説明

ガスタービンエンジンブレード、金属材料の物品の作製方法および被覆された部品の製造方法

【課題】 基体の疲労特性に対する侵食被膜の有害な影響を緩和する方法を提供する。
【解決手段】 ガスタービンエンジンブレードのエアフォイルにおける磨耗や損傷を受けやすい径方向外側の領域に侵食被膜を適用する前に、被膜の疲労影響が緩和されるようにバニシングが施され(ステップ102)、次いでピーニングがその領域に対して実施され(ステップ104)、これに被膜が適用される(ステップ106)。これによりブレードの構造特性に有害な影響を与える侵食被膜がエアフォイルの一層広い領域にわたって適用できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンに関する。より詳細には、本発明は侵食被覆されたブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
最新の航空機ガスタービンエンジンにおいて作動する圧縮機ブレードは、侵食の損傷を被る。この損傷は、泥と砂(例えば、空港滑走路由来)をジェットエンジンの吸気口に吸い込むことによって生じ得る。侵食による損傷は、性能を低減しかつ疲労寿命を減少させる空力学的特性における変化に起因してブレードの作動寿命を減少させる。
【特許文献1】米国特許第5,826,453号明細書
【特許文献2】米国特許第6,672,838号明細書
【特許文献3】米国特許第6,893,225号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0155203号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブレードの寿命を延ばすための一つの取り組みは、Co−WCおよびNiCr−CrCなどの耐侵食性被膜を、著しい侵食にさらされるブレードエアフォイル領域に適用することである。しかしながら、これらの被膜は、通常、チタン基合金ならびにニッケル基合金であるブレード基体の疲労特性に対して有害な影響を及ぼす。その結果、侵食被膜は、作動応力がブレードの低減された疲労強度を超えないエアフォイルの領域にのみ適用される。基体の疲労特性に対する侵食被膜の有害な影響を緩和する方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、ガスタービンエンジンのブレードに関するものである。ブレードはプラットフォームを有する。プラットフォームからはルート部が垂下し、プラットフォームからエアフォイルが延びている。エアフォイルは前縁と後縁、および正圧面と負圧面とを有する。ブレードは表面を有する基体を備える。表面の第1の領域の下には圧縮応力が存在する。第1の領域は、局所的に先端からプラットフォームまでの翼幅距離における先端からの50%を超える領域において、エアフォイルのストリーム方向にわたってその大部分が延在する。被膜は、その領域において含まれる表面の第1の領域の少なくとも一部に存在する。
【0005】
本発明の第2の態様は、金属材料からなる物品の作製方法に関する。該物品は、基体と侵食被膜とを含んでなる。基体の及ぶ範囲は、被膜の疲労影響が緩和されるようバニシングされるように選択される。ローラ変形加工がその領域に対して実施され、次いで被膜が適用される。
【0006】
本発明の1つまたは複数の実施態様の詳細を、以下の関連図面ならびに詳細な説明に基づいて説明する。本発明のその他の特徴、目的および利点は、その詳細な説明と図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、例示的なブレード40を示している。ブレードは、エアフォイル42と、プラットフォーム44と、取り付けルート部46とを有する。エアフォイルは前縁48と、後縁50と、それら前縁と後縁との間で延在する正圧面52と負圧面54とを備える。エアフォイルは、プラットフォーム外側面58における内側端56から、外側端すなわち先端60まで延在している。ルート部はプラットフォーム44の下面62から垂下しており、ブレード40をディスク(図示せず)の相補的なスロットに固定するために、入り組んだ輪郭形状(例えば、いわゆるダブテイルの輪郭すなわちモミの木状の輪郭)を有するものであってよい。局所的なスパンSは、径方向における先端60とエアフォイルの内側端56との間の距離である。範囲Sは翼弦に沿って変化するものである。
【0008】
例示的なエアフォイルは、1つまたは複数の摩耗や損傷の形態にさらされる場合がある。摩耗は、広範にわたって分散される侵食を包含する場合がある。損傷は、異物吸入による損傷(FOD)に起因する切り傷や欠けを、通常、前縁48付近または先端60において含み得る。侵食は通常、エアフォイルの外側部分に沿って(例えば、領域66に沿って)集中する。例示的な領域66は、先端60から境界68までの正圧面と負圧面に沿ったほぼエアフォイル翼幅の大部分に沿って延在する。この領域内において、通常、エアフォイルの外側の3分の1(すなわち、先端60に最も近接するエアフォイルの3分の1)に沿って最も大量の侵食が存在することになる。例示的な境界68は、先端からの径方向の距離S1である。例示的なS1は、翼弦全体に沿ったSの50%をわずかに超える。侵食の損傷の実際の範囲は、エアフォイルの設計とエンジンの作動特性の両方の影響を受ける。
【0009】
侵食に対する耐性を付与するために、金属製のブレード基体は、領域72に沿って被膜70を有することができる。代表的なTiベースの基体合金には、Ti−6Al−4V、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Mo−2Zr、Ti−6Al−2Sn−4Mo−6Zr、およびTi−5.5Al−3.5Sn−3Zr−1Nbが包含される。その他の基体には、これらに限定されるものではないが、ステンレス鋼(例えば、17−4PH)およびNi基超合金(例えば、合金(alloy)718)が含まれる。代表的な被膜には、Co−WC、NiCr−CrC、Ti−NおよびTi−AlNが包含される。例示的な領域72は、先端60から境界74まで、正圧面と負圧面に沿ったエアフォイルの大部分に沿って延在する。例示的な境界74は、先端からの径方向における距離S2である。例示的なS2は、弦全体に沿ったSの50%を超え、S1より大きい。被膜は、最も大量の侵食が存在する領域を超えて延在し、異物吸入による損傷を増大させ得る。
【0010】
被膜70は、ブレードの構造特性(例えば、疲労特性)に有害な影響を与える可能性がある。従来においては、このことが、比較的低い応力を受けるブレードのエアフォイル領域への侵食被膜の使用を制限してきた。本発明によれば、ブレードは、1つまたは複数のこれら影響を緩和するためにバニシング工程に供され、ブレードエアフォイルの一層広い領域にわたって被膜を適用できるようにする。代表的なバニシング工程は、低塑性バニシング工程である。
【0011】
航空宇宙用部品の低塑性バニシングは、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4において、検討されている。また、Ti基部品に対してこのようなバニシングを用いる方法が、2005年3月8日〜11日にルイジアナ州ニューオーリンズで開催された第10回国際HCF会議の議事録におけるP.プレベイ、N.ジャヤラマン、およびR.ラビンドラナス(P.Prevey, N.Jayaraman, R.Ravindranath)による「Ti−6Al−4V航空エンジンブレードのダブテイルにおける損傷許容値を改善する設計に残留圧縮を用いる方法」、および2005年9月6日〜9日にフランス、パリのマルヌ・ラ・ヴァレで開催されたICSP9の議事録におけるP.プレベイ、N.ジャヤラマン、およびJ.カメット(J.Camett)による「疲労損傷機構を軽減する低塑性バニシングの概要」においても、検討されている。
【0012】
侵食被膜を適用する前に、ブレードのエアフォイルを、領域80に沿って低塑性バニシング(「LPB」)工程に供することができる。例示的な領域80は、先端60から境界82まで、正圧面と負圧面に沿ったエアフォイルの大部分に沿って延在する。例示的な境界82は、先端からの径方向における距離S3である。例示的なS3は、翼弦全体に沿ったSの50%を超え、かつ、S2とS1よりも大きい。
【0013】
バニシングされていないブレードと比較した場合、バニシングにより、被膜70を、先端60からプラットフォーム44に向かう径方向のより大きい翼幅にわたって適用することが可能となる。例えば、従来の方法においては、S2は比較的小さい(例えば、S1よりも小さく、かつ、Sの50%よりも小さい)。例えば、CFM56圧縮機モデルにおけるブレードは、先端からのスパンのおおよそ30〜40%に延在する侵食被膜を採用するのに対して、その他種々のエンジン系列のブレードでは、侵食被膜は全く使用されない。
【0014】
先端領域のバニシングは周知であるが、本発明のバニシングの特徴は、従来技術におけるこれまでの知識と比較して、1つまたはより多くの点で異なる。侵食被膜について適切に検討されなかった場合、従来のバニシングは、エアフォイルのずっと狭い範囲にわたるものである。従来技術は、先端からの径方向におけるより小さい翼幅に関するものであり、(ブレードに対する作動応力よりはむしろ異物吸入による損傷に取り組むために)前縁付近でより局所的である。被覆されていないブレードにおける異物吸入による損傷(FOD)に取り組むバニシングは、侵食被膜を組み合わせて用いた場合と比べてより深くなると思われる。しかしながら、先端や前縁部分の深いバニシングと、より基部の後縁部分や下流部分の浅いバニシングとを組み合わせることは可能である。
【0015】
図2は、例示的なバニシングと被覆工程100を示している。工程は、清浄なブレード基体に提供することができる。基体はバニシング102に供される。代表的なバニシングは、流体転動体によるものである。代表的な転動体は、球体またはボールである。一点式バニシングおよび対向2点キャリパ式バニシングが、上述で引用した参考文献に開示されている。
【0016】
代表的なバニシング102は、実質的にエアフォイルに隣接する領域上に若干重複して被覆される領域全体にわたる。代表的なバニシングは浅い(すなわち、基体の厚さまたは深さ全体にわたって延在していない残留圧縮応力を与える)。例示的なバニシングは、約0.015インチまで(例えば、より厳密には、0.004〜0.008インチ)の深さ領域にわたって残留圧縮応力を印加する。
【0017】
深さ領域における例示的な残留応力は、Ti−6−4の場合、100〜110ksiの、より広くは90〜120ksiのピーク値を有している。その範囲の上限は、基体の強度によって制限されるであろう。深さ領域の下方において残留応力は減少する。そのような深さの浅い応力分布が、部品のひずみを制限する場合がある。その他の例では、合金718ブレードにおける残留応力は、この材料のより高い降伏強さに起因して、150ksiに達する場合がある。
【0018】
LPBによって、ショットピーニングなどのより旧式の方法と比較して、著しく低い冷間加工がもたらされる。このことは、本発明の使用において特に関連性を有するものである。上記であげたプレベイ等の文献には、600℃という高温にさらされた後のLPBの増強された疲労特性を実証している。これは、500℃を超える温度で作動する圧縮機ブレードにともなう基体の加熱を考慮した際に顕著となる。ピーニング応力は、中間温度において時間が経つにつれて減少する傾向があるため、それら応力の有効な効果を無にする可能性がある。LPB応力は、それら同じ温度においてより安定性を示すことになる低レベルの冷間加工に関連するものである。そのため、LPBはショットピーニングと比較して、侵食被膜領域においては有利である。
【0019】
所望の応力分布を得るのに必要なバニシングのパラメータは、反復的な破壊試験プロセスを通じて見いだすことができる。代表的な試験プロセスとしては、残留応力分布の深さと大きさの分布を評価するのに、局在的な検査法(例えば、X線回折)を用いることができ、位置によってバニシングのパラメータを変更する必要があることを示すであろう。
【0020】
例示的な方法において、被膜によって被覆され、バニシングに供されるブレード領域を超えて、さらに機械的に処理してもよい。例えば、ショットピーニング104を行ってもよい。ショットピーニングは、取り付けルート部46に対するものであってよい。ショットピーニングは、より浅いが、バニシングよりも高いピーク圧縮値を有する応力分布をもたらし得る。
【0021】
被膜を(例えば、高速フレーム溶射(HVOF)やその他の高エネルギー溶射法などにより、あるいは物理蒸着法(PVD)により)適用することができる(ステップ106)。
【0022】
本発明の1つまたは複数の実施態様を説明してきた。それにもかかわらず、本発明の趣旨ならびに範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であることは理解されるであろう。例えば、本発明を、様々な既存の被膜、バニシング、およびその他の技術、装置の変更形態として、あるいはそれらを用いて実施することができる。また、種々の境界領域および移行領域には、上記でそれらについて説明したものとは異なる特徴が存在する場合もある。ブレードのエアフォイルに適用されるものとして例示しているが、本発明の侵食被膜はその他の領域およびその他の構成要素に適用可能である。従って、その他の実施態様は特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ブレードを示す図。
【図2】ブレードを製造または再製造するための第1の工程のフローチャート。
【符号の説明】
【0024】
40…ブレード
42…エアフォイル
44…プラットフォーム
46…取り付けルート部
48…前縁
50…後縁
52…正圧面
54…負圧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットフォームと、
前記プラットフォームから垂下するルート部と、
前縁と後縁、および正圧面と負圧面とを有するエアフォイルと、
を備えてなるガスタービンエンジンのブレードであって、
該ブレードが、
表面を有する基体と、
その表面の第1の領域の下方の圧縮応力と、
前記表面の第1の領域の少なくとも一部上の被膜と、
を備え、前記第1の領域は、局所的に先端からプラットフォームまでの翼幅距離の、先端からの50%を超える領域におけるエアフォイルの翼幅範囲の大部分にわたって延在し、また、前記一部が前記領域を含むことを特徴とするガスタービンエンジンブレード。
【請求項2】
前記第1の領域が、前記前縁に沿った翼幅の大部分を含むことを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンブレード。
【請求項3】
前記被膜が、本質的に前記第1の領域全体にわたることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンブレード。
【請求項4】
前記第1の領域が、本質的に前記エアフォイルの前記領域における外側全体にわたって延在することを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンブレード。
【請求項5】
前記被膜が、Co−WCとNiCr−CrCのうち少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンブレード。
【請求項6】
前記ブレードが、圧縮機ブレードであることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンブレード。
【請求項7】
金属材料の物品を作製する方法であって、該物品は、基体と侵食被膜とを備えてなり、該方法は、
前記被膜の疲労影響を緩和するために、バニシングされる前記基体の領域の範囲を選択するステップと、
前記領域に対してローラ変形加工を実施するステップと、
被膜を適用するステップと、
を備えてなることを特徴とする金属材料の物品の作製方法。
【請求項8】
前記領域が、前記被膜が適用される領域よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の作製方法。
【請求項9】
前記領域がエアフォイルに沿っていることを特徴とする請求項7に記載の作製方法。
【請求項10】
前記領域が、前記エアフォイルの内側半分へと延在することを特徴とする請求項9に記載の作製方法。
【請求項11】
第1の残留応力分布を提供するように金属基体をバニシングするステップと、
第1の表面の少なくとも一部に被膜を適用するステップと、
を備えてなることを特徴とする被覆された部品の製造方法。
【請求項12】
前記被膜が、Co−WCとNiCr−CrCのうち少なくとも一つを含んでなることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
代替的な第2の残留応力分布が、
前記第1の残留応力分布によって与えられるよりも大きな疲労耐性を被覆されていない基体に対して与え、かつ、
前記第1の残留応力分布によって与えられるよりも小さい疲労耐性を被覆された基体に対して与えることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1の残留応力分布が、前記第2の残留応力分布の残留圧縮応力よりも広い領域にわたって延在する残留圧縮応力を与えることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記基体をピーニングするステップをさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項16】
前記基体をピーニングするステップをさらに備え、該ピーニングステップは、前記バニシングステップの後であって、これと重複しないことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項17】
前記バニシングステップが、低塑性流体ローラバニシングであることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項18】
前記バニシングステップが、ブレードのエアフォイルの先端から、前記エアフォイルの翼幅の内側半分に沿った領域までの連続する領域をバニシングすることを包含することを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項19】
前記連続する領域の表面領域の大部分に沿って、前記バニシングステップが、0.004〜0.008インチの深さまで圧縮応力を印加することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記連続する領域の表面領域の大部分に沿って、前記バニシングステップが、0.015インチを超えない深さまで圧縮応力を印加することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−38896(P2008−38896A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141209(P2007−141209)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】