説明

クラッド材の製造方法

【課題】被クラッド材を50%以下の低い加工度で圧延圧接して、接合強度と共に寸法精度が良好なクラッド材を安価に得ることができる、工業的に有利なクラッド材の製造方法を提供すること。
【解決手段】圧延機18に向かって走行する被クラッド材2(2A,2B,2C)に対し、被クラッド材2が通過する入口6および出口7を有すると共に室内におけるガス雰囲気を陽圧とした不活性ガス室5を設け、不活性ガス室5内で、被クラッド材2の接合面を研磨手段により活性化処理すると共に、不活性ガス室5の出口7に、圧延機18に向かって延びるスロート部15を設け、スロート部15内に、被クラッド材2の上下及び幅方向の動きを規制し不活性ガスの流入を妨げないガイド手段を設け、活性化処理されて出口7から導出された被クラッド材2を、出口7から吹き出た不活性ガスにより覆いながら、ガイド手段を備えたスロート部15を通して圧延機18に導き、圧延機18にて複数の被クラッド材2の接合面を密着させて圧延圧接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッド材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材質の異なる複数の金属板材を被クラッド材とし、これら被クラッド材を圧延機により圧延圧接して製造されるクラッド材は、複数の金属板材の組み合わせにより、単一金属板材では容易に得られない種々の特性を発揮できることから、多くの技術分野で広く利用されている。
【0003】
このクラッド材の製造方法においては、低い加工度すなわち小さい圧延荷重で、接合強度が良好なクラッド材を安価に得ることが好ましく、このためには被クラッド材の接合面に対する活性化処理のあり方がきわめて重要である。
【0004】
従来のクラッド材の製造方法としては、ワイヤーブラシ等の研磨手段により被クラッド材の接合面を活性化処理した後、圧延機により被クラッド材を1回当たり50%以上の加工度で圧延圧接する方法が知られている。この方法において、被クラッド材を50%未満の加工度で圧延圧接した場合には、接合強度が良好なクラッド材を得ることが難しい。
【0005】
また、先行技術文献により知られたクラッド材の製造方法としては、(1)イオンミーリング法により被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献1)、(2)10〜1.0×10-2Paの極低圧不活性ガス雰囲気中でスパッタエッチングにより被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献2)、(3)1.33×10-4Pa〜1.33×10-1Pa(1×10-6〜10-3Torr)の真空中でイオンエッチングにより被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献3)が知られている。このほか、(4)弱酸性または非酸化性雰囲気中で、機械的な研磨手段により被クラッド材の接合面を活性化処理すると共に圧延圧接する方法(特許文献4)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−286078号公報
【特許文献2】特開平1−224184号公報
【特許文献3】特許第2519578号公報
【特許文献4】特開昭59−92186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のクラッド材の製造方法によれば、ワイヤーブラシ等の研磨手段により被クラッド材の接合面を活性化処理しても、被クラッド材が酸化し易い材料の場合には、研磨直後に再び酸化が始まり、被クラッド材を圧延機に導いて圧延圧接する段階では、その酸化の進み具合により、所定の接合強度を確保するためには被クラッド材を1回当たり60%程度の加工度で圧延圧接する必要があり、圧延荷重の大きい高価な圧延機を設置する必要がある。また、加工度が大きいため、圧延圧接時において被クラッド材の変形が大きく、接合界面形状が不均一になる虞がある。更に、接合界面形状が不均一になることにより、その後のクラッド材の加工に悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
また、上記(1)の、イオンミーリング法により被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献1)によれば、被クラッド材を60%の加工度で圧延圧接する必要があり、圧延荷重の大きい高価な圧延機を設置する必要があるだけでなく、高価なイオンビームガンを設置する必要があり、設備費が更に高くなる。また、イオンビームの照射径は最大でも20cmと小さく、この方法は、広幅のクラッド材の製造には適していない。
【0009】
上記(2)の、極低圧不活性ガス雰囲気中でスパッタエッチングにより被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献2)、及び、上記(3)の、真空中でイオンエッチングにより被クラッド材の接合面を活性化処理する方法(特許文献3)によれば、いずれも真空チャンバー(真空槽)内でスパッタエッチングもしくはイオンエッチングにより活性化処理するため、量産には適しておらず、特に(3)の場合には、高真空度の真空チャンバーを必要とするため、設備費がより一層高くなる。
【0010】
これに対し、上記(4)の、弱酸性または非酸化性雰囲気中で、被クラッド材の接合面を機械的な研磨手段により活性化処理すると共に圧延圧接する方法(特許文献4)によれば、被クラッド材を50%以下の低い加工度で圧延圧接することができ、高価な圧延機を設置する必要がなく、この点で設備費が安く、量産にも適している。しかし、活性化処理工程と圧延圧接工程の全体を所定の雰囲気に保持するため、大仕掛けのガス雰囲気室を構築する必要があり、これによる製造コスト面での不利益は避けられない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題を解消し、被クラッド材を50%以下の低い加工度で圧延圧接して、接合強度と共に寸法精度が良好なクラッド材を安価に得ることができる、工業的に有利なクラッド材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、圧延機に向かって走行する被クラッド材に対し、前記被クラッド材が通過する入口および出口を有すると共に室内におけるガス雰囲気を陽圧とした不活性ガス室を設け、前記不活性ガス室内で、前記被クラッド材の接合面を研磨手段により活性化処理すると共に、前記不活性ガス室の前記出口に、前記圧延機に向かって延びるスロート部を設け、更に、前記スロート部内に、前記被クラッド材の上下及び幅方向の動きを規制し不活性ガスの流入を妨げないガイド手段を設け、前記研磨手段により活性化処理されて前記出口から導出された前記被クラッド材を、前記出口から吹き出た不活性ガスにより覆いながら、前記ガイド手段を備えた前記スロート部を通して前記圧延機に導き、前記圧延機にて複数の前記被クラッド材の接合面を密着させて圧延圧接することを特徴とするクラッド材の製造方法を提供する。
【0013】
上記において、不活性ガスとしては、酸素濃度100ppm以下の窒素ガスを使用することができる。このような低酸素濃度の窒素ガスの使用は、コスト的にも非常に有利であり好ましい方法である。
【0014】
また、研磨手段としては、ワイヤーブラシ等による研磨手段、砥石等による研削手段、硬質粒子の吹き付けからなるショットブラスト等による表面加工手段などを採用することができる。
【0015】
このクラッド材の製造方法によれば、上記構成を採用することにより、特に、不活性ガス室の出口に、圧延機に向かって延びるスロート部を設けることにより、被クラッド材の活性化処理後の酸化の進行を効果的に抑制することができ、これにより被クラッド材を50%以下の低い加工度で圧延圧接して、接合強度が良好なクラッド材を容易に得ることができる。また、大仕掛けのガス雰囲気室を構築する必要がないため、設備費が安くて済み、これにより接合強度が良好なクラッド材を安価に得ることができる。また、スロート部内に、被クラッド材の上下及び幅方向の動きを規制し不活性ガスの流入を妨げないガイド手段を設けることにより、得られるクラッド材の寸法精度の確保を容易にし、ガイド手段がない場合と比べ、寸法精度の良好なクラッド材を容易に得ることができる。
【0016】
請求項2の発明は、前記スロート部の先端開口部と、前記圧延機の圧延ロールの直下位置との間の距離を、10mm以下に近接させたことを特徴とする請求項1に記載のクラッド材の製造方法を提供する。
【0017】
このクラッド材の製造方法によれば、上記効果に加えて、スロート部の先端開口部と、圧延ロールの直下位置との間の距離を、10mm以下に接近させたことにより、走行する被クラッド材に対する圧延機入口部の不活性ガス雰囲気を確実なものとし、これにより被クラッド材の活性化処理後の酸化の進行を確実に抑制することができる。
【0018】
請求項3の発明は、前記ガイド手段が、不活性ガスの流路となる複数の溝を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクラッド材の製造方法を提供する。
【0019】
このクラッド材の製造方法によれば、上記効果に加えて、複数の溝に限定して不活性ガスを流すことにより、スロート部内の不活性ガスの流速を速め、これにより被クラッド材に対する不活性ガスによるガスシールド効果を効果的に高めることができる。
【0020】
請求項4の発明は、前記不活性ガス室の前記入口及び前記出口において、夫々、走行する複数の被クラッド材を一枚板のように集合して通過させるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2乃至請求項3のいずれかに記載のクラッド材の製造方法を提供する。
【0021】
このクラッド材の製造方法によれば、上記効果に加えて、不活性ガス室の入口及び出口において、走行する複数の被クラッド材を一枚板のように集合して通過させるようにしたことにより、不活性ガス室の入口及び出口における不活性ガスの密閉性、特に大気の流入を効果的に防止し、併せて、不活性ガス室の小型化及び構造の簡単化を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のクラッド材の製造方法によれば、被クラッド材の活性化処理後の酸化の進行を効果的に抑制することができ、これにより被クラッド材を50%以下の低い加工度で圧延圧接して、接合強度と共に寸法精度が良好なクラッド材を容易に得ることができる。また、大仕掛けのガス雰囲気室を構築する必要がないため、設備費が安くて済み、これにより接合強度と共に寸法精度が良好なクラッド材を安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1は、クラッド材の製造方法の概要を示す説明図であり、図2は、その一部を拡大して示す説明図である。
【0025】
図1において、送り出しリール1A、1B、1Cから送り出された3枚の異種金属板からなる被クラッド材2A、2B、2Cを、まず、夫々脱脂洗浄を目的とした洗浄槽3に導き、夫々の表面を洗浄する。次に、前記により洗浄処理された被クラッド材2A、2B、2Cを、第一集合ローラ4により一枚板のように集合して不活性ガス室5に導入する。
【0026】
不活性ガス室5は、被クラッド材2A、2B、2Cが通過する入口6及び出口7を有し、その室内における不活性ガス8のガス雰囲気を常時陽圧に保持している。この不活性ガス室5内で、分離ローラ9により押し広げられた被クラッド材2A、2B、2Cの接合面を、夫々複数のステンレス鋼製ワイヤーブラシ10により機械的に研磨し、活性化処理する。この場合、ステンレス鋼製ワイヤーブラシ10に替えて、他の材質のワイヤーブラシ、他の研磨具を使用しても良い。不活性ガス室5内の雰囲気ガスである不活性ガス8は、室外の不活性ガス供給手段11からポンプ12を用いて供給する。不活性ガス8としては、酸素濃度100ppm以下の窒素ガスを用いる。不活性ガス室5に供給される不活性ガス8の流量は、200L/minであり、不活性ガス室5内のガス雰囲気を陽圧に保持できればよく、その流量に特に制限はない。不活性ガス室5内のガス雰囲気を陽圧に保持することにより、被クラッド材2A、2B、2Cが通過する入口6及び出口7では、不活性ガス8が室外に向かって吹き出ており、これにより室外からの大気の流入を防止している。なお、不活性ガス8の酸素濃度は、50ppm以下であればなお好ましく、活性化処理された被クラッド材2A、2B、2Cの接合面の酸化の進行をより確実に抑制することができる。
【0027】
第一集合ローラ4及び分離ローラ9は、不活性ガス室5の入口6に設けられ、不活性ガス室5の出口7には、第二集合ローラ13及びガイドローラ14が設けられる。不活性ガス室5内において夫々接合面を活性化処理された3枚の被クラッド材2A、2B、2Cは、第二集合ローラ13により再び一枚板のように集合される。また、不活性ガス室5の出口7には、前記により集合された被クラッド材2A、2B、2Cが通る狭い通路のスロート部15が、圧延機16に向かって延びるように設けられる。このスロート部15内を通過する被クラッド材2A、2B、2Cは、不活性ガス室5の出口7から吹き出た不活性ガス8により覆われた状態で圧延機16に導入される。また、スロート部15内を通過する被クラッド材2A、2B、2Cは、図3に示すように、スロート部15内に設けられた、被クラッド材2A、2B、2Cの上下及び幅方向の動きを規制し、不活性ガス8の流入を妨げない複数の溝16を有するガイド手段17により案内されて、圧延機18に導入される。複数の溝16は、夫々不活性ガス8の流路を形成するものである。
【0028】
この辺りの様子を拡大して見たのが図2であり、スロート部15内を通る被クラッド材2A、2B、2Cは、スロート部15内を流れる不活性ガス8と共にガイド手段17により案内されて、圧延機18に導入される。スロート部15の先端開口部19と、圧延機18の圧延ロール20直下位置との間の距離は、10mm以下に近接されており、また、前記先端開口部19からは不活性ガス8が吹き出ており、被クラッド材2A、2B、2Cに対する不活性ガス8よるシールド効果を確実なものにしている。なお、図中矢印は、夫々不活性ガス8の流れる方向を示している。
【0029】
圧延機18に導入された3枚の被クラッド材2A、2B、2Cは、夫々の接合面を密着させて圧延ロール20により圧延圧接され、一枚のクラッド材21として圧延機18から導出される。この後、クラッド材21は、巻き取り機22により巻き取られる。なお、圧延機18における圧延圧接の動作は冷間で行われる。つまり、冷間で圧延圧接した方が、熱間で圧延圧接した場合よりも、酸化の進行を抑制することができ、接合の面で品質の良いクラッド材を有利に得ることができる。また、不活性ガス室5やスロート部15先端開口部19から吹き出た不活性ガス8は、適宜回収し、再使用してもよい。
【0030】
本実施の形態のよれば、圧延機18に向かって走行する被クラッド材2A、2B、2Cを、不活性ガス室5の出口7から吹き出た不活性ガス8により覆いながら、ガイド手段17を備えたスロート部15を通して圧延機18に導くようにしたことにより、不活性ガス室5内で活性化処理された被クラッド材2A、2B、2Cの、圧延機18に至る過程の不活性ガス雰囲気を確実なものとし、大気との接触を阻止し、被クラッド材2A、2B、2Cの活性化処理後の酸化の進行を確実に抑制することができる。この結果、圧延機18にて被クラッド材2A、2B、2Cの接合面を密着させて、被クラッド材2A、2B、2Cを30%以下もしくは10%以下の低い加工度で冷間圧接しても、接合強度と共に寸法精度が良好なクラッド材21を容易に得ることができる。圧延荷重の大きい高価な圧延機を必要としないことは勿論である。また、加工度が小さいため、圧延圧接時において被クラッド材の変形が小さく、接合界面形状が不均一になる虞もない。したがって、その後のクラッド材の加工に悪影響を及ぼす虞もない。
【0031】
また、本実施の形態によれば、ガイド手段17に、不活性ガス8の流路となる複数の溝16を形成し、これらの溝に限定して不活性ガス8を流すことにより、スロート部15内の不活性ガス8の流速を速め、これにより被クラッド材2A、2B、2Cに対する不活性ガス8によるガスシールド効果を効果的に高めることができる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、不活性ガス室5の入口6及び出口7において、走行する複数の被クラッド材2A、2B、2Cを一枚板のように集合して一箇所から通過させるようにしたことにより、構造上、不活性ガス室5の入口6及び出口7における不活性ガスの密閉性を高め、特に大気の流入を効果的に防止できるだけでなく、不活性ガス室5の構造を大型化させずに済み、不活性ガス室の小型化及び構造の簡単化が実現可能になる。特許文献2、3にように、量産に不向きで、高価な真空チャンバー(真空槽)を必要としないことは言うまでもない。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのCu板と、厚さ0.1mmのSUS(ステンレス)板を準備し、図1に示すクラッド材の製造方法に従って、Cu/SUSクラッド材を製造した。ここで、不活性ガスとしては、酸素濃度3ppmの窒素ガスを用いた。また、スロート部の先端開口部と、圧延機の圧延ロール直下位置との間の距離は、10mmとした。この状態で、圧延機にて被クラッド材を10%の加工度(圧化率)で圧延圧接した。
【0034】
(実施例2)
酸素濃度30ppmの窒素ガスを用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0035】
(実施例3)
酸素濃度100ppmの窒素ガスを用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0036】
(実施例4)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのCu板と、厚さ0.1mmのAl板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0037】
(実施例5)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのCu板と、厚さ0.1mmのNi板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0038】
(実施例6)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのSUS板と、厚さ0.1mmのNi板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0039】
(実施例7)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのSUS板と、厚さ0.1mmのTi板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0040】
(実施例8)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのSUS板と、厚さ0.1mmのAl板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0041】
(実施例9)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのAl板と、厚さ0.1mmのTi板を用いる以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0042】
(比較例1)
被クラッド材として、厚さ0.175mmのCu板と、厚さ0.175mmのSUS(ステンレス)板を準備し、これら被クラッド材の接合面を、酸素濃度1000ppm超の大気下でワイヤーブラシにより機械的に研磨し、活性化処理した。その後、前記により活性化処理された被クラッド材を、図1のスロート部を通して圧延機に導き、被クラッド材の接合面を重ね合わせると共に、被クラッド材を60%の加工度(圧化率)で圧延圧接し、Cu/SUSクラッド材を製造した。なお、スロート部の先端開口部と、圧延機の圧延ロール直下位置との間の距離は、10mmとした。
【0043】
(比較例2)
被クラッド材として、厚さ0.1mmのCu板と、厚さ0.1mmのSUS(ステンレス)板を用い、圧延機にて被クラッド材を30%の加工度(圧化率)で圧延圧接した以外は、比較例1と同様にクラッド材を製造した。
【0044】
(比較例3)
スロート部の先端開口部と、圧延機の圧延ロール直下位置との間の距離を、20mmとした以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0045】
(比較例4)
スロート部の先端開口部と、圧延機の圧延ロール直下位置との間の距離を、30mmとした以外は、実施例1と同様にクラッド材を製造した。
【0046】
実施例1〜9及び比較例1〜3の各クラッド材について、図4に示す剥離試験方法により、剥離強度を測定した。この結果を表1に示す。
【0047】
ここで、図4に示す剥離試験方法は、各クラッド材を幅10mmの寸法に切り出し、当該クラッド材を構成する被クラッド材の一端を夫々上下方向に一定の速度で引っ張り、被クラッド材の剥離に要する荷重を剥離強度(N/10mm)として測定するものである。表1中、剥離強度欄の不等号「<」は、数字以上の剥離強度で被クラッド材のどちらかが破断したことを示している。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、実施例1〜9の各クラッド材によれば、いずれも被クラッド材を10%の低い加工度で圧延圧接した場合であっても、被クラッド材を60%の加工度で圧延圧接した従来例に相当する比較例1のクラッド材と比較して、同等の剥離強度を得ることができることが分かる。
【0050】
一方、比較例2のクラッド材の場合には、被クラッド材を30%の加工度で圧延圧接してみたものの、活性化処理工程と活性化処理後圧延機に至る過程の不活性ガス雰囲気が十分でないために、接合が不十分であり、所望の剥離強度を得ることができなかった。また、比較例3のクラッド材の場合には、被クラッド材を10%の加工度で圧延圧接してみたものの、活性化処理工程はともかく、活性化処理後圧延機に至る直前の不活性ガス雰囲気が酸素濃度300ppmと十分でないために、結果として接合が不十分であり、所望の剥離強度を得ることができなかった。また、比較例4のクラッド材の場合には、被クラッド材を30%の加工度で圧延圧接してみたものの、活性化処理工程はともかく、活性化処理後圧延機に至る直前の不活性ガス雰囲気が酸素濃度1000ppmと十分でないために、結果として接合が不十分であり、所望の剥離強度を得ることができなかった。比較例3及び比較例4によれば、スロート部の先端開口部と、圧延機の圧延ロール直下位置との間の距離は、酸素濃度の低い不活性ガス雰囲気を確保する上できわめて重要な要素であり、10mm以下に設定する必要があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係るクラッド材の製造方法の概要を示す説明図である。
【図2】図1の主要部を拡大した説明図である。
【図3】ガイド手段の斜視図である。
【図4】クラッド材の剥離試験方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1A、1B、1C 送り出しリール
2A、2B、2C 被クラッド材
3 洗浄槽
4 第一集合ロール
5 不活性ガス室
6 入口
7 出口
8 不活性ガス
9 分離ローラ
10 ワイヤーブラシ
11 不活性ガス供給手段
12 ポンプ
13 第二集合ローラ
14 ガイドローラ
15 スロート部
16 溝
17 ガイド手段
18 圧延機
19 先端開口部
20 圧延ロール
21 クラッド材
22 巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機に向かって走行する被クラッド材に対し、前記被クラッド材が通過する入口および出口を有すると共に室内におけるガス雰囲気を陽圧とした不活性ガス室を設け、前記不活性ガス室内で、前記被クラッド材の接合面を研磨手段により活性化処理すると共に、前記不活性ガス室の前記出口に、前記圧延機に向かって延びるスロート部を設け、更に、前記スロート部内に、前記被クラッド材の上下及び幅方向の動きを規制し不活性ガスの流入を妨げないガイド手段を設け、前記研磨手段により活性化処理されて前記出口から導出された前記被クラッド材を、前記出口から吹き出た不活性ガスにより覆いながら、前記ガイド手段を備えた前記スロート部を通して前記圧延機に導き、前記圧延機にて複数の前記被クラッド材の接合面を密着させて圧延圧接することを特徴とするクラッド材の製造方法。
【請求項2】
前記スロート部の先端開口部と、前記圧延機の圧延ロールの直下位置との間の距離を、10mm以下に近接させたことを特徴とする請求項1に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項3】
前記ガイド手段が、不活性ガスの流路となる複数の溝を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガス室の前記入口及び前記出口において、夫々、走行する複数の被クラッド材を一枚板のように集合して通過させるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のクラッド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−94685(P2010−94685A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265108(P2008−265108)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】