説明

クリーンルーム排気の清浄化方法

【課題】 電子機器や精密機器等を製造する工程において使用されるクリーンルーム等からの排気を取入れて分子状汚染物質と粒子状汚染物質を除去する清浄化を行って当該クリーンルーム等に長期に亘り連続して循環供給を可能とする方法を提供する。
【解決手段】 調温調湿されたクリーンルーム等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として清浄化して、前記クリーン作業空間に循環供給するにあたり、処理空気を、調温調湿装置に通じ、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じるか、又は、当該処理空気を屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じた後、調温調湿装置に通じるクリーンルーム排気の清浄化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、電子部品、精密機器、精密部品等を製造する工程において使用されるクリーンルーム、クリーンチャンバ又はミニエンバイロメントからの排気を取入れて処理空気として、その処理空気中の塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質と粒子状汚染物質を除去する清浄化を行って調温調湿した後、これを当該クリーンルーム、クリーンチャンバ又はミニエンバイロメントに長期に亘り連続して循環供給を可能とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子機器やその部品、精密機器やその部品等は高い清浄度に保たれたクリーンルーム内で加工、製造されている。一般的なクリーンルームは、系外より取入れた空気からダストやミスト等の粒子状汚染物質を除去する清浄化と調温調湿とを行って当該クリーンルーム等に連続的に供給する。その供給量は、クリーンルーム、クリーンチャンバ又はミニエンバイロメントからの排気量の合計とほぼ同量に保つような方式の空調設備が用いられている。
【0003】
しかしながら、系外へ排出される空気は、前述のようにエネルギーを用いて調温調湿したものであり、省エネルギーの観点からは、系外へ排出する空気量をできるだけ少なくして、クリーンルーム内の空気を清浄化して、循環使用可能なように構成することが好ましい。又、クリーンルーム内において、被加工物に対し、薬剤を使用して加工作業が行われる際には、加工作業に伴って分子状汚染物質が発生するため、近年ではクリーンルーム内の空気を循環させる際に、粒子状汚染物質だけでなく分子状汚染物質も好適に除去できるように構成した空気清浄化装置も開発されている。
【0004】
(従来の技術)
このうち粒子状汚染物質の除去装置としては、クリーンルーム内の空気を循環供給させる管路中の随所に高性能フィルタを設置して清浄度クラスに応じた除去が行われている。すなわち、図5は、従来技術による清浄化装置の説明図であるが、高性能フィルタとしては、処理空気導入口1乃至調温調湿装置60の上流側に高性能フィルタ(3)61及び又は下流側(図示せず)に設置され、乃至は、従来技術によるクリーンルーム100内の清浄化調温調湿空気吹出し口105にフィルタファン(1)114と一体化したファンフィルタユニット(FFU)110の中に高性能フィルタ(4)115として配設されている。なお、図5に示した従来の調温調湿装置60は、高性能フィルタ(3)61と従来の冷却除湿器62と従来の加温器63と従来の加湿器64から構成されており、清浄化調温調湿空気は、清浄化調温調湿空気送風機(3)101で昇圧されて清浄化調温調湿空気供給口2に流入する。
【0005】
分子状汚染物質は、クリーンルーム内の加工作業で薬剤を取扱った際に発生しており、多くの場合、トリメチルアミン(TMA)、トリエチルアミン(TEA)、N−メチルピロリドン(NMP)等の塩基性、且つ、有機性のアミン類;並びにシンナ類、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノブチルエーテル(EGMBE)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、乳酸エチル、シクロヘキサノン等の有機性物質である。
【0006】
この他の分子状汚染物質は、環境大気、人体及び取扱う薬剤に由来する塩基性のアンモニア、環境大気中に存在する酸性のNOx、SOx、Cl-並びに環境大気中に存在する極めて多種類の有機性物質である。
【0007】
又、環境大気中に存在するアミン類を含む有機性分子状汚染物質は、主要なものだけで60〜70種類検出され、分子量は50〜350の範囲にあり、濃度は最高5μg/m3で多くは0.2〜0.01μg/m3の範囲にあり、総量はヘキサデカン換算で50μg/m3程度である。
【0008】
一方、分子状汚染物質の除去装置としては、ケミカルフィルタが広く用いられており、高性能フィルタと同様に、クリーンルーム内の空気を循環供給させる管路中の複数個所に配設されている。すなわち、図5において、従来の調温調湿装置の60の上流側に設置するケミカルフィルタユニット80の中に、通常3種類のケミカルフィルタ(A1)81とケミカルフィルタ(B1)82とケミカルフィルタ(C1)83が組み込まれている。
【0009】
又、前記したファンフィルタユニット(FFU)110の中には、ケミカルフィルタ(A2)111、ケミカルフィルタ(B2)112、ケミカルフィルタ(C2)113が組み込まれている。ここでケミカルフィルタ(A)は酸性分子状汚染物質を、ケミカルフィルタ(B)は塩基性分子状汚染物質を、ケミカルフィルタ(C)は有機性分子状汚染物質を捕集して吸着除去する。
【0010】
このうち、ケミカルフィルタ(B)は、布状フィルタ材に酸性薬剤を含浸させたもの、繊維状フィルタ材に陽イオン交換基を付加したもの又は布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製してその袋の中に陽イオン交換樹脂を充填したものが用いられる。
【0011】
したがって、ケミカルフィルタ(B)における捕集・除去の原理は、フィルタ材上で酸と塩基の中和反応を生起させて不揮発性の中和物に転化させることである。それゆえ、フィルタ材に含浸させた酸性物質量と反応する塩基性物質の化学当量以上の塩基性汚染物質は捕集・除去が不可能となるゆえ、必然的に寿命が存在するという問題がある。そのため、寿命となったケミカルフィルタ(B)は新品と取替えるという後述する大懸りな作業が不可避となる。
【0012】
一方、有機性物質を捕集・除去するケミカルフィルタ(C)は、布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製して、その袋中に粒状活性炭を充填したもの、又は、活性炭繊維をフィルタ材としたものが用いられている。
【0013】
したがって、ケミカルフィルタ(C)における捕集・除去の原理は、有機性物質を選択率良く物理吸着することであるから、充填した活性炭の飽和吸着量以上の有機性汚染物質量は捕集・除去が不可能となるゆえ、これまた寿命が存在するという問題がある。なお、アミン類のうち、強塩基性のアミンはケミカルフィルタ(B)で、弱塩基性のアミンはケミカルフィルタ(C)で捕集・除去される。
【0014】
つまり、前述のケミカルフィルタ(B)の場合と同様に、寿命となったケミカルフィルタ(C)は新品と取替えるという大懸りな作業が不可避となる。
【0015】
さらに、酸性物質を捕集・除去するケミカルフィルタ(A)は、布状フィルタ材に塩基性薬剤を含浸させたもの、繊維状フィルタ材に陰イオン交換基を付加したもの又は布状フィルタ材にプリーツを付けて袋状に縫製してその袋の中に陰イオン交換樹脂を充填したものが用いられる。
【0016】
したがって、ケミカルフィルタ(A)における捕集・除去の原理は、フィルタ材上で塩基と酸の中和反応を生起させて不揮発性の中和物に転化させることである。それゆえ、フィルタ材に含浸させた塩基性物質量と反応する酸性物質の化学当量以上の酸性汚染物質量は捕集・除去は不可能となるゆえ、必然的に寿命が存在するという問題がある。
【0017】
このように、前述のケミカルフィルタ(B)、(C)の場合と同様に、寿命となったケミカルフィルタ(A)は新品と取替えるという大懸りな作業が不可避となる。
【0018】
以上のごとく、一般的に、ケミカルフィルタ(A)、(B)、(C)はいずれも寿命があり、取替え作業によって産業廃棄物となり、又、取替え作業時には、それを取付けていたクリーン作業空間での製造工程は操業を停止することになる。そして、近時の半導体製造及び液晶ディスプレイ製造分野においてはいずれも基板は大型化しており、そのために産業廃棄物量を増大させることになり、又、取替え頻度も増加させることになる。
【0019】
さらに、取替え時には当該クリーン作業空間や清浄空気管路やそれの関連機器は、その工程設備の外側にある雰囲気に曝すことになる。そして、供給しようとしている清浄空気中のアンモニア0.1ppb以下、有機物3.2ppb以下に対してその雰囲気は明らかに0.1ppbを越えるアンモニア、3.2ppbを越える有機物を含有する空気であるから、取替え前までは、清浄空気の雰囲気下にあったクリーン作業空間や清浄空気管路やそれが接続している関連機器、当該設備の内側も確実に汚染される。特にアンモニアと水の分子は金属表面に吸着付着しやすい。
【0020】
それゆえ、取替え作業は終了しても、クリーン作業空間や清浄空気管路やそれの関連機器を清浄空気の雰囲気下に復旧させるのに長時間のクリーンアップ作業を要することになる。この間の操業停止による損失は莫大となる問題を誘起している。
【0021】
又、上記したように、取替え作業時に、例えば、常に3〜5ppb存在するアンモニアを含有する屋内空気に曝したとすると、金属表面に吸着付着したアンモニアは、復旧後に清浄空気の流れによって、少しずつ脱離して清浄空気流中に混入する。例えばこの脱離によりアンモニアの濃度が0.2ppbとなったとすると、クリーン作業空間内のガラス基板を汚染する確率が倍増することになると考えられる。又、清浄空気中の水分子が分子運動で金属表面等に凝縮するとき、アンモニア分子がその凝縮熱を奪って気化する精留効果によっても、清浄空気中のアンモニア濃度は0.2ppb以上となる。つまり、調温調湿した空気中から低分子量、低沸点のアンモニアを0.1ppb以下にすることは極めて困難である。
【0022】
さらに又、前述したように、クリーンルーム排気中には、アンモニアと塩基性であって且つ有機性であるアミン類の分子状汚染物質、及び多種類の有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質が混在している。これらの分子状汚染物質を、ケミカルフィルタ(A)、(B)、(C)によって捕集・除去する場合、アンモニアとTMAはケミカルフィルタ(B)で選択性よく捕集・除去される。しかしながら、TEAとNMPはケミカルフィルタ(B)での捕集・除去は低率であって、主としてケミカルフィルタ(C)で物理吸着により捕集・除去される。ところが、ケミカルフィルタ(C)の吸着容量は一般的に小さいのに加えて、TEAやNMPよりも分子量の大きい他の有機性分子状汚染物質が優先して吸着するため、予想以上に短時間でTEAやNMPの捕集・除去率は低下する。その結果、ケミカルフィルタ(C)は短時間で新品との交換が必要となる。
【0023】
又、前述したように、取入れたクリーン作業空間の排気、すなわち、処理空気中には、塩基性のアンモニアと、塩基性であって且つ有機性であるアミン類の分子状汚染物質、及び様々な分子量を有する有機性分子状汚染物質、及びNOx、SOx、Cl-等の酸性分子状汚染物質が混在している。加えて、それぞれの分子状汚染物質の発生状況はその成分を含有している薬剤を使用した瞬間や化学反応によってその分子状汚染物質を発生させるような薬剤を使用した瞬間に発生するから、その分子状汚染物質の濃度は数ppmから1ppbの変動幅で脈動状に急変動している。
【0024】
その様な分子状汚染物質の濃度の変動状態が、処理空気導入口においてはいくらか平準化された状態となってはいるが、図5に示すケミカルフィルタ(A1)81、ケミカルフィルタ(B1)82、ケミカルフィルタ(C1)83に流入した場合、それぞれのケミカルフィルタの吸着容量に充分余裕のある時点では、化学吸着するNOx、SOx、Cl- はケミカルフィルタ(A1)81で捕集・除去され、又、アンモニアとTMAはケミカルフィルタ(B1)82で捕集・除去され、物理吸着されるTEA、NMP、シンナ類、EGMBE、PGMEA、MIBK、乳酸エチル、シクロヘキサノン等はケミカルフィルタ(C1)83で捕集・除去される。
【0025】
ところが、例えば、NMP(分子量:99.1)とPGMEA(分子量:132.2)をクリーン作業空間内の加工作業で使用する場合、ケミカルフィルタの吸着容量に充分余裕のある時点では、ケミカルフィルタ(C1)83でそれらの分子状汚染物質は捕集・除去される。しかしながら、そのケミカルフィルタ(C1)83の吸着容量の余裕が僅かになってきた時点で、PGMEAを使用する加工作業が行われ、最高値がppmオーダとなる脈動状でケミカルフィルタ(C1)83に流入すると、NMPがそのケミカルフィルタ(C1)83からPGMEAによって追い出される現象が発生する。同時に、ケミカルフィルタ(C1)83に吸着していた大気由来のNMPよりも分子量の小さい汚染物質がPGMEAによって追い出され、下流に漏出する。以上の現象が発生することを本発明者らは見いだした。
【0026】
下流の清浄化調温調湿空気吹出し口105(図5)に設けたケミカルフィルタ(C2)113の吸着容量に余裕のある時点では、ケミカルフィルタ(C1)83から漏出したNMPとNMPよりも分子量の小さい分子状汚染物質はケミカルフィルタ(C2)113で捕集・除去される。しかしながら、吸着容量の余裕が僅かになってきた時点では、前記同様にNMPによって、それよりもさらに分子量の小さい汚染物質が追い出され、従来技術のクリーン作業空間を汚染する現象が発生する。
【0027】
このように、ケミカルフィルタは吸着容量が限られており、定期的にあるいは前述の現象が発生した際には非定期的に交換する必要がある。そして、交換に際してはクリーンルーム内の加工作業の停止を伴う大懸りな取替え作業が発生する。加えて、使用済みのケミカルフィルタは吸着能力を再生することが困難であるため、最終的には廃棄せざるを得ない。すなわち、産業廃棄物となる。しかしながら、最近の環境保全の観点からは、産業廃棄物の一層の削減が強く社会から要請されているゆえ、ケミカルフィルタのような使い捨てタイプのものから、繰返し再生使用可能な空気清浄化装置を開発することが強く求められている。
【0028】
そのため、最近では、ケミカルフィルタを用いない、再生可能な吸着材を用いて吸着と再生が同時に行えて、半永久的に使用可能な空気清浄化装置乃至高純度空気調製装置が提案されるに至っている(特許文献1を参照。)。
【0029】
【特許文献1】特開2001―141274号公報
【特許文献2】特許第3320730号明細書
【特許文献3】特許第3078697号明細書
【非特許文献1】2005年度半導体製造装置技術ロードマップ報告書(日本半導体製造装置協会発行)
【0030】
この空気清浄化装置は、ゼオライトを主成分とするハニカム状積層体を円筒上に形成して、その軸線方向に空気が通過するように構成したハニカム積層体ロータと当該ロータをその軸線周りに回転する駆動手段を備えたものである。そしてハニカム状積層体ロータが回転する空間は、軸線周りに吸着部、再生部、冷却部に区分されている。つまり、吸着部、再生部、冷却部が順次移動していくことになり、これが連続的に繰返されるようになっている。
【0031】
この空気清浄化装置において、処理空気(汚染物質を含有する空気)をハニカム状積層体の吸着部に通じて清浄化してクリーンルームに供給すると同時に加熱した空気を再生空気としてハニカム状積層体の再生部に送り、吸着部で吸着させた分子状汚染物質を加熱空気中に離脱して排出させている。
【0032】
ここで処理空気は送風機を稼動させて、クリーンルーム内空気を装置内に導入している。そして導入した空気(処理空気)は、処理空気ダクト内を流下して、ハニカム状積層体ロータへ送られ清浄化されてクリーンルームに循環供給される。この空気清浄化装置においては、外気供給手段から一部の外気が取入れられ、処理空気に混入されている。
【0033】
つまり、一部の外気を混入させた処理空気が、ハニカム状積層体ロータの軸線方向の一方向側から他方側に通過する間で分子状汚染物質が吸着部で吸着除去される。そして吸着材によって清浄化された処理空気は、除塵フィルタを通過して粒子状汚染物質を除去してクリーンルームに循環供給されている。
【0034】
ところで、前述した様に、環境大気中には極めて多種類の有機性分子状汚染物質、アンモニアやアミン類である塩基性分子状汚染物質、及びNOx、SOx等の酸性分子状汚染物質が既に存在している。又、クリーン作業空間では、様々な有機性物質や塩基性物質が取扱われており、特に、近時はトリエチルアミン(TEA)やトリメチルアミン(TMA)やNメチルピロリドン(NMP)等の塩基性であって且つ有機性の物質もしばしば取扱われている。それらは分子状汚染物質となって清浄空気中に混入する。したがって、処理空気中には有機性に限らず、アンモニアを代表とする塩基性分子状汚染物質、Cl-、SOx、NOx等の酸性分子状汚染物質、塩基性であって且つ有機性の分子状汚染物質が存在することになる。
【0035】
それゆえ、それらの分子状汚染物質を効率良く吸着除去するためには、ハニカム状積層体に担持させる吸着部材であるゼオライトの弱疎水性と強疎水性の割合を変える必要があるだけでなく、ハニカム状積層体ロータの吸着部で吸着除去が困難な分子状汚染物質が存在する際には、その空気清浄化装置とクリーンルームとの間にさらにケミカルフィルタを設置して除去することが記載されている。このように特許文献1に記載の空気清浄化装置は、吸着ロータと産業廃棄物となるケミカルフィルタ(化学吸着フィルタ)を併用する装置である。
【0036】
他方、クリーンルーム排ガスを導入して分子状汚染物質を吸着除去する吸着材として従来から知られている活性炭、シリカゲル、モレキュラシーブ、ゼオライト等の吸着材を用いて、排ガス中の非メタン系炭化水素を0.2ppm以下まで吸着除去する清浄気体の調製方法及び調製装置が開示されている(特許文献2を参照。)。
【0037】
当該特許文献2に示されるクリーンルーム排ガスからの清浄気体の調製方法には、非メタン系炭化水素系の分子状汚染物質の吸着除去には有効であることが記載されているが、有機性分子状汚染物質をppbオーダまで除去可能であることを明確にしていない。又、排ガス中に混在している塩基性分子状汚染物質の除去並びに酸性分子状汚染物質、塩基性且つ有機性の分子状汚染物質の除去に適用できる吸着材に関する言及はない。
【0038】
又、半導体ウエハやガラス基板の製造工程で必要とする機器を収容したクリーンルームに循環供給する清浄空気の調製方法としてゼオライトや活性炭を添加した吸着材で構成されるロータ式空気清浄化装置を用いて処理空気中の有機性分子状汚染物質であるオレフィン、パラフィン、芳香族、ジオレフイン類の炭化水素を0.1ppm以下に除去する方法が開示されている(特許文献3を参照。)。
【0039】
当該特許文献3は、吸着材ロータ式のものであるから、吸着と再生を同時並行して繰返し操作できる。しかしながら、環境大気中に有機性分子状汚染物質と共に混在している塩基性分子状汚染物質や酸性分子状汚染物質およびクリーン作業空間の加工作業に使用されて有機性分子状汚染物質と共に清浄空気中に混入する塩基性分子状汚染物質及び塩基性且つ有機性の分子状汚染物質の除去に適用できる繰返し吸着と再生が可能な吸着材、装置及び方法に関する言及はない。さらに、炭化水素を数ppbまで除去可能であることを明確にしていない。
【0040】
特に、最先端の半導体製造において使用するドライ(乾燥)の高純度空気中の汚染物質の濃度は、代表的な塩基性分子状汚染物質であるアンモニアは濃度0.1ppb以下、すなわち、0.1μg/m3以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算で22ppb以下、すなわち、22μg/m3以下、又代表的な酸性分子状汚染物質であるSOxはSO4換算で0.1ppb以下、すなわち、0.1μg/m3以下が要求されている。
【0041】
つまり、代表的な塩基性分子状汚染物質であるアンモニアの除去に関しては、特許文献1に記されている清浄化空気中の濃度より、さらに低減させられる高選択率をもった吸着材が必要であり、又有機性分子状汚染物質の除去に関しては、特許文献3に記されている清浄化方法よりも、一層除去率を向上させて確実にヘキサデカン換算で22ppb以下を達成させられる清浄化方法が強く要請されている。
【0042】
さらに環境大気中に有機性分子状汚染物質と共に本来混在している塩基性及び酸性の分子状汚染物質についても又、加工作業に使用されて清浄空気中に混入する有機性、塩基性、又は、塩基性且つ有機性の分子状汚染物質についても繰返し再生可能な吸着材を用いた長期間に亘って連続安定に循環供給可能な清浄化方法の開発が望まれている。
【0043】
(回分式温度スイング吸着装置)
次に、処理空気(汚染物質を含有する空気)を、従来技術よる回分式温度スイング吸着装置(以下、回分式TSA装置ということがある。)に通じて汚染物質を吸着除去し、清浄化空気とする際に生起する技術課題について図を用いて説明する。
図4は、従来技術による回分式TSA装置120の構成図である。図4には吸着モードが(A)系統、したがって再生モードが(B)系統の場合を示した。
【0044】
処理空気は、処理空気導入口1から流入して高性能フィルタ(1)11を流下した後、分岐/合流継手T1から開閉弁V1、分岐/合流継手T2を経て吸着材ユニット(A)13Aに流入する。吸着材ユニット(A)13Aにて塩基性分子状汚染物質や有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質が吸着除去される。
【0045】
すなわち、処理空気は、吸着材ユニット(A)13Aを通過する間で清浄化され、分岐/合流継手T3、開閉弁V2、分岐/合流継手T4を経て清浄空気送出口16に流入する。このとき開閉弁V1、V2は開弁状態であるが、開閉弁V4、V5、V6、V3は閉弁状態である。
【0046】
一方、再生空気は、屋内又は屋外の空気を再生空気取入口26から取入れて、再生空気冷却加熱部28に流入させる。すなわち、再生空気は、再生空気フィルタ21を経て再生空気送風機22、再生空気冷却器23、再生空気予熱器24、再生空気加熱器25を流下する。ついで分岐/合流継手T8、開閉弁V7、分岐/合流継手T5を経て吸着材ユニット(B)13Bに流入する。再生モードの加熱時間帯においては再生空気冷却器23に使用する伝熱媒体の冷媒は流通させず、再生空気加熱器25には通電させる。
【0047】
したがって、吸着材ユニット(B)13Bは、再生空気によって加熱されるから、吸着モード時に吸着した塩基性分子状汚染物質や有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を脱離する。吸着材ユニット(B)13Bを流出した再生空気は、分岐/合流継手T6、開閉弁V8、分岐/合流継手T7を経て再生空気予熱器24に流入する。再生空気予熱器24では高温の再生空気のもつ余剰熱で低温の再生空気を予熱する。そして高温の再生空気は冷却空気は排出空気となって再生空気排出口27から排出される。
【0048】
又、再生モードの冷却時間帯において、再生空気冷却器23には伝熱媒体の冷媒を流通させ、再生空気加熱器25には通電しない。したがって、吸着材ユニット(B)13Bは再生空気によって冷却されて、処理空気の温度に近づけて吸着モードの切換えに備える。再生モードが(B)系統の場合、開閉弁V7、V8は開弁状態にある。
【0049】
このように、吸着材ユニットを2系統備える従来の回分式TSA装置においては、吸着と再生のモードを同時に実行して連続的に清浄空気を供給しようとすると、処理空気,再生空気、清浄空気、排出空気相互の混入を防止して(A)系統吸着材ユニット(A)13A、(B)系統吸着材ユニット(B)13Bのそれぞれと、それらの空気の流れるダクトを接続する必要がある。そのため吸着材ユニットの上流側には処理空気又は排出空気が流れる2系統のダクト並びに処理空気を取入れて(A)系統と(B)系統のそれぞれの吸着材ユニットへ分岐する分岐/合流継手T1、排出空気を(A)系統と(B)系統から再生空気排出口27へ導くダクトに接続するダクトの分岐/合流継手T7及びそれぞれの両側にダクト回路を開閉するためのV1、V4、V5及びV8を配置する必要がある。
【0050】
又、吸着材ユニットの下流側には清浄空気又は再生空気が流れる2系統のダクト並びに清浄空気を取出す(A)系統ダクトと(B)系統ダクトから清浄空気送出口16へ導くダクトに接続するダクトの分岐/合流継手T4、再生空気を導き(A)系統と(B)系統のそれぞれの吸着材ユニットへ送出する分岐/合流継手T8及びそれぞれの分岐/合流継手の両側に設置してダクトを開閉するための開閉弁V2、V3、V6及びV7を配置する必要がある。
【0051】
さらに、(A)系統ダクトから排出空気ダクトへ、又は(B)系統ダクトから排出空気ダクトへ再生空気が流れるように分岐/合流継手T2、T6が、再生空気ダクトから(A)系統ダクトへ、又は再生空気ダクトから(B)系統ダクトへ再生空気が流れるように分岐/合流継手T3、T5が必要である。結局、吸着材ユニット(A)13A及び吸着材ユニット(B)13Bの上流側と下流側のそれぞれに2系統、計4系統のダクトと計8基の開閉弁と計8基の分岐/合流継手が必要である。
【0052】
このため、極めて複雑で長いダクトの「引きまわし」が必要となる。ここで、本発明が対象としているクリーン作業空間で使用されるダクトは、径が50mm程度の小配管ではない。例えば、500mmの正方形の断面ダクト(処理空気量100m3/minの場合、約8m/sの流速で流すためには正方形断面のダクトの寸法は500mmとなる。)したがって、仮にこの「引きまわし」が30mであったならば、ダクトのみで6.2m3の占有空間が必要となる。処理空気量が20m3/minの場合は同じく約8m/sの流速、且つ30mの引きまわしでは、ダクトのみで1.3m3の占有空間が必要となる。
【0053】
つまり、常圧下にある空気が流れるダクトの占有空間は、実際は莫大なものであって、これにダクトの分岐/合流継手や、ダクトの重なり、交叉、曲がり、拡大(縮小)、開閉弁、断熱材の装着等のために必要な空間が加わるから、装置全体としての占有空間は極めて大きなものとなる。
【0054】
これが吸着材ユニットを2系列備える従来技術の回分式TSA装置をコンパクトにするのを困難にしている第1の理由である。
【0055】
吸着モードを(A)系統から(B)系統へ、再生モードを(B)系統から(A)系統へ切換える場合は、開弁状態にある開閉弁V1、V2、V7及びV8を閉弁状態へ、閉弁状態にある開閉弁V4、V5、V3及びV6を開弁状態に切換えることになる。逆に吸着モードを(B)系統から(A)系統へ、再生モードを(A)系統から(B)系統へ切換える際は、開閉弁V1、V2、V7及びV8を閉弁状態から開弁状態へ、開閉弁V4、V5、V3及びV6開弁状態から閉弁状態に切換えることになる。
【0056】
さらに、吸着モードと再生モードの切換えは、処理空気と清浄空気の流れを停止させることなく、圧力損失が小さくて口径の大きい開閉バルブ8基を同時に動作を開始させ、且つ、同時に動作を停止させる必要があり、しかも動作時間を可能な限り短時間とする必要がある。
【0057】
しかしながら、8基全ての開閉弁を同時に動作を開始させて、同時に動作を停止させ、且つ、短時間で動作させることは極めて困難である。いずれかの開閉弁にわずかな遅れがあると、清浄空気の流量と圧力が変動する大きな問題がある。
【0058】
もしも、上記したような切換え時において、清浄空気の流量と圧力が変動することになった場合は、加工製品の歩留まりを著しく低下させる大きな要因となる。
【0059】
さらに他の問題は、図4の従来技術の回分式TSA装置120において、吸着モードと再生モードの切換えの際には、8基の分岐/合流継手と8基の開閉弁との間にあるダクト内の空気はその開閉弁を閉弁状態とした場合はその流れが停止するから、次の開弁となるまでの間はそのまま滞留する淀み箇所となることである。図4には淀み箇所となるダクトを破線で示した。
【0060】
例えば開閉弁V4と分岐/合流継手T6との間のダクトは再生開始直後の高濃度の脱離した汚染物質を含む排出空気が滞留する淀み箇所となるから、切換え後の清浄空気中の汚染物質濃度に影響するという問題がある。又、分岐/合流継手T1と開閉弁V4との間のダクトも開閉弁V4の開閉動作に遅れがあると再生開始直後の高濃度の脱離した汚染物質を含む排出空気が滞留する淀み箇所となる。
【0061】
さらに又、図4の再生モードの冷却時間帯においては、屋内又は屋外から空気を取入れて再生空気としているから、その再生空気にはアンモニアは3〜5ppb含まれている。それゆえ、分岐/合流継手T5と吸着材ユニット13Bとの間のダクトは、再生空気中のアンモニアによって汚染され、切換え後の清浄空気中のアンモニア濃度が変動することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0062】
以上の説明から明らかなように、空気清浄化装置としてケミカルフィルタを用いると、定期的にあるいは状況によっては非定期的に新品に取替えるという大懸りな取替え作業が発生する。加えて、その作業を行う際には必然的にクリーンルーム内の加工作業を停止せざるを得ないという問題が発生し、さらに産業廃棄物が発生するという環境問題が生じている。さらに、取替え作業終了後、清浄状態に復旧させるクリーンアップ作業が必要であるから加工作業の停止はなお継続させる必要がある。この間の経済的損失とエネルギーの浪費問題も同時に発生する。
【0063】
他方、一定の加工量を維持しようとすると、予備のクリーン作業空間を設置せざるを得ず、設備投資が増大するという問題がある。加えて、塩基性、有機性、酸性の分子状汚染物質の捕集・除去率は製品の歩留まりに大きな影響を及ぼすため、常時モニタする必要がある。クリーン作業空間の大きさにもよるが、ケミカルフィルタは多数箇所に設置されており、個々のケミカルフィルタの管理とモニタ要員の確保とモニタ装置の導入と設置は不可欠となる。これによる加工製品のコストアップも不可避である。
【0064】
以上のごとく、空気清浄化装置としてケミカルフィルタを用いた場合、加工製品のコストアップと環境問題とエネルギー浪費とを誘発している。それゆえ、ケミカルフィルタを用いる方法を改変する方法、すなわち、ケミカルフィルタを用いない方法の開発が不可避である。
【0065】
しかしながら、単に従来技術による回分式TSA装置を用いたのでは、きわめて複雑で長い引きまわしダクトが必要となり、装置をコンパクトにするのを阻むため、莫大な設備投資が避けられない。加えて、4個の大口径開閉弁を開から閉へ、他の4個の大口径開閉弁を閉から開へ同時に動作させる困難性とそれに伴う流量変動と圧力変動は避けられず、さらに吸着モード切換え後には、淀み箇所からの高濃度の分子状汚染物質の清浄空気中への混入問題、すなわち、分子状汚染物質の濃度変動問題も発生する。
【0066】
他方、特許文献1及び特許文献3で提案されているケミカルフィルタを用いないで再生可能な吸着材を用いて吸着と再生が同時に行えて、半永久的に使用可能な吸着材ロータによる空気清浄化装置には次の問題がある。
第1に、長いダクトの引きまわしが必要であると同時に吸着材ロータの断面とダクトの断面の形状が全く相違するため複雑な構造形状の継手が多数必要となる。したがって、コンパクトな装置とすることが困難である。第2に、それらの継手端面と吸着材ロータ端面の摺動箇所からの処理空気、再生加熱空気、再生冷却空気の漏洩を防止できない。
また第3に、吸着材ロータは、吸着、再生、冷却の3区域に区画する必要があり、それらの区域に流速乃至流量、温度、圧力、流れ方向、汚染物質の質(有機性、塩基性、酸性)と濃度の各々が相違する処理空気、再生加熱空気、再生冷却空気の混入を防止することは極めて困難である。すなわち、吸着ロータでは非特許文献1に記載の高純度空気にまで清浄化することは明かに困難である。
第4に、再生加熱空気、再生冷却空気も連続して流すためエネルギー消費量が多い。また第5に、処理空気中に確実に存在するアンモニアと塩基性且つ有機性であるTEA、TMA、NMPとが混在する場合の汚染物質の除去・清浄化に関して言及していない。
【0067】
本発明は前述の事実に鑑みてなされたものであって、調温調湿されたクリーンルームやクリーンチャンバやミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として取入れて、その処理空気中の塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び塩基性且つ有機性の分子状汚染物質及び又は環境大気に由来する酸性分子状汚染物質を含有する排気を清浄化するに際して、当該クリーン作業空間の加工作業を停止させることなく、吸着材を用いて清浄化して、さらに精密に調温調湿して当該クリーン作業空間で行う加工作業に好適な空気として、非特許文献1に記載されているように分子状汚染物質を、アンモニアは0.1ppb以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算で22ppb以下、SOx(SO4換算)は0.1ppb以下に除去した高純度空気に調製して、当該クリーン作業空間に長期間に亘って連続安定に循環供給する方法を提供して、前述の問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0068】
本発明者らは、前述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、アンモニア50ppbとPGMEA500ppbとトルエン270ppb、を環境大気に混入させた場合と、アンモニア50ppbとNMP290ppbとトルエン270ppb、を環境大気に混入させた場合について、第1層は活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材、第2層は固体酸性物質を含むものを用いた吸着材、及び第3層は活性炭を含むものを用いた吸着材、の3層からなる吸着塔に、上記の成分を混入させた空気を通じ、再生空気に環境大気を使用する小規模の吸着/再生実験を行った。
次いで、10m3/min規模の再生空気の処理を、図2に示す回分式TSA装置10と、図3に示す調温調湿装置30により処理し、クリーンルームに接続する長期繰返し循環供給試験を行い、高純度空気に調製できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0069】
〔1〕本発明に従えば、調温調湿されたクリーンルーム、クリーンチャンバ、及び/又はミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として清浄化して、前記クリーン作業空間に循環供給するにあたり、当該処理空気を、調温調湿装置に通じ、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じて清浄化するか、又は、当該処理空気を屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じて清浄化した後、調温調湿装置に通じることを特徴とするクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
すなわち、具体的には、クリーン作業空間からの排気を処理空気として取入れて、その処理空気中の粒子状汚染物質を除去して、さらに塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を除去する清浄化を行うための第1の具体的手段として、クリーンルーム、クリーンチャンバ、ミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として取り入れて調温調湿装置に通じた後、さらに、屋内又は屋外から取り入れた空気を再生空気として用いる前記した回分式温度スイング吸着装置(回分式TSA装置)に通じて処理空気中の汚染物質を除去して清浄化するか、クリーンルーム、クリーンチャンバ、ミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気である処理空気を、前記した回分式TSA装置に通じてこれらの汚染物質を除去して清浄化した後、調温調湿装置に通じることを特徴とするものである。
【0070】
なお、本発明によれば、調温調湿されたクリーンルーム、クリーンチャンバ、及び/又はミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として清浄化して、前記クリーン作業空間に循環供給するクリーンルーム排気の清浄化装置であって、調温調湿装置と回分式温度スイング吸着装置とから構成され、当該処理空気を、調温調湿装置に通じ、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じて清浄化するか、又は、当該処理空気を屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じて清浄化した後、調温調湿装置に通じることを特徴とするクリーンルーム排気の清浄化装置が提供される。
【0071】
〔2〕本発明においては、前記回分式温度スイング吸着装置は、前記処理空気中の塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統と、並びに前記した塩基性、有機性及び又は酸性の分子状汚染物質を吸着した吸着材ユニットに再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統とを、並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用い、これを冷却・加熱する再生空気冷却・加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰返す、(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えることを特徴とする〔1〕記載のクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
【0072】
また、本クリーンルーム排気の清浄化装置においては、前記回分式温度スイング吸着装置は、前記処理空気中の塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統と、並びに前記した塩基性、有機性及び又は酸性の分子状汚染物質を吸着した吸着材ユニットに再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統とを、並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用い、これを冷却・加熱する再生空気冷却・加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰返す、(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えるクリーンルーム排気の清浄化装置である。
【0073】
〔3〕本発明に従えば、前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されていることを特徴とする〔2〕記載のクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
【0074】
また本クリーンルーム排気の清浄化装置においては、前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されているクリーンルーム排気の清浄化装置である。
【0075】
〔4〕本発明に従えば、前記再生空気冷却・加熱部は再生空気取入れ口、再生空気送風機、冷凍サイクルの冷媒蒸発器である再生空気冷却器、高温の再生空気のもつ余剰熱を回収して常温の再生空気を予熱する再生空気予熱器、再生モードにある吸着材ユニットに流入する再生空気の温度を150〜220℃の範囲から選ばれた設定温度に制御する機能を備えた再生空気加熱器から構成されていることを特徴とする〔2〕記載のクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
【0076】
また、本クリーンルーム排気の清浄化装置においては、前記再生空気冷却・加熱部は再生空気取入れ口、再生空気送風機、冷凍サイクルの冷媒蒸発器である再生空気冷却器、高温の再生空気のもつ余剰熱を回収して常温の再生空気を予熱する再生空気予熱器、再生モードにある吸着材ユニットに流入する再生空気の温度を150〜220℃の範囲から選ばれた設定温度に制御する機能を備えた再生空気加熱器から構成されているクリーンルーム排気の清浄化装置である。
【0077】
〔5〕本発明に従えば、前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであることを特徴とする〔2〕記載のクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
【0078】
また、本クリーンルーム排気の清浄化装置においては、前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであるクリーンルーム排気の清浄化装置である。
【0079】
〔6〕本発明に従えば、前記屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式TSA装置において、前記吸着モードが(A)系統であって、再生モードが(B)系統の場合は、(A)系統から前記第2バルブを通って前記クリーン作業空間へ流れる清浄空気と、前記再生空気冷却・加熱部を経て前記第2バルブを通って(B)系統へ流れる再生空気とは、1:1から1:0.1の範囲から選ばれた流量比に設定されていることを特徴とする〔2〕又は〔4〕に記載のクリーンルーム排気の清浄化方法が提供される。
【0080】
また、本クリーンルーム排気の清浄化装置においては、前記屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式TSA装置において、前記吸着モードが(A)系統であって、再生モードが(B)系統の場合は、(A)系統から前記第2バルブを通って前記クリーン作業空間へ流れる清浄空気と、前記再生空気冷却・加熱部を経て前記第2バルブを通って(B)系統へ流れる再生空気とは、1:1から1:0.1の範囲から選ばれた流量比に設定されているクリーンルーム排気の清浄化装置である。
【発明の効果】
【0081】
本発明のクリーンルーム排気の清浄化方法は、ケミカルフィルタを使用しないで、加工作業に伴って発生するアンモニア、トリエチルアミン(TEA)、トリメチルアミン(TMA)、N−メチルピロリドン(NMP)等の塩基性分子状汚染物質乃至塩基性であって且つ有機性の分子状汚染物質、シンナ類、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の有機性分子状汚染物質、大気中に含まれている多種類の有機性分子状汚染物質、Cl-、NOx、SOxの酸性分子状汚染物質並びにアミン類及びアンモニアの塩基性分子状汚染物質が除去できる、したがって、産業廃棄物が大幅削減でき、環境改善に貢献することができる。
【0082】
又、本発明のクリーンルーム排気の清浄化方法は、ケミカルフィルタを使用しないため、寿命となったケミカルフィルタを新品と取替えるという大懸りな作業が無用となり、クリーンルーム内に設置されている装置の操業を停止させる必要もなく、汚染された清浄空間を清浄状態に回復させるために要していたクリーンアップエネルギーも無用となるという製品の製造コストに占める変動費を低減させる経済効果をもたらすことができる。
【0083】
又、本発明においては、ケミカルフィルタを使用しないため、クリーンルーム内に設置した装置の稼働率が向上すると共に、従来必要であった予備の作業空間すなわち予備のクリーンルームとクリーンルーム内に設置する装置等は無用となり、アンモニアをはじめとする分子状汚染物質をモニタする必要はなくなり、モニタ装置と要員が不要となるという製品の製造コストに占める固定費を低減させる大きな経済的効果をもたらすことができる。
【0084】
さらに、本発明のクリーン作業空間からの排気を清浄化する方法は、半永久的に連続して且つ安定に清浄化調温調湿空気が供給できるので操業度の向上と製品の歩留まり向上に寄与することができる。したがって、製品の製造コストの大幅低減に貢献することができる。加えて、クリーン作業空間からの排気を処理空気として取入れて粒子状汚染物質と分子状汚染物質の除去を行い、調温調湿を行って、そのクリーン作業空間に循環供給するから、その供給量と同量のクリーン作業空間内の空気を系外へ排出した1パス使い捨て方式に要した莫大なエネルギーに比べ本発明のクリーンルーム等のクリーン作業空間向けの調温調湿エネルギーは格段に削減できる。
【0085】
又、本発明においては、循環空気ダクト55(図1)に高性能フィルタ(1)11(図1及び図2)を設置したのに加え、クリーン作業空間からの排気を処理空気としたから、粒子状汚染物質の濃度は既に極めて低減されており一旦取付けた高性能フィルタ(2)53(図1)は半永久的に連続して安定に使用できる。さらに、たとえ高性能フィルタ(1)11(図2)や除塵フィルタ(1)54(図1及び図6)や再生空気フィルタ21(図2)を取替えるとしてもクリーン作業空間内の操業を停止する必要はない。
【0086】
又、本発明においては、繰返し再生使用可能であって、且つ、塩基性分子状汚染物質を高選択率で吸着する固体酸層と有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を高選択率で吸着する活性炭層と固体塩基性物質を含有する吸着材層をその固体酸層の上流側に、さらに、有機性分子状汚染物質を高選択率で吸着する活性炭層をその固体酸層の下流側に設けた3層からなる吸着材ユニットを用いたから、塩基性汚染物質であるアンモニア、TEA及びTMAはそれぞれ0.1μg/m3以下、NMPは0.6μg/m3以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算3.2μg/m3以下、酸性分子状汚染物質である2酸化窒素(NO2)は1.0μg/m3以下、Cl-は0.01μg/m3以下並びにSOx(SO4換算)は検出限界以下まで半永久的に連続安定に除去できる。
【0087】
さらに又、本発明によれば、ケミカルフィルタ(C)を使用した場合に発生していた分子量の大きな有機性分子状汚染物質が脈動的に流入した際に、先に吸着していた分子量がそれより小さい有機性分子状汚染物質を追い出す現象は、本発明においては吸着材層cを設けたことによって吸着容量を増加させたことに加え、その処理空気と再生空気を用いる吸着/再生試験を行って吸着容量に余裕のある状態にあることを事前に確認した上で吸着モードから再生モードへ、さらに、再生モードから吸着モードへの切換えサイクル時間を設定しているから、本発明においては発生しない。
【0088】
本発明における回分式TSA装置は、吸着材ユニットを並列に(A)、(B)2系統と再生機能を備えているから、(A)系統と(B)系統を交互に吸着モードと再生モードを繰返し切換えることによって半永久的に連続して安定にクリーンルーム排気の清浄化が可能である。
【0089】
本発明における回分式TSA装置で用いる再生空気は、屋内又は屋外の空気を取り入れて150〜220℃に加熱しているから、脱離後に吸着材に残留している塩基性汚染物質であるアンモニア、TEA及びTMAに対する吸着平衡分圧はそれぞれ0.1μg/m3以下、NMPは0.6μg/m3以下、有機性汚染物質に対する平衡分圧はヘキサデカン換算で3.2μg/m3以下、酸性汚染物質であるNO2に対する吸着平衡分圧は1.0μg/m3以下に相当するレベルとなる。
【0090】
本発明における回分式TSA装置は4ポート自動切換えバルブである第1バルブと第2バルブを備えているから、吸着モードと再生モードを交互に切換える際、クリーン作業空間への流れは断続することがなく、圧力変動は発生しない。したがって、清浄空気と再生空気の流量比を1:1とするときは流量変動は発生しない。
【0091】
又、本発明における回分式TSA装置は、ダクトの複雑な引きまわしがなく、装置はコンパクトであり、処理空気、清浄空気、再生空気の混入はない。しかも、ダクトとバルブの間に滞留・淀み箇所が生じないから、吸着モードと再生モードの切換え時においても、定常時においても清浄空気中の分子状汚染物質濃度の増加・変動はなく安定している。
【0092】
本発明における回分式TSA装置は、吸着材ユニットを並列に(A)、(B)2系統と再生機構を備えているから、(A)系統と(B)系統を交互に吸着モードと再生モードを繰返し切換えることによって長期に亘って連続して安定にクリーンルーム排気の清浄化が可能である。
【0093】
又、本発明における回分式TSA装置で用いる再生空気は、屋内又は屋外の空気であるから、クリーン作業空間から循環される排気の全量を粒子状汚染物質及び有機性のみならず塩基性、酸性の分子状汚染物質を除去清浄化してさらに調温・調湿してクリーン作業空間に供給できる。
【0094】
本発明における調温調湿装置としては、本発明の出願人が特開2004―28421においてすでに提案している産業用空調装置を好適に適用することができる。
【0095】
当該産業用空調装置は、環境の全圧力、処理空気の流速乃至流量又は送風機全圧、処理空気の温度及び関係湿度、循環供給空気の関係湿度及び静圧を計測する計測手段と、その計測手段を用いて得られる計測値を入力して必要な冷却除湿量、必要な冷却除湿熱量、必要な加湿量及び必要な加湿熱量を演算させる演算手段を備えた冷凍サイクルを用いる空調装置であるから、調温調湿に要するエネルギー量を従来以上に削減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
(第1の実施の態様)
以下、本発明を実施するための第1の実施の態様について、図面を参照しながら説明する。図1は、クリーン作業空間50からの排気を処理空気として処理空気導入口1から取入れて、その処理空気中の粒子状汚染物質及び分子状汚染物質の除去を行って清浄化して、更に調温調湿を行って清浄化調温調湿空気にして、清浄化調温調湿空気供給口2からそのクリーン作業空間50に循環供給する本発明の実施の態様の構成図である。
【0097】
この図1において、処理空気導入口1と清浄化調温調湿空気供給口2の間には、処理空気が流下する順に再生空気冷却加熱部28を備えた回分式TSA装置10と調温調湿装置30とが配置されている。
【0098】
さらに回分式TSA装置10の構成を図2に示した。処理空気は処理空気導入口1から粒子状汚染物質を除去する高性能フィルタ(1)11に流入させた後、第1バルブ12を経て、吸着モードにある(A)系統の吸着材ユニット(A)13Aに流入させる。
【0099】
(吸着材層a、b、c)
本発明において、吸着材ユニット(A)13A、吸着材ユニット(B)13Bは、各々a〜cの3層の吸着材層が直列に配列され一体化されている。
第1層(a)は、有機性物質及び酸性物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含有し、通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成して調製した成型物を積層した吸着材層aよりなる。活性炭としては活性コークス、グラファイト、カーボン、活性炭素繊維等が挙げられ、固体塩基性物質としては酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、セピオライト、アルミナ、ゼオライト等が使用可能である。
第2層(b)は、塩基性物質を選択的に吸着する固体酸性物質であるチタンと珪素等の複合酸化物及び酸化バナジウム等を含有し通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成して調製した成形物を積層した吸着材層bよりなる。
また第3層(c)は、有機性物質を主に吸着する活性炭を含有し、通気時に圧力損失が僅少になるようにハニカム状、コルゲート状又はプリーツ状に加工して、更に焼成して調製した成形物を積層した吸着材層cよりなる。
【0100】
吸着材ユニット(A)13Aに流入した処理空気からは、吸着材層aを通過する間において、比較的分子量の大きな有機性分子状汚染物質と環境大気に由来するCl-、NOx、SOx等の酸性分子状汚染物質が除去され、次いで吸着材層bを通過する間に、アンモニア並びに塩基性且つ有機性の分子状汚染物質であるTMA、TEA、NMP、その他のアミン類が除去され、さらに吸着材層cを通過する間に、吸着材層aで吸着除去されないで、なお処理空気中に残存している有機性分子状汚染物質、及び吸着材層bで吸着除去されなかったTMA、TEA、NMPが除去される。
【0101】
吸着材ユニット(A)13Aから流出した処理空気中には、塩基性分子状汚染物質であるアンモニアは0.1μg/m3以下、TEA、TMAはそれぞれ0.1μg/m3以下、NMPは0.6μg/m3以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算3.2μg/m3以下、酸性分子状汚染物質である窒素酸化物(NO2)は1.0μg/m3以下、Cl-は0.01μg/m3以下並びにSOxは検出限界以下まで除去されている。かくして得られた清浄空気は、第2バルブ15を経て、清浄空気送出口16から調温調湿装置30に流入する。
【0102】
調温調湿装置30に流入した清浄空気は、当該清浄空気の調温調湿の条件がクリーン作業空間50の要求条件を満たすように調整する。すなわち、先ず図3に示す冷却除湿器32に流入させて、冷却除湿を行う。通常は4〜17℃の範囲の露点となる飽和湿度に調整される。次いで加温器33に流入させ、通常は15〜30℃まで加温する。さらに加湿器34に流入させて、通常は35〜50%の範囲にある関係湿度に加湿調整する。調湿水は調湿水取入れ口3から取入れて、必要な水分量を蒸発させる。調温調湿された清浄空気は清浄化調温調湿空気送風機(1)35で昇圧して清浄化調温調湿空気供給口2からクリーンルーム、クリーンチャンバ、ミニエンバイロメント等のクリーン作業空間50に供給する。
【0103】
従来の調温調湿装置においては、環境の全圧(通常、大気圧)は天候や季節の変化のいかんに関わらず、又、海抜600mの位置にこの装置が設置されていても、標準大気圧であるとして関係湿度を制御する方法によって調湿が行われている。そのため、大気圧の変動に伴う必要エネルギ量の変動と絶対湿度の変動には追随できていない。因みに、大気圧の日間(24時間)変動は、概略、20〜50hPaであるから、絶対湿度は2〜5%変動している。つまり、関係湿度は一定であっても、絶対湿度は変動している。本発明が対象とするクリーンルーム内の加工作業には、関係湿度よりもむしろ絶対湿度を一定にした清浄化調温調湿空気を供給する必要がある。従って、本発明の実施の態様においては、前記した特開2004―28421で開示した産業用空調装置を適用することが好ましい。
【0104】
すなわち、本発明者らが提案している産業用空調装置は、図3に示すように、清浄空気送出口16における清浄空気の流速、静圧、温度及び関係湿度、清浄化調温調湿空気供給口2における流速、静圧、温度及び関係湿度並びに環境の全圧を計測する計測手段である流速センサ(1)41、静圧センサ(1)42、温度センサ(1)43、関係湿度センサ(1)44、流速センサ(2)45、静圧センサ(2)46、温度センサ(2)47、関係湿度センサ(2)48、大気圧(全圧)センサ49を設置し、得られる計測値を入力して必要な加湿水量を演算させる演算手段40、その加湿水量を変換した制御信号によって作動する加湿水ポンプ37及びその水量を全量蒸発させるミニボイラ36を備えた調温調湿装置である。
【0105】
クリーン作業空間50には、図1に示すように、その吹出し口56付近に、清浄度クラスを最終調製する高性能フィルタ(2)53、フィルタファン(2)52が設置されており、又、空気取入れ口57付近には、除塵フィルタ(1)54、取入れ空気ファン(1)58、さらに、クリーン作業空間からの排気を回分式TSA装置10、調温調湿装置30へ循環させるための循環送風機51、循環空気ダクト55が設置されている。
【0106】
ここで本発明における回分式TSA装置の再生操作について図2を用いて説明する。吸着モードが(A)系統の場合は、再生モードは(B)系統となるから、(A)系統から第2バルブ15を通って清浄空気送出口16へ流れる清浄空気に対して、再生空気取入れ口26から再生空気冷却・加熱部28を経て第2バルブ15から(B)系統へ流れる再生空気を、1:1から1:0.1の範囲の流量比で流入させる。
ここで清浄空気流量に対して再生空気流量が多い程、再生操作は短時間で終了させることができるが、再生空気冷却加熱部28の機器能力を全て大きくする必要があり、回分式TSA装置はコンパクトとならず、装置設備費も嵩む。又、再生空気排出口27は排ガス処理装置(図示せず)に接続されているから、再生空気流量が多い程、脱離されて来る汚染物質の濃度が希薄となり排ガス処理装置の捕集効率が低下する。さらに、再生空気を150〜220℃に加熱した際には、熱膨張により再生空気の体積流量は常温のそれの1.4〜1.7倍となるから、圧力損失の増大とその際の送風に必要なエネルギーは再生空気量が多い程増大する。
【0107】
逆に、清浄空気流量に対して再生空気流量が少ない程、再生操作時間に長時間を要することになるが、再生空気冷却加熱部28の機器能力は大きくする必要はなく、回分式TSA装置はコンパクトに製作できる。当然装置製作費も低減できる。又、排ガス処理装置の捕集効率も向上する。さらに、再生空気を150〜220℃に加熱した際の圧力損失と送風エネルギーも少ない。しかしながら、再生空気流量が少ない程、吸着材層中を流れる再生空気量として脱離する被吸着物を追い出すに十分な流速が与えられなくなる。又、同時に偏流や滞留や淀み箇所が吸着材ユニット内やダクト中に発生する。滞留や淀み箇所の分子状汚染物質の濃度は清浄空気中のそれより高濃度であるから、吸着モードに切替えることによって流量の多い処理空気によって押し出され、汚染された空気をクリーンルームに供給することになる。
【0108】
以上を考慮して本発明における回分式TSA装置においては、清浄空気に対する再生空気の流量比は1:1から1:0.1の範囲とすることが好ましい。より好ましくは1:0.8から1:0.3の範囲である。
なお、念のため、本発明における再生空気とは、吸着モードが終了した吸着材ユニットに送る、加熱した空気であって、当該加熱空気により、吸着材ユニットから吸着した不純物を脱離させる工程(再生モード)に使用する空気である。
【0109】
再生モードは、加熱時間帯と冷却時間帯とから構成されるが、再生モードが加熱時間帯にある場合において、再生空気は再生空気取入れ口26から流入して再生空気フィルタ21を経て再生空気送風機22で昇圧されて加熱時間帯には冷媒を循環させていない再生空気冷却器23を通過させ、再生モードにある吸着材ユニットからの高温の再生空気と熱交換せしめ、再生空気予熱器24に流入させて当該高温の再生空気の持つ余剰熱を回収する。それによって再生空気自身は常温から100〜170℃まで予熱昇温される。次いで再生空気は再生空気加熱器25に流入して150〜220℃の範囲から選ばれた設定温度に加熱されて第2バルブ15から吸着材ユニット(B)13Bに流入する。
【0110】
150〜220℃に加熱された再生空気が吸着材ユニット(B)13Bに流入することによって吸着材は加熱され、前回のサイクルにおいて(B)系統が吸着モードのとき常温状態で吸着材に吸着されていた塩基性、有機性、酸性の汚染物質は脱離され、高温状態の再生空気の気流中に混入する。この際、比較的分子量の大きな有機性汚染物質とCl-、NOx、SOx等の酸性の汚染物質は吸着材層aから脱離され、アンモニア及び塩基性且つ有機性のTMA、TEA、NMPの汚染物質は吸着材層bから脱離され、吸着材層aで吸着されなかった有機性汚染物質や酸性の汚染物質及び吸着材層bで吸着されなかったTMA、TEA、NMPは吸着材層cから脱離される。
【0111】
本発明で使用する第1バルブと第2バルブとしては、いずれも4ポート自動切換えバルブを使用するこが好ましい。それの説明図を図7−8に示す。この4ポート自動切換えバルブ90は、本発明の出願人らが、特開2006−300394で提案したバルブである。このような4ポート自動切換えバルブに関しては、詳しくは、当該公開公報に詳細に記載された内容を取り込んで実施できる。
【0112】
本発明の実施の態様においては、第1バルブ12(図2)及び第2バルブ15(図2)は、内部に空間を有する筐体部91と、当該空間部を4つの小室R1、R2、R3、R4に区画する開口部92を有する枠形仕切板93と、当該枠形仕切板93の開口部92を開放又は閉鎖する板状回動弁体94と、筐体部91に取付けた4つのポート(気体を常に流入させる流入ポートL1、流体の流入と流出を交互に行う流入/出ポート(1)L2、気体を常に流出させる流出ポートL3、気体の流入と流出をL2と交互に行う流入/出ポート(2)L4)と、前記板状回動弁体94を回転軸95周りに回動させる駆動手段96を備えている。なお、前記筐体部91を構成する部材、及び前記枠形仕切板93、前記回転軸95、前記板状回動弁体94は、好ましくは断熱機能を備え、且つ、いずれも同形状、同サイズの4ポート自動切換えバルブであることが好ましい。
【0113】
(第2の実施の態様)
次に、本発明を実施するための第2の態様について、図6に沿って説明する。クリーン作業空間50からの排気を処理空気として処理空気導入口1から取入れて、その処理空気中の粒子状汚染物質を除去して、調温調湿装置30に通じた後、さらに回分式TSA装置10に通じて分子状汚染物質の除去を行って、清浄化調温調湿空気にして、清浄化調温調湿空気供給口2からそのクリーン作業空間50に循環供給する本発明の第2の実施の態様の構成図である。
【0114】
この図6において、処理空気導入口1と清浄化調温調湿空気供給口2の間には、処理空気が流下する順に、調温調湿装置30と再生空気冷却加熱部28を備えた回分式TSA装置10とが配置されている。処理空気は処理空気導入口1から粒子状汚染物質を除去する高性能フィルタ(1)11に流入させた後、調温調湿装置30に流入させる。
【0115】
本実施の態様における吸着材ユニット(A)13A、吸着材ユニット(B)13Bの詳細は、前記したものと同様であって、吸着材ユニット(A)13Aに流入した調温調湿空気からは吸着材層aを通過する間において、比較的分子量の大きな有機性分子状汚染物質と環境大気に由来するCl-、NOx、SOx等の酸性分子状汚染物質が除去され、次いで吸着材層bを通過する間において、アンモニア並びに塩基性且つ有機性の分子状汚染物質であるTMA、TEA、NMP、他のアミン類が除去され、さらに吸着材層cを通過する間に、吸着材層aで吸着除去されないで、なお処理空気中に残存している有機性分子状汚染物質及び吸着材層bで吸着除去されなかったTMA、TEA、NMPが除去される。
【0116】
図6に示す調温調湿装置30に流入した処理空気は、当該清浄空気の調温調湿の条件がクリーン作業空間50の要求条件を満たすように調製する。調温調湿装置30の説明図を図3に示した。すなわち、冷却除湿器32に流入させて、冷却除湿する。通常は4〜17℃の範囲の露点となる飽和湿度に調整される。次いで加温器33に流入させ、通常は15〜30℃まで加温する。さらに加湿器34に流入させて、通常は35〜50%の範囲にある関係湿度に加湿調製する。調湿水は調湿水取入れ口3から取入れて、加湿水槽38に貯留する。演算手段40によって得られる必要な加湿水量を変換した制御信号によって作動する加湿水ポンプ37を経てミニボイラ36に流入させ必要な加湿水量を蒸発させる。調温調湿された空気は調温調湿空気送風機35で昇圧して回分式TSA装置10(図6)に流入させる。
【0117】
本実施の態様における調温調湿装置30も前記したものと同様である。但し、図示しないが、流速センサ(1)、静圧センサ(1)、温度センサ(1)、及び関係湿度センサ(1)は、図1に示した処理空気導入口1に設置する。
【0118】
さらに図6の回分式TSA装置10の構成を図2に示した。調温調湿された処理空気は、第1バルブ12から吸着モードにある(A)系統の吸着材ユニット(A)13Aに流入させる。吸着材ユニット(A)13Aで分子状汚染物質を吸着除去した後、清浄化調温調湿空気となり、第2バルブ15を経て清浄化調温調湿空気送風機(2)17(図6)で昇圧して清浄化調温調湿空気供給口2からクリーン作業空間50に供給する。
【0119】
本第2の実施の態様における吸着材ユニット(A)13A、吸着材ユニット(B)13Bの詳細は前記したものと同様であって、吸着材ユニット(A)13Aに流入した調温調湿空気からは吸着材層aを通過する間において、比較的分子量の大きな有機性分子状汚染物質や酸性分子状汚染物質が除去され、次いで吸着材層bを通過する間において、アンモニア並びに塩基性且つ有機性の分子状汚染物質であるTMA、TEA、NMP、他のアミン類が除去され、さらに吸着材層cを通過する間に、吸着材層aで吸着除去されないで、なお処理空気中に残存している有機性分子状汚染物質及び吸着材層bで吸着除去されなかったTMA、TEA、NMPと環境大気に由来するCl-、NOx、SOxの酸性分子状汚染物質が除去される。
【0120】
吸着材ユニット(A)13Aから流出した処理空気中には、塩基性分子状汚染物質であるアンモニアは0.1μg/m3以下、TEA、TMAはそれぞれ0.1μg/m3以下、NMPは0.6μg/m3以下、有機性分子状汚染物質はヘキサデカン換算3.2μg/m3以下、酸性分子状汚染物質である窒素酸化物(NO2)は1.0μg/m3以下、Cl-は0.01μg/m3以下並びにSOxは検出限界以下まで除去されている。すなわち、処理空気は、上記した第1の実施の態様における場合と同等の清浄化調温調湿空気となり、当該清浄化調温調湿空気は、第2バルブ15を経て、清浄化調温調湿空気送風機(2)17(図6)で昇圧されて清浄化調温調湿器空気供給口2からクリーン作業空間50に供給される。
【0121】
なお、クリーン作業空間50には、その吹出し口56付近に、清浄度クラスを最終調製する高性能フィルタ(2)53、フィルタファン52と空気取入れ口57付近には除塵フィルタ(1)54、取入れ空気ファン(1)58、作業空間からの排気を調温調湿装置30、回分式TSA装置10へ循環させるための循環送風機51、循環空気ダクト55が設置されている。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のクリーンルーム排気の清浄化方法は、ケミカルフィルタを使用しないで、加工作業に伴って発生するアンモニア、トリエチルアミン(TEA)、トリメチルアミン(TMA)、N−メチルピロリドン(NMP)等の分子状汚染物質を、長期に亘り連続安定に除去できるので産業廃棄物の大幅削減という環境改善に貢献することができる。また、ケミカルフィルタを使用しないため、ケミカルフィルタを新品と取替えるという大懸りな作業が無用となり、半導体製造コストに占める変動費を低減させる大きな経済効果をもたらすことができるため、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の実施の形態における清浄化装置の構成図である。
【図2】本発明における回分式TSA装置の構成図である。
【図3】本発明における調温調湿装置の説明図である。
【図4】従来技術による回分式TSA装置の構成図である。
【図5】従来技術による清浄化装置の説明図である。
【図6】本発明の別の実施の形態における清浄化装置の構成図である。
【図7】本発明における4ポート自動切換えバルブの説明図である。
【図8】本発明における4ポート自動切換えバルブの説明図である。
【符号の説明】
【0124】
1:処理空気導入口
2:清浄化調温調湿空気供給口
3:調湿水取入れ口
10:回分式TSA装置
11:高性能フィルタ(1)
12:第1バルブ
13:吸着材ユニット
15:第2バルブ
16:清浄空気送出口
17:清浄化調温調湿空気送風機(2)
21:再生空気フィルタ
22:再生空気送風機
23:再生空気冷却器
24:再生空気予熱器
25:再生空気加熱器
26:再生空気取入れ口
27:再生空気排出口
28:再生空気冷却・加熱部
30:調温調湿装置
32:冷却除湿器
33:加温器
34:加湿器
35:清浄化調温調湿空気送風機(1)
36:ミニボイラ
37:加湿水ポンプ
38:加湿水槽
40:演算手段
41:流速センサ(1)
42:静圧センサ(1)
43:温度センサ(1)
44:関係湿度センサ(1)
45:流速センサ(2)
46:静圧センサ(2)
47:温度センサ(2)
48:関係湿度センサ(2)
49:大気圧(全圧)センサ
50:クリーン作業空間
51:循環送風機
52:フィルタファン(2)
53:高性能フィルタ(2)
54:除塵フィルタ(1)
55:循環空気ダクト
56:吹出し口
57:空気取入れ口
60:従来の調温調湿装置
61:高性能フィルタ(3)
62:従来の冷却除湿器
63:従来の加温器
64:従来の加湿器
66:清浄化調温調湿空気送風機(1)
80:ケミカルフィルタユニット
81:ケミカルフィルタ(A1)
82:ケミカルフィルタ(B1)
83:ケミカルフィルタ(C1)
84:清浄空気送風機
90:4ポート自動切換えバルブ
91:筐体部
92:開口部
93:枠形仕切版
94:板状回動弁体
95:回転軸
96:駆動手段
100:従来技術によるクリーンルーム
101:清浄化調温調湿空気送風機(3)
102:除塵フィルタ(2)
103:循環空気送風機
104:循環空気ダクト
105:清浄化調温調湿空気吹出し口
107:空気取入れ口(2)
108:取入れ空気ファン(2)
110:ファンフィルタユニット
111:ケミカルフィルタ(A2)
112:ケミカルフィルタ(B2)
113:ケミカルフィルタ(C2)
114:フィルタファン(1)
115:高性能フィルタ(4)
120:従来技術の回分式TSA装置
L1:流入ポート
L2:流入/出ポート(1)
L3:流出ポート
L4:流入/出ポート(2)
T1〜T8:分岐/合流継手
V1〜V8:開閉弁
R1〜R4:小室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調温調湿されたクリーンルーム、クリーンチャンバ、及び/又はミニエンバイロメント等のクリーン作業空間からの排気を処理空気として清浄化して、前記クリーン作業空間に循環供給するにあたり、当該処理空気を、調温調湿装置に通じ、次いで、屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じるか、又は、当該処理空気を屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いる回分式温度スイング吸着装置に通じた後、調温調湿装置に通じることを特徴とするクリーンルーム排気の清浄化方法。
【請求項2】
前記回分式温度スイング吸着装置は、前記処理空気中の塩基性分子状汚染物質及び有機性分子状汚染物質及び又は酸性分子状汚染物質を吸着材で除去する吸着モードにある吸着材ユニットの系統、並びに前記した塩基性、有機性及び又は酸性の分子状汚染物質を吸着した吸着材ユニットに再生空気を通じることにより冷却・加熱する再生モードにある吸着材ユニットの系統を並列に配置した(A)、(B)の2系統を備え、更に屋内又は屋外から取入れた空気を再生空気として用いこれを冷却・加熱する再生空気冷却・加熱部、並びに、吸着モードと再生モードを交互に繰返す、(A)系統と(B)系統の切換え手段である第1バルブ及び第2バルブを備えることを特徴とする請求項1記載のクリーンルーム排気の清浄化方法。
【請求項3】
前記吸着材ユニットは、第1層に有機性分子状汚染物質及び酸性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭と固体塩基性物質を含むものを用いた吸着材層a、第2層に塩基性分子状汚染物質を選択的に吸着する固体酸性物質を含むものを用いた吸着材層b、及び第3層に有機性分子状汚染物質を選択的に吸着する活性炭を含むものを用いた吸着材層cから構成されていることを特徴とする請求項2記載のクリーンルーム排気の清浄化方法。
【請求項4】
前記再生空気冷却・加熱部は再生空気取入れ口、再生空気送風機、冷凍サイクルの冷媒蒸発器である再生空気冷却器、高温の再生空気のもつ余剰熱を回収して常温の再生空気を予熱する再生空気予熱器、再生モードにある吸着材ユニットに流入する再生空気の温度を150〜220℃の範囲から選ばれた設定温度に制御する機能を備えた再生空気加熱器から構成されていることを特徴とする請求項2記載のクリーンルーム排気の清浄化方法。
【請求項5】
前記第1バルブ及び第2バルブは内部が枠型仕切板により4つの小室に区画されており板状回動弁体の回動によって各小室の開放と閉鎖を繰返して、前記(A)系統と(B)系統を切換える4ポート自動切換えバルブであることを特徴とする請求項2記載のクリーンルーム排気の清浄化方法。
【請求項6】
前記吸着モードが(A)系統であって、再生モードが(B)系統の場合は、(A)系統から前記第2バルブを通って前記クリーン作業空間へ流れる清浄空気と前記再生空気冷却・加熱部を経て前記第2バルブを通って(B)系統へ流れる再生空気とは1:1から1:0.1の範囲から選ばれた流量比に設定されていることを特徴とする請求項2又は4に記載のクリーンルーム排気の清浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−138975(P2009−138975A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313913(P2007−313913)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(594185097)伸和コントロールズ株式会社 (13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】