われる手法では、溶融したガラス材料の流動性を十分に高くするために、典型的には熱処理を950℃以上の温度で1時間以上行う必要があった。本実施形態の製造方法では、これよりも熱処理を低温および/または短時間で行うことができる。
【0088】
熱によるセンサ素子10の劣化を十分に抑制する観点からは、熱処理は、900℃以下で行われることが好ましく、850℃以下で行われることがより好ましい。また、センサ素子10の劣化を十分に抑制するとともに酸素センサ100の製造に要する時間を十分に短縮する観点からは、熱処理は、ガラス材料50’が軟化点以上の温度にある期間が1時間以下であるように行われることが好ましく、30分以下であるように行われることがより好ましい。
【0089】
なお、本実施形態では、ハウジング20と荷重部材51との間に所定の間隙C1が設けられているが、これらの間に実質的な間隙が存在しなくてもよい。本実施形態のように所定の間隙C1を設けると、熱処理時にこの間隙C1に(つまり荷重部材51の外周に)ガラス材料50’が流れ込むので、荷重部材51とガラスシール部50との接触する面積が大きくなり、荷重部材51とガラスシール部50との接合強度が向上する。また、ハウジング20と荷重部材51との間に実質的な間隙が存在しない場合には、荷重を印加する際に荷重部材51の外側側面51sがハウジング20の内側側面20sに接触して(つまり荷重部材51がハウジング20に引っ掛かって)荷重の印加を好適に行えないことがあるが、本実施形態のように所定の間隙C1を設けることにより、そのような荷重部材51の引っ掛かりを防止することができる。荷重部材51とガラスシール部50との接合強度を十分に向上させ、荷重部材51のハウジング20への引っ掛かりを十分に抑制するためには、ハウジング20と荷重部材51との間の間隙C1は、具体的には0.2mm以上であることが好ましい。
【0090】
同様に、仮止め部材52とガラスシール部50との接合強度を向上させる点からは、本実施形態のように、ハウジング20と仮止め部材52との間に所定の間隙C2が設けられていることが好ましく、この間隙C2は、具体的には0.1mm以上であることが好ましい。ただし、ハウジング20と仮止め部材52との間の間隙C2にガラス材料50’が過度に流れ込むと、センサ素子10の先端側へガラス材料50’が漏れ出す可能性があるので、ハウジング20と荷重部材51との間の間隙C1が、ハウジング20と仮止め部材52のとの間の間隙C2よりも大きい(具体的には0.1mm以上大きい)ことが好ましい。間隙C1およびC2がこのような大小関係を満足していると、溶融したガラス材料50’が後者の間隙C2よりも前者の間隙C1へ流れ込みやすくなるので、ガラス材料50’の漏れ出しを防止することができる。
【0091】
また、本実施形態では、第1のセラミックス部材51が「荷重部材」として機能し、第2のセラミックス部材52が「仮止め部材」として機能するが、荷重部材および仮止め部材の材料はセラミックスに限定されるものではない。ただし、荷重部材および仮止め部材の材料は、耐熱性および絶縁性に優れていることが好ましいので、セラミックス製の部材を「荷重部材」や「仮止め部材」として用いることが特に好ましい。
【0092】
なお、仮止め部材(第2のセラミックス部材)52を省略してもよい。本実施形態のように仮止め部材52を設けると、センサ素子10を挿通配置するときの軸方向の位置決めや、溶融したガラス材料50’の漏れ出しを防止することが容易となる。
【0093】
続いて、図8を参照しながら、本実施形態における他の酸素センサ200を説明する。
【0094】
図8に示す酸素センサ200は、荷重部材51が、端子部44が挿入される端子挿入孔51bを有する点において、図1などに示した酸素センサ100と異なっている。端子部44とセンサ素子10とは、荷重部材51の端子挿入孔51b内で接続されている。例えば、ばね性を有する端子部44の先端部を端子挿入孔51bに挿入することにより、端子部44の先端部がセンサ素子10に当接され、そのことによってセンサ素子10と端子部44とが接続されている。
【0095】
また、酸素センサ200では、封口部材42にはリード線46のみが挿通されており、端子部44は圧入固定されていない。酸素センサ200の封口部材42は、ゴム材料(例えばフッ素ゴム)から形成されており、筒状部材40の一部(封口部材42が配置されている部分)40aを内側にかしめることによって、リード線46が固定されるとともに、筒状部材40が封口されている。
【0096】
酸素センサ200では、上述したように荷重部材51に端子挿入孔51bが設けられているので、端子部44は荷重部材51によって保持される。荷重部材51は、既に述べたことからもわかるようにガラスシール部50を介してハウジング20に一体化されているので、酸素センサ200の端子部44は、ハウジング20に一体化された部材(荷重部材51)によって保持されている。
【0097】
図15に示した酸素センサ800のように、端子部844がハウジング820とは別体の部材(大気側絶縁碍子815)で保持されていると、酸素センサ800に衝撃や振動が与えられたときにセンサ素子810に曲げ応力が発生し、センサ素子810が折れてしまうことがある。図8に示した酸素センサ200のように、荷重部材51が端子挿入孔51bを有していると、ハウジング20に一体化された荷重部材51によって端子部44が保持されるので、センサ素子10の折れに起因した製品不良の発生を防止できる。
【0098】
続いて、酸素センサ200の製造方法を図9、図10および図11を参照しながら具体的に説明する。図9、図10および図11は、酸素センサ200の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【0099】
まず、検出部11および基板12を含むセンサ素子10を用意し、次に、図9(a)に示すようにセンサ素子10を仮止め部材52に挿通する。その後、図9(b)に示すようにセンサ素子10を仮止め部材52に仮止めする。
【0100】
続いて、図9(c)に示すようにセンサ素子10をハウジング20に挿通し、その後、図9(d)に示すように、仮止め部材52の上、すなわち、センサ素子10とハウジング20との間の空間にガラス材料50’を充填する。
【0101】
次に、図10(a)に示すように、ガラス材料50’に荷重を印加するための荷重部材51をガラス材料50’の上に配置する。このとき用意される荷重部材51には、所定の大きさの端子挿入孔51bが形成されている。
【0102】
続いて、図10(b)に示すように、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加する。ここでは図示しているように、荷重部材51の上にセラミックス製の錘2を載せることによって、荷重部材51を介してガラス材料50’に荷重を印加する。
【0103】
次に、ガラス材料50’を熱処理により溶融させた後に固化させることによって、図10(c)に示すようにガラスシール部50を形成する。この工程における熱処理は、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加したままの状態で行われる。続いて、図10(d)に示すように、内側カバー31および外側カバー32を含むカバー部材30をハウジング20に取り付ける。
【0104】
その後、図11(a)に示すように、センサ素子10に端子部44を接続する。具体的には、リード線46に接続された端子部44を用意し、この端子部44を荷重部材51に形成されている端子挿入孔51bに挿入することによって接続を行う。端子挿入孔51b内で端子部44とセンサ素子10とを電気的に接続する手法としては、例えば、既に述べたようにばね性を有する端子部44の先端部をセンサ素子10に当接させる手法を用いることができるが、勿論これに限定されるものではない。
【0105】
次に、図11(b)に示すように、ハウジング20の端部に筒状部材40を取り付ける。筒状部材40とハウジング20とは、水密性を確保するために溶接(例えばレーザー溶接)される。
【0106】
続いて、図11(c)に示すように、筒状部材40内に封口部材42を挿入する。このとき、封口部材42にリード線46が挿通される。
【0107】
その後、図11(d)に示すように、筒状部材40の封口部材42が配置された部分40aを内方にかしめることによって、筒状部材40の封口を行う。このようにして、酸素センサ200が完成する。
【0108】
酸素センサ200の製造方法においても、ガラスシール部50を形成する工程における熱処理が、荷重部材51によってガラス材料50’に荷重を印加した状態で行われるので、熱処理の際に溶融したガラス材料50’の流動を促進することができ、そのため、熱処理を低温化および短時間化することができる。
【0109】
図12に、本実施形態におけるさらに他の酸素センサ300を示す。図12に示す酸素センサ300は、仮止め部材52が、コップ状に形成され、ガラスシール部50および荷重部材51を収容するガラスホルダである点において、図8に示した酸素センサ200と異なっている。
【0110】
酸素センサ300では、ガラスシール部50は、センサ素子10とガラスホルダ52との間を気密封止している。また、ガラスホルダ52とハウジング20との間には、環状のパッキン53が設けられており、ガラスホルダ52とハウジング20との間の気密性は、このパッキン53によって保たれている。
【0111】
このように、ガラスシール部50は、必ずしも図1や図8に示したようにセンサ素子10とハウジング20との間を気密封止する必要はなく、センサ素子10と他の部材との間を気密封止し、そのことによってセンサ素子10をハウジング20に対して直接または間接的に固定できるものであればよい。
【0112】
本実施形態における酸素センサ100、200および300は、ガラスシール部50を形成する際の熱処理に起因したセンサ素子10の劣化が少なく、優れた性能を有しているので、内燃機関から排出される排気ガス中の酸素の検出に好適に用いられる。
【0113】
図13に、本実施形態における酸素センサ100を備えた自動二輪車500を模式的に示す。自動二輪車500は、本体フレーム501と内燃機関600とを備える。本体フレーム501の前端にヘッドパイプ502が設けられている。ヘッドパイプ502にはフロントフォーク503が左右方向に揺動可能に設けられている。また、フロントフォーク503の下端に前輪504が回転可能に支持されている。ヘッドパイプ502の上端にはハンドル505が取り付けられている。
【0114】
本体フレーム501の後端上部から後方に伸びるようにシートレール506が取り付けられている。本体フレーム501の上部には燃料タンク507が設けられ、シートレール506上にメインシート508aおよびタンデムシート508bが設けられている。また、本体フレーム501の後端に後方へ伸びるリアアーム509が取り付けられている。リアアーム509の後端に後輪510が回転可能に支持されている。
【0115】
本体フレーム501の中央部には内燃機関600が保持されている。内燃機関600の前部にはラジエター511が取り付けられている。内燃機関600の排気ポートには排気管630が接続されている。排気管630には、酸素センサ100、三元系触媒604および消音器606が設けられている。酸素センサ100は、排気管630内を流れる排気ガス中の酸素を検出する。
【0116】
内燃機関600には、変速機515が連結されており、変速機515の出力軸516は駆動スプロケット517に取り付けられている。駆動スプロケット517はチェーン518を介して後輪510の後輪スプロケット519に連結されている。
【0117】
図14は、内燃機関600の制御系の主要な構成を示している。内燃機関600のシリンダ601には吸気弁610、排気弁606および点火プラグ608が設けられている。またエンジンを冷却する冷却水の水温を計測する水温センサ616が設けられている。吸気弁610は、空気吸入口をもつ吸気管622に接続されている。吸気管622にはエアーフローメータ612、スロットルバルブのスロットルセンサ614および燃料噴射装置611が設けられている。
【0118】
エアーフローメータ612、スロットルセンサ614、燃料噴射装置611、水温センサ616、点火プラグ608および酸素センサ100は、制御部であるコンピュータ618に接続されている。コンピュータ618には自動二輪車500の速度を示す車速信号620も入力される。
【0119】
図示しないセルモータによって、ライダーが内燃機関600を始動させると、コンピュータ618はエアーフローメータ612、スロットルセンサ614および水温センサ616から得られる検出信号および車速信号620に基づき、最適な燃料量を計算し、計算結果に基づいて、燃料噴射装置611へ制御信号を出力する。燃料噴射装置611から噴射される燃料は、吸気管622から供給される空気と混合され、適切なタイミングで開閉される吸気バルブ610を介してシリンダ601へ噴出される。シリンダ601において噴出された燃料は燃焼し、排気ガスとなって排気弁606を介して排気管630へ導かれる。
【0120】
酸素センサ100は排気ガス中の酸素を検出し、検出信号をコンピュータ618へ出力する。コンピュータ618は、酸素センサ100からの信号に基づき、空燃比が理想空燃比からどの程度ずれているかを判断する。そして、フローメター612およびスロットルセンサ614から得られる信号によって定まる空気量に対して、理想空燃比となるように燃料噴射装置611から噴出する燃料量を制御する。このように、酸素センサ100と、酸素センサ100に接続されたコンピュータ(制御部)618とを含む空燃比制御装置によって、内燃機関の空燃比が適切に制御される。
【0121】
なお、本実施形態では、自動二輪車を例示して説明を行ったが、本実施形態における酸素センサ100は、四輪自動車などの他の自動車両にも用いられる。内燃機関は、ガソリンエンジンに限られず、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0122】
また、本実施形態では、酸素センサを例として本発明を説明したが、本発明は、酸素センサに限定されず、種々のガスを検出するためのセンサに好適に用いられる。例えば、本発明は、NOx濃度を検出するためのNOxセンサにも好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によると、ガラスシール部を備えたガスセンサにおいて、ガラスシール部を形成するための熱処理を低温化および短時間化することができる。本発明は、酸素センサをはじめとする種々のガスセンサに好適に用いられる。
【0124】
本発明によるガスセンサは、乗用車、バス、トラック、オートバイ、トラクター、飛行機、モーターボート、土木車両などの種々の輸送機器用の空燃比制御装置に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の好適な実施形態における酸素センサ100を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、酸素センサ100の第1端子、第2端子および第3端子を模式的に示す斜視図である。
【図3】酸素センサ100の端子部を模式的に示す斜視図である。
【図4】(a)および(b)は、酸素センサ100の荷重部材および仮止め部材を模式的に示す斜視図である。
【図5】(a)〜(e)は、酸素センサ100の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図6】(a)〜(e)は、酸素センサ100の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図7】(a)〜(d)は、酸素センサ100の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図8】本発明の好適な実施形態における他の酸素センサ200を模式的に示す断面図である。
【図9】(a)〜(d)は、酸素センサ200の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図10】(a)〜(d)は、酸素センサ200の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図11】(a)〜(d)は、酸素センサ200の製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図12】本発明の好適な実施形態におけるさらに他の酸素センサ300を模式的に示す断面図である。
【図13】酸素センサ100を備えた自動二輪車500を模式的に示す側面図である。
【図14】図13に示す自動二輪車500における内燃機関の制御系を模式的に示す図である。
【図15】従来の酸素センサ800を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0126】
10 センサ素子
11 検出部
12 基板
20 ハウジング
30 カバー部材
31 内側カバー
32 外側カバー
40 筒状部材
42 封口部材
44 端子部
46 リード線
48 防水キャップ
50 ガラスシール部
51 荷重部材(第1のセラミックス部材)
51b 端子挿入孔
52 仮止め部材(第2のセラミックス部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のガスを検出するための検出部を有するセンサ素子と、
その一端側に前記検出部が露出するように前記センサ素子が挿通配置されるハウジングと、
ガラス材料から形成され、前記センサ素子を前記ハウジングに対して固定するガラスシール部と、
前記ガラスシール部に対して前記センサ素子の前記検出部とは反対側に配置され、一端部が前記ガラスシール部に埋没している第1のセラミックス部材と、を備えたガスセンサ。
【請求項2】
前記ハウジングの内側側面と前記第1のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられている請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記ガラスシール部に対して前記第1のセラミックス部材とは反対側に配置され、一端部が前記ガラスシール部に埋没している第2のセラミックス部材をさらに備えた請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記ハウジングの内側側面と前記第2のセラミックス部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられている請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記ハウジングの内側側面と前記第1のセラミックス部材の外側側面との間の間隙は、前記ハウジングの内側側面と前記第2のセラミックス部材の外側側面との間の間隙よりも大きい請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記センサ素子に接続された端子部をさらに備え、
前記第1のセラミックス部材は、前記端子部が挿入される端子挿入孔を有する請求項1から5のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項7】
酸素センサである請求項1から6のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項8】
請求項7に記載のガスセンサを備えた空燃比制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の空燃比制御装置を備えた輸送機器。
【請求項10】
所定のガスを検出するための検出部を有するセンサ素子を用意する工程と、
前記センサ素子をハウジングに挿通する工程と、
前記センサ素子と前記ハウジングとの間の空間にガラス材料を充填する工程と、
前記ガラス材料を熱処理により溶融させた後に固化させることによって、前記センサ素子を前記ハウジングに対して固定するガラスシール部を形成する工程と、を包含するガスセンサの製造方法であって、
前記ガラスシール部を形成する工程の前に、前記ガラス材料に荷重を印加するための荷重部材を前記ガラス材料の上に配置する工程をさらに包含し、
前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、前記荷重部材によって前記ガラス材料に荷重を印加した状態で行われるガスセンサの製造方法。
【請求項11】
前記荷重部材を配置する工程は、前記ハウジングの内側側面と前記荷重部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われる請求項10に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項12】
前記センサ素子を用意する工程の後に、前記センサ素子を仮止め部材に挿通して仮止めする工程を包含し、
前記センサ素子を前記ハウジングに挿通する工程において、前記センサ素子は前記仮止め部材ごと前記ハウジングに挿通される請求項11に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項13】
前記センサ素子を前記仮止め部材ごと前記ハウジングに挿通する工程は、前記ハウジングの内側側面と前記仮止め部材の外側側面との間に所定の間隙が設けられるように行われる請求項12に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項14】
前記ハウジングの内側側面と前記荷重部材の外側側面との間の間隙が、前記ハウジングの内側側面と前記仮止め部材の外側側面との間の間隙よりも大きい、請求項13に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項15】
前記ガラスシール部を形成する工程の後に、前記センサ素子に端子部を接続する工程をさらに包含し、
前記端子部を接続する工程は、前記荷重部材に形成されている孔に前記端子部を挿入することによって行われる請求項10から14のいずれかに記載のガスセンサの製造方法。
【請求項16】
前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、900℃以下の温度で行われる請求項10から15のいずれかに記載のガスセンサの製造方法。
【請求項17】
前記ガラスシール部を形成する工程における前記熱処理は、前記ガラス材料が軟化点以上の温度にある期間が1時間以下であるように行われる請求項10から16のいずれかに記載のガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−156757(P2009−156757A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336529(P2007−336529)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】