説明

ガス導入機構を備えたキャンロールおよびそれを用いた長尺基板の処理装置ならびに処理方法

【課題】 真空チャンバー内へのガス漏れを抑制しつつキャンロールの外周面と長尺基板との間に形成される隙間にガスを導入する装置を提供する。
【解決手段】 真空チャンバー51内においてロールツーロールで搬送される長尺基板Fを冷媒で冷却された外周面に巻き付けて冷却するキャンロール56であって、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路14を有しており、これら複数のガス導入路14の各々はキャンロール56の回転軸56a方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔15を有しており且つ長尺基板Fが外周面に巻き付けられる領域であるか否かに対応して設けられた永久磁石などの磁力付与手段65によって開閉するガス導入バルブ20に接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング等の熱負荷のかかる処理が施される長尺基板の冷却を効果的に行うべく、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入する機構を備えたキャンロール、およびそれを用いた長尺基板の処理装置ならびに処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板の材料には、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられており、この金属膜付耐熱性樹脂フィルムにフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術を適用することにより所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板を得ることができる。フレキシブル配線基板の配線パターンは近年ますます微細化、高密度化しており、従って金属膜付耐熱性樹脂フィルムは平坦でシワのないことがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来から金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、あるいは耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法により、もしくは真空成膜法と湿式めっき法との組み合わせにより金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法における真空成膜法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された第二の金属薄膜とを、この順でポリイミドフィルム上に積層することによって得られるフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、基板にポリイミドフィルムの様な耐熱性樹脂フィルムを用い、これに真空成膜を行う場合はスパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造装置であるスパッタリングウェブコータでは、冷却機能を備えた回転駆動されるキャンロールにロールツーロールで搬送される耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによってスパッタリング処理中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式真空スパッタリング装置には上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、さらにクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによってフィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送されるフィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、スパッタリングや蒸着の際に生じるフィルムの熱は、実際にはフィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となっていた。この問題を解決するため、上記キャンロール外周面とフィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入して、当該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。
【0008】
例えば特許文献4には、上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する具体的な方法として、キャンロールの外周面にガスの導入口となる多数の微細な孔を設ける技術が開示されている。また、特許文献5には、キャンロールの外周面にガスの導入口となる溝を設ける技術が開示されている。さらに、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガス導入口とする方法も知られている。
【0009】
しかし、これらいずれにおいても、キャンロールの外周面においてフィルムが巻き付けられていない領域はフィルムが巻き付けられている領域に比べて、ガス導入口での抵抗が低くなるため、キャンロールに供給されるガスのほとんどがこのフィルムの巻き付けられていない領域のガス導入口を経て真空チャンバーの空間に放出されてしまう。その結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられているフィルムとの間のギャップ部に本来導入されるべき量のガスが供給されず、よって熱伝導率を高める効果が得られなくなる。
【0010】
この問題に対しては、キャンロールの外周面から出没するバルブをガス導入口に設け、このバルブをフィルム面で押さえつけることによってガス導入口を開放する方法(特許文献5)や、キャンロールの外周面のうちフィルムを送り出してから送り入れるまでに該当するフィルムの巻き付けられない領域にカバーを取り付けて、この領域からチャンバーにガスが放出されるのを防止してキャンロール外周面とフィルム表面とのギャップ部に良好にガスを導入する方法(特許文献6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号パンフレット
【特許文献5】米国特許第3414048号明細書
【特許文献6】国際公開第2002/070778号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】"Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献5に示すようなフィルム面でバルブを押さえつけてガス導入口を開放させる方法は、バルブの接触によりフィルム面に僅かなキズや凹みを生じさせるおそれがあり、高い品質が要求される電子機器のフレキシブル配線基板の製造に採用することは難しかった。また。特許文献6に示すようなカバーを用いてフィルムが巻き付けられない領域のガス導入口を封鎖する方法は、高い真空度で成膜処理を行う処理装置ではカバーとキャンロール外周面との隙間からのガス漏れを防ぐことができなかった。
【0014】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、その課題とするところは、ロールツーロールで搬送される長尺基板(フィルム)を、キャンロールの外周面に部分的に巻き付けて冷却しながら当該長尺基板にスパッタリング成膜などの熱負荷の掛かる処理を施す場合において、キャンロール外周面のうちのフィルムが巻き付けられない領域からの真空チャンバー内へのガス漏れを抑制しつつキャンロールの外周面と長尺基板との間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入することが可能な装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者は、減圧下にある真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送し、内部に冷媒が循環するキャンロールの外周面に部分的に長尺基板を巻き付けて冷却しながら当該長尺基板に熱負荷の掛かる処理を施す装置において、熱伝導率を向上させて熱負荷による長尺基板のシワ発生を確実に低減させるべくキャンロール外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入するガス導入機構を備えたキャンロールについて鋭意研究を重ねた結果、複数のガス導入路をキャンロールの全周に周方向に略均等な間隔をあけて配設し、各ガス導入管に外周面側に開口する複数のガス導入孔を均等な間隔をあけて設けるとともに磁力により開閉するバルブを取り付けることにより、キャンロール外周面のうちの長尺基板が巻き付いていない領域からのガスの放出を抑えて効果的にギャップ部にガスを導入し得ることを見出し本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明が提供するキャンロールは、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を冷媒で冷却された外周面に巻き付けて冷却を行うものであり、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路を有しており、これら複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔を有しており且つ長尺基板が外周面に巻き付けられる領域であるか否かに対応して設けられた磁力付与手段によって開閉するガス導入バルブに接続していることを特徴としている。
【0017】
また、本発明が提供する長尺基板の処理装置は、真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、真空チャンバーの外部から供給される冷媒を内部に循環させるとともに外周面に長尺基板を巻き付けて長尺基板を冷却するキャンロールとを備えた長尺基板処理装置であって、前記キャンロールは、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路を有しており、これら複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔を有しており且つ長尺基板が外周面に巻き付けられる領域であるか否かに対応して設けられた磁力付与手段によって開閉するガス導入バルブに接続していることを特徴としている。
【0018】
さらに、本発明が提供する長尺基板の処理方法は、真空チャンバー内において長尺基板をロールツーロールで搬送し、前記長尺基板に熱負荷の掛かる処理を行うと同時に、前記真空チャンバーの外部から供給される冷媒が循環する冷却部と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これら複数のガス導入路の各々に設けられたキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔と、これら複数のガス導入路の各々に接続するガス導入バルブとを具備するキャンロールを用いてその外周面に長尺基板を巻き付けて冷却する長尺基板の処理方法であって、ガス導入路が前記キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられる領域に来たときは当該ガス導入路に連通するガス導入バルブが開いてキャンロールの外周面とそこに巻き付けられている長尺基板との間のギャップ部にガス導入路からガスを導入し、長尺基板が巻き付けられていない領域に来たときはガス導入バルブが閉じてガス導入路へのガス供給が停止するように磁力付与手段で制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、真空チャンバー内へのガスのリークなどの問題を生じることなく、キャンロール外周面のうちの長尺基板が巻き付けられている領域だけに確実にガスを導入させることができる。よって、真空チャンバー内の圧力制御を正確に行うことが可能となる。また、ガス導入部分のガス圧力を安定させることができ、常に一定量のガスをキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間のギャップ部に導入することができる。その結果、効率よく長尺基板の冷却を行うことができ、シワのない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製することができる。
【0020】
さらに、磁力付与手段に磁石を用いてガス導入バルブを閉じる場合は、キャンロールの側面に対向するチャンバー側の側面に、例えば、長尺基板が巻き付けられない領域に対応する形状の磁石を配置するだけでよく、よって容易にガス導入バルブを閉じる範囲を調整することができる。また、電気や圧縮空気ではなく非接触式で且つ簡易な構造の磁力を利用してガス導入バルブを開閉することができるので、複雑な機構や制御システムが不要となる上、磨耗などの機械的トラブルの要因を減らすことができる。すなわち、製作、運用およびメンテナンス性に優れた装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のキャンロールが好適に使用されるロールツーロール方式の長尺基板処理装置の一具体例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るキャンロールの一具体例を示す斜視図である。
【図3】図2に示すキャンロールのガス導入バルブ部分をキャンロールの回転軸を含む面で切断したときの部分切断図であり、(a)はガス導入バルブが開いている状態、(b)はガス導入バルブが閉じている状態を示している。
【図4】本発明に係るキャンロールの他の具体例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のキャンロールおよびこれを搭載した長尺基板処理装置の一具体例について図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、図1を参照しながら、長尺基板処理装置の一例である長尺基板真空成膜装置について説明する。なお、長尺基板には、一例として長尺耐熱性樹脂フィルムを用いる場合について説明する。また、長尺基板に対して施される熱負荷の掛かる処理として、スパッタリング処理を例にとって説明する。この図1に示す長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置50はスパッタリングウェブコータと称される装置であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺状耐熱樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0023】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50は、真空チャンバー51内に設けられており、巻き出しロール52から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルムFに対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール64で巻き取るようになっている。これら巻き出しロール52から巻き取りロール64までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール56が配置されている。このキャンロール56の内部には、真空チャンバー51の外部で温調された冷媒が循環している。このキャンロール56の構造については後に詳細に説明する。
【0024】
真空チャンバー51内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記したように真空チャンバー51内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー51には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0025】
巻き出しロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54とがこの順で配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺耐熱性樹脂フィルムFは、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール55によって、キャンロール56の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを密着させることができる。
【0026】
キャンロール56から巻き取りロール64までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール62、および長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0027】
上記巻き出しロール52及び巻き取りロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転とこれに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻き出しロール52から長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き出されて巻き取りロール64に巻き取られるようになっている。
【0028】
キャンロール56の近傍には、キャンロール56の外周面上に画定される搬送経路(すなわち、図1の角度Aの範囲に該当する、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられる領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59および60が設けられている。なお、上記した角度Aのことを長尺耐熱性樹脂フィルムFの抱き角と称することもある。
【0029】
金属膜のスパッタリング成膜の場合は、図1に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、この図1の長尺耐熱性樹脂フィルムFの成膜装置50は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0030】
本発明の長尺基板処理装置の一具体例においては、キャンロール56の外周面のうちの角度Aの範囲以外の領域である長尺耐熱性樹脂フィルムFを送り出してから送り入れるまでに該当する領域(すなわち、図1の角度Bの範囲に該当する、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域)に対応して扇形形状を有する永久磁石などの磁力付与手段65が設けられている。
【0031】
この磁力付与手段65は、例えばキャンロール56の図1の紙面手前側の側面に対向する真空チャンバー51の側面に取り付けられている。この磁力付与手段65は、後述するキャンロール56のガス導入バルブに設けられた磁石に磁力を付与し得るようになっており、これにより真空チャンバー51内へのガス漏れを抑えつつキャンロール56の外周面とこれに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間の隙間にガスを導入することができる。その具体的な機構については後に詳細に説明する。
【0032】
次に、本発明に係るキャンロールの一具体例について図2を参照しながら説明する。この図2に示すキャンロール56は円筒部材10で構成されており、その外面側が長尺耐熱性樹脂フィルムFの巻き付く搬送経路となる。円筒部材10の内面側にはジャケット11が形成されており、このジャケット11内部に冷却水などの冷媒が流通する。
【0033】
なお、図2では説明のため、キャンロール56の側面に設けられている円板状部材が取り除かれている。冷媒は真空チャンバー51の外部に設けられた図示しない冷媒冷却装置とジャケット11との間を循環できるようになっており、これにより温度調節が可能となっている。このような構造をジャケットロール構造と称している。
【0034】
キャンロール56内部の回転軸56aの位置は二重配管構造になっており、その内側配管12の内側に後述する導入ガスが流通する。内側配管12と後述するガス導入路14とがガス連絡配管12aで連通されている。一方、外側配管13と内側配管12との間には上記した冷却水などの冷媒が流通し、この部分と上記したジャケット11とが冷媒連絡配管13aで連通されている。
【0035】
このキャンロール56の円筒部材10には、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って複数のガス導入路14が配設されている。これら複数のガス導入路14の各々は、キャンロール56の回転軸56a方向に沿って円筒部材10の肉厚部内に穿設されている。なお、図2には、12本のガス導入路14が均等な間隔をあけて全周に亘って配設されている例が示されている。
【0036】
各ガス導入路14は、キャンロール56の回転軸56a方向に沿って略均等な間隔をおいて円筒部材10の外表面側(すなわち、キャンロール56の外周面側)に開口する複数のガス導入孔15を有している。これにより、キャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(間隙)にガスを導入することができる。
【0037】
図2では、一例としてキャンロール56の回転軸56aに沿って配設された10個のガス導入孔15が示されている。これらガス導入路14の本数や、各ガス導入路14が有するガス導入孔15の個数は、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられる領域の面積やガスの放出量により適宜定められる。各ガス導入孔15の直径は、キャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されないが、一般的には直径30μm〜1000μm程度が好ましい。
【0038】
キャンロール56の外周面には、極小の内径を有するガス導入孔15を狭ピッチにして多数具備した方がキャンロール外周面の全面に亘って熱伝導性を均一化できるという点において好ましい。しかしながら、極小内径を有する孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径150〜500μm程度の小穴を5〜10mmピッチでキャンロール外周面に具備するのがより好ましい。
【0039】
ガス導入路14は円筒部材10の端部において開口しており、ここに前述したガス連通配管12aがそれぞれ接続している。そして、各ガス連通配管12aに、ガス導入バルブ20が取り付けられており、これにより各ガス導入路14へのガス供給の個別の制御が行われる。以下、図3を参照しながらこのガス導入バルブ20の構造とその動作について説明する。
【0040】
ガス導入バルブ20の本体21には、ガス連通配管12aに連通するガス流路21aが貫通しており、ここにガス流路21aを塞ぐ閉止位置(図3(b))とガス流路21aの流通を可能にする開放位置(図3(a))との間で往復自在な弁体22が設けられている。弁体22にはシャフト23が取り付けられており、その弁体22側とは反対側の端部が本体21から突出している。この突出部分に永久磁石24が前述した磁力付与手段65と対向したときに反発するように(すなわち、同極同士が対向するように)取り付けられている。
【0041】
シャフト23にはOリングなどのシール材25が装着されており、ガス流路21aを流れるガスがシャフト23と本体21との間の隙間から漏れないようになっている。このシール材25は、本体21に螺合する蓋部26を取り外すことによって交換できるようになっている。シャフト23には更にスプリングなどの弾性体27が取り付けられており、弁体22を前述した開放位置に向けて付勢している。
【0042】
かかる構成により、ガス導入路14が図1の角度Aの範囲内にあるときは、図3(a)に示すように磁力付与手段65からの磁力の影響を受けないので、弁体22は弾性体27の付勢力により開放位置に留まる。よって内側配管12内のガスは、ガス連通配管12a、ガス流路21a及びガス導入路14を経てガス導入孔15から放出される。この角度Aの領域は、キャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いている領域なので、キャンロール56の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFとによって形成される隙間にガスが導入される。その結果、かかる隙間の熱伝導率が向上して長尺耐熱性樹脂フィルムFの熱を効率よく冷却することが可能となる。
【0043】
一方、キャンロール56が回転して上記ガス導入路14が図1の角度Bの範囲内にきたときは、図3(b)に示すように、ガス導入バルブ20の永久磁石24が磁力付与手段65と対向するので、永久磁石24には磁力付与手段65から離れようとする方向に反発力が働き、よって弁体22は弾性体27の付勢力に逆らって閉鎖位置に移動する。その結果、内側配管12からガス導入路14へのガスの供給が遮断される。
【0044】
この角度Bの領域は、キャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いていない領域であるが、前述したように、ガス導入路14へのガス供給が遮断されているので、ガス導入孔15から真空チャンバー51に無駄にガスが放出されることはない。よって、真空チャンバー51内の圧力制御への悪影響を抑えることができるとともに、導入ガスのガス圧を所定の圧力に安定的に維持することが可能となる。
【0045】
このように、本発明のキャンロールの構造によれば、真空チャンバー内へのガスのリークなどの問題を生じることなく、キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられていない領域で確実にガスの導入を停止することができる。また、電磁バルブや圧空バルブを使用せずに非接触でバルブを操作するので、回転するキャンロール56の内部に複雑な配線や配管を設ける必要がなく、複雑な制御装置も不要となる。また、磨耗に起因するトラブルを避けることができる。すなわち、製作、運用およびメンテナンス性に優れている。
【0046】
なお、図3に示す一具体例のガス導入機構では、磁石の反発を利用してガス導入バルブ20を閉鎖する構造を採用しているが、磁石の吸引を利用してガス導入バルブ20を閉鎖するようにしても良い。また、弾性体27を開放位置に向けて付勢するとともにキャンロール56の角度Bに対応する位置に磁力付与手段65を設けて閉鎖する例について説明したが、弾性体27を閉鎖位置に向けて付勢するとともに角度Aに対応する位置に磁力付与手段65を設けて開放するようにしてもよい。さらに、図2ではキャンロール56の一方の側面のみにガス導入バルブ20を設ける場合について説明したが、円筒部材10を貫通するようにガス導入路14を穿設し、その両端開口部にガス導入バルブ20を接続してもよい。
【0047】
ところで、上記した本発明の一具体例のキャンロール56では、1本のガス放出路14に対して1つのガス導入バルブ20を取り付ける場合について説明したが、スペースや配管の関係で、複数本のガス放出路14に対して1つのガス導入バルブ20を取り付けることが望ましい場合がある。この場合は、例えば互いに隣接する複数のガス導入路14に連結する1つの分岐管を設け、この分岐管の分岐前の配管に1つのガス導入バルブ20を設ければよい。例えば、図4には隣接する3本のガス導入路14に対して1つの分岐管16を接続し、この分岐管16に1つのガス導入バルブ20を設けた例が示されている。
【0048】
分岐管16を使用する場合は、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を各分岐管16によって分岐される配管の本数に一致させることが好ましい。例えば、図2に示すキャンロール56では、3本のガス導入路14が長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域に同時に存在しているので、各分岐管16は3本に分岐する構造を有しているのが好ましい。但し、ガスの導入をよりきめ細かく制御することが望まれる場合は、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を2もしくは3以上の整数で等分した数に各分岐管16によって分岐される配管の本数を一致させることがより好ましい。
【0049】
例えば、図4に示すように、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域に9本のガス導入路14が同時に存在する場合、この本数に合わせて9本に分岐する分岐管16を使用した場合は、分岐管16と磁力付与手段65との位置関係によっては最悪8本のガス導入路14から真空チャンバー51に導入ガスが漏れる状況が生じる。これに対して、図4に示すように、9本のガス導入路14を3等分した場合に相当する3本に分岐する分岐管16を使用した場合は、真空チャンバー51に導入ガスが漏れるガス導入路14の数を最悪でも2本に減らすことができる。
【0050】
なお、非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスの場合、導入ガス圧力が500Paでギャップ間距離が約40μm以下の時、ギャップ間の熱伝導率は250(W/m・K)となる。本発明の長尺基板の処理装置においても、同様の導入ガス圧力条件を想定した場合、キャンロール56の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部の距離は40μmになると考えられるが、この程度のギャップ部の距離であれば、そこからリークするガス量は、長尺基板真空成膜装置が通常備える真空ポンプで排気可能である。
【0051】
さらに、導入ガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じものにしておけば、スパッタリング雰囲気を汚染することもない。また、上述の通り、キャンロール56の外周面のうち長尺基板が巻き付けられない領域ではガス導入路14へガスを供給する前にガス供給を遮断するので、ガス漏れのリスクを減らすことができる。
【0052】
以上、長尺基板として耐熱性樹脂フィルムを例にとって本発明の一具体例の長尺基板処理装置の説明を行ったが、本発明の長尺基板処理装置で使用する長尺基板には、他の樹脂フィルムはもちろんのこと、金属箔や金属ストリップなどの金属フィルムを用いることができる。樹脂フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような比較的耐熱性に劣る樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムを挙げることができる。
【0053】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する場合は、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる耐熱性樹脂フィルムが好適に用いられる。なぜなら、これらを用いて得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板に要求される柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性に優れているからである。
【0054】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造は、上述したような長尺基板真空成膜装置に長尺基板として上記の耐熱性樹脂フィルムを用い、その表面に金属膜をスパッタリング成膜すれば得られる。例えば、上述したような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて耐熱性樹脂フィルムをメタライジング法で処理することにより耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等から成る膜とCu膜とが積層された構造体を有する金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを得ることができる。
【0055】
このような構造体を有する金属膜付耐熱性樹脂フィルムは成膜処理後は別工程に送られ、そこでサブトラクティブ法により所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法のことである。
【0056】
上記したNi系合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに必要とされる電気絶縁性や耐マイグレーション性等の特性により適宜その組成が選択されるが、一般的にはNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の公知の合金で形成される。なお、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)をより厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いることがある。この場合は、電気めっき処理のみで金属膜を形成する方法か、あるいは一次めっきとしての無電解めっき処理と、二次めっきとしての電解めっき処理等の湿式めっき処理とを組み合わせて行う方法で処理される。この湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき条件を採用することができる。
【0057】
上記本発明の具体例では、金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例にとって説明したが、上記金属膜のほか、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明の成膜方法を用いることもできる。
【0058】
また、上記本発明の具体例では、長尺基板真空成膜装置に関して説明してきたが、本発明の長尺基板処理装置には、減圧雰囲気下の真空チャンバー内で長尺基板にスパッタリング等の真空成膜を施す処理以外に、プラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷の掛かる処理が行われることがある。これらプラズマ処理やイオンビーム処理により長尺基板の表面が改質され、その際、長尺基板に熱負荷が掛かる。このような場合においても、本発明のキャンロール及びこれを用いた長尺基板の成膜装置を用いることが効果的であり、これにより処理雰囲気に多量の導入ガスをリークさせることなく熱負荷による長尺基板のシワ発生を抑制することができる。
【0059】
ここでプラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法、例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺基板を処理する方法のことである。また、イオンビーム処理とは、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして目的物(長尺基板)へ照射する処理である。このイオンビーム処理には、公知のイオンビーム源を用いることができる。なお、これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、ともに減圧雰囲気下で行われる。
【実施例】
【0060】
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。長尺の耐熱性樹脂フィルム(以下、フィルムFと称する)には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
【0061】
キャンロール56には、図2に示すようなジャケットロール構造のガス導入機構付きキャンロールを使用した。このキャンロール56の円筒部材10には、直径900mm、幅750mm、厚み15mmのアルミ製のものを使用し、その外周面にハードクロムめっきを施した。この厚み15mmの肉厚部内に、キャンロール56の回転軸方向に平行に延在する内径4mmのガス導入路14を周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って360本穿設した。なお、ガス導入路14の両端のうち先端側は有底にして円筒部材10を貫通しないようにした。
【0062】
各ガス導入路14には、円筒部材10の外表面側(すなわちキャンロール56の外周面側)に開口する内径0.2mmのガス導入孔15を47個設けた。これら47個のガス導入孔15は、円筒部材10の外表面に画定されるフィルムFの搬送経路の両端部からそれぞれ20mm内側の線の間の領域に、フィルムFの進行方向に対して直交する方向において10mmのピッチで配設した。つまり、キャンロール56の外周面のうち両端部からそれぞれ145mmまでの領域にはガス導入孔15を設けなかった。
【0063】
つぎに、図1に示すように、成膜装置50の真空チャンバー51の側面において、キャンロール56の外周面にフィルムFが巻き付けられない領域に対応する位置に磁力付与手段65として扇形の永久磁石を取り付けた。このフィルムFが巻き付けられない領域とは、フィードロール61に向けて送り出されるフィルムFがキャンロール56から離れる位置と、フィードロール55から送り出されるフィルムFがキャンロール56に接する位置との間の領域であって角度Bに該当する領域であり、この実施例のキャンロール56では角度Bは約30°であった。
【0064】
上記したように、円筒部材10には360本のガス導入路14が全周に亘って周方向に均等に配設されているので、この中心角Bの範囲内には30本のガス導入路14が同時に存在することになる。これら30本のガス導入路14からのガスの導入をきめ細かく制御するため、本実施例では30本を3分割した10本に分岐する分岐管16を使用し、各分岐管16に対して図3に示すようなガス導入バルブ20を1つ取り付けた。すなわち、ガス導入バルブ20は全部で36個になる。
【0065】
フィルムFに成膜する金属膜としては、シード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、そのため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用いた。
【0066】
巻き出しロール52と巻き取りロール64の張力は80Nとした。上流側モータ駆動フィードロール55の周速度はキャンロール56の周速度の99.9%とし、下流側モータ駆動フィードロール61の周速度はキャンロール56の周速度の100.1%とした。このように周速度を設定することにより、搬送されるフィルムFは僅かに引っ張られながらキャンロール56に巻き付くことになり、よってフィルムFはキャンロール56の外周面に強く密着する。キャンロール56のジャケット11内には冷却水を循環させて20℃に温度制御したが、フィルムFとキャンロール76との熱伝導効率が良好でないと冷却効果は期待できなかった。
【0067】
この成膜装置50の巻き出しロール52側に、巻回されたフィルムFをセットし、その一端をキャンロール56を経由させて巻き取りロール64に取り付けた。この状態で、真空チャンバー51内の空気を複数台のドライポンプを用いて5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。
【0068】
次に回転駆動装置を起動してフィルムFを搬送速度3m/分で搬送させながら、アルゴンガスを300sccmで導入するとともにマグネトロンスパッタカソード57、58、59、60に10kWの電力を印加して電力制御した。更にキャンロール56の内側配管12に500sccmでアルゴンガスを導入した。このようにしてロールツーロールで搬送されるフィルムFに対してその片面にNi−Cr膜からなるシード層及びその上に成膜されるCu膜を連続して成膜する処理を開始した。
【0069】
この処理を行っている際、成膜中におけるキャンロール56上のフィルムF表面の観察が可能な観察窓から、ガス導入が行われているキャンロール56上のフィルムF表面を観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに表れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール56外周面からのフィルムFの浮きが見られることは無かった。
【0070】
次に、上記成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが300mになった時点で、キャンロール56内部の内側配管12へのガス供給のみ停止し、その状態で更にフィルムFを長さ300m処理した。この処理を行っている際も、上記と同様にキャンロール56上のフィルムF表面の観察が可能な観察窓からキャンロール56上のフィルムFを観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール56外周面からのフィルムFの浮きが見られることがあった。
【0071】
成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが合計600mになった時点で、各マグネトロンスパッタカソードへの電力供給を停止し、それぞれのガス導入も停止した。最後に、フィルムFの搬送を停止するとともに各ポンプの運転を停止してから大気ベントを開放し、巻き出しロール52からフィルムFの終端部を外して全てのフィルムFを巻き取りロール64に巻き取ってから取り外した。
【0072】
この取り外されたフィルムFを大気中にて展開してシワの有無を確認したところ、キャンロール56へのガス導入を行った0〜300mまでの間にシワは見つからなかったが、キャンロール56へのガス導入を行わなかった300〜600mまでの間に若干のシワが見つかった。
【符号の説明】
【0073】
10 円筒部材
11 ジャケット
12 内側配管
13 外側配管
14 ガス導入路
15 ガス導入孔
16 分岐管
20 ガス導入バルブ
21 本体
22 弁体
23 シャフト
24 永久磁石
25 シール材
26 蓋部
27 弾性体
50 成膜装置(スパッタリングウェブコータ)
51 真空チャンバー
52 巻き出しロール
53、63 フリーロール
54、62 張力センサロール
55、61 フィードロール
56 キャンロール
57、58、59、60 マグネトロンスパッタリングカソード
64 巻き取りロール
65 磁力付与手段
F 長尺耐熱性樹脂フィルム(長尺基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を冷媒で冷却された外周面に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路を有しており、これら複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔を有しており且つ長尺基板が外周面に巻き付けられる領域であるか否かに対応して設けられた磁力付与手段によって開閉するガス導入バルブに接続していることを特徴とするキャンロール。
【請求項2】
前記ガス導入バルブが、隣接する複数のガス導入路に接続してこれらにガスの供給を行うガス分岐管に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のキャンロール。
【請求項3】
前記磁力付与手段が、キャンロールの側面に対向する真空チャンバー側の側面において、キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられない領域に対応する位置に設けられた磁石であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のキャンロール。
【請求項4】
真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、真空チャンバーの外部から供給される冷媒を内部に循環させるとともに外周面に長尺基板を巻き付けて長尺基板を冷却するキャンロールとを備えた長尺基板処理装置であって、
前記キャンロールは、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路を有しており、これら複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔を有しており且つ長尺基板が外周面に巻き付けられる領域であるか否かに対応して設けられた磁力付与手段によって開閉するガス導入バルブに接続していることを特徴とする長尺基板処理装置。
【請求項5】
前記導入ガス路が前記キャンロールを構成する円筒部材に穿設されていることを特徴とする、請求項4に記載の長尺基板処理装置。
【請求項6】
前記ガス導入バルブが、隣接する複数のガス導入路に接続してこれらにガスの供給を行うガス分岐管に設けられていることを特徴とする、請求項4または5に記載の長尺基板処理装置。
【請求項7】
前記磁力付与手段が、キャンロールの側面に対向する真空チャンバー側の側面において、キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられない領域に対応する位置に設けられた磁石であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項8】
前記熱負荷の掛かる処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項9】
前記プラズマ処理またはイオンビーム処理が、前記キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられる領域に対向する位置に配された処理手段を用いる処理であることを特徴とする請求項8に記載の長尺基板処理装置。
【請求項10】
請求項4〜7のいずれかに記載の長尺基板処理装置のうち、前記長尺基板に熱負荷の掛かる処理が真空成膜処理であることを特徴とする長尺基板真空成膜装置。
【請求項11】
前記真空成膜処理が、前記キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられる領域に対向する位置に配された真空成膜処理手段を用いる処理であることを特徴とする、請求項10に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項12】
前記真空成膜機構がスパッタリングカソードであることを特徴とする、請求項11に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項13】
真空チャンバー内において長尺基板をロールツーロールで搬送し、前記長尺基板に熱負荷の掛かる処理を行うと同時に、前記真空チャンバーの外部から供給される冷媒が循環する冷却部と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これら複数のガス導入路の各々に設けられたキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス導入孔と、これら複数のガス導入路の各々に接続するガス導入バルブとを具備するキャンロールを用いてその外周面に長尺基板を巻き付けて冷却する長尺基板の処理方法であって、
ガス導入路が前記キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられる領域に来たときは当該ガス導入路に連通するガス導入バルブが開いてキャンロールの外周面とそこに巻き付けられている長尺基板との間のギャップ部にガス導入路からガスを導入し、長尺基板が巻き付けられていない領域に来たときはガス導入バルブが閉じてガス導入路へのガス供給が停止するように磁力付与手段で制御することを特徴とする長尺基板処理方法。
【請求項14】
前記熱負荷の掛かる処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であり、前記キャンロールの外表面に巻き付けられている長尺基板に対して施されるものであることを特徴とする、請求項13に記載の長尺基板処理方法。
【請求項15】
請求項13に記載の長尺基板処理方法のうち前記熱負荷の掛かる処理が真空成膜処理であり、前記キャンロールの外表面に巻き付けられている長尺基板に対して施されるものであることを特徴とする長尺基板の成膜方法。
【請求項16】
前記真空成膜処理がスパッタリング処理であることを特徴とする、請求項15に記載の長尺基板の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117128(P2012−117128A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269677(P2010−269677)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】