説明

ガラス層による接合体、ガラス層による接合体の製造方法及び酸素富化器

【課題】ガラス層の気泡内とガラス層外方との間に気圧差が生じることによって、セラミックス板等の板状体に割れが生じることを防止できるガラス層による接合体を提供する。
【解決手段】板状体(21)の板面が被貼着体(3)の平らな表面に、両者の間にパターン形成された枠状のガラス層(25)によって貼設されてなるガラス層による接合体において、上記ガラス層を、上記板状体が上記被貼着体に貼設可能な枠幅を有し、かつ少なくとも上記板状体との接触面において、中抜きパターン(43、54、58、59、63、64、71)が形成されることにより細線状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、酸素富化器や燃料電池を含む電気化学反応装置等を構成する電解質基板等の板状体がガラス層によってセパレータ等の基板に貼設されてなるガラス層による接合体、及びこのガラス層による接合体の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、上記酸素富化器によって電気化学反応により空気等の酸素含有ガス中から酸素を分離し、選択的に取り出すことができることが知られており、近年、エアコンなどの家庭用の電気機器類において、この酸素富化器を用いて、簡易的に室内を酸素富化雰囲気にする試みがなされている。
【0003】
上述の酸素富化器は、例えば、特許文献1に示すように、電解質基板の一方の面にアノード電極が形成され、他方の面に上記アノード電極と対になるカソード電極が形成された電気化学セルによって構成されている。
そして、電気化学セルによって、酸素含有ガスから酸素を選択的に分離し、アノード電極面から供給することができる。
【0004】
一方、この酸素富化器は、本出願人が先の出願において発案しているように、上記電気化学セルの上記アノード電極の形成面を、表面に酸素流路が形成された板状のセパレータ表面に対向配置させることにより、酸素流路から酸素を取り出すことが可能となる。
【0005】
ところで、この電解質基板は、セラミックス等により形成されるとともに、上記セパレータは、表面に酸素流路となる空洞が開口している金属板等によって形成されており、このセラミックス板と金属板等との一体化は、特許文献2に示すように、ガラス接合により行う方法が知られている。
【0006】
そして、このガラス接合を酸素富化器に適用した場合、図11に示すように、セラミックス板91は、空洞95の外周部において、金属板92との間に形成された太枠状のガラス層96によって金属板92に貼設されている。
【0007】
ところで、このガラス層96は、セラミックス板91及び金属板92の少なくともいずれか一方に、バインダーや溶剤等と混合された原料となるガラス粉がパターン形成された後、乾燥、焼成させることによって形成される。
その際、焼成時に高温に加熱されることにより、バインダーや溶剤等の蒸発とともに、気泡が発生する。そして、焼成後に、温度が低下すると、ガラス層96における気泡内の気圧が低下し、気泡内とガラス層96外方との間に気圧差が生じることによって、セラミックス板等に応力が作用し、割れが生じ得るという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−89234号公報
【特許文献2】特開2005−322451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み成されたもので、ガラス層の気泡内とガラス層外方との間に気圧差が生じることによって、セラミックス板等の板状体に割れが生じることを防止できるガラス層による接合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明に係るガラス層による接合体は、板状体の板面が被貼着体の平らな表面に、両者の間に介装された枠状のガラス層によって貼設されてなるガラス層による接合体において、上記ガラス層は、上記板状体が上記被貼着体に貼設可能な枠幅を有し、かつ少なくとも上記板状体との接触面において、上記貼設に寄与しない中抜きパターンが形成されることにより細線状に形成されていることを特徴としている。
【0011】
ここで、ガラス層が少なくとも上記板状体との接触面において、上記貼設に寄与しない中抜きパターンが形成されていることにより細線状に形成されているとは、例えば、ガラス層が2層状に形成され、板状体側のガラス層のみが中抜きパターンを有する場合や両層のガラス層が中抜きパターンを有する場合、またガラス層が単層状に形成され、板状体側の一部が中抜きパターンを有する場合や層厚方向に均等に中抜きパターンを有する場合を意味するものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガラス層による接合体において、上記中抜きパターンが上記ガラス層による枠の内方及び/又は外方に連通するように形成されていることを特徴としている。
【0013】
一方、請求項3に記載の発明に係るガラス層による接合体の製造方法は、対向配置される板状体の板面及び被貼着体の平らな表面の少なくともいずれか一方に、請求項1又は2に記載のガラス層を印刷又は転写によってパターン形成し、このパターン形成されたガラス層を乾燥させた後に、このガラス層を介して上記板状体を上記被貼着体に貼設し、次いで、上記板状体及び上記被貼着体に上記板厚方向に向けて荷重を作用させた状態において、上記ガラス層を大気圧下で焼成させることを特徴としている。
【0014】
他方、請求項4に記載の発明に係る酸素富化器は、電解質基板の一方の面にアノード電極が形成され、他方の面に上記アノード電極と対になるカソード電極が形成された板状の電気化学セルと、この電気化学セルによって、上記カソード電極面から上記アノード電極面に酸素含有ガスから選択的に分離供給された酸素を取り出す酸素流路が形成された板状のセパレータとが、上記電気化学セルのアノード電極の形成面を上記セパレータの上記酸素流路に向けて対向配置される酸素富化器であって、上記セパレータは、請求項1又は2に記載の被貼着体であり、上記電気化学セルは、請求項1又は2に記載の板状体であり、かつ上記電気化学セルと上記セパレータとは、上記酸素流路の外周部において、請求項1又は2に記載のガラス層によって貼着一体化されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1又は2に記載の発明によれば、板状体の板面を被貼着体の平らな表面に、貼設可能な枠幅を有し、かつ少なくとも板状体との接触面において細線状に形成されているガラス層によって貼設したため、ガラス層の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が細線の幅方向外方に形成されている中抜きパターンに向けて開口し、ガラス層の気泡内とガラス層外方とされるガラス層による枠の内方又は外方との間において気圧差が生じることを防止できる。
このため、板状体が割れやすいセラミックス等によって構成されている場合にも、気泡による応力が作用することを防止し、セラミックス等に割れが生じることを防止できる。
【0016】
特に、請求項2に記載の発明によれば、中抜きパターンをガラス層による枠の内方及び/又は外方に連通させるように形成したため、ガラス層の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が枠の内方及び/又は外方に連通する中抜きパターンに向けて開口することにより、ガラス層内とガラス層外方とされる枠の内方又は外方との間において気圧差が生じることを防止できる。
このため、板状体に気泡による応力が作用することを確実に防止し、より確実に板状体に割れが生じることを防止できる。
【0017】
一方、請求項3に記載の発明によれば、対向配置される板状体及び被貼着体の少なくともいずれか一方に、請求項1又は2に記載のガラス層を印刷又は転写によってパターン形成し、乾燥させた後に、このガラス層を介して板状体を被貼着体に貼設し、次いで、板状体、ガラス層及び被貼着体に板厚方向に荷重を作用させた状態において、大気圧下でガラス層を焼成することにより、接合体を簡易的に製造することができる。
【0018】
その際、請求項1又は2に記載のガラス層をパターン形成したため、上述のように、ガラス層の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が中抜きパターンに向けて開口し、ガラス層内とガラス層外方との間において気圧差が生じることを防止でき、板状体に割れが生じることを防止できる。
【0019】
他方、請求項4に記載の酸素富化器の発明によれば、セパレータを請求項1又は2に記載の被貼着体とし、電気化学セルを請求項1又は2に記載の板状体とし、かつ電気化学セルとセパレータとを上記酸素流路の外周部において請求項1又は2に記載のガラス層によって貼着一体化させたため、上述と同様に、ガラス層の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が中抜きパターンに向けて開口し、ガラス層内とガラス層外方との間において気圧差が生じることを防止でき、電気化学セルに割れが生じることを防止できる。
その結果、酸素富化器の寿命年数を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るガラス層による接合体の一実施形態としての酸素富化器を、図1〜図10を用いて説明する。
【0021】
図1は本実施形態による酸素富化器の構成を示し、図2は同、酸素富化器の外観を示し、図3ないし図8は、酸素富化器において電気化学セルとセパレータとを貼着させるガラス層のパターンを示し、図9は酸素富化器に用いる複数の電気化学セルの構成を示し、図10は同、電気化学セルの接続形態を示している。
【0022】
図1に示すように、本実施形態による酸素富化器は、ランタンガレート系材料で成る一基板(板状体)21上に多数(本実施形態では4個)の電気化学セル20が併設された上下一対の電気化学セル集合体1、1と、これら電気化学セル集合体1、1を両側に支持する四角形枠状のセパレータ(被貼着体)2とで構成されている。電気化学セル集合体1とセパレータ2の外形は、ほぼ同形、同サイズとされ、このセパレータ2と一対の電気化学セル集合体1、1がシール材(図示せず)にて接合され一体化されて、図2に示すような薄箱形の酸素富化器が構成される。
【0023】
セパレータ2は、電気化学セル集合体1の支持体として十分な機械的強度と絶縁性を有するものであれば、如何なる素材を用いても良く、例えば、アルミナ製、ジルコニア製の板状体を用いることができ、好ましくは、熱膨張係数が基板21と近似する板状体が用いられる。また、このセパレータ2の一枠部に、リブ4を設けた補強板3が橋架されていると共に、枠内(酸素流路)5と枠外を連通する管状のガス排気部6が配設されている。
【0024】
そして、基板21とセパレータ2との接合にあっては、シール材として、熱膨張係数が基板21(ランタンガレートの熱膨張係数10.8×10-6/K熱膨張係数)と近似するとともに、Laを含有する結晶化ガラス(ガラス層)25が用いられている。この結晶ガラス25がLaを含有すると、基板21に強固に密着されるためである。
【0025】
この結晶化ガラス25は、セパレータ2の枠体上であって、かつ基板21との対向面(本実施形態では表裏面)にそれぞれ枠内5を取り囲むようにして矩形枠状にパターン形成されている。
この矩形枠状の結晶化ガラス25のパターンとしては、図1及び図3に示すように、矩形枠を構成する直線状の各閉塞ライン41が細長状に形成されるとともに、各角部において十字状に交差して形成されており、かつ各閉塞ライン41に直交する多数の短冊状の副ライン42がそれぞれ等間隔に形成されている。
【0026】
この副ライン42は、閉塞ライン41と同一の線幅を有し、長手方向中央部において閉塞ライン41と交差するように形成され、基板21とセパレータ2との接着を担保すべく、閉塞ライン41の幅を拡張するように形成されている。
これによって、結晶化ガラス25のパターンは、細長状に形成された閉塞ライン41と、この閉塞ライン41に直交する副ライン42との間に形成された枠内5又は枠外に連通する隙間43によって中抜きパターンが形成されている。
【0027】
また、この結晶化ガラス25のパターンは、上述の第1パターンに替えて、以下に説明する第2パターンから第6パターンを用いることができ、いずれも全体形状が枠内5を取り囲むようにして矩形枠状に形成されている。
【0028】
第2パターンは、図4に示すように、細線が矩形渦巻き状に形成されてなり、内方端部61が矩形角部に形成されている。そして、少なくとも2周以上(本実施形態では3周)形成されており、外方端部62が内方端部61と同一の矩形角部に形成されている。また、線と線との間に形成された線状の隙間63が線幅の1/2〜1/3になるように形成されており、この隙間63によって枠内5及び枠外に連通する中抜きパターンが形成されている。
【0029】
第3のパターンは、図5に示すように、基板21とセパレータ2との接着を担保するために幅広の矩形枠体に、周方向に沿って、等間隔に矩形状の凹部64が内方と外方とに交互に形成されている。そして、細線状の外方直線65と、この外方直線65に平行に形成された細線状の内方直線66と、この内方直線66の端部と外方直線65の端部とを交互に接続する細線状の直角ライン67とによって構成されているとともに、凹部64によって交互に枠内5又は枠外に連通する中抜きパターンが形成されている。
【0030】
第4のパターンは、図6に示すように、枠内5の内周壁に対して傾斜角を有する線幅の小さい第1の短冊状のライン68と、この第1の短冊状のライン68に交差する方向(本実施形態では直角に交差する方向)に向けて第1の短冊状のライン68と同形状に形成されるとともに、枠内5の内周壁に対して第1の短冊状のライン68と同一傾斜角を有する第2の短冊状のライン69とがそれぞれ等間隔に形成され、互いに両端部において交差することにより直線状の各辺が蛇腹状に形成されている。これらの短冊状のライン68、69によって構成される蛇腹状の各辺は、矩形枠状の角隅部となる両端部において、隣接する各辺の両端部に位置する第1の短冊状のライン68と第2の短冊状のライン69とが一続きに形成されることにより、連続して形成されている。そして、各辺は、第1のライン68と第2のライン69とが互いに両端部で直角に交差することにより、多数の略三角形状の隙間71が交互にそれぞれ枠内5又は枠外に連通するように形成され、これらの隙間71によって中抜きパターンが形成されている。
【0031】
第5のパターンは、図7に示すように、基板21とセパレータ2との接着を担保するために、幅広の矩形枠状に形成されており、幅方向の中央部に、周方向に沿って等間隔に正方形状の穴54が形成されることによって、中抜きパターンが形成されている。この穴54は、各外周辺の長さが結晶化ガラス25の幅の2/3〜1/2に形成されるとともに、互いに各外周辺の長さの1/3倍〜1/2倍の間隔を開けて連続して形成されている。
そして、この穴54より構成される中抜きパターンによって、穴54よりも内方に形成される矩形枠状の細線からなる内方ライン51と、穴54よりも外方に形成される矩形枠状の細線からなる外方ライン52と、穴54同士の間に形成され、内方ラインと外方ラインとを接続する細線からなる直角ライン53とによって形成されている。
【0032】
第6のパターンは、図8に示すように、枠内5を取り囲むようにして形成された細線状の第1の矩形枠体55と、この矩形枠体55の外法よりも内法が大きく、隙間58を介して第1の矩形枠体55を取り囲むようにして形成された細線状の第2の矩形枠体56と、この矩形枠体56の外法よりも内法が大きく、隙間59を介して第2の矩形枠体56を取り囲むようにして形成された細線状の第3の矩形枠体57とを有している。これにより、第1の矩形枠体55と第2の矩形枠体56との間の線状の隙間58及び第2の矩形枠体56と第3の矩形枠体57との間の線状の隙間59によって、矩形枠状に形成された結晶化ガラス25の幅方向の中央部に中抜きパターンが形成されている。
【0033】
他方、電気化学セル集合体1は、図9に示すように、酸素イオン伝導性を有する電解質基板21の表裏両面に一対の電極22、23が複数対向配置されたもので、一対の電極22、23毎に上記した電気化学セル20が構成されようになっている。
【0034】
これら電極22、23は細長矩形状に形成されており、電解質基板21の外側の反応電極22a(23a)と、その外側の給電電極22b(23b)との2層構造と成されており、この一対の電極22、23が電解質基板21上に一定の間隔をおいて、且つ、長辺側が隣接する状態で横一列に配設されている。尚、反応電極とは、電気化学反応の場となる電極(カソード、アノード)で、給電電極とは、外部から電流を供給するための電極である。
【0035】
そして、図示のように、これら電極22、23間に直流電圧Vを印加することにより、上記電解質基板21が、その一方の低電位電極面(カソード電極23側)から他方の高電位電極面(アノード電極22側)に向けて空気(酸素含有ガス)中から酸素のみを選択的に透過させる酸素透過膜として作用し、これにより、アノード電極22側の雰囲気を酸素富化状態にすることができる。
【0036】
ここで、上記電解質基板21には、例えば、(LaSr)(GaMg)C3、(LaSr)(GaMgCo)O3、(LaSr)(GaMgNi)O3、(LaSr)(GaMgFe)O3等が用いられ、上記反応電極22a(23a)には(SmSr)CoO3、(LaBa)CoO3、(LaSr)CoO3等が用いられ、上記給電電極22b(23b)にはAg、Au、Pt等の多孔質体が用いられている。
【0037】
ところで、本実施形態では、上記構成の電気化学セル集合体1の電気化学セル20が全て直列に接続され、かつこの電気化学セル集合体1が間にセパレータ2を介して対向配置された時、それぞれセパレータ2との対向面に向けて配設される内側電極がアノード電極22として作用するように、各々電極22、23の相互間の接続、および末端部電極の直流電源Vへの接続が成されている。
そして、セパレータ2とその両側の電気化学セル集合体1、1が接合・一体化されることにより形成される枠内5の空間がアノード電極22からの供給された酸素が流通する酸素流路と成されていると共に、この酸素流路内の酸素をセパレータ2に設けたガス排気部6より外部に取り出せるようになっている。
【0038】
次ぎに、本実施形態による電気化学セルの接続形態を、図10を参照して説明する。
本実施形態では、セパレータ2を挟んで上下に配設される各電気化学セル20のセパレータ2側の内側電極とセパレータ2と反対側の外側電極が電気的接続手段である配線10により、各電極の長手両端部において交互に接続される接続形態が採られている。
【0039】
更に詳しく説明すれば、図10において、各電気化学セル集合体1、1の右端より、側下側の第1電気化学セル20−1の外側電極と上側の第2電気化学セル20−2の内側電極とが電極後端部において接続され、この第2電気化学セル20−2の外側電極と下側の第3電気化学セル20−3の内側電極とが電極前端部において接続され、この第3電気化学セル20−3の外側電極と上側の第4電気化学セル20−4の内側電極とが電極後端部において接続される。
以下、このような接続を順次繰り返すことにより、セパレータ2を挟んで上下に位置する全ての各電気化学セル20−1〜20−8が直列に接続される。
【0040】
尚、セパレータ2と電解質基板21には、上下方向に対応する配線穴7、8が設けられており、上述した上下電極間の配線10による接続は、これら配線穴7、8を通して最短距離にて行われる。そして、右端の第1電気化学セル20−1の内側電極は接続端子11を介して直流電源Vの(+)端子に接続されると共に、左端の第8電気化学セル20−8の外側電極は接続端子12を介して直流電源Vの(−)端子に接続される。
各電極相互の接続と直流電源Vへの接続が上記のように成されることにより、セパレータ2を挟んで対向する各電極の内側電極をその外側電極より高電位にすることができ、よって、内側電極をアノード電極として作用させることができる。
尚、上記配線10の材料として、Ag、Au、Pt等を用いることができ、これらの材料によるペーストが配線穴7、8にスルーホール印刷されている。
【0041】
以上、本実施形態では、酸素透過側であるアノード電極22が向き合うように複数の電気化学セル20を立体的に対向配置することにより、同数の電気化学セルを同一平面状に配置する従来構成に比べて酸素富化器をコンパクトに構成することができる。
また、セパレータ2の枠内5の空間をそのまま酸素流路として利用することにより、流路形成のための別部材を必要としないため、酸素富化器の構造を極めて簡便にでき、よって、コンパクトでありながら、多量の酸素を効率良く得ることができる。
【0042】
また、全ての電気化学セル20を直列接続することにより、単位セル当たりの電流量を少なくでき、その分、各電気化学セル20内の抵抗ロスが小さくなり、性能を向上させることができる。
特に、電極22、23を細長矩形状に形成して、その長手両端部において電極間の接続を行うことにより、電流を各電極の一端部から他端部に亘って電極全体に流すことができ、これにより、電極の電流密度を均一化することが可能となり、性能を向上させることができる。
【0043】
また、セパレータ2と電気化学セル集合体1とは、結晶化ガラス25にて接合されているため、枠内5の空間によって構成される酸素流路内のガスシール性が良好であり、かつ、電気化学セル集合体1(即ち、電解質基板21)が、このセパレータ2にて確実に支持されるため、酸素富化器の機械的強度が向上し、熱応力による電気化学セル20の破損も防止できる。
【0044】
これに加えて、結晶化ガラス25を第1ないし第6のいずれかのパターンに形成した場合には、いずれも結晶化ガラス25が細線状に形成されているため、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が細線の幅方向外方の中抜きパターンに向けて開口し、結晶化ガラス25の気泡内と結晶化ガラス25外方との間において気圧差が生じることを防止できる。
特に、結晶化ガラス25を第1ないし第4のいずれかのパターンに形成した場合には、この気泡が枠内5又は枠外に連通する中抜きパターンに向けて開口することにより、結晶化ガラス25内と結晶化ガラス25外の枠内5又は枠外との間において気圧差が生じることを防止でき、基板21に気泡による応力が作用することを確実に防止し、より確実に基板21に割れが生じることを防止できる。
【0045】
具体的には、第1のパターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が枠内5又は枠外に連通する隙間43に向けて開口することにより、結晶化ガラス25内と結晶化ガラス25外の枠内5又は枠外との間において気圧差が生じることを防止できる。
【0046】
また、第2のパターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、矩形渦巻き状に形成された結晶化ガラス25が枠内5又は枠外に連通する隙間63によって、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、結晶化ガラス25内と枠内5又は枠外との間において気圧差が生じることを防止できる。
【0047】
同様に、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、第3パターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、気泡が枠内5又は枠外に連通する隙間64に向けて開口することにより、第4パターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、気泡が枠内5又は枠外に連通する隙間71に向けて開口することにより、結晶化ガラス25内と結晶化ガラス25外の枠内5又は枠外との間において気圧差が生じることを防止できる。
【0048】
第5パターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が穴54又は結晶化ガラス25の外方に向けて開口し、気圧差が穴54と結晶化ガラス25外の枠内5又は枠外との間においてのみ発生する。このため、穴54の外周辺の長さや間隔を調整することにより、気圧差を所定の範囲内に収めることができ、基板21に割れが生じることを防止できる。
【0049】
また、第6パターンの結晶化ガラス25を形成した場合には、第1の矩形枠体55、第2の矩形枠体56及び第3の矩形枠体57を構成する結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が隙間58、59又は結晶化ガラス25の外方に向けて開口し、気圧差が隙間58、59と結晶化ガラス25外の枠内5又は枠外との間においてのみ発生する。このため、隙間58、59の幅等を調整することにより、気圧差を所定の範囲内に収めることができ、基板21に割れが生じることを防止できる。
【0050】
次いで、上述の酸素富化器の製造方法について、2つの実施形態を説明する。
これらの第1の本実施形態及び第2の実施形態においては、上述の結晶化ガラス25が塗布される前の基板21及びセパレータ2を、以下、単に基板21及びセパレータ2として説明することにより、基板21及びセパレータ2の構成についての説明を省略する。
【0051】
まず、第1の実施形態について、説明する。
最初に、結晶化ガラス25として、Al23を含有するSi−Ca−Ba−Al−O系のガラス粉を溶剤に混合させたペースト状のものを準備するとともに、図11に示した第4のパターンに対応する第4のパターンマスクを用意する。
【0052】
次いで、上記ペースト状のガラス原料を、冷却させ、10.6×10−6/℃にした状態において、第4のパターンマスクを用いて2枚の10.3×10−6/℃の基板21のアノード電極22の形成面であって、枠内5の外周部に対応する位置にスクリーン印刷した後、乾燥させる。
【0053】
他方、上記ガラス原料を、同様に冷却させた状態において、第4のパターンマスクを用いて10.3×10−6/℃のセパレータ2の表裏面に、枠内5を取り囲むようにしてスクリーン印刷した後、乾燥させる。
【0054】
次いで、第4のパターンの結晶化ガラス25が形成されているセパレータ2の表裏面に、それぞれ第4のパターンの結晶化ガラス25が形成されている基板21のアノード電極22の形成面を対向配置させ、互いに結晶化ガラス25が積層されるように面方向に位置合わせをした状態において、積層させる。
次いで、積層方向に600gの荷重を作用させた状態において、結晶化ガラス25を焼成させる。
【0055】
その際、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、この気泡が中抜きパターンに向けて開口し、結晶化ガラス25の気泡内と結晶化ガラス25外方との間において気圧差が生じることが防止され、確実に基板21に対し応力が作用することが防止される。
これにより、セパレータ2の表裏面に第4のパターンの結晶化ガラス25によって基板21が貼着一体化された酸素富化器が得られる。
【0056】
次に、第2の実施形態について説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、上記ガラス原料を、第4のパターンマスクを用いて、基板21にスクリーン印刷する。これとともに、第4のパターンマスクに替えて、矩形枠状のベタパターンのマスクを用いて、第1の実施形態と同様に、セパレータ2の表裏面に矩形枠状のベタパターンの結晶化ガラス25をスクリーン印刷する。
【0057】
次いで、セパレータ2の表裏面に、それぞれ第4のパターンの結晶化ガラス25が形成されている基板21のアノード電極22の形成面を対向配置させ、互いに結晶化ガラス25が積層されるように面方向に位置合わせをした状態において、積層させ、第1の実施形態と同様に、酸素富化器を製造する。
【0058】
その際、結晶化ガラス25の焼成時に気泡が発生しても、少なくとも基板21との接触面において気泡が中抜きパターンに向けて開口し、結晶化ガラス25の気泡内と結晶化ガラス25外方との間において気圧差が生じることが防止され、第1の実施形態と比較すると劣るものの基板21の割れが防止される。
これにより、セパレータ2の表裏面に、ベタパターンの結晶化ガラス25と第4のパターンの結晶化ガラス25とによって基板21が貼着一体化された酸素富化器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る酸素富化器の構成を示す分解斜視図である。
【図2】同、酸素富化器の外観斜視図である。
【図3】基板21とセパレータ2とを接合する結晶化ガラス25の第1パターンを示す正面図である。
【図4】同、結晶化ガラス25の第2パターンを示す正面図である。
【図5】同、結晶化ガラス25の第3パターンを示す正面図である。
【図6】同、結晶化ガラス25の第4パターンを示す正面図である。
【図7】同、結晶化ガラス25の第5パターンを示す正面図である。
【図8】同、結晶化ガラス25の第6パターンを示す正面図である。
【図9】電気化学セルの構成を示す断面図。
【図10】電気化学セルの接続形態を示す説明図。
【図11】従来の結晶化ガラスの塗布パターンを示す正面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 電気化学セル集合体
2 セパレータ
5 枠内
10 配線
21 電解質基板
22、23 電極
43、58、59、63 隙間(中抜きパターン)
64 凹部(中抜きパターン)
54、71 穴(中抜きパターン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の板面が被貼着体の平らな表面に、両者の間に介装された枠状のガラス層によって貼設されてなるガラス層による接合体において、
上記ガラス層は、上記板状体が上記被貼着体に貼設可能な枠幅を有し、かつ少なくとも上記板状体との接触面において、上記貼設に寄与しない中抜きパターンが形成されることにより細線状に形成されていることを特徴とするガラス層による接合体。
【請求項2】
上記中抜きパターンは、上記ガラス層による枠の内方及び/又は外方に連通するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス層による接合体。
【請求項3】
対向配置される板状体の板面及び被貼着体の平らな表面の少なくともいずれか一方に、請求項1又は2に記載のガラス層を印刷又は転写によってパターン形成し、
このパターン形成されたガラス層を乾燥させた後に、このガラス層を介して上記板状体を上記被貼着体に貼設し、次いで、上記板状体及び上記被貼着体に上記板厚方向に向けて荷重を作用させた状態において、上記ガラス層を大気圧下で焼成させることを特徴とするガラス層による接合体の製造方法。
【請求項4】
電解質基板の一方の面にアノード電極が形成され、他方の面に上記アノード電極と対になるカソード電極が形成された板状の電気化学セルと、この電気化学セルによって、上記カソード電極面から上記アノード電極面に酸素含有ガスから選択的に分離供給された酸素を取り出す酸素流路が形成された板状のセパレータとが、上記電気化学セルのアノード電極の形成面を上記セパレータの上記酸素流路に向けて対向配置される酸素富化器であって、
上記セパレータは、請求項1又は2に記載の被貼着体であり、
上記電気化学セルは、請求項1又は2に記載の板状体であり、かつ
上記電気化学セルと上記セパレータとは、上記酸素流路の外周部において、請求項1又2に記載のガラス層によって貼着一体化されていることを特徴とする酸素富化器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−7386(P2008−7386A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181870(P2006−181870)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】