説明

クラッチ装置およびシート装置

【課題】回動部材の回動を規制するための係合子が当該回動部材とともに摩擦接触する部位の変形を抑制し得るクラッチ装置およびシート装置を提供する。
【解決手段】出力側カム31と入力側ハウジング21との相対回転が、出力側カム31のカム面31dと入力側ハウジング21の内周に配置される中間部材35における円環部35aの内周面との双方に各出力側ローラ32を摩擦接触させることで規制される。この中間部材35は、入力側ハウジング21より剛性が高く形成され、当該中間部材35の各凸部35bが入力側ハウジング21における円筒部21fに形成される各切欠部21gに係止されることにより、出力側カム31に対して同軸的に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回動部材とハウジングとの相対回転を係合子の摩擦接触により規制するクラッチ装置およびシート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回動部材とハウジングとの相対回転を係合子の摩擦接触により規制するクラッチ装置として下記特許文献1に開示されるクラッチユニットが知られている。このクラッチユニットでは、内輪の柱部とローラ(係合子)とが係合しない場合、出力軸(回部材)に所定の回転方向の逆入力が入力されると、出力軸のカム面と内輪の円周面とにより形成される楔隙間内に介在する逆方向のローラがその方向の楔隙間と楔係合(摩擦接触)することにより、出力軸が外輪に対して上記所定の回転方向に対してロック(規制)される。
【0003】
一方、外輪を介した入力トルクに応じて内輪が時計方向に回転すると、反時計方向の各ローラが、内輪の各柱部と係合して板ばねの弾性力に抗して時計方向に押圧される。これにより、反時計方向の各ローラがその方向の楔隙間から離脱して、出力軸のロック(規制)状態が解除される。
【特許文献1】特開2002−054658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような構成では、回動部材とこの回動部材が収容されるハウジングとの相対回転を規制するためには、回動部材に摩擦接触する各係合子をハウジングに押圧して摩擦接触させる必要がある。このため、例えば、上述のようなクラッチユニットを車両用シートの高さを調整するためのシート装置に採用する場合、シート側から回動部材に入力される逆入力トルクが大きくなると、各係合子がハウジングに大きな力で押し付けられることとなり、ハウジングが変形する可能性がある。このようにハウジングが変形してしまうと、各係合子がハウジングに均等に摩擦接触しなくなるため、上記相対回動の規制が不十分になるという問題がある。
【0005】
特に、ハウジングは、通常、プレス加工により成形されるので、強度を増加させるために板厚を厚くすると、プレス加工が困難になることから低コスト化が阻害されるだけでなく軽量化をも阻害してしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、回動部材の回動を規制するための係合子が当該回動部材とともに摩擦接触する部位の変形を抑制し得るクラッチ装置およびシート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1のクラッチ装置では、回動部材(31)とこの回動部材の外周に配置されるハウジング(21)との相対回転を、前記回動部材の外周に形成される摩擦接触面(31d)と前記ハウジングの内周に配置される環状の中間部材(35)の内周面(35a)との双方に係合子を摩擦接触させることで規制するクラッチ装置(10)であって、前記中間部材は、前記ハウジングより剛性が高く形成され、当該中間部材の外周部に形成される複数の外側凸部または外側凹部(21g)が前記ハウジングに形成される複数の内側凹部または内側凸部(35b)に係止されることにより、前記回動部材に対して同軸的に配置されることを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のクラッチ装置では、回動部材とハウジングとの相対回転が、回動部材の外周に形成される摩擦接触面とハウジングの内周に配置される環状の中間部材の内周面との双方に係合子を摩擦接触させることで規制される。この中間部材は、ハウジングより剛性が高く形成され、当該中間部材の外周部に形成される複数の外側凸部または外側凹部がハウジングに形成される複数の内側凹部または内側凸部に係止されることにより、回動部材に対して同軸的に配置される。
【0009】
これにより、回動部材の回動を規制する場合には、当該回動部材に摩擦接触する各係合子がハウジングより剛性を高くした中間部材に押圧されて摩擦接触するので、摩擦接触する部位の変形を抑制することができる。特に、中間部材は、各内側凹部または各内側凸部が対応する各外側凸部または各外側凹部に係合することにより、回動部材に対して同軸的に配置されるので、中間部材と回動部材との同軸度が高くなるだけでなく、回動方向の位置ずれを防止することができる。
【0010】
したがって、回動部材の回動を規制するための係合子が当該回動部材とともに摩擦接触する部位の変形を抑制することができる。
さらに、中間部材を追加するだけで摩擦接触する部位の変形が抑制されるので、ハウジング以外の部品は従来装置と同一の仕様となり、本発明に係る装置および従来装置の構成部品の標準化を図ることができる。
【0011】
請求項2のクラッチ装置では、中間部材は、各外側凸部または各外側凹部が対応する各内側凹部または各内側凸部に係止されるとともに、各外側凸部および各外側凹部とは異なる部位にて外周側からハウジングにかしめ固定されることにより、回動部材に対して同軸的に配置される。
【0012】
このように、中間部材は、各外側凸部または各外側凹部が対応する各内側凹部または各内側凸部に係止された状態で外周側からハウジングにかしめ固定されるので、中間部材とハウジングとを同軸的に固定することが容易になり、当該中間部材と回動部材との同軸度をより高めることができる。
【0013】
請求項3のシート装置では、シートと請求項1または2に記載のクラッチ装置とを備え、回動部材から伝達される回動に応じてシートの高さが調整される。これにより、回動部材の回動を規制するための係合子が当該回動部材とともに摩擦接触する部位の変形を抑制し得る等の、請求項1または2の各発明による作用・効果を享受したシート装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るクラッチ装置が適用された車両用シート装置の一実施形態について図を参照して説明する。図1は、本発明に係るクラッチ装置10が適用された車両用シート装置100を示す側面図である。
【0015】
図1に示すように、車両用シート装置100は、主に、車両フロアBに対して前後に摺動可能なシートレール101と、このシートレール101上にシートブラケット(図示略)等を介して取り付けられるシートクッション102と、このシートクッション102に対して傾動可能に支持されるシートバック103とを備えている。シートクッション102の一方の側部には本発明に係るクラッチ装置10が配設されており、このクラッチ装置10には、操作レバー104が連結されている。
【0016】
このクラッチ装置10は、シートブラケットに設けられる公知のハイト機構(図示略)に対して操作レバー104の操作による入力トルクを後述する入力側部材20および出力側部材30等を介して伝達することで、シートクッション102の高さを任意の高さに調整する役割を果たす。
【0017】
すなわち、クラッチ装置10は、入力トルクによる入力側部材20の回動を出力側部材30に伝達し、当該入力トルクがなくなると入力側部材20のみ中立位置に戻すように構成されている。このため、クラッチ装置10は、操作レバー104が水平な中立位置Nでは、シートクッション102の高さを保持するように出力側部材30が回動不能に固定される。
【0018】
また、クラッチ装置10は、シートクッション102の高さを上昇させるために操作レバー104が上方向Uへ揺動操作されると、この遥動操作に応じた入力トルクが入力側部材20および出力側部材30を介して上記ハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが上昇する。そして、入力トルクがなくなると、出力側部材30はその回動角度を維持し、入力側部材20は操作レバー104とともに中立位置に戻るため、上昇したシートクッション102の高さが維持される。
【0019】
一方、クラッチ装置10は、シートクッション102の高さを下降させるために操作レバー104が下方向Dへ揺動操作されると、この遥動操作に応じた入力トルクが入力側部材20および出力側部材30を介してハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが下降する。そして、入力トルクがなくなると、出力側部材30はその回動角度を維持し、入力側部材20は操作レバー104とともに中立位置に戻るため、下降したシートクッション102の高さが維持される。
【0020】
次に、クラッチ装置10の構成について、図を用いて詳細に説明する。図2は、クラッチ装置10の正面図である。図3は、クラッチ装置10の分解斜視図である。図4は、図2に示す4−4線相当の切断面による断面図である。
図2〜図4に示すように、クラッチ装置10は、入力側ハウジング21、レバー部材22、スプリング23、連結軸24、リバースプレート25、リテーナ26、入力側カム27および6つの入力側ローラ28を有する入力側部材20と、出力側カム31、8つの出力側ローラ32、4つのばね33、ピニオンギヤ34、中間部材35、フリクションスプリング36および出力側ハウジング37を有する出力側部材30とを備え、入力側部材20および出力側部材30は、回動伝達部材41およびワッシャ42を介して同軸的に配置されている。
【0021】
まず、入力側部材20を構成する各部品について説明する。
入力側ハウジング21は、底部21aとこの底部21aの外周縁から円筒状に突出する円筒部21fとを有するように略有底円筒状に形成されており、底部21aの中央には貫通穴21bが設けられている。また、底部21aには、貫通穴21bに対向して第1開口部21cおよび第2開口部21dが形成され、第1開口部21cの貫通穴21b側端部には、外方に突出する突出片21eが形成されている。また、円筒部21fの開口部側内周面には、外周方向に向けて凹むように形成される6つの切欠部21gが周方向等間隔に設けられている。なお、各切欠部21gは、特許請求の範囲に記載の「外側凸部または外側凹部」の一例に相当する。
【0022】
レバー部材22は、操作レバー104に連結されており、操作レバー104の遥動操作による入力トルクを連結軸24等に伝達する役割を果たす。このレバー部材22は、略円板の中央部分が軸方向一側(図3および図4の右側)に突出するように形成されており、この突出部の中央には後述する連結軸24の軸方向他側端部24aに係合可能な係合穴22aが形成されている。また、レバー部材22には、外縁部の一端から軸方向一側に突出する突出片22bと、当該外縁部一端を除く端部から軸方向一側であって突出片22bより短く突出する複数の突出片22cとが形成されている。
【0023】
スプリング23は、平板帯状の弾性部材を曲げて形成されており、略C字状のスプリング本体23aとこのスプリング本体23aの両端から内方にそれぞれ屈曲されるフック部23bとから構成されている。スプリング本体23aは、レバー部材22の各突出片22cの内面または外面に当接するように湾曲して形成されており、レバー部材22を入力側ハウジング21に対して中立位置に付勢する付勢部材としての機能を有する。また、フック部23bは、後述するリバースプレート25の突出片25aを挟持することで、当該リバースプレート25を中立方向に付勢する付勢部材としての機能を有する。
【0024】
連結軸24は、中空状に形成され、その軸方向他側端部24aがレバー部材22の係合穴22aに係合可能に形成されるとともに、その軸方向一側端部24bが後述する入力側カム27の係合穴27aに係合可能に形成されている。
【0025】
リバースプレート25は、略楕円板状に形成されており、その外縁近傍から軸方向他側(図3の左側)に突出する突出片25aを備えている。当該リバースプレート25には、突出片25aの外周側にて当該突出片25aと近接して第1スリット25bが設けられており、この第1スリット25bは、レバー部材22の突出片22bが係合可能に形成されている。また、リバースプレート25には、突出片25aの内周側に連結軸24が挿通可能な開口部25cが形成されている。この開口部25cの突出片25a近傍には、他の開口部分よりも開口幅を狭くした第2スリット25dが設けられている。なお、突出片25aは、その幅方向寸法が入力側ハウジング21の突出片21eの幅寸法に等しくなるように形成されている。
【0026】
リテーナ26は、略円板状に形成されており、その中央部には連結軸24が挿通可能な開口部26aが設けられている。また、リテーナ26には、同軸的に配置されるリバースプレート25の第2スリット25dに係合可能な突出片26bが開口部26a近傍から軸方向他側に突出するように形成されている。また、リテーナ26は、12個の押圧片26cを備えており、各押圧片26cは、後述するくさび形空間にて対応する入力側ローラ28を側面でもって押圧可能に、当該リテーナ26の外周部から軸方向一側に突出するようにそれぞれ形成されている。
【0027】
入力側カム27は、板厚の厚い略円板状に形成されており、その中央部には連結軸24の軸方向一側端部24bに同軸的に係合可能な係合穴27aが設けられている。入力側カム27の外周面には、直径方向に対向するように外方に突出する2つの突起部27bが形成されている。また、両突起部27bを除く入力側カム27の外周面はカム面27cを構成し、このカム面27cは、回動伝達部材41の円筒部41aの内周面との間にて一対の対向するくさび形空間が6箇所設けられるように形成されている。
【0028】
各入力側ローラ28は、円筒状に形成されており、その径が、カム面27cと円筒部41aの内周面とにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように形成されている。
【0029】
次に、出力側部材30を構成する各部品について説明する。
出力側カム31は、板厚の厚い略円板状に形成されており、その中央部にはピニオンギヤ34に同軸的に係合するための係合穴31aが設けられている。出力側カム31の外周面には、円周方向等間隔に外方に突出する4つの突起部31bが形成されるとともに、4つの断面略U字状の溝31cが周方向等間隔に形成されている。
【0030】
各突起部31bおよび各溝31cを除く出力側カム31の外周面はカム面31dを構成し、このカム面31dは、中間部材35の内周面との間にて一対の対向するくさび形空間が8箇所設けられるように形成されている。なお、出力側カム31は、特許請求の範囲に記載の「回動部材」の一例に相当し、カム面31dは、特許請求の範囲に記載の「摩擦接触面」の一例に相当する。
【0031】
各出力側ローラ32は、円筒状に形成されており、その径が、カム面31dと中間部材35の内周面とにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように形成されている。なお、各出力側ローラ32は、特許請求の範囲に記載の「係合子」の一例に相当する。
【0032】
ピニオンギヤ34は、その軸方向一側端部34aが上記ハイト機構の入力軸(図示略)に噛合可能に形成されている。また、ピニオンギヤ34は、その軸方向中間部位34bが出力側カム31の係合穴31aに係合可能に形成されるとともに、その軸方向他側端部34cが連結軸24の中空穴に挿入可能に形成されている。
【0033】
中間部材35は、クロムモリブデン鋼等の剛性が高く入力側ハウジング21よりも厚さが厚い金属材料により、円環状の円環部35aと、この円環部35aの外周面に一体に設けられる6つの凸部35bとを有するように構成されている。すなわち、中間部材35は、入力側ハウジング21より剛性が高く形成されている。円環部35aは、その外周面にて入力側ハウジング21における円筒部21fの内周面に同軸的に嵌合可能であって、その内周面にて出力側カム31の各カム面31dに対向して上記各くさび形空間を構成するように形成されている。
【0034】
また、各凸部35bは、円環部35aと円筒部21fとの嵌合時、円筒部21fの対応する各切欠部21gにそれぞれ係合するように、周方向等間隔であって外方に向けて円弧状に突出するように形成されている。なお、各凸部35bは、特許請求の範囲に記載の「内側凹部または内側凸部」の一例に相当する。
【0035】
フリクションスプリング36は、ピニオンギヤ34を介してシート側から入力されるトルクを低減するための弾性部材としての役割を果たす。このフリクションスプリング36は、その内周側がピニオンギヤ34の軸方向中間部位34bに係合可能に形成され、その外周側が中間部材35における円環部35aの内周面に弾性的に当接するように形成されている。
【0036】
回動伝達部材41は、円筒部41aと8つの押圧片41bとを備えており、当該回動伝達部材41は、入力側ハウジング21の円筒部21f内に配置されるとき、円筒部41aの内周面にて入力側カム27のカム面27cに対向するように形成されている。各押圧片41bは、上記くさび形空間において対応する出力側ローラ32を側面でもって押圧可能に、円筒部41aの一側端部から軸方向一側に突出するようにそれぞれ形成されている。
【0037】
ワッシャ42は、略円板状に形成されており、その外周部が回動伝達部材41の各押圧片41b間に係合可能な凸部42aが8箇所設けられている。
【0038】
次に、このように構成されるクラッチ装置10の組み付けについて、図を用いて詳細に説明する。図5は、図4に示す5−5線相当の切断面による断面図である。図6は、図4に示す6−6線相当の切断面による断面図である。図7は、図4に示す7−7線相当の切断面による断面図である。図8は、図4に示す8−8線相当の切断面による断面図である。なお、図5および後述する図9では、説明の便宜上、回動伝達部材41や入力側ハウジング21の一部等を省略するように図示している。
【0039】
まず、図4、図7および図8に示すように、入力側ハウジング21の円筒部21fには、中間部材35が凸部35bと対応する各切欠部21gとを係合させることで、相対回転不能であって同軸的に嵌合される。
【0040】
レバー部材22は、各突出片22cが内面または外面にてスプリング23のスプリング本体23aの内周面に当接し、係合穴22aが連結軸24の軸方向他側端部24aに係合することで、スプリング23とともに入力側ハウジング21に回動可能に組み付けられる。このとき、図5に示すように、入力側ハウジング21の突出片21eは、スプリング23のフック部23b間に挟持される。
【0041】
そして、リバースプレート25は、その突出片25aがスプリング23のフック部23b間に挟持されるとともに、その第1スリット25bにレバー部材22の突出片22bが係合するように組み付けられる。そして、リテーナ26は、その突出片26bがリバースプレート25の第2スリット25dに係合するように組み付けられる。
【0042】
図4および図6に示すように、リテーナ26の各押圧片26cの外周側には、ワッシャ42を組み付けた回動伝達部材41が入力側ハウジング21における円筒部21fの内周に配置されるように組み付けられる。また、リテーナ26の各押圧片26cの内周側には、入力側カム27が連結軸24の軸方向一側端部24bに係合するように組み付けられる。各入力側ローラ28は、円筒部41aの内周面と入力側カム27のカム面27cとの間に形成される一対の対向するくさび形空間にて各押圧片26cに挟持されるように組み付けられる。
【0043】
図4、図7および図8に示すように、出力側カム31は、フリクションスプリング36とともに、係合穴31aにてピニオンギヤ34の軸方向中間部位34bに係合するように組み付けられる。このピニオンギヤ34は、その軸方向他側端部34cにて連結軸24の中空穴に相対回動可能に挿入される。このとき、出力側カム31は、各カム面31dにて中間部材35における円環部35aの内周面に対向するように入力側ハウジング21内に配置される。
【0044】
また、出力側カム31の各溝31cにはばね33がそれぞれ係合され、各突起部31bおよび各ばね33間には回動伝達部材41の各押圧片41bおよび各出力側ローラ32が組み付けられる。そして、ピニオンギヤ34の軸方向一側端部34aが出力側ハウジング37から同軸的に突出するように出力側ハウジング37と入力側ハウジング21とを組み付けることにより、図2に示すクラッチ装置10が完成する。
【0045】
次に、このように構成されるクラッチ装置10における入力側部材20および出力側部材30等の作動について、図を用いて詳細に説明する。図9は、入力側部材20の状態を説明するための説明図であり、図9(A)は、揺動操作前の状態を示し、図9(B)は、揺動操作中の状態を示す。なお、図9では、図5等に対して、レバー部材22の突出片22bやリバースプレート25の第1スリット25bが図面上側に位置するように図示されている。
【0046】
操作レバー104が遥動操作されずレバー部材22に入力トルクが伝達されない場合には、各出力側ローラ32が、出力側カム31のカム面31dと中間部材35における円環部35aの内周面との間に形成されるくさび形空間に対してばね33により押圧されている。このように、出力側ローラ32が押圧されてカム面31dおよび円環部35aの内周面に摩擦接触するため、ピニオンギヤ34と入力側ハウジング21との相対回動が規制される。このように、ピニオンギヤ34の回動が規制されるため、上記ハイト機構に入力トルクが伝達されず、シートクッション102の高さが維持される。
【0047】
このような回動規制状態において、上記ハイト機構からの逆入力がピニオンギヤ34に入力されると、各カム面31dに摩擦接触する出力側ローラ32が中間部材35における円環部35aの内周面にさらに押圧されるように摩擦接触する。このように摩擦接触する中間部材35は、剛性が高い金属材料により形成されているので、各出力側ローラ32が摩擦接触する部位の変形が抑制される。
【0048】
そして、操作レバー104が中立位置Nから上方向Uへ遥動操作されると、レバー部材22が入力側(図9にて紙面手前側)から見て時計方向に回動する。この回動に応じて、入力側カム27が連結軸24とともに時計方向に回動する。また、このレバー部材22の回動に応じて、レバー部材22の突出片22bと係合するリバースプレート25の第1スリット25b近傍が、α方向(時計方向に沿う方向)に移動する(図9(B)参照)。この第1スリット25b近傍の移動により、リバースプレート25は、スプリング23の両フック部23bに挟持される突出片25a近傍を中心にβ方向に遥動する。
【0049】
ここで、リバースプレート25において、第1スリット25bは突出片25aの外周側に形成され第2スリット25dは突出片25aの内周側に形成されているので、第2スリット25dに係合するリテーナ26の突出片26b近傍はγ方向(反時計方向に沿う方向)に移動する。この突出片26b近傍の移動により、リテーナ26が反時計方向に回動する。
【0050】
このように、リバースプレート25は、その遥動中心となる突出片25aとレバー部材22の突出片22bに係合する第1スリット25bとが近接するように形成されているので、第1スリット25b近傍の移動に対してリバースプレート25の遥動が大きくなる。このため、第2スリット25dに係合するリテーナ26の突出片26b近傍の移動が大きくなり、リテーナ26の回動角度が大きくなる。
【0051】
上述のようなリテーナ26の回動により、各押圧片26cが、入力側ローラ28を反時計方向側のくさび形空間を形成するカム面27cおよび回動伝達部材41における円筒部41aの内周面に押圧するので、入力側カム27が各入力側ローラ28を介して回動伝達部材41と一体に回動することとなる。このため、入力トルクがレバー部材22、連結軸24、入力側カム27、各入力側ローラ28および回動伝達部材41を介して出力側部材30に伝達されることとなる。
【0052】
上述のような回動伝達部材41の回動により、各ばね33に対して反回動方向に位置する出力側ローラ32が、一部の押圧片41bによって回動方向に押圧され、ばね33に抗して上記くさび形空間から離脱する。これにより、中間部材35に対する出力側カム31の相対回動の規制が解除される。
【0053】
そして、残りの押圧片41bによって各突起部31bが回動方向に押圧されることで、出力側カム31が回動方向に回動するとともに、この出力側カム31に係合するピニオンギヤ34が回動する。これにより、入力側部材20から入力された入力トルクが出力側部材30のピニオンギヤ34等を介して上記ハイト機構に伝達されることとなる。
【0054】
そして、入力トルクがなくなると、レバー部材22およびリバースプレート25がスプリング23により付勢されることで、レバー部材22、連結軸24および入力側カム27が反時計方向に回動して中立位置に戻るとともに、リバースプレート25が中立方向(β方向とは反対方向)に遥動することでリテーナ26が時計方向に回動して中立位置に戻る。このように入力側カム27が反時計方向に回動しリテーナ26が時計方向に回動すると、各入力側ローラ28は各押圧片26cによりくさび形空間へ押圧されなくなるので、入力側カム27の回動が回動伝達部材41に伝達されることもない。なお、入力トルクに応じてレバー部材22が反時計方向に回動する場合も、同様に入力トルクが出力側部材30に伝達される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係るクラッチ装置10では、出力側カム31と入力側ハウジング21との相対回転が、出力側カム31のカム面31dと入力側ハウジング21の内周に配置される中間部材35における円環部35aの内周面との双方に各出力側ローラ32を摩擦接触させることで規制される。この中間部材35は、入力側ハウジング21より剛性が高く形成され、当該中間部材35の各凸部35bが入力側ハウジング21における円筒部21fに形成される各切欠部21gに係止されることにより、出力側カム31に対して同軸的に配置される。
【0056】
これにより、出力側カム31の回動を規制する場合には、各カム面31dに摩擦接触する各出力側ローラ32が入力側ハウジング21より剛性を高くした中間部材35に押圧されて摩擦接触するので、摩擦接触する部位の変形を抑制することができる。特に、中間部材35は、各凸部35bが対応する各切欠部21gに係合することにより、出力側カム31に対して同軸的に配置されるので、中間部材35と出力側カム31との同軸度が高くなるだけでなく、回動方向の位置ずれを防止することができる。
【0057】
したがって、出力側カム31の回動を規制するための各出力側ローラ32が当該出力側カム31とともに摩擦接触する部位の変形を抑制することができる。
さらに、中間部材35を追加するだけで摩擦接触する部位の変形が抑制されるので、入力側ハウジング21および出力側ハウジング37以外の部品は従来装置と同一の仕様となり、本発明に係る装置および従来装置の構成部品の標準化を図ることができる。
【0058】
また、本実施形態に係るシート装置100では、シートクッション102およびシートバック103とクラッチ装置10とを備え、出力側部材30から伝達される回動に応じてシートクッション102の高さが調整される。これにより、出力側カム31の回動を規制するための各出力側ローラ32が当該出力側カム31とともに摩擦接触する部位の変形を抑制し得る等の作用・効果を享受したシート装置100を実現することができる。
【0059】
ここで、本実施形態に係るクラッチ装置10の変形例について、図10を用いて説明する。図10は、クラッチ装置10の変形例を説明するための説明図であり、図10(A)は、中間部材35のかしめ固定前の状態を示し、図10(B)は、中間部材35のかしめ固定後の状態を示す。
【0060】
中間部材35は、各凸部35bが対応して予め形成される各切欠部21gに係合することで入力側ハウジング21に対して相対回転不能であって同軸的に嵌合されることに限らず、以下に示すように、入力側ハウジング21に代えて採用される入力側ハウジング21hに対して外周側からかしめ固定されてもよい。
【0061】
具体的には、図10(A)に示すように、入力側ハウジング21hの円筒部21fには、上述した6つの切欠部21gのうち、左側の3つを含むように凹部21iが形成されるとともに、右側の3つを含むように凹部21jが形成されている。
【0062】
そして、中間部材35を入力側ハウジング21hに嵌合させるとき、中間部材35の6つの凸部35bのうち、左側の3つを凹部21iに係止させるとともに右側の3つを凹部21jに係合させる。その後、中間部材35および入力側ハウジング21hを内周側から同軸的に支持しつつ、凹部21iおよび凹部21jを外周側から各凸部35bにかしめて固定する(図10(B)参照)。
【0063】
これにより、中間部材35は、各凸部35bが凹部21iおよび凹部21jに係止された状態で外周側から入力側ハウジング21にかしめ固定されるので、中間部材35と入力側ハウジング21とを同軸的に固定することが容易になり、当該中間部材35と出力側カム31との同軸度をより高めることができる。
【0064】
なお、中間部材35は、各凸部35bのうちの少なくとも2つが入力側ハウジングに形成される同数の凹部に係止されるとともに、各凹部とは異なる部位にて外周側からハウジングにかしめ固定されることにより、出力側カム31に対して同軸的に配置されてもよい。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、上記実施形態と同等の作用・効果が得られる。
(1)係合子として機能する各出力側ローラ32は、円柱状に形成されることに限らず、くさび形空間に摩擦接触可能な形状に形成されてもよい。また、入力側ローラ28の形状も同様に変更可能である。
【0066】
(2)出力側ローラ32は8個設けられることに限らず、9個以上設けられてもよいし7個以下設けられてもよい。この場合、出力側カム31のカム面31dや溝31c等は、変更された出力側ローラ32の個数に応じて形成される。また、入力側ローラ28の個数も同様に変更可能である。
【0067】
(3)入力側ハウジング21の円筒部21fには、切欠部21gに代えて、中間部材35を係止するための凹部または凸部等が複数形成されてもよい。このとき、中間部材35には、凸部35bに代えて、上記凹部または凸部等に係合可能な凸部または凹部等が複数形成される。
【0068】
(4)本発明に係るクラッチ装置10は、上述した車両用シート装置100に適用されることに限らず、出力側カム31等の回動部材とハウジングとの相対回転を出力側ローラ32等の係合子の摩擦接触により規制する装置として、他の高さ調整装置等に適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るクラッチ装置が適用された車両用シート装置を示す側面図である。
【図2】クラッチ装置の正面図である。
【図3】クラッチ装置の分解斜視図である。
【図4】図2に示す4−4線相当の切断面による断面図である。
【図5】図4に示す5−5線相当の切断面による断面図である。
【図6】図4に示す6−6線相当の切断面による断面図である。
【図7】図4に示す7−7線相当の切断面による断面図である。
【図8】図4に示す8−8線相当の切断面による断面図である。
【図9】入力側部材の状態を説明するための説明図であり、図9(A)は、揺動操作前の状態を示し、図9(B)は、揺動操作中の状態を示す。
【図10】図10は、クラッチ装置の変形例を説明するための説明図であり、図10(A)は、中間部材のかしめ固定前の状態を示し、図10(B)は、中間部材のかしめ固定後の状態を示す。
【符号の説明】
【0070】
10…クラッチ装置
20…入力側部材
21,21h…入力側ハウジング(ハウジング)
21f…円筒部
21g,21i,21j…切欠部(外側凸部または外側凹部)
30…出力側部材
31…出力側カム(回動部材)
31d…カム面(摩擦接触面)
32…出力側ローラ(係合子)
35…中間部材
35a…円環部
35b…凸部(内側凹部または内側凸部)
100…車両用シート装置
102…シートクッション(シート)
103…シートバック(シート)
104…操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動部材とこの回動部材の外周に配置されるハウジングとの相対回転を、前記回動部材の外周に形成される摩擦接触面と前記ハウジングの内周に配置される環状の中間部材の内周面との双方に係合子を摩擦接触させることで規制するクラッチ装置であって、
前記中間部材は、前記ハウジングより剛性が高く形成され、当該中間部材の外周部に形成される複数の外側凸部または外側凹部が前記ハウジングに形成される複数の内側凹部または内側凸部に係止されることにより、前記回動部材に対して同軸的に配置されることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記中間部材は、前記各外側凸部または前記各外側凹部が対応する前記各内側凹部または前記各内側凸部に係止されるとともに、前記各外側凸部および前記各外側凹部とは異なる部位にて外周側から前記ハウジングにかしめ固定されることにより、前記回動部材に対して同軸的に配置されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
シートと請求項1または2に記載のクラッチ装置とを備え、前記回動部材から伝達される回動に応じて前記シートの高さを調整することを特徴とするシート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−127418(P2010−127418A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303849(P2008−303849)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【Fターム(参考)】