説明

ガス制御装置、ガス制御装置の制御方法及びそれらを用いたイオン注入装置

【課題】開処理時において確実にマスフローコントローラが全閉状態となっており、チャンバー内へガスが突入するのを防ぐことができるガス制御装置、ガス制御装置の制御方法、及びそれらを用いたイオン注入装置を提供する。
【解決手段】ガス制御装置10であって、可変流量バルブ41を備え、チャンバー1に流入するガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラ4と、前記マスフローコントローラ4の上流に設けられる1次側バルブ6と、前記マスフローコントローラの下流に設けられる2次側バルブ7と、を具備し、前記チャンバー1へのガスの流入を止めるガス閉処理時において、前記マスフローコントローラ4、前記1次側バルブ6、前記2次側バルブ7をこの順で全閉させる、又は、前記1次側バルブ6を全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラ4を全閉させ、その後に前記2次側バルブ7を全閉させる制御部8を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置等の半導体製造装置におけるイオン源等の減圧可能なチャンバーへのガスの流入を制御するガス制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の会社から半導体の製造を請け負うファウンドリーにおいては、1種類の半導体を一日中作り続けることはあまりなく、むしろ、小ロットで多品種の半導体を製造することが多い。このような多品種の半導体の製造工程において、イオン注入により半導体の特性を改質させる等する場合には、半導体の種類ごとにイオン注入量や注入するイオン種を短時間で変更できることが求められている。
【0003】
イオン種の変更は、減圧可能なチャンバーであるイオン源に流入させるガスの種類を変更することによって行われる。このガスの切り替え及び流量制御を行うために、前記イオン源とガス供給手段を接続するガスライン上には、上流から1次側バルブ、マスフローコントローラ、2次側バルブをこの順で設けたガス制御装置が備えられている。
【0004】
このような構成のガス制御装置における従来のガス変更手順は、前記チャンバーへのガスの流入を止め、当該チャンバー内のガスを排気させる閉処理と、ガス供給手段においてガスの種類を切り替える処理と、チャンバーへのガスの流入を開始させる開処理と、から構成される。
【0005】
より具体的な手順としては、閉処理は、図1に示されるように1次側バルブを全閉し(ステップOS1)、マスフローコントローラによりガスラインを流れるガス流量の低下を確認し(ステップOS2)、その後に2次側バルブを全閉させ(ステップOS3)、チャンバー内の真空度の低下によりガスが排気されたことを確認して終了する(ステップOS4)。一方、開処理は、図2に示されるように2次側バルブを開放し(ステップOS5)、所定時間経過した後に1次側バルブを開放するとともに、マスフローコントローラの流量制御を開始させて終了する(ステップOS6)。
【0006】
ところで、このような処理手順では、上述したように閉処理時にはマスフローコントローラ内の流量可変バルブの開度について特に考慮されていないため、閉処理終了時に前記流量可変バルブの開度がどのような開度になっているのかは分からない。例えば、閉処理終了時に前記流量可変バルブが全開になっており、その状態が維持されていると、開処理時において前記2次側バルブを開放した後に前記1次側バルブを開放した時に、前記チャンバーへ突発的に大流量のガスが流入する突入が発生してしまう。すると、前記チャンバー内の圧力は、ガスをプラズマ化しイオンビームとして引き出すのに適当な所定圧力(真空度)に対して非常に大きなオーバーシュートを起こしてしまい、所定圧力に安定するまでにかかる時間が長くなってしまう。つまり、イオン種の切り替えのためにガスの種類を変更する度に、チャンバー内の圧力が安定するのを待つ必要があるので、段取り替えの時間が長くなり、半導体の製造効率が低下してしまうという不具合が発生する。
【0007】
このようなガス供給開始時にチャンバー内へのガスの突入を防止することを目的としたガス制御装置が、特許文献1に示されるようなプラズマ処理装置において開示されている。このガス制御装置は、開処理時において、マスフローコントローラに全閉するように指令し、その後に1次側バルブ及び2次側バルブを開放するように指令する制御部を備えている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1には、開処理時に先立ってマスフローコントローラを全閉させると記載されているものの、この特許文献1記載の構成では実際にマスフローコントローラが常に全閉になるとは限らない。具体的には、この特許文献1ではマスフローコントローラに全閉指令を入力して内部のバルブを閉じさせようとしているが、マスフローコントローラは、流路を流れる流体の測定流量をフィードバックし、設定流量との差分に応じて流量可変バルブの開度を制御するものであり、例えば、マスフローコントローラの前後に差圧がほとんどなく、流量がほぼ0の場合には、全閉指令すなわち流量を0とする指令値が入力されたとしても、差分がほとんどないので流量可変バルブの開度を閉じる方向にほとんど制御されず、その時点の開度が維持されてしまう。また、全閉指令がフィードバック指令によらない強制的なものであったとしても、機種や流量可変バルブの構造によっては、マスフローコントローラの前後に差圧が存在しない限り、完全にバルブが全閉されるとは限らないことを本発明者らは実験によって確かめている。
【0009】
言い換えると、特許文献1では、マスフローコントローラの前後の差圧が存在するかどうかについて何ら考慮されておらず、単にマスフローコントローラに全閉する指令を入力しているだけなので、開処理時におけるチャンバーへのガスの突入を完全に防ぐことができず、チャンバー内の圧力が所定圧力に安定するまでにかかる時間を常に短縮できるとは限らない。従って、このようなガス制御方法では、実際にイオン種切り替え等の段取り替えに要する時間を短縮する事は難しい。特に1次側バルブと2次側バルブが全閉されており、1次側バルブと2次側バルブとの間の流路等で形成される容積に残存ガスがあり、圧力一定の密閉空間となっている場合には、流量可変バルブを閉じたとしても、流量可変バルブと2次側バルブとの間に残存しているガスによってチャンバーへの突入が起こってしまい、圧力が安定するまでに時間がかかってしまう。また、残存ガスがある状態においてマスフローコントローラの流量可変バルブを閉じさせると、バルブがその密閉空間内の残存ガスを押しのけた分だけ内圧が上昇し、可変流量バルブには開放される方向に力が働いてしまうので、完全に全閉できない。従って、マスフローコントローラに対して全閉信号を入力したとしても、開処理時に全閉できていないので1次側バルブとマスフローコントローラとの間の空間ないにあった残存ガスの突入も発生しチャンバー内の圧力が安定するのに時間がかかってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−85962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述したような問題点を鑑みてなされたものであり、可変流量バルブを備え、減圧可能なチャンバーとガス供給手段を接続するガスライン上に、上流から1次側バルブ、マスフローコントローラ、2次側バルブをこの順で設けたガス制御装置であって、開処理時において確実にマスフローコントローラが全閉状態となっており、チャンバー内へガスが突入するのを防ぐことができ、段取り替えに要する時間を短縮することができるガス制御装置、ガス制御装置の制御方法、及びそれらを用いたイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明のガス制御装置は、ガス供給手段と、減圧可能なチャンバーと、を接続するガスラインに設けられるガス制御装置であって、可変流量バルブを備え、前記チャンバーに流入するガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラと、前記マスフローコントローラの上流に設けられる1次側バルブと、前記マスフローコントローラの下流に設けられる2次側バルブと、を具備し、前記チャンバーへのガスの流入を止めるガス閉処理時において、前記マスフローコントローラ、前記1次側バルブ、前記2次側バルブをこの順で全閉させる、又は、前記1次側バルブを全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラを全閉させ、その後に前記2次側バルブを全閉させる制御部を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のガス制御装置の制御方法は、ガス供給手段と、減圧可能なチャンバーと、を接続するガスラインに設けられるガス制御装置の制御方法であって、前記ガス制御装置は、前記チャンバーに流入するガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラと、前記マスフローコントローラの上流に設けられる1次側バルブと、前記マスフローコントローラの下流に設けられる2次側バルブと、を具備し、前記チャンバーへのガスの流入を止めるガス閉処理時において、前前記マスフローコントローラ、前記1次側バルブ、前記2次側バルブをこの順で全閉させる、又は、前記1次側バルブを全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラを全閉させ、その後に前記2次側バルブを全閉させるステップを備えたことを特徴とする。
【0014】
なお、前記1次側バルブを全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラを全閉させるとは、前に第1所定時間が0の場合も含むものであり、前記1次側バルブと前記マスフローコントローラを同時に全閉させる概念を含むものである。また、第1所定時間とは、例えば、前記マスフローコントローラの前後に差圧が存在している時間等を含む概念である。
【0015】
このようなものであれば、前記マスフローコントローラが前記1次側バルブよりも先に全閉される、又は、前記1次側バルブが全閉されてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラが全閉されるので、前記マスフローコントローラの前後に差圧があるようにすることができ、確実に前記マスフローコントローラを全閉にすることできる。また、前記1次側バルブ及び前記マスフローコントローラを全閉させた後に、前記2次側バルブを全閉させるので、前記1次側バルブと前記マスフローコントローラとの間の空間における圧力よりも、前記マスフローコントローラと前記2次側バルブとの間の空間の圧力は、前記チャンバーによって低い圧力に減圧された後に、前記2次側バルブは全閉される。つまり、閉処理が終了した後では、マスフローコントローラの前後に差圧がある状態が維持されるので、マスフローコントローラも全閉状態が維持され続ける。
【0016】
従って、次の開処理を行う時には、確実にマスフローコントローラが全閉の状態であるので、2次側バルブを開放した時に前記チャンバーにガスが突入するのを防止することができ、チャンバー内の所望の圧力に対するオーバーシュート量を低減させ、その所望の圧力に安定するまでの時間を短くすることができる。すなわち、ガスの種類を変更する場合等において、前記チャンバー内の圧力を短時間で安定させることが可能であるので、段取り替えに必要な時間を短縮し、装置の稼働効率を高めることができるようになる。
【0017】
閉処理によって、前記マスフローコントローラの前後に差圧がある状態で前記可変流量バルブを全閉にし、その状態のまま長時間経過すると、前記可変流量バルブが食い込んでいくため、再び可変流量バルブを開放するには大きな力が必要となる。また、最初に2次側バルブを開放してしまうと、前記マスフローコントローラの前後の差圧をさらに大きくしてしまうため、その後にマスフローコントローラの流量制御を開始すると、前記可変流量バルブの開度をさらに大きくするように制御が行われてしまう。これらのようなことが重なると、可変流量バルブの開度は、摩擦等によって最初は一定時間の間、全閉状態で変化せず、動き出すと急激に大きな開度になってしまい、前記チャンバーにガスが突入してしまう。このような問題を解決し、短時間で緩やかにチャンバー内へガスが流入するようにするには、前記制御部は、前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が所定時間を超えている場合には、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させた後に、前記2次側バルブを開放させるものであればよい。
【0018】
閉処理の後、あまり時間が経過していない場合には、前記可変流量バルブはそれほど食い込んでいないので、すぐに開度を変更することができる。このような状態において、前述したように先にマスフローコントローラの流量制御を開始し、その後に2次側バルブを開放するようにすると、前記可変流量バルブの開度が大きくなりすぎるため、チャンバー内の圧力が所望の圧力に足して大きくオーバーシュートしていまい、安定するまでに時間がかかってしまう。このような問題が生じるのを防ぐには、前記制御部は、前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が所定時間以下の場合には、前記2次側バルブを開放させた後に、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させればよい。
【0019】
イオン注入装置において、イオン種の切り替えを短時間で行うことができるようにし、半導体の製造効率を向上させることができるようにするには、上述したようなガス制御装置を備えたイオン注入装置であればよい。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明のガス制御装置、その制御方法、それらを用いたイオン注入装置によれば、マスフローコントローラの前後に差圧がある状態で可変流量バルブを全閉させるように構成されているので、開処理時において確実にマスフローコントローラを全閉状態とすることができる。従って、次に行われる開処理時において、2次側バルブが開放されても、チャンバー内へガスが突入するのを防ぐ、又は、その突入する量を小さくすることができ、チャンバー内の圧力が所望の圧力に安定するまでの時間を短くできる。従って、ガスの種類を変更するといった段取り替えに要する時間を短縮することができ、装置の稼働効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来のガス制御装置における閉処理時の動作を示すフローチャート。
【図2】従来のガス制御装置における開処理時の動作を示すフローチャート。
【図3】本発明の一実施形態に係るイオン注入装置を示す模式図。
【図4】同実施形態におけるガス制御装置を示す模式図。
【図5】同実施形態における可変流量バルブの内部構造を示す模式的断面図。
【図6】同実施形態における閉処理時の動作を示すフローチャート。
【図7】同実施形態における閉処理を行った時のイオン源における真空度の変化を示すグラフ。
【図8】同実施形態における開処理時の動作を示すフローチャート。
【図9】同実施形態における閉処理後に長時間経過した後に開処理を行った時のイオン源における真空度の変化を示すグラフ。
【図10】同実施形態における閉処理後に短時間経過した後に開処理を行った時のイオン源における真空度の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
本発明のガス制御装置10を用いたイオン注入装置100は、例えば、シリコン基板などの表面に様々な種類のイオンを所定の角度や深さ、濃度で注入することによって、その特性を変化させたり、改質させたりするために用いられるものである。
【0024】
本実施形態のイオン注入装置100は、図3に示されるようなイオン源1からある電圧で引き出されたイオンビームIBを分析磁石2によって所望の種類のイオンだけを選択し、前記分析磁石2を通過した後のイオンビームIBを静電加速管3に通過させることによって、所望のエネルギーにするとともに偏向させて所定の入射角度でターゲットTに入射させるものである。
【0025】
前記イオン源1は、排気機構を備えた減圧可能なチャンバーであって、図4に示すようにガス供給手段5たるガスボンベとガスラインによって接続されており、流入したガスをプラズマ化することによってイオンビームIBを引き出すものである。
【0026】
前記ガスライン上には、図4に示すようにガス供給手段5から前記イオン源1に流入するガスの流量を制御するためのガス制御装置10が設けてある。前記ガス制御装置10は、可変流量バルブ41を備え、前記ガスラインを流れるガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラ4と、前記マスフローコントローラ4の上流に設けてある1次側バルブ6と、前記マスフローコントローラ4の下流に設けてある2次側バルブ7と、それらのバルブの開度を制御する制御部8とから構成してある。
【0027】
前記マスフローコントローラ4は、内部流路を流れる流体の差圧に基づいて、流量を測定する流量計42を備えており、前記流量計42にて測定された測定流量が設定されている設定流量となるように、それらの偏差が小さくなる方向へ前記可変流量バルブ41の開度を制御するように構成してある。
【0028】
前記可変流量バルブ41は、例えば、図5(a)の断面図に示すようなソレノイド型の流量制御用バルブであり、弁体V1を電磁力によって動作させることにより、弁座V2との間に形成される隙間の大きさを調節することで、通過する流体の流量を制御するものである。前記弁座V2は、その表面を摩擦抵抗が大きくなるようにコーティングを施す又は弁体V1との接触する部分を若干柔らかくするよう加工が施してある。このような加工を施すのは、図5(b)に示すように弁体V1を完全に弁座V2に接触させた状態では、多少の圧力変動に対しても全閉状態が維持されるようにするためである。
【0029】
前記1次側バルブ6及び前記2次側バルブ7は、全開又は全閉のいずれかの状態となるように構成されているオン−オフ制御用のバルブである。
【0030】
前記制御部8は、CPU、メモリ、I/Oチャネル、ディスプレイ等の出力機器、キーボードなどの入力機器、ADコンバータ等を有したいわゆるコンピュータであり、前記メモリに格納したプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が動作することによって、少なくとも閉時間測定部81、開度設定部82としての機能を発揮するものである。なお、制御部8は、前記マスフローコントローラ4に設けられるものであってもよいし、別の場所に設けてあるコンピュータ等であってもよい。
【0031】
前記閉時間測定部81は、閉処理が行われてからの経過時間を測定し、記憶しているものであり、この測定された経過時間は、開処理時においてバルブを開放する順番を決定するために前記開度設定部82にて使用される。
【0032】
前記開度設定部82は、前記イオン源1へのガスの流入を止める閉処理及び前記イオン源1へのガスの流入を再び開始する開処理において、前記マスフローコントローラ4、前記1次側バルブ6、予め定めてある順番又は条件に従って、前記2次側バルブ7の開閉させるものである。
【0033】
より具体的には、前記開度設定部82は、閉処理において前記マスフローコントローラ4の設定流量を0ccとして全閉させるとともに前記1次側バルブ6を略同時に全閉させた後に、前記2次側バルブ7を全閉させるものである。また、開処理時には、閉処理終了時から長時間経過している場合、例えば、前記時間測定部81で測定された経過時間が第2所定時間である20分を超えている場合には、前記マスフローコントローラ4に設定流量を0ccから別の値に変更して流量制御を開始させた後に、前記2次側バルブ7を開放させる。一方、閉処理終了時から短時間しか経過していない場合、例えば、前記時間測定部81で測定された経過時間が20分以内である場合には、前記第2バルブを開放させた後に、前記マスフローコントローラ4に流量制御を開始させるものである。
なお、開度設定部82の別の態様としては、マスフローコントローラの設定流量を0ccとする代わりに、全閉信号を入力するものであってもよい。この場合、再び流量制御を開始させる場合には、まず、全閉指令を解除し、その後に流量制御を開始させるようにする。
【0034】
このように構成されたイオン注入装置100において、イオン種を切り替えてイオン注入条件を変更するために、前記ガス供給手段5から前記イオン源1へ供給されるガスの切り替える場合のガス制御装置10の動作について説明する。
【0035】
前記ガス供給手段5からの供給されるガスの切り替えは、真空排気を行いながら、前記イオン源1へガスが流入するのを止める閉処理を行い、ガス供給手段5の切り替え又は交換をした後に、再び前記イオン源1へ新たなガスの流入を開始させる開処理とから構成される。以下では、特に閉処理及び開処理での各機器の動作について図6及び図8に示されるフローチャートを参照しながら詳述する。
【0036】
図6に示すように、閉処理では、まず前記開度設定部82は、前記1次側バルブ6及び前記2次側バルブ7が開放されており、前記ガスラインにガスが流れ、前記マスフローコントローラ4の前後に差圧が存在している状態で、前記マスフローコントローラ4に対してその設定流量を0ccに変更する(ステップS1)。すると、前記マスフローコントローラ4はフィードバック制御により前記可変流量バルブ41の開度を全閉状態にする方向へ動作させることになる。
【0037】
次に、前記開度設定部82は、前記1次側バルブ6の開度を全閉に設定する(ステップS2)。ここで、前記マスフローコントローラ4はフィードバック制御により全閉状態に近づいていくので、全閉になるまでに若干の時間遅れが存在するための前記マスフローコントローラ4と前記1次側バルブ6は略同時に全閉になる(ステップS3)。
【0038】
前記開度設定部82は、前記マスフローコントローラ4内の流量計42にて流量が所定の値よりも低下していることを確認する(ステップS4)。この動作は、マスフローコントローラが確実に全閉状態であることを確認するために行うものである。その確認が終わった後に2次側バルブ7を全閉させる(ステップS5)。最後に、イオン源1に設けてある真空度を測定するためのIG計(図示しない)により、真空度の低下を確認して閉処理を終了する。この時点から前記時間測定部81は、閉処理終了時からの経過時間の測定を開始する(ステップS6)。
【0039】
ここで、このような閉処理を行うことによる効果について説明する。前述したように前記マスフローコントローラ4の設定流量を0ccとするのを最初に行っているため、マスフローコントローラ4の前後に差圧が存在するので、前記可変流量バルブ41は確実に全閉状態となる。また、前記1次側バルブ6と前記マスフローコントローラ4が略同時に全閉となった後に、真空排気によって前記マスフローコントローラ4の下流は低圧にされた後に前記2次側バルブ7は全閉されるので、終了時点でもマスフローコントローラ4の前後には差圧が存在するため、全閉状態が維持され続けることになる。従って、後述する開処理の初期状態では、マスフローコントローラ4を確実に全閉状態にしておくことができる。
【0040】
さらに、前記イオン源1の真空度が略ゼロになり、安定するまでにかかる時間も短縮することができる。図7に従来のようにマスフローコントローラ4に何ら流量設定を行わずに、1次側バルブ6を全閉した後に、2次側バルブ7を全閉した場合の真空度の変化と、本実施形態の閉処理方法による真空度の変化を示す。従来であれば、開処理時においてマスフローコントローラ4の開度が分からないので、閉処理時に残存ガスを無くすことで開処理時のガスの突入を防ぐようにしている。このため、1次側バルブ6よりも下流における全ての容積のガスを真空引きしているので、多量のガスを真空引きする必要から安定するまでに時間がかかってしまっている。それに対して、本実施形態の閉処理方法によれば、開処理を行う時点でマスフローコントローラ4を確実に全閉にしているので、前記1次側バルブ6と前記流量可変バルブ41間に残存ガスがあったとしても、イオン源1にガスが突入することを防ぐことができる。つまり、前記マスフローコントローラ4が全閉又はそれに近い状態で前記1次側バルブ6が全閉して、前記1次側バルブ6と前記流量可変バルブ41間の容積に存在する残存ガスの真空引きを行わないようにしたとしても問題が生じない。従って、従来に比べて前記1次側バルブ6と前記流量可変バルブ41間の容積だけ真空引きするガスの量を大幅に減らすことができるので短時間で略0ccに安定させることができる。
【0041】
次に開処理時の動作について図8を参照しながら説明する。
【0042】
開処理時の各バルブを開放させる順番は、前述した閉処理が終了してからの経過時間に応じて選択される。これは、前記可変流量バルブ41は差圧がある状態で全閉のまま長時間経過すると、その差圧によって弁座V2に対して弁体V1が低圧側である下流側へ引き込まれていき、弁体V1が弁座V2に対して食い込んでしまい、抜けにくくなってしまう。すると、初動時に弁体V1が弁座V2から離間するのに通常よりも大きな力が必要となるため、しばらくの間、設定流量が0ccでなかったとしても全閉状態が維持されてしまい、開放されると一気に摩擦抵抗がなくなるため、今度は大きく開きすぎてしまい、ガスの突入が行ってしまうことがある。このような不具合を鑑みて、開処理においては、前記可変流量バルブ41の食い込み量を考慮して、各バルブの開放する順番を決めてある。
【0043】
具体的な各バルブの開放方法としては、前記時間測定部81によって測定された経過時間が20分を超えている場合には(ステップS7)、前記開度設定部82は、まず、前記マスフローコントローラ4に0cc以外の設定流量を設定し(ステップS8)、食い込みに対して徐々に可変流量バルブ41が開放されるようにしておき、その後、前記2次側バルブ7を開放させる(ステップS9)。最後に、前記1次側バルブ6を開放して(ステップS10)、開処理を終了する。
【0044】
前記時間測定部81によって測定された経過時間が20分以内の場合には(ステップS7)、前記開度設定部82は、まず、前記2次側バルブ7を開放し(ステップS10)、その後、前記マスフローコントローラ4に0cc以外の設定流量を設定する(ステップS11)。最後に、前記1次側バルブ6を開放して、開処理を終了する(ステップS12)。
【0045】
ここで、前述した閉処理を前提とした上で、このような開処理を行うことによる効果について説明する。
【0046】
図9に、閉処理後に長時間経過した状態で開処理を行った時のイオン源1における真空度の変化を示す。
【0047】
図9には、測定結果が閉処理においてマスフローコントローラ4を全閉にせず、開処理において、2次側バルブ7を開放した後に1次側バルブ6及びマスフローコントローラ4を同時に開放して、流量制御を開始した場合の従来の測定結果Aと、本実施形態の閉処理を行った後に、前述した従来の開処理方法を行った場合の測定結果Bと、本実施形態の開処理、閉処理を行った場合の測定結果Cを示してある。
【0048】
測定結果Aでは、ガスの突入が起こるため目標の真空度に対して大きくオーバーシュートを起こし、安定するまでに時間がかかっているのに対して、測定結果Bではオーバーシュートは起こっておらず、目標の真空度に安定するために係る時間も短くなっているものの、立ち上がりまでに時間がかかっていることが分かる。測定結果Bでは、可変流量バルブ41が食い込んでいる状態で第2バルブ及び第1バルブが開放されていることから、マスフローコントローラ4の前後の差圧がより大きくなってしまい、可変流量バルブ41を開放しようとする力に対して、逆方向の食い込ませようとする力が大きくなる。つまり、立ち上がりに時間がかかるのは、実際に開放させるように働く力の大きさが小さくなってしまうので、可変流量バルブ41が開放されるまでに時間がかかってしまうためであると考えられる。
【0049】
測定結果Cでは、差圧が大きくなる前に、可変流量バルブ41を開放させようとしているので、測定結果Bの場合に比べてより可変流量バルブ41により大きい力をかけることができる。このため、測定結果Aの場合のオーバーシュートに比べて実用上無視できる程度のオーバーシュートに抑えつつ、測定結果Bの場合よりも短時間で可変流量バルブ41の食い込みを解消し、立ち上がり時間を短縮することができている。
【0050】
図10に、閉処理後に短時間しか経過していない場合に開処理を行った時のイオン源1における真空度の変化を示す。図10には本実施形態の閉処理及び閉処理からの経過時間が短時間の場合の開処理を行った場合のイオン源1における真空度の測定結果Dとともに、比較として従来の測定結果Aを示してある。測定結果Dは、従来の測定結果Aに対してオーバーシュート量を実用上無視できる程度に小さくすることができているので、前述した測定結果Cと略同じに扱うことができ、また、短時間で目標値に安定している事が分かる。
【0051】
また、仮に可変流量バルブ41の食い込み量が少ない状態で測定結果Cと同様の方法で開処理を行うと、2次側バルブ7が開放される前にマスフローコントローラ4が略全開となってしまい、従来の測定結果Aと略同様になってしまう。従って、閉処理から短時間しか経過していない場合には、本実施形態のように、2次側バルブ7を開放した後にマスフローコントローラ4の流量制御を開始することが効果的であることが分かる。
【0052】
このように本実施形態のイオン注入装置100及びガス制御装置10によれば、閉処理において、差圧が存在するうちにマスフローコントローラ4を全閉させるようにしてあるので、次の開処理時の初期状態においてマスフローコントローラ4が確実に全閉されているようにすることができる。従って、開処理においてイオン源1に突入するガスの量を無くす、又は、非常に小さくすることができ、所定の真空度に安定するまでにかかる時間を短くすることができる。
【0053】
また、閉処理において最初にマスフローコントローラ4が全閉されることから、1次側バルブ6を全閉することによる真空度の変動を防ぐことができ、従来に比べて1次側バルブ6と流量可変バルブ41間の容積分だけのガス量だけ真空引きを行う必要がないので、真空度が安定し閉処理が終了するまでにかかる時間も短くすることができる。
【0054】
さらに、開処理においては、閉処理からの経過時間に応じて各バルブを開放する順序を変更しているので、上述したように前記可変流量バルブ41の食い込み量を考慮した開処理を行うことができ、所望の真空度で安定するまでにかかる時間を短くすることができる。
【0055】
以上のように、閉処理及び開処理において、その作業にかかる時間を大幅に短縮することができるので、小ロット、多品種の半導体にイオン注入を行う場合でも、短時間で段取り替えを行うことができ、半導体の生産効率を向上させることができる。また、短時間でイオンビームIBを引き出すのに適した真空度にすることができるので、無駄に流れていくガスの量も少なくなり、ガス消費量を減らすことができ、運用コストを下げることができる。
【0056】
その他の実施形態について説明する。
【0057】
前記実施形態では、閉処理時において、前記マスフローコントローラと前記1次側バルブを略同時に全閉にしていたが、前記マスフローコントローラが先に全閉し、前記1次側バルブがその次に全閉するように構成してもよい。また、先に1次側バルブを全閉させて、その後にマスフローコントローラを全閉させるようにしてもよい。この場合は、1次側バルブが全閉してから、真空排気によってマスフローコントローラの前後に差圧が無くなってしまう前にマスフローコントローラを全閉させればよい。すなわち、前記1次側バルブが全閉してから第1所定時以内に前記マスフローコントローラが全閉するようにしても構わない。このようなものでも、前後に差圧がある状態でマスフローコントローラを確実に全閉できる。
【0058】
前記実施形態では、マスフローコントローラを全閉にするために、設定流量を0ccとして、フィードバック制御により全閉とするようにしたものであったが、前記マスフローコントローラがフィードバック制御によらず、強制全閉できるものであっても構わない。強制全閉できるものであっても、機構や構造によっては、マスフローコントローラの前後に差圧が存在しないと、完全には全閉にはならず、ガスの突入を防ぐことができない。例えば、強制全閉モードでは弁体への支持力を無くし、流体の流れによって弁座に嵌り込むように構成してあるピボット型のバルブ等では、差圧が無い場合には全閉にすることができない。また、外力によって弁体を弁座に嵌り込ませることによって全閉にするバルブであっても、通常、弁座が壊れない程度の力でしか押さえつけていない。従って、差圧が無い状態で全閉にできたとしても、2次側バルブが全閉した時に、その押しのけたガスが逆圧となってかかった場合等に弁体が弁座から外れてしまい、全閉状態を維持することができなくなってしまうことも考えられる。従って、強制全閉ができるマスフローコントローラであったとしても、前後に差圧がある状態で全閉にすることは重要であり、前記実施形態の閉処理の方法を用いることによって、開処理時に確実に全閉状態にし、イオン源へのガスの突入を防ぐことができる。
【0059】
例えば、マスフローコントローラが流すことができる流量がフルスケールで5ccであり、実際に流す流量が常用において1cc程度であるような、常に全閉に近い状態で使用する場合には、本発明のガス制御方法は特に効果を発揮する。
【0060】
また、前記実施形態のマスフローコントローラは、差圧によって流量を測定するものであった、サーマル式のものであっても構わない。また、本発明のガス制御装置はイオン注入装置のみ適用されるものと限らない。プラズマ処理装置等に用いられても構わない。
【0061】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0062】
100・・・イオン注入装置
10・・・ガス制御装置
1・・・イオン源(チャンバー)
4・・・マスフローコントローラ
41・・・可変流量バルブ
5・・・ガス供給手段
6・・・1次側バルブ
7・・・2次側バルブ
8・・・制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給手段と、減圧可能なチャンバーと、を接続するガスラインに設けられるガス制御装置であって、
可変流量バルブを備え、前記チャンバーに流入するガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラと、
前記マスフローコントローラの上流に設けられる1次側バルブと、
前記マスフローコントローラの下流に設けられる2次側バルブと、を具備し、
前記チャンバーへのガスの流入を止めるガス閉処理時において、前記マスフローコントローラ、前記1次側バルブ、前記2次側バルブをこの順で全閉させる、又は、前記1次側バルブを全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラを全閉させ、その後に前記2次側バルブを全閉させる制御部を備えたことを特徴とするガス制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が第2所定時間を超えている場合には、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させた後に、前記2次側バルブを開放させる請求項1記載のガス制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が第2所定時間以下の場合には、前記2次側バルブを開放させた後に、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させる請求項1又は2記載のガス制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載のガス制御装置を用いたイオン注入装置。
【請求項5】
ガス供給手段と、減圧可能なチャンバーと、を接続するガスラインに設けられるガス制御装置の制御方法であって、
前記ガス制御装置は、可変流量バルブを備え、前記チャンバーに流入するガスの流量を設定流量となるように制御するマスフローコントローラと、前記マスフローコントローラの上流に設けられる1次側バルブと、前記マスフローコントローラの下流に設けられる2次側バルブと、を具備し、
前記チャンバーへのガスの流入を止めるガス閉処理時において、前記マスフローコントローラ、前記1次側バルブ、前記2次側バルブをこの順で全閉させる、又は、前記1次側バルブを全閉させてから第1所定時間以内に前記マスフローコントローラを全閉させ、その後に前記2次側バルブを全閉させるステップを備えたことを特徴とするガス制御装置の制御方法。
【請求項6】
前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が第2所定時間を超えている場合には、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させるステップの後に、前記2次側バルブを開放させるステップを備える請求項5記載のガス制御装置の制御方法。
【請求項7】
前記チャンバーへのガスの流入を開始させるガス開処理時において、前記閉処理時からの経過時間が第2所定時間以下の場合には、前記2次側バルブを開放させるステップの後に、前記マスフローコントローラに流量制御を開始させるステップを備える請求項5又は6記載のガス制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−205477(P2010−205477A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47831(P2009−47831)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】