説明

ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法、硬質膜の製造方法及び硬質膜

【課題】高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を製造可能なゾルを生産性よく製造することのできるゾルの製造方法、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を生産性よく製造することのできる硬質膜の製造方法、及び、短時間で硬化することのできる、高撥水性及び高硬度を有する透明な硬質膜を提供すること。
【解決手段】ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させることを特徴とする、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法、この製造方法で製造されたゾルを基材表面に塗布して、紫外線を照射することにより硬化させることを特徴とする硬質膜の製造方法、並びに、この硬質膜の製造方法によって得られる硬質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法、硬質膜の製造方法及び硬質膜に関し、さらに詳しくは、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を製造可能なゾルを生産性よく製造することのできる、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を生産性よく製造することのできる硬質膜の製造方法、及び、短時間で硬化することのできる、高撥水性及び高硬度を有する透明な硬質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の設備、装置、機械器具等には、表面の傷付き防止や曇り止め等を目的として、表面に被膜を形成した材料が使用されている。外観の美しさや透明性を必要とされる材料の表面は擦過傷等の小さな傷でも問題とされるため、ハードコート材で被覆することが多い。また、ガラスの曇り止め等には撥水性の被膜が使用されている場合も多い。このような被膜としては、金属酸化物薄膜が多用されている。金属酸化物薄膜として、例えば、硬度を要求される被膜としてはシリカ膜、チタニア膜、ジルコニア膜、ハフニア膜等が、撥水性の被膜としてはハフニア膜、ジルコニア膜又はイットリア膜が、光触媒機能の被膜としてはチタニア膜又は酸化ニオブ膜等が、高誘電性の被膜としては酸化ニオブ膜又は酸化タンタル膜等が知られている。
【0003】
硬度や撥水性に優れたハフニア膜及び/又はジルコニア膜としては、複雑な設備を必要とせず、比較的簡単に薄膜を形成することのできるゾル−ゲル法を利用した製造方法等がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、「酸化ハフニウムで形成されてなることを特徴とする鏡面保護用、透明部材保護用等の各種撥水被膜」が記載されている。具体的には、これらの各種撥水被膜は、「HfClエタノール溶液に水及び60%硝酸を各種の割合で混合してゾルを調製し、・・・このゾルを、基板上に塗布した後焼成して酸化ハフニウム被膜を作成した」と記載されている(特許文献1の0084欄等参照。)。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、「撥水性に優れ、しかもより高い硬度を有する薄膜を与えることのできるゾルの製造方法」等を提供することを課題とし(特許文献2の0006欄等参照。)、この課題を解決する手段として、具体的には、実施例6として、「洗浄した沈殿物をビーカーに採り、エタノール100gを加え、pH1になるまでギ酸HCOOHを加えた以外は、実施例5と同様にして、ゾルVIを得た」と記載され、ここに、実施例5には、「HfCl5.44g(0.017mol)を窒素雰囲気下、水32g(1.78mol)に中に溶解した。この溶液に、アンモニア水6.60mlを滴下してpH9.0とし、水酸化ハフニウムの沈澱物を得た。次いで、得られた沈澱物を濾別し、純水によりpH7になるまで洗浄した。洗浄した沈殿物をビーカーに採り、純水32gを加えた後、硝酸1.10gを滴下してpH1.0とし、85℃で3時間撹拌した。続いて、ギ酸HCOOH3.96g(0.086mol)を加えて、85℃で17時間撹拌した。その後、室温まで冷却した後、重量減少分の水を加え、ゾルVを得た」と記載されている。
【0005】
特許文献1において、酸化ハフニウム被膜を形成するには、大型の装置と多大なエネルギーとを要する焼成によって基板に塗布されたゾルを硬化させる必要があり、また、プラスチック基板等は焼成中に劣化又は消失することがあるから、焼成ではなく、他の方法でゾルを硬化させることができれば、硬質膜の製造における生産性が向上すると共に、硬質膜の適用分野が広がる。
【0006】
また、特許文献2によれば、例えば約90°程度の接触角を有する高撥水性と、鉛筆硬度7H以上の高硬度とを有する薄膜を形成することができるが、HfCl等のハフニウム化合物から水酸化ハフニウムを経る必要があり、ハフニウム化合物からハフニアゾルを直接形成することができれば、薄膜の製造における生産性が大幅に向上する。特に、製造される薄膜の高撥水性と高硬度とを保持することができれば、薄膜の適用分野は大きく広がる。
【0007】
したがって、特許文献1及び特許文献2に記載された技術において、形成される被膜の高撥水性と高硬度とを保持しつつ、生産性を向上させることのできる、ゾルの製造方法及び被膜の製造方法等が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−44935号公報
【特許文献2】特開2003−301167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を製造可能なゾルを生産性よく製造することのできるゾルの製造方法を提供することを、課題とする。また、この発明は、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を生産性よく製造することのできる硬質膜の製造方法を提供することを、課題とする。さらに、この発明は、短時間で硬化することのできる、高撥水性及び高硬度を有する透明な硬質膜を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させることを特徴とする、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法であり、
請求項2は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを調製し、このゾルを基材表面に塗布して、紫外線を照射することにより硬化させることを特徴とする硬質膜の製造方法であり、
請求項3は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて得られるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを、紫外線照射によって、硬化してなることを特徴とする、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれる硬質膜である。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るゾルの製造方法によれば、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させるから、硬質膜の高撥水性及び高硬度を実現可能なゾルをハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物から直接製造することができる。したがって、この発明によれば、ハフニウム水酸化物及び/又はジルコニウム水酸化物の調製及び単離等の工程を経る必要がなく、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を製造可能なゾルを生産性よく製造することのできるゾルの製造方法を提供することができる。
【0012】
また、この発明に係るゾルの製造方法によって製造されたところの、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるゾルに、紫外線を照射すると、例えば、ギ酸イオンが配位した錯体構造が電荷移動吸収帯として機能すること等によって、形成される硬質膜の高撥水性及び高硬度を犠牲にすることなく、短時間でゾルを硬化させることができる。したがって、この発明によれば、高撥水性及び高硬度を有する硬質膜を生産性よく製造することのできる硬質膜の製造方法を提供することができる。
【0013】
さらに、この発明に係る硬質膜は、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるゾルを紫外線照射によって硬化してなるから、短時間で硬化させても、透明性、撥水性及び硬度を犠牲にすることはない。したがって、この発明によれば、短時間で硬化することのできる、高撥水性及び高硬度を有する透明な硬質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係るゾルの製造方法は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させることを特徴とする。
【0015】
この発明に係るゾルの製造方法において、使用されるハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物は、水及びギ酸と反応して、ハフニウム酸化物及び/又はジルコニウム酸化物のゾルを形成する。
【0016】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物としては、例えば、四塩化ハフニウム及び四塩化ジルコニウム等が挙げられる。ハフニウムの二塩化酸化物としては、例えば、二塩化酸化ハフニウム及びその水和物等が挙げられ、ジルコニウムの二塩化酸化物としては、例えば、二塩化酸化ジルコニウム及びその水和物(例えば、八水和物)等が挙げられる。これらの中でも、四塩化ハフニウム、四塩化ジルコニウム、二塩化酸化ハフニウム、並びに、二塩化酸化ジルコニウム及びその水和物が好ましく、四塩化ハフニウム及び二塩化酸化ジルコニウムの八水和物が特に好ましい。
【0017】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物は、一種を用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0018】
この発明に係るゾルの製造方法においては、水が使用される。水は、ギ酸と共にハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と反応し、ハフニウム酸化物及び/又はジルコニウム酸化物を主成分とするゾルを形成する。この発明に係るゾルの製造方法において使用される水は、後述するギ酸水溶液、無機酸水溶液及び/又は水性有機溶媒に含有される水で代用することもできる。
【0019】
この発明に係るゾルの製造方法においては、ギ酸が使用される。ギ酸は、水と共にハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と反応し、形成される酸化物のゾルにギ酸イオン(HCOO)が組み込まれる。ギ酸は、水を含んでいてもよく、各種濃度のギ酸水溶液を使用することもできる。
【0020】
この発明に係るゾルの製造方法において、使用される無機酸は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、水及び/又は場合によってギ酸との反応を促進させる無機酸であればよく、例えば、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素酸、硝酸及び硫酸等が挙げられる。無機酸の存在下に、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と水とギ酸とを反応させると、ハフニウム水酸化物及び/又はジルコニウム水酸化物を経由しなくても、ゾルの形成反応が著しく促進され、短時間で目的のゾルを形成することができる。無機酸は、水を含んでいてもよく、各種濃度の無機酸水溶液、例えば、塩酸水溶液、臭化水素酸、硝酸水溶液、硫酸水溶液等を使用することもできる。無機酸は、一種を用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0021】
この発明に係るゾルの製造方法において、使用される水性有機溶媒は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを混合することができる有機溶媒であればよく、例えば、水に溶解するアルコール系溶媒、並びに、これらアルコール系溶媒の混合物及びアルコール系溶媒の一種又は二種以上と水との混合物等を挙げることができる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2―メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、及びシクロヘキサノール等の一価アルコール類、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、及び1,4−ブタンジオール等の二価アルコール類を挙げることができる。
【0022】
これらの中でも、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを、室温下又は加熱下に、溶解させ、これらの反応をより一層速やかに進行させる点で、炭素数1〜6のアルコール系溶媒であるのが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールであるのが特に好ましい。
【0023】
水性有機溶媒は、水を含んでいてもよく、各種水分含有量の水性有機溶媒を使用することもできる。水性有機溶媒は、一種を用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0024】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水性有機溶媒に溶解させる濃度は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物が析出しない限り特に制限はなく、形成する硬質膜の膜厚に応じて適宜選択することができる。前記濃度は、具体的には、水性有機溶媒100質量部に対してハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を1〜30質量部となるように調整され、好ましくはハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を5〜20質量部の範囲となるように調整される。ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物の濃度を前記範囲に調整すると、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を均一に水性有機溶媒に溶解させることができ、また、形成されるゾルを基材に塗布した後硬化すると、所望の膜厚を有する硬質膜を形成することができる。
【0025】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物に対するギ酸の量は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水との反応中に水性有機溶媒中に存在している限り特に制限はなく、具体的には、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物におけるハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して1〜20molとなるように調整され、好ましくは、ハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して1〜15molとなるように調整される。ギ酸の濃度を前記範囲に調整すると、均一かつ透明なゾルを形成することができると共に、形成されるゾルを基材に塗布して紫外線を照射することにより、ゾルを速やかに硬化させることができる。
【0026】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物に対する水の量は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物におけるハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して、通常、5〜25molとなるように調整され、好ましくは、ハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して5〜20molとなるように調整される。水の濃度を前記範囲に調整すると、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物の加水分解が適度な速度で進行し、ゾル化反応を所望のように制御することができると共に、ゾルを基材に塗布したときに均一かつ透明な塗布膜を形成することができる。前記水の量は、水性有機溶媒、ギ酸及び/又は無機酸が水を含有している場合には、水性有機溶媒、ギ酸及び/又は無機酸に含有されている水の量を考慮して、前記範囲に調整される。
【0027】
前記水の量は、前記範囲に調製されるが、さらに、後述する無機酸1molに対して1mol以上となるように調整されるのが好ましく、無機酸1molに対して2mol以上となるように調整されるのがより好ましく、無機酸1molに対して2〜20molとなるように調整されるのが特に好ましい。
【0028】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物に対する無機酸の量は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物におけるハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して、0.5〜15molとなるように調整され、好ましくは、ハフニウム元素及び/又はジルコニウム元素1molに対して0.5〜10molとなるように調整される。無機酸の濃度を前記範囲に調整すると、形成されるゾルを含有する溶液の酸性度を抑えることができ、この溶液を金属材料から形成された基材等に塗布しても基材の腐食を防止することができると共に、形成されるゾルを含有する溶液を基材に塗布したときに、均一かつ透明な塗布膜を形成することができ、均一かつ透明な硬質膜に塗布膜を硬化させることができる。
【0029】
この発明に係るゾルの製造方法において、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを反応させる方法としては、例えば、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水性有機溶媒に溶解させ、この溶液をギ酸と水と接触させる方法を挙げることができる。
【0030】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水とギ酸とを接触させる方法としては、例えば、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水性有機溶媒に溶解させた溶液に水及びギ酸を添加する方法、及び、水及びギ酸を配合した水性有機溶媒にハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を溶解させる方法等を挙げることができる。
【0031】
また、無機酸を存在させる方法は、例えば、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水性有機溶媒に溶解させた溶液に、好ましくは、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物をギ酸及び水に接触させた後に、溶液に無機酸を添加する方法が挙げられる。
【0032】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを反応させる際の反応温度は、例えば、室温〜100℃とすることができるが、反応を促進する観点からは、反応温度は、室温よりも高い範囲の温度、例えば、40〜100℃の範囲の温度が好ましい。また、この反応は、水性有機溶媒中に無機酸と共にギ酸が存在するから、比較的低温度でも速やかに進行するので、反応温度の上限は、例えば、水性有機溶媒の常圧における沸点以下であるのが好ましく、50℃程度に設定することもできる。
【0033】
反応時間は、例えば、0.1〜10時間とすることができ、好ましくは0.5〜5時間とすることができる。
【0034】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水とギ酸とを接触させる際の環境は、特に制限されないが、少なくともハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を取り扱う際は不活性ガス雰囲気下であるのが好ましい。不活性ガスとして、例えば、アルゴン、ネオン等の希ガス、窒素ガスが挙げられる。
【0035】
この発明に係るゾルの製造方法においては、反応終了後、得られた溶液を冷却してもよく、また、溶液中の不要物を例えばろ過等により除去してもよい。
【0036】
この発明に係るゾルの製造方法において製造されるゾルは、ハフニウム酸化物(ハフニア)のゾル、及び/又は、ジルコニウム酸化物(ジルコニア)のゾルが含有されている。ハフニウム酸化物は式HfOで表され、ジルコニウム酸化物は式ZrOで表される。式HfO及び式ZrOにおけるXは2以下の整数又は小数である。ハフニウム酸化物のゾル及びジルコニウム酸化物のゾルは、ギ酸イオンを含み、具体的には、ギ酸イオンが配位した錯体構造、例えば、Hf−O−CH−O−Hf、Zr−O−CH−O−Zr等の錯体構造を含んでいる。ハフニウム酸化物のゾル及びジルコニウム酸化物のゾルが、ギ酸イオンが配位した錯体構造を含有していると、後述するように、前記錯体構造が電荷移動吸収帯として機能することにより、硬質膜が形成されると推定される。
【0037】
この発明に係るゾルの製造方法においては、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物を水とギ酸とを反応させることにより、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、目的とするゾルを形成することができる。すなわち、この発明に係るゾルの製造方法においては、1ポット反応で、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物から目的とするゾルを形成することができる。したがって、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を調製することも、これら水酸化物を単離等することもないから、目的とするゾルを生産性よく製造することができる。
【0038】
この発明に係るゾルの製造方法は水性有機溶媒中でゾルを形成するから、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水との反応が速やかに進行し、目的とするゾルを比較的低温度でかつ短時間で製造することができる。また、水性有機溶媒は揮発性を有するから、形成されたゾルは基材に塗布されると、速やかに乾燥し、例えば、水中でゾルを形成した場合に比して、ゾルを短時間かつ容易に乾燥させることができる。さらに、水性有機溶媒は、プラスチックスで形成された基材及び金属材料から形成された基材等に対するぬれ性に優れるから、形成されたゾルをプラスチックスで形成された基材及び金属材料から形成された基材等に塗布して、均一かつ密着性に優れた硬質膜を形成することができる。さらにまた、例えば、制電膜、耐食防止膜等の硬質膜以外の機能性膜は、一般に、有機溶媒による膜形成液から調製されるから、これらの機能性膜の膜形成液との混和性に優れ、硬質膜とこれら機能性膜との複合化が可能になる。すなわち、この発明に係るゾルの製造方法において製造されるゾルは、プラスチックスから形成された基材及び金属材料から形成された基材に対して硬質膜を形成するのに、また、機能性膜形成液と共に硬質膜を形成するのに、好適に用いられることができる。したがって、この発明によれば、プラスチックスから形成された基材及び金属材料から形成された基材に塗布することのできるゾルを製造するという目的、及び、機能性膜形成液と共に硬質膜を形成することのできるゾルを製造するという目的を達成することができる。
【0039】
この発明に係る硬質膜の製造方法は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを調製し、このゾルを基材表面に塗布して、紫外線を照射することにより硬化させることを特徴とする。すなわち、この発明に係るゾルの製造方法において製造されるゾルを基材表面に塗布して、紫外線を照射することにより硬化させることを特徴とする。
【0040】
この発明に係る硬質膜の製造方法において調製されるゾルは、この発明に係るゾルの製造方法において説明したとおりである。
【0041】
この発明に係る硬質膜の製造方法においてゾルが塗布される基材には制限はなく、様々な素材を採用することができる。例えば、プラスチックスから形成された基材、複合材料から形成された基材、金属材料から形成された基材、ガラスで形成された基材、無機材料(ガラスを除く。)から形成された基材等が挙げられる。その他の基材としては、紙、布、皮革、木材をも挙げることができる。プラスチックスから形成された基材としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート、又は、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等から形成された基材を挙げることができる。複合材料から形成された基材としては、例えば、繊維強化プラスチック、琺瑯、グラスライニング及びセラミックスコーティングのいずれかによって被覆した基材等が挙げられる。金属材料から形成された基材としては、例えば、普通鋼、構造用定合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル−クロム系耐熱鋼をはじめとする合金鋼及びステンレス鋼等の鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系のアルミニウム合金、Al−Mg系アルミニウム合金及び6000系アルミニウム合金をはじめとするアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅及びジルコニウム銅をはじめとする各種銅合金、純チタン、抗力チタン合金及び耐食性チタン合金をはじめとするチタン合金等から形成された基材を挙げることができる。ガラスで形成された基材としては、例えば、石英ガラス、96%石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、無アルカリガラス又は鉛ガラス等から形成された基材を挙げることができる。無機材料(ガラスを除く。)から形成された基材としては、例えば、アパタイト、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器又はステアタイト磁器等から形成された基材を挙げることができる。
【0042】
前記各種の基材の中でも、ガラスで形成された基材、プラスチックスで形成された基材、金属材料から形成された基材、紙で形成された基材及びこれらの複合材料で形成された基材が好適な基材として挙げられる。また、これら基材は、その表面が塗装され、塗膜が形成される等の表面処理がなされている基材であってもよい。
【0043】
この発明に係るゾルの製造方法において形成されるゾルは水性有機溶媒溶液とされるから、水系溶液をはじきやすいプラスチックスで形成された基材及び金属材料から形成された基材等にも所望のように塗布することができ、基材との密着性に優れ、基材に対する追従性に優れた硬質膜を形成することができる。したがって、この発明に係る硬質膜の製造方法は、ガラスで形成された基材等に加えて、プラスチックスで形成された基材及び金属材料から形成された基材に硬質膜を形成するのに、好適に適用される。さらに、この発明に係る硬質膜の製造方法は、基材に対する追従性に優れた硬質膜を形成することができるから、前記各種の基材のうち、可撓性を有する基材、例えば、紙、布、皮革で形成された基材、プラスチックスで形成された基材、及び、可撓性を有する程度に薄く形成された各種基材、例えば、金属材料から形成された薄層基材等に硬質膜を形成するのに、好適に適用される。
【0044】
具体的な基材となる物品の例としては、外装板、例えば、送電線、建築物、サッシュ及び鉄道車両の外板等を挙げることができる。また、金属製又はプラスチック製の日用雑貨品、台所、バス、トイレ等の家庭用品を挙げることもできる。セラミックス材料から形成された基材の一例としては、例えば、アルミナ、シリカ等のセラミックス製品、碍子、碍管及びセラミックスタイル、屋根瓦を挙げることができる。その他にも例えば、各種タンク、反応槽、醸造槽並びにコップ、洗面器及び花瓶をはじめとする日用品、おもちゃ等を挙げることができる。ガラスで形成された基材としては、例えば、自動車、鉄道車両、航空機及び建築物等の窓ガラス、並びに、自動車用及び航空機用のヘッドアップディスプレー等を挙げることができる。
【0045】
基材として、プラスチック、木材、金属及びセラミック等の表面に塗料が塗布された塗装表面も挙げることができる。塗装表面としては、具体的には、自動車、鉄道車両及び航空機の車体表面等を挙げることができる。前記基材としては、さらに、コンクリート壁、テラコッタタイル壁、モルタル壁、及び漆喰壁をはじめとする建築物の内外壁、及び建材を挙げることができる。さらに、表面をメッキ処理した前記各種基材をも挙げることができる。
【0046】
基材の表面にはどのような方法でゾルを塗布してもよいが、例えば、ゾル中に基材を浸漬し、これを引き上げて基材表面にゾルを付着させるディップ法、基材表面上にゾルを流延する流延法、ゾルの貯留された槽の一端からゾルに基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上にゾルを滴下し、基材に作用する遠心力によってゾルを基材上に流延するスピンナー法、基材の表面にゾルを吹き付けるスプレー法及びフローコート法を挙げることができる。ゾルの塗布量は、ゾルの粘度その他の条件により異なる。1回の塗布では、目的の厚さの薄膜が得られない場合は、数回の塗布を繰り返すこともできる。得られる硬質膜の厚さは、適用対象物に応じて適宜、決定すればよいが、通常、10〜1000nmとなるようにゾルを塗付すればよい。
【0047】
基材表面が汚れている場合は中性洗剤等で洗浄してからゾルを塗付することが好ましい。特に、表面が金属である場合等油性の膜が存在していることがあり、脱脂剤を用いて金属表面を脱脂処理した後、前記ゾルを塗布することが好ましい。この脱脂剤としては、エタノール等のアルコール又はアルカリ洗剤を挙げることができ、アルカリ洗剤としては、例えば、オルトケイ酸ナトリウムにけん化剤や界面活性剤を配合した脱脂剤を用いることができる。脱脂処理の方法に特別な制限はなく、例えば、金属基材表面をアルコールで拭き払う手段を採用することができ、また、金属基材を脱脂剤中に浸漬し、1〜5分間、好ましくは30〜60℃に加熱して、撹拌することによって脱脂処理することができる。脱脂処理した後、場合によっては水洗し、乾燥すればよい。
【0048】
また、脱脂処理に続いて電解処理を施すこともできる。これらの処理により、金属基材に対するゾルの塗布性を一層、向上させることができる。電解処理は、脱脂液に基材を浸漬したままで基材にプラス又はマイナスの電極を設置し、対電極として基材に設置したものとは反対の電極を設置する。これに任意の時間通電することにより電解処理を行う。このときの電圧は任意でよいが好ましくは1〜200Vであり、通電時間は任意でよいが、好ましくは0.1〜60分であり、液の温度は任意でよいが、好ましくは0〜80℃である。
【0049】
プラスチックスで形成された基材は、基材と硬質膜との密着性を高めるために、その表面に、プラズマ照射、コロナ放電、電子線照射、火炎処理、クロム酸処理、親水化処理等の表面処理を施すことができる。
【0050】
基材の表面に塗布されたゾルを紫外線照射処理によって硬化させる場合は、基材に塗布されたゾル(水性有機溶媒)を乾燥させてから紫外線照射を行うこともでき、また、塗布直後に紫外線照射を行うこともできる。さらに、紫外線照射は、常温下に行ってもよく、また、基材が劣化又は消失しない程度の温度、例えば、300℃を超えない温度、好ましくは、50〜150℃に加熱しつつ行うこともできる。照射時間は、1分以上1時間以下ときわめて短時間で十分である。また、照射する紫外線の強度は大きくとも200mJ/cm、好ましくは、50〜100mJ/cmである。照射する紫外線の光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザー等を使用することができる。これらの光源を使用することにより、上記強度の紫外線を廉価に照射することができる。なお、紫外線照射により硬化された薄膜はその後に養生期間を設けてもよい。
【0051】
このように、この発明においては、紫外線照射条件が温和であり、ゾルを焼成して硬質膜を形成する場合のように、例えば、プラスチックス基材が黄変したり、変質したり、変形したりすることを防止して、特別に、焼成条件及び紫外線照射に耐え得る基材を選択しなければならないという問題を解消することができる。
【0052】
この発明に係る硬質膜の製造方法において、ハフニウム酸化物のゾル及び/又はジルコニウム酸化物のゾルは、ギ酸イオンが配位した錯体構造、例えば、Hf−OCH−O−Hf構造を含んでいる。これらゾルが、ギ酸イオンが配位した錯体構造を含有していると、この錯体構造が電荷移動吸収帯として機能し、照射された紫外線を吸収して光反応を惹起し、この錯体構造を起点として、Hf−O−Hf構造及び/又はZr−O−Zr構造の三次元ネットワークが形成されて、硬質膜が形成されると推定される。したがって、この発明に係る硬質膜の製造方法においては、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由して、ゾルを製造しなくても、紫外線を比較的低温でかつ極めて短時間照射することにより、ゾルを所望のように硬化させ、硬質膜の高撥水性及び高硬度を実現することができる。
【0053】
また、前記したように、この発明に係る硬質膜の製造方法におけるゾルは、水性有機溶媒中に存在するから、ゾルを短時間かつ容易に乾燥させることができる。さらに、形成されたゾルをプラスチックスで形成された基材及び金属材料から形成された基材等に塗布して、均一かつ密着性に優れた硬質膜を形成することができる。さらにまた、例えば、前記機能性膜の膜形成液との混和性に優れ、硬質膜とこれら機能性膜との複合化が可能になる。すなわち、この発明に係る硬質膜の製造方法は、プラスチックスから形成された基材及び金属材料から形成された基材に対して硬質膜を形成するのに、また、機能性膜形成液と共に硬質膜を形成するのに、好適に適用される。したがって、この発明によれば、プラスチックスから形成された基材及び金属材料から形成された基材に硬質膜を形成するという目的、及び、機能性膜形成液と共に硬質膜を形成することのできる硬質膜を製造するという目的を達成することができる。
【0054】
この発明に係る硬質膜は、ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物とギ酸と水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて得られるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを、紫外線照射によって、硬化してなり、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれていることを特徴とする。すなわち、この発明に係る硬質膜は、この発明に係る硬質膜の製造方法において硬化してなる硬質膜である。
【0055】
この発明に係る硬質膜の製造方法は前記したとおりである。
【0056】
この発明に係るハフニア及び/又はジルコニアの硬質膜には、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれている。例えば、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア硬質膜は、Hf−O−Hfの三次元ネットワーク中にHf−O−CH−O−Hfの錯体構造が含まれていてもよい。このような構造を有する硬質膜は、Hf−O−CH−O−Hfの錯体構造が含まれていても、錯体構造自体が小さな空間を占めること等から、この錯体構造が硬質膜の特性に与える影響は小さく、その結果、Hf−O−Hfによる強固な三次元ネットワークによって、撥水性に優れ、しかも実用上有用なより高い硬度を有する膜となる。ここで、撥水性とは水をはじく性質をいい、接触角法による水滴の接触角から評価することができる。この発明に係る硬化膜は、接触角が80度以上の撥水性を有する膜となる。
【0057】
この発明に係る硬質膜の硬度は、鉛筆硬度法(JIS K 5600-5-4)によって評価することができ、7H以上の鉛筆硬度を有する膜となり、8H以上の鉛筆硬度を有する膜となることもある。さらに、この発明に係る硬質膜は、付着した水垢等の汚染を除去しやすい性質、汚染除去性にも優れた膜となる。この汚染除去性は、様々な汚染物を薄膜上に付着させ、一定時間経過後、洗浄することによって汚染物を除去することができる。
【0058】
この発明に係る硬質膜は、紫外線を照射することによって、ゾルに含まれる錯体構造を起点に所望のように短時間で速やかに硬化してなるから、Hf−O−Hf等の三次元ネットワークが規則的に形成され、可視領域及び赤外領域において均一な透明性を有する。その結果、この発明に係る硬質膜は、1.5以上の屈折率を有する膜となり、1.6以上の屈折率を有する膜となることもある。したがって、この発明に係る硬質膜は、可視領域及び赤外領域における透明性が要求される基材、例えば、各種ディスプレイ、テレビ及び窓ガラス等の保護被膜、撥水被膜等として、好適に用いられる。
【0059】
この発明に係る硬質膜は、この発明に係る硬質膜の製造方法において製造され、基材との密着性に優れるから、例えば、前記した可撓性を有する基材、プラスチックスで形成された基材、及び、可撓性を有する程度に薄く形成された各種基材に対する追従性に優れる。すなわち、この発明に係る硬質膜は、可撓性を有する基材表面に形成されても、基材によく追従して、クラックの発生が少なく、また、基材からの剥離も生じにくい。したがって、この発明に係る硬質膜は、可撓性を有する基材等の保護被膜、撥水被膜等として、好適に用いられる。
【0060】
この発明に係る硬質膜の厚さは、基材の種類及び適用対象物等に応じて適宜決定することができるが、通常、10〜1000nmの範囲から選択される。
【0061】
このように、この発明に係る硬質膜は、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるゾルを紫外線照射によって硬化してなるから、短時間で硬化しても、透明性に優れ、かつ、高撥水性及び高硬度を犠牲にすることなく、可撓性を有する基材に対する優れた追従性をも実現することができる。
【0062】
このように、基材に対するゾルの塗布性に優れ、しかも均質で高い硬度を有し、撥水性の良好な硬質膜を、各種の建物、設備、装置、機械器具、例えば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡等の表面に形成することによって、その機能を存分に果たすこととなる。また、ガラス、アクリル板、ポリスチレン板、PETフィルム、PETボトル等の透明製品、表面の光沢や質感を重んじるプラスチック製品の表面にこの発明の硬質膜を形成する場合にも、硬質膜形成時に基材を傷めることなく、追従性に優れた硬度の高い各種製品を製造することができる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によって本発明はなんら限定されるものではない。
【0064】
<実施例1(ゾルAの製造)>
塩化ハフニウム(HfCl)5.44g(0.017mol)を窒素雰囲気下で99.5%エタノール41mLにゆっくりと添加して、溶解した。得られた溶液に、水1.84g(0.1mol)、98%ギ酸4.70g(0.1mol)を添加し、さらに、60%硝酸1.79g(0.017mol)を添加した(全水分量は0.15mol)。次いで、99.5%エタノールを加えて、溶液の全量を50gに調整した。この溶液を、50±3℃で4時間加熱攪拌した。この溶液を室温まで冷却した後、質量減少分の99.5%エタノールを加えて、ろ過し、透明なハフニアゾルA(50g)を得た。
【0065】
<実施例2及び3(ゾルB及びCの製造)>
実施例1において、添加する水をそれぞれ3.06g(0.17mol)及び4.6g(0.26mol)に変更(全水分量はそれぞれ0.22mol及び0.3mol)した以外は、実施例1と同様にして、透明なハフニアゾルB(50g)及び透明なハフニアゾルC(50g)を得た。
<実施例4及び5(ゾルD及びEの製造)>
実施例1において、添加する60%硝酸を8.93g(0.085mol)に変更(全水分量は0.31mol)し、かつ、加熱攪拌時間をそれぞれ2時間及び6時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、透明なハフニアゾルD(50g)及び透明なハフニアゾルE(50g)を得た。
<実施例6及び7(ゾルF及びGの製造)>
実施例1において、添加するギ酸をそれぞれ2.4g(0.051mol)及び7.8g(0.17mol)に変更(全水分量はそれぞれ0.14mol及び0.15mol)した以外は、実施例1と同様にして、透明なハフニアゾルF(50g)及び透明なハフニアゾルG(50g)を得た。
【0066】
<実施例8〜10(ゾルH〜Jの製造)>
実施例1において、塩化ハフニウムに代えて二塩化酸化ジルコニウム八水和物(ZrOCl・8HO)5.5g(0.017mol)を用い(全水分量は0.15mol)、かつ、加熱攪拌時間をそれぞれ2時間、4時間及び5時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、透明なジルコニアゾルH(50g)、透明なジルコニアゾルI(50g)及び透明なジルコニアゾルJ(50g)を得た。
<実施例11(ゾルKの製造)>
実施例9において、添加する水を3.0g(0.17mol)に変更(全水分量は0.22mol)した以外は、実施例9と同様にして、透明なジルコニアK(50g)を得た。
【0067】
<比較例1(ゾル1の製造)>
98%ギ酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、透明なハフニアゾル1(50g)を得た。
<比較例2(ゾル2の製造)>
60%硝酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、透明なハフニアゾル2(50g)を得た。
<比較例3>
添加する98%ギ酸を18g(0.38mol)に変更し、かつ、60%硝酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、加熱攪拌したところ、白色沈殿が生成し、目的とするハフニアゾルを製造することはできなかった。
【0068】
<実施例12〜22(ハフニア薄膜A〜G及びジルコニア薄膜H〜Kの製造)>
無アルカリガラスを中性洗剤で洗浄し、純水でリンスした後、乾燥した。この無アルカリガラス基材に、実施例1〜11で製造したゾルA〜Kを、スピンナー法(最初の5秒間の回転数を500rpm、次の30秒間の回転数を2000rpmに設定した。)で塗布して、ゲル膜を形成した。得られたゲル膜に、紫外線照射装置を用いて、紫外線を照射した。光源は高圧水銀灯(H1000L、東芝ライテック)を用いた。紫外線照度80mW/cmで、ゾル膜を光源より9cm下に置き、10分間照射して、硬化膜を製造した。ゾルA〜Gから製造された硬化膜をハフニア薄膜A〜Gとし、ゾルH〜Kから製造された硬化膜をジルコニア薄膜H〜Kとする。
【0069】
<比較例4及び5(ハフニア薄膜1及2の製造)>
比較例1及び2で製造したゾル1及び2を用いて、実施例12〜22と同様にして、硬化膜を製造した。ゾル1及び2から製造された硬化膜をハフニア薄膜1及び2とする。
【0070】
<外観>
このようにして得られたハフニア薄膜A〜G、ジルコニア薄膜H〜K並びにハフニア薄膜1及び2の外観(透明度及びその均一性)を目視で観察した。その結果を表1に示す。
【0071】
<硬度(鉛筆硬度試験)>
ハフニア薄膜A〜G、ジルコニア薄膜H〜K並びにハフニア薄膜1の硬度を鉛筆硬度法で評価した。鉛筆硬度法による硬度の測定は、引掻塗膜硬さ試験機P-TYPE(東洋精機製作所)を用いた。JIS K 5600-5-4に従って測定した。すなわち、6B〜9Hの硬さの鉛筆を薄膜に対して角度45°、加重750gで押し付けて、7nmの距離を0.1〜5mm/secの速度で少なくとも3本走査した。肉眼で薄膜表面を検査し、3mm以上の傷跡が2本生じるまで、硬度を上げて試験を繰り返した。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、その薄膜の鉛筆硬度とした。その結果を表1に示す。
<撥水性(接触角の測定)>
接触角計CA-D(協和界面科学株式会社)を用いて、ハフニア薄膜A〜G及びジルコニア薄膜H〜Kにおける水に対する接触角を測定した。その結果を表1に示す。
<屈折率>
エリプソメータ DHA-OLX (溝尻光学工業所)を用いて、ハフニア薄膜A〜G及びジルコニア薄膜H〜Kの屈折率を測定した。その結果を表1に示す。
<膜厚>
エリプソメータ DHA-OLX (溝尻光学工業所)を用いて、ハフニア薄膜A〜G及びジルコニア薄膜H〜Kの膜厚を測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
なお、ハフニア薄膜1は低硬度であったので、接触角、屈折率及び膜厚を測定しなかった。また、ハフニア薄膜2は白色失透膜であったので、鉛筆硬度、接触角、屈折率及び膜厚を測定しなかった。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示されるように、実施例12〜22のハフニア薄膜A〜G及びジルコニア薄膜H〜Kは、均一で透明であると共に、8H以上の鉛筆硬度、80°以上の接触角及び1.6以上の屈折率を有し、高撥水性及び高硬度を有する透明な硬質膜であった。
【0075】
<実施例23〜26(ハフニア薄膜L〜Oの製造)>
プラズマ処理装置(プラズマトリート FG1001 日本プラズマトリート株式会社)を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、空気プラズマを2秒照射した。なお、ドライエアー供給量は2m/hであり、照射幅は約20mmであり、プラズマ照射時の電圧は228〜230V、電流は5.8〜6.2Vであった。このPETフィルムに、実施例1で製造したゾルA及び実施例8〜10で製造したゾルH〜Jを、塗布バーNo.14を用いて、塗布し、実施例11と同様の照射条件で、紫外線を照射して、硬化膜を製造した。ゾルAから製造された硬化膜をハフニア薄膜Lとし、ゾルH〜Jから製造された硬化膜をジルコニア薄膜M〜Oとする。
【0076】
このようにして得られたハフニア薄膜L及びジルコニア薄膜M〜Oが形成された各PETフィルムを、PETフィルムの水平面からそれぞれ約90°となるように、水平面に対して上方向及び下方向に1回づつ折り曲げて1サイクルとし、連続して30サイクル折り曲げた(折り曲げ試験)。この折り曲げ試験後、ハフニア薄膜L及びジルコニア薄膜M〜Oを目視で観察し、ハフニア薄膜L及びジルコニア薄膜M〜Oにクラック及び剥離が生じているか否かを評価した。その結果、ハフニア薄膜L及びジルコニア薄膜M〜Oにクラック及び剥離の発生は認められず、ハフニア薄膜L及びジルコニア薄膜M〜Oの基材に対する追従性が優れていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させることを特徴とする、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルの製造方法。
【請求項2】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを調製し、このゾルを基材表面に塗布して、紫外線を照射することにより硬化させることを特徴とする硬質膜の製造方法。
【請求項3】
ハフニウム及び/又はジルコニウムの塩化物及び/又は二塩化酸化物と、ギ酸と、水とを、水性有機溶媒中で、無機酸の存在下、ハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を経由することなく、反応させて得られるハフニア及び/又はジルコニアのゾルを、紫外線照射によって、硬化してなることを特徴とする、ギ酸イオンが配位した錯体構造が含まれる硬質膜。

【公開番号】特開2008−143734(P2008−143734A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331813(P2006−331813)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】