説明

ガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤

【課題】 固体高分子型燃料電池、特に電解質膜が炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤であって、電解質膜と良好な強度で接合可能であり、電極内部まで良好な水酸化物イオン伝導性を付与して活発な電極反応を生じさせることができる水酸化物イオン伝導性付与剤を提供すること。
【解決手段】 (i)2本又は3本の長鎖疎水基を有する非イオン性の1価の基又は(ii)剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基を有する非イオン性の1価の基が窒素原子に結合した第4級窒素原子を含む返しユニット、及び/又は非イオン性の1価の直鎖疎水基が2つ窒素原子に結合した第4級窒素原子を含む返しユニットを50質量%以上含む直鎖状重合体を水酸化物イオン伝導性付与剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系陰イオン交換膜を電解質膜として用いた固体高分子型燃料電池に使用するガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤とを連続的に供給し、これらが反応した時の化学エネルギーを電力として取り出す発電システムである。燃料電池は、これに用いる電解質の種類によって、動作温度が比較的低いリン酸形、固体高分子型と、高温で動作する溶融炭酸塩型、固体電解質型とに大別される。
【0003】
これらの中で、固体高分子型燃料電池は、電解質として作用する固体高分子の隔膜の両面に、触媒が坦持されたガス拡散電極を接合し、一方のガス拡散電極が存在する側の室(燃料室)に燃料である水素ガス(あるいはメタノール等の他の燃料)を、他方のガス拡散電極が存在する側の室に酸化剤である酸素や空気等の酸素含有ガスをそれぞれ供給し、両ガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作用させる。
【0004】
こうした水素ガスを燃料に用いた固体高分子型燃料電池の基本構造を図1に示す。図中、(1)は電池隔壁、(2)は燃料ガス流通孔、(3)は酸化剤ガス流通孔、(4)は燃料室側ガス拡散電極、(5)は酸化剤室側ガス拡散電極、(6)は固体高分子電解質膜を示す。このような固体高分子型燃料電池において、燃料室(7)では、供給された水素ガスからプロトン(水素イオン)と電子が生成し、このプロトンは固体高分子電解質(6)内を伝導し、他方の酸化剤室(8)に移動し、空気又は酸素ガス中の酸素と反応して水を生成する。この時、燃料室側ガス拡散電極(4)で生成した電子は、外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極(5)へと移動することにより電気エネルギーが得られる。
【0005】
このような構造の固体高分子型燃料電池において、上記電解質膜には、一般に陽イオン交換膜が使用される。そして、この陽イオン交換膜としては、化学的な安定性に優れることから、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜が主に使用されている。一方、該パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜の隔膜と接合されるガス拡散電極は、触媒である白金等の金属粒子とカーボンブラック等の導電剤とが分散する電極触媒層が、多孔性材料からなる電極基材により支持されたものが使用される。
【0006】
しかして、これら陽イオン交換膜とガス拡散電極とは、熱圧着することにより一体に接合される。このとき、上記ガス拡散電極は、そのまま陽イオン交換膜と接合したのでは、反応サイトが陽イオン交換膜との接合界面のみに局限されるので実質的な作用面積が小さくなってしまうため、何らかの方法により作用面積を大きくする必要がある。そのための方法としては、ガス拡散電極の接合面にパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂の有機溶液を塗布してその内部に浸透させる方法、或いは該ガス拡散電極の前記電極触媒層を形成するペーストに該パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を配合させることにより、ガス拡散電極の内部にまで、上記パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を存在させて電極内部までプロトン伝導性を付与し、反応サイトの三次元化を図る方法が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0007】
一方、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜は、化学的安定性が高く優れた陽イオン交換膜であるが、保水力において充分ではなく、物理的な強度も低いため薄膜化による電気抵抗の低減が困難であり、さらに高価であるという短所を有する。さらに、燃料にメタノール等のアルコールを用いた場合にアルコールの透過性が高く、酸化剤側ガス拡散電極に到達したアルコールがその表面で酸素または空気と反応するため過電圧が増大し、出力電圧が低下するという問題もあった。
【0008】
近年、前記固体高分子型燃料電池の電解質膜として、このような性状面において比較的に優れる炭化水素系陰イオン交換膜を用いることが検討されている。このような炭化水素系陰イオン交換膜を用いた場合、上記ガス拡散電極に含ませる水酸化物イオン伝導性付与剤としては、フッ素系の樹脂に陰イオン交換基を導入したもの(特許文献3参照)や非架橋の炭化水素系樹脂に陰イオン交換基を導入したもの(特許文献4及び5参照)が使用されている。
【0009】
【特許文献1】特開平3−208260号公報
【特許文献2】特開平4−329264号公報
【特許文献3】特開2000−331693号公報
【特許文献4】特開平11−135137号公報
【特許文献5】特開平11−273695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、このように電解質膜として炭化水素系陰イオン交換膜を用い、ガス拡散電極に含有させる水酸化物イオン伝導性付与剤としてフッ素系樹脂を用いた場合、該炭化水素系陰イオン交換膜とガス拡散電極の接合界面において、両者の馴染みが悪くなり、その接合強度が大きく低下することが発覚した。このように電解質膜とガス拡散電極との接合強度が低下した場合、発電中にこれらに剥離が生じて電池性能が劣化し易く、その実用化に大きな支障が生じる。
【0011】
また、水酸化物イオン伝導性付与剤として、架橋がなされていない一般的な炭化水素系陰イオン交換樹脂を用いてこれをガス拡散電極中に分散させることも考えられるが、そのような実用例はほとんど知られていない。たとえば、特開平11−135137号公報(特許文献4)等には、架橋がなされていない陰イオン交換樹脂を用いた実施例が記載されているが、その素性やガス拡散電極にどのように被覆、分散するか等については何ら記載がない。さらに、一般に、非架橋性の炭化水素系陰イオン交換樹脂には水溶性のものが多いと言う理由に起因して、このような非架橋炭化水素系陰イオン交換樹脂を含むガス拡散電極を用いた燃料電池では、原料ガスに含まれる湿分や酸化剤室で生成する水により、発電中にプロトン伝導性付与剤が電池系外へ徐々に溶出し、長期的な使用において電池性能が劣化することが懸念される。
【0012】
このため本発明者らは、上記問題の改善を図るため、電解質膜である炭化水素系陰イオン交換膜と同種の炭化水素系陰イオン交換樹脂を上記水酸化物イオン伝導性付与剤として使用することを検討した。ところが、該炭化水素系陰イオン交換膜を構成する陰イオン交換樹脂は、通常、密に架橋された有機溶媒に不溶性のものであるため、粒状のものを適当な有機溶媒に懸濁して用いなければならず、そのため、ガス拡散電極中への分散性が悪くなり、上記接合強度を充分に改善することは困難であった。
【0013】
こうしたことから本発明は、電解質膜が炭化水素系陰イオン交換膜である固体高分子型燃料電池において、該電解質膜と良好な強度で接合可能であり、電極内部まで良好な水酸化物イオン伝導性を付与して活発な電極反応を生じさせることができる固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を続けてきた。その結果、炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池に用いた際に、上記の課題を良好に改善することが可能な新規なガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、第一の本発明は、下記式〔I〕で示される繰り返しユニット及び/又は下記式〔II〕で示される繰り返しユニットを50質量%以上含む直鎖状重合体(以下、「イオン交換性重合体」ともいう。)を含んでなることを特徴とする、固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤である。
【0016】
【化1】

【0017】
〔式中、
Yは水素原子、アルキル基、シアノ基又はハロゲン原子であり、
は水酸化物イオン、ハロゲンイオン、又は陰イオンを形成する原子団であり、
Zは、下記式
【0018】
【化2】

【0019】
{式中、nは1〜10の整数であり、
は、下記式
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、mは1〜10の整数である。)
で示される基である。}
で示される基であり、
およびRは、それぞれ独立に炭素数5以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はベンジル基であり、
Aは、2本又は3本の長鎖疎水基、又は剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基のいずれかを有する非イオン性の基であり、
およびBは、それぞれ独立に非イオン性の1価の直鎖疎水基である。〕
上記本発明のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤においては、前記イオン交換性重合体は、水存在下において特定の温度で明確な相転移点を有し、該相転移温度により水酸化物イオン伝導性の制御が可能であるものであることが好ましい。また、上記本発明のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤は、炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用として好適に使用される。
【0022】
また、第二の本発明は、炭化水素系陰イオン交換膜の両面にガス拡散電極が接合されてなる固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体であって、前記ガス拡散電極の少なくとも一方に前記第一の本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤が含まれていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体であり、第三の本発明は、該固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体が装着されてなる固体高分子型燃料電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を含有するガス拡散電極を炭化水素系陰イオン交換膜に接合して得た固体電解質型燃料電池は、その優れた水酸化物イオン伝導性付与剤の作用により、電極反応の反応サイトが三次元化しており、触媒の利用効率が上がって優れた出力特性を有するものになる。しかも、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体において、両者の接合強度が強く、また、ガス拡散電極に含有される上記水酸化物イオン伝導性付与剤の発電中における溶出も生じ難いため、使用中において上記接合体が剥離したり、前記優れた出力特性が低下したりするようなことも起こり難い。
【0024】
また、温度によって燃料電池のイオン伝導性を制御できるため内部放電を制御することが可能となり、燃料の使用効率を飛躍的に高めることが可能となる。
【0025】
従って、本発明は、長期間安定的に使用できる信頼性の高い固体電解質型燃料電池を製造する上で極めて有用な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤は、前記式〔I〕で示される繰り返しユニット及び/又は下記式〔II〕で示される繰り返しユニットを合計で50質量%以上含む直鎖状重合体(イオン交換性重合体)を含んでなることを特徴とする。ここで、直鎖状重合体とは、架橋構造を有しない重合体であって、分岐を有しないか分岐を有していたとしても分岐した部分の鎖長が主鎖の鎖長に対して有意に短い(例えば1/5、好ましくは1/10以下である)直鎖状の重合体を意味する。
【0027】
前記式〔I〕及び〔II〕で示される繰り返しユニットは、何れも陰イオン交換基と特定の疎水性基を有しているため、前記イオン交換性重合体は、陰イオン交換能を有するばかりでなく、水に対する溶解性が低いという特徴を有する。このため、本発明のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤を含有するガス拡散電極は、炭化水素系陰イオン交換膜からなる電解質膜と接合した際において、燃料としてメタノールや水溶液系のものを使用した場合であっても水酸化物イオン伝導性付与剤が燃料水溶液等に溶解することなく安定に水酸化物イオン導電性を保持することが可能となり、その電池寿命が著しく向上する。また、メタノールや水溶液系の燃料を用いない場合であって酸化剤室に供給される過剰の水分により系外に流出し難いので同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、前記直鎖状重合体は、例えば、溶液中のイオンの活量測定用のイオン選択性電極に用いるイオン感応膜の材料として使用できることが知られており(特許第2504513号参照)、それ自体は公知であるが、このような直鎖状重合体をガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤として使用した例はない。
【0029】
前記式〔I〕及び〔II〕において、Yは水素原子、アルキル基、シアノ基又はハロゲン原子を意味する。上記アルキル基としては、原料の入手の容易さから炭素数1〜4のものが好適に使用される。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が使用される。
【0030】
また、Xは水酸化物イオン、ハロゲンイオン、又は陰イオンを形成する原子団を意味する。ハロゲンイオンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各イオンが使用でき、陰イオンを形成する原子団としては、その安定性からNO,ClO,HCO,SCN,CHCOO等が好適に使用される。
【0031】
前記式〔I〕及び〔II〕中のZは、以下に示される2価の基である。
【0032】
【化4】

【0033】
なお、上記式においてnは1〜10の整数を意味し、Rは、下記式で示される基(但し、式中のmは1〜10の整数を意味する。)を表す。
【0034】
【化5】

【0035】
Zとして、このような基を用いることにより原料の入手や重合体の製造が容易となると共に、イオン伝導性付与剤の耐久性が向上する。
【0036】
前記式〔I〕及び〔II〕中のRおよびRは、それぞれ独立に炭素数5以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はベンジル基を表す。アルキル基の炭素数が6以上になると、得られる水酸化物イオン伝導性付与剤のイオン伝導性が不十分となることがある。同様な理由からハロゲン化アルキル基およびヒドロキシアルキル基についても炭素数は5以下であることが好ましい。これらの基として好適なものを例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、クロルメチル基、2,2−ジクロルエチル基、2−クロルエチル基、3−クロルプロピル基、2−ブロモエチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0037】
前記式〔I〕において、Aは2本又は3本の長鎖疎水基、又は剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基のいずれかを有する非イオン性の1価の基(以下、液晶性基と略称する)を意味する。分子中にかかる前記液晶性基が存在することにより、前記直鎖状重合体を、水酸化物イオン導電性付与剤として使用したときに、水や低級アルコール中での安定性が増加すると共に、水存在下において特定の温度で相転移現象を示すようになり、該相転移温度をはさむ温度設定を採用することで、該水酸化物イオン導電性付与剤を用いた固体高分子型燃料電池用陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体のイオン伝導性を制御することが可能となる。即ち、該固体高分子型燃料電池において、不使用時に該相転移温度以下の温度で保持することにより、燃料電池の内部放電を抑えることが可能となり、燃料電池の燃料使用効率および耐久性が著しく向上する。
【0038】
Aで示される液晶性基は、(i)2本又は3本の長鎖疎水基を有する非イオン性の1価の基;(ii)剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基を有する非イオン性の1価の基;という2種の態様を含んでおり、長鎖疎水基をR−で表し、剛直性部分を−V−で表すと、上記(i)及び(ii)の具体的構造としては次のようなものが挙げられる。
【0039】
即ち、下記(a)〜(e)に示す基が挙げられる。但し下記式中のa及びcは独立に正の整数であり、bは1又は0であり、-E-は、-ph-(p-フェニレン基を意味する。)、-ph-O-、-ph-OCO-、または-ph-COO-であり、R’は炭素数4〜22のアルキル基、アルキルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、またはこれら何れかのハロゲン置換体である。
【0040】
(a) {R-C(=O)-O-(CH)-}N-C-(=O)-E-(CH)-
(b) {R-OC(=O)-}{R-OC(=O)-CH-}CH-{N-C-(=O)-E-(CH)}-
(c) {R-OC(=O)-CH-}CH-O-(CH)-
(d) R’-V-(CH)-
(e) R’-V-O-(CH)-
前記液晶性基に含まれる長鎖疎水基(R−)としては、得られる水酸化物イオン伝導性付与剤の耐久性、及び原料の入手の容易さから、炭素数10〜30の直鎖アルキル基またはそのハロゲン置換体であることが好ましい。尚、本発明でいう長鎖疎水基とは、完全に直鎖状のものの他に、炭素数2個までの分枝を有する分枝状のものをも含むものである。前記態様(i)において、長鎖疎水基が1本であると得られる水酸化物イオン伝導性付与剤の耐水性が十分でなく、また4本以上になると重合体製造上原料の入手に難がある。
【0041】
また、前記液晶性基に含まれる剛直性部分(−V−)としては、次の(1)および(2)に示す基が挙げられる。
【0042】
(1)芳香環間の結合が、複数であるか、または原子団を介してあるいは介さない単結合であって、その回転がエネルギー的に束縛を受けている2価の基。このような基を具体的に例示すると、次のような2価の基を挙げることができる。
【0043】
【化6】

【0044】
(2)芳香環が縮合を形成しているもので、この縮合環が多分子間で積層した場合に、その回転が互いに立体的に束縛を受けている2価の基。このような基を具体的に例示すると、次のような2価の基を挙げることができる。
【0045】
【化7】

【0046】
剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基を有する液晶性基の直鎖疎水基の炭素数は、耐水性及び原料の入手の容易さより4〜30であることが好ましい。なお、ここでいう上記炭素数は、剛直性部分及び、剛直性部分と該直鎖疎水基との結合部分を除いた部分の炭素数を意味する。また、上記剛直性部分と直鎖疎水基との結合部分は、一般に炭素−炭素結合、エーテル結合が好適である。前記液晶性基において、剛直性部分を連鎖中に含む直鎖疎水基を1本に限定するのは、もし2本以上になると重合体の成形加工の際に著しく困難が生じ、また得られる水酸化物イオン伝導性付与剤の安定性の低下が生じることが多く、望ましくないためである。
【0047】
上記式〔II〕中のB、Bは同種又は異種の非イオン性の1価の直鎖疎水基である。分子中にかかる直鎖疎水基を2つ有することにより、前記直鎖状重合体は、水酸化物イオン導電性付与剤として使用したときに、水や低級アルコール中での安定性が増加すると共に、水存在下において特定の温度で相転移現象を示すようになり、該相転移温度をはさむ温度設定を採用することで、該水酸化物イオン導電性付与剤を用いた固体高分子型燃料電池用陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体のイオン伝導性を制御することが可能となる。即ち、該固体高分子型燃料電池において、不使用時に該相転移温度以下の温度で保持することにより、燃料電池の内部放電を抑えることが可能となり、燃料電池の燃料使用効率および耐久性が著しく向上する。
【0048】
上記直鎖疎水基は、原料の入手の容易さから、炭素数10〜30の、より好ましくは炭素数10〜22の直鎖アルキル基またはそのハロゲン置換体、直鎖アルキルオキシアルキル基から選ばれた基であることが好ましい。炭素数10〜22の直鎖アルキル基を用いた場合、相転移温度の制御が容易となるため好ましい。前記直鎖アルキル基のハロゲン置換体のハロゲンとしては、フッ素が好適に採用される。フッ素置換直鎖アルキル基を用いた場合、水酸化物イオン伝導性付与剤の酸素透過性が向上するため好適である。
【0049】
本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を構成するイオン交換性重合体において、前記式〔I〕で示される繰り返しユニット及び/又は下記式〔II〕で示される繰り返しユニットを50質量%以上、好ましくは60質量%以上含む必要がある。上記ユニットの分率が50質量%未満であると、得られる水酸化物イオン伝導性付与剤のイオン伝導性が不十分となることがあると共に、水中で使用する際の安定性が悪化することがある。なお、前記イオン交換性重合体に含まれる上記繰り返しユニットはその合計の含有量が50質量%以上であればよく、式〔I〕で示される繰り返しユニットのみを含むものであってもよいし、式〔II〕で示される繰り返しユニットのみを含むものであってもよい。さらに、両方のユニットを含むものであってもよく、その場合、両ユニットの割合は任意である。
【0050】
前記イオン交換性重合体において、前記式〔I〕又は〔II〕で示されるユニット以外のユニットは、直鎖状重合体を形成するものであれば特に制限されないが、-CH-C(-P)(-Q)-で示される基であることが好ましい。ここで、-CH-C-の右側の炭素原子に結合する-Pは水素、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、またはカルボキシル基であり、同じく-CH-C-の右側の炭素原子に結合するQはアルキル基、カルボキシル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルカルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、トリメチルアンモニオアルキル基及びそのハロゲン置換体又は水酸基置換体である。
【0051】
前記イオン交換性重合体の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が5000以上であることが好ましい。重量平均分子量が5000以下であると、得られる水酸化物イオン伝導性付与剤の水中での安定性に問題を生じる場合がある。
【0052】
前記イオン交換性重合体のイオン交換基の含有量は、ガス拡散電極に良好なイオン伝導性を付与する観点から、陰イオン交換容量が0.1〜5.0mmol/g、好適には、0.5〜3.0mmol/gであるのが好ましい。
【0053】
前記イオン交換性重合体の製造方法は特に限定されず、たとえば特許公報第2504513号に記載された方法により好適に製造することができる。即ち、下記式[III]または[IV]で示される構造のモノマーをそれぞれ単独あるいは共重合させるか、又は更に他の共重合可能なモノマーと共重合させることにより得られる。
【0054】
【化8】

【0055】
なお、上記式〔III〕及び〔IV〕におけるY、Z、X、R、R、A、B、Bは、それぞれ、前記式〔I〕及び〔II〕における場合と同義である。
【0056】
上記式〔III〕及び/又は〔IV〕で示されるモノマーと他の共重合可能なモノマーと共重合させる場合において使用される、当該他の共重合可能なモノマーとしては、共重合可能な公知のビニルモノマーが特に限定されず使用できる。好適に使用される代表的なビニルモノマーを具体的に示せば、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン化合物;塩化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン等のオレフィン化合物のハロゲン誘導体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物;メチルビニールエーテル等のビニルエーテル化合物;ヨウ化メチルビニルピリジニウム、塩化トリメチルアンモニオエチルメタクリレート等の第4級アンモニウム化合物等が挙げられる。
【0057】
本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤において一般式〔I〕または〔II〕中のXは水酸化物イオンであることが好ましい。対イオン、Xとして水酸化物イオンを採用することにより、水酸化物イオンの伝導性が向上する。該対イオンとして水酸化物イオンを導入する方法は、一般に公知の方法が特に制限なく採用されるが、イオン交換性重合体を製造後、水酸化物イオンを含む溶液に接触させる方法が好適に採用される。該方法により、ほぼ完全に対イオンを水酸化物イオンとすることが可能となる。
【0058】
前記陰イオン交換性重合体は、陰イオン交換性基を有しているため、固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤として好適に使用できる。前記陰イオン交換性重合体を含んでなる本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を製造する場合に使用し、前記ガス拡散電極の少なくとも一方に含有せしめることにより、その優れた水酸化物イオン伝導性付与剤の作用により、電極反応の反応サイトを三次元化して触媒の利用効率を上げて出力特性を改善することができる。また、イオン交換膜とガス拡散電極の接合強度を高くすることもできる。しかも、前記陰イオン交換性重合体は水に不溶若しくは難溶性であるため、発電中においても、燃料として水溶液系のものを使用した場合でも電池系外へ溶出することがない、また燃料として水素ガスなどを用いた場合であっても酸化剤室にある水分、又は酸化剤室で生成する水分によって電池系外へ溶出することがない。したがって、その水酸化物イオン伝導性付与剤としての効果や前記接合強度向上効果を長期間持続することができ、安定的に優れた電池性能を維持することができる。このような長期安定性の観点から、前記陰イオン交換性重合体は、20℃の水に対する飽和溶解度が1質量%未満、特に0.8質量%以下であることが好ましい。
【0059】
前記陰イオン交換性重合体は基本的には炭化水素系の樹脂であり陰イオン交換基を有することから、炭化水素系イオン交換膜に対する親和性が高い。このため、上記接合強度向上効果や反応サイトの三次元化による効果は、イオン交換膜として炭化水素系陰イオン交換膜を用いた場合に顕著となる。したがって、前記陰イオン交換性重合体を含んでなる本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤は、炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用の水酸化物イオン伝導性付与剤として特に好適に使用できる。
【0060】
また、前記イオン交換性重合体は、水存在下において特定の温度で相転移現象を示すという特異な特徴を有するので、該相転移温度をはさむ温度設定を採用することで、該水酸化物イオン伝導性付与剤を用いた固体高分子型燃料電池用陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体のイオン伝導性を制御することが可能となる。即ち、本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を含むガス拡散電極を用いた固体高分子型燃料電池においては、不使用時に該相転移温度以下の温度で保持することにより、燃料電池の内部放電を押さえることが可能となり、燃料電池の燃料使用効率および耐久性が著しく向上させることが可能である。
【0061】
前記イオン交換性重合体の相転移現象は、イオン交換性重合体試料を水あるいは水−アルコールの混合溶媒中に浸し、示差走査熱量計用いて熱分析をすることにより確認できる。該イオン交換性重合体は一般に液晶状態となることが知られており、前記相転移はゲル−液晶の相転移温度であると推察され、熱分析の昇温時に吸熱ピークが観察されることが多い。本発明に用いるイオン交換性重合体の相転移温度は何度であっても使用上差し支えないが、温度制御の容易さの観点から−30℃〜90℃の範囲であることが好ましい。また、相転移に伴うエンタルピー変化は1J/g以上であることが好ましい。エンタルピー変化が1J/g以下の場合、温度によるイオン導電性の制御が不十分となる場合がある。
【0062】
本発明において、上記イオン交換性重合体からなる水酸化物イオン伝導性付与剤は、炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池のガス拡散電極に使用される。上記水酸化物イオン伝導性付与剤は、炭化水素系陰イオン交換膜の両面に各熱圧着されてなるガス拡散電極の両方に使用されるのが好ましいが、いずれか一方のみに使用しても良い。一方のみに使用する場合は、酸化剤室側ガス拡散電極として使用するのがより好ましい。酸化剤室側ガス拡散電極においては通常反応サイトは気相雰囲気下にあるため、電極触媒層内のイオン伝導性が燃料電池出力に大きく影響する。本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を該電極触媒に用いた場合に、その優れた水酸化物イオン伝導性付与効果が発揮されるからである。
【0063】
本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤を使用する場合には、前記イオン交換性重合体を有機溶媒に溶解させて溶液の形態で使用することが好ましい。前記陰イオン交換性重合体は、架橋構造を有しない直鎖状重合体であるため、有機溶媒に可溶であり、このような形態で使用することができる。溶液の形態で使用した場合には、固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を製造するに際し、ガス拡散電極の接合面に塗布する、或いは電極触媒層を形成するペーストに配合することにより、電極とイオン交換膜との接合面或いはガス拡散電極内に前記陰イオン交換性重合体を均一に存在させることがでる。そして、このような均一化により前記したような接合強度向上効果や反応サイトの三次元化による効果をより高くし、また、電極内での水酸化物イオン伝導性をより均質なものとすることができる。
【0064】
前記イオン交換性重合体を有機溶媒溶液として使用する場合に使用可能な有機溶媒は、は、前記イオン交換性重合体を溶解するものであれば特に制限されないが、効果の観点から、低融点の極性溶媒、具体的には、融点は20℃以下で、誘電率が4以上の極性溶媒であることが好ましい。ここで、有機溶媒に可溶とは、20℃において飽和溶解度が1質量%以上、好適には3質量%以上であることをいう。有機溶媒に対する溶解性が上記値より小さい場合、前記イオン交換性重合体をガス拡散電極に充分な量で含有させることが困難になる。
【0065】
このような条件を満足する有機溶媒を例示すれば1−プロパノール、2−プロパノール、N−ブタノール、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、1,2ジクロロエタン、テトラヒドロフラン等に可溶なものが好ましい。これら有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、前記イオン交換性重合体が析出しない範囲で、他の有機溶剤或いは水と混合としてもよい。
【0066】
本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤をガス拡散電極に対し使用する場合、前記したような効果を得るためには、本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤は、イオン交換膜、特に陰イオン交換膜との少なくとも接合面付近、好適には接合面から電極層の厚さの1/10〜1/1の厚みの範囲の電極触媒層に対して、5〜60質量%、より好適には10〜40質量%の含有量で、該水酸化物イオン伝導性付与剤を含有させるのが好ましい。無論、ガス拡散電極における反応サイトの三次元化という観点からは、電極のより広い範囲に含有させるのがより好ましい。
【0067】
含有させる方法は、特に制限されるものではないが、通常は、ガス拡散電極の接合面に本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤の有機溶液を塗布してその内部に浸透させた後乾燥させる方法、或いは該ガス拡散電極の電極触媒層を形成するペーストに該水酸化物イオン伝導性付与剤を配合させる方法により行うことが好ましい。電極の全体により均一に水酸化物イオン伝導性付与剤を含有させ易いということから、後者の方法がより好ましい。
【0068】
前者の方法において、水酸化物イオン伝導性付与剤の有機溶液は、該水酸化物イオン伝導性付与剤が1〜20質量%、好適には1〜15質量%の濃度で用いるのが好ましい。水酸化物イオン伝導性付与剤の濃度が1質量%より小さい場合には、ガス拡散電極中に充分な量で含有させるのが困難になり、他方、水酸化物イオン伝導性付与剤の濃度が20重量%より大きい場合には、ガス拡散電極の接合面への塗布性や電極内の細部への浸透性が低下したり、電極内において該水酸化物イオン伝導性付与剤が過度に偏在したりするようになり、その部分において燃料ガスの拡散性が低下する等の問題が生じ易くなる。後者の方法においても、本発明の水酸化物イオン伝導性付与剤は、ガス拡散電極の電極触媒相を形成するペーストの有機溶媒成分に対して、前記濃度で溶解させるのが好ましい。
【0069】
本発明において、ガス拡散電極と接合される炭化水素系陰イオン交換膜としては、固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を製造するのに使用できるとされている公知の炭化水素系陰イオン交換膜が特に限定されずに使用される。このような炭化水素系陰イオン交換膜は、既に説明したような陰イオン交換基を有する炭化水素系高分子からなるものであり、一般に、密に架橋されて水に対して不溶性を呈している。
【0070】
このような炭化水素系陰イオン交換膜を例示すれば、クロルメチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルピリジン−ジビニルベンゼン共重合体等の共重合体をアミノ化、アルキル化等の処理により所望の陰イオン交換基を導入した膜が挙げられる。
【0071】
これらの陰イオン交換樹脂は、一般的には、熱可塑性樹脂製の織布、布織布、多孔膜等を基材により支持されている。ガス透過性が低く、薄膜化が可能な点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂製多孔膜からなる基材が好適に使用される。
【0072】
こうした炭化水素系陰イオン交換膜の膜厚は、電気抵抗を低く抑える観点及び支持膜として必要な機械的強度を付与する観点から、通常5〜200μmの厚みを有するものが好ましく、より好ましくは20〜150μmを有するものが好ましい。
【0073】
本発明において、水酸化物イオン伝導性付与剤を含有させるガス拡散電極は、固体電解質型燃料電池に使用される公知のものが特に制限なく適用可能である。一般的には、触媒の金属粒子及び導電剤が分散する電極触媒層からなり、このものは多孔性材料からなる電極基材により支持されているのが一般的である。
【0074】
ここで、触媒としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属粒子であれば特に制限されるものではないが、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、あるいはそれらの合金が挙げられる。これらの触媒の中で、触媒活性が優れている白金が多くの場合用いられる。
【0075】
上記触媒となる金属粒子の粒径は、通常、0.1〜100nm、より好ましくは0.5〜10nmである。粒径が小さいほど触媒性能は高くなるが、0.5nm未満のものは、作製が困難であり、100nmより大きいと十分な触媒性能が得にくくなる。
【0076】
上記触媒の含有量は、電極触媒層をシートとした状態で、通常0.01〜10mg/cm、より好ましくは0.1〜5.0mg/cmである。触媒の含有量が0.01mg/cm未満では触媒の性能が充分に発揮されず、10mg/cmを超えて坦持しても性能は飽和する。なお、これら触媒は、予め導電剤に担持させてから使用しても良い。
【0077】
導電剤としては、電子導電性物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を単独または混合して使用するが一般的である。
【0078】
また、電極触媒層には、上記触媒、導電剤の他に、結着剤等が含まれていても良い。結着剤としては、各種熱可塑性樹脂が一般的に用いられるが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等が挙げられる。該結着剤の含有量は、上記電極触媒層の5〜25重量%であることが好ましい。また、結着剤は、単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0079】
これら成分からなる電極触媒層が支持される電極基材は、多孔質のものが使用され、具体的には、カーボン繊維織布、カーボンペーパー等が使用される。その厚みは、50〜300μmが好ましい。また、その空隙率は、50〜90%が好ましい。
【0080】
上記電極基材に対して前記電極触媒層は、その空隙内及び陰イオン交換膜との接合側表面に5〜50μmの厚みになるよう充填及び付着されてガス拡散電極が構成される。その製造方法は、前記各成分と有機溶媒とが混合された電極触媒層ペーストを電極基材に塗布して乾燥させる方法によるのが一般的である。また、上記電極触媒層ペーストには、触媒坦持量の調整や電極触媒相の膜厚を調整するため、暫時前記有機溶媒と同様の有機溶媒を添加して粘度調整を行なうのが一般的である。
【0081】
本発明において、水酸化物イオン伝導性付与剤を上記電極触媒相用ペーストに配合させることにより、ガス拡散電極に該水酸化物イオン伝導性付与剤を含有させる場合は、上記有機溶媒として、使用する水酸化物イオン伝導性付与剤を可溶性のものを用いることが好ましい。
【0082】
本発明において、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を製造する際の熱圧着は、加圧、加温できる装置を用いて実施される。一般的には、ホットプレス機、ロールプレス機等により行われる。プレス温度はイオン交換膜のガラス転移温度以上であれば良く、一般的には80℃〜200℃である。プレス圧力は、使用するガス拡散電極の厚み、硬度に依存するが、通常0.5〜20MPaである。
【0083】
このようにして熱圧着された陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体は、前記した図1に示すような基本構造の固体電解質用燃料電池に装着されて使用される。
【実施例】
【0084】
本発明を更に具体的に説明するため、以下、実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
なお、本実施例及び比較例においてイオン交換性重合体の原料として使用した各種陰イオン交換性モノマーの各化合物No.とモノマーの構造を表1及び表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
また、実施例および比較例における水酸化物イオン伝導性付与剤の特性は、水酸化物イオン伝導性付与剤の陰イオン交換容量;並びに水酸化物イオン伝導性付与剤を用いて作成した燃料電池についての出力電圧、陰イオン交換膜/ガス拡散電極間の接合強度、耐水性、及び耐久性で評価した。上記項目の測定方法を以下に示す。
【0089】
(1)陰イオン交換容量
水酸化物イオン伝導性付与剤を1(mol/l)のHCl水溶液に10時間以上浸漬し、塩素イオン型とした後、1(mol/l)のNaNO水溶液で硝酸イオン型に置換させ遊離した塩素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
【0090】
次に、同じ水酸化物イオン伝導性付与剤を1(mol/l)のHCl水溶液に4時間以上浸漬し、60℃で5時間減圧乾燥させその重量を測定した(Wg)。陰イオン交換容量は次式により求めた。
陰イオン交換容量=A×1000/W[mmol/g−乾燥重量] 。
(2)燃料電池出力電圧
厚みが200μmであり、空孔率80%のカーボンペーパー上に、触媒として平均粒子径が2nmの白金30質量%が坦持されたカーボンブラック、水酸化物イオン伝導性付与剤の有機溶液を混合して得たペーストを塗布し、80℃で4時間減圧乾燥しガス拡散電極とした。なお、ガス拡散電極において、電極触媒層に対する水酸化物イオン伝導性付与剤の含有量は20質量%となるように前記水酸化物イオン伝導性付与剤溶液の濃度に応じて添加量を適宜調製した。また、電極触媒層に対する白金の含有量は0.5mg/cmとなるようにした。
次に、ポリエチレンからなる多孔膜を母材とし、ビニルピリジン−ジビニルベンゼン共重合体をヨウ化メチルで4級化しピリジニウム基を導入した陰イオン交換容量が2.4mmol/gであり厚みが30μmである陰イオン交換膜の両面に上記のガス拡散電極をセットし、100℃、圧力5MPaの加圧下で100秒間熱圧着した後、室温で2分間放置した。
得られた陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を図1に示す燃料電池セルに組み込み、圧力2気圧、燃料電池セル温度50℃、加湿温度50℃の空気と水素をそれぞれ200ml/min、50ml/minで発電試験を行ない、電流密度0A/cm、0.1A/cmにおけるセルの端子電圧を測定した。
【0091】
(3)接合強度評価
上記出力電圧の評価後、燃料電池セルを解体し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体から、カーボンペーパーを剥離し、陰イオン交換膜の酸化剤室側表面に付着している白金担持カーボンの量を目視観察した。白金担持カーボンが陽イオン交換膜表面に均一に付着しているものを接合強度良好(○)、白金担持カーボンが付着していないものを接合強度不良(×)と評価した。
また、これとは別に、熱圧着後の陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体から、幅1cm、長さ5cmのサンプルを切り出し、陰イオン交換膜の90°剥離強度を東洋精機製ストログラフ M−1用いて測定した。
【0092】
(3)耐水性評価
上記出力電圧の評価後、燃料電池セルを解体し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体の酸化剤室側における、ガス拡散電極周囲の陰イオン交換膜表面を観察し、水酸化物イオン伝導性付与剤の流れ出しの有無を確認した。なお、水酸化物イオン伝導性付与剤の流れ出しが発生した場合には図2に示すような変色領域が発生するので、その有無によって流れ出しの有無を確認することができる。変色領域が確認できなければ水酸化物イオン伝導性付与剤の耐水性は高いと言え、変色領域が確認された場合でもその領域が小さいほど耐水性は高いといえる。
【0093】
(4)耐久性評価
上記出力電圧の測定後、セル温度50℃、電流密度0.1A/cmでの条件下で連続発電試験を行い、250時間後の出力電圧を測定し、水酸化物イオン伝導性付与剤の耐久性を評価した。
【0094】
実施例1〜16
表3示した陰イオン交換性モノマーを用いこれを単独重合するか又は他のモノマーと共重合させることにより各種イオン交換性重合体を製造した。なお、重合は、次のようにして行った。即ち、先ず、単独重合を行う場合には、陰イオン交換性モノマー20(g)を、共重合を行う場合にはこれに表3に示す共重合モノマーをモル比で1:1となるようにして加えて100(ml)のトルエン−エタノール(1:1)混合溶媒に溶解してモノマー溶液を調製した。次いで、得られた溶液にAIBN0.1 mol%を添加し、系全体を窒素置換してから窒素雰囲気下50℃で12時間重合させた。重合後終了後、溶液に貧溶媒であるメタノール大量に添加して重合物を沈殿させてこれを分離し、回収された重合物を真空乾燥によりイオン交換性重合体を得た。
このようにして得られたイオン交換性重合体をクロロホルムに溶解し、1MのKOH水溶液で3回洗浄し、対イオンを水酸化物イオンとした。これらのイオン交換性重合体を表1に示した有機溶媒に50℃下で溶解し、5質量%の濃度のイオン伝導性付与剤溶液とした。
また、これとは別に、得られたイオン交換性重合体の20℃における水及びメタノールへの溶解度を調べた。更に、示差走査熱量計により相転移温度を測定した。これら物性値を合わせて表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
上記水酸化物イオン導電性付与剤溶液を用いて陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ後、燃料電池出力電圧、接合強度、耐水性及び耐久性を測定した。その結果を表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
比較例1
水酸化物イオン伝導性付与剤として、平均分子量10万のポリビニルピリジンをヨウ化メチルで4級化したもの(陰イオン交換容量5.0:水への飽和溶解度100)の10%水溶液を用いて、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ後、燃料電池出力電圧、接合強度、耐水性及び耐久性を測定した。これらの結果を表4に示した。
【0099】
比較例2
水酸化物イオン伝導性付与剤として、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(陽イオン交換容量0.9)のアルコールと水の5%溶液(アルドリッチ社製)を減圧乾燥して取り出した樹脂を、塩化チオニルを用いてスルホン酸基をスルホニルクロライド基に変換した。次いでN、N、N’−テトラメチルエチレンジアミンと反応させスルホン酸アミド基に変換した後、ヨウ化メチルを用いて4級化し、これを水と1−プロパノールの混合溶液に分散させて、水酸化物イオン伝導性付与剤溶液とした(5質量%溶液)。この溶液を用いて陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ後、燃料電池出力電圧、接合強度、耐水性及び耐久性を測定した。これらの結果を表4に示した。
【0100】
比較例3
4級アンモニウム塩型のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(ジビニルベンゼン含量8重量%:陰イオン交換容量3.7:水への飽和溶解度0)(オルガノ社製、商品名:アンバーライト)を粉砕し、これを1−プロパノールに分散させて、水酸化物イオン伝導性付与剤溶液とした(10質量%溶液)。この溶液を用いて陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ後、燃料電池出力電圧、接合強度、耐水性及び耐久性を測定した。これらの結果を表4に示した。
【0101】
比較例4および5
表3に示した陰イオン交換性モノマーを用いて、実施例1〜16と同様にしてイオン交換性重合体を得た。これらのイオン交換性重合体を表1に示した有機溶媒に50℃下で溶解し、5質量%の濃度のイオン伝導性付与剤溶液とした。また、これらのイオン交換性重合体の20℃における水及びメタノールへの溶解度を調べた。更に、示差走査熱量計により相転移温度を測定した。これら物性値を合わせて表3に示した。
この水酸化物イオン導電性付与剤溶液を用いて陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ後、燃料電池出力電圧、接合強度、耐水性及び耐久性を測定した。これらの結果を表4に示した。
【0102】
実施例17および18
実施例2および実施例13で得られた水酸化物イオン伝導性付与剤を用いて陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ。その後、燃料電池の正極と負極間の間に1MΩの抵抗を接続し、特定の温度で流れる電流値を測定した。結果を表5に示す。
【0103】
【表5】

【0104】
比較例6および7
比較例4および比較例5で得られた水酸化物イオン伝導性付与剤を用いて陽イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成し、燃料電池セルに組み込んだ。その後、燃料電池の正極と負極間の間に1MΩの抵抗を接続し、特定の温度で流れる電流値を測定した。結果を合わせて表5に示した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、固体高分子型燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【図2】図2は、耐水性試験において、水酸化物イオン伝導性付与剤の流れ出しが発生した場合の出力電圧評価後の陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体の酸化剤室側表面の模式図である。
【符号の説明】
【0106】
1;電池隔壁
2;燃料ガス流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側ガス拡散電極
5;酸化剤室側ガス拡散電極
6;固体高分子電解質(陰イオン交換膜)
7;燃料室
8;酸化剤室
9;水酸化物イオン伝導性付与剤の流出による変色域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式〔I〕で示される繰り返しユニット及び/又は下記式〔II〕で示される繰り返しユニットを50質量%以上含む直鎖状重合体を含んでなることを特徴とする、固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤。
【化1】

〔式中、
Yは水素原子、アルキル基、シアノ基又はハロゲン原子であり、
は水酸化物イオン、ハロゲンイオン、又は陰イオンを形成する原子団であり、
Zは、下記式
【化2】

{式中、nは1〜10の整数であり、
は、下記式
【化3】

(式中、mは1〜10の整数である。)
で示される基である。}
で示される基であり、
およびRは、それぞれ独立に炭素数5以下のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はベンジル基であり、
Aは、2本又は3本の長鎖疎水基、又は剛直性部分を連鎖中に含む1本の直鎖疎水基のいずれかを有する非イオン性の基であり、
およびBは、それぞれ独立に非イオン性の1価の直鎖疎水基である。〕
【請求項2】
前記直鎖状重合体が、水存在下において特定の温度で明確な相転移点を有し、該相転移温度により水酸化物イオン伝導性の制御が可能であることを特徴とする請求項1記載のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤。
【請求項3】
さらに有機溶媒を含んでなる請求項1又は2に記載のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤。
【請求項4】
炭化水素系陰イオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池におけるガス拡散電極用である請求項1乃至3の何れかに記載のガス拡散電極用水酸化物イオン伝導性付与剤。
【請求項5】
炭化水素系陰イオン交換膜の両面にガス拡散電極が接合されてなる固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体であって、前記ガス拡散電極の少なくとも一方に請求項1乃至4の何れかに記載の水酸化物イオン伝導性付与剤が含まれていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の固体高分子型燃料電池用イオン交換膜/ガス拡散電極接合体が装着されてなる固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−140783(P2009−140783A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316609(P2007−316609)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】