説明

ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法

【課題】 熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いる場合でも、射出成形時の成形不良を抑制でき、且つ、射出成形後の成形品中に含まれるガラス繊維の繊維長の長いガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を提供すること。
【解決手段】 ガラス繊維をサイズ剤で複数本束ねたガラス繊維束を、熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引き抜き工程と、引き抜き工程で得られる樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレット化する第1ペレット化工程と、第1ペレット化工程で得られるペレットを、熱溶融した前記熱可塑性樹脂とともに混練した後、ペレット化する第2ペレット化工程とを含むガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法の1つとして、例えば、紡糸したガラス繊維にサイズ剤を付与し集束したストランド、又は、当該ストランドを合糸したロービングをガラス繊維束とし、このガラス繊維束を1〜20mm程度に切断したチョップドストランドを、熱可塑性樹脂と混練した後、ペレット化する方法が知られている。
【0003】
また、他の方法として、例えば、上記のガラス繊維束に、熱可塑性樹脂を含浸させた後、切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレットを得る方法が知られている。
【0004】
上述の方法によって得られたガラス繊維強化樹脂ペレットは、射出成形することで、成形品として加工される。当該成形品の機械強度を高めるために、各種検討が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高い機械強度を有するガラス繊維強化樹脂を得るために、ガラス繊維に対するシランカップリング剤の付着量(A)とポリシロキサンの付着量(B)の比A/Bを1〜20としたサイズ剤を使用する手法が提案されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、繊維長が3〜100mmであり且つペレット長よりも長い強化長繊維とそれよりも短い強化短繊維との混合体と、直径:1mm以下の熱可塑性樹脂粉末又は/及び繊維長:3〜25mmの熱可塑性樹脂繊維とを含む原料を、加熱して樹脂成分を溶融状態にした後、押出機に投入し、そのダイより押出して直径:2〜10mmのストランドとし、これを長さ5〜25mmに切断してペレット化することで、ペレット中にペレット長よりも長い強化繊維を含有させ、補強効果を高める方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−238213号公報
【特許文献2】特開平6−254847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来の方法では、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いる場合には、後述のような不具合があった。
【0008】
すなわち、液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いたガラス繊維強化樹脂ペレットは、射出成形して成形品を得る際に、高温で成形する必要がある。そのため、成形時にガラス繊維同士を集束させるためのサイズ剤成分が分解しガスが発生し、フクレなどの成形不良の原因となるなどの問題があった。
【0009】
したがって、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いる場合には、サイズ剤の量を減らす必要がある。
【0010】
しかしながら、チョップドストランドを用いる方法において、紡糸したガラス繊維に付与するサイズ剤の量を減らした場合、チョップストランドの製造工程において、ストランドに毛羽が発生したり、ストランドの切断不良によりチップドストランドを得ることが困難になったりするという問題があった。
【0011】
一方、ガラス繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させた後、切断する方法においては、ガラス繊維束に強く損傷を与えるような加工工程がほとんどないことから、紡糸したガラス繊維に付与するサイズ剤の量を減らすことが可能である。しかしながら、液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂は、通常、ガラス繊維に対する含浸性が悪いことから、このような樹脂を使用した場合、ガラス繊維強化樹脂ペレットを安定して作製できなかったり、射出成形による成形品の作製が困難になったりする問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いる場合でも、射出成形時の成形不良を抑制可能なガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該製造方法によって、製造したガラス繊維強化樹脂ペレットを用いた、成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ガラス繊維束を熱溶融した熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引き抜き工程と、引き抜き工程で得られる樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレット化する第1ペレット化工程と、第1ペレット化工程で得られたペレットを加熱混練し、上記熱可塑性樹脂を熱溶融した後ペレット化する第2ペレット化工程、とを含むガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を提供する。
【0014】
すなわち、本発明は、紡糸したガラス繊維にサイズ剤を付与し集束したストランドや、このストランドを複数本合糸したロービング等のガラス繊維束に、熱可塑性樹脂を含浸させた後、切断して得られた第1のペレットを得る第1ペレット化工程と、この第1のペレットの熱可塑性樹脂を熱溶融し、混練した後、再度ペレット化する第2のペレット化工程を有することを特徴とする。本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法においては、ペレット化のための切断工程を、熱可塑性樹脂を含浸させた後に行うため、紡糸したガラス繊維に付与するサイズ剤の量を減らすことが可能である。したがって、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いた場合でも、サイズ剤成分の分解ガスに起因するフクレなどの射出成形時の成形不良を抑制できる。また、サイズ剤成分の分解ガスに起因する成形品の強度低下をも抑制できる。また、溶融ガラス繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させペレットを得た後、このペレットを再度混練することにより、液晶ポリマーなどの融点の高い樹脂を用いた場合でも、ガラス繊維の破砕を抑えながら樹脂を十分に含浸することができる。したがって、成形品の強度を向上することができる。さらに、本発明の製造方法で製造したガラス繊維強化樹脂ペレットを用いれば、射出成形後の成形品中の繊維長を長く保つことができるため、成形品の強度を高めることができる。
【0015】
本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法においては、第1ペレット化工程での熱可塑性樹脂を第1の熱可塑性樹脂とし、第2ペレット化工程において上記第1のペレットを第2の熱可塑性樹脂とともに加熱混練し、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を熱溶融することが好ましい。このようにすることにより、第1ペレット工程や第2ペレット化工程でのガラス繊維束と熱可塑性樹脂との含有比を適切に設定することができ、成形品の強度をさらに向上することができる。
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法においては、上記第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂は同一の樹脂組成であることが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂は、液晶ポリエステル樹脂などの溶融温度が200℃以上の熱可塑性樹脂であってもよい。なお、本発明における溶融温度とは樹脂組成物を昇温させて示差走査熱量計等の熱分析により吸熱温度を測定した時の吸熱ピーク温度をいう。
【0017】
本発明によれば、このような溶融温度を有する熱可塑性樹脂を使用した場合でも、サイズ剤成分の分解ガスに起因するフクレなどの射出成形時の成形不良を抑制できる。また、サイズ剤成分の分解ガスに起因する成形品の強度低下をも抑制できる、熱可塑性樹脂を十分に含浸することができる等の効果も奏する。射出成形後の成形品中の繊維長を長く保つことができるため、成形品の強度を高めることができる。
【0018】
さらに、本発明の製造方法に用いられるガラス繊維束は、400℃に加熱した場合における強熱減量Waが、0.10[重量%]以下であるものが好ましく、625℃に加熱した場合における強熱減量Wbが0.10[重量%]以下であるものがさらに好ましい。なお、本発明において、ガラス繊維束の強熱減量Wa,Wbは、下記式(1)又は(2)により算出する。
Wa=((M1−M2)/M1)×100[%] …(1)
Wb=((M1−M3)/M1)×100[%] …(2)
ただし、
M1:約5g近傍のガラス繊維束を105±5℃で6時間乾燥し絶乾させた後、デシケータに入れて室温まで放冷した乾燥後のガラス繊維束の質量(g)
M2:上記乾燥後のガラス繊維束を400±20℃に保った加熱炉で15分間加熱し、その後加熱炉から取り出し、デシケータに入れて放冷した加熱後のガラス繊維束の質量(g)
M3:上記乾燥後のガラス繊維束を625±20℃に保った加熱炉で15分間加熱し、その後加熱炉から取り出し、デシケータに入れて放冷した加熱後のガラス繊維束の質量(g)
【0019】
このようなガラス繊維束、すなわち分解ガスの原因となるサイズ剤成分の少ないガラス繊維束を使用することで、分解ガスに起因するフクレなどの射出成形時の成形不良、及び、成形品の強度低下を更に抑制することができる。
【0020】
本発明は、上述の製造方法によって得ることのできるガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形する、成形品の製造方法に関する。
【0021】
上述の製造方法で得られる、ガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形すれば、サイズ剤成分の分解ガスに起因する射出成形時の成形不良、及び、サイズ剤成分の分解ガスに起因する成形品の強度低下を抑制することができる。さらに、このような、ガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形した成形品は、成形品中のガラス繊維長が長く、高い強度を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーなどの溶融温度の高い樹脂を用いる場合でも、射出成形時の成形不良を抑制でき、且つ、射出成形後の成形品中に含まれるガラス繊維の繊維長の長いガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法を提供することができる。また、当該製造方法によって、製造したガラス繊維強化樹脂ペレットを用いた、成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一部号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
ガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法の好適な実施形態としては、サイズ剤が付着したガラス繊維を複数本束ねてガラス繊維束とし、当該ガラス繊維束を熱溶融した第1の熱可塑性樹脂とともに、貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引き抜き工程と、引き抜き工程で得られる樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレット化する第1ペレット化工程と、第1ペレット化工程で得られるペレットを、熱溶融した第2の熱可塑性樹脂とともに混練した後、ペレット化する第2ペレット化工程とを備える方法が挙げられる。なお、成形品の強度の向上などのため、上記第1の熱可塑性樹脂と上記第2の熱可塑性樹脂は同一の樹脂組成であることが好ましい。また第2ペレット工程において、第2の熱可塑性樹脂を追加せず、第1のペレットを加熱し、第1の熱可塑性樹脂を溶融し混練してもよい。
【0025】
第1ペレット化工程で用いるガラス繊維束は、例えば、以下の工程により製造できる。
【0026】
まず、ガラス繊維の原料ガラスを溶融し、ブッシングから溶融した原料ガラスを引き出すことにより、ガラス繊維を製造する。その後、当該ガラス繊維にシランカップリング剤、潤滑剤、被膜形成剤などを含むサイズ剤の塗布液を付与し、ガラス繊維50〜8000本を一束として集束させ、その後巻き取り、乾燥してストランドの巻体を製造する。そして、当該ストランド2〜50本を更に合糸することで、ガラス繊維1000〜30000本が束ねられたガラス繊維束を得る。なお、場合によっては、当該ストランドを合糸することなくそのままガラス繊維束として用いてもよい。
【0027】
ガラス繊維の原料ガラスの種類としては、Eガラス、Sガラス、低誘電ガラス、Cガラス等が挙げられる。繊維化が容易であるという点からは、Eガラスを用いることが好ましい。また繊維径は3〜17μmが好ましい。
【0028】
シランカップリング剤は、ガラス繊維と、ガラス繊維に含浸させる熱可塑性樹脂との間の界面密着性向上のために用いられるものであり、通常、酢酸、蟻酸、乳酸等の有機酸や、水などに溶解して用いられる。シランカップリング剤としては、公知のものが使用でき、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が例示できる。
【0029】
潤滑剤は、ガラス繊維同士の摩擦による磨耗などを抑制するために用いられるものである。潤滑剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物が用いられる。
【0030】
被膜形成剤は、ガラス繊維を集束し表面を保護するために用いられるものである。被膜形成剤としては、ガラス繊維の集束を行える造膜性のものであれば公知のものが用いられる。公知の被膜形成剤としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂及び酢酸ビニル樹脂が挙げられる。なお、場合によってはサイズ剤には被膜形成剤を含まないこともある。
【0031】
ガラス繊維に付着しているサイズ剤の量は、上述の式(1)及び/又は(2)により算出される400℃及び/又は625℃における強熱減量Wa、Wbの値に影響する。したがって、強熱減量の値を考慮してサイズ剤の付着量を調整することが好ましい。
【0032】
ガラス繊維束は、400℃における強熱減量値Waが、0.10[重量%]以下であることが好ましい。このようなガラス繊維束は、分解ガスの原因となるサイズ剤成分の含有量が少ないことから、分解ガスに起因するフクレなどの射出成形時の成形不良、及び、成形品の強度低下を更に抑制することができる。
【0033】
また、ガラス繊維束は、625℃における強熱減量値Wbが、0.10[重量%]以下であることが更に好ましい。このようなガラス繊維束を用いた場合、ガラス繊維と、熱可塑性樹脂との界面接着性がさらに向上する。そのため、成形品の強度の向上を図ることができる。
【0034】
図1は、引き抜き工程及び第1ペレット化工程に用いられる製造装置100の概略図である。
【0035】
製造装置100は、熱溶融した熱可塑性樹脂10aを収容した熱可塑性樹脂槽34と、ガラス繊維束21を熱溶融した熱可塑性樹脂10aとともに通過させる貫通孔31が形成されたダイス30と、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束をダイス30から引き抜くプーラー40とを備えており、これらは、本発明における引き抜き工程に用いられる。
【0036】
なお、ダイス30の上流側には、ダイス30に導入すべきガラス繊維束21が巻きつけられた巻糸体22が配置されている。ダイス30の下流側に位置するプーラー40は、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を、回転するローラで上下から挟み込むいわゆるキャタピラ方式のプーラーである。
【0037】
引き抜き工程では、まず、プーラー40を回転駆動させ、巻糸体22からガラス繊維束21を引き出す。
【0038】
そして、引き出されたガラス繊維束21をダイス30の貫通孔31に導入するとともに、ポンプ等を使って、熱溶融させた熱可塑性樹脂10aを貫通孔31に導く。ダイス30中ではガラス繊維束21の周囲及び内部に熱溶融した熱可塑性樹脂10aが含浸し、プーラー40の回転駆動により、貫通孔31の出口側断面形状に対応した形状に成型されながら、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束がダイス30から引き抜かれる。
【0039】
引抜き速度は5〜30m/分程度が好ましい。これ以上に速度を上げると樹脂の含浸性の低下や、後に続く切断工程における切断不良などの不具合が生じる傾向がある。なお、引抜きの際にガラス繊維束に撚りをかけてもよい。
【0040】
図1では巻糸体22を1つ用いたが、巻糸体22を複数用いて、複数のガラス繊維束21をダイス30に導入してもよい。また、ダイス30とプーラー40の間に、熱溶融した熱可塑性樹脂10aの固化を促進するための冷却手段を設置してもよい。これは、例えば水などの液体を触れさせることで行っても良いし、空冷により行っても良い。更に、ダイス30とプーラー40との間に、熱可塑性樹脂が付着したガラス繊維束21の断面形状を整える成型手段を設置してもよい。
【0041】
また、熱可塑性樹脂を溶融させる温度は、通常、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上で、且つ、熱可塑性樹脂が分解や変質がしない程度の温度未満で行われる。
【0042】
熱可塑性樹脂に特に制限はないが、溶融温度が200℃以上の熱可塑性樹脂が好ましい。このような樹脂を用いた場合に、特に本発明の効果が顕著に発揮される。
【0043】
溶融温度が200℃以上の熱可塑性樹脂としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PES(ポリエーテルサルフォン)樹脂が挙げられる。
【0044】
含浸させる熱可塑性樹脂の量は、ガラス繊維束100質量部に対して、熱可塑性樹脂が20〜300質量部となることが好ましく、30〜200質量部となることがより好ましい。ガラス繊維束100質量部に対する、熱可塑性樹脂の量が20質量部より少ないと、第2ペレット化工程での混練によりガラス繊維の繊維長が短くなり成形品の強度が低下する傾向にあり、300質量部より多いと、成形品中のガラス繊維の割合が少なくなることで成形品の強度が低下する傾向にある。
【0045】
製造装置100は、ブレードをモータMの駆動力で回転させて、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を切断し、ガラス繊維樹脂強化ペレット200とする切断機50も備えており、これは、第1ペレット化工程に適用される。切断機50は、熱可塑性樹脂が含浸したガラス繊維束を切断できるものであれば、特に制限はなく、公知の装置が用いられる。
【0046】
第1ペレット化工程では、熱可塑性樹脂が含浸し、切断に適した状態に樹脂が固化したガラス繊維束を切断機50により切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレット200を得る。ここでカッターの回転速度とライン速度を調節することにより、ペレット長を調節することができる。ペレット長は2〜50mm、より好ましくは5〜20mmである。2mmよりも短く切断すると、射出成形後の成形品中のガラス繊維の繊維長が短くなるために、ガラス繊維強化樹脂成形品の強度が低下する傾向がある。また、50mmよりも長く切断すると、第1ペレット化の次に行われる第2ペレット化工程において、詰まりなどが生じ、作業性が低下する傾向にある。
【0047】
図2は、第1ペレット化工程で得られるペレット200の斜視図である。図3(a)は第1ペレット化工程で得られるペレット200の正面図、(b)は同側面図である。
【0048】
図2及び図3に示すように、ペレット200は、熱可塑性樹脂10中に、ガラス繊維束21に含まれるガラス繊維20を複数一方向に配列させたものである。また、図3(b)から明らかなようにこのガラス繊維20の端面は、熱可塑性樹脂で覆われていない。なお、図3(b)では一方の側面(端面)のみを示しているが、他方の側面(端面)にもガラス繊維20が到達しており、端面は熱可塑性樹脂で覆われていない。
【0049】
図4は、第2ペレット化工程に用いられる製造装置500の概略図である。製造装置500は、ペレット200及び熱可塑性樹脂300を混練する二軸押出機64と、ペレット200及び熱可塑性樹脂300の混練物を冷却する冷却手段66と、冷却し混練物を切断する切断手段68とを備えている。
【0050】
第2ペレット化工程では、第1ペレット化工程により製造したペレット200と、熱可塑性樹脂300を二軸押出機64に投入し混練する。なお、熱可塑性樹脂300を投入せずペレット200のみを二軸押出機64に投入し混練してもよい。
【0051】
第1のペレットを用いて第2ペレット化工程を行うことによって、二軸押出機64によるガラス繊維20の破砕を抑えながら、ガラス繊維束への樹脂の含浸性を高めることができ、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造した場合により高い強度を得ることが可能となる。
【0052】
ペレット200と、熱可塑性樹脂300を投入する場合は、これらの使用割合は、ペレット200の100質量部に対して熱可塑性樹脂300は、10〜200質量部を用いることが好ましい。また、最終的に得られるペレット400の組成は、ガラス繊維束100質量部に対し、熱可塑性樹脂が50〜300質量部になることが好ましい。
なお、第2ペレット化工程において、熱可塑性樹脂300を投入することなく、ペレット200のみを混練する場合は、ペレット200は、ガラス繊維束100質量部に対し、熱可塑性樹脂が50〜300質量部であることが好ましい。
【0053】
混練後、二軸押出機64から押出された混練物を、冷却手段66により冷却する。冷却されて切断に適した状態に樹脂が固化したガラス繊維束を切断手段68により切断し、ガラス繊維強化樹脂ペレット400を得る。ここでカッターの回転速度とライン速度を調節することにより、ペレット長を調節することができる。ペレット長は0.5〜15mm、より好ましくは1〜5mm、更に好ましくは2〜4mmである。0.5mmよりも短く切断すると、射出成形後の成形品中のガラス繊維の繊維長が短くなるために、ガラス繊維強化樹脂成形品の強度が低下する傾向がある。また、10mmよりも長く切断すると、射出成形によって成形品を製造する際に、詰まりなどが生じ、作業性が低下する傾向にある。
【0054】
図4においては、混練に二軸押出機を用いているが、ペレット200と、熱可塑性樹脂の混練ができるものであれば、公知の装置が使用できる。また、図4においては、水などの液体を触れさせる冷却槽を冷却手段として用いているが、冷却は空冷により行ってもよい。また、切断手段68は、樹脂が固化したガラス繊維束を切断できるものであれば、特に制限はなく、公知の装置が用いられる。
【0055】
このように、第1ペレット化工程でのガラス繊維束21と熱可塑性樹脂10aの質量比、及び第2ペレット化工程でのペレット200と熱可塑性樹脂300の質量比は、それぞれの工程の作業性と、ガラス繊維強化樹脂ペレット400でのガラス繊維束と熱可塑性樹脂の質量比を考慮し、それぞれの工程での最適な質量比を設定すればよい。
【0056】
図5は、成形品を製造するための射出成形機600の概略図である。
【0057】
射出成形機600は、樹脂ペレットの投入口であるホッパー60と、シリンダー70と、ヒーター75と、スクリュー80とを備えている。シリンダー70の出口には金型90が設置されている。
【0058】
成形品は、ガラス繊維強化樹脂ペレット600をホッパー60に投入し、射出成形することによって製造することができる。この際必要であれば熱可塑性樹脂のペレットを更に投入してもよい。
【0059】
成形品は、ガラス繊維強化樹脂ペレット400を射出成形機300のホッパー60に投入し、シリンダー70をヒーター75で加熱することで、ガラス繊維強化樹脂ペレット400中の熱可塑性樹脂を溶融させ、シリンダー70内のスクリュー80で、溶融した樹脂とガラスを混ぜながらシリンダー70の先端に送る。加熱温度は熱可塑性樹脂の溶融温度の10〜30℃程度高い温度に設定すればよい。
【0060】
続いて、上記溶融したガラス繊維強化樹脂に圧力をかけて金型90に打ち込む。その後に、金型90内で樹脂を冷却して結晶化させ、ガラス繊維強化樹脂成形品を取り出す。以上の工程により、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、好適な実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
[ガラス繊維束の作製]
シランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.5質量%、pH調整剤(酢酸)0.2質量%、潤滑剤(テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物)0.03質量%を含むサイズ剤水系液を調整した。調整したサイズ剤水系液を、ガラス繊維(直径11μmのEガラスフィラメント)に塗布し、当該ガラス繊維を1500本束ねてガラスストランドとした。さらに、120℃8時間乾燥後、当該ガラスストランドを10本合糸しガラス繊維束を作製した。
【0063】
上述の方法により作製したガラスストランドについて、400℃における強熱減量値Wa及び625℃における強熱減量値Wbを測定したところ、Wa=0.06[重量%]、Wb=0.08[重量%]であった。結果を表1に示す。
【0064】
[成形品の作製]
長繊維熱可塑性樹脂ペレット製造装置を用いて、上述の方法により作製したガラス繊維束を引抜き速度15m/分で、当該ガラス繊維束60質量部に、液晶ポリエステル樹脂(エコノール系液晶ポリエステル:溶融温度330℃)40質量部を、350℃で含浸させた後、ペレタイザーにより切断し、長さ12mmのペレットを得た。さらに、当該ペレット50質量部と、上記液晶ポリエステル樹脂と同一の樹脂組成の液晶ポリエステル樹脂50質量部を、押出し機により350℃で混練した後、ペレタイザーにより切断し、長さ3mmのペレットを得た。このペレットを350℃で射出成形することによって、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を作製した。なお、この場合、得られた成形品100質量部に対して、成形品中のガラス繊維束は30質量部、成形品中の液晶ポリエステル樹脂は70質量部となる。
【0065】
(比較例1)
[ガラス繊維束の作製]
シランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.5質量%、酢酸0.2質量%、潤滑剤(テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物)0.03質量%、被膜形成剤(ウレタン樹脂(日本エヌエスシー社製RC30K:固形分55%))1.0質量%を含むサイズ剤水系液を調整した。調整したサイズ剤水系液を、ガラス繊維(直径11μmのEガラスフィラメント)に塗布し、当該ガラス繊維を1500本束ねてガラスストランドとした。さらに、120℃8時間乾燥後、当該ガラスストランドを10本合糸しガラス繊維束を作製した。
【0066】
上述の方法により作製したガラスストランドについて、400℃における強熱減量値Wa及び625℃における強熱減量値Wbを測定したところ、Wa=0.20[重量%]、Wb=0.25[重量%]であった。結果を表1に示す。
【0067】
[成形品の作製]
上述の方法により得られたガラス繊維束を切断し、長さ3mmのチョップドストランドを作製した。そして、得られたチョップドストランド30質量部に、液晶ポリエステル樹脂(エコノール系液晶ポリエステル:溶融温度330℃)70質量部を、押出し機により350℃で混練した後、ペレタイザーにより切断し、長さ3mmのペレットを得た。このペレットを350℃で射出成形することによって、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得た。
【0068】
(比較例2)
[ガラス繊維束の作製]
実施例1と同様の方法によりガラス繊維束を作製した。Wa及びWbの結果は実施例1と同様であった。結果を表1に示す。
【0069】
[成形品の作製]
得られたガラス繊維束を切断し、長さ3mmのチョップドストランドを作製した。得られたチョップストランドは、毛羽が多発していた。また、得られたチョップドストランド30質量部に、液晶ポリエステル樹脂(エコノール系液晶ポリエステル:溶融温度330℃)70質量部を、押出し機により350℃で混練したところ、チョップドストランドが綿状になってしまい混練不良となり、ペレットを作製できなかった。
【0070】
(比較例3)
[ガラス繊維束の作製]
実施例1と同様の方法によりガラス繊維束を作製した。Wa及びWbの結果は実施例1と同様であった。結果を表1に示す。
【0071】
[成形品の作製]
長繊維熱可塑性樹脂ペレット製造装置を用いて、上述の方法により作製したガラス繊維束60質量部に、液晶ポリエステル樹脂(エコノール系液晶ポリエステル:溶融温度330℃)40質量部を、350℃で含浸させた後、ペレタイザーにより切断し、長さ3mmのペレットを得た。さらに、当該ペレット50質量部と、液晶ポリエステル樹脂50質量部を、射出成形機を用い350℃で混練すると共に射出成形し、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を作製した。得られた成形品は、ガラス繊維の分散不良が多発し、成形不良となった。
【0072】
(比較例4)
[ガラス繊維束の作製]
実施例1と同様の方法によりガラス繊維束を作製した。Wa及びWbの結果は実施例1と同様であった。結果を表1に示す。
【0073】
[成形品の作製]
得られたガラス繊維束を切断し、長さ0.1mmのカットファイバーを作製した。得られたカットファイバー30質量部に、液晶ポリエステル樹脂(エコノール系液晶ポリエステル:溶融温度330℃)70質量部を、押出し機により350℃で混練した後、ペレタイザーにより切断し、長さ3mmのペレットを得た。このペレットを350℃で射出成形することによって、後述する引張強度評価の試験片用のガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得た。
【0074】
(プロセス適合性の評価)
[成形品の作製について]
実施例1、比較例1〜4について、成形品の作製が可能であったかどうかの評価を行った。成形品の作製が可能であったものを「可」とし、困難であったものを「不可」とした。結果を表1に示す。
【0075】
(成形品の評価)
成形品を作製可能であった実施例1、比較例1及び比較例4について成形品の評価を行った。
【0076】
[引張強度]
ASTM規格 ASTM D−638「プラスチックの引張特性の標準試験方法」に準拠し、引張強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0077】
[フクレ]
引張強度の評価に用いた試験片を、熱風乾燥機で300℃、10分間加熱した後、冷却して、フクレの数(個/試験片の表面積10cm)を目視で確認した。なお、フクレとは試験片表面に膨らみが生じている部分を示す。結果を表1に示す。
【0078】
[溶融温度の測定]
示差走査熱量計を用いて、熱可塑性液晶ポリマー成形体を20℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で室温まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピーク温度を測定し、溶融温度とした。
【0079】
[成形品中のガラス繊維の繊維長]
成形品を625℃で125分間加熱することで熱可塑性樹脂成分を分解し、残存したガラス繊維を折れないようにクロロホルム中に分散させた。次いで、分散したガラス繊維をプレパラートに乗せ、LUZEX−FS(株式会社ニレコ)を用いて、ガラス繊維の長さを測定し、成形品中のガラス繊維の繊維長とした。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
以上に示すように、実施例1は、フクレもなく射出成形可能であった。また、実施例1は、射出成形後の成形品中に含まれるガラス繊維の繊維長も、比較例1及び4より長いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】引き抜き工程及び第1ペレット化工程に用いられる製造装置100の概略図である。
【図2】第1ペレット化工程で得られるペレット200の斜視図である。
【図3】(a)第1ペレット化工程で得られるペレット200の正面図、(b)同側面図である。
【図4】第2ペレット化工程に用いられる製造装置500の概略図である。
【図5】成形品を製造するための射出成形機600の概略図である。
【符号の説明】
【0083】
10…熱可塑性樹脂、10a…熱溶融した熱可塑性樹脂、20…ガラス繊維、21…ガラス繊維束、22…巻糸体、30…ダイス、31…貫通孔、40…プーラー、60…ホッパー、64…二軸押出機、66…冷却手段、68…切断手段、70…シリンダー、75…ヒーター、80…スクリュー、90…金型、100…引き抜き工程及び第1ペレット化工程に用いられる製造装置、200…ペレット、400…ガラス繊維強化樹脂ペレット、500…第2ペレット化工程に用いられる製造装置、600…射出成形機。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維束を熱溶融した熱可塑性樹脂とともに貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引き抜き工程と、
前記引き抜き工程で得られる樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレット化する第1ペレット化工程と、
前記第1ペレット化工程で得られたペレットを加熱混練し、前記熱可塑性樹脂を熱溶融した後、ペレット化する第2ペレット化工程と、
を含むガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
ガラス繊維束を熱溶融した第1の熱可塑性樹脂とともに貫通孔が形成されたダイスの当該貫通孔に通して引き抜く引き抜き工程と、
前記引き抜き工程で得られる樹脂含浸ガラス繊維束を切断してペレット化する第1ペレット化工程と、
前記第1ペレット化工程で得られたペレットを第2の熱可塑性樹脂とともに加熱混練し、前記第1の熱可塑性樹脂と前記第2の熱可塑性樹脂を熱溶融した後、ペレット化する第2ペレット化工程と、
を含むガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は溶融温度が200℃以上の熱可塑性樹脂である、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記第1の熱可塑性樹脂及び/又は前記第2の熱可塑性樹脂は、溶融温度が200℃以上の熱可塑性樹脂である、請求項2に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
溶融温度が200℃以上の前記熱可塑性樹脂は液晶ポリエステル樹脂である、請求項3又は4に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス繊維束は、400℃に加熱した場合における強熱減量が0.10重量%以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス繊維強化樹脂ペレットの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法によりガラス繊維強化樹脂ペレットを作製する工程と、
当該ガラス繊維強化樹脂ペレットを射出成形する工程と、
を含む成形品の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−221427(P2009−221427A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70072(P2008−70072)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】