説明

クラッチの動作方法

【課題】 クラッチの動作方法を提供する。
【解決手段】 本発明はクラッチを動作させるための方法に関し、さらに詳しくはクラッチが作動流体圧力44によって作動され、この作動流体圧力が少なくとも1個の圧力センサによって検出され、この圧力センサが、圧力損失によって発生する圧力偏差を補償するために、少なくとも1個のレギュレータを備えた制御回路に組み込まれている、上記方法に関する。クラッチの始動特性および/または動作中の切換え特性をさらに改善する目的で、実際の作動流体圧力44と圧力センサで検出したセンサ圧力45との間の圧力差をより小さくするために、動的センサ圧力補正84および/または動的規定圧力補正80が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチを動作させるための方法に関し、さらに詳しくはクラッチが作動流体圧力によって作動され、この作動流体圧力が少なくとも1個の圧力センサによって検出され、この圧力センサが、圧力損失によって発生する圧力偏差を補償するために、少なくとも1個のレギュレータを備えた制御回路に組み込まれている、上記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、走行(Schub)の範囲において自動変速機のシフトダウンを適合させるための方法が知られている。この方法はクラッチの状態または充填率と、充填圧力の圧力損失を検出し、直ちにまたは次の切換え時に急速充填および/または充填調整および/または切換え圧力の相応する補正を行い、それにより大量生産のばらつき全体にわたって良好な切換え特性が保証される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第19917575A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、クラッチの始動特性および/または動作中の切換え特性をさらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、クラッチを動作させるための方法であって、クラッチが作動流体圧力によって作動され、この作動流体圧力が少なくとも1個の圧力センサによって検出され、この圧力センサが、圧力損失によって発生する圧力偏差を補償するために、少なくとも1個のレギュレータを備えた制御回路に組み込まれている、方法において、実際の作動流体圧力と圧力センサで検出したセンサ圧力との間の圧力差をより小さくするために、動的センサ圧力補正および/または動的規定圧力補正が行われることによって解決される。これに関連して、動的は,特に、圧力センサ値補正および/または動的規定圧力補正が連続的にまたは続けて、好ましくは規則的な時間的間隔をおいて実施されることを意味する。クラッチは好ましくは少なくとも1個の作動ピストンを備えた多板式クラッチ、特にダブルクラッチであり、この作動ピストンは多板式クラッチを作動するために作動流体圧力で付勢される。クラッチの始動特性と切換え特性は、調節される作動流体圧力の精度と密接に関連している。本発明の範囲内では、動作中回転する作動流体圧力室から圧力センサを空間的に遠ざけることに基づいて、所定の限界条件下で、従来の圧力制御では補正することができない動的圧力誤差が発生することがわかった。本発明による圧力補正によって、始動時および/または切換え時にクラッチトルクをより正確に調節することができる。
【0006】
本方法の一つの有利な実施形態は、クラッチの充填流量が第1圧力損失から推定されるか、または検知されることを特徴とする。充填流量は、液圧システムから、例えば液圧ポンプを経てクラッチに供給される流量である。
【0007】
本方法の他の有利な実施形態は、クラッチの充填流量がクラッチ弁規定圧力と検出されたセンサ圧力との間の第1圧力損失から推定されることを特徴とする。クラッチ弁規定圧力は、例えばシステム圧力のための接続部と、供給圧力のための接続部と、タンク圧力のための接続部を有するクラッチ弁によって調節される。
【0008】
本方法の他の有利な実施形態は、検出されたセンサ圧力と作動流体圧力との間の圧力損失または第2圧力損失が、公知の流れ抵抗によって検知されることを特徴とする。圧力損失または第2圧力損失は、作動流体圧力室と圧力測定個所との間の流れ抵抗によって生じる。回転するクラッチ内の動的な過程に基づき、圧力測定個所と作動流体圧力室との間の流れ抵抗によって圧力誤差が生じる。この圧力誤差は、液圧媒体の温度が低下するにつれて、すなわち粘性が上昇するにつれて増大する。流れ抵抗は例えば供給管、回転するロータリジョイントおよび液圧媒体の流入穴と流出穴である。
【0009】
本方法の他の有利な実施形態は、検出されたセンサ圧力が流れ方向を考慮して第2圧力損失に依存して補正されることを特徴とする。この補正はセンサ圧力補正とも呼ばれる。
【0010】
本方法の他の有利な実施形態は、規定クラッチシリンダ圧力からの補正されたセンサ圧力の偏差が調整されることを特徴とする。この調整のために、いろいろなレギュレータを使用することができる。
【0011】
本方法の他の有利な実施形態は、設定された規定クラッチ圧力が圧力損失または第2圧力損失に依存してかつ流れ方向を考慮して補正されることを特徴とする。この補正は規定圧力補正とも呼ばれる。
【0012】
本方法の他の有利な実施形態は、補正された規定クラッチ圧力からの検出されたセンサ圧力の偏差が調整されることを特徴とする。この調整はいろいろなレギュレータで行うことができる。
【0013】
本発明の他の利点、効果および詳細は、図を参照していろいろな実施形態を詳細に説明する次の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】作動流体圧力によって作動されるクラッチを備えた液圧システムの簡略図である。
【図2】図1に示したクラッチの圧力、回転数およびトルクをそれぞれ時間に対して記入したデカルト座標グラフである。
【図3a】圧力損失決定の第1変形によって動的規定圧力補正を実施するための本発明に係る方法のフローチャートである。
【図3b】圧力損失決定の第2変形によって動的規定圧力補正を実施するための本発明に係る方法のフローチャートである。
【図4a】圧力損失決定の第1変形によって動的実際圧力補正を実施するための本発明に係る方法のフローチャートである。
【図4b】圧力損失決定の第2変形によって動的実際圧力補正を実施するための本発明に係る方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、クラッチ1を液圧作動するための液圧システムが簡略化して示してある。このクラッチ1は多板構造のダブルクラッチ(デュアルクラッチ)である。このクラッチは自動車のパワートレインにおいて、内燃機関を含む駆動ユニットと、ダブルクラッチトランスミッションとして形成されたトランスミッションとの間に接続配置されている。
【0016】
クラッチ1は作動ピストンによって画成される作動流体圧力室を備えている。この作動流体圧力室3内の圧力は、作動流体圧力室3から空間的に離隔された圧力測定個所4で、圧力センサによって検出される。作動流体圧力室3と圧力測定個所4との間には、いろいろな圧力損失個所5が絞り記号(×印)によって示してある。
【0017】
作動流体圧力室3内の圧力は作動流体圧力とも呼ばれ、充填絞り8を介在してクラッチ弁9によって制御される。このクラッチ弁9はシステム圧力10のための接続部と、供給圧力11のための接続部と、タンク圧力12のための接続部を備えている。クラッチ弁9は電気的な圧力調整装置14を介してトランスミッション制御装置15によって制御される。
【0018】
図2には、x軸線21とy軸線22を有するデカルト座標グラフが示してある。このデカルト座標グラフには、図1に示したクラッチの圧力、トルクおよび回転数がそれぞれ時間に対して記入されている。
【0019】
y軸線22の上側領域には、実際のエンジン回転数23の変化が時間に対して記入されている。破線は目標エンジン回転数24を示している。トランスミッション入力回転数25は先ず最初は実際のエンジン回転数23よりも低い回転数であり、クラッチの作動によって先ず最初に実際のエンジン回転数23に合わせられ、そして目標エンジン回転数24に合わせられる。トランスミッション入力回転数25の振動が26で示してある。これは感じられる発進ショックをもたらし得る。
【0020】
y軸線22の中間領域には、規定クラッチトルク31が時間に対して記入されている。計算されたクラッチトルク32はクラッチの作動時に、規定クラッチトルク31および実際のクラッチトルク33と異なっている。ハッチングを施した面積34は、計算されたクラッチトルク32と実際のクラッチトルク33との間のトルク誤差を示している。
【0021】
y軸線22の下側領域において、破線40は図1のクラッチが分離している(weichen)領域と結合している(steifen)領域との間の遷移点を示している。接触点圧力またはタッチ点圧力41は先ず最初は遷移点40の幾分下方で延在している。クラッチを作動するために、充填流量42がクラッチの作動流体圧力室内に入れられるかまたは供給される。その際、実際の作動流体圧力44が上昇する。検出されたセンサ圧力45は実際の作動流体圧力44とクラッチ弁実際圧力46との間にある。規定クラッチ圧力47はクラッチ弁実際圧力46とクラッチ弁規定圧力48との間にある。
【0022】
時点50では、実際の作動流体圧力44が最小値であり、クラッチ弁規定圧力48が最大値である。クラッチ弁実際圧力46は3番目に大きな値であり、規定クラッチ圧力47は2番目に大きな値である。クラッチ弁規定圧力48と検出されたセンサ圧力45との間の圧力差は第1圧力損失51を示す。検出されたセンサ圧力45と実際の作動流体圧力44との間の圧力差は第2圧力損失52を示す。第1圧力損失51は、クラッチ弁規定圧力48とクラッチ弁実際圧力46との間の圧力差53と、クラッチ弁実際圧力46と検出されたセンサ圧力45との間の圧力差54との合計である。
【0023】
図1の圧力測定個所4には圧力センサが配置され、この圧力センサにより、図2において45で示したセンサ圧力が検出される。作動流体圧力室3内には、図2において44で示した実際の作動流体圧力が存在する。図2において52で示した、圧力センサと作動流体圧力室との間の第2圧力損失は、次のようにして決めることができる。先ず最初に、第1圧力損失51から充填流量が推定される。そして、図1において5で示した損失個所の流れ抵抗を知ることによって、第2圧力損失52が決定される。
【0024】
図3a、図3b、図4a、図4bはそれぞれ、一方では圧力損失決定の第1変形と第2変形によって動的な規定圧力補正を行うためおよび他方では圧力損失決定の第1変形と第2変形によって動的な実際圧力補正を行うための本発明に係る方法のフローチャートを示す。
【0025】
図3a、図3b、図4a、図4bにおいてそれぞれ、連続する方法手順が中央に示してある。以下において、この方法手順を中央部分ZAと呼ぶ。中央部分は4つの図において同じである。同じ部分には同じ参照符号が付けてある。
【0026】
先ず最初に、第1作業ステップ60において、運転者の要求、回転数およびエンジントルクのような必要な入力量が検知される。次に、この量に基づき、ステップ61において規定(予定)クラッチトルクが計算され、他のステップ62において規定クラッチシリンダ圧力が計算される。
【0027】
計算された規定クラッチシリンダ圧力62と、接続点VP1を経て計算された規定クラッチシリンダ圧力に合算される後述する他の量とに基づいて、作業ステップ63において、規定流れが決定される。規定流れの決定は通常のごとく、記憶された特性マップに基づいて行われる。続いて、作業ステップ64において規定流れが調節される。図3a、図3b、図4a、図4bにおいて作業ステップ65と66は破線のボックス内に示されている。ここでは、検知された規定流れの出力の2つの方法が示してある。作業ステップ65では弁をパイロット制御するためにパイロット制御圧力が調節され、作業ステップ66ではパイロット制御圧力が供給される。その代わりに、作業ステップ67において、クラッチ弁圧力が調節され、ステップ68においてこのクラッチ弁圧力が供給される。この代替的な方法は両方共便宜上図に示してあるが、実際には1つの方法だけが実施される。すなわち、作業ステップ65、66を経てあるいは作業ステップ67、68を経て実施される。
【0028】
矢印75によって、発生する圧力損失Δp1が示してある。この圧力損失はクラッチ弁圧力の供給時にシステム内で発生する。作業ステップ68においてクラッチ弁圧力を供給した後で、ステップ70において実際圧力の測定が行われる。この測定は圧力測定個所4における作動流体圧力44の検出である。実際圧力の測定の後で、ステップ71においてこの圧力がクラッチシリンダに供給される。作業ステップ72ではクラッチシリンダ圧力が調整され、続いてステップ73において軸方向ピストン力が増大する。軸方向ピストン力の増大により、クラッチが作業ステップ74において物理的なトルクを発生または伝達する。ステップ71で圧力をクラッチシリンダに供給する際に発生する第2の圧力損失Δp2が矢印76によって示してある。
【0029】
作業ステップ70で測定された実際圧力は、接続線80を経て接続点VP2に案内される。この接続点VP2には、作業ステップ81で計算される規定圧力補正のための値も案内される。
【0030】
作業ステップ81の規定圧力補正の値の計算は、作業ステップ62で決定された規定クラッチシリンダ圧力と、作業ステップ86で決定された圧力損失Δp2とに基づいて行われる。接続点VP2で合算された量はコントローラ90において、それが作業ステップ63で規定流れを決定する際に規則的に考慮されるように評価される。
【0031】
既に述べた圧力損失Δp2の決定は、実際圧力の測定に基づいて,並列的に行われるステップ83での動作点の検知とステップ84での実際圧力勾配の決定を経て行われる。。この両値に基づいて、作業ステップ85で充填流量が計算される。この充填流量は第2圧力損失の計算の基礎となる。
【0032】
それによって、図3aは、本当の実際圧力に基づく、動的規定圧力補正による圧力損失補償を示している。
【0033】
図3bに係る方法は動的規定圧力補正による既に述べた圧力損失補償を示している。この場合、本当の実際圧力が用いられないで、規定クラッチシリンダ圧力62と測定された実際圧力70との間の圧力差Δp3が使用される。そのために、図3bでは作業ステップ91が示され、この作業ステップは規定クラッチシリンダ圧力62と測定された実際圧力70との間の圧力差を決定する。
【0034】
図4aと図4bはそれぞれ、動的な実際圧力補正を有するフローチャートである。この場合、図3aと図3bにおける実施に類似して、圧力損失決定はあるときは実際圧力に基づいて、あるときは圧力差に基づいて行われる。
【符号の説明】
【0035】
1 クラッチ
3 作動流体圧力室
5 圧力損失箇所
9 クラッチ弁
10 システム圧力
11 供給圧力
12 タンク圧力
14 圧力調整装置
15 トランスミッション制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ(1)を動作させるための方法であって、このクラッチが作動流体圧力(44)によって作動され、この作動流体圧力が少なくとも1個の圧力センサによって検出され、この圧力センサが、圧力損失によって発生する圧力偏差を補償するために、少なくとも1個のレギュレータを備えた制御回路に組み込まれている、方法において、
実際の作動流体圧力(44)と前記圧力センサで検出したセンサ圧力(45)との間の圧力差をより小さくするために、動的センサ圧力補正(84)および/または動的規定圧力補正(80)が行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記クラッチ(1)の充填流量(42)が第1圧力損失から推定されるかまたは求められることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クラッチ(1)の前記充填流量(42)がクラッチ弁規定圧力(48)と検出された前記センサ圧力(45)との間の第1圧力損失から推定されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
検出された前記センサ圧力(45)と前記作動流体圧力(44)との間の圧力損失または第2圧力損失が、公知の流れ抵抗によって検知されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
検出された前記センサ圧力(45)が流れ方向を考慮してまたは前記第2圧力損失に依存して補正されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
規定クラッチシリンダ圧力からの補正されたセンサ圧力の偏差が調整されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
設定された規定クラッチ圧力(47)が前記圧力損失または前記第2圧力損失(52)に依存してかつ流れ方向を考慮して補正されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
補正された前記規定クラッチ圧力からの検出された1つの前記センサ圧力(44)の偏差が調整されることを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【公開番号】特開2012−21644(P2012−21644A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154792(P2011−154792)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(510238096)ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (63)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】