説明

ガラス組成物およびこれを用いたディスプレイパネル

【課題】誘電率が低く、樹脂と混合してペーストとした場合の樹脂の熱分解性に優れ、銀等の電極の被覆材料に用いても黄変を生じ難い、ディスプレイパネル用に適したガラス組成物を提供する。
【解決手段】少なくともBと、RO(RはLi、Na、Kの1種類以上)と、Vを含み、Vの含有量が0.02重量%以上2重量%以下であり、実質的に鉛を含まない事を特徴とする、低軟化点ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の被覆に適したガラス組成物およびこれを用いたディスプレイパネル、特にプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略す)、フィールドエミッションディスプレイ、液晶表示装置、蛍光表示装置、セラミック積層デバイス、混成集積回路の如き表示装置や集積回路においては、その表面にAg、Cu等よりなる電極や配線を有する基板が用いられている。こうした電極や配線は、これを保護するために、絶縁性ガラス材料により被覆される場合がある。ここでは、代表的な表示装置であるPDPを例に挙げて以下に説明する。
【0003】
一般にPDPは、2枚の対向するガラス基板にそれぞれ規則的に配列した一対の電極を設け、その間にNe、Xe等の不活性ガスを主体とするガスを封入した構造になっており、電極間に電圧を印加し、電極周辺の微小なセル内で放電を発生させることにより、各セルを発光させて表示を行なっている。そしてこれらの電極は、誘電体層と呼ばれる絶縁性のガラス材料で被覆されて、保護されている。
【0004】
例えば、AC型PDPの前面板となるガラス基板においては、透明電極が形成され、さらにその上に、より抵抗率が低いAg、Cu、Al等の金属電極が形成されている。この複合電極を覆って誘電体層が形成され、さらにその上に保護層(MgO層)が形成されている。
【0005】
電極を覆って形成される誘電体層には、通常、低軟化点のガラスが用いられる。誘電体層は、ガラス粉末を含むペーストを、スクリーン印刷法やダイコート法等で電極を覆うように塗布した後、焼成することにより形成されている。
【0006】
誘電体層を形成するガラス組成物に要求される特性としては、
(1)電極上に形成されるため、絶縁性であること。
(2)大面積のパネルでは、ガラス基板の反り、誘電体層の剥がれやクラックを防止するために、ガラス組成物の熱膨脹係数を、基板材料とあまり変わらない値(実際には、やや小さ目の値が望ましい)にしておくこと。
(3)前面板用であれば、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、可視光透過率が高い非晶質ガラスであること。
(4)基板ガラスの耐熱性に適合するように、軟化点が低いこと。
等が挙げられる。
【0007】
PDPに使用されるガラス基板としては、フロート法で作製され、一般に入手が容易な窓板ガラスであるソーダライムガラスや、PDP用に開発された高歪点ガラスがあり、これらは、通常、600℃までの耐熱性、75×10-7〜85×10-7/℃の熱膨脹係数を有する。
【0008】
このため、前述した(2)については、熱膨脹係数が70×10-7〜80×10-7/℃程度が望ましい。また(4)については、ガラスペーストの焼成は、ガラス基板の歪点である600℃以下で行う必要があるので、600℃以下の温度で焼成しても充分軟化するように、軟化点が少なくとも595℃以下、より望ましくは590℃程度以下である必要がある。
【0009】
以上のような要望を満足するガラス材料として、現在は、PbOを主原料とするPbO−SiO系ガラスが主に使用されている。
【0010】
しかし、近年の環境問題への配慮から、Pbを含まない誘電体層が求められている。また、ガラス材料の誘電率については、PDPの低消費電力化のために、現状より下げることが求められている。Pbを含まないガラスとしては、ほう酸亜鉛を主成分とし、Pbの代わりにBiを含むことによって低軟化点とした、Bi−B−ZnO−SiO系ガラス材料(例えば特許文献1)等が開発されているが、これらのBi系材料も、Pb系材料と同じく、比誘電率が9〜13程度と高いという問題点を有する。現時点では、これらの材料より明確に低誘電率ということで、比誘電率が7以下、より望ましくは6以下の材料が求められている。
【0011】
そこで、低誘電率と低軟化点を両立させるため、Pbの代わりにアルカリ金属を含むホウ酸系ガラスによって、比誘電率7前後を達成した材料も提案されている(例えば特許文献2〜4)。
【特許文献1】特開2001−139345号公報
【特許文献2】特開平9−278482号公報
【特許文献3】特開2000−313635号公報
【特許文献4】特開2002−274883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、発明者の検討によると、アルカリホウ酸系ガラスにおいて、より低誘電率とするためには、ホウ素をより多くする必要があるが、このような組成域のガラスを用いて作製したペーストを塗布、焼成すると、比誘電率7付近の、比較的ホウ素の少ない組成のガラスを用いた場合と比較して、有機樹脂の熱分解性が低下し、得られた誘電体膜が茶色に着色し、ディスプレィに用いると表示性能が著しく劣化してしまうという問題点があった。
【0013】
また、アルカリを含むガラスをAgやCuを保護する誘電体材料として用いた場合、焼成条件等によっては、AgやCuが酸化されてイオン化し、これらイオンがガラス中を拡散し、再度還元されてコロイド状金属として析出し、誘電体層やガラス基板が黄色く着色して見える、いわゆる黄変を生じさせ、やはり表示性能が劣化するという問題点があった。すなわち、低誘電率で、かつ着色を生じ難い低軟化点ガラスは、得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、軟化点が低く、誘電率が低く、ペーストとした場合の樹脂の熱分解性に優れるとともに黄変も生じにくく、ディスプレイパネルに用いた場合に着色による性能劣化が起きにくく、優れた表示性能のディスプレィを作製することが可能なガラス組成物を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、少なくともBと、RO(RはLi、Na、Kの1種類以上)と、Vを含み、Vの含有量が0.02重量%以上2重量%以下であり、実質的に鉛を含まない事を特徴とする、低軟化点ガラス組成物である。この時、Bの含有量は41重量%以上90重量%以下である事が望ましい。
【0016】
また、本発明は、本発明による上記ガラス組成物を用いたディスプレイパネルを提供する。本発明による第1のディスプレイパネルは、ガラス組成物を含む誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、このガラス組成物が、本発明による上記ガラス組成物である。本発明による第2のディスプレイパネルは、ガラス基板と電極の間にガラス組成物を含む誘電体層があって、この誘電体層に含まれるガラス組成物が、本発明による上記ガラス組成物である。
【0017】
また本発明は、本発明のガラス組成物を用いたPDPを提供する。PDPの電極被覆用ガラス、または隔壁形成用ガラスが、本発明による上記ガラス組成物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軟化点が低く、誘電率が低く、ペーストとした場合の樹脂の熱分解性に優れるとともに黄変も生じにくく、ディスプレイパネルに用いた場合に着色による性能劣化が起きにくく、優れた表示性能のディスプレィを作製することが可能なガラス組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明者等は、詳細な検討の結果、アルカリホウ酸系ガラスにおいて、誘電率を低くするためにホウ素の含有率を高くした場合に生じる樹脂の熱分解性の低下を、酸化バナジウムを添加する事によって防止できる事を見出した。また酸化バナジウムの添加は、黄変を低減させる効果がある事も、同時に見出した。
【0020】
の量を0.02重量%以上2重量%以下に限定するのは、これ以下では添加効果が不明瞭になり、これ以上だと、バナジウムを含む事によるガラス自体の着色が濃くなってしまうためである。
【0021】
量が41重量%以上90重量%以下が望ましいのは、これ以下だと、得られるガラスの誘電率が余り低くならず、また樹脂の熱分解性がそれほど低下しないためにVを添加する必要性が低下し、逆にV含有によるガラス自体の着色が問題となる可能性があるためであり、これ以上だと、ガラスが不安定となるためである。
【0022】
本発明のガラスは、アルカリ金属と硼素とバナジウムと酸素より構成すれば、低誘電率で樹脂の熱分解性が高く、黄変も生じ難いといった性質を得る事が可能であるが、実際に、PDP等のディスプレィの電極被覆ガラス等に用いる場合には、ガラス転移温度や熱膨張係数、化学的耐久性等を、用途に応じて最適化するために、これら以外の成分を含む事が望ましい。含まれうる成分としては、SiO、ZnO、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)等が挙げられる。これらの成分の添加は、化学的耐久性を高め、ガラス転移温度を高くし、熱膨張係数を小さくする効果を持つ。これらを含んだ望ましい組成範囲の例を挙げると、
0.02重量%≦V≦ 2重量%
41 重量%≦B≦90重量%
3 重量%≦RO ≦25重量%(RはLi、Na、Kの1種類以上)
0 重量%≦MO ≦50重量%
(MはMg、Ca、Sr、Ba、Znの1種類以上)
0 重量%≦SiO≦26重量%
Oは、これより少ないとガラスが不安定となり、これより多いと誘電率が高くなると伴に、Vを添加しても黄変の抑制が困難となってくるため、3重量%以上25重量%以下が望ましい。
【0023】
MOは化学的安定性を高め、ガラス転移温度と軟化点を高くし、ガラス転移温度と軟化点の差を小さくし、熱膨張係数を下げ、誘電率を高くする効果がある。50重量%以下が望ましいのは、軟化点と誘電率が高くなりすぎるためである。
【0024】
SiOは化学的安定性を高め、ガラス転移温度と軟化点を高くし、熱膨張係数を下げ、誘電率を低くする効果がある。26重量%以下が望ましいのは、軟化点が高くなりすぎるためである。
【0025】
本願はアルカリホウ酸系ガラスにおいて、特にB含有量が多い場合に生じる樹脂の熱分解性不良をVにより解消するのが主眼であるので、上記以外の元素、例えばAl、Ti、Zr、La、Ce、Y、Mn、Nb、Ta、Te、Bi、Sb、P、Ag、Cu等の酸化物を添加することも、目的とするガラス本来の特性が失われない限り、可能である。しかし、Mn、Bi、Cu等は、添加によりガラス自体が着色する事が知られており、添加量は少ない事が望ましい。望ましい含有量は5重量%以下である。
【0026】
本発明のガラス組成物は、鉛(Pb)を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、実質的に含まないとは、除去することが工業的に難しくかつ特性に影響を及ぼさないごく微量の当該成分を許容する趣旨であり、具体的には、含有率が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、であることをいう。
【0027】
なお、本明細書においては、酸化物ガラスの組成を、一般に行われるように、各成分元素の酸化物としての重量比で表している。ただし、こうした表記は、各陽イオンのガラス中における価数を限定しているわけではない。酸化バナジウムに関しても、Vに換算して、0.02重量%以上2重量%以下の量、含有すれば良い。
【0028】
次に、本発明のディスプレイパネルの具体例として、PDPについて説明する。図1は、本実施形態にかかるPDPの主要構成を示す部分切り取り斜視図である。図2は、このPDPの断面図である。このPDPは、AC面放電型であって、誘電体層が上述したガラス組成物で形成されている以外は従来例にかかるPDPと同様の構成を有する。
【0029】
このPDPは、前面板1と背面板8とが貼り合わせられて構成されている。前面板1は、前面ガラス基板2と、その内側面(放電空間14に臨む面)に形成された透明導電膜3およびバス電極4からなる表示電極5と、表示電極5を覆うように形成された誘電体層6と、誘電体層6上に形成された酸化マグネシウムからなる誘電体保護層7とを備えている。表示電極5は、ITOまたは酸化スズからなる透明導電膜3に、良好な導電性を確保するためAg等からなるバス電極4が積層されて形成されている。
【0030】
背面板8は、背面ガラス基板9と、その片面に形成したアドレス電極10と、アドレス電極10を覆うように形成された誘電体層11と、誘電体層11の上面に設けられた隔壁12と、隔壁12の間に形成された蛍光体層とを備えている。蛍光体層は、赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)および青色蛍光体層13(B)がこの順に配列するように配列するように形成される。
【0031】
誘電体層6および/または誘電体層11、好ましくは誘電体層6に、上述した本発明によるガラス組成物が使用される。また、隔壁12として、本発明のガラス組成物を用いても良い。誘電体層6は透明な事が必要であるが、誘電体層11と隔壁12は、透明である必要性がないので、本発明のガラスに、より低誘電率のSiOなどをフィラーとして分散含有させたものを用いても良い。さらに、ここでは図示しないが、ガラス基板と表示電極5の間、あるいはガラス基板とアドレス電極の間に、本発明のガラスを含む層を形成すると、基板ガラスの誘電率の影響を低減出来る。以下では、例として誘電体層6に本発明のガラスを用いた場合について説明するが、誘電体層11、隔壁12、あるいは基板/電極間の誘電体層に、本発明のガラス組成物を用いた場合にも、本発明のガラス組成物の、低い誘電率、低い軟化点、高いガラス転移温度、適度な熱膨張係数により、PDPに良好に使用可能である。
【0032】
上記蛍光体層を構成する蛍光体としては、例えば、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Eu、緑色蛍光体としてZnSiO:Mn、赤色蛍光体としてY:Euを用いることができる。
【0033】
前面板1および背面板8は、表示電極5とアドレス電極10の各々の長手方向が互いに直交し、かつ互いに対向するように配置し、封着部材(図示せず)を用いて接合される。
【0034】
放電空間14には、He、Xe、Ne等の希ガス成分からなる放電ガス(封入ガス)が66.5〜79.8kPa(500〜600Torr)程度の圧力で封入されている。
【0035】
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電が発生し、放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13が励起されて可視光を発光する。
【0036】
誘電体層6は、通常、ガラスの粉末に、印刷性を付与するためのバインダーや溶剤等を添加することによってガラスペーストとし、このガラスペーストを、ガラス基板上に形成された電極上に塗布、焼成することによって形成される。
【0037】
ガラスペーストは、ガラスの粉末と、溶剤と、樹脂(バインダー)とを含むが、これら以外の成分、例えば、界面活性剤、現像促進剤、接着助剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等、種々の目的に応じた添加剤を含んでもよい。
【0038】
ガラスペーストに含まれる樹脂(バインダー)は、一般に用いられるものであれば、どんなものでもよく、例えば、コスト、安全性等の観点から、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂等を用いればよい。
【0039】
ガラスペースト中の溶剤も、一般に用いられるものであれば、どんなものでもよく、コスト、安全性等の観点、および、バインダー樹脂との相溶性の観点から、適当な有機溶媒を選択すればよく、これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。具体的には、エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;脂肪族カルボン酸のエステル類;ターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;等の有機溶剤を使用することができる。
【0040】
ガラスペーストは、スクリーン法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ドクターブレード等によって塗布し、焼成する方法が代表的である。ただし、それに限定されることなく、例えば上記ガラス組成物を含むシートを貼り付けて焼成する方法でも形成できる。
【0041】
誘電体層6の膜厚は、絶縁性と光透過性を両立させるために、10μm〜50μm程度とすることが好ましい。
【0042】
次に、上記のPDPパネルの作製方法について、一例を挙げて説明する。まず、前面板を作製する。平坦な前面ガラス基板の一主面に、複数のライン状の透明電極を形成する。引き続き、透明電極上に銀ペーストを塗布した後、前面ガラス基板全体を加熱することによって、銀ペーストを焼成し、表示電極を形成する。
【0043】
表示電極を覆うように、前面ガラス基板の上記主面に本発明のPDPにおける誘電体層用ガラスを含むガラスペーストをブレードコーター法によって塗布する。その後、前面ガラス基板全体を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、次いで、580℃前後の温度で10分間焼成を行う。
【0044】
誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって成膜し、焼成を行い、保護層を形成する。この時の焼成温度は500℃前後である。
【0045】
次に背面板を作製する。平坦な背面ガラス基板の一主面に、銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、背面ガラス基板全体を加熱して銀ペーストを焼成することによって、アドレス電極を形成する。
【0046】
隣り合うアドレス電極の間にガラスペーストを塗布し、背面ガラス基板全体を加熱してガラスペーストを焼成することによって、隔壁を形成する。
【0047】
隣り合う隔壁同士の間に、R、G、B各色の蛍光体インクを塗布し、背面ガラス基板を約500℃に加熱して上記蛍光体インクを焼成することによって、蛍光体インク内の樹脂成分(バインダー)等を除去して蛍光体層を形成する。
【0048】
こうして得た前面板と背面板とを封着ガラスを用いて貼り合わせる。この時の温度は500℃前後である。その後、封止された内部を高真空排気した後、希ガスを封入する。以上のようにしてPDPが得られる。
【0049】
上述したPDPおよびその製造方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。本発明を適用するPDPとしては、上記のような面放電型のものが代表的であるが、これに限定されるものではなく、対向放電型にも適用できる。また、AC型に限定されるものではなく、DC型のPDPであっても誘電体層を備えたものに対して適用することができる。
【0050】
本発明のガラス組成物は、PDPに限定されず、樹脂と混合してペースト化し、塗布、焼成のプロセスを行う必要があるディスプレイパネルに、有効に使用されうる。
【0051】
本発明のガラス組成物は、誘電体層によって被覆される電極がAgおよびCuから選ばれる少なくとも1種を含むディスプレイパネルに好適である。電極は、Agを主成分とするものであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
(実施例1)
出発原料として、試薬特級以上の各種金属の酸化物または炭酸塩等を用いた。これらの原料を、各酸化物換算での重量比が、表1に示すようになるように秤量し、充分混合した後、白金坩堝に入れ、900〜1100℃の電気炉中で2時間溶融した。得られた融液を、真鍮板にてプレスすることにより急冷し、ガラスカレットを作製した。このガラスカレットを、平均粒径2〜3μm程度に粉砕し、リガク製TG8110型マクロ示差熱分析計を用いて、ガラス転移温度と、軟化点Tsを測定した。
【0054】
次に、ガラスカレットを再溶融し、型中に流し込み、ガラス転移温度+40℃の温度にて30分間アニールしたのち徐冷して、ガラスブロックを作製した。このガラスブロックより、4mm×4mm×20mmのロッドを切断加工により作製し、リガク製TMA8310型熱機械分析計を用いて、30〜300℃の間の熱膨張係数αを測定した。また、ガラスブロックより20mm×20mm×厚さ約1mmの板を切断加工により作製し、両面を鏡面研磨した後、その表面に金電極を蒸着し、アジレント製インピーダンスアナライザ4294Aを用いて、周波数1kHzにて静電容量を測定し、試料の面積と厚さから比誘電率εを算出した。
【0055】
次にガラス組成によるペーストの樹脂分解性を評価するために、作製したガラス粉末に、樹脂であるエチルセルロースと溶剤であるα−テルピネオールとを、3本ロールで混合および分散させてガラスペーストを調製した。このペーストを、厚さ約2.8mmの平坦なソーダライムガラス面上に、ブレードコーター法を用いて、焼成後の厚さが30μmとなるように塗布し、90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、空気中で軟化点+10℃の温度まで1時間で昇温し、10分間保持することによって誘電体層を形成した。誘電体層は、組成により、樹脂成分残留による茶褐色の着色が認められた。そこで500nmにおける透過率測定して、この着色の目安とした。
【0056】
またガラス組成による黄変の生じやすさを、上記のペーストの樹脂成分残留による茶褐色着色と分離して評価するために、樹脂を加えていないガラス粉末にAg粉末を0.1重量%混合し、金型にて成形した後、この成形体を上記ペーストと同じ条件で焼成し、その黄色着色度合いを目視により観察し、無着色、淡着色、中程度着色、濃着色の4段階に分類した。黄変については、本来はガラス基板上に銀電極を形成し、ガラスペーストをその上より塗布、乾燥し、焼成して判断するべきではあるが、この方法では黄変による着色なのか、樹脂の熱分解性が低い事による着色なのかを区別する事が困難なので、この簡易判別方法を用いた。なお、この判別方法で黄変が認められず、また前記の樹脂分解性についても着色が認められなかったガラス組成について、銀電極上にペーストを塗布して焼成しても着色が生じない事は、実施例2に示すように確認出来た。
【0057】
各評価の結果を表1に示す。なお、表において、軟化点Tsの単位は℃、熱膨張係数αの単位は×10-7/℃である。透過率は上記の樹脂分解性評価に関するものであり、着色は、黄変に関するものである。
【0058】
【表1】

【0059】
表1のNo.1〜10は、B量を増加させながら、PDP用に軟化点が590℃以下、熱膨張係数が70〜80×10−7/℃となるように、他の成分量を調整した試料である。
【0060】
表1より明らかなように、B量が41重量%のNo.2で比誘電率が7未満となり、45重量%のNo.3で6.5、55重量%のNo.4で6.0、60重量%以上のNo.5〜10では、6.0未満となった。よって比誘電率を低くするためには、B量は41重量%以上、より望ましくは45重量%以上、さらに望ましくは55重量%以上、さらには60重量%以上が良い。しかしB量が90重量%を越えたNo.10では、他の成分の比率をどのように調整しても、熱膨張係数が80×10−7/℃を越えてしまった。よってB量は90重量%以下が望ましい。
【0061】
一方、有機残渣によって低下する透過率は、No.1は78%と高い値を示したが、No.2では70未満となり、B量が増加するほどさらに低下し、有機樹脂の残渣が増加している事が明らかであった。
【0062】
また黄変の程度を示す着色は、アルカリ成分であるLiOやKOが少ないほど薄くなる傾向があったが、完全に消失する事はなかった。
【0063】
これらNo.1〜10の試料に対して、Vを0.2重量%加えたNo.11〜20では、いずれも透過率は、無添加の場合に対して向上し、着色もより薄くなった。
【0064】
またNo.5の組成、およびNo.7の組成にVを0.01〜3重量%添加したNo.21〜27、およびNo.28〜34では、添加量が0.01重量%では、透過率向上、着色低減の効果が明瞭ではなかったが、0.02重量%以上では効果が認められた。しかし添加量が1.0重量%以上では、また透過率が低下し、着色も濃くなりはじめ、3.0重量%ではかなり劣化した。この時の試料は、いずれも黄緑色を呈しており、これは、有機残渣が減り、黄変も生じにくくはなったが、Vの添加によって、ガラス自体が着色したためと考えられる。従って、Vの添加量は、0.02重量%以上、2.0重量%以下、さらには1.0重量%未満が望ましい。
【0065】
発明者は、上記以外にも、種々の組成の組み合わせを検討した。またCaOの代わりにMgO、SrO、BaOを用いたり、LiOやKOの代わりにNaOを用いた検討も行ったが、いずれの場合にも、B量41〜90重量%のガラスにVを0.02〜2.0重量%を添加する事によって、低誘電率で、ペースト化後の焼成時に有機残渣が少なく、黄変も生じ難い低軟化点ガラスを得ることが可能であった。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、B:ZnO:CaO:KO:V=72.5:16.5:2.5:8.4:0.1の重量比となる用に各種原料粉末を混合して白金坩堝に入れ、電気炉中1100℃で2時間溶融した後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製した。このガラスカレットを、乾式ボールミルによって粉砕して粉末を作製した。得られたガラス粉末の平均粒径は3μm程度であった。本ガラスの比誘電率は5.9、ガラス転移温度は482℃、軟化点は580℃、熱膨張係数は77×10-7/℃であった。
【0067】
この粉末に、バインダーとしてエチルセルロースを、溶剤としてα−テルピネオールを加え、3本ロールにて混合してガラスペーストとした。
【0068】
次に、厚さ約2.8mmの平坦なソーダライムガラスからなる前面ガラス基板の面上に、ITO(透明電極)の材料を所定のパターンで塗布し、乾燥した。次いで、銀粉末と有機ビヒクルとの混合物である銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、上記前面ガラス基板を加熱することにより、上記銀ペーストを焼成して表示電極を形成した。
【0069】
表示電極を作製したフロントパネルに、上述したガラスペーストをブレードコーター法を用いて塗布した。その後、上記前面ガラス基板を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、590℃の温度で10分間焼成することによって、厚さ約35μmの誘電体層を形成した。
【0070】
誘電体層の30μm厚に換算した場合の透過率は74%であった。また作製した基板の裏面側(電極のない側)において、色彩色差計を用いて反射色を測定した。なお、測定には自然光を用い、基準となる白色板により補正した。その結果、a*値は−2.1、b*値は3.8であった。このa*およびb*は、L*a*b*表色系に基づく。a*値は、プラス方向に大きくなると赤色が強まり、マイナス方向に大きくなると緑色が強まる。b*値は、プラス方向に大きくなると黄色が強まり、マイナス方向に大きくなると青色が強まる。一般に、a*値が−5〜+5の範囲であり、かつb*値が−5〜+5の範囲であれば、パネルの着色は観測されない。よってこの誘電体層は問題となるような着色はない事が確認出来た。
【0071】
上記誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着した後、500℃で焼成することによって保護層を形成した。
【0072】
一方、以下の方法で背面板を作製した。まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上にスクリーン印刷によって銀を主体とするアドレス電極をストライプ状に形成し、引き続き、前面板と同様の方法で、厚さ約40μmの誘電体層を形成した。
【0073】
次に、誘電体層上に、隣り合うアドレス電極の間に、ガラスペーストを用いて隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷および焼成を繰り返すことによって形成した。
【0074】
引き続き、隔壁の壁面と隔壁間で露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗布し、乾燥および焼成して蛍光体層を作製した。蛍光体としては、上述した材料を用いた。
【0075】
作製した前面板、背面板をBi−Zn−B−Si−O系の封着ガラスを用いて500℃で貼り合わせた。そして、放電空間の内部を高真空(1×10-4Pa)程度に排気した後、所定の圧力となるようにNe−Xe系放電ガスを封入した。このようにして、PDPを作製した。
【0076】
作製したパネルは、特に誘電体層に着色、欠陥等を生じることもなく、問題なく動作することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、電極用絶縁被覆ガラス、特にプラズマディスプレイパネルの表示電極やアドレス電極を被覆するための誘電体層の形成に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明によるPDPの構成の一例を示す部分切り取り斜視図
【図2】図1に示したPDPの断面図
【符号の説明】
【0079】
1 前面板
2 前面ガラス基板
3 透明導電膜
4 バス電極
5 表示電極
6 誘電体層
7 誘電体保護層
8 背面板
9 背面ガラス基板
10 アドレス電極
11 誘電体層
12 隔壁
13 蛍光体層
14 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBと、RO(RはLi、Na、Kの1種類以上)と、Vを含み、Vの含有量が0.02重量%以上2重量%以下であり、実質的に鉛を含まない事を特徴とする、低軟化点ガラス組成物。
【請求項2】
の含有量が41重量%以上90重量%以下である事を特徴とする、請求項1に記載の低軟化点ガラス組成物。
【請求項3】
ガラス組成物を含む誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、前記ガラス組成物が、請求項1または2に記載のガラス組成物であるディスプレイパネル。
【請求項4】
基板上に形成された第1誘電体層と、その上に形成された電極層と、さらにその上に形成された第2誘電体層を含むディスプレイパネルであって、前記第1誘電体層が、請求項1または2に記載のガラス組成物であるディスプレイパネル。
【請求項5】
第1の電極及び誘電体ガラス層が形成された前面基板と、第2の電極と誘電体ガラス層及び蛍光体層が形成された背面基板とを有し、前記第1の電極と前記第2の電極とが所定の距離離間して対向するよう前記前面基板と前記背面基板とを配置するとともに、前記前面基板と前記背面基板との間に隔壁を設置し、前記前面基板、前記背面基板及び前記隔壁により形成された空間に放電可能なガス媒体を封入して成るプラズマディスプレイパネルであって、前記第1および第2電極上の誘電体ガラス層の少なくとも一部が、請求項1または2に記載のガラス組成物である事を特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
第1の電極及び誘電体ガラス層が形成された前面基板と、第2の電極と誘電体ガラス層及び蛍光体層が形成された背面基板とを有し、前記第1の電極と前記第2の電極とが所定の距離離間して対向するよう前記前面基板と前記背面基板とを配置するとともに、前記前面基板と前記背面基板との間に隔壁を設置し、前記前面基板、前記背面基板及び前記隔壁により形成された空間に放電可能なガス媒体を封入して成るプラズマディスプレイパネルであって、前記隔壁が酸化物ガラスを含み、前記酸化物ガラスの少なくとも一部が、請求項1または2に記載のガラス組成物である事を特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記電極が銀(Ag)および銅(Cu)から選ばれる少なくとも1種を含む請求項3〜6のいずれかに記載のディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37710(P2008−37710A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215300(P2006−215300)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】