説明

ガスタンク用の多層熱可塑性樹脂構造体

【課題】多層熱可塑性樹脂構造体、タンクを製造するための前記構造体の使用、および前記構造体からなるタンク。
【解決手段】本発明における多層熱可塑性樹脂構造体には、少なくとも1層のエチレン−ビニルアルコールコポリマー層が含まれ、このコポリマーは、密度が0.94〜1.4であり、170〜240℃の温度におけるメルトフローインデックスが1.3〜4.2g/10分までの間のものである。これは、ガスタンクを製造するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層熱可塑性樹脂構造体、タンクを製造するための前記構造体の使用、および前記構造体からなるタンクに関する。
【0002】
特に、本発明は、プラスチック材料製のタンク、とりわけ溶媒や、水素、酸素、炭化水素のような加圧ガスの貯蔵を目的としたタンクのような、継ぎ目のない多層の回転(revolution)構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
現在のところ、高圧のガスを貯蔵するために使用されるタンクとしては、そのほとんどが全金属製のものであるか、気密性の高いアルミニウム合金製の袋状物(vessie)で場合によっては炭素/樹脂複合材料によって周囲を覆って高圧に耐えるように機械的な補強をするようにしたもの、または、熱可塑性樹脂の袋状物で、場合によっては炭素/樹脂複合材料によって周囲を覆って高圧に耐えるように機械的な補強をするようにしたものなどがある。
【0004】
第1のタイプのタンクは、重く、また、金属が腐食される点で不利である。
【0005】
第2のタイプのタンクは、気密性の高いアルミニウム袋状物を使用するという点で不利である。そのためには、フローターニング(fluotournage)のような、コストのかかる技術を用いなければならない。その上に、加圧水素の存在下では、特に腐食が原因となるアルミニウムの脆化が大問題で、そのためにタンクの耐久寿命が短くなってしまう。
【0006】
第3のタイプのタンクで現在使用されている熱可塑性樹脂製の袋状物の原料は、主として、化学的な架橋が有りまたは無しのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6または11のようなポリアミド、またはポリプロピレンもしくはポリブテンの混合物などである。熱可塑性樹脂の袋状物を含むこれらのタンクは必ずしも、特に高圧ガスのような、圧縮空気以外のガスのような透過性のあるガスの貯蔵を目的としていないので、水素のようなガスでは漏れ速度がきわめて大きくなる。最近の多くの製造仕様では、上記の材料に加えて、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、酢酸ビニルコポリマー、それにポリスチレンが使用される。これらの仕様、特に回転成形(rotomoulage)においては、これらの熱可塑性樹脂ポリマーとしては、極めて低粘度で、密度が0.924〜0.939、フローインデックスが3〜9g/10分のものを、使用するのがよいとされている。そのグレードは商品名で示されるが、それは、ポリマーの場合、多くの商品グレードがあり、言い方を変えれば、結晶性、質量、鎖の長さなどの点で各種のものがあるということである。
【0007】
たとえば、工業的な多層回転成形では基本的に、ポリエチレン/ポリエチレン、または、ポリエチレン/ポリウレタンフォーム/ポリエチレンといったタイプの構造体が用いられる。よりエンジニアリングプラスチックに近いもの、特にエチレン−ビニルアルコールコポリマー系のものは使用された例がない。この後者のコポリマーは、射出成形や押出成形により、包装、食品加工、化粧品などの用途に使用されてきたものである。それらの用途では、500μm未満の薄さで使用されている。
【0008】
さらにまた、タンクとして使用するためには、従来技術では、回転体の形状を得るため、および/または、たとえばハンドルや、栓やセンサーなどの金属接続部などのインサートを設けるためには継ぎ目が必要であった。そのような継ぎ目があると、袋状物は均質物にはならず、漏れ速度が大きくなってしまう。
【0009】
したがって、現行技術によるよりも軽量で、製造コストが下がり、得られるタンクの耐久寿命が長くなるようなタンクを製造できるような構造体の登場が、切実に望まれている。
【0010】
さらに、貯蔵のためのもの、たとえばガスタンクのようなものでは、継ぎ目がなく均等な回転体構造で、ガスに対する不透過性が改善され、機械的強度が大きく、耐光性や耐溶剤性に優れる、などの性質を有するものが望まれる。
【0011】
このタイプのタンクでは、たとえば、水素のような高圧のガスを貯蔵することが可能な程度に、漏れ速度を小さくしなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が目的としているのは正に、上記のような欠点を克服し、優れた性質を有する構造体と、前記の構造体からなる貯蔵容器である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の構造体は、エチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層を少なくとも1層含む多層熱可塑性樹脂構造体であるが、このコポリマーは、密度が0.94〜1.4、たとえば1.10〜1.22であり、また、メルトフローインデックスが、170〜240℃、たとえば180〜230℃での測定で、1.3〜4.2g/10分、たとえば1.5〜4g/10分のものである。
【0014】
このエチレン−ビニルアルコールコポリマーを、以下においてはEVOHと称することもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるEVOH層は、ガス類、特に水素に対しても優れたバリアー体を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による方法を使用して、1mmポリアミドPA12/2mmエチレン−ビニルアルコール/1mmグラフト化ポリエチレンからなる3層構造を回転成形により製造する場合における、時間(分)の関数としての、回転成形金型の外側に設置した温度センサーによる温度、および、回転成形炉の内部の雰囲気温度の温度変化をグラフ表示したものである。
【図2】2mmの厚みの各種の熱可塑性樹脂ポリマー(本発明によるEVOHも含む)での、60℃におけるヘリウムガスの透過率をグラフ表示したものである。
【図3】本発明によるタンクの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、このエチレン−ビニルアルコールコポリマーは、以下の化学式であらわすことができ、
【0018】
【化1】

【0019】
ここで、mはポリマー中で10〜80モル%、または20〜80モル%である。
【0020】
このエチレン−ビニルアルコールコポリマーのメルトフローインデックスは、ASTM D1238−88標準に基づいて測定するが、その試験には、ケイネス・ギャラクシー1・マシン(machine Kayeness Galaxy 1)(商標)モデル7053DE(製造:ケイネス社(Kayeness Inc.)、ペンシルバニア州19543、モルガンタウン)を用いる。この試験では、そのポリマーの融点より高い所定の温度にしたチューブの中にポリマー充填物をセットし、30秒の間に流れ出すポリマーの量を測定する。次いで、その時間を分に換算する。
【0021】
EVOHポリマーは通常、ペレットの形状で販売されている。この市販ペレットを、たとえば室温または極低温で超微粉砕して粉体としておくのが好ましく、その粒度は、ポリマーの性質、想定する多層構造体によって選択するが、好ましくは、0.7mm未満、より好ましくは0.1〜0.7mmである。このように超微粉砕しておくことで、後にEVOHを溶融させるために過熱する必要が無く、しかも均質な層を形成できる。
【0022】
さらに、本発明において選択されるEVOHのグレードとしては、通常回転成形に用いられるPE、PVC、PAなどのような熱可塑性樹脂と比較して、メルトフローインデックスがより低いもの、言い換えれば、粘度のより高いものが好ましい。別の言い方をすれば、本発明では、EVOHは溶融状態においても粘度が非常に高いままで、そのため0.5mm以上の厚みで滞積させることができるということで、これは、通常の回転成形による製造法では、かなり流動性の高い熱可塑性樹脂グレードが必要とされているのとは対照的である。
【0023】
このEVOH熱可塑性樹脂は、多量の水分を吸収し、それにより、機械的性質、レオロジー的性質、およびガスバリアー性が低下する。したがって、本発明の多層構造体では、EVOHを水分から保護するために、たとえば、EVOH以外に耐水性の熱可塑性樹脂材料の層を用いるのが好ましい。これは従来技術では試みられたことがないことであるが、その理由は、回転成形に従来使用されるEVOH以外の熱可塑性樹脂材料の層の、粘度、流動性などのレオロジー的性質、および融解、極性、分解温度などの物理化学的性質が、相互に大きく異なる場合があるからである。
【0024】
本発明はこの課題を克服するもので、そのためには、溶融状態でも粘度を保つEVOHのグレートを適切に選択し、成形温度としてその融点よりもわずかに高い温度を選択する。これにより、EVOHの厚い層を形成することができ、また、EVOHに隣接するEVOH以外の熱可塑性樹脂材料がEVOHに混入することを防ぎ、それによって、EVOHを他の熱可塑性樹脂材料に積層させることが可能となる。
【0025】
本発明によるまた別の利点として、各種の熱可塑性樹脂材料による層を塗布していく間に、装置の温度を低下させる必要なく、多層を堆積させることが可能であるということがある。したがって、たとえば、現行技術とは異なり、内側の熱可塑性樹脂層、言い換えれば、最後に堆積させる層の温度は、それ以前の熱可塑性樹脂材料の層よりも高くなってもよく、別の言い方をすれば、層間の相互浸透なしに、第1層を形成できるということである。
【0026】
EVOHは機械的な性質が良好なポリマーで、優れたガスバリアー層を形成する。しかし、ある種のガス、たとえばヘリウムや水素は非常に透過性が強いことが知られている。さらに、それらの貯蔵圧は高く、10〜10パスカルにも達するので、そのために透過性がさらに強まる。そのような特性があるために、EVOHバリアー層を厚くする必要があり、また、タンクからの漏れ速度を最小限に抑えるためには、全ての熱可塑性樹脂/接続部の界面の気密性を上げなければならない。驚くべき事には、本発明による構造体で上記のようなEVOHの特性を利用すれば、EVOHの層を十分厚くすることができ、その結果、本発明の構造体は、上記のような圧力で例示したようなガスを貯蔵するのに必要な性能を有するタンクを作成するのに使用できる。
【0027】
EVOHは大量の水分を吸収しがちで、そのために、その特性、特にガスバリアー性が低下してしまう傾向がある。これが理由で、EVOH層は多層構造の中で使用されることが多く、EVOH層の両側に熱可塑性樹脂材料の層を設けて水分からEVOH層を保護する。
【0028】
本発明によれば、前記のエチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層は、0.5mmよりは厚いのがよく、たとえば厚みが0.3〜20mm、または0.5〜10mm、さらにまたは0.5〜5mmである。EVOH層の厚みを増せば、その材料の性質が改善される。想定される用途に応じて、特に、要求されるコスト、重量、機械的強度、ガスの性質、貯蔵圧力、貯蔵条件、許される漏れ速度などに配慮して、選択すればよい。
【0029】
本発明によれば、この構造体には、前記のエチレン−ビニルアルコールコポリマーとは異なった熱可塑性樹脂材料からなる層を少なくとも1層含んでもよく、それらは、ポリエチレン(PE)、グラフト化ポリエチレン(PEG)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、ポリスチレン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエステルアミド、ポリアミド(PA)、ポリアリールアミド(PAA)、またはこれらの熱可塑性樹脂材料の混合物からなる群より選択される。
【0030】
前記のエチレン−ビニルアルコールコポリマーとは異なった、上記のような熱可塑性樹脂材料の層が何層か有る場合には、それらの別の層での材料は、同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
本発明によれば、その構造体は、たとえば、少なくとも第1および第2の層を含み、それらはそれぞれ、エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の第1および第2の互いに同一または異なる熱可塑性樹脂材料からなっていて、その構造体は、熱可塑性樹脂材料の第1の層、エチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層、および熱可塑性樹脂材料の第2の層をこの順に含んでいる。
【0032】
たとえば、その第1の層はポリアミドからなり、その第2の層はグラフト化または非グラフト化のポリエチレンからなってもよい。
【0033】
また、たとえば、この第1の層と第2の層とは同一のポリアミドからなってもよいし、異なるポリアミドからなってもよい。
【0034】
本発明によれば、前記のエチレン−ビニルアルコールコポリマーとは異なる、それぞれの熱可塑性樹脂材料の層は、その厚みが、たとえば0.1〜10mm、または0.1〜5mmでよい。
【0035】
エチレン−ビニルアルコールコポリマーとは異なる、熱可塑性樹脂材料の層は、EVOH層、したがって成形されたタンクでの耐衝撃性にも寄与する。
【0036】
本発明によれば、熱可塑性樹脂材料からなる層を形成する前記のエチレン−ビニルアルコールコポリマーとは異なる熱可塑性樹脂材料には、有機または無機のフィラーを添加することができる。このフィラーは、たとえば、機械的な強度や、耐久性や、構造体の使いやすさを改善するために有用である。
【0037】
本発明の構造体は、1層または連続した複数の層を堆積させることが可能ならばどのようなプロセスで形成させてもよく、たとえば、金型成形、低温プラズマ溶射、押出成形、射出成形、吹込成形、サーモフォーミングまたは回転成形などがある。本発明を利用して高圧タンクを作るとすると、タンクを作るための成形プロセスは、充分な厚みのあるEVOH層を得ることが可能なものでなければならず、そうすれば、本発明の構造体は高圧および/または高温でも、ガスに対する充分な気密性を有するようになる。
【0038】
思いがけないことには、本発明で回転成形技術を使用すると、EVOH層の厚みが0.5mm以上の多層構造を製造することが可能である。この方法を用いれば、製造時に構造体にインサートおよび/または接続部を設け、好ましいことには高圧および/または高温でのガスに対する気密性が充分に高い継ぎ目のないタンクを製造することが可能となる。このタイプの袋状物を得るのに好適ならば、他のどのような技術を用いてもよい。
【0039】
本発明によれば、EVOH層をその融点よりわずかに高く、230/240℃までの温度で成形して、0.5mmをこえる厚みを得ることが可能で、これは、現行技術に比較すれば、革新的なものである。これが意味するところは、熱可塑性樹脂の層を、それらの融点あるいは成形温度に関係なく、EVOH層の上に積層できるということであり、それに対して従来技術では、連続層を成形する場合には温度を下げて、層間の相互浸透を防止しなければならないとされていた。
【0040】
本発明による熱可塑性樹脂構造体は、高圧のガス貯蔵に対する耐性を改善するために、繊維複合材料で補強されていてもよく、それらとしてはたとえば、炭素またはシリカを樹脂に含浸させたもので、その樹脂としてはたとえば熱硬化性のエポキシまたはフェノール樹脂(熱架橋されているのが好ましいが、必ずしも絶対に必要という訳ではない)や、アロイまたはポリアリールアミドのような熱可塑性樹脂が使用できる。この補強材は、たとえば多層構造体の内部あるいは外部のどちらにあっても構わない。この目標を達成するためには、袋状物を、たとえば心棒として使用して、炭素繊維を積層あるいは巻き付け、次いでこれに熱硬化性樹脂を含浸させる。こうして組み合わせたものを、加熱処理に付して、樹脂の架橋を起こさせればよい。
【0041】
多層の熱可塑性樹脂からなる袋状物を内部的あるいは外部的に機械的に補強するような方法ならば、他のどのような方法を使用しても構わない。
【0042】
本発明は、また、本発明による構造体または熱可塑性樹脂の袋状物を手始めに、ガスバリアー性および機械的強度が改善されたタンクに関するものであって、以下のようなものである。
−EVOHの環境耐性および耐衝撃性を改善する多層構造体、
−厚いEVOH層、言い換えれば、厚みが500ミクロン以上で、ガスに対する十分なバリアー性がある層を備えた構造体、
−強度および透過性が均一な袋状物を提供できる継ぎ目のない構造体、
−袋状物を製造する際に、その内部でインサートまたは接続部を設け、必要あれば、漏れの危険性を抑制することが可能な構造体。
【0043】
本発明の目的は、タンクを製造するための、先に定義したようなエチレン−ビニルアルコール(EVOH)コポリマーから作った層を少なくとも1層含む多層構造体を使用することである。
【0044】
本発明によるEVOH層は、ガス類、特に水素に対しても優れたバリアー体を形成する。たとえば、この構造体を用いれば、炭化水素、水素、酸素などの高圧ガスを貯蔵するためのタンクを製造することが可能である。
【0045】
したがって、厚いEVOH層は、ガスを貯蔵するための本発明による熱可塑性樹脂構造体または袋状物においては、キーポイントとなる層として用いられる。このタイプの構造体は、10〜10Paまたはそれ以上の圧力、および、−50℃〜+100℃の温度下で貯蔵するのに用することができる。本発明によるタンクでは、漏れ速度の面で、他の熱可塑性樹脂ポリマーと比較すれば、少なくとも30培の効果が得られる。
【0046】
このようなことから、本発明には各種の用途があり、これまでに述べたのとは異なるものとしては、燃料電池のHタンクとしての用途があり、この場合にタンクは、−40℃〜160℃の温度変化、および200×10Pa〜600×10Paの圧力を受けることができる。
【0047】
その他の用途として、これまで述べてきたような、本発明による構造体の性質および特徴を活用できるような全ての用途が含まれる。
【0048】
その他の特性および利点については、添付の図面を参照して、以下の実施例を読めば明らかになるであろうが、これらの実施例は説明のためのものであって、決して本発明を制限するものではない。
【0049】
(実施例)
実施例1
熱可塑性樹脂の3層構造体を、60℃、350バールの水素貯蔵用タンクのための気密性の高い袋状物として使用したが、この3層構造体の構成は、厚み1mmのポリアミド12(PA12)層(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のリスラン(RISLAN)(商標)、市販グレードアーボ(ARVO)950TLD)、厚み2mmのエチレン−ビニルアルコール(EVOH)コポリマー層(日本合成化学工業(株)(societe NIPPON GOHSEI)製造のソアノール(SOARNOL)(商標)、市販グレードD2908)、および厚み1mmのグラフト化ポリエチレン(grafted PE)層(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のオレバック(OREVAC)(商標)、市販グレード18350P)であった。
【0050】
この袋状物は回転成形により成形した。これら3種の熱可塑性樹脂の理論的な融点は、それぞれ、TPA12=170℃、TEVOH=180℃、そしてTgrafted PE=130℃であった。
【0051】
回転成形における主なパラメーターである、サイクル時間および作用温度については、添付の図1に示してある。このグラフが示しているのは、本発明による構造体を製造する場合の、時間(分)の関数としての、回転成形金型の外側に設置した温度センサーによる温度変化である曲線1、および、回転成形炉の内部の雰囲気温度の曲線3(℃)である。この図にて、温度上昇a)、b)およびc)は、それぞれ、熱可塑性樹脂ポリマーの第1、第2(EVOH)および第3層に対応している。
【0052】
この異なる3層の一連の成形温度は、それぞれ、180℃、190℃、および200℃である。第1層のPA12が200℃でもう一度溶融するが、EVOH層との間で相互に浸透することはない。その理由は、EVOHも溶融はするが、200℃では非常に粘度が高く、厚みがあるからである。グラフト化PEの融点は約130℃であるのに、高温、言い換えれば180℃以上、今回の場合では200℃で加工されるが、それは気泡の生成を避けるためである。
【0053】
製造時に、この袋状物を、熱架橋したエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維の複合材料で強化する。
【0054】
3種類の極性ポリマーを選択することでこれら3層の間に化学結合をさせることが可能であるが、それによって、これらの集成物に良好な機械的耐性を付与することができる。
【0055】
EVOHペレットは前もって、ウェドコ(WEDCO)型(商標)の装置を用いて微粉砕化して、400ミクロンの粉体とした後、乾燥させておいた。
【0056】
使用した回転成形機は、カッシア(CACCIA)型(商標)で、ガス炉付きで、ロトログ(ROTOLOG)ソフトウェア(商標)が搭載されている。使用したこの金型はアルミニウム製で、内側はテフロン(登録商標)(Teflon)でライニングしてある。回転成形機の2軸回転速度は、主軸が5.4rpm、2次軸が7.3rpmである。
【0057】
得られたタンクを模式的に添付の図3に示す。この図では、タンク13が上記の回転成形した3層構造体で作られていて、外側のポリアミド層が参照番号15、エチレン−ビニルアルコールコポリマー層が参照番号17、そしてグラフト化ポリエチレン層が参照番号19である。このタンクには、また、センサー23に接続された圧力センサー型コネクター21と、栓型インサート25と,金属スクリュー溝またはハンドル型のインサート27とが付いている。
【0058】
このタンクは葉巻型の形状に作られていて、その長さは約1m、内径は約100mmである。その内容積は35リットル、内面の展開表面積は0.75mである。
【0059】
このタンクの多層袋状物からの自然透過によるガスの漏れ速度は、膨張させたガスの体積すなわち常温常圧条件でのガスの体積の比率として、年間で1体積%未満である。
【0060】
実施例2
実施例1に記載したのと同じ方法を用いて、実施例1と同じ配置の熱可塑性樹脂の3層構造体を作成したが、ここでは、厚み0.5mmのポリアミド12(PA12)層(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のリスラン(RISLAN)、(商標)市販グレードアーボ(ARVO)950TLD)、厚み3mmのエチレン−ビニルアルコール(EVOH)コポリマー層(日本合成化学工業(株)(societe NIPPON GOHSEI)製造のソアノール(SOARNOL)(商標)、市販グレードD2908)、および厚み0.5mmのポリアミド12(PA12)層(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のリスラン(RISLAN)(商標)、市販グレードアーボ(ARVO)950TLD)の構成とした。
【0061】
この3層構造体を気密性の高い袋状物として使用して、図3に模式的に示した、25℃、350バールでヘリウムを貯蔵するためのタンクとした。
【0062】
このタンクの多層袋状物からの自然透過によるガスの漏れ速度は、膨張させたガスの体積すなわち常温常圧条件でのガスの体積の比率として、年間で5体積%未満である。
【0063】
実施例3
実施例1および2に記載したと同じ方法を用いて、実施例1および2と同じ形状の熱可塑性樹脂の3層構造体を作成したが、ここでは、厚み0.7mmのグラフト化ポリエチレン(grafted PE)(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のオレバック(OREVAC)(商標)、市販グレード18350P)、厚み2mmのエチレン−ビニルアルコール(EVOH)コポリマー層(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のソアノール(SOARNOL)(商標)、市販グレードD2908)および、厚み0.7mmのグラフト化ポリエチレン(graftedPE)(トータル・フィナ・エルフ社(societe TOTAL−FINA−ELF)製造のオレバック(OREVAC)(商標)、市販グレード18350P)の構成とした。
【0064】
この3層構造体を気密性の高い袋状物として使用して、図3に模式的に示した、40℃〜+60℃、700バールでヘリウムを貯蔵するためのタンクとした。
【0065】
このタンクの多層袋状物からのガスの自然透過による年間の漏れ速度は、圧力700バール、室温の条件下で、タンク1リットルあたり、1時間あたり、1cm未満である。
【0066】
比較例1
図2に示したのは、2mmの厚みの各種の熱可塑性樹脂ポリマー(本発明によるEVOHも含む)での、60℃におけるヘリウムガスの透過率、PHe×10−17(mガス・m・m−2・Pa−1・s−1)示したグラフである。
【0067】
この図では、下記の参照番号は以下のポリマーをあらわしている。
5:低密度ポリエチレン(LDPE)
7:ポリアミド12(PA12)
9:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
11:架橋ポリエチレン(XLDPE)
EVOH:エチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH)。
【0068】
ここで検討した熱可塑性樹脂ポリマーの中では、間違いなく、EVOHが最高のガスバリアー性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.94〜1.4であり、ASTM標準1238にしたがって測定した170〜240℃の温度におけるメルトフローインデックスが1.3〜4.2g/10分であるエチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層を少なくとも1層含み、前記エチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層の厚みが0.3〜20mmである、多層熱可塑性樹脂構造体。
【請求項2】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層の厚みが0.5〜5mmである、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の、ポリエチレン(PE)、グラフト化ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステルアミド、ポリアミドまたはこれらの熱可塑性樹脂材料の混合物からなる群より選択される熱可塑性樹脂材料から作られる層を少なくとも1層含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の熱可塑性樹脂材料の層の厚みが0.1〜10mmである、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の熱可塑性樹脂材料の層の厚みが0.1〜5mmである、請求項3に記載の構造体。
【請求項6】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の熱可塑性樹脂材料からなる層を形成する熱可塑性樹脂材料に、有機または無機のフィラーが添加されている、請求項3に記載の構造体。
【請求項7】
前記エチレン−ビニルアルコールコポリマー以外の、同一でも異なってもよい第1および第2の熱可塑性樹脂材料からなる第1および第2の層を少なくとも含む構造体であって、前記構造体が、前記第1の熱可塑性樹脂材料の層、前記エチレン−ビニルアルコールコポリマーからなる層、および前記第2の熱可塑性樹脂材料の層をこの順に含む、請求項3に記載の構造体。
【請求項8】
前記第1の層がポリアミドからなり、前記第2の層がグラフト化または非グラフト化ポリエチレンからなる、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
前記第1および第2の層が、同一または異なるポリアミドからなる、請求項7に記載の構造体。
【請求項10】
前記構造体が、熱架橋したエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維複合材料により強化されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項11】
回転成形により得られる、前記請求項のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項12】
タンクを製造する目的での、請求項1〜11のいずれか1項に記載の構造体の使用。
【請求項13】
水素タンクを製造する目的での、請求項1〜11のいずれか1項に記載の構造体の使用。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の構造体を含むタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192744(P2012−192744A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124899(P2012−124899)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【分割の表示】特願2002−523084(P2002−523084)の分割
【原出願日】平成13年8月27日(2001.8.27)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】