説明

ガラス一体樹脂成形品及びその成形法

【課題】 常用されている熱硬化性樹脂に代えてより簡易な工程で実施できる熱可塑性樹脂を使用して、その接着強度が十分なガラス部材と樹脂成形体からなるガラス一体樹脂成形品を形成する。
【解決手段】 ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化して、ガラス一体樹脂成形品を得るガラス一体樹脂成形法において、当該樹脂として、熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物を使用する。熱可塑性樹脂としては、液晶ポリマー又は結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)が好ましく、前記ヒドロキシ基を含有する化合物としてはフェノキシ樹脂、エポキシ基を含有する化合物としてはエポキシ樹脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入して一体成形するガラス一体樹脂成形品及びその成形法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学系素子や紙幣自動読み取り機、複写機、ファクシミリ、イメージスキャナー等光学素子(光学部品)を用いる情報関連機器には、光学ガラス、光学ミラー等が多数使用されているが、当該ガラス部材は、機器本体への組み込み及び読み取り機能の精度向上のため,樹脂成形体と一体化し、ガラス一体樹脂成形品とする必要がある。
【0003】
当該一体化には、通常、接着材を用いて、ガラス部材と樹脂成形体を接着して組み立てる方法が行われているが、この方法では作業能率が悪くまた、組み立て時にホコリ等の異物混入の恐れがあり、さらには、接着品はガラス面と樹脂成形体との境界の平滑性に問題があった。
【0004】
このため、樹脂成形時にガラス部材と樹脂を一体成形する方法(ガラス一体樹脂成形法)が提案されている。これら提案は、主として、ガラス部材の金型内における載置方法(固定方法)に関するもので、その例として、ガラス部材を押圧部材を介して金型内に固定しこの金型へ樹脂を注入する方法(特許文献1を参照。)、ガラス部材を真空吸着させ、且つガラス部材を押圧部材を介して金型内に固定しこの金型へ樹脂を注入する方法(特許文献2を参照。)、ガラス部材を複数個のクランプシリンダによりフローティング状態でクランプする方法(特許文献3を参照。)、ガラス部材を載置した下部金型の入れ子を樹脂注入時に下方に移動させ、ガラス部材に過大の圧力がかからないようにするもの(特許文献4を参照。)等が提案されている。
【0005】
また、使用する樹脂に関するものとして、固定されているガラス部材へ炭素繊維を含有した低線膨張係数の樹脂組成物を注入し、反り量の改善されたガラス一体樹脂成形品を得る方法も提案されている(特許文献5を参照。)。
【0006】
従来、ガラス一体樹脂成形法において使用される樹脂としては、機械的強度が高く、耐溶剤性にすぐれ、比較的低圧で金型内に注入できること、及び成形品の寸法精度がよいこと等から、主として熱硬化性樹脂が使用されている。しかしながら、熱硬化性樹脂は、成形工程が煩雑で成形作業に長時間を要し、またバリ等が出やすくその研磨に余分の時間がかかるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平2−042403号公報(特許請求の範囲(請求項1〜2)、第1図〜第6図)。
【特許文献2】特開平5−208420号公報(特許請求の範囲(請求項1)、図1〜図2)
【特許文献3】特開2002−225091号公報(特許請求の範囲(請求項1〜4)、図1〜図17)
【特許文献4】特開2006−69082号公報(特許請求の範囲(請求項1〜6)、図1〜図3)
【特許文献5】特開平9−118830号公報(特許請求の範囲(請求項1〜3)、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ガラス一体樹脂成形法において常用されている熱硬化性樹脂に代えてより簡易な工程で実施できる熱可塑性樹脂を使用することを試みたが、ガラス部材と樹脂成形体からなるガラス一体樹脂成形品においては、樹脂とガラスとの接着強度が不十分であり、得られた樹脂成形品から、ガラス部材が僅かの力を印加しただけで容易に脱離する問題がしばしば発生することがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂に、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合することにより、当該樹脂とガラス部材との接着性が顕著に向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
本発明に従えば、以下のガラス一体樹脂成形法が提供される。
〔1〕
ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化するガラス一体樹脂成形法において、当該樹脂が、熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物であることを特徴とするガラス一体樹脂成形法。
【0011】
〔2〕
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー及び結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)から選ばれた樹脂であることを特徴とする〔1〕に記載のガラス一体樹脂成形法。
【0012】
〔3〕
前記分子中にヒドロキシ基を含有する化合物がフェノキシ樹脂であり、及び/又は、分子中にエポキシ基を含有する化合物がエポキシ樹脂であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のガラス一体樹脂成形法。
【0013】
〔4〕
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を1〜90質量部配合することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形法。
【0014】
〔5〕
ガラス部材における、樹脂と接する表面がシランカップリング剤及び/又はプライマーにて表面処理されているガラスを使用することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形法。
【0015】
また本発明に従えば、以下のガラス一体樹脂成品が提供される。
〔6〕
ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化してなるガラス一体樹脂成形品において、当該樹脂が、熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物であることを特徴とするガラス一体樹脂成形品。
【0016】
〔7〕
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー及び結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)から選ばれた樹脂であることを特徴とする〔6〕に記載のガラス一体樹脂成形品。
【0017】
〔8〕
前記分子中にヒドロキシ基を含有する化合物がフェノキシ樹脂であり、分子中にエポキシ基を含有する化合物がエポキシ樹脂であることを特徴とする〔6〕又は〔7〕に記載のガラス一体樹脂成形品。
【0018】
〔9〕
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を1〜90質量部配合することを特徴とする〔6〕〜〔8〕のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形品。
【0019】
〔10〕
ガラス部材における、樹脂と接する表面がシランカップリング剤及び/又はプライマーにて表面処理されているガラスを使用することを特徴とする〔6〕〜〔9〕のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形品。
【0020】
(発明の効果)
本発明によれば、熱可塑性樹脂に、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合することにより、当該樹脂とガラス部材との接着性を顕著に向上させることができるので、熱可塑性樹脂を使用して、より簡易な工程で、ガラス一体樹脂成形法を実施し、ガラス部材と樹脂成形体が強固に一体化されたガラス一体樹脂成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
(熱可塑性樹脂)
本発明のガラス一体樹脂成形法は、ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化するものであって、例えば添付図1に示したように、ガラス部材20の周縁に樹脂成形体10がこれと一体的に形成されたガラス一体樹脂成形品1が得られる。
【0022】
まず、本発明において特徴とするところは、ガラス一体樹脂成形法において、樹脂成形体のベースレジンとして従来常用されていた熱硬化性樹脂ではなく、熱可塑性樹脂を使用することである。
【0023】
本発明において適用できる熱可塑性樹脂としては、溶融成形によりガラス部材と一体成形し、ガラス一体樹脂成形できるものであれば、基本的に使用可能である。たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂、当該ポリエステル樹脂と他の樹脂との混合物、ポリマーアロイ、変性ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、及びこれらの変性樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリα−メチルスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、石油樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルエーテルニトリル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、変性ポリフェニレンオキシド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ノルボルネン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等各種の熱可塑性樹脂が例示される。
【0024】
(液晶ポリマー、結晶性樹脂)
これら熱可塑性樹脂のなかでは、低剪断応力のため溶融流動性に優れており金型へ低圧で注入出来、またバリが出にくいとう観点からは、液晶ポリマー及び結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)がより好ましい。
【0025】
液晶ポリマー(LCP)としては、液晶相の構造がネマチック液晶ポリマー、スメクチック液晶ポリマー、ディスコチック液晶ポリマーのいずれでもよく、また、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来、芳香族ジカルボン酸由来、芳香族ジオール由来のいずれの繰返し単位を主として有するものでもよい。特に溶融成形が可能なサーモトロピック液晶ポリマーが好ましい。
【0026】
これらは種々の物性のものが市販されており、いずれも好適に使用することが可能である。例えば、ロッドランLC−5000、LC−5000F、LC−5000H、(商品名、以上ユニチカ社製)、ザイダー SRT−300、SRT−500、FSR−315、RC−210、FC−110、FC−120、FC−130(商品名、以上日本石油化学社製)、エコノールE2000、エコノールE6000(商品名、以上住友化学工業社製)、EPE−240G30、ノバキュレートE322G30、E335G30、EPE−240G30(商品名、以上三菱化学社製)、ベクトラA950、ベクトラA130、ベクトラC130、ベクトラA230、ベクトラA410(商品名、以上ポリプラスチックス社製)、BIAC(商品名、ジャパンゴアテックス社製)、OCTA(商品名、大日本インキ化学工業社製)、Zenite(商品名、デュポン社製)、Novaccurate(商品名、三菱エンジニアリング社製)、SIVERAS(商品名、東レ社製)などが使用可能である。
【0027】
また、結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、芳香族ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド620、ポリアミド612、ポリアミドMDX6などのポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン等のポリスチレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂等が例示される。
結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましく、ポリフェニレンスルフィド樹脂が最も好ましい。
【0028】
本発明の成形法においては、樹脂成形体を形成する樹脂は、上記熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物である。ベース樹脂である熱可塑性樹脂に対し、ヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合することにより、樹脂成形体とガラス部材との接着性を大幅に向上させることができる。
【0029】
(フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂)
ヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物としては、熱可塑性樹脂を加熱溶融する際に発泡や分解しない化合物が好ましい。分子中にヒドロキシ基を含有する化合物としては、各種アルコール、ポリビニルアルコール及びその変性体や共重合体、ポリビニルブチラール、エチレングリコール、グリセリン、フェノールまたはフェノール樹脂、さらにこれらをエピクロルヒドリン等を用いて変性した化合物、フェノキシ樹脂、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、及びセルロース及びその誘導体、デンプン、キチン、キトサン、シクロデキストリン、トレハロース、パラチノース、マルトース等のオリゴ等の天然高分子等が挙げられる。また、分子中にエポキシ基を含有する化合物としては、グリシジルアルコール、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0030】
ここで特に好ましくはヒドロキシ基又はエポキシ基を含有する高分子化合物であり、特に、ヒドロキシ基又はエポキシ基を含有する樹脂が好ましく、前者としてフェノキシ樹脂が、後者としてエポキシ樹脂がより好ましい。
【0031】
フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAとビスフェノールFとの共重合型フェノキシ樹脂があげられる。フェノキシ樹脂の質量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算値)は、10,000〜200,000が好ましく、20,000〜100,000より好ましい。
【0032】
フェノキシ樹脂としては市販のものを選択可能であり、例えばPKHC、PKHH、PKHJ、PKHB、PKFE、PKHP(商品名、以上InChem Corp.社製)、YP−50、YP−50S、YP−55、YP−70、FX239(商品名、以上東都化成社製)、エピコートE1256、エピコートE4250、エピコートE4275(商品名、ユニオンカーバイ社製)、UCAR、PKHC、PKHH(商品名、以上東都化成社製)等を用いることができる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
ヒドロキシ基を有する高分子化合物中のヒドロキシ基の含有量は、0.01〜23モル/kg高分子が好ましく、0.1〜15モル/kg高分子がより好ましく、1〜10モル/kg高分子が最も好ましい。特に、フェノキシ樹脂においては、ヒドロキシ基の含有量のさらに好ましい範囲は、3〜7モル/kg高分子(樹脂)であり、最も好ましい範囲は、3〜5モル/kg高分子(樹脂)である。
【0034】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等のグリシジル型エポキシ樹脂などが例示される。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
エポキシ樹脂についても、フェノキシ樹脂と同様に、種々の物性のものが市販されており、その目的に合うものを選択して好適に使用することができる。
【0036】
エポキシ樹脂の質量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算値)は、700〜200,000が好ましく、900〜100,000がより好ましい。
【0037】
エポキシ基を有する高分子化合物中のエポキシ基の含有量は、0.01〜10モル/kg高分子が好ましく、0.1〜8モル/kg高分子がより好ましい。
フェノキシ樹脂とエポキシ樹脂はそれぞれを単独用いるほか、両者を併用して用いてもよい。
【0038】
本発明においては、熱可塑性樹脂にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物とする代わりに、当該ヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を、上記熱可塑性樹脂に予めグラフトさせたり、当該化合物で変性させることにより、当該ヒドロキシ基等を熱可塑性樹脂に導入したものでもよい。
【0039】
(配合割合)
本発明においては、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を1〜90質量部、好ましくは3〜80質量部配合した組成物とすることが好ましい。
【0040】
前記の化合物配合量があまり少ないと、樹脂組成物とガラス部材との十分な接着性を得ることができず、また配合量があまり多いと、ベース樹脂である熱可塑性樹脂の基本的な特性が阻害され強度の高い樹脂成形体自体を得ることが困難となったり、接着性もむしろ悪化することになるため好ましくない。この範囲にあると、樹脂組成物とガラス部材とが接着性に優れ、樹脂成形体の強度に優れる。
【0041】
(充填剤等)
さらに本発明においては、上記組成物に、その目的を損なわない範囲で充填材を配合することができる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、金属繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ビニロン繊維、麻繊維などの有機繊維が挙げられる。粉粒状、球状、フレーク状、針状、板状等の種々の形状の充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムなど挙げられる。板状充填材としては、マイカ、ガラスフレークなどが挙げられる。中空状充填材としては、シラスバルーン、ガラスバルーン、各種樹脂バルーンなどが挙げられる。これらの充填材は1種又は2種以上を併用することができる。
【0042】
本発明における樹脂組成物には、さらに、本発明の目的を逸脱しない範囲で着色剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、安定化剤、紫外線吸収剤、相溶化剤、分散剤、滑剤、離型剤、その他の添加剤を配合することができる。又、補助的に少量の他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。
【0043】
(樹脂組成物の調製)
本発明において前記組成物の混合は、種々の公知の方法で実施可能である。例えば、所定割合の(A)熱可塑性樹脂、(B)分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物、さらに必要に応じて(C)充填剤等の成分をV型ブレンダーやヘンシェルミキサーなどにより予備混合したのち、押出機により溶融混練する方法が挙げられる。また、各成分をそれぞれ個別に押出機に供給して溶融混練することも可能である。
【0044】
(ガラス部材)
本発明において使用するガラス部材としては、その形状が板状、長板状、矩形状、湾曲状、球状、円板状等特に限定するものでなく、またその大きさ、厚み等にも制限はない。
板状のガラス部材の場合は、単層ガラス、強化ガラス、複層ガラス、合わせガラス等いずれであってもよい。ガラスの材質としては、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス(クリスタルガラス)、ホウケイ酸ガラス、光学ガラス等いずれでもよい。なお、ガラス部材としては、透明な部材だけでなく、セラミックス部材でもよい。セラミックス部材としては、例えば炭化ケイ素、チッ化ケイ素、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウム等セラミックスが例示される。また、ガラス部材としては、無機ガラスだけでなく、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート、セルロイドのような有機ガラスでもよい。
【0045】
(表面処理)
本発明においては、前記ガラス部材における、樹脂と接する表面を、予めシランカップリング剤及び/又はプライマーにより表面処理することも好ましい態様である。かかるシランカップリング処理により、当該ガラス部材と熱可塑性樹脂との接着性をさらに向上させることができる。
【0046】
シランカップリング剤としては、ビニル基含有シランカップリング剤、スチリル基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、メタクリロイルオキシ基含有シランカップリング剤、アクリロイルオキシ基含有キシシランカップリング剤などが使用され、またプライマーとしては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などを溶剤希釈したプライマーを採用することができる。
【0047】
(成形)
本発明においては、かくして準備したガラス部材を金型内に載置し、上記樹脂組成物からなる溶融樹脂を注入し、ガラス一体樹脂成形する。かかるガラス一体成形は、射出成形やトランスファー成形、インサート成形などのモールド法により行われる。
【0048】
具体的には、あらかじめ金型にガラス部材を載置して金型を閉じ、次いで溶融状態の樹脂組成物を金型内に注入し、樹脂組成物の固化後に金型を開いて成形品を取り出すものである。金型としては、通常、少なくとも可動型(上型)と固定型(下型)からなるものが使用され、例えばこの固定型にガラス部材を載置し、可動型を閉じて、当該ガラス部材の周縁に、成形型キャビティー、すなわち溶融樹脂が流入し、樹脂成形体を形成させるべき成形用空隙部を画定する。当該キャビティーに、当該型に設けた流路(ランナー)から溶融樹脂を注入して樹脂成形体を形成し、冷却後に型を開いて本発明のガラス一体樹脂成形品が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし、これらは単なる実施の態様の一例であり、本発明の技術的範囲がこれらによりなんら限定的に解釈されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕
(1)熱可塑性樹脂として液晶ポリマー(ユニチカ社製、商品名ロッドランLC−5000F)を使用し、その100部に、ヒドロキシ基を有する化合物としてフェノキシ樹脂(InChem社製、商品名PKHH、ヒドロキシ基含有量3.4モル/kg樹脂)の40部を配合、及びさらに球状アルミナ(粒径5μm)の85部、ガラス繊維(ガラス繊維径10μm、長さ3mmのチョップドストランド)の10部をヘンシェルミキサーで5分間予備混合した。これをシリンダー温度290℃の押出機で溶融混練し表1に示す液晶ポリマー樹脂組成物のペレットを作製した。
【0051】
(2)次に、当該ペレットを射出成形機に供給し、シリンダー温度290℃、金型温度100℃で、板状のガラス部材(200mmL×5mmW×3mmH)を載置した金型内に、当該溶融樹脂を注入し、ガラスとの一体樹脂成形を行い、図1〜図2に示す、ガラス一体樹脂成形品1を得た。すなわち、図1は当該成形品の正面図であり、図2は成形品の図のA−A’線の矢視断面図である。なお図において、1は、ガラス一体樹脂成形品、10は樹脂成形体、20はガラス部材(ガラス板)である。
【0052】
(3)得られた成形品1の側面に図3に示すように、端部に切り欠き30を形成し、評価用試験片を作成した。当該試験片をインストロン型万能試験機を用いて、当該切り欠き30の無い面をチャッキングして試験速度2mm/minで引張荷重を加えて接着力を測定した。結果は表2に示す。なお、表1において、数字は樹脂組成物の各成分の配合量(質量部)を示す(以下、同じ。)
【0053】
〔実施例2〕
熱可塑性樹脂として実施例1と同じ液晶ポリマー(ユニチカ社製、LC−5000F)の100部に、エポキシ基を有する化合物として、固形のエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名jER1001、エポキシ当量450〜500、分子量900、エポキシ基含有量2.2モル/kg樹脂)の5部を配合し、さらに球状アルミナ(粒径5μm)の60部、ガラス繊維(ガラス繊維径10μm、長さ3mmのチョップドストランド)の10部を配合した以外は、実施例1と同様にしてペレット作製し、同様にして成形したガラス一体樹脂成形品について、評価を行った。結果は表2に示す。
【0054】
〔実施例3〕
実施例1と同じ液晶ポリマー(ユニチカ社製、商品名LC−5000F)の100部に、同じフェノキシ樹脂(InChem社製、商品名PKHH)の80部、球状アルミナ(粒径5μm)の60部、ガラス繊維(ガラス繊維径10μm、長さ3mmのチョップドストランド)の60部を配合する以外は、実施例1と同様にしてペレット作製し、同様にして成形したガラス一体樹脂成形品について、評価を行った。結果は表2に示す。
【0055】
〔比較例1〕
フェノキシ樹脂を配合しない以外は、実施例1と同様にしてペレット作製し、同様にして成形したガラス一体樹脂成形品について、評価を行った。結果は表2に示す。
【0056】
〔比較例2〕
エポキシ樹脂を配合しない以外は、実施例2と同様にしてペレット作製し、同様にして成形したガラス一体樹脂成形品について、評価を行った。結果は表2に示す。
【0057】
〔比較例3〕
実施例1と同じ液晶ポリマー(ユニチカ社製、商品名LC−5000F)の100部に、同じフェノキシ樹脂(InChem社製、商品名PKHH)の100部を配合し、さらに球状アルミナ(粒径5μm)の65部、ガラス繊維(ガラス繊維径10μm、長さ3mmのチョップドストランド)の65部を配合する以外は、実施例1と同様にしてペレット作製し、同様にして成形したガラス一体樹脂成形品について、評価を行った。結果は表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
(結果の考察)
実施例1〜3の結果を示す表1〜2より明らかなように、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーをベース樹脂として使用し、これに適当量のフェノキシ樹脂やエポキシ樹脂を配合した樹脂組成物を使用して、ガラス部材と一体成形することにより得られた本発明のガラス一体樹脂成形品は、インストロン型万能試験機を用いての接着力試験に示されているごとく、当該ガラス部材と樹脂成形体が強固に一体化しているものである。
【0061】
これに対して、比較例1〜3の結果を示す表1〜2より明らかなごとく、フェノキシ樹脂やエポキシ樹脂を配合せず、ベース樹脂である液晶ポリマーをそのまま使用した場合(比較例1〜2)や、ベース樹脂の特性を損なう程の大過剰のフェノキシ樹脂を配合した場合(比較例3)は、同様にして得られたガラス一体樹脂成形品は、接着力試験を行った場合、端部に切り欠き加工時にガラス板と樹脂成形体が容易に剥離してしまうものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ガラス一体樹脂成形法において、従来常用されている熱硬化性樹脂に代えて、熱可塑性樹脂を使用し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合することにより、当該樹脂とガラス部材との接着性を顕著に向上させることができるため、熱可塑性樹脂を使用するより簡易な工程で、ガラス一体樹脂成形法を実施し、ガラス部材と樹脂成形体が強固に一体化されたガラス一体樹脂成形品を得ることができる。
【0063】
本発明のガラス一体樹脂成形品は、光学系素子や紙幣自動読み取り機、複写機、ファクシミリ、イメージスキャナー、バーコード読み取り機用の光学素子(光学部品)として、あるいはさらに、自動車の窓部、フェンダーミラー、ルームミラー、等として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例のガラス一体成形品のガラス一体成形品の正面図である。
【図2】図1のガラス一体成形品のA−A’線の矢視断面図である。
【図3】本発明の実施例のガラス接着性評価用試験片を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ガラス一体樹脂成形品
10 樹脂成形体
20 ガラス部材
30 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化するガラス一体樹脂成形法において、当該樹脂が、熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物であることを特徴とするガラス一体樹脂成形法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー及び結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)から選ばれた樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のガラス一体樹脂成形法。
【請求項3】
前記分子中にヒドロキシ基を含有する化合物がフェノキシ樹脂であり、及び/又は、分子中にエポキシ基を含有する化合物がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス一体樹脂成形法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を1〜90質量部配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形法。
【請求項5】
ガラス部材における、樹脂と接する表面がシランカップリング剤及び/又はプライマーにて表面処理されているガラスを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形法。
【請求項6】
ガラス部材を載置した金型内に樹脂を注入し当該ガラス部材の周縁に樹脂成形体を形成し当該ガラス部材と一体化してなるガラス一体樹脂成形品において、当該樹脂が、熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、これに分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を配合した樹脂組成物であることを特徴とするガラス一体樹脂成形品。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー及び結晶性樹脂(ただし、液晶ポリマーを除く。)から選ばれた樹脂であることを特徴とする請求項6に記載のガラス一体樹脂成形品。
【請求項8】
前記分子中にヒドロキシ基を含有する化合物がフェノキシ樹脂であり、分子中にエポキシ基を含有する化合物がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項6又は7に記載のガラス一体樹脂成形品。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、分子中にヒドロキシ基及び/又はエポキシ基を含有する化合物を1〜90質量部配合することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形品。
【請求項10】
ガラス部材における、樹脂と接する表面がシランカップリング剤及び/又はプライマーにて表面処理されているガラスを使用することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のガラス一体樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−214589(P2010−214589A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183141(P2007−183141)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000207595)AGCマテックス株式会社 (26)
【Fターム(参考)】