説明

クリアトナーと画像形成方法

【課題】劣化したベルトでクリアトナー層を形成しても、写像性をもつ平滑な光沢面を形成するクリアトナーとクリアトナーを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】トナー画像及びクリアトナーを担持した画像支持体をベルトに密着させた状態で、前記クリアトナーを加熱後、冷却を行って画像支持体にクリアトナー層を形成する工程を有する画像形成方法であって、前記クリアトナーは、少なくともポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物と、を少なくとも含有する画像形成方法。
一般式(1):R−COO−R
〔式中、R、Rは、各々、炭素数13〜30の炭化水素基であり、各々、置換基を有するものでもよく、同一のものでも、異なるものでもよい。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電子写真方式やインクジェット方式、印刷方式等により形成された画像上に、光沢を付与するために用いられるクリアトナーと呼ばれる無色のトナーを用いてクリアトナー層を形成する工程を有する画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
写真画像やポスター等に代表されるプリント画像は、従来からの銀塩写真方式やグラビヤ印刷等の印刷方式に加え、最近ではインクジェット装置や電子写真方式の画像形成装置でも作製されている。
【0003】
たとえば、複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成技術の分野では、露光系等のデジタル化やトナーの小径化等の技術の進展に伴い、1200dpi(dpi;1インチ(2.54cm)あたりのドット数)レベルの微小ドット画像の再現を可能にしている。
【0004】
また、複数の感光体ドラム上にトナー画像をそれぞれ形成し、形成したトナー画像を中間転写体に一次転写して重ね合わせ、中間転写体に形成したトナー画像を画像支持体に二次転写する方法等により、フルカラー画像形成を可能にする技術も展開されている。この様に、画像形成技術の進展により、写真画像の様な高解像度が要求されるフルカラー画像も銀塩写真や従来の印刷技術に加えて、これらの画像形成技術により作製できる様になった。
【0005】
しかしながら、ポスター等の写真画像では、光沢のある画像が求められることが多いが、たとえば、トナーを用いて写真画像を形成すると、用紙等の画像支持体上に定着されたトナー画像領域はある程度の光沢があるものの白地部はあまり光沢がない仕上がりになることがある。この様なアンバランスな光沢の仕上がりは、プリント物の画像品質を損ねることになるので、その対策が求められていた。
【0006】
この様な背景から、画像上の光沢ムラをなくすための技術として、クリアトナーあるいは透明トナーとも呼ばれる通常の着色トナーより着色剤成分をぬいた構成からなるトナーを用いて画像形成を行う技術が検討される様になった。具体的には、画像が形成された画像支持体全面にクリアトナーを供給し、これを加熱、冷却することで画像全面にクリアトナー層を形成して、画像全面にムラのない均一な光沢度を有するプリント物を作製する技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、光沢を付与する装置を用いて、プリンタ等により形成された画像上に、透明トナー層を形成して光沢を有するプリント物を提供できる様にした技術も登場している(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0007】
この装置は、電子写真方式のプリンタ等に接続させ、プリンタで作製した画像全面にクリアトナー層を形成した後、クリアトナー層の面をベルト部材に密着させた状態で加熱を行ってクリアトナーを溶融させる。そして、クリアトナー層の面をベルト部材に密着させた状態で冷却してクリアトナー層を硬化させ、クリアトナー層が硬化したプリント物はベルト部材より自然に剥離することにより、光沢を有するプリント物が完成する。
【0008】
さらに、カラートナーと透明トナーの粒径差を特定する等の様に、画像形成用のトナーと透明トナーの物性差に着目することにより、ムラのない均一な光沢を得られる様にしたフルカラー画像形成技術もある(例えば、特許文献4参照)。これらの技術により、クリアトナー層を形成した画像面上には、光の作用で像が写るレベルの平滑性を有する光沢面を形成できる様になり、高品質の光沢画像をもつプリント物が市場に提供される様になった。
【0009】
ところで、前記特許文献2や3に開示された技術では、クリアトナーが供給された面をベルト部材で常に密着させておき、この状態で加熱や冷却を行っているので、光沢面形成を繰り返し行っていくとベルト部材が熱の作用で徐々に劣化していく。ベルト部材の劣化が進むとベルト面上に亀裂やキズが発生し、劣化が進んだベルト部材を用いて光沢面を形成すると、ベルト面上の亀裂やキズによる凹凸が画像上の光沢面に転写し、ムラのない均一な光沢面を形成することができなくなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−7174号公報
【特許文献2】特開2002−341619号公報
【特許文献3】特開2004−258537号公報
【特許文献4】特開2007−140037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、画像が形成され、且つ、その上にクリアトナーを担持する画像支持体を、ベルトに密着させた状態でクリアトナー面を加熱後、冷却して、光沢面を形成するのに使用され、いつでも平滑な光沢面を安定して形成するクリアトナーと、それを用いた画像形成方法を提供することを目的とする。具体的には、光沢面形成を繰り返してベルトが劣化し、ベルト面上に亀裂やキズが発生して凹凸が発生しても、光沢面上に凹凸を転写させることのないクリアトナーを提供することを目的とする。
【0012】
即ち、本発明は、劣化したベルトを用いてクリアトナー層を形成したときでも、形成されたクリアトナー層面上で光が反射するレベルの写像性をもつ平滑な光沢面を安定して形成することが可能なクリアトナーとクリアトナーを用いた画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題が以下に記載のいずれかの構成により解消されるものであることを見出した。すなわち、本発明の目的は下記構成を採ることにより達成される。
【0014】
請求項1に記載の発明は、
『画像及びクリアトナーを担持した画像支持体をベルトに密着させた状態で、前記クリアトナーを加熱した後、冷却を行って前記画像支持体にクリアトナー層を形成する工程を有する画像形成方法に使用されるクリアトナーであって、
前記クリアトナーは、
少なくともポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、
下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、
分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物と、を少なくとも含有してなるものであることを特徴とするクリアトナー。
【0015】
一般式(1):R−COO−R
〔式中、R及びRは、各々、炭素数13〜30の炭化水素基であり、各々、置換基を有するものでも、置換基を有さないものでもよく、また、同一のものでも、異なるものでもよい。〕』
というものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
『前記クリアトナーに含有される樹脂は、
水系媒体中にスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体を存在させた状態で、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成した後、
前記スチレン単量体と前記アクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のクリアトナー。』
というものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
『前記樹脂は、重量平均分子量が10,000以上30,000以下の領域と、40,000以上100,000以下の領域にそれぞれピークを有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のクリアトナー。』
というものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
『前記一般式(1)で表されるモノエステル化合物の融点が39℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリアトナー。』
というものである。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
『画像が形成された画像支持体にクリアトナーを担持させる工程と、
クリアトナーを担持させた画像支持体をベルトに密着させ、この状態で、前記クリアトナーを加熱する工程と、
加熱を行った後、前記画像支持体を冷却する工程と、
冷却した前記画像支持体をベルトより剥離する工程により、
前記画像支持体にクリアトナー層を形成する画像形成方法であって、
前記画像形成方法に使用されるクリアトナーが、
少なくともポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、
下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、
分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物と、を少なくとも含有してなるものであることを特徴とする画像形成方法。
【0020】
一般式(1):R−COO−R
〔式中、R及びRは、各々、炭素数13〜30の炭化水素基であり、各々、置換基を有するものでも、置換基を有さないものでもよく、また、同一のものでも、異なるものでもよい。〕』
というものである。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
『前記クリアトナーに含有される樹脂が、
水系媒体中にスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体を存在させた状態で、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成した後、
前記スチレン単量体と前記アクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成してなるものであることを特徴とする請求項5に記載の画像形成方法。』
というものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、画像が形成され、且つその上にクリアトナーを担持する画像支持体を、ベルトに密着させた状態でクリアトナー面を加熱後、冷却して、光沢面を形成するのに使用され、いつでも平滑な光沢面を安定して形成するクリアトナーと、それを用いた画像形成方法を提供することが出来る。具体的には、光沢面形成を繰り返してベルトが劣化し、ベルト面上に亀裂やキズが発生して凹凸が発生しても、光沢面上に凹凸を転写させることのないクリアトナーを提供することが出来る。
【0023】
即ち、本発明は、劣化したベルトを用いてクリアトナー層を形成したときでも、形成されたクリアトナー層面上で光が反射するレベルの写像性をもつ平滑な光沢面を安定して形成することが可能なクリアトナーとクリアトナーを用いた画像形成方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】クリアトナーにより画像支持体上に形成された画像面に光沢を形成することが可能な光沢付与装置の模式図。
【図2】フルカラートナー画像を形成し、かつ、フルカラートナー画像上にクリアトナー層も形成する画像形成装置の断面構成図。
【図3】図2の画像形成装置に光沢付与装置を取り付けた装置の一例を示す模式図。
【図4】図2の画像形成装置に光沢付与装置を内装した装置の一例を示す模式図。
【図5】TM式写像性測定装置による写像性C値測定の原理を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係わるクリアトナーは、トナー画像とクリアトナーを担持する画像支持体を、ベルトに密着させた状態で加熱、冷却して光沢面を形成するのに使用され、特に、スチレンアクリル系共重合体とポリエステルから構成される。
【0026】
本発明者は、亀裂やキズ等の凹凸が発生したベルトを密着させてクリアトナー層を形成しても、ベルト面上の凹凸が転写されず、光の作用で面上に像が写る写像性のある高い光沢度を有するクリアトナー層を形成することが可能なクリアトナーの開発を検討した。当初、本発明者はベルト表面の劣化を抑制するクリアトナーの開発を考えていた。すなわち、低い加熱温度で溶融し、かつ、冷却温度をそれほど下げずに固化するクリアトナーを開発することにより、光沢面の形成を繰り返し行ってもベルト表面に亀裂やキズを発生させない様にして劣化を抑制しようと考えたのである。
【0027】
本発明者は、この様な特性を有するクリアトナーを開発したが、光沢面の形成を繰り返すうちにベルト表面にクリアトナーが付着し、ベルト表面に付着したクリアトナーがプリント物に転移して光沢度を低下させていると想像した。また、本発明者は、写像性の高い光沢感のあるプリント物を作製するには、画像支持体上にある程度の量のクリアトナーをムラなく均一に供給できることやクリアトナー同士の付着性を向上させるといった条件も必要になると考えた。
【0028】
本発明者は、スチレンアクリル系共重合体とポリエステルから構成される樹脂と、特定構造を有するモノエステル化合物と炭化水素化合物を含有するクリアトナーにより、写像性の高い光沢面を有する画像が得られることを見出した。この様に、本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂は、ラジカル重合により形成されるスチレンアクリル系共重合体と縮合重合により形成されるポリエステルという複数種類の重合体より構成されている。
【0029】
この様な構造の異なる複数の重合体により樹脂を構成することにより、高い光沢度を有するクリアトナー面を形成できる様になった理由は以下の作用によるためと推測される。
【0030】
先ず、樹脂を構成するポリエステル分子が極性傾向を有することにより、クリアトナー層表面にある程度の強度が付与されることが考えられる。つまり、ポリエステル分子のもつ極性に起因して生ずる水素結合や分子間引力等の作用により、ポリエステル分子同士が絡み合いを形成して一種の架橋構造の様な状態を形成するものと考えられる。この架橋構造がクリアトナー粒子表面のあちらこちらに形成されることにより、クリアトナー粒子間でも架橋構造が形成されてクリアトナー同士の付着力が促進される。そして、この架橋構造が画像支持体上に形成されたクリアトナー層にまんべんなく形成されることで、クリアトナー層表面にある程度の強度が付与される様になる結果、クリアトナー層表面はベルト表面の凹凸が転写しなくなるほど強化されるものと推測される。
【0031】
尚、クリアトナーは、画像支持体の全面に担持されていてもよいし、画像支持体の非画像領域、画像領域あるいは特定画像領域のいずれかにのみ担持されていてもよく、要は光沢を持たせたい領域に担持されていればよい。
【0032】
また、ポリエステル成分の存在により、クリアトナー層表面付近で発現されていたスチレンアクリル系共重合体成分の接着性が解消されて高い光沢性が得られることも理由として考えられる。すなわち、スチレンアクリル系共重合体成分は、クリアトナーに良好な溶融性を付与するものであるが若干の接着性を有するため、クリアトナー層表面に存在するものはベルト部材に付着するおそれがあった。そして、ベルト部材に付着したものが次に搬送されてくるプリント物表面に付着し、次のプリント物のクリアトナー層に堆積することにより、プリント物の写像性を低減させることが懸念された。本発明では、クリアトナー層表面にもポリエステル成分が存在するので、スチレンアクリル系共重合体成分がクリアトナー層表面に露出しにくくなってベルト部材への付着が抑制され、その結果、写像性の高い光沢度の画像が得られる様になったものと考えられる。
【0033】
また、本発明に係るクリアトナーは、後述するモノエステル化合物と炭化水素化合物を含有するものであるが、これら化合物もベルト表面の凹凸を転写させにくくする様に寄与しているものと考えられる。すなわち、モノエステル化合物が有する結晶化し易い性質によりクリアトナー面にある程度の剛性が付与されてベルト面との接着性を抑制する様に作用することが考えられる。その結果、仮にベルト表面に凹凸が存在していてもベルト表面の凹凸がクリアトナー面に転写しにくくなると考えられる。
【0034】
ただし、モノエステル化合物の結晶化し易い性質をバランスよく発現させるには、モノエステル化合物の結晶化の度合いを揃える必要があると考えられ、炭化水素化合物の存在がモノエステル化合物の結晶化の度合いを揃えるのに寄与しているものと考えられる。つまり、炭化水素化合物は自身が有するモノエステル化合物への親和性と分岐鎖状構造や環状構造の様な部位を有することで、モノエステル化合物分子間にすき間を形成して結晶化を抑制するものと考えられる。この様に、モノエステル化合物と炭化水素化合物の併用により、モノエステル化合物の結晶化し易い性質が炭化水素化合物により制御されてクリアトナー面に安定した剛性が付与されて、ベルト面との接着性が適度に抑制されるものと考えられる。その結果、ベルト面に凹凸が存在してもクリアトナー面に転写されなくなっているものと考えられる。
【0035】
この様な理由により、本発明に係るクリアトナーでは、表面に亀裂やキズ等の凹凸が発生したベルト部材を用いても、凹凸の影響を受けずに写像性の高い光沢面を有する画像が得られる様になったものと考えられる。
【0036】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0037】
なお、本発明でいう「クリアトナー」とは、光吸収や光散乱の作用により着色を示す着色剤(たとえば、着色顔料、着色染料、黒色カーボン粒子、黒色磁性粉等)を含有しないトナー粒子のことである。本発明でいうクリアトナーは、通常、無色透明であるが、クリアトナーを構成する結着樹脂やワックス、外添剤の種類や添加量によっては透明度が若干低くなるものもある。しかし、その場合でも本発明では着色剤を含有しないものを「クリアトナー」と呼ぶ。
【0038】
また、本発明でいう「画像」とは、たとえば文字画像やイメージ画像の様に、ユーザに情報を提供する媒体としての形態をなすものをいう。すなわち、画像支持体上でトナーやインク等が存在する領域のみを指すのではなく、白地と呼ばれるトナーやインク等が存在していない領域も含めたもので、ユーザに情報を提供できる形態になっているものである。また、本発明でいう「画像」は、クリアトナー層を有するものもクリアトナー層を有さないものの両方とも含む。さらに、本発明は、クリアトナー層を形成する前の画像を作製する方法を特に限定するものではなく、電子写真方式、印刷方式、インクジェット方式、銀塩写真方式等、従来の画像形成方法により作製されたもの対象である。
【0039】
尚、本発明でいう「トナー画像」とは、「画像」よりクリアトナーを用いて形成された領域を除いたものをいい、前述した「クリアトナー層を有さない画像」が、「トナー画像」に該当するものである。
【0040】
最初に、本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂について説明する。
【0041】
本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂は、少なくともスチレンアクリル系共重合体とポリエステルより構成される。本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂は、たとえば、少なくともスチレンアクリル系共重合体樹脂とポリエステル樹脂をブレンドして形成したものや、少なくともスチレンアクリル系共重合体分子とポリエステル分子とを分子結合させてなるブロック共重合体の樹脂等が挙げられる。その中でも、スチレンアクリル系共重合体樹脂中にポリエステル樹脂を導入させた構造の樹脂が好ましいものである。この構造の樹脂は、通常の方法で作製することが可能であり、たとえば、以下の手順で作製することができる。すなわち、
(1)水系媒体中にスチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、多価カルボン酸及び多価アルコールを投入し、これらを水系媒体中に分散処理させる。これら化合物が分散した状態のもとで水系媒体を加熱して多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成する。
(2)ポリエステルを形成した後、前述したスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体をラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体樹脂を形成する。このとき、前述のポリエステル分子表面でラジカル重合が行われてポリエステル分子と結合したスチレンアクリル系共重合体が形成されるものと考えられる。この様にして、スチレンアクリル系共重合体とポリエステルより構成される樹脂が形成されると考えられる。
【0042】
本発明に係るトナーを構成する樹脂を形成する際、脱水反応である縮合重合によりポリエステルを形成するが、上述した水系媒体中に重合性単量体を分散させた状態下でもポリエステルの縮合重合を行うことが可能である。この様に、水系媒体内で多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合することができるのは、分散により形成された重合性単量体で形成される油滴の中で重合反応が行えるためで、外にある水の影響を受けずにエステル化反応が進行する。つまり、油滴内ではスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体の存在により油滴が維持されており、油滴により水系媒体より隔絶された多価カルボン酸と多価アルコールは加熱の作用で優先的に反応してポリエステルを形成するものと考えられる。
【0043】
また、エステル化反応により水分子が形成されるが、形成された水分子を油滴の外に排出する必要があるが、前述し水系媒体中に含有される界面活性剤の存在が水分子の排出に寄与するものと考えられる。たとえば、酸性基を有する界面活性剤を用いると、油滴表面で親水性の酸性基は水系媒体側に、疎水性の長鎖炭化水素基が油滴側に配向するものと考えられる。この様な配向をとることにより、油滴と水系媒体相の界面では、酸性基が脱水の触媒的な効果を発現して、縮合重合により形成される水分子を油滴中から除去しているものと考えられる。
【0044】
また、スチレンアクリル系共重合体を形成するラジカル重合は、油滴中にポリエステルが存在している状態で行われるので、重合反応終了後に形成される樹脂はポリエステルとスチレンアクリル系共重合体が微細に均一分散した構造になるものと考えられる。したがって、当該樹脂を用いてクリアトナーを作製すると、クリアトナー表面はポリエステルが適度に露出した構造になっているので、プリント作製時のオフセット発生を抑制することができると考えられる。
【0045】
次に、本発明に使用可能なポリエステルを形成する多価カルボン酸と多価アルコールについて説明する。本発明に使用可能なポリエステルは、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合することにより形成されるものであり、特に限定されるものではない。ここで、「多価カルボン酸」は2価以上のカルボン酸化合物、すなわち、分子構造中に2つ以上のカルボキシル基(−COOH)を有する化合物のことである。また、「多価アルコール」は2価以上のアルコール化合物、すなわち、分子構造中に2つ以上の水酸基(−OH)を有する化合物のことである。
【0046】
本発明に使用可能なポリエステルを形成する多価カルボン酸には、脂肪族あるいは芳香族のジカルボン酸や3価以上のカルボン酸、及び、前述したカルボン酸類の酸無水物や酸塩化物等が挙げられる。以下に脂肪族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸、3価以上のカルボン酸の代表的な化合物を例示するが本発明に使用可能なポリエステルを形成する多価カルボン酸はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(a)脂肪族ジカルボン酸
シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸等
(b)芳香族ジカルボン酸
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等
(c)3価以上のカルボン酸
トリメリット酸、ピロメリット酸等
本発明に使用可能なポリエステルを形成する際、多価カルボン酸は1種または2種以上を組み合わせて使用することも可能である。また、3価以上のカルボン酸を使用すると架橋構造を有するポリエステルの形成が可能になる。この場合、3価以上のカルボン酸の比率は多価カルボン酸全体の0.1〜10質量%の範囲にすることが好ましい。
【0048】
また、本発明に使用可能なポリエステルを形成する多価アルコールには、脂肪族あるいは芳香族のジアルコール(ジオール)や3価以上のアルコール、前述した多価アルコールのアルコキシドやアルキレンオキサイド等の多価アルコール誘導体等がある。以下に脂肪族ジオール、3価以上のアルコール化合物の代表的な化合物を例示するが本発明に使用可能なポリエステルを形成する多価カルボン酸はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(a)ジオール
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタングリコール、1,6−ヘキサングリコール、1,7−ヘプタングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ピナコール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、水素添加ビスフェノールA等
(b)3価以上の多価脂肪族アルコール
グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリスフェノールPA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等
(c)上記3価以上の多価脂肪族アルコール類のアルキレンオキサイド付加物等
本発明に使用可能なポリエステルを形成する際、多価アルコールは1種または2種以上を組み合わせて使用することも可能である。また、3価以上の脂肪族アルコールやそのアルキレンオキサイド付加物を用いると架橋構造のポリエステルを形成することが可能である。この場合、3価以上の脂肪族アルコール類やそのアルキレンオキサイド付加物の比率は多価アルコール全体の0.1〜10質量%にすることが好ましい。
【0050】
また、ポリエステルを形成する際の多価カルボン酸と多価アルコールの比率は、多価アルコールの水酸基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシル基[COOH]の当量比[OH]/[COOH]が1.5/1〜1/1.5が好ましく、1.2/1〜1/1.2がより好ましい。
【0051】
本発明で使用可能なポリエステルの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)で10,000以上が好ましく、20,000〜100,000がより好ましい。また、GPCにより測定される数平均分子量(Mn)では20,000以下が好ましく、2,000〜8,000がより好ましい。
【0052】
また、ポリエステルのガラス転移点温度は20〜90℃、軟化点温度は80〜220℃が好ましく、より好ましいガラス転移点温度は35〜65℃、軟化点温度は80〜150℃である。ガラス転移点温度は示差熱量分析方法の第2回目の昇温時にオンセット法で測定可能であり、軟化点温度は高化式フローテスターの1/2法で測定可能である。
【0053】
次に、本発明に使用可能なスチレンアクリル系共重合体を形成する重合性単量体について説明する。本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂を構成するスチレンアクリル系共重合体は、少なくとも後述するスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させて形成されるものである。本発明でいうスチレン単量体には、CH=CH−Cの構造式で表されるスチレンの他に、以下に例示する様な側鎖や官能基を有する構造の化合物も含まれるものである。また、本発明でいうアクリル酸エステル単量体には、CH=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物の他に、以下に例示する様なメタクリル酸エステル誘導体等の側鎖や官能基を有するビニル系エステル化合物も含まれる。
【0054】
以下に、本発明で使用可能なスチレンアクリル系共重合体を形成することが可能なスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、本発明に使用可能なスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体は以下に示すもののみに限定されるものではない。
【0055】
先ず、スチレン単量体には、たとえば、以下のものが挙げられる。すなわち、
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等
また、アクリル酸エステル単量体は、以下に示すアクリル酸エステル単量体とメタクリル酸エステル単量体が代表的なものであり、アクリル酸エステル単量体には、たとえば、以下のものが挙げられる。すなわち、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル等
メタクリル酸エステル単量体には、たとえば、以下のものが挙げられる。すなわち、
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等
これらのアクリル酸エステル単量体あるいはメタクリル酸エステル単量体は、1種類単独で使用することができる他に、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。すなわち、スチレン単量体と2種類以上のアクリル酸エステル単量体を用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種類以上のメタクリル酸エステル単量体を用いて共重合体を形成すること、あるいは、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成することのいずれも可能である。
【0056】
また、本発明に使用可能なスチレンアクリル系共重合体は、上述したスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体のみで形成された共重合体の他に、これら単量体に加え以下に示す一般のビニル系単量体を併用して形成された共重合体も含むものである。すなわち、本発明でいう「スチレンアクリル系共重合体」とは、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体のみで形成された共重合体の他、これら単量体に加えてビニル系単量体を併用して形成された共重合体も含まれるものである。以下に、本発明で使用可能なスチレンアクリル系共重合体を形成することが可能なビニル系単量体を例示するが、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体と併用可能なビニル系単量体は以下に示すものに限定されるものではない。
【0057】
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(5)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体等
また、以下に示す多官能性ビニル類を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。多官能性ビニル類の具体例を以下に示す。すなわち、
ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等
さらに、以下に示す様な側鎖にイオン性解離基を有するビニル系単量体を使用することも可能であり、イオン性解離基の具体例としては、たとえば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。以下にこれらイオン性解離基を有するビニル系単量体の具体例を示す。
【0058】
先ず、カルボキシル基を有するビニル系単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等がある。
【0059】
また、スルホン酸基を有するビニル系単量体の具体例としては、たとえば、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等がある。さらに、リン酸基を有するビニル系単量体の具体例としては、たとえば、アシドホスホオキシエチルメタクリレートや3−クロロ−2−アシドホスホオキシプロピルメタクリレート等がある。
【0060】
本発明に使用可能なスチレンアクリル系共重合体を形成する場合、スチレン単量体及びアクリル酸エステル単量体の含有量は特に限定されるものではなく、結着樹脂の軟化点温度やガラス転移温度を調整する観点から適宜調整することが可能である。具体的には、スチレン単量体の含有量は、ラジカル重合性単量体全体に対し40〜95質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましいとされる。また、アクリル酸エステル単量体の含有量は、ラジカル重合性単量体全体に対し5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましいとされる。
【0061】
ラジカル重合により形成されるスチレンアクリル系共重合体の分子量は、重量平均分子量(Mw)で2,000〜1,000,000が好ましい。また、数平均分子量(Mn)は1,000〜100,000が好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は1.5〜100が好ましく、1.8〜70がより好ましい。スチレンアクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲にすることにより、作製したトナーを用いてプリント作製を行ったときに定着工程でオフセット現象の発生の抑止に効果がある。また、ラジカル重合により形成されるスチレンアクリル系共重合体のガラス転移点温度は30〜70℃が好ましく、また、軟化点温度は80〜170℃が好ましい。ガラス転移点温度及び軟化点温度が上記の範囲であることによって、良好な定着性が得られる。
【0062】
なお、クリアトナーを構成する樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwは分子量測定方法により算出することができる。以下に、分子量測定方法の代表例の1つであるテトラヒドロフラン(THF)をカラム溶媒として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)による分子量測定手順を説明する。
【0063】
具体的には、測定試料を1mgに対してTHF(脱気処理したものを使用)を1ml添加し、室温下にてマグネチックスターラを用いて撹拌処理して充分に溶解させる。次に、ポアサイズ0.45μm〜0.50μmのメンブランフィルタで処理した後、GPC装置に注入する。
【0064】
GPCの測定条件は、40℃にてカラムを安定化させ、THFを毎分1mlの流速で流し、1mg/mlの濃度の試料を約100μl注入して測定する。カラムとしては、市販のポリスチレンジェルカラムを組み合わせて使用することが好ましい。たとえば、昭和電工社製のShodex GPC KF−801、802、803、804、805、806、807の組み合せや、東ソー社製のTSKgelG1000H、G2000H、G3000H、G4000H、G5000H、G6000H、G7000H、TSK guard columnの組み合せ等がある。
【0065】
検出器としては、屈折率検出器(RI検出器)、あるいはUV検出器が好ましく用いられる。試料の分子量測定では、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成した検量線を用いて算出する。検量線作成用のポリスチレンとしては10点程度用いることが好ましい。
【0066】
分子量測定は、たとえば、下記の測定条件の下で行うことができる。
【0067】
(測定条件)
装置:HLC−8020(東ソー社製)
カラム:GMHXLx2、G2000HXLx1
検出器:RI及びUVの少なくともいずれか一方
溶出液流速:1.0ml/分
試料濃度:0.01g/20ml
試料量:100μl
検量線:標準ポリスチレンにて作製
次に、本発明に係るクリアトナーに含有されるモノエステル化合物と炭化水素化合物について説明する。本発明に係るクリアトナーは、下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、後述する分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物を含有するものである。これらモノエステル化合物と炭化水素化合物とを併用することにより、劣化等により表面に凹凸のあるベルトを用いてクリアトナー面を形成しても写像性の高い光沢面を形成できる様になったものと考えられる。
【0068】
すなわち、一般式(1)で表されるモノエステル化合物の離型作用によりクリアトナー面とベルト面との接着性が抑制され、仮にベルト表面に凹凸が存在していてもベルト表面の凹凸がクリアトナー面に転写されにくくなると考えた。同時に、本発明者はモノエステル化合物のもつ結晶化の影響を懸念して、分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物を用いて、モノエステル化合物の結晶化の度合いを揃えられるものと考えた。そして、モノエステル化合物と炭化水素化合物とを併用することにより、ベルト面の凹凸をクリアトナー面に転写させないようにするとともに、炭化水素化合物の作用でモノエステル化合物の結晶化の度合いを揃えて光散乱を起こさないクリアトナー面を形成できる様にした。
【0069】
以下、本発明に係るクリアトナーに含有される一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、分岐鎖状構造及び環状構造のいずれかの構造を有する炭化水素化合物について説明する。
【0070】
本発明に係るクリアトナーに含有されるモノエステル化合物は、下記一般式(1)で表される様に、脂肪酸成分であるRとアルコール成分Rより構成されるものである。
【0071】
一般式(1):R−COO−R
一般式(1)において、R及びRは、各々、炭素数13〜30、好ましくは17〜22の炭化水素基である。R及びRは、各々、置換基を有するものであっても、置換基を有さないものであってもよい。また、R及びRは、同一のものであっても、異なるものであってもよい。
【0072】
一般式(1)で表されるモノエステル化合物の具体例としては、たとえば、下記式(1−1)〜式(1−14)に示す化合物がある。なお、本発明で使用することが可能な一般式(1)で表されるモノエステル化合物は下記に示すものに限定されるものではない。
【0073】
(1−1):CH−(CH12−COO−(CH13−CH
(1−2):CH−(CH14−COO−(CH15−CH
(1−3):CH−(CH16−COO−(CH17−CH
(1−4):CH−(CH16−COO−(CH21−CH
(1−5):CH−(CH20−COO−(CH17−CH
(1−6):CH−(CH20−COO−(CH21−CH
(1−7):CH−(CH25−COO−(CH25−CH
(1−8):CH−(CH28−COO−(CH29−CH
(1−9):CH−(CH12−COO−(CH12−CH
(1−10):CH−(CH16−COO−(CH16−CH
(1−11):CH−(CH21−COO−(CH21−CH
(1−12):CH−(CH29−COO−(CH29−CH
(1−13):CH−(CH16−COO−(CH12−CH
(1−14):CH−(CH17−COO−(CH14−CH
なお、本発明では、1種類の一般式(1)で表されるモノエステル化合物を用いることも、また、2種類以上の一般式(1)で表されるモノエステル化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0074】
本発明で用いられる上記一般式(1)で表されるモノエステル化合物は、その融点が30℃〜100℃のものが好ましく、特に、39℃〜90℃のものがより好ましい。本発明に係るクリアトナーに用いられる一般式(1)で表されるモノエステル化合物の融点の測定は、一般に「透明融点の測定」と呼ばれるものである。「透明融点の測定」は、透明固体試料の温度測定と同時に当該試料の光透過測定を行ってその溶融課程を記録するもので、光の透過量変化に基づいて試料の溶融開始時温度と溶融終了時温度を求めることにより融点の測定を行うものである。
【0075】
具体的には、透明試料であるモノエステル化合物粉体を所定の毛細管に詰めて炉に投入して溶融課程を光線により監視する。そして、試料が溶融して透明になったときにフォトセルの受光量が増加することにより、この受光量増加に対応する信号変化を回路で検出し、その結果からモノエステル化合物の融点を測定、算出するものである。本発明で用いられるモノエステル化合物の透明融点の測定が可能な市販の装置としては、たとえば、「メトラートレド社」製の自動融点測定装置「FP90/FP81HT」等がある。
【0076】
「メトラートレド社」製の自動融点測定装置は、コントロールユニット「FP90」と測定炉「FP81HT」より構成され、本発明で使用されるモノエステル化合物の透明融点を測定する際の条件は以下のとおりである。すなわち、
コントロールユニット「FP90」
読取り精度:0.1℃
温度センサ:PT100
昇温速度 :10℃/分(0〜20℃/分より選択可能な仕様)
測定機能 :融点(溶融開始温度、溶融終了温度)
測定炉「FP81HT」
加熱方式 :ヒータブロック
測定点 :融点、曇点3点、
測定範囲 :室温〜375℃
再現性 :融点0.1℃(純度99.99%の安息香酸を昇温速度0.2℃/分で測定時)
また、試料であるモノエステル化合物を詰める毛細管は、外径2.0〜3.1mm、長さ80mmのものを用いることができる。
【0077】
次に、本発明に係るクリアトナーに使用可能な分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物及び環状構造を有する炭化水素化合物について説明する。本発明ではクリアトナー中に下記に説明する分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物及び環状構造を有する炭化水素化合物の少なくともいずれかを含有するものであり、これらを2種類以上組み合わせて用いることも可能である。これら炭化水素化合物は、自身のもつ離型作用に加え、前述した様に、クリアトナー層を冷却しているときに、モノエステル化合物の結晶化を抑制させて結晶化の度合いを揃える作用を有するものと考えられる。
【0078】
本発明に係るクリアトナーに使用可能な分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物は、炭化水素化合物を構成する全炭素原子中の3級炭素原子及び4級炭素原子の合計の割合が0.1%〜20%の範囲のものであることが好ましい。なお、全炭素原子中の3級炭素原子及び4級炭素原子の合計の割合は後述の方法により算出することができる。
【0079】
分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物を構成する全炭素原子中の3級炭素原子及び4級炭素原子の合計の割合が上記範囲のとき、当該分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物とモノエステル化合物との間でより効果的な相互作用が発現するものと考えられる。すなわち、炭化水素化合物分子とモノエステル化合物分子との間に適度な分子の絡み合いがより確実に形成されて、モノエスエル化合物の結晶化を抑制して結晶化の度合いを揃えることができるものと考えられる。
【0080】
分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物の分岐の割合、すなわち、炭化水素化合物を構成する全炭素原子中の3級炭素原子及び4級炭素原子の合計の割合は、13C−NMR測定方法により得られるスペクトルより下記式より算出することができる。つまり、
式;分岐の割合(%)=〔(C3+C4)/(C1+C2+C3+C4)〕×100〔式中、C3は3級炭素原子に係るピーク面積、C4は4級炭素原子に係るピーク面積、C1は1級炭素原子に係るピーク面積、C2は2級炭素原子に係るピーク面積を示す。〕
また、13C−NMR測定方法の条件は以下のとおりである。すなわち、
測定装置 :FT NMR装置 Lambda400(日本電子社製)
測定周波数 :100.5MHz
パルス条件 :4.0μs
データポイント:32768
遅延時間 :1.8sec
周波数範囲 :27100Hz
積算回数 :20000回
測定温度 :80℃
溶媒 :ベンゼン−d/o−ジクロロベンゼン−d=1/4(v/v)
試料濃度 :3質量%
試料管 :φ5mm
測定モード :1H完全デカップリング法
分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物、及び、環状構造を有する炭化水素化合物としては、たとえば、日本精鑞(株)製のHNP−0190、Hi−Mic−1045、Hi−Mic−1070、Hi−Mic−1080、Hi−Mic−1090、Hi−Mic−2045、Hi−Mic−2065、Hi−Mic−2095等のマイクロクリスタリンワックスと呼ばれる化合物や、イソパラフィンが主成分である化合物EMW−0001、EMW−0003等がある。
【0081】
ここで、マイクロクリスタリンワックスとは、石油ワックスの中で、主成分が直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)のパラフィンワックスと異なり、分岐鎖状炭化水素(イソパラフィン)や環状炭化水素(シクロパラフィン)の割合が多いワックスである。一般に、マイクロクリスタリンワックスは、低結晶性のイソパラフィンやシクロパラフィンが多く含有されているために、パラフィンワックスに比べて結晶が小さく、パラフィンワックスに比べて分子量が大きいものである。この様なマイクロクリスタリンワックスは、炭素数が25〜60、質量平均分子量が500〜800、融点が60〜95℃である。
【0082】
分岐鎖状構造を有する炭化水素や環状構造を有する炭化水素化合物より構成されるマイクロクリスタリンワックスとしては、たとえば、重量平均分子量が600〜800、融点60〜95℃のものが好ましい。また、数平均数平均分子量が300〜1,000のものも好ましく、数平均分子量が400〜800のものがより好ましい。また、重量平均分子量と数平均分子量との比Mw/Mnが1.01〜1.20の範囲にあるものが好ましい。
【0083】
上記マイクロクリスタリンワックスに代表される分岐鎖状構造を有する炭化水素化合物や環状構造を有する炭化水素化合物を得るための製造方法としては、たとえば、プレス発汗法や溶剤抽出法が代表的なものである。プレス発汗法は、原料油を特定温度に維持した状態で固化させて所望の炭化水素を分離して抽出する方法であり、溶剤抽出法は石油の減圧蒸留残渣油または重質留出油である原料油に溶剤を加えて結晶化させた後、ろ別により所望の炭化水素を抽出する方法である。その中でも、後者の溶剤抽出法が好ましい。また、上記の製造方法によって得られる分岐鎖状構造や環状構造を有する炭化水素化合物は着色されていることが多いので、硫酸白色土等を用いて精製する。
【0084】
また、本発明に係るクリアトナーには、上記一般式(1)で表されるモノエステル化合物や分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物とともに、以下に示す一般的なワックスを併用することも可能である。
【0085】
(1)ポリオレフィン系ワックス
ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等
(2)長鎖炭化水素系ワックス
パラフィンワックス、サゾールワックス等
(3)ジアルキルケトン系ワックス
ジステアリルケトン等
(4)エステル系ワックス
カルナウバワックス、モンタンワックス、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート等
(5)アミド系ワックス
エチレンジアミンジベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミド等である。
【0086】
ワックスの融点は、通常40〜125℃であり、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜90℃である。融点を上記範囲内にすることにより、クリアトナーの耐熱保管性を確保するとともに、低温でクリアトナー層を溶融させる場合でも安定した光沢面の形成が行える。なお、クリアトナー中のワックス含有量は、前述した一般式(1)で表されるモノエステル化合物と分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物と合わせて、1質量%〜30質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。
【0087】
次に、本発明に係るクリアトナーの製造方法について説明する。
【0088】
本発明に係るクリアトナーは、少なくとも、ポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、一般式(1)で表されるモノエステル化合物及び分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物を含有してなる粒子より構成されるものである。本発明では、たとえば、水系媒体中に重合性単量体を投入、分散させておき、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体の存在する状態下で、先ず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成する。その後で、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成することにより、当該樹脂を作製することができる。
【0089】
本発明に係るクリアトナーの作製方法は、電子写真方式の画像形成に使用されるトナー作製方法を適用することができる。具体的には、混練、粉砕、分級工程を経てトナーを作製するいわゆる粉砕法や、水系媒体中で重合性単量体を重合させると同時に、形状や大きさを制御しながら粒子形成が行える重合法によるトナー製造方法を適用することができる。
【0090】
その中でも、重合法により作製されるクリアトナーは、均一な粒度分布や形状分布、シャープな帯電分布等の特性を得られ易いものとされる。重合法によるトナー製造方法では、たとえば、懸濁重合、乳化重合等の重合反応により樹脂粒子を形成する工程を有するものであり、その中でも重合反応を経て作製した樹脂粒子を凝集、融着させて粒子を形成する会合工程を経て作製されるものが特に好ましい。
【0091】
また、会合工程を経て本発明に係るクリアトナーを作製する際、低温定着性と耐熱保管性を確実に両立させる構造のコアシェル構造のクリアトナーを作製することもできる。コアシェル構造のクリアトナーは、最初に、軟化点温度やガラス転移温度の低い樹脂粒子でコアを形成した後、コア表面に軟化点温度やガラス転移温度の高い樹脂粒子を凝集、融着させてシェルを形成して、コアシェル構造のクリアトナーを作製することができる。
【0092】
以下に、本発明に係るクリアトナーの作製方法の一例として、乳化会合法によるクリアトナーの作製方法について説明する。乳化会合法によるクリアトナーの作製方法は、たとえば、以下の工程を経て行われる。
【0093】
(1)樹脂微粒子分散液の作製工程
(2)樹脂微粒子の凝集・融着工程
(3)熟成工程
(4)冷却工程
(5)洗浄工程
(6)乾燥工程
(7)外添剤処理工程
以下、各工程について説明する。
【0094】
(1)樹脂微粒子分散液の作製工程
この工程は、クリアトナーを構成するポリエスエルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂を形成する工程である。たとえば、水系媒体中に、少なくとも、スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、多価カルボン酸及び多価アルコールを添加、分散させておき、この状態で多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成する。その後、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成することにより、100nm程度の大きさの樹脂微粒子を形成することができる。
【0095】
この工程は、ポリエスエルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂を形成するものであるが、乳化会合法による作製方法では、後述する樹脂微粒子の凝集・融着工程で使用する樹脂微粒子を作製するものである。ポリエステルとスチレンアクリル系共重合体の樹脂微粒子を作製する方法としては、たとえば、水系媒体中に、スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、多価カルボン酸及び多価アルコール等の重合性単量体を添加した後、分散処理を施して重合性単量体の油滴を形成する。続いて、水系媒体中に分散、形成された油滴中で先ず縮合重合反応を行ってポリエステルを形成する。その後、油滴中でラジカル重合反応を行いスチレンアクリル系共重合体を形成する。この様な手順を経てポリエステルとスチレンアクリル系共重合体とが均一混合してなる樹脂微粒子を形成することができる。
【0096】
この様に、樹脂微粒子分散液の作製工程では、水系媒体中で多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成する縮合重合工程と、スチレン化合物とアクリル酸エステル化合物とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成するラジカル重合工程より構成される。以下、縮合重合工程とラジカル重合工程について説明する。
【0097】
(a)縮合重合工程
縮合重合工程は、多価カルボン酸と多価アルコールを重合反応させてポリエステルを作製する工程である。すなわち、水系媒体中に、少なくとも、スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、多価カルボン酸及び多価アルコールを添加、分散させておき、この状態で多価カルボン酸と多価アルコールとを重合させてポリエステルを形成するものである。
【0098】
脱水反応を伴う平衡反応である縮合重合反応が、水系媒体中に分散させた油滴中で行える理由は、おそらく、以下の様な理由によるためと考えられる。すなわち、水系媒体中の酸性基含有界面活性剤が、油滴表面で親水性の酸性基を水相側に、疎水性の長鎖炭化水素基を油滴側に配向させる構造をとるためと考えられる。この様に、油滴と水系媒体相との界面で前述した酸性基が脱水の触媒的な効果を発現して、縮合重合により生成される水の油滴内からの除去を促進して、その結果、油滴内での脱水を伴う縮合重合反応を進行させるものと考えられる。
【0099】
縮合重合を行うときの温度は、多価カルボン酸及び多価アルコールの種類にもよるが、通常40〜150℃とすることが好ましく、水系媒体中で安定した縮合重合を行うので水の沸点以下の温度である50〜100℃で行うことがより好ましい。また、重合反応時間は縮合重合の反応速度にもよるが4〜10時間が好ましい。
【0100】
(b)ラジカル重合工程
ラジカル重合工程は、前述の油滴中に重合開始剤を含有させてラジカルを生成させることにより、油滴中でスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体とを重合することによりスチレンアクリル系共重合体を形成するものである。あるいは、水系媒体中に添加した重合開始剤より生成したラジカルが油滴中に供給されて、ラジカル重合を開始するものもある。
【0101】
ラジカル重合を行うときの温度は、スチレン単量体及びアクリル酸エステル単量体の種類、及び、ラジカルを生成する重合開始剤の種類にもよるが、通常50〜100℃が好ましく、より好ましくは55〜90℃である。また、重合反応時間は、スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体及びラジカルの反応速度にもよるが5〜12時間が好ましい。
【0102】
以上の2つの重合工程を経ることにより、ポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる樹脂を形成することができる。前記2つの重合反応を行う順序は特に限定されるものではないが、たとえば、最初に縮合重合反応を行ってポリエステルを形成した後、ポリエステルの存在下でラジカル重合反応を行ってスチレンアクリル系共重合体を形成する工程を採るものが好ましい。
【0103】
また、本発明では、前述した一般式(1)で表されるモノエステル化合物と分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物を前記ラジカル重合性モノマーに溶解あるいは分散させておき、これを水系媒体中で重合させることができる。この様にして、一般式(1)で表されるモノエステル化合物と分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物を含有してなる樹脂粒子を形成することができる。さらに、前述したワックスを前記ラジカル重合性モノマーに溶解あるいは分散させておき、これを水系媒体中で重合させることによりワックスを含有してなる樹脂微粒子を形成することもできる。
【0104】
なお、この工程では、水系媒体中に、少なくとも、スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、多価カルボン酸及び多価アルコールを添加した後、機械的エネルギーの作用で分散処理を行い、単量体の油滴を形成するものである。機械的エネルギーによる油滴分散を行う分散装置は、特に限定されるものではなく、たとえば高速回転するロータを備えた市販の撹拌装置「クレアミックス(CLEARMIX)(エム・テクニック(株)製)」等が代表的な装置に挙げられる。前述した撹拌装置の他にも、超音波分散機や機械式ホモジナイザ、マントンゴーリン及び圧力式ホモジナイザ等の装置が挙げられる。これらの装置により水系媒体中に100nm前後の油滴の分散粒子を形成することが可能である。
【0105】
また、本発明でいう「水系媒体」とは、水と水に溶解可能な有機溶剤から構成される液体のことで、少なくとも水を50質量%以上含有したものである。ここで、水系媒体を構成する水以外の成分である水に溶解可能な有機溶剤には、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等がある。これらの中でも樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶剤が好ましい。
【0106】
(2)樹脂微粒子の凝集・融着工程
この工程は、水系媒体中で前述の工程で形成した樹脂微粒子を凝集させて粒子を形成し、凝集により形成した粒子を融着させて粒子(外添処理する前のクリアトナーの母体粒子のこと)を作製する工程で、いわゆる「樹脂微粒子を凝集させる工程」に該当する工程である。すなわち、ポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる樹脂微粒子を凝集、融着させてトナー粒径に該当する粒径を有する粒子を作製するものである。なお、上記樹脂微粒子は前記方法により、一般式(1)で表されるモノエステル化合物と分岐鎖状構造あるいは環状構造を有する炭化水素化合物を含有しているので、これら樹脂微粒子を凝集、融着することにより前記モノエステル化合物と前記炭化水素化合物を含有する粒子を形成することができる。
【0107】
この工程では、前記樹脂粒子を存在させた水系媒体中に、塩化マグネシウム等に代表されるアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の凝集剤を添加することにより、前記樹脂粒子を凝集させる。次いで、水系媒体中を前記樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱して凝集を進行させると同時に凝集させた樹脂粒子同士の融着を行う。そして、凝集を進行させて粒子の大きさが目標になったときに、食塩等の塩を添加して凝集を停止させる。
【0108】
(3)熟成工程
この工程は、前記凝集・融着工程に引き続き、反応系を加熱処理して粒子の形状を所望の平均円形度になるまで熟成するいわゆる形状制御工程とも呼ばれる工程である。
【0109】
(4)冷却工程
この工程は、前記粒子の分散液を冷却処理(急冷処理)する工程である。冷却処理条件としては、1〜20℃/分の冷却速度で冷却する。冷却処理方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
【0110】
(5)洗浄工程
この工程は、上記工程で所定温度まで冷却された前記粒子の分散液より粒子を固液分離する工程と、固液分離されてウェットのトナーケーキと呼ばれるケーキ状集合体となった粒子より界面活性剤や凝集剤等の付着物を除去するための洗浄工程からなる。
【0111】
洗浄処理は、濾液の電気伝導度がたとえば10μS/cm程度になるまで水洗浄する。固液分離方法としては、遠心分離法、ヌッチェ等を使用する減圧ろ過法、フィルタプレス等を使用するろ過法等があり、本発明では特に限定されるものではない。
【0112】
(6)乾燥工程
この工程は、洗浄処理された前記粒子を乾燥処理する工程である。この工程で使用される乾燥機としては、スプレードライヤ、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
【0113】
また、乾燥された粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは2質量%以下とされる。なお、乾燥処理された粒子同士が、弱い粒子間引力で凝集している場合には、当該凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサ、コーヒーミル、フードプロセッサ等の機械式の解砕装置を使用することができる。
【0114】
(7)外添剤処理工程
この工程は、乾燥処理した粒子に外添剤や滑剤を添加する工程である。前記乾燥工程を経た粒子はそのままクリアトナー粒子として使用できるが、外添剤を添加することによりクリアトナーの帯電性や流動性、クリーニング性を向上させることができる。これら外添剤には、無機微粒子や有機微粒子、脂肪族金属塩を使用することができ、その添加量はトナー全体に対して0.1〜10.0質量%、好ましくは0.5〜4.0質量%である。また、外添剤は種々のものを組み合わせて添加することができる。なお、外添剤を添加する際に使用する混合装置としては、たとえば、タービュラミキサ、ヘンシェルミキサ、ナウタミキサ、V型混合機、コーヒーミル等の機械式の混合装置がある。
【0115】
以上の工程を経ることにより、乳化会合法で本発明に係るクリアトナーを作製することができる。
【0116】
次に、本発明に係るクリアトナーを作製する際に使用する界面活性剤、重合開始剤、分散安定剤等について説明する。
【0117】
最初に、本発明に係るクリアトナーを作製する際に使用可能な界面活性剤について説明する。本発明に係るクリアトナーを作製する際に水系媒体に使用可能な界面活性剤は、特に限定されるものではないが、前述した油滴中での多価カルボン酸と多価アルコールの縮合重合を促進させる性質を有するものが好ましい。具体的には、構造式中に、親水性の官能基と疎水性の官能基を有するものが好ましく、たとえば、親水性を示す酸性基を有するとともに疎水性を示す長鎖炭化水素基を有する酸性基含有界面活性剤が好ましい。
【0118】
ここで、「長鎖の炭化水素基」は、たとえば、主鎖の炭素数が8以上の炭化水素基が挙げられ、具体的には、炭素数8〜40のアルキル基や前記炭素数のアルキル基を置換基として有する芳香族炭化水素基等が挙げられる。その中でも炭素数8〜30のアルキル基を有するフェニル化合物が好ましい。
【0119】
また、酸性基は水系媒体中で高酸性を示すものが好ましく、たとえば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられ、これらの中でもスルホン酸基及びカルボン酸基を有するものが好ましい。スルホン酸基を有する界面活性剤の具体例としては、たとえば、ドデシルスルホン酸、エイコシルスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、エイコシルベンゼンスルホン酸、3,3−ジスルホンジフェニル尿素−4,4−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2,5,5−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルホン酸等がある。また、カルボン酸基を有する界面活性剤の具体例としては、たとえば、ドデシルカルボン酸等があり、リン酸基を有する界面活性剤の具体例としては、たとえば、ドデシルリン酸、エイコシルリン酸等がある。
【0120】
酸性基含有界面活性剤の添加量は、水系媒体中で臨界ミセル濃度以下の濃度となる様に添加することが好ましい。具体的には、臨界ミセル濃度の80%以下にすることが好ましく、70%以下にすることがより好ましい。水系媒体中での界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度以下とすることにより、水系媒体中で界面活性剤がミセルを形成することなく油滴の形成を安定的に行う。また、界面活性剤を過剰に存在させない様にすることで、形成した油滴が安定化する様に全ての界面活性剤が油滴の周囲に配向する様になると考えられる。この様に界面活性剤を配向させることで、縮合重合を行う際、界面活性剤が触媒として機能して油滴内で形成される水の油滴内からの排出が促進されて縮合重合反応の反応速度を高めるものと推測される。
【0121】
また、酸性基含有界面活性剤の水系媒体中への添加量は、上述の様に水系媒体中で臨界ミセル濃度以下の濃度となる様に添加することが好ましいことから、0.01〜2質量%が好ましく、さらには0.1〜1.5質量%がより好ましい。
【0122】
また、水系媒体中には重合性単量体の油滴を安定化させるために、上記界面活性剤の他にイオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を含有することもできる。
【0123】
上述したスルホン酸基等を有するイオン系界面活性剤以外のものとしては、硫酸エステル塩や脂肪酸塩等がある。硫酸エステル塩には、たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム等があり、脂肪酸塩には、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム等がある。
【0124】
また、ノニオン系界面活性剤の具体例としては、たとえば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドのエステル、ソルビタンエステル等がある。
【0125】
また、前述した重合性単量体の油滴を水系媒体中に安定して分散させておく分散安定剤を使用することが好ましい。分散安定剤の具体例としては、たとえば、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ等がある。また、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、エチレンオキサイド付加物、高級アルコール硫酸ナトリウム等の界面活性剤も分散安定剤として使用することが可能である。
【0126】
また、本発明に係るクリアトナーを構成する樹脂は、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体をラジカル重合して形成されるスチレンアクリル系共重合体を含有するものである。スチレンアクリル系共重合体を形成する場合、油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用することができる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。すなわち、
(1)アゾ系またはジアゾ系重合開始剤
2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等
(2)過酸化物系重合開始剤
ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジン等
また、乳化重合法で樹脂微粒子を形成する場合、水溶性ラジカル重合開始剤を使用することが可能である。水溶性重合開始剤の具体例としては、たとえば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸及びその塩、過酸化水素等がある。
【0127】
また、樹脂微粒子の分子量を調整するために、連鎖移動剤を使用することも可能である。具体的には、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオン酸エステル、ターピノーレン、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー等がある。
【0128】
次に、画像およびクリアトナーを担持する画像支持体を、ベルトに密着させた状態で当該クリアトナーを加熱、冷却することにより、画像支持体に光沢面を形成する光沢付与装置について説明する。図1は、本発明に係るクリアトナーを用いて画像支持体の画像面に光沢面を形成する光沢付与装置の代表例を示す模式図である。
【0129】
図1に示す光沢付与装置1は、少なくとも以下の構成を有するものである。すなわち、
(1)画像およびクリアトナーを担持する画像支持体Pを加熱し、同時に加圧する加熱加圧装置10であり、加熱加圧は下記(2)のベルト部材に接触した状態で行われる。
【0130】
(2)加熱加圧装置10により溶融したクリアトナー面と接触し、クリアトナー面との間に接着面を形成して画像支持体Pを搬送するベルト部材11
(3)ベルト部材11に接着した状態で搬送されている画像支持体Pに冷却用のエアを供給する冷却ファン12と13
(4)冷却ファン12と13より供給されるエアの作用で冷却され、クリアトナー層が固着した画像支持体を搬送する搬送補助ロール14より構成される。
【0131】
以下、各構成について具体的に説明する。
【0132】
最初に加熱加圧装置10について説明する。図1に示す加熱加圧装置10は、一定速度で駆動する一対のロール101と102との間に、クリアトナーを有する画像支持体Pを挟持して搬送し、搬送されてきた画像支持体を加熱加圧するものである。すなわち、画像支持体P上のクリアトナーは、加熱加圧装置10による加熱により溶融し、かつ、溶融したクリアトナーは加圧により平滑で光沢のある層になる。ここで、一対のロール101と102の一方または両方の中心に熱源を設けることにより、画像支持体上のクリアトナーを溶融する様に加熱することができる。また、2つのロール101と102はロール間で溶融したクリアトナーを確実に加圧できる様、圧接している構造を採ることが好ましい。
【0133】
図1の光沢付与装置1は、消費電力量や作業効率の観点から、たとえば、加熱加圧装置10を構成するロール101を加熱ロールとし、ロール102を加圧ロールとする構成とすることで十分な加熱と加圧が行える。ロール101と102の一方または両方の表面には、シリコーンゴム層あるいはフッ素ゴム層を配置することができ、加熱と加圧を行うニップ領域の幅を1mm〜8mm程度の範囲にすることが好ましい。
【0134】
加熱ロール101は、たとえば、アルミニウム等の金属製の基体表面に、シリコーンゴム等からなる弾性体層を被覆してなり、所定の外径に形成されたものである。加熱ロール101の内部には、加熱源としてたとえば300〜350Wのハロゲンランプを配設しておき、当該加熱ロール101の表面温度が所定温度となる様に内部から加熱する。
【0135】
加圧ロール102は、たとえば、アルミニウム等の金属製の基体表面に、シリコーンゴム等からなる弾性体層を被覆してなり、さらに、当該弾性体層表面にPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製のチューブ等による離型層を被覆して、所定の外径に形成されたものである。加圧ロール102の内部にも、加熱源としてたとえば300〜350Wのハロゲンランプを配設することができ、当該加圧ロール102の表面温度が所定温度になる様に内部から加熱する。
【0136】
加熱加圧装置10では、画像形成面にクリアトナーを担持する画像支持体Pは、加熱ロール101と加圧ロール102との圧接部(ニップ部)に、クリアトナーが供された面が加熱ロール101側に配置する様に導入される。そして、加熱ロール101と加圧ロール102との圧接部を通過する間に、クリアトナーが加熱溶融すると同時に、画像面上に所定厚さのクリアトナー層として融着する。
【0137】
次に、ベルト部材11について説明する。図1に示す様にベルト部材11は、加熱ロール101と、当該加熱ロール101を含む複数のロール101、103、104により回動可能に支持されている無端ベルト状の構成を有するものである。ベルト部材11は、前述した様に、加熱ロール101、剥離ロール103、従動ロール104からなる複数のロールにより回動可能に懸回張設され、図示しない駆動源により回転駆動する加熱ロール101により所定の移動速度駆動する様になっている。そして、加熱ロール101による駆動と剥離ロール103、従動ロール104によるテンションにより所定のプロセススピードによりシワなく回動駆動させることができる。
【0138】
ベルト部材11は、溶融したクリアトナー面との間で接着面を形成し、溶融したクリアトナー面を介して画像支持体Pを搬送するものであるので、ある程度の耐熱性と機械的強度を有する材質で作製することができる。具体的には、たとえば、ポリイミド、ポリエーテルポリイミド、PES(ポリエーテルサルフォン樹脂)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)等の耐熱性フィルム樹脂が挙げられる。そして、前記耐熱性フィルム樹脂の少なくともクリアトナー層当接面側にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA等のフッ素樹脂やシリコーンゴムの離型層を設けることが好ましい。
【0139】
ベルト部材11の厚さは、溶融したクリアトナー面との接着面を介して画像支持体の搬送が行えるものであれば特に限定されるものではなく、適宜の厚さのものを使用することができる。具体的には、耐熱性フィルム樹脂の厚さは20μm〜80μm、離型層の厚さは10μm〜30μmが好ましく、また、総厚は20μm〜110μmが好ましい。具体的な形態としては、たとえば、厚さ80μmのポリイミド製無端状フィルム上に、厚さ30μmのシリコーンゴム層を被覆したもの等がある。
【0140】
次に、冷却ファン12と13について説明する。図1に示す光沢付与装置1は、前記ベルト部材11内面側の加熱ロール101と剥離ロール103との間に冷却ファン12、ベルト部材11の外面側の加圧ロール102と搬送補助ロール14の間に冷却ファン13を有する。ここで、ベルト部材11の外面は、溶融したクリアトナー面を介して画像支持体Pと接着し、接着面を形成した状態で画像支持体Pの担持搬送を行う面のことである。
【0141】
図1の光沢付与装置1は、前述の加熱加圧装置10で溶融し、加圧により所定の厚さにしたクリアトナー層をベルト部材11の外面に接着させ、この状態で画像支持体Pを搬送させながら同時にクリアトナー層を冷却して固化させる。冷却ファン12、13は、クリアトナー層が形成された画像支持体Pをベルト部材11に担持搬送されている画像支持体Pを強制的に冷却する。光沢付与装置1は、冷却ファン12、13にそれぞれ連接させて冷却用のヒートシンクあるいはヒートパイプを配設させることができる。この様な冷却用のヒートシンクあるいはヒートパイプにより溶融状態にあるクリアトナー層の冷却と固化を促進させることができる。
【0142】
上記冷却ファン12、13による強制冷却により、ベルト部材11に搬送中の画像支持体Pのクリアトナー層の固化が促進される。そして、クリアトナー層は搬送補助ロール14と剥離ロール103が配置されている端部付近に搬送される頃には十分に冷却、固化され、端部において画像支持体Pはベルト部材11より以下の様な手順で剥離される。
【0143】
先ず、端部付近に搬送されてきた画像支持体Pは、クリアトナー層を介してベルト部材11に担持搬送されている状態におかれているが、この状態で搬送補助ロール14が画像支持体Pの裏面に接触することにより搬送を補助しながら保持する。搬送補助ロール14が画像支持体Pを裏面より保持している状態でベルト部材11が剥離ロール103の地点に到達すると、ベルト部材11は従動ロール104の方向(図の上方)に搬送方向を変更する。このとき、画像支持体Pは自身の剛性によりベルト部材11より剥離し、搬送補助ロール14により光沢付与装置1より排出される。
【0144】
以上の手順により、図1に示す光沢付与装置1は、画像が形成されクリアトナーを有する画像支持体のクリアトナーを加熱、加圧することにより所定厚みを有する溶融状態のクリアトナー層を形成する。そして、溶融状態のクリアトナー層を形成した画像支持体Pをベルト部材に担持、搬送させながらクリアトナー層を冷却、固化させ、クリアトナー層が固化した後、画像支持体Pをベルト部材11より剥離させ、ベルト部材11より剥離された画像支持体Pは装置外に排出される。
【0145】
なお、図1の光沢付与装置は、搬送補助ロール14と剥離ロール103により、画像支持体Pのベルト部材11からの剥離を実現しているが、剥離ロール103に代えて、たとえば剥離爪をベルト部材11と画像支持体Pの間に配置させても、画像支持体Pをベルト部材11より剥離することができる。
【0146】
前述した様に、本発明ではその上にクリアトナー層を形成する画像は、その作製方法が特に限定されるものではなく、たとえば、電子写真方式、印刷方式、インクジェット方式、銀塩写真方式等の画像形成方法により作製された画像等がある。
【0147】
図2は、電子写真方式によるフルカラー画像形成が行え、かつ、フルカラートナー画像上にクリアトナー層を形成することが可能な電子写真方式の画像形成装置の断面構成図である。なお、図2に示す画像形成装置でクリアトナー層を有するフルカラー画像を形成する場合、図3に示す様に、図1の光沢付与装置1を画像形成装置2の排紙部90付近に配置させる構成にすることが好ましい。この様に配置することにより、図2の画像形成装置に内蔵された定着装置で定着処理されたプリント物は、光沢付与装置1により画像支持体に形成されたクリアトナー層を写像性のある平滑で強固な光沢面にすることができる。また、トナー画像の定着強度も向上するので、特に屋外掲示用のポスター作製に好ましいものである。なお、図2に示す画像形成装置2への光沢付与装置1の配置例については、図3を用いて後述する。
【0148】
図2に示す画像形成装置2は、複数組のトナー画像形成部20Y、20M、20C、20Bk、ベルト状の中間転写ベルト26と給紙装置40及び定着装置50等から構成され通常「タンデム型カラー画像形成装置」とも呼ばれる装置にクリアトナー層形成部20Sが付加されている。
【0149】
本発明では、構成要素を総称する場合にはアルファベットの添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成要素を指す場合にはS(クリアトナー)、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、Bk(ブラック)の添え字を付した参照符号で示す。
【0150】
画像支持体にクリアトナーを供給するクリアトナー供給部20S、イエロー色のトナー画像形成を行うイエロー画像形成部20Y、マゼンタ色のトナー画像形成を行うマゼンタ画像形成部20M、シアン色のトナー画像形成を行うシアン画像形成部20C、及び黒色のトナー画像を形成する黒色画像形成部20Bkは、それぞれ像担持体としてのドラム状の感光体21(21S、21Y、21M、21C、21Bk)の周囲に配置された帯電極22(22S、22Y、22M、22C、22Bk)、露光部30(30S、30Y、30M、30C、30Bk)、現像装置24及びクリーニング装置25(25S、25Y、25M、25C、25Bk)を有する。
【0151】
画像形成装置2の上部には、画像読取部23が設置されている。原稿台上に載置された原稿は画像読取部23の原稿画像走査露光装置の光学系により画像が走査露光され、ラインイメージセンサに読み込まれる。ラインイメージセンサにより光電変換されたアナログ信号は、制御手段において、アナログ処理、A/D変換、シェーディング補正、画像圧縮処理等を行った後、露光部30S、30Y、30M、30C、30Bkに入力される。光沢を付与する領域は画面全面でもあるいは画面の一部でもよい。
【0152】
感光体21は、たとえば、有機光導電体を含有させた樹脂よりなる感光層がドラム状の金属基体の外周面に形成されてなる有機感光体よりなり、搬送される画像支持体Pの幅方向(図2において紙面に対して垂直方向)に伸びる状態で配設されている。感光層を構成する樹脂には、たとえば、ポリカーボネート樹脂等の感光層形成用樹脂が用いられる。なお、図2に示す実施形態では、ドラム状の感光体21を用いた構成例を説明しているが、これに限られずベルト状の感光体を用いてもよい。
【0153】
現像装置24は、それぞれ本発明に係るクリアトナー(S)、イエロートナー(Y)、マゼンタトナー(M)、シアントナー(C)及び黒色(Bk)の異なる色のトナーとキャリアからなる2成分現像剤を内包してなる。2成分現像剤として、フェライトをコアとしてその周りに絶縁性樹脂をコーティングしたキャリアと、本発明に係るクリアトナー、結着樹脂と顔料やカーボンブラック等の着色剤、荷電制御剤、シリカ、酸化チタン等を含有してなる各色のトナーとから構成される。
【0154】
キャリアは、たとえば平均粒径が10〜50μm、飽和磁化10〜80emu/gを有しトナーは粒径4〜10μmである。また、本発明に係るクリアトナーを含めて、図2に示す画像形成装置で使用されるトナーの帯電特性は、負帯電特性であり平均電荷量としては−20〜−60μC/gであることが好ましい。2成分現像剤は、これらキャリアとトナーとをトナー濃度が4質量%〜10質量%にとなる様に混合、調整したものである。
【0155】
中間転写体である中間転写ベルト26は、複数のローラにより回転可能に支持されている。中間転写ベルト26はたとえば10〜1012Ω・cmの体積抵抗を有する無端形状のベルトである。中間転写ベルト26は、たとえば、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等の樹脂材料を用いて形成することができる。中間転写ベルト26の厚みは50〜200μmが好ましい。
【0156】
クリアトナー供給部20S、トナー画像形成部20Y、20M、20C、20Bkより各感光体21(21S、21Y、21M、21C、21Bk)上に形成されたクリアトナー層と各色トナー画像は、回転する中間転写ベルト26上に一次転写ローラ27(27S、27Y、27M、27C、27Bk)により順次転写され(一次転写)、中間転写ベルト26上にはクリアトナー層と合成されたフルカラー画像が形成される。一方、画像転写後、感光体21Y、21M、21C、21Bkは各色のクリーニング装置25(25S、25Y、25M、25C、25Bk)により残留トナーが除去される。
【0157】
給紙装置40の用紙収納部(トレイ)41内に収容された画像支持体Pは、第1給紙部42により給紙され、給紙ローラ43、44、45A、45B、レジストローラ(第2給紙部)46等を経て、2次転写ローラ29に搬送され、画像支持体P上にクリアトナー層とカラー画像が転写される(二次転写)。
【0158】
なお、画像形成装置2の下部に鉛直方向に縦列配置された3段の用紙収納部41は、ほぼ同一の構成をなすから、同符号を付した。また、3段の給紙部42も、ほぼ同一の構成をなすから、同符号を付してある。用紙収納部41、給紙部42を含めて給紙装置40と称す。
【0159】
クリアトナー層とフルカラー画像が転写された画像支持体Pは、定着装置50において画像支持体Pが挟持されて、加熱、加圧の作用で溶融、固化することにより、画像支持体Pにクリアトナー層が設けられたフルカラーのトナー画像が画像支持体P上に固定される。画像支持体Pは、搬送ローラ対57に挟持されて搬送され、排紙搬送路に設けられた排紙ローラ47から排出され、装置外の排紙トレイ90上に載置される。
【0160】
一方、二次転写ローラ29により画像支持体P上にクリアトナー層とフルカラートナー画像を転写した後、さらに、画像支持体Pを曲率分離した中間転写ベルト26は、中間転写ベルト用のクリーニング装置261により残留したトナーが除去される。
【0161】
なお、画像支持体Pの両面にクリアトナー層を有するフルカラー画像を形成する場合は、画像支持体Pの第1面に形成したクリアトナー層とフルカラー画像を溶融、固化処理した後、画像支持体Pを分岐板49により排紙搬送路から分岐させ、両面搬送路48に導入して表裏反転してから再び給紙ローラ45Bから搬送される。画像支持体Pはクリアトナー供給部20S、各色の画像形成部20Y、20M、20C、20Bkにより第2面上にもクリアトナー層と各色よりなるフルカラートナー画像を形成し、定着装置50により加熱加圧処理されて排紙ローラ47により装置外に排出される。この様にして、画像支持体P両面にクリアトナー層により光沢付与されたフルカラートナー画像を形成することができる。
【0162】
以上の様に、図2に示す画像形成装置により画像支持体Pにクリアトナー層を有するフルカラー画像を形成することができる。
【0163】
このカラー画像に光沢を付与するために、本発明では、図3に示す様に、図2の画像形成装置2に光沢付与装置1を配置することができる。ここで、図3は図2に示す画像形成装置2に光沢付与装置1を取り付けた装置の一例を示す模式図である。図3は、図2の画像形成装置2の排紙部90の個所に光沢付与装置1を配置したもので、図2の画像形成装置2に内蔵された定着装置50で定着処理されたクリアトナーを有する画像支持体Pは、光沢付与装置1で画像支持体に形成されたクリアトナー層の光沢処理が行われ、クリアトナー層は写像性のある平滑で強固な光沢面を形成することができる。また、トナー画像の定着強度も向上するので、特に屋外掲示用のポスター等の作製に好ましいものである。
【0164】
また、図4は、図2に示す画像形成装置2の定着装置50の個所に光沢付与装置1を配置させたもので、二次転写ローラ29により画像支持体P上に転写されたクリアトナー層とフルカラートナー画像とを光沢付与装置1により同時に定着することができる。図4の装置によれば、光沢付与装置1が画像形成装置2に内蔵される形態をとることができるので、装置のコンパクト化を実現する上で好ましい。
【0165】
本発明に係るクリアトナーを用いて光沢画像を形成することが可能な画像支持体は、通常の方法で画像形成が行えるとともに、クリアトナー層を保持することができるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙、あるいは、コート紙等の塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布等が挙げられる。
【実施例】
【0166】
以下、実施例を挙げて本発明の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、下記文中に「部」と記載されている個所があるが「質量部」を表すものである。
【0167】
1.「クリアトナー1〜16」の作製
以下に記載の手順により16種類のクリアトナー、すなわち、「クリアトナー1〜16」を作製した。
【0168】
1−1.「樹脂粒子1〜6」の作製
(1)「樹脂粒子1」の分散液の作製
下記重合性単量体の混合物を95℃に加熱した状態で、アニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を3質量部含有する240質量部の水に添加し、当該混合物を超音波分散機により分散させて油滴を形成させて反応液とした。当該混合物を構成する重合性単量体は、
ポリオキシエチレン(2,2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
22質量部
ネオペンチルグリコール 1.2質量部
テレフタル酸 10質量部
イソフタル酸 0.6質量部
スチレン 80質量部
アクリル酸2−エチルヘキシル 20質量部
である。
【0169】
次に、この反応液を97℃の温度下で50時間反応させることにより、重量平均分子量が60,000のポリエステル樹脂を形成した。その後、反応液の温度を80℃に下げ、過硫酸カリウム(KPS)0.84質量部と2−クロロエタノール1.0質量部をイオン交換水240質量部に溶解させた水溶液を添加し、80℃にて3時間撹拌処理を行ってラジカル重合反応を行った。その後、反応液を40℃まで冷却処理することによりスチレンアクリル樹脂を形成した。
【0170】
以上の手順により、重量平均分子量が60,000と20,000にピークを有するポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる「樹脂粒子1」の分散液を作製した。
【0171】
(2)「樹脂粒子2」の分散液の作製
前記「樹脂粒子1」の分散液の作製において、1回目の97℃の温度下で行う重合反応時間を30時間に短縮し、2回目の重合反応で使用する過硫酸カリウム(KPS)の添加量を1.50質量部、2−クロロエタノールの添加量を1.80質量部に変更した。他は同じ手順を採ることにより、重量平均分子量が40,000と10,000にピークを有するポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる「樹脂粒子2」の分散液を作製した。
【0172】
(3)「樹脂粒子3」の分散液の作製
前記「樹脂粒子1」の分散液の作製において、1回目の97℃の温度下で行う重合反応時間を90時間に延長し、2回目の重合反応で使用する過硫酸カリウム(KPS)の添加量を0.56質量部、2−クロロエタノールの添加量を0.65質量部に変更した。他は同じ手順を採ることにより、重量平均分子量が100,000と30,000にピークを有するポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる「樹脂粒子3」の分散液を作製した。
【0173】
(4)「樹脂粒子4」の分散液の作製
前記「樹脂粒子1」の分散液の作製において、1回目の97℃の温度下で行う重合反応時間を20時間に短縮し、2回目の重合反応で使用する過硫酸カリウム(KPS)の添加量を1.85質量部、2−クロロエタノールの添加量を2.20質量部に変更した。他は同じ手順を採ることにより、重量平均分子量が30,000と8,000にピークを有するポリエステルとスチレンアクリル系共重合体よりなる「樹脂粒子4」の分散液を作製した。
【0174】
(5)「樹脂粒子5」の分散液の作製
先ず、下記組成の化合物よりなる化合物群を用意した。すなわち、
ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(平均付加モル数2.2)
140質量部
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数2)
70質量部
イソフタル酸ジメチル 30質量部
テレフタル酸 50質量部
ドデセニルコハク酸 50質量部
加熱乾燥した三口フラスコに、上記化合物A群及び触媒としてジブチルスズオキシド0.12質量部を投入後、減圧操作により容器内の空気を減圧し、さらに窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械撹拌により180℃で10時間還流処理した。その後、減圧蒸留にて200℃まで昇温を徐々に行いながら10時間撹拌処理し、粘稠状態になったところでGPCにて分子量測定を行い、重量平均分子量が40,000になったところで、減圧蒸留を停止して空冷し、「ポリエステル樹脂」を作製した。
【0175】
次に、前記「ポリエステル樹脂」を溶融状態のまま、「キャビトロンCD1010(ユーロテック(株)製)」に毎分100gの速度で移送した。また、別途準備した水性媒体タンクに試薬アンモニア水をイオン交換水で希釈して濃度0.37質量%に調製した希アンモニア水を投入し、熱交換器で120℃に加熱して毎分0.1リットルの速度で前記非晶性ポリエステル樹脂と同時に前記キャビトロンに移送した。この状態で回転子の回転周波数を60Hz、圧力を4.9×10Paの条件に設定してキャビトロンを運転することによりポリエステル樹脂単独の「樹脂粒子5」の分散液を作製した。
【0176】
(6)「樹脂粒子6」の分散液の作製
撹拌装置を取り付けたフラスコに下記化合物を投入、溶解させて混合液を作製し、さらに80℃に加温した。
【0177】
スチレン 125質量部
n−ブチルアクリレート 47質量部
メタクリル酸 11質量部
一方、撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けたセパラブルフラスコに、アニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:SDS)7.2質量部をイオン交換水2760質量部に溶解させた界面活性剤溶液を投入し、窒素気流下で撹拌速度230rpmで撹拌しながら80℃に昇温させた。次いで、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス(エム・テクニック(株)製)」により、前記界面活性剤溶液(80℃)中に前記混合液(80℃)を混合分散させ、均一な分散粒子径を有する乳化粒子(油滴)が分散された乳化液を調製した。
【0178】
この分散液に、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.9質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃にて3時間にわたり加熱・撹拌して重合反応を行った。得られた反応溶液に、重合開始剤(KPS)7.4質量部をイオン交換水240質量部に溶解させた溶液を添加し、15分後に温度を80℃とした後、下記化合物よりなる混合液を100分間かけて滴下した。
【0179】
スチレン 395質量部
n−ブチルアクリレート 140質量部
メタクリル酸 45質量部
n−オクチルメルカプタン 12質量部
この系を80℃で60分間にわたり加熱・撹拌させた後、40℃まで冷却することにより、スチレンアクリル系共重合体樹脂単独の「樹脂粒子6」の分散液を作製した。得られた「樹脂粒子6」は重量平均分子量が28,000と14,000にピークを有するものであった。
【0180】
1−2.「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1〜15」の分散液の調製
(1)「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1」の分散液の調製
アニオン系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:SDS)1.0質量部をイオン交換水30質量部に投入、溶解、撹拌して界面活性剤水溶液を調製した。この界面活性剤水溶液中に、
モノエステル化合物(1−6) 65質量部
(CH−(CH20−COO−(CH21−CH
マイクロクリスタリンワックス「HNP−0190(日本精蝋(株)製)」
7質量部
を90℃に加熱して溶解させた混合物を徐々に添加した。次いで、前記混合物を添加した界面活性剤水溶液を80℃にして、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス(エムテクニック社製)」を用いて、回転数18,000rpmで1時間分散処理を行うことにより、「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1」の分散液を調製した。なお、炭化水素化合物である上記「マイクロクリスタリンワックス」は、前述した13C−NMR測定等の測定方法を用いることにより、分子構造中に分岐鎖状構造と環状構造を有するものが存在するものであることを確認した。
【0181】
(2)「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子2〜15」の分散液の調製
前記「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1」の分散液の調製において使用するモノエステル化合物と炭化水素化合物を後述する表1に示すものに変更した他は同じ手順で「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子2〜15」を調製した。なお、表中のモノエステル化合物の項の炭素数は、一般式R−COO−Rで表されるモノエステル化合物を構成する炭化水素基RとRの炭素数を表すものである。たとえば、「モノエステル化合物(1−6)」は、炭素数欄が「21−22」と記されているが、炭素数21の炭化水素基Rと炭素数22の炭化水素基Rより構成されることを意味する。
【0182】
また、表1に示す比較用モノエステル化合物「比−1」と「比−2」は下記構造を有するものである。すなわち、
「比−1」:CH−(CH−COO−(CH−CH
「比−2」:CH−(CH32−COO−(CH33−CH
さらに、表1中で炭化水素化合物として「イソパラフィンワックス」を使用するものがあるが、当該「イソパラフィンワックス」は前述した13C−NMR測定等の測定方法を用いて、分子構造中に分岐鎖状構造を有するものであることを確認した。
【0183】
1−3.「クリアトナー1〜15」の作製
(1)「クリアトナー母体粒子1」の作製
撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、
「樹脂粒子1」 1400質量部(固形分換算)
「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1」
10質量部(固形分換算)
イオン交換水 2000質量部
を投入、撹拌した。反応容器内の温度を30℃に調整後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを10に調整した。
【0184】
次いで、塩化マグネシウム・6水和物35質量部をイオン交換水35質量部に溶解した水溶液を撹拌の下で30℃にて10分間かけて添加した。3分間放置後に昇温を開始し、この系を60分間かけて90℃まで昇温させ、90℃に保持させたまま上記粒子の凝集、融着を継続した。この状態で「マルチサイザー3(ベックマンコールター社製)」を用いて凝集、融着により得られた粒子の粒径測定を行い、粒子の体積基準メディアン径が5.5μmになったときに、塩化ナトリウム150質量部をイオン交換水600質量部に溶解させた水溶液を添加して粒子の凝集を停止させた。
【0185】
凝集停止後、熟成処理として液温を98℃にして加熱撹拌を行いながら「FPIA−2100(シスメックス社製)」を用いて凝集粒子の平均円形度が0.965になるまで融着を進行させて「クリアトナー母体粒子1」を形成させた。その後、液温を30℃まで冷却し、塩酸を使用して液中をpHを2に調整して撹拌を停止した。
【0186】
上記工程を経て作製した「クリアトナー母体粒子分散液1」をバスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40(松本機械(株)製)」で固液分離し、「クリアトナー母体粒子1」のウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機でろ液の電気伝導度が5μS/cmになるまで45℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤ(セイシン企業(株)製)」に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥処理を行って「クリアトナー母体粒子1」を作製した。
【0187】
(2)外添処理
作製した「クリアトナー母体粒子1」に下記外添剤を添加して、ヘンシェルミキサ(三井三池鉱業社製)にて外添処理を行うことにより「クリアトナー1」を作製した。
【0188】
ヘキサメチルシラザン処理したシリカ(平均一次粒径12nm)
1.0質量部
n−オクチルシラン処理した二酸化チタン(平均一次粒径20nm)
0.3質量部
なお、ヘンシェルミキサによる外添処理は、撹拌羽根の周速35m/秒、処理温度35℃、処理時間15分の条件の下で行った。
【0189】
(3)「クリアトナー2〜15」の作製
前記「クリアトナー1」の作製で用いた「樹脂粒子1」と「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子1」を、表1に示す「樹脂粒子」と「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子」に変更してクリアトナー母体粒子を作製した。その他の作製条件は「クリアトナー1」のときと同様にして「クリアトナー2〜15」を作製した。
【0190】
上記「クリアトナー1〜15」を作製する際に使用した「樹脂粒子」と「モノエステル化合物/炭化水素化合物粒子」の内容を下記表1に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
1−4.「クリアトナー16」の作製
特開2002−341619号公報(前記特許文献2)に開示されているクリアトナーを以下の手順で作製した。すなわち、下記化合物を「ヘンシェルミキサ(三井三池鉱業社製)」で十分混合した後、2軸押出混練機「PCM−30(池貝鉄工(株)製)」の排出部を取り外したものを使用して溶融混練後冷却した。
【0193】
ポリエステル樹脂(テレフタル酸/ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物/シクロヘキサンジメタノールから得た線状ポリエステル樹脂(モル比=5:4:1))
100質量部
ペンタエリスリトールベヘン酸エステル 6質量部
荷電制御剤(ジベンジル酸ホウ素) 1質量部
得られた混練物を冷却ベルトで冷却した後、フェザーミルで粗粉砕した。その後、機械式粉砕機「KTM(川崎重工(株)製)」で平均粒径9〜10μmまで粉砕し、さらに、ジェット粉砕機「IDS(日本ニューマチック工業社製)」で平均粒径5.5μmになるまで粉砕処理と粗粉分級を行った。その後、粗粉分級したものよりロータ型分級機(ティープレックス型分級機タイプ「100ATP(ホソカワミクロン(株)製)」)を使用して体積基準メディアン径が5.5μmの「クリアトナー母体粒子16」を作製した。
【0194】
作製した「クリアトナー母体粒子16」に下記外添剤を添加して、ヘンシェルミキサ(三井三池鉱業社製)にて外添処理を行うことにより「クリアトナー16」を作製した。
【0195】
ヘキサメチルシラザン処理したシリカ(平均一次粒径12nm)
1.0質量部
n−オクチルシラン処理した二酸化チタン(平均一次粒径20nm)
0.3質量部
なお、ヘンシェルミキサによる外添処理は、撹拌羽根の周速35m/秒、処理温度35℃、処理時間15分の条件の下で行った。
【0196】
以上の手順により、「クリアトナー1〜16」を作製した。
【0197】
2.評価実験
2−1.「クリアトナー現像剤1〜16」の調製
前記「クリアトナー1〜16」に対して、メチルメタクリレート樹脂を被覆してなる体積平均粒径40μmのフェライトキャリアを、クリアトナー濃度が6質量%になるように混合し、2成分現像剤の形態をとる「クリアトナー現像剤1〜16」を調製した。
【0198】
2−2.評価実験
(1)評価条件
前記「クリアトナー現像剤1〜16」を図1に示す構成の光沢付与装置1に搭載し、市販の各種画像形成装置により同一の画像を出力した画像支持体全面にクリアトナー層を形成する様に光沢付与装置1を後述する条件に設定した。画像支持体は、市販の「OKトップコート+(坪量157g/m、紙厚131μm)(王子製紙(株)製)」を使用した。なお、画像出力に使用した画像形成装置は、下記(a)〜(c)の市販品を使用し、各画像形成装置より3万枚ずつ合計9万枚の評価用画像支持体を作製して、光沢付与装置1で9万枚の連続運転を行った。ここで、本発明の構成を満たす「クリアトナー1〜9」を用いて評価を行ったものを「実施例1〜9」、本発明の構成から外れる「クリアトナー10〜16」を用いて評価を行ったものを「比較例1〜7」とした。
【0199】
使用した画像形成装置は、以下のとおりである。すなわち、
(a)電子写真方式:「bizhub C353CS(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)製)」
(b)インクジェット方式:「インクジェットプリンタPX−5800(セイコーエプソン(株)製)」
(c)製版方式:「RISOデジタルスクリーン製版機 SP400D(理想科学工業(株)製)」
光沢付与装置1による上記連続運転では、各画像形成装置で作製したプリント物が1枚ずつ連続でクリアトナー層を形成する様に、プリント物を光沢付与装置1に供給した。前述の「各画像形成装置で作製したプリント物が1枚ずつ連続で」とは、たとえば、電子写真方式によるプリント物→インクジェット方式によるプリント物→製版方式によるプリント物→・・・の順番に各装置で出力したプリント物を1枚ずつ並べたことを意味する。
【0200】
なお、図1の光沢付与装置1は、下記仕様に設定した。すなわち、
(a)クリアトナーの現像量:4g/m
(b)ベルト部材材質:ポリイミドフィルム(厚さ50μm)上にPFA層(厚さ10μm)を配置したもの
(c)ベルト部材表面粗さ(初期表面粗さ):Ra 0.4μm
(d)加熱、加圧ロールの仕様
・加熱ロール:外径100mm、厚さ10mmのアルミニウム製基体
・加圧ロール:外径80mm、厚さ10mmのアルミニウム製基体上に厚さ3mmのシリコーンゴム層を配置したもの
・加熱ロール及び加圧ロールの内部にハロゲンランプを各々配置したものでロール表面温度は加熱ロールは155℃、加圧ロールは115℃に設定(サーミスタにより温度制御)
・加熱ロールと加圧ロールのニップ幅:11mm
(e)剥離ロール位置での画像支持体温度:50±5℃になるように設定
(f)加熱、加圧ロールニップ部より剥離ロール位置までの距離:620mm
(g)画像支持体搬送速度:220mm/秒
(h)画像支持体搬送方向:A3サイズの上記画像支持体を縦方向に搬送させる
(i)評価環境:常温常湿環境(温度20℃、相対湿度50%RH)
(2)評価項目
図1の光沢付与装置1による9万枚の連続運転を開始時、約6万枚、最終時のベルト表面の劣化状況を目視で評価するとともに、各画像形成装置により作製された画像上に形成されたクリアトナー層表面における光沢度を写像性により定量的に評価するとともに目視による定性評価を行った。
【0201】
〈ベルト表面の劣化状態〉
A:目視及び人差し指による触感のいずれの方法でも亀裂やキズの存在を確認できないレベル
B:目視で亀裂やキズの存在を確認できないが、人差し指による触感で小さな亀裂やキズが存在することを確認できるレベル
C:目視により亀裂やキズの存在を確認できるレベル
後述する表2に示す様に、9万枚の連続プリント実施に伴うベルト表面の劣化の進行は、「実施例1〜9」と「比較例1〜7」のいずれも同じものであった。
【0202】
〈写像性の評価〉
以下の手順で、「写像性」の評価を行った。ここで、「写像性」とは光沢度の評価方法の1つで、光の加減によりクリアトナー層表面に像が映し出されたときに、映し出された像がどの程度鮮明、かつ、歪みなく映し出されているかを、定量的に評価するものである。具体的には、TM式写像性測定装置と呼ばれる測定装置により写像性C値と呼ばれる百分率で規定する数値により評価を行うもので、写像性C値が大きくなるほど優れた光沢度を有するものである。図5にTM式写像性測定装置による写像性C値測定の原理を示す。図5で、AはTM式写像性能測定装置、A1はランプ、A2はスリット、A3はコリメータレンズ、A4は結像レンズ、A5は光学パターン(光学くし)、A6は受光器、A7はモータ、Sは試料を表す。
【0203】
本評価では、前記画像形成装置により画像支持体上に形成された画像上に、図1に示す光沢付与装置により形成されたクリアトナー層表面に映し出される幅2mmの光学くし画像について、写像性C値を算出して評価を行った。具体的には、市販のTM式写像性測定装置「ICM−1T(スガ試験機(株)製)」を使用し、測定角度45°、幅が2mmの光学くしで45度写像性C値を測定、算出し、下記基準により評価を行った。上記TM式写像性測定装置による測定は、測定孔20mm、電源容量が単相100V、2Aで行い、当該測定装置管理用の基準板である黒板ガラス「OPTIC STANDARDS(反射測定45°/60°)(スガ試験機(株)製)」により校正した。
【0204】
45度写像性C値は40以上のものを合格とし、特に、70以上のものは優れているもの、60以上70未満は良好なものと評価した。
【0205】
結果を表2に示す。
【0206】
【表2】

【0207】
表2の結果から明らかな様に、本発明の構成を満たす「クリアトナー1〜9」を用いた「実施例1〜9」は、いずれもベルト部材表面の劣化が進行した状態におかれても形成されたクリアトナー層は良好なレベルの写像性C値を維持できることが確認された。また、「実施例1〜9」では、電子写真方式、インクジェット方式、製版方式のいずれの画像形成方法で画像を形成した画像支持体に対して良好な結果が得られた。一方、本発明の構成から外れる「クリアトナー10〜16」を用いた「比較例1〜7」では、ベルト部材表面の劣化進行に伴ってクリアトナー層の写像性C値が顕著に低下していく結果になり、「実施例1〜9」で得られた様な効果は再現できなかった。
【符号の説明】
【0208】
1 光沢付与装置(定着装置)
10 加熱加圧装置
101 加熱ロール
102 加圧ロール
103 剥離ロール
104 従動ロール
11 ベルト部材
12、13 冷却ファン
14 搬送補助ロール
2 画像形成装置
20S クリアトナー供給部
20Y、20M、20C、20Bk 画像形成部
21(21S、21Y、21M、21C、21Bk) 感光体
22(22S、22Y、22M、22C、22Bk) 帯電装置
24(24S、24Y、24M、24C、24Bk) 現像装置
25(25S、25Y、25M、25C、25Bk) クリーニング装置
26 中間転写ベルト
27(27S、27Y、27M、27C、27Bk) 1次転写ロール
30S、30Y、30M、30C、30Bk 露光部
P 画像支持体
A TM式写像性能測定装置
A1 ランプ
A2 スリット
A3 コリメータレンズ
A4 結像レンズ
A5 光学パターン(光学くし)
A6 受光器
A7 モータ
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像及びクリアトナーを担持した画像支持体をベルトに密着させた状態で、前記クリアトナーを加熱した後、冷却を行って前記画像支持体にクリアトナー層を形成する工程を有する画像形成方法に使用されるクリアトナーであって、
前記クリアトナーは、
少なくともポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、
下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、
分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物と、を少なくとも含有してなるものであることを特徴とするクリアトナー。
一般式(1):R−COO−R
〔式中、R及びRは、各々、炭素数13〜30の炭化水素基であり、各々、置換基を有するものでも、置換基を有さないものでもよく、また、同一のものでも、異なるものでもよい。〕
【請求項2】
前記クリアトナーに含有される樹脂は、
水系媒体中にスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体を存在させた状態で、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成した後、
前記スチレン単量体と前記アクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のクリアトナー。
【請求項3】
前記樹脂は、重量平均分子量が10,000以上30,000以下の領域と、40,000以上100,000以下の領域にそれぞれピークを有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のクリアトナー。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるモノエステル化合物の融点が39℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリアトナー。
【請求項5】
少なくとも、
画像が形成された画像支持体にクリアトナーを担持させる工程と、
クリアトナーを担持させた画像支持体をベルトに密着させ、この状態で、前記クリアトナーを加熱する工程と、
加熱を行った後、前記画像支持体を冷却する工程と、
冷却した前記画像支持体をベルトより剥離する工程により、
前記画像支持体にクリアトナー層を形成する画像形成方法であって、
前記画像形成方法に使用されるクリアトナーが、
少なくともポリエステルとスチレンアクリル系共重合体からなる樹脂と、
下記一般式(1)で表されるモノエステル化合物と、
分岐鎖状構造及び環状構造の少なくともいずれか一方の構造を有する炭化水素化合物と、を少なくとも含有してなるものであることを特徴とする画像形成方法。
一般式(1):R−COO−R
〔式中、R及びRは、各々、炭素数13〜30の炭化水素基であり、各々、置換基を有するものでも、置換基を有さないものでもよく、また、同一のものでも、異なるものでもよい。〕
【請求項6】
前記クリアトナーに含有される樹脂が、
水系媒体中にスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体を存在させた状態で、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合重合させてポリエステルを形成した後、
前記スチレン単量体と前記アクリル酸エステル単量体とをラジカル重合させてスチレンアクリル系共重合体を形成してなるものであることを特徴とする請求項5に記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−266858(P2010−266858A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90147(P2010−90147)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】