説明

ガラスセラミックス及びその製造方法

【課題】ガラスを原料として、光触媒を高濃度に含有して優れた光触媒活性を有し、使用性や耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分を5〜50%、SrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%を含有するガラスセラミックスが提供される。このガラスセラミックスは、チタン酸ストロンチウムSrTiO結晶及びその固溶体結晶を含むことが好ましい。このガラスセラミックスは、バルク体、粉粒状、ファイバー状、スラリー状混合物、焼結体、基材との複合体などの形態をとることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)は、ペロブスカイト構造を持つ結晶であり、分解活性能を有する光触媒材料として知られている。光触媒は、光触媒機能を有する半導体にそのバンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光を照射することで生成する電子や正孔が関与することにより、酸化又は還元反応をその表面近傍で生じさせるものである。特に触媒活性の高い結晶を用いる表面処理は、一般によく知られている。
【0003】
例えば、光触媒作用のある部材を製造するために、表面に塗布する光触媒としての酸化チタンを含む光触媒性塗布剤が開示されている(例えば、特許文献1)。このようにすれば、基材の機械的な特性を維持したまま、表面にのみ光触媒作用を付加することができ、非常に便利である。しかしながら、塗布やコーティングでは、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、使用状況により剥離が問題となる。
【0004】
一方、材料の中に光触媒材料を入れた例として、ポリプロピレン樹脂に対して、光触媒(光触媒活性を有するために必要な金属原子としてのチタンを有してなるアパタイト(光触媒チタンアパタイト))としての、カルシウム・チタンハイドロキシアパタイトを30質量%添加し、混練して直径3cmのボール状(球状)に成形し、破断機にかけ粉砕し、篩で約5mm角に粒度を調整した光触媒複合材料が開示されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、これはポリプロピレン樹脂をバインダーとしてカルシウム・チタンハイドロキシアパタイトを結合させており、材料中に存在する光触媒の分解活性によって樹脂バインダーが分解され、材料が劣化してしまう問題が依然存在する。
【0005】
一方、チタン酸ストロンチウムを含むバルク体として、ガラスとチタン酸ストロンチウムなどの無機フィラーを混合し、成形、焼成してバルク体を得る技術が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、これは一度作製したガラス及びセラミックスを、粉砕、混合する必要があり、工程が多くなっている。更に光触媒材料の粒子形状やサイズが光触媒活性に影響を及ぼすことが知られているが、ガラス粉体とセラミック粉体を混合・焼成する方法では、セラミック粒子サイズの制御が困難であるため、高い触媒活性を期待し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開2008−36465号公報
【特許文献3】特開2008−37739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、基材の表面に光触媒材料と成膜する場合、膜と基材の密着性や膜自身の耐久性により、剥離など光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。また、塗膜に使われる塗料には樹脂や有機バインダーが用いられていることが多いので、紫外線、酸性雨等による経時変化で曇りや白ボケ現象が生じる問題点がある。また、膜中に担持させた光触媒の活性を十分に引き出すためには、光触媒をナノサイズの超微粒子に加工する必要があるが、ナノサイズの超微粒子は作製コストが高くなるとともに、表面エネルギーの増大によって凝集しやすくなり、取り扱いが難しいという問題点があった。一方、スパッタリングなどで成膜する場合は膜の密着性、粒子サイズの微細化の問題はないが、成膜時の条件を厳しく制御する必要がある、成膜速度が遅い、成膜できる基材形状が限られるなどの問題がある。
【0008】
本発明は、以上を鑑みてなされたものであり、表面に薄膜やコーティング等の加工をする必要が無く、比較的容易な方法で所望の形状に成形でき、バルク材として光触媒特性を有する材料、具体的には耐久性に優れ、且つ光触媒特性を有する微細な結晶が材料内部や表面に存在するガラスセラミックスを提供することを目的とする。さらに、同ガラスセラミックスの製造方法、及びこの製造方法で製造されるガラスセラミックスを含む光触媒機能性成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は光触媒特性を有する結晶をガラス中で生成させることにより、優れた光触媒機能性素材として利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下に示すものを提供する。
【0010】
(1)チタン酸ストロンチウム(SrTiO)及び/またはその固溶体の結晶を含有し、光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【0011】
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でTiO成分を5〜50%、及びSrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有する(1)記載のガラスセラミックス。
【0012】
(3)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
RnO成分 0〜40%、及び/又は
RO成分 0〜50%、及び/又は
Al成分 0〜20%、及び/又は
ZrO成分 0〜10%、及び/又は
Nb成分及び/又はTa成分 0〜25%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 0〜5%
の各成分を含有する(1)または(2)記載のガラスセラミックス。
(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから群より選ばれる1種以上、RはMg、Ca、Ba、Znからなる群より選ばれる1種以上とする)
【0013】
(4)紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される(1)から(3)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0014】
(5)日本工業規格JIS R1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/l/min以上である(1)から(4)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0015】
(6)(1)から(5)いずれか記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液の温度を結晶化温度領域まで低下させる第一冷却工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る第二冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0016】
(7)(1)から(5)のいずれか記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0017】
(8)前記結晶化温度領域は、580℃以上1100℃以下である(6)又は(7)記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0018】
(9)(1)から(5)いずれか記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【0019】
(10)粉粒状又はファイバー状の形態を有する(9)記載の光触媒。
【0020】
(11)(10)記載の光触媒と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【0021】
(12)(9)又は(10)いずれか記載の光触媒を含む光触媒機能性部材。
【0022】
(13)粉砕ガラスを焼結させてなる焼結体であって、前記焼結体中に、(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする焼結体。
【0023】
(14)得られるガラス体が、酸化物換算組成のモル%で、TiO成分を5〜50%、SrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、前記粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する成形工程と、前記成形体を加熱して焼結体を作製する焼結工程と、を含む方法により製造されるものである(13)に記載の焼結体。
【0024】
(15)前記方法は、前記粉砕ガラスにTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶から選ばれる1種以上の結晶を混合する工程を、さらに含む(14)記載の焼結体。
【0025】
(16)基材と、この基材上に設けられた光触媒機能層とを有する複合体であって、前記光触媒機能層が、(1)から(5)いずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【0026】
(17)得られるガラス体が酸化物基準のモル%で、TiO成分を5〜50%、SrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、前記粉砕ガラスを基材上に配置した後に加熱し焼成を行う焼成工程と、を含む方法により製造されるものである(16)記載の複合体。
【0027】
(18)前記方法は、前記粉砕ガラスにTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶から選ばれる1種以上の結晶を混合する工程を、さらに含む(17)記載の複合体。
【0028】
(19)加熱することにより、ガラスから光触媒活性を有する結晶を生成し、(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックスとなるガラス。
【0029】
(20)粉粒状、又はファイバー状の形態を有する(19)記載のガラス。
【0030】
(21)(20)に記載のガラスと、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ガラスの組成を所定の範囲内とすることによって、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸ストロンチウム系固溶体の光触媒結晶が析出し易くなる。この結晶相がガラスの内部と表面に均一に析出するので、表面の剥離の問題がなく、仮に表面が削られても光触媒性能が劣らず、耐久性に優れたガラスセラミックスと、その製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例9のチタン酸ストロンチウム結晶含有ガラスセラミックスのXRDパターンである。
【図2】本発明の実施例9と同組成であり、結晶化温度を変えて作製したガラスセラミックスの結晶化温度と結晶化度を現すグラフである。
【図3】本発明の実施例14と実施例15のチタン酸ストロンチウム結晶を含むガラスセラミックス焼結体のXRDパターンである。グラフ中、1は実施例14を、2は実施例15を表している。
【図4】実施例16のチタン酸ストロンチウム結晶を含むガラスセラミックス複合体のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のガラスセラミックスの結晶相および含有成分を上記のように限定した理由を述べる。各成分の含有量の説明については、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表わすものとする。これはできたガラスセラミックス中のアニオン成分は全て酸素であると仮定し、カチオン成分の含有量のみを考えるときに、そのカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると考え、それら酸化物のモル分率×100によってガラス中に含有される各成分を表記する方法である。
【0034】
なお、本発明におけるガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相になった材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100wt%のものも含んでよい。一般に用いられる粉体から得られるエンジニアリングセラミックスやセラミックス焼結体は、ポアフリーの完全焼結体となることが難しい。従って、本発明のガラスセラミックスは、このようなポア(例えば、気孔率)の存在により、それらのガラスセラミックスと区別され得る。ガラスセラミックスは結晶化工程の制御により結晶の粒径、析出結晶の種類、結晶化度をコントロールできるので、光触媒材料を製造するにあたって所望の結晶を生成する有効な手段になる。
【0035】
本発明のガラスセラミックスは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)及びチタン酸ストロンチウム固溶体から選ばれる一種以上の結晶を含有する。これらの結晶が含まれていることにより、本発明のガラスセラミックスは光触媒機能を有することでできる。
【0036】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)は光触媒としての特性に優れているだけでなく、殆どの酸、塩基、有機溶剤に侵されない化学的に安定性な性質を持ち、人体にも安全である物質である。固溶体とは、2種類以上の金属固体または非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶と言う場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体などがある。ここでチタン酸ストロンチウム固溶体とはSrの一部をCa、Ba、K、Rb、La、Ce、の一種以上で置換、及び/又はTiの一部をZr、Hf、V、Nb、Ta、Al、Ga、Mg、Cr、Fe、Liの一種以上で置換した化合物である。チタン酸ストロンチウム(SrTiO)結晶を構成する成分を他の成分に置換することでバンドギャップエネルギーを調整することが可能になる。また、成分の置換は、結晶構造を歪ませる効果もあり、より光触媒活性を高めることができる。固溶物質は上記に限定されるものではなく、Tiの一部をZn、Mn、Co、Ni、Cu、Sc、及びLiなど、Srの一部をNa、Eu、Cd、Pb、及びBiなどで置換あるいは侵入型固溶体をとることもある。また、チタン酸ストロンチウム及びその固溶体は単純ペロブスカイト構造に限らず、Srn+1Ti3n+1などで示される層状ペロブスカイト構造をとることもできる。なお、本明細書において、これらの結晶をまとめて「光触媒結晶」と称することがある。
【0037】
上記SrTiO結晶に加えて本発明のガラスセラミックスはTiO、SiO、アルカリ金属チタン酸ケイ酸複合塩結晶、アルカリ土類金属チタン酸ケイ酸塩結晶、アルカリ金属アルカリ土類金属チタン酸ケイ酸複合塩結晶、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ土類金属ケイ酸塩結晶、アルカリ金属チタン酸塩結晶、アルカリ土類金属チタン酸塩結晶の一種以上を、光触媒活性を損なうことなく有することができる。特にTiOおよびチタン酸塩結晶は光触媒物質であり、光触媒活性が向上する。また、熱処理条件を制御し結晶が絡み合う構造とすることで、ガラスセラミックスの機械的強度の改良も可能である。
【0038】
本発明のガラスセラミックス全体に対する前記結晶相の量は、透明度を重視する、若しくは光触媒特性を優先するなど、利用する目的に応じて自由に選択できるが、体積比で1%以上85%以下の範囲であることが好ましい。ガラスの中から析出する結晶相の量は、熱処理条件をコントロールすることにより制御することができる。結晶相の量が多いと、光触媒機能が高くなる傾向があるが、ガラスセラミックス全体の脆性や透明性が低下する可能性があるので、結晶相の量を体積比率で85%以下の範囲とすることが好ましく、82%以下の範囲とすることがより好ましく、80%以下とすることが最も好ましい。一方、結晶相の量が少ないと有効な光触媒特性を引き出せないため、結晶相の量を体積比率で1%以上とすることが好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上とすることが最も好ましい。
【0039】
本発明のガラスセラミックスは、TiO成分を5〜50%の範囲で含有することが好ましい。TiO成分は、SrTiO結晶及びその固溶体、又はアルカリ金属、その他アルカリ土類金属との化合物の結晶としてガラスから析出し、光触媒特性をもたらすのに必須で欠かせない成分である。特に、TiO成分の含有量を5%以上にすることで、光触媒結晶が析出し易くなり、ガラスセラミックス中におけるTiO結晶の濃度が高められるため、所望の光触媒特性を確保することができる。一方、TiO成分の含有量が50%を超えると、失透が起きたり、分相しやすくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは8%、最も好ましくは10%を下限とし、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは35%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばアナターゼ型、ルチル型又はブルッカイト型のTiO、アルカリ/アルカリ土類チタン酸塩、アルカリ/アルカリ土類チタン酸ケイ酸複合塩などを用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0040】
SrO成分は、結晶化することにより、SrTiO結晶及びその固溶体、又はその他のチタン酸塩結晶としてガラスから析出し、本発明のガラスセラミックスに光触媒特性をもたらすのに必須で欠かせない成分である。特に、SrO成分の含有量を2%以上にしないと、SrTiO結晶及びその固溶体の結晶が析出し難くなる。従ってSrO成分の下限は、2%、好ましくは3%、より好ましくは5%、最も好ましくは7%することで、光触媒結晶が析出し易くなり、ガラスセラミックス中におけるSrTiO結晶及びその固溶体の濃度が高められるため、所望の光触媒特性を確保することができる。また、SrOはガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑えることができる成分でもある。しかし、SrO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは45%、最も好ましくは40%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrCO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0041】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める必須成分であるとともに、一部がSrTiOに固溶し、光触媒活性向上に寄与する成分である。SiO成分の含有量の下限は10%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上である。しかし、SiO成分の含有量が85%を超えると、ガラスの溶融性が悪くなり、及び/または分相しやすくなり、光触媒結晶が析出し難くなるという問題がある。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは85%、より好ましくは70%、最も好ましくは55%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0042】
本発明のガラスセラミックスは、SiOとTiOの合計が85%を越えないことが好ましい。これら成分の合量が85%を超えるとガラスが非常に不安定になり、分相ガラスとなりやすく、所望の結晶相を得られなくなってしまう。両成分の合量の上限は、より好ましくは80%、最も好ましくは75%である。
【0043】
更に、Tiカチオン数のアルカリ金属酸化物及び/またはアルカリ土類金属酸化物のカチオン数の合計に対する比が1.25を超えると分相ガラスとなりやすく、均質なSrTiO系ガラスセラミックスを得るのが困難になる。そのため、[Ti]/([R]+[Rn])は1.25以下が望ましく、1.0以下がより好ましい。ここで[Ti]はTiカチオン数、[R]はアルカリ土類金属のカチオン総数、[Rn]はアルカリ金属のカチオン数の総数である。
【0044】
一方で、Ti及びTiサイトに置換固溶する成分の比が少ないと光触媒結晶が析出しがたくなるため、[XTi]/[YSr]は0.75以上が好ましく、より好ましくは0.9以上、最も好ましくは1.0以上である。ここで[XTi]はTiおよびTiサイトに置換しやすい成分(Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Al、Ga、Mgから選ばれる1種以上)のカチオン数の合計、[YSr]はSrおよびSrサイトに置換しやすい成分(K、Rb、Ca、Ba、La、Ceから選ばれる1種以上)のカチオン数の合計である。ここで置換しやすい成分とは、Tiサイトは6配位をとり、シャノンイオン半径、ポーリング電気陰性度のTiとの差がそれぞれ2割以内である成分である成分であり、Srサイトは12配位をとり、シャノンイオン半径、ポーリング電気陰性度のSrとの差がそれぞれ2割以内である成分である。
【0045】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つLiイオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる。しかし、LiO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、耐候性が低下する。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0046】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つNaイオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、NaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0047】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つKイオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、KO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0048】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑える成分であり、且つRbイオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、RbO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0049】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑える成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CsO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0050】
上記RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)の総量は40%以下であることが好ましい。RnO成分から選ばれる少なくとも一種以上の成分の総量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、耐候性を向上させることができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、RnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限とする。また、本発明において、RnO成分は任意成分であるが、これらの成分を含有する場合、その効果を発現するためには、RnO成分の総量の下限を好ましくは0.1%、より好ましくは1%、最も好ましくは3%とすることが良い。
【0051】
BeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑える成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BeO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBeO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。
【0052】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つMg2+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、MgO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0053】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つCa2+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは35%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0054】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つBa2+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0055】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒結晶の析出を促進し、且つZn2+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、ZnO成分の含有量が50%を超えると、ガラスが失透性し易くなる等、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0056】
上記RO成分(式中、RはBe、Mg、Ca、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の総量は、光触媒性能を持たせるのに有用なSrTiO及びその固溶体を析出させる効果があるが、RO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、光触媒結晶が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、RO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。本発明において、RO成分は任意成分であるが、これらの成分を含有する場合、その効果を発現するためには、RO成分の総量の下限を好ましくは0.1%、より好ましくは1%、最も好ましくは3%とすることが良い。
【0057】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスから光触媒結晶の析出を促進し、且つAl3+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0058】
ZrO成分は、化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が10%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは7%、最も好ましくは5%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0059】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の析出を促進し、且つNb5+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が25%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは25%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0060】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、光触媒結晶の析出を促進し、且つTa5+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0061】
Nb成分、Ta成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の総量は25%以下であることが好ましい。これより多いと、ガラスセラミックスの安定性が悪くなり、良好なガラスセラミックスを形成できなくなる。より好ましくは、20%、最も好ましくは15%を上限とする。なお、Nb成分、Ta成分はいずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスセラミックスを得ることは可能であるが、光触媒特性をさらに向上することができる。
【0062】
As成分及びSb成分は、ガラスセラミックスを清澄し脱泡する成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5.0%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0063】
なお、ガラスセラミックスを清澄し脱泡する成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0064】
上記成分以外にも、本発明のガラスセラミックスには、他の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0065】
Ga成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスから光触媒結晶の析出を促進し、且つGa3+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0066】
HfO成分は、化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つHf4+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、HfO成分の含有量が10%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するHfO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは7%、最も好ましくは5%を上限とする。HfO成分は、原料として例えばHfO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0067】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0068】
SnO成分は、光触媒結晶の析出を促進し、光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0069】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスセラミックスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が30%を超えると、光触媒結晶が析出しくい傾向が強くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0070】
GeO成分は、上記したSiOと相似な働きを有する成分で、溶融ガラスの安定性に寄与する。母ガラス部材の屈折率や粘性調整のために添加できる任意成分であるが、希少鉱物資源であり高価であるため、10%を超えないことが好ましく、より好ましくは5%以下、最も好ましくは一切含有しない。
【0071】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であるとともに、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0072】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる成分である。特にLa3+イオン、Ce3+イオン、Eu2+イオン(溶融条件により生じる)はSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、Ln成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばSc、Y、YF、La、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、CeO、Nd、Sm、Eu、Gd、GdF、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0073】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)は、SrTiO結晶相に固溶するか、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与する。また、一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、本発明のガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和を10%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性を高め、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。各種酸化物、塩化物、硫化物等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0074】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であるとともに、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がり、且つBi3+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Bi成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0075】
PbO、CdO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であるとともに、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がり、且つPb2+、Cd2+イオンがSrTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、PbO及びCdOは近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0076】
本発明のガラスセラミックスには、F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で10%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する非金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラスセラミックス中に導入するのが好ましい。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、N成分の原料としてAlN、SiN等、S成分の原料としてNaS,Fe,CaS等、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF、SrF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等、C成分の原料としてTiC、SiC又はZrC等を用いることで、ガラスセラミックス内に含有することができる。なお、これらの原料は、一体的に添加してもよいし、独立に添加してもよい。
【0077】
本発明のガラスセラミックスには、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、及びRhから選ばれる少なくとも1種の金属成分が含まれていてもよい。これらの金属成分は、結晶相の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる効果があるため、任意に添加できる。更にCuはSrTiO結晶に固溶し、光触媒活性を高める効果もある。しかし、これらの金属成分の含有量の合計が5%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、良好なガラスセラミックスが得られなくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する金属成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばAgO、AuCl、PtCl等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。なお、本明細書における金属成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0078】
本発明のガラスセラミックスは、その組成が酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではない。しかし、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
TiO成分5〜50質量%
SrO成分4〜70質量%及び/又は
SiO成分15〜70質量%
LiO成分0〜20質量%及び/又は
NaO成分0〜25質量%及び/又は
O成分0〜35質量%及び/又は
RbO成分0〜40質量%及び/又は
CsO成分0〜45質量%及び/又は
BeO成分0〜20質量%及び/又は
MgO成分0〜25質量%及び/又は
CaO成分0〜30質量%及び/又は
BaO成分0〜50質量%及び/又は
ZnO成分0〜25質量%及び/又は
Al成分0〜20質量%及び/又は
ZrO成分0〜15質量%及び/又は
Nb成分0〜40質量%及び/又は
Ta成分0〜40質量%及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜3質量%
【0079】
また、本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までの波長の光がガラスセラミックスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックスを防汚用途や抗菌用途、水質等の浄化用途等に用いることができる。なお、本発明ではガラスセラミックス作製時に他のイオンがチタン酸ストロンチウム結晶相に固溶され、チタン酸ストロンチウムのバンドギャップエネルギーが小さくなるため、可視光に対しても有効な応答効果を示すガラスセラミックスを得ることができる。ここで、本発明のガラスセラミックスの触媒活性は、分解活性指数で表した場合、3.0nmol/l/min以上とする。ここで、本発明のガラスセラミックスの分解活性指数は、日本工業規格JIS R1703−2:2007に基づいて求めることができる。
【0080】
本発明のガラスセラミックスは、光触媒機能性ガラスセラミックス部材として様々な機械、装置、器具類等の用途に利用できる。特に、防汚機能や防曇機能を要する、タイル、窓枠、建材、家電製品等の用途に用いることが好ましい。本発明のガラスセラミックスは成形性に優れており、材料自体が光触媒機能を有するので、特性の劣化を気にすることなくあらゆる形状にて利用できる。例えば、ビーズやファイバー形状にして、浄化フィルタや脱臭フィルタとして用いることができる。また、粉末状にしたものを釉薬の原料に用いて光触媒特性を有する釉薬層を形成することも可能である。
【0081】
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について説明する。
【0082】
<第1実施形態>
本発明のガラスセラミックスの製造方法の第1実施形態は、原料組成混合物を溶融しその融液を得、その後冷却、固化させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法である。この手法は、例えば所望の結晶相をリッチに析出し、且つガラス溶融液の状態が比較的不安定な場合などにおいて有効である。より具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金又は耐火物などからなる容器に入れて、電気炉で1200℃から1600℃の所定温度で加熱し保持して、溶融液を作製する。その後、溶融液を金型に流し込み固化させて、目的の結晶化ガラスを得る。ここで、溶融温度は、混合する組成物の種類及び量により適宜変更することが好ましい。また、耐火物容器の例として石英ガラス、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、スカルポット等があるが、特に限定されない。
【0083】
ここで、溶融液が冷却する過程で結晶核の生成及び成長が起きる。融液の冷却速度を制御しつつ、金型に流し込み、結晶核の生成及び成長が起きる結晶化温度領域まで冷却する(第一冷却工程)。結晶化温度領域に到達してからガラスに結晶が析出するが、前記領域の温度、前記温度領域での滞在時間、前記温度領域内での冷却速度などをコントロールすることで、目的とする結晶の種類、サイズ及び結晶相の量を制御することができる(結晶化工程)。結晶化温度領域は一定の冷却速度で通過しても良いし、又は、一定の時間、特定温度に維持するようにしても良い。冷却する際の速度及び温度が結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが非常に重要である。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域の範囲外まで冷却し結晶が分散したガラスセラミックスを得る(第二冷却工程)。
【0084】
<第2実施形態>
本発明のガラスセラミックスの製造方法の第2実施形態は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラス体を得る冷却工程と、前記ガラス体の温度をガラス転移温度を超えた温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を再び下げ結晶分散ガラスを得る再冷却工程を有するガラスセラミックスの製造方法である。
【0085】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶融して攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び量等に応じて、適宜設定することができる。
【0086】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラス体を作製する工程である。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。
【0087】
(結晶化工程)
結晶化工程は、ガラス体の温度をガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持する工程である。この結晶化工程で所定の温度領域で所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するチタン酸ストロンチウムおよび/又はその固溶体結晶をガラス体の内部に均一に分散させることができ、光触媒活性を有するガラスセラミックスをより確実に製造できる。
【0088】
上記の結晶化工程でガラス組成ごとにガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定する必要があるが、具体的にガラス転移温度より10℃以上の高い温度領域で熱処理するのが好ましい。本発明のガラスは、好ましい熱処理温度(結晶化温度)の下限は580℃で、より好ましくは600℃で、最も好ましくは650℃である。他方、熱処理温度が高くなり過ぎると、チタン酸ストロンチウム結晶相が減少する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、熱処理温度の上限は1100℃が好ましく、1050℃がより好ましく、1000℃が最も好ましい。この温度範囲は<第1実施形態>でガラスセラミックスを作製する場合に通過又は維持する結晶化温度領域にも適用される。
【0089】
結晶化雰囲気は特に制御しなくても良いが、酸化性、不活性、還元性でも良い。雰囲気を制御することで、チタン酸ストロンチウム結晶に欠陥を導入し、光触媒活性を高めることができる。例えば、還元性ではSrTiO3−xで示される酸素欠陥である。
【0090】
(エッチング工程)
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラス体は、そのままの状態でもガラスセラミックスとして高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相を取り除き、表面に露出する結晶相の比表面積を大きくすることで、ガラスセラミックスの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体を得ることが可能である。ここで、エッチング工程としては、ドライエッチング及び/又は溶液への浸漬が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0091】
[光触媒]
以上のようにして製造されるガラスセラミックスは、そのまま、あるいは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。ここで「光触媒」は、例えば、バルクの状態、粉末状などその形状は問わない。また、光触媒は、紫外線や可視光等の光によって有機物を分解する作用を有するものであればよい。この光触媒は、例えば光触媒材料、光触媒部材(例えば水の浄化材、空気浄化材など)等として利用できる。
【0092】
[ガラスセラミックス成形体]
このようにして作製されるガラスセラミックス成形体は、光触媒機能性ガラスセラミックス成形体として様々な機械、装置、器具類、水質浄化等の用途に有用であり、特に、タイル、窓枠、建材、濾過材等の用途に用いることが好ましい。これにより、ガラスセラミックス成形体の表面に光触媒機能が奏され、ガラスセラミックス成形体の表面に付着した菌類が殺菌されるため、これらの用途に用いたときに表面を衛生的に保つことができる。
【0093】
本発明のガラスセラミックスは膜やコーティング層などを有さず、単体で光触媒特性を呈するので、剥離による触媒活性劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省け、例えばフィルタ及び浄化装置に好適に用いられる。例えば、本発明のガラスセラミックス成形体は、用途に応じて、種々の形態に加工することができる。特に、例えばビーズや繊維(ガラスファイバー)の形態を採用することにより、チタン酸ストロンチウム結晶相の露出面積が増えるため、ガラスセラミックス成形体の光触媒活性をより高めることができる。光触媒機能を利用したフィルタ部材及び浄化装置は、装置内で光源となる部材に光触媒材料が隣接した構成である場合が多いが、ビーズや繊維などの形状であれば装置内の容器などに簡単に納められるので好適に利用できる。
【0094】
以下、本発明のガラスセラミックスの代表的な実施形態として、ガラスセラミックス繊維、粉粒体、スラリー状混合物、ガラスセラミックス焼結体、ガラスセラミックス複合体等を例に挙げて説明する。
【0095】
[ガラス粉粒体]
本発明に係るガラス粉粒体は、ガラス内に光触媒特性を有する光触媒結晶を含む結晶相を含有するか、あるいは、加熱されることにより、ガラス内に前記結晶相を生成させ得るものである。この結晶相はガラス粉粒体を構成する非晶質のガラスの内部及び表面に均一に分散して存在し、又は生成する。ガラス粉粒体は、後述するガラスセラミックス焼結体及びガラスセラミックス複合体の製造にも使用できる。
【0096】
「ガラス粉粒体」が結晶を含む場合は、ガラス粉粒体は光触媒特性を有している。このようなガラス粉粒体は、原料組成物から得られたガラス体を粉砕した後、結晶化させるか、あるいは原料組成物から得られたガラス体を熱処理して結晶化させた後に粉砕することにより得られる。本明細書では、このように結晶を含むガラス粉粒体を「ガラスセラミックス粉粒体」と記すことがある。一方、「ガラス粉粒体」が結晶相を含まない場合は、ガラス粉粒体は光触媒特性を有しておらず、ガラス粉粒体を加熱することにより、結晶相を析出させることができる。本明細書では、このように、熱処理によって光触媒特性を有する結晶を生成させることができるガラス粉粒体を「未結晶化ガラス粉粒体」と記すことがある。単にガラス粉粒体というときは、「ガラスセラミックス粉粒体」と「未結晶化ガラス粉粒体」の両方を含む意味で用いる。
【0097】
次に、本発明のガラスセラミックス粉粒体と未結晶化ガラス粉粒体の製造方法について、別々に説明する。なお、本発明のガラス粉粒体の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0098】
(1)ガラスセラミックス粉粒体の製造方法
ガラスセラミックス粉粒体は、特に限定されるものではないが、例として以下の2通りの方法で製造することができる。
【0099】
製造方法A1:
この製造方法A1は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体に熱処理を施し、ガラスセラミックスを作製する結晶化工程と、ガラスセラミックスを粉砕してガラスセラミックス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有することができる。
【0100】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融し、固化させてガラス化することで、ガラス体を作製する。ガラス化工程は、上記代表的製法例の溶融工程及び冷却工程に準じて行うことができる。尚、浮遊帯域溶融法等でもガラス化工程は可能であり、必ずしも容器を用いなくてもよい。
【0101】
(結晶化工程)
結晶化工程では、ガラス体に熱処理を施し、ガラスセラミックスを作製する。結晶化工程により、ガラス体の内部及び表面に光触媒結晶を含む結晶相が析出するため、後で、ガラス粉粒体中に光触媒結晶を含む結晶相を確実に含有させることができる。熱処理の条件(温度、時間)は、ガラス体の組成、必要とされる結晶化の程度等に応じて、適宜設定することができる。結晶化工程は、上記代表的製法例と同様の条件で実施できる。
【0102】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラスセラミックスを粉砕してガラスセラミックス粉粒体を作製する。なお、ガラスセラミックスの粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。また、目的とする粒径になるまで、粉砕機の種類を変えながら粉砕工程を行うことも可能である。
【0103】
製造方法A2:
製造方法A2は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、ガラスセラミックス粉粒体を作製する結晶化工程と、を有することができる。
【0104】
(ガラス化工程)
ガラス化工程は、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。このガラス化工程は、製法方法A1のガラス化工程と同様に上記代表的製法例の溶融工程及び冷却工程に準じて行うことができる。
【0105】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する。この粉砕工程は、結晶化されていないガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製することを除き、製法方法A1における粉砕工程と同様に実施できる。
【0106】
(結晶化工程)
結晶化工程では、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、ガラスセラミックス粉粒体を作製する。結晶化工程により、ガラスセラミックスの内部及び表面に光触媒結晶を含む結晶相が析出する。この結晶化工程における熱処理の条件(温度、時間)は、ガラス体に代えて未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を行う点を除き、製法方法A1における結晶化工程と同様に実施できる。
【0107】
(2)未結晶化ガラス粉粒体の製造方法
製造方法A3:
未結晶化ガラス粉粒体の製造方法は、特に限定されるものではないが、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有することができる。つまり、ガラスセラミックス粉粒体の製造方法A2における結晶化工程を除くこと以外は、上記製造方法A2と同様に実施できる。これにより、光触媒特性を有する結晶を含有しないが、後の加熱によって該結晶を生成し得る未結晶化ガラス粉粒体を製造できる。
【0108】
なお、未結晶化ガラス粉粒体を加熱して結晶を生成させる際の熱処理の方法は、ガラスセラミックス粉粒体の製造方法で説明した上記結晶化工程と同様に実施できる。ただし、任意の基材に塗布するなどして担持させている場合は、基材の耐熱温度に応じて熱処理温度を調節することが好ましい。
【0109】
(添加工程)
本発明の製造方法A1〜A3は、ガラス粉粒体に任意の成分を混合することにより、当該成分を増量させる添加工程を含むことができる。この工程は、製造方法A1〜A3において粉砕工程の後に行うことが好ましく、後から熱処理(結晶化工程)を行う製造方法A2において熱処理(結晶化工程)の前に行うことが最も好ましい。添加工程でガラス粉粒体に添加する成分としては、特に制限はないが、ガラス粉粒体の段階で増量させることによって当該成分の機能を増強させ得る成分や、ガラス化が難しくなるために溶融ガラスの原料組成物には少量しか配合できない成分などを混合することが好ましい。なお、本明細書では、本工程でガラス粉粒体に他の成分を混合した後の状態を「粉粒混合物」と総称することがある。添加工程を行った場合は、添加工程以降に行われる各工程において、添加工程を行わない場合の「ガラス粉粒体」を「粉粒混合物」に置き換える以外は同様に実施できる。
【0110】
(光触媒結晶の添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、ガラス粉粒体に結晶状態のTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶等の光触媒活性を有する結晶(光触媒結晶)を添加して粉粒混合物を作製する添加工程を有してもよい。本発明方法では、光触媒結晶を混合しなくても、ガラス体から光触媒結晶を含む結晶相を生成することができる。しかし、既に結晶状態の光触媒結晶をガラス粉粒体に添加することで、結晶の量を増加させ、光触媒結晶を豊富に含有し、光触媒機能が増強されたガラス粉粒体を製造できる。
【0111】
光触媒結晶の混合量は、ガラス体の組成、製造工程における温度等に応じ、所望の量の光触媒結晶の結晶がガラス粉粒体を用いた材料中に存在するよう、適宜設定することができる。本発明のガラス粉粒体に、特定の結晶が有する光触媒機能を付与するために前記結晶を混合する場合、その添加した成分の効果を発現するためには、結晶状態の光触媒結晶の量の下限は、粉粒混合物に対する質量比で1%、より好ましくは5%、最も好ましくは10%とすることが好ましい。他方、混合する結晶状態の光触媒結晶の量の上限は、粉粒混合物に対する質量比で95%であることが好ましく、より好ましくは80%、最も好ましくは60%である。なお、複数種類の光触媒結晶を混合する場合は、合計量が上記の上限値及び下限値の範囲内であることが好ましい。
【0112】
ガラス粉粒体に添加する光触媒結晶の原料粒子サイズは、光触媒活性を高める観点から出来るだけ小さい方がよい。しかし、原料粒子サイズが小さ過ぎると、熱処理の際にガラスと反応し、結晶状態を保つことができずに消失するおそれがある。また、原料粒子が細かすぎると、製造工程における取り扱いが難しくなる問題もある。一方で、原料粒子サイズが大きすぎると、原料粒子の形態で最終製品に残りやすく、所望の光触媒特性を得にくい傾向が強くなる。従って、原料粒子のサイズは11〜500nmの範囲内が好ましく、21〜200nmの範囲内がより好ましく、31〜100nmの範囲内が最も好ましい。
【0113】
(非金属元素成分の添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、N成分、S成分、F成分、Cl成分、Br成分、及びC成分からなる群より選ばれる1種以上を含む添加物を、前述のガラス粉粒体又は粉粒混合物に添加する添加工程を有してもよい。これらの非金属元素成分は、前述したようにガラス体を作製する前のバッチやカレットを作る段階で原料組成物の成分の一部として配合しておくことも可能である。しかし、ガラス体を作製してからこれらの非金属元素成分をガラス粉粒体に混合する方が、導入が容易であるとともに、その機能をより効果的に発揮させることができるため、より高い光触媒特性を持つガラス粉粒体を容易に得ることが可能になる。
【0114】
非金属元素成分を添加する場合、その混合量は、ガラス体の組成等に応じ、適宜設定することができる。ガラス粉粒体の光触媒機能を充分に向上させる観点から、非金属成分の合計として、粉砕したガラス体又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、最も好ましくは0.1%以上を添加することが効果的である。他方、過剰に添加すると光触媒特性が低下し易くなることから、混合量の上限は、非金属成分の合計として、粉砕したガラス又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは20.0%であり、より好ましくは10.0%であり、最も好ましくは5.0%である。
【0115】
非金属元素成分を添加する場合の原料としては、特に限定されないが、N成分はAlN、SiN等、S成分はNaS、Fe、CaS等、F成分はZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分はNaCl、AgCl等、Br成分はNaBr等、C成分はC、TiC、SiC又はZrC等を用いることができる。なお、これらの非金属元素成分の原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0116】
(金属元素成分の添加)
本発明の製造方法A1〜A3は、Cu、Ag、Au、Pd、Re及びPtからなる群より選ばれる1種以上からなる金属元素成分をガラス粉粒体又は粉粒混合物に添加する添加工程を有してもよい。これらの金属元素成分は、前述したようにガラス体を作製する前のバッチやカレットを作る段階で原料組成物の成分の一部として配合しておくことも可能である。しかし、ガラス体を作製してからこれらの金属元素成分をガラス粉粒体に混合する方が、導入が容易であるとともに、その機能をより効果的に発揮させることができるため、より高い光触媒特性を持つガラス粉粒体を容易に得ることが可能になる。金属元素成分を添加する場合、その混合量は、ガラス体の組成等に応じ、適宜設定することができる。ガラス粉粒体の光触媒機能を充分に向上させる観点から、金属元素成分の合計として、粉砕したガラス体又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上、最も好ましくは0.01%以上を添加することが効果的である。他方、過剰に添加すると光触媒特性が低下し易くなることから、混合量の上限は、金属元素成分の合計として、粉砕したガラス又はその粉粒混合物に対する質量比で好ましくは10%であり、より好ましくは5%であり、最も好ましくは3%である。なお、金属元素成分を添加する場合の原料としては、特に限定されないが、例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、HPtCl、PdCl等を用いることができる。なお、これらの金属元素成分の原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0117】
添加物としての金属元素成分の粒子径や形状は、ガラス体の組成、光触媒結晶の量、結晶型等に応じ、適宜設定することができるが、ガラス粉粒体の光触媒機能を最大に発揮するには、金属元素成分の平均粒子径は、できるだけ小さい方がよい。従って、金属元素成分の平均粒子径の上限は、好ましくは5.0μmであり、より好ましくは1.0μmであり、最も好ましくは0.1μmである。
【0118】
(表面処理工程)
本発明の製造方法A1〜A3は、以上のようにして得られるガラス粉粒体に、エッチング等の表面処理を行う工程(表面処理工程)をさらに有していてもよい。この工程は、特に製造方法A1およびA2により得られるガラスセラミックス粉粒体に対して行うことが好ましい。エッチングは、例えば酸性もしくはアルカリ性の溶液へガラス粉粒体を浸漬することによって実施できる。このようにすれば、ガラス相が溶けてガラス粉粒体の表面を凹凸状態にしたり、多孔質の状態にしたりすることができる。その結果、光触媒結晶を含む結晶相の露出面積が増加するため、より高い光触媒活性を得ることができる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラス粉粒体の光触媒結晶を含む結晶相以外のガラス相等を腐蝕することが可能であれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸など)を用いることができる。
【0119】
また、エッチングの別の方法として、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラス粉粒体の表面に吹き付けることでエッチングを行ってよい。
【0120】
[ガラスセラミックス繊維]
本発明のガラスセラミックス繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0121】
ガラス繊維の、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスセラミックス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0122】
また、ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明のガラスセラミックス繊維は、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0123】
次に、本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法について説明する。本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液又は融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、該繊維の温度を、ガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含むことができる。なお、上記代表的製法例として説明したガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0124】
(溶融工程)
上記代表的製法例と同様に実施できる。
【0125】
(紡糸工程)
次に、溶融工程で得られた融液からガラス繊維へ成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形することができるが、上記代表的製法例に準じて、例えば、ブローイング法、スピニング法等により急速冷却と同時に成形を行うことが好ましい。なお、巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)又はMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしたりしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ったりすることができる。
【0126】
(結晶化工程)
次に、上記プロセスによって得られた繊維又は繊維構造体を再加熱し、繊維の中及び表面に所望の結晶を析出させる結晶化工程を行う。結晶化工程は、上記代表的製法例と同様の条件で実施できる。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し光触媒結晶が分散したガラスセラミックス繊維又は繊維構造体を得ることができる。
【0127】
なお、前述したような、繊維体成形後に結晶化する手法の他に、紡糸工程におけるガラス繊維の温度を制御し、結晶化工程が同時に行われるようにしても良い。
【0128】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体繊維を得ることが可能である。エッチング工程は、上記代表的製法例と同様に実施できる。
【0129】
[スラリー状混合物]
以上のようにして得られる本発明のガラス粉粒体(ガラスセラミックス粉粒体及び未結晶化ガラス粉粒体)を、任意の溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製できる。これにより、例えば基材上への塗布等が容易になる。具体的には、ガラス粉粒体に、溶媒及び/又は無機もしくは有機バインダーを添加することによりスラリーを調製できる。
【0130】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0131】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子等を挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0132】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0133】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。
【0135】
本発明のスラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、最も好ましくは5質量%を下限とし、スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%、最も好ましくは65質量%を上限とすることができる。
【0136】
本発明のスラリー状混合物は、ガラス粉粒体を溶媒に分散させることによって製造できる。すなわち、本発明のスラリー状混合物の製造方法は、以下の製造方法B1〜B3のいずれかによって行うことができる。なお、本発明のスラリー状混合物の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0137】
製造方法B1:
製造方法B1は、ガラスセラミックス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体に熱処理を施し、ガラスセラミックスを作製する結晶化工程と、ガラスセラミックスを粉砕して前記ガラスセラミックス粉粒体を作製する粉砕工程と、ガラスセラミックス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0138】
製造方法B2:
製造方法B2は、ガラスセラミックス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する別の方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体に熱処理を施し、ガラスセラミックス粉粒体を作製する結晶化工程と、ガラスセラミックス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0139】
製造方法B3:
製造方法B3は、未結晶化ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して未結晶化ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、未結晶化ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。
【0140】
以上の製造方法B1〜B3では、混合工程以外は、上記製造方法A1〜A3と同様に実施できるので、各工程の詳細は説明を省略する。混合工程は、ガラスセラミックス粉粒体又は未結晶化ガラス粉粒体を上記溶媒に分散させることにより行うことができる。また、上述の添加工程や表面処理工程も含めることができる。
【0141】
本発明のスラリー状混合物の製造方法B1〜B3は、さらに、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を有することができる。ガラス粉粒体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集しやすくなる傾向がある。ガラス粉粒体が凝集していると、スラリー状混合物中での均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。そのため、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を設けることが好ましい。凝集体の除去は、例えば、スラリー状混合物を濾過することにより実施できる。スラリー状混合物の濾過は、例えば所定の目開きのメッシュなどの濾過材を用いて行うことができる。
【0142】
また、本発明のスラリー状混合物はガラス粉粒体の他に、前述したガラスセラミックス繊維及び/又はガラス繊維(未結晶化ガラス繊維)を短くカットしたものを用いることで同様のスラリー状混合物とすることができる。
【0143】
以上の方法で得られる本発明のガラス粉粒体及びこれを含有するスラリー状混合物は、光触媒機能性素材として、例えば塗料、成形/固化が可能な混練物などに配合して使用することができる。
【0144】
[ガラスセラミックス焼結体]
本発明に係るガラスセラミックス焼結体は、ガラス粉を含む粉状の材料を固化・焼結させたものであって、少なくともチタン酸ストロンチウム結晶を含む結晶を含有しており、その結晶相はガラスセラミックス焼結体の内部及び表面に均一に分散している。ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、主要な工程として、ガラス化工程、粉砕工程、成形工程、及び焼結工程を有する。各工程の詳細を以下説明する。
【0145】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを急速冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。溶融及びガラス化の条件は、上記代表的製法例の溶融工程及び冷却工程に準じて行うことができる。また、ガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。
【0146】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する。粉砕ガラスの粒子径や形状は、成形工程で作製される成形体の形状及び寸法の必要とされる精度に応じて適宜設定することができる。例えば、後の工程で任意の基材上に粉砕ガラスを堆積させた後、焼結を行う場合、粉砕ガラスの平均粒子径は数十mmの単位でもよい。一方、ガラスセラミックスを所望の形状に成形したり、他の結晶と複合したりする場合は、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると成形が困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μm、最も好ましくは10μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0147】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0148】
(添加工程)
粉砕ガラスに任意の成分を混合することにより、当該成分を増量させる添加工程を含むことができる。この工程は、粉砕工程の後、成形工程の前に行うことができる任意の工程である。この添加工程は、上記ガラスセラミックス粉粒体の製造方法で説明した添加工程に準じて実施できる。
【0149】
(成形工程)
成形工程は、粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する工程である。所望の形状にする場合は、破砕ガラスを型に入れて加圧するプレス成形を用いることが好ましい。また、粉砕ガラスを耐火物の上に堆積させて成形することも可能である。この場合、前述のスラリー状混合物を用いることもできる。
【0150】
(焼結工程)
焼結工程では、カラス成形体を加熱して焼結体を作製する。これにより、成形体を構成するガラス体の粒子同士が結合すると同時にチタン酸ストロンチウム結晶を含む結晶が生成し、ガラスセラミックスが形成される。また、例えば成形体が粉砕ガラスに光触媒結晶を添加した混合物から製造される場合は、より多くの光触媒活性を有する結晶がガラスセラミックスに生成される。そのため、より高い光触媒活性を得ることができる。
【0151】
焼結工程の具体的な手順は特に限定されないが、成形体に予熱を加える工程、成形体を設定温度へと徐々に昇温させる工程、成形体を設定温度に一定時間保持する工程、成形体を室温へと徐々に冷却する工程を含んでいてもよい。
【0152】
焼結の条件は、成形体を構成するガラス体の組成に応じて適宜設定することができる。焼結工程では、ガラスから結晶を生成させるために、熱処理温度等の条件を、成形体を構成するガラスの結晶化条件に符合させる必要がある。焼結温度が低すぎると所望の結晶を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での焼結が必要となる。具体的に、焼結温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくはTg+50℃以上であり、より好ましくはTg+100℃以上であり、最も好ましくはTg+150℃以上である。他方、焼結温度が高すぎると、チタン酸ストロンチウム結晶等の析出が減少し、光触媒活性が減少する傾向が強くなり、更に垂れと呼ばれる変形が生じてくる。従って、焼結温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃以下であり、より好ましくはTg+550℃以下であり、最も好ましくはTg+500℃以下である。
【0153】
また、成形体が結晶状態のチタン酸ストロンチウム結晶等の光触媒結晶を含む場合は、これらの結晶の量、結晶サイズ及び結晶型等を考慮して焼結条件を設定する必要がある。
【0154】
また、焼結時間の下限は、焼結温度に応じて設定する必要があるが、高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的に、焼結を充分に行うことができる点で、好ましくは3分、より好ましくは20分、最も好ましくは30分を下限とする。一方、焼結時間が48時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、焼結時間の上限は、好ましくは48時間、より好ましくは24時間、最も好ましくは20時間とする。なお、ここで言う焼結時間とは、焼結工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている時間の長さを指す。
【0155】
焼結工程は、例えばガス炉、マイクロ波炉、電気炉等の中で、空気交換しつつ行うことが好ましい。ただし、この条件に限らず、例えば不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、酸化ガス雰囲気、真空雰囲気、熱間静水圧プレス等にて行ってもよい。
【0156】
焼結工程によって形成されるガラスセラミックス焼結体は、結晶相に、チタン酸ストロンチウム結晶及びその固溶体結晶のうち1種以上からなる結晶が含まれている。これらの結晶が含まれていることにより、ガラスセラミックス焼結体は高い光触媒機能を有することができる。
【0157】
また、本発明のガラスセラミックス焼結体にはガラス粉粒体の他に、前述したガラスセラミックス繊維及び/又はガラス繊維(未結晶化ガラス繊維)を短くカットしたものを用いることで同様のものを作ることができる。
【0158】
[ガラスセラミックス複合体]
本発明において、ガラスセラミックス複合体(以下「複合体」と記すことがある)とは、ガラスを熱処理して結晶を生成させることで得られるガラスセラミックス層と基材とを備えたものであり、このうちガラスセラミックス層は、具体的には非晶質固体及び結晶からなる層である。ガラスセラミックス層は、チタン酸ストロンチウム結晶及びその固溶体結晶からなる群より選択される1種以上の結晶を含有し、その結晶相はガラスセラミックスの内部及び表面に均一に分散している。
【0159】
本発明に係るガラスセラミックス複合体の製造方法は、原料組成物から得られた粉砕ガラスを基材上で焼成して、チタン酸ストロンチウム結晶及びその固溶体結晶を含有するガラスセラミックス層を形成する工程(焼成工程)を有する。本発明方法における好ましい態様では、原料組成物を溶融しガラス化することでガラス体を作成するガラス化工程、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程、及び粉砕ガラスを基材上で焼成することによりガラスセラミックス層を形成する焼成工程を含むことができる。
【0160】
なお、本実施の形態において「粉砕ガラス」とは、原料組成物から得られたガラス体を粉砕することにより得られるものであり、非晶質状態のガラスの粉砕物と、結晶相を有するガラスセラミックスの粉砕物と、ガラスの粉砕物中に結晶相を析出させたものと、を包含する意味で用いる。すなわち、「粉砕ガラス」は結晶相を有する場合と有しない場合がある。粉砕ガラスが結晶相を有する場合、ガラス体を熱処理して結晶相を析出させた後で粉砕することによって製造してもよいし、ガラス体を粉砕した後に熱処理を行って粉砕ガラス中で結晶相を析出させることにより製造してもよい。なお、「粉砕ガラス」が結晶相を含まない場合は、粉砕ガラスを基材上に配置し、焼成温度を制御することで、結晶相を析出させることができる(結晶化処理)。
【0161】
ここで、結晶化処理は、例えば、(a)ガラス化工程後・粉砕工程の前、(b)粉砕工程後・焼成工程の前、(c)焼成工程と同時、の各タイミングで実施できる。この中でも、ガラスセラミックス層の焼結が容易でバインダーが不要になることや、プロセスの簡素化によるスループットの向上、省エネルギーなどの観点から、上記(c)の焼成工程と同時に、焼成の中で結晶化処理を行うことが好ましい。しかし、複合体を構成する基材として耐熱性が低いものを使用する場合には、上記(a)ガラス化工程後・粉砕工程の前、又は(b)粉砕工程後・焼成工程の前、のタイミングで結晶化を行うことが好ましい。
【0162】
以下、各工程の詳細を説明する。
【0163】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを急速冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。溶融及びガラス化の条件は、上記代表的製法例の溶融工程及び冷却工程に準じて行うことができる。また、ガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。
【0164】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する。粉砕ガラスを作製することにより、ガラス体が比較的に小粒径化されるため、基材上への適用が容易になる。また、粉砕ガラスとすることで他の成分を混合することが容易になる。粉砕ガラスの粒子径や形状は、基材の種類及び複合体に要される表面特性等に応じて適宜設定することができる。具体的には、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると基材上に所望形状のガラスセラミックス層を形成するのが困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μm、最も好ましくは10μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0165】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0166】
(添加工程)
粉砕ガラスに任意の成分を混合することにより、当該成分を増量させる添加工程を含むことができる。この工程は、粉砕工程の後、成形工程の前に行うことができる任意の工程である。この添加工程は、上記ガラスセラミックス粉粒体の製造方法で説明した添加工程に準じて実施できる。
【0167】
(焼成工程)
焼成工程では、粉砕ガラスを基材上に配置した後に加熱して焼成を行うことで、複合体を作製する。これにより、光触媒結晶を含む結晶相を有するガラスセラミックス層が基材上に形成される。ここで、焼成工程の具体的な手順は特に限定されないが、粉砕ガラスを基材上に配置する工程と、基材上に配置された粉砕ガラスを設定温度へと徐々に昇温させる工程、粉砕ガラスを設定温度に一定時間保持する工程、粉砕ガラスを室温へと徐々に冷却する工程を含んでよい。
【0168】
<基材上への配置>
まず、粉砕ガラスを基材上に配置する。これにより、より幅広い基材に対して、光触媒特性を付与することができる。ここで用いられる基材の材質は特に限定されないが、光触媒結晶と複合化させ易い点で、例えば、ガラス、セラミックス等の無機材料や金属等を用いることが好ましい。
【0169】
粉砕ガラスを基材上に配置するには、粉砕ガラスを含有するスラリーを、所定の厚み・寸法で基材上に配置することが好ましい。これにより、光触媒特性を有するガラスセラミックス層を容易に基材上に形成することができる。ここで、形成されるガラスセラミックス層の厚さは、複合体の用途に応じて適宜設定できる。ガラスセラミックス層の厚みを広範囲に設定できることも、本発明方法の特長の一つである。ガラスセラミックス層が剥がれないように十分な耐久性を持たせる観点から、その厚みは、例えば500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。スラリーを基材上に配置する方法としては、例えばドクターブレード法やカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、インクジェット、バブルジェット(登録商標)、オフセット等の印刷法、ダイコーター法、スプレー法、射出成型法、押し出し成形法、圧延法、プレス成形法、ロール成型法等が挙げられる。
【0170】
なお、粉砕ガラスを基材上に配置する方法としては、上述のスラリーを用いる方法に限られず、粉砕ガラスの粉末を基材に直接載せてもよい。また、基材上へ配置する粉砕ガラスが熱処理によって既に結晶を含む場合、その結晶化度によっては、有機又は無機バインダー成分と混合して、あるいはバインダー層を基材との間に介在させて配置することもできる。この場合、光触媒作用に対する耐久性の面で、無機バインダーが好ましい。
【0171】
<焼成>
焼成工程における焼成の条件は、粉砕ガラスを構成するガラス体の組成、混合された添加物の種類及び量等に応じ、適宜設定することができる。具体的に、焼成時の雰囲気温度は、基材に配置された粉砕ガラスの状態によって後述する二通りの制御を行うことができる。
【0172】
第1の焼成方法は、基材上に配置された粉砕ガラスに所望の光触媒結晶が既に生成している場合であり、例えば、ガラス体又は粉砕ガラスに対して結晶化処理が施されている場合が挙げられる。この場合の焼成温度は、基材の耐熱性を考慮しつつ1100℃以下の温度範囲で適宜選択できるが、焼成温度が1100℃を超えると、生成した光触媒結晶が他の結晶へと転移し易くなる。従って、焼成温度の上限は、好ましくは1100℃であり、より好ましくは1050℃であり、最も好ましくは1000℃である。
【0173】
第2の焼成方法は、基材上に配置された粉砕ガラスが未だ結晶化処理されておらず、光触媒結晶を有していない場合である。この場合は焼成と同時にガラスの結晶化処理を行う必要がある。焼成温度が低すぎると所望の結晶相を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での焼成が必要となる。具体的に、焼成温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+50℃であり、より好ましくはTg+100℃であり、最も好ましくはTg+150℃である。他方、焼成温度が高くなりすぎると光触媒結晶を含む結晶相が減少し光触媒特性が消失する傾向があるので、焼成温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃であり、より好ましくはTg+550℃であり、最も好ましくはTg+500℃である。
【0174】
また、焼成時間は、ガラスの組成や焼成温度などに応じて設定する必要がある。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは3分、より好ましくは5分、最も好ましくは10分を下限とする。一方、熱処理時間が48時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、焼成時間の上限は、好ましくは48時間、より好ましくは24時間、最も好ましくは20時間とする。なお、ここで言う焼成時間とは、焼成工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている期間の長さを指す。
【0175】
また、本発明のガラスセラミックス複合体のガラスセラミックス層を形成するにあたって前記のガラス粉粒体の他に、前述したガラスセラミックス繊維及び/又はガラス繊維(未結晶化ガラス繊維)を短くカットしたものを用いることで同様のものを作ることができる。
【0176】
[ガラス]
本発明のガラスは、加熱することにより、ガラスから光触媒活性を有する結晶を含む結晶相を生成し、上記ガラスセラミックスとなるものである。つまり、本発明のガラスは、ガラスセラミックスの前駆体として用いることができる。このような未結晶化状態のガラスは、上記に挙げた種々の形態、例えば、ビーズ状、ファイバー状の形態、板状、粉粒状などの形態、基材との複合体、あるいはガラスを含有するスラリー状混合物の形態等をとることができる。
【実施例】
【0177】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
【0178】
表1〜3に、本発明の実施例1〜16、比較例1〜3の原料のガラス組成、熱処理(結晶化)条件、およびこれらのガラスに析出した主結晶相の種類を示した。
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
【表3】

【0182】
実施例1〜13:
実施例1〜13のガラスセラミックスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから急冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表1〜3の各実施例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った。その後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を主相として有するガラスセラミックスを得た。
【0183】
実施例14、15:
実施例14、15のガラスセラミックスは、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表2に示した実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから急冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、ボールミルにて粉砕処理を行い、145メッシュ(目開き106μm)以下の粉粒体としたもの金型に充填、一軸加圧プレス1t/cm以上で加圧成形し、成形体を得た。表2の実施例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化と焼結を行った。その後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を有するガラスセラミックス焼結体を得た。
【0184】
実施例16:
実施例16のガラスセラミックスは、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表2に示した実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから急冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、ボールミルにて粉砕処理を行い、145メッシュ(目開き106μm)以下の粉粒体としたものを蒸留水溶媒に分散させ、スラリー状混合物とした。このスラリーを、コージエライト質の素焼き板に塗布、80℃で乾燥後、表に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化と焼付けを行った。その後、結晶化温度から冷却して、目的の結晶相を有し、表面光沢があるガラスセラミックス複合体を得た。
【0185】
比較例1:
比較例1のサンプルは、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表3に示した組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから急冷してガラスを作製した。結晶化は行わなかった。
【0186】
比較例2〜4:
比較例2〜4のガラスセラミックスは、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表3に示した比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから急冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表3の比較例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った。その後、結晶化温度から冷却してガラスセラミックスを得た。
【0187】
ここで、実施例1〜16および比較例1〜3のガラスセラミックスの析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0188】
表1〜3に表されるように、実施例1〜16のガラスセラミックスの析出結晶相には、いずれも光触媒活性を有するSrTiO系結晶が主結晶相として含まれていた。一方、結晶化処理を行っていない比較例1及び結晶化温度が低い比較例2はガラスであり、SrOを含有しない比較例3ではBelcovite(Ba(Nb4.8,Ti1.2)Si25.4)が表面結晶化し、比較例4ではParanatisite(NaTiSiO)結晶を含有していた。
【0189】
実施例9のXRDの結果を図1に示し、実施例9と同様の成分組成で結晶化条件(温度)を650〜900℃と変えて結晶化を行い、X線回折(XRD)分析から結晶化度(質量%)を算出した結果を図2に示した。入射角2θ=32.4°付近のピークを用い、検量線は未焼ガラス粉粒体とチタン酸ストロンチウム試薬(高純度化学製99%)で準備し、標準はLaB(NIST製)を用いた。
【0190】
また、実施例1〜16、比較例1〜3で得られたガラスセラミックスのそれぞれについて、日本工業規格JIS R1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数の評価を行った。MBの分解能力の評価結果は、表1〜3に併記した。
【0191】
より具体的には、以下のような手順でメチレンブルーの分解活性指数を求めた。0.020mMのメチレンブルー水溶液(以下、吸着液とする)と0.010mMのメチレンブルー水溶液(以下、試験液とする)を調製した。そして、試料の表面と、石英管(内径10mm、高さ30mm)の一方の開口と、を高真空用シリコーングリース(東レ・ダウコーニング株式会社製)で固定し、石英管の他方の開口から吸着液を注入して試験セルを吸着液で満たした。その後、石英管の他方の開口と吸着液の液面とをカバーガラス(松浪ガラス工業株式会社製、商品名:白縁磨フロストNo.1)で覆い、光が当たらないようにしながら、12〜24時間にわたって吸着液を試料に十分に吸着させた。吸着後の吸着液について、分光光度計(日本分光株式会社製、型番:V−650)を用いて波長664nmの光に対する吸光度を測定し、この吸着液の吸光度が試験液について同様に測定された吸光度よりも大きくなった時点で、吸着を完了させた。
このとき、試験液について測定された吸光度(Abs(0))とメチレンブルー濃度(c(0)=10[μmol/L])の値から、下式(1)を用いて換算係数K[μmol/L]を求めた。
K=c(0)/Abs(0)・・(1)
次いで、カバーガラスを取り外して石英管内の液を試験液に入れ替えた後、石英管の他方の開口と吸着液の液面とをカバーガラスで再度覆い、1.0mW/cm2の紫外線を照射した。そして、紫外線を60分、120分及び180分間にわたり照射した後における波長664nmの光に対する吸光度を測定した。
紫外光の照射を開始してt分後に測定された吸光度Abs(t)の値から、下式(2)を用いて、紫外光の照射を開始してt分後のメチレンブルー試験液の濃度C(t)[μmol/L]を求めた。ここで、Kは上述の換算係数である。
C(t)=K×Abs(t)・・(2)
そして、上述により求められたC(t)を縦軸にとり、紫外線の照射時間t[min]を横軸にとってプロットを作成した。このとき、プロットから得られる直線の傾きa[μmol/L/min]を最小二乗法によって求め、下式(3)を用いて分解活性指数R[nmol/L/min]を求めた。
R=|a|×1000・・(3)
【0192】
表1及び表2に示したように、実施例1〜16のガラスセラミックスはいずれもMB分解活性指数が3.0nmol/l/min以上であり、MB分解活性を有することが確認できた。
【0193】
以上の実験結果が示すように、SrTiO結晶等を高濃度に含有する実施例1〜15のガラスセラミックスは、優れた光触媒活性を有しており、かつ光触媒結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0194】
一方、比較例1、2のガラスセラミックスはいずれもMB分解活性指数が0nmol/l/minであり、MB分解活性を有していないと確認できた。比較例3は表面結晶化したが、その結晶はチタン酸ストロンチウム系固溶体結晶ではなく、Ba(Nb4.8,Ti1.2)Si25.4であることが確認できた。MB分解活性指数を評価したところ、0nmol/l/minであった。更に比較例4は多孔質であり、MB水溶液を透過するため、MB分解活性指数の測定ができなかった。
【0195】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸ストロンチウム(SrTiO)及び/またはその固溶体の結晶を含有し、光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でTiO成分を5〜50%、及びSrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有する請求項1記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
RnO成分 0〜40%、及び/又は
RO成分 0〜50%、及び/又は
Al成分 0〜20%、及び/又は
ZrO成分 0〜10%、及び/又は
Nb成分及び/又はTa成分 0〜25%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 0〜5%
の各成分を含有する請求項1または2記載のガラスセラミックス。
(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから群より選ばれる1種以上、RはMg、Ca、Ba、Znからなる群より選ばれる1種以上とする)
【請求項4】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から3いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
日本工業規格JIS R1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/l/min以上である請求項1から4いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
請求項1から5いずれか記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液の温度を結晶化温度領域まで低下させる第一冷却工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る第二冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記結晶化温度領域は、580℃以上1100℃以下である請求項6又は7記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項9】
請求項1から5いずれか記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【請求項10】
粉粒状又はファイバー状の形態を有する請求項9記載の光触媒。
【請求項11】
請求項10記載の光触媒と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【請求項12】
請求項9又は10いずれか記載の光触媒を含む光触媒機能性部材。
【請求項13】
粉砕ガラスを焼結させてなる焼結体であって、前記焼結体中に、請求項1から5のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする焼結体。
【請求項14】
得られるガラス体が、酸化物換算組成のモル%で、TiO成分を5〜50%、SrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、前記粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する成形工程と、前記成形体を加熱して焼結体を作製する焼結工程と、を含む方法により製造されるものである請求項13に記載の焼結体。
【請求項15】
前記方法は、前記粉砕ガラスにTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶から選ばれる1種以上の結晶を混合する工程を、さらに含む請求項14記載の焼結体。
【請求項16】
基材と、この基材上に設けられた光触媒機能層とを有する複合体であって、前記光触媒機能層が、請求項1から5いずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【請求項17】
得られるガラス体が酸化物基準のモル%で、TiO成分を5〜50%、SrO成分を2〜50%、SiO成分を10〜85%含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、前記粉砕ガラスを基材上に配置した後に加熱し焼成を行う焼成工程と、を含む方法により製造されるものである請求項16記載の複合体。
【請求項18】
前記方法は、前記粉砕ガラスにTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶から選ばれる1種以上の結晶を混合する工程を、さらに含む請求項17記載の複合体。
【請求項19】
加熱することにより、ガラスから光触媒活性を有する結晶を生成し、請求項1から5のいずれかに記載のガラスセラミックスとなるガラス。
【請求項20】
粉粒状、又はファイバー状の形態を有する請求項19記載のガラス。
【請求項21】
請求項20に記載のガラスと、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−241092(P2011−241092A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101189(P2010−101189)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】