説明

ガラスラン

【課題】摺動抵抗が十分に小さく、耐摩耗特性に優れ、さらに、長期にわたり異音の発生を抑制することができるガラスランを提供する。
【解決手段】基底部2および該基底部2から延びる一対の側壁部3からなる断面略コ字状をなす本体部4と、上記側壁部3双方の略先端から本体部4内側に延びる一対のシールリップ部5とを有し、上記本体部4が、ドアガラス9開口部に沿って設けられたドアサッシュ8の内周に取着されてなるガラスラン1であって、上記シールリップ部5の少なくともドアガラス9の外内面に摺接する部分および上記基底部2の少なくともドアガラス9の端縁と摺接する部分の少なくとも一方に、超高分子量ポリエチレン樹脂にカーボン粉末を配合したシート材を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のガラスランに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のドアガラス開口部周縁には、摺動するドアガラスの周縁部をシールするガラスランが設けられている。ガラスランは、その断面方向から見ると、基底部および該基底部からドアガラス開口部内周方向に延びる一対の側壁部よりなる略コ字状の本体部と、両側壁部の略先端から本体部内側に延びる一対のシールリップとを有し、本体部がドアサッシュに取着され、ドアガラスの車内側および車外側が一対のシールリップによりシールされる構造を有する。
【0003】
ドアガラスの昇降に伴い、ドアガラスとガラスランとの摺動が発生するため、ガラスランにはドアガラスに対する耐摩耗特性と、摺動時に異音を抑制する性能とが要求される。また、自動車のドアから侵入する騒音(風切り音、ロードノイズなど)を低減するため、ドアガラスを閉じた状態でドアガラスとガラスランとの隙間を少なくするシール性の向上も要求されている。
【0004】
これらの要求に対し、ガラスランを構成する素材としては、本体部にエチレン-α-オレフィン非共役ジエン共重合体などを用い、ドアガラスと摺接する基底部およびシールリップの表面に、当該基底部およびシールリップよりも硬いオレフィン系熱可塑性エラストマ(TPO)等を用いた摺動部を設けてガラスランの耐久性を向上させるといった技術がある(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、この技術を改良してドアガラスをよりスムースに摺動させるため、基材がオレフィン系熱可塑性エラストマで形成され、シールリップの少なくともドアガラスの外内面に摺接する部分はポリオレフィン系の樹脂ビーズを配合したオレフィン系組成物で被覆されたガラスランが開示されている(特許文2献参照)。
【0006】
その他、基材がエチレンプロピレンゴムなどのポリオレフィン系エラストマで形成され、ガラス端面が摺接する溝底部に、平均分子量100万〜500万の超高分子量ポリエチレンが基材に熱融着されているガラスランも開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3334619号公報
【特許文献2】特開2006−182210号公報
【特許文献3】特公平5−74487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載のガラスランは、ドアガラスの摺動に起因して発生する異音を効果的に抑制することができるが、耐久性が十分でないという問題があった。また、特許文献3に記載のガラスランは、ガラス端面が摺接する部位において耐摩耗特性が大幅に向上するとともにガラスランの経時的摺動抵抗の増大がほとんどなくなるものであったが、絶対的な摺動抵抗が十分に小さくないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、摺動抵抗が十分に小さく、耐摩耗特性に優れ、さらに、長期にわたり異音の発生を抑制することができるガラスランを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラスランは、基底部および該基底部から延びる一対の側壁部からなる断面略コ字状をなす本体部と、上記側壁部双方の略先端から本体部内側に延びる一対のシールリップ部とを有し、上記本体部が、自動車のドアガラス開口部に沿って設けられたドアサッシュの内周に取着されてなるガラスランであって、上記シールリップ部の少なくともドアガラスの外内面に摺接する部分および上記基底部の少なくともドアガラスの端縁と摺接する部分の少なくとも一方に、超高分子量ポリエチレン(以下、UHMWPEと記す)樹脂にカーボン粉末を配合したシート材を備えたことを特徴とする。
【0011】
上記UHMWPE樹脂は、分子量100万〜400万の非射出成形性のUHMWPE樹脂であることを特徴とする。
【0012】
上記UHMWPE樹脂100重量部に対して、上記カーボン粉末が2〜15重量部配合されていることを特徴とする。
【0013】
上記超高分子量ポリエチレン樹脂に、さらに、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配合されていることを特徴とする。また、該粉末が上記UHMWPE樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部配合されていることを特徴とする。
【0014】
上記本体部および上記シールリップ部が弾性体からなることを特徴とする。また、上記弾性体が、合成ゴムまたはエラストマであることを特徴とする。また、上記弾性体が、エチレン−プロピレン系ゴムであることを特徴とする。また、上記弾性体が、発泡体であることを特徴とする。
【0015】
上記カーボン粉末が、カーボンブラックであることを特徴とする。また、上記カーボンブラックは、一次粒子径が30〜38nmであることを特徴とする。
【0016】
上記PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が、平均粒子径1〜30μmの粉末であることを特徴とする。また、上記PTFE樹脂粉末が、アルキルビニルエーテルで変性された変性PTFE樹脂粉末であることを特徴とする。また、上記黒鉛粉末が、固定炭素98.5重量%以上の人造黒鉛であることを特徴とする。また、上記シリコーン樹脂粉末が、球状のシリコーン樹脂粉末であることを特徴とする。
【0017】
上記シート材の厚さは、0.04〜1.0mmであることを特徴とする。また、上記シート材が上記本体部に一体成形されていることを特徴とする。
【0018】
上記シート材の表面は、上記UHMWPE樹脂の粒子同士の粒界に上記カーボン粉末が配されていることを特徴とする。また、上記シート材の表面は、上記UHMWPE樹脂の粒子同士の粒界に、上記PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガラスラン(請求項1)は、基底部および該基底部から延びる一対の側壁部からなる断面略コ字状をなす本体部と、側壁部の双方の略先端から本体部内側に延びる一対のシールリップ部とを有し、本体部が、自動車のドアガラス開口部に沿って設けられたドアサッシュの内周に取着されてなり、上記シールリップ部の少なくともドアガラスの外内面に摺接する部分および上記基底部の少なくともドアガラスの端縁と摺接する部分の少なくとも一方に、UHMWPE樹脂にカーボン粉末を配合したシート材を備えるので、ドアガラスとの摺接部分において耐摩耗特性と低摩擦特性に優れ、異音の発生を抑制できる。
【0020】
請求項2に記載のガラスランは、シート材を構成するUHMWPE樹脂が、分子量100万〜400万の非射出成形性のUHMWPE樹脂であるので、耐摩耗特性と低摩擦特性がさらに優れる。
【0021】
請求項3に記載のガラスランは、カーボン粉末がUHMWPE樹脂100重量部に対して2〜15重量部配合されているので、耐摩耗特性と低摩擦特性が長期にわたり安定する。
【0022】
請求項4に記載のガラスランは、シート材を構成するUHMWPE樹脂に、カーボン粉末に加えて、PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配合されているので、カーボン粉末のみを配合する場合よりも、異音の発生を抑制できる。
【0023】
請求項5に記載のガラスランは、PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末がUHMWPE樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部配合されているので、異音の発生をより抑制できる。
【0024】
請求項6に記載のガラスランは、本体部およびシールリップ部が弾性体からなるので、ガラスとの密着性に優れ、砂やほこり等の異物混入を防止できる。
【0025】
請求項7に記載のガラスランは、弾性体が合成ゴムまたはエラストマであるので、成形が容易であり製造コストを低く抑えることができる。
【0026】
請求項8に記載のガラスランは、弾性体がエチレン−プロピレン系ゴムであるので、シート材との同時加硫による一体成形が可能となる。
【0027】
請求項9に記載のガラスランは、弾性体が発泡体であるので、ガラスとの密着性に優れ、砂やほこり等の異物混入を防止できる。
【0028】
請求項10に記載のガラスランは、カーボン粉末がカーボンブラックであるので、安定した低摩擦特性を得ることができる。また、請求項11に記載のガラスランは、カーボンブラックの一次粒子径が30〜38nmであるので、長期にわたりより安定した低摩擦特性を得ることができる。
【0029】
請求項12に記載のガラスランは、PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が、平均粒子径1〜30μmの粉末であるので、少量の配合量でも異音の発生を抑制できる。
【0030】
請求項13、14、15に記載のガラスランは、PTFE樹脂粉末がアルキルビニルエーテルで変性された変性PTFE樹脂粉末であるので、また、黒鉛粉末が固定炭素98.5重量%以上の人造黒鉛であるので、また、シリコーン樹脂粉末が球状のシリコーン樹脂粉末であるので、異音発生の抑制に加えて、摩擦抵抗がより低くなり低摩擦特性に優れる。また、耐摩耗特性が低下しない。
【0031】
請求項16に記載のガラスランは、シート材の厚さが0.04〜1.0mmであるので、ガラスとの密着性が損なわれることがない。
【0032】
請求項17に記載のガラスランは、UHMWPE樹脂の粒子同士の粒界にカーボン粉末が配されているので、シート材の表面からカーボン粉末が脱落しにくく、上記の耐摩耗特性、低摩擦特性、および異音抑制効果などが長期的に継続する。
【0033】
請求項18に記載のガラスランは、UHMWPE樹脂の粒子同士の粒界にPTFE樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配されているので、シート材の表面からこれらの粉末が脱落しにくく、上記の耐摩耗特性、低摩擦特性、および異音抑制効果などが長期的に継続する。
【0034】
請求項18に記載のガラスランは、シート材が本体部に一体成形されているので、取り扱い性に優れる。また、ドアガラスとの摺接によってシート材および本体部が変形しても、シート材が弾性体から脱離することがない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のガラスランを示す一部切欠き斜視図である。
【図2】図3のA−A線で切断した、本発明のガラスランを示す断面図である。
【図3】自動車ドアを示す自動車の側面の一部切欠図である。
【図4】本発明に用いるシート材の動摩擦係数を示す図である。
【図5】本発明に用いるシート材の摩耗深さを示す図である。
【図6】実施例3のシート材表面の拡大写真およびその模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のガラスランを図面に基づいて説明する。図1は本発明のガラスランを示す一部切欠き斜視図であり、図2は図3のA−A線で切断した、本発明のガラスランを示す断面図である。図3は自動車ドアを示す自動車の側面の一部切欠図である。図3に示すように、本発明のガラスラン1は、自動車のドアサッシュ8に取り付けられてドアガラス9の外周縁部をシールするものである。図1および図2に示すように、このガラスラン1は、基底部2および該基底部2から延びる一対の側壁部3からなる断面略コ字状をなす本体部4と、両側壁部3の双方の自由端から本体部4の内側へ延びる二つのシールリップ部5と、基底部2の表面に被覆された基底部シート材6と、シールリップ部5の表面に被覆されたリップ部シート材7とを備えている。本体部4およびシールリップ部5は合成ゴムまたはエラストマなどの弾性体で一体成形されている。
【0037】
本体部4およびシールリップ部5を形成する弾性体としては、エチレン−プロピレン系ゴムの採用が好ましい。エチレン−プロピレン系ゴムは、耐薬品性、耐摩耗性、耐防振性に優れるため、ガラスランの本体部4およびシールリップ部5に好適に使用できる。また、エチレン−プロピレン系ゴムは、UHMWPE樹脂製のシート材との同時加硫において、加硫接着剤の使用が不要になる。中でもエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、EPDMと記す)は、通常の硫黄加硫が可能であり、加硫時間も短くできるため特に好ましい。
【0038】
また、本体部4およびシールリップ部5を形成する弾性体は、発泡体であることが好ましい。弾性体を発泡体とすることで、摺動変形時に必要なエネルギーが小さく容易に変形することができるため、ガラスとの密着性が向上し、異音の発生防止、砂や埃等の異物の混入を防止できる。
【0039】
図2に示すように、ドアガラス9の昇降に伴い、基底部シート材6はドアガラスの端縁と摺接する部分であり、リップ部シート材7はドアガラスの外内面に摺接する部分である。基底部シート材6およびリップ部シート材7は、UHMWPE樹脂に少なくともカーボン粉末を配合した樹脂組成物からなるシート材である。
【0040】
本発明に用いるシート材のベース樹脂であるUHMWPE樹脂は、非射出成形性のUHMWPE樹脂であることが好ましい。UHMWPE樹脂は、エチレンを重合して得られる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレン(PE)樹脂の通常2万〜30万の分子量を、50万〜700万までに高めたPE樹脂であり、このものは非粘着性、低摩擦特性を有し、絶縁性が高く静電気を帯びやすい。UHMWPE樹脂の中でも特に分子量が100万をこえるものは、溶融時の粘度が極めて高く、ほとんど流動しないため、通常の射出成形法によって成形することは非常に困難であり、圧縮成形またはラム押出し成形によって成形される。このような非射出成形性のUHMWPE樹脂は、射出成形可能なUHMWPE樹脂より低摩擦特性であり、また、耐摩耗特性にも優れているため、相手材であるガラスに擦り傷を付けることなく、自己の摩耗も極めて少ない。よって、耐摩耗特性および低摩擦特性の経時的安定性が優れるようになる。非射出成形性UHMWPE樹脂からシート材を形成するには、圧縮成形によって円筒形に成形した後、かつら剥きのように切削加工することで行なう。
【0041】
本発明に用いる非射出成形性UHMWPE樹脂の重量平均分子量は、100万〜400万であることが好ましい。分子量をこの範囲とすることで、低摩擦特性がさらに優れ、耐摩耗特性が向上する。このような非射出成形性UHMWPE樹脂としては、三井化学社製、商品名ハイゼックスミリオン(重量平均分子量50万〜600万)、ミペロン(重量平均分子量200万)が挙げられる。
【0042】
UHMWPE樹脂は、もともと耐摩耗特性と低摩擦特性を併せ持つが、カーボン粉末を配合することでさらに耐摩耗特性と低摩擦特性が向上する。カーボン粉末としては、コストパフォーマンスに優れるカーボンブラックがある。カーボンブラックは、形状異方性が無いため安定した低摩擦特性を得ることができる。
【0043】
カーボンブラックとしては、サーマルブラック法、アセチレンブラック法などの分解法、チャンネルブラック法、ガスファーネスブラック法、オイルファーネスブラック法、松煙法、ランプブラック法などの不完全燃焼法のいずれの製法で製造されたものも使用できるが、摩擦安定性の観点からファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)が好ましく用いられ、このうちケッチェンブラックが特に摩擦安定性に優れるためより好ましい。
【0044】
特に、一次粒子径が30〜38nmのカーボンブラックを採用すると少量の配合量であっても低摩擦特性が非常に安定するシート材となるので好ましい。このようなカーボンブラックとしては、ケッチェンブラックインターナショナル社製ケッチェンブラックEC−600JDが挙げられる。カーボン粉末を少量配合することによるメリットは、シート材を製造する上での均一分散性であり、これにより低摩擦特性の不安定化を抑えることができる。
【0045】
カーボン粉末の配合量は、UHMWPE樹脂100重量部に対して、2〜15重量部であることが以下の理由から好ましい。カーボン粉末の配合量が2重量部より少量であれば、UHMWPE樹脂にさらに耐摩耗特性と低摩擦特性を付与する効果が乏しく、15重量部より多量に配合してもそれ以上の効果が得られない。むしろ、耐摩耗特性と低摩擦特性に悪影響を及ぼす傾向になる。
【0046】
PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末、シリコーン樹脂粉末のいずれか一以上の粉末を配合することにより、低摩擦特性を維持したまま異音の発生を効果的に防止することができるようになる。
【0047】
PTFE樹脂粉末は、成形用の粉末であってもよく、固体潤滑剤用の粉末であってもよい。また、アルキルビニルエーテルで変性された変性PTFE樹脂粉末であれば、低摩擦特性が向上するとともに耐摩耗特性が低下しないため好ましい。
【0048】
本発明において好ましい黒鉛粉末は、固定炭素98.5%以上の人造黒鉛である。そのような人造黒鉛は、低摩擦特性が向上するとともに耐摩耗特性が低下しないため好ましい。
【0049】
シリコーン樹脂粉末は、球状のシリコーン樹脂が低摩擦特性に優れ好適に使用できる。本発明におけるシリコーン樹脂粉末は、メチルシルセスキオキサン単位およびフェニルシルセスキオキサン単位からなるか、またはフェニルシルセスキオキサン単位からなり、メチルシルセスキオキサン単位は(CH3)SiO3/2、フェニルシルセスキオキサン単位は(C65)SiO3/2で示され、また、(CH32(C65)SiO1/2、(CH33SiO1/2、(C653SiO1/2、(CH3)(C652SiO1/2、(CH32SiO2/2、(C652SiO2/2、(CH3)(C65)SiO2/2およびSiO4/2を少量含んでいてもよい。上記球状のシリコーン樹脂は、耐摩耗特性の低下を防止する特性を有する。シリコーン樹脂粉末として、球状のシリコーン樹脂粉末を採用することにより、シート材の低摩擦特性が向上するとともに耐摩耗特性が低下しないため好ましい。
【0050】
PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末、シリコーン樹脂粉末のいずれか一以上の粉末の配合量は、UHMWPE樹脂100重量部に対して、0.5〜5重量部であることが以下の理由から好ましい。上記粉末の配合量が0.5重量部より少量であれば、異音防止効果に乏しく、5重量部より多量になればシート材の耐摩耗特性が低下するおそれがある。各粉末を、0.5〜5重量部配合することで、異音の発生をより効果的に防止することができる。
【0051】
各粉末を、平均粒子径が1〜30μmの範囲のものを使用することによって、少量の配合量であっても異音の発生を防止する効果を得ることができるため好ましい。各粉末の平均粒子径が30μm以下であれば、非射出成形性UHMWPE樹脂の粒子同士の界面に各粉末が均一に分散しやすくなり、少量の配合量であっても異音の発生を効果的に防止できるようになる。また、30μmより大径であればシート材の強度が低下するおそれがある。また、1μmより小径の場合、機能上の低下は無いが分散性が低下するおそれがあるため注意が必要となる。平均粒子径はマイクロトラック法により測定される。
【0052】
シート材の厚さは、0.04〜1.0mmであり、この範囲の厚みにすることでガラスとの密着性が向上する。シート材の厚さが0.04mmより薄いとシート材の取り扱い性が悪くなり、弾性体との接着や弾性体との加硫成形において金型内への配置が困難となる。1.0mmより厚くなると柔軟性が悪くなり、ガラスとの密着性が低下するため、ガラスランの機能が損なわれるおそれがある。
【0053】
シート材の製造方法は以下のとおりである。ベース樹脂である非射出成形性UHMWPE樹脂と、カーボン粉末と、PTFE樹脂粉末、黒鉛粉末、シリコーン樹脂粉末のいずれか一以上の粉末の各原料を秤量し、均一混合物とする。この均一混合物を成形金型内に投入し、予備成形、焼成、本成形からなる圧縮成形によって成形素材であるビレットを成形する。このビレットを旋盤に取り付け、かつら剥きのごとくスカイブ加工することによりシート材として製造する。
【0054】
シート材と本体部、シールリップ部とを同時加硫によって一体成形する方法としては、例えば、金型のキャビティの内面に沿ってシート材を配置し、型締めを行なった後、本体部、シールリップ部の材料となる未加硫ゴムをキャビティに注入し、その後金型内で、所定条件にて、シート材とゴムとを同時加硫させて一体成形することができる。なお、シート材と本体部、シールリップ部の接着は、上記同時加硫による一体成形に限定するものではなく、公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0055】
実施例および比較例に用いる原材料を一括して以下に示す。また、配合割合を表1に示す。
(1)非射出成形性UHMWPE樹脂:三井化学社製;ハイゼックスミリオン240S、重量平均分子量は200万である。
(2)射出成形可能UHMWPE樹脂:三井化学社製;リュブマー、重量平均分子量は50万である。
(3)カーボン粉末:ケッチェンブラックインターナショナル社製;ケッチェンブラックEC−600JD、1次粒子径は34nmである。
(4)PTFE樹脂粉末:喜多村社製;KTL−610、平均粒子径12μmである。
(5)黒鉛粉末:Timcal Graphite and Carbon社製;TIMREX KS−25、固定炭素99.9重量%、平均粒子径25μmである。
(6)シリコーン樹脂粉末:信越化学工業社製;KMP−590、平均粒子径2μmである。
(7)EPDM:住友化学社製;エスプレンEPDM 501A
【0056】
実施例1〜実施例4および比較例1の試験片は次のように製造した。
実施例1〜実施例4は、表1に示した配合割合でシート材の原材料をヘンシェルミキサー乾式混合機にてドライブレンドし、プレス機を用いて0.5MPaの圧力を加え、外径φ122mm、内径φ64mm、高さ100mmの円筒素形材を予備成形し、370℃で5時間焼成した。焼成された円筒素形材を用いて、スカイブ加工にて厚さ0.2mmのシート材を得た。このシート材を縦50mm、横50mmの形状にカットし、これをゴム成形金型内(縦50mm、横50mm、厚さ1.5mm)に配置して、EPDMの加硫成形によって縦50mm、横50mm、厚さ1.5mmの樹脂シートとEPDMの複合一体試験片を成形した。なお、加硫成形条件は、金型温度180℃、保持時間7分である。この複合一体試験片を幅10mmの短冊状にカットし、樹脂シート面を外側に二つ折りにして、二つ折りにした内側の間に2mmのスペーサを挟み込んで折り曲げ面とスペーサの間に、4mmの空隙が形成できるように両面テープでスペーサと複合一体試験片のゴム面を接着し摺動試験片を作製した。
【0057】
比較例1は、表1に示した配合割合でシート材の原材料をヘンシェルミキサー乾式混合機にてドライブレンドし、2軸溶融押出機によってペレットを製造した。このペレットを射出成形機で、直径40mm、幅10mmの円柱素形材に成形した後、この円柱素形材を切削加工して、厚さ0.2mm、横10mm、縦4mmに仕上げた。このカット材を発泡ポリウレタン樹脂(横10mm、縦4mm、厚さ5mm)に両面テープで接着し摺動試験片を作製した。
【0058】
これらの摺動試験片を用いて、ピンオンディスク型試験機により動摩擦係数および摩耗深さを測定した。試験条件は、相手材ディスクにガラス(日本板硝子株式会社製フロート板ガラス)を用い、荷重0.5N、滑り速度10m/min、無潤滑で、初期および10時間毎に測定し20時間まで測定を行なった。また、5時間ごとに異音の発生有無を確認した。測定後10時間まで異音の発生がないものを異音抑制性能に優れると評価して「○」を、測定後20時間まで異音の発生がないものを異音抑制性能に非常に優れると評価して「◎」を、それぞれ表1に併記する。摩耗深さは20時間後の測定値である。動摩擦係数の測定結果を図4に、摩耗深さの測定結果を図5に、それぞれ示した。また、これらの測定値を表1に併記する。また、実施例3のシート材表面の顕微鏡(×500)写真を図6に示す。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のガラスランは、摺動抵抗が十分に小さく、耐摩耗特性に優れ、さらに、長期にわたり異音を効果的に抑制することができるので、自動車のドアガラスに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 ガラスラン
2 基底部
3 側壁部
4 本体部
5 シールリップ部
6 基底部シート材
7 リップ部シート材
8 ドアサッシュ
9 ドアガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基底部および該基底部から延びる一対の側壁部からなる断面略コ字状をなす本体部と、前記側壁部双方の略先端から本体部内側に延びる一対のシールリップ部とを有し、前記本体部が、自動車のドアガラス開口部に沿って設けられたドアサッシュの内周に取着されてなるガラスランであって、
前記シールリップ部の少なくともドアガラスの外内面に摺接する部分および前記基底部の少なくともドアガラスの端縁と摺接する部分の少なくとも一方に、
超高分子量ポリエチレン樹脂にカーボン粉末を配合したシート材を備えたことを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
前記超高分子量ポリエチレン樹脂は、分子量100万〜400万の非射出成形性の超高分子量ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のガラスラン。
【請求項3】
前記超高分子量ポリエチレン樹脂100重量部に対して、前記カーボン粉末が2〜15重量部配合されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のガラスラン。
【請求項4】
前記超高分子量ポリエチレン樹脂に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配合されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のガラスラン。
【請求項5】
前記超高分子量ポリエチレン樹脂100重量部に対して、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が0.5〜5重量部配合されていることを特徴とする請求項4記載のガラスラン。
【請求項6】
前記本体部および前記シールリップ部が弾性体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項7】
前記弾性体が、合成ゴムまたはエラストマであることを特徴とする請求項6記載のガラスラン。
【請求項8】
前記弾性体が、エチレン−プロピレン系ゴムであることを特徴とする請求項6記載のガラスラン。
【請求項9】
前記弾性体が、発泡体であることを特徴とする請求項6、請求項7または請求項8記載のガラスラン。
【請求項10】
前記カーボン粉末が、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項11】
前記カーボンブラックは、一次粒子径が30〜38nmであることを特徴とする請求項10記載のガラスラン。
【請求項12】
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が、平均粒子径1〜30μmの粉末であることを特徴とする請求項4ないし請求項11のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項13】
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末が、アルキルビニルエーテルで変性された変性ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末であることを特徴とする請求項4ないし請求項12のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項14】
前記黒鉛粉末が、固定炭素98.5重量%以上の人造黒鉛であることを特徴とする請求項4ないし請求項12のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項15】
前記シリコーン樹脂粉末が、球状のシリコーン樹脂粉末であることを特徴とする請求項4ないし請求項12のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項16】
前記シート材の厚さは、0.04〜1.0mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項17】
前記シート材の表面は、前記超高分子量ポリエチレン樹脂の粒子同士の粒界に前記カーボン粉末が配されていることを特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項18】
前記シート材の表面は、前記超高分子量ポリエチレン樹脂の粒子同士の粒界に、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、黒鉛粉末およびシリコーン樹脂粉末から選ばれた少なくとも1つの粉末が配されていることを特徴とする請求項4ないし請求項17のいずれか一項記載のガラスラン。
【請求項19】
前記シート材が前記本体部に一体成形されていることを特徴とする請求項1ないし請求項18のいずれか一項記載のガラスラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184522(P2010−184522A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28380(P2009−28380)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】