説明

ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】非水溶性樹脂と金属酸化物からなるコーティング膜を、活性エネルギー照射のような特殊な処理や高温での処理を必要としないで積層することにより、耐水性およびガスバリア性に優れるガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)が、少なくとも下記の成分(A)、成分(B)を含有し、コーティング膜層(II)が(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(A)が分散した構造となっていることを特徴とするガスバリア性フィルム。
成分(A):非水溶性樹脂微粒子
成分(B):金属酸化物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装用樹脂フィルムには強度、透明性、成形性、ガスバリア性など様々な特性がバランス良く保たれるフィルムが要求される。特に食品包装分野においては、内容物を酸化や吸湿あるいは乾燥などから守り長期保存を図る必要があるため、そのガスバリア性が重要な要求性能となる。樹脂フィルムは単一組成の樹脂ですべての特性を満足させるものはなく、高いガスバリア性が要求される場合には、たとえば樹脂の塗工溶液を基材フィルムに塗布・乾燥して高ガスバリア性のコーティング膜層を樹脂フィルムの表面に積層する湿式法が用いられる。また、高ガスバリア膜層として、高ガスバリア性樹脂を形成する湿式法に加えて、透明無機酸化物から真空プロセスにて蒸着膜を形成する無機蒸着法が使用されることも多い。一般的に無機蒸着法のほうが、膜厚が薄くて高いバリア性を出すことができるが、湿式法は無機蒸着法に対して一般的にコスト面で有利であることから工業的な利用価値が依然として高い。したがって、さらに高いバリア性を付与できる湿式コーティング膜に対する要求は強い。
【0003】
ガスバリア積層膜に使用される樹脂には、環境面からの要請によりVOC(揮発性有機化合物)を低減させた水性樹脂を含むコーティング液を基材フィルム上に塗布・乾燥してサブミクロンから数十ミクロンの薄膜で製膜することを可能にし、さらに高いバリア性を付与できる能力が求められる。水性樹脂として実用的に用いられているPVAは、ガスバリア性に関して乾燥状態では最も優れた性能を有するが、吸湿時にガスバリア性が低下するという問題点を有しており、水分を多く含む食品の包装用途にはPVA単独で使用することが難しい。
【0004】
このような吸湿によるガスバリア性の低下を防ぐために、PVAの乾燥下でのガスバリア性を損なうことなく耐水化する検討が行なわれてきた。たとえば、耐水性を向上させ、ガスバリア性の湿度依存性を改善するために、PVAとポリ(メタ)アクリル酸をエステル化反応により架橋する方法が提案されている。
【0005】
たとえば、特許文献1においては、PVAとポリ(メタ)アクリル酸からなる溶液を熱処理する方法、たとえば、特許文献2においてはPVAとポリ(メタ)アクリル酸および次亜リン酸塩などの一価金属塩からなる溶液を熱処理する方法、たとえば、特許文献3においては、PVAとポリアクリル酸またはポリメタクリル酸の部分中和物とからなる水溶液を基材フィルムに塗工し、熱処理したあと金属を含む溶液に浸漬処理する方法が提案されている。これらの方法ではPVAの水酸基とポリ(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とを反応させガスバリア性と耐水性を改善しようとしている。これらの方法で酸素ガスバリア性が改善されることが示されているが、実質的に200℃以上で熱処理することが記載されており、塗工処理できる基材フィルムの耐熱性や高温処理プロセスが必要になることから、実用上制約が多い。また、包装フィルムにはこれまで以上に高いガスバリア性が求められていることから、さらにガスバリア性を改善する必要がある。
【0006】
PVAなどの水溶性高分子は分子内に水素結合性基や極性基をもち、そのような官能基はポリマー分子間に凝集作用を及ぼすことから、高いガスバリア性が発現することが知られている。一方で、分子内にそのような官能基を持たないかあるいはその含有量が少ない非水溶性樹脂は一般にガスバリア能は低いが、その反面、非水溶性樹脂は水溶性樹脂に比べて本質的に耐水性に優れている。このため、非水溶性樹脂の耐水性とガスバリア性を兼ね備える材料としての可能性が検討されている。そのような非水溶性樹脂のなかでも、高いガスバリア性を出す樹脂としてポリ塩化ビニリデン(PVDC)が知られており、その水性分散液(エマルション)がガスバリア性の塗工液として使われているが、PVA系の樹脂に比べると酸素ガスバリア性は低い。
【0007】
非水溶性樹脂のガスバリア性を向上する技術として、特許文献4には、SiO粒子を含有する樹脂の水および/またはアルコール溶液あるいは水性エマルジョンをコーティングし、続いて乾燥することを特徴とする、ガスバリア性の付与された樹脂成形品の製造方法が開示されている。また、特許文献5には、水素結合性基を有するポリマーと、金属酸化物を骨格とし、平均粒子径が100nm以下であり、かつ前記ポリマー中に分散し、ポリマーと結合している微粒子とを有する有機・無機ハイブリッドポリマー層からなるバリア性積層フィルムが開示されている。
【0008】
これらの発明において、特許文献4はガスバリア性の酸化ケイ素薄膜の保護コーティングに関する技術を開示し、変形テストによる酸化ケイ素膜のガスバリア性の低下を抑える効果はあるものの、樹脂自身の初期バリア性は若干改善されるのみで十分ではない。また、特許文献5の方法では、樹脂同士あるいは樹脂−微粒子間の架橋結合を形成するために塗布膜に活性エネルギー線を照射する工程が必要であり、その後130℃で1時間熱硬化することによって、高いバリア性が発現する。
【0009】
上述のように、本来低いガスバリア性である非水溶性樹脂に十分なガスバリア性を付与するためにSiOのような金属酸化物を複合化する方法が提案されているものの、十分なガスバリア性を出すには活性エネルギー照射のような特別な処理や、比較的高温での熱処理が必要であった。すなわち、従来非水溶性樹脂のガスバリア性を改善する方法として提案されている、金属酸化物の微粒子を樹脂中に分散して、有機・無機ハイブリッド化する方法は、樹脂の非晶部のブラウン運動を抑制する効果を狙ったものであり、前掲のように十分な効果を引き出すためには樹脂同士あるいは樹脂−微粒子間の架橋結合を形成する必要があった。
【特許文献1】特開平7-266441号公報
【特許文献2】特開平8-41218号公報
【特許文献3】特開平10-237180号公報
【特許文献4】特開平5−9317号公報
【特許文献5】特開2002−301793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、非水溶性樹脂と金属酸化物とからなるコーティング膜を、活性エネルギー照射のような特殊な処理やさらに高温での処理を必要としないで積層することにより、耐水性およびガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供する技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のように従来の有機・無機ハイブリッド化による技術思想は、基本的にはガスバリア樹脂のマトリックス中に金属酸化物の微粒子を均一に分散させることにより、ガス透過性を低下させる考え方であった。この考えによる理想的なハイブリッドは、金属酸化物が樹脂中に分子レベルの大きさで分散した複合体であり、前述したようにガスバリア性を発現させるのに特殊な処理が必要であった。本発明者らは、金属酸化物が作る連続したマトリックス中に非水溶性樹脂を分散させて、非水溶性樹脂と金属酸化物との相分離構造を作らせることにより、加工性や成膜時のクラックを抑えることができ、高いガスバリア性と耐水性に優れるガスバリア性コート膜が提供できることを見出して、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)が、少なくとも下記の成分(A)、成分(B)を含有し、コーティング膜層(II)が(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(A)が分散した構造となっていることを特徴とするガスバリア性フィルム。
成分(A):非水溶性樹脂微粒子
成分(B):金属酸化物
(2)前記成分(A)100重量部に対し、前記成分(B)が10重量部以上2500重量部以下である(1)に記載のガスバリア性フィルム。
(3)前記成分(A)において、非水溶性樹脂微粒子の平均粒径が0.01μmから1μmの範囲にある(1)に記載のガスバリア性フィルム。
(4)前記成分(A)が、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、からなる群から選ばれる1種以上の化合物からなる非水溶性樹脂微粒子である(1)〜(3)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
(5)前記成分(B)がシリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物である(1)〜(4)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
(6)前記成分(B)が、水および触媒の存在下でゾル−ゲル反応により得られる金属酸化物である(1)〜(5)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
(7)プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)を形成するコーティング用組成物が、少なくとも下記の成分(C)、成分(D)を含有し、コーティング膜層(II)が成分(D)の重縮合より形成される(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(C)中の(A)非水溶性樹脂微粒子が分散した構造となっていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
成分(C):非水溶性樹脂微粒子分散液
成分(D):金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物
(8)前記成分(C)100重量部に対し、前記成分(D)が25重量部以上6300重量部以下である(7)に記載のガスバリア性フィルム。
(9)前記成分(D)が、アルコキシシラン、アルコキシジルコニウム、アルコキシアルミニウム、およびアルコキシチタンからなる群から選ばれる1種以上である(7)に記載のガスバリア性フィルム。
(10)前記成分(D)が、アルコキシシランの縮合物、アルコキシジルコニウムの縮合物、アルコキシアルミニウムの縮合物およびアルコキシチタンの縮合物からなる群から選ばれる1種以上である(7)に記載のガスバリア性フィルム。
(11)前記成分(C)非水溶性樹脂微粒子水分散液と、前記成分(D)金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物との混合溶液を重縮合反応した後にプラスチック基材(I)に塗布後乾燥することにより製造されることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
(12)前記プラスチック基材(I)と、前記コーティング膜層(II)との間に、物理的蒸着法(PVD法)および化学的蒸着法(CVD法)の内の少なくとも一つの蒸着法により得られる、Si,Ta,Nb,Al,In,W,Sn,Zn,Ti,Cu,Ce,Ca,Na,B,Pb,Mg,P,Ba,Ge,Li,K,Zr,Sbから選ばれる1種以上を含む酸化物または窒化物または酸化窒化物を主成分とする蒸着膜層(III)を有する(1)〜(11)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
(13)前記蒸着膜層(III)が、1〜1000nmの範囲内の膜厚を有する蒸着膜である(12)に記載のガスバリア性フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、耐レトルト性に優れかつ高湿度条件下においても高いガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のガスバリア性フィルムおよびガスバリア性フィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0015】
本発明のガスバリア性フィルムは、プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)が、少なくとも下記の成分(A)、成分(B)を含有し、コーティング膜層(II)が(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(A)が分散した構造となっていることを特徴とするガスバリア性フィルムである。
成分(A):非水溶性樹脂微粒子
成分(B):金属酸化物
【0016】
あるいは、本発明のガスバリア性フィルムは、前記プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)を形成するコーティング用組成物が、少なくとも下記の成分(C)、成分(D)を含有し、コーティング膜層(II)が成分(D)の重縮合(ゾルゲル反応)より形成される(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(C)中の(A)非水溶性樹脂微粒子が分散した構造となっていることを特徴とするガスバリア性フィルムである。
成分(C):非水溶性樹脂微粒子分散液
成分(D):金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物
【0017】
[非水溶性樹脂微粒子(A)]
本発明における非水溶性樹脂微粒子(A)(以下、単に「成分(A)」ということもある)は、水および/または水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系媒体)に不溶であるが、それらの媒体中で分散可能な非水溶性樹脂からなる微粒子であり、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などのモノマーから樹脂微粒子を合成する手法、および乳化分散法などのように樹脂や樹脂溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される微粒子の存在下でモノマーの重合を行なって微粒子の改質を行なったものなどの非水溶性樹脂微粒子が含まれる。
【0018】
非水溶性樹脂は、水および/または水と水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系の媒体)に不溶である高分子、すなわち水中でも粒子状に分散化(エマルション化)できる高分子であり、疎水性のモノマーを重合してなる重合体や共重合体、さらには親水性のモノマーとの共重合体であっても良い。このような粒子は、たとえば光散乱法で粒径を測定できるものである。
【0019】
本発明における非水溶性樹脂としては、水系媒体に分散可能な微粒子になるものであれば良く、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、AS樹脂、ABS樹脂、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートなどが例示される。非水溶性樹脂はそれぞれ単独でも、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0020】
上記の中でも、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエンから選ばれる非水溶性樹脂が好ましく、その中でも特にポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデンがガスバリア性に優れるコーティング材を形成するため好ましい。
【0021】
これらの非水溶性樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などの分散状態のモノマーから樹脂微粒子を合成する手法、および乳化分散法などのようにポリマー化した樹脂微粒子や樹脂微粒子溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される微粒子の存在下でモノマーの重合を行なうことにより得られ、このとき非水溶性樹脂が微粒子化され水系分散液を得ることができる。
【0022】
[非水溶性樹脂微粒子分散液(C)]
非水溶性樹脂微粒子分散液(C)(以下、単に「分散液(C)」あるいは「成分(C)」ということがある)は、非水溶性樹脂微粒子(A)を、水および/または水と親和性を有する有機溶媒に分散化させて得られる、所謂エマルション、あるいはラテックスと呼称されるものであり、「超微粒子ポリマーの最先端技術」(室井宗一監修、シーエムシー出版、第1章)等に記載されている、公知の方法で作製することができる。
【0023】
この分散液(C)中の非水溶性樹脂微粒子(A)の含有割合は、全分散液(C)を100重量%としたときに、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。
非水溶性樹脂微粒子(A)の含有割合が上記範囲にあると、分散液の実用性が良好であり、かつ粘度を適正に保つことができ、取り扱いが容易になるため好ましい。
【0024】
また、その形状は、例えばリンタングステン酸、リンモリブデン酸、オスミウム酸、モリブデン酸アンモニウム、酢酸ウラニルなどでネガティブ染色を施した後、透過型電子顕微鏡により観察することができる。
【0025】
分散化方法としては特に限定されるものではないが、各種の分散化方法を利用することができ、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などのモノマーから非水溶性樹脂微粒子(A)を合成する手法、および乳化分散法などのように樹脂や樹脂溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される微粒子の存在下でモノマーの重合を行なうことにより得られ、このとき非水溶性樹脂が微粒子化され水系分散液を得ることができる。
【0026】
乳化重合法は、非水溶性モノマー、乳化剤、水、重合開始剤から構成される原料から合成される。乳化剤は、連続相となる水中で粒子生成の場となるミセルを形成するとともに、生成する非水溶性樹脂微粒子を安定に分散する役割を持ち、イオン性乳化剤または非イオン性乳化剤またはその両者が使用される。重合開始剤は水溶性過酸化物または水溶性アゾ系化合物が用いられるほか、アスコルビン酸―過酸化水素などのレドックス開始剤系が用いられる。
【0027】
ソープフリー乳化重合法は、乳化剤を含まない系での乳化重合であり、乳化剤が最終的にコーティング膜層に残らないため、乳化剤がコーティング膜中で移動して表面にブリードアウトするなどの問題が生じることがなく、本発明において好適に用いられる。非水溶性樹脂微粒子表面には水溶性開始剤に由来する官能基、あるいは非水溶性を保持する範囲内で非水溶性モノマーと共重合した極性モノマーに由来する官能基が、非水溶性樹脂微粒子に水分散性を与える。
【0028】
懸濁重合法は非水溶性の重合開始剤を非水溶性のモノマーに溶かし、これを水中に機械的攪拌により懸濁させて加温することにより、モノマー液滴中で重合が進行し、非水溶性樹脂微粒子の分散溶液が得られる。モノマー液滴の微粒子化には、高速せん断を伴う攪拌が不可欠であり、また分散安定剤の選定により微小液滴を安定化させることができる。
【0029】
ミニエマルション重合法は、超音波発振器などで強いせん断力をかけることでモノマー液滴をサブミクロンサイズまで微細化して、重合を行なう方法であり、微細化されたモノマー油滴を安定化するためにハイドロホーブという難水溶性物質が添加される。前述の乳化重合法に比べて重合中モノマーが水相を拡散する必要がなく、理想的にはモノマー油滴が重合して各非水溶性樹脂微粒子に変わる。
【0030】
分散重合法は、モノマーは水に可溶であるが、重合後に水に不溶になる非水溶性樹脂の場合に用いられる方法で、系には非水溶性樹脂の分散安定剤が添加される。
【0031】
乳化分散法は、乳化重合や懸濁重合など、ラジカル重合ではできないポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリブテン、エポキシ樹脂等の非水溶性樹脂の分散液を作製する方法であり、強制乳化法、自己乳化法、転送乳化法などがある。
【0032】
強制乳化法は、ポリマー溶液、あるいは熱で溶融したポリマーを、分散安定剤を含む水分散媒中に高圧ホモジナイザー、高圧ホモミキサー、押出混練機、オートクレーブ等で分散化する方法、高圧で噴射粉砕する方法、細孔より噴霧させる方法が挙げられる。
【0033】
自己乳化法は、非水溶性樹脂自体にカルボキシル基、スルホン基、アミノ基等の乳化能力を持つ極性基を組み込むことにより、水との混合で容易に乳化分散させる方法である。分散安定剤を用いないため、本発明で好適に使用される方法である。
【0034】
転相乳化法は、非水溶性樹脂溶液中に乳化剤を溶解して水を徐々に添加するか、または樹脂溶液中に乳化剤水溶液を徐々に添加して攪拌混合により相反転を行わせて水が連続相である分散液(C)を作る方法である。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0035】
本発明における分散液(C)の製造にあたっては、異物などを除去する目的で、工程中に濾過工程を設けてもよい。このような場合には、たとえば、300メッシュ程度のステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)をおこなえばよい。
【0036】
当該方法における水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを使用可能であるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
また、上記方法における水と親和性を有する有機溶媒は、該他の分散質が可溶なものであれば特に限定されないが、例えばイソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、該他の分散質を含有した分散系を調製した後、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0037】
以下、本発明における非水溶性樹脂分散粒子において、好適な樹脂の例としてポリウレタン樹脂微粒子分散液、およびポリスチレンおよびポリアクリル酸エステル樹脂微粒子分散液、ならびにポリ塩化ビニリデン樹脂微粒子分散液について詳細に記述する。
【0038】
[ポリウレタン樹脂微粒子分散液]
[ポリウレタン樹脂(i)]
本発明において好ましく用いられるポリウレタン系の非水溶性樹脂(i)は、アニオン性自己乳化型ポリウレタン樹脂を構成しており、ウレタン基およびウレア基の合計濃度が高く、かつ酸基を有する。前記ポリウレタン樹脂は、少なくとも、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)との反応により得ることができ、通常、中和剤で中和されている。前記ポリウレタン樹脂は、さらに他の成分との反応により得られた共重合体であってもよく、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を30重量%以上含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)と、ポリオール成分(iv)及び鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一方の成分との反応により得ることもできる。前記(ii)ポリイソシアネート化合物は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。また、ポリオール成分(iv)は、炭素数2〜8のポリオールを90重量%以上含むポリオール化合物であってもよく、前記鎖伸長剤成分(v)は、例えば、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種である。
【0039】
ポリウレタン樹脂のウレタン基およびウレア基(尿素基)の合計濃度は、25〜60重量%(例えば、30〜55重量%)、好ましくは35〜55重量%(特に35〜50重量%)程度である。なお、ウレタン基濃度及びウレア基濃度とは、ウレタン基の分子量(59g/当量)又はウレア基の分子量(一級アミノ基(アミノ基):58g/当量、二級アミノ基(イミノ基):57g/当量)を、繰り返し構成単位構造の分子量で除した値を意味する。なお、混合物を用いる場合、ウレタン基およびウレア基の濃度は、反応成分の仕込みベース、すなわち、各成分の使用割合をベースとして算出できる。
【0040】
ポリウレタン樹脂の酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基などが例示できる。酸基は、ポリウレタン樹脂の末端又は側鎖(特に少なくとも側鎖)に位置していてもよい。この酸基は、通常、中和剤(塩基)により中和可能であり、塩基と塩を形成していてもよい。
【0041】
ポリウレタン樹脂(i)の数平均分子量は、800〜1,000,000、好ましくは800〜200,000、さらに好ましくは800〜100,000程度の範囲から選択できる。
【0042】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂(i)はガスバリア性が高い方が好ましく、ポリウレタン樹脂の酸素透過度(単位ml/m2・atm・day、温度20℃および湿度80%RH)は、厚み1μmにおいて、例えば、500以下、好ましくは400以下(例えば、100〜400)、さらに好ましくは300以下(例えば、50〜300)程度である。
【0043】
このようなポリウレタン樹脂(i)は、少なくともポリイソシアネート化合物(ii)(特にジイソシアネート化合物)とポリヒドロキシ酸(iii)(例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、特にジヒドロキシ酸)との反応により得ることができる。ポリウレタン樹脂(i)は、前記(ii)成分及び(iii)成分に加えて、ポリオール成分(iv)(特にアルキレングリコールなどのジオール成分)及び鎖伸長剤(v)(特に二官能性鎖伸長剤)から選択された少なくとも一種の成分との反応により得ることもできる。
【0044】
[ポリイソシアネート化合物(ii)]
ポリイソシアネート化合物(ii)には、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートなどが含まれる。ポリイソシアネート化合物としては、通常、ジイソシアネート化合物が使用される。
【0045】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(MDI)、4,4'−トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが例示できる。
【0046】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ω,ω′−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼンなどが例示できる。
【0047】
脂環族ジイソシアネートとしては、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロジイソシアネート、IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI(H12MDI),ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)などを挙げることができる。
【0048】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプエートなどを挙げることができる。
【0049】
ポリイソシアネート化合物(特にジイソシアネート化合物)(ii)としては、炭化水素環を有する化合物を含むポリイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。このような化合物としては、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネート(特にジイソシアネート)などが挙げられる。より具体的には、ガスバリア性の観点からは、芳香族ジイソシアネート(TDI、MDI、NDIなど)、芳香脂肪族ジイソシアネート(XDI、TMXDIなど)および脂環族ジイソシアネート(IPDI、水添XDI、水添MDIなど)が好ましく、特に、MDI、XDI、水添XDI、水添MDIなどが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートから選択された少なくとも一種のポリイソシアネート化合物の含有量は、ポリイソシアネート化合物(ii)全体に対して、30重量%以上(30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%)である。
【0051】
ポリイソシアネート化合物(ii)は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含むのが好ましい。キシリレンジイソシアネート及び/又は水添キシリレンジイソシアネートの割合は、通常、ポリイソシアネート化合物(A)全体に対して20重量%以上(20〜100重量%)、好ましくは25〜100重量%、さらに好ましくは30〜100重量%である。
【0052】
これらのジイソシアネート成分は単独でまたは2種以上組み合わせて使用でき、さらに必要に応じて3官能以上のポリイソシアネートを併用することもできる。
【0053】
[ポリヒドロキシ酸(iii)]
ポリヒドロキシ酸(iii)には、カルボン酸やスルホン酸、特に、ポリヒドロキシカルボン酸及びポリヒドロキシスルホン酸から選択された少なくとも一種の有機酸が使用できる。
【0054】
ポリヒドロキシカルボン酸(特にジヒドロキシカルボン酸)としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸などのジヒドロキシC2-10アルカン−カルボン酸、ジオキシマレイン酸などのジヒドロキシC4-10アルカン−ポリカルボン酸又はジヒドロキシC4-10アルケン−ポリカルボン酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸などのジヒドロキシC6-10アレーン−カルボン酸などが例示できる。これらのポリヒドロキシ酸は単独または2種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリヒドロキシ酸は、ポリヒドロキシアルカンカルボン酸、特にジヒドロキシアルカン酸、例えば、ジヒドロキシC2-8アルカン−カルボン酸である。
【0055】
なお、前記ポリヒドロキシ酸は、塩の形態で使用してもよい。ポリヒドロキシ酸の塩としては、例えば、アンモニウム塩、アミン塩(トリアルキルアミン塩など)、金属塩(ナトリウム塩など)などが例示できる。
【0056】
ポリウレタン樹脂(i)は、少なくとも(ii)成分及び(iii)成分との反応により得ることができるが、ポリオール成分(iv)及び/又は鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一種と組み合わせて反応させる場合が多い。なお、ポリウレタン樹脂(i)の酸価は、前記ポリヒドロキシ酸(iii)の使用量により調整できる。
【0057】
[ポリオール成分(iv)]
ポリオール成分(特にジオール成分)(iv)としては、ガスバリア性の観点から、通常、低分子量グリコール、例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘプタンジオール、オクタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-10アルキレングリコール)、(ポリ)オキシC2-4アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)などが使用される。好ましいグリコール成分は、C2-8ポリオール成分[例えば、C2-8アルキレングリコール(特に、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール)など]、ジ又はトリオキシC2-3アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)であり、特に好ましいジオール成分はC2-8アルキレングリコール(特にC2-6アルキレングリコール)である。
【0058】
これらのジオール成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。さらに必要に応じて、芳香族ジオール、脂環族ジオールなどの低分子量ジオール成分を併用してもよい。さらに、必要により、3官能以上のポリオール成分を併用することもできる。
【0059】
ポリオール成分は、少なくともC2-8ポリオール成分(特に、C2-6アルキレングリコール)及び/又はジ又はトリオキシC2-3アルキレングリコール成分を含むのが好ましい。ポリオール成分全体に対するC2-8ポリオール成分(特に、C2-6アルキレングリコール)及びジ又はトリオキシC2-3アルキレングリコールの割合は、通常、90重量%以上(90〜100重量%)である。
【0060】
[鎖伸長剤(v)]
鎖伸長剤には、活性水素原子を有する窒素含有化合物、特に、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種が使用される。
鎖伸長剤としてのジアミン成分としては、例えば、脂肪族アミン(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどのC2-10アルキレンジアミンなど)、芳香族アミン(例えば、m−又はp−フェニレンジアミン、1,3−または1,4−キシリレンジアミンもしくはその混合物など)、脂環族アミン(例えば、水添キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなど)、ヒドロキシル基含有ジアミン[2−[(2'−アミノエチル)アミノ]エタノール、2−アミノエチルアミノプロパノール、2−(3'−アミノプロピル)アミノエタノール(3−(2'−ヒドロキシエチル)アミノプロピルアミン)などのアミノC2-6アルキルアミノC2-3アルキルアルコールなど]などが挙げられる。
【0061】
ヒドラジン、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン、ヒドロキシル基含有ヒドラジン(2−ヒドラジノエタノールなどのヒドラジノC2-3アルキルアルコールなど)、ジカルボン酸ヒドラジド[脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド(コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどのC4-20アルカン−ジカルボン酸ジヒドラジド)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(イソフタル酸ジヒドラジドなどのC6-10アレーン−ジカルボン酸ヒドラジドなど)など]などが挙げられる。これらの鎖伸長剤成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0062】
これら鎖伸長剤のうち、ガスバリア性の観点から、通常、炭素数8以下(C2-8、特にC2-6)の低分子量の鎖伸長剤、例えば、ジアミン(例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2-6アルキレンジアミン、2−アミノエチルアミノエタノール、キシリレンジアミンなど)、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体(例えば、2−ヒドラジノエタノール、アジピン酸ジヒドラジドなど)が使用される。なお、鎖伸長剤は、必要に応じて3官能以上のポリアミン成分(ポリアミン、ポリヒドラジドなど)を併用することができる。
【0063】
なお、必要であれば、ポリウレタン樹脂の調製において、イソシアネート基に対して反応性を有する化合物(例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールなど)を反応させてもよい。
【0064】
ポリウレタン樹脂(i)の酸基は、中和剤又は塩基で中和されている。中和剤としては、慣用の塩基、例えば、有機塩基[例えば、第3級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1-4アルキルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン、モルホリンなどの複素環式アミンなど)]、無機塩基[アンモニア、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)]が挙げられる。これらの塩基は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ガスバリア性の観点からは、揮発性塩基、例えば、トリエチルアミンなどのトリC1-3アルキルアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アンモニアが好ましい。
【0065】
なお、中和剤による中和度は、例えば、30〜100%、好ましくは50〜100%、特に75〜100%程度であってもよい。
【0066】
[ポリウレタン樹脂微粒子分散液の調製]
ポリウレタン樹脂(i)の製造法は特に限定されないが、通常の自己乳化法を利用して調製できる。また、ウレタン化反応では必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒などウレタン化触媒を使用してもよい。より具体的には、不活性有機溶媒(特に、親水性又は水溶性有機溶媒)中、ポリイソシアネート化合物(ii)とポリヒドロキシ酸(iii)と必要によりポリオール成分(iv)とを反応させ、末端イソシアネート基を有するプレポリマーを生成させ、中和剤で中和して水性媒体に分散した後、必要により鎖伸長剤成分(v)を添加して反応させ、有機溶媒を除去することによりポリウレタン樹脂分散液を調製できる。ポリウレタン樹脂分散体の体積平均粒径は、造膜性、ガスバリア性及び耐水性の面から、0.01〜1μmであり、コート膜の透明性を考慮すると0.01〜0.5μmが好ましい。
【0067】
なお、活性水素原子を有する各成分[ポリヒドロキシ酸(iii)、ポリオール成分(iv)および鎖伸長剤成分(v)]の総量割合は、ポリイソシアネート化合物(ii)のイソシアネート基1モルに対して、各成分(iii)、(iv)及び(v)活性水素原子の(又は活性水素原子を有する有機基)の総量として0.5〜1.5モル、好ましくは0.7〜1.3モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モル程度である。
【0068】
[ポリスチレン及びポリアクリル酸エステル樹脂微粒子分散液]
ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂微粒子分散液は、スチレン、アクリル酸エステルとビニル単量体を乳化重合して得られ、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル微粒子分散体の体積平均粒径は、0.01〜1μmであり、造膜性、ガスバリア性及び耐水性の面から、0.01〜0.5μmが好ましい。なお、体積平均粒子径はマイクロトラックUPA(ハネウェル社製)を用いて測定された値である。
【0069】
本発明に使用されるビニル単量体は、特に制限されるものではないが、具体例としては、例えば、ラジカル重合に通常使用される単量体を挙げることができ、メチル−、エチル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、n−アミル−、イソアミル−、n−ヘキシル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−、デシル−、ドデシル−、オクタデシル−、シクロヘキシル−、フェニル−、ベンジル−等のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等;α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基を有する類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ誘導体;N−メチルアミノエチルアクリレート、N−メチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルアミノエステル類;ビニルピリジン等のモノビニルピリジン類;ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアルキルアミノ基を有するビニルエーテル類;N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等のアルキルアミノ基を有するアミド類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有する類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類、スチレンスルホン酸ナトリウム等の不飽和スルホン酸塩類;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート等のジアクリル酸エステルまたはジメタクリル酸エステル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;その他エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルアミド、クロロプレン等がある。これらのビニル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0070】
これらのビニル単量体の中でも、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類、アミド基含有類、水酸基含有類の中から選択するのがより好ましく、アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類の組み合わせが最も好ましい。
【0071】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液の製造は、通常の乳化重合法により行われる。用いられる界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンプロペニルアルキルフェニル硫酸アンモニウム等のアニオン系界面活性剤;脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、シュガー脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルセルロース等のノニオン系界面活性剤;アルキルアンモニウムクロライド、トリメチルアルキルアンモニウムブロマイド、アルキルピリジニウムクロライド、およびカゼイン等の両性界面活性剤; 水溶性多価金属塩類などが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0072】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用されているものであればよく、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過酸化塩類、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等である。必要に応じて還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することもできる。
【0073】
エマルションを製造するには通常、前記の界面活性剤、重合開始剤の存在下に、ビニル単量体を一括、分割、あるいは連続的に添加して重合を行う。
【0074】
エマルションの粒径は、界面活性剤及び重合開始剤の使用量により制御される。界面活性剤の使用量を増加させれば粒径は小さくなり、また、重合開始剤の使用量を減少させれば粒径は小さくなる。
また、重量平均分子量は、連鎖移動剤の量により制御され、連鎖移動剤の量を増加させれば重量平均分子量は小さくなる。
【0075】
上記のようにして得られるエマルションの中和に用いる塩基性物質としては、具体的には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属; ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム、ヒドラジン等の無機アミン;アンモニア、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、シクロヘキシルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機アミン;酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、酸化カリウム、過酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水素化ストロンチウム、水酸化バリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等の、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の弱酸塩等を挙げることができる。
【0076】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液には、必要に応じて、架橋剤を加えてもよい。架橋剤としては、例えば、多価金属イオンや、多価金属イオンのアンモニア及びアミン錯体(特にNHを配位したもの)等が挙げられる。上記多価金属イオンとしては、水中に少なくとも1重量%程度の顕著な溶解性を有する酸化物、水酸化物または塩基性塩、酸性塩または中性塩の形態で組成物に添加することができる、ベリリウム、カドミウム、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、ビスマス、アンチモン、鉛、コバルト、鉄、ニッケル、または他の多価金属イオンが挙げられる。上記多価金属イオンのアンモニア錯体及びアミン錯体の形成が可能なアミンとしては、例えば、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、及びエチレンジアミン等が挙げられる。また、アルカリ性pH範囲で可溶化可能な有機酸の多価金属錯体塩も用いることができる。また、酢酸イオン、グルタミン酸イオン、ギ酸イオン、炭酸イオン、サリチル酸イオン、グルコール酸イオン、オクトン酸イオン、安息香酸イオン、グルコン酸イオン、蓚酸イオン及び乳酸イオン等の陰イオンも用いられる。また配位子がグリシンまたはアラニン等の二座アミノ酸である多価金属キレートも用いられる。また、その他の架橋剤として、アルキル化メラミン等の尿素樹脂系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤等及びこれら架橋剤を水性化したもの等が挙げられる。
【0077】
[ポリ塩化ビニリデン樹脂微粒子分散液]
本発明で使用されるポリ塩化ビニリデン樹脂微粒子分散液は、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルおよびこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から特開平11−35763に記載されている方法に従って製造することができる。好ましい塩化ビニリデンの使用範囲は89〜93重量%、望ましくは90〜92重量%であり、メタクリロニトリルは2〜8重量%、望ましくは4〜6重量%であり、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルは0.5〜3重量%、望ましくは1〜2重量%および0〜3重量%のこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から、乳化重合によって得られる。
【0078】
ポリ塩化ビニリデン樹脂微粒子分散液の重合に用いる乳化剤、重合開始剤、界面活性剤等々の種類は特に限定しないが、ガス及び水蒸気遮断性を劣化させる要因となりうるので、その使用量は可能な限り少量であることが好ましく、乳化重合に引き続き、透析処理を施すことで可能な限り除去するのが、さらに望ましい。また、低分子量では熱、光に対する安定性が劣ることが知られており、耐変色性はこれら安定性と平行する関係が認められているので分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定された重量平均分子量にて10万以上であることが望ましい。
【0079】
[金属酸化物(B)]
本発明における金属酸化物(B)(以下、単に「成分(B)」ということもある)を構成する金属としては、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi、希土類金属等が挙げられる。金属酸化物を構成する金属は、それぞれ単独でも2種以上から構成されても良い。本発明のフィルムで使用可能な金属酸化物の種類は、特に制限されず、各種の金属の酸化物を用いることができる。好ましくは、Si、Al、Zn、Zr、In、Sn、Ti、Pb、Hfなど無色の金属の酸化物を用いることがコーティング膜として利用する観点から好ましい。中でも、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアを用いることが好ましい。本発明における金属酸化物は、組成物中で微粒子状に分散あるいは凝集した構造体として含まれるか、または組成物のマトリックスとして連続した構造体となる。金属酸化物は、上記のとおり特に制限されるものではないが、コーティング膜として、ガスバリア性を向上させるという観点からは、金属酸化物は連続したマトリックス構造体となる方が良く、そのような金属酸化物の構造体は、後述する金属アルコキシドを加水分解及び/又は加水分解及び重縮合させる、すなわちゾルゲル反応により得られる。
【0080】
[金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物(D)]
本発明における金属アルコキシドは、下記式(1)で表されるものを指す。
(R1)xM(OR2)y (1)
式中、R1は、水素原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基など)、炭素−炭素二重結合含有有機基(アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、ハロゲン含有基(クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)などを表す。R2は、炭素数1以上6以下、好ましくは炭素数1以上4以下の低級アルキル基を表す。xおよびyは、x+y=4かつ、xは2以下となる整数を表す。Mは、前記金属酸化物を構成する金属であり、それらの中でも珪素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウムなどが好ましく用いられ、それらを組み合わせて使ってもよい。なかでも珪素化合物は、比較的安価で入手しやすく、反応が緩やかに進行するため、工業的な利用価値が高い。また、金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物(D)(以下、単に「成分(D)」ということもある)は、水および触媒の添加により、ゾルゲル反応することで、金属酸化物となる化合物であってもよい。
【0081】
具体例を挙げると、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、これらに対応するアルコキシアルミニウム、アルコキシジルコニウム、アルコキシチタンが挙げられる。
【0082】
さらに、これらの金属アルコキシドに加えて、後述するようにガスバリア性やハードコート性を向上させる目的で添加される水溶性高分子と金属酸化物との相溶性や水素結合、イオン結合、共有結合等の相互作用を導入するために、以下1)〜4)に示すようなR1に各種官能基をもつ金属アルコキシドを使用することもできる。
【0083】
1)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基とアルコキシシリル基とを有する化合物
2)3−グリシドキシプロピルプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基とアルコキシシリル基とを有する化合物
3)3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基とアルコキシシリル基とを有する化合物
4)3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等のウレイド基とアルコキシシリル基とを有する化合物
【0084】
本発明において、金属アルコキシドとしては、上記式(1)において、Mがシリコン(Si)であるアルコキシシラン、Mがジルコニウム(Zr)であるアルコキシジルコニウム、Mがアルミニウム(Al)であるアルコキシアルミニウムおよびMがチタン(Ti)であるアルコキシチタンが好ましい。
【0085】
また、コーティング膜層(II)のガスバリア性は、アルコキシ基の数が多いと生成する金属酸化物の構造が密になりガスバリア性が向上する傾向にあるため、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の4官能性金属アルコキシドを用いることが好ましい。また、これらの金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重縮合物は、単独または2種以上の混合物として用いてもよい。
【0086】
金属アルコキシドの加水分解縮合物は、これらの1種以上の金属アルコキシドに酸またはアルカリ化合物を触媒として加水分解したものが、重縮合することにより得られる化合物であり、たとえば金属アルコキシドの部分加水分解重縮合化合物である。
【0087】
本発明において、金属アルコキシドの加水分解縮合物としては、アルコキシシランの縮合物、アルコキシジルコニウムの縮合物、アルコキシアルミニウムの縮合物、およびアルコキシチタンの縮合物が好ましい。
【0088】
[コーティング用組成物]
本発明におけるコーティング用組成物は、少なくとも非水溶性樹脂微粒子(A)の水および/または水と親和性を有する有機溶媒に分散した非水溶性樹脂微粒子分散液(C)と、金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物(D)とを含む組成物である。
【0089】
また、成分(C)および成分(D)を含有する組成物においては、成分(C)と成分(D)との重量比は、成分(C)100重量部に対して25重量部以上6300重量部以下である。後述するように金属酸化物(B)が連続した相を形成させる目的においては成分(D)の比率は、成分(C)の100重量部に対して35重量部以上4600重量部以下が好ましく、50重量部以上2600重量部以下がさらに好ましい。
【0090】
[その他の成分]
本発明のコーティング用組成物は、さらに以下の1)〜4)に挙げる他の成分を含んでもよい。
1)触媒
コーティング用組成物は、金属アルコキシドの加水分解・重縮合反応における反応を促進させる目的で、以下に示すような加水分解・重縮合反応の触媒となりうるものを含んでいてもよい。
【0091】
金属アルコキシドの加水分解・重縮合反応の触媒として使用されるものは、「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」(平島碩著、株式会社総合技術センター、29頁)や「ゾル−ゲル法の科学」(作花済夫著、アグネ承風社、154頁)等に記載されている一般的なゾル−ゲル反応で用いられる触媒である。
【0092】
具体的には、酸触媒では塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、トルエンスルホン酸等の無機および有機酸類、アルカリ触媒では、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン類などが挙げられる。
【0093】
その他にも、有機スズ化合物、チタニウムテトライソプロポキシド、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトナート、トリメトキシボランなどの金属アルコキシド等を使用することができる。
【0094】
反応性の観点から、比較的穏やかに反応が進行する塩酸、硝酸等、酸触媒を使用することが好ましい。好ましい触媒の使用量は、前記成分(B)の金属アルコキシド1モルに対して0.001モル以上0.05モル以下、好ましくは0.001モル以上0.04モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.03モル以下の程度である。
【0095】
2)水
金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物(B)における金属アルコキシドを加水分解させる目的で、金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物(B)に水を添加してもよい。添加する水の量は、金属アルコキシドおよび/またはその部分加水分解重縮合物に含まれる総アルコキシ基に対して、10モル当量以下であり、好ましくは4モル当量以下であり、より好ましくは3モル当量以下である。
【0096】
金属アルコキシド類の加水分解重縮合時の好ましい反応温度は1℃以上100℃以下であり、より好ましくは20℃以上60℃以下であり、反応時間は10分以上72時間以下であり、より好ましくは1時間以上24時間以下である。
【0097】
3)金属酸化物微粒子
コーティング用組成物は、さらに金属酸化物微粒子を含んでいてもよい。金属酸化物を添加することで、ハードコートの耐擦傷性が向上する。金属酸化物微粒子とは、珪素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウム、スズ、亜鉛、アンチモンから選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる酸化物微粒子を指し、BET法における平均粒子径が、耐擦傷性をさらに向上させる観点で1nm以上、透明性をさらに向上させる観点で100nm以下が望ましい。金属酸化物微粒子の具体例として下記がある。
【0098】
シリカ微粒子としては、日産化学工業(株)製 商品名:メタノールシリカゾル、MA−ST−MA、MEK−ST、MIBK−ST、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−MS、IPA−ST−L、IPA−ST−ZL、NPC−ST−30、NBA−ST、XBA−ST、EG−ST、DMAC−ST、ST−20、ST−30、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−S、ST−50、ST−20L、ST−OL、ST−XS、ST−XL、ST−YL、ST−ZL、QAS−40、LSS−35、LSS−45、ST−UP、ST−OUP、ST−AK、日本アエロジル(株)製 商品名:アエロジル50、アエロジル90G、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル200V、アエロジル200CF、アエロジル200FAD、アエロジル300、アエロジル300CF、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルR972V、アエロジルR972CF、アエロジルR974、アエロジルR202、アエロジルR805、アエロジルR812、アエロジルR812S、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170、アエロジルCOK84、アエロジルTT600、アエロジルОX50等を挙げることができる。
【0099】
アルミナ微粒子としては、日産化学工業(株)製 商品名:アルミナゾル−100、アルミナゾル−200、アルミナゾル−520等を挙げることができる。
アルミナ、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛の粉末および溶材料分散品としては、シーアイ化成(株)製 商品名:ナノテックを挙げることができる。
【0100】
これら金属酸化物微粒子は、コーティング用組成物100重量部に対して1重量部以上100重量部以下、好ましくは1重量部以上60重量部以下含有する。金属酸化物微粒子が多すぎると、塗膜の透明性が低下し、少なすぎると、添加による効果が不十分である。上記範囲内であれば、透明性、耐水性、ガスバリア性、耐擦傷性のバランスに優れたコーティング膜を得ることができる。
【0101】
4)溶媒
コーティング用組成物は、溶媒を含んでもよい。溶媒を含むことにより、コーティング用組成物からなるコート材料を樹脂表面に塗布する工程を容易にするので好ましい。用いることのできる溶媒は、水系溶媒または有機溶媒のどちらでもよく、本発明のコーティング用組成物を溶解または分散させるものであれば特に限定はない。
【0102】
より具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、酢酸エチル、プロピオン酸ブチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリルが挙げられる。これらの溶媒は単一で用いてもまた2種類以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0103】
これらの溶媒のうち、特に水または水とアルコールの混合溶媒が好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが好ましく、また水とアルコールの混合比は、重量比で2/8から8/2が好ましい。用いる溶媒の量は、コーティング用組成物が凝集や沈殿などを生じることなく使用できるものであれば特に制限はないが、通常は前記成分(C)と前記成分(D)の混合物100重量部に対し、たとえば1重量部以上1000000重量部以下の範囲であり、より好ましくは10重量部以上10000重量部以下の範囲である。
【0104】
[コーティング(用)組成物の製造方法]
本発明のコーティング用組成物は、たとえば、前記成分(A)の水および/または水と親和性を有する有機溶媒に分散した分散液(C)と金属アルコキシドおよび/または金属アルコキシドの加水分解縮合物(D)とを混合して調製される。
成分(D)が金属アルコキシドの場合には、成分(D)または成分(D)を前記溶媒に溶解した溶液に、前記成分(A)の分散液(C)を添加して攪拌混合した後に、必要に応じて水、触媒を添加して攪拌混合することで調製される。
【0105】
成分(D)が金属アルコキシドの加水分解縮合物の場合には、予め金属アルコキシドまたは金属アルコキシドを前記溶媒に溶解した溶液に水および触媒を添加して、所定温度、所定時間攪拌下に反応を行った後に、成分(A)の分散液を混合する方法で調製される。
【0106】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、フィルム基材などのプラスチック基材(I)にコーティング膜層(II)を形成する、非水溶性樹脂微粒子(A)と金属酸化物(B)とを少なくとも含有するコーティング用組成物をコーティングした積層体であり、以下2つの構成に分けられる。
【0107】
(1)プラスチック基材(I)、コーティング膜層(II)とからなり、(I)/(II)の順の積層構造を有する。
(2)プラスチック基材(I)、無機化合物からなる蒸着膜層(III)、およびコーティング膜層(II)とからなり、(I)/(III)/(II)の順の積層構造を有する。
積層構造の構成は、(I)/(III)/(II)/(III)/(II)のように蒸着膜層(III)とコーティング膜層(II)を二層ずつ交互に積層することも可能であるし、後述する接着層(IV)を用いて(I)/(II)/(IV)/(I)/(II)あるいは(I)/(III)/(II)/(IV)/(I)/(III)/(II)、もしくは粘着剤層(V)を用いて(I)/(II)/(V)/(I)/(II)あるいは(I)/(III)/(II)/(V)/(I)/(III)/(II)となるように二枚以上のプラスチック積層体を貼り合せてもよい。ただし、層数が増加することによる製造コストの増加のため、実用的には各層の層数の上限は、10層以下、好ましくは7層以下である。
【0108】
[プラスチック基材(I)]
プラスチック基材に用いられる樹脂の種類として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンコポリマーなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、AB樹脂、ABS樹脂、PEEK樹脂、PEK樹脂、PES樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂の混合物、またはこれらの樹脂の積層体であってもよい。これらの樹脂がフィルムの場合には未延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。更に、プラスチック基材(I)の表面をコロナ処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、アルカリ処理等の表面改質を行い、コーティング膜層(II)および/または蒸着膜層(III)の密着性を向上させることも可能である。
【0109】
[コーティング膜層(II)]
本発明において用いられるコーティング膜層(II)は、少なくとも非水溶性樹脂微粒子(A)と金属酸化物(B)とを含む組成物より形成される。
【0110】
また、一般的にガスバリア性やハードコート性を向上させるには金属酸化物の比率を高め、金属酸化物の連続構造を形成させると良い。金属酸化物の連続相を形成させるには、理想的には非水溶性樹脂微粒子同士が接触しないでいわゆる金属酸化物の「海」の中に樹脂微粒子が「島」の状態で分散している状態が好ましく、そのような金属酸化物の連続膜を形成させるためには、樹脂微粒子の形状や粒子径分布、さらには金属酸化物と樹脂種類による密度差により変化するが、概ね前記成分(A)と前記成分(B)の重量比は、成分(A)の100重量部に対して10重量部以上、好ましくは15重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上となる。一方、金属酸化物量の比率が高くなると、特にコーティング膜厚を厚くして成膜する際にクラックが生じるなどの不具合が生じることがある。例えば1μm以上のコーティング膜を成膜するには前記成分(A)と前記成分(B)の重量比は、成分(A)の100重量部に対して2500重量部以下、好ましくは1800重量部以下、さらに好ましくは1000重量部以下である。
【0111】
従って、前記成分(A)と前記成分(B)の重量比は、金属酸化物がマトリックス構造を取るのに必要な比率以上、クラックが発生しない程度の比率以下であり、成分(A)の100重量部に対して10重量部以上2500重量部以下であり、好ましくは15重量部以上1800重量部以下、さらに好ましくは20重量部以上1000重量部以下である。
【0112】
理論上、成分(A)非水溶性樹脂微粒子を真球と仮定したときに、成分(B)金属酸化物からなるマトリックス中における非水溶性樹脂微粒子の占有率が最大に達するのは、六方最密充填した時であると考えられる。理論的に粒子径が均一であったと仮定すると、最大占有率は74体積%である。また、粒子径に分布がある場合、金属酸化物マトリックス内での非水溶性微粒子樹脂微粒子の占有率を更に上げることが可能である。均一な1次粒子で最密充填させ、その最密充填空隙にちょうどはまる径の均一2次粒子を充填させれば、79体積%まで可能となる。更にその空隙に3次粒子を充填すれば、81体積%、更に4次粒子を充填することで84体積%、更に5次粒子まで充填すると85体積%に達する。これを体積比から重量比に換算した場合{例えば、成分(B)としてゾルゲルシリカ(密度:1.4g/cmとする)、成分(A)としてポリウレタン樹脂(密度:1g/cmとする)の場合}、成分(A)の非水溶性微粒子樹脂微粒子100重量部に対し、成分(B)は20重量部が下限となり、上記範囲内に収まる。
【0113】
このコーティング膜の膜厚は0.02μm以上100μm以下、好ましくは0.05μm以上80μm以下である。更に好ましくは0.1μm〜70μmの範囲にある。膜厚が厚すぎると、塗膜にクラックが生じる可能性がある。
【0114】
[コーティング膜層(II)の構造]
本発明はコーティング膜層(II)中で金属酸化物(B)がマトリックスとして連続した構造が形成されることで高いガスバリア性が発現する点に特徴がある。本発明のコーティング膜層(II)は、少なくとも非水溶性樹脂微粒子(A)と金属酸化物(B)とを含む組成物から形成され、膜中では金属酸化物(B)が連続した構造体となり、かつ非水溶性樹脂微粒子(A)がその中に分散した構造を形成することで、ガスバリア性、加工性、柔軟性に優れるコーティング膜となる。そのような非水溶性樹脂微粒子(A)および金属酸化物(B)から形成される構造体は、非水溶性樹脂微粒子(A)からなる分散液(C)と金属アルコキシドおよび/または金属アルコキシドの加水分解縮合物(D)との混合溶液を重縮合させる、すなわちゾルゲル反応を行い、プラスチック基材に塗布・乾燥する過程で形成される。非水溶性樹脂微粒子は平均粒子径が0.01μm〜1μmの範囲にあり、水および/または水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系媒体)に不溶であるが、それらの媒体中で凝集することなく分散しているものが、前記のようなマトリックスとして連続した金属酸化物の構造体を形成させるために好ましく用いられる。本発明のコーティング膜層(II)は、前記コーティング用組成物(必要に応じて触媒を添加した水性組成物)に含まれる金属アルコキシドの加水分解物やその重縮合生成物である無機酸化物および/またはその前駆体は親水性物質であり、前記非水溶性樹脂微粒子とは非相溶であるため、コーティング液中では分散媒(水)相に存在する。それが乾燥に伴ってエマルション粒子間の隙間に濃縮され、さらに反応が進行することによって、最終的に分散媒が蒸発すると非水溶性樹脂微粒子間を埋めるように連続した構造となり金属酸化物マトリックスが形成される。
【0115】
本発明のコーティング膜(II)は、薄膜切片法で作製した試料の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、金属酸化物と非水溶性樹脂微粒子に相分離構造を形成していることが確認できる。前述のように、金属酸化物はその生成過程においても非水溶性樹脂微粒子と非相溶系であることから、コーティング膜は相分離構造となるのである。
【0116】
[コーティング膜層(II)の積層方法]
コーティング膜層(II)は、本発明のコーティング用組成物の膜状物を形成しこれを熱処理することにより製造される。
【0117】
膜状物とは、組成物が基材の表面を覆った状態を指す。膜状物を形成する方法は、特に限定はなく、たとえばコーティング用組成物の溶液をガラス板、金属板や熱可塑性樹脂フィルムなどの支持体上に流延し、乾燥する方法などがある。支持体上に所望の厚さに膜状物を形成した後、熱処理を行う。熱処理温度は通常50℃以上250℃以下の範囲であって、より好ましくは80℃以上200℃以下、さらに好ましくは80℃以上170℃以下の範囲である。
【0118】
[蒸着膜層(III)]
本発明において用いられる蒸着膜層(III)は、無機化合物からなる。具体的には、Si,Ta,Nb,Al,In,W,Sn,Zn,Ti,Cu,Ce,Ca,Na,B,Pb,Mg,P,Ba,Ge,Li,K,Zr,Sbから選ばれる1種以上を含む酸化物または窒化物または酸化窒化物を主成分とすることが望ましい。特に、コーティング膜層(II)との密着性及び親和性、製造の安定性、安全性やコストの観点から、SiO、AlO、SiN、ダイヤモンドライクカーボンがより好ましい。
【0119】
蒸着膜層(III)の形成方法は、物理的蒸着法(PVD法)、低温プラズマ気相成長法(CVD法)、イオンプレーティング、スパッタリングなどの手段で実現される。蒸着膜層(III)の好ましい膜厚としては、1〜1000nmの範囲内、好ましくは5〜1000nmの範囲内、特に10〜100nmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、ガスバリア性、耐屈曲性に優れた膜を形成することができる。
【0120】
[接着層(IV)]
本発明における接着層(IV)は、透明であれば公知の物を用いることができる。具体的にはエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、変性アクリレート系接着剤などを例としてあげることができる。
【0121】
[粘着材層(V)]
本発明における粘着材層(V)は、プラスチック基材(I)に蒸着膜層(III)、コーティング膜層(II)を積層した積層体を貼り合せるのに用いられるほか、該ガスバリアフィルムの最外層に後述する機能性透明層(VI)を積層する場合に必要に応じて用いられる。また複数の機能性透明層を貼り合せる時にも用いることができる。本発明の粘着材層(V)は、透明であれば、公知の粘着材を制限無く用いることが出来る。具体的には、特開平10−217380号公報や特開2002−323861号公報等に記載されているものを採用することが出来る。
【0122】
[機能性透明層(VI)]
機能性透明層(VI)としては、防眩層やハードコート層、防汚層、帯電防止層、調色層、反射防止層、光取り出し効率向上層等が採用できる。これらの層は上記の透明ガスバリアフィルムの一方の面もしくは両面、もしくは内部に用いることができる。これらの機能性透明層(VI)については、より詳細には特開平10−217380号公報や特開2002−323861号公報等に記載されているものを採用することが出来る。
【0123】
[ガスバリアフィルム用途]
本発明のガスバリアフィルムは、酸素、水蒸気、その他被コーティング材料の品質劣化を促すガスを遮断することができるため、特に食品、医療等の包装材料や電子材料において有用である。プラスチック基材(I)、無機化合物からなる蒸着膜層(III)、およびコーティング膜層(II)を、(I)/(III)/(II)の順に積層構造にしたものは、高いガスバリア性を得ることができる。本発明においては、コーティング膜の酸素透過性を測定することにより、コーティング膜のガスバリア性を評価した。
【実施例】
【0124】
以下に、本発明の実施形態例を示す。なお、当然のことながら本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術範囲において、種々の形態に変更することが可能である。以下、「部」とあるのは、特にことわりがない場合、「重量部」を指す。
【0125】
[実施例1]
(コーティング用組成物の調製)
(A)成分として、三井化学ポリウレタン(株)製ポリウレタンエマルション(製品名 WPB−6601、固形分25重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液を用いた。
【0126】
(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。(C)成分である5重量%ポリウレタンエマルション65重量部を添加し、室温で3分間攪拌した。その後、0.1N−塩酸12.5重量部を徐々に滴下した後、室温で1.5時間攪拌した。これを溶液e11とする。一方、(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。その後、0.1N−塩酸を10重量部滴下し、室温で1時間攪拌した。これを溶液e12とする。
【0127】
溶液e11と溶液e12を重量比で8/2で混合し、さらに室温で5分間攪拌を行い、コーティング用組成物を得た。
【0128】
(コーティング膜の作製)
厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)基板(東洋紡(株)製、コスモシャインA4100)に、上記の方法で調製した組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.5μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0129】
なお、以降の実施例2、3においても、実施例1と同様に(A)成分として5重量%ポリウレタンエマルション、溶液e11および溶液e12を用いた。
【0130】
[実施例2]
溶液e11と溶液e12を重量比で8/2で混合し、さらに室温で5分間攪拌を行い、コーティング用組成物を得た。
厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、上記の方法で調製した組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.5μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0131】
[実施例3]
溶液e11と溶液e12を重量比で7/3で混合し、さらに室温で5分間攪拌を行い、コーティング用組成物を得た。これを用いて、実施例2と同様に、厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に厚みが約0.5μmとなるように塗布、110℃で1.5時間加熱してコーティング膜を得た。
【0132】
[実施例4]
(ポリスチレン分散液の製造)
温度計、撹拌機、窒素導入管、冷却管、2本の滴下漏斗を備えたフラスコを用いて合成を行った。2本の滴下漏斗のうち1本に、スチレン80部、ブチルアクリレート11部、メタクリル酸6部、アクリルアミド2.5部、ポリエチレングリコールジメタクリレート8部、ラウリル硫酸ナトリウム0.3部及び水120部を混合し、ホモミキサーにて乳化した乳化液を入れ、もう一方の滴下漏斗には、触媒としての過硫酸カリウム0.8部を水15部に溶解した溶液を入れた。フラスコ中にはラウリル硫酸ナトリウム0.1部を水145部に溶解し、フラスコ中を窒素雰囲気にし、フラスコを湯浴により70℃に加温し、250rpmで攪拌しながら、2本の滴下漏斗中の溶液を4時間かけてフラスコ内に滴下して反応を行った。滴下終了後、更に4時間攪拌を行い、冷却後25%アンモニア水1部を添加し、不揮発分27.6%、pH=8.0のエマルションを得た。得られたエマルションの体積平均粒径は0.05μmであった。得られたポリスチレンエマルション30部に対して蒸留水135部を加えることで5重量%ポリスチレンエマルションに希釈した。
【0133】
(コーティング用組成物の調製)
(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。(C)成分である5重量%ポリスチレンエマルション65重量部を添加し、室温で3分間攪拌した。その後、0.1N−塩酸10重量部を徐々に滴下した後、室温で1.5時間攪拌した。これを溶液e81とする。一方、(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。その後、0.1N−塩酸を10重量部滴下し、室温で1時間攪拌した。これを溶液e82とする。
【0134】
溶液e81と溶液e82を重量比で8/2で混合し、さらに室温で5分間攪拌を行い、コーティング用組成物を得た。これを用いて、実施例1と同様に、厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に厚みが約0.5μmとなるように塗布、110℃で1.5時間加熱してコーティング膜を得た。
【0135】
[実施例5]
(C)成分として、日本ペイント(株)製ポリスチレンエマルション(製品名ファインスフェアFS−102E、固形分25重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリスチレンエマルション水分散液を用いた。
【0136】
(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。0.1N−塩酸1重量部を滴下した後、(C)成分である5重量%ポリアクリレートエマルション6重量部を添加し、室温で1.5時間攪拌した。
【0137】
厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、上記の方法で調製した組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.5μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0138】
[実施例6]
(C)成分として、日本ペイント(株)製ポリアクリレートエマルション(製品名ファインスフェアMG−151E、固形分25重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリアクリレートエマルション水分散液を用いた。
【0139】
(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。0.1N−塩酸1重量部を滴下した後、(C)成分である5重量%ポリアクリレートエマルション6重量部を添加し、室温で1.5時間攪拌した。これを溶液e61とする。一方、(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。その後、0.1N−塩酸を5重量部滴下し、室温で1時間攪拌した。これを溶液e62とする。
【0140】
溶液e61と溶液e62を重量比で8/2で混合し、さらに室温で5分間攪拌を行い、コーティング用組成物を得た。
【0141】
厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、上記の方法で調製した組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約1μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0142】
[実施例7]
(C)成分として、旭化成ケミカルズ(株)製ポリ塩化ビニリデンエマルション(製品名 サランラテックスL536B、固形分48重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリ塩化ビニリデン水分散液を用いた。
【0143】
(D)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌した。その後、0.1N−塩酸1重量部を滴下した後、(C)成分である5重量%ポリ塩化ビニリデンエマルション60重量部を添加し、室温で1.5時間攪拌した。
【0144】
厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、上記の方法で調製した組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約1μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0145】
[比較例1]
実施例1〜3で用いた三井化学ポリウレタン(株)製ポリウレタンエマルション(製品名 WPB−6601、固形分25重量%)を、実施例1と同様に、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)基板(東洋紡(株)製、コスモシャインA4100)にバーコーターを用いて、硬化後の厚みが約2μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0146】
[比較例2]
実施例1〜3で用いた三井化学ポリウレタン(株)製ポリウレタンエマルション(製品名 WPB−6601、固形分25重量%)80重量部に対して蒸留水96重量部、メタノール24重量部を加えることで10重量%ポリウレタンエマルションを調製した。これを用いて、実施例2と同様に、厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に厚みが約0.5μmとなるように塗布、110℃で2分間加熱してコーティング膜を得た。
【0147】
[比較例3]
(ポリビニルアルコール水溶液の調製)
和光純薬工業社製ポリビニルアルコール(PVA)500、完全ケン化型(平均重合度:約400〜600)5重量部に対して蒸留水95重量部を加えPVAを加熱下溶解することでPVA5重量%水溶液を得た。
【0148】
(ポリアクリル酸水溶液の調製)
和光純薬工業社製ポリアクリル酸(PAA)水溶液(25%)(粘度:8000〜12000cP(30℃))20重量部に対して蒸留水80重量部を加えPAA5重量%水溶液を得た。
【0149】
(コーティング用組成物の調製)
PAA5重量%水溶液1400重量部を攪拌しながら、3−アミノプロピルトリメトキシシランとエタノールを重量比1:9で混合した溶液を52重量部滴下し、その後室温で30分攪拌した。続いて、PVA5重量%水溶液を600重量部、ジシアノジアミドを22.8重量部加えてさらに10分間攪拌した。続いて、テトラメトキシシラン377重量部を添加し、室温で1.5時間攪拌し、コーティング用組成物を得た。
【0150】
(コーティング膜の作製)
実施例1と同様に、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)基板(東洋紡(株)製、コスモシャインA4100)に、上記の方法で調製したコーティング用組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.5μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で2時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0151】
さらに、厚さ12μmのAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、上記の方法で調製したコーティング用組成物を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.5μmとなるように塗布した。その後、基板が着色、変形しないように、110℃で2時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0152】
以上の実施例および比較例における成分の配合を、SiO2(シリカ)含有量とともに、表1〜表4に示す。なお、シリカ含有量は、コーティング膜中に占めるシリカの含有の割合を示し、以下の方法で算出した。
【0153】
(シリカ(SiO2)含有率の算出方法)
シリカ含有率は、以上の実施例および比較例における(D)成分であるTMOSが100%反応し、SiO2になったと仮定して算出した。たとえば、(D)成分がTMOSの場合100%反応し、SiO2になったと仮定して算出した。すなわち
TMOS:Mw=152
SiO2:Mw=60
より、
SiO2/TMOS=60/152=0.395
である。つまり、TMOSの添加量に0.395を掛けた値が、膜中のSiO2含量となる。これより、シリカ(SiO2)含有率は、以下の式を用いて計算した。
シリカ(SiO2)含有率=[TMOS]*0.395/([A]+([TMOS]*0.395))
ただし、上記式において、[A]、[TMOS]はそれぞれの成分の重量部を示す。
【0154】
たとえば、実施例1の場合、シリカ(SiO)含有率は、
調製溶液中のシリカ(SiO2)含有量=(10*0.395)/102.5×8+(10*0.395)/35×2= 0.53、 調製溶液中のエマルション粒子含有量=(65*0.05)/102.5×8=0.25、シリカ(SiO)含有率(%)=0.53/(0.53+0.25)*100=68、である。
【0155】
[コーティング膜の評価]
以上の実施例および比較例におけるコーティング膜について、以下の方法で物性評価を行った。評価結果を表1〜表4及び図1に示す。
【0156】
(透明性)
Al蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)に、0.5μmのコーティング膜を積層したサンプルを目視で評価した。ここで、透明とは、光を散乱して白濁しない状態を示す。なお、すべてのサンプルにおいて、コーティング膜の着色および変形は認められなかった。
【0157】
(酸素透過率測定)
酸素の透過性を、JIS K7126−2:ガス透過度試験方法(等圧法)に準拠して、23℃、90%RH雰囲気下で、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OXTRAN 2/21MH)を用いて測定した。測定にはAl蒸着PETフィルム(東セロ(株)製、TL−PET)にコートしたサンプルを使用した。結果を表1に示す。
【0158】
表1の評価結果から、実施例1〜7の非水溶性樹脂微粒子分散液(C)、金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物(D)を主成分とするガスバリア性組成物を用いたコーティング膜は、透明性があり、また高湿度下(90%RH)におけるガスバリア性が高いことが分かった。また、表1より(D)成分の金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物の配合量を多くし、シリカ含有率を増加することにより、得られたコーティング膜のガスバリア性をさらに向上させることができた。
【0159】
さらに、表1より実施例2〜7のようにAl蒸着したPETフィルム上に被覆した場合、ガスバリア性がより高いことが分かった。
一方、表1より(A)成分のみで構成されたコーティング膜(比較例1)は、実施例と比較して、基材に依らず、高湿度下(90%RH)におけるガスバリア性は低かった。
【0160】
(膜断面の形状観察)
Al蒸着PET基板(東セロ(株)製、TL−PET)もしくはPET基板(東洋紡(株)製、コスモシャインA4100)にコートしたサンプルを収束イオンビーム(FIB)加工によって切片を切り出した。続いて、この膜断面の形状を透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察した。
【0161】
(コーティング膜内の非水溶性樹脂微粒子の粒径測定)
前記膜断面の形状観察と同様に、このコーティング膜断面の形状を透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察し、観察される非水溶性樹脂微粒子の粒径を測定した。
【0162】
実施例1で作製したフィルムは、プラスチック基材としてPETを用いてその表面にコーティング膜層を形成したものであり、図1に示したように、このフィルム断面の透過電子顕微鏡による観察より、作製したガスバリア性ハイブリッドフィルムは、シリカが作る連続したマトリックス中に非水溶性樹脂が均一に分散した構造を形成していることが分かった。
【0163】
図1のフィルム断面の透過電子顕微鏡による観察より、実施例1で作製したガスバリア性ハイブリッドフィルム中のポリウレタン樹脂微粒子の粒径は、0.03〜0.05μmであることが分かった。また、同じ非水溶性樹脂水分散液(ポリウレタン樹脂)を用いた実施例2、3も同様の結果となった。また、同様の方法にて、実施例4、5のポリスチレン樹脂微粒子の粒径は、実施例4では0.02〜0.04μm、実施例5では0.07〜0.08μmであった。実施例6のポリアクリル樹脂微粒子の粒径は0.06〜0.07μm、実施例7のポリ塩化ビニリデン樹脂微粒子の粒径は、0.1〜0.2μmであった。
【0164】
(折り曲げ強度試験)
直径80mmの円柱に、作製したコーティング膜を20回巻きつけた後、酸素透過率を測定した。結果を表2に示す。
表2の結果より、実施例2の本発明のガスバリア性ハイブリッドフィルムは、高いシリカ含有率であるにも関わらず、十分な柔軟性を有しており、折り曲げによって、酸素バリア性が低下しないことが分かった。
【0165】
(ドライ及び湿潤ラミネート強度試験)
実施例2及び比較例2及び3のガスバリア性被膜層側に、接着剤(A50/A525S)を介してヒートシール層として無延伸ポリプロピレンフィルムを接着し、40℃で三日間養生した。このラミネート処理を施した積層フィルムにおいて、実施例2及び比較例2及び3のガスバリア性フィルムと、無延伸ポリプロピレンからなるヒートシール性樹脂との層間の密着強度を、JIS Z−1707に準拠し測定を行った。測定条件は、試験幅15mm、剥離速度300mm/min、剥離角度を90°、180°として、初期強度の測定を実施した。また、湿潤ラミネート強度試験では、剥離界面を水で湿潤させながら行った。結果を表3に示す。
【0166】
(レトルト適性評価)
上記積層体についてレトルト適性評価を行うために、それぞれの4方シールパウチを作製して内容物として水を充填し、121℃−30分間のレトルト殺菌を実施した。
レトルト適性評価として、レトルト前後の酸素透過率(cc/m2/day,atm)及びラミネート強度(N/15mm)、更に目視観察によるレトルト後シール部のデラミ発生状況を観察した。結果を表4に示す。
【0167】
表3のラミネート強度試験の結果から、実施例2のガスバリア性ハイブリッドフィルムよりなるガスバリア積層体は、ドライ及び湿潤ラミネート強度共に高い数値を示し、ドライでも高湿度下でも密着性に優れていることが分かった。
【0168】
一方、表3より(A)成分のみで構成されたコーティング膜(比較例2)及び水溶性ポリマーとシリカとのハイブリッドフィルム(比較例3)では、実施例と比較して、ドライラミネート強度は良いものの、湿潤ラミネート強度は全くなかった。
【0169】
表4の結果より、従来技術である、水溶性ポリマーとシリカとのハイブリッドフィルム積層体(比較例3)では、レトルト殺菌処理後、デラミネーションを起こしてしまっていた。これに対して、実施例2に代表される本発明のガスバリア性ハイブリッドフィルム積層体では、レトルト殺菌処理後も、デラミネーションは全く発生せず、高い密着性を保持していた。
【0170】
また、表4の結果より、レトルト殺菌処理後、(A)成分のみで構成されたコーティング膜(比較例2)を用いたガスバリア積層体では、酸素バリア性は消失してしまっているのに対して、実施例2に代表される本発明のガスバリア性ハイブリッドフィルム積層体では、酸素バリア性はやや低下するものの、十分なガスバリア性を保持していた。
【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

【0173】
【表3】

【0174】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】実施例1で作製したフィルム断面の透過電子顕微鏡による観察結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)が、少なくとも下記の成分(A)、成分(B)を含有し、コーティング膜層(II)が(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(A)が分散した構造となっていることを特徴とするガスバリア性フィルム。
成分(A):非水溶性樹脂微粒子
成分(B):金属酸化物
【請求項2】
前記成分(A)100重量部に対し、前記成分(B)が10重量部以上2500重量部以下である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記成分(A)において、非水溶性樹脂微粒子の平均粒径が0.01μmから1μmの範囲にある請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記成分(A)が、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、からなる群から選ばれる1種以上の化合物からなる非水溶性樹脂微粒子である請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記成分(B)がシリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物である請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記成分(B)が、水および触媒の存在下でゾル−ゲル反応により得られる金属酸化物である請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
プラスチック基材(I)上に、コーティング膜層(II)を設けた構成のガスバリア性フィルムにおいて、コーティング膜層(II)を形成するコーティング用組成物が、少なくとも下記の成分(C)、成分(D)を含有し、コーティング膜層(II)が成分(D)の重縮合より形成される(B)金属酸化物を主とするマトリックスに、成分(C)中の(A)非水溶性樹脂微粒子が分散した構造となっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
成分(C):非水溶性樹脂微粒子分散液
成分(D):金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物
【請求項8】
前記成分(C)100重量部に対し、前記成分(D)が25重量部以上6300重量部以下である請求項7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記成分(D)が、アルコキシシラン、アルコキシジルコニウム、アルコキシアルミニウム、およびアルコキシチタンからなる群から選ばれる1種以上である請求項7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記成分(D)が、アルコキシシランの縮合物、アルコキシジルコニウムの縮合物、アルコキシアルミニウムの縮合物およびアルコキシチタンの縮合物からなる群から選ばれる1種以上である請求項7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記成分(C)非水溶性樹脂微粒子水分散液と、前記成分(D)金属アルコキシドおよび/またはその加水分解縮合物との混合溶液を重縮合反応した後にプラスチック基材(I)に塗布後乾燥することにより製造されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記プラスチック基材(I)と、前記コーティング膜層(II)との間に、物理的蒸着法(PVD法)および化学的蒸着法(CVD法)の内の少なくとも一つの蒸着法により得られる、Si,Ta,Nb,Al,In,W,Sn,Zn,Ti,Cu,Ce,Ca,Na,B,Pb,Mg,P,Ba,Ge,Li,K,Zr,Sbから選ばれる1種以上を含む酸化物または窒化物または酸化窒化物を主成分とする蒸着膜層(III)を有する請求項1〜11のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項13】
前記蒸着膜層(III)が、1〜1000nmの範囲内の膜厚を有する蒸着膜である請求項12に記載のガスバリア性フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269217(P2009−269217A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119343(P2008−119343)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】