説明

キズ検査装置および検査方法

【課題】太陽電池パネルのガラス表面上のキズを精度良く検出するキズ検査装置を提供する。
【解決手段】画像処理装置1と、スリット板2と、遮光ボックス3と、該画像処理装置1と電気的に接続されたラインセンサカメラ4、ライン照明5、基板センサ6、基板搬送装置7、およびロータリエンコーダ8とを備え、基板センサ6が、基板搬送装置7上を搬送されてきた太陽電池パネル基板9を検出するとともに、基板搬送装置7のロータリエンコーダ8からのエンコーダ信号が画像処理装置1に送られる。画像処理装置1は、このエンコーダ信号によって、基板搬送装置7の送り速度と同期を取りながら、ライン照明5によって照射されている被検査面を、ラインセンサカメラ4によって撮影し、撮影した被検査画像を画像処理装置1内のメモリに記録する。メモリ内に記録された被検査画像は、画像処理装置1によって画像処理が行われ、キズ判定がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キズ検査装置に関し、特に、太陽電池に使用されるガラスの表面上のキズの検査装置およびキズ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス基板上に光電変換素子を薄膜で形成する薄膜太陽電池パネルがある。太陽電池パネル表面のガラス面上にキズが形成されると、太陽電池パネルに発生した応力がキズに集中しやすくなり、パネルの基板割れの起点となることがある。また、パネルの受光面であるガラス表面にキズがあると、透明性が低くなるために、受光量を低下させる要因になる。更には太陽電池パネル製造工程の一部である薄膜太陽電池の構成層のレーザエッチング工程において、レーザ光を照射するガラス表面にキズがあるとその位置に対応する薄膜太陽電池の構成層のレーザエッチングが途切れて太陽電池性能を低下させる場合がある。そのために、キズの大きさが規定値を上回るものは、製品として、または製造ラインの途中工程で除外する必要があり、太陽電池パネルの製造ラインには、キズ検査装置を設けることが好ましい。
従来より、太陽電池パネルのキズ検査方法として、目視による方法や、照明を工夫しながら、カメラを使用して画像処理を行うことにより、キズを検査することが行われている。例えば、特許文献1ないし特許文献3に挙げられているように、赤外線を照射し、キズをより目立たせるようにして、太陽電池パネルの反射像を画像解析する方法が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−65759号公報
【特許文献2】特開2007−78404号公報
【特許文献3】特開2008−58270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1ないし特許文献3の方法によれば、実用において、太陽電池パネル表面のガラス面のキズのみならず、表面の汚れや、太陽電池パネルに製膜処理された薄膜の干渉模様であっても、キズとして誤検出することがあり、検査装置としての信頼性が低かった。
【0005】
特に、薄膜太陽電池用パネルの場合、基板上に形成した太陽電池構成層の膜面に行うレーザエッチングライン付近に対応する領域に出来た基板のキズに対して、レーザエッチングラインと区別ができるよう画像処理によってレーザエッチングラインをマスキング処理することにより、キズを検出し易くさせるような方法が試みられている。しかしながら、パネル搬送中の搬送装置の揺れとともにパネルが振動し、取り込み画像が位置ずれを起こすために、有効なマスキング処理を行うことが難しい。また、レーザエッチングラインの近傍にあるキズもマスキングされてしまう可能性もあるため、キズの検出率の低下につながる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、パネル搬送中であっても、膜面のレーザーエッチング溝の影響を受けることがなく、基板のキズを感度良く検出可能なキズ検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のキズ検査装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるキズ検査装置は、ガラス基板の一側面に薄膜が形成されているとともに、該一側面の反対側の他側面には薄膜が形成されていないガラス表面を有する検査対象物に対して、照射光を前記ガラス表面側から照射するための照明手段と、前記照明手段によって前記照射光を照射された前記検査対象物を前記ガラス表面側から撮影し、画像を生成するための撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された画像をもとに、画像処理を行うための画像処理手段と、を備えた前記ガラス表面上のキズを検査するためのキズ検査装置において、前記検査対象物と、前記撮影手段および前記照明手段との間に、該照明手段からの照明を前記ガラス表面側に通過させるとともに、前記ガラス表面からの反射光を該撮影手段へと通過させ、かつ、前記一側面からの反射光が該撮影手段へと通過することを防止するスリットが形成されたスリット板を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、スリットによって、照射光がガラス表面を透過した後に、薄膜が形成された側のガラス面(薄膜の膜面)で反射し、撮影手段に入射する第1の入射光を遮断することができるので、照射光が、ガラス表面を反射して撮影手段に入射する第2の入射光と、第1の入射光との間で生じる干渉を低減することができ、これにより生じる干渉模様の発生を抑止することができるので、基板のキズが明瞭に検知できる。さらに、ガラス表面上のキズの検査を行う上で不必要で邪魔となる膜面情報(例えば、太陽電池パネル基板におけるレーザエッチングラインなど)が撮影手段によって撮影されることを抑止することができる。これによって、画像処理手段において、膜面情報や干渉模様を除去するための複雑な処理を行う必要がなくなり、画像処理時間の短縮および画像処理手段のCPU負荷の低減といったメリットがある。
【0009】
本発明のキズ検査装置は、前記スリット板と、前記検査対象物の前記ガラス表面との距離dが10mmないし30mmであり、かつ、前記スリットのスリット幅δが、前記検査対象物の前記ガラス表面の垂直軸と、前記撮影手段の前記ガラス表面からの反射光とがなす角度をθ、前記検査対象物のガラス厚さをt、ガラスに対する空気の屈折率をnとすると、
2dtanθ≦δ≦2dtanθ+2tnsinθ/(1−nsinθ)1/2 (1)
である構成としてもよい。
【0010】
この構成によれば、スリット板とガラス表面との距離dを10mmないし30mmとすることで、検査対象物に振動や撓みが生じたとしても、あるいは、スリット板の取付精度が低いとしても、距離dが設けられているので、スリット板と前記検査対象物との接触を防止することができる。さらに、照射光が、光量的に十分に検査対象物に到達することができ、かつ、スリットのエッジ部において、回折する短波長光と長波長光による色模様がキズの検出感度に与える悪影響を防止することができる。さらに、スリット幅δを数式(1)のように設定することにより、効率的に、キズの検査に不必要な膜面情報が撮影手段によって撮影されることを抑止できるので、基板のキズをより明瞭に検知できる。
【0011】
本発明のキズ検査装置は、前記スリットと、前記ガラス表面との距離の上限値を20mmとした構成としてもよい。
この構成によれば、スリットのエッジ部において、回折する短波長光と長波長光による色模様が撮影手段によって撮影されることをさらに防止することができ、より鮮明な画像を、撮影することができる。これによって、画像処理手段において、キズの検出感度を高くする効果が得られる。
【0012】
本発明のキズ検査装置は、前記照明手段の前記ガラス表面の垂直軸に対する照明角度が、34°ないし69°、かつ、前記撮影手段の前記ガラス表面の垂直軸に対する前記ガラス表面からの反射光の角度が、34°ないし69°である構成としてもよい。
【0013】
この構成によれば、上述のスリットを設けたことによって得られる効果が期待できる範囲内において、スリット板と平行する軸方向に対しても、スリット板と直交する軸方向に対しても、取付誤差がある程度許容されるために、スリット板取付時の設置作業性が向上する。
【0014】
本発明のキズ検査装置は、前記照明手段が、それぞれが前記ガラス表面の垂直軸に対して異なる角度で隣接して設置された複数の照射光を照射可能である複数の光源を備えた構成としてもよい。
この構成によれば、ガラス表面に、複数の照射光それぞれを異なる角度から照射することにより、様々なキズの形状をより明瞭に検知することに対応することができる。これによって、キズの検出感度が向上する。
【0015】
本発明のキズ検査装置は、前記複数の光源が、それぞれ異なる波長を有する構成としてもよい。
この構成によれば、異なる波長を有する複数の光源からの照射光それぞれを、異なる角度から照射することによって、キズの深さあるいは形状に応じて、異なる波長の反射光を入力手段によって撮影することが可能となる。これによって、様々なキズの形状をさらに明瞭に検知することに対応することができ、かつ、基板のキズの深さに応じて、異なる波長の画像を得ることができる。
【0016】
本発明のキズ検査方法は、ガラス基板の一側面に薄膜が形成されているとともに、該一側面の反対側の他側面には薄膜が形成されていないガラス表面を有する検査対象物に対して、照明手段によって照射光を前記ガラス表面側に照射する照明工程と、前記照射光を照射された前記検査対象物を前記ガラス表面側から撮影手段によって撮影し、画像を生成する撮影工程と、前記撮影工程によって撮影された画像をもとに、画像処理手段によって画像処理を行う画像処理工程と、を含む前記ガラス表面上のキズを検査するためのキズ検査方法において、前記検査対象物と、前記撮影手段および前記照明手段との間にスリットが形成されたスリット板を設け、前記スリットを介して、該照明手段からの照明を前記ガラス表面側に通過させるとともに、前記ガラス表面からの反射光を該撮影手段へと通過させ、かつ、前記スリット板によって前記一側面からの反射光が該撮影手段へと通過することを防止することを特徴とする。
【0017】
本発明のキズ検査方法は、検査対象物のガラス表面のキズを検査するための検査方法において、撮影手段で得られた画像を画像処理手段に取り込む画像取込ステップと、取り込まれた前記画像のエッジ抽出処理を行うエッジ抽出処理ステップと、前記エッジ抽出処理ステップで得られたエッジ抽出画像に対して2値化を行う2値化ステップと、前記2値化ステップで得られた2値化画像に対してノイズ除去を行うノイズ除去ステップと、前記ノイズ除去ステップで得られたノイズ除去画像に対して、キズの合否を判定するキズ判定ステップとを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明のキズ検査方法は、前記キズ判定ステップが、前記ノイズ除去画像内のキズ候補に対して、前記ノイズ除去画像内のキズ候補の縦横比からキズ判定を行う縦横比判定ステップと、前記キズ候補の長さを検査基準値と比較することによりキズ判定を行う長さ判定ステップと、前記キズ候補の幅を検査基準値と比較することによりキズ判定を行う幅判定ステップとを備えていてもよい。
【0019】
本発明のキズ検査装置は、前記検査対象物が、太陽電池パネルのモジュール製造工程における太陽電池用ガラス基板であってもよく、太陽電池パネルのパネル製造工程における太陽電池パネル基板であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、太陽電池用ガラス基板あるいはパネル基板のガラス表面上のキズを、スリット板の設置効果を生かして、表面汚れや膜面側のレーザエッチングライン等の影響を受けることなく、高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図5を用いて説明する。
図1には、本実施形態におけるキズ検査装置を使用した好適なシステム100の概略図が示されている。ここでは、基板搬送装置に設置する場合について説明するが、各種製造工程における製造装置などと組み合わせて設置してもよいのはもちろんである。なお、本実施形態では、パネル製造工程における薄膜太陽電池パネル基板を検査対象としているが、これに限定されず、モジュール製造工程におけるガラス基板等を検査対象とする。ここで、モジュール製造工程とは、ガラス基板上に光電変換素子を形成し発電可能な状態まで製造する工程を示し、パネル製造工程とは、モジュール製造工程の後工程であり、モジュール裏面側の配線や封止材を形成し、端子箱やアルミフレーム枠を取り付ける等を行い、太陽電池パネルとする工程を示す。
また、ガラス基板上に薄膜を形成する薄膜系太陽電池に限ることなく、ガラス基板を有する太陽電池パネルであれば、検査対象となり得る。
【0022】
さて、図1に示すように、本システム100は、画像処理装置(画像処理手段)1と、スリット板2と、遮光ボックス3と、該画像処理装置1と電気的に接続(図1の点線で図示)されたラインセンサカメラ(撮影手段)4と、ライン照明(照明手段)5とを備えている。
システム100は、架台10を備えており、この架台10上には、基板搬送装置7が設けられている。基板搬送装置7は、図示しない駆動モータによって回転駆動され、所定間隔を有して設けられた複数のローラ11と、これらローラ11に巻回され、太陽電池パネル基板9の主として両端側領域を支持する無端状ベルト12を備えている。太陽電池パネル基板9は、無端状ベルト12上に載置された状態で搬送される。太陽電池パネル基板9との滑りが無い場合は、無端状ベルト12が不要で直接に各ローラ11のみで太陽電池パネル基板9を支持しても良い。各ローラ11には、これらローラ11の回転角度や回転数を検出するためのロータリエンコーダ8が設けられている。
また、架台10には、太陽電池パネル基板9の搬送方向位置を下方から検出するための基板センサ6が設けられている。この基板センサ6の出力は、画像処理装置1へと導かれる。
【0023】
基板センサ6が、基板搬送装置7上を搬送方向(図1の矢印方向)に搬送されてきた太陽電池パネル基板9を検出するとともに、基板搬送装置7のローラに取り付けられたロータリエンコーダ8からのエンコーダ信号が画像処理装置1に送られる。画像処理装置1は、このエンコーダ信号によって、基板搬送装置7の送り速度と同期を取りながら、ライン照明5によって照射されている太陽電池パネル基板9上の被検査面(ガラス表面9a)を、ラインセンサカメラ4によって撮影し、撮影した被検査画像を画像処理装置1内のメモリ(図示せず)に記録する。メモリ内に記録された被検査画像は、画像処理装置1によって画像処理が行われ、キズ判定がなされる。なお、遮光ボックス3は、製造工場において、天井の照明等の直接光を遮光するために設けられていて、基板のキズ検出不良が発生しないように、スリット板2に対応する位置に設ける。
【0024】
まず、図2を参照して、本実施形態の画像取り込み部について詳細に説明する。
図2には、太陽電池パネル基板9、スリット2aを有するスリット板2、ラインセンサカメラ4、および、ライン照明5の位置関係の概略が模式的に示されている。図2の紙面に向かって、基板9の上面側9bと下面側9aの表記を行い、これに併せてそれぞれ、上方と下方と表記する。
図2に示すように、上面に膜面9bを、下面に受光面であるガラス表面9aを有する太陽電池パネル基板9の下方で、距離dだけ隔てたところに、太陽電池パネルの被検査面の垂直軸の直交する方向にスリット幅δを持つスリット2aが位置するように、スリット板2が配置される。さらにスリット板2の下方には、太陽電池パネルの被検査面を撮影するために、ラインセンサカメラ4と、ライン照明5が設けられている。
【0025】
ラインセンサカメラ4は、該ラインセンサカメラ4の走査線方向が、太陽電池パネル基板9の搬送方向(図1の矢印方向)に対して略90°となるように設置し、図1および図2に示すように、太陽電池パネル基板9の被検査面に対して図の紙面に向かい左斜め下方に設置する。このとき、被検査面の垂直軸に対して、ラインセンサカメラ4に入射する基板の反射光とが成すカメラ角度をθとする。また、ラインセンサカメラ4の焦点は、ガラス表面9aと膜面9bの略中間で焦点が合うように設定している。
【0026】
ライン照明5は、該ライン照明5のライン方向(長軸方向)が、太陽電池パネル基板9の搬送方向(図1の矢印方向)に対して略90°となるように設置し、図1および図2に示すように、太陽電池パネル基板9の被検査面に対して図の紙面に向かい右斜め下方に設置する。このとき、被検査面からの垂直軸に対してライン照明5が成す照明角度をθとする。なお、本実施形態では、照度が高く、寿命も長いという理由によって、白色光LEDのライン照明を使用しているが、基板のキズが明瞭に検知できるものであれば特に限定するものではない。
【0027】
一般に、太陽電池パネルの搬送には、ローラコンベア搬送が用いられるので、膜面を保護するために、本実施形態のように、太陽電池パネル基板9の膜面側を上に、ガラス面側を下にして搬送することが多く、キズ検査装置の画像取り込み部は、ガラス面と対向する側に設置される。
【0028】
また、本実施形態で用いられているスリット板2は、変形が少なく小型に構成できるよう、厚さ約1mmの金属材料からなり、ライン照明5からの照射光がスリット板2に照射された際に、不必要な反射光がなるべく生成されないように、表面全体に、つや消しの黒色塗装が施されている。
【0029】
次に、本実施形態における各パラメータ設定について説明する。カメラ角度θおよび照明角度θは、キズ検出感度が高く、誤検出が少なくなるように、また、スリット板2の設置が容易となるように調整される。本実施形態では、カメラ角度θと照明角度θは略等しくなるように設置される(以下、本実施形態ではθで表わす)。スリット板2の位置は、ラインセンサカメラ4で被検査面を撮影する際に、レーザエッチングライン等のキズ検出に不必要な膜面情報が入力されないように調整される。つまり、図2に示すように、ライン照明5から照射された照射光がガラス表面9aで反射した反射光(図2の実線)のみが、ラインセンサカメラ4に入射するようにし、ライン照明5から照射された照射光が膜面9bで反射した反射光(図2の点線)は、スリット2aで遮るようにして、ラインセンサカメラ4に入射しないようにする。
【0030】
太陽電池パネルの膜面9bからの反射像をラインセンサカメラ4に入力されないようにするためには、太陽電池パネルのガラス厚さをt、ガラスに対する空気の屈折率をnとすると、スリット2aのスリット幅δは、
2dtanθ ≦ δ ≦ 2dtanθ + 2tnsinθ/(1−nsinθ)1/2 (2)
で表わされる。
【0031】
さらに、太陽電池パネル基板9の搬送時の振動や撓み、およびスリット板2の取り付け位置の精度を考慮すると、スリット板2と太陽電池パネル基板9とが接触しないためには、距離dを10mm以上とする必要があり、かつ、照明が光量的に十分に被検査面を照射可能で、スリット端部において回折する短波長光と長波長光による色模様の影響が出ないようにするためには、実験的に距離dを30mm以下にする必要があることが実験的にわかった。より明瞭な画像を得ることができるようにするためには、距離dを20mm以下にすることがさらに望ましい。
【0032】
また、図2に示されるパラメータaおよびbは、スリット板2の取付時の水平方向および垂直方向の許容誤差を表している。パラメータaは、数式(2)の右辺第2項と同値であり、パラメータbは、a/tanθである。この許容誤差の範囲内でスリット板2を取り付けることによって、上述のスリット2aの効果が期待できる。
【0033】
数式(2)において、ガラス厚さtを4mm、ガラスに対する空気の屈折率nを0.67とした場合、図2における水平方向の許容誤差aは、θがゼロ以上90°未満の範囲において、図3に示すように、水平方向の許容誤差aは、単調増加関数となる。つまり、カメラ角度θが大きいほど、水平方向のスリット板2の位置調整が容易になることを示している。また、垂直方向の許容誤差bは、θがゼロ以上90°未満の範囲において、図4に示すように単調減少関数となる。つまり、カメラ角度θが小さいほど、垂直方向のスリット板2の位置調整は容易になる。
【0034】
そこで、スリット板2の位置調整の容易さを示す別のパラメータとして、(水平方向の許容誤差:a)×(垂直方向の許容誤差:b)を導入する。図5に示すように、a×bが最大値をとるθが、スリット位置の調整が、垂直方向に対しても、水平方向に対しても、最も容易となるカメラ角度である。a×bの最大値から誤差2%以内となる範囲を、最適なカメラ角度として定義し、53±5°とした。a×bの最大値から誤差20%以内となる範囲を、好ましいカメラ角度と定義し、34°ないし69°とした。a×bの最大値から誤差10%以内となる範囲を、更に好ましいカメラ角度と定義し、39°ないし66°とした。
カメラ角度および照明角度を上記の範囲に設定することによって、容易にスリット板2の取付を行うことができる。
【0035】
次に、本実施形態で採用している検査方法について、図6のフローチャートを参照して説明する。
まず、画像取込ステップS1において、ラインセンサカメラ4により、被検査面のカラー画像データが画像処理装置1内のメモリに格納される。
このときの被検査面の画像データの明るさは、該被検査面と照明装置との距離によってのみ決定されるものではなく、ラインセンサカメラのレンズの絞り調整や、ラインセンサカメラあるいは画像処理装置におけるゲイン調整等により、ダイナミックレンジをより大きくとることができるように、予め設定される。
【0036】
格納されたカラー画像データは、輝度変換ステップS2において、グレースケール画像に変換される。この時点において、画像データ内にキズが存在した場合は、照明装置からキズに照射された照明光が、キズによって散乱光となるために、キズの周辺部の明るさと比較すると、キズの部分は暗い画像となる。
【0037】
次に、エッジ抽出処理ステップS3において、グレースケール画像に対して、輝度値の変化量が大きいところでは、その変化量の符号の正負にかかわらず、正方向の値とするエッジ抽出処理が行われる。つまり、このエッジ抽出処理では、キズのエッジ部分が明るい画素値となり、キズ以外の平坦部では、ゼロもしくはゼロに近い画素値として表現される。
【0038】
続いて、2値化処理ステップS4において、エッジ抽出処理が施された画像データに対して、予め決められた閾値により、2値化処理が行われ、画像データ内の各画素は、最大輝度値を持つ明画素と、輝度値がゼロの暗画素の2種類に分類される。
次に、ラべリング処理ステップS5において、隣接する画素同士が明画素で連結して、領域を形成している箇所を抽出して、ラベリングを行う。ここで、ラべリングされたそれぞれの領域の面積(画素数)が規定値以下の場合は、キズではなく、ノイズである可能性が高いので、ノイズ除去ステップS6において、ノイズ除去を行う。今回は、規定値として、10画素を採用している。
【0039】
次に、ノイズ除去後の画像に対して、キズ判定ステップS7において、キズ判定を行う。キズ判定ステップS7には、縦横比判定ステップS7aと、長さ判定ステップS7bと、幅判定ステップS7cが含まれる。
まず、ノイズ除去後の画像内に含まれたキズ候補の長さと幅を求める。具体的には、キズ候補を画像データの垂直軸に沿って投影させて、投影長さを得る。次に、画像データをキズ候補の重心位置を中心として、360°回転させることによって、投影長さの変化を計測し、投影長さが最大となった時の投影長さをキズ候補の長さ、射影長さが最小となった時の投影長さをキズ候補の幅と定義する。
【0040】
縦横比判定ステップS7aでは、キズ候補の幅をキズ候補の長さで除した縦横比を算出し、該縦横比が閾値以下であれば、細長い形状ということを意味するので、キズと判断する。
長さ判定ステップS7bでは、キズ候補の長さを検査基準と比較し、検査基準の範囲内であれば、キズと判断する。
幅判定ステップS7cでは、キズ候補の幅を検査基準と比較し、検査基準の範囲内であれば、キズと判断する。
【0041】
上記のように、スリット2aを、太陽電池パネル基板9と、ラインセンサカメラ4およびライン照明5との間に挟み込むように配置することによって、ライン照明5から照射され、膜面9bで反射する光をスリット2aによって遮ることができるため、キズ検査に不必要であるとともに邪魔になる膜面情報をラインセンサカメラ4によって撮影されることを抑止して、基板のキズが明瞭化する効果が得られる。また、このようにすることにより、画像処理アルゴリズムも簡素化でき、画像処理装置1のCPUの負荷を低減することができる。
また、ラインセンサカメラ4およびライン照明5を上述の角度範囲内に設置することによって、スリット板2の取付が容易に行うことができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、上述の第1実施形態に対して、ライン照明5の構成が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図7に示すように、複数のライン照明を隣接して設置し、異なる角度から被検査面に照射する構成としている。図7では、3つのライン照明5を設置しているが、2つであってもよいし、4つ以上の構成であってもよい。
ここで、複数のライン照明を順次照射する時間間隔は、太陽電池パネル基板9の基板搬送速度に対して十分に短くなるよう、必要に応じて基板搬送速度を低下させる。
上記のような構成にすることによって、キズに対して多方面からの照射光を照射することができる。これによって、様々な形状のキズのより明瞭な検知に対応することが可能となり、さらに安定してキズ検出を行うことができる。
【0043】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態は、上述の第2実施形態に対して、複数のライン照明5の波長がそれぞれ異なっている。その他の点については、第2実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図7における3つのライン照明が、それぞれR(赤)、G(緑)、B(青)の波長を有する構成としている。各ライン照明5の光源自体が、RGBの波長を有する各光源であってもよいし、あるいは、白色の各ライン照明5に、色フィルタ(図示せず)をそれぞれ設置することによって、各波長の照射光を得てもよい。
ここで、複数のライン照明を順次照射する時間間隔は、太陽電池パネル基板9の基板搬送速度に対して十分に短くなるよう、必要に応じて基板搬送速度を低下させる。
上記のような構成にすることによって、異なる波長RGBを有する3つのライン照明5からの照射光それぞれが、異なる角度から、太陽電池パネル基板9に照射される。これによって、キズの深さあるいは形状に応じて、異なる3つの波長の反射光をラインセンサカメラ4によって撮影することが可能となる。すなわち、相対的に深さが浅いキズと、深さが深いキズとでは、撮影された画像データにおいて、キズの色相が異なる。これによって、画像処理装置1において、様々なキズの深さや形状への更に明瞭な検知に対応することができるとともに、キズの深さ方向の形状を利用したキズの合否判定が可能となる。
【0044】
なお、本発明は、上述の実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、太陽電池パネルのパネル製造工程における太陽電池パネル基板を検査対象物としているが、モジュール製造工程における太陽電池用ガラス基板であってもよい。また、本実施形態で説明したように独立した検査装置として設置するのではなく、各種製造装置内や各製造装置の前後(ローダやアンローダ付近)に、本発明の構成を組み込んでもよい。また、基板搬送方法として、斜め基板搬送を採用した搬送ラインに設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシステム全体の概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る画像取り込み部の模式図である。
【図3】カメラ角度とスリット板の水平方向の取付許容誤差を表すグラフである。
【図4】カメラ角度とスリット板の垂直方向の取付許容誤差を表すグラフである。
【図5】カメラ角度とパラメータa×bの関係を表すグラフである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る検査方法のフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態および第3実施形態に係る画像取り込み部の模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 画像処理装置
2 スリット板
2a スリット
4 ラインセンサカメラ
5 ライン照明
9a ガラス表面
9b 膜面
d スリット板とガラス表面との距離
δ スリット幅
θ ガラス表面の垂直軸と照射光がなす角度
S1 画像取込ステップ
S3 エッジ抽出処理ステップ
S4 2値化処理ステップ
S5 ラべリング処理ステップ
S6 ノイズ除去ステップ
S7 キズ判定ステップ
S7a 縦横比判定ステップ
S7b 長さ判定ステップ
S7c 幅判定ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の一側面に薄膜が形成されているとともに、該一側面の反対側の他側面には薄膜が形成されていないガラス表面を有する検査対象物に対して、照射光を前記ガラス表面側から照射するための照明手段と、
前記照明手段によって前記照射光を照射された前記検査対象物を前記ガラス表面側から撮影し、画像を生成するための撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像をもとに、画像処理を行うための画像処理手段と、
を備えた前記ガラス表面上のキズを検査するためのキズ検査装置において、
前記検査対象物と、前記撮影手段および前記照明手段との間に、該照明手段からの照明を前記ガラス表面側に通過させるとともに、前記ガラス表面からの反射光を該撮影手段へと通過させ、かつ、前記一側面からの反射光が該撮影手段へと通過することを防止するスリットが形成されたスリット板を設けたことを特徴とするキズ検査装置。
【請求項2】
前記スリット板と、前記検査対象物の前記ガラス表面との距離dが10mmないし30mmであり、かつ、前記スリットのスリット幅δが、前記検査対象物の前記ガラス表面の垂直軸と、前記撮影手段の前記ガラス表面からの反射光とがなす角度をθ、前記検査対象物のガラス厚さをt、ガラスに対する空気の屈折率をnとすると、
2dtanθ≦δ≦2dtanθ+2tnsinθ/(1−nsinθ)1/2
であることを特徴とする請求項1に記載のキズ検査装置。
【請求項3】
前記スリットと、前記ガラス表面との距離の上限値を20mmとしたことを特徴とする請求項2に記載のキズ検査装置。
【請求項4】
前記照明手段の前記ガラス表面の垂直軸に対する前記照射光の角度が、34°ないし69°、かつ、前記撮影手段の前記ガラス表面の垂直軸に対する前記ガラス表面からの反射光の角度が、34°ないし69°であることを特徴とする請求項1に記載のキズ検査装置。
【請求項5】
前記照明手段が、それぞれが前記ガラス表面の垂直軸に対して異なる角度で隣接して設置された複数の照射光を照射可能である複数の光源を備えたことを特徴とする請求項1に記載のキズ検査装置。
【請求項6】
前記複数の光源が、それぞれ異なる波長を有することを特徴とする請求項5に記載のキズ検査装置。
【請求項7】
前記検査対象物が、太陽電池パネルのモジュール製造工程における太陽電池用ガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載のキズ検査装置。
【請求項8】
前記検査対象物が、太陽電池パネルのパネル製造工程における太陽電池パネル基板であることを特徴とする請求項1に記載のキズ検査装置。
【請求項9】
ガラス基板の一側面に薄膜が形成されているとともに、該一側面の反対側の他側面には薄膜が形成されていないガラス表面を有する検査対象物に対して、照明手段によって照射光を前記ガラス表面側に照射する照明工程と、
前記照射光を照射された前記検査対象物を前記ガラス表面側から撮影手段によって撮影し、画像を生成する撮影工程と、
前記撮影工程によって撮影された画像をもとに、画像処理手段によって画像処理を行う画像処理工程と、
を含む前記ガラス表面上のキズを検査するためのキズ検査方法において、
前記検査対象物と、前記撮影手段および前記照明手段との間にスリットが形成されたスリット板を設け、前記スリットを介して、該照明手段からの照明を前記ガラス表面側に通過させるとともに、前記ガラス表面からの反射光を該撮影手段へと通過させ、かつ、前記スリット板によって前記一側面からの反射光が該撮影手段へと通過することを防止することを特徴とするキズ検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−107471(P2010−107471A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282097(P2008−282097)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】