説明

ガスバリア性フィルムの製造方法、及びガスバリア性フィルム

【課題】ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムの製造方法、ガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、基材を準備する基材準備工程と、基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程とを有し、ガスバリア層形成工程におけるガスバリア層の形成を、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行うようにすることにより、上記課題を解決する。本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア層の組成を、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下とする(但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる)ことにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムの製造方法、及びガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の包装材料として用いられるガスバリア性フィルムにおいては、内容物の品質を劣化させる要因である酸素・水蒸気の影響を防ぐために、プラスチックフィルム等の基材上にガスバリア層が形成される。こうしたガスバリア層としては、通常、無機材料が用いられる。
【0003】
特許文献1には、ガスバリア性積層体を基材上に形成したガスバリア性フィルムについて記載されている。実際に、同文献では、ガスバリア性積層体が、珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ有する、としている。そして、珪素酸窒化物層については、40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が0.01g/m・day以下であるハイバリア性のガスバリア性フィルムを作製するには、誘導結合プラズマCVD法による形成方法を採用するのが最も好ましい、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−253590号公報(請求項1、第0020段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1に紹介されている、珪素酸窒化物層の最も好ましい形成方法たる誘導結合プラズマCVD法では、良好なガスバリア性フィルムを得にくいという課題があることが判明した。
【0006】
すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)法では、ヘキサメチルジシラザン等の有機金属化合物を原料に用い、それをプラズマ分解して珪素酸窒化物層を形成するために、珪素酸窒化物層への炭素の混入が避けられない。この点につき、特許文献1には明記はないものの、誘導結合プラズマCVD法を採用する限りは、3原子%以上の炭素が珪素酸窒化物層に含まれることになると推測される。そして、炭素の混入は、珪素酸窒化物層の密度の低下を招くとともに、珪素酸窒化物層が熱や紫外線により劣化しやすくなり耐環境特性の低下をも招くこととなる。その結果、ディスプレイ用途、照明用途、及び車載用途等の高い耐環境特性が要求される分野には、使用しにくいガスバリア性フィルムとなる。
【0007】
上記のような炭素の混入の低減を考慮すると、珪素酸窒化物(以下、酸窒化珪素という場合がある。)から形成されるガスバリア層は、CVD法ではなく、気相中で物理的手法により目的とする物質の薄膜を形成するPVD法(Physical Vapor Deposition)で成膜される方が好ましいといえる。そして、PVD法のうち、例えば、イオン化した蒸着物質を電界で加速して基材表面に衝突させるイオンプレーティング法は、真空蒸着法やスパッタリング法に比べて蒸着物質の運動エネルギーが大きいため、基材と蒸着物質との密着性が強いという特徴を有する。このため、イオンプレーティング法は、良好なガスバリア層ひいてはガスバリア性フィルムを得るための有望な成膜方法である。
【0008】
しかしながら、本発明者が酸窒化珪素から形成されるガスバリア層をイオンプレーティング法で形成することを検討したところ、ガスバリア性は確保されるものの透明性が不十分となる課題があることが判明した。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第2の目的は、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、酸窒化珪素から形成されるガスバリア層をイオンプレーティング法で形成することを検討していく過程で、透明性を下げる要因が、イオンプレーティングの際に用いる昇華ガスの種類にあることを見出した。すなわち、イオンプレーティング法では、昇華ガスとして通常アルゴンガスが用いられるが、このアルゴンガスがガスバリア層の透明性を低下させる原因となることが判明した。そして、本発明者がさらに鋭意検討をした結果、アルゴンガスの代わりにキセノンガスを用いることにより、ガスバリア層の透明性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
上記課題を解決するためのガスバリア性フィルムの製造方法は、基材を準備する基材準備工程と、前記基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程とを有し、前記ガスバリア層形成工程における前記ガスバリア層の形成が、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行われることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、ガスバリア層形成工程におけるガスバリア層の形成が、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行われるので、蒸着材料である窒化珪素を蒸発させる際に発生する、窒素の離脱による窒化珪素の分解反応を抑制しやすくなり、ガスバリア層中で遊離する珪素の量を少なくすることができる。その結果、ガスバリア層における金属珪素特有の色味の発生を抑えることができるようになり、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法の好ましい態様においては、前記基材準備工程と、前記ガスバリア層形成工程との間に、基材上に平坦化層を設ける平坦化層形成工程をさらに有する。
【0015】
この発明によれば、基材準備工程と、ガスバリア層形成工程との間に、基材上に平坦化層を設ける平坦化層形成工程をさらに有するので、平坦化層が基材表面を覆うことによって平坦化が行われ、この平坦化された平坦化層の上にガスバリア層が設けられることになり、その結果、よりガスバリア性が確保しやすくなる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性フィルムは、基材上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、前記ガスバリア層の組成が、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下となる(但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる)ことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、ガスバリア層の組成を、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下とする(但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる)ことができるので、窒素を増加させた状態で珪素の含有量を低減することができ、ガスバリア層中で遊離する珪素の量を少なくすることができる。その結果、ガスバリア層における金属珪素特有の色味の発生を抑えることができるようになり、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【0019】
本発明によれば、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ガスバリア層形成工程に用いるイオンプレーティング装置の一例を示す模式的断面図である。
【図2】ガスバリア性フィルムの一例を示す模式的断面図である。
【図3】ガスバリア性フィルムの他の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、基材を準備する基材準備工程と、基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程とを有し、ガスバリア層形成工程におけるガスバリア層の形成が、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行われる。これにより、イオンプレーティング法において蒸着材料である窒化珪素を蒸発させる際に発生する、窒素の離脱による窒化珪素の分解反応を抑制しやすくなり、ガスバリア層中で遊離する珪素の量を少なくすることができる。その結果、ガスバリア層における金属珪素特有の色味の発生を抑えることができるようになり、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。なお、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法における「基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成する」とは、基材に接してガスバリア層を形成する場合だけでなく、基材上に設けた他の層(例えば平坦化層)を介してガスバリア層を形成する場合も含むものである。
【0023】
すなわち、蒸着法、EB蒸着法、スパッタ法、アルゴンガスを昇華ガスとして用いるイオンプレーティング法等の従来のPVD法では、蒸着材料である窒化珪素を蒸発させる際に、分解反応(窒素の脱離現象)が発生しやすくなる。このため、成膜されるガスバリア層中には未結合部位の多いSiが多く存在する傾向となる。これはSiとNとの原子間のネットワークが切れた状態となることを意味し、膜欠陥が多くバリア性劣化を引き起こす原因となるとともに、金属シリコン特有の色味も生じるため透明性の低下の原因ともなる。これを避けるために、蒸着中に酸素ガスを導入して、酸化反応を促進することも試みられているが、この方法では、透明性は向上するが、成膜圧力が上昇するため蒸気の運動エネルギーが減少しガスバリア層の緻密性が損なわれることになり、別の要因でガスバリア性が低下する傾向となる。また、成膜速度も遅くなり生産性が低下する傾向となる。この他、CVD法の採用も検討されているが、CVD法では原料に有機金属化合物を用い、それをプラズマ分解してガスバリア層を形成する原理から、ガスバリア層中への炭素の混入は避けられない。炭素の混入は、ガスバリア層の密度の低下や耐環境特性の低下(熱や紫外線による劣化)を導くため、ディスプレイや照明、車載用途等、環境特性基準の厳しい用途に使用しにくいものとなる。
【0024】
これら方法に対して、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法で酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成する場合には、上記分解反応が抑制されるため、窒化珪素が窒化珪素としてガスバリア層中に存在しやすくなり、金属シリコン特有の色味の発生が抑制されるとともに、ガスバリア性も良好になりやすい。
【0025】
キセノンガスを昇華ガスとして用いるメリットはもう一つある。すなわち、昇華ガスにキセノンガスを含有させることにより、プラズマガンに放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させやすくなる。このため、真空チャンバの真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得やすくなる。このことにより、高い生産性を保ちながら、緻密なガスバリア層を基材上に形成しやすくなる。その結果、ガスバリア性をより良好にしやすくなる。
【0026】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法につき、以下、各工程の説明を行う。
【0027】
(基材準備工程)
基材準備工程は、基材を準備する工程である。基材準備工程は、より具体的には、基材を製造して準備するか、他の製造業者で製造された基材を購入して準備すること等によって行われる。基材の製造は、基材に用いられる材料によって適宜選択すればよい。基材は、主にはシート状やフィルム状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることもできる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよい。
【0028】
基材準備工程において準備する基材は、汎用性、生産性、コスト等を考慮し、樹脂フィルムとすることが好ましい。基材に樹脂フィルムを用いる場合には、基材準備工程は、例えば、樹脂材料のペレットを溶融成形し、必要に応じて延伸を行いフィルム状に形成することによって行えばよい。この場合、基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフオン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等を用いることができる。また、ガラスクロスに樹脂を含浸させたものを用いてもよい。この場合、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上の耐熱性を有する樹脂が使用される。
【0029】
基材準備工程において、基材を樹脂フィルムとする場合には、酸化防止剤等の所定の添加剤が基材中に含有されるようにしてもよい。こうした添加剤や添加剤を含有させる方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
【0030】
基材準備工程において形成する基材の厚さは、特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、通常6μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常400μm以下、好ましくは250μm以下とする。
【0031】
基材準備工程において形成する基材を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子の基板として用いる場合には、基材は無色透明であることが好ましい。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内での基材の平均光透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度は基材の材質と厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
【0032】
基材準備工程において形成する基材が樹脂製である場合には、延伸フィルムを用いてもよい。延伸の方法も従来公知の一般的な方法を用いればよい。延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍とすることが好ましい。
【0033】
基材準備工程において形成する基材の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、UV照射処理、大気圧プラズマ処理、易接着化処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
【0034】
(ガスバリア層形成工程)
ガスバリア層形成工程は、基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成するに際して、ガスバリア層の形成を、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行う工程である。
【0035】
ガスバリア層形成工程のイオンプレーティング法は、通常のイオンプレーティング装置を用いて行えばよい。こうしたイオンプレーティング法については、例えば、特願2009−132125号明細書に記載されるとおりとすればよい。以下、具体例を用いつつ説明する。
【0036】
図1は、ガスバリア層形成工程に用いるイオンプレーティング装置の一例を示す模式的断面図である。
【0037】
イオンプレーティング装置10は、真空チャンバ12と、真空チャンバ12内に設置され、蒸着材料20を収納するるつぼ19と、真空チャンバ12に取り付けられ、真空チャンバ12内に昇華ガスを導入する昇華ガス導入管25aを有するガス導入部24と、ガス導入部24に接続され、投入された放電電力によって昇華ガス25をプラズマ化させる圧力勾配型のプラズマガン11と、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構5とを備えている。そして、図1に示すように、真空チャンバ12内に設置された被イオンプレーティング用基材13に対して蒸着材料20を蒸着するようになっている。ここで、被イオンプレーティング用基材13としては、例えば、基材準備工程で準備された基材や、後述する平坦化層形成工程で形成された平坦化層を基材上に設けたものを用いることができる。
【0038】
ガス導入部24は、昇華ガス導入管25aを有する。そして、昇華ガス導入管25aには、キセノン導入管26a及びアルゴン導入管27aが接続されている。このため、昇華ガス導入管25aを介して真空チャンバ12内に導入される昇華ガス25は、キセノン導入管26aを介して供給されるキセノンガス26の他、アルゴン導入管27aを介して供給されるアルゴンガス27を含むことができるようになっている。真空チャンバ12内に導入される昇華ガス25中のキセノンガス26及びアルゴンガス27の導入量(流量)は、それぞれキセノン導入バルブ26b及びアルゴン導入バルブ27bにより調整される。なお、昇華ガス25とは、プラズマガン11によりプラズマ化され、その後、蒸着材料20に向けて照射された際、蒸着材料20を昇華させるとともに、昇華した蒸着材料20をイオン化させるという2つの役割を果たすガスのことである。
【0039】
プラズマガン11は、放電電源14のマイナス側に接続された環状の陰極15と、放電電源14のプラス側に抵抗を介して接続された環状の第1中間電極16及び第2中間電極17とを有している。陰極15側からプラズマガン11に昇華ガス25が供給されると、プラズマガン11に所定の放電電力を投入することにより放電が発生させられ、これによって昇華ガス25がプラズマ化される。プラズマ化された昇華ガス25は、プラズマ化昇華ガス流22として第2中間電極17から真空チャンバ12内に向けて流出させられる。
【0040】
プラズマガン11には、プラズマガン11に投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構61が接続されている。検出機構61は、プラズマガン11における放電電圧を計測する放電電圧計46と、プラズマガン11における放電電流を計測する放電電流計45と、計測された放電電圧を計測された放電電流によって除することにより電気抵抗値を算出する演算部51とからなる。
【0041】
磁場機構5は、真空チャンバ12と第2中間電極17との間に設けられている。磁場機構5は、真空チャンバ12と第2中間電極17との間の短管部12Aの外側において、短管部12Aを包囲するよう設けられた収束コイル18と、るつぼ19の内部に設けられたるつぼ用磁石21とからなる。この場合、収束コイル18に発生させる磁場を制御することにより、真空チャンバ12におけるプラズマ化昇華ガス流22の行程、プラズマ化昇華ガス流22の収束などを制御することができる。本実施の形態において、真空チャンバ12内に向けて流出したプラズマ化昇華ガス流22が蒸着材料20に照射されるよう、後述する制御装置60により収束コイル18に発生させる磁場が制御される。なお、イオンプレーティング装置10においては、磁石21は、るつぼ19の中に設置されているが、磁石は蒸着材料の下部に設けられていればよく、必ずしもるつぼの中になくともよい。
【0042】
真空チャンバ12には、真空チャンバ12内を減圧する排気ポンプ50が排気管49を介して接続されている。
【0043】
真空チャンバ12には、短管部12Aが連結されている。そして、短管部12A内には、絶縁管1が突設されている。絶縁管1は、プラズマ化昇華ガス流22の周囲を取囲むよう配置されており、また絶縁管1はプラズマガン11から電気的に浮遊状態となっている。絶縁管1としては、例えば、セラミック製短管が採用される。また、短管部12A内に、絶縁管1の外周側を取巻く電子帰還電極2が設けられている。電子帰還電極2は、放電電源14のプラス側に接続されており、このため電子帰還電極2の電位はプラズマガン11の真空チャンバ12側における電位よりも高い。電子帰還電極2には、電子帰還電極電流を測定する電子帰還電極電流計47が接続されている。
【0044】
真空チャンバ12の内面には、防着板40が真空チャンバ12から電気的に浮遊状態となるように設けられている。防着板40はSUS板からなり、後述するように、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20に照射された際に生じる反射電子流3が真空チャンバ12へ帰還して接地されるのを防止するために設けられている。なお、防着板40を設ける代わりに、真空チャンバ12内面に、反射電子流3が真空チャンバ12へ帰還することを防止するための絶縁コーティング膜を設けてもよい。
【0045】
真空チャンバ12内における、被イオンプレーティング用基材13の近傍に、成膜速度計41が設置される。成膜速度計41は、被イオンプレーティング用基材13上に形成されるガスバリア層の形成速度を測定するためのものである。そして、成膜速度計41の下方に、真空チャンバ12内の真空度及び成膜真空度を各々測定する真空計42が設けられている。さらに、真空チャンバ12内の圧力を調整するため、真空チャンバ12内のるつぼ19近傍に、圧力調整ガス28を導入する圧力調整ガス導入管28aが設けられている。圧力調整ガス28の流量は、圧力調整ガス導入管28aに設けられた圧力調整ガス導入バルブ28bにより調整される。なお圧力調整ガス28としては、キセノンガス26、アルゴンガス27等を用いることができる。
【0046】
真空チャンバ12において、真空チャンバ12とアース55との間には、真空チャンバ12からの接地電流を測定する接地電流計48が設けられている。
【0047】
制御装置60は、イオンプレーティング法によるガスバリア層の成膜が良好に行われるために制御動作を行うものである。こうした制御を行うため、検出機構61を構成する放電電圧計46、放電電流計45、演算部51で測定・演算される各情報、短管部12A内の電子帰還電極2に接続された電子帰還電極電流計47で測定される情報、真空チャンバ12に接続された接地電流計48で測定される情報と、真空チャンバ12内の成膜速度計41、真空計42で測定される各情報は、全て制御装置60に収集されるようになっている。
【0048】
イオンプレーティング装置10においては、昇華ガス25がキセノンガス26を含むので、プラズマガン11における電気抵抗値が小さくなる傾向にある。このため、プラズマガン11に所定の放電電圧が印加されたとき、プラズマガン11における放電電流は、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合と比較して大きくなる。その結果、プラズマガン11の異常放電を発生させない放電電圧の範囲内でより大きな放電電流を安定して発生させることが可能となる。また、放電電流が大きくなるほど、昇華ガス25のプラズマ化も促進される。このように、昇華ガス25がキセノンガス26を含み、これによってプラズマガン11における電気抵抗値を低下させることにより、プラズマ化した昇華ガス25を多量に発生させやすくなる。
【0049】
イオンプレーティング装置10において、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べてプラズマガン11における電気抵抗値が低下する理由は、例えば以下のように説明することができる。すなわち、一般にアルゴンやキセノン等の希ガスは、最外殻電子が閉殻構造をとるため、反応性はほとんど見られない。しかしキセノンは、その最外殻(5s5p)電子と原子核との間の距離がアルゴンに比べて大きいため、原子核と最外殻電子の間にある電子の遮蔽効果によって、原子核が最外殻電子を束縛する力がアルゴンの場合よりも小さくなる。したがって、キセノンはアルゴンよりもイオン化しやすいと言える。このため、真空放電において抵抗の低いプラズマ状態を作り出すことが可能となる。ここで、抵抗の低いプラズマ状態を作り出すことが可能というのは、高電流・低電圧のプラズマを安定的に発生させることが可能ということを意味する。
【0050】
ガスバリア層形成工程で行うイオンプレーティング法の一例について、イオンプレーティング装置10を用いて次に説明する。
【0051】
真空チャンバ12内に、被イオンプレーティング用基材13を設置する。被イオンプレーティング用基材13の構成は特に制限されず、例えば、基材のみであってもよいし、基材の表面に所定の膜をコートする等、処理したものであってもよい。また、被イオンプレーティング用基材13は、基材上に平坦化層を設けたものであってもよい。次に、蒸着材料20を真空チャンバ12のるつぼ19内に収納する。蒸着材料20は、被イオンプレーティング用基材13上に形成されるガスバリア層が酸窒化珪素を含有するように、その材料が選択されるが、例えば、窒化珪素を用いることができる。その後、真空チャンバ12を所定の真空度とする。
【0052】
真空チャンバ12内の成膜中の真空度は、通常0.005〜0.5Paの範囲とするが、0.03〜0.1Paの範囲とすることが好ましく、とりわけ0.03〜0.05Paの範囲内であることが好ましい。これによって、蒸着材料20にプラズマ化した昇華ガス25を照射し、るつぼ19内の蒸着材料20を昇華させる際、蒸着材料20の昇華を安定化することができる。一方、真空チャンバ12内の真空度が低い、例えば大気に近い場合、異常放電が発生することが考えられる。また、真空チャンバ12内の真空度が非常に高い、例えば超高真空の場合、放電電力を大きくしても放電が発生しないことが考えられる。
【0053】
真空チャンバ12を所定の真空度とした後、ガス導入部24に設けられたプラズマガン11に、キセノンガス26を含む昇華ガス25を導入する。
【0054】
昇華ガス25のキセノンガス26の導入量は、10sccm以上、30sccm以下とすることが好ましい。これによって、キセノンガス26を安定にプラズマ化することができる。より具体的には、キセノンガス26の導入量を10sccm以上とすれば、キセノンガス26のプラズマ化が安定化しやすくなり、異常放電が抑制され、プラズマガン11の破壊を防止しやすくなる。また、キセノンガス26の導入量を30sccm以下とすることにより、プラズマ化したキセノンガス26が蒸着材料20を昇華させるエネルギーを大きくしやすくなり、昇華した蒸着材料20の蒸気圧を大きくしやすくなる。また、キセノンガス26の導入量を30sccm以下とすることにより、昇華した蒸着材料20のイオン化が良好となりやすく、形成されるガスバリア層のガスバリア特性を確保しやすくなる。
【0055】
次に、プラズマガン11に放電電力を投入し、これによって放電を生じさせる。このことにより、昇華ガス25がプラズマ化し、この結果、プラズマガン11の第2中間電極17から真空チャンバ12内に向うプラズマ化昇華ガス流22が形成される。形成されたプラズマ化昇華ガス流22は、磁場機構5により生成される磁場に導かれて蒸着材料20に照射される。このとき磁場機構5の収束コイル18は、プラズマ化昇華ガス流22の横断面を収縮させる作用を行ない、また磁場機構5のるつぼ用磁石21は、プラズマ化昇華ガス流22の焦点合わせおよびプラズマ化昇華ガス流22を曲げる作用を行なっている。
【0056】
プラズマガン11は、圧力勾配型のプラズマガン11を用いている。これにより、放電電圧が低い場合であっても昇華ガス25を十分にプラズマ化することができ、これによって、形成されるガスバリア層のガスバリア特性を向上させやすくなる。
【0057】
蒸着材料20にプラズマ化した昇華ガス25が照射されると、るつぼ19内の蒸着材料20が昇華し、同時に、昇華した蒸着材料20がプラズマ化した昇華ガス25によりイオン化される。イオン化した蒸着材料20は電界(図示せず)により加速されて被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する。このようにして、被イオンプレーティング用基材13の下面にガスバリア層(図示せず)が形成される。ここで、蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する際の運動エネルギーは、真空蒸着又はスパッタリングにより蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に蒸着する際の運動エネルギーよりも大きい。このため、被イオンプレーティング用基材13との密着性が強く緻密なガスバリア層を形成することができる。
【0058】
この間、プラズマガン11に導入された昇華ガス25には、キセノンガス26が含まれている。このため前述のとおり、プラズマガン11により昇華ガス25をプラズマ化させる際のプラズマガン11における電気抵抗値を低くしやすくなる。これにより、高電流・低電圧でプラズマ化した昇華ガス25を安定的に発生させることができる。このようなプラズマ化した昇華ガス25を真空チャンバ12内で蒸着材料20に照射することにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて、高い速度で蒸着材料20を昇華させることができる。その結果、ガスバリア層を、被イオンプレーティング用基材13上により大きな成膜速度で形成することができる。
【0059】
また、プラズマ化した昇華ガス25による電流が大きいため、すなわちプラズマ化昇華ガス流22の電子密度が高いため、昇華した後の蒸着材料20とプラズマ化した昇華ガス25との衝突頻度が、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて高くなる。このため、蒸着材料20のイオン化やラジカル化(活性化)がより促進される。その結果、単位時間あたりより多くの蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に到達する。このことにより、ガスバリア層の成膜速度をより大きくしやすくなるとともに、より緻密なガスバリア層を被イオンプレーティング用基材13上に形成しやすくなる。
【0060】
ここで、キセノンの原子量はアルゴンの原子量の約3.3倍である。このため、キセノンガス26はアルゴンガス27に比較して重いガスとなるから、キセノンガス26の方がアルゴンガス27よりも拡散しにくいと考えられる。したがって、プラズマ化したキセノンガス26またはアルゴンガス27が真空チャンバ12内の磁場によりるつぼ19に収納された蒸着材料20に導かれるとき、キセノンガス26の方がアルゴンガス27よりもよりるつぼ19近傍に滞留すると考えられる。この場合、昇華した蒸着材料20が、るつぼ19近傍に滞留するプラズマ化したキセノンガス26により容易にイオン化される傾向となる。このことにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、蒸着材料20のイオン化やラジカル化(活性化)がさらに促進されると考えられる。
【0061】
そして、上述のように、蒸着材料20がよりるつぼ19近傍においてイオン化されるため、イオン化した蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する際の蒸着材料20の運動エネルギーがより大きくなると考えられる。このため、蒸着材料20と被イオンプレーティング用基材13との密着力が向上し、かつ被イオンプレーティング用基材13上における蒸着材料20のマイグレーションも促進されると考えられる。従って、蒸着材料20と被イオンプレーティング用基材13との間の密着が強固であるだけでなく、蒸着材料20同士の結合も強固となる。このことにより、被イオンプレーティング用基材13上に、緻密かつ平坦であって、異常粒成長による欠陥のないガスバリア層を形成しやすくなる。
【0062】
また、昇華ガス25がキセノンガス26を含むことによりプラズマガン11における電気抵抗値が低くなるため、より高い真空度においてプラズマ化昇華ガス流22を安定して発生させることが可能となる。このことによっても、形成されるガスバリア層をより緻密にすることができる。加えて、昇華ガス25がキセノンガス26を含むことによって、蒸着材料20に用いる窒化珪素の分解が抑制され、成膜されるガスバリア層中で遊離する金属シリコンの量が低減される。これによって、ガスバリア層の透明性を確保しやすくなる。
【0063】
上述の理由により、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、被イオンプレーティング用基材13上とガスバリア層との間の密着性、及びガスバリア層の緻密性を向上させ、かつガスバリア層中の欠陥を低減することができ、さらにはガスバリア層の透明性を向上させやすくなる。これらのことにより、ガスバリア層の品質を向上させることができる。
【0064】
なお、プラズマ化した昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されると、るつぼ19は真空チャンバ12及びアース55に対して電気的に浮遊状態となる。このため、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20から反射して反射電子流3が生じる。反射電子流3は、真空チャンバ12内面に設けられた防着板40によって真空チャンバ12側への帰還が妨げられるので、プラズマ化昇華ガス流22の外側を通して電子帰還電極2側へ帰還させやすくなる。より具体的には、防着板40は、真空チャンバ12から電気的に浮遊しているので、防着板40により反射電子流3の真空チャンバ12側への帰還を妨げることができる。その結果、大部分の反射電子流3をプラズマ化昇華ガス流22の外側を通して電子帰還電極2側へ確実に帰還させやすくなる。
【0065】
反射電子流3の流れについてさらに詳述する。図1に示すように、電子帰還電極2はるつぼ19から離れた位置に設けられているので、るつぼ19上から昇華した蒸着材料20が電子帰還電極2に付着することはほとんどない。また、プラズマガン11から出たプラズマ化昇華ガス流22と電子帰還電極2との間には、両者を遮る絶縁管1が設けられているので、プラズマ化昇華ガス流22が電子帰還電極2に入射し、これによって陰極15と電子帰還電極2との間で異常放電が発生するのを防止することができる。この場合、反射電子流3は、プラズマ化昇華ガス流22の外側であって、プラズマ化昇華ガス流22とは分離した経路に沿って電子帰還電極2まで延びるよう形成される。このことにより、プラズマ化昇華ガス流22を連続的かつ安定に持続させることができる。
【0066】
プラズマ化昇華ガス流22の持続時間は、絶縁管1及び電子帰還電極2を設けない場合に比べて倍以上となり、飛躍的に向上することが確認されている。また、絶縁管1を設けることにより異常放電の発生を防止し、これによってプラズマ化昇華ガス流22の電子帰還電極2への流れ込みによる電力ロスを減少させることができる。このため、絶縁管1および電子帰還電極2を設けない場合に比べて、ガスバリア層の成膜速度(材料昇華量)が約20%向上することが確認されている。また、電子帰還電極2を収束コイル18に近い位置に設けることにより、イオンプレーティング装置10全体が小型化されている。なお、るつぼ19が真空チヤンバ12およびアース55に対して電気的に浮遊状態となっているが、蒸着材料20として絶縁性の窒化珪素等を用いた場合、成膜過程においてるつぼ19自体が絶縁性となるため、真空チャンバ12及びアース55に対して電気的に浮遊状態にしておかなくても結果として電気的に浮遊状態となり得る。
【0067】
なお、イオンプレーティング装置10を用いたイオンプレーティング法によるガスバリア層の成膜の際に、制御装置60を用いて、プラズマガン11における電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブ26bを制御してキセノンガス26の導入量を調整してもよい。これにより、形成されるガスバリア層のガスバリア特性を良好に保ちやすくなる。
【0068】
また、イオンプレーティング装置10においては、昇華ガス25にキセノンガス26及びアルゴンガス27を用いることができるようになっているが、昇華ガスは上記2種類に限定されるものではなく、その他のガスを含んでいてもよい。また、昇華ガス25は、キセノンガス26のみとしてもよい。昇華ガス25がキセノンガス26とアルゴンガス27との混合ガスとなる場合には、昇華ガス25中のキセノンガス26の比率が大きいほど、形成されるガスバリア層のガスバリア特性が向上する傾向になる。昇華ガス25中のキセノンガス26の比率は、所望のガスバリア特性、コスト及びプラズマガン11における電気抵抗値などを考慮して設定されるが、ガスバリア特性を考慮すると、昇華ガス25中のキセノンガス26の比率が50%以上であることが好ましい。
【0069】
さらに、イオンプレーティング装置10においては、圧力調整ガス28が、圧力調整ガス導入管28aを介して真空チャンバ12内に導入される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、プラズマガン11からプラズマ化昇華ガス流22が安定して発生されている場合、圧力調整ガス28を真空チャンバ12内に導入しなくてもよい。また圧力調整ガス28としてアルゴンガス、キセノンガス、これらガスの混合ガスを加えてもよい。
【0070】
以上説明したように、イオンプレーティング装置10によれば、イオンプレーティング方法で被イオンプレーティング用基材13に対して、酸窒化珪素を含有するガスバリア層を蒸着する際に、真空チャンバ12のガス導入部24に設けられたプラズマガン11に昇華ガス導入管25aを介して昇華ガス25を導入した後、プラズマガン11に放電電力を投入し、放電を生じさせ、当該放電により昇華ガス25をプラズマ化させる。このとき、プラズマガン11に導入される昇華ガス25は、キセノンガス26を含んでいる。このため、昇華ガス25にキセノンガス26が含まれていない場合に比べて、プラズマガン11に放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させることができる。従って、真空チャンバ12の真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得ることができる。また、蒸着材料20の分解も抑制される傾向となる。このことにより、高い生産性を保ちながら、緻密でガスバリア性が高く、かつ透明性の高いガスバリア層を被イオンプレーティング用基材13上に形成することができる。
【0071】
ガスバリア層形成工程で形成されるガスバリア層は、酸窒化珪素を含有する。ガスバリア性を確実に確保する見地から、ガスバリア層は酸窒化珪素からなることが好ましい。ここで、酸窒化珪素とは、珪素(Si)、酸素(O)、窒素(N)から形成される材料をいい、その原子数比は所定のガスバリア性を発揮できる範囲であればよく、特に制限はない。また、所望の性能を得る等の見地から、珪素、酸素、窒素以外の元素を所定量含有してもよいが、ガスバリア性を確保する見地から、珪素、酸素、窒素以外の元素の含有量は、通常10原子%以下、好ましくは5原子%以下、より好ましくは2原子%以下とする。また、珪素、酸素、窒素以外の元素としては、炭素、亜鉛、錫、インジウム等を挙げることができる。
【0072】
ガスバリア層形成工程で形成されるガスバリア層の組成(酸窒化珪素の組成)は、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下となることが特に好ましい。但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる。なお、原子%とは、全元素の原子数に対する該当原子数の割合である。上記組成の採用により、窒素を増加させた状態で珪素の含有量を低減することができ、ガスバリア層中で遊離する珪素の量が少なくすることができる。その結果、ガスバリア層における金属珪素特有の色味の発生を抑えることができるようになり、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。本発明においては、ガスバリア層形成工程で、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いてガスバリア層の形成を行うので、上記組成を得やすくなる。より具体的には、キセノンガスを用いたイオンプレーティング成膜では、蒸着材料である窒化珪素を蒸発させる際の分解反応を極力低下させることが可能であるため、SiやNの調整は、蒸着材料の組成調整で行うことが可能となり、上記組成を得やすくなる。
【0073】
上記酸窒化珪素の特に好ましい組成において、Siは42原子%以下とし、Nは、31原子%以上、より好ましくは35原子%以上とする。SiとNとを上記バランスとなるように保つことにより、Siの未結合部位がガスバリア層中に存在しにくくなり、ガスバリア層が金属色を帯びにくく透明となりやすい。そして、Si含有量を少なくした状態でバリア性を向上させやすくなる。また、Nを上記範囲とすれば透明性を確保しつつガスバリア性(水蒸気バリア性)を良好としやすくなる。一方、Siは、35原子%以上が好ましく、40原子%以上がより好ましい。Siを上記範囲とすれば、酸化度、窒化度を抑え、ガスバリア層の密度を確保しやすくなる。また、Nは、45原子%以下が好ましく、40原子%以下がより好ましい。Nを上記範囲とすれば、窒化物の含有量を抑制して透明性が確保しやすくなる。もっとも、透明性を必要としない用途に関しては、Nに上記のような上限を設ける必要はない。
【0074】
上記酸窒化珪素の好ましい組成において、Oは、27原子%以下、より好ましくは25原子%以下、さらに好ましくは20原子%以下とする。Oを上記範囲とすれば、ガスバリア性(水蒸気バリア性)を確保しやすくなる。一方、Oは、10原子%以上が好ましく、15原子%以上がより好ましい。Oを上記範囲とすれば、酸化物の含有量を確保して、透明性を確保しやすくなる。もっとも、透明性を必要としない用途に関しては、Oに上記のような下限を設ける必要はない。さらに、上記酸窒化珪素の好ましい組成において、Cは、2原子%以下とするが、含まれない(検出されない)ことがより好ましい。Cを上記範囲とすれば、ガスバリア性(水蒸気バリア性)を確保しやすくなる。
【0075】
ガスバリア層形成工程で形成されるガスバリア層の組成は、従来公知の分析法を用いて分析することができる。こうした分析法としては、例えば、XPS(X線光電子分析装置)法を挙げることができる。本発明においては、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL装置)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用している。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行っている。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行っている。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させる。そして、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めている。
【0076】
ガスバリア層形成工程で形成されるガスバリア層の厚さは、通常10nm以上、500nm以下とする。この範囲とすれば、ガスバリア性、フレキシビリティを確保しつつ、色味の調整もしやすくなり、生産性も確保しやすい。
【0077】
(その他の工程)
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法においては、上記説明した基材準備工程、ガスバリア層形成工程以外にも適宜他の工程を行ってもよい。こうしたその他の工程は特に制限はなく、例えば、アンカーコート層形成工程、オーバーコート層形成工程、平坦化層形成工程等を挙げることができる。これら各種工程のうち、平坦化層形成工程を行うことが好ましい。すなわち、本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、基材準備工程と、ガスバリア層形成工程との間に、基材上に平坦化層を設ける平坦化層形成工程をさらに有するようにすることが好ましい。これにより、平坦化層が基材表面を覆うことによって平坦化が行われ、この平坦化された平坦化層の上にガスバリア層が設けられることになり、その結果、よりガスバリア性が確保しやすくなる。
【0078】
平坦化層形成工程で形成される平坦化層の材料としては、例えば、ゾル−ゲル材料、硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂、熱硬化型樹脂)、及びフォトレジスト材料等を挙げることができる。こうした材料のうち、工業生産性の見地から、平坦化層が硬化性樹脂より形成されることが好ましい。こうした硬化性樹脂としては、例えば、シロキサン系ゾルゲル材料、カルドポリマー含有材料、アリレート樹脂、透明ポリイミド樹脂、及び環状骨格を有したアクリレート系樹脂、エポキシ基をもつ反応性のプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合したものである電離放射線硬化型樹脂や、電離放射線硬化型樹脂に必要に応じてウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ブチラール系、ビニル系等の熱可塑性樹脂を混合して液状となした液状組成物のような、分子中に重合性不飽和結合を有し、紫外線(UV)や電子線(EB)を照射することにより、架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化する樹脂等を挙げることができる。
【0079】
平坦化層形成工程で形成される平坦化層の材料としては、ゾルーゲル法を用いたゾル−ゲル材料を用いることも好ましい。ゾル−ゲル法とは、有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤と、このシランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物とを少なくとも原料として構成された塗料組成物の塗工方法、及び塗膜のことをいう。有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤としては、従来公知のものを適宜用いることができ、例えば、特開2001−207130号公報に開示されるアミノアルキルジアルコキシシランやアミノアルキルトリアルコキシシランを用いればよい。また、シランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物としては、例えば、グリシジル基、カルボキシル基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基等のアミノ基と反応しうる官能基を有するものを挙げることができる。こうした材料も従来公知のものを適宜用いることができる。さらに、上記の塗料組成物には、例えば、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機・有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。さらに、平坦化層の材料としては、従来公知のカルドポリマーを含有させることも好ましい。
【0080】
平坦化層形成工程においては、平坦化層が、基材上に紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗膜に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより形成されることが好ましい。これにより、平坦化層形成工程における基材への熱負荷が低減されるようになり、その結果基材の材料選択の余地が広くなる。ここで、紫外線硬化型樹脂組成物は、特に制限はないが、アクリルモノマーを主成分とする樹脂を用いることが好ましい。アクリルモノマーを主成分とする樹脂の具体例としては、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げることができる。本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0081】
平坦化層形成工程において用いる紫外線硬化型樹脂組成物は、さらに、重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリーn−ブチルホスフィン等を混合して用いることができる。紫外線硬化型樹脂組成物中の重合開始剤や光増感剤の含有量は、特に制限はなく、良好な硬化が行われる程度の含有量であればよい。また、紫外線硬化型樹脂組成物中には、塗布液の粘度調整の見地から、トルエンやメチルエチルケトン等の溶媒を含有させてもよい。こうした溶媒は、本発明の要旨の範囲内において、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0082】
平坦化層形成工程において、紫外線硬化型樹脂組成物を塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等の一般的に用いられる塗布方法が挙げられる。
【0083】
平坦化層形成工程においては、上記紫外線硬化型樹脂組成物を基材上に塗布した後に、必要に応じて乾燥を行い、さらに紫外線硬化を行う。乾燥の温度は、常温であってもよいが、紫外線硬化型樹脂組成物が溶媒を含有する場合には、この溶媒の沸点以上の温度で行うことが好ましい。また、乾燥時間は、工業生産性を考慮しつつ必要に応じて含有させた溶媒を確実に除去する見地から、適宜調整すればよい。紫外線硬化は、紫外線源から紫外線を照射することによって行えばよい。この場合の紫外線源の具体例としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源が挙げられる。紫外線の波長としては、190〜380nmの波長域を使用することができる。紫外線を照射する時間は、工業生産性を考慮しつつ有機層の確実な硬化を行う見地から、適宜調整すればよい。
【0084】
平坦化層形成工程で形成される平坦化層の厚さは、表面の平滑性確保の観点から、通常0.5μm以上、通常10μm以下とする。
【0085】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、基材上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、ガスバリア層の組成が、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下となる(但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる)。これにより、窒素を増加させた状態で珪素の含有量を低減することができ、ガスバリア層中で遊離する珪素の量が少なくすることができる。その結果、ガスバリア層における金属珪素特有の色味の発生を抑えることができるようになり、ガスバリア性及び透明性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。なお、本発明のガスバリア性フィルムにおける「基材上にガスバリア層を有する」との表現は、基材に接してガスバリア層が設けられる場合のみでなく、基材上に他の層(例えば、平坦化層)を介してガスバリア層が設けられる場合も含むものである。また、ガスバリア層の好ましい組成については、上記本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において説明したとおりであるので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
図2は、ガスバリア性フィルムの一例を示す模式的断面図である。ガスバリア性フィルム30aは、基材31aと、基材31a上に形成されたガスバリア層33aとを有する。ここで、基材31a、ガスバリア層33aの材料や形成方法等については、上記本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において説明したとおりであるので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
図3は、ガスバリア性フィルムの他の一例を示す模式的断面図である。ガスバリア性フィルム30bは、基材31bと、基材31b上に形成された平坦化層32と、平坦化層32上に形成されたガスバリア層33bとを有する。ここで、基材31b、平坦化層32、ガスバリア層33bの材料や形成方法等については、上記本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において説明したとおりであるので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
ガスバリア性フィルムの層構成は、ガスバリア性フィルム30a,30bに示すものに限られず、本発明の要旨の範囲内において層構成を自由に選択することができる。例えば、基材とガスバリア層又は平坦化層との間にアンカーコート層を設けたり、ガスバリア性フィルムの表面にオーバーコート層を設けたりしてもよい。
【0089】
ガスバリア性フィルム30a,30bは、透明でかつガスバリア性が高いので、例えば、食品や医薬品等の包装材料だけでなく、タッチパネル、ディスプレイ用フィルム基板、照明用フィルム基板、太陽電池用フィルム基板、及びサーキットボード用フィルム基板等、従来ガラスを支持基材として利用していたものに代替できる、軽くて割れない、曲げられる電子デバイス用部材に関する材料に用いることができる。
【実施例】
【0090】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
<基材準備工程>
PETフィルム(東洋紡績株式会社製:A4100、厚さ:100μm)を基材として準備した。
【0092】
<ガスバリア層形成工程>
蒸着材料としてSi焼結体(高純度化学製)を用いた。図1に示すイオンプレーティング装置10を用い、真空チャンバ12内に上記基材(被イオンプレーティング用基材13)を設置し、真空チャンバ12内のるつぼ19に蒸着材料20を収納した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、昇華ガス25としてキセノンガス26を12sccm導入した。その後、プラズマガン11に放電電力を投入し、これによって142Aの放電電流、106Vの放電電圧を発生させ、昇華ガス25をプラズマ化した。なお、sccmとはstandard cubic per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0093】
真空チャンバ12内を0.10Paに維持し、収束コイル18に所定の磁場を発生させることにより、プラズマ化した昇華ガス25からなるプラズマ化昇華ガス流22を所定方向に曲げ、これによってプラズマ化した昇華ガス25を真空チャンバ12内の蒸着材料20に向けて照射した。プラズマ化した昇華ガス25によって、蒸着材料20は、昇華するとともにイオン化した。イオン化した蒸着材料20を基材(被イオンプレーティング用基材13)上に堆積させて、厚さ91nmのガスバリア層を基材(被イオンプレーティング用基材13)上に形成した。なお、イオンプレーティングの実施時間は4秒間であった。
【0094】
得られたガスバリア層の組成をXPSにより分析した。その結果、Si:N:O:Cは、42原子%:38原子%:18原子%:2原子%であった。なお、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL装置)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させた。そして、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めた。
【0095】
<全光線透過率及び水蒸気透過率の測定>
以上のようにして得られたガスバリア性フィルムにつき、全光線透過率及び水蒸気透過率を測定した。その結果、全光線透過率は91%、水蒸気透過率は1.6g/m・dayであった。得られた結果を表−1に示す。なお、全光線透過率の測定は、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して行った。測定は、JIS K7105に準拠して実施した。また、水蒸気透過率の測定は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 TERMATRAN−W 3/31)を用いて、温度38度、湿度100%RHで行った。
【0096】
(実施例2)
基材準備工程と、ガスバリア層形成工程との間に、基材上に平坦化層を設ける平坦化層形成工程をさらに行ったこと、ガスバリア層形成工程での成膜条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。以下、相違点である平坦化層形成工程とガスバリア層形成工程の成膜条件とについて説明する。
【0097】
<平坦化層形成工程>
基材上に、ダイコート法を用いて紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して乾燥温度120℃2分で乾燥しその後、塗膜に紫外線を300mJ(フュージョンHバルブ)の強度で照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させて、厚さ4μmの平坦化層を形成した。紫外線硬化型樹脂組成物としては、アクリレート系樹脂としてザ・インクテック株式会社製のOELVを用いた。
【0098】
<ガスバリア層形成工程>
成膜の際に発生させる放電電流・放電電圧の条件を、それぞれ180A、111Vとして、昇華ガスをプラズマ化した。その結果、厚さが90nmである、酸窒化珪素からなるガスバリア層を平坦化層上に形成した。イオンプレーティングの実施時間は3秒間であった。得られたガスバリア層の組成を実施例1と同様にしてXPSにより分析した。その結果、Si:N:O:Cは、42原子%:34原子%:22原子%:2原子%であった。
【0099】
<全光線透過率及び水蒸気透過率の測定>
以上のようにして得られたガスバリア性フィルムにつき、実施例1と同様にして、全光線透過率及び水蒸気透過率を測定した。その結果、全光線透過率は88%、水蒸気透過率は0.5g/m・dayであった。得られた結果を表−1に示す。
【0100】
(比較例1)
ガスバリア層形成工程において、昇華ガスとしてアルゴンガスを用いたこと、成膜の際に発生させる放電電流・放電電圧の条件をそれぞれ109A、141Vとして昇華ガスをプラズマ化したこと、イオンプレーティングの実施時間は3秒間としたこと、以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。その結果、厚さ92nmのガスバリア層が基材上に形成された。得られたガスバリア層の組成を実施例1と同様にしてXPSにより分析した。その結果、Si:N:O:Cは、49原子%:14原子%:34原子%:2原子%であった。
【0101】
<全光線透過率及び水蒸気透過率の測定>
以上のようにして得られたガスバリア性フィルムにつき、実施例1と同様にして、全光線透過率及び水蒸気透過率を測定した。その結果、全光線透過率は65%、水蒸気透過率は2.0g/m・dayであった。得られた結果を表−1に示す。
【0102】
(比較例2)
ガスバリア層形成工程において、昇華ガスとしてアルゴンガスを用いたこと、成膜の際に発生させる放電電流・放電電圧の条件をそれぞれ146A、141Vとして昇華ガスをプラズマ化したこと、イオンプレーティングの実施時間は3秒間としたこと、以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。その結果、厚さ94nmのガスバリア層が平坦化層上に形成された。得られたガスバリア層の組成を実施例1と同様にしてXPSにより分析した。その結果、Si:N:O:Cは、44原子%:30原子%:24原子%:2原子%であった。
【0103】
<全光線透過率及び水蒸気透過率の測定>
以上のようにして得られたガスバリア性フィルムにつき、実施例1と同様にして、全光線透過率及び水蒸気透過率を測定した。その結果、全光線透過率は71%、水蒸気透過率1.6g/m・dayであった。得られた結果を表−1に示す。
【0104】
【表1】

【符号の説明】
【0105】
1 絶縁管
2 電子帰還電極
3 反射電子流
5 磁場機構
10 イオンプレーティング装置
11 プラズマガン
12 真空チャンバ
12A 短管部
13 被イオンプレーティング用基材
14 放電電源
15 陰極
16 第1中間電極
17 第2中間電極
18 収束コイル
19 るつぼ
20 蒸着材料
21 るつぼ用磁石
22 プラズマ化昇華ガス流
24 ガス導入部
25 昇華ガス
25a 昇華ガス導入管
26 キセノンガス
26a キセノン導入管
26b キセノン導入バルブ
27 アルゴンガス
27a アルゴン導入管
27b アルゴン導入バルブ
28 圧力調整ガス
28a 圧力調整ガス導入管
28b 圧力調整ガス導入バルブ
30a,30b ガスバリア性フィルム
31a,31b 基材
32 平坦化層
33a,33b ガスバリア層
40 防着板
41 成膜速度計
42 真空計
45 放電電流計
46 放電電圧計
47 電子帰還電極電流計
48 接地電流計
49 排気管
50 排気ポンプ
51 演算部
55 アース
60 制御装置
61 検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を準備する基材準備工程と、前記基材の上に酸窒化珪素を含有するガスバリア層を形成するガスバリア層形成工程とを有し、
前記ガスバリア層形成工程における前記ガスバリア層の形成が、キセノンガスを含む昇華ガスを用いたイオンプレーティング法を用いて行われることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記基材準備工程と、前記ガスバリア層形成工程との間に、基材上に平坦化層を設ける平坦化層形成工程をさらに有する、請求項1に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
基材上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、
前記ガスバリア層の組成が、Siを42原子%以下、Nを31原子%以上、Oを27原子%以下、Cを2原子%以下となる(但し、Si、N、O、Cそれぞれの含有率を合計すると100原子%となる)ことを特徴とするガスバリア性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122173(P2011−122173A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278103(P2009−278103)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】