説明

ガラス繊維集束剤、ガラス繊維とその製造方法及びガラス繊維強化熱可塑性樹脂

【課題】熱可塑性樹脂の成型時の加熱に加え、成形後の熱可塑性樹脂が受ける複数回に亘る高温加熱処理による着色をも抑止できるガラス繊維用集束剤と、この集束剤を塗布して熱可塑性樹脂の強化材として、安定した機械的強度の樹脂材が得られるガラス繊維とその製造方法、このガラス繊維によるガラス繊維強化熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】本発明のガラス繊維用集束剤は、ピロリン酸塩と、集束剤が固形分換算で50質量%以上の無黄変型ポリウレタンとを含有する。本発明ガラス繊維は、本発明のガラス繊維集束剤をその付着率が0.2質量%から0.6質量%の範囲となるように塗布されてなる。ガラス繊維の製造方法は、ブッシングより引き出したガラスフィラメントに本発明のガラス繊維用集束剤を塗布し、このフィラメントをギャザリングしてガラスストランドとし、ガラスストランドを回巻体に巻き取り、本発明のガラス繊維とする。ガラス繊維強化熱可塑性樹脂は本発明のガラス繊維により強化してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を強化するために使用されるガラス繊維と、その表面を被覆するガラス繊維用集束剤、そしてこの集束剤を用いたガラス繊維の製造方法、及びこのガラス繊維を使用して製造されるガラス繊維強化熱可塑性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
主に構造材料として使用されるガラス繊維は、数多くの用途で使用されているが、このガラス繊維は一般に以下のような工程で製造されている。まずガラス繊維用として調製されたガラス原料を高温状態となるように加熱することによって溶融ガラスとし、この溶融ガラスを白金製ブッシングの底部に形成された多数の耐熱性ノズルから連続的に引き出すことによって繊維化した後、その表面に集束剤を塗布してから集束することによってガラス繊維束(ストランド)としてから回巻状に巻き取る方法が採られる。ここでガラス繊維に塗布される集束剤は、皮膜形成剤、カップリング剤、潤滑剤、あるいは帯電防止剤等の各種の成分から構成されている。そしてガラス繊維がFRTP(Fiberglass−Reinforeced ThermoPlastic;ガラス繊維熱強化プラスチックとも言う)の補強材として用いられる場合には、強度の高いFRTPが得られるように集束剤の成分として、マトリックス樹脂との接着性が良好となるように選択された皮膜形成剤とカップリング剤とが使用されている。そしてこのガラス繊維を使用して、例えばFRTPを製造する場合には、作製したストランドを所定長に切断してチョップドストランドとした後、これを熱可塑性樹脂と加熱しながら混練し、次いで各種の成形法で所定形状に成形する方法が採られる。
【0003】
このようにして得られるFRTPのようなガラス繊維を使用する熱可塑性樹脂の成型体は、数多くの優れた性能を有するために自動車やOA機器等の様々な用途で使用されているが、成型を行う際の混練等の加熱条件によってはマトリックス樹脂の分解反応やガラス繊維表面の集束剤の反応等に起因して褐色等に着色する場合があり、このような着色現象を防止するために着色防止剤が一般に使用されている。しかしながら着色防止剤の使用は成形体の強度を低下させる場合もあり、しかも大量に着色防止剤を使用するのは経済的ではない。そこで特許文献1では、着色防止剤として次亜リン酸又はその塩を0.05〜1.5wt%使用することによって加熱における着色を抑止するという発明が開示されている。また特許文献2には、加熱による着色を防止する手段として、集束剤中にピロリン酸塩を含有させるという発明も開示されている。
【特許文献1】特開平2−116648号公報
【特許文献2】特開平9−249434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこれまで行われてきた発明は、ある程度の着色改善効果は実現できても、ガラス繊維が使用される用途や特定の樹脂では全く十分なものではないことが判明してきた。例えば種々のFRTPの中でも、特に高い耐熱性を有する液晶ポリマー樹脂、ポリアミド4,6樹脂、芳香族ポリアミド樹脂やPPS樹脂等を用いて製造され、電子工業等の用途で使用される表面実装部品においては、リフローハンダ付け時の加熱により当該部品が著しく着色する場合や、濃い色相へと変色する場合があり、このような着色等が発生すると所望の色調の製品が得られないことになる。この着色の問題は、FRTP製造時の加熱に加えてリフローハンダ付け処理でも再度の加熱が行われることによって生じているものであり、リフローハンダ付け処理後の当該部品において、所望の色相が得られなくなることに加えて、製品毎の色調のばらつきが大きく色相安定性に欠けるという問題も生じることとなる。すなわち得られる製品の色調が安定することなく、工業製品として価値がなくなるという事態となるのである。
【0005】
特許文献1や特許文献2に開示の発明では、FRTP成型時の一次加熱での変色を抑止するという効果を発揮することはでき、その後に高温加熱にさらされないならば、それなりに対処することはできるものである。しかしながらFRTPが様々な用途で使用されるようになったために再び問題化したのは、一旦成形されたFRTPが再度の加熱を受ける、いわゆる二次加熱に対しての熱変色という極めて解決が困難な着色問題であった。またこの二次加熱に関わる着色問題では、特許文献1の次亜リン酸又はその塩、あるいは特許文献2のピロリン酸塩のガラス繊維表面への付着量を多くする対処を行うと、FRTPの色相はより白味を帯びるようになるため、リフローハンダ付け処理時の二次加熱による色相変化がかえって顕著なものとなり、最終部品としての色相安定性が一層乏しくなる場合があるということも判明した。
【0006】
すなわち、本発明は熱可塑性樹脂の成型時の加熱ばかりでなく、成形された熱可塑性樹脂が受ける複数回に亘る高温加熱処理によってもたらされる着色をも確実に抑止することができるガラス繊維用集束剤と、このガラス繊維用集束剤を塗布することによって熱可塑性樹脂の強化材として安定した機械的強度を有する樹脂材を得ることのできるガラス繊維とその製造方法、及びこのガラス繊維により強化されたガラス繊維強化熱可塑性樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、加熱によって着色し難い、すなわち高い耐熱変色性を有し、しかもマトリックス樹脂との接着性が良く、複合成形体の機械的強度を高くすることのできる熱可塑性樹脂強化用のガラス繊維に関する重点的な研究を行う中で本発明に至った。すなわち、ガラス繊維表面に塗布される集束剤成分として特定成分の配合量を精緻に調整したものを使用することによって、マトリックス樹脂との接着性を良くし、FRTPの機械的強度を高くすることができ、集束性が良好なため搬送工程での繊維束のほぐれが生じにくく、ガラス繊維の成形時の一次加熱に加えて、リフローハンダ付け処理のような二次加熱を伴う後加熱工程時における変色をも効率的に抑制することが可能となることを数多くの試行錯誤の末に遂に見出した。そしてこの高い機械的強度と耐熱変色性の両方を実現することのできるガラス繊維用集束剤とこのガラス繊維用集束剤を塗布したガラス繊維、さらにガラス繊維の製造方法及びこのガラス繊維を使用したガラス繊維強化熱可塑性樹脂をここに提示するものである。
【0008】
本発明のガラス繊維用集束剤は、ガラス繊維の表面に塗布される集束剤であって、無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、該無黄変型ポリウレタンの含有量が固形分換算で50質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
ここで、ガラス繊維の表面に塗布される集束剤であって、無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、該無黄変型ポリウレタンの含有量が固形分換算で50質量%以上であるとは、無機ガラス材質よりなる熱可塑性樹脂の強化用途で用いられるガラス繊維の表面を被覆するように塗布されるガラス繊維集束剤の成分として、無黄変型ポリイソシアネートを含有するポリウレタンである無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、しかも無黄変型ポリウレタンの含有量が、固形分換算で50質量%以上であるということを意味している。
【0010】
無黄変型ポリウレタンとしては、含有される無黄変型ポリイソシアネートにヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂肪族、脂環族ジイソシアネートあるいはこれらの誘導体を使用するものであり、ピロリン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸カルシウム、又はピロリン酸銅等の無水物や水和物を使用するものである。
【0011】
本発明のガラス繊維用集束剤は、含有される無黄変型ポリウレタンの含有比率が固形分換算で50質量%に満たない場合には加熱初期、すなわち一次加熱時には変色を抑える効果を発揮しても、二次加熱などの複数回に亘る加熱操作を要する場合や、加熱温度が著しく高い場合などには十分な着色抑止効果が得られ難くなり、濃い着色が認められるようになるため好ましくない。無黄変型ポリウレタンは、これまでもガラス繊維用集束材中に使用されてはいたが、これまでは固形分換算で50質量%に満たない含有量で使用されてきたため、大きな着色抑止効果を発揮することはできないものであった。また無黄変型ポリウレタンの含有比率が大きすぎると、相対的にピロリン酸塩の含有量が低くなることとなり、その場合も耐熱変色性が損なわれることとなる場合がある。よって含有される無黄変型ポリウレタンの含有比率には上限があり、無黄変型ポリウレタンの含有比率は90質量%以下とすることが好ましい。また耐熱変色性に関してより安定した品位のガラス繊維用集束剤とするには、88質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは85%以下とすることである。
【0012】
本発明のガラス繊維用集束剤は、無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩以外の成分については、所望の性能を発揮するものであれば、種々の成分を含有してよい。例えばシラン系、チタネート系等のカップリング剤や、公知の帯電防止剤、界面活性剤、重合開始剤、重合抑制剤、酸化防止剤あるいは潤滑剤等を適量添加することも可能である。また必要に応じて減水剤、流動化剤、増粘剤、防水剤、防錆剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、着色剤あるいは急結剤が混入していてもよい。
【0013】
特にカップリング剤については、シランカップリング剤を使用するのであれば、様々な既存のシランカップリング剤と組み合わせて使用してよい。例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4 −エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシラン類、γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシラン、ビニルメトキシシラン、又はN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、又はγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシラン類等を用途に応じて使用してよい。
【0014】
また本発明のガラス繊維用集束剤は、上述に加え無黄変型ポリウレタンのJIS K7120(1987)に従う質量減少率が、25℃/分の昇温速度で200℃から300℃まで昇温する間において2%以下であるものであれば、高い耐熱変色性を発揮するものとなるので好ましい。
【0015】
ここで、無黄変型ポリウレタンのJIS K7120(1987)に従う質量減少率が、25℃/分の昇温速度で200℃から300℃まで昇温する間において2%以下であるとは、ガラス繊維用集束剤中の含有成分である無黄変型ポリウレタンを1987年に発行された日本工業規格であるJIS K7120「プラスチックの熱重量測定方法」に従い、室温(25℃)から昇温速度が25℃/分の加熱速度で加熱して得られる経時的な質量の変化を、縦軸を質量値、横軸を温度としてプロットされるTG(熱重量測定)曲線として得、このTG曲線から200℃での質量を基準とした場合に300℃まで昇温した際の質量減少率を算出すると、その値が2%以下となるものであることを意味している。
【0016】
また測定に供する試料は、予め24時間に亘り温度23±2℃、相対湿度50±5%の状態に維持した恒温恒湿槽中に保持したものを使用する。
【0017】
無黄変型ポリウレタンのJIS K7120(1987)に従う質量減少率が、25℃/分の200℃から300℃までの昇温にて2%以下とすることによって、無黄変型ポリウレタンがこのような温度まで加熱された際に、その成分構成が損なわれることなく維持され、そのため加熱によって成分の一部が化学変化する等して褐色、あるいは黄土色等へと着色する現象が抑止されることとなる。
【0018】
また本発明のガラス繊維用集束剤は、上述に加え無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が10%から75%の範囲内であるならば、マトリックス樹脂との接着性が良いため、FRTPの機械的強度を高くすることができるので好ましい。
【0019】
ここで無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が10%から75%の範囲内であるとは、本発明のガラス繊維用集束剤中に含有されるピロリン酸塩の固形分換算の質量値を、同じく本発明のガラス繊維用集束剤中に含有される無黄変型ポリウレタンの固形分換算の質量値によって除算を行い、100を乗じて百分率表示とした値が10〜75%の範囲内となることを表している。
【0020】
無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が10%未満であるとピロリン酸塩の含有量が少なくなり過ぎるため、加熱時に変色しやすくなるため好ましくなく、一方無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が75%を超える場合には、無黄変型ポリウレタンの含有量が少なくなりすぎる結果、柔軟かつ強靱な被膜がガラス繊維表面を被覆することが無くなり、このガラス繊維集束剤を塗布したガラス繊維を使用したFRTPの強度が十分に得られなくなる場合も生じることになるので好ましくない。すなわち、無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比が10〜75%という適正な範囲にあることによって、この集束剤を塗布されたガラス繊維が搬送ラインに載って搬送される際にほぐれが生じて綿状物となり、これが押出機に入ることによって熱可塑性樹脂との加熱混練時に、通常よりも強い機械的せん断力がガラス繊維に加わり、せん断力による発熱がより顕著となって溶融樹脂温度が上昇し、FRTPの変色を招くような事態を避けることができるようになるのである。
【0021】
またこのような観点からより安定した性能を発揮することができる集束剤とするには無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率を10.1%から73%の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率を10.3%から71.5%の範囲とすることである。
【0022】
また本発明のガラス繊維用集束剤は、上述に加えピロリン酸塩の含有率が、固形分換算で1質量%から40質量%の範囲内となるものであれば、長期に亘り安定した耐熱変色性を発揮するガラス繊維集束剤とすることができるので好ましい。
【0023】
ピロリン酸塩の含有率が、固形分換算で1質量%に満たない場合には、FRTP用途で使用されるガラス繊維の集束剤として本発明の集束剤を使用する場合にFRTPの加熱処理後の変色を低く抑える効果が小さくなるので好ましくない。一方ピロリン酸塩の含有率が、固形分換算で40質量%を超える場合には、ピロリン酸塩の含有率が高くなりすぎることで、FRTPの機械的強度が低くなる場合もあるので好ましくない。
【0024】
固形分換算の値を得る方法については、液状物であれば各種のガラス繊維集束剤の構成成分の液体クロマトグラフ法等の定量分析を行うか、あるいはガラス繊維に付着したものであればガラス繊維表面から溶出させる方法などによって固形分を算出すればよい。
【0025】
本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維集束剤の付着率が0.2質量%から0.6質量%の範囲であるため、高い集束性を有するガラスストランドを得ることができる。
【0026】
本発明のガラス繊維集束剤の付着率が0.2質量%から0.6質量%の範囲であるものとは、ガラス繊維の表面に塗布される集束剤であって、無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、該無黄変型ポリウレタンの含有量が固形分換算で50質量%以上であるガラス繊維集束剤をガラス繊維の表面に塗布したものであり、その表面付着率が集束剤を塗布した後のガラス繊維の質量を100とした時に、0.2質量%から0.6質量%の範囲内となることを表している。
【0027】
本発明のガラス繊維集束剤のガラス繊維表面の付着率が0.2質量%に満たない場合には、十分な集束性を実現できない場合があり、ガラス繊維製造時に毛羽が発生しやすくなり、またFRTPとした場合にも高い強度が得られない。一方本発明のガラス繊維集束剤のガラス繊維表面の付着率が0.6質量%を超える場合には、それだけの集束剤を塗布したにも関わらず集束性の向上や、機械的強度の向上に大きな寄与が得られ難く、経済的にも高価なものとなってしまうので好ましくない。
【0028】
本発明のガラス繊維は、ガラス繊維の材質に関しては様々な材質を使用してよい。例えばEガラス(無アルカリガラス組成)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス組成)、Cガラス(耐酸性のアルカリ石灰含有ガラス組成)、Dガラス(低誘電率を実現する組成)、Sガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Tガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)そしてHガラス(高誘電率を実現する組成)を使用することができ、さらに他の性能を発揮するために開発された新規のガラス組成よりなるものであってもよい。
【0029】
また本発明のガラス繊維は、ストランドを構成するモノフィラメントの繊維径や繊維断面形状について特に限定されることはない。すなわち直径数μmから数十μmまでのモノフィラメントのガラス繊維を使用することができ、さらに断面形状についても真円、略楕円、扁平円、中空円、略矩形などを適宜採用することが可能である。
【0030】
また本発明のガラス繊維は、熱可塑性樹脂の強化に用いられるものであるならば、様々な熱可塑性樹脂に適用することによって、用途に見合う機械的性能を十分に発揮させることを可能とする強化材として使用することができる。
【0031】
また、本発明のガラス繊維は、上述に加えガラス繊維の形態が、短繊維であることが好適である。
【0032】
ここで、ガラス繊維の形態が、短繊維であるとは、例えばガラスチョップドストランドのように所定長に調整した短繊維となるよう、切断加工したものを含むものであって、それ以外に吹き飛ばし加工等の成形方法で任意の短い寸法となるように加工されたものであってもよい。しかし、所定性能を実現して安定した強度を達成するためには、ガラスチョップドストランドとすることがより好適である。
【0033】
ガラスチョップドストランドであれば、そのガラス繊維の直径は前記したように3μmから40μmとし、その長手方向寸法は1mmから20mmの範囲とすることが好適である。
【0034】
ガラスチョップドストランドへと加工する方法としては、特に特定の方法を推奨するものではなく、所望の加工寸法を実現できるものであればどのような方法を採用するものであってもよい。その、加工法としては切断が好適ではあるが、他の方法であってもよい。また、切断方法としては、内周刃を有するドラムカッター、外周刃カッターを有するロールカッター、ハンマーミル等の装置を使用することで、ガラス繊維束を効率的に切断できれば支障はない。
【0035】
またチョップドストランドの集合形態についても特に限定しない。すなわち適切な長さに切断加工したガラス繊維を平面上に無方向に積層させて特定の結合剤で成形することもでき、あるいは3次元的に無方向に集積した状態とすることもでき、また1次元方向、つまり特定の軸方向に平行に揃え、そこに所定の薬剤、すなわち樹脂などにより固結状態としたもの(ガラスマスターバッチ(GMB)ペレット、樹脂柱状体、LFTPなどとも呼称する)であってもよい。
【0036】
ここで熱可塑性樹脂の強化に用いられるものであるとは、加熱すると軟化して可塑性を示し、冷却すると固化する樹脂材の機械的強度を向上させるために用いられるものであることを意味している。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、例えばPET樹脂やPBT樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチリンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、AS樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂等の熱可塑性樹脂あるいはそのポリマーアロイが用いられるが、特にリフロー処理に使用される芳香族ポリアミドや半芳香族ポリアミド、PA46、PPS、又はLCPであることが好ましい。
【0038】
また熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を使用する場合には、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン),6、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、又はポリアミド6,6/12/6,I,ポリアミド9,Tなどが挙げられ、複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も使用することができる。
【0039】
また熱可塑性樹脂を強化する場合に使用されるガラス繊維の混合割合は、ガラス繊維が2〜80質量%となるようにすることが好ましい。
【0040】
本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシングより引き出したガラスフィラメントに本発明のガラス繊維用集束剤を塗布し、次いで該フィラメントをギャザリングすることによってガラスストランドとし、該ガラスストランドを回巻体に巻き取ることにより本発明のガラス繊維を製造することを特徴とする。
【0041】
ここでブッシングより引き出したガラスフィラメントに本発明のガラス繊維用集束剤を塗布し、次いで該フィラメントをギャザリングすることによってガラスストランドとし、該ガラスストランドを回巻体に巻き取ることにより本発明のガラス繊維を製造するとは、所望の組成となるように各種のガラス原料を秤量して均質に混合した後に、この原料をセラミックス性あるいは耐熱金属性の耐火性基材よりなるガラス溶融炉内で溶融し、得られた溶融ガラスを数千〜数万のノズルを有する白金製加熱溶融装置よりなるブッシングから引き出し、冷却しながらその表面に無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有する本発明のガラス繊維集束剤を塗布し、この集束剤の塗布されたフィラメントを集束してガラスストランドとし、1本から数本のストランドと呼ばれるガラス繊維束とし、筒形状のホルダー表面に巻き取ることでケーキ状構造物を形成することを意味している。
【0042】
そしてこのケーキ状構造物のガラス繊維束は、必要に応じてロービング、ロービングクロス、チョップドストランド、チョップドストランドマット、ミドルファイバー等の各種の形態として再加工することで利用できる。
【0043】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、本発明のガラス繊維により熱可塑性樹脂を強化してなることを特徴とする。
【0044】
ここで、本発明のガラス繊維により熱可塑性樹脂を強化してなるとは、本発明のガラス繊維集束剤をその付着率が0.2質量%から0.6質量%の範囲となるように塗布してなるガラス繊維を熱可塑性樹脂と複合化することによって得られるものであることを意味している。
【0045】
本発明では、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂を構成するために使用するガラス繊維の量としては、ガラス繊維熱可塑性樹脂の総量に対して、ガラス繊維の質量が2%から80%となるようにすることが好ましい。また使用するガラス繊維の形態は、どのようなものであってもよいが、より好ましくはガラスチョップドストランドを乾燥した状態で使用することが望ましい。
【0046】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、本発明のガラス繊維以外の強化材の併用を妨げるものではなく、様々な他の強化材を適量だけ併用してもよく、それは例えばガラスビーズ、機械粉砕されたガラス粒子、ガラス以外のシリカやアルミナ等のセラミックス粒子、タルク等の天然鉱物類や各種有機繊維、有機物フィラー、炭素繊維を使用することである。
【0047】
また本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、上述に加え熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー樹脂であるならば、熱的に低膨張で均質な樹脂成形体を得ることができ、電気、電子分野などで使用される高性能な構成部材として使用することができるものとなる。
【0048】
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、様々な用途で使用できるものであるが、特にプリント配線基板、光ファイバーに係る光部品用のケース部材、高集積回路などに使用される電子回路基板、マイクロモーター等のマイクロ部材、車載用途のコンプレッサー部材やショックアブソーバー部材、パソコンや複写機などの各種メカトロニクス機器内の内部構造部材や回転動作を必要とする軸部材、さらに燃料電池の部材等としても高い性能を発揮することが可能となるものである。
【発明の効果】
【0049】
(1)以上のように、本発明のガラス繊維用集束剤は、ガラス繊維の表面に塗布される集束剤であって、無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、該無黄変型ポリウレタンの含有量が固形分換算で50質量%以上であるため、熱可塑性樹脂の強化を目的として共用されるガラス繊維の表面に被覆されて用いられる場合に、熱可塑性樹脂の成形時に加えて複数回に亘る加熱処理が施される用途であっても、高い耐熱変色性を有し、しかも熱可塑性樹脂の機械的強度をも損なうことのない秀逸な性能を発揮するものである。
【0050】
(2)また本発明のガラス繊維用集束剤は、無黄変型ポリウレタンのJIS K7120(1987)に従う質量減少率が、25℃/分の昇温速度で200℃から300℃まで昇温する間において2%以下であるならば、高温状態にガラス繊維用集束剤が晒される場合であっても、ガラス繊維用集束剤に含有される無黄変型ポリウレタンの変質が生じにくくなり、高い皮膜系性能を維持し続けることになり、安定した機械的強度を有する熱可塑性樹脂を得ることを可能とするものである。
【0051】
(3)さらに本発明のガラス繊維用集束剤は、無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が10%から75%の範囲内であれば、無黄変型ポリウレタンの添加効果とピロリン酸塩の添加効果の両方を損なうことなく発揮させることが可能となり、耐熱変色性と機械的強度の両者について、優れた性能を有するガラス繊維強化熱可塑性樹脂を得ることが可能となる。
【0052】
(4)また本発明のガラス繊維は、上記本発明のガラス繊維集束剤の付着率が、0.2質量%から0.6質量%の範囲であるため、ガラス繊維集束剤によってもたらされる付加的な性能を過不足なくガラス繊維に付与することが可能であり、安定したガラス繊維を製造することを可能とするものである。
【0053】
(5)さらに本発明のガラス繊維は、熱可塑性樹脂の強化に用いられるものであるならば、高い耐熱変色性能に加えて十分な機械的強度を有する熱可塑性樹脂を得ることができる、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂の適用範囲をさらに拡げることが可能となる。
【0054】
(6)本発明のガラス繊維の製造方法は、ブッシングより引き出したガラスフィラメントに上記本発明のガラス繊維用集束剤を塗布し、次いで該フィラメントをギャザリングすることによってガラスストランドとし、該ガラスストランドを回巻体に巻き取ることにより本発明のガラス繊維を製造するものであるため、これまでに構築された様々な製造条件などを適用することが可能であり、高い品位を有するガラス繊維を効率よく経済的に製造することができる。
【0055】
(7)本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、上記本発明のガラス繊維により熱可塑性樹脂を強化してなるものであるため、種々の用途に見合った機能を有するガラス繊維強化熱可塑性樹脂、とりわけ高温環境に晒される用途で使用されるガラス繊維強化熱可塑性樹脂として相応しい機能を有するものである。
【0056】
(8)本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー樹脂であるならば、エンジニアリングプラスチック等として利用される液晶ポリマー樹脂の機械的強度を向上するという点に加えて、複数回の加熱処理が施される場合によっても変色あるいは着色することのない外観を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、実施例に基づき、本発明のガラス繊維集束剤とこの集束剤を塗布したガラス繊維、及びその製造方法、さらに本発明のガラス繊維を使用したガラス繊維強化熱可塑性樹脂について詳細に説明する。
【0058】
本発明の実施例である試料No.1から試料No.5を表1に示し、比較例である試料No.101から試料No.103を表2に示し、ガラス繊維用集束剤、ガラス繊維及びガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形品について、その評価結果をまとめ、以下詳細に説明する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
まず、本発明のガラス繊維用集束剤を、それぞれ表1に示した質量%となるように無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩の混合量を計測し、さらにシランカップリング剤と脱イオン水(イオン交換水ともいう)の適正量を計測した上でそれぞれを均質な状態となるように室温で混合してガラス繊維用集束剤を得る。ちなみに本実施例では、無黄変型ポリウレタンとしては、JIS K7120(1987)に従って25℃/分で昇温時に200℃での質量値を基準として300℃での質量減少率をTG(熱重量測定)曲線より算出する方法により、その値が2%以下となる無黄変型ウレタンエマルジョンを使用している。またピロリン酸塩については、ピロリン酸カリウム等の他のピロリン酸塩であっても使用できるがここではピロリン酸ナトリウム・10水和物を使用している。さらにシランカップリング剤については他のシランカップリング剤であってもよいが、ここではγ−アミノプロピルトリエトキシシランを用いた。
【0062】
ガラス繊維に関しては、ガラス溶融炉で均質に溶解されたEガラス組成を有するガラス繊維を耐熱性ブッシングのノズルより連続的に引き出し、得られたガラスフィラメントの表面に上述した調製手順で得られたガラス繊維用集束剤をアプリケータにより塗布し、ギャザリングシュウにより4000本のガラスフィラメントを集束させてストランドとして紙管上に巻き取って回巻体とした。次いでこの回巻体からガラスストランドを引き出してガラス繊維切断装置によって3mmの長さとなるように切断装置を使用して切断し、その後乾燥することによってガラスチョップドストランドを得た。
【0063】
次いで、このチョップドストランド30質量%と、液晶ポリマー樹脂(ポリプラスチック社製、商品名ベクトラ)70質量%とを330℃に加熱しながら混練し、定法に従いペレットを射出成形することによってFRTPを得た。
【0064】
こうして得られたFRTPについて、引張強度試験に関しては1992年発行のASTM D−638に従って試験片の形状が型式Iの厚み3.2mmとなるように加工し、インストロンコーポレーション製のINSTRON(型番4202)を使用して3回の計測を行ない、その平均値を採用した。またアイゾット衝撃試験に関しては、上島製作所製のアイゾット試験装置を使用し、ASTM D256に従って試験片寸法bが3.2mmとなる試験片を作成し、測定回数5回の平均値を採用した。さらに色相の計測には、JIS Z8722(2000)「色の測定方法−反射及び透過物体色」に従い反射物体の計測方法によって条件dによって、日本電色工業製の計測装置(型番シグマ90)によって4回の計測を行い、その計測値bの平均値を採用した。そして加熱処理による色相の変化Δb値を調査するために採用した試験方法は、成形されたFRTPを250℃の加熱オーブン中に2分間保持して加熱処理を行い、加熱前後のFRTPの色相を計測することによって両者の差を算出したものである。よってこのΔb値が小さい値であるほど、加熱による色調変化は小さく、それだけ高い耐熱変色性を有するものであることになる。
【0065】
またガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着率の計測については、JIS R3420(1999)に従う強熱減量によって計測したものである。
【0066】
まず実施例である試料No.1は、JIS K7120に従って計測した質量減少率が1.2%の無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40質量%)7.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物0.5重量%、脱イオン水91.9質量%からなる集束剤を準備したものである。この集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は76.5%であり、ピロリン酸塩の含有率は13.7%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は17.9%であった。この集束剤を直径10μmのガラス繊維の表面に塗布した後、ガラス繊維を4000本集束してから3mm長に切断してチョップドストランドを作製し、上述した手順で液晶ポリマー樹脂と混合を行い、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂を得たものである。ちなみにガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.4%であった。この試料No.1の評価の結果、ASTM D−638に従う引張強度は194MPaで十分に高い値を示し、ASTM D256に従うアイゾット衝撃強度は、115J/mで、この値も十分に高いものであった。また色調については、JIS Z8722(2000)により常態での色相のb値を計測したところ、その値は8.2で着色は認められず、さらに上記した手順で加熱処理を行った後の加熱による色相変化のΔbの値は1.5で大きな変化を示さないものであった。
【0067】
また実施例の試料No.2は、JIS K7120に従って計測した質量減少率が0.8%の無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40質量%)7.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物2.0質量%、脱イオン水90.4質量%からなる集束剤を用いた以外は試料No.1と同じ条件でFRTPを作製した。よってこの集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は54.3%であり、ピロリン酸塩の含有率は38.8%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は71.5%であった。ちなみにガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.5%であった。そしてこの試料No.3についても試料No.1と同様の評価を行ったところ、引張強度は184MPa、アイゾット衝撃強度は、107J/mであって十分に高いものであって、常態での色相のb値は7.7、加熱による色相変化を表すΔbの値は1.1となり、他の実施例の試料と同様に大きな変化を示さない優れた耐熱変色性能を有するものであった。
【0068】
そして実施例の試料No.3は、JIS K7120に従って計測した質量減少率が0.9%の無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40質量%)3.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物0.5質量%、脱イオン水95.9質量%からなる集束剤を用いた以外は実施例1と同じ条件でFRTPを作製したものである。よってこの集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は58.3%であり、ピロリン酸塩の含有率は24.3%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は41.7%であった。ちなみにガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.2%であった。この試料No.4に関しても、他の実施例の試料と同様の評価を行ったところ、引張強度は188MPa、アイゾット衝撃強度は、102J/mであって十分に高いものであって、常態での色相のb値は8.0、加熱による色相変化を表すΔbの値は1.4となって、他の実施例の試料と同様に大きな変化を示さない安定した耐熱変色性能を有するものであった。
【0069】
実施例の試料No.4は、JIS K7120に従って計測した質量減少率が1.3%の無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40質量%)12.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物0.5質量%、脱イオン水86.9質量%からなる集束剤を用いた以外は実施例1と同じ条件でFRTPを作製したものである。この集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は84.8%であり、ピロリン酸塩の含有率は8.8%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は10.38%であった。ちなみにガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.6%であった。試料No.5についても、他の実施例の試料と同様の評価を行ったところ、引張強度は196MPa、アイゾット衝撃強度は、115J/mであって十分に高いものであって、常態での色相のb値は9.2、加熱による色相変化を表すΔbの値は2.0となって、他の実施例の試料と同様に大きな変化を示さない安定した耐熱変色性能を有するものであった。
【0070】
次いで本発明の比較例である試料No.101として、実施例と同様の手順で、使用するガラス繊維用集束剤を実施例1と同じJIS K7120に従って計測した質量減少率が1.2%の無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40重量%)5.0重量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6重量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物5.0質量%、脱イオン水89.4重量%を混合して作製した。そしてこの集束剤を用いた以外は実施例1と同じ条件でFRTPを作製した。よってこの集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は27.1%であり、ピロリン酸塩の含有率は67.9%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は250.6%と75%を超える値であった。またガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.4%であった。この試料No.101の集束剤の成分含有比率は従来実施されてきたものであるが、これに関して、実施例の試料と同様の評価を行ったところ、引張強度は150MPa、アイゾット衝撃強度は、80J/mであって、アイゾット衝撃強度の値が小さく、常態での色相のb値は7.4、加熱による色相変化を表すΔbの値は3.0となって、加熱によって顕著な変色が認められるものであり、2回以降の加熱処理を行うと変色が大きくなるものであった。
【0071】
さらに本発明の比較例である試料No.102については、実施例と同様の手順で、JIS K7120に従って計測した質量減少率が3.2%で2%を超える値となる無黄変型ウレタンエマルジョン(固形分40質量%)7.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量%、ピロリン酸ナトリウム・10水和物0.5重量%、脱イオン水91.9質量%からなる集束剤を準備したものである。よってそれぞれの混合比率は実施例の試料No.1と同様であり、この集束剤中の無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率は76.5%であり、ピロリン酸塩の含有率は13.7%であって、無黄変型ウレタンエマルジョンの固形分換算の含有率に対するピロリン酸塩の含有率の比率は17.9%であった。またガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.4%であった。この試料No.102についても実施例と同様の評価を行ったところ、引張強度は183MPa、アイゾット衝撃強度は、100J/mであり、常態での色相のb値は10.5、加熱による色相変化を表すΔbの値は3.3となり、実施例の試料と比較して大きな色相の変化を示す結果となった。
【0072】
また本発明の比較例である試料No.103については、実施例と同様の手順で、実施例の試料No.1と同じガラス繊維集束剤を使用したものであるが、ガラス繊維表面への塗布量を意図的に少なくなるように調整したものであり、その結果ガラス繊維表面へのガラス繊維用集束剤の付着量は、上述した方法により計測したところ、0.18%と0.2%未満の値であった。そしてこの試料No.103についても実施例と同様の評価を行ったところ、引張強度は164MPa、アイゾット衝撃強度は、95J/mであって実施例に比較して低い値となり、強化された材料の強度としては不安を残す結果となった。また常態での色相のb値は8.6、加熱による色相変化を表すΔbの値は2.0であった。
【0073】
以上の一連の評価結果より、本発明のガラス繊維用集束剤はガラス繊維に被覆して用いることによって高い耐熱変色性を有しており、二次加熱処理によっても濃い色に変色することはなく、さらにそれに加えて熱可塑性樹脂の強度についても十分に高い値を実現することが可能なもので、優れた品位を有するガラス繊維強化熱可塑性樹脂を製造するために必須の構造材となるガラス繊維の品位を向上させることができるものであることが明瞭になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の表面に塗布される集束剤であって、
無黄変型ポリウレタンとピロリン酸塩とを含有し、該無黄変型ポリウレタンの含有量が固形分換算で50質量%以上であることを特徴とするガラス繊維用集束剤。
【請求項2】
無黄変型ポリウレタンのJIS K7120(1987)に従う質量減少率が、25℃/分の昇温速度で200℃から300℃まで昇温する間において2%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維用集束剤。
【請求項3】
無黄変型ポリウレタンに対するピロリン酸塩の固形分換算の質量含有比率が10%から75%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記戴のガラス繊維用集束剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記戴のガラス繊維集束剤の付着率が、0.2質量%から0.6質量%の範囲であることを特徴とするガラス繊維。
【請求項5】
熱可塑性樹脂の強化に用いられるものであることを特徴とする請求項4に記戴のガラス繊維。
【請求項6】
ブッシングより引き出したガラスフィラメントに本発明のガラス繊維用集束剤を塗布し、次いで該フィラメントをギャザリングすることによってガラスストランドとし、該ガラスストランドを回巻体に巻き取ることにより請求項4又は請求項5に記戴のガラス繊維を製造することを特徴とするガラス繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記戴のガラス繊維により熱可塑性樹脂を強化してなることを特徴とするガラス繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー樹脂であることを特徴とする請求項7に記戴のガラス繊維強化熱可塑性樹脂。

【公開番号】特開2009−143765(P2009−143765A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322734(P2007−322734)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】