説明

クラッチ装置

【課題】構成が簡単で、応答性にすぐれたクラッチ装置の提供。
【解決手段】電動モータ1のロータ13は、クラッチ装置3を介してインプットシャフト31と接続される。クラッチ装置3のプランジャ部材35と固定部材36との間には、圧力室PCが形成され、その回転軸方向の反対側にはキャンセル室KCが設けられている。油圧ポンプから吐出された液圧は切換弁を介して圧力室PCに供給され、プランジャ部材35を駆動ディスク32から離れる方向に付勢し、クラッチ装置3の接続を解除する。切換弁と圧力室PCおよびキャンセル室KCとの間には、スプール弁39が配置されている。圧力室PCをリザーバ部と接続して圧力室PC内の液圧を解除する場合、スプール弁39が作動して、圧力室PCとキャンセル室KCとを連通させる。これにより、圧力室PC内のオイルがキャンセル室KC内に供給され、遠心油圧によってプランジャ部材35を駆動ディスク32に向けて付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の駆動力の伝達を断続するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用変速機のクラッチ装置において、係合要素を押圧するピストンの両側にピストン室とキャンセル室とを設け、キャンセル室に発生する遠心油圧により、ピストン室に残留する液圧をキャンセルして、引き摺りを防止するクラッチ装置は知られている。ここで、遠心油圧とは、液圧室が回転状態にある場合に、残留した油によって液圧室内に発生する液圧をいう。
【0003】
ところが、エンジン始動直後の条件下において、ピストン室に液圧が十分に供給されていない場合に、キャンセル室の遠心油圧がピストン室の遠心油圧を上回る場合があった。このため、液圧をピストン室に供給してピストンをキャンセル室に向けて移動させる場合、その作動遅れが発生し、クラッチ装置の応答性が低下するという問題があった。
【0004】
これに対して、作動応答性を向上させるため、ピストンをキャンセル室側に前進させる作動油圧PC1がピストン室に供給されていない場合には、遠心油圧をキャンセルするための作動油圧PL2をピストン室に導入するクラッチ装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これによれば、予めピストン室に作動油圧PL2が供給されているため、例えば、車両発進直後等に、ピストンをキャンセル室側に前進させる作動油圧PC1が出力された場合に、ピストンを応答性よく前進させることができる。
一方、作動油圧PC1がピストン室に供給されている場合には、作動油圧PL2のピストン室への導入は行われない。これにより、ピストン室内に発生する遠心油圧を、キャンセル室に供給された作動油圧PL2によりキャンセルすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−58000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に開示されたクラッチ装置においては、ピストンを応答性よく作動させることができるとともに、ピストン室内に発生する遠心油圧をキャンセルすることができるという点においては、所定の効果を奏するものである。
ところが、特許文献1に開示されたクラッチ装置は、ピストン室へ液圧を供給してピストンを前進させ、係合要素を押圧している状態において、キャンセル室にも作動油が供給されているため、所定荷重で係合要素を押圧するために、キャンセル室の作動油による遠心油圧の分だけピストン室への液圧の供給を増大させる必要があった。したがって、液圧を供給する液圧源を大型の装置にしなければならず、装置全体が大型化し、コストの増大が避けられない。
【0008】
また、特許文献1によるクラッチ装置は、ピストン室とキャンセル室に、それぞれ作動油圧PC1および作動油圧PL2を供給するため、所定の液圧を形成するための複数のレギュレータバルブを必要とし、構成が複雑化するとともに、いっそうのコストの増大が避けられない。
また、係合要素を押圧している状態において、ピストン室とキャンセル室の双方に同時に液圧を供給しているため、リザーバ内に作動油を大量に貯蔵する必要が発生する。電動モータのハウジング等内にリザーバを形成している場合、リザーバ内の作動油の量を増大させることは、ロータの回転抵抗の増大につながり、容易に行えることではなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成が簡単で、応答性にすぐれたクラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1に係るクラッチ装置の発明の構成上の特徴は、ハウジングに回転可能に取り付けられ、外部の駆動源により回転される入力部材と、ハウジングに取り付けられ、入力部材に対して相対回転可能な出力部材と、入力部材の回転軸方向に移動可能で、入力部材および出力部材のうちの一方とともに回転可能な摩擦部材と、入力部材および出力部材のうちのいずれかに対し回転軸方向に移動可能に取り付けられ、摩擦部材を、入力部材および出力部材のうちの他方に向けて押圧する押圧部材と、入力部材および出力部材のうちのいずれかに取り付けられ、押圧部材を回転軸方向に付勢する弾性部材と、押圧部材と、入力部材および出力部材のうちのいずれかとの間に区画形成された圧力室と、を備え、圧力室内の液圧が排出された状態において、弾性部材からの付勢力を受けた押圧部材によって摩擦部材が押圧され、入力部材および出力部材のうちの他方に対して圧着されることにより、入力部材と出力部材との間において駆動力が伝達され、液圧源から圧力室に液圧が供給されることにより、弾性部材を撓ませて押圧部材による摩擦部材に対する付勢を解除し、入力部材と出力部材との間の駆動力の伝達を遮断する、あるいは、液圧源から圧力室に液圧が供給されることにより、弾性部材の付勢力に抗して押圧部材を付勢し、付勢力を受けた押圧部材によって摩擦部材が押圧され、入力部材および出力部材のうちの他方に対して圧着されることにより、入力部材と出力部材との間において駆動力が伝達され、圧力室内の液圧が排出された状態において、弾性部材により押圧部材が摩擦部材から離れる方向に付勢され、入力部材と出力部材との間の駆動力の伝達が遮断され、さらに、押圧部材において圧力室が形成された位置とは異なる位置と、入力部材および出力部材のうちのいずれかとの間に区画形成された解除室と、液圧源と圧力室および解除室との間に設けられ、液圧源から圧力室に液圧が供給される場合、圧力室と解除室との連通を断ち、圧力室内の液圧が排出される場合、圧力室と解除室とを連通させ、圧力室から解除室への液圧流体の供給を許容する作動弁と、を備えることである。
【0010】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1のクラッチ装置において、押圧部材の外周部には、解除室から制限された液圧流体の排出が行われる絞り管路が形成されたことである。
【0011】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2のクラッチ装置において、絞り管路を介して解除室から排出された液圧流体は、摩擦部材に供給されることである。
【0012】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のうちのいずれかのクラッチ装置において、作動弁は、ハウジング内に形成されたシリンダ部と、シリンダ部と圧力室とを連通する吐出通路と、シリンダ部と解除室とを連通する排出通路と、シリンダ部内に液密的に嵌合する弁部材であって、軸方向の一端部に開口するとともに内部を通ってシリンダ部の内周面に連通する液圧供給路を有し、液圧供給路が開口した側の端部には液圧源から吐出された液圧が供給される弁部材と、弁部材を液圧供給路の開口部分に向けて付勢する付勢手段と、を備え、液圧源から圧力室に液圧が供給される場合、液圧源からの液圧により、弁部材が付勢手段の付勢力に抗してシリンダ部内を軸方向に移動し、解除室と液圧供給路との接続が断たれるとともに、圧力室と液圧供給路とが接続される位置に保持され、液圧源から吐出された液圧が液圧供給路を介して圧力室に供給され、圧力室内の液圧が排出される状態において、弁部材が付勢手段によって付勢され、液圧供給路が、弁部材の外周面において吐出通路および排出通路の双方に接続される位置に移動することにより、圧力室と解除室とが液圧供給路を介して互いに連通することである。
【0013】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のうちのいずれかのクラッチ装置において、作動弁は、ハウジング内に形成されたシリンダ部と、シリンダ部と圧力室とを連通する吐出通路と、シリンダ部と解除室とを連通する排出通路と、シリンダ部内に液密的に嵌合する弁部材であって、軸方向の一端部に開口するとともに内部を通ってシリンダ部の内周面に連通する液圧供給路を有し、液圧供給路が開口した側の端部には液圧源から吐出された液圧が供給される弁部材と、弁部材をシリンダ部内において軸方向に移動させる電動アクチュエータと、を備え、液圧源から圧力室に液圧が供給される場合、電動アクチュエータによって、解除室と液圧供給路との接続が断たれるとともに、圧力室と液圧供給路とが接続される位置に弁部材が保持され、液圧源から吐出された液圧が液圧供給路を介して圧力室に供給され、圧力室内の液圧が排出される状態において、電動アクチュエータによって、液圧供給路が弁部材の外周面において吐出通路および排出通路の双方に接続される位置に弁部材が移動されることにより、圧力室と解除室とが液圧供給路を介して互いに連通することである。
【0014】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至5のうちのいずれかのクラッチ装置において、ハウジング内には回転電機が取り付けられ、回転電機は、ハウジングに取り付けられたステータと、ステータと半径方向に対向して設けられ、ステータとの間で磁気的な反発力または吸引力が発生することにより、ステータに対し回転可能なロータと、を有しており、入力部材にはエンジンの駆動力が入力され、出力部材はロータに連結されていることである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係るクラッチ装置によれば、液圧源と圧力室および解除室との間に設けられ、圧力室内の液圧が排出される場合、圧力室と解除室とを連通させ、圧力室から解除室への液圧流体の供給を許容する作動弁を備えたことにより、圧力室内の液圧を排出すると同時に解除室へと導くことができる。
これにより、仮に、圧力室内に液圧流体が残留していたとしても、解除室内に発生する遠心油圧によって、押圧部材を圧力室方向へと付勢することができ、クラッチ装置の接続あるいは接続解除の作動応答性を向上させることができる。したがって、クラッチ装置の作動時間を短縮することができる。
また、解除室には圧力室内の液圧を導くのみであるため、液圧源を大型化する必要がなく、大量の油を貯蔵する必要もない。したがって、装置全体を小型化でき、コストの増大を抑制することができる。
【0016】
請求項2に係るクラッチ装置によれば、押圧部材の外周部には、解除室から制限された液圧流体の排出が行われる絞り管路が形成されたことにより、液圧源から圧力室への液圧の解除後、所定の時間だけ解除室に遠心油圧を発生させることができるとともに、その後、解除室内の液圧を確実に解消することができる。
【0017】
請求項3に係るクラッチ装置によれば、絞り管路を介して解除室から排出された液圧流体は、摩擦部材に供給されることにより、液圧流体が摩擦部材の冷却油および潤滑油として機能するため、摩擦部材の摩耗および焼き付きを防止することができる。
【0018】
請求項4に係るクラッチ装置によれば、圧力室内の液圧が排出される状態において、弁部材が付勢手段によって付勢され、液圧供給路が、弁部材の外周面において吐出通路および排出通路の双方に接続される位置に移動されることにより、圧力室と解除室とが液圧供給路を介して互いに連通する。
これにより、圧力室内の液圧が排出されると同時に、解除室へと導くことができ、解除室内に確実に遠心油圧を発生させることができる。また、作動弁は液圧源から吐出された液圧により作動するため、特別な駆動力を必要とせず、その構成を簡単にすることができる。
【0019】
請求項5に係るクラッチ装置によれば、作動弁の弁部材は電動アクチュエータによって作動するため、シリンダ部内において確実に移動させることができる。したがって、圧力室内の液圧をリザーバに排出すると同時に、確実に解除室へと導くことができ、液圧源から圧力室に液圧が供給される場合、解除室と液圧供給路との接続が断たれるとともに、液圧源から吐出された液圧を確実に圧力室に供給することができる。
【0020】
請求項6に係るクラッチ装置によれば、入力部材にはエンジンの駆動力が入力され、出力部材は回転電機のロータに連結されていることにより、エンジンとロータとの間の接続作動または接続解除作動の応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態1によるクラッチ装置を使用した車両の駆動システム図
【図2】図1に示したフロントモジュールの断面図
【図3】図2に示したクラッチ装置の要部拡大断面図
【図4】図3に示したスプール弁に液圧が供給された状態を示した拡大図
【図5】実施形態2によるスプール弁の拡大図
【図6】図5に示したスプール弁において、圧力室とキャンセル室との連通を遮断した状態を示した拡大図
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態1>
図1乃至図4に基づき、本発明の実施形態1によるクラッチ装置3について説明する。本実施形態によるクラッチ装置3は、ハイブリッド車両の車輪駆動用の同期モータである電動モータ1とエンジン2との間に配置されている。電動モータ1はこれに限定されるべきものではなく、家庭用電器に設けられるモータあるいは一般的な産業用機械を駆動するモータといった、あらゆる電動モータに適用することが可能である。
尚、説明中において回転軸方向あるいは軸方向という場合、特に断らなければ、電動モータ1およびクラッチ装置3の回転軸Cに沿った方向、すなわち図2における左右方向を意味する。また、図2において、左方を電動モータ1およびクラッチ装置3の前方といい、右方を後方ということがある。
【0023】
図1は、電動モータ1(回転電機に該当する)を使用したハイブリッド車両のパワートレーンの概略を示している。図1において、太線は車両の機械的な連結を示し、細線は装置間をつなぐ油圧配管を示す。また、一点鎖線は電力の供給線を示し、破線による矢印は制御用の信号線を示している。
また、図1において、切換弁16、油圧ポンプ17およびリザーバ部18は電動モータ1と別体に記載されているが、実際には、切換弁16および油圧ポンプ17はクラッチ装置3とともに電動モータ1と一体化され、リザーバ部18は、モータハウジング11内に形成されている。これにより、電動モータ1、クラッチ装置3、切換弁16および油圧ポンプ17によって、フロントモジュールMDを形成している。
【0024】
図1に示したように、車両のエンジン2(駆動源に該当する)と電動モータ1のロータ13(後述する)とは、湿式多板クラッチであるクラッチ装置3を介して直列に接続されている。また、ハイブリッド車両駆動用の電動モータ1には、車両のトランスミッション4が直列に接続されており、トランスミッション4には、デファレンシャル装置5を介して、車両の右駆動輪6Rおよび左駆動輪6Lが接続されている。以下、右駆動輪6Rおよび左駆動輪6Lを包括して駆動輪6R、6Lという。
【0025】
エンジン2は、炭化水素系の燃料により出力を発生させる通常の内燃機関である。電動モータ1は、これに限定されるものではないが、車輪駆動用の同期モータであり、トランスミッション4は通常の自動変速機である。また、クラッチ装置3は、普段はエンジン2と電動モータ1との間を接続しているノーマリクローズタイプのクラッチ装置であり、エンジン2と電動モータ1との間のトルク伝達を断続している。
【0026】
切換弁16は、後述するクラッチ装置3の圧力室PCと油圧ポンプ17との間に設けられている。図1に示すように、切換弁16は3ポートを有する2ポジションの電磁弁であり、その一つのポートは、後述するオイル通路111aによってクラッチ装置3の圧力室PCに接続されている。また、他の一つのポートには、油圧ポンプ17(液圧源に該当する)の吐出口が接続され、残る一つのポートには、電動モータ1内のリザーバ部18が接続されている。油圧ポンプ17の吸込口は、常に、リザーバ部18と接続されている。
【0027】
切換弁16が、図1に示した作動位置P1にある場合、油圧ポンプ17の吐出口が圧力室PCに接続されており、リザーバ部18がオリフィスを介して油圧ポンプ17の吐出口および圧力室PCに接続されている。この時、油圧ポンプ17がリザーバ部18内のオイルを吸引して、切換弁16を介して圧力室PCへと吐出し、クラッチ装置3の接続を解除状態とする。この状態においては、圧力室PCとリザーバ部18との連通と、油圧ポンプ17からリザーバ部18へのオイルの供給とがオリフィスによって制限されるため、圧力室PC内には十分な液圧が発生する。
【0028】
また、切換弁16が非作動位置P2にある場合、油圧ポンプ17の吐出口と圧力室PCとがリザーバ部18と接続され、圧力室PC内のオイル(液圧)がリザーバ部18へと戻されてクラッチ装置3が接続される。切換弁16が非作動位置P2にある場合、油圧ポンプ17は停止されている。
【0029】
電動モータ1のステータ14(後述する)は、インバータ71を介して車両バッテリ72と接続されている。車両バッテリ72の電力は、インバータ71によって3相交流に変換された後、ステータ14に供給されることにより電動モータ1のロータ13を駆動する。また、電動モータ1によって発電された電力は、インバータ71を介して車両バッテリ72へと充電される。
【0030】
エンジンECU81は、エンジン2および後述するハイブリッドECU82と接続されており、ハイブリッドECU82からのエンジン出力信号に基づいて、エンジン2の回転数を制御する。
ハイブリッドECU82には、上述した切換弁16および油圧ポンプ17が電気的に接続されており、それぞれの作動を制御している。
【0031】
また、ハイブリッドECU82にはインバータ71が接続されており、図示しないアクセル開度センサ、トランスミッション4のシフトポジションスイッチ、車速センサ等による検出信号に基づいて、インバータ71に対して駆動信号を送信して電動モータ1の駆動トルクを制御する。また、上述したように、ハイブリッドECU82はエンジンECU81に対してエンジン出力信号を送信し、エンジン2の回転数を制御している。さらに、ハイブリッドECU82には車両バッテリ72が電気的に接続されており、車両バッテリ72の充電状態に基づいて、適宜、電動モータ1を発電機として作動させる。
【0032】
図1に示したパワートレーンを用いた車両は、発進時にはクラッチ装置3の接続を解除し、主に電動モータ1によりトランスミッション4を介して駆動輪6R、6Lを回転させる。
また、車両の走行中において加速する必要が生じた場合、クラッチ装置3を接続し、電動モータ1に加えてエンジン2の駆動力により走行する。
車両のブレーキ操作が行われた場合、クラッチ装置3の接続が解除された上で回生制動が行われる。さらに、電動モータ1は、クラッチ装置3を介してエンジン2により駆動され、発電機としても機能する。
【0033】
図2に示すように、モータハウジング11はアルミニウム合金等により一体に形成され、ロータ13およびステータ14を内蔵した状態で、前方をモータカバー12(モータハウジング11とモータカバー12とを包括したものが、ハウジングに該当する)により封止されている。モータカバー12の前方にはエンジン2が取り付けられ、モータハウジング11の後方にはトランスミッション4が配設されている。
また、電動モータ1を構成するロータ13とエンジン2との間には、湿式多板クラッチであるクラッチ装置3が介装されている。クラッチ装置3は、エンジン2、電動モータ1およびトランスミッション4の回転軸でもある回転軸Cを中心に回転する。
【0034】
エンジン2のフライホイールには、ダンパを介してインプットシャフト31(本発明の入力部材に該当する)が連結されている(フライホイールおよびダンパはともに図示せず)。インプットシャフト31の外周面には、クラッチ装置3を形成するクラッチインナ311が一体に形成されており、クラッチインナ311に対しエンジン2の駆動力が入力可能に形成されている。インプットシャフト31は、ベアリング121を介して、モータカバー12に回転可能に支承されている。
【0035】
クラッチインナ311の外周面には、複数のスプライン溝311aが形成されている。スプライン溝311aには、複数枚の駆動ディスク32(本発明の摩擦部材に該当する)が、回転軸方向に重ねられた状態で支承されている。各々の駆動ディスク32は略リング状に形成され、その内周端には、円周上に複数の突部32aが設けられており、これらの突部32aが、スプライン溝311aに対して係合している。これにより、各々の駆動ディスク32は、クラッチインナ311に対し回転軸C方向に移動可能で、かつ、クラッチインナ311とともに回転可能に形成されている。駆動ディスク32の表裏面には、摩擦材(図示せず)が形成されている。
【0036】
一方、モータハウジング11の内周部には、電動モータ1のステータ14が、スクリュー144により取り付けられている。ステータ14の複数のコア141には、それぞれ回転磁界発生用のコイル142が巻回されている。コイル142は、バスリング143を介してインバータ71と接続されている。
また、ステータ14の半径方向内方には、電動モータ1のロータ13が配置されている。ロータ13は、ステータ14と所定のギャップを保持しながら対向するように設けられている。ロータ13は、複数の積層鋼板131が一対の保持プレート132a、132bにより挟まれた状態で、固定部材133を貫通させて端部をかしめることにより形成されている。また、ロータ13の円周上には、複数の界磁極用マグネット134が設けられている。
【0037】
上述した構成を備えた電動モータ1において、車両バッテリ72からインバータ71を介して、コイル142に対し例えば三相の交流電流が供給される。これにより、ステータ14において回転磁界が発生し、回転磁界に起因する吸引力または反発力によって、ステータ14に対しロータ13が回転される。
【0038】
ロータ13の一側の保持プレート132aの内端には、保持ボルト135により、クラッチアウタ33の軸方向の一端部が取り付けられている。クラッチアウタ33は、回転軸Cを中心に、クラッチインナ311に対し相対回転可能に形成されている。クラッチアウタ33には円筒部331が形成され、円筒部331の軸方向端部には、受圧プレート332が固定されている。受圧プレート332は、上述した駆動ディスク32のうち、軸方向の最端位置にあるものと対向している。
【0039】
また、円筒部331の内周面側には、略リング状に形成された複数の従動プレート34が配置されている。円筒部331の内周面には、円周上に複数のスプライン溝331aが形成されている。一方、従動プレート34の外周部には複数の突部34aが設けられ、各々の突部34aがスプライン溝331aに係合している。これにより従動プレート34は、クラッチアウタ33に対して回転軸C方向に移動可能で、かつ、クラッチアウタ33とともに回転可能に形成されている。各々の従動プレート34は、それぞれ上述した複数の駆動ディスク32の間に、交互に介装されている。
【0040】
クラッチアウタ33は半径方向内方に延びており、内端においてトランスミッション4に含まれるトルクコンバータ(図示せず)のタービンシャフト41とスプライン嵌合している。タービンシャフト41の軸方向端部には、ポンプインペラーに連結された連結メンバ42が一体回転可能なように取り付けられている。これにより、クラッチアウタ33の駆動力が、トランスミッション4のトルクコンバータに入力可能に形成されている。クラッチアウタ33の内端部は、軸受38を介して、モータハウジング11の固定壁111に回転可能に支承されている。
【0041】
また、クラッチアウタ33には回転位置センサ15の可動体151が形成されており、可動体151と対向するように固定壁111に設けられた検出体152により、クラッチアウタ33が取り付けられたロータ13の回転位置が検出されている。
クラッチアウタ33には、コの字状に屈曲した収容部333が形成されている。収容部333中には、プランジャ部材35(本発明の押圧部材に該当する)が回転軸方向に移動可能に収容されている。プランジャ部材35は略円環状に形成され、内周端において収容部333に対して液密的に嵌合している。
【0042】
また、プランジャ部材35の外周端には、軸方向に延びた当接部351が形成され、当接部351の内周面および収容部333に対し、固定部材36が液密的に嵌合している。固定部材36は、図2における左方には移動不能に形成されている。これにより、収容部333、プランジャ部材35および固定部材36とによって、圧力室PCが区画形成されている。固定部材36には、圧力室PC内に発生する遠心油圧を低減するチェック弁361が設けられている。チェック弁361は、圧力室PCと外部とを連通する貫通孔を有する弁座体361aと、弁座体361aと係合可能なボール361bとにより形成されている。
【0043】
また、収容部333およびプランジャ部材35とによって、オイルを収容可能なキャンセル室KC(本発明の解除室に該当する)が区画形成されている。キャンセル室KCは、プランジャ部材35に対して回転軸C方向における圧力室PCの反対側に形成されている。キャンセル室KC内には、ピストンスプリング37が収容されている。
また、プランジャ部材35の外周部には、キャンセル室KCとリザーバ部18とを連通するために回転軸C方向に延びたブリードオリフィス352(本発明の絞り管路に該当する)が形成されている。ブリードオリフィス352によって、キャンセル室KCから制限されたオイルの排出が行われる。尚、クラッチアウタ33、従動プレート34および固定部材36を包括した構成が、本発明の出力部材に該当する。
【0044】
図2に示すように、収容部333とプランジャ部材35との間には、ピストンスプリング37(本発明の弾性部材に該当する)が介装されている。ピストンスプリング37は、プランジャ部材35において圧力室PCが形成された側と回転軸方向の反対側に当接し、プランジャ部材35を固定部材36に向けて(図2において左方に)付勢している。ピストンスプリング37により付勢されたプランジャ部材35の当接部351は、駆動ディスク32および従動プレート34を受圧プレート332に向けて押圧する。
【0045】
固定壁111には、半径方向内方へと延びたオイル通路111aが形成されている。オイル通路111aは途中において斜めへと延び、先端においてスプール弁39を形成するために軸方向に延びるシリンダ部111bに接続されている。オイル通路111aの端部には止栓部材112aが嵌着され、オイル通路111aを外部に対して封止している。スプール弁39の構成については、後述する。
【0046】
シリンダ部111bには、半径方向外方へと延びる吐出孔111cが接続されており、固定壁111には、吐出孔111cと連通するように第1外周スリット111dが全周上に形成されている。また、シリンダ部111bには、吐出孔111cと同様に半径方向外方へと延びる排出孔111eが接続されており、固定壁111には、排出孔111eと連通するように第2外周スリット111fが全周上に形成されている。排出孔111eおよび第2外周スリット111fは、吐出孔111cおよび第1外周スリット111dに対して、シリンダ部111bの軸方向後方(図2において右方)に形成されている。
【0047】
さらに、クラッチアウタ33には、第1外周スリット111dと、上述した圧力室PCとを連通させるように第1貫通孔334が形成されている。これにより、油圧ポンプ17からオイル通路111aに供給された液圧は、スプール弁39、吐出孔111c、第1外周スリット111dおよび第1貫通孔334を介して、圧力室PCに導入される。尚、吐出孔111c、第1外周スリット111dおよび第1貫通孔334を包括したものが、本発明の吐出通路に該当する。
【0048】
また、クラッチアウタ33には、第2外周スリット111fと、上述したキャンセル室KCとを連通させるように第2貫通孔335が形成されている。これにより、キャンセル室KCは、第2貫通孔335、第2外周スリット111f、排出孔111e、スプール弁39を介して、オイル通路111aに接続される。尚、排出孔111e、第2外周スリット111fおよび第2貫通孔335を包括したものが、本発明の排出通路に該当する。
図2に示すように、モータハウジング11の上端部にはオイル供給孔111gが貫通しており、オイル供給孔111gからリザーバ部18内にオイルが注入される。オイル供給孔111gには、封止プラグ113が螺着され、モータハウジング11内を外部と遮断している。
【0049】
前述したスプール弁39(本発明の作動弁に該当する)は、切換弁16と圧力室PCおよびキャンセル室KCとの間に形成されている。図3に示すように、スプール弁39を形成するシリンダ部111bは、一端が閉じられた袋状に形成されている。シリンダ部111bは先端のスモールボア111b1と入口側のラージボア111b2とにより形成され、小径のスモールボア111b1と大径のラージボア111b2との接続部には、段付部111b3が形成されている。ラージボア111b2には、前述したオイル通路111aが連通している。シリンダ部111bの開口端部には止栓部材112bが嵌着され、シリンダ部111bを外部に対して封止している。
【0050】
シリンダ部111b内には、弁体391(本発明の弁部材に該当する)が軸方向に移動可能に収容されている。弁体391は段付形状をしており、小径部391aの外周面はスモールボア111b1に液密的に嵌合し、大径部391bの外周面はラージボア111b2に液密的に嵌合している。
【0051】
弁体391の内部には、オイル供給路391c(本発明の液圧供給路に該当する)が形成されている。オイル供給路391cは、大径部391bの軸方向の一端部に開口するとともに、内部を軸方向に通る横孔391c1と、小径部391a中において、横孔391c1に対して垂直方向に交差する縦孔391c2と、小径部391aの外周面に形成され、縦孔391c2に連通した円周溝391c3とにより形成されている。円周溝391c3は、小径部391aの全周に形成されており、小径部391aの軸方向の所定距離に渡って延びている。円周溝391c3は、シリンダ部111bの内周面に開口し、これにより、オイル供給路391cは、ラージボア111b2とスモールボア111b1の内周面とを連通している。
【0052】
第1付勢スプリング392(本発明の付勢手段に該当する)は、弁体391の前端とシリンダ部111bの底部との間に圧縮された状態で介装され、弁体391をラージボア111b2側(オイル供給路391cの開口部分)に向けて付勢している。一方、第2付勢スプリング393は、弁体391の後端と止栓部材112bとの間に圧縮された状態で介装され、弁体391をスモールボア111b1側に向けて付勢している。
【0053】
切換弁16が非作動位置P2にあり、油圧ポンプ17が作動していない状態においては、オイル通路111aからラージボア111b2に対して液圧が供給されていないため、弁体391は双方の付勢スプリング392、393から付勢力を受けてバランスし、図3に示したように、円周溝391c3が、吐出孔111cおよび排出孔111eの双方に連通した位置に保持される。
【0054】
したがって、圧力室PCは、第1貫通孔334、第1外周スリット111d、吐出孔111c、円周溝391c3、縦孔391c2、横孔391c1、ラージボア111b2およびオイル通路111aを介してリザーバ部18に接続される。
また、キャンセル室KCは、第2貫通孔335、第2外周スリット111f、排出孔111e、円周溝391c3、縦孔391c2、横孔391c1、ラージボア111b2およびオイル通路111aを介してリザーバ部18に接続される。
また、圧力室PCとキャンセル室KCは、第1貫通孔334、第1外周スリット111d、吐出孔111c、円周溝391c3、排出孔111e、第2外周スリット111fおよび第2貫通孔335を介して互いに連通されている。
【0055】
したがって、この場合には、圧力室PCとキャンセル室KCに液圧が発生せず、プランジャ部材35が、ピストンスプリング37によって固定部材36に向けて付勢されている。これにより、複数の駆動ディスク32と従動プレート34は、受圧プレート332とプランジャ部材35の当接部351との間で、互いに圧着されてトルク伝達が可能となる。したがって、クラッチ装置3が接続状態となり、駆動ディスク32と従動プレート34は一体に回転し、クラッチインナ311からクラッチアウタ33に対し、駆動力が伝達される。
【0056】
一方、この状態において、切換弁16が作動位置P1に切り換わり、油圧ポンプ17の作動が開始すると、オイル通路111aからラージボア111b2に対して液圧が供給されるため、大径部391bの断面積分の液圧を受けた弁体391は、第1付勢スプリング392を圧縮しながら前方(図3において左方)に移動する。これにより、円周溝391c3と排出孔111eとの連通が断たれ、円周溝391c3は吐出孔111cのみと連通する(図4示)。
【0057】
したがって、圧力室PCとキャンセル室KCとの接続が解除されるとともに、圧力室PCのみが、第1貫通孔334、第1外周スリット111d、吐出孔111c、円周溝391c3、縦孔391c2、横孔391c1、ラージボア111b2およびオイル通路111aを介して油圧ポンプ17の吐出口に接続される。
【0058】
このため、油圧ポンプ17からの液圧が圧力室PCに供給されることにより、ピストンスプリング37を撓ませてプランジャ部材35が図2において右方に移動し、当接部351による駆動ディスク32と従動プレート34との圧着状態が解除される。したがって、クラッチ装置3が非接続状態となり、クラッチインナ311からクラッチアウタ33への駆動力の伝達が遮断される。尚、この状態において、圧力室PCに供給された液圧により、ボール361bが弁座体361aに当接するため、チェック弁361は閉弁している。
【0059】
クラッチ装置3の非接続状態において、再び、切換弁16が非作動位置P2に切り換わり、油圧ポンプ17の作動が停止すると、ラージボア111b2への液圧の供給が停止するため、弁体391が第1付勢スプリング392からの付勢力を受け、図4において右方へと移動する。このため、圧力室PCおよびキャンセル室KCがリザーバ部18に接続されるとともに、圧力室PCとキャンセル室KCとが連通する。
【0060】
したがって、圧力室PC内のオイルが、第1貫通孔334、第1外周スリット111d、吐出孔111c、円周溝391c3、縦孔391c2、横孔391c1、ラージボア111b2およびオイル通路111aを介してリザーバ部18に排出されるとともに、第1貫通孔334、第1外周スリット111d、吐出孔111c、円周溝391c3、排出孔111e、第2外周スリット111fおよび第2貫通孔335を介してキャンセル室KCにオイルが供給される。
【0061】
これにより、圧力室PCからリザーバ部18へのオイルの排出により圧力室PC内の液圧が低下するため、ピストンスプリング37の付勢力により、プランジャ部材35が図2において左方に移動する。また、それと同時に、供給されたオイルによってキャンセル室KCに遠心油圧(キャンセル室KCが回転することにより、キャンセル室KCにあるオイルによって発生する液圧)が発生する。このため、プランジャ部材35の図2における左方への移動を早め、クラッチ装置3が迅速に接続状態となることができる。
【0062】
また、この状態においては、圧力室PC内の液圧の低下により、ボール361bが弁座体361aから離れるため、チェック弁361が開弁して圧力室PC内のオイルを排出する。チェック弁361から排出されたオイルは、潤滑油あるいは冷却油として、クラッチ装置3の駆動ディスク32と従動プレート34との係合部に供給され、最終的には、リザーバ部18において回収される。
【0063】
キャンセル室KCに供給されたオイルは、遠心力によってプランジャ部材35の外周部に形成されたブリードオリフィス352を介して排出される。キャンセル室KCから時間当たりに排出されるオイルの量は、ブリードオリフィス352によって制限される。キャンセル室KCから排出されたオイルは、潤滑油あるいは冷却油として、クラッチ装置3の駆動ディスク32と従動プレート34との係合部に供給され、最終的には、リザーバ部18において回収される。
【0064】
また、油圧ポンプ17により吐出されたオイルは、圧力室PC内に導入されるばかりではなく、潤滑油あるいは冷却油として軸受38等にも供給される。また、リザーバ部18内のオイルは、ロータ13によってかき上げられ、潤滑油あるいは冷却油としてモータハウジング11内の各部材に供給される。
【0065】
本実施形態によれば、切換弁16と圧力室PCおよびキャンセル室KCとの間にスプール弁39が設けられ、スプール弁39は、切換弁16が圧力室PC内の液圧をリザーバ部18に排出することを可能にする非作動位置P2にある場合、圧力室PCとキャンセル室KCとを連通させることにより、圧力室PC内の液圧をリザーバ部18に排出すると同時にキャンセル室KCへと導くことができる。
【0066】
これにより、仮に、圧力室PC内にオイルが残留していたとしても、キャンセル室KC内に発生する遠心油圧によって、プランジャ部材35を圧力室PC方向へと付勢することができ、クラッチ装置3の接続作動の応答性を向上させることができる。したがって、クラッチ装置3の作動時間を短縮することができる。
また、キャンセル室KCには圧力室PC内の液圧を導くのみであるため、油圧ポンプ17を大型化する必要がなく、リザーバ部18内に大量のオイルを貯蔵する必要もない。したがって、装置全体を小型化でき、コストの増大を抑制することができる。
【0067】
また、スプール弁39はモータハウジング11内に設けられ、圧力室PCおよびキャンセル室KCの近くに形成されているため、圧力室PCのオイルを即座にキャンセル室KCに導くことができ、より作動応答性のよいクラッチ装置3にすることができる。
また、プランジャ部材35の外周部に形成されたブリードオリフィス352によって、キャンセル室KCからリザーバ部18に対し制限されたオイルの排出が行われることにより、油圧ポンプ17から圧力室PCへの液圧の解除後、所定の時間だけキャンセル室KCに遠心油圧を発生させることができるとともに、その後、キャンセル室KC内の液圧を確実に解消することができる。
【0068】
また、ブリードオリフィス352を介してキャンセル室KCから排出された油は、駆動ディスク32と従動プレート34との係合部に供給されることにより、オイルが駆動ディスク32と従動プレート34との係合部の冷却油および潤滑油として機能するため、駆動ディスク32および従動プレート34の摩耗および焼き付きを防止することができる。
【0069】
また、スプール弁39は、切換弁16が非作動位置P2にある場合、弁体391が第1付勢スプリング392によって付勢され、オイル供給路391cが、弁体391の外周面において吐出孔111cおよび排出孔111eの双方に接続される位置に移動されることにより、圧力室PCがオイル供給路391cを介してリザーバ部18に接続されるとともに、圧力室PCとキャンセル室KCとがオイル供給路391cを介して互いに連通する。
【0070】
これにより、圧力室PC内の液圧をリザーバ部18に排出すると同時に、キャンセル室KCへと導くことができ、キャンセル室KC内に確実に遠心油圧を発生させることができる。また、スプール弁39は油圧ポンプ17から吐出された液圧により作動するため、特別な駆動力を必要とせず、その構成を簡単にすることができる。
また、インプットシャフト31にはエンジン2の駆動力が入力され、クラッチアウタ33は電動モータ1のロータ13に連結されていることにより、エンジン2とロータ13との間の接続作動の応答性を向上させることができる。
【0071】
<実施形態2>
図5および図6に基づき、本発明の実施形態2によるスプール弁39Aについて説明する。尚、図5および図6において、実施形態1と同様の構成については、同じ符号を付している。
本実施形態によるスプール弁39Aにおいては、弁体391が電磁アクチュエータ394(本発明の電動アクチュエータに該当する)によって軸方向に移動させられる。それにともない、第1付勢スプリング392および第2付勢スプリング393は使用していない。
【0072】
電磁アクチュエータ394は、図示しないソレノイドを含んだアクチュエータ本体部394aと、アクチュエータ本体部394aによって、軸方向に移動可能なロッド394bとにより形成されている。アクチュエータ本体部394aは、固定壁111のステップ部111hと前述した止栓部材112bとの間で保持される。ロッド394bは、アクチュエータ本体部394aの作動により、収容位置(図5示)と突出位置(図6示)とに選択的に移動させられ保持される。
【0073】
ロッド394bの先端部は、弁体391のオイル供給路391cが開口した側の端部(図5における右端)に固着されている。また、ロッド394bには、ラージボア111b2とオイル供給路391cとを接続する接続通路394b1が形成されている。
アクチュエータ本体部394aは、前述したハイブリッドECU82と電気的に接続されている。ハイブリッドECU82は、切換弁16が非作動位置P2にある場合、ロッド394bが収容位置となるようにアクチュエータ本体部394aを制御し、実施形態1の場合と同様に、円周溝391c3によって圧力室PCとキャンセル室KCとを連通させている(図5示)。
【0074】
また、ハイブリッドECU82は、切換弁16が作動位置P1にある場合、ロッド394bが突出位置となるようにアクチュエータ本体部394aを制御し、実施形態1の場合と同様に、円周溝391c3と排出孔111eとの連通を断ち、円周溝391c3を吐出孔111cのみと連通させる(図6示)。
その他の構成については、実施形態1の場合と同様であるため説明は省略する。
【0075】
本実施形態によれば、スプール弁39Aの弁体391は電磁アクチュエータ394によって作動するため、シリンダ部111b内において確実に移動させることができる。したがって、切換弁16が非作動位置P2にある場合、圧力室PC内の液圧をリザーバ部18に排出すると同時に、確実にキャンセル室KCへと導くことができ、切換弁16が作動位置P1にある場合、キャンセル室KCとオイル供給路391cとの接続を断つとともに、油圧ポンプ17から吐出された液圧を確実に圧力室PCに供給することができる。
【0076】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
実施形態1によるスプール弁39において、第2付勢スプリング393を使用せず、第1付勢スプリング392のみによって弁体391を付勢し、オイル通路111aに液圧が供給されていない場合、弁体391の後端部をモータハウジング11の固定壁111に当接させるようにしてもよい。
【0077】
実施形態2によるスプール弁39Aにおいて、弁体391を作動させる電磁アクチュエータ394の代わりに、電動モータの回転力を直進移動に変換するアクチュエータ等を使用してもよい。
油圧ポンプ17により吐出されるオイルは、クラッチ装置3を断続させるための作動油としてのみ機能させてもよい。
また、クラッチ装置3は、単板式のクラッチ装置であってもよい。
【0078】
また、クラッチ装置3は、ノーマリオープンタイプのクラッチ装置であってもよい。すなわち、ピストンスプリング37の付勢力によって、プランジャ部材35を駆動ディスク32から離れる方向に付勢し、切換弁16が作動位置P1にある状態において、圧力室PCに油圧ポンプ17から吐出された液圧が供給されることにより、ピストンスプリング37の付勢力に抗してプランジャ部材35を付勢し、付勢力を受けたプランジャ部材35によって駆動ディスク32が押圧され、クラッチインナ311とクラッチアウタ33との間において駆動力が伝達されるようにし、切換弁16が非作動位置P2にある状態において、ピストンスプリング37によりプランジャ部材35が駆動ディスク32から離れる方向に付勢され、クラッチインナ311とクラッチアウタ33との間の駆動力の伝達を遮断するようにしてもよい。
【0079】
また、本発明による電動モータ1は、同期モータ、誘導モータ、直流モータあるいはそれ以外のあらゆる回転電機に適用可能である。
また、本発明による電動モータ1は、電動機としてのみ使用してもよいし、発電機としてのみ使用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
図面中、1は電動モータ(回転電機)、2はエンジン(駆動源)、3はクラッチ装置、11はモータハウジング(ハウジング)、12はモータカバー(ハウジング)、13はロータ、14はステータ、17は油圧ポンプ(液圧源)、31はインプットシャフト(入力部材)、32は駆動ディスク(摩擦部材)、33はクラッチアウタ(出力部材)、34は従動プレート(出力部材)、35はプランジャ部材(押圧部材)、36は固定部材(出力部材)、37はピストンスプリング(弾性部材)、39,39Aはスプール弁(作動弁)、111bはシリンダ部、111cは吐出孔(吐出通路)、111dは第1外周スリット(吐出通路)、111eは排出孔(排出通路)、111fは第2外周スリット(排出通路)、334は第1貫通孔(吐出通路)、335は第2貫通孔(排出通路)、352はブリードオリフィス(絞り管路)、391は弁体(弁部材)、391cはオイル供給路(液圧供給路)、392は第1付勢スプリング(付勢手段)、394は電磁アクチュエータ(電動アクチュエータ)、KCはキャンセル室(解除室)、PCは圧力室を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転可能に取り付けられ、外部の駆動源により回転される入力部材と、
前記ハウジングに取り付けられ、前記入力部材に対して相対回転可能な出力部材と、
前記入力部材の回転軸方向に移動可能で、前記入力部材および前記出力部材のうちの一方とともに回転可能な摩擦部材と、
前記入力部材および前記出力部材のうちのいずれかに対し前記回転軸方向に移動可能に取り付けられ、前記摩擦部材を、前記入力部材および前記出力部材のうちの他方に向けて押圧する押圧部材と、
前記入力部材および前記出力部材のうちのいずれかに取り付けられ、前記押圧部材を前記回転軸方向に付勢する弾性部材と、
前記押圧部材と、前記入力部材および前記出力部材のうちのいずれかとの間に区画形成された圧力室と、
を備え、
前記圧力室内の液圧が排出された状態において、前記弾性部材からの付勢力を受けた前記押圧部材によって前記摩擦部材が押圧され、前記入力部材および前記出力部材のうちの他方に対して圧着されることにより、前記入力部材と前記出力部材との間において駆動力が伝達され、
液圧源から前記圧力室に液圧が供給されることにより、前記弾性部材を撓ませて前記押圧部材による前記摩擦部材に対する付勢を解除し、前記入力部材と前記出力部材との間の駆動力の伝達を遮断する、
あるいは、
前記液圧源から前記圧力室に液圧が供給されることにより、前記弾性部材の付勢力に抗して前記押圧部材を付勢し、付勢力を受けた前記押圧部材によって前記摩擦部材が押圧され、前記入力部材および前記出力部材のうちの他方に対して圧着されることにより、前記入力部材と前記出力部材との間において駆動力が伝達され、
前記圧力室内の液圧が排出された状態において、前記弾性部材により前記押圧部材が前記摩擦部材から離れる方向に付勢され、前記入力部材と前記出力部材との間の駆動力の伝達が遮断され、
さらに、
前記押圧部材において前記圧力室が形成された位置とは異なる位置と、前記入力部材および前記出力部材のうちのいずれかとの間に区画形成された解除室と、
前記液圧源と前記圧力室および前記解除室との間に設けられ、前記液圧源から前記圧力室に液圧が供給される場合、前記圧力室と前記解除室との連通を断ち、前記圧力室内の液圧が排出される場合、前記圧力室と前記解除室とを連通させ、前記圧力室から前記解除室への液圧流体の供給を許容する作動弁と、
を備えることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記押圧部材の外周部には、
前記解除室から制限された液圧流体の排出が行われる絞り管路が形成されたことを特徴とする請求項1記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記絞り管路を介して前記解除室から排出された液圧流体は、前記摩擦部材に供給されることを特徴とする請求項2記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記作動弁は、
前記ハウジング内に形成されたシリンダ部と、
前記シリンダ部と前記圧力室とを連通する吐出通路と、
前記シリンダ部と前記解除室とを連通する排出通路と、
前記シリンダ部内に液密的に嵌合する弁部材であって、軸方向の一端部に開口するとともに内部を通って前記シリンダ部の内周面に連通する液圧供給路を有し、前記液圧供給路が開口した側の端部には前記液圧源から吐出された液圧が供給される弁部材と、
前記弁部材を前記液圧供給路の開口部分に向けて付勢する付勢手段と、
を備え、
前記液圧源から前記圧力室に液圧が供給される場合、前記液圧源からの液圧により、前記弁部材が前記付勢手段の付勢力に抗して前記シリンダ部内を軸方向に移動し、前記解除室と前記液圧供給路との接続が断たれるとともに、前記圧力室と前記液圧供給路とが接続される位置に保持され、前記液圧源から吐出された液圧が前記液圧供給路を介して前記圧力室に供給され、
前記圧力室内の液圧が排出される状態において、前記弁部材が前記付勢手段によって付勢され、前記液圧供給路が、前記弁部材の外周面において前記吐出通路および前記排出通路の双方に接続される位置に移動することにより、前記圧力室と前記解除室とが前記液圧供給路を介して互いに連通することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記作動弁は、
前記ハウジング内に形成されたシリンダ部と、
前記シリンダ部と前記圧力室とを連通する吐出通路と、
前記シリンダ部と前記解除室とを連通する排出通路と、
前記シリンダ部内に液密的に嵌合する弁部材であって、軸方向の一端部に開口するとともに内部を通って前記シリンダ部の内周面に連通する液圧供給路を有し、前記液圧供給路が開口した側の端部には前記液圧源から吐出された液圧が供給される弁部材と、
前記弁部材を前記シリンダ部内において軸方向に移動させる電動アクチュエータと、
を備え、
前記液圧源から前記圧力室に液圧が供給される場合、前記電動アクチュエータによって、前記解除室と前記液圧供給路との接続が断たれるとともに、前記圧力室と前記液圧供給路とが接続される位置に前記弁部材が保持され、前記液圧源から吐出された液圧が前記液圧供給路を介して前記圧力室に供給され、
前記圧力室内の液圧が排出される状態において、前記電動アクチュエータによって、前記液圧供給路が前記弁部材の外周面において前記吐出通路および前記排出通路の双方に接続される位置に前記弁部材が移動されることにより、前記圧力室と前記解除室とが前記液圧供給路を介して互いに連通することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記ハウジング内には回転電機が取り付けられ、
前記回転電機は、
前記ハウジングに取り付けられたステータと、
前記ステータと半径方向に対向して設けられ、前記ステータとの間で磁気的な反発力または吸引力が発生することにより、前記ステータに対し回転可能なロータと、
を有しており、
前記入力部材にはエンジンの駆動力が入力され、前記出力部材は前記ロータに連結されていることを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102834(P2012−102834A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253415(P2010−253415)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】