説明

ガソリン組成物

【課題】動植物油脂等のバイオマスから、排出ガス浄化性能、燃費性能および運転性能に優れたガソリンを提供する。
【解決手段】バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材を含有することを特徴とするリサーチ法オクタン価が89.0以上96.0未満、硫黄分含有量が10質量ppm以下の無鉛ガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用燃料としてのガソリンに関し、特に再生可能、地球温暖化防止、供給源の多様化の観点からバイオマス由来の基材を含有し、排出ガス浄化性能、燃費性能、運転性能に優れるガソリンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンは、接触改質装置や接触分解装置等の各種精製装置で原油を処理することにより得られるガソリン留分の基材を、1種または2種以上配合することにより製造されている(例えば、非特許文献1参照)。
ガソリンに配合可能なバイオマス由来の基材としては、サトウキビ、トウモロコシ等のデンプン主体の糖質成分を酵母で発酵させることにより製造されるエタノール(バイオマス由来のエタノール)、及びこのバイオマス由来のエタノールと製油所の流動接触分解装置(FCC)等やエチレンプラントにおける水蒸気分解装置(スチームクラッカー)等から発生する混合ブチレンから分離して得られるイソブチレンとを反応させて製造されるETBEが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
一方、天然の動植物油脂を原料にした脂肪酸アルキルエステル混合物は、単独であるいは既存の軽油等に混合することによりディーゼル自動車用の燃料としての使用が検討されている(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献1】燃料協会編,「新版燃料便覧」,コロナ社,1974年3月,p.264−267
【非特許文献2】環境省 第3回 再生可能燃料利用推進会議(2003年10月10日)の配布資料3
【非特許文献3】中央環境審議会第七次答申,2003年7月29日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、自動車には、大気環境改善のための排出ガス中の有害物質の低減と、地球温暖化抑制の観点から温室効果ガスのCO排出量低減の両立が求められており、ガソリン自動車については、排出ガス中の有害物質の量は極めて低いが、熱効率改善、燃費改善等によるCO排出量の低減が課題とされている。また、中長期的には輸送用燃料供給源の多様化、持続可能なモビリティの構築が要望されている。
こうした中、ガソリン自動車用の燃料として、ライフサイクルでCO2の増加抑制が可能であり、燃料供給源の多様化に寄与し、再生可能なエネルギーでもあるバイオマス由来の燃料の利用が注目されている。
バイオマスである動植物油脂は、脂肪酸メチルエステル化により、ディーゼル自動車用の燃料として利用が検討されている。しかしながら、ガソリン機関とディーゼル機関では、燃料に求められる着火特性、留分範囲等が異なるため、これらの動植物油由来の脂肪酸メチルエステルをガソリン自動車用の燃料として使用することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、動植物油脂等のバイオマスを水素化分解で処理することによりガソリン組成物としての利用が可能となり、そのガソリン組成物を特定の性状とすることにより、ガソリン自動車の優れた排出ガス浄化性能と、燃費性能、運転性能とを引き出すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材を含有することを特徴とするリサーチ法オクタン価が89.0以上96.0未満、硫黄分含有量が10質量ppm以下の無鉛ガソリン組成物に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、動植物油脂等のバイオマスを水素化分解で処理することによりガソリン組成物としての利用が可能となり、そのガソリン組成物を特定の性状とすることにより、ガソリン自動車の優れた排出ガス浄化性能と、燃費性能、運転性能に優れたガソリンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明のガソリンは、バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる基材を含有している必要がある。
本発明のガソリンの水素化分解の被処理油に含有されるバイオマスとしては、植物または動物由来の油脂が挙げられる。これらは一般に高級脂肪酸とグリセリンのエステルであり、例えばパーム油、菜種油、コーン油、大豆油、グレープシード油などの植物油、ラードなどの動物油があげられる。本発明の場合、これらの油脂は使用済みの廃油であっても構わない。本発明に用いる油脂は特に限定されるものではないが、カーボンニュートラルの観点からは植物油が好ましく、脂肪酸アルキル鎖炭素数及びその反応性の観点から、菜種油、大豆油及びパーム油がより好ましい。また、本発明の場合、これらの油脂は1種であっても、2種以上の混合物であっても良い。
【0007】
本発明の水素化分解の被処理油に含有されるバイオマスの含有量は、特に制限はないが、再生可能、地球温暖化防止、燃料供給源の多様化の観点からより多くのバイオマスを利用するには、25容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましく、75容量%以上がさらに好ましく、90%容量以上がさらにより好ましく、全量がバイオマスであっても構わない。
【0008】
動植物油に由来する油脂成分は、一般に脂肪酸トリグリセリド構造を有しているが、その他の脂肪酸や脂肪酸メチルエステルなどのエステル体に加工されている油脂成分を含んでいてもよい。ただし、植物油脂から脂肪酸や脂肪酸エステルを製造する際には二酸化炭素が発生するため、二酸化炭素の排出量を低減化する観点から、植物油脂としてトリグリセリド構造を有した成分が主体であることが好ましい。本発明の水素化分解においては、被処理油に含まれるバイオマスに占めるトリグリセリド構造を有する化合物の割合が90モル%以上であることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましい。
【0009】
本発明の水素化分解の被処理油は、バイオマス以外に、石油系炭化水素留分として、一般的な石油精製工程で得られる留分を含んでいてもよい。例えば、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置から得られる所定の沸点範囲に相当する留分、あるいは、水素化脱硫装置、水素化分解装置、残油直接脱硫装置、流動接触分解装置などから得られる所定の沸点範囲に相当する留分を用いることができる。なお、上記の各装置から得られる留分は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。さらに、本発明の被処理油は、プラスチックや溶剤等の化学品由来の化合物を含んでいてもよく、一酸化炭素と水素とからなる合成ガスを原料としたフィッシャートロプシュ反応を経由して得られる合成油を含んでいてもよい。
【0010】
本発明のガソリンに含有される基材を得るための水素化分解においては、水素の存在下、バイオマスを含有する被処理油と、周期律表第8族に属する金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属と結晶性メタロシリケートを含有する担体とを含有する水素化分解触媒を接触させることにより処理すること(以下本発明の水素化分解Aという)が好ましい方法のひとつである。
【0011】
以下本発明の水素化分解Aについて詳述する。
本発明の水素化分解Aの被処理油に含まれる酸素分は、被処理油全量を基準として、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは3〜14質量%、特に好ましくは5〜13質量%である。酸素分の含有量が0.1質量%未満であると、脱酸素活性及び脱硫活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、酸素分の含有量が15質量%を超えると、副生する水の処理に要する設備が必要となることや、水と触媒担体との相互作用が過度となり活性低下したり触媒強度が低下したりする。なお、酸素分の含有量は、一般的な元素分析装置で測定することができ、例えば、試料を白金炭素上で一酸化炭素に変換し、もしくは更に二酸化炭素に変換した後に熱伝導度検出器を用いて測定することができる。
【0012】
本発明の水素化分解Aの被処理油に含まれる硫黄分は、被処理油全量を基準として、好ましくは50質量ppm以下であり、より好ましくは20質量ppm以下であり、更に好ましくは10質量ppm以下である。硫黄分の含有量が50質量ppmを超える場合、脱酸素活性を安定的に維持することが困難となる傾向にあるとともに、水素化分解油に含まれる硫黄分含有量が増加する傾向にあり、ガソリンへの配合量が制限されるので好ましくない。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」又はASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。
【0013】
本発明の水素化分解Aの被処理油は、留出温度300℃以上の留分を含有することが好ましく、また、留出温度700℃を超える重質な留分を含んでいないことが好ましい。留出温度300℃以上の留分を含有しない被処理油を用いると、過度の分解によって十分な収率を得ることが困難となる傾向にある。他方、被処理油が留出温度700℃を超える重質な留分を含む場合は、重質成分によって触媒における炭素の析出が促進され、活性が低下する傾向にある。なお、本発明における留出温度は、JIS K 2254「蒸留試験方法」又はASTM−D86に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0014】
本発明の水素化分解Aに用いられる触媒に含まれる結晶性メタロシリケートの結晶構造としては、国際ゼオライト学会が定める構造のうちFAU、AEL、MFI、MMW、TON、MTW、*BEA、MORの各コードであらわされる構造を有していることが好ましく、FAU、*BEA、MOR、MFIであることがより好ましく、FAUであることがさらにより好ましい。FAUはフォージャサイト型とも呼ばれ、特に本発明においては超安定化処理を施したY型であることが好ましい。超安定化処理は、水熱処理および/または酸性水溶液による洗浄処理を指し、このような操作によって、構造に含まれるアルミニウム含有量を調整し、細孔直径2〜50nmと定義されるメソ細孔に由来する細孔容積を付与することができる。
【0015】
本発明の水素化分解Aに用いられる触媒に含まれる結晶性メタロシリケートに含まれるSiO/Alモル比は10〜100の範囲にあることが好ましい。該モル比が10に満たない場合、コーク生成が促進され大幅な活性低下を招く恐れがあり、該モル比が100を超える場合、十分な水素化分解活性を発揮できない恐れがある。
【0016】
本発明の水素化分解Aに用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラシーブの合成方法は、特に限定されるものではなく、一般的に知られている方法を用いることができる。構成成分原料を、必要に応じてアミン化合物などの構造指示剤を共存させ、加熱等の操作を行うことができる。構成成分原料とは、例えばケイ素含有化合物の場合にはケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、ケイ酸アルコキサイドなどが、アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどが挙げられる。構造指示剤としては、テトラプロピルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0017】
本発明の水素化分解Aに用いられる触媒において、結晶性メタロシリケート以外の構成物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる無機酸化物が挙げられる。これらの無機酸化物は、結晶性メタロシリケートを成型する際の接合剤として用いるとともに、水素化脱酸素と水素化異性化を促進する活性成分としても機能することができる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の水素化分解Aに用いられる触媒において、触媒全体に占める結晶性メタロシリケートの含有量は2〜90質量%が好ましく、5〜85質量%がより好ましく、10〜80質量%がさらにより好ましい。前記含有量が2質量%に満たない場合、触媒としての水素化脱酸素活性および水素化異性化活性が十分でなく、前期含有量が90質量%を超える場合、触媒成形性が容易でなくなり、工業的な製造に支障が生じる恐れがある。
【0019】
本発明の水素化分解Aにおいて、担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期律表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Niから選ばれる1種以上の金属を活性金属とする場合、これらの金属を組み合わせて用いることができる。好適な組み合せとしては、例えば、Pd−Pt、Pd−Ir、Pd−Rh、Pd−Au、Pd−Ni、Pt−Rh、Pt−Ir、Pt−Au、Pt−Ni、Rh−Ir、Rh−Au、Rh−Ni、Ir−Au、Ir−Ni、Au−Ni、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ir、Pt−Pd−Niなどが挙げられる。このうち、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Rh、Pt−Ir、Rh−Ir、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがより好ましく、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Ir、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがさらにより好ましい。水素化分解に際しては、これらの金属を還元操作を施してから使用することが好ましい。
【0020】
Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Niから選ばれる1種以上の金属を活性金属とする場合、触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.5〜1.3質量%がさらにより好ましい。金属の合計担持量が0.1質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、2質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0021】
これらの活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0022】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として結晶性メタロシリケートの含有量が5質量%以下の触媒の後段に、結晶性メタロシリケートの含有量が2〜90質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
さらに、水素化分解触媒以外に、必要に応じて被処理油に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化分解触媒を支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独又は組み合せて用いることができる。
【0023】
本発明の水素化分解Aにおいて、水素の存在下で上記の被処理油と触媒とを接触させる際の条件は、水素圧力2〜13MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)150〜1500NL/Lであることが好ましく、水素圧力2〜10MPa、液空間速度0.2〜2.0h−1、水素油比200〜1200NL/Lであることがより好ましく、水素圧力2〜6MPa、空間速度0.3〜1.5h−1、水素油比250〜1000NL/Lであることが更に好ましい。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。
【0024】
本発明の水素化分解Aにおいて、反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0025】
本発明の水素化分解Aにおいて、反応器内で水素化分解された水素化分解油は気液分離工程や精留工程等を経て所定の留分を含有する水素化分解油に分画される。例えば、ガス、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分や残さ留分に分画される。なお、被処理油に含まれている酸素分や硫黄分の反応に伴って水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素などが発生する可能性があるが、複数の反応器の間や生成物回収工程に気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置してもよい。
【0026】
本発明の水素化分解Aにおいて、水素ガスは加熱炉を通過前もしくは通過後の被処理油に随伴させて最初の反応器の入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応器内の温度を制御するとともに、反応器内全体にわたって水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい。このようにして導入される水素を一般にクエンチ水素と呼ぶ。被処理油に随伴して導入する水素ガスに対するクエンチ水素の割合は、10〜60容量%であることが好ましく、15〜50容量%であることがより好ましい。クエンチ水素の割合が10容量%未満であると後段の反応部位での反応が十分に進行しない傾向があり、クエンチ水素の割合が60容積%を超えると反応器入口付近での反応が十分に進行しない傾向がある。
本発明の水素化分解Aによって得られる灯油留分および/または軽油留分および/または残さ分はその全量または一部を被処理油に混合し、リサイクル処理を行っても良い。これによりガソリン留分の収率をより高めることができる。
【0027】
本発明のガソリンに含有される基材を得るための水素化分解においては、水素の存在下、バイオマス及び含硫黄炭化水素化合物を含有する被処理油と、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを接触させることにより、処理すること(以下本発明の水素化分解Bという)が好ましい方法のひとつである。
【0028】
以下本発明の水素化分解Bについて詳述する。
本発明の水素化分解Bの被処理油に含まれる酸素分は、被処理油全量を基準として、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは3〜14質量%、特に好ましくは5〜13質量%である。酸素分の含有量が0.1質量%未満であると、脱酸素活性及び脱硫活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、酸素分の含有量が15質量%を超えると、副生する水の処理に要する設備が必要となることや、水と触媒担体との相互作用が過度となり活性低下したり触媒強度が低下したりする。なお、酸素分の含有量は、一般的な元素分析装置で測定することができ、例えば、試料を白金炭素上で一酸化炭素に変換し、もしくは更に二酸化炭素に変換した後に熱伝導度検出器を用いて測定することができる。
【0029】
本発明の水素化分解Bの被処理油に含まれる含硫黄炭化水素化合物は特に制限されないが、具体的には、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、チオール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン及びこれらの誘導体などが挙げられる。被処理油に含まれる含硫黄炭化水素化合物は単一の化合物であってもよく、あるいは2種以上の混合物であってもよい。さらに、硫黄分を含有する石油系炭化水素留分を被処理油に混合してもよい。石油系炭化水素留分としては、一般的な石油精製工程で得られる留分を用いることができる。例えば、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置から得られる所定の沸点範囲に相当する留分、あるいは、水素化脱硫装置、水素化分解装置、残油直接脱硫装置、流動接触分解装置などから得られる、所定の沸点範囲に相当する留分を使用してもよい。なお、上記の各装置から得られる留分は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の水素化分解Bの被処理油に含まれる硫黄分は、被処理油全量を基準として、好ましくは1質量ppm〜1質量%であり、より好ましくは15質量ppm〜0.5質量%、更に好ましくは30質量ppm〜0.1質量%である。硫黄分の含有量が1質量ppm未満であると、脱酸素活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、硫黄分の含有量が1質量%を超えると、水素化精製油に含まれる硫黄分含有量が増加する傾向にあり、ガソリンへの配合量が制限されるので好ましくない。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」又はASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。含硫黄炭化水素化合物は、被処理油と予め混合してその混合物を水素化精製装置の反応器に導入してもよく、あるいは被処理油を反応器に導入する際に、反応器の前段において供給してもよい。
【0031】
本発明の水素化分解Bの被処理油は、沸点300℃以上の留分を含有することが好ましく、また、沸点700℃を超える重質な留分を含んでいないことが好ましい。沸点300℃以上の留分を含有しない被処理油を用いると、過度の分解によって十分な収率を得ることが困難となる傾向にある。他方、被処理油が沸点700℃を超える重質な留分を含む場合は、重質成分によって触媒における炭素の析出が促進され、活性が低下する傾向にある。なお、本発明における沸点は、JIS K 2254「蒸留試験方法」又はASTM−D86に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0032】
本発明の水素化分解Bにおいては、結晶性メタロシリケートを含んで構成される担体並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒が用いられる。
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒に含まれる結晶性メタロシリケートの結晶構造としては、国際ゼオライト学会が定める構造のうちFAU、AEL、MFI、MMW、TON、MTW、*BEA、MORの各コードであらわされる構造を有していることが好ましく、FAU、*BEA、MOR、MFIであることがより好ましく、FAUであることがさらにより好ましい。FAUはフォージャサイト型とも呼ばれ、特に本発明においては超安定化処理を施したY型であることが好ましい。超安定化処理は、水熱処理および/または酸性水溶液による洗浄処理を指し、このような操作によって、構造に含まれるアルミニウム含有量を調整し、細孔直径2〜50nmと定義されるメソ細孔に由来する細孔容積を付与することができる。
【0033】
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒に含まれる結晶性メタロシリケートに含まれるSiO/Alモル比は10〜100の範囲にあることが好ましい。該モル比が10に満たない場合、コーク生成が促進され大幅な活性低下を招く恐れがあり、該モル比が100を超える場合、十分な水素化分解活性を発揮できない恐れがある。
【0034】
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラシーブの合成方法は、特に限定されるものではなく、一般的に知られている方法を用いることができる。構成成分原料を、必要に応じてアミン化合物などの構造指示剤を共存させ、加熱等の操作を行うことができる。構成成分原料とは、例えばケイ素含有化合物の場合にはケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、ケイ酸アルコキサイドなどが、アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどが挙げられる。構造指示剤としては、テトラプロピルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒において、結晶性メタロシリケート以外の構成物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる無機酸化物が挙げられる。これらの無機酸化物は、結晶性メタロシリケートを成型する際の接合剤として用いるとともに、水素化脱酸素と水素化異性化を促進する活性成分としても機能することができる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましい。
【0036】
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒において、触媒全体に占める結晶性メタロシリケートの含有量は2〜90質量%が好ましく、5〜85質量%がより好ましく、10〜80質量%がさらにより好ましい。前記含有量が2質量%に満たない場合、触媒としての水素化脱酸素活性および水素化異性化活性が十分でなく、前期含有量が90質量%を超える場合、触媒成形性が容易でなくなり、工業的な製造に支障が生じる恐れがある。
【0037】
本発明の水素化分解Bに用いられる触媒において、担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期律表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。さらに、Co、Mo、Niから選ばれる1種以上の金属を活性金属とする場合ことが好ましく、二種類以上を組み合わせることがより好ましい。好適な組み合わせとしては、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Moが挙げられる。Co、Mo、Niから選ばれる1種以上の金属を活性金属とする場合、触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、15〜35質量%が好ましく、17〜30質量%がより好ましい。金属の合計担持量が15質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、35質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0038】
これらの活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0039】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として結晶性メタロシリケートの含有量が5質量%以下の触媒の後段に、結晶性メタロシリケートの含有量が2〜90質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
さらに、水素化分解触媒以外に、必要に応じて被処理油に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化分解触媒を支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独又は組み合せて用いることができる。
【0040】
本発明の水素化分解Bにおいて、水素の存在下で上記の被処理油と触媒とを接触させる際の条件は、水素圧力2〜13MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)150〜1500NL/Lであることが好ましく、水素圧力2〜10MPa、液空間速度0.2〜2.0h−1、水素油比200〜1200NL/Lであることがより好ましく、水素圧力2〜6MPa、空間速度0.3〜1.5h−1、水素油比250〜1000NL/Lであることが更に好ましい。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。
【0041】
本発明の水素化分解Bにおいて、反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0042】
本発明の水素化分解Bにおいて、反応器内で水素化分解された水素化分解油は気液分離工程や精留工程等を経て所定の留分を含有する水素化分解油に分画される。例えば、ガス、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分や残さ留分に分画される。なお、被処理油に含まれている酸素分や硫黄分の反応に伴って水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素などが発生する可能性があるが、複数の反応器の間や生成物回収工程に気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置してもよい。
【0043】
本発明の水素化分解Bにおいて、水素ガスは加熱炉を通過前もしくは通過後の被処理油に随伴させて最初の反応器の入口か導入することが一般的であるが、これとは別に、反応器内の温度を制御するとともに、反応器内全体にわたって水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい。このようにして導入される水素を一般にクエンチ水素と呼ぶ。被処理油に随伴して導入する水素ガスに対するクエンチ水素の割合は、10〜60容量%であることが好ましく、15〜50容量%であることがより好ましい。クエンチ水素の割合が10容量%未満であると後段の反応部位での反応が十分に進行しない傾向があり、クエンチ水素の割合が60容積%を超えると反応器入口付近での反応が十分に進行しない傾向がある。
【0044】
本発明の水素化分解Bによって得られる灯油留分および/または軽油留分および/または残さ分はその全量または一部を被処理油に混合し、リサイクル処理を行っても良い。これによりガソリン留分の収率をより高めることができる。
【0045】
本発明において、バイオマスを含有する被処理油を、本発明の水素化分解Aあるいは本発明の水素化分解Bなどの水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材の酸素分含有量は0.2質量%以下、ノルマルパラフィン含有率は30質量%以下であることが好ましい。このうち、ノルマルパラフィン含有量は25質量%であることがより好ましい。本発明の水素化分解Aあるいは本発明の水素化分解Bなどの水素化分解で得られる生成油において、残存する酸素分は主として水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基のうちいずれかまたは複数の官能基の状態で存在しているが、酸素分が0.2質量%を超える場合、腐食性と、本発明のガソリンを用いた場合の排出ガス中のアルデヒド濃度が高くなる懸念がある。ノルマルパラフィン含有率が30質量%を超える場合、ガソリン基材としてのオクタン価が低下してしまう懸念がある。なお、ノルマルパラフィンなどの組成は、JIS K 2536−2「石油製品-成分試験方法−ガスクロマトグラフによる全分析の求め方」に準拠して測定することによって求めることができる。
【0046】
本発明のガソリンは、バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材(以下本発明の水素化分解基材という)を含有する必要がある。
留分範囲の例としては、例えば25℃〜70℃の軽質留分、70℃〜160℃の中間留分、160℃〜220℃の重質留分等が挙げられる。この他、25℃〜220℃の留分から一部の留分範囲を除いた残りを基材として使用すること等もできる。
オクタン価の観点からは、軽質な留分が好ましく、具体的には、150℃以下の留分が好ましく、120℃以下の留分がより好ましく、100℃以下の留分がさらに好ましい。
【0047】
本発明のガソリンにおいて、本発明の水素化分解基材を配合する際には、必要に応じて、この基材に対して脱硫等の処理を行うことができる。脱硫等の処理を行うのは、配合する基材の全留分であっても、一部の留分であっても良い。また、本発明の水素化分解基材を接触改質装置で処理して、より高オクタン価のガソリン基材として、本発明のガソリンに配合することもできる。
【0048】
本発明のガソリンにおいて、本発明の水素化分解基材の含有量は、バイオマス由来の基材を多く含むとの観点から、ガソリン全量に対して3容量%以上であることが好ましく、5容量%以上がより好ましく、7容量%以上であることがさらに好ましい。一方、燃費性能の観点から、基材の含有量は、50容量%以下であることが好ましく、30容量%以下であることがより好ましく、25容量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明のガソリンは、本発明の水素化分解基材以外については、配合される基材に特に限定はなく、従来公知の任意の方法で製造することができる一種又は二種以上のガソリン基材を配合することもできる。
【0050】
具体的には、例えば、原油蒸留装置、ナフサ改質装置、アルキレーション装置等から得られるプロパンを中心とした直留系プロパン留分、ブタンを中心とした直留系ブタン留分、それらを脱硫処理して得られる直留系脱硫プロパン留分、直留系脱硫ブタン留分、接触分解装置等から得られるプロパン・プロピレンを中心とした分解系プロパン留分、ブタン・ブテンを中心とした分解系ブタン留分、原油を常圧蒸留して得られるナフサ留分(ホールレンジナフサ)、ナフサの軽質留分、ナフサの重質留分、ホールレンジナフサを脱硫した脱硫ホールレンジナフサ、軽質ナフサを脱硫した脱硫軽質ナフサ、重質ナフサを脱硫した脱硫重質ナフサ、軽質ナフサを異性化装置でイソパラフィンに転化して得られる異性化ガソリン、イソブタンなどの炭化水素に低級オレフィンを付加(アルキル化)することによって得られるアルキレート、接触改質法で得られる改質ガソリン、改質ガソリンより芳香族分を抽出した残分であるラフィネート、改質ガソリンの軽質留分である軽質改質ガソリン、改質ガソリンの中質留分である中質改質ガソリン、改質ガソリンの中重質留分である中重質改質ガソリン、改質ガソリンの重質留分である重質改質ガソリン、各改質ガソリンの2種類以上の混合物、接触分解法で得られる接触分解ガソリン(ホールレンジ分解ガソリン)、接触分解ガソリンの軽質留分である軽質分解ガソリン、接触分解ガソリンの重質留分である重質分解ガソリン、水素化分解法で得られる水素化分解ガソリン、オレフィン分の重合によって得られる重合ガソリン、プロピレンまたはブテンの二量化によって得られるオレフィン留分、プロピレンまたはブテンの二量化によって得られたオレフィン留分を水素化して得られるパラフィン留分、脱ノルマルパラフィン油、芳香族炭化水素化合物(トルエン、炭素数8の芳香族(キシレン類)、炭素数9の芳香族等)、天然ガス等を一酸化炭素と水素に分解した後にF−T(Fischer−Tropsch)合成で得られるGTL(Gas to Liquids)の軽質留分等の基材が挙げられる。
【0051】
これらの基材の配合量は、本発明のガソリンが必要な性状範囲となるように調整される限りにおいて、任意であるが、以下に代表的な基材の配合量範囲の例を示す。
(1)改質ガソリン:0〜80容量%
(2)分解ガソリン:0〜60容量%
(3)アルキレート:0〜40容量%
(4)異性化ガソリン:0〜30容量%
【0052】
また、本発明のガソリンは、含酸素化合物を含有していてもよい。
含酸素化合物としては、例えば、炭素数2〜4のアルコール類、炭素数4〜8のエーテル類などが含まれる。具体的な含酸素化合物としては、例えば、エタノール、メチル−tert-ブチルエーテル(MTBE)、エチル−tert-ブチルエーテル(ETBE)、tert-アミルメチルエーテル(TAME)、tert-アミルエチルエーテルなどを挙げることができる。なかでもエタノール、MTBE、ETBEが好ましく、二酸化炭素排出量抑制の観点からは、バイオマス由来のエタノール、バイオマス由来のエタノールを原料として製造したETBEを特に好ましく使用することができる。なお、メタノールは、腐食性と、排出ガス中のアルデヒド濃度が高くなる可能性もあるので、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の規定により試験したときに検出されない(0.5容量%以下)ことが好ましい。
【0053】
本発明のガソリン中の含酸素化合物含有量は、自動車燃料系部材の適合性と、排出ガス中のNOxが増加を抑制する観点から、酸素原子換算で3.8質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましく、2.7質量%以下であることがさらに好ましく、1.3質量%以下であることが最も好ましい。
【0054】
本発明のガソリンのリサーチ法オクタン価(RON)は、耐ノッキング性、加速性、運転性の観点から、89.0以上が必要であり、90.0以上であることがより好ましい。また、本発明のガソリンは、主にレギュラーガソリン仕様車で使用される場合に、ガソリン製造時のCO排出量の増加が走行時のCO排出量の低減を上回るとの観点から、RONは96.0未満であることが必要である。
また、高速における耐ノッキング性能の悪化を防止する観点から、本発明のガソリンのモーター法オクタン価(MON)は80.0以上が好ましく、81.0以上がより好ましい。
ここでいうリサーチ法オクタン価(RON)およびモーター法オクタン価(MON)とは、JIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価を意味する。
【0055】
本発明のガソリンの硫黄含有量は10質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは8質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下である。硫黄分が10質量ppmを超える場合、排出ガス浄化処理触媒の性能に悪影響を及ぼし、排出ガス中のNOx、CO、HCの濃度が高くなる可能性があり、またベンゼンの排出量も増加するおそれがあるため、好ましくない。
ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される値を意味する。
【0056】
本発明のガソリンの無鉛であることが必要である。ここでいう無鉛とは、四エチル鉛等のアルキル鉛化合物を実質的に添加しないことをいい、たとえ極微量の鉛化合物を含有する場合であっても、その含有量はJIS K 2255「ガソリン中の鉛分試験方法」の適用区分下限値(0.001g/l)以下であることを意味する。
【0057】
本発明のガソリンの蒸留初留点(IBP)は、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃以上である。IBPが20℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加する可能性がある。一方、IBPは、好ましくは37℃以下、より好ましくは35℃以下である。IBPが37℃を超える場合には、低温運転性が低下する可能性がある。
本発明のガソリンの10%留出温度(T10)は、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上である。T10が35℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加する可能性があり、また、ベーパーロックにより高温運転性が低下する可能性がある。一方、T10は、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。T10が70℃を超える場合には、低温始動性が低下する可能性がある。
【0058】
本発明のガソリンの30%留出温度(T30)は、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。T30が55℃に満たない場合は燃費が悪化する可能性がある。一方、T30は、好ましくは77℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。T30が77℃を超える場合には、中低温運転性が低下する可能性がある。
本発明のガソリンの50%留出温度(T50)は、燃費の悪化を防止する観点から、75℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。一方、常温運転性の悪化を防止する観点から、T50は、110℃以下であることが好ましく、105℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明のガソリンの70%留出温度(T70)は、好ましくは95℃以上である。T70が95℃に満たない場合は、燃費が悪化する可能性がある。一方、T70は、好ましくは135℃以下、より好ましくは130℃以下である。T70が135℃を超える場合は冷機時の中低温運転性が低下する可能性があり、また、排出ガス中の炭化水素の増加、吸気バルブデポジットの増加、燃焼室デポジットが増加する可能性がある。
本発明のガソリンの90%留出温度(T90)は、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上である。T90が115℃に満たない場合は、燃費が悪化する可能性がある。一方、冷機時の低温及び常温運転性の悪化、エンジンオイルのガソリンによる希釈の増加、炭化水素排出ガスの増加、エンジンオイルの劣化及びスラッジの発生等の現象を防止できる観点から、T90は、好ましくは180℃以下、より好ましくは175℃以下、さらに好ましくは170℃以下、さらにより好ましくは165℃以下である。
【0060】
本発明のガソリンの蒸留終点(EP)は、150℃以上であることが好ましい。また、EPは、好ましくは220℃以下、より好ましくは215℃以下、さらに好ましくは200℃以下、さらにより好ましくは195℃以下である。EPが220℃を超えると、EPは、好ましくは215℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは195℃以下である。EPが215℃を超えると、吸気弁デポジットや燃焼室デポジットが増加する可能性があり、また、点火プラグのくすぶりが発生する可能性がある。
ここでいうIBP、T10、T30、T50、T70、T90、EPとは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値(℃)を意味する。
【0061】
本発明のガソリンのリード蒸気圧(RVP)は、ガソリンが使用される季節や地域によって調整することが好ましい。具体的には、暖かい季節・地域向けには、44〜72kPaが好ましく、44〜65kPaがより好ましく、50〜65kPaがさらに好ましく、55〜65kPaが最も好ましい。一方、寒い季節・地域向けには、60〜93kPaが好ましく、65〜93kPaがより好ましく、70〜93kPaがさらに好ましく、70〜88kPaが最も好ましい。RVPが高いと、ベーパーロックなどによる運転性の不具合が生じる可能性があり、RVPが低いと冷機状態の始動性が悪化する可能性がある。ここでいう蒸気圧(RVP)とは、JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リード法)」により測定される値(kPa)を指す。
【0062】
本発明のガソリンの15℃における密度は、燃費の悪化を抑制する観点から、0.690g/cm以上が好ましく、0.700g/cm以上がより好ましく、0.710g/cm以上がさらに好ましく、0.715g/cm以上が最も好ましい。一方、15℃における密度は、加速性の悪化やプラグのくすぶりを防止する観点から、0.783g/cm以下が好ましく、0.760g/cm以下がより好ましく、0.750g/cm以下がより好ましく、0.745以下であることがさらにより好ましい。
ここでいう15℃における密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される値(g/cm)を意味する。
【0063】
本発明のガソリンの酸化安定度は、貯蔵中のガムの生成を抑制する観点から、240分以上であることが好ましく、480分以上であることがより好ましく、1440分以上であることがさらに好ましい。
ここでいう酸化安定度とは、JIS K 2287「ガソリン酸化安定度試験方法(誘導期間法)」によって測定した値(分)を意味する。
【0064】
本発明のガソリンは、銅板腐食(50℃、3h)が1以下であるのが好ましく、1aであるのがより好ましい。銅板腐食が1を越える場合は、燃料系統の導管が腐食する可能性がある。
ここでいう銅板腐食とは、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」(試験温度50℃、試験時間3時間)に準拠して測定した値を意味する。
【0065】
本発明のガソリンの洗浄実在ガム量は、5mg/100ml以下であることが好ましく、3mg/100ml以下であることがより好ましく、1mg/100ml以下であることがさらに好ましい。また、本発明のガソリンの未洗実在ガム量は、20mg/100ml以下であることが好ましく、10mg/100ml以下であることがより好ましく、5mg/100mlであることがさらに好ましい。未洗実在ガム量および洗浄実在ガム量が上記の値を超えた場合は、燃料導入系統において析出物が生成したり、吸入バルブが膠着する心配がある。
ここでいう洗浄実在ガム量および未洗実在ガム量とは、JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航空燃料油−実在ガム試験方法−噴射蒸発法」により測定した値(mg/100ml)を意味する。
【0066】
本発明のガソリン中のベンゼン含有量は、1容量%以下であることが好ましく、0.5容量%以下であることがより好ましい。ベンゼン含有量が1容量%を越えると排出ガス中のベンゼン濃度が高くなる可能性がある。
ここでいうベンゼン含有量とは、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法−ガスクロによる芳香族試験方法」により測定されるベンゼン含有量(容量%)を意味する。
【0067】
本発明のガソリン中の芳香族分は、40容量%以下であることが好ましく、35容量%以下であることがより好ましく、30容量%以下であることがさらに好ましい。芳香族分が40容量%を超えると、吸気弁デポジット、燃焼室デポジットが増加する可能性があり、また、点火プラグのくすぶりが発生する可能性がある。また、排出ガス中のベンゼン濃度が増加する可能性がある。一方、芳香族分は、10容量%以上が好ましく、15容量%以上がより好ましい。芳香族分が10容量%を下回る場合には燃費が悪化する可能性がある。
ここでいう芳香族分とは、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法−蛍光指示薬吸着法」により測定されるガソリン中の芳香族分含有量(容量%)を意味する。
【0068】
本発明のガソリン中のオレフィン分は、35容量%以下であることが好ましく、25容量%以下であることがより好ましい。オレフィン分が35容量%を超えると、ガソリンの酸化安定性を悪化させ吸気バルブデポジットを増加させる可能性がある。
ここでいうオレフィン分とは、JIS K 2536「石油製品-成分試験方法−蛍光指示薬吸着法」により測定されるガソリン中のオレフィン分含有量(容量%)を意味する。
【0069】
本発明のガソリン中の灯油混入量は4容量%以下であることが望ましい。灯油混入量が4容量%を越えると、エンジンの始動性が悪化する可能性がある。
ここで、灯油混入量とはガソリン全量基準での炭素数13及び14のノルマルパラフィン炭化水素の含有量で判定し、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の規定によって得られる灯油の換算値が4容量%以下であることであることを意味する。
【0070】
本発明のガソリン中のマンガンの含有量は、2質量ppm以下が好ましく、1質量ppm以下がより好ましい。本発明のガソリン中の鉄の含有量は2質量ppm以下が好ましく、1質量ppm以下がより好ましい。本発明のガソリン中のナトリウムの含有量は2質量ppm以下が好ましく、1質量ppm以下がより好ましい。本発明のガソリン中のカリウムの含有量は2質量ppm以下が好ましく、1質量ppm以下がより好ましい。本発明のガソリン中のリンの含有量は2質量ppm以下好ましく、1質量ppm以下がより好ましく、0.2質量ppm以下がさらに好ましい。マンガン、鉄、ナトリウム、カリウム、リンの含有量が上述の値を超えると、排出ガス浄化触媒上への蓄積量の増加、触媒担体の劣化、空燃比センサの劣化等により排出ガス浄化システムの効率を低下させる恐れがある。
ここでいうマンガン、鉄、ナトリウムの含有量は「燃焼灰化−誘導結合プラズマ発光法」、カリウムの含有量は「燃焼灰化−原子吸光法」、リンの含有量はASTM D3231”Standard Test Method for Phosphorus in Gasoline”により測定される値である。
【0071】
以下、「燃焼灰化−誘導結合プラズマ発光法」、「燃焼灰化−原子吸光法」の測定法について詳述する。
(1)試料20gを白金皿に採取する。
(2)成分元素の揮散を抑えるために粉末硫黄0.4gを加え、サンドバス上で150℃で時間おき、揮発分を除く。
(3)残留分を燃焼させる。
(4)500℃の電気炉で2〜3時間灰化する。
(5)2〜3mLの濃硫酸で溶解し、20mLに定容する。
(6)マンガン、鉄、ナトリウムの含有量は誘導結合プラズマ発光分光分析計(島津製作所社製、ICPS−8000)、リンの含有量は原子吸光光度計(日立製作所社製、Z6100)を用いて分析する。
【0072】
本発明のガソリンは、貯蔵安定性のために、酸化防止剤及び金属不活性化剤を含有していることが好ましい。具体的には、酸化防止剤としては、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミンやN,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールに代表されるヒンダードフェノール類等のアルキルフェノール系等の酸化防止剤として公知の化合物を用いることができ、金属不活性化剤としては、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンのようなアミンカルボニル縮合化合物等の金属不活性化剤として公知の化合物を用いることができる。
酸化防止剤や金属不活性化剤の添加量には特に制限はないが、前述の酸化安定度を好ましい値とし、他の添加剤を含めた添加後のガソリン組成物の未洗実在ガム量が前述の好ましい値となるようにするのが良い。具体的には、酸化防止剤は5〜100mg/lが好ましく、10〜50mg/lがより好ましい。また、金属不活性化剤は、0.5〜10mg/lが好ましく、1〜5mg/lがより好ましい。
【0073】
本発明のガソリンは、吸気バルブ等のデポジットの堆積防止のために、清浄分散剤を含有していることができる。清浄分散剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどのガソリン清浄分散剤として公知の化合物を用いることができる。これらの中でも空気中300℃で熱分解を行った場合にその残分が無いものが望ましい。より好ましくはポリイソブテニルアミン及び/またはポリエーテルアミンを使用するのが良い。
清浄分散剤の含有量は、本発明のガソリン1リットル当たり、25〜1000mgであることが好ましく、吸気バルブデポジットを防止し、燃焼室デポジットをより低減させる点から、50〜500mgがさらに好ましく、100〜300mgが最も好ましい。なお、清浄分散剤は、清浄性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるが、こうした場合、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0074】
本発明のガソリンは、潤滑性を向上させるため、摩擦調整剤を含有することができる。主な摩擦調整剤としては、例えば、アルコール;ヒドロキシル基を1〜4個有する炭素数1〜30のアルコール化合物;カルボン酸;モノカルボン酸と、グリコール又は3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル;ポリカルボン酸と多価アルコールとのエステル;>NR(Rは炭素原子数5〜40の炭化水素基である)を含む組成を示し、1以上の置換基を有する少なくとも1個の窒素化合物とを組み合わせた多価アルコールのエステル;カルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物等が挙げられる。これらは、単独又は混合物として用いることができる。これらのうちでは、炭素数10〜25のモノカルボン酸と、グリコール又は3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル及び/又は炭素数5〜25のカルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物がより好ましく、炭素数10〜25のモノカルボン酸とグリセリンエステル及び/又は炭素数5〜25のモノカルボン酸とジエタノールアミンとのアミド化合物がさらに好ましい。
【0075】
摩擦調整剤の添加量は特に制限はないが、他の添加剤と合わせて添加後のガソリン組成物の未洗実在ガム量が前述の好ましい範囲を満たすように添加するのが良い。また、十分な燃費及び出力改善効果を発揮させ、一方、それ以上添加しても効果の向上が期待できない等の観点から、本発明のガソリン1リットル当たり、好ましくは10〜300mg、より好ましくは30〜250mgの含有割合となるように添加するのが良い。
なお、摩擦調整剤と称して市販されている商品は、耐摩耗性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明のガソリンに添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0076】
本発明のガソリンに添加することができるその他の燃料油添加剤としては、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、多価アルコールあるいはそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、高級アルコール硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤、有機カルボン酸あるいはそれらの誘導体類、アルケニルコハク酸エステル等の防錆剤、ソルビタンエステル類等の水抜き剤、キリザニン、クマリンなどの識別剤、天然精油合成香料などの着臭剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種または2種以上を添加することができ、その合計添加量はガソリン全量基準で0.1質量%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0078】
[実施例1〜4および比較例1,2]
水素化分解用の触媒Aとして、結晶型メタルシリケートがフォージャサイト型の構造を有する超安定型Y型ゼオライト55質量%、シリカ15.75質量%、アルミナ29.25質量%で構成される担体に、周期律表第8族の白金およびパラジウムを各々0.5質量%および0.7質量%担持した触媒を調製した。なお、超安定型Y型ゼオライトのシリカ/アルミナ比は33であった。
水素化分解の被処理油には、バイオマスの植物油であるパーム油を用い、そのトリグリセライドの含有量は98モル%、酸素分含有量11.4質量%、硫黄分は0.1質量ppm未満であった。
触媒Aを還元前処理した後に、反応温度425℃、水素圧力5MPa、液空間速度0.4h−1、水素油比1010NL/Lの条件下で、被処理油のパーム油と接触することにより水素化分解を行い、生成油の蒸留により35℃〜135℃の留分であるバイオマス水素化分解基材Aを得た。このバイオマス基材Aの酸素分含有量は0.1質量%未満、硫黄分含有量は0.1質量ppm未満、ノルマルパラフィン含有量は24.8質量%であった。
バイオマス水素化分解基材Aを10容量%と、軽質改質ガソリン(留分範囲27〜128℃、密度0.690g/cm、芳香族分23容量%)、中重質改質ガソリン(留分範囲92〜195℃、密度0.853g/cm、芳香族分90容量%)、軽質接触分解ガソリン(留出温度27〜81℃、密度0.656g/cm、オレフィン分47容量%)、重質接触分解ガソリン(留分範囲75〜198℃、密度0.764g/cm、オレフィン分33容量%)、アルキレート(留分範囲33〜179℃、密度0.696g/cm、飽和分100容量%)、軽質ナフサ(留分範囲28〜105℃、密度0.637g/cm、飽和分99容量%)、トルエン、ノルマルブタンなどのガソリン基材および酸化防止剤、金属不活性化剤を配合することにより、実施例1のガソリン組成物を調製した。
バイオマス水素化分解基材Aを12容量%と、バイオマス由来のエタノールを原料として製造したETBEを7容量%に、軽質改質ガソリン(留分範囲27〜128℃、密度0.690g/cm、芳香族分23容量%)、中重質改質ガソリン(留分範囲92〜195℃、密度0.853g/cm、芳香族分90容量%)、軽質接触分解ガソリン(留出温度27〜81℃、密度0.656g/cm、オレフィン分47容量%)、重質接触分解ガソリン(留分範囲75〜198℃、密度0.764g/cm、オレフィン分33容量%)、アルキレート(留分範囲33〜179℃、密度0.696g/cm、飽和分100容量%)、軽質ナフサ(留分範囲28〜105℃、密度0.637g/cm、飽和分99容量%)、トルエン、ノルマルブタンなどのガソリン基材および酸化防止剤、金属不活性化剤を配合することにより、実施例2のガソリン組成物を調製した。
【0079】
水素化分解用の触媒Bとして、結晶型メタルシリケートがフォージャサイト型の構造を有する超安定型Y型ゼオライト55質量%、シリカ15.75質量%、アルミナ29.25質量%で構成される担体に、周期律表第8族のニッケルを4.0質量%(酸化ニッケルとして)および周期律表6A族のモリブテンを16.0質量%(三酸化モリブテンとして)担持した触媒を調製した。なお、超安定型Y型ゼオライトのシリカ/アルミナ比は30であった。
水素化分解の被処理油は、バイオマスの植物油であるパーム油(トリグリセライドの含有量は98モル%、酸素分含有量11.4質量%、硫黄分は0.1質量ppm未満)にジメチルジサルファイドを添加して硫黄分を51質量ppmに調製した。
触媒Bを予備硫化した後に、反応温度425℃、水素圧力5MPa、液空間速度0.4h−1、水素油比1010NL/Lの条件下で、被処理油の上記のジメチルジサルファイド添加パーム油と接触することにより水素化分解を行い、生成油の蒸留により35℃〜135℃の留分であるバイオマス水素化分解基材Bを得た。このバイオマス水素化分解基材Bの酸素分含有量は0.1質量%未満、硫黄分含有量は1.3質量ppm、ノルマルパラフィン含有量は24.3質量%であった。
【0080】
バイオマス水素化分解基材Bを10容量%と、軽質改質ガソリン(留分範囲27〜128℃、密度0.690g/cm、芳香族分23容量%)、中重質改質ガソリン(留分範囲92〜195℃、密度0.853g/cm、芳香族分90容量%)、軽質接触分解ガソリン(留出温度27〜81℃、密度0.656g/cm、オレフィン分47容量%)、重質接触分解ガソリン(留分範囲75〜198℃、密度0.764g/cm、オレフィン分33容量%)、アルキレート(留分範囲33〜179℃、密度0.696g/cm、飽和分100容量%)、軽質ナフサ(留分範囲28〜105℃、密度0.637g/cm、飽和分99容量%)、トルエン、ノルマルブタンなどのガソリン基材および酸化防止剤、金属不活性化剤、清浄分散剤を配合することにより、実施例3のガソリン組成物を調製した。
バイオマス水素化分解基材Bを10容量%と、バイオマス由来のエタノールを3容量%に、軽質改質ガソリン(留分範囲27〜128℃、密度0.690g/cm、芳香族分23容量%)、中重質改質ガソリン(留分範囲92〜195℃、密度0.853g/cm、芳香族分90容量%)、軽質接触分解ガソリン(留出温度27〜81℃、密度0.656g/cm、オレフィン分47容量%)、重質接触分解ガソリン(留分範囲75〜198℃、密度0.764g/cm、オレフィン分33容量%)、アルキレート(留分範囲33〜179℃、密度0.696g/cm、飽和分100容量%)、軽質ナフサ(留分範囲28〜105℃、密度0.637g/cm、飽和分99容量%)、トルエン、ノルマルブタンなどのガソリン基材および酸化防止剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、摩擦調整剤を配合することにより、実施例4のガソリン組成物を調製した。
バイオマス水素化分解基材Aを55容量%、軽質改質ガソリン(留分範囲27〜128℃、密度0.690g/cm、芳香族分23容量%)、中重質改質ガソリン(留分範囲92〜195℃、密度0.853g/cm、芳香族分90容量%)、軽質接触分解ガソリン(留出温度27〜81℃、密度0.656g/cm、オレフィン分47容量%)、重質接触分解ガソリン(留分範囲75〜198℃、密度0.764g/cm、オレフィン分33容量%)、アルキレート(留分範囲33〜179℃、密度0.696g/cm、飽和分100容量%)、軽質ナフサ(留分範囲28〜105℃、密度0.637g/cm、飽和分99容量%)、トルエン、ノルマルブタンなどのガソリン基材および酸化防止剤、金属不活性化剤を配合することにより、比較例1のガソリン組成物を調整した。
比較例2は市販のレギュラーガソリンである。
【0081】
(性状測定)
表1に示し実施例および比較例におけるガソリン組成物の性状は以下の方法により測定した。
リサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価は、JIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価による値である。
硫黄分は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定した。
鉛分は、JIS K 2255「ガソリン中の鉛分試験方法」により測定した。
蒸留性状(IBP、T10、T30、T50、T70、T90、EP)は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定した。
蒸気圧(@37.8℃)は、JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リード法)」により測定した。
密度(@15℃)は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定した。
酸化安定度は、JIS K 2287「ガソリン酸化安定度試験方法(誘導期法)」によって測定した。
銅板腐食は、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」(試験温度50℃、試験時間3時間)に準拠して測定した。
未洗実在ガム量および洗浄実在ガム量は、JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航
空燃料油−実在ガム試験方法−噴射蒸発法」により測定した。
ベンゼンは、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法−ガスクロによる芳香族試験方法」により測定した。
芳香族分及びオレフィン分は、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法−蛍光指示薬吸着法」により測定した。
灯油分は、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の規定に従って測定した。
マンガン、鉄、ナトリウムの含有量は「燃焼灰化−誘導結合プラズマ発光法」、カリウムの含有量は「燃焼灰化−原子吸光法」、リンの含有量はASTM D3231”Standard Test Method for Phosphorus in Gasoline”により測定した。
【0082】
(バイオマス由来含有量)
実施例および比較例のガソリン組成物について、基材配合割合から、バイオマス由来基材の含有量およびバイオマスの植物油由来基材の含有量を示した。
【0083】
(加速性能評価)
環境温度25℃、環境湿度50%に保持したシャーシダイナモメータ上で、下記の試験車両を使用し、加速性能評価を実施した。試験は試験車両を十分に暖機走行させた後、Dレンジ(ODはオン)で50km/hから110km/hまでの全開加速を10回行い、60km/hから100km/hに達するまでの所要時間を測定し、最初の3回を除いた7回の所要時間の平均値を加速時間と定義した。
[試験車両]
エンジン:直列4気筒(レギュラーガソリン仕様)
排気量:1498cc
噴射方式:マルチポイント式
ミッション:オートマチックトランスミッション
排出ガス浄化システム:三元触媒、空燃比フィードバック制御
平成12年排出ガス規制適合
【0084】
(排出ガス試験)
排出ガス試験は、上記の試験車両を用いて、国土交通省によるガソリン自動車10・15モード排出ガス測定の技術指針に従って、排出ガス中に含まれるCOおよびNOxの排出量を計測した。
【0085】
(燃料消費試験)
燃料消費試験は、上記の試験車両を用いて、国土交通省によるガソリン自動車10・15モード燃料消費試験方法に従って計測した。
【0086】
表2に示す通り、本発明のガソリン(実施例1〜4)は、バイオマス由来の基材を配合することにより、燃料供給源の多様化およびライフサイクルでCO2の増加抑制に寄与すると考えられると共に、良好な加速性能、低い排出ガス(CO、NOx)レベル、良好な燃費を実現できることが分かる。
【0087】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材を含有することを特徴とするリサーチ法オクタン価が89.0以上96.0未満、硫黄分含有量が10質量ppm以下の無鉛ガソリン組成物。
【請求項2】
水素化分解の被処理油に含有されるバイオマスに占めるトリグリセライド構造を有する化合物の割合が90モル%以上であることを特徴とする請求項1に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項3】
水素化分解を、水素の存在下、バイオマスを含有する被処理油と、周期律表第8族に属する金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属と結晶性メタロシリケートを含有する担体とを含有する水素化分解触媒を接触させることにより処理することを特徴とする請求項1または2に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項4】
水素化分解のバイオマスを含有する被処理油中の酸素分の含有量が0.1〜15質量%であり、硫黄分の含有量が50質量ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項5】
水素化分解触媒に担持された金属が、Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Niから選ばれる1種類以上の元素であり、触媒担体に含まれる結晶性メタロシリケートがフォージャサイト型の構造を有しており、触媒担体に含まれる結晶性メタロシリケートがケイ素、アルミニウム、酸素で構成され、構造に含まれるSiO/Alモル比が10〜100の範囲にある超安定化Y型ゼオライトであることを特徴とする請求項3または4に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項6】
水素化分解を、水素の存在下、バイオマス及び含硫黄炭化水素化合物を含有する被処理油と、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを接触させることにより、処理することを特徴とする請求項1または2に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項7】
水素化分解のバイオマスを含有する被処理油中の酸素分の含有量が0.1〜15質量%であり、硫黄分の含有量が1質量ppm〜1質量%であることを特徴とする、6に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項8】
水素化触媒担体に含まれる結晶性メタロシリケートがフォージャサイト型の構造を有しており、水素化触媒担体に含まれる結晶性メタロシリケートがケイ素、アルミニウム、酸素で構成され、構造に含まれるSiO/Alモル比が10〜100の範囲にある超安定化Y型ゼオライトであることを特徴とする請求項6または7に記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項9】
バイオマスを含有する被処理油を水素化分解により処理することによって得られる留出温度範囲が25℃から220℃の留分の全部もしくはその一部からなる基材中の、酸素分含有量が0.2質量%以下、ノルマルパラフィン含有率が30質量%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項10】
10%留出温度が70℃以下、50%留出温度が75℃以上110℃以下、90%留出温度が180℃以下、蒸留終点か220℃以下、蒸気圧(37.8℃)が44kPa以上93kPa以下、密度(15℃)が0.783g/cm以下、酸化安定度が240分以上、銅板腐食(50℃、3時間)が1以下、洗浄実在ガムが5mg/100ml以下、未洗実在ガムが20mg/100ml以下、ベンゼン含有量が1容量%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項11】
芳香族分含有量が40容量%以下、オレフィン分含有量が35容量%以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項12】
マンガンの含有量が2質量ppm以下、鉄の含有量が2質量ppm以下、ナトリウムの含有量が2質量ppm以下、カリウムの含有量が2質量ppm以下、及びリンの含有量が2質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。
【請求項13】
酸化防止剤と金属不活性化剤を含有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の無鉛ガソリン組成物。


【公開番号】特開2007−308574(P2007−308574A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138360(P2006−138360)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】