説明

ガスセンサ

【課題】センサ特性の長期安定性を確保しつつ、点検ガスによる動作点検を確実に行えるようにしたガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサAは、軸方向の一端側にガス流入口8を有し内部に金属酸化物半導体からなる感ガス体1を収納する円筒状の収納容器23と、軸方向の一端側の開口部からガス流入口8側を先頭にして収納容器23が嵌着されるとともに、他端側の端面に通気孔10が形成されたフィルタキャップ7と、通気孔10とガス流入口8との間のガス流路に設けられて妨害ガスおよび被毒ガスを吸着する吸着材12とを備え、収納容器23の外周面とフィルタキャップ7の内周面との間の隙間22から、吸着材12を介さずにフィルタキャップ7の外部と内部との間を連通するとともに、フィルタキャップ7の気密度が0.03〜0.6mL/(min・Pa)となるような点検ガス導入路を形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のガスセンサとしては、検知対象であるメタン等の可燃性ガスのガス濃度に応じて電気抵抗の変化する金属酸化物半導体を感ガス体に用いたものが従来より提供されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図7は従来のガスセンサの構造を模式的に示した断面図であり、金属酸化物半導体よりなる感ガス体1は、樹脂製のベース2にインサート成形により貫設された3本の電極ピン3に保持され、この感ガス体1を覆うようにしてベース2の上面側に金属キャップ6が被着されている。また金属キャップ6には、水素ガス、アルコール蒸気などの妨害ガスやシリコン蒸気、水蒸気などの被毒ガスを吸着させるためのフィルタ12を保持したフィルタキャップ7が被着されている。
【0004】
金属キャップ6は天井部の中央にガス流入口8を有し、このガス流入口8にはステンレス製の金網9が取着されており、金網9を通して感ガス体1にガスが導入されるようになっている。またフィルタキャップ7は円筒状の合成樹脂成型品からなり、軸方向の一端側には外部と内部とを連通する通気孔10が形成され、他端側の開口部から金属キャップ6を被着したベース2がガス流入口8側を先頭にして嵌着されている。フィルタキャップ7の通気孔10にはステンレス製の金網11が取着されており、この通気孔10とガス流入口8との間のガス流路にフィルタ12が配置されている。
【0005】
而して、外部から通気孔10とフィルタ12とガス流入口8とを通して金属キャップ6の内部に空気が流入すると、空気中の検知対象ガスのガス濃度に応じて感ガス体1の電気抵抗が変化するので、感ガス体1の電気抵抗の変化から検知対象ガスのガス濃度を検出することができる。また空気中に含まれる妨害ガスや被毒ガスは、フィルタキャップ7に取り付けられたフィルタ12によって吸着されるので、妨害ガスや被毒ガスが感ガス体1に与える影響を低減でき、妨害ガスによって検出誤差が発生したり、被毒ガスによってセンサ特性が長期的に変化するのを防止している。
【0006】
ところで、このガスセンサは例えば家庭用のガス漏れ警報器に用いられるのであるが、ガス漏れ警報器ではガスセンサが正常に動作しているか否かを点検する必要があり、点検時には例えばライターガス(ブタン)やアルコールガスなどの点検ガスを感ガス体1に向けて噴射し、警報器が正常に発報するか否かを確認していた。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるガスセンサではフィルタキャップ7内に通気孔10に臨ませてフィルタ12を配置しているので、通気孔10を通してフィルタキャップ7内に点検ガスを注入しようとしても、点検ガスがフィルタ12に吸着されるため、フィルタキャップ7の周面においてフィルタ12とガス流入口8との間の位置に通気孔10よりも開口面積の小さい点検ガス導入孔24(例えば孔径が1.0mm)を貫設し、この点検ガス導入孔24を通してフィルタキャップ7内に点検ガスを噴射させていた。なお、図7中の矢印は点検ガスの注入経路を示している。
【特許文献1】特許第3171733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構成のガスセンサでは、フィルタ12を通さずにフィルタキャップ7内へ点検ガスを直接噴射させるために、フィルタキャップ7の周面に点検ガス導入孔24を貫設しているので、この点検ガス導入孔24を通して妨害ガスや被毒ガスが自然拡散で流入する可能性があり、感ガス体1が低濃度の被毒ガスや雰囲気中の水分の影響を受けて、センサ特性が長期的に変動する傾向が見られた。
【0009】
また上述の特許文献1には、フィルタキャップ7の開口部の内周面に凹溝を形成することによって、フィルタキャプ7の内周面とベース2の外周面との間に間隙を設け、この間隙を通してフィルタキャップ7内部に点検ガスを導入させる構造のガスセンサも提案されているが、この構造のものでは通常のガス検知状態において点検ガス導入用の凹溝内を流通する点検ガスに対してガス流入口8を流通する検知対象ガスの選択性を増加させているだけで、この凹溝から自然拡散でガスが流入するのを完全に抑制することはできず、そのため自然拡散で内部に侵入した妨害ガスによって検出精度が悪化したり、被毒ガスによってセンサ特性が長期的に悪化する傾向が見られた。また自然拡散で流入するガスを低減するためには、凹溝の深さを非常に小さい寸法に設定する必要があるが、このような極めて浅い凹溝を樹脂成形で形成するのは難しく、成形金型のコストアップを招くという問題もあった。
【0010】
図8はフィルタキャップ7を外した状態(気密性がない状態)の警報濃度の経時変化特性を示し、図中のf〜jは5つのサンプルについて警報濃度の経時変化特性を測定した結果である。また図9は点検ガス導入孔24が形成されたフィルタキャップ7を装着した状態(気密度が1.0〜2.0mL/(min・Pa))の警報濃度の経時変化特性を示し、図中のk〜oは5つのサンプルについて警報濃度の経時変化特性を測定した結果である。これらの測定結果より、測定開始時には警報を発報する時のガス濃度が110ppmに設定されているのに対して、1121日が経過した時点で、フィルタキャップ7を外したものでは発報レベルが213〜260ppmまで増加し、フィルタキャップ7を装着したものでも発報レベルが164〜198ppmまで(測定開始時の約1.5〜1.8倍に)増加していることが判明した。すなわち、点検ガス導入孔24が形成されたフィルタキャップ7を装着したものでは、フィルタキャップ7を外した場合に比べて被毒ガスの影響を大幅に減らすことができたが、それでも点検ガス導入孔24を形成したために被毒ガスの影響を受けやすくなっており、センサ特性が長期的に変動する傾向が見られた。
【0011】
ここで、自然拡散によって点検ガス導入孔24から内部に流入する妨害ガスや被毒ガスを低減するためには、点検ガス導入孔24の孔径をできるだけ小さくすれば良いが、微細な点検ガス導入孔24を開ける加工作業や成形金型の製作作業が難しく、点検ガス導入孔24の孔径を小さくすることで内部に流入する被毒ガスを低減するのには限界があった。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、センサ特性の長期安定性を確保しつつ、点検ガスによる動作点検を確実に行えるようにしたガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、検知対象ガスのガス濃度を電気的な信号に変換するための感ガス体と、内部に感ガス体を収納するとともに、軸方向の一端側にガス流入口が形成された収納容器と、軸方向の一端側の開口部を塞ぐようにして収納容器がそのガス流入口側から内部に嵌入されるとともに、他端側にガス流入口と外部とを連通する通気孔が形成されたカバーと、通気孔とガス流入口との間のガス流路に設けられて妨害ガスおよび被毒ガスを吸着するフィルタとを備えたガスセンサにおいて、カバーの開口部から、カバーの内周面と収納容器の外周面との間にできる環状の微少隙間を通ってガス流入口に点検ガスを導入する点検ガス導入路を設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、収納容器およびカバーはそれぞれ筒状に形成され、微少隙間は、カバーの内部に収納容器を嵌入した状態でカバーの内周面と収納容器の外周面との間にできる環状の隙間からなることを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、カバーの気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項4の発明は、検知対象ガスのガス濃度を電気的な信号に変換するための感ガス体と、内部に感ガス体を収納するとともに、軸方向の一端側にガス流入口が形成された収納容器と、軸方向の一端側の開口部を塞ぐようにして収納容器がそのガス流入口側から内部に挿入されるとともに、他端側にガス流入口と外部とを連通する通気孔が形成されたカバーと、通気孔とガス流入口との間のガス流路に設けられて妨害ガスおよび被毒ガスを吸着するフィルタとを備えたガスセンサにおいて、カバーに、フィルタを介さずにカバーの外部とガス流入口とを連通するとともに、カバーの気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下となるような点検ガス導入路を設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、通気孔とガス流入口との間を連通する連通孔を具備し、カバーの他端部との間でフィルタを挟持する押さえ部材をカバーの内部に配置して成り、押さえ部材における収納容器との対向面に点検ガス導通用の凹溝を形成したことを特徴とする。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れか1つの発明において、通気孔とガス流入口との間を連通する連通孔を具備し、カバーの他端部との間でフィルタを挟持する押さえ部材をカバーの内部に配置して成り、押さえ部材と収納容器との間に、点検ガス導通用の隙間を形成するための隙間形成部材を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、カバーの開口部から、カバーの内周面と収納容器の外周面との間にできる微少隙間を通ってガス流入口に点検ガスを導入する点検ガス導入路を設けているので、この点検ガス導入路を通して注入した点検ガスがフィルタに吸着されることはなく、点検ガスによる動作確認を確実に行うことができる。しかもカバーに収納容器を嵌入させた状態でカバーの内周面と収納容器の外周面との間にできる微少隙間から点検ガス導入路を構成しているので、カバーの周面に点検ガス注入孔を形成したガスセンサや、カバーの内周面或いは収納容器の外周面に凹溝を形成した従来のガスセンサに比べて開口面積の小さい隙間を容易に形成することができる。したがって、噴出圧入された点検ガスのみ点検ガス導入路を通過することを許容するとともに、ガスセンサの気密性を向上させることができ、点検ガス導入路から自然拡散によって外部の空気が侵入するのを確実に防止して、外部の妨害ガスや被毒ガスによって感ガス体の検出特性が悪化するのを防止できるという効果がある。また自然拡散の外部空気を収納容器に直接侵入させず、フィルタを介して収納容器に侵入させるので、被毒ガスや妨害ガスをフィルタで吸着させて、感ガス体に到達させないようにできる。
【0020】
また、この構造においては、点検ガス導入路の経路長を長く構成することが可能であるため、外部の妨害ガスや被毒ガスの侵入をより確実に防ぐことができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、微少隙間が、筒状のカバーの筒内に筒状の収納容器を嵌入させた状態でカバーの内周面と収納容器の外周面との間にできる環状の隙間からなり、請求項1の発明と同様の効果がある。
【0022】
請求項3の発明によれば、カバーの気密度を0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下としているので、従来のガスセンサ(気密度が1.0〜2.0mL/(min・Pa))に比べて気密度が大幅に高くなって、点検ガス導入路から自然拡散によって外部の空気が入りこむのを確実に防止して、強制的に噴出圧入させた点検ガスのみを内部に流入させることができるから、外部の妨害ガスや被毒ガスによって感ガス体のセンサ特性の長期安定性が悪化するのを防止できるという効果がある。
【0023】
請求項4の発明によれば、フィルタを介さずにカバーの外部とガス流入口との間を連通する点検ガス導入路をカバーに設けているので、この点検ガス導入路から注入した点検ガスがフィルタに吸着されることはなく、点検ガスによる動作確認を確実に行うことができ、しかもカバーの気密度を0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下としているので、従来のガスセンサ(気密度が1.0〜2.0mL/(min・Pa))に比べて気密度が大幅に高くなって、点検ガス導入路から自然拡散によって外部の空気が入りこむのを確実に防止して、強制的に噴出圧入させた点検ガスのみを内部に流入させることができるから、外部の妨害ガスや被毒ガスによって感ガス体のセンサ特性の長期安定性が悪化するのを防止できるという効果がある。
【0024】
請求項5の発明によれば、カバーの天井部との間でフィルタを挟持する押さえ部材をカバーの内部に配置し、この押さえ部材における収納容器との対向面に点検ガス導通用の凹溝を形成しているので、カバーの開口部から噴出圧入された点検ガスが点検ガス導入路を通って内部に侵入すると、内部に侵入した点検ガスが凹溝を介してガス流入口まで流入するから、カバー内部に噴出圧入された点検ガスをガス流入口に効率良く集めることができるという効果がある。しかも、押さえ部材に設けた凹溝は、カバー内部に噴出圧入された点検ガスを点検ガス流入口まで導通するために設けられたものであり、この凹溝はカバーの開口部に露出していないので、この凹溝を形成することによってガスセンサの気密性が損なわれることはなく、請求項1の発明と同様に噴出圧入された点検ガスのみを点検ガス導入路を通してカバー内部に侵入させることができる。また、押さえ部材の連通孔により空間層が形成されるので、カバー内部に噴出圧入された点検ガスは、点検後にその空間層を介してフィルタに拡散するから、カバー内部に点検ガスが籠もって点検ガスによる警報動作が長時間継続するのを防止できるという効果がある。そのうえ、フィルタに吸着された点検ガスが再放出されたとしても、再放出された点検ガスが押さえ部材の空間層によって感ガス体に到達しにくくなるので、フィルタに吸着した点検ガスで警報することを防止できるという効果もある。また万が一に、点検ガス導入路から自然拡散の外部空気が侵入したとしても、押さえ部材の空間層を介してフィルタにも流れるので、被毒ガスや妨害ガスをフィルタで吸着させて、感ガス体に侵入する外部空気の影響を低減できる効果もある。
【0025】
請求項6の発明によれば、カバーの天井部との間でフィルタを挟持する押さえ部材をカバーの内部に配置し、この押さえ部材と収納容器との間に隙間形成部材を配置することで、押さえ部材と収納容器との間に点検ガス導通用の隙間を形成しているので、カバーの開口部から噴出圧入された点検ガスが点検ガス導入路を通って内部に侵入すると、内部に侵入した点検ガスが点検ガス導通用の隙間を介してガス流入口まで流入するから、カバー内部に噴出圧入された点検ガスをガス流入口に効率良く集めることができるという効果がある。しかも、隙間形成部材によって形成される隙間は、カバー内部に噴出圧入された点検ガスを点検ガス流入口まで導通するために設けられたものであり、この隙間はカバーの開口部に露出していないので、この隙間を形成することによってガスセンサの気密性が損なわれることはなく、請求項1の発明と同様に噴出圧入された点検ガスのみを点検ガス導入路を通してカバー内部に侵入させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
このガスセンサAは、図2及び図3に示すように樹脂製のベース2、ベース2にインサート成形により埋設固定された3本の電極ピン3、電極ピン3にヒータ兼用電極4および中心電極5を介して電気的に接続された感ガス体1、およびベース2に冠着された金属キャップ6からなるセンサ本体Bと、このセンサ本体Bの金属キャップ6に被着されたカバーとしてのフィルタキャップ7とを備えている。
【0028】
感ガス体1は検知対象ガスのガス濃度を電気的な信号に変換するものであり、例えば検知対象のガスが作用することによって電気抵抗が変化するSnOのような金属酸化物半導体により楕円球状に形成されており、この感ガス体1の内部にはコイル状の白金からなるヒータ兼用電極4が埋設されるとともに、ヒータ兼用電極4のコイル部分の中心を貫通するようにして白金からなる中心電極5が埋設されている。ここで、ヒータ兼用電極4に高低2段階の電力を交互に印加することによって、感ガス体1の温度を高低2段階に間欠的に加熱することができ、その時の電極4,5間の電圧値より感ガス体1の電気抵抗を求め、この抵抗値から感ガス体1の高温時には例えばメタンガスやプロパンガスなどの可燃性ガスを検出し、低温時には例えば一酸化炭素を検出するのである。
【0029】
ベース2はPBTなどの合成樹脂により円板状に形成されており、このベース2を厚み方向に貫通するようにして3本の電極ピン3が一列に埋設固定されている。そして、中央の電極ピン3の上側部に中心電極5の一端が電気的に接続され、両側の電極ピン3の上側部にコイル状のヒータ兼用電極4の両端がそれぞれ電気的に接続されている。
【0030】
金属キャップ6は軸方向の一端側が開口した有底円筒状であって、天井部を為す底部の中央には内部と外部とを連通するガス流入口8が形成されており、感ガス体1を覆うようにしてベース2の感ガス体1側に冠着されている。金属キャップ6の天井部に設けたガス流入口8には、防爆性能を確保するために例えばステンレス製の100メッシュの金網9が二重に固着されており、この金網9を通して外部(フィルタキャップ7の内部空間)から感ガス体1にガスが導入されるのである。なおベース2の周面と金属キャップ6の内周面とは高気密に接合されており、ガス流入口8のみを通してガスが導入されるようになっている。したがって、ベース2と金属キャップ6とで構成される収納容器23に自然拡散の外部空気を直接侵入させず、後述の吸着材12(フィルタ)を介して収納容器23に侵入させるので、被毒ガスや妨害ガスを吸着材12で吸着させて、感ガス体1に到達させないようにできる。
【0031】
フィルタキャップ7は合成樹脂により円筒状に形成されており、軸方向の一端側の開口部からガス流入口8側を先頭にしてセンサ本体Bが嵌着され、このセンサ本体Bによってフィルタキャップ7の開口部が閉塞されている。またフィルタキャップ7の他端側の端面(天井部)にはガス流入口8と外部とを連通する通気孔10が貫設されている。またフィルタキャップ7の一端側の開口縁には、開口縁の一部を天井部側に窪ませることによって切欠19が形成されており、この切欠19に対して円周方向の両側部にはフィルタキャップ7の周面から径方向の外側に向かって突片20,20が突出している。
【0032】
またフィルタキャップ7の内部には、開口部から例えばステンレス製の100メッシュの金網11を挿入して、フィルタキャップ7の底部(天井部)に接着などの方法で固定した後、開口部から粒状の活性炭からなる吸着材12を充填し、さらに円環状の合成樹脂成型品からなる押さえ部材14を開口部から挿入して、押さえ部材14の周面に円周方向に沿って形成された凹溝15とフィルタキャップ7の内周面に円周方向に沿って形成された突条16とを係合させることで、フィルタキャップ7の筒内に押さえ部材14を固定する。押さえ部材14の上側面(フィルタキャップ7の天井部側の面)には、例えばステンレス製の100メッシュの金網13が予め固着されており、押さえ部材14をフィルタキャップ7の筒内に挿入すると、2枚の金網11,13の間に吸着材12が保持される。ここに、この吸着材12の層から検知対象のガスは通過させるとともに水素ガス、アルコール蒸気などの妨害ガスやシリコン蒸気、水蒸気などの被毒ガスを吸着させるためのフィルタが構成されている。尚、2枚の金網11,13はフィルタキャップ7の内周面の径よりもやや外径の小さい円板状に形成され、各々の網の孔径は吸着材12の粒径よりも小さい孔径となっている。
【0033】
なお、押さえ部材14の中央には、図4(a)(b)に示すように押さえ部材14を厚み方向に貫通してガス流入口8,10間を連通する連通孔17が形成されており、フィルタキャップ7の通気孔10から流入したガスは金網11→吸着材12→金網13→押さえ部材14の連通孔17を通して金属キャップ6のガス流入口8に導入されるようになっている。また押さえ部材14の下側面(金属キャップ6との対向面)には、深さが約0.1mmの複数の凹溝18が放射状に形成されている。各凹溝18は金属キャップ6の外周面側からガス流入口8側に向かって延びており、これらの凹溝18によって金属キャップ6の対向面との間にガスを導通する導通路が形成される。
【0034】
以上のような構成のガスセンサの製造方法を以下に説明する。先ず、3本の電極ピン3をインサート成形によりベース2と同時成形した後、各電極ピン3の先端にコイル状のヒータ兼用電極4および中心電極5を溶接或いはろう付けにより取り付ける。次にPd,Ptなどの触媒を添加した酸化錫の粉体に溶媒を加えてペースト状にしたものを電極4,5に塗布し、両電極4,5を内部に埋設した楕円球状の感ガス体1を形成して、約600℃で燒結させた後、感ガス体1の機械的強度を上げるためにシリカ系バインダーを塗布し、再び約600℃で焼成する。そして、感ガス体1を覆うようにしてベース2の上面側に金属キャップ6を嵌着し、金属キャップ6をかしめることによってベース2に固定して、センサ本体Bの組立を完了する。
【0035】
次にフィルタキャップ7の天井部を下向きにした状態で、フィルタキャップ7の内部に金網11を挿入して、この金網11をフィルタキャップ7の天井部に設けた通気孔10の周部に接着固着することで、通気孔10を塞いだ後、フィルタキャップ7の開口部から粒状の吸着材12を詰め込む。次に、片方の面に金網13が固着された押さえ部材14を、金網13側を下向きにしてフィルタキャップ7の内部に圧入し、押さえ部材14の凹溝15をフィルタキャップ7の内周面に形成した突条16と凹凸係止させることで、押さえ部材14をフィルタキャップ7の内部に固定して、フィルタキャップ7の天井部に固着された金網11と、押さえ部材14に固着された金網13との間に粒状の吸着材12を保持させる。この状態で、フィルタキャップ7の開口部からガス流入口8側を先頭にしてセンサ本体Bを嵌入し、圧入或いは接着などの方法でセンサ本体Bをフィルタキャップ7に固定する。ここで、金属キャップ6の天井面が押さえ部材14と当接するまで、センサ本体Bをフィルタキャップ7の内部に挿入すると、ベース2の底面とフィルタキャップ7の開口側の端部との間に隙間21が形成されるようになっている。
【0036】
ところで、本実施形態のガスセンサAは例えば家庭用のガス漏れ警報器に用いられ、警報器の筐体に収納された回路基板にガスセンサAを実装してある。筐体にはガスセンサAの通気孔10に対向する部位に通気窓が形成されるとともに、点検ガスを噴出圧入するための点検ガス導入孔が設けてあり、点検ガス導入孔から噴出圧入された点検ガスは筐体内部のガス流路を通ってフィルタキャップ7の周面に設けた切欠19まで導入される。ここで、ガス流路を通って切欠19に導かれた点検ガスは切欠19に対して正面から流れ込み(図2(c)に点検ガスの流れを矢印で示す)、フィルタキャップ7の周面に形成された切欠19を通してベース2と回路基板との間の隙間21に流入するのであるが、フィルタキャップ7の周面には、切欠19に対して円周方向の両側部に突片20,20が突設されているので、フィルタキャップ7の周面に沿って右側に流出する点検ガスの一部が突片20,20に当たって偏向し、切欠19に集められるので、切欠19を通してベース2と回路基板との間の隙間21に流入する点検ガスの流量を大きくできる。そして隙間21に流入した点検ガスは、金属キャップ6の外周面とフィルタキャップ7の内周面との間にできる環状の微少隙間22(ガス導入路)を通して図2(a)中の上側に流れて(図1に点検ガスが流れる経路を矢印で示す。尚実際には隙間22は環状断面を有する微少な間隙であるが本図ではこれを強調して図示してある。)、押さえ部材14の下側面(金属キャップ6との対向面)に当たり、押さえ部材14の下側面に形成された凹溝18を経て金属キャップ6のガス流入口8に導かれるので、ガス流入口8に取着された金網9を通過して金属キャップ6内に流入する。したがって、点検ガスは吸着材12中を通過することなく、上記のガス導入路(環状の微少隙間22)を通過させることで感ガス体1まで導入されるので、点検ガスが吸着材に吸着されることはなく、点検ガスによる動作確認を確実に行うことができる。
【0037】
このように本実施形態では円筒状の金属キャップ6の外周面と、円筒状のフィルタキャップ7の内周面との間にできる環状の微少隙間22からガス導入路を構成しており、このガス導入路(隙間22)の大きさは金属キャップ6の外周面の寸法公差とフィルタキャップ7の内周面の寸法公差とで決まるから、従来のガスセンサのようにフィルタキャップ7の周面に孔径の小さい点検ガス導入孔を貫設したり、フィルタキャップ7の内周面に深さの浅い凹溝を形成する場合に比べてガス導入路を容易に形成することができ、しかもガス導入路(隙間22)の全長はセンサ本体Bの高さ寸法(ベース2の底面から金属キャップ6の天井面までの距離)と略同じ長さになり、充分距離が長いので、ガスセンサAの気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下となり、従来のガスセンサ(気密度が1.0〜2.0mL/(min・Pa))に比べて気密度を向上させることができた。なお、ガスセンサAの気密性を高くすればするほど(すなわち気密度(コンダクタンス値)を小さくすればするほど)、ガス導入路から自然拡散で流入する妨害ガスや被毒ガスを略ゼロにできるが、気密性が高すぎると噴出圧入された点検ガスも入りにくくなるので、気密度の下限値は0.03mL/(min・Pa)程度とするのが好ましく、また気密性が低いほど自然拡散によって流入する妨害ガスや被毒ガスの影響が大きくなるから、気密度の上限値は少なくとも自然拡散によってガスが流入することのない気密度、例えば0.6mL/(min・Pa)程度とするのが好ましい。
【0038】
ここで、図5はガスセンサAの気密度を測定するための測定装置の概略構成図であり、配管31の一端側にボンベ30を接続するとともに、他端側に接続チューブ32を介してフィルタキャップ7の通気孔10側を接続した状態で、ボンベ30から配管31に空気を流して、このときの流量Qをマスフローコントローラ33で測定するとともに、マノメータ34により差圧ΔPを測定し、以下の(式1)を用いて気密度(コンダクタンス値)Cを求めている。
【0039】
C=Q/ΔP …(式1)
上述のように本実施形態のガスセンサAは、フィルタキャップ7に点検ガス導入孔を設けた従来のガスセンサに比べて気密度を大幅に高めることができたので、空気中の被毒ガスや妨害ガスが自然拡散により上述のガス導入路を通って感ガス体1まで到達するのを確実に防止して、被毒ガスの影響による感ガス体1の警報濃度の経時変化を抑制することができた。図6は本実施形態の警報濃度の経時変化を示し、図中のa〜eは5つのサンプルについて警報濃度の経時変化特性を測定した結果である。この結果から測定開始時には発報濃度が110ppmに設定されているのに対して、1121日後には発報濃度が94〜129ppm(測定開始時の0.85倍〜1.17倍)に変化しているが、その変化幅は測定開始時の±17%以内に低減されており、従来のガスセンサに比べてセンサ特性の安定性を向上させることができた。
【0040】
また本実施形態では押さえ部材14の下面に設けた凹溝18によって、押さえ部材14と金属キャップ6との間にガス導通用の隙間が形成されるから、フィルタキャップ7の開口部から噴出圧入された点検ガスが点検ガス導入路(隙間22)を通って内部に侵入すると、内部に侵入した点検ガスは上記の凹溝18を介してガス流入口8まで流入することになり、フィルタキャップ7内部に噴出圧入された点検ガスをガス流入口8に効率良く集めることができる。ここで、押さえ部材14に設けた凹溝18は、フィルタキャップ7内部に噴出圧入された点検ガスをガス流入口8まで導通させるために設けられたものであり、この凹溝18はフィルタキャップ7の開口部に露出していないので、この凹溝18を形成することによってガスセンサの気密性が損なわれることはなく、噴出圧入された点検ガスのみを点検ガス導入路(隙間22)を通してフィルタキャップ7内部に侵入させることができる。また、押さえ部材の連通孔により空間層が形成されるので、カバー内部に噴出圧入された点検ガスは、点検後にその空間層を介してフィルタに拡散するから、カバー内部に点検ガスが籠もって点検ガスによる警報動作が長時間継続するのを防止できるという効果がある。そのうえ、フィルタに吸着された点検ガスが再放出されたとしても、再放出された点検ガスが押さえ部材の空間層によって感ガス体に到達しにくくなるので、フィルタに吸着した点検ガスで警報することを防止できるという効果もある。また万が一に、点検ガス導入路から自然拡散の外部空気が侵入したとしても、押さえ部材の空間層を介してフィルタにも流れるので、被毒ガスや妨害ガスをフィルタで吸着させて、感ガス体に侵入する外部空気の影響を低減できる効果もある。
【0041】
ところで凹溝18の深さ寸法は非常に浅いので(本実施形態では例えば0.1mm程度)、凹溝18の加工が難しい場合には凹溝18を形成する代わりに、押さえ部材14と金属キャップ6との間に隙間形成部材(例えば上述の金網9など)を介在させることで、押さえ部材14と金属キャップ6との間にガス導通用の隙間を確保するようにしても良いが、部品数が増加してコストアップとなるので、押さえ部材14に凹溝18を形成するのが好ましい。なお隙間形成部材によって形成される隙間は、フィルタキャップ7内部に噴出圧入された点検ガスをガス流入口8まで導通するためのものであり、この隙間はフィルタキャップ7の開口部に露出していないので、この隙間を形成することによってガスセンサの気密性が損なわれることはなく、噴出圧入された点検ガスのみを点検ガス導入路(隙間22)を通してフィルタキャップ7内部に侵入させることができる。
【0042】
尚、本実施形態ではフィルタキャップ7の開口部から、フィルタキャップ7の内周面と金属キャップ6(収納容器23の外周面)との間にできる隙間22によりガス導入路を構成しているが、ガス導入路を上記の隙間22に限定する趣旨のものではなく、フィルタキャップ7の気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下となるのであれば、どのようなガス導入路を設けても良い。また、例示された図面の特定の幾何的構成や寸法関係に限定されるものではない。
【0043】
また、本実施形態ではメタン等の可燃性ガスを検知対象とするガスセンサを例に説明を行ったが、検知対象ガスを可燃性ガスに限定する趣旨のものではなく、一酸化炭素などの不完全燃焼ガスを検知対象とするガスセンサでも良いことは言うまでもない。
【0044】
また本実施形態では金属酸化物半導体よりなる感ガス体を例に説明を行ったが、感ガス体を金属酸化物半導体に限定する趣旨のものではなく、接触燃焼式のセンサや電気化学式のセンサを用いても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態のガスセンサの構造を模式的に示した断面図である。
【図2】同上を示し、(a)は一部破断せる正面図、(b)は左側から見た側面図、(c)は下面図である。
【図3】同上の一部破断せる上面図である。
【図4】同上に用いるスペーサを示し、(a)は正面図、(b)は一部破断せる側面図である。
【図5】同上のコンダクタンス値を測定する測定装置の構成図である。
【図6】同上の警報濃度の経時変化を示す説明図である。
【図7】従来のガスセンサの構造を模式的に示した断面図である。
【図8】フィルタキャップを外した状態の警報濃度の経時変化を示す説明図である。
【図9】図7に示す従来のガスセンサ構造での警報濃度の経時変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
A ガスセンサ
1 感ガス体
7 フィルタキャップ
8 ガス流入口
10 通気孔
12 吸着材
22 隙間
23 収納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスのガス濃度を電気的な信号に変換するための感ガス体と、
内部に前記感ガス体を収納するとともに、軸方向の一端側にガス流入口が形成された収納容器と、
軸方向の一端側の開口部を塞ぐようにして前記収納容器がそのガス流入口側から内部に嵌入されるとともに、他端側に前記ガス流入口と外部とを連通する通気孔が形成されたカバーと、
前記通気孔と前記ガス流入口との間のガス流路に設けられて妨害ガスおよび被毒ガスを吸着するフィルタとを備えたガスセンサにおいて、
前記カバーの開口部から、前記カバーの内周面と前記収納容器の外周面との間にできる微少隙間を通って前記ガス流入口に点検ガスを導入する点検ガス導入路を設けたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記収納容器および前記カバーはそれぞれ筒状に形成され、前記微少隙間は、前記カバーの内部に前記収納容器を嵌入した状態で前記カバーの内周面と前記収納容器の外周面との間にできる環状の隙間からなることを特徴とする請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記カバーの気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項4】
検知対象ガスのガス濃度を電気的な信号に変換するための感ガス体と、
内部に前記感ガス体を収納するとともに、軸方向の一端側にガス流入口が形成された収納容器と、
軸方向の一端側の開口部を塞ぐようにして前記収納容器がそのガス流入口側から内部に挿入されるとともに、他端側に前記ガス流入口と外部とを連通する通気孔が形成されたカバーと、
前記通気孔と前記ガス流入口との間のガス流路に設けられて妨害ガスおよび被毒ガスを吸着するフィルタとを備えたガスセンサにおいて、
前記カバーに、前記フィルタを介さずに前記カバーの外部と前記ガス流入口とを連通するとともに、前記カバーの気密度が0.03mL/(min・Pa)以上且つ0.6mL/(min・Pa)以下となるような点検ガス導入路を設けたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
前記通気孔と前記ガス流入口との間を連通する連通孔を具備し、前記カバーの他端部との間で前記フィルタを挟持する押さえ部材を前記カバーの内部に配置して成り、
前記押さえ部材における前記収納容器との対向面に点検ガス導通用の凹溝を形成したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記通気孔と前記ガス流入口との間を連通する連通孔を具備し、前記カバーの他端部との間で前記フィルタを挟持する押さえ部材を前記カバーの内部に配置して成り、
前記押さえ部材と前記収納容器との間に、点検ガス導通用の隙間を形成するための隙間形成部材を配置したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−46932(P2006−46932A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224061(P2004−224061)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】