説明

クラスターイオンアシスト蒸着装置及び方法

【課題】レンズ等の曲率を有する基体に、均質なフッ化物薄膜を無加熱で成膜する。
【解決手段】レンズ4を、揺動機構5によって揺動及び回転させながら、遮蔽板3の開口3aを通して抵抗加熱蒸発源2からの蒸着粒子を被着させ、フッ化物薄膜を成膜する。遮蔽板3の開口3aは、クラスターイオン源1から照射されるクラスターイオンが30度以下の入射角でレンズ4に入射する領域にのみ開口する。入射角30度以下のクラスターイオンアシストを用いた蒸着領域がレンズ4の有効面全体に及ぶように、揺動機構5によってレンズ4を揺動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子の集合体であるクラスターイオンを薄膜形成中の基体に照射して、膜密度の向上、均質性の向上、表面・界面平坦性の向上を図るクラスターイオンアシスト蒸着装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ化マグネシウムやフッ化ランタン等の金属フッ化物膜は、可視から真空紫外領域において低吸収かつ耐環境性や膜の硬さも良好で、さらには紫外線レーザ光等に対しても良好な耐性を示すことから、特に半導体露光装置用の光学薄膜として利用されている。
【0003】
また、フッ化マグネシウムなどの低屈折率材料は、カメラレンズやめがねレンズなどにも広く利用されており、非常に重要な光学薄膜材料である。
【0004】
現在、これらのフッ化物薄膜の形成方法として真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが提案されている。
【0005】
しかし、例えば、真空蒸着法では、基板加熱を行わないと緻密性、機械的強度、環境耐久性などにおいて優れた膜を得ることは困難である。この基板加熱は、しばしば基板の形状変形、膜応力の増加による膜の剥離、クラックの発生、生産スループットの低下の問題を招いてしまう場合が多い。また、プラスチックなどの耐熱性の低い材料に良質な薄膜が形成できないなどの問題もあった。
【0006】
一方、イオンアシスト蒸着法(特許文献1参照)やイオンプレーティング法、スパッタリング法などでは、基板加熱を行わなくても緻密で機械的強度などに優れた膜を得ることができる。しかし、高エネルギーのイオンや電子がフッ化物膜にダメージを及ぼし、フッ素の解離やカラーセンターを生成し、膜の吸収率が増加する問題があった。
【0007】
そのような状況を踏まえて、ガスクラスターイオンビームを利用した成膜法が提案されている(特許文献2参照)。これは、数千個以上の原子集団であるガスクラスターをイオン化し、数十キロボルトで加速して成膜中の基板に照射する。ガスクラスター一個あたりのエネルギーが小さいため、膜や基板にダメージを及ぼすことなく、膜の緻密性向上や機械的強度の改善が図れるとされている。
【0008】
また、フッ素系ガスのクラスターを照射しながらフッ化物薄膜を形成する方法及び装置が知られており、無加熱の基板上に平滑で緻密なフッ化物薄膜を得ている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−348075号公報
【特許文献2】特公平07−065166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のイオンアシスト蒸着法では、比較的大面積に大量のイオン照射を行うことができるため、大面積の成膜を同時に行うことが可能であり、酸化物薄膜などにおいては、基体を加熱することなく良質な薄膜を得ることができる。しかし、フッ化物薄膜を成膜する場合は、イオン照射によりフッ素が解離したり結合状態が変化してしまうため、吸収の大きな膜しか得ることができなかった。
【0011】
ガスクラスターイオンアシスト蒸着法を用いた場合は、上記のようなダメージを与えることなく膜の均質性、平滑性等を向上することができる。しかし、クラスターイオンは従来のイオンビームのような大電流を容易に得ることができない。このため、成膜領域を限定して成膜が行われ、小径の平面基板では比較的平滑で均質な薄膜を得られている。
【0012】
しかし、従来のクラスターイオンアシスト蒸着装置を用いて凸レンズや凹レンズのような曲率を有する基体に対してガスクラスターを照射すると、特にレンズの周辺部においてフッ化物薄膜の平滑性や均質性が不充分で、膜の吸収も大きくなる傾向にあった。すなわち、ガスクラスターがレンズ表面の法線に対して高い角度で入射するほどアシスト効果が薄れ、レンズの面内において膜質が均一とならず、レンズ面内の膜厚分布の調整も困難であった。
【0013】
また、レンズと蒸発源の間にマスクを挟んで成膜を行った場合、レンズに形成されるフッ化物薄膜の形成速度が従来の蒸着法に比べて不安定になり易い。このため、所望の光学性能を有する光学薄膜を得ることが困難であった。
【0014】
さらに、大口径のレンズにフッ化物薄膜を形成しようとした場合、装置が巨大となり、また、レンズ周辺部では充分な膜質の改善が図れないという課題があった。
【0015】
本発明は、大口径のレンズ等に、膜質の均一な薄膜を成膜することのできるクラスターイオンアシスト蒸着装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のクラスターイオンアシスト蒸着装置は、クラスターイオンアシストを用いて薄膜を基体に蒸着するクラスターイオンアシスト蒸着装置において、基体に蒸着するための蒸着粒子を発生する蒸着源と、基体に照射するクラスターイオンを発生するクラスターイオン源と、前記蒸着源及び前記クラスターイオン源と基体との間に配置された遮蔽手段と、を有し、前記遮蔽手段は、基体に入射するクラスターイオンの入射角を30度以下に限定する開口を有し、前記開口を通してのみ蒸着粒子が基体に入射するように構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明のクラスターイオンアシスト蒸着方法は、クラスターイオンアシストを用いて薄膜を基体に蒸着するクラスターイオンアシスト蒸着方法において、基体に蒸着粒子を蒸着させる工程と、蒸着粒子を蒸着させながら基体を揺動させ、基体の全面に入射角が30度以下であるクラスターイオンを照射する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
基体中心から周辺に渡って全面で、クラスターイオンの入射角を30度以下に限定することで、曲率半径の小さい凸レンズや凹レンズ及び大口径のレンズ等の基体に対しても、無加熱で、均質かつ平滑な高品質のフッ化物薄膜を蒸着することが可能となる。
【0019】
基体を自転させるとともに揺動させて成膜することにより、大口径のレンズ等に成膜する際にも装置の大型化を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、一実施形態によるクラスターイオンアシスト蒸着装置を示すもので、クラスターイオン源1、蒸着源である抵抗加熱蒸発源2、遮蔽手段である開口3aを有する遮蔽板3、基体であるレンズ4を揺動させる揺動機構5等を有する。揺動機構5は、レンズ4を揺動させるとともに、レンズ4を回転(自転)させる手段を備える。
【0022】
成膜室である真空チャンバー6内には、さらに、電子放出源7及び水晶膜厚モニター8が配置されている。
【0023】
遮蔽板3の開口3aは、クラスターイオン源1から発生するクラスターイオンがレンズ4に入射するときの入射角を30度以下に限定するように形成されている。抵抗加熱蒸発源2から発生される蒸着粒子は、入射角30度以下のクラスターイオンとともに、遮蔽板3の開口3aを通った蒸着粒子のみがレンズ4に入射する。
【0024】
従来の装置においては、レンズの周辺部では蒸発した膜材料のフラックスやガスクラスターイオンがレンズ面に対して高入射角で入射することになる。酸化物薄膜などにおいてはこのような入射角に対する敏感度が低く、比較的容易に高品質の薄膜を得ることができる。しかし、フッ化物薄膜は、荷電粒子のダメージなどにおいても酸化物薄膜と物性が異なり、蒸発した膜材料のフラックスや、クラスターイオンの入射角によって膜質が変化する。
【0025】
そこで、ArやXeガスなどのクラスターイオンを照射しながら無加熱のレンズ上にフッ化物薄膜の蒸着を行う実験により、蒸着粒子とクラスターイオンの照射角度の関係を詳細に調べたところ、以下のような結論を得るに至った。
【0026】
(1)蒸着粒子のレンズ表面への入射角が大きい場合でも、クラスターイオンのレンズ表面への入射角を30°以下に保つことで、膜質の改善を図ることができる。
【0027】
(2)成膜中、常に入射角を30°以下のクラスターイオンを照射することで、緻密かつ均質で平滑な低吸収のフッ化物薄膜を形成することができる。この場合は、膜質の改質に最低限必要なクラスターイオン電流値が最小となる。
【0028】
(3)成膜中常時クラスターイオンを照射できない場合でも、膜厚5nm以下の薄膜が成膜された状態で30度以下の入射角で充分なクラスターイオンを照射することで、膜質を改質することができる。ただし、このとき必要なクラスターイオン電流値は上記要件を満たした場合以上に必要となる。
【0029】
(4)成膜速度が不安定になるのは、クラスターイオンの照射によって生じたチャージの中和が不充分であることに起因する。
【0030】
そこで本実施形態では、フッ化物薄膜等を成膜する蒸着装置において、どのような形状の基体に対しても、30度以下の入射角でクラスターイオンを基体全面に照射する。すなわち、抵抗加熱蒸発源2とレンズ4の間に、レンズ径よりも小さい開口径の、クラスターイオンの入射角が30度以下である領域のみに蒸着を限定する開口3aを有する遮蔽板3を配置し、レンズ4を自転させながら揺動させる。
【0031】
レンズ面に対して30度以下のクラスターイオンが入射する領域のみに蒸着がなされるように限定する遮蔽板3の開口3aは、レンズ4の曲率や口径、揺動半径によりシャッター式等の開口形状が可変できる構成とするとよい。
【0032】
そして、蒸着速度を監視するための水晶膜厚モニター8を設置し、その測定値に基づいてレンズ4の揺動速度を制御する制御系を設ける。
【0033】
さらに、レンズ4と遮蔽板3の間に低エネルギーの電子放出源7を設置し、フッ化物薄膜が形成されるレンズ表面のクラスターイオンによる正電荷を中和する。クラスターイオンが負イオンの場合は、陽イオンもしくは陽電子放出源を設置する。
【0034】
また、図2に示すように、30度以下でクラスターイオンが入射する領域がレンズ24の全面に及ぶ場合は必ずしも遮蔽板は必要ではない。その場合は図2のようにレンズ24を揺動させる揺動機構25を設けて、蒸着された膜厚が5nm以下である間に、入射角30度以下のクラスターイオンを照射する構成でもよい。
【実施例1】
【0035】
図1は、実施例1によるクラスターイオンアシスト蒸着装置を示す。この装置は、蒸着材料にフッ化ランタンを、クラスターイオンとしてArガスクラスターを使用してフッ化ランタン薄膜を成膜するもので、真空チャンバー6内に、クラスターイオン源1、抵抗加熱蒸発源2、遮蔽板3、レンズ4を揺動させる揺動機構5等を有する。さらに、電子放出源7、水晶膜厚モニター8、が設けられる。
【0036】
真空チャンバー6は、図示しない高真空排気装置により高真空に排気された状態で使用する。フッ化物薄膜を表面にコーティングするレンズ4は、図示しないゲートバルブを介して接続するロードロック室を経て大気中へ搬出、搬入が可能な構成となっている。
【0037】
レンズ4は洗浄された後、図示しない予備排気室を通して真空チャンバー6内に搬入され、揺動機構5に固定される。揺動機構5はレンズ4を自転させるとともに、曲率に応じて揺動半径を変えて揺動させることも可能である。
【0038】
レンズ4は、加熱が必要な場合は図示しない加熱用のヒーターなどで真空中で加熱し、表面に吸着している汚染やガスを除去する。加熱が望ましくない場合は、成膜前にArガスクラスターイオンをレンズ表面に照射して汚染を除去することも可能である。レンズ4の表面の汚染除去は用途に応じて使い分ける。加熱せずに真空中に保持するだけでもよい場合もある。
【0039】
成膜の際には基本的には無加熱で行うが、成膜中の抵抗加熱蒸発源2からの輻射やクラスターイオン照射によって、レンズ温度が若干上昇する。レンズ温度が大きく変化する場合は膜質・成膜速度が変化するので問題となる場合がある。このような場合は蒸着源とレンズ間の距離を離したり、熱遮蔽板などにより温度上昇変化を抑える。もしくは、成膜開始前に所定の温度に加熱しておくことも有効である。本実施例では50℃以下のレンズ温度に抑えられる条件にて蒸着を行っている。
【0040】
成膜前の準備として、抵抗加熱蒸発源2の蒸着材料のガス出しや、溶融タイプの蒸着材料の場合には液面形状の制御なども行う場合がある。
【0041】
成膜の準備が整ったところで、Arガスクラスターイオンをレンズ4に照射するとともに蒸着を行う。
【0042】
本実施例で使用したArガスクラスター源について説明する。高圧のArガスを超音速ノズルから噴き出し、断熱膨張によりガスを冷却しガスクラスターイオンを生成する。その後電子衝撃によりクラスターをイオン化し、イオン化部に高電圧を印加して所望のエネルギーに制御する。イオン源からはモノマーイオンや様々なサイズのクラスターイオンも同時に放出される。50個程度の小さいサイズのクラスターイオンは加速電圧を20kV程度にとった場合、原子一個あたり400eVものエネルギーとなり、フッ化膜や基板にダメージを及ぼし、膜の吸収が大幅に増加してしまう。
【0043】
本実施例に用いたガスクラスターイオン源では、図示しないクラスター選別機構により、100個以下のクラスターを排除して照射する構成としている。また、クラスターイオン電流はイオン化のためのエミッション電流や高圧Arのガス圧などにより制御してレンズ4に照射する。
【0044】
クラスターイオン源1からレンズ4へ照射されるクラスターイオンは直進してレンズ面へ入射する。クラスターイオンの入射角がレンズ面に対して30度以上になる面に成膜を行うと、膜の密度が低く、吸収が大きく、不均質で平滑性も損なわれたフッ化ランタン膜が形成される。
【0045】
クラスターイオン照射方向とクラスターイオンの照射点におけるレンズ法線に対してなす角度(照射角度)とその照射点において無加熱のレンズ上に形成されたフッ化ランタン膜の屈折率及び膜厚方向の均質性の関係を調べた結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
蒸着粒子の入射角度は約60度で、クラスターイオンアシストを行わない場合、膜は不均質となり、屈折率は約1.5〜1.6(波長193nm)である。クラスターイオン照射角度が40度以上の場合、若干屈折率が増加するが、大きな変化は認められない。30度以下の場合は、屈折率が1.7(波長193nm)程度にまで改善し、膜厚方向に均質なフッ化ランタン膜が得られる。屈折率は300℃に加熱して得られるフッ化ランタン膜と同程度で、均質性は加熱成膜より良好であった。
【0048】
以上の結果に基づいて、本実施例では遮蔽板3により、入射角30度以下のクラスターイオンが照射される面のみに蒸着材料が入射するように制御する。
【0049】
遮蔽板3は、中央部に開口を有し、その開口には中空の円筒状の部材(図中では円筒状の部材の側壁部分のみ描画している)が設けられており、クラスターイオン及び蒸着材料はその開口を透過する。これは開口部に対して蒸発源からの蒸着材料が、クラスターイオン源側からみて、遮蔽板の裏側に回りこむことを防ぐためのものである。
【0050】
図1に示すような曲率半径の小さい凸レンズの場合、クラスターイオンの入射角30度以下に蒸着領域を限定すると、一度にレンズ全面に成膜することができない。そこで、本実施例では揺動機構5によりレンズ4を自転させるとともに揺動させて成膜を行う。揺動速度を制御することで、レンズ面内の膜厚分布を調整することも可能となる。
【0051】
クラスターイオンの入射角はレンズ4の揺動半径によっても変化するため、蒸着領域は揺動半径とも連動して変化させる。
【0052】
抵抗加熱蒸発源2からはフッ化ランタンが必ずしも一定速度で蒸発するとは限らない。従って、蒸発速度に応じてレンズ4の揺動速度を制御する必要がある。このため、本実施例では水晶膜厚モニター8を使用する制御系を設けている。レンズ4の揺動速度を水晶膜厚モニター8の値に基づいて制御することで所望の膜厚、膜厚分布に制御する。
【0053】
クラスターイオンアシスト蒸着では膜表面にクラスターイオンが入射し、膜表面がチャージする。本実施例のArクラスターイオンの場合、正電荷がレンズ表面にチャージする。チャージした状態ではアシスト効果が変化するため、成膜速度や膜質を安定化するためには電子線を照射するなどしてチャージをキャンセル(中和)する必要がある。
【0054】
本実施例においては、遮蔽板3が設置され、開口3aの開口径は、レンズ4の種類によって変化するものの、従来のイオンアシスト蒸着法に比べると小さい。このような状況で、電子放出源7を遮蔽板3を境としてクラスターイオン源側に設置した場合、充分なチャージキャンセル効果が得られない。これは、レンズ4と抵抗加熱蒸発源2、クラスターイオン源1の間に設置されている遮蔽板3が静電バリヤとなってレンズ表面への電子の移動を妨げているためであると思われる。
【0055】
そこで本実施例では、電子放出源7を遮蔽板3を境としてレンズ側に設置した。その結果、効率良くチャージがキャンセルでき、成膜速度の安定化を図ることができた。
【0056】
水晶膜厚モニター8についてもチャージの影響は同様であり、本実施例では水晶モニター8を遮蔽板3を境としてレンズ側に設置し、チャージをキャンセルする構成としている。
【実施例2】
【0057】
図2は、実施例2によるクラスターイオンアシスト蒸着装置を示す。これは、蒸着材料にフッ化ランタンを、クラスターイオンとしてArガスクラスターを使用してフッ化ランタン薄膜を蒸着する装置である。
【0058】
図2の装置は、クラスターイオン源21、抵抗加熱蒸発源22、基体であるレンズ24を揺動させる揺動機構25、真空チャンバー26、電子放出源27、水晶膜厚モニター28等を有する。
【0059】
表1に示したように、クラスターイオンの入射角が30度を越えると膜の屈折率が急激に低下する。屈折率の低いフッ化ランタン膜は吸収も大きく、また、均質性、膜表面の平滑性も劣化する。
【0060】
そこで実施例1では30度以下でアシストされている領域だけに限定して蒸着を行う装置を提案した。
【0061】
しかし、クラスターイオンによるアシスト効果は必ずしも最表面の原子一層分というわけではない。アシストなしに成膜されたフッ化ランタン膜の膜厚が5nm以下であれば、膜形成後に30度以下でクラスターイオンを照射することで屈折率は増加し、均質性、膜表面の平滑性も改善できることを確認している。
【0062】
そこで本実施例では、蒸着領域を限定することはせず、クラスターイオンをレンズ全面に渡って30度以下の入射角で照射できるように構成した。
【0063】
すなわち、5nm以下の膜厚のフッ化ランタン薄膜を形成した後に、クラスターイオンを照射して薄膜を改質する工程を繰り返し、所望の厚さのフッ化ランタン薄膜を形成する。
【0064】
クラスターイオンによる改質を、成膜を行いながらレンズ24を自転・揺動させて行う場合は、自転・揺動速度を早くして、5nm以上の膜が形成される前に入射角30度以下のクラスターイオン照射による改質を行う。レンズ面内の膜厚分布などの調整は従来より用いられている膜厚補正マスクなどにより行う。
【0065】
本実施例では、実施例1に比べ蒸着領域が広く取れるので、成膜速度は早くできるが、フッ化ランタン膜の改質のためにより多くのクラスターイオン照射が必要となる。大電流のクラスターイオン源を用いることで効率のよいフッ化ランタン膜の形成を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1によるクラスターイオンアシスト蒸着装置を示す模式図である。
【図2】実施例2によるクラスターイオンアシスト蒸着装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1、21 クラスターイオン源
2、22 抵抗加熱蒸発源
3 遮蔽板
3a 開口
4、24 レンズ
5、25 揺動機構
6、26 真空チャンバー
7、27 電子放出源
8、28 水晶膜厚モニター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスターイオンアシストを用いて薄膜を基体に蒸着するクラスターイオンアシスト蒸着装置において、
基体に蒸着するための蒸着粒子を発生する蒸着源と、
基体に照射するクラスターイオンを発生するクラスターイオン源と、
前記蒸着源及び前記クラスターイオン源と基体との間に配置された遮蔽手段と、を有し、
前記遮蔽手段は、基体に入射するクラスターイオンの入射角を30度以下に限定する開口を有し、前記開口を通してのみ蒸着粒子が基体に入射するように構成されていることを特徴とするクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項2】
基体の曲率に応じて、基体を揺動させる揺動機構を有することを特徴とする請求項1に記載のクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項3】
クラスターイオンアシストを用いて薄膜を基体に蒸着するクラスターイオンアシスト蒸着装置において、
基体に蒸着するための蒸着粒子を発生する蒸着源と、
基体に照射するクラスターイオンを発生するクラスターイオン源と、
基体を揺動させるための揺動機構と、を有し、
前記揺動機構は、基体の曲率に応じて、基体に入射するクラスターイオンの入射角が30度以下になるように、前記クラスターイオン源に対して基体を揺動させることを特徴とするクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項4】
クラスターイオンのチャージを中和する電子放出源を設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項5】
クラスターイオンは、高圧のガスを超音速ノズルで断熱膨張させ、イオン化して生成するガスクラスターイオンであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項6】
水晶膜厚モニターと、
前記水晶膜厚モニターの測定値に基づいて基体の揺動速度を制御することで、薄膜の膜厚を制御する制御系と、を有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のクラスターイオンアシスト蒸着装置。
【請求項7】
クラスターイオンアシストを用いて薄膜を基体に蒸着するクラスターイオンアシスト蒸着方法において、
基体に蒸着粒子を蒸着させる工程と、
蒸着粒子を蒸着させながら基体を揺動させ、基体の全面に入射角が30度以下であるクラスターイオンを照射する工程と、を有することを特徴とするクラスターイオンアシスト蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−116613(P2010−116613A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291652(P2008−291652)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】